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特許7165143医薬品グレードの20-ヒドロキシエクジソン抽出物、その使用、およびその調製
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  • 特許-医薬品グレードの20-ヒドロキシエクジソン抽出物、その使用、およびその調製 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】医薬品グレードの20-ヒドロキシエクジソン抽出物、その使用、およびその調製
(51)【国際特許分類】
   C07J 9/00 20060101AFI20221026BHJP
   A61K 36/286 20060101ALN20221026BHJP
   A61K 31/575 20060101ALN20221026BHJP
   A61P 21/00 20060101ALN20221026BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C07J9/00
A61K36/286
A61K31/575
A61P21/00
A61P43/00 107
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019558383
(86)(22)【出願日】2018-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-18
(86)【国際出願番号】 EP2018061060
(87)【国際公開番号】W WO2018197731
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】1753775
(32)【優先日】2017-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1758071
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513285907
【氏名又は名称】ビオフィティス
(73)【特許権者】
【識別番号】507416908
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】ラフォン,ルネ
(72)【発明者】
【氏名】ディルダ,ピエール
(72)【発明者】
【氏名】ディオ,ワリー
(72)【発明者】
【氏名】デュポン,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】デル シニョーレ,スザンナ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェイエ,スタニスラス
【審査官】早川 裕之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第1353113(CN,A)
【文献】Journal of Chromatographic Science,2008年,46,111-116
【文献】Journal of Chromatography B,2006年,832,36-40
【文献】Journal of Chromatographic Science,2006年,44,22-26
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07J 9/00
A61K 36/286
A61K 31/575
A61P 21/00
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0%純粋な20-ヒドロキシエクジソンの調製物から、クロマトグラフィーを実施することなく抽出物を調製する方法であって、次のステップ:
a)0%純粋な20-ヒドロキシエクジソンをメタノールに溶45~50℃に加熱し、ろ過、および部分濃縮するステップ、
b)1~5倍量のアセトンを添加するステップ、
c)撹拌しながら、0~5℃に冷却するステップ、
d)得られた沈殿物をろ過するステップ、
e)アセトンと水を用いて連続的にすすぐステップ、および
f)乾燥させるステップ
を含み、
前記抽出物は少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含み、かつ、ルブロステロン、ジヒドロルブロステロンまたはポストステロンを含まない
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ステップa)のろ過は0.2μmの粒子フィルターを用いて行い、前記ステップa)の部分濃縮は真空蒸留によって、0℃で、MeOHの存在下で行い、かつ前記ステップf)の乾燥は真空下で、0℃で行う、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製した20-ヒドロキシエクジソン(20E)の抽出物およびその治療的使用、具体的には、哺乳類における筋肉量、筋力、および運動性、つまり哺乳類において同化作用を有する20Eを増加させることによる筋肉機能の改善に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、サルコペニアの哺乳類、または特に術後に固定されている、もしくは特に遺伝的原因による筋ジストロフィーを患っている哺乳類の筋肉機能の低下を改善および/または予防することができる。
【0003】
さらに本発明は、20Eの代謝効果を用いて、循環器疾患および糖尿病などの心血管代謝疾患を治療することができる。
【背景技術】
【0004】
植物エクジソンはポリヒドロキシル化ステロールの重要なファミリーである。これらの分子は、さまざまな種の植物(シダ、裸子植物、被子植物)で生成され、これらの植物において害虫の防御に関与している。
【0005】
自然界に豊富に存在し、また化学合成が困難なことから、さまざまな栄養補助食品に用いられている植物エクジソンは、このために栽培された植物から抽出されている。こうした植物は植物エクジソンの複雑な混合物を生成し(例えば、非特許文献1、非特許文献6)、その抽出物は20Eを多く含有しているが、微量と呼べる一連の植物エクジソンや、他の化学族に属する成分も含有しており、植物エクジソンの合計は、調製に応じて、抽出物の5~90%となっている。
【0006】
微量な植物エクジソンの性質は、原料として用いられる植物(非特許文献11)、収穫される季節、あるいはそれが栽培される地域(土壌、気候)に依存し、ゆえにバッチごとに実質的に異なる可能性がある。こうした変動は、精製中に徐々に小さくなる。
【0007】
文献のデータでは20Eにわずかな細胞毒性が認められるが、これが純粋な分子に当てはまるとしても、精製が不完全な調製にも同じことが当てはまるわけではない。
【0008】
薬剤として筋肉の質に対する20Eの有益な効果を利用する目的で、医薬品グレードの20E抽出物を入手することが必要となる。
【0009】
90%まで精製した抽出物からの医薬品グレードの20E抽出物(≧97%)は、現在、クロマトグラフ法(BPLC、HPLC)によってしか得ることができない。非特許文献9で開示されているように、こうした方法は、およそ数グラムの量の抽出物を生成するのに適している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Bathori M,Girault J-P,Kalasz,H,Mathe I,Dinan LN,Lafont R.1999.Complex phytoecdysteroid cocktail of Silene otites(Caryophyllaceae).Arch.Insect Biochem.Physiol.41(1):1-8.
