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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ハニカム構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20221026BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20221026BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221026BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B01J35/04 301B
B01J35/04 301C
C04B38/00 303Z
B01D53/94 222
B01D53/94 ZAB
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/28 301P
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019063127
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020157285
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕二
(72)【発明者】
【氏名】川上 顕史
(72)【発明者】
【氏名】木下 尚志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 光宏
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-060902(JP,A)
【文献】特開2018-167221(JP,A)
【文献】特開2001-261428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C04B 38/00
B01D 53/94
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁、及び前記隔壁の外周を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム構造部を備え、
前記ハニカム構造部は、前記セルの延びる方向に直交する面において、
前記ハニカム構造部の外周に形成された外周セル構造と、前記外周セル構造よりも内側の中央部分に形成され、前記外周セル構造とは異なるセル構造の中央セル構造と、前記外周セル構造と前記中央セル構造との境界部分に配設された境界壁と、を有し、且つ、
前記ハニカム構造部は、前記隔壁が交差する交点部において、基本交点部と、前記基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる肉厚交点部と、を有し、
前記肉厚交点部が、前記境界壁から外周側に距離L1の範囲において、前記外周セル構造の前記基本交点部である外周基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第一肉厚交点部と、前記境界壁から内側に距離L2の範囲において、前記中央セル構造の前記基本交点部である中央基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第二肉厚交点部と、の少なくとも一方の交点部を含み、且つ、
前記外周セル構造において、前記基本交点部である前記外周基本交点部を少なくとも有し、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面において、前記隔壁の前記交点部内に仮想的に描かれる最大内接円の直径を、当該交点部の幅とし、且つ、前記隔壁の厚さに対する当該交点部の幅の比を、当該交点部の交点比とし、
前記第一肉厚交点部の前記交点比が、C out となる交点部を有し、
前記第二肉厚交点部の前記交点比が、C in となる交点部を有し、
前記C out 、及び前記C in が、下記式(1)の関係を満たす、ハニカム構造体。
式(1):C out <C in
【請求項2】
前記肉厚交点部が、前記外周壁から中心側に距離L3の範囲において、前記外周基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第三肉厚交点部を更に含む、請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
前記外周セル構造内において、前記距離L3の範囲が、前記境界壁の垂線方向における前記外周壁と前記境界壁との間の長さに対して、70%以下である、請求項2に記載のハニカム構造体。
【請求項4】
前記肉厚交点部が、前記セルの延びる方向に直交する面の重心Oから外側に距離L4の範囲において、前記中央基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第四肉厚交点部を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記外周基本交点部の前記交点比が、CBoutとなる交点部を有し、
前記中央基本交点部の前記交点比が、CBinとなる交点部を有し、
前記CBout、前記Cout、前記CBin、及び前記Cinが、下記式(2)の関係を満たす、請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
式(2):CBout<CBin<Cout<Cin
【請求項6】
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面において、前記隔壁の前記交点部内に仮想的に描かれる最大内接円の直径を、当該交点部の幅とし、且つ、前記隔壁の厚さに対する当該交点部の幅の比を、当該交点部の交点比とし、
前記基本交点部の前記交点比の大きさが、同一セル構造内の前記肉厚交点部の前記交点比の大きさに対して、85%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記中央セル構造内において、前記距離L2の範囲が、前記中央セル構造の半径に対して、35%以下の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記外周セル構造内において、前記距離L1の範囲が、前記境界壁の垂線方向における前記外周壁と前記境界壁との間の長さに対して、20%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体に関する。更に詳しくは、2つ以上のセル構造が境界壁によって隔てられたハニカム構造体において、機械的強度に優れたハニカム構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等のエンジンから排出される排ガス中に含まれるHC、CO、NOx等の有害物質の浄化処理のため、ハニカム構造体に触媒を担持したものが使用されている。また、ハニカム構造体は、多孔質の隔壁によって区画形成されたセルの開口部に目封止を施すことにより、排ガス浄化用のフィルタとしても使用されている。
