(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/231 20110101AFI20221026BHJP
B60R 21/207 20060101ALI20221026BHJP
B60N 2/42 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
(21)【出願番号】P 2019069388
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-012495(JP,A)
【文献】特開2008-114648(JP,A)
【文献】特開2017-178151(JP,A)
【文献】特開2007-022212(JP,A)
【文献】特開2005-088675(JP,A)
【文献】特表平11-510451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の座席シートに着座した乗員を保護する乗員保護装置において、
少なくとも一部が棒状であり、前記座席シートに着座した乗員の肩部の上方および下方を結ぶように肩部側方で展開し、展開完了時に、上方が前記座席シートの左右中心部方向に傾いた略直線状となるエアバッグ、
を備えたことを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記エアバッグは、下部が前記座席シートのシートクッションの下部に、上部がシートバックの上部に収納され、乗員の脚部または腰部側方から肩部前方にかけて展開する、
ことを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグは、前記座席シートの左右の両側方に設けられ、左右のエアバッグは乗員の頭部の後方または上方で連結されている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグの下部は、前記座席シートの前方または下方に展開する、
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの下部を前記座席シートの前方または下方に展開させるために誘導するエアバッグ誘導部と、
を備えたことを特徴とする請求項4に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
前記車両の衝突形態を検知または予測する衝突形態検知装置と、
前記衝突形態検知装置により衝突形態が側突であると検知された場合には、前記エアバッグの上方を、乗員の肩部よりも外側に展開させる展開形態制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、シートベルト装置やエアバッグ装置が用いられている。
このようなエアバッグ装置として、乗員の前側から後ろ向きに展開するフロントエアバッグがある。このフロントエアバッグは、例えば、車両が前方から衝突する場合に展開され、前方衝突(前突)の際に前に移動しようとする乗員を受け止めて支え、保護するものである。
【0003】
また、車両の側方からの衝突に備えたカーテンエアバッグもある。このカーテンエアバッグは、車両の側面内側に沿って前後方向に展開するものである。例えば、車両の側方から衝突があった場合に展開され、側方衝突(側突)の際に車幅方向外側に向かって移動しようとする乗員を受け止めて支え、保護するものである。
一方、側方衝突の場合、衝突物が接触する側(ニアサイド)から遠い方(ファーサイド)の座席の乗員は、慣性によってニアサイド側に大きく移動するため、運転席と助手席との間に展開させるファーサイドエアバッグも考えられている。
【0004】
ただし、一般的なファーサイドエアバッグでは、ニアサイドで展開するエアバッグと異なり、サイドドアのような支えになる物体と隣接していないため、膨張展開しても乗員を受け止めた際の衝撃によって倒れ、十分に乗員拘束を行うことができない虞がある。
そこで、ファーサイド側に小さなエアバッグを展開し、その外側にベルトを張ってエアバッグを支えるサイドエアバッグ装置が提供されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両への衝突は、あらゆる方向から多くの衝突形態が考えられ、例えば、ローリングや、ヨーイングなどの複雑な動きをする場合もあり、多くの衝突形態に対応するためには、コストがかかりすぎてしまうという問題があった。また、上記従来のエアバッグ装置のように、局所的な拘束を複数で行うようにすると、特定の箇所に大きな力が集中してしまう虞がある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、多くの衝突形態に対応するとともに、乗員にかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗員保護装置は、車両の座席シートに着座した乗員を保護する乗員保護装置において、少なくとも一部が棒状であり、前記座席シートに着座した乗員の肩部の上方および下方を結ぶように肩部側方で展開し、展開完了時に、上方が前記座席シートの左右中心部方向に傾いた略直線状となるエアバッグ、を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、前記エアバッグは、下部が前記座席シートのシートクッションの下部に、上部がシートバックの上部に収納され、乗員の脚部または腰部側方から肩部前方にかけて展開する、ようにしてもよい。
【0010】