【文献】Bolduc TM.2008.Human urinary excretion profiles after exposure to ecdysterone.Master Thesis,University of Utah.
【文献】Brandt FW.2003.Pharmakokinetik und Metabolismus des 20-Hydroxyecdysons im Menschen.PhD Thesis,University of Marburg.
【文献】Chermnykh NS,Shimanovsky NL,Shutko GV,Syrov VN.1988.Effects of methandrostenolone and ecdysterone on physical endurance of animals and protein metabolism in the skeletal muscles.Farmakologiya i Toksikologiya 6:57-62.
【文献】Gorelick-Feldman J,MacLean D,Ilic N,Poulev A,Lila MA,Raskin I.2008.Phytoecdysteroids increase protein synthesis in skeletal muscle cells.J.Agric.Food Chem.56:3532-3537.
【文献】Kokoska L,Janovska D.2009.Chemistry and pharmacology of Rhaponticum carthamoides:a review.Phytochemistry 70:842-855.
【文献】Lapenna S,Gemen R,Wollgast J,Worth A,Maragkoudakis P,Caldeira S.2015.Assessing herbal products with health claims.Critical Reviews in Food Science & Nutrition 55(13):1918-1928.
【文献】Simon P,Koolman J.1989.Ecdysteroids in vertebrates:pharmacological aspects.In “Ecdysone - from chemistry to mode of action”,J.Koolman Ed.,Georg Thieme Verlag,Stuttgart,pp.254-259.
【文献】Toth N,Bathori M.2008.Preparative-Scale Chromatography of Ecdysteroids:A Class of Biologically Active Steroids.Journal of Chromatographic Science,46(2),111-116.
【文献】Toth N,Szabo A,Kacsala P,Heger J,Zador E.2008.20-Hydroxyecdysone increases fiber size in a muscle-specific fashion in rat.Phytomedicine 15:691-698.
【文献】Hunyadi et al.,2016
【文献】Neves et al.,2016a,b
【文献】De Souza et al.,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、植物または植物部位の抽出物であって、前記植物が、前記植物の乾燥重量にして少なくとも0.5%の20-ヒドロキシエクジソンを含有する植物から選択される抽出物において、前記抽出物が、少なくとも95%、および好ましくは少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含むことを特徴とする抽出物を対象とする。
【0012】
以下でBIO101とも呼ばれる、本発明に従った抽出物は、優れた方法で、前記抽出物の医薬用途の安全性、有用性、または有効性に影響を及ぼしかねない微量な化合物などの不純物を含まない。
【0013】
本発明の1つの特徴によれば、BIO101に存在しない不純物は、19個または21個の炭素原子を含む化合物、例えばルブロステロン、ジヒドロルブロステロン、またはポストステロンである。
【0014】
BIO101が生成される植物は、有利には、ステマカンサ・カルタモイデス(Stemmacantha carthamoides)(ルージァ・カルタモイデス[Leuzea carthamoides]とも呼ばれる)、シアノチス・アラクノイデア(Cyanotis arachnoidea)、およびシアノチス・ヴァガ(Cyanotis vaga)から選択される。本発明は、より具体的には、これらの植物の根からBIO101を得ることを目的とする。
【0015】
本発明は、少なくとも95%、および好ましくは少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含むステマカンサ・カルタモイデスの根の抽出物に特に関係する。
