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特許7165120電解銅箔、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電解銅箔、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20221026BHJP
   C25D 1/00 20060101ALI20221026BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20221026BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20221026BHJP
   H01M 4/64 20060101ALI20221026BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20221026BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221026BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20221026BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
C25D7/06 A
H01M4/13
H01M4/64 A
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0566
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019230137
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2020183575
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2019-12-20
【審判番号】
【審判請求日】2021-08-05
(31)【優先権主張番号】108115077
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】陳佳伶
(72)【発明者】
【氏名】林士晴
(72)【発明者】
【氏名】鄒明仁
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】境 周一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141230(JP,A)
【文献】特開2013-133514(JP,A)
【文献】特開2018-14332(JP,A)
【文献】特開平9-306504(JP,A)
【文献】特開2002-322586(JP,A)
【文献】特開2008-13847(JP,A)
【文献】特開2004-263300(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047933(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/00-3/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生箔層を含む、電解銅箔であって、
前記生箔層は、第1表面及び前記第1表面に対する第2表面を有し、
熱処理ステップの前後の前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.52から1.29の間であり、
前記熱処理ステップの前後の前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.52から1.29の間であり、
前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の引張り強度は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の引張り強度の65%から95%の間であり、
前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の伸び率は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の伸び率の100%から140%の間であり、
前記熱処理ステップは、前記電解銅箔を130℃から250℃の間の温度環境に放置して0.5時間から1.5時間ベーキングする、電解銅箔。
【請求項2】
前記第1表面と前記第2表面の間の距離により厚さが定義され、前記厚さが2マイクロメートルから20マイクロメートルの間である、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
前記電解銅箔がいずれかの熱処理ステップも経過しない前、28kgf/mmから40kgf/mmの間の引張り強度、及び7%以上の伸び率を有する、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記電解銅箔が熱処理ステップを経過した後、25kgf/mmから35kgf/mmの間の引張り強度、及び9.5%以上の伸び率を有する、請求項3に記載の電解銅箔。
【請求項5】
前記電解銅箔は、
前記第1表面に設けられた第1酸化防止処理層と、
前記第2表面に設けられた第2酸化防止処理層と、をさらに含み、
前記電解銅箔の総重量を基準に、前記第1酸化防止処理層及び前記第2酸化防止処理層は、いずれも含有量が1重量百万分率(Parts per million、ppm)から1,000重量百万分率の非銅金属元素を含み、
前記非銅金属元素がクロム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、マンガン、リン及びそれらの組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項6】
前記第1表面は、電気めっき過程で回転電気めっきドラム(rotating electrode drum)と接触する表面とさらに限定されると共に、S面(S surface)と定義され、
前記第2表面は、前記S面と対合する表面であることをさらに限定すると共に、M面(M surface)と定義され、
前記S面のX線回折スペクトルにおいて、前記S面の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記S面の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が第1回折ピーク強度比値と定義され、
前記M面のX線回折スペクトルにおいて、前記M面の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記M面の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が第2回折ピーク強度比値と定義され、
前記第1回折ピーク強度比値が前記第2回折ピーク強度比値より小さい、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項7】
前記第1回折ピーク強度比値と前記第2回折ピーク強度比値との差値の絶対値が0.01以上0.30以下である、請求項6に記載の電解銅箔。