さらに、前記エアバッグは、前記座席シートの左右の両側方に設けられ、左右のエアバッグは乗員の頭部の後方または上方で連結されている、ようにしてもよい。
【0011】
さらに、前記エアバッグの下部は、前記座席シートの前方または下方に展開する、ようにしてもよい。
【0012】
さらに、前記エアバッグの展開時に、前記エアバッグの下部を前記座席シートの前方または下方に展開させるために誘導するエアバッグ誘導部と、を備えるようにしてもよい。
【0013】
さらに、前記車両の衝突形態を検知または予測する衝突形態検知装置と、前記衝突形態検知装置により衝突形態が側突であると検知された場合には、前記エアバッグの上方を、乗員の肩部よりも外側に展開させる展開形態制御部と、を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、多くの衝突形態に対応するとともに、乗員にかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態におけるエアバッグの展開時の経過状態を示す図である。
【
図4】側突時の展開形状が異なるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
まず、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の構成について、説明する。なお、
図1は、本発明の実施の形態における乗員保護装置を備えた車両の断面図である。また、
図2は、本発明の実施の形態におけるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。また、
図3は、本発明の実施の形態におけるエアバッグの展開時の経過状態を示す図である。
【0017】
(車両1の構成)
図1に示すように、車両1の乗員室は、下部にアンダーフロア3、上部にルーフ4が設けられている。また、アンダーフロア3には、座席シート10が配備されている。
【0018】
座席シート10は、車両1に乗車した乗員Pが着座するものである。また、座席シート10は、乗員Pの臀部から大腿部を支えるシートクッション11(座部)と、リクライニング可能に設けられたシートバック12(背もたれ部)と、乗員Pの頭部を支えるヘッドレスト13(ヘッド部)と、を備えている。
【0019】
また、座席シート10には、後述するエアバッグ121を収納する収納部10Aが設けられている。収納部10Aは、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、から構成される。
シートバック12の収納部12aは、シートバック12の左側の側部に沿って、上方から下端まで設けられている。また、シートバック12の収納部12bは、シートバック12の右側の側部に沿って、上方から下端まで設けられている。さらに、シートバック12の収納部12cは、シートバック12の上部に沿って設けられている。そして、シートバック12の収納部12bと収納部12cとが連結され、収納部12cと収納部12aとが連結されている。
【0020】
シートクッション11の収納部11a、収納部11b、収納部11cは、シートクッション11の座面(シート座面)の下に設けられている。
また、シートクッション11の収納部11aは、シートクッション11の左側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられ、また、後方がシートクッション11の上端まで延びている。また、シートクッション11の収納部11bは、シートクッション11の内部を左右に横断するように設けられている。
【0021】
さらに、シートクッション11の収納部11cは、シートクッション11の右側の側部に沿って、後方から前方に向けて設けられ、また、後方がシートクッション11の上端まで延びている。
そして、シートクッション11の収納部11aと収納部11bとが連結され、収納部11bと収納部11cとが連結されている。
【0022】
さらに、シートバック12の収納部12aとシートクッション11の収納部11aとが連結され、シートクッション11の収納部11cとシートバック12の収納部12bとが連結されている。
したがって、座席シート10の収納部10Aは、シートバック12の収納部12aから、シートクッション11の収納部11a、収納部11b、収納部11c、シートバック12の収納部12b、収納部12c、そして、収納部12aの順に、すべてが連結されている。
【0023】
また、座席シート10のシートクッション11には、シートクッション11の収納部11bに収納されたエアバッグ121が、展開時に展開方向が誘導される案内経路131が設けられている。
案内経路131は、シートクッション11の収納部11bから車両1の下方および斜め前方向に向かった通路であり、先端に向かうほど幅が広くなるように設けられている。また、案内経路131の先端部は、シートクッション11の下部付近まで延在している。そして、シートクッション11の下部で、案内経路131の先端部付近は、エアバッグ121の展開時には破断可能であって、エアバッグ121が外部に突出できるようになっている。
【0024】
(乗員保護装置101の構成)
次に、本発明の実施の形態における乗員保護装置の構成について、説明する。なお、本実施の形態の乗員保護装置は、エアバッグ展開制御ユニット(ACU)や、車両制御装置(ECU)等によって制御されるものである。
乗員保護装置101は、インフレータ111と、エアバッグ121と、を備えている。
【0025】
(インフレータ111)