【0003】
ハニカム構造体は、排ガスの流路となり複数のセルを区画形成する隔壁を有する柱状の構造体である。このようなハニカム構造体は、セルの延びる方向に直交する面において、複数のセルが、所定の周期で規則的に配列したセル構造を有している。従来は、1つのハニカム構造体において、上記面内のセル構造は、1種類であったが、近年、排ガス浄化効率の向上等を目的として、上記面内に、2種類以上のセル構造を有するハニカム構造体が提案されている。例えば、セルの延びる方向に直交する面の、中央部分と外周部分において、セル密度やセル形状を異ならせることにより、上記面内に、2種類以上のセル構造を有するハニカム構造体が提案されている。
【0004】
また、2つ以上の異なるセル構造を有するハニカム構造体としては、例えば、それぞれのセル構造の境界部分に、多孔質の境界壁を有するハニカム構造体も提案されている。更に、境界壁を有するハニカム構造体について、境界壁の内側及び外側の所定範囲において、隔壁の厚さを部分的に厚くするという技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。例えば、このようなハニカム構造体は、境界壁の内側及び外側の所定範囲以外の隔壁を「基本隔壁」とし、上記所定範囲内の隔壁を「強化隔壁」とした場合に、基本隔壁の厚さに比して、強化隔壁の厚さを厚くしたハニカム構造体である。このようなハニカム構造体は、隔壁の形状不良・欠陥の発生を抑制しながら強度の向上を図ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5708670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年において、浄化性能の効率化や燃費性能の向上等を目的として、以下のようなことが検討されている。例えば、浄化性能の観点では、ハニカム構造体のセルを区画形成する隔壁の薄壁化や高セル密度化が検討されている。また、燃費性能の観点では、ハニカム構造体の圧力損失低下のための低セル密度化などが検討されている。特許文献1に記載のハニカム構造体は、隔壁の厚さを全体的に薄くし、且つ、セル密度を小さくすると、強化隔壁による強度向上効果が十分に得られず、耐熱衝撃性が大きく低下するという問題があった。
【0007】
ここで、特許文献1に記載のハニカム構造体において、十分な強度を確保する方法としては、強化隔壁の厚さをより厚くすることが考えられる。しかしながら、強化隔壁の厚さをより厚くすると、境界隔壁近傍のセルの開口部が極めて小さくなり、ハニカム構造体に触媒を担持した際に、触媒詰まりが発生し易くなる。特に、セルの形状が四角形の場合には、強化隔壁によって区画されたセルに触媒が均一に担持されず、例えば、当該セルの角部に触媒溜りが発生し、担持した触媒が有効に使えなくなることがある。このため、特許文献1に記載のハニカム構造体においては、隔壁の薄壁化や高セル密度化に対応し難いという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。本発明は、2つ以上のセル構造が境界壁によって隔てられたハニカム構造体において、機械的強度に優れ、且つ、触媒を担持した際に触媒詰まりが発生し難いハニカム構造体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下に示すハニカム構造体が提供される。
【0010】
[1] 流入端面から流出端面まで延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁、及び前記隔壁の外周を囲繞するように配設された外周壁を有する、柱状のハニカム構造部を備え、
前記ハニカム構造部は、前記セルの延びる方向に直交する面において、
前記ハニカム構造部の外周に形成された外周セル構造と、前記外周セル構造よりも内側の中央部分に形成され、前記外周セル構造とは異なるセル構造の中央セル構造と、前記外周セル構造と前記中央セル構造との境界部分に配設された境界壁と、を有し、且つ、
前記ハニカム構造部は、前記隔壁が交差する交点部において、基本交点部と、前記基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる肉厚交点部と、を有し、
前記肉厚交点部が、前記境界壁から外周側に距離L1の範囲において、前記外周セル構造の前記基本交点部である外周基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第一肉厚交点部と、前記境界壁から内側に距離L2の範囲において、前記中央セル構造の前記基本交点部である中央基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第二肉厚交点部と、の少なくとも一方の交点部を含み、且つ、
前記外周セル構造において、前記基本交点部である前記外周基本交点部を少なくとも有し、
前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面において、前記隔壁の前記交点部内に仮想的に描かれる最大内接円の直径を、当該交点部の幅とし、且つ、前記隔壁の厚さに対する当該交点部の幅の比を、当該交点部の交点比とし、
前記第一肉厚交点部の前記交点比が、C out となる交点部を有し、
前記第二肉厚交点部の前記交点比が、C in となる交点部を有し、
前記C out 、及び前記C in が、下記式(1)の関係を満たす、ハニカム構造体。
式(1):C out <C in
【0011】
[2] 前記肉厚交点部が、前記外周壁から中心側に距離L3の範囲において、前記外周基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第三肉厚交点部を更に含む、前記[1]に記載のハニカム構造体。
【0012】
[3] 前記外周セル構造内において、前記距離L3の範囲が、前記境界壁の垂線方向における前記外周壁と前記境界壁との間の長さに対して、70%以下である、前記[2]に記載のハニカム構造体。
【0013】
[4] 前記肉厚交点部が、前記セルの延びる方向に直交する面の重心Oから外側に距離L4の範囲において、前記中央基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第四肉厚交点部を更に含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0015】
] 前記外周基本交点部の前記交点比が、CBoutとなる交点部を有し、
前記中央基本交点部の前記交点比が、CBinとなる交点部を有し、
前記CBout、前記Cout、前記CBin、及び前記Cinが、下記式(2)の関係を満たす、前記[~[4]のいずれかに記載のハニカム構造体。
式(2):CBout<CBin<Cout<Cin
【0017】