【0016】
本発明に従った抽出物を用いて20Eを医薬品グレードまで精製し、BIO101をさまざまな医薬用途に用いることができる。
【0017】
有利には、BIO101は、サルコペニアの哺乳類、または特に術後に固定されている、もしくは特に遺伝的原因による筋ジストロフィーを患っている哺乳類の筋肉機能の低下を改善および/または予防するための使用を目的としている。さらに、BIO101の使用により、20Eの代謝効果によって、循環器疾患および糖尿病などの心血管代謝疾患を治療することができる。
【0018】
BIO101は、筋肉疾患または心血管代謝疾患の治療における使用を目的としている。
【0019】
より具体的には、本発明は、サルコペニアの治療および/または予防に使用するための、少なくとも95%、および好ましくは少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含むステマカンサ・カルタモイデスの根の抽出物に関する。
【0020】
同様に本発明は、より具体的には、特に遺伝的原因による筋ジストロフィーの治療および/または予防に使用するための、少なくとも95%、および好ましくは少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含むステマカンサ・カルタモイデスの根の抽出物に関する。
【0021】
また本発明は、特に術後に固定化された後の筋肉量および筋肉機能の低下の治療および/または予防に使用するための、少なくとも95%、および好ましくは少なくとも97%の20-ヒドロキシエクジソンを含むステマカンサ・カルタモイデスの根の抽出物に関する。
【0022】
より具体的には、BIO101は、患者に対し、1回または複数回の投与で、200~1000mg/日の投与量で使用する。
【0023】
さらに本発明は、本発明に従った抽出物(BIO101)を活性成分として含む組成物に関する。
【0024】
組成物は、好ましくは200~1000mgの活性成分(BIO101)を含有する。
【0025】
また本発明は、約90%純粋な20-ヒドロキシエクジソンの調製物から本発明に従った抽出物を調製する方法に関し、次のステップを含むことを特徴とする。
a)約90%純粋な20-ヒドロキシエクジソンをメタノールに高温溶解、ろ過、および部分濃縮するステップ
b)3倍量のアセトンを添加するステップ
c)撹拌しながら、0~5℃に冷却するステップ
d)得られた沈殿物をろ過するステップ
e)アセトンと水を用いて連続的にすすぐステップ
f)乾燥させるステップ
【0026】
この精製は、この分子に適した再結晶化プロセスを含み、産業規模で実行することができる。
【0027】
有利には、ステップa)のろ過は0.2μmの粒子フィルターを用いて行う。
【0028】
ステップa)の部分濃縮は、有利には、真空蒸留によって、約50℃で、MeOHの存在下で行う。
【0029】
ステップf)の乾燥は真空下で、約50℃で行う。
【0030】
有利には、本発明の対象である抽出物を調製する方法によって、医薬品グレードの20E抽出物を得ることができる。本発明の対象である抽出物を調製する方法は、産業規模で運用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明のその他の利点、目的、特徴は、添付の図面に基づき、本発明の対象である手段の少なくとも1つの特定の実施形態に関する以下の非限定的な説明から明らかになる。
図1】20-ヒドロキシエクジソン(20E)の構造を概略的に示す。
図2】本発明に従った20Eの精製方法を概略的に示す。
図3】本発明に従った抽出物(BIO101)の単回投与を受けた個人のさまざまなコホートの薬物動態プロファイルを示す。
図4】老齢マウスの最高走行速度における、長期BIO101治療の効果を示す図表。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下は、非限定的な説明である。
【0033】
1.再結晶化による精製方法
ステマカンサ・カルタモイデスから抽出した20Eの調製物から開始して方法を展開したが、他の植物由来の20E調製物にも適用できる。
【0034】
最初の調製物として使用できる90%純粋な20Eのデータシートは付録に示す。
【0035】
図2に示す精製プロセスでは、最初に、第1の反応器で40Lのメタノールに10kgの90%純粋な20Eを溶解する。
【0036】
次いで、得られた溶液を、色合いが淡褐色になるまで45~50℃に加熱する。次いで、溶液を0.2μmの粒子フィルターでろ過して第2の反応器に入れる。粒子フィルターは前記第2の反応器で5LのMeOHを用いてすすぎ、次いで、溶液を真空蒸留によって50℃で、25Lの容量まで濃縮する。
【0037】
