(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】エレベーター制御装置及びエレベーター制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 1/30 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
B66B1/30 A
(21)【出願番号】P 2019235687
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮前 真貴
(72)【発明者】
【氏名】保立 尚史
(72)【発明者】
【氏名】中川 公人
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-131967(JP,A)
【文献】特開2016-013909(JP,A)
【文献】特開2019-018969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/00-1/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、前記乗りかご内の荷重を検出する荷重検出装置と、前記乗りかごと釣合い錘を連結する主ロープを巻き上げるモータと、前記モータを制動するブレーキ装置と、前記乗りかごの移動に伴って回転する回転体の回転駆動を検出する回転検出センサとを備えるエレベーターを制御する、エレベーター制御装置であって、
前記荷重検出装置から取得した第1の荷重検出値に応じて、前記モータの第1の起動補償トルク指令を出力する起動補償トルク演算部と、
前記第1の起動補償トルク指令に基づいて前記モータを駆動するモータ駆動回路と、
前記第1の起動補償トルク指令に基づく第1の起動補償トルクが前記モータに与えられている状態で前記ブレーキ装置を解放したときに、前記回転検出センサから出力される信号に基づいて、前記乗りかごの重量を推定するかご重量推定部と、
前記かご重量推定部が出力するかご重量推定値と前記乗りかごの重量の設計値との比を求め、前記かご重量推定値と前記乗りかごの重量の設計値との比に基づいて、前記エレベーターの制御に用いられる制御定数を計算する制御定数演算部と、
前記制御定数演算部で計算された前記制御定数を用いて前記エレベーターを制御する制御部と、を備える
エレベーター制御装置。
【請求項2】
前記かご重量推定部は、前記ブレーキ装置が所定時間解放される間に、前記回転検出センサから出力される信号に基づいて前記乗りかごの移動量を算出し、前記乗りかごの移動量に基づいて前記乗りかごの重量を推定する
請求項1に記載のエレベーター制御装置。
【請求項3】
前記制御定数を計算する際の前記
第1の荷重検出値は、前記乗りかごの定格積載量に対して0%の積載量に相当する
請求項2に記載のエレベーター制御装置。
【請求項4】
前記起動補償トルク演算部は、前記かご重量推定値が前記設計値から一定の範囲内に収まる状態になった後、前記荷重検出装置から取得した第2の荷重検出値に応じて、前記モータの第2の起動補償トルク指令を出力し、
前記モータ駆動回路は、前記第2の起動補償トルク指令に基づいて前記モータを駆動し、
前記かご重量推定部は、前記第2の起動補償トルク指令に基づく第2の起動補償トルクが前記モータに与えられた状態で前記ブレーキ装置を解放したときに、前記回転検出センサから出力される信号に基づいて前記乗りかごの移動量を算出し、
前記制御部は、前記乗りかごの移動量が閾値を超える場合には、前記
第2の荷重検出値が異常であると判定する
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のエレベーター制御装置。
【請求項5】
前記
第2の荷重検出値が異常であると判定された場合に、前記
第2の荷重検出値が異常であることを発報する出力処理部、を備える
請求項4に記載のエレベーター制御装置。
【請求項6】
乗りかごと、前記乗りかご内の荷重を検出する荷重検出装置と、前記乗りかごと釣合い錘を連結する主ロープを巻き上げるモータと、前記モータを制動するブレーキ装置と、前記乗りかごの移動に伴って回転する回転体の回転駆動を検出する回転検出センサとを備えるエレベーターを制御するエレベーター制御方法であって、
前記荷重検出装置から取得した荷重検出値に応じて、前記モータの起動補償トルク指令を出力する処理と、
