(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】尾腺油を含有する組成物およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
A23K 50/80 20160101AFI20221026BHJP
A23K 10/20 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20221026BHJP
A23K 10/22 20160101ALI20221026BHJP
A23K 10/30 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/142 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/20 20160101ALI20221026BHJP
A23K 40/30 20160101ALI20221026BHJP
A23K 40/10 20160101ALI20221026BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20221026BHJP
【FI】
A23K50/80
A23K10/20
A23K20/158
A23K10/22
A23K10/30
A23K20/147
A23K20/142
A23K20/174
A23K20/20
A23K40/30 A
A23K40/10
A23K20/163
(21)【出願番号】P 2020217885
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2018542678の分割
【原出願日】2016-10-26
【審査請求日】2021-01-14
(32)【優先日】2015-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506097988
【氏名又は名称】ウィスコンシン アルムニ リサーチ ファンデイション
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クック,マーク イー.
(72)【発明者】
【氏名】サンド,ジョーダン
(72)【発明者】
【氏名】オルソン,ジェイク エム.
(72)【発明者】
【氏名】バリー,テレンス ピー.
【審査官】竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-185714(JP,A)
【文献】特表2006-508038(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/00 - 50/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成長中の魚に給餌する方法であって、
成長中の魚において生存率を改善するおよび/または成長を刺激する有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を前記成長中の魚に与えること
を含み、
前記精製尾腺油は16:0、18:0、18:1のC9、19:0、18:2および20:0の脂肪酸を含有する
方法。
【請求項2】
前記魚飼料組成物は、w/wベースで0.01から10重量%の精製尾腺油を含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記魚は水産養殖されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記魚は鰭魚または甲殻類である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記魚は、コイ、ティラピア、ハイブリッドストライプバス、サケ、マス、ナマズ、イエローパーチ、ウォールアイ、タラ、スギ、スズキ、マグロ、
またはヒラメである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記成長中の魚における成長は、成長中の魚の集団の平均長である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記成長中の魚は仔魚または稚魚である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記魚飼料組成物は、w/wベースで0.01から10重量%の精製尾腺油を含有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記魚は水産養殖されている、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記魚は鰭魚または甲殻類である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記魚は、コイ、ティラピア、ハイブリッドストライプバス、サケ、マス、ナマズ、イエローパーチ、ウォールアイ、タラ、スギ、スズキ、マグロ、
またはヒラメである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記成長中の魚における成長は、成長中の魚の集団の平均長である、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
養殖中の魚における低酸素症の危険性を低減する方法であって、養殖中の魚における低酸素症の危険性を低減する有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を前記魚に与えることを含み、
前記精製尾腺油は16:0、18:0、18:1のC9、19:0、18:2および20:0の脂肪酸を含有する
方法。
【請求項14】
前記魚飼料組成物は、w/wベースで0.01から10重量%の精製尾腺油を含有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記魚は鰭魚または甲殻類である、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記魚は、コイ、ティラピア、ハイブリッドストライプバス、サケ、マス、ナマズ、イエローパーチ、ウォールアイ、タラ、スギ、スズキ、マグロ、
またはヒラメである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記魚は仔魚または稚魚である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