] 前記ハニカム構造部の前記セルの延びる方向に直交する面において、前記隔壁の前記交点部内に仮想的に描かれる最大内接円の直径を、当該交点部の幅とし、且つ、前記隔壁の厚さに対する当該交点部の幅の比を、当該交点部の交点比とし、
前記基本交点部の前記交点比の大きさが、同一セル構造内の前記肉厚交点部の前記交点比の大きさに対して、85%以下である、前記[1]~[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0018】
] 前記中央セル構造内において、前記距離L2の範囲が、前記中央セル構造の半径に対して、35%以下の範囲である、前記[1]~[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【0019】
] 前記外周セル構造内において、前記距離L1の範囲が、前記境界壁の垂線方向における前記外周壁と前記境界壁との間の長さに対して、20%以下である、前記[1]~[]のいずれかに記載のハニカム構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明のハニカム構造体は、2つ以上のセル構造が境界壁によって隔てられたハニカム構造体において、機械的強度に優れ、且つ、触媒を担持した際に触媒詰まりが発生し難いという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。
図2図1に示すハニカム構造体の流入端面を模式的に示す平面図である。
図3図2のX-X’断面を模式的に示す、断面図である。
図4図2における、第一肉厚交点部及び第二肉厚交点部の一部を拡大した拡大平面図である。
図5】本発明のハニカム構造体の他の実施形態の流入端面を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。
【0023】
(1)ハニカム構造体:
本発明のハニカム構造体の一の実施形態は、図1図4に示すようなハニカム構造体100である。このハニカム構造体100は、多孔質の隔壁1、及びこの隔壁1の外周を囲繞するように配設された外周壁3を有する、柱状のハニカム構造部4を備えたものである。ハニカム構造部4の隔壁1は、流入端面11から流出端面12まで延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成するものである。
【0024】
ここで、図1は、本発明のハニカム構造体の一の実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、図1に示すハニカム構造体の流入端面を模式的に示す平面図である。図3は、図2のX-X’断面を模式的に示す、断面図である。図4は、図2における、第一肉厚交点部及び第二肉厚交点部の一部を拡大した拡大平面図である。
【0025】
本実施形態のハニカム構造体100は、ハニカム構造部4が、セル2の延びる方向に直交する面において、以下のように構成されている点に特徴を有する。ハニカム構造部4が、外周セル構造16と、中央セル構造15と、外周セル構造16と中央セル構造15との境界部分に配設された境界壁8と、を有する。そして、このハニカム構造部4において、中央セル構造15と、外周セル構造16とが、異なるセル構造となっている。ここで、中央セル構造15とは、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する面において、ハニカム構造部4の中央部分に形成された複数のセル2aによって構成された構造のことである。外周セル構造16とは、上記面において、ハニカム構造部4の外周に形成された複数のセル2bによって構成された構造のことである。したがって、中央セル構造15及び外周セル構造16は、境界壁8によって隔てられた2つ領域を意味している。なお、中央セル構造15及び外周セル構造16のより詳細な構成について後述する。
【0026】
ハニカム構造体100は、特に、ハニカム構造部4が、隔壁1が交差する交点部5において、基本交点部5aと、基本交点部5aよりも交点部5の肉厚が厚くなる肉厚交点部5bと、を有する点に特に重要な特徴を有する。そして、この肉厚交点部5bが、下記する第一肉厚交点部5b1と第二肉厚交点部5b2との少なくとも一方の交点部5を含む。「第一肉厚交点部5b1」は、境界壁8から外周側に距離L1の範囲において、外周セル構造16の基本交点部5aである外周基本交点部5a1よりも交点部5の肉厚が厚くなる肉厚交点部5bである。「第二肉厚交点部5b2」は、境界壁8から内側に距離L2の範囲において、中央セル構造15の基本交点部5aである中央基本交点部5a2よりも交点部の肉厚が厚くなる肉厚交点部5bである。また、ハニカム構造体100は、外周セル構造16において、基本交点部5aである外周基本交点部5a1を少なくとも有している。
【0027】
ハニカム構造体100は、2つ以上のセル構造が境界壁8によって隔てられたハニカム構造体100において、機械的強度に優れ、且つ、触媒を担持した際に触媒詰まりが発生し難いという効果を奏するものである。
【0028】
ハニカム構造体100において、肉厚交点部5bの形状については特に制限はなく、基本交点部5aよりも交点部5の肉厚が厚くなっていてればよい。なお、ハニカム構造体100において、基本交点部5a及び肉厚交点部5bを除く部分の隔壁1の厚さは、同一セル構造内において同じ厚さであることが好ましい。即ち、同一セル構造内に、基本交点部5a及び肉厚交点部5bが共に存在する場合、基本交点部5aを周縁に含むセル2と、肉厚交点部5bを周縁に含むセル2とは、肉厚交点部5bに相当する部位の形状が異なること以外は、同一の形状であることが好ましい。
【0029】
ここで、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する面において、隔壁1の交点部5内に仮想的に描かれる最大内接円の直径を、当該交点部5の幅とする。例えば、上記面において、基本交点部5a内に仮想的に描かれる最大内接円の直径が、この基本交点部5aの幅となる。同様に、上記面において、第一肉厚交点部5b1や第二肉厚交点部5b2のような肉厚交点部5b内に仮想的に描かれる最大内接円の直径が、この肉厚交点部5bの幅となる。また、隔壁1の厚さに対する交点部5の幅(別言すれば、上記最大内接円の直径)の比を、当該交点部5の交点比とする。
【0030】
ハニカム構造体100は、第一肉厚交点部5b1の交点比が、Coutとなる交点部5を有していてもよい。また、第二肉厚交点部5b2の交点比が、Cinとなる交点部5を有していてもよい。上記のような第一肉厚交点部5b1及び第二肉厚交点部5b2を有している場合には、上述したCout、及びCinが、下記式(1)の関係を満たすことがより好ましい。
【0031】
式(1): Cout<Cin
【0032】
ハニカム構造体100は、外周基本交点部5a1の交点比が、CBoutとなる交点部5を有していてもよい。また、中央基本交点部5a2の交点比が、CBinとなる交点部5を有していてもよい。上記のような外周基本交点部5a1及び中央基本交点部5a2を有している場合には、上述したCBout、Cout、CBin、及びCinが、下記式(2)の関係を満たすことが特に好ましい。