【請求項8】
前記電解銅箔は複数の結晶粒を有し、いずれかの熱処理ステップも経過しない前、前記結晶粒サイズが20ナノメートルから45ナノメートルの間であり、前記熱処理ステップを経過した後の複数の前記結晶粒の前記結晶粒サイズが、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の複数の前記結晶粒の前記結晶粒サイズの90%から130%の間である、請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項9】
第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤を含む添加剤を、銅電解液の総重量を基準に濃度の総和が12重量百万分率(ppm)以下で含む前記銅電解液を調製するステップと、
前記銅電解液を電解して生箔層を形成する電気めっきステップを実施することと、を含む、電解銅箔の製造方法であって、
前記生箔層は、第1表面及び前記第1表面に対合する第2表面を有し、
前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.52から1.29の間であり、前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.52から1.29の間であり、
前記第1添加剤がその重量平均分子量が1,000から5,000の間であるゼラチン(gelatin)で、前記第2添加剤が0.5重量百万分率(ppm)以下である硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類で、且つ前記第3添加物が非イオン水溶性高分子である、電解銅箔の製造方法。
【請求項10】
前記銅電解液において、前記ゼラチンの濃度と、前記硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類の濃度と、前記非イオン水溶性高分子の濃度との総和は、12ppm以下である、請求項9に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項11】
前記生箔層の前記第1表面に第1酸化防止処理層を形成し、且つ前記生箔層の前記第2表面に第2酸化防止処理層を形成し、それにより、前記生箔層、前記第1酸化防止処理層、及び前記第2酸化防止処理層がともに電解銅箔と形成される酸化防止処理ステップを実施することをさらに含み、
前記電解銅箔の総重量を基準に、前記第1酸化防止処理層及び前記第2酸化防止処理層は、いずれも含有量が1重量百万分率(Parts per million、ppm)から1,000重量百万分率の非銅金属元素を含み、
前記非銅金属元素は、クロム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、マンガン、リン及びそれらの組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である、請求項9に記載の電解銅箔の製造方法。
【請求項12】
電解液を収容するための収容空間を有する電解槽と、
前記電解槽の前記収容空間に設けられた正極と、
前記電解槽の前記収容空間に設けられ、前記正極と間隔をもって設けられ、且つ第1表面及び前記第1表面に対する第2表面を有する電解銅箔を含む負極と、
前記正極及び前記負極の間に設けられたセパレータと、を含み、
熱処理ステップの前後の前記電解銅箔の前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.52から1.29の間であり、
前記熱処理ステップの前後の前記電解銅箔の前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.52から1.29の間であり、
前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の引張り強度は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の引張り強度の65%から95%の間であり、
前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の伸び率は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の伸び率の100%から140%の間であり、
前記熱処理ステップは、前記電解銅箔を130℃から250℃の間の温度環境に放置して0.5時間から1.5時間ベーキングする、リチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記第1表面と前記第2表面の間の距離により厚さが定義され、前記厚さは、2マイクロメートルから20マイクロメートルの間である、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
前記電解銅箔がいずれかの熱処理ステップも経過しない前、前記電解銅箔が28kgf/mmから40kgf/mmの引張り強度、及び7%以上の伸び率を有する、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項15】
前記電解銅箔が熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔が25kgf/mmから35kgf/mmの引張り強度、及び9.5%以上の伸び率を有する、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項16】
前記電解銅箔は、
前記第1表面に設けられた第1酸化防止処理層と、
前記第2表面に設けられた第2酸化防止処理層と、
をさらに含み、
前記電解銅箔の総重量を基準に、前記第1酸化防止処理層及び前記第2酸化防止処理層はいずれも含有量が1重量百万分率(Parts per million、ppm)から1,000重量百万分率の非銅金属元素を含み、且つ前記非銅金属元素がクロム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、マンガン、リン及びそれらの組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項17】
前記電解銅箔は複数の結晶粒を有し、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の前記結晶粒サイズが20ナノメートルから45ナノメートルの間であり、前記熱処理ステップを経過した後、複数の前記結晶粒の前記結晶粒サイズが、いずれかの前記熱処理ステップも経過しない前の複数の前記結晶粒の前記結晶粒サイズの90%から130%の間である、請求項12に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電解銅箔、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池に関し、特に高伸び率を有する電解銅箔に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電解銅箔は様々な製品、例えばリチウムイオン二次電池の負極電極体を製造するために用いられる。一般には、電解銅箔の製造プロセスにおいて、電解液に高濃度の添加剤を使用すれば大きなサイズの結晶粒が塊状に結晶した構造を有する電解銅箔を製作することができる。このような電解銅箔は通常に高い伸び率を有する。このような電解銅箔のX線回折スペクトル(XRD spectrum)において、(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)が高く、(200)結晶面及び(220)結晶面の回折ピーク強度I(200)及びI(220)が低く、且つI(200)とI(111)の比値が通常に0.5より低い。