インフレータ111は、車両1に対する衝突や衝突予測が検知されると、異常検知部やECU等から送られた信号に基づいて、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させ、エアバッグ121にガスを圧入させる。すなわち、インフレータ111は、エアバッグ121にガスを供給するものである。なお、インフレータ111は、座席シート10のシートクッション11の後方の内部に設けられている。すなわち、インフレータ111は、シートバック12よりも下方に設けられている。
【0026】
また、インフレータ111は、シートクッション11の収納部11aにおけるシートバック12の収納部12aに近い位置、および、シートクッション11の収納部11cにおけるシートバック12の収納部12bに近い位置から、エアバッグ121に対してガスを圧入させるようになっている。また、ガスの流入状態によっては、導入位置をもっと高い位置、すなわち、シートバック12の収納部12a、12bの所定位置などから、圧入させるようにしてもよい。
【0027】
(エアバッグ121)
エアバッグ121は、インフレータ111によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折りたたまれている。また、エアバッグ121は、座席シート10の内部に収納されている。
具体的には、エアバッグ121は、座席シート10の収納部10Aに収納されている。すなわち、エアバッグ121は、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、に収納されている。したがって、エアバッグ121は、座席シート10の左右両側方、および、上下に配設されている。
【0028】
これにより、エアバッグ121は、シートバック12の上部から側壁に沿って下方まで設けられ、シートバック12の下部からシートクッション11の後方側部に入り込み、シートクッション11の側部を前方に向かう。そして、エアバッグ121は、シートクッション11の内部を逆の側部に横断し、逆の側部から後方に配設され、シートバック12の下部の側部に入る。さらに、エアバッグ121は、シートバック12の下部から側部を通って、上部に向かい、さらに、シートバック12の上部に沿って、元の位置まで繋がって、円環状となっている。
【0029】
したがって、エアバッグ121は、シートバック12の上方から側面に沿って、シートクッション11の座面(シート座面)の下方にまで回り込んで配設されている。また、エアバッグ121は、座席シート10の左右一方の設けられたエアバッグ部と、左右他方に設けられたエアバッグ部と、が上方および下方で連通している。
なお、本実施の形態では、エアバッグ121は、シートバック12の上方から配設するようにしたが、ヘッドレストから配設するようにしてもよい。
【0030】
また、以下の説明のため、便宜上、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されているエアバッグ121の各部位を、それぞれエアバッグ121a、121b、121c、121d、121e、121fとする。なお、エアバッグ121は円環状に連続して繋がったものであって、これらの各部位はあくまで説明の便宜上設けたものであり、厳密にその位置を示すものではなく、各収納部に収納されたおおよその範囲の部分を示すものである。
【0031】
また、前述のように、エアバッグ121は、ガスが入力され膨張すると、主にシートクッション11の収納部11bに収納されている部位、エアバッグ121cが、案内経路131に沿って下方および前方に誘導されることとなる。すなわち、案内経路131が、エアバッグ誘導部として機能する。なお、エアバッグ121cの誘導は、これに限らず、例えば、誘導用のインフレータを用いて、下方および前方に誘導させたり、エアバッグ121cを巻き取り機構等で引っ張って誘導させたり、油圧機構によって誘導させたり、するものでもよい。
【0032】
また、エアバッグ121は、膨張展開すると、エアバッグ121a、121eは、シートバック12の側部から外側に突出し、エアバッグ121fは、シートバック12の上部から上方に突出するようになっている。なお、エアバッグ121a、121eは、略棒状に展開する。また、エアバッグ121b、121dは、シートクッション11の側部から外側に突出するようになっている。
【0033】
これにより、エアバッグ121a、および、エアバッグ121eは、乗員の肩部の上方および下方を結ぶように肩部側方で展開する。また、エアバッグ121b、121a、および、エアバッグ121d、121eは、乗員の脚部または腰部側方から肩部前方にかけて展開する。さらに、詳細は後述するが、展開完了時には、上方が座席シート10の左右中心部方向に傾いた略直線状となる。したがって、エアバッグ121は、膨張展開すると、逆V字状に乗員Pを拘束するようになっている。
なお、本実施の形態では、エアバッグ121は外側に突出するようにしたが、これに限らず、例えば、エアバッグ121a、121e、121fが、シートバック12の前方に突出するものであったり、エアバッグ121b、121dが、シートクッション11の上方に突出するものであってもよい。
【0034】
(乗員保護装置101の動作)
次に、車両1が衝突物と衝突する際の乗員保護装置101の動作について、説明する。
【0035】
このような乗員保護装置101において、車両1に対する衝突や衝突予測が検知されると、インフレータ111が作動され、インフレータ111によりエアバッグ121にガスが圧入される。