0.01から10重量%の精製尾腺油と、
基礎養殖魚飼料組成物と
を含有し、
前記精製尾腺油は16:0、18:0、18:1のC9、19:0、18:2および20:0の脂肪酸を含有する養殖魚飼料組成物。
【請求項19】
前記基礎養殖魚飼料組成物は、魚粉、大豆粉、野菜粉、トウモロコシ粉またはこれらの組合せを含有する、請求項
18に記載の養殖魚飼料組成物。
【請求項20】
前記基礎養殖魚飼料組成物は、必須アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ミネラル、炭水化物、脂肪、油およびこれらの組合せをさらに含有する、請求項
18に記載の養殖魚飼料組成物。
【請求項21】
0.1から99重量%の精製尾腺油と、食用成分とを含有し、前記精製尾腺油は16:0、18:0、18:1のC9、19:0、18:2および20:0の脂肪酸を含有する養殖魚飼料添加物組成物。
【請求項22】
フレーク、ペレットまたは錠剤の形態の請求項
18に記載の養殖魚飼料組成物。
【請求項23】
前記精製尾腺油は、前記養殖魚飼料組成物全体に実質的に均一に分布する請求項
18に記載の養殖魚飼料組成物。
【請求項24】
前記精製尾腺油は、前記養殖魚飼料組成物上にトップドレッシングによって添加される請求項
18に記載の養殖魚飼料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[連邦支援の研究開発に関する記述]
本発明は、USDA/NIFAによって授与された18-CRHF-0-6055の下で政府の支援を得て為された。政府は本発明に一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、天然に存在する油、特に食品および飼料組成物の経口投与のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ほとんどの鳥の尾の付け根に認められる尾腺(または尾脂腺)からの滲出物は、羽繕いの際に羽毛に分泌される。尾腺滲出物は、脂質画分ならびにタンパク質、無機塩および細胞フラグメントを含む非脂質画分を有する。脂質画分(本明細書では尾腺油と称する)は、モノエステル、ジエステルおよびトリエステルワックス(1つ、2つまたは3つのエステル結合を含む長鎖炭素分子)で構成される。シチメンチョウ尾腺から単離された尾腺油は、例えば脂肪酸C10:0、C12:0、C14:0、C16:0、C17:0、C18:0、C19:0およびC20:0を含むことが示されている。インビトロアッセイは、C19:0(19:0またはノナデカン酸)が抗炎症、抗腫瘍および増殖性細胞阻害作用の可能性を有することを示唆している。
【0004】
医学および畜産農業において健康上の利益を有する天然物質への関心が高まっている。尾腺は、動物処理からの分離組織(STFAP)に含まれる。現在、STFAPは、食肉の採取および処理の間に廃棄されるかまたは他の廃棄物と一緒にされて、廃棄物および副産物のより大きな流れから分離され得る。動物組織からの油は、機械的手段(解体)によって容易に除去し、溶媒を用いて抽出することができる。したがって、さもなければ動物処理の廃棄物流の一部となる尾腺からの尾腺油を単離し、精製尾腺油の用途を特定することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒトおよび動物において健康上の利益を提供するための尾腺油などの天然物質の使用方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、慢性炎症の治療を必要とする個体を処置する方法は、治療有効量の精製尾腺油を含有する組成物を個体に経口投与することを含む。
【0007】
別の態様では、食品または飼料組成物は、0.01から10重量%の精製尾腺油および基礎食品組成物を含有する。0.1から99重量%の精製尾腺油を含有する食品または飼料添加物組成物も本明細書に含まれる。
【0008】
別の態様では、成長中の魚に給餌する方法は、成長中の魚において生存率を改善するおよび/または成長を刺激するために有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を成長中の魚に与えることを含む。
【0009】
別の態様では、水産養殖において魚の低酸素症の危険性を低減させる方法は、水産養殖において魚の低酸素症の危険性を低減させるために有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を魚に与えることを含む。
【0010】
さらに別の態様では、養殖魚飼料組成物は、0.01から10重量%の精製尾腺油および基礎養殖魚飼料組成物を含有する。0.1から99重量%の精製尾腺油を含有する養殖魚飼料添加物組成物も本明細書に含まれる。
【0011】
さらに別の態様では、水産養殖における飼料としての使用のための生餌生物に給餌する方法は、生餌生物の尾腺油脂質含量を増加させるために有効量の精製尾腺油を含有する食餌を生餌生物に与えることを含む。
【0012】
さらなる態様では、医薬組成物は、0.1から99重量%の精製尾腺油および薬学的に許容される賦形剤を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、産卵鶏および若齢ブロイラーの尾腺から精製した尾腺油の脂肪酸含量を示す。
【0014】
【
図2】
図2は、3%トウモロコシ油と比較して3%尾腺油を補給したマウスの63日間にわたる臨床関節炎スコアを示す。
【0015】
【
図3】
図3は、3%トウモロコシ油と比較して3%尾腺油を補給したマウスの63日間にわたる関節炎重症度の低下を示す。
【0016】
【
図4】
図4は、3%トウモロコシ油および3%尾腺油のマウス食餌に関する飼料脂肪酸組成を示す。
【0017】
【
図5】
図5は、非関節炎マウス、3%キャノーラ油を補給した関節炎マウス、および3%尾腺油を補給した関節炎マウスにおけるマウスの足のIL-1βを示す。
【0018】
【
図6】
図6は、非関節炎マウス、3%キャノーラ油を補給した関節炎マウス、および3%尾腺油を補給した関節炎マウスにおけるマウスの足のIL-6を示す。
【0019】
【
図7】
図7は、3%キャノーラ油食餌または3%尾腺油食餌のいずれかを与え、週に1回体重を測定した、8週齢の体重一致マウスの63日間にわたる平均マウス体重増加を示す。