【0003】
電解液に高濃度の添加剤を使用すれば高い伸び率を有する電解銅箔を製作することができるが、それとともに、高生産コスト及びプロセス条件の制御が困難になる問題がある。
【0004】
そのため、本発明人は上述した問題を解決するために、鋭意に研究し且つ科学原理の応用をも考えて、上述した問題を効果に改善することができる本発明を提供する。
【発明の概要】
【0005】
本発明が解決しようとする技術的問題は、既存技術において高伸び率を有する銅箔を製作するために高濃度の添加剤を使用しないといけない問題に対し、電解銅箔、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池を提供する。
【0006】
上述した技術的問題を解決するために、本発明に係る1つの技術手段は、第1表面及び前記第1表面に対合する第2表面を有する生箔層を含み、前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.5から1.29の間であり、前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.5から1.29の間であり、熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の引張り強度は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の引張り強度の65%から95%の間であり、前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の伸び率は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の伸び率の100%から140%の間であり、前記熱処理ステップは、前記電解銅箔を130℃から250℃の間の温度環境に放置して0.5時間から1.5時間ベーキングすることを含む、電解銅箔を提供する。
【0007】
上述した技術的問題を解決するために、本発明に係るもう1つの技術手段は、1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤を含む添加剤を、銅電解液の総重量を基準に濃度の総和が12重量百万分率(ppm)以下含む前記銅電解液を調製するステップと、前記銅電解液を電解し、第1表面及び前記第1表面に対する第2表面を有し、前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.5から1.29の間であり、前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.5から1.29の間であり、前記第1添加剤がその重量平均分子量が1,000から5,000の間であるゼラチン(gelatin)で、前記第2添加剤が0.5重量百万分率(ppm)以下である硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類で、且つ前記第3添加物が非イオン水溶性高分子である生箔層を形成する電気めっきステップを実施することと、を含む、電解銅箔の製造方法を提供する。
【0008】
上述した技術的問題を解決するために、本発明に係る又1つの技術手段は、電解液を収容するための収容空間を有する電解槽と、前記電解槽の前記収容空間に設けられた正極と、前記電解槽の前記収容空間に設けられ、且つ前記正極と間隔をもって設けられ、第1表面及び前記第1表面に対する第2表面を有する電解銅箔を有する負極と、前記正極及び前記負極の間に設けられたセパレータと、を含み、前記電解銅箔の前記第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))が0.5から1.29の間であり、前記電解銅箔の前記第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値(回折ピーク強度I(200)/回折ピーク強度I(111))も0.5から1.29の間であり、熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の引張り強度は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の引張り強度の65%から95%の間であり、前記熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔の伸び率は、いずれかの熱処理ステップも経過しない前の伸び率の100%から140%の間であり、前記熱処理ステップは、前記電解銅箔を130℃から250℃の間の温度環境に放置して0.5時間から1.5時間ベーキングすることを含む、リチウムイオン二次電池を提供する。

【0009】
本発明の優れた効果は、本発明に係る電解銅箔、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池が、「前記電解銅箔の第1表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が0.5から2.0の間である」、「前記電解銅箔の第2表面のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面における(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面における(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値も0.5から2.0の間である」、及び「前記銅電解液が総重量を基準に、濃度が12重量百万分率(ppm)以下の少なくとも1つの添加剤を含む」の技術手段により、前記電解銅箔が高い伸び率を有し、且つ電解銅箔の生産コストの低減及び生産安定性の向上を達成することができるようにする。
【0010】
本発明の特徴及び技術的内容をより明瞭に理解するために、以下の関連する本発明の詳細な説明や図面を参酌しても良く、ただし、これらの図面はあくまでも参照と説明を提供するためのものにすぎず、本発明はこれらに制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態の電解銅箔の側面模式図である。
図2】本発明の実施形態の電解銅箔のX線回折スペクトルである。
図3】本発明の実施形態の電解銅箔の集束イオンビーム(FIB)の写真である。
図4】本発明の実施形態の負極電極体の側面模式図である。
