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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】異物検出方法及び異物検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20221026BHJP
   G01N 15/06 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G01N15/06 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019086019
(22)【出願日】2019-04-26
(65)【公開番号】P2020180946
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宋 彦舟
(72)【発明者】
【氏名】馬場 理香
(72)【発明者】
【氏名】小平 法美
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-116389(JP,A)
【文献】特開2018-048841(JP,A)
【文献】特開2002-214223(JP,A)
【文献】特開平10-019788(JP,A)
【文献】特開2012-137336(JP,A)
【文献】特開2018-017642(JP,A)
【文献】特開2018-146251(JP,A)
【文献】特開2008-014652(JP,A)
【文献】特開2017-215253(JP,A)
【文献】特開2006-349634(JP,A)
【文献】特開2014-044070(JP,A)
【文献】特開2008-215862(JP,A)
【文献】特開2009-198414(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0077001(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0320216(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00 - G01N 15/14
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)異なる複数の波長の各々について当該波長の光が照射された物質の同一範囲を撮影し、
(B)前記異なる複数の波長にそれぞれ対応した複数の撮影画像にそれぞれ異物が写っている同一の複数の位置を特定し、
同一の複数の位置に写っている異物毎に、下記(C)乃至(E)を行う、
(C)前記複数の撮影画像における前記同一の複数の位置からそれぞれ複数の画像信号強度を特定する、
(D)前記特定された複数の画像信号強度の比である信号強度比を算出する、
(E)信号強度比について異物成分毎に設けられた基準値のうち、前記算出された信号強度比と同じ又は最も近い基準値に対応した異物成分を特定する、
ことを特徴とする異物検出方法。
【請求項2】
前記複数の画像信号強度の各々は、透過率又は吸収率であり、
前記信号強度比は、透過率比又は吸収率比である、
ことを特徴とする請求項1に記載の異物検出方法。
【請求項3】
(F)前記複数の撮影画像のうちの少なくとも一つについて、当該撮影画像全体又は異物全体のうち、前記特定された異物成分の異物が占める割合を算出し、
(G)前記算出された割合を基に、下記のうちの少なくとも一つを判定し、
・前記物質と前記物質が使用されている対象とのうちの少なくとも一つの劣化状態、
・作業の指示、
(H)(G)の判定の結果を出力する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の異物検出方法。
【請求項4】
(F)において、一つ以上の異物成分の各々について、当該異物成分の異物が占める割合を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の異物検出方法。
【請求項5】
(E)で特定された異物成分が、前記物質が使用されている対象以外からの異物の異物成分に該当し、且つ、当該異物成分に関し(F)で算出された割合が、所定割合を超える場合、(G)において判定される作業の指示は、前記物質の交換である、
ことを特徴とする請求項3に記載の異物検出方法。
【請求項6】
前記異なる複数の波長は、異なる複数の波長領域にそれぞれ属する複数の波長である、
ことを特徴とする請求項1乃至5のうちのいずれか1項に記載の異物検出方法。
【請求項7】
前記異なる複数の波長の光は、可視光と近赤外光であり、
前記物質は、所定の厚さとされた潤滑剤であり、