【0033】
式(2):CBout<CBin<Cout<Cin
【0034】
肉厚交点部5bの交点比の大きさが、2.2を超え、4.0以下であることが好ましく、2.3を超え、4.0以下であることが更に好ましい。また、基本交点部5aの交点比の大きさが、同一セル構造内の肉厚交点部5bの交点比の大きさに対して、85%以下であることが好ましい。なお、各交点部5の幅、及び各交点部5の交点比の大きさは、以下のように測定し、計算した値とする。まず、ハニカム構造部4のセル2の延びる方向に直交する面において、交点部5として基本交点部5aを有する領域と、交点部5として肉厚交点部5bを有する領域とを区分する。そして、各領域において、下記する4つの範囲において、それぞれ任意に選出した2点ずつ、交点部5の幅、及び隔壁1の厚さを合計8点測定する。各領域の4つの測定範囲は、ハニカム構造部4の重心を起点として、隔壁1に対する垂線方向の2つ範囲と、当該垂線方向に対して90度方向の2つの範囲とする。例えば、隔壁1に対する垂線方向の2つ範囲とは、重心を起点とした上下方向の2つの範囲であり、当該垂線方向に対して90度方向の2つの範囲とは、重心を起点とした左右方向の2つの範囲である。交点部5の幅は、画像解析にて、測定対象の「隔壁1の交点部5」に内接円の描き、その最大内接円の直径を測定することによって求めることができる。隔壁1の厚さも、上記した画像解析により測定を行うことができる。そして、交点部5の幅の値を、隔壁1の厚さで除した値を算出し、上記した8点の測定における平均値を求める。このようにして求めた値を、隔壁1の厚さに対する交点部5の幅の比、即ち、交点比とする。
【0035】
中央セル構造15内において、肉厚交点部5bを含む範囲が、中央セル構造15の半径に対して、35%以下の範囲であることが好ましく、5~20%の範囲であることが特に好ましい。肉厚交点部5bを含む範囲が、中央セル構造15の半径に対して、35%を超えると重量増加による昇温性低下や開口率低下による圧力損失の上昇の点で好ましくない。
【0036】
外周セル構造16内において、距離L1の範囲が、境界壁8の垂線方向における外周壁3と境界壁8との間の長さに対して、20%以下であることが好ましく、10~15%の範囲であることが特に好ましい。距離L1の範囲が、外周壁3と境界壁8との間の長さに対して、20%を超えると重量増加による昇温性低下や開口率低下による圧力損失の上昇の点で好ましくない。なお、距離L1の範囲とは、1箇所でもセル2の角部に相当する部位が肉厚になっているセル2を含む最大領域のこという。ただし、その範囲には、すべての角部が肉厚になっていないセル2(別言すれば、その周囲を取り囲む隔壁1に肉厚交点部が存在しないセル2)が含まれないことを条件とする。その他の距離L2及び、後述する距離L3及び距離L4についても上記に従うこととする。
【0037】
本発明において、外周セル構造16とは、ハニカム構造部4の外周壁3と境界壁8との間に存在するセル2bによって構成されたセル構造のことをいう。このため、外周セル構造16は、ハニカム構造部4の最外周に形成された完全セルを含むセル構造ということができる。以下、セル2の周囲の全てが隔壁1によって区画されたセル2のことを、「完全セル」ということがある。一方、セル2の周囲の全てが隔壁1によって区画されておらず、セル2の一部が外周壁3によって区画されているセル2のことを、「不完全セル」ということがある。また、セル2の一部が境界壁8によって区画されているセル2についても、「不完全セル」ということがある。ハニカム構造部4の形成されたセル2は、上記したように「完全セル」と「不完全セル」とに分類することができる。
【0038】
本発明において、中央セル構造15とは、境界壁8よりも内側に存在するセル2aによって構成されたセル構造のことをいう。このため、中央セル構造15は、ハニカム構造部4の境界壁8よりも内側に形成された完全セルを含むセル構造ということができる。
【0039】
「セル構造」とは、セル2の延びる方向に直交する面において、隔壁1によって区画されたセル2の1個、又は複数個のセル2の組み合わせを1つの繰り返し単位とし、このような繰り返し単位を2つ以上含む構造のことをいう。例えば、同一セル形状のセルが、上記面において規則的に配列している場合、同一セル形状のセルを含む範囲を、1つのセル構造とすることができる。なお、異なるセル形状のセルであっても、複数個のセルの組み合わせが1つの繰り返し単位となる場合には、その繰り返し単位が存在する範囲を、1つのセル構造とすることができる。本実施形態のハニカム構造体100において、中央セル構造15及び外周セル構造16のそれぞれは、少なくとも1種類以上のセル構造を含んでいる。
【0040】
なお、本実施形態のハニカム構造体100においては、上述した肉厚交点部5bを有することにより、隔壁1の交点近傍において、交差する隔壁1の厚さが部分的に厚くなっていることがある。この際、当該隔壁1によって区画形成されるセル2の形状が、繰り返し単位となるセル2の形状に対し、交点近傍部分のみ異なっていることがある。このように、肉厚交点部5bが存在する部分のみが、繰り返し単位となるセル2の形状と異なっているセル2については、繰り返し単位の1つとして扱うこととする。
【0041】
本発明において、2つのセル構造が「異なるセル構造」であるとは、2つのセル構造を比較した場合に、セル密度、セル2の形状のいずれか1つが異なることを意味する。「セル密度が異なる」とは、2つのセル構造のセル密度を比較した場合に、7個/cm以上の差を有することをいう。
【0042】
セル2の延びる方向に直交する面における、それぞれのセル2の形状(以下、「セル形状」ともいう)については特に制限はない。例えば、中央セル構造15及び外周セル構造16を構成するセル形状としては、三角形、四角形、六角形、八角形などの多角形を挙げることができる。また、中央セル構造15及び外周セル構造16を構成するセル2は、それぞれのセル構造内において、一のセル2と、他のセル2とで、セル形状が異なっていてもよい。なお、肉厚交点部5bを周縁に含むセル2は、上述した各セル形状の角部において、肉厚部分に相当する部位が取り除かれた形状となっている。
【0043】
ハニカム構造体100においては、中央セル構造15のセル密度が、外周セル構造16のセル密度よりも大であることが好ましい。このように構成されたハニカム構造体100は、セル2の延びる方向に直交する面において、排ガスを外周のセル2に流入させやすくすることができ、ハニカム構造体100と排ガスを効率よく接触させ浄化できる点で好ましい。
【0044】
中央セル構造15におけるセル密度は、40~155個/cmであることが好ましく、60~140個/cmであることが更に好ましく、75~110個/cmであることが特に好ましい。中央セル構造15におけるセル密度が40個/cm未満であると、ハニカム構造体100の強度を確保できないことや、排ガスを外周に流入させることが難しいことがある。また、中央セル構造15におけるセル密度が155個/cmを超えると、ハニカム構造体100の圧力損失が増大することや、触媒を担持した場合に、担持した触媒によってセル2の目詰まりが発生することがある。