図5】本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下は特定の具体的実施形態により本発明に係る実施形態を説明し、当業者であれば本明細書に開示された内容から、本発明の利点と効果を理解できる。本発明は、その他の異なる具体的実施形態に基づいて実施・適用することができ、本明細書の細部技術に対しては、異なる観点と適用により、本発明の要旨を逸脱しない限り係る修正・変更をすることができる。又、前もって説明する必要があるのは、本発明の図面はあくまでも本発明を概略的に説明するためのものに過ぎず、実際の寸法に基づいて描かれたものではない。以下の実施形態においては、本発明の関連する技術的内容をより詳細に説明するが、本発明の請求範囲を制限するためのものではない。
【0013】
また、理解すべきことは、本明細書において“第1の”、“第2の”、“第3の”との記述により係る部材を特定しているが、これらの記述が単に部材同士を区別するためのものに過ぎない。又、本明細書における“又は”については、実際の状況によりその前後に列挙された項目のいずれか一つのみか、複数の項目の組み合わせを意味する場合がある。
【0014】
[電解銅箔]
【0015】
図1に示すように、図1は本発明の実施形態の電解銅箔の側面模式図である。本実施形態の電解銅箔110はリチウムイオン二次電池(リチウムイオン蓄電池とも称する)に好適に用いられ、且つリチウムイオン二次電池の負極電極体として用いられることができる。本実施形態の電解銅箔110は生箔層111、第1酸化防止処理層112a、及び第2酸化防止処理層112bを含む。前記生箔層111が第1表面S1及び前記第1表面S1に対する第2表面S2を有し、且つ前記第1酸化防止処理層112aが第1表面S1に設けられ、前記第2酸化防止処理層112bが第2表面S2に設けられる。つまり、前記電解銅箔110の酸化防止特性を向上するように、前記第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bがそれぞれ生箔層111の2つの対合する表面に設けられるが、本発明はこれに制限されない。例えば、本発明で描かれない実施形態において、前記電解銅箔110は生箔層111のみを含み、上述した第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bを含まない。
【0016】
さらに、本実施形態において、上述した第1表面S1と第2表面S2の間の距離が電解銅箔110の厚さ(生箔層111の厚さ及び酸化防止処理層112a及び112bの厚さを含む)と定義されてもよい。前記電解銅箔110がリチウムイオン二次電池に適用できるように、前記電解銅箔110の厚さが2マイクロメートル(μm)から20マイクロメートル(μm)の間であることが好ましいが、本発明はこれに制限されない。
【0017】
図2に示すように、図2は本発明の実施形態の電解銅箔のX線回折スペクトル(XRD spectrum)である。例えば、図2に、電解銅箔110の2つの表面(S surface及びM surface)のX線回折スペクトルにおける、(111)結晶面の43.0°±1.0°回折角(2θ)における回折ピーク強度及び(200)結晶面の50.5°±1.0°回折角(2θ)における回折ピーク強度を示し、そして、強度比値I(200)/I(111)が約0.5から約2.0の範囲内であることが知られている。
【0018】
より具体的には、本実施形態において、前記電解銅箔110の第1表面S1のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面S1の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面S1の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が0.5から2.0の間である。なお、前記電解銅箔110の第2表面S2のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面S2の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面S2の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値も0.5から2.0の間である。
【0019】
つまり、前記第1表面S1又は第2表面S2のX線回折スペクトルにおいて、そのI(200)とI(111)の比値が0.5以上2.0以下である。
【0020】
図1にも示すように、前記第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bがそれぞれ50ナノメートル(nm)以下の厚さを有する。なお、前記第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bがそれぞれ非銅金属元素を含む。前記電解銅箔110の総重量を基準に、前記第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bはいずれも含有量が1重量百万分率(Parts per million、ppm)から1,000重量百万分率の前記非銅金属元素を含み、且つ、前記非銅金属元素がクロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、マンガン(Mn)、リン(P)及びそれらの組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0021】
上述した電解銅箔110の構造及び材料の設計により、前記電解銅箔110は良好な引張り強度及び延性を有してもよい。より具体的には、前記電解銅箔110は室温環境下(例えば20℃から30℃)で、且ついずれかの熱処理ステップも経過しない前に、前記電解銅箔110が28kgf/mmから40kgf/mmの引張り強度、及び7%以上の伸び率(延伸率とも称する)を有する。なお、前記電解銅箔110が熱処理ステップを経過した後、前記電解銅箔110が25kgf/mmから35kgf/mmの引張り強度、及び9.5%以上の伸び率を有する。上述した熱処理ステップにおいて、前記電解銅箔を130℃から250℃の温度環境に放置して0.5時間から1.5時間ベーキングする。上述した熱処理ステップにおいて、前記電解銅箔を180℃の温度環境に放置して1.0時間ベーキングすることが好ましい。
【0022】
つまり、本実施形態において、前記電解銅箔110は熱処理ステップを経過した後の引張り強度がおよそいずれかの熱処理ステップも経過しない前の引張り強度の65%から95%維持し、且つ前記電解銅箔110は熱処理ステップを経過した後の伸び率がいずれかの熱処理ステップも経過しない前の伸び率のおよそ100%から140%である。
【0023】
図3に示すように、図3は本発明の実施形態の電解銅箔の集束イオンビーム(Focused Ion Beam、FIBと略称する)の写真である。前記電解銅箔110は複数の結晶粒(図示せず)を有し、且つ、いずれかの熱処理ステップも経過しない前、結晶粒サイズが20ナノメートル(nm)から45ナノメートル(nm)の間であり、21.5ナノメートルから40.5ナノメートルの間であることが好ましいが、本発明はこれに制限されない。上述した結晶粒サイズはX線回折(XRD)スペクトルの半値幅(full width at half maximum、FWHM)で算出される。
【0024】