(A)では、可視光光源から前記可視光が照射された前記潤滑剤の前記同一範囲について、透過波長を前記可視光光源の波長領域内の特定波長とする可視光フィルターを介して撮影された第1の撮影画像を取得し、且つ、近赤外線光源から前記近赤外光が照射された前記潤滑剤の前記同一範囲について、透過波長を前記近赤外線光源の波長領域内の特定波長とする近赤外線フィルターを介して撮影された第2の撮影画像を取得し、
(B)では、前記第1の撮影画像及び前記第2の撮影画像をそれぞれ二値化処理し、それぞれ二値化処理された第1及び第2の二値化画像にそれぞれ異物が写っている同一の複数の位置を特定し、
同一の複数の位置に写っている異物毎に、(C)では、前記複数の撮影画像は、前記第1及び第2の二値化画像である、
ことを特徴とする請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の異物検出方法。
【請求項8】
異なる複数の波長にそれぞれ対応した複数の撮影画像にそれぞれ異物が写っている同一の複数の位置を特定する位置特定部と、
前記複数の撮影画像の各々は、前記複数の波長のうちの対応する波長の光が照射された物質の同一範囲の撮影画像であり、
信号強度特定部と、
強度比算出部と、
成分特定部と
を備え、
同一の複数の位置に写っている異物毎に、
前記信号強度特定部が、前記複数の撮影画像における前記同一の複数の位置からそれぞれ複数の画像信号強度を特定し、
前記強度比算出部が、前記特定された複数の画像信号強度の比である信号強度比を算出し、
前記成分特定部が、信号強度比について異物成分毎に設けられた基準値のうち、前記算出された信号強度比と同じ又は最も近い基準値に対応した異物成分を特定する、
ことを特徴とする異物検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、異物の検出技術に関し、例えば、潤滑剤内の異物の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
透過光量に基づいて液体中の粒子濃度を検出するに際して、液中粒子の成分比に起因する検出誤差を抑えることのできる粒子濃度検出方法が開示されている。特許文献1に記載の方法は、潤滑油に可視光及び赤外光を照射して、それぞれの透過光量を計測し、計測された透過光量に基づいて、潤滑油に混入した粒子の濃度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-349634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の方法によれば、潤滑油内の粒子の濃度を検出することができるが、当該粒子の成分を特定することはできない。このため、潤滑油内の粒子が、潤滑油が使用されている機械からの粒子なのか、当該機械以外からの粒子なのか特定できない。また、潤滑油内の粒子が、機械からの粒子であったとしても、当該粒子の成分を特定することはできない。結果として、潤滑油や機械の劣化状態がわからず、どのような作業を行ったらいいのかもわからない。
【0005】
このような問題は、潤滑油以外の物質が使用されている対象(機械であっても機械以外であっても良い)についてもあり得る。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、異物検出装置は、異なる複数の波長にそれぞれ対応した複数の撮影画像にそれぞれ異物が写っている同一の複数の位置を特定する。複数の撮影画像の各々は、複数の波長のうちの対応する波長の光が照射された物質の同一範囲の撮影画像である。異物検出装置は、複数の撮影画像における同一の複数の位置からそれぞれ複数の画像信号強度を特定し、特定された複数の画像信号強度の比を算出する。異物検出装置は、算出された比から、異物の成分を特定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、物質内の異物の成分を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る異物検出装置を含む全体の概略図である。
図2】異物検出装置を含む全体の構造図である。
図3】測定中の発光部及び潤滑剤セルの構造図である。
図4】測定中のフィルター及びカメラの構造図である。
図5】異物検出方法を説明するフロー図である。
図6】異物の画像信号と波長との関係を説明するグラフである。
図7】異物検出装置に予め記憶される基準値の比を表した図である。
図8】異物検出装置における二値化画像を説明するための図である。
図9】実施形態の一変形例に係る、異物の画像信号と波長との関係、を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明では、「インターフェース装置」は、一つ以上のインターフェースデバイスで良い。当該一つ以上のインターフェースデバイスは、下記のうちの少なくとも一つで良い。
