(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】電極板の製造装置および電極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20221026BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20221026BHJP
B30B 3/00 20060101ALI20221026BHJP
B65H 23/18 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/139
B30B3/00 B
B65H23/18
(21)【出願番号】P 2020059675
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 哲正
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-063860(JP,A)
【文献】特開2014-220113(JP,A)
【文献】特開2014-072114(JP,A)
【文献】特開2016-120503(JP,A)
【文献】特開2015-069747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/139
B30B 3/00
B65H 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に電極活物質が塗布された塗布部および前記表面に前記電極活物質が塗布されていない未塗布部を有する電極板の搬送ラインと、
前記搬送ラインに設けられ、前記塗布部を圧縮する圧縮ロールと、
前記搬送ラインにおける前記圧縮ロールを終端とする上流側区間および前記圧縮ロールを始端とする下流側区間の少なくとも一方に設けられ、前記電極板にかかる張力を低減する張力低減機構と、
前記搬送ラインにおける前記張力低減機構よりも前記圧縮ロールから離れた位置において、前記張力低減機構により張力が低減される区間で前記電極板にかかる張力よりも高い張力を前記未塗布部にかけて、前記未塗布部を延伸する延伸機構と、を備え
、
前記搬送ラインは、前記圧縮ロールによる前記塗布部の圧縮処理が施されていない前記電極板を前記搬送ラインの下流側に送り出す巻き出し装置と、前記圧縮処理が施された前記電極板を回収する巻き取り装置と、を有し、
前記張力低減機構および前記延伸機構は、前記巻き出し装置および前記圧縮ロールの間、ならびに前記圧縮ロールおよび前記巻き取り装置の間の少なくとも一方の区間に配置される、
電極板の製造装置。
【請求項2】
前記張力低減機構は、前記上流側区間および前記下流側区間の両方に設けられる、
請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記延伸機構は、前記圧縮ロールの上流側および下流側の両方に設けられる、
請求項
1または2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記搬送ラインは、前記塗布部を把持または吸着して前記電極板を搬送する搬送機構を有する、
請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の製造装置。
【請求項5】
前記塗布部における前記搬送機構で把持または吸着される部分の、前記電極板の搬送方向と直交する幅方向の寸法をa、前記塗布部の前記幅方向の寸法をbとするとき、
a/b≧0.4を満たす、
請求項
4に記載の製造装置。
【請求項6】
基材の表面に電極活物質が塗布された塗布部および前記表面に前記電極活物質が塗布されていない未塗布部を有する電極板を
巻き出し位置から巻き取り位置まで搬送し、
搬送される前記電極板の前記塗布部を圧縮し、
圧縮位置を終端とする上流側区間および圧縮位置を始端とする下流側区間の少なくとも一方において前記電極板にかかる張力を低減
し、
前記電極板にかかる張力を低減する区間よりも前記圧縮位置から離れた位置において、前記張力を低減する区間で前記電極板にかかる張力よりも高い張力を前記未塗布部にかけて、前記未塗布部を延伸することを含
み、
前記張力の低減および前記未塗布部の延伸は、前記巻き出し位置および前記圧縮位置の間、ならびに前記圧縮位置および前記巻き取り位置の間の少なくとも一方の区間で、電極板の巻き出しおよび巻き取りとは別に実施される、
電極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極板の製造装置および電極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、リチウムイオン二次電池等に使用される電極板は、アルミ箔や銅箔等からなる基材(集電体)の表面に電極活物質が塗布された構造を有する。また、電極板は、基材の表面に電極活物質が塗布されていない未塗布部を有する。未塗布部は、例えば集電タブとして機能する。つまり、電極板は、基材および電極活物質層が積層された塗布部と、基材のみからなる未塗布部と、を有する。