なお、本実施形態において、前記電解銅箔110が熱処理ステップを経過した後、複数の結晶粒の結晶粒サイズはいずれかの熱処理ステップも経過しない前の複数の結晶粒の結晶粒サイズの90%から130%の間であり、95%から120%の間であることが好ましい。つまり、上述した電解銅箔110の設計により、前記電解銅箔110は熱処理ステップを経過したか否かにもかかわらず、大きなサイズの結晶粒を有する塊状結晶構造を維持でき、高い伸び率を有する。
【0025】
続き、図2を参照し、本実施形態の電解銅箔のX線回折(XRD)スペクトルにおいて、前記電解銅箔の2つの表面であるI(200)とI(111)の比値がいずれも0.5から2.0の間である。つまり、前記電解銅箔の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)はその(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)に近い。なお、図2から分かるように、前記電解銅箔の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)とその(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)は、いずれもその(220)結晶面の回折ピーク強度I(220)より遥かに高くなる。
【0026】
さらに、本実施形態の電解銅箔110の結晶配向が(200)結晶面及び(111)結晶面を主とするため、前記電解銅箔110の複数の結晶粒の間にスリップ現象が生じやすく、これによって、前記電解銅箔110が高い伸び率を有する。他角度から言えば、本実施形態の電解銅箔110の結晶構造が塊状の結晶構造であるため、前記電解銅箔110は高い伸び率を有することができる。
【0027】
[電解銅箔の製造方法]
【0028】
以上、本実施形態の電解銅箔110の構造及び材料について説明したが、以下、本発明の実施形態に基づいて、電解銅箔110の製造方法をより詳細に説明する。
【0029】
本実施形態は電解銅箔110の製造方法を開示する。前記電解銅箔110の製造方法はステップS110、ステップS120、及びステップS130を含む。説明すべきことは、本実施形態に記載の各ステップの手順と実際上の操作方式が必要におうじて調整してもよく、本実施形態における記載に制限されない。
【0030】
ステップS110において、総重量を基準に、濃度が12重量百万分率(ppm)以下の少なくとも1つの添加剤を含む銅電解液を調製する。
【0031】
より具体的には、本実施形態において、前記銅電解液の成分に上述した添加剤の他、銅イオン、塩化物イオン、及び硫酸をさらに含む。前記銅電解液において、前記銅イオンの濃度が30g/Lから90g/Lであることが好ましく、50g/Lから70g/Lであることがより好ましく、前記硫酸の濃度が50g/Lから140g/Lであることが好ましく、70g/Lから120g/Lであることがより好ましく、前記塩化物イオンの濃度が10ppmから50ppmであることが好ましく、10ppmから30ppmであることがより好ましい。又、本実施形態において、前記銅イオンが硫酸銅に由来し、前記塩化物イオンが塩酸に由来するが、本発明はこれに制限されない。
【0032】
さらに、本実施形態において、少なくとも1つの前記添加剤には第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤を含む。
【0033】
前記第1添加剤はゼラチン(gelatin)で、工業レベルの電気めっきゼラチンであることが好ましい。前記銅電解液において、前記ゼラチンの濃度が5ppm以下であることが好ましい。なお、前記ゼラチンの重量平均分子量が1,000から5,000の間であることが好ましく、2,000から4,000の間であることがより好ましい。さらに、前記ゼラチンは例えば豚膠、牛膠、又は魚膠からなる群から選ばれた少なくとも1つであってもよい。本実施形態において、前記第1添加剤が豚膠であることが好ましいが、本発明はこれに制限されない。
【0034】
前記第2添加剤は硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類である。前記銅電解液において、前記硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類の濃度が2ppm以下であることが好ましい。さらに、前記硫黄原子化合物を含むスルホン酸又はその金属塩類は例えばビス-(3-スルホプロピル)-ジスルフィドジナトリウム塩(bis-(3-sulfopropyl)-disulfide disodium salt、 SPS)、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸(3-mercapto-1-propanesulfonic acid、 MPS)、3-(N、N-ジメチルチオカルバモイル)-チオプロパンスルホン酸ナトリウム塩(3-(N、N-dimethylthiocarbamoyl)-thiopropanesulfonate sodium salt、 DPS)、3-〔(アミノ-イミノメチル)チオ〕-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩(3-〔(amino-iminomethyl)thio〕-1-propanesulfonate sodium salt、 UPS)、o-エチルジチオカルボナト-S-(3-スルホプロピル)-エステルナトリウム塩(o-ethyldithiocarbonato-S-(3-sulfopropyl)-ester sodium salt、 OPX)、3-(ベンゾチアゾリル-2-メルカプト)-プロピル-スルホン酸ナトリウム塩(3-(benzothiazolyl-2-mercapto)-propyl-sulfonic acid sodium salt、 ZPS)、エチレンジチオジプロピルスルホン酸ナトリウム塩(ethylenedithiodipropylsulfonic acid sodium salt)、チオグリコール酸(thioglycolic acid)、チオリン酸-o-エチル-ビス-(ω-スルホプロピル)エステルジナトリウム塩(thiophosphoric acid-o-ethyl-bis-(ω-sulfopropyl)ester disodium salt)及びチオリン酸-トリス-(ω-スルホプロピル)エステルトリスナトリウム塩(thiophosphoric acid-tris-(ω-sulfopropyl)ester trisodium salt)からなる群から選ばれた少なくとも1つであってもよい。本実施形態において、前記第2添加剤が3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸(3-mercapto-1-propanesulfonic acid、 MPS)であることが好ましいが、本発明はこれに制限されない。
【0035】