【0045】
外周セル構造16におけるセル密度は、15~95個/cmであることが好ましく、30~80個/cmであることが更に好ましく、40~65個/cmであることが特に好ましい。外周セル構造16におけるセル密度が15個/cm未満であると、ハニカム構造体100の強度が不足することがある。また、外周セル構造16におけるセル密度が95個/cmを超えると、ハニカム構造体100の圧力損失が増大することや、触媒を担持した場合に、担持した触媒によってセル2の目詰まりが発生することがある。
【0046】
中央セル構造15における基本隔壁厚さは、0.05~0.21mmであることが好ましく、0.05~0.16mmであることが更に好ましく、0.05~0.12mmであることが特に好ましい。ここで、「基本隔壁厚さ」とは、交点部5を除く部位における隔壁1の厚さのことをいう。中央セル構造15における隔壁1の厚さが薄すぎると、ハニカム構造体100の強度が確保できないことや、排ガスを外周に流入させることが難しくなる点で好ましくない。中央セル構造15における隔壁1の厚さが厚すぎると、ハニカム構造体100の圧力損失が増大することや、触媒を担持した場合に、担持した触媒によってセル2の目詰まりが発生する点で好ましくない。
【0047】
外周セル構造16における基本隔壁厚さは、0.07~0.23mmであることが好ましく、0.07~0.18mmであることが更に好ましく、0.07~0.15mmであることが特に好ましい。外周セル構造16における隔壁1の厚さが薄すぎると、ハニカム構造体100の強度が確保できないことや、排ガスを外周に流入させることが難しくなる点で好ましくない。外周セル構造16における隔壁1の厚さが厚すぎると、ハニカム構造体100の圧力損失が増大することや、触媒を担持した場合に、担持した触媒によってセル2の目詰まりが発生する点で好ましくない。
【0048】
外周壁3の厚さは、0.1~0.8mmであることが好ましく、0.2~0.7mmであることが更に好ましく、0.3~0.5mmであることが特に好ましい。外周壁3の厚さが薄すぎると、ハニカム構造体100全体の機械的強度が低下してしまう点で好ましくない。外周壁3の厚さが厚すぎると、ハニカム構造体100のセル2の開口面積が減少し、圧力損失が増大することがある点で好ましくない。
【0049】
境界壁8の厚さは、0.1~0.8mmであることが好ましく、0.2~0.7mmであることが更に好ましく、0.3~0.5mmであることが特に好ましい。境界壁8の厚さが薄すぎると、ハニカム構造体100全体の機械的強度が低下してしまう点で好ましくない。境界壁8の厚さが厚すぎると、ハニカム構造体100のセル2の開口面積が減少し、圧力損失が増大することがある点で好ましくない。
【0050】
図1図4に示すハニカム構造体100においては、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位の配列方向が、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位の配列方向に対して傾いた状態となっている。すなわち、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位は、図2の紙面の横方向に配列している。その一方で、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位は、図2の紙面の横方向に対して斜めに傾いた方向に配列している。このように構成することによって、特定の箇所に応力集中が発生することを抑制し、強度確保に効果を奏するものとなる。なお、本実施形態のハニカム構造体100は、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位の配列方向が、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位の配列方向に対して、平行であってもよい。
【0051】
ハニカム構造体100においては、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位の配列方向と、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位の配列方向とのなす角の大きさについては特に制限はない。ただし、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位の配列方向が、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位の配列方向に対して傾いている場合には、10°以上、50°未満傾いていることが好ましい。上記のような角度範囲で、セル2a,2bの繰り返し単位の配列方向を傾かせることにより、上述した効果を有効に発現させることができる。例えば、図1図4に示すハニカム構造体100は、外周セル構造16におけるセル2bの繰り返し単位の配列方向と、中央セル構造15におけるセル2aの繰り返し単位の配列方向とのなす角の大きさが、45°となっている。
【0052】
ハニカム構造部4の隔壁1の気孔率が、10~55%であることが好ましく、20~45%であることが更に好ましく、25~35%であることが特に好ましい。隔壁1の気孔率が10%未満であると、ハニカム構造体100をフィルタとして使用した際に、圧力損失が増大することがある。隔壁1の気孔率が55%を超えると、ハニカム構造体100の強度が不十分となり、排ガス浄化装置に用いられる缶体内にハニカム構造体100を収納する際に、ハニカム構造体100を十分な把持力で保持することが困難となる。隔壁1の気孔率は、水銀ポロシメータ(Mercury porosimeter)によって計測された値とする。水銀ポロシメータとしては、例えば、Micromeritics社製のAutopore 9500(商品名)を挙げることができる。
【0053】
隔壁1の材料については特に制限はない。強度、耐熱性、耐久性等の観点から、隔壁1の材料としては、その主成分が、酸化物又は非酸化物の各種セラミックスや金属等であることが好ましい。具体的には、セラミックスとして、例えば、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素、窒化珪素、及びチタン酸アルミニウムから構成される材料群より選択される少なくとも1種を含む材料を挙げることができる。金属として、Fe-Cr-Al系金属及び金属珪素等を挙げることができる。これらの材料の中から選ばれた1種又は2種以上を、隔壁の材料の主成分とすることが好ましい。高強度、高耐熱性等の観点から、アルミナ、ムライト、チタン酸アルミニウム、コージェライト、炭化珪素、及び窒化珪素から構成される材料群より選ばれた1種又は2種以上を主成分とすることが特に好ましい。また、高熱伝導率や高耐熱性等の観点から、炭化珪素又は珪素-炭化珪素複合材料が特に適している。ここで、「主成分」とは、その成分中に、50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上存在する成分のことを意味する。