・一つ以上のI/O(Input/Output)インターフェースデバイス。I/O(Input/Output)インターフェースデバイスは、I/Oデバイスと遠隔の表示用計算機とのうちの少なくとも一つに対するインターフェースデバイスである。表示用計算機に対するI/Oインターフェースデバイスは、通信インターフェースデバイスで良い。少なくとも一つのI/Oデバイスは、ユーザインターフェースデバイス、例えば、キーボード及びポインティングデバイスのような入力デバイスと、表示デバイスのような出力デバイスとのうちのいずれでも良い。
・一つ以上の通信インターフェースデバイス。一つ以上の通信インターフェースデバイスは、一つ以上の同種の通信インターフェースデバイス(例えば一つ以上のNIC(Network Interface Card))であっても良いし二つ以上の異種の通信インターフェースデバイス(例えばNICとHBA(Host Bus Adapter))であっても良い。
【0010】
また、以下の説明では、「メモリ」は、一つ以上のメモリデバイスであり、典型的には主記憶デバイスで良い。メモリにおける少なくとも一つのメモリデバイスは、揮発性メモリデバイスであっても良いし不揮発性メモリデバイスであっても良い。
【0011】
また、以下の説明では、「永続記憶装置」は、一つ以上の永続記憶デバイスである。永続記憶デバイスは、典型的には、不揮発性の記憶デバイス(たとえば補助記憶デバイス)であり、具体的には、たとえば、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)である。
【0012】
また、以下の説明では、「記憶装置」は、メモリと永続記憶装置の少なくともメモリで良い。
【0013】
また、以下の説明では、「プロセッサ」は、一つ以上のプロセッサデバイスである。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、典型的には、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサデバイスであるが、GPU(Graphics Processing Unit)のような他種のプロセッサデバイスでも良い。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、シングルコアでも良いしマルチコアでも良い。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、プロセッサコアでも良い。少なくとも一つのプロセッサデバイスは、処理の一部又は全部を行うハードウェア回路(たとえばFPGA(Field-Programmable Gate Array)又はASIC(Application Specific Integrated Circuit))といった広義のプロセッサデバイスでも良い。
【0014】
また、以下の説明では、「kkk部」の表現にて機能を説明することがあるが、機能は、一つ以上のコンピュータプログラムがプロセッサによって実行されることで実現されても良いし、一つ以上のハードウェアデバイス(たとえばFPGA又はASIC)によって実現されても良いし、それらの組合せによって実現されても良い。各機能の説明は一例であり、複数の機能が一つの機能にまとめられたり、一つの機能が複数の機能に分割されたりしても良い。
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。当該実施形態では、物質の一例として潤滑剤(例えば、グリスのように粘度の高い潤滑剤)が採用され、物質が使用される対象の一例としてベアリングが採用される。
【0016】
図1は、本実施形態に係る異物検出装置を含んだ全体の概略図である。
【0017】
この図において、参照符号1は、発光装置を示し、参照符号2は、潤滑剤セルを示し、参照符号3は、フィルターを示し、参照符号4は、カメラを示し、参照符号5は、異物検出装置を示す。Dは、潤滑剤セル2の厚みを意味する。
【0018】
発光装置1から光が照射された潤滑剤セル2について、フィルター3を介してカメラ4により撮影がされ、撮影画像が、異物検出装置5に入力される。
【0019】
異物検出装置5は、本実施形態ではパーソナルコンピュータのような計算機により実現される。これにより、現場にて、異物の成分や当該成分の割合からベアリング又は潤滑剤の劣化度合に適した作業ができる。
【0020】
異物検出装置5は、インターフェース装置51、記憶装置52、入出力装置53及びそれらに接続されたプロセッサ54を有する。インターフェース装置51は、カメラ4から撮影画像のデータを受け付ける。記憶装置52は、プログラム群61(一つ以上のプログラム)、及び、管理情報62を記憶する。入出力装置53は、キーボード及びポインティングデバイスのような入力装置と、液晶ディスプレイのような表示装置とを含む。入出力装置53は、入力装置と表示装置が一体となった装置でもよい。プロセッサ54がプログラム群61を実行することにより、位置特定部71、信号強度特定部72、強度比算出部73、成分特定部74、割合算出部75、判定部76及び結果出力部77といった機能が実現される。