前記起動補償トルク指令に基づいて前記モータを駆動する処理と、
前記起動補償トルク指令に基づく起動補償トルクが前記モータに与えられている状態で前記ブレーキ装置を解放したときに、前記回転検出センサから出力される信号に基づいて、前記乗りかごの重量を推定する処理と、
かご重量推定値と前記乗りかごの重量の設計値との比を求め、前記かご重量推定値と前記乗りかごの重量の設計値との比に基づいて、前記エレベーターの制御に用いられる制御定数を計算する処理と、
計算された前記制御定数を用いて前記エレベーターを制御する処理と、を有する
エレベーター制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター制御装置及びエレベーター制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーター据付け工事中は、乗りかごに必要なすべての機器や設備が搭載されておらず、また、乗りかごが単にゴンドラ(内かご、かご枠が正しく組み立てられていない状態)として使用される場合もある。そのため、エレベーター据付け工事中の乗りかごの重量(以下「かご重量」)が最終仕様状態の重量(設計値)よりも非常に軽いことが多い。また、工事の進捗によってかご重量が変化することもある。
【0003】
従来、走行開始前に乗りかご内の荷重を把握し、把握した荷重に基づく乗りかごの重量と釣合い錘の重量とのアンバランス分を、巻上機のトルク指令値に補償値(起動補償トルク)として加えた上で、走行開始することが行われている。基本的に、起動補償トルクは、最終仕様状態(設計時)のかご重量に基づいて算出されている。また、巻上機(モータ)を駆動するための制御定数は、最終仕様状態(設計時)のかご重量に基づいて設定されている。よって、最終仕様状態(設計時)のかご重量に対してかご重量が非常に軽いエレベーター据付け工事中は、実際のかご重量に対して不適切な起動補償トルクや制御定数となる。
【0004】
不適切な起動補償トルクや制御定数が設定されると、エレベーター起動時や走行時の振動が増える方向に制御するなど、制御発散してしまうおそれもある。これを防止するためには、実際のかご重量に応じた起動補償トルクや制御定数を設定することが重要である。
【0005】
例えば、特許文献1に、エレベーターの乗り心地に関係する制御定数を自動的に変更する技術が開示されている。特許文献1には「オートチューニング装置の調整処理制御部により、各設定負荷毎にエレベーター制御装置から必要な測定信号を取り込み、予め設定される各測定対象理想値と比較しながら、最適な調整値データを算出し、エレベーター制御装置の制御定数を変更する」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、エレベーター据付け工事後を想定した技術であり、エレベーター据付け工事中においてかご重量が最終仕様状態の重量よりも非常に軽いときの制御定数の設定については考慮されていない。
【0008】
上記の状況から、乗りかごの重量が最終仕様状態の重量(設計値)よりも軽い場合に、適切な制御定数を設定する手法が要望されていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様のエレベーター制御装置は、乗りかごと、当該乗りかご内の荷重を検出する荷重検出装置と、乗りかごと釣合い錘を連結する主ロープを巻き上げるモータと、当該モータを制動するブレーキ装置と、乗りかごの移動に伴って回転する回転体の回転駆動を検出する回転検出センサとを備えるエレベーターを制御する、エレベーター制御装置である。
上記エレベーター制御装置は、荷重検出装置から取得した第1の荷重検出値に応じて、モータの第1の起動補償トルク指令を出力する起動補償トルク演算部と、第1の起動補償トルク指令に基づいてモータを駆動するモータ駆動回路と、第1の起動補償トルク指令に基づく第1の起動補償トルクがモータに与えられた状態でブレーキ装置を解放したときに、回転検出センサから出力される信号に基づいて、乗りかごの重量を推定するかご重量推定部と、当該かご重量推定部が出力するかご重量推定値と乗りかごの重量の設計値との比を求め、かご重量推定値と乗りかごの重量の設計値との比に基づいて、エレベーターの制御に用いられる制御定数を計算する制御定数演算部と、当該制御定数演算部で計算された制御定数を用