エアバッグ121は、インフレータ111によりガスが圧入されると、まず、シートクッション11の収納部11a、11cに収納された部分、エアバッグ121b、121dにガスが圧入され、さらに、エアバッグ121b、121dからシートバック12の収納部12a、12bに収納されたエアバッグ121a、121eに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ121は、エアバッグ121b、121dが膨張して、シートクッション11の両外側に飛び出して展開するとともに、エアバッグ121a、121eも膨張し、シートバック12の両外側に飛び出して展開する。
【0036】
さらに、エアバッグ121は、エアバッグ121a、121eからシートバック12の上部に設けられた収納部12cに収納されたエアバッグ121fに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ121fも膨張し、シートバック12の上方に飛び出し、乗員Pの後方でエアバッグ121a、121eを連結した状態で展開する。
なお、乗員Pの頭部後方または上方(肩部より上方かつ左右方向内側)、すなわち、シートバック12の上方中央部付近に、上部保持部を有し、エアバッグ121fを保持するようにしてもよい。これにより、エアバッグ121は、上部で固定されることとなる。
【0037】
一方、エアバッグ121は、エアバッグ121b、121dからシートクッション11の内部で左右に横断する収納部11bに収納された部分、エアバッグ121cにもガスが圧入される。そして、エアバッグ121cが膨張すると、シートクッション11の収納部11bに収まりきらなくなり、案内経路131に沿って下方および前方に誘導される。
これにより、エアバッグ121fからエアバッグ121cまでの距離が長くなり、エアバッグ121a、121bおよびエアバッグ121e、121dが、下方および前方に引っ張られる。したがって、エアバッグ121a、121bおよびエアバッグ121e、121dが、直線状となり、エアバッグ121は、乗員Pの頭部後方を頂点とした逆V字状となる。
【0038】
ここで、案内経路131に誘導されるエアバッグ121の展開時の経過について、詳しく説明する。
図3に示すように、エアバッグ121は、インフレータ111によりガスが圧入されると、まず、エアバッグ121b、121dにガスが圧入され、さらに、エアバッグ121cにガスが圧入される。そして、エアバッグ121cが膨張すると、
図3(b)に示すように、シートクッション11の収納部11bに収まりきらなくなり、案内経路131に沿ってやや下方および前方に誘導される。
さらに、エアバッグ121cにガスが圧入されると、
図3(c)に示すように、よりエアバッグ121cが膨張し、案内経路131に沿ってさらに下方および前方に誘導される。また、この頃には、エアバッグ121a、121eにもガスが入力され、エアバッグ121a、121eの下方等も、シートクッション11から飛び出して展開することとなる。
【0039】
そして、さらに、エアバッグ121cにガスが圧入されると、
図3(d)に示すように、エアバッグ121cが最大限に膨張し、案内経路131の最下方および最前方に誘導される。
このように、エアバッグ121の下部となるエアバッグ121cは、案内経路131に誘導されて、座席シート10の前方および下方に展開することとなる。
【0040】
以上により、エアバッグ121が、乗員Pの頭部後方から、肩部前方および大腿部側方を通って、下肢部下部を連結して、逆V字状に乗員Pを取り囲むように展開するので、前突や側突といった多くの衝突形態に対応することができ、乗員Pに対する保護機能を高めることができる。
【0041】
また、エアバッグ121は、乗員Pが外側に移動されようとしても、乗員Pが倒れ込む側の左右一方のエアバッグ121(例えば、エアバッグ121a、121bまたはエアバッグ121e、121d)が、左右他方のエアバッグ121(例えば、エアバッグ121e、121dまたはエアバッグ121a、121b)によって逆方向に引っ張られ、十分な反力を得ることができる。
【0042】
次に、側突時にエアバッグの展開形状を変化させる乗員保護装置について、説明する。
なお、
図4は、側突時の展開形状が異なるエアバッグの収納状態および展開状態を示す図である。
【0043】
本実施の形態の座席シート10は、上記実施の形態の座席シート10と同様のものである。すなわち、座席シート10は、エアバッグ122を収納する収納部10Aが設けられており、収納部10Aは、シートバック12の収納部12a、12b、12cと、シートクッション11の収納部11a、11b、11cと、から構成される。
また、シートクッション11にも、上記実施の形態と同様に、エアバッグ122が展開時に誘導される案内経路131が設けられている。
【0044】
(乗員保護装置102の構成)
本実施の形態における乗員保護装置102は、インフレータ112と、エアバッグ122と、ECUと、を備えている。
ここで、乗員保護装置102が備えるECUとは、車両1の衝突形態を検知または予測する衝突形態検知装置としての機能と、予測した衝突形態が側突であると検知した場合に、エアバッグ122の展開形態を制御する展開形態制御部としての機能を有するものである。したがって、乗員保護装置102とは別にECUを備え、乗員保護装置102には、衝突形態検知装置としての機能と、展開形態制御部としての機能だけを有するものであってもよい。
【0045】
(インフレータ112)
インフレータ112は、上述したインフレータ111と同様のものであり、車両1に対する衝突または衝突予測の検知に基づいて、ガスを発生させ、エアバッグ122にガスを圧入させるものである。
【0046】