80Lのアセトンを逆溶剤として45~50℃で添加する。15~20℃に冷却し、15~25℃で16~18時間撹拌したのち、0~5℃に冷却し、さらに少なくとも4時間撹拌することによって、20Eの結晶化が生じる。沈殿物をろ過し、次いで、事前に0~5℃に冷却した20Lのアセトンで洗浄し、窒素ガスの気流中で少なくとも1.5時間乾燥させる。
【0038】
こうして得られた生成物を第2の反応器に入れ、再び20Lの水に懸濁させ、残りのアセトンを除去する。懸濁液は15~25℃で2時間撹拌し、次いで、粒子フィルターでろ過し、材料を20Lの精製水で洗浄したのち、真空下で、50℃以下の温度で乾燥させる。
【0039】
2.最終生成物の分析
最終生成物(BIO101)はHPLC-MS/MSで分析した。微量な成分はHPLCによって母液から分離し、次いで、質量分析法とNMR分光法によって分析した。BIO101の乾燥重量に0.05%以上の量で存在する有意成分は、植物エクジソンのみであることがわかる。以下の表1に示す値は、根(ステマカンサ・カルタモイデス)の生抽出物の4種類のバッチ、および最終生成物の4種類のバッチの平均に相当する。根の生抽出物のデータにおける値は、HPLCによって観察した植物エクジソンの合計に匹敵するが、実際には、20Eは乾燥根のアルコール抽出物の乾燥残留物においてわずか15~21重量%である(n=2)。
【0040】
【表1】
【0041】
精製法の全ステップの終了時に、特定の植物エクジソンが除去されていたことに留意する。さらに、新たな成分、スタキステロンBが出現した。スタキステロンBは、20Eの14位にある第3級水酸基が失われることにより生じる脱水生成物に相当する。この化合物は、精製中に一部除去され、方法実施中にその他の新規生成物は出現しない。
【0042】
除去された4個の分子は、20Eの側鎖を切断したことにより生じた分子であり、従って、21C(ポストステロン)または19C(ルブロステロン、ジヒドロルブロステロン)分子である。20Eとは異なり、これらの分子は、アンドロゲンまたはエストロゲンの核内受容体と相互作用する可能性があることから(非特許文献7)、最終生成物の干渉あるいは有害作用の危険を防ぐために除去することが極めて重要である。これらの分子は、20Eに対して極性が小さく、20Eよりバイオアベイラビリティがはるかに高いため、相対的にはるかに良好に(約20倍良好)生物学的に利用可能であることから、この点はいっそう重要である。
【0043】
3.BIO101の特性化
以下の表2に、上記で得られた抽出物の特性を示す。
【0044】
【表2】
【0045】
4.BIO101の安定性
25℃、相対湿度60%で保管したBIO101の安定性のモニタリングから、1年後に不純物が認められないことが判明している。
【0046】
30℃、相対湿度65%で保管したBIO101についても、同様の結果が得られる。
【0047】
従って、得られた生成物は非常に安定していることがわかっており、劣化せず、望ましくない不純物を生じない。
【0048】
BIO101の試料に対し、40℃、相対湿度75%、6ヵ月間で実施した強制分解試験では、微量化合物の量に対して非常に高濃度の有効成分が含まれているがゆえに、BIO101の優れた挙動が確認されている。
【0049】
5.規制毒性学の要素
パフィア・グロメラータ(Pfaffia glomerata)由来で部分的に精製した20Eの調製物を用いて研究を行ったところ、遺伝毒性および細胞毒性があることが判明した(非特許文献12)。これは、植物のアルコール抽出物に他の化合物が存在し(非特許文献13)、使用した20Eの調製物でこれが完全に除去されていなかったためである。
【0050】
BIO101に関してICHおよびOCDEの現行規定に従ってin vitroおよびin vivoで得られた結果では、遺伝毒性は陰性であった。動物では、試験した最高用量、すなわちラットとイヌに対するそれぞれ1000mg/kgと1500mg/kgの28日間にわたる慢性曝露で毒性は認められなかった。したがって、上述の方法に従って得られた精製20E(BIO101)は高用量であっても毒性がない。一連の「安全性薬理」試験(挙動、SNC、呼吸機能、hERG試験、心電図テレメトリー)でこの点が確認されている。
【0051】
26週間にわたってラットとイヌを対象とし、BIO101を長期経口投与したGLP試験2試験で、生成物の優れた忍容性と安全性プロファイルが確認された。
【0052】
6.ヒトでの薬物動態試験
ヒトでは、非特許文献8、次いで非特許文献3、その後、非特許文献2で、部分的に精製した20Eの尿中排出の動態を、それぞれ0.2mg/kg/日、10mg/kg/日、および434mg/日で、単回または5日間にわたって経口投与したあとに測定した。これらの研究では、この分子の経口バイオアベイラビリティが低いことが明らかとなっている。
【0053】
動物およびヒトを対象とし、BIO101を用いて実施した試験から、経口投与後のこの分子のバイオアベイラビリティが低いことが確認されている。摂取された分子が、48時間後に、主に便によって完全に排出されていることが示されている。
【0054】