【0054】
境界壁8の材料としては、強度、耐熱性、耐久性等の観点から、その主成分が、酸化物又は非酸化物の各種セラミックスや金属等であることが好ましい。境界壁の材料は、隔壁の材料と同じものであることが好ましい。
【0055】
外周壁3の材料としては、強度、耐熱性、耐久性等の観点から、その主成分が、酸化物又は非酸化物の各種セラミックスや金属等であることが好ましい。外周壁3の材料は、隔壁1の材料と同じものであることが好ましい。ハニカム構造体100は、隔壁1、境界壁8、及び外周壁3が、一度の押出成形によって形成された一体成形品であることが特に好ましい。
【0056】
ハニカム構造体100の全体形状については特に制限はない。本実施形態のハニカム構造体100の全体形状は、流入端面11及び流出端面12の形状が、円形、又は楕円形であることが好ましく、特に、円形であることが好ましい。また、ハニカム構造体100の大きさについては特に制限はないが、流入端面11から流出端面12までの長さが、50~254mmであることが好ましい。また、ハニカム構造体100の全体形状が円柱状の場合、それぞれの端面の直径が、50~254mmであることが好ましい。
【0057】
ハニカム構造体100は、内燃機関の排ガス浄化用の部材として好適に用いることができる。例えば、排ガス浄化用の触媒を担持するための触媒担体として好適に利用することができる。ハニカム構造体100は、ハニカム構造部4の隔壁1の表面及び隔壁1の細孔のうちの少なくとも一方に、排ガス浄化用の触媒が担持されたものであってもよい。
【0058】
また、図示は省略するが、ハニカム構造体は、隔壁によって区画形成されたセルのいずれか一方の端部に配設された目封止部を、更に備えたものであってもよい。目封止部は、セルの流入端面側又は流出端面側の開口部に配設され、セルのいずれか一方の端部を封止するものである。このような目封止部を更に備えたハニカム構造体は、排ガス中の粒子状物質を除去するフィルタとして利用することができる。
【0059】
次に、本発明のハニカム構造体の他の実施形態について、図5を参照しつつ説明する。図5は、本発明のハニカム構造体の他の実施形態の流入端面を模式的に示す平面図である。
【0060】
図5に示すように、本実施形態のハニカム構造体200は、多孔質の隔壁1、及び隔壁1の外周を囲繞するように配設された外周壁3を有する、柱状のハニカム構造部4を備えたものである。ハニカム構造部4は、セル2の延びる方向に直交する面において、中央セル構造15と、外周セル構造16と、境界壁8と、を有する。ハニカム構造体200において、中央セル構造15と、外周セル構造16とは、異なるセル構造となっている。
【0061】
図5に示すハニカム構造体200は、肉厚交点部が、外周壁3から中心側に距離L3の範囲において、外周基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第三肉厚交点部を更に含む。第三肉厚交点部は、図5において、符号Cが付された斜線で示される範囲に存在している。
【0062】
また、図5に示すハニカム構造体200は、肉厚交点部が、セル2の延びる方向に直交する面の重心Oから外側に距離L4の範囲において、中央基本交点部よりも交点部の肉厚が厚くなる第四肉厚交点部を更に含む。第四肉厚交点部は、図5において、符号Dが付された斜線で示される範囲に存在している。
【0063】
即ち、本実施形態のハニカム構造体200は、これまでに説明した図1図4に示すハニカム構造体100に対して、第三肉厚交点部及び第四肉厚交点部を更に含むものである。なお、本実施形態のハニカム構造体200は、第三肉厚交点部及び第四肉厚交点部のうちのいずれか一方のみを含むものであってもよい。
【0064】
本実施形態のハニカム構造体200においても、図1図4に示すハニカム構造体100と同様に、機械的強度に優れ、且つ、触媒を担持した際に触媒詰まりが発生し難いという効果を奏するものである。
【0065】
第三肉厚交点部については、その存在範囲が、外周壁3から中心側に距離L3の範囲であること以外は、第一肉厚交点部と同様に構成されていることが好ましい。
【0066】
第四肉厚交点部については、その存在範囲が、セル2の延びる方向に直交する面の重心Oから外側に距離L4の範囲であること以外は、第一肉厚交点部と同様に構成されていることが好ましい。
【0067】
外周セル構造16内において、距離L3の範囲が、境界壁8の垂線方向における外周壁3と境界壁8との間の長さに対して、70%以下であることが好ましく、60~70%の範囲であることが特に好ましい。距離L3の範囲が、外周壁3と境界壁8との間の長さに対して、70%を超えると重量増加による昇温性低下や、開口率低下による圧力損失の上昇の点で好ましくない。
【0068】
(2)ハニカム構造体の製造方法:
次に、本発明のハニカム構造体を製造する方法について説明する。
【0069】
まず、ハニカム構造部を作製するための可塑性の坏土を作製する。ハニカム構造部を作製するための坏土は、原料粉末として、前述の隔壁の好適な材料群の中から選ばれた材料に、適宜、バインダ等の添加剤、及び水を添加することによって作製することができる。
【0070】
次に、作製した坏土を押出成形することにより、複数のセルを区画形成する隔壁、及び最外周に配設された外周壁を有する、柱状のハニカム成形体を得る。押出成形においては、押出成形用の口金として、坏土の押出面に、成形するハニカム成形体の反転形状となるスリットが形成されたものを用いることができる。特に、本発明のハニカム構造体を製造する際には、押出成形用の口金として、押出成形するハニカム成形体の中央部分と外周部分とで、セル構造が異なるようにスリットが形成されたものを用いることが好ましい。そして、使用する口金においては、セル構造が異なる中央部分と外周部分との境界に、環状のスリットが形成されていることが好ましい。このような環状のスリットによって、外周セル構造と中央セル構造とを隔てる境界壁が成形される。
【0071】
ハニカム成形体を作製する際には、最終的に得られるハニカム構造体が、境界壁から外周側に距離L1の範囲及び境界壁から内側に距離L2の範囲の少なくとも一方に、所望の肉厚交点部を有するものとなるように押出成形することが好ましい。
【0072】
得られたハニカム成形体を、例えば、マイクロ波及び熱風で乾燥してもよい。また、ハニカム成形体の製造に用いた材料と同様の材料で、セルの開口部を目封止することで目封止部を配設してもよい。
【0073】
次に、得られたハニカム成形体を焼成することにより、ハニカム構造体を得る。焼成温度及び焼成雰囲気は原料により異なり、当業者であれば、選択された材料に最適な焼成温度及び焼成雰囲気を選択することができる。なお、本発明のハニカム構造体を製造する方法は、これまでに説明した方法に限定されることはない。
【実施例
【0074】
以下、本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0075】
(実施例1)