前記第3添加剤は非イオン水溶性高分子である。前記銅電解液において、前記非イオン水溶性高分子の濃度が5ppm以下であることが好ましく。さらに、前記非イオン水溶性高分子は例えばヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethyl cellulose、 HEC)、ポリエチレングリコール(poly(ethylene oxide)、 PEG)、ポリグリセリン(polyglycerin)、カルボキシルメチルセルロース(carboxymethylcellulose)、ノニルフェノールポリグリコールエーテル(nonylphenol polyglycol ether)、オクタンジオール-ビス-(ポリアルキレングリコールエーテル)(octane diol-bis-(polyalkylene glycol ether))、オクタノールポリアルキレングリコールエーテル(octanol polyalkylene glycol ether)、オレイン酸ポリグリコールエーテル(oleic acid polyglycol ether)、ポリエチレンプロピレングリコール(polyethylene propylene glycol)、ポリエチレングリコールジメチルエーテル(polyethylene glycol dimethyl ether)、ポリオキシンプロピレングリコール(polyoxypropylene glycol)、ポリビニルアルコール、β-ナフトールポリグリコールエーテル(β-naphthol polyglycol ether)、ステアリン酸ポリグリコールエーテル(stearic acid polyglycol ether)及びステアリルアルコールポリグリコールエーテル(stearyl alcohol polyglycol ether)からなる群から選ばれた少なくとも1つであってもよい。本実施形態において、前記第3添加剤がヒドロキシエチルセルロース(hydroxyethyl cellulose、 HEC)であることが好ましいが、本発明はこれに制限されない。
【0036】
前記銅電解液の総重量を基準に、前記第1添加剤、第2添加剤、及び第3添加剤の濃度の総和が12ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。なお、上述した各種の添加剤の使用目的は主に電解銅箔110の表面光沢度の向上、及び電解銅箔110の表面粗さの低減に寄与する。
【0037】
ステップS120において、前記銅電解液を電解して生箔層111を形成することを含む電気めっきステップを実施する。
【0038】
より具体的には、前記電気めっきステップにおいて、前記銅電解液を50℃から60℃の間で、50℃から55℃の間でより好ましい予定温度に加熱することと、次に、前記予定温度での銅電解液において、電極プレートと回転電気めっきドラム(rotating electrode drum)の間に電流密度が30A/dmから80A/dmの電流密度を形成して電気めっきを行い、前記回転電気めっきドラムに前記生箔層111を形成するようにすることとを含む。
【0039】
上述した実施形態に示したように、前記生箔層111は第1表面S1及び前記第1表面S1に対する第2表面S2を有する。前記第1表面S1のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面S1の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面S1の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が0.5から2.0の間である。前記第2表面S2のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面S2の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面S2の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値も0.5から2.0の間である。
【0040】
上述したプロセス条件によれば、添加剤の種類選択、ゼラチンの分子量選択、添加剤の濃度調整(12ppm以下)、塩化物イオンの濃度調整、及び銅電解液の温度調整を含み、本実施形態の電解銅箔110の結晶配向が(200)結晶面及び(111)結晶面を主とするため、前記電解銅箔110の複数の結晶粒の間にスリップ現象が生じやすく、これによって前記電解銅箔110が高い伸び率を有することができる。つまり、本実施形態の電解銅箔110は上述したプロセス条件により、低い濃度の添加剤を使用しても、良好な延伸特性を有し、添加剤の使用コストを大幅に低減し、且つ生産時のプロセスの制御困難な問題を改善できる。
【0041】
さらに、本実施形態において、前記生箔層111の第1表面S1が電気めっき過程で回転電気めっきドラムと接触する一方の光沢表面SS(S面、S surfaceとも称する)とさらに限定され、且つ前記生箔層111の第2表面が光沢表面SSと対合する他方の光沢表面MS(M面、M surfaceとも称する)とさらに限定される。
【0042】
前記S面のX線回折スペクトルにおいて、前記S面の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記S面の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が第1回折ピーク強度比値と定義される。前記M面のX線回折スペクトルにおいて、前記M面の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記M面の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が第2回折ピーク強度比値と定義される。
【0043】
本実施形態において、前記第1回折ピーク強度比値が前記第2回折ピーク強度比値より小さいことが好ましく、且つ前記第1回折ピーク強度比値が前記第2回折ピーク強度比値との差値の絶対値が0.01以上0.30以下であることが好ましく、関連内容について、下記の表1及び表2の分析を参照する。
【0044】
ステップS130において、前記生箔層111、第1酸化防止処理層112a、及び第2酸化防止処理層112bがともに電解銅箔110に形成されるように、前記生箔層111の第1表面S1に第1酸化防止処理層112aを形成し、且つ前記生箔層111の第2表面S2に第2酸化防止処理層112bを形成する酸化防止処理ステップを実施する。前記電解銅箔110の総重量を基準に、前記第1酸化防止処理層112a及び第2酸化防止処理層112bは、いずれも含有量が1重量百万分率(Parts per million、ppm)から1,000重量百万分率の非銅金属元素を含み、且つ、前記非銅金属元素は、クロム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、マンガン、リン及びそれらの組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素である。
【0045】
より具体的には、前記酸化防止処理ステップにおいて:前記非銅金属元素(例えばクロム、亜鉛、ニッケル、モリブデン、マンガン、及びリンの中の少なくとも1つの元素)を含む処理溶液を使用して、前記生箔層111に電気めっき処理又は含浸処理を行い、前記生箔層111の第1表面S1に第1酸化防止処理層112aが形成され、且つ前記生箔層111の第2表面S2に第2酸化防止処理層112bが形成されるようにすることにより、前記電解銅箔110の酸化防止特性能が効果に向上することを含む。上述した処理溶液が例えば0.1g/Lから5.0g/Lの酸化クロム、硫酸亜鉛、硫酸ニッケル、モリブデン酸ナトリウム、硫酸マンガン、又はリン酸を含んでいても良い。なお、上述した電気めっき処理の電流密度が例えば0.3A/dmから3.0A/dmの間であってもよい。上述した含浸処理における浸漬時間が例えば2秒から20秒の間であってもよいが、本発明はこれに制限されない。