【0003】
このような電極板の製造方法としては、長尺の基材を搬送しながら基材の幅方向における中央部に電極活物質を連続的に塗布して、基材の中央部で搬送方向に延びる塗布部と、基材の端部で搬送方向に延びる未塗布部とを有する長尺の電極板を形成する方法が知られている。また、電極活物質の密度の増加や厚みの均一化等を目的として、電極板の塗布部をロールプレス等で圧縮することが知られている。通常、塗布部を圧縮した後の電極板は、ロール状に巻き取られて次工程に移送される。下流の工程において、電極板は複数に個片化され、セパレータを挟んで積層されて、外装缶に封入される。
【0004】
塗布部を圧縮する際、電極活物質のみが圧縮され、塗布部を構成する基材は圧延されないことが理想的である。しかしながら実際には、塗布部を圧縮すると基材も圧延されてしまう。一方、未塗布部の厚みは塗布部の厚みより薄いため、塗布部の圧縮時に未塗布部を構成する基材は圧延されない。これにより、塗布部の長さと未塗布部の長さとに差が生じてしまう。このような長さのばらつきが生じると、電極板に皺が生じて電極板の搬送や巻き取りに支障が生じ得る。
【0005】
これに対し、例えば特許文献1には、金属箔の中央部に帯状の塗工部を有し、金属箔の端縁に帯状の未塗工部を有する活物質塗工シートを加圧ロール間に通して長尺シート電極を形成し、未塗工部を加熱しながら長尺シート電極に張力をかけることで塗工部と未塗工部との間の歪みを緩和させ、歪みを緩和した後に長尺シート電極を裁断してシート電極に個片化する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述した従来の方法について鋭意検討した結果、塗布部と未塗布部との長さのばらつきを解消するための処理を搬送ラインに設けると、塗布部の圧縮時に電極板が破断するおそれが高まることを見出した。
【0008】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的の1つは、より安定的に電極板を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のある態様は、電極板の製造装置である。この装置は、基材の表面に電極活物質が塗布された塗布部および基材の表面に電極活物質が塗布されていない未塗布部を有する電極板の搬送ラインと、搬送ラインに設けられ、塗布部を圧縮する圧縮ロールと、搬送ラインにおける圧縮ロールを終端とする上流側区間および圧縮ロールを始端とする下流側区間の少なくとも一方に設けられ、電極板にかかる張力を低減する張力低減機構と、を備える。
【0010】
本開示の他の態様は、電極板の製造方法である。この方法は、基材の表面に電極活物質が塗布された塗布部および基材の表面に電極活物質が塗布されていない未塗布部を有する電極板を搬送し、搬送される電極板の塗布部を圧縮し、圧縮位置を終端とする上流側区間および圧縮位置を始端とする下流側区間の少なくとも一方において電極板にかかる張力を低減することを含む。
【0011】
以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、より安定的に電極板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る電極板の製造装置を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2(A)は、搬送機構が電極板を搬送する様子を模式的に示す平面図である。
図2(B)は、搬送機構が電極板を搬送する様子を模式的に示す断面図である。
【
図3】寸法比a/bと電極板にかかる張力との関係を示す図である。
【
図4】延伸機構が有する未塗布部延伸ロールの模式図である。
【
図5】第1張力低減機構および第2張力低減機構の有無と、塗布部の伸び率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。実施の形態は、本開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも本開示の本質的なものであるとは限らない。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図に示す各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。また、本明細書または請求項中に「第1」、「第2」等の用語が用いられる場合には、特に言及がない限りこの用語はいかなる順序や重要度を表すものでもなく、ある構成と他の構成とを区別するためのものである。また、各図面において実施の形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0015】
図1は、実施の形態に係る電極板の製造装置を模式的に示す側面図である。
図2(A)は、搬送機構が電極板を搬送する様子を模式的に示す平面図である。