第I相臨床試験において、空腹時に個々の被検体に100、350、700、および1400mg/日を単回投与(SAD)した後、BIO101の血漿中濃度を測定した。次いで、14日間にわたる反復投与(MAD)を実施し、1日1回350mg、または1日2回(朝晩)350mgおよび450mgを投与した。ボランティアのさまざまなコホート(n=6)に対して上記のようにBIO101を投与し、BIO101の主な薬物動態パラメーター、すなわちCmax(単回投与または反復投与後のBIO101の最高血漿中濃度)、Cmin(単回投与または反復投与後のBIO101の最低血漿中濃度)、Tmax(単回投与または反復投与後のBIO101の最高血漿中濃度到達時間)、および血漿曝露量と同義であるAUC(曲線下面積)を測定した。これらの結果を以下の表3に示す。これらの値は、これが極値であるTmaxを除き、算術平均(CV%)に相当する。
【0055】
【表3】
【0056】
SADのコホートの平均プロファイルを図3に示す。Yは若いボランティアで、Oは65~85歳のボランティアである。この図から、Tmaxは摂取の2~3.5時間後であり、Cmaxは摂取量に従って増加するのに対し、全例で低いままであり、20Eのバイオアベイラビリティの低さと、有効成分の迅速な排出によって、24時間後にはほぼ完全に消失することがわかる。20Eの半減期は約3~4時間である。
【0057】
以下の表4は、BIO101反復投与後の薬物動態パラメーターを示す。この表から、反復投与では、摂取した化合物が血漿中に蓄積せず、また用いた用量で解毒機序の誘発がないことにより、1日目から14日目のプロファイルが非常に類似していることがわかる。
【0058】
【表4】
【0059】
これらの値は、これが極値であるTmaxを除き、算術平均(CV%)に相当する。特記のない限りN=8であり、n=この観察の被験者数、NA=適用なし。*は被験者1名が10日後に離脱した。
【0060】
これらの結果は、BIO101の長期使用に適合しており、これは、ラットで1000mg/kg/日、イヌで1500mg/kg/日の用量で、6ヵ月間連日投与したあとに毒性が認められなかったことからも検証されている。
【0061】
7.BIO101の生物活性
市販製剤に存在する20Eの同化作用は若齢動物ですでに実証されている一方で、筋肉量の低下(サルコペニア)、および特に、運動機能の問題を引き起こす筋機能の低下(ダイナペニア)を伴う老齢の場合でも同じことが当てはまるかについては知られていない。老齢マウスにBIO101を長期的に投与し、最高走行速度を測定し、老齢マウスおよび未治療成体の最高走行速度と比較した。この試験から、BIO101の同化作用・肥大作用が、最高走行速度の向上を特徴とする機能改善につながることが実証された。
【0062】
成体(12ヵ月間)および老齢(22ヵ月間)のC57Bl6/J雌マウスを使用した。13週間にわたって、老齢マウスの1群にはBIO101を50mg/kg/日で、もう1群には溶媒を経口投与した。成体マウスには溶媒を投与した。全試験期間にわたって、すべてのマウスに、脂質が豊富な高カロリー食を与えた(4442kcal/kg、タンパク質19.8%、脂質23%、炭水化物39.5%)。13週間の治療後、機能的能力(全体的な活動)についてマウスを試験した。走行運動を行わせ、最高走行速度を記録した。
【0063】
結果を図4に示す。予想されたように、未治療老齢マウスは未治療成体マウスよりも有意に遅く走った(-20%、p<0.001)のが観察された。BIO101の投与を受けた老齢マウスは、対照老齢マウス(溶媒)よりも有意に速く(+17%、p<0.05)走った。
【0064】
BIO101による老齢マウスの治療が、老化による走行速度の著しい低下の大部分を補うことがここで実証されたことは重要である。実際、BIO101投与老齢マウス群(0.558m/sで95%CI=0.471)と未治療成体マウス群(0.602m/sで95%CI=0.503)の95%信頼区間(CI)とは大幅に一致している。したがって、BIO101による治療によって、老化に伴う機能低下を、未治療老齢マウスで認められた20%に対し、7%に抑えることができる。
【0065】
本研究は、BIO101の有効成分が筋肉機能に及ぼす有益な性質(非特許文献4、5)が老齢哺乳類に適用されること、およびBIO101による老齢動物の長期治療によって、老化に伴う機能低下を大幅に補い得ることを実証している。
【0066】
したがって、より広範には、また筋肉機能に及ぼすBIO101の性質を考えると、BIO101の使用は、前記筋肉機能の低下という結果を伴う疾患の治療に提案することができる。こうした疾患には、特に遺伝的原因によるサルコペニア、筋ジストロフィー、および特に術後の固定による筋肉量および筋肉機能の低下を含むが、これらに限定されない。
【0067】
付録
原料の分析証明書の例
製品名:Leuza carthamoides Powder Extract
ラテン名:Leuzea carthamoides(Wild.)DC
使用した植物部位:葉/根
抽出法:水およびエタノールで抽出
【0068】
【表5】
図1
図2
図3
図4