【0046】
[実験データテスト]
【0047】
以下、実施例1から5と比較例1から3を参照し本発明の内容を詳細に説明する。しかし、以下の実施形態は本発明を理解するための実施形態に過ぎず、本発明の範囲はこれらの実施形態に制限されない。
【0048】
電解液における電極プレートと回転電気めっきドラムの間に電流を生じて回転電気めっきドラムに生箔層を形成するようにする。銅電解液が50g/Lから70g/Lの銅イオン、70g/Lから120g/Lの硫酸を含む。電気めっきの電流密度が30A/dmから80A/dm2である。電気めっきのための銅電解液温度、塩化物イオン濃度、ゼラチンの重量平均分子量、ゼラチン濃度(第1添加剤濃度)、MPS濃度(第2添加剤濃度)、及びHEC濃度(第3添加剤濃度)等のプロセス条件を表1に示す。浸漬して電気めっきを行うことにより生箔層を形成し、且つ酸化防止処理により酸化防止処理層を形成し、その後乾燥して電解銅箔を完成する。
【0049】
注意すべきことは、実施例1から実施例5において、銅電解液の総重量を基準に、上述したゼラチン濃度(第1添加剤濃度)、MPS濃度(第2添加剤濃度)、及びHEC濃度(第3添加剤濃度)の総和はいずれも12ppm以下であり、10ppm以下であることがより好ましい。
【0050】
【表1】
【0051】
実施例1から5と比較例1から3で得られた電解銅箔について、これらの電解銅箔の第1表面(つまり回転電気めっきドラムと接触する光沢表面で、S面と略称する)と第2表面(つまりS面と対合する他方の光沢面で、M面と略称する)がいずれかの熱処理ステップも経過しない前、及び熱処理ステップを経過した後の関連の特性数値、例えばXRD分析数値、引張り強度、及び伸び率を測定し、テスト結果を表2に示す。上述した熱処理ステップとは電解銅箔を180℃の温度環境に放置して1.0時間ベーキングすることを言う。
【0052】
XRDの測定:実施例1から実施例5及び比較例1から比較例3で得られた電解銅箔のS面及びM面のX線回折(XRD)スペクトル(例えば図2)を測定することにより、I(200)/I(111)の比値及び(I220)/(I111)の比値を算出することができる。より具体的には、電解銅箔のXRD測定がBrukerのD2Phaser機器で分析を行い、20°から95°の回折角でX線回折(X-ray diffraction)[ターゲット:銅Kα1、2θの間隔:0.01°、2θの走査レート:0.13度/分秒]を行ってn個の結晶面に対応するピークを有するXRD図(例えば結晶面(111)、(200)、(220)と(311)のピークに対応するXRD図がある)を取得する。XRD図からそれぞれの該結晶面(hkl)のXRD回折(光)強度[I(hkl)]を取得する。これにより、I(200)/I(111)の比値及び(I220)/(I111)の比値を算出することができる。
【0053】
引張り強度及び伸び率の測定:実施例1から実施例5及び比較例1から比較例3で得られた電解銅箔を処理する。これらの電解銅箔について、IPC-TM-650 2.4.18B規格に従って、クロスヘッド速度(crosshead velocity)が50.8ミリメートル/分でこれらの引張り試料の引張り試験を行ってもよい。測定された引張り強度の最大荷重(load)を室温引張り強度(RTS)と呼び、且つ破裂時の伸び率を室温伸び率(REL)と呼ぶ。本文の室温とは20℃から30℃を意味する。次に、室温引張り強度及び伸び率の測定のための同じ電解銅箔を180℃で1時間熱処理し、次に室温で同じ方法によりその引張り強度及び伸び率を測定し、測定された引張り強度と伸び率を熱後引張り強度(ATS)と熱後伸び率(AEL)と呼ぶ。
【0054】
【表2】
【0055】
表2から分かるように、実施例1から実施例5の電解銅箔は、XRD分析によるI(200)/I(111)の比値が、およそ0.5から2.0の範囲に収まり、より正確に言えば0.52から1.29の範囲に収まる。比較例1から比較例3の電解銅箔は、XRD分析によるI(200)/I(111)の比値がいずれも0.5より小さく、より正確に言えば0.2から0.33の範囲に収まる。つまり、実施例1から実施例5の電解銅箔におけるI(200)/I(111)の比値が比較例1から比較例3の電解銅箔におけるI(200)/I(111)の比値より大幅に高くなる。
【0056】
他角度から見ると、実施例1から実施例5の電解銅箔は熱処理前に、そのS面のI(200)/I(111)の比値がそのM面のI(200)/I(111)の比値よりいずれも低い。なお、実施例1から実施例5の電解銅箔が熱処理後に、そのS面のI(200)/I(111)の比値がそのM面のI(200)/I(111)の比値よりいずれも低いが、両者の間の差値に小さくなる傾向がある。
【0057】
なお、実施例1から実施例5において、S面又はM面にも関わらず、熱処理前のI(200)/I(111)の比値が熱処理後のI(200)/I(111)の比値より低いことが多い。つまり、熱処理により電解銅箔のI(200)/I(111)の比値が僅かに上昇する。
【0058】
より具体的には、実施例1から実施例5の電解銅箔は熱処理前に、そのS面のI(200)/I(111)の比値が0.52から0.86の範囲に収まり、熱処理後に、そのS面のI(200)/I(111)の比値が0.60から1.17の範囲に収まる。実施例1から実施例5の電解銅箔は熱処理前に、そのM面のI(200)/I(111)の比値が0.58から1.08の範囲に収まり、熱処理後に、そのS面のI(200)/I(111)の比値が0.67から1.29の範囲に収まる。
【0059】
上述したS面(光沢表面)のI(200)/I(111)の比値が第1回折ピーク強度比値と定義されてもよく、且つ上述したM面(他方の光沢表面)のI(200)/I(111)の比値が第2回折ピーク強度比値と定義されてもよい。つまり、実施例1から実施例5の電解銅箔は、熱処理前又は熱処理後にも関わらず、その第1回折ピーク強度比値がいずれもその第2回折ピーク強度比値より小さく、且つその第1回折ピーク強度比値とその第2回折ピーク強度比値との差値の絶対値がいずれも0.01以上で、且ついずれも0.30以下である。
【0060】
なお、表2から分かるように、実施例1から実施例5の電解銅箔は熱処理前に、その室温引張り強度(RTS)がおよそ28kgf/mmから40kgf/mmの範囲に収まり、且つその室温伸び率(REL)がいずれも7%以上である。
【0061】
実施例1から実施例5の電解銅箔は熱処理後に、その熱後引張り強度(ATS)がおよそ25kgf/mmから35kgf/mmの範囲に収まり、且つその熱後伸び率(AEL)がいずれも9.5%以上である。注意すべきことは、熱処理前及び熱処理後にも関わらず、実施例1から実施例5の電解銅箔の伸び率が、いずれも比較例1から比較例3の伸び率より著しく高い。実施例1から実施例5の電解銅箔がよい伸び率を有することが明らかである。
【0062】