【0021】
位置特定部71は、異なる複数の波長にそれぞれ対応した複数の撮影画像にそれぞれ異物が写っている同一の複数の位置を特定する。複数の撮影画像の各々は、複数の波長のうちの対応する波長の光が照射された潤滑剤の撮影画像である。信号強度特定部72は、複数の撮影画像における同一の複数の位置からそれぞれ複数の画像信号強度を特定する。強度比算出部73は、特定された複数の画像信号強度の比を算出する。成分特定部74は、算出された比から前記異物の成分を特定する。割合算出部75は、複数の撮影画像のうちの少なくとも一つについて、当該撮影画像又は異物全体のうち、上記特定された成分の異物が占める割合を算出する。判定部76は、当該算出された割合を基に、(x)潤滑剤とベアリングとのうちの少なくとも一つの劣化状態、及び、(y)作業の指示、のうちの少なくとも一つを判定する。結果出力部77は、当該判定の結果を表示する。
【0022】
異物検出装置5の機能71~77の少なくとも一部は、ユーザ(例えば保守員)が持つユーザ端末(例えば、モバイル型又はタブレット型の計算機や、スマートフォンといった計算機)と通信可能な遠隔のシステム(例えばサーバ)において実現されてもよく、この場合、ユーザ端末は、当該遠隔のシステムから、ベアリング又は潤滑剤の劣化度合に適した作業の指示を受けて、ユーザは、当該指示に従う作業を行うことができる。
【0023】
本実施形態では、複数の波長の各々について、当該波長の光における潤滑剤の透過画像が撮影される。つまり、本実施形態では、撮影画像の一例として、透過画像が採用され、画像信号強度として、透過率が採用される。異物検出装置5は、複数の透過画像における異物の複数の透過率をそれぞれ算出し、当該複数の透過率より透過率比を算出し、当該透過率比より異物の成分を特定する。
【0024】
図2は、異物検出装置5を含む全体の構造を示す。
【0025】
発光装置1は、特定領域波長の可視光光源11と、近赤外線光源12とから構成されている。可視光光源11は、切替レバー11aと発光部11bとから構成されている。近赤外線光源12は、切替レバー12aと発光部12bとから構成されている。本実施形態において、可視光光源11は、可視光領域(400~700nm)に属する可視光の光源であり、近赤外線光源12は、近赤外線領域(800~1200nm)に属する近赤外線の光源である。
【0026】
潤滑剤セル2は、透明板21a、厚み制限部21b、透光カバー22、及び、透光カバー固定部23から構成されている。厚み制限部21bの厚みは固定値Dである。
【0027】
フィルター3は、可視光フィルター31及び近赤外線フィルター32から構成されている。可視光フィルター31は、切替レバー31aとフィルター遮光部31bとから構成されている。可視光フィルター31の透過波長は、可視光光源11の波長範囲内の特定波長(例:500nm)である。近赤外線フィルター32は、切替レバー32aとフィルター遮光部32bとから構成されている。近赤外線フィルター32の透過波長は、近赤外線光源12の波長範囲内の特定波長(例:1000nm)である。
【0028】
図3は、撮影を行う時の発光部1と潤滑剤セル2の構造図である。
【0029】
採取された潤滑剤は、潤滑剤容器24、すなわち厚みを一定にできるような容器(例:プラスチック袋)に入れられる。潤滑剤容器24は、厚み制限部21bの上に設置される。潤滑剤容器24が設置された後、発光装置1の透光カバー22が閉じられ、透光カバー固定部23により潤滑剤容器24が固定される。すなわち、撮影範囲25にある潤滑剤は、透光カバー22によって圧縮され、潤滑剤の厚みは、図1に示す固定値Dとなる。可視光光源11と近赤外線光源12とは切替レバー11a又は切替レバー12aを移動させることによって、透明板21aの位置に移動させることが可能である。
【0030】
図4は、撮影を行う時のフィルター3とカメラ4の構造図である。
【0031】
撮影を行う時、可視光フィルター31と近赤外線フィルター32は、カメラ4の前方に移動してそれぞれのフィルターの特定波長以外の波長の光を遮光する。
【0032】
カメラ4は、可視光波長領域から近赤外波長領域まで(例:300~1500nm)の光を検出して画像として撮影が可能なカメラである。カメラ4は、撮影した画像を異物検出装置5に出力する。なお、この撮影画像の画像信号は、可視光又は近赤外光における潤滑剤の透過率情報を示す白黒画像信号である。
【0033】
異物検出装置5は、カメラ4から出力された画像を処理する装置である。異物検出装置5は、例えば以下の処理を行う。
(1)画像の二値化処理