いてエレベーターを制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一態様によれば、乗りかごの重量が最終仕様状態の重量(設計値)よりも軽い場合に、適切な制御定数を設定することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るエレベーターの全体構成例を示す概略図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るエレベーター制御装置の内部構成例を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る制御定数算出処理の手順例を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るエレベーター制御装置の内部構成例を示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る荷重検出値の異常検出処理の手順例を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係るアラーム表示の例を示す図である。
【
図7】エレベーター制御装置が備える計算装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照して説明する。本明細書及び添付図面において実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0013】
<第1の実施形態>
まず、本発明の第1の実施形態に係るエレベーター制御装置を含むエレベーターについて説明する。
【0014】
[エレベーターの全体構成]
図1は、第1の実施形態に係るエレベーターの全体構成例を示す概略図である。
図1に示したエレベーター100の構成は一般的なものであるが、本発明が適用されるエレベーターはこの例に限定されない。
【0015】
図1において、エレベーター100は、建築構造物内に形成された昇降路101に設けられている。エレベーター100は、制御盤17と、モータ10、人や荷物を載せる乗りかご1と、主ロープ7と、釣合い錘8と、綱車9と、を備えている。主ロープ7の一端部は、乗りかご1に連結され、主ロープ7の他端部は、乗りかご1の昇降時の負荷を軽減する釣合い錘8に連結されている。そして、主ロープ7は、綱車9に巻きかけられている。
【0016】
エレベーター100は、三相交流電源から供給される電力を制御盤17内のエレベーター制御装置20で制御してモータ10に供給し、モータ10を駆動させる。そして、モータ10の駆動軸部に連結された綱車9から主ロープ7を介して供給される駆動力によって、昇降路101内を乗りかご1と釣合い錘8が昇降する。
【0017】
昇降路101の頂部には、機械室102が設けられている。機械室102内には、綱車9と、綱車9を回転駆動させるモータ10と、制御盤17が設けられている。綱車9とモータ10は、巻上機を構成する。制御盤17には、モータ10の駆動を制御するエレベーター制御装置20が組み込まれている。
【0018】
綱車9の回転軸部には、該回転軸部の回転に応じてパルス信号を出力するモータロータリーエンコーダー11(回転検出センサの一例)が取り付けられている。モータロータリーエンコーダー11が出力するパルス信号から、乗りかご1の走行方向、乗りかご1の走行速度、走行距離、乗りかご1の昇降路101における位置などを検出することができる。後述する
図2では、モータロータリーエンコーダー11の出力信号を「モータRE信号」と記している。
【0019】
乗りかご1は、人や荷物を積載する内かご2と、その外側のかご枠3とから構成される。内かご2は、かご枠3に載せられている。内かご2の床下には、かご枠3の底面に取り付けられ内かご2の積載量に応じて撓んで(弾性変形して)内かご2の振動を抑制する防振ゴム4が設けられている。また、内かご2の床下には、防振ゴム4の変位量(たわみ量)を検出する荷重センサ5が設けられている。荷重センサ5(荷重検出装置の一例)は、防振ゴム4の変位量に応じた出力信号(荷重情報)を、乗りかご1の天面に設けられた器具ボックス6に出力する。
【0020】
器具ボックス6は、エレベーター制御装置20と乗りかご1内の機器とを電気的に接続するインターフェース(中継機器)である。器具ボックス6には、演算を行う回路基板も設けられている。本実施形態では、器具ボックス6に回路基板からなる荷重検出値演算部61(