【0020】
【
図8】
図8は、ファットヘッドミノー仔魚の成長への2%食餌尾腺油の効果を示す。
【0021】
【
図9】
図9は、ファットヘッドミノー仔魚の生存率への2%食餌尾腺油の効果を示す。
【0022】
【
図10】
図10は、急性低酸素症に罹患した稚魚ウォールアイの生存率を示す。
【発明の詳細な説明】
【0023】
上記および他の特徴は、以下の詳細な説明、図面および添付の特許請求の範囲から当業者に認識され、理解される。
【0024】
ヒトおよび動物において健康上の利益を提供するために精製尾腺油を経口投与する方法を本明細書で述べる。経口投与した尾腺油の健康上の利益はこれまで報告されていなかった。意外にも、精製尾腺油の経口投与は動物において抗炎症および他の健康上の利益を有することが本発明で発見された。一態様では、経口投与した精製尾腺油は、疾患関連慢性炎症を低減する。別の態様では、経口投与した精製尾腺油は、関節リウマチ(RA)に関連するもののような慢性関節炎症を低減する。さらに別の態様では、仔魚および成長中の魚、特に水産養殖で飼育している魚への精製尾腺油の経口投与は、死亡率の低下、健康状態の改善および成長の増大をもたらす。
【0025】
本明細書で使用する場合、精製尾腺油は、ニワトリおよびシチメンチョウなどの家禽の尾腺から単離された脂質と定義される。精製尾腺油は、タンパク質、無機塩および細胞フラグメントを含有する尾腺滲出物の非脂質画分を実質的に含まない。実質的に含まないとは、尾腺油が約61重量%未満の非脂質成分、特に約50重量%未満の非脂質成分、より詳細には約20重量%未満の非脂質成分を含むことを意味する。供給源および精製方法に依存して尾腺油の組成には多少の変動があるが、一般に、尾腺油は6:0、7:0、8:0、9:0、10:0、11:0、12:0、13:0、14:0、15:0、16:0、17:0、18:0、18:1のC9、19:0、18:2および20:0の脂肪酸を含有する。
【0026】
一態様では、慢性炎症の治療を必要とする個体を処置する方法は、治療有効量の精製尾腺油を含有する組成物を個体に経口投与することを含む。本明細書で使用する場合、慢性炎症は急性または損傷関連ではなく、炎症性サイトカインIL-1およびIL-6の調節不全に関連する。尾腺油の投与によるIL-1およびIL-6の阻害は広範な抗炎症効果をもたらす。一態様では、慢性炎症は、炎症性サイトカインIL-1およびIL-6の阻害が疾患関連慢性炎症を低減する疾患に関連する。別の態様では、慢性炎症は、一般に数週間、さらには数年間続く疼痛に関連する慢性関節炎症、または自然老化過程に関連する慢性関節炎症である。さらにより具体的な態様では、慢性炎症は、関節炎などの慢性関節炎症に関連する疾患に関連する。
【0027】
本発明の方法の範囲内の個体には、哺乳動物ならびに魚類および鳥類などの非哺乳動物が含まれる。哺乳動物には、例えばヒト、イヌ、ウマ、ブタおよびウシが含まれる。
【0028】
炎症性サイトカインIL-1およびIL-6の阻害が疾患関連慢性炎症を低減するヒト疾患には、自己炎症性症候群、例えばクリオピリン関連周期熱症候群(CAPS)、家族性地中海熱(FMF)、シュニッツラー症候群、成人発症スティル病(aoSD)、抗ARS抗体症候群、再発性多発軟骨炎、家族性寒冷自己炎症性症候群(FACS、FCAS2)、マックル・ウェルズ症候群(MWS)、皮膚筋炎(DM)、多発性筋炎(PM)、封入体筋炎(IBM)、壊死性自己免疫性ミオパチー(NAM)、炎症性腸疾患(IBD)、梗塞後炎症、TNF受容体関連周期性症候群(TRAPS)、全身性自己炎症性疾患(SAID)、NOMID/CINCA、PFAPA(アフタ性口内炎、咽頭炎および腺炎を伴う周期性発熱)症候群、再発性特発性心膜炎、モラレ症候群、遅延性圧蕁麻疹、壊疽性膿皮症・ざ瘡(PAPA)症候群、Il-1受容体アゴニスト欠損症(Il-1 RA)(DIRA)、マジード症候群、CARD14媒介乾癬(CAMPS)、インターロイキン36受容体アンタゴニスト欠損症(DITRA)、ブラウ症候群、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、滑膜炎、ざ瘡、膿疱症、骨化過剰症・骨炎(SAPHO)症候群、HLA-B27脊椎関節症、スイート症候群、汎発性膿疱性乾癬、アロポー先端皮膚炎、中條-西村症候群、関節拘縮、筋萎縮、小球性貧血・脂肪異栄養症誘因性脂肪織炎(JMP)症候群、脂肪異栄養症および発熱を伴う慢性非典型的好中球性皮膚疾患(CANDLE)症候群、早期発症型炎症性腸疾患、好中球性脂肪織炎、結節性紅斑性脂肪織炎、クローン病、マクロファージ活性化症候群(MAS)、家族性血球貪食性リンパ組織球症、ならびにキャッスルマン病が含まれる。
【0029】
ヒトにおける慢性関節炎症は、例えば関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス、反応性関節炎、ループス関節炎、シェーグレン症候群に関連する関節炎、全身発症若年性特発性関節炎(SOJIA)、痛風、偽痛風、変形性関節症、乾癬性関節炎、炎症性腸疾患に関連する末梢関節炎症、強直性脊椎炎、反応性関節炎、加齢に伴う関節変性または慢性ライム病に関連する。一態様では、個体はヒト個体である。
【0030】
ヒトにおける慢性炎症の治療のために経口投与する精製尾腺油の治療有効量は、1日当たり0.001から100g、特に1日当たり0.025から25gである。一態様では、尾腺油を1日当たり25mg以上の量でヒトに経口投与する。尾腺油は食用として安全であるので、より高い範囲に関連する毒性はないはずである。より高い範囲は組織へのより迅速な取り込みのために好ましく、低い範囲は長期的使用のために好ましい。
【0031】
別の態様では、個体は、イヌなどのペット動物、またはウシなどの家畜動物である。イヌ、ウマ、ブタおよびウシは、変形性関節症、軟骨形成異常症、関節炎、骨軟骨症、脊椎症、椎間板疾患、椎間板脊椎炎、変性関節症、股関節形成異常および慢性蹄葉炎などの慢性炎症に関連する疾患に罹患する。イヌは関節炎に起因する慢性関節炎症に罹患することが公知であり、ブタ、ウマおよびウシは跛行による慢性関節炎症に罹患する。イヌおよびウシにおける慢性炎症の治療のために経口投与する精製尾腺油の治療有効量は、1日当たり0.0001から450g、特に1日当たり0.001から145gである。これらの範囲は代謝スケーリングに基づくもので、下端は1Kgのイヌについての最小レベルであり、上端は750Kgのウシについての範囲である。特定の態様では、精製尾腺油を1日当たり1mg以上の量で経口投与する。
