(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20221026BHJP
H02M 3/28 20060101ALI20221026BHJP
H01F 21/04 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M3/28 Y
H01F21/04
(21)【出願番号】P 2019203324
(22)【出願日】2019-11-08
【審査請求日】2021-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】市橋 克弘
(72)【発明者】
【氏名】倉内 修司
【審査官】白井 孝治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-110477(JP,A)
【文献】特開2001-333577(JP,A)
【文献】国際公開第2012/108221(WO,A1)
【文献】特開2015-201964(JP,A)
【文献】特開2018-107973(JP,A)
【文献】特開2010-193536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02M 3/28
H01F21/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体(60)と、前記筐体に設置されている複数のポート(10,20,30)と、前記ポート毎に設けられており、自身に対応する前記ポートにそれぞれ電気的に接続されている複数の変換回路(13,23,33)と、前記変換回路毎に設けられており、自身に対応する前記変換回路にそれぞれ電気的に接続されると共に所定のトランスコア(50)にそれぞれ巻回されている複数のコイル(17,27,37)と、を有し、
各前記変換回路により、前記ポート側で使用される直流又は交流と所定周波数の交流との間で変換を行い、前記コイルどうしの間で、磁気結合により前記所定周波数の交流電力を伝達し、その伝達に伴い変圧する電力変換装置(100)において、
所定の基板孔(73a)が形成されている所定基板(73)と、前記所定基板とは別の基板であり、前記基板孔とは別の他基板孔(71a)が形成されている他基板(71)とを有し、
前記所定基板に、複数の前記変換回路のうちの一部である所定変換回路(33)が搭載されると共に、前記所定基板における前記基板孔の周りに、前記所定変換回路に電気的に接続されている前記コイルである所定コイル(37)が、前記所定基板と一緒に移動する状態で固定されており、
前記他基板に、前記所定変換回路とは別の前記変換回路である他変換回路(13,23)が搭載されると共に、前記他基板における前記他基板孔の周りに、前記他変換回路に電気的に接続されている前記コイルである他コイル(17,27)が、前記他基板と一緒に移動する状態で固定されており、
前記筐体には、所定の第1支持部(61)が形成されると共に、前記第1支持部との間に段差をおいて第2支持部(62)が形成されており、
前記他基板孔を前記トランスコアが挿通した状態で、前記他基板が前記第1支持部に固定されており、
前記基板孔を前記トランスコアが挿通した状態で、前記所定基板が前記第2支持部に固定されることにより、前記所定コイルが前記他コイルに対して位置決めされている、
電力変換装置。
【請求項2】
前記所定変換回路は、半導体スイッチ(34)を有し、前記半導体スイッチが前記所定基板に搭載されており、
前記所定基板を前記基板孔の貫通方向にみた平面視で、前記半導体スイッチと重なる位置に、前記所定基板又はその搭載物に当接すると共に前記筐体に当接する放熱部材(83)が設置されている、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
筐体(60)と、前記筐体に設置されている複数のポート(10,20,30)と、前記ポート毎に設けられており、自身に対応する前記ポートにそれぞれ電気的に接続されている複数の変換回路(13,23,33)と、前記変換回路毎に設けられており、自身に対応する前記変換回路にそれぞれ電気的に接続されると共に所定のトランスコア(50)にそれぞれ巻回されている複数のコイル(17,27,37)と、を有し、
各前記変換回路により、前記ポート側で使用される直流又は交流と所定周波数の交流との間で変換を行い、前記コイルどうしの間で、磁気結合により前記所定周波数の交流電力を伝達し、その伝達に伴い変圧する電力変換装置(100)において、
所定の基板孔(73a)が形成されている所定基板(73)を有し、
前記所定基板に、複数の前記変換回路のうちの一部である所定変換回路(33)が搭載されると共に、前記所定基板における前記基板孔の周りに、前記所定変換回路に電気的に接続されている前記コイルである所定コイル(37)が、前記所定基板と一緒に移動する状態で固定されており、