図2参照)が設けられている。荷重検出値演算部61は、荷重センサ5の出力信号に基づいて、乗りかご1の内かご2に積載された荷重(荷重検出値)を検出し、荷重検出値をエレベーター制御装置20へ出力する。なお、荷重検出値演算部61をエレベーター制御装置20に格納してもよいし、荷重検出値演算部61の機能を荷重センサ5に内蔵してもよい。
【0021】
乗りかご1にはガバナロープ13が連結されており、ガバナロープ13は上側ガバナプーリ14及び下側ガバナプーリ15に掛けられている。乗りかご1の昇降と同期して、乗りかご1に連結されたガバナロープ13が動き、両ガバナプーリを回転させる。下側ガバナプーリ15の回転軸部には、該回転軸部の回転に応じてパルス信号を出力するガバナロータリーエンコーダー16(回転検出センサの一例)が取り付けられている。ガバナロータリーエンコーダー16が出力するパルス信号から、乗りかご1の位置や走行速度などを検出できる。後述する
図2~
図4では、ガバナロータリーエンコーダー16の出力信号を「ガバナRE信号」と記している。
【0022】
エレベーター制御装置20は、荷重センサ5、モータ10、モータロータリーエンコーダー11、及びガバナロータリーエンコーダー16など、エレベーター100の各種信号を取り込みエレベーター100の運転を制御する。例えば、エレベーター制御装置20は、モータ10の駆動を制御したり、巻上機(綱車9、モータ10)に取り付けられたブレーキ装置12の作動及び解放を制御したりする。
【0023】
[エレベーター制御装置の内部構成]
図2は、エレベーター制御装置20の内部構成例を示すブロック図である。
エレベーター制御装置20は、起動補償トルク演算部21、モータ駆動回路22、かご重量推定部23、制御定数演算部24、及びメイン制御部25を備える。
【0024】
起動補償トルク演算部21は、荷重検出値演算部61から入力された荷重検出値に応じて起動補償トルクを演算し、モータ10に当該起動補償トルクを与えるための指令(起動補償トルク指令)をモータ駆動回路22へ出力する。
【0025】
モータ駆動回路22は、メイン制御部25から入力される制御指令に基づいて、モータ10に通常運転時の駆動電流を供給する。制御指令には、乗りかご1の進行方向、走行速度、乗りかご1を加速及び減速させるために必要な加速トルクの指令値などが含まれる。また、モータ駆動回路22は、起動補償トルク演算部21から入力された起動補償トルク指令に基づいて、モータ10に駆動電流を供給する。これにより、モータ10が起動する際にモータ10に目標の起動補償トルクが与えられ、乗りかご1の重量と釣合い錘8とのバランスがとれている場合には、ブレーキ装置12が解放された状態で乗りかご1が停止する。例えば、モータ駆動回路22は、供給される交流電力を直流電力に変換し、さらに直流電力を交流電力に変換して出力する電力変換装置である。
【0026】
かご重量推定部23は、起動補償トルク指令に基づく起動補償トルクがモータ10に与えられた状態でブレーキ装置12が解放されたときに、ガバナロータリーエンコーダー16から入力されるガバナRE信号を受信し、ガバナRE信号に基づいて乗りかご1の重量(かご重量)を推定する。かご重量推定部23は、かご重量の推定値を制御定数演算部24へ出力する。
【0027】
受信したガバナRE信号に含まれるパルス数から、乗りかご1の移動量(かご移動量)が求められる。モータ10に起動補償トルクを与えた時のかご移動量とかご重量との間には相関があるため、かご移動量からかご重量を推定できる。そこから実際の(工事進捗に応じた)かご重量が設計値に対してどの程度少ないかを、推定することができる。かご移動量とかご重量との相関を示すテーブル又は計算式は、後述する
図7の不揮発性ストレージ36又はROM32に保存しておく。
【0028】
なお、
図2では、かご移動量を推定するのにガバナロータリーエンコーダー16を用いたが、乗りかご1の移動に伴って回転する回転体の回転駆動を検出する回転検出センサとしてモータロータリーエンコーダー11を用いてもよい。
【0029】
制御定数演算部24は、かご重量推定部23が出力するかご重量推定値と、予め記憶しておいたかご重量の設計値241との比(補正係数)を計算し、かご重量推定値と設計値241の比に基づいて制御定数(例えばASR(Automatic Speed Regulator))を計算し、計算結果をメイン制御部25へ出力する。