【0032】
精製尾腺油の経口投与のための例示的な組成物には、以下でより詳細に説明する、医薬組成物ならびに栄養補助食品組成物などの食品組成物が含まれる。
【0033】
軽度の慢性炎症は、RAなどのヒトの健康に影響を及ぼす多くの疾患の根底にあり、世界中でほとんどが診断未確定であり、きちんと治療されないままである。理論に拘束されるものではないが、精製尾腺油中で認められるような脂肪酸は、経口摂取後に体細胞および組織に蓄積すると考えられ、したがって精製尾腺油は、RAにおける関節破壊などの、慢性関節炎症を含む慢性炎症の損傷作用を低減するための有効な経口治療であると予測される。
【0034】
具体的には、食餌精製尾腺油の抗炎症効果を、炎症性サイトカインIL-1およびIL-6の調節不全に関連する慢性炎症のモデルで検討した。コラーゲン誘導関節炎モデルを用いて9週間にわたって慢性炎症を起こしている関節炎マウスを使用した。実施例に示すように、この前臨床動物試験からの結果は、経口抗炎症薬としての精製尾腺油の有効性を実証する。あらゆる種類の慢性炎症および慢性炎症に関連する疾患、より詳細には関節炎などの慢性関節炎症の治療に関しても同様の結果が期待される。
【0035】
さらに、精製尾腺油を含有する飼料/食品組成物および飼料/食品添加物も本明細書に含まれる。本明細書で使用する場合、「食品組成物」および「食品添加物」という用語は、ヒトによる摂取用の組成物を指し、「飼料組成物」および「飼料添加物」は、動物による摂取用の組成物を指す。
【0036】
一態様では、食品または飼料組成物は、0.001から50重量%、特に0.01重量%から10重量%、より詳細には0.1重量%から5重量%の精製尾腺油を含有し、食品組成物は基礎食品組成物を含有し、ヒトによる摂取に適しており、飼料組成物は基礎飼料組成物を含有し、動物による摂取に適している。一態様では、基礎食品または飼料組成物は、栄養的に完全な食品または飼料組成物である。
【0037】
本明細書で使用する場合、「食物」および「飼料」という用語は、ヒトまたは動物に栄養分を与えるために使用される液体または固体の物質を広く意味する。飼料組成物は、例えば、新生児または若齢および発育中の動物を含む動物の正常なまたは加速された成長を維持するために使用される。これらの用語は、ヒトまたは動物による経口摂取に適した化合物、製剤、混合物または組成物を含む。飼料は、例えば、ウシ、ウマ、ヒツジおよびヤギなどの草食性哺乳動物、魚および家禽、またはペット動物に適する。食品/飼料組成物は、基礎食品/飼料組成物および1つ以上の食品/飼料添加物を含有する。「基礎食品/飼料組成物」という用語は、本明細書で述べる精製尾腺油と組み合わせることができる食品/飼料組成物を指す。本明細書で使用する「飼料/食品添加物」という用語は、栄養素、刺激剤、薬剤によって基本的な飼料/食品の栄養価を高める目的で、または飼料摂取を促進するまたは代謝を変化させるために少量含まれる成分を指す。原則として、飼料/食品添加物は、基礎飼料/食品組成物の重量に基づき0.01から10重量%の量で基礎飼料/食品組成物に添加される。飼料/食品添加物には、生物学的組成物のプレミックス、または本開示では、精製尾腺油および場合により少なくとも1つのさらなる食用成分を含有する組成物が含まれる。
【0038】
基礎飼料組成物には、タンパク質源、穀物、香味料組成物、ビタミン、ミネラル、防腐剤およびこれらの組合せなどの成分が含まれ得る。基礎飼料組成物は標的動物による摂取に適し得る。
【0039】
動物飼料には、ビタミン、ミネラル、抗生物質、脂質、炭水化物、タンパク質、酸化防止剤およびアミノ酸を含む任意の成分がさらに含まれ得る。
【0040】
例示的なビタミンには、ビタミンA、ビタミンB、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKが含まれる。例示的なミネラルには、カルシウム、リン、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、塩素、コバルト、ヨウ素、鉄、マンガン、銅、モリブデン、亜鉛およびセレンが含まれる。家禽飼料で使用される一般的なミネラル補給剤には、例えば石灰石、骨粉、カキ殻、塩化ナトリウム、リン酸二カルシウム、硫酸マンガン、ヨウ化カリウムおよび過リン酸塩が含まれる。
【0041】
いくつかの実施形態では、1つ以上の抗生物質を飼料添加物と共に動物飼料に含め得る。例示的な抗生物質には、ペニシリン、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、バシトラシン亜鉛およびオーレオマイシンが含まれる。
【0042】
例示的な脂質には、植物または動物に由来する油糧種子、油および脂質が含まれる。油糧種子、油および脂質の供給源には、トウモロコシ、大豆、綿、ルーピン、落花生、ヒマワリ、キャノーラ、ゴマ油、オリーブ油、コプラおよびココナツ油、パーム核油およびヤシ油、カゼイン、乳脂肪、豚脂、魚油、亜麻仁油、マグロ油、獣脂および黄色油脂、ならびにこれらの混合物が含まれる。
【0043】
例示的な炭水化物には、デンプン、セルロース、ペントサン、他の複合炭水化物、トウモロコシ、ミロ、オオムギ、ライムギ、オートムギ、小麦、小麦ミドリング粉および様々な穀物副産物が含まれる。
【0044】
例示的なタンパク質源には、肉粉または魚粉、液状または粉末卵、フィッシュソリュブル、乳清、乳タンパク質、米、ミロ、キビ、トウモロコシ、オートムギ、オオムギ、小麦、ライムギ、小麦ふすまおよび/またはミドリング粉、大豆、ゴマ種子、エンドウ豆およびインゲン豆、ヒマワリ種子、小麦胚芽、アルファルファ種子、亜麻仁、酵母、ミミズならびに魚から得られるタンパク質が含まれる。
【0045】
例示的なアミノ酸には、アルギニン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリン、塩酸エチルチロシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、プロリン、セリン、塩酸エチルシステイン、ならびにこれらの類似体および塩が含まれる。
【0046】
例示的な酸化防止剤には、β‐カロテン、ビタミンE、ビタミンCおよびトコフェロール、または合成酸化防止剤が含まれる。
【0047】