前記基板孔を前記トランスコアが挿通した状態で、前記所定基板が前記筐体に固定されることにより、前記所定コイルがそれ以外の前記コイル
である他コイル(17,27)に対して位置決めされており、
前記所定変換回路は、半導体スイッチ(34)を有し、前記半導体スイッチが前記所定基板に搭載されており、
前記所定基板を前記基板孔の貫通方向にみた平面視で、前記半導体スイッチと重なる位置に、前記所定基板又はその搭載物に当接すると共に前記筐体に当接する放熱部材(83)が設置されている、電力変換装置。
【請求項4】
前記所定基板は、前記トランスコアと前記
他コイルとに対する自身の位置を、前記基板孔の貫通方向に直交する方向に調整可能に、前記筐体に取り付けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
筐体(60)と、前記筐体に設置されている複数のポート(10,20,30)と、前記ポート毎に設けられており、自身に対応する前記ポートにそれぞれ電気的に接続されている複数の変換回路(13,23,33)と、前記変換回路毎に設けられており、自身に対応する前記変換回路にそれぞれ電気的に接続されると共に所定のトランスコア(50)にそれぞれ巻回されている複数のコイル(17,27,37)と、を有し、
各前記変換回路により、前記ポート側で使用される直流又は交流と所定周波数の交流との間で変換を行い、前記コイルどうしの間で、磁気結合により前記所定周波数の交流電力を伝達し、その伝達に伴い変圧する電力変換装置(100)において、
所定の基板孔(73a)が形成されている所定基板(73)を有し、
前記所定基板に、複数の前記変換回路のうちの一部である所定変換回路(33)が搭載されると共に、前記所定基板における前記基板孔の周りに、前記所定変換回路に電気的に接続されている前記コイルである所定コイル(37)が、前記所定基板と一緒に移動する状態で固定されており、
前記基板孔を前記トランスコアが挿通した状態で、前記所定基板は、前記トランスコアと前記所定コイル以外の前記コイル
である他コイル(17,27)とに対する自身の位置を、前記基板孔の貫通方向に直交する方向に調整可能に、前記筐体に取り付けられており、
前記所定基板が前記筐体に固定されることにより、前記所定コイルが
前記他コイルに対して位置決めされている、電力変換装置。
【請求項6】
前記所定基板とは別の基板であり、前記基板孔とは別の他基板孔(71a)が形成されている他基板(71)を有し、
前記他基板に、前記所定変換回路とは別の前記変換回路である他変換回路(13,23)が搭載されると共に、前記他基板における前記他基板孔の周りに、前記他変換回路に電気的に接続されている前
記他コイ
ルが、前記他基板と一緒に移動する状態で固定されており、
前記他基板孔を前記トランスコアが挿通した状態で、前記他基板が前記筐体に固定されている、
請求項
3又は5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記所定基板と前記筐体との間に、スペーサ(77)が介装されることにより、前記スペーサが介装されない場合に比べて、前記所定コイルと
前記他コイルとの間隔が大きく又は小さくなっている、請求項3又は5に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記所定基板と前記筐体との間又は前記他基板と前記筐体との間に、スペーサ(77)が介装されることにより、前記スペーサが介装されない場合に比べて、前記所定コイルと前記他コイルとの間隔が大きく又は小さくなっている、請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記所定基板と前記筐体との間及び前記他基板と前記筐体との間のいずれにも、スペーサ(77)を介装可能に構成されており、
前記所定基板と前記筐体との間にスペーサが介装されると、当該間にスペーサが介装されない場合に比べて前記所定コイルと前記他コイルとの間隔が大きくなり、前記他基板と前記筐体との間にスペーサが介装されると、当該間にスペーサが介装されない場合に比べて前記所定コイルと前記他コイルとの間隔が小さくなるように構成されている、請求項6又は8に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のポートを有し、いずれかのポートから入力された電力を変圧して他のポートから出力する電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の回路を一体化してなるインテリジェント・モジュールの中には、次のように構成されたものがある。