図2(B)は、搬送機構が電極板を搬送する様子を模式的に示す断面図である。
【0016】
電極板の製造装置1は、搬送ライン2と、圧縮ロール4と、張力低減機構6と、延伸機構8と、を備える。本実施の形態の製造装置1では、搬送ライン2における圧縮ロール4の上流側および下流側の両方に、張力低減機構6および延伸機構8が設けられる。以下では、上流側の張力低減機構6を第1張力低減機構6aとし、下流側の張力低減機構6を第2張力低減機構6bとする。また、第1張力低減機構6aと第2張力低減機構6bとを区別する必要がない場合、これらをまとめて張力低減機構6と称する。同様に、上流側の延伸機構8を第1延伸機構8aとし、下流側の延伸機構8を第2延伸機構8bとし、両者を区別する必要がない場合、まとめて延伸機構8と称する。
【0017】
搬送ライン2は、電極板100を搬送する機構である。電極板100は、長尺の基材102の表面に電極活物質が塗布された塗布部104と、基材102の表面に電極活物質が塗布されていない未塗布部106と、を有する。基材102は、集電体として機能する。電極板100がリチウムイオン二次電池の負極板である場合、基材102は、例えば銅やアルミニウム等からなる箔や多孔体で構成される。電極板100がリチウムイオン二次電池の正極板である場合、基材102は、例えばステンレス鋼やアルミニウム等からなる箔や多孔体で構成される。
【0018】
電極活物質は、電極板100がリチウムイオン二次電池の負極板である場合、黒鉛等である。電極板100がリチウムイオン二次電池の正極板である場合、電極活物質は、コバルト酸リチウムやリン酸鉄リチウム等である。電極活物質は、例えば導電助剤、結着材、分散剤等を混合した電極合材スラリーの状態で基材102に塗布される。電極合材スラリーを塗布した後に塗膜を乾燥、圧延することで、電極活物質層108が形成される。本実施の形態では、基材102の両面に電極活物質層108が設けられている。塗布部104は、基材102と電極活物質層108とが積層された構造を有する。一方、未塗布部106は、基材102のみからなる。
【0019】
搬送ライン2は、巻き出し装置10と、巻き取り装置12と、搬送機構14と、を有する。巻き出し装置10は、搬送ライン2の開始点に配置される。巻き出し装置10は、塗布部104の圧縮処理が施されていない電極板100を例えば巻回体の状態で保持し、搬送ライン2の下流側に送り出す。巻き取り装置12は、搬送ライン2の終了点に配置される。巻き取り装置12は、塗布部104の圧縮処理が施された電極板100を例えば巻回体の状態で回収する。
【0020】
搬送機構14は、搬送ライン2上の巻き出し装置10と巻き取り装置12との間に配置され、電極板100を巻き出し装置10から巻き取り装置12に向けて搬送する。本実施の形態の搬送機構14は、第1搬送機構14a、第2搬送機構14b、第3搬送機構14cおよび第4搬送機構14dを含む。第1搬送機構14a~第4搬送機構14dは、電極板100の搬送方向Aにおける上流側から、この順に所定の間隔をあけて配置される。以下では、第1搬送機構14a~第4搬送機構14dを区別する必要がない場合、これらをまとめて搬送機構14と称する。なお、搬送機構14の数は4つに限定されない。
【0021】
本実施の形態の搬送機構14は、電極板100を把持して搬送するニップロールで構成される。搬送機構14は、塗布部104を把持して電極板100を搬送する。したがって、搬送機構14は未塗布部106に当接しない。これにより、後述する延伸機構8によって未塗布部106が塗布部104よりも延伸された状態にある電極板100を搬送する際に、未塗布部106に皺が生じることを抑制できる。したがって、搬送機構14が塗布部104のみを把持する構造は、特に、第1延伸機構8aの下流端を決める第2搬送機構14bに採用されることが好ましい。
【0022】
また、
図2(B)に示すように、搬送機構14は、塗布部104における搬送機構14で把持される部分の幅方向Bの寸法をa、塗布部104の幅方向Bの寸法をbとするとき、a/b≧0.4を満たすように設計される。幅方向Bは、電極板100の搬送方向Aと直交する方向である。
【0023】
図3は、寸法比a/bと電極板100にかかる張力との関係を示す図である。縦軸の「張力」は、搬送機構14が塗布部104の全幅を把持する場合(つまりa/bが1)に得られる張力に対する各a/bで得られる張力の比率である。
図3に示すように、a/b=0.4のとき、a/b=1で得られる張力の90%の張力を得ることができる。よって、a/bが0.4以上となるように搬送機構14を設計することで、未塗布部106に皺が生じることを抑制しながら、電極板100の搬送速度が低下することをより確実に抑制できる。また、好ましくはa/bは0.53以上である。
【0024】
なお、搬送機構14は、電極板100を吸着して搬送する構成であってもよい。例えば、搬送機構14は、サクションロール等で構成される。この場合、寸法aは、塗布部104における搬送機構14で吸着される部分の幅方向Bの寸法となる。また、搬送機構14は、幅方向Bに配列される複数のニップロールあるいはサクションロールを有してもよい。この場合、各ロールが把持または吸着する部分の寸法の合計が寸法aとなる。