コージェライト化原料100質量部に、分散媒を2質量部、有機バインダを6質量部、それぞれ添加し、混合、混練して坏土を調製した。コージェライト化原料としては、アルミナ、水酸化アルミニウム、カオリン、タルク、及びシリカを使用した。分散媒としては、水を使用した。有機バインダとしては、メチルセルロース(Methylcellulose)を使用した。分散剤としては、デキストリン(Dextrin)を使用した。
【0076】
次に、ハニカム成形体作製用の口金を用いて坏土を押出成形し、全体形状が円柱形状のハニカム成形体を得た。ハニカム成形体のセルの形状は、四角形とした。成形したハニカム成形体が、セルの延びる方向に直交する面において、外周セル構造と、中央セル構造と、それらの間に配設された境界壁と、を有するものであった。中央セル構造は、外周セル構造とは異なるセル構造であった。また、境界壁から所定の距離の範囲において、隔壁の交点部の肉厚を厚くして、所望の範囲について肉厚交点部を設けた。
【0077】
次に、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥し、更に熱風乾燥機で完全に乾燥させた後、ハニカム成形体の両端面を切断し、所定の寸法に整えた。
【0078】
次に、乾燥したハニカム成形体を、脱脂し、焼成して、実施例1のハニカム構造体を製造した。
【0079】
実施例1のハニカム構造体は、流入端面及び流出端面の形状が円形の、円柱形状のものであった。流入端面及び流出端面の外径(直径)の大きさは、118.4mmであった。ハニカム構造体のセルの延びる方向の長さ(全長)は、127mmであった。中央セル構造の隔壁の厚さは0.064mmであり、中央セル構造のセル密度は93個/cmであった。外周セル構造の隔壁の厚さは0.09mmであり、外周セル構造のセル密度は62個/cmであった。また、中央セル構造を囲うように配置された境界壁の直径は84mmであった。境界壁の厚さは0.3mmであり、ハニカム構造体の外周を覆う外周壁の厚さは0.3mmであった。実施例1のハニカム構造体の構成を、表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
【表3】
【0083】
実施例1のハニカム構造体は、表2の「肉厚交点部を有する範囲の距離」に示すL2の範囲において、交点部の肉厚が厚くなる肉厚交点部を有するものであった。表2の「肉厚交点部を有する範囲の距離」に示す「L1」及び「L2」は、各実施例において肉厚交点部が存在する範囲の境界壁から外周側又は内側の距離を示す。表2の「肉厚交点部を有する範囲の距離」に示す「L3」は、各実施例において肉厚交点部が存在する範囲の外周壁から中心側に向かう距離を示す。表2の「肉厚交点部を有する範囲の距離」に示す「L4」は、各実施例において肉厚交点部が存在する範囲の、セルの延びる方向に直交する面の重心Oから外側に向かう距離を示す。なお、表2の「L1」、「L2」、「L3」及び「L4」に関しては、ハニカム構造体の実施形態にて説明した、距離L1、距離L2、距離L3、距離L4と同様に規定されたものである。
【0084】
表2の「各セル構造の半径に対する各距離の比率」の「L1比率」、「L2比率」及び「L3比率」は、中央セル構造及び外周セル構造の各セル構造の半径方向の長さに対する、L1,L2,L3の各距離の比率を示している。
【0085】
また、実施例1のハニカム構造体について、表2の「L1」、「L2」、「L3」及び「L4」に示される範囲の交点部の幅を測定した。また、上記した範囲から外れた箇所の交点部を基本交点部として、その基本交点部の幅も測定した。交点部の幅は、画像解析にて、隔壁の交点部内に最大内接円を仮想的に描き、その最大内接円の直径を測定することによって求めた。また、上述したようにして幅を測定した交点部について、当該交点部と隣接する他の交点部とを繋ぐ各隔壁の中間近傍にて隔壁の厚さを測定した。そして、各交点部の幅の値を、測定した隔壁の厚さで除算することによって、各交点部の交点比を求めた。各結果を、表3に示す。「中心基本CBin」の欄は、中央基本交点部の交点比を示す。「中央L4部肉厚」の欄は、距離L4の範囲に存在する肉厚交点部の交点比を示す。「境界壁内側L2部肉厚Cin」の欄は、距離L2の範囲に存在する第二肉厚交点部の交点比を示す。「外周基本CBout」の欄は、外周基本交点部の交点比を示す。「境界壁外側L1部肉厚Cout」の欄は、距離L1の範囲に存在する第一肉厚交点部の交点比を示す。「外周壁近傍L3部肉厚」の欄は、距離L3の範囲に存在する肉厚交点部の交点比を示す。ただし、表3において、例えば、「中心基本CBin」と「境界壁内側L2部肉厚Cin」とが同じ値である場合は、距離L2の範囲において肉厚交点部が存在しないことを意味する。即ち、距離L2の範囲に肉厚交点部が存在しない場合にも、表3においては便宜的に「境界壁内側L2部肉厚Cin」の欄に数値を記入しているが、「中心基本CBin」と同一の値の場合、その範囲の交点部は、肉厚交点部ではなく、基本交点部となる。同様に、「中央L4部肉厚」についても「中心基本CBin」と同じ値の場合は、その範囲の交点部は、基本交点部(中央基本交点部)となる。「境界壁外側L1部肉厚Cout」及び「外周壁近傍L3部肉厚」についても、「外周基本CBout」と同じ値の場合は、その範囲の交点部は、基本交点部(外周基本交点部)となる。
【0086】
また、表3の「基本交点比に対する肉厚交点部の交点比の比率」の欄に、交点比C に対する交点比CBinの比の値(即ち、CBin/Cin)、及び交点比Coutに対する交点比CBoutの比の値(即ち、CBout/Cout)の値を示す。
【0087】
実施例1のハニカム構造体について、以下の方法で、「アイソスタティック強度(MPa)」、「触媒詰まり」、「圧力損失」、「昇温性能」、「耐熱衝撃性(割れ有無)」の評価を行った。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
[アイソスタティック強度(MPa)]
アイソスタティック強度の測定は、社団法人自動車技術会発行の自動車規格(JASO規格)のM505-87で規定されているアイソスタティック破壊強度試験に基づいて行った。アイソスタティック破壊強度試験は、ゴムの筒状容器に、ハニカム構造体を入れてアルミ製板で蓋をし、水中で等方加圧圧縮を行う試験である。アイソスタティック破壊強度試験によって測定されるアイソスタティック強度は、ハニカム構造体が破壊したときの加圧圧力値(MPa)で示される。そして、以下の評価基準にて評価を行った。
評価A:アイソスタティック強度が2.0MPa以上。
評価B:アイソスタティック強度が1.5MPa以上、2.0MPa未満。
評価C:アイソスタティック強度が1.0MPa以上、1.5MPa未満。
評価D:アイソスタティック強度が1.0MPa未満。
【0090】
[触媒詰まり]