【0030】
制御定数とは、起動補償トルクを始めとしてエレベーター100(モータ10、ブレーキ装置12)を適切に制御するために用いられる定数であり、具体的にはガバナRE信号に基づくフィードバック制御で使用する定数である。制御定数には、例えば比例定数、微分定数、及び積分定数などがある。
【0031】
メイン制御部25(制御部の一例)は、エレベーター制御装置20内の各ブロックの動作を制御する。例えば、メイン制御部25は、乗りかご1の積載量が0%のときに、起動補償トルク演算部21からその積載量に見合った起動補償トルク指令を出力させる。また、メイン制御部25は、乗りかご1の積載量が0%のときに制御定数演算部24で計算された制御定数を、エレベーター100の制御に反映する。
【0032】
ブレーキ装置12は、一例として電源が遮断されることで作動する。例えば、ブレーキ装置12は、電磁接触器等の回路を備え、メイン制御部25のブレーキ開放指令の有無により、供給電源のオン/オフが切り替わるように構成されている。メイン制御部25は、乗りかご1を停止(制動)させたい場合には、モータ10に供給する駆動電流を遮断するとともに、ブレーキ装置12への電源供給を停止する。
【0033】
上記のように構成されたエレベーター制御装置20は、モータ10に起動補償トルクを与えた際の乗りかご1の移動量を、下側ガバナプーリの回転軸部に取り付けられたガバナロータリーエンコーダーのパルス信号から検出する。そして、エレベーター制御装置20は、乗りかご1の移動量から推定したかご重量と設計値との比(割合)を、予め設計した制御定数に乗算することで、実際のかご重量に見合った制御定数を算出し、算出した制御定数に基づいてエレベーター100を制御する。
【0034】
[制御定数算出処理の手順]
図3は、第1の実施形態に係るエレベーター制御装置20による制御定数算出処理の手順例を示すフローチャートである。本フローチャートは、エレベーターの据付け工事等においてかご重量が最終仕様状態に比べて軽い場合に、実際のかご重量に見合った制御定数を自動算出する処理の例である。処理開始前の時点では、巻上機のブレーキ装置12は作動中であり、乗りかご1は停止している。
【0035】
まず、エレベーター制御装置20の起動補償トルク演算部21は、荷重センサ5の出力信号に基づいて計算された、乗りかご1の荷重検出値(かご積載量)を荷重検出値演算部61から取得する(S1)。例えば、起動補償トルク演算部21は、メイン制御部25による制御定数の調整を実行する指令に基づいて、荷重検出値を取得する処理を開始する。
【0036】
次に、起動補償トルク演算部21は、取得した荷重検出値(第1の荷重検出値)から乗りかご1内の積載量(定格積載量に対する百分率)を計算し、かご積載量が0%か否かを判定する(S2)。起動補償トルク演算部21は、かご積載量が0%ではない場合には(S2のNO)、ステップS1の処理に戻って次のタイミングで乗りかご1の荷重検出値を取得する。このときのかご積載量は処理の簡略化の点から0%が好ましいが、予め定めた任意の値であればよい。
【0037】
次いで、起動補償トルク演算部21は、かご積載量が0%である場合には(S2のYES)、0%のかご積載量に応じた起動補償トルクの値を起動補償トルク指令(第1の起動補償トルク指令)としてモータ駆動回路22へ出力する(S3)。モータ駆動回路22は、起動補償トルク指令に基づいてモータ10に駆動電流を供給し、0%のかご積載量に見合う起動補償トルク(第1の起動補償トルク)をモータ10に与える。荷重検出値0(かご積載量0%)に対する起動補償トルクの初期値(設計値)は、予め不図示の記憶部(例えば
図7のROM32)に記憶するか、制御プログラムに記述して、起動補償トルク演算部21が読み出せるようにしてもよい。
【0038】
次いで、メイン制御部25は、モータ10に駆動電流の供給を開始してから所定時間が経過するまで、ブレーキ装置12にブレーキ解放指令を出力して巻上機のブレーキを解放する(S4)。
【0039】
次いで、かご重量推定部23は、上記所定時間が経過するまでの間、ガバナロータリーエンコーダー16からガバナRE信号を取得する(S5)。
【0040】