【0025】
搬送ライン2における第2搬送機構14bと第3搬送機構14cとの間には、圧縮ロール4が設けられる。圧縮ロール4は、所定の間隔をあけて配置される一対のロールで構成される。電極板100を一対のロールの間に通すことで、電極板100の厚さ方向で塗布部104を加圧することができる。これにより、塗布部104が圧縮される。
【0026】
圧縮ロール4の回転によっても電極板100は搬送される。このため、圧縮ロール4もニップロールとして機能する。各ニップロール(つまり各搬送機構14および圧縮ロール4)の間の区間には張力調整部が設けられ、搬送ライン2上を搬送中の電極板100にかかる張力は、各区間で独立に調整される。本実施の形態の張力調整部は、ダンサーロールで構成される。
【0027】
具体的には、第1搬送機構14aと第2搬送機構14bとの間の第1区間R1には、第1張力調整部16aが設けられる。第2搬送機構14bと圧縮ロール4との間の第2区間R2には、第2張力調整部16bが設けられる。圧縮ロール4と第3搬送機構14cとの間の第3区間R3には、第3張力調整部16cが設けられる。第3搬送機構14cと第4搬送機構14dとの間の第4区間R4には、第4張力調整部16dが設けられる。
【0028】
第1区間R1には、第1張力調整部16aによって電極板100にかけられる張力を計測する第1張力測定装置18aが設けられる。第2区間R2には、第2張力調整部16bによって電極板100にかけられる張力を計測する第2張力測定装置18bが設けられる。第3区間R3には、第3張力調整部16cによって電極板100にかけられる張力を計測する第3張力測定装置18cが設けられる。第4区間R4には、第4張力調整部16dによって電極板100にかけられる張力を計測する第4張力測定装置18dが設けられる。第1張力測定装置18a~第4張力測定装置18dとしては、公知の接触式張力計やテンションピックアップロール等が例示される。
【0029】
圧縮ロール4、搬送機構14、第1張力調整部16a~第4張力調整部16d等の動作は、制御装置20によって制御される。制御装置20は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、
図1では、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。この機能ブロックがハードウェアおよびソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には当然に理解されるところである。
【0030】
制御装置20は、第1張力測定装置18a~第4張力測定装置18dから張力データを受領し、受領した張力データに基づいて第1張力調整部16a~第4張力調整部16dの駆動を制御する。これにより、第1区間R1~第4区間R4において電極板100にかかる張力を所望の値に調整することができる。なお、制御装置20は、第1張力測定装置18a~第4張力測定装置18dの測定結果に基づくフィードバック制御ではなく、予め設定された固定の動作プログラムに基づいて各部の動作を制御することもできる。
【0031】
搬送ライン2における圧縮ロール4の上流側には、第1張力低減機構6aが設けられる。第1張力低減機構6aは、第2区間R2に配置されて、第2区間R2で電極板100にかかる張力を低減する。つまり、第1張力低減機構6aは、搬送ライン2における圧縮ロール4を終端とする上流側区間に配置される。第1張力低減機構6aは、第2張力調整部16b、第2張力測定装置18b、ガイドロール21および制御装置20等で構成される。第2張力測定装置18bの測定結果に基づいて制御装置20が第2張力調整部16bを駆動させることで、第2区間R2で電極板100にかかる張力は、第1区間R1で電極板100にかかる張力よりも低減される。例えば、第2区間R2で電極板100にかかる張力は0に調整される。
【0032】
また、圧縮ロール4の下流側には、第2張力低減機構6bが設けられる。第2張力低減機構6bは、第3区間R3に配置されて、第3区間R3で電極板100にかかる張力を低減する。つまり、第2張力低減機構6bは、圧縮ロール4を始端とする下流側区間に配置される。第2張力低減機構6bは、第3張力調整部16c、第3張力測定装置18c、ガイドロール21および制御装置20等で構成される。第3張力測定装置18cの測定結果に基づいて制御装置20が第3張力調整部16cを駆動させることで、第3区間R3で電極板100にかかる張力は、第4区間R4で電極板100にかかる張力よりも低減される。例えば、第3区間R3で電極板100にかかる張力は0に調整される。
【0033】