別の態様では、基礎食品組成物および精製尾腺油を含有する、ヒトへの投与に適した食品組成物が本明細書に含まれる。本明細書で使用する「食品」または「食品生産物」という用語は、ヒトによる摂取に適した食品を指す。「食品生産物」は、加工調理され、包装された食品(例えば牛乳、ヨーグルトまたはチーズ)であり得る。食品生産物には加工調理済み食品が含まれる。「加工調理済み食品」とは、ヒトの摂取に関して認可されている予め包装された食品を意味する。
【0048】
例示的な食品生産物は、粉末、液体濃縮物、バーまたはシェイクなどの栄養補助食品である。粉末および濃縮物は、摂取のために水または牛乳などの液体に添加することができる。精製尾腺油に加えて、栄養補助食品は、ビタミン、ミネラル、アミノ酸およびタンパク質源などのさらなる成分を含有し得る。
【0049】
別の態様では、機能性食品または飼料添加物組成物は、0.001重量%から99重量%、特に0.01重量%から95重量%の精製尾腺油を含有し、機能性食品添加物組成物は、基礎機能性食品添加物組成物を含有し、ヒトによる摂取に適しており、機能性飼料添加物組成物は、基礎機能性飼料添加物組成物を含有し、動物による摂取に適している。100%精製尾腺油食品または飼料添加物組成物は、例えばカプセルの形態であり得る。本明細書で使用する場合、機能性食品/飼料添加物は、食品自体として摂取されることはないが、栄養価を与えるまたは維持するために食品に添加される機能性食用物質である。基本的に、機能性食品/飼料添加物は、食品または飼料組成物の特性または動物の健康状態を改善するために食品または飼料組成物に直接添加される栄養補助食品である。基礎機能食品/飼料添加物には、ビタミン、ミネラル、酵素、精油、酸味料、プレバイオティクス、プロバイオティクス、植物性製品、酵母および酵母画分、ならびに担体が含まれる。
【0050】
別の態様では、尾腺油を含有する医薬組成物が本明細書に含まれる。例えば、医薬組成物は、0.001から99重量%、特に0.1重量%から99重量%の精製尾腺油および薬学的に許容される賦形剤を含有する。
【0051】
経口投与用の錠剤およびカプセル剤は単位用量形態であってよく、従来の賦形剤、例えば結合剤、例えば糖蜜アカシア、ゼラチン、ソルビトール、トラガカントもしくはポリビニルピロリドン;充填剤、例えば乳糖、砂糖、トウモロコシデンプン、リン酸カルシウム、ソルビトールもしくはグリシン;錠剤化潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールもしくはシリカ;崩壊剤、例えばジャガイモデンプン、またはラウリル硫酸ナトリウムなどの許容される湿潤剤を含有し得る。錠剤は、通常の製薬実務で周知の方法に従って被覆し得る。経口液体製剤は、例えば水性または油性懸濁液、溶液、乳剤、シロップまたはエリキシルの形態であり得るか、または使用前に水もしくは他の適切なビヒクルで再構成するための乾燥製品として提供され得る。このような液体製剤は、従来の添加物、例えば懸濁化剤、例えばソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水素化食用脂肪;乳化剤、例えばレシチン、モノオレイン酸ソルビタンまたはアカシア;非水性ビヒクル(食用油を含み得る)、例えば扁桃油、分留ココナツ油、グリセリン、プロピレングリコールまたはエチルアルコールなどの油性エステル;防腐剤、例えばp-ヒドロキシ安息香酸メチルもしくはプロピルまたはソルビン酸、および所望する場合は従来の香味剤または着色剤を含有し得る。
【0052】
別の態様では、成長中の魚に給餌する方法は、成長中の魚において生存率を改善するおよび/または成長を刺激する有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を成長中の魚に与えることを含む。本明細書で使用する場合、魚という用語は、鰭魚およびエビなどの甲殻類を含む。成長中の魚という用語は、長さと重量が時間と共に増加している魚を意味する。例示的な成長中の魚は、仔魚および稚魚である。魚の成長および生存を改善するための新しい方法、特に生存および/または成長を改善することができ、魚飼料製造工程に対して安定である魚飼料用の添加物が必要とされている。成長は、集団における魚の平均長などの、魚の長さとして測定することができる。
【0053】
具体的な態様では、魚は水産養殖されている。本明細書で使用する場合、水産養殖とは、制御された条件下での水生生物の能動的飼育を意味する。水産養殖システムは、飼育のための媒体として水を使用する。水産養殖システムは、飼育する生物を養うための清潔で酸素添加された水ならびに脱酸素化された水と廃棄物を除去する手段を提供しなければならない。本明細書で使用する場合、水産養殖には海水養殖および淡水養殖の両方が含まれる。典型的な水産養殖システムは、保持タンクならびにろ過、溶存ガス制御および温度制御のための手段を含む。水産養殖は、典型的には飼育動物の必要栄養量を満たす調製済み養殖飼料組成物を必要とする。
【0054】
基礎養殖魚飼料組成物は、例えば、魚粉などのタンパク質源を含有する。魚粉を製造するための魚を確保する問題および魚に給餌するための魚資源の枯渇により、魚飼料に他のタンパク質を補給する試みが為されている。大豆タンパク質は、基礎魚飼料中のタンパク質源として一般的に使用されるが、大豆タンパク質は腸炎を誘発し、炎症性サイトカインを増加させる。これらのサイトカインは、食餌摂取および成長の低下に結びつく。研究者達は、特定の代替的魚飼料の炎症誘発作用に対抗する方法を見つけようと試みている。水産養殖のための魚飼料組成物中で精製尾腺油を使用することの利点は、成長を低下させることが公知の炎症誘発過程を減少させ、大豆タンパク質などの一般的に利用可能なタンパク質源の負の作用を低減できることである。
【0055】
水産養殖適用のための高価値の魚(例えばコイ、ティラピア、ハイブリッドストライプバス、サケ、マス、ナマズ、イエローパーチ、ウォールアイ;タラ、スギ、スズキ、マグロおよびヒラメなどの海産種;ならびにエビ、ホタテ貝およびカキなどの甲殻類)は、仔魚の成長が遅く、死亡率が高い可能性があり、これが水産養殖産業の拡大を遅らせている。特に、仔魚段階で95%までの高い死亡率が存在し得る。胃腸管の炎症は、魚種の成長を遅らせることが示されている。魚の成長を改善する新しい方法が必要である。精製尾腺油は、魚飼料またはペレット形成前もしくは形成後の魚飼料に添加することができ、食餌に添加するかまたは魚飼料中の脂質の一部に代えて添加することができる。
【0056】