インテリジェント・モジュールは、共通基板とカスタマイズ基板とを有する。共通基板には、多数の顧客に共通して使用可能な回路が搭載される。他方、カスタマイズ基板には、顧客仕様に応じて回路構成や配置の異なる可能性がある回路が搭載される。そして、このような技術を示す文献としては、次の特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術によれば、カスタマイズ基板を取り替えるだけで、顧客仕様に応じて変更が必要な回路を、簡単に変更することができる。そのため、カスタマイズ性を確保できる。しかしながら、このようにして回路の一部を変更する技術を、所定の電力変換装置に採用した場合、次に示す問題が発生し得ることに、本発明者は着目した。
【0005】
すなわち、所定の電力変換装置では、トランスコアに巻かれた複数のコイルを介して変圧する。このような電力変換装置において、その回路の一部を顧客のニーズ等に合わせて変更した場合、それに伴い、コイルどうしの間で要求される磁気結合度も変わってしまうことがある。具体的には、コイルどうしの間で電力を効率よく伝えたい仕様の場合には、100%に近い高い磁気結合度が要求される。他方、出力側のコイルに発生する電圧を安定させたい仕様の場合には、100%よりも若干低い磁気結合度が要求される。
【0006】
そのため、複数のコイルを介して変圧する電力変換装置において、その回路の一部を顧客のニーズ等に合わせて変更した場合には、それに伴い、コイルどうしの間の磁気結合度も調整し直す必要性が生じ得る。しかしながら、特許文献1等のインテリジェント・モジュールにおいては、このような磁気結合度の調整については、考慮されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、複数のコイルを介して変圧する電力変換装置において、その回路の一部を顧客のニーズ等に合わせて変更し易くすると共に、コイルどうしの磁気結合度を調整し易くすることを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電力変換装置は、筐体と、複数のポートと、複数の変換回路と、複数のコイルとを有する。前記複数のポートは、前記筐体に設置されている。複数の前記変換回路は、前記ポート毎に設けられており、自身に対応する前記ポートにそれぞれ電気的に接続されている。複数の前記コイルは、前記変換回路毎に設けられており、自身に対応する前記変換回路にそれぞれ電気的に接続されると共に所定のトランスコアにそれぞれ巻回されている。
【0009】
前記電力変換装置は、各前記変換回路により、前記ポート側で使用される直流又は交流と所定周波数の交流との間で変換を行い、前記コイルどうしの間で、磁気結合により前記所定周波数の交流電力を伝達し、その伝達に伴い変圧する。
【0010】
前記電力変換装置は、所定の基板孔が形成されている所定基板を有する。前記所定基板に、複数の前記変換回路のうちの一部である所定変換回路が搭載されると共に、前記所定基板における前記基板孔の周りに、前記所定変換回路に電気的に接続されている前記コイルである所定コイルが、前記所定基板と一緒に移動する状態で固定されている。そして、前記基板孔に前記トランスコアが挿通した状態で、前記所定基板が前記筐体に固定されることにより、前記所定コイルがそれ以外の前記コイルに対して位置決めされている。
【0011】
本発明によれば、所定基板に所定変換回路と所定コイルとが搭載されているため、所定基板を他のものに取り替えるだけで、簡単に所定変換回路と所定コイルとの両方をセットで取り替えることができる。そのため、所定変換回路及び所定コイルを顧客のニーズ等に合わせて変更し易くすることができる。
【0012】
さらに、所定コイルは、所定基板と一緒に移動するため、所定基板の位置を調整するだけで、所定コイルの位置を調整して、所定コイルとそれ以外のコイルとの磁気結合度を調整することができる。そのため、所定基板を所望の磁気結合度に対応する位置に設置するだけで、その所望の磁気結合度を得ることができる。
【0013】
以上により、複数のコイルを介して変圧する電力変換装置において、その回路の一部を顧客のニーズ等に合わせて変更し易くすると共に、コイルどうしの磁気結合度を調整し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】筐体とサブ基板との間にスペーサを介装した状態を示す正面断面図
【
図4】筐体とメイン基板との間にスペーサを介装した状態を示す正面断面図
【
図5】基板間距離と磁気結合度との関係を示すグラフ
【
図6】第2実施形態の電力変換装置を示す正面断面図
【
図7】サブ基板の配置を上方に変更した状態を示す正面断面図
【