次いで、かご重量推定部23は、所定時間のガバナRE信号に含まれるパルス数に基づいて、乗りかご1の移動量を計算する(S6)。本来、かご重量に対して起動補償トルクが適切に設定されていれば、モータ10に起動補償トルクを与えた後にブレーキ装置12を解放しても、乗りかご1は移動しない。しかし、エレベーター据付け工事中のかご重量が設計値よりもある値以上に軽くなっていると、かご重量と、釣合い錘8と、起動補償トルクとのバランスが確保できず、アンバランスの程度に応じて乗りかご1が移動する。
【0041】
次いで、かご重量推定部23は、計算した乗りかご1の移動量に基づいて、乗りかご1の重量(かご重量)を推定する(S7)。かご移動量から起動補償トルクがどの程度強く又は弱くモータ10に注入しているかを推定し、そこから実際のかご重量が設計値に対してどの程度少ないかを推定することができる。
【0042】
次いで、制御定数演算部24は、かご重量推定部23で計算されたかご重量推定値と所定の設計値241との比を計算し、その比を設計した又は現在の制御定数に乗算する(S8)。これにより、制御定数が、実際のかご重量に見合った値に補正される。そして、制御定数演算部24は、当該比が乗算された補正後の制御定数を、メイン制御部25に出力する。そして、メイン制御部25は、補正後の制御定数を、エレベーター制御装置20内の不図示の記憶部(例えば
図7の不揮発性ストレージ36又はROM32)に記憶する。エレベーター制御装置20は、ステップS8の処理後、本フローチャートの処理を終了する。
【0043】
メイン制御部25は、制御定数演算部24で算出された制御定数(補正後の制御定数)を用いて、エレベーター100の運転すなわちモータ10の駆動を制御する。また、メイン制御部25は、起動補償トルク演算部21は、補正後の制御定数を用いて、次回の起動補償トルクを演算する。
【0044】
以上のとおり、第1の実施形態に係るエレベーター制御装置20は、第1の荷重検出値(例えばかご積載量0%)に対する起動補償トルクをモータ10に与えた際の乗りかご1の移動量を、ガバナロータリーエンコーダー16のパルス信号から検出する。そして、エレベーター制御装置20は、乗りかご1の移動量から推定したかご重量と設計値との比(補正係数)を、予め設計した制御定数に乗算することで、制御定数を実際のかご重量に見合うように調整し、調整した制御定数に基づいてエレベーター100を制御する。このように構成されたエレベーター制御装置20によれば、エレベーター据付け工事中等のかご重量が最終仕様状態の重量よりも軽い場合に、エレベーター制御装置20の制御定数を適切な値に調整(設定)してエレベーター100を良好に制御することができる。
【0045】
<第2の実施形態>
次に、第2の実施形態として、乗りかごが最終仕様状態になった後、第1の実施形態の機能を応用して、荷重検出値演算部61が出力する荷重検出値の異常を検出する例を説明する。乗りかごが最終仕様状態になったとは、かご重量推定値が設計値から一定の範囲内に収まる状態になったことをいう。
【0046】
図4は、第2の実施形態に係るエレベーター制御装置20Aの内部構成例を示すブロック図である。
図4に示すエレベーター制御装置20Aは、第1の実施形態に係るエレベーター制御装置20と比べて、かご重量推定部23がメイン制御部25にかご移動量を出力することと、出力処理部26を備えることが異なる。
【0047】
メイン制御部25は、モータ10に起動補償トルクを与えた状態でブレーキ装置12を解放し、このときの乗りかご1の移動量を所定の閾値と比較して荷重検出値の異常の有無を判定する。
【0048】
出力処理部26は、メイン制御部25が荷重検出値の異常を検出した場合に、荷重検出値が異常であることを発報する処理を行う。例えば、出力処理部26の機能として、荷重検出値の異常を外部の監視センターに送信する機能や、荷重検出値が異常であることを表示装置(例えば
図7の表示装置34)に出力する機能が考えられる。
【0049】
図5は、エレベーター制御装置20Aによる荷重検出値の異常検出処理の手順例を示すフローチャートである。処理開始前の時点では、巻上機のブレーキ装置12は作動中であり、乗りかご1は停止している。
【0050】
まず、エレベーター制御装置20の起動補償トルク演算部21は、荷重センサ5の出力信号に基づいて計算された、乗りかご1の荷重検出値(かご積載量)を荷重検出値演算部61から取得する(S11)。ステップS1の処理は、
図3のステップS1と同じである。