(2)複数の二値化画像の比較
(3)複数画像の同一位置での信号強度比を算出
(4)各種物質の信号強度比の基準値を記憶
(5)算出した信号強度比と基準値の比を比較
(6)特定した異物の成分と複数画像を表示
(7)特定した異物の成分より全画像面積及び全体異物の面積との面積比を算出
(8)算出した面積比より潤滑剤の劣化程度を判断
(9)判定結果をレポートまたダッシュボードへ出力
【0034】
以下、図5図8を参照し、処理手順を説明する。
【0035】
まず、撮影前の準備作業として、ユーザは、潤滑剤を、潤滑剤の厚みが一定にできる潤滑剤容器24に入れ、潤滑剤から出た余分な潤滑剤をふき取り、潤滑剤容器24を厚み制限部21bの上に設置する。ユーザは、透光カバー22を、潤滑剤を設置した後に閉じ、透光カバー固定部23より潤滑剤容器24を固定する。これにより、潤滑剤の厚みが、所定の厚みDとなる。
【0036】
次に、具体的な撮影手順を図5のフローチャートを用いて説明する。
【0037】
ユーザは、可視光光源11を透明板21aの前方に移動させ、可視光フィルター31をカメラ4の前方に移動させる。この状態で、カメラ4は、撮影範囲25にある潤滑剤の可視光における透過画像を撮影する(ステップS1)。この透過画像を、可視光画像Xとする。
【0038】
次に、ユーザは、近赤外線光源12を、可視光光源11の位置に移動させ、近赤外線フィルター32を、可視光フィルター31の位置に移動させる。この状態で、カメラ4は、撮影範囲25にある潤滑剤の近赤外光における透過画像を撮影する(ステップS2)。この透過画像を、近赤外線画像Yとする。ここで、撮影された可視光画像Xと近赤外線画像Yは、カメラ4から異物検出装置5に出力される。
【0039】
次に、異物検出装置5に出力された可視光画像Xと近赤外線画像Yは、異物検出装置5の位置特定部71により二値化処理される(ステップS3)。処理された複数の二値化画像は、異物がある領域が暗部として出力され、潤滑剤のみ存在する領域が明部として出力される。図8は、可視光画像Xの二値化画像(a)と、近赤外線画像Yの二値化画像(b)との一例を示す。可視光画像Xの二値化画像(a)上の暗部T1と、近赤外線画像Yの二値化画像(b)上の暗部T2が、同一の異物を表すため、位置特定部71は、二値化画像(a)における暗部T1の位置と、二値化画像(b)における暗部T2の位置とを特定する。これらの位置が、複数の撮影画像における同一の複数の位置の一例である。
【0040】
次に、異物検出装置5において、信号強度特定部72が、可視光画像Xの二値化画像(a)における特定された位置(暗部T1の位置)の画像信号強度と、近赤外線画像Yの二値化画像(b)における特定された位置(暗部T2の位置)の画像信号強度とを特定し、強度比算出部73が、それら特定され画像信号強度の信号強度比を算出する(ステップS4)。図6は、測定した繊維、酸化した鉄、錆、鉄粉の信号強度(透過率に相当)と波長との関係曲線を示す。ここで、繊維の信号強度比は1B/1A、酸化した鉄の信号強度比は2B/2A、錆の信号強度比は3B/3A、鉄粉の信号強度比は4B/4Aである。なお、二つ以上の撮影画像が使用されても良く、また、四つ以上の異物(成分)の信号強度比が算出されても良い。また、「酸化した鉄」とは、第二酸化鉄以外の酸化鉄のことで良く、「錆」とは、第二酸化鉄で良い。
【0041】
次に、成分特定部74は、算出された信号強度比を、記憶装置52に予め記憶されている管理情報が示す信号強度比の基準値と比較する(ステップS5)。図7は、予め測定した各種異物(成分)(例:繊維、酸化した鉄、錆、鉄粉)の可視光フィルター31(例えば波長500nm)と近赤外線フィルター32(例えば波長1000nm)との波長での信号強度比を表したものである。成分特定部74は、算出された信号強度比毎に、当該信号強度比と同じ又は最も近い基準値に対応した異物成分(例えば、信号強度比との差が一定値以下の基準値のうち最も当該信号強度比に近い基準値に対応した異物成分)を特定する(ステップS6)。
【0042】
ステップS4~S6は、例えば、二値化画像(a)及び(b)の各々の暗部毎に(つまり、写っている異物毎に)行われる。
【0043】
次に、ステップS6の結果より、割合算出部75は、二値化画像(a)及び(b)の少なくとも一つにおいてベアリング(金属)以外の異物(例えば繊維)の面積と異物全体の面積との比R1を算出する(ステップS7)。
【0044】
ここで、検出目的としている異物は金属であるので、面積比R1の値がL%以上の場合は(Lは、0以上100以下のうちの任意の値)、判定部76は、金属以外の異物の混入が多いと判定し、潤滑剤のサンプル交換を指示することを決定し、結果出力部77が、サンプル交換(例えば、潤滑剤容器24内の潤滑剤を、ベアリングの別の箇所から取った潤滑剤に交換すること)をユーザに指示する(ステップS11)。サンプル交換が行われた後、ステップS1から再測定が行われる。