本明細書で述べる実験では、仔魚および魚の食餌ペレットを、対照として使用するかまたは2%尾腺油で被覆した。魚にそれぞれ4つのタンクで2つの食餌を与え、成長を長さの増加によって測定した。実験を30日間継続した。尾腺油を給餌した仔魚は、成長が27%増加した(P=0.02)。さらに、尾腺油は低酸素状態にさらされた魚の生存率を改善し、尾腺油がストレスに対する魚の感受性を低下させ、飼育中の生存の可能性を高めることを実証する。
【0057】
別の態様では、精製尾腺油を含む食餌は、低酸素状態にさらされた養殖中の魚における低酸素症を低減することが見出された。養殖中の魚における低酸素症の危険性を低減する方法は、養殖中の魚における低酸素症の危険性を低減する有効量の精製尾腺油を含有する魚飼料組成物を魚に与えることを含む。一態様では、魚は低酸素状態にさらされたことがあるかまたは低酸素状態にさらされる危険性がある。低酸素症は、水産養殖、特に魚が高密度で育てられることが多い池中養殖における公知の問題である。池の藻類が光合成している日中は、典型的には池に十分な酸素が存在する。しかし、夜になると、藻類が呼吸し始め、酸素レベルが劇的に低下し得る。一部または全部の魚が低酸素症のためにしばしば一晩で死亡し、これが、多くの商業養殖施設が一晩中池に酸素を送り込むためのエアレータに頼る理由である。水産養殖における低酸素症から魚を保護する尾腺油の能力は重要な発見である。
【0058】
一態様では、魚飼料組成物は、w/wベースで0.01重量%から10重量%、特に0.1重量%から2重量%精製尾腺油のおよび基礎魚飼料組成物を含有する。より具体的な態様では、精製尾腺油および基礎養殖魚飼料組成物を含有する養殖魚飼料組成物が本明細書に含まれる。養殖魚飼料組成物は、0.01重量%から10重量%、特に0.1重量%から2重量%の精製尾腺油を含有する。基礎魚飼料または養殖魚飼料組成物中の典型的な成分には、魚粉、大豆ミールまたは野菜/トウモロコシ粉に基づくタンパク質および炭水化物が含まれ、必須アミノ酸、タンパク質、ペプチド、ビタミン、ミネラル、炭水化物、脂肪、油およびこれらの組合せが補給され得る。ビタミンには、A、E、K、D3、B1、B3、B6、B12、C、ビオチン、葉酸、パントテン酸、ニコチン酸、塩化コリン、イノシトールおよびパラアミノ安息香酸が含まれる。ミネラルには、カルシウム、コバルト、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、リン、カリウム、セレンおよび亜鉛の塩が含まれる。他の成分には、酸化防止剤、β-グルカン、胆汁酸塩、コレステロール、酵素、グルタミン酸ナトリウム等が含まれ得るが、これらに限定されない。基礎養殖魚飼料組成物は、一般に養殖種のための栄養的に完全な食餌を形成するフレーク、ペレットまたは錠剤の形態の調製物である。精製尾腺油は、養殖魚飼料組成物全体に実質的に均一に分布するように養殖魚飼料組成物の製造中に添加することができ、または、例えばトップドレッシングによって、予め調製された基礎養殖魚飼料組成物に添加することができる。
【0059】
他の態様では、大豆を基礎魚飼料組成物中のタンパク質源として使用する。大豆粉、大豆フレークおよび脱脂大豆の形態の大豆は、一般に、それらの比較的高い抗原性に起因して養殖魚の好まない不快な臭いを有し得る。精製尾腺油を含有する魚飼料組成物は、魚飼料組成物中でより多量の大豆タンパク質を使用することを可能にし得る。
【0060】
海産仔魚の生産成功のために十分な量の脂質を提供することの重要性は当技術分野で公知である。仔魚の生存、成長および変態を確実に成功させるために、天然では特定の長鎖多価不飽和脂肪酸および高度不飽和脂肪酸を欠く、海産仔魚生産のために使用される2つの主要な生餌、ワムシおよびアルテミア(Artemia)(ブラインシュリンプナウプリ)を補給しなければならない。生餌補給のための長鎖多価不飽和脂肪酸の主な供給源は魚油である。飽和および一不飽和脂肪酸も、魚の栄養素を生み出す主要なエネルギーとして同定されている。米国特許第7,063,855号は、生餌の高度不飽和脂肪酸含量を改善するために養殖餌生物に脂質を給餌することを記載している。
【0061】
精製尾腺油、例えば0.1から99重量%の精製尾腺油を含有する養殖魚飼料添加物組成物も本明細書に含まれる。養殖魚飼料添加物は、場合により精製尾腺油に加えて食用成分を含む。
【0062】
魚に精製尾腺油を含有する飼料を与える代わりに、精製尾腺油を含有する食餌を与えた生餌生物を魚に与えることができる。一態様では、水産養殖における飼料として使用するための生餌生物に給餌する方法は、生餌生物の尾腺油脂質含量を増加させる有効量の精製尾腺油を含有する食餌を生餌生物に与えることを含む。一態様では、生餌生物の食餌は、食餌の総重量に基づき0.1重量%から50重量%、特に1重量%から10重量%の精製尾腺油を含有する。別の態様では、精製尾腺油を与えられた生餌生物の尾腺油脂肪酸含量は、生餌の全脂肪酸の0.01から10%である。
【0063】
別の態様では、仔魚または稚魚などの成長中の魚に給餌する方法は、生餌生物の尾腺油脂質含量を増加させる有効量の精製尾腺油を含有する食餌を与えた生餌生物を成長中の魚に与えることを含む。一態様では、成長中の魚は水産養殖されている。生餌生物の食餌中の精製尾腺油の量は、食餌の総重量に基づき0.1重量%から50重量%、特に1重量%から10重量%の精製尾腺油を含む。生餌生物には、アルテミア、ワムシおよび動物プランクトンが含まれる。生餌生物の食餌は、本明細書で述べる基礎魚飼料組成物と同様の成分を含有し得る。
【0064】
本発明を以下の非限定的な実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0065】
実施例1:尾腺からの尾腺油の精製
産卵鶏およびブロイラーの尾から、機械的手段を用いて尾腺を切除し、切開して、腺内容物を取り出した。尾腺脂質を、80℃の内部温度に加熱し、3,000×gで40分間遠心分離して腺内容物から抽出し、画分を、薄層クロマトグラフィおよびガスクロマトグラフィ(GC)を用いて脂肪酸組成に関して分析した。産卵鶏から単離された尾腺油の量は、尾腺当たり0.09から0.79gまでの幅があった。ブロイラーから単離された尾腺油の量は、尾腺当たり0.05から0.21gまでの幅があった。精製尾腺油の脂肪酸含量を
図1に示す。
【0066】
尾腺油をシチメンチョウ尾腺からも単離し、尾腺油の量を表1に示す。
【表1】
実施例2:コラーゲン誘導関節炎マウスモデルにおける精製尾腺油の抗炎症活性
方法:
【0067】