さらに、実施例1から実施例5の添加剤濃度(ゼラチン濃度、MPS濃度、HEC濃度を含む)がいずれも比較例1及び比較例2の添加剤濃度より遥かに低い。低添加剤濃度を使用する条件でも高いREL及びAELを有する電解銅箔を製造することができる理由は、上述した各プロセス条件(添加剤の種類選択、ゼラチンの分子量選択、塩化物イオンの濃度調整、及び銅電解液の温度調整を含む)同士の間に適当な組み合わせがあるからである。
【0063】
これにより、実施例1から実施例5の電解銅箔の結晶配向が(200)結晶面及び(111)結晶面を主とし、高い伸び率を有することができる。つまり、実施例1から実施例5の電解銅箔は上述したプロセス条件により、低い濃度の添加剤を使用しでも、よい延伸特性を有し、添加剤の使用コストを大幅に低減し、且つ生産時のプロセスの制御困難な問題を改善できる。
【0064】
又、表2の比較例3から、ゼラチン分子量の選択の重要性を見出す。より具体的には、比較例3のプロセス条件(銅電解液温度、塩化物イオン濃度、及び各種添加剤の濃度を含む)が実施例1のプロセス条件に近い。これにも関わらず、比較例3で選択されたゼラチン分子量が大きすぎる(10,000より大きい)ため、比較例3のプロセス条件で得られた電解銅箔は、その(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)がその(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)に近くされることができなく、且つそのI(200)/I(111)の比値が0.5より小さいから、比較例3の電解銅箔のREL及びAELがいずれも実施例1のREL及びAELより劣る。
【0065】
[リチウムイオン二次電池]
【0066】
図4及び図5に示すように、図4は本発明の実施形態の負極の側面模式図で、図5は本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池の模式図である。本実施形態において、上述した電解銅箔110はリチウムイオン二次電池E(リチウムイオン蓄電池とも称する)に適用でき、リチウムイオン二次電池Eの負極100の材料として使用されてもよい。
【0067】
上述したリチウムイオン二次電池Eはエネルギ蓄積型、パワー型、又はエネルギ型の蓄電池であってもよく、且つ車両用電池として使用されてもよい。上述した車両用電池は電気自動車、電気バス、及びハイブリッド車等に適用できるが、本発明はこれに制限されない。
【0068】
続き、図5に示すように、上述したリチウムイオン二次電池Eは負極100(陽極とも称する)、正極200(陰極とも称する)、セパレータ300、及び電解槽400を含む。前記電解槽400が電解液(図示せず)を収容するための収容空間Rを有する。前記負極100が電解槽400の収容空間Rに設けられる。前記正極200も電解槽400の収容空間Rに設けられ、且つ前記負極100と間隔をもって設けられる。前記セパレータ300が負極100及び正極200の間に設けられる。前記電解槽400に電解液が収容される場合に、前記電解液はリチウムイオンが正極200と負極100の間に移動することができるような環境を提供し、前記セパレータ300が正極200と負極100を電気的に絶縁させ、これにより、リチウムイオン二次電池Eの内部に短絡が生じることを防ぐ。
【0069】
上述したリチウムイオン二次電池Eの正極200にアルミニウム箔及び前記アルミニウム箔に塗布された正極活性材料(図示せず)が含まれるが、本発明はこれに制限されない。
【0070】
続き、図4に示すように、上述したリチウムイオン二次電池Eの負極100に前記電解銅箔110、第1活性材料層120a、及び第2活性材料層120bが含まれる。前記第1活性材料層120a及び第2活性材料層120bがそれぞれ電解銅箔110の2つの反対側にある表面に設けられる。より具体的には、前記第1活性材料層120aが第1酸化防止処理層112aの生箔層111から離れる表面に設けられ、前記第2活性材料層120bが第2酸化防止処理層112bの生箔層111から離れる表面に設けられる。
【0071】
説明すべきことは、本実施形態において、図4及び図5は第1活性材料層120a及び第2活性材料層120bがそれぞれ電解銅箔110の2つの表面に設けられたことを例に説明したが、本発明はこれに制限されない。本発明で示されない実施形態において、前記リチウムイオン二次電池Eの負極100は第1活性材料層120a及び第2活性材料層120bの一方のみを活性材料層として含んでいてもよい。
【0072】
上述した第1活性材料層120a及び第2活性材料層120bは負極活性材料として少なくとも1つの活性材料を含んでもよく、前記活性材料が炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫、リチウム、亜鉛、マグネシウム、カドミウム、セリウム、ニッケル、又は鉄を含む金属、該金属の合金、該金属の酸化物、該金属と炭素の組成物からなる群から選ばれた少なくとも1つである。
【0073】
[実施形態の優れた効果]
【0074】
本発明の1つの優れた効果は、本発明に係る電解銅箔110、その製造方法、及びリチウムイオン二次電池Eが、「前記電解銅箔110の第1表面S1のX線回折スペクトルにおいて、前記第1表面S1の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第1表面S1の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値が0.5から2.0の間である」、「前記電解銅箔110の第2表面S2のX線回折スペクトルにおいて、前記第2表面S2の(200)結晶面の回折ピーク強度I(200)と前記第2表面S2の(111)結晶面の回折ピーク強度I(111)の比値も0.5から2.0の間である」、及び「前記銅電解液が総重量を基準に、濃度が12重量百万分率(ppm)以下の少なくとも1つの添加剤を含む」の技術手段により、前記電解銅箔110が高い伸び率を有し、且つ電解銅箔110の生産コストの低減、及び電解銅箔110の生産安定性の向上を達成することができるようにする。
【0075】
さらに、本実施形態の電解銅箔110の結晶配向が(200)結晶面及び(111)結晶面を主とするため、前記電解銅箔110の複数の結晶粒の間にスリップ現象が生じやすく、前記電解銅箔110が高い伸び率を有することができる。他角度から見ると、本実施形態の電解銅箔110の結晶構造が塊状の結晶構造であるため、前記電解銅箔110が高い伸び率を有することができる。
【0076】
以上に開示された内容は本発明の好ましい実行可能な実施形態にすぎず、本発明の特許請求の範囲を制限するものではないため、本発明の明細書及び図面の内容に等価的な技術的変形を加えて得られたものは、いずれも本発明の特許請求の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0077】
E リチウムイオン二次電池
100 負極
110 電解銅箔
111 生箔層
S1 第1表面
S2 第2表面
SS 光沢表面(S面)
MS 他方の光沢表面(M面)
112a 第1酸化防止処理層
112b 第2酸化防止処理層
120a 第1活性材料層
120b 第2活性材料層
200 正極
300 セパレータ
400 電解槽
R 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5