【0045】
一方、面積比R1の値がL%未満の場合、潤滑剤に含まれる金属の判定が可能として、割合算出部75は、二値化画像(a)及び(b)の少なくとも一つから、錆と異物全体との面積比R2を算出する(ステップS8)。面積比R2がM%以上の場合(Mは、0以上100以下のうちの任意の値)、判定部76は、当該潤滑油を使用しているベアリングは摩耗限界と判定し、当該潤滑剤を使用しているベアリングを交換する指示をすることを決定し、結果出力部77が、ユーザにベアリング交換を指示する(結果F1)。
【0046】
また、面積比R2がM%未満の場合、割合算出部75は、二値化画像(a)及び(b)の少なくとも一つから、酸化した鉄と鉄粉合計の面積と画像全体の面積との比R3を算出する(ステップS9)。面積比R3がN%以上の場合(Nは、0以上100以下のうちの任意の値)、判定部76は、当該潤滑剤は劣化していると判定し、潤滑剤を交換する指示をすることを決定し、結果出力部77が、ユーザに潤滑剤交換を指示する(結果F2)。
【0047】
一方、面積比R3がN%未満の場合、判定部76は、潤滑剤の劣化度合は良好と判定する。続いて、結果出力部77が、処理された画像と、特定された異物の成分と、ベアリング及び潤滑剤の少なくとも一つについて判定部76により推定される劣化度合とを出力(例えば表示)する(ステップS10)。例えば、結果出力部77は、処理した画像において、異物の表示態様(例えば、暗部の色)を、特定された異物成分に応じた表示態様とし、そのような表示態様の画像を含む結果をレポート又はダッシュボードといった形式で出力(例えば表示)する。
【0048】
本実施形態によれば、可視光と近赤外光の各々に関し、当該光が照射された潤滑剤の同一範囲が撮影される。潤滑剤の同一範囲内に異物があれば、二つの撮影画像(二値化画像)の同一位置に当該異物が暗部として写っている。このため、各撮影画像から異物の位置が特定される。故に、各撮影画像について、いずれの画像位置について信号強度を特定すべきかを迅速に特定できる。また、もし現場において異物成分が不明という結果となった場合(例えば、いずれの基準値についても基準値と信号強度比との差が一定値を超えているため異物成分を特定できなかった場合)、異物の位置はわかっているので、ユーザは、その位置から異物を取り出して(或いは、潤滑剤容器24をそのまま取り出して)、現場とは異なる場所(例えば研究機関)にて異物を分析するといったこともできる。
【0049】
また、本実施形態によれば、異物の成分が特定される。このため、例えば、まずベアリング外からの異物(例えば繊維)とその割合がわかり、そして、その割合が低い場合に、現在のサンプル(潤滑剤)を用いてベアリング及び潤滑剤の劣化度合を推定することに進むことができる(ベアリング外からの異物の割合が高い場合には、現在のサンプルを用いてベアリング及び潤滑剤の劣化度合を推定することは不適切だとわかり、サンプル交換といったことが行える)。そのような推定において、ベアリング内からの異物の成分の割合から、ベアリングそれ自体の劣化度合は低いと推定されるから潤滑剤を交換すれば良いとか、ベアリングそれ自体の劣化度合が高いと推定されるからベアリングの交換が必要であるとかの区別を正確且つ容易に行うことができる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例も考えられる。
(変形例1)発光装置1は構造を変えた上で、カメラ4と同じ位置に設置し、潤滑剤に照射することができる。その結果、撮影した画像信号は、反射率又は吸収率を示す白黒画像信号である。図9は、測定した繊維、酸化した鉄、錆、鉄粉の吸収率の信号強度と波長との関係曲線を示す。ここで、二値化画像において、異物がある領域が明部、潤滑剤のみ存在する領域が暗部で良い。すなわち、ステップS5とステップS6は、反射率及び吸収率に基づく処理でも良い。
(変形例2)発光装置1とフィルター3に関し、回転構造、又は、分離可能な差し替え構造が、使用されても良い。
(変形例3)潤滑剤セル2に関し、注入式構造、又は、分離可能な差し替え構造が、使用されても良い。
(変形例4)カメラ4は、複数のカメラを使用しても良い。すなわち、複数波長範囲の画像はカメラ4が上記の実施形態に使用した発光部1及びフィルター3のような構造を使用することで撮影しても良い。
(変形例5)可視光と近赤外光とは別の光が使用されても良い。例えば、紫外光、中赤外光及び遠赤外光とその領域内の光源、フィルター、カメラが使用されても良い。
(変形例6)潤滑剤以外の透光性液体及び固体に含まれる異物が検出されても良い。
【符号の説明】
【0051】
1……発光装置、2……潤滑剤セル、3……フィルター、4……カメラ、5……異物検出装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9