【0051】
次に、起動補償トルク演算部21は、取得した荷重検出値(第2の荷重検出値)から乗りかご1内の積載量(定格積載量に対する百分率)を計算する(S12)。
【0052】
次いで、起動補償トルク演算部21は、かご積載量に応じた起動補償トルクの値を起動補償トルク指令(第2の起動補償トルク指令)としてモータ駆動回路22へ出力する(S13)。モータ駆動回路22は、起動補償トルク指令(第2の起動補償トルク)に基づいてモータ10に駆動電流を供給し、実際のかご積載量に見合う起動補償トルク(第2の起動補償トルク)をモータ10に与える。なお、かご積載量と起動補償トルクとの相関を示すテーブル又は計算式は、予めメモリ(例えば
図7のROM32や不揮発性ストレージ36)に記憶しておく。
【0053】
次いで、エレベーター制御装置20は、ステップS14~S16の処理を実行する。すなわち、メイン制御部25は、モータ10に駆動電流の供給を開始してから所定時間が経過するまで、ブレーキ装置12による巻上機のブレーキを解放する(S14)。次いで、かご重量推定部23は、上記所定時間が経過するまでの間、ガバナロータリーエンコーダー16からガバナRE信号を取得し(S15)、そのガバナRE信号に含まれるパルス数に基づいて、乗りかご1の移動量を計算する(S16)。このステップS14~S16の処理は、
図3のステップS4~S6の処理と同じである。
【0054】
次いで、メイン制御部25は、かご重量推定部23が計算した乗りかご1の移動量が閾値を超えたか否かを判定する(S17)。メイン制御部25は、乗りかご1の移動量が閾値を超えた場合には(S17のYES)、荷重検出値が異常であると判定し(S18)、出力処理部26により荷重検出値の異常を発報する(S19)。それにより、保守員に荷重検出値の校正、又は、荷重センサ5の修理、交換を促す。
【0055】
例えば、出力処理部26は、監視センターに荷重検出値の異常を示すアラームを送信する。または、出力処理部26は、表示装置(例えば
図7の表示装置34)に、荷重検出値が異常であることを示すエラー画面を表示する。さらにまた、エレベーター制御装置20Aに有線又は無線で接続された、保守員が携帯する情報処理装置(例えば、ノート型PC、タブレット型端末など)の表示パネルに表示する。ステップS19の処理後、本フローチャートの処理を終了する。
【0056】
図6に示すアラーム画面40では、ビルAに設置されたエレベーターにおいて、B号機の乗りかご1の荷重センサの荷重検出値が異常であることが示されている。
【0057】
一方、メイン制御部25は、乗りかご1の移動量が閾値以下である場合には(S17のNO)、荷重検出値は正常であると判定し(S20)、本フローチャートの処理を終了する。
【0058】
以上のとおり、第2の実施形態に係るエレベーター制御装置20Aでは、かご重量推定値が設計値から一定の範囲内に収まる状態になった後、荷重検出値(第2の荷重検出値)に基づいて計算した乗りかご1の移動量が閾値を超えるかどうかを監視する。それにより、エレベーター据付け工事中等のかご重量が最終仕様状態の重量よりも軽いときの、エレベーター制御装置20Aの制御定数の調整に加え、工事後の荷重検出値の異常を検出することができる。荷重検出値はエレベーター100の制御にとって重要な情報であり、荷重検出値の異常を検出することで、エレベーター100の異常状態での運転を防止できる。
【0059】
上述した第1及び第2の実施形態の各構成、機能、処理部等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計するなどによりハードウェアで実現することもできるし、ソフトウェアにより実現することもできる。ハードウェアとして、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いてもよい。ソフトウェアで実現する場合、下記のようなハードウェア構成の計算装置を利用することができる。
【0060】
[ハードウェア構成]
図7は、エレベーター制御装置20,20Aが備える計算装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。計算装置には、例えばパーソナルコンピュータを用いることができる。
【0061】