延伸機構8は、搬送ライン2における張力低減機構6よりも圧縮ロール4から離れた位置に設けられて、未塗布部106を延伸する。本実施の形態では、第1張力低減機構6aよりも上流側の第1区間R1に第1延伸機構8aが設けられ、第2張力低減機構6bよりも下流側の第4区間R4に第2延伸機構8bが設けられる。第1延伸機構8aは、第1張力調整部16a、第1張力測定装置18a、ガイドロール21および制御装置20等で構成される。第2延伸機構8bは、第4張力調整部16d、第4張力測定装置18d、ガイドロール21および制御装置20等で構成される。
【0034】
延伸機構8は、
図4に示す未塗布部延伸ロール22を有する。
図4は、延伸機構8が有する未塗布部延伸ロール22の模式図である。未塗布部延伸ロール22は、回転軸24と、支持部26と、を有する。回転軸24は、電極板100の搬送にともなって回転する。支持部26は、回転軸24の外周に設けられて、電極板100を支持しながら回転軸24とともに回転する。支持部26は段差を有し、電極板100の未塗布部106のみに当接する。塗布部104は、未塗布部延伸ロール22から離間している。この状態で第1張力調整部16aあるいは第4張力調整部16dによって電極板100に張力がかけられると、未塗布部106は支持部26で押圧されて延伸する。一方、塗布部104は支持部26で押圧されないため、未塗布部106に比べて延伸量は小さい。
【0035】
第1延伸機構8aにおいて、第1張力調整部16aを構成するダンサーロール、あるいはガイドロール21が未塗布部延伸ロール22で構成される。同様に、第2延伸機構8bにおいて、第4張力調整部16dを構成するダンサーロール、あるいはガイドロール21が未塗布部延伸ロール22で構成される。なお、張力の測定精度を維持する観点から、第1張力測定装置18aあるいは第4張力測定装置18dが設置されたガイドロール21(ロードセルが付いているロール)は、未塗布部延伸ロール22として使用しないことが好ましい。
【0036】
本発明者は、鋭意検討した結果、電極板100に張力をかけた状態で圧縮ロール4で塗布部104を圧縮すると、塗布部104を構成する基材102が過度に延伸して破断してしまう場合があることを見出した。特に、近年は電池のエネルギー密度向上の要請から、電極合材スラリーの塗布量が増え、電極活物質層108の厚みが増す傾向にある。電極活物質層108の厚みが増加すると、圧縮ロール4で塗布部104を圧縮した際に基材102により大きな力がかかり、基材102がより延伸してしまう。
【0037】
これに対し、各延伸機構8と圧縮ロール4との間に張力低減機構6を配置することで、各延伸機構8において電極板100にかかる張力が、電極板100の圧縮ロール4で挟まれる部分まで伝わることを抑制できる。これにより、電極板100の圧縮ロール4で挟まれる部分にかかる張力を低減でき、基材102が過度に延伸して破断することを抑制できる。
【0038】
本実施の形態では、圧縮ロール4の上流側と下流側との両方に張力低減機構6を設けているが、これに限らず圧縮ロール4の上流側および下流側の少なくとも一方に設けられていれば、いずれにも設けられない場合に比べて基材102の延伸を抑制可能である。
【0039】
図5は、第1張力低減機構6aおよび第2張力低減機構6bの有無と、塗布部104の伸び率との関係を示す図である。参考例は、第1張力低減機構6aおよび第2張力低減機構6bのいずれも備えない製造装置である。実施例1は、第2張力低減機構6bのみを備える製造装置である。つまり、圧縮ロール4の上流側から第1延伸機構8aに起因する張力が電極板100に伝わる実施例である。実施例2は、第1張力低減機構6aのみを備える製造装置である。つまり、圧縮ロール4の下流側から第2延伸機構8bに起因する張力が電極板100に伝わる実施例である。
【0040】
実施例3は、第1張力低減機構6aおよび第2張力低減機構6bを備える製造装置である。つまり、圧縮ロール4の上流側からも下流側からも延伸機構8に起因する張力が電極板100に伝わらない実施例である。また、参考例および各実施例の製造装置は、第1延伸機構8aおよび第2延伸機構8bを備える。縦軸の「塗布部伸び率」は、未圧縮の塗布部104の長さに対する、各製造装置で圧縮した塗布部104の長さの比率である。塗布部104の伸び率は、塗布部104および未塗布部106に線を罫書き、圧縮前後で線間の長さを金尺や拡大顕微鏡で計測することで得た。
【0041】
図5に示すように、実施例1~3の製造装置では、参考例の製造装置に比べて塗布部104の伸び率が低減した。このことから、張力低減機構6が圧縮ロール4の上流側および下流側の少なくとも一方に設けられていれば、塗布部104の延伸を抑制でき、よって電極板100の破断を抑制できることが確認された。また、実施例1および実施例2の結果から、圧縮ロール4の上流側と下流側のいずれか一方のみに張力低減機構6を設ける場合には、上流側に張力低減機構6を設ける方が電極板100の破断をより抑制できることが確認された。
【0042】