各実施例及び比較例のハニカム構造体について、以下の方法で触媒を担持した。平均粒子径5μmのγ-アルミナ280gに水1kg加え、ボールミルにて湿式粉砕した。得られた解砕粒子に、バインダとしてアルミナゾルを30g加えて、触媒スラリーを調製した。この触媒スラリーは、粘度が5mPa・sとなるように調製した。そして、得られた触媒スラリーの中に、ハニカム構造体を浸漬させた。その後、触媒スラリーからハニカム構造体を取り出し、120℃で2時間乾燥させ、550℃で1時間焼き付けし、ハニカム触媒体を得た。その後、得られたハニカム触媒体の片側の端面から光を透過させて、ハニカム構造体に形成されているセルのうち、閉塞しているセルの数を数えた。閉塞しているセルとは、上記した光が透過しないセルのことであり、閉塞しているセルは、触媒によってセルの詰まりが発生している。そして、以下の評価基準に基づき評価を行った。
評価A:セルの詰まりなし。
評価B:セルの詰まりが全セル数に対して0.05%以下。
評価C:セルの詰まりが全セル数に対して0.05%を超える。
【0091】
[圧力損失]
各実施例及び比較例のハニカム構造体に、ウオッシュコートで200g/Lとなるように触媒を担持した後、各ハニカム構造体の圧力損失を測定した。圧力損失は、コールドフローベンチにハニカム構造体を搭載し、ガス流量を5m/minとし、25℃の温度条件にて、ハニカム構造体の前後の差圧を測定することによって求めた。なお、コールドフローベンチは、ブロアにて常温空気をハニカム構造体へ送り込み、ハニカム構造体の前後の差圧を測定する装置である。そして、比較例4のハニカム構造体の圧力損失の値を100%とした場合の、各実施例及び比較例のハニカム構造体の圧力損失の値を求めた。表4に示す値が低いほど、圧力損失の性能に優れていることを示す。
【0092】
[昇温性能]
各実施例及び比較例のハニカム構造体に、加熱されたガスを通気して、各ハニカム構造体を加熱し、400℃に到達するまでの加熱時間を測定した。ハニカム構造体にガスを通気する際には、流入端面から10mm位置のガス温度が30℃/secになるように流量を調整した。比較例4のハニカム構造体の400℃に到達した時間の値を100%とし、各実施例及び比較例のハニカム構造体の400℃に到達した時間の値の昇温時間割合を求めた。
【0093】
[耐熱衝撃性(割れ有無)]
各実施例及び比較例のハニカム構造体について、各ハニカム構造体を収納する缶体内に加熱ガスを供給することができる「プロパンガスバーナー装置」を用いて、耐熱衝撃性の評価を行った。具体的には、各実施例及び比較例のハニカム構造体を缶体内に収納(キャニング)し、上記プロパンガスバーナー装置にセットした。次に、ハニカム構造体に燃焼ガスを流した。燃焼ガスを流量60NL/minで10分間流し、ハニカム構造体の前方10mm位置での中央部のガス温度を10分後に1100℃とする。その後、燃焼ガスを停止し、代わりに冷却エアーを流量300NL/minで10分間流し、10分後にハニカム構造体の前方10mm位置での中央部のガス温度を100℃とする。このような、燃焼ガスと冷却エアーの通気を1サイクルとし、これを20サイクル実施した。その後、プロパンガスバーナー装置からハニカム構造体を取り出し、ハニカム構造体の割れを確認した。ハニカム構造体の割れが確認された場合を「有」とし、ハニカム構造体の割れが確認されなかった場合を「なし」とした。
【0094】
(実施例2~18)
肉厚交点部の構成を、表2及び表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、実施例2~18のハニカム構造体を作製した。
【0095】
(比較例1~4)
ハニカム構造体の構成を、表1~表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によって、比較例1~4のハニカム構造体を作製した。なお、表1の「境界隔壁の近傍の隔壁強化有無」は、以下のような構造の有無を示すものである。まず、「境界隔壁の近傍の隔壁強化」とは、ハニカム構造体の強度を確保することを目的に、境界壁近傍の隔壁を、それぞれの基本構造の隔壁の厚さよりも厚くした構造のことをいう。表1の「境界隔壁の近傍の隔壁強化有無」の欄において「有り」と示す場合は、上記のような構造を有していることを示す。比較例2及び4のハニカム構造体は、境界壁近傍の内側と外側の隔壁の厚さがそれぞれ相対的に厚くなるように構成されている。具体的には、比較例2及び4において、境界壁の内側の約3セル分の領域の平均隔壁厚さが中央セル構造の隔壁厚さに対して140μm厚く、且つ、境界壁の外側の約5セル分の領域の平均隔壁厚さが外周セル構造の隔壁厚さに対して10μm厚くなっている。
【0096】
実施例2~18及び比較例1~4のハニカム構造体についても、実施例1と同様の方法で、「アイソスタティック強度(MPa)」、「触媒詰まり」、「圧力損失」、「昇温性能」、「耐熱衝撃性(割れ有無)」の評価を行った。結果を表4に示す。
【0097】
(結果)
実施例1~18のハニカム構造体は、表4に示す各評価において良好な結果を示すものであった。一方で、比較例1及び3のハニカム構造体は、アイソスタティック強度が低く、耐熱衝撃性の評価においても割れが確認された。また、比較例1のハニカム構造体は、昇温性能も悪いものであった。比較例2及び4のハニカム構造体は、触媒詰まりの評価において触媒の詰まりが確認され、比較例2のハニカム構造体は、圧力損失及び昇温性能の双方が悪いものであった。実施例8のハニカム構造体は実施例3のハニカム構造体に対して、交点比のサイズを適正化することで、触媒詰まりの評価において良好な結果であったとともに、交点比サイズ及び肉厚部の領域の適正化により、重量の増加を抑えたことで昇温性も良好な結果であった。更に、実施例18のハニカム構造体は実施例8のハニカム構造体に対して、境界壁の内外部だけでなく、外壁近傍に肉厚部を設けることで、アイソスタティック強度の更なる改善を確認した。加えて、各肉厚部領域の交点比のサイズ、並びにこのサイズの序列とその肉厚部を設けた領域を最適化することで、外周壁近傍に肉厚部を設けたことによる圧力損失悪化及び昇温性悪化を最低限に抑制していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のハニカム構造体は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等から排出される排ガスを浄化するための触媒を担持する触媒担体や、排ガスを浄化するためのフィルタとして利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1:隔壁、2:セル、2a:セル(中央セル構造のセル)、2b:セル(外周セル構造のセル)、3:外周壁、4:ハニカム構造部、5:交点部、5a:基本交点部、5a1:外周基本交点部、5a2:中央基本交点部、5b:肉厚交点部、5b1:第一肉厚交点部、5b2:第二肉厚交点部、8:境界壁、11:流入端面、12:流出端面、15:中央セル構造、16:外周セル構造、100,200:ハニカム構造体、A:第一肉厚交点部を含む領域、B:第二肉厚交点部を含む領域、C:第三肉厚交点部を含む領域、D:第四肉厚交点部を含む領域、L1:距離(境界壁から外周側の距離)、L2:距離(境界壁から内側の距離)、L3:距離:外周壁から中心側の距離)、L4:距離(重心から外側の距離)。
図1
図2
図3
図4
図5