図9】サブ基板の配置を水平方向に変更した状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態の電力変換装置100を示す平面図である。電力変換装置100は、車両に搭載されている。電力変換装置100は、筐体60と、第1~第3の各ポート10,20,30と、第1~第3の各変換回路13,23,33と、第1~第3の各コイル17,27,37と、トランスコア50と、メイン基板71と、サブ基板73とを有する。
【0017】
図2は、
図1に示すII-II線の断面を示す断面図である。以下では、図に合わせて、メイン基板71及びサブ基板73の厚さ方向一方を「上」とし、厚さ方向他方を「下」として説明するが、電力変換装置100は、以下でいう「上」を「下」にして設置することも、以下でいう「上」及び「下」を、水平方向両側にして設置することもできる。
【0018】
筐体60は、上方に開口した箱型の筐体本体60aと、その筐体本体60aの上部に取り付けられる蓋部(図示略)とを有する。トランスコア50は、その下部が筐体60の内底部に固定されている。
【0019】
メイン基板71にはコイル基板72が取り付けられている。メイン基板71には第1基板孔71aが形成され、コイル基板72には第2基板孔72aが形成され、サブ基板73には第3基板孔73aが形成されている。それら第1~第3の各基板孔71a,72a,73aは、トランスコア50を挿通させるための孔であり、各基板71,72,73を上下方向に貫通している。トランスコア50は、各基板71,72,73を取り付けることができるように、上部と下部とに分割形成されている。
【0020】
第1コイル17は、第1基板孔71aを周囲から巻回する形で、メイン基板71に埋め込まれている。そのため、第1コイル17は、メイン基板71と一緒に移動する状態でメイン基板71に固定されている。
【0021】
第2コイル27は、第2基板孔72aを周囲から巻回する形で、コイル基板72に埋め込まれている。そのコイル基板72は、メイン基板71に固定されている。そのため、第2コイル27は、コイル基板72を介して、メイン基板71と一緒に移動する状態でメイン基板71に固定されている。
【0022】
第3コイル37は、第3基板孔73aを周囲から巻回する形で、サブ基板73に埋め込まれている。そのため、第3コイル37は、サブ基板73と一緒に移動する状態でサブ基板73に固定されている。
【0023】
メイン基板71は、第1基板孔71a及び第2基板孔72aにトランスコア50が挿通した状態で、筐体60に固定されている。具体的には、筐体60の内壁部には、所定の第1支持部61が形成されており、その第1支持部61に、メイン基板71がネジ76で固定されている。それにより、第1コイル17と第2コイル27とが、それぞれトランスコア50を巻回した状態で固定されている。
【0024】
サブ基板73は、第3基板孔73aにトランスコア50が挿通した状態で、筐体60に固定されている。具体的には、筐体60の内壁部には、第1支持部61との間に段差をおいて第2支持部62が形成されており、その第2支持部62に、サブ基板73がネジ76で固定されている。それにより、メイン基板71に対してサブ基板73が平行に設置されている。そして、第3コイル37が、トランスコア50を巻回した状態で固定されると共に、第1コイル17及び第2コイル27に対して位置決めされている。
【0025】
そして、第1~第3のいずれかのコイル17,27,37に電流が流れると、その電流によりトランスコア50に磁束が発生する。その電流が交流である場合、トランスコア50に発生する磁束が変化し、その磁束変化により、各コイル17,27,37に誘導起電圧が発生する。このようにして、コイル17,27,37どうしの間で、磁気結合により交流電力を伝達する。その伝達に伴い、交流電力が、コイル17,27,37の巻き数比や、コイル17,27,37どうしの磁気結合度に応じて変圧される。
【0026】
第1ポート10は、筐体60の所定の外側面に設置されおり、その第1ポート10には、所定の低圧回路(図示略)が電気的に接続される。低圧回路は、鉛電池等の低圧の電源を有すると共に、種々の車載電気機器等の負荷を有する直流回路である。
【0027】
第1変換回路13は、メイン基板71に搭載されており、第1ポート10と第1コイル17とに電気的に接続されている。そして、低圧回路から第1ポート10に直流電力が入力される際には、第1変換回路13は、その直流電力を所定周波数の交流電力に変換して、第1コイル17に給電する。他方、第1ポート10から低圧回路に直流電力を出力する際には、第1変換回路13は、第1コイル17から給電される所定周波数の交流電力を直流電力に変換して、第1ポート10に給電する。具体的には、この第1変換回路13は、4つの半導体スイッチ14を有するインバータ回路であり、それら4つの半導体スイッチ14を制御することにより、直流と上記の所定周波数の交流との間で、適宜双方向に変換を行う。