(エアバッグ122)
エアバッグ122は、上述したエアバッグ121と同様に、円環状の袋体が座席シート10の内部に収納されている。すなわち、エアバッグ122は、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されている。
なお、本実施の形態においても、便宜上、シートバック12の収納部12a、シートクッション11の収納部11a、11b、11c、シートバック12の収納部12b、12cに収納されているエアバッグ122の各部位を、それぞれエアバッグ122a、122b、122c、122d、122e、122fとする。
【0047】
このような乗員保護装置102において、車両1に対する衝突または衝突予測が検知されると、側突か否かが判定される。側突ではない、すなわち、前突や後突であると判定されると、上述したエアバッグ121の展開と同様に、エアバッグ122は、座席シート10の周りに展開される。
一方、側突であると判定された場合でも、乗員保護装置102は、途中までは、上述したエアバッグ121の展開と同様に、エアバッグ122を展開させる。
【0048】
すなわち、乗員保護装置102は、インフレータ112を作動させ、インフレータ112によりエアバッグ122にガスが圧入させる。
具体的には、インフレータ112が作動されると、インフレータ112から、エアバッグ122b、122dにガスが圧入され、さらに、エアバッグ122b、122dからエアバッグ122a、122eに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ122は、エアバッグ122b、122dが膨張して、シートクッション11の両外側に飛び出して展開するとともに、エアバッグ122a、122eも膨張し、シートバック12の両外側に飛び出して展開する。
【0049】
さらに、エアバッグ122は、エアバッグ122a、122eからエアバッグ122fに、ガスが圧入される。これにより、エアバッグ122fも膨張し、シートバック12の上方に飛び出し、乗員Pの後方でエアバッグ122a、122eを連結した状態で展開する。
【0050】
一方、エアバッグ122は、エアバッグ122b、122dからエアバッグ122cにもガスが圧入される。そして、エアバッグ122cが膨張すると、シートクッション11の収納部11bに収まりきらなくなり、案内経路131に沿って下方および前方に移動する。
ここまでが、上記実施の形態と同一の動作が行われる。
【0051】
ここで、側突が検知されている場合、エアバッグ122cの移動を規制し、前突や後突の場合よりも、エアバッグ122cが前方まで移動しないようにする。
例えば、エアバッグ122cにテザー等を設けておき、前方への移動を規制しておくとよい。そして、車両1の衝突形態が前突や後突の場合には、このテザーを切ればよい。また、ゴム等の弾性体を設けておいてもよい。また、案内経路131の途中にスットパを設けておき、前突や後突の場合に、このストッパを解除するようにしてもよい。
【0052】
さらに、案内経路131を変更するものであってもよい。すなわち、本実施の形態の案内経路131とは別に、案内経路131よりも前方まで延びていない第2案内経路を設けておき、側突の場合には、この第2案内経路に導くようにしてもよい。
【0053】
これにより、エアバッグ122cが前突や後突時ほど前方に移動しないので、エアバッグ122a、122bおよびエアバッグ122e、122dが、乗員Pの前面に移動せず、側部で展開した状態を維持ずる。このため、側突に対して、乗員Pの保護を、最適に行うことができる。
【0054】
また、エアバッグ121aおよびエアバッグ121eに対して、テザー等で前方への移動を規制するようにしてもよい。これにより、側突の場合には、エアバッグ121a、121bおよびエアバッグ121e、121dの展開位置を、乗員Pの側部に維持することができ、前突や後突の場合には、上記テザーを切断して、エアバッグ121a、121bおよびエアバッグ121e、121dを、乗員Pの肩の前に出し、乗員Pの前方への移動を抑えることができる。
【0055】
また、側突の場合には、エアバッグ121cの左右の距離を短くするようにしてもよい。例えば、エアバッグ121cの略中央部で、エアバッグ121cの一部を引っ張るようにしてもよい。これにより、側突の場合にも、エアバッグ121a、121bおよびエアバッグ121e、121dに対して、張力を高めることができる。
また、上記第2案内経路を設ける場合に、この第2案内経路を下方に長く延ばすことによっても、上記張力を高めることができる。
【0056】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置101、102は、エアバッグ121、122が、乗員Pの頭部後方から、肩部前方および大腿部側方を通って、下肢部下部を連結して、逆V字状に乗員Pを取り囲むように展開するので、前突や側突といった多くの衝突形態に対応することができ、乗員Pに対する保護機能を高めることができる。また、上方および下方において、乗員Pが倒れ込む側とは逆方向に張力がかかるようにしているので、乗員Pにかかる衝撃そのものを和らげることができ、乗員の保護機能を高めることができる。
【符号の説明】
【0057】
1 車両、3 アンダーフロア、4 ルーフ、10 座席シート、10A 収納部、11 シートクッション、11a、11b、11c 収納部、12 シートバック、12a、12b、12c 収納部、13 ヘッドレスト、101、102 乗員保護装置、111、112 インフレータ、121、122 エアバッグ、131 案内経路