また、実施例3の結果から、圧縮ロール4の上流側および下流側の両方に張力低減機構6を設けた場合に、塗布部104の伸びを最も抑制でき、よって電極板100の破断を最も抑制できることが確認された。なお、搬送ライン2に延伸機構8が設けられない場合であっても、電極板100を搬送する際には電極板100に少なからず張力がかかっている。このため、延伸機構8が設けられない場合であっても、張力低減機構6による電極板100の破断抑制効果は得られる。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態に係る電極板100の製造装置1は、塗布部104および未塗布部106を有する電極板100を搬送する搬送ライン2と、搬送ライン2に設けられて塗布部104を圧縮する圧縮ロール4と、搬送ライン2における圧縮ロール4を終端とする上流側区間(第2区間R2)および圧縮ロール4を始端とする下流側区間(第3区間R3)の少なくとも一方に設けられて電極板100にかかる張力を低減する張力低減機構6と、を備える。圧縮ロール4から上流側に広がる区間および圧縮ロール4から下流側に広がる区間の少なくとも一方で張力低減区間を設けることで、圧縮ロール4により塗布部104を圧縮した際に基材102が延伸することを抑制することができる。これにより、電極板が破断するおそれを低減でき、より安定的に電極板100を製造することができる。
【0044】
また、本実施の形態の張力低減機構6は、圧縮ロール4の上流側区間および下流側区間の両方に設けられる。これにより、基材102の延伸をより抑制することができる。よって、より安定的に電極板100を製造することができる。
【0045】
また、本実施の形態の製造装置1は、搬送ライン2における張力低減機構6よりも圧縮ロール4から離れた位置において、未塗布部106を延伸する延伸機構8を備える。これにより、塗布部104の長さと未塗布部106の長さとのばらつきを低減でき、電極板100に皺が生じることを抑制できる。よって、より安定的に電極板100を製造することができる。
【0046】
また、本実施の形態の延伸機構8は、圧縮ロール4の上流側および下流側の両方に設けられる。これにより、未塗布部106を2段階で延伸することができる。この結果、未塗布部106の延伸処理によって電極板100に歪みが生じたり、電極板100にかかる負荷が大きくなったりすることを抑制できる。よって、より安定的に電極板100を製造することができる。
【0047】
また、本実施の形態の搬送ライン2は、塗布部104を把持または吸着して電極板100を搬送する搬送機構14を有する。これにより、未塗布部106に皺が生じることを抑制でき、より安定的に電極板100を製造することができる。
【0048】
また、本実施の形態の製造装置1は、塗布部104における搬送機構14で把持または吸着される部分の、電極板100の搬送方向Aと直交する幅方向Bの寸法をa、塗布部104の幅方向Bの寸法をbとするとき、a/b≧0.4を満たす。これにより、未塗布部106に皺が生じることを抑制しながら、電極板100の搬送速度が低下することを抑制できる。
【0049】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明した。前述した実施の形態は、本開示を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施の形態の内容は、本開示の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された本開示の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。設計変更が加えられた新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態および変形それぞれの効果をあわせもつ。前述の実施の形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「本実施の形態の」、「本実施の形態では」等の表記を付して強調しているが、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。各実施の形態に含まれる構成要素の任意の組み合わせも、本開示の態様として有効である。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0050】
上述した実施の形態に係る発明は、以下に記載する項目によって特定されてもよい。
[項目1]
基材(102)の表面に電極活物質が塗布された塗布部(104)および基材(102)の表面に電極活物質が塗布されていない未塗布部(106)を有する電極板(100)を搬送し、
搬送される電極板(100)の塗布部(104)を圧縮し、
圧縮位置を終端とする上流側区間および圧縮位置を始端とする下流側区間の少なくとも一方において電極板(100)にかかる張力を低減することを含む、
電極板(100)の製造方法。
【符号の説明】
【0051】
1 製造装置、 2 搬送ライン、 4 圧縮ロール、 6 張力低減機構、 8 延伸機構、 14 搬送機構、 100 電極板、 102 基材、 104 塗布部、 106 未塗布部。