【0028】
第2ポート20は、筐体60における第1ポート10側とは反対側の外側面に設置されている。その第2ポート20には、所定の高圧回路(図示略)が電気的に接続される。高圧回路は、リチウム電池等の高圧の電源を有すると共に、タイヤを回転させる回転電機を駆動するインバータ等の負荷を有する直流回路である。
【0029】
第2変換回路23は、メイン基板71に搭載されており、第2ポート20と第2コイル27とに電気的に接続されている。そして、高圧回路から第2ポート20に直流電力が入力される際には、第2変換回路23は、その直流電力を所定周波数の交流電力に変換して、第2コイル27に給電する。他方、第2ポート20から高圧回路に直流電力を出力する際には、第2変換回路23は、第2コイル27から給電される所定周波数の交流電力を直流電力に変換して、第2ポート20に給電する。具体的には、この第2変換回路23は、4つの半導体スイッチ24を有するインバータ回路であり、それら4つの半導体スイッチ24を制御することにより、直流と上記の所定周波数の交流との間で、適宜双方向に変換を行う。
【0030】
第3ポート30は、筐体60における第2ポート20が設置されている外側面に設置されている。この第3ポート30には、所定のカスタム回路が電気的に接続される。カスタム回路は、顧客がオプション等で車両に追加する回路である。カスタム回路は、任意であるが、その具体例としては、各種触媒やハンドル等を温めるためのヒータ等の負荷を有する回路や、各種オプションの計器等の負荷を有する回路や、ソーラパネル等の電源を有する回路や、ブースタバッテリ等の電源を有する回路等が挙げられる。
【0031】
第3変換回路33は、サブ基板73に搭載されており、第3ポート30と第3コイル37とに電気的に接続されている。この第3変換回路33は、カスタム回路の態様に応じて、適宜選択されるものである。よって、この第3変換回路33の態様としては、種々のものがある。
【0032】
第3変換回路33の一態様としては、次のものが挙げられる。カスタム回路は直流回路であり、そのカスタム回路から第3ポート30に直流電力が入力される際には、第3変換回路33は、その直流電力を所定周波数の交流電力に変換して、第3コイル37に給電する。他方、第3ポート30からカスタム回路に直流電力を出力する際には、第3変換回路33は、第3コイル37から給電される所定周波数の交流電力を直流電力に変換して、第3ポート30に給電する。具体的には、この第3変換回路33は、4つの半導体スイッチ34を有するインバータ回路であり、それら4つの半導体スイッチ34を制御することにより、直流と上記の所定周波数の交流との間で、適宜双方向に変換を行う。なお、
図1,
図2には、第3変換回路33がこの態様である場合を図示している。
【0033】
また、第3変換回路33の別の一態様としては、次のものが挙げられる。カスタム回路は交流回路であり、カスタム回路から第3ポート30に交流電力が入力される際には、第3変換回路33は、その交流電力(例えば50又は60ヘルツ)を所定周波数(例えば数百キロヘルツ)の交流電力に変換して、第3コイル37に給電する。他方、第3ポート30からカスタム回路に交流電力を出力する際には、第3変換回路33は、第3コイル37から給電される所定周波数の交流電力を、カスタム回路で使用される周波数の交流電力に変換して、第3ポート30に給電する。
【0034】
具体的には、この場合、第3変換回路33は、カスタム回路から入力される交流(例えば50又は60ヘルツ)と直流との間で変換を行う第1AC-DC変換回路と、その変換された直流と上記の所定周波数(例えば数百キロヘルツ)の交流との間で変換を行う第2AC-DC変換回路とを有する。ここでは、第1AC-DC変換回路及び第2AC-DC変換回路は、いずれも4つの半導体スイッチを有するインバータ回路であり、それらを有する第3変換回路33は、カスタム回路で使用される周波数の交流と上記の所定周波数の交流との間で、適宜双方向に変換を行う。
【0035】
また、第3変換回路33のさらに別の一態様としては、次のものが挙げられる。カスタム回路は負荷のみを有し電源を有しない直流回路であり、第3ポート30は、専ら電力を出力し、電力を入力しない。そのため、第3変換回路33は、4つのダイオードを有する整流回路であり、第3コイル37から給電される所定周波数の交流電力を、直流電力に一方向的に変換して、第3ポート30に給電する。
【0036】
以上のとおり、第3変換回路33の態様としては、種々のものがあり、それらの中で適切なものを、カスタム回路の態様に応じて選択して設置する必要がある。また、第3コイル37についても、巻き数等の態様が適切なものを、カスタム回路の態様に応じて選択して設置する必要がある。
【0037】