コラーゲン誘導関節炎モデル.4週齢の雄性DBA/1マウス(n=72)を購入し(Harlan,Indianapolis,IN)、12時間・12時間の明暗サイクルで靴箱ユニット(1箱当たり3匹のマウス)に収容した。マウスには、7日間の環境順化期間中、標準的なげっ歯動物食(8604、Harlan、24.5%タンパク質、4.4%脂肪、46.6%無窒素抽出物)を与えた。順化期間後、マウスを、3%トウモロコシ油(CO)を主要食餌脂肪(3%CO添加後、栄養的に100%完全)として補給した、97%完全なカゼインベースの半精製食(AIN-76A食;TD140724に基づく)に切り替えた。COは、複数のコラーゲン誘導関節炎試験において基準食餌脂質源として使用されている。いくつかの試験では、キャノーラ油(CA)がトウモロコシ油の代わりに使用された。
【0068】
CO食で3週間維持した後、マウスを以前に記載されているように免疫して関節炎を誘導した。簡単に述べると、8週齢のマウスを、完全フロイントアジュバント(4mg/mlヒト型結核菌(M.tuberculosis)H37RA)で乳化したニワトリII型コラーゲン(tIIc、Chondrex,Redmond,WA、n=45)または0.05M酢酸(非関節炎シャム、n=27)に対する免疫化のために無作為に2群に分けた。3週間後のブースター注射後、マウスを関節炎の臨床徴候に関して毎日観測した(臨床関節炎スコア参照)。過度の取り扱いを防止するため、診断後週に3回、関節炎マウスの重症度を評価した。
【0069】
ケージ内の最初のマウスが関節炎の陽性臨床徴候を発症したとき(0日目と指定する)、このマウスを(1)3%CO食、(2)3%CA食または(3)3%尾腺油食のいずれかに無作為に割り当てた。関節炎の発症は予測不能に起こるため、食餌療法は発症後にのみ開始した。具体的には、ボックス内の最初の関節炎マウスを新しいケージでの食餌療法に無作為に再割り当てした。元のケージ内の残りのマウスは、関節炎の発症後にのみ新しいケージに移動させた。関節炎マウスおよび偽免疫化マウス(CO食で維持した)に、63日間食餌療法を継続した。食餌療法期間を通して、臨床関節炎スコア(以下に記載)をマウス1匹につき週に3回観測した。さらに、足厚の測定値(以下に記載)を、関節炎の発症時および発症後、週に1回記録した。
【0070】
臨床関節炎スコア.以前に詳述されているように、処置に対して盲検化された熟練した観察者が週に3回マウスを検査した。個々の足に、以下の基準に基づいてスコアを割り当てた:0=正常:炎症なし;1=軽度:足首もしくは手根の明確な発赤および腫れ、または罹患した指の数に関わらず、個々の指に限定された明らかな発赤および腫れ;2=中等度:足首および手根の発赤および腫れ;3=指を含む足全体の重度の発赤および腫れ;4=複数の関節を含む、最大限に炎症を起こした肢。4つの足全部の合計を計算し、2名の観察者の間で平均して、「臨床関節炎スコア」として報告した。
【0071】
足厚の測定.関節炎の発症直後およびその後週に1回、個々の足厚を、臨床関節炎スコアの補助として感圧式キャリパー(SPI,Garnden Grove,CA)を用いて記録した。
【0072】
足組織の調製.マウスを放血によって安楽死させた直後の63日目に、前肢および後肢を採取し、液体窒素中で急速凍結して、別々に計量し、次いで液体窒素下で粉砕した。全タンパク質を、10:1v/wの緩衝液対足組織で、以下のプロテアーゼ:AEBSF(1mM)、アプロチニン(800nM)、ベスタチン(50μM)、E64(15μM)、ロイペプチン(20μM)、ペプスタチンA(10μM)およびEDTA(5mM)を含むHalt(商標)プロテアーゼ阻害剤カクテル(Thermo,Rockford,IL)と共にT-PER(登録商標)組織タンパク質抽出試薬を用いた組織均質化によって抽出した。試料を氷上で1時間インキュベートし、3,000RPMで4℃にて10分間遠心分離した。上清を回収し、16,000×gで4℃にて45分間遠心分離した。最上部の脂質層を避けて、上清を収集し、-80℃で保存した。サイトカイン定量の前に、BCAタンパク質アッセイ(Thermo,Rockford,IL)を用いて総タンパク質含量を測定した。試料を1mg/ml未満の最終タンパク質濃度に希釈した。
【0073】
サイトカイン分析.マウスBio-Plex Pro(商標)サイトカインアッセイシステムを製造業者の仕様書(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA)に従って使用して、インターロイキン(IL)-1β、IL-6、IL-10および腫瘍壊死因子(TNF)-αの足組織濃度を測定した。Luminex 100(商標)システム(Bio-Rad Laboratories)を用いて蛍光を測定し、Bio-Plex Manager(商標)ソフトウェア(Bio-Rad Laboratories)を用いて結果を分析した。各組織のサイトカイン濃度をその試料に関するそれぞれの総タンパク質含量に対して基準化し、ng/g組織タンパク質として報告した。
【0074】
脂肪酸の定量.均質化前に足を粉砕し、約3mm×3mm片に切断したことを除き、当技術分野で公知の方法に従ってクロロホルム/メタノール(2:1v/v)を使用して、食餌脂肪源および足の両方からの全脂質を抽出した。酸触媒メチル化によって脂肪酸メチルエステルを調製した。Restek Rt(登録商標)-2560 100mビスシアノプロピルポリシロキサンカラム(Restek,Bellefonte,PA)を備えたAgilent 6890N GC(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)を用いて、脂肪酸メチルエステルの相対的割合を決定した。
結果:
【0075】
図2に示すように、3%(w/w)で補給した食餌尾腺油は、関節リウマチのコラーゲン誘導マウスモデルにおける臨床関節炎スコアを低下させた。DBA/1マウスには、関節炎の発症後63日間、3%トウモロコシ油または3%尾腺油のいずれかを補給した6%の総脂肪を含む食餌を与えた。盲検化された観察者は、関節炎の重症度を週に3回評価した。各点は、各々の日の群平均を示す:3%尾腺油(n=7)、3%トウモロコシ油(n=5)。
図3は、疾患発症後63日間にわたる関節炎重症度の平均低下を示す。3%w/wで給餌した食餌尾腺油は、3%トウモロコシ油を補給した食餌と比較して関節炎重症度を55%低下させた。値は平均±標準偏差である。
【0076】