計算装置30は、CPU(Central Processing Unit)31、ROM(Read Only Memory)32、RAM(Random Access Memory)33、不揮発性ストレージ36、及び通信インターフェース37を備える。計算装置30内の各部は、システムバスを介して相互にデータの送受信が可能に接続されている。
【0062】
CPU31、ROM32、RAM33、及び不揮発性ストレージ36は制御部を構成する。ROM32は、不揮発性メモリ(記録媒体)の一例として用いられる。ROM32には、CPU31が動作するために必要なプログラムやデータ等が記憶される。このROM32は、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の書換え可能なメモリでもよい。
【0063】
CPU31は、各実施形態に係る各機能を実現するソフトウェアのプログラムコードをROM32から読み出して実行し、各種演算や各部の制御を行う。RAM33は、揮発性メモリの一例として用いられる。RAM33にはCPU31による演算処理の途中に発生した変数やパラメータ等が一時的に記憶される。演算処理装置としてCPU31に代えて、MPU(Micro Processing Unit)等の他のプロセッサを用いてもよい。
【0064】
不揮発性ストレージ36は、記録媒体の一例であり、OS(Operating System)等のプログラム、プログラムを実行する際に使用するパラメータや、プログラムを実行して得られたデータなどを保存することが可能である。不揮発性ストレージ36に、CPU31が実行するプログラムを記憶させてもよい。不揮発性ストレージ36としては、半導体メモリやハードディスク、SSD(Solid State Drive)、磁気や光を利用する記録媒体等が用いられる。なお、プログラムは、ローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線又は無線の伝送媒体を介して提供されてもよい。
【0065】
通信インターフェース37には、例えばNIC(Network Interface Card)やモデム等が用いられる。通信インターフェース37は、端子が接続されたLANやインターネット等の通信ネットワーク又は専用線等を介して、外部装置との間で各種のデータを送受信することが可能に構成されている。
【0066】
なお、計算装置30に、液晶ディスプレイ等の表示装置34、及びマウスやキーボード等の操作装置35を設けてもよい。表示装置34はGUI画面(操作画面)やCPU31で行われた処理の結果等を表示し、操作装置35は操作内容に応じた入力信号を生成してCPU31へ供給する。
【0067】
また、本発明は上述した各実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、その他種々の応用例、変形例を取り得ることは勿論である。
【0068】
例えば、上述した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するためにエレベーター制御装置の構成を詳細かつ具体的に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成要素を備えるものに限定されない。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成要素の追加又は置換、削除をすることも可能である。
【0069】
また、
図3及び
図5に示すフローチャートにおいて、処理結果に影響を及ぼさない範囲で、複数の処理を並列的に実行したり、処理順序を変更したりしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1…乗りかご、 2…内かご、 3…かご枠、 4…防振ゴム、 5…荷重センサ、 6…器具ボックス、 7…主ロープ、 8…釣合い錘、 9…綱車、 10…モータ、 11…モータロータリーエンコーダー、 12…ブレーキ装置、 13…ガバナロープ、 14…上側ガバナプーリ、 15…下側ガバナプーリ、 16…ガバナロータリーエンコーダー、 17…制御盤、 20,20A…エレベーター制御装置、 21…起動補償トルク演算部、 22…モータ駆動回路、 23…かご重量推定部、 24…制御定数演算部、 241…設計値、 25…メイン制御部、 26…出力処理部、 31…CPU、 40…アラーム、 61…荷重検出値演算部、 100…エレベーター