次に、以上に示した構造の周辺構造について説明する。
図1に示すように、平面視で、第1変換回路13の半導体スイッチ14と重なる位置には、第1放熱部材81が設置されている。また、平面視で、第2変換回路23の半導体スイッチ24と重なる位置には、第2放熱部材82が設置されている。また、平面視で、第3変換回路33の半導体スイッチ34と重なる位置には、第3放熱部材83が設置されている。
【0038】
そして、
図2に示すように、第1放熱部材81は、半導体スイッチ14の下方において、メイン基板71又はその搭載物に当接すると共に筐体60に当接している。また、第2放熱部材82は、半導体スイッチ24の下方において、メイン基板71又はその搭載物に当接すると共に筐体60に当接している。また、第3放熱部材83は、半導体スイッチ34の下方において、サブ基板73又はその搭載物に当接すると共に筐体60に当接している。そして、筐体60には、水路や空冷フィン等の冷却手段(図示略)が設置されている。そのため、筐体60は、各変換回路13,23,33の各半導体スイッチ14,24,34よりも低温になる。そのため、各半導体スイッチ14,24,34で発生した熱は、各放熱部材81,82,83を経由して筐体60に伝わることにより、放熱される。
【0039】
サブ基板73は、
図1に示すように、平面視でノイズ発生源44と重なる位置に配置されており、サブ基板73の裏面でノイズ発生源44の上方を覆っている。ノイズ発生源44は、例えば、半導体スイッチ14,24,34を制御するためのECUや、それらのECUを制御するための上位ECU等の、ノイズを発生させる電気機器である。
【0040】
図3は、第2支持部62とサブ基板73との間にスペーサ77を介装しつつ、第2支持部62にサブ基板73をネジ76で固定した状態を示す正面断面図である。以下では、メイン基板71とサブ基板73との間隔を、「基板間距離D」という。第2支持部62とサブ基板73との間にスペーサ77を介装することにより、介装しない場合に比べて、基板間距離Dを大きくすることができる。さらに、その介装するスペーサ77として、厚さがより大きいものを選択することにより、基板間距離Dをより大きくすることができる。
【0041】
そして、第3コイル37はサブ基板73と一緒に移動するので、このように基板間距離Dを大きくした場合、それに伴い、第1コイル17及び第2コイル27から第3コイル37までの距離も大きくなる。それにより、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度が小さくなる。なお、このとき、第3放熱部材83については、
図2に示すものに比べて、スペーサ77の厚さだけ上下方向に長いものを設置することにより対応できる。
【0042】
図4は、第1支持部61とメイン基板71との間にスペーサ77を介装しつつ、第1支持部61にメイン基板71をネジ76で固定した状態を示す正面断面図である。このように、第1支持部61とメイン基板71との間にスペーサ77を介装することにより、介装しない場合に比べて、基板間距離Dを小さくすることができる。さらに、その介装するスペーサ77として、厚さがより大きいものを選択することにより、基板間距離Dをより小さくすることができる。
【0043】
そして、第1コイル17及び第2コイル27は、メイン基板71と一緒に移動するので、このように基板間距離Dを小さくした場合、それに伴い、第1コイル17及び第2コイル27から第3コイル37までの距離も小さくなる。それにより、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度が大きくなる。なお、このとき、第1放熱部材81及び第2放熱部材82については、
図2に示すものに比べて、スペーサ77の厚さだけ上下方向に長いものを設置することにより対応できる。
【0044】
図5は、基板間距離Dと、第1コイル17に対する第3コイル37の磁気結合度との関係を示すグラフである。このように、基板間距離Dが小さくなるほど、磁気結合度は大きくなり、基板間距離Dが大きくなるほど、磁気結合度は小さくなる。そのため、基板間距離Dを調整することにより磁気結合度を調整することができる。
【0045】
本実施形態によれば、次の効果が得られる。上記のとおり、第3変換回路33と第3コイル37との態様については、カスタム回路の態様に応じて適宜変更する必要がある。その点、サブ基板73に第3変換回路33と第3コイル37とが搭載されているため、サブ基板73を他のものに取り換えるだけで、簡単に第3変換回路33と第3コイル37との両方をセットで取り替えることができる。そのため、第3変換回路33及び第3コイル37を、カスタム回路の態様、すなわち顧客のニーズに合わせて変更し易くすることができる。
【0046】
さらに、第3コイル37は、サブ基板73と一緒に移動するため、サブ基板73の位置を調整するだけで、第3コイル37の位置を調整して、第3コイル37とそれ以外のコイル17,27との磁気結合度を調整することができる。そのため、サブ基板73を所望の磁気結合度に対応する位置に設置するだけで、その所望の磁気結合度を得ることができる。
【0047】
また、第1コイル17及び第2コイル27は、メイン基板71と一緒に移動するため、メイン基板71の位置を調整するだけで、第1コイル17及び第2コイル27の位置を調整して、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度を調整することができる。そのため、サブ基板73の配置のみならず、メイン基板71の配置によっても、磁気結合度を調整することができる。
【0048】
また、メイン基板71と第1支持部61との間、又はサブ基板73と第2支持部62との間に、スペーサ77を介装することにより、基板間距離Dを簡単に調整することができる。そのため、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度を、簡単に調整することができる。
【0049】
また、サブ基板73と第2支持部62との間及びメイン基板71と第1支持部61との間のいずれにも、スペーサ77を介装可能に構成されている。そして、サブ基板73と第2支持部62との間にスペーサ77が介装されると、当該間にスペーサ77が介装されない場合に比べて基板間距離Dが大きくなる。他方、メイン基板71と第1支持部61との間にスペーサ77が介装されると、当該間にスペーサ77が介装されない場合に比べて基板間距離Dが小さくなる。そのため、スペーサ77を用いないノーマルの状態から、基板間距離Dを、大きくすることも、小さくすることもできる。
【0050】
また、第1支持部61と第2支持部62との間の段差の大きさの設定により、スペーサ77を用いないノーマルの状態での基板間距離Dを設定することができる。
【0051】
また、第1~第3の各変換回路13,23,33の各半導体スイッチ14,24,34で発生した熱は、各放熱部材81,82,83を経由して筐体60に伝わるため、各半導体スイッチ14,24,34の放熱性が高まる。そして、メイン基板71又はサブ基板73の配置を上下方向に変更した際には、放熱部材81,82,83を、その分だけ高さの異なるものに変更することにより対応できる。
【0052】
また、サブ基板73の裏面でノイズ発生源44の上方を覆っているため、ノイズ発生源44から発生したノイズが、周囲の回路等に伝播するのを極力抑えることができる。
【0053】
[第2実施形態]
次に第2実施形態について説明する。以下の実施形態については、それ以前の実施形態のものと同一の又は対応する部材等については、同一の符号を付する。本実施形態については、第1実施形態をベースに、これと異なる点を中心に説明する。
【0054】
図6,
図7は、本実施形態の電力変換装置100を示す正面断面図である。筐体60は、その内壁部に、第1支持部61及び第2支持部62に加えて、第3支持部63を有している。詳しくは、筐体60の内壁部には、第2支持部62との間に段差をおいて第3支持部63が形成されている。サブ基板73には、
図6に示す、第2支持部62に取り付けるための第2支持部62用のサブ基板73と、それよりも大きい、
図7に示す、第3支持部63に取り付けるための第3支持部63用のサブ基板73とがあり、取り付ける支持部62,63に応じて、サブ基板73を大きさの異なるものに変更する。
【0055】
本実施形態によれば、サブ基板73を取り付ける支持部62,63を変更することにより、基板間距離Dを変更することができる。また、次の効果も得られる。第2支持部62用のサブ基板73と第3支持部63用のサブ基板73とは、大きさが異なるため、第2支持部62用のサブ基板73を第3支持部63に取り付けることや、第3支持部63用のサブ基板73を第2支持部62に取り付けることは、できない。そのため、電力変換装置100の組み立て時において、誤った位置にサブ基板73を取り付けてしまい、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度が、意図したものと異なるものになってしまうといったミスを、防止することができる。
【0056】
[第3実施形態]
次に第3実施形態について説明する。本実施形態については、第1実施形態をベースに、これと異なる点を中心に説明する。
【0057】
図8,
図9は、本実施形態の電力変換装置100を示す平面図である。なお、これらの図においては、コイル17,37が見えるよう、サブ基板73は破線で示し、メイン基板71の図示は省略している。
【0058】
サブ基板73は、水平方向に位置調整可能に取り付けられている。このような構成は、例えば、サブ基板73に、各ネジ通し孔として、一水平方向に延びる長孔を設け、ネジ76をその各長孔に通して筐体60に螺着することにより実現できる。また例えば、筐体60に、サブ基板73を所定の第1位置に取り付けるためのネジ穴を設けると共に、サブ基板73を第1位置から水平方向にシフトした第2位置や第3位置に取り付けるためのネジ穴を設けることによっても、実現できる。
【0059】
そして、サブ基板73の位置を水平方向に調整することにより、磁気結合度を調整する。詳しくは、
図8に示すように、平面視で、第1コイル17に第3コイル37が重なっていると、第1コイル17に対する第3コイル37の磁気結合度が強くなる。他方、
図9に示すように、平面視で、第1コイル17に対して第3コイル37がずれていると、第1コイル17に対する第3コイル37の磁気結合度が弱くなる。
【0060】
本実施形態によれば、サブ基板73の配置を水平方向に、すなわち基板孔73aの貫通方向に直交する方向に調整することにより、第1コイル17及び第2コイル27に対する第3コイル37の磁気結合度を調整することができる。
【0061】
[他の実施形態]
以上の実施形態は、次のように変更して実施できる。例えば、電力変換装置100を、車両以外の乗り物や固定物に搭載してもよい。また例えば、第1ポート10や第2ポート20に、上記の低圧回路や高圧回路以外の直流回路を電気的に接続してもよい。また例えば、第1変換回路13や第2変換回路23を、ポート10,20側で使用される周波数と、コイル17,27側で使用される上記の所定周波数との間で変換を行うAC-AC変換回路にして、第1ポート10や第2ポート20に、交流回路を電気的に接続してもよい。また例えば、第1ポート10や第2ポート20を出力専用にして、第1変換回路13や第2変換回路23を、コイル17,27から給電される交流を直流に一方向的に変換する整流回路にしてもよい。
【0062】
また例えば、メイン基板71に、変換回路13,23及びコイル17,27のセットを、2セット搭載するのに代えて、1セットのみ搭載するようにしても、3セット以上搭載するようにしてもよい。また例えば、サブ基板73に、変換回路33及びコイル37のセットを、1セットのみ搭載するのに代えて、2セット以上搭載するようにしてもよい。
【0063】
また例えば、第1コイル17又は第2コイル27を、メイン基板71に固定する代わりに、トランスコア50に固定して、第3コイル37のみを位置調整可能にしてもよい。
【0064】
また例えば、第1実施形態において、メイン基板71とサブ基板73との位置関係を反対にして、第1実施形態の場合とは反対に、メイン基板71と筐体60との間にスペーサ77を介装すると、基板間距離Dが大きくなり、サブ基板73と筐体60との間にスペーサ77を介装すると、基板間距離Dが小さくなるようにしてもよい。
【0065】
また例えば、第1実施形態において、スペーサ77を用いる代わりに、段差、すなわち第1支持部61と第2支持部62との上下方向の間隔が異なる筐体60を複数用意し、筐体60を取り替えることで、基板間距離Dを調整するようにしてもよい。
【0066】
また例えば、第1実施形態において、各放熱部材81,82,83の代わりに、筐体60に、各基板71,73又はその搭載物に当接する放熱部を一体形成してもよい。そして、いずれかの基板71,73と支持部61,62との間にスペーサ77を介装する場合にのみ、その基板71,73と放熱部との間に、スペーサ77と同じ厚さの放熱部材を介装するようにしてもよい。
【0067】
また例えば、第3実施形態において、サブ基板73を水平方向に位置調整可能にする代わりに、第3コイル37を、その中心が第3基板孔73aの中心から偏心した状態でサブ基板73に固定し、サブ基板73をひっくり返して設置すると第3コイル37の位置が水平方向にシフトするようにしてもよい。
【0068】
また例えば、各実施形態において、図ではメイン基板71の下面にコイル基板72が固定されているが、メイン基板71の上面にコイル基板72を固定してもよい。さらに、メイン基板71の下面又は上面にコイル基板72を固定する場合において、メイン基板71とコイル基板72の間にスペーサを介装してもよい。そのスペーサの厚さは適宜選択できる。以上により、第1コイル17及び第3コイル37に対する第2コイル27の位置を調整可能になる。それにより、3つのコイル17,27,37において、相対位置の自由度が上がり、磁気結合度の自由度が上がる。
【符号の説明】
【0069】
10…第1ポート、13…第1変換回路、17…第1コイル、20…第2ポート、23…第2変換回路、27…第2コイル、30…第3ポート、33…第3変換回路、37…第3コイル、50…トランスコア、60…筐体、73…サブ基板、73a…基板孔、100…電力変換装置。