図4は、3%尾腺油とトウモロコシ油の食餌脂肪酸組成の比較を示す。食餌は6%の総脂肪を含み、トウモロコシ油が基礎脂肪を構成した。平均値は、総脂肪100g当たりの脂肪酸のグラム数±SEMである。図示していないが、3%尾腺油食餌は合計8%の飽和脂肪酸5:0-12:0を含有する。表2は、63日間にわたって3%尾腺油または3%トウモロコシ油を与えたシャムマウスの後肢脂肪酸組成を示す。表2は、尾腺油の経口投与後、12:0、17:0、17:1および19:0などの、トウモロコシ油中に存在しない脂肪酸がマウスの足で増加することを示し、経口投与した尾腺油が炎症部位に蓄積することを示唆する。
【表2】
【0077】
関節炎観測の9週間後、足の炎症性サイトカインレベルを調べた。
図5は、3%尾腺油がIL-1βをキャノーラ油よりもはるかに低いレベルまで、および非関節炎マウスで見られたレベルに近いレベルまで低下させたことを示す。
図6は、3%尾腺油がIL-6をキャノーラ油よりもはるかに低いレベルまで、および非関節炎マウスで見られたレベルより低いレベルまで低下させたことを示す。これらのデータは、足の炎症性サイトカインがこれらのマウスにおいてシャムレベルまで低下したという点で、尾腺油を給餌されたマウスでの関節炎減少と一致する。
実施例5:マウス成長への尾腺油の影響
【0078】
8週齢の体重一致マウスに、3%CA食または3%尾腺油食のいずれかを与え、63日間にわたって週に1回体重を測定した。
図7に示すように、3%尾腺油を与えたマウスは、3%CAを与えたマウスに比べて体重増加が30%増大し、食餌尾腺油が成長率または体重増加を増大させることを示唆した。数週間後のさらなる検査で、成長率の増大は、3%CA食を与えたマウスと比較して脂肪量の増加をもたらさなかった。この所見は、尾腺油が、脂肪中の脂肪沈着の増加または関連する脂肪異栄養症を伴わずに成長率を増大させ得ることを示唆する。
実施例4:もっぱら調整食を与えたファットヘッドミノー仔魚の成長と生存への尾腺油の影響
方法:
【0079】
実験システム.流水式(炭素ろ過、City of Madison、WI water)の8つの7Lガラス水槽(タンク水量は6Lであった)。温度は25±0.5℃であった。各タンクへの流速は250ml/分(1時間当たり2.5タンク代謝回転)であった。各タンクはエアストーンを備えた。
【0080】
魚.0日目に、50匹の新たに孵化したファットヘッドミノーを各タンクに加えた。魚は、UW-Madison Aquaculture Research Laboratoryで維持されていたコロニーから得た。
【0081】
飼料.ファットヘッドミノー仔魚は、典型的には生きたアルテミアを給餌されるが、この実験では、すべての魚に処置食餌が確実に与えられるように乾燥調整食(Skretting,Gemma Micro 150)だけを魚に給餌した。
【0082】
実験計画.無作為化ブロックデザインを実験に使用した。2つのブロック(上棚または下棚)および2つの処置群:(1)対照群および(2)2%尾腺油で表面被覆した食餌を与えた群が存在した。処置群当たり4つのタンクがあり、処置はブロック内で無作為化した。各タンクの魚に過剰の飼料を1日2回(午前と午後)与えた。タンクは、ほぼ週に1回または必要に応じて清掃した。
【0083】
データ収集.魚の長さを、各タンクのデジタル写真およびデジタル定規(Pixelstick)を用いて0日目、1ヶ月目および2ヶ月目に測定した。
結果:
【0084】
1ヶ月目に、対照および2%尾腺油食を与えた仔魚は、それぞれ長さが0.72±0.6および0.92±0.04cmであった(
図8)。この差はP=0.03で有意であった(対応ある両側t検定)。2ヶ月目に、対照および2%尾腺油食を与えた仔魚は、それぞれ長さが1.51±0.02および1.84±0.02cmであった。この差はP=0.05で有意であった(対応ある両側t検定)。対照群および2%尾腺油群における実験終了時の仔魚生存率は、それぞれ16.5±3.1%および41.5±9.1%であった(
図9)。したがって、尾腺油を含む食餌は、全長として測定した仔魚の成長を増大させ、1ヶ月後および2ヶ月後の生存率も有意に改善した。
実施例5:低酸素状態のウォールアイ稚魚の生存への尾腺油の影響
方法:
【0085】
実験システム.流水式(炭素ろ過、City of Madison、WI water)の15の7Lガラス水槽(タンク水量は6Lであった)。温度は25±0.5℃であった。各タンクへの流速は250ml/分(1時間当たり2.5タンク代謝回転)であった。
【0086】
実験計画.無作為化デザインを使用した。3つの処置群:(1)対照、(2)獣脂油の等カロリー対照および(3)2%尾腺油が存在した。処置群当たり5つのタンクがあり、各ストックは5匹のウォールアイ稚魚(実験開始時にそれぞれ約2.3g)を含んだ。各タンクの魚に、毎日体重の約5%の割合で1日2回(午前と午後)給餌した。魚に給餌した(Skretting,Gemma Diet,1mm)。
結果
【0087】
実験開始から15日後、研究室の給湯システムの修理中の水温変化を防ぐため、魚タンクへの水を止めた。しかし、タンクへの空気も誤って停止され、タンク内の環境条件が急速に低酸素状態になった。これが発見された時点までに、多くの魚が死亡したかまたは重度のストレスを受けた。処置群ごとの生存率パーセントは以下の通りであった:対照(40%)、等カロリー獣脂油対照(52%)、尾腺油(96%)(
図10)。差は非常に有意であった(尾腺油と対照および尾腺油と等カロリー対照の間でP<0.02)。15日目の魚の平均重量は3.6+0.1gであった。この時点では成長に対する有意の処置効果はなかった。
【0088】
「1つ(a)」、「1つ(an)」、および「その(the)」という用語ならびに同様の指示対象(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)の使用は、本明細書中で別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書で使用する「第1」、「第2」等の用語は、特定の順序を示すことを意図するものではなく、単に便宜上、例えば複数の層を示すためのものである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」および「含有する(containing)」という用語は、別段の記載がない限り、制限のない用語(すなわち「含むがこれに限定されない(including, but not limited to)」を意味する)と解釈されるべきである。値の範囲の列挙は、本明細書中で別段の指示がない限り、範囲内に含まれる各個別の値を個々に言及することの簡略方法として機能することを意図しており、各個別値は、本明細書中で個別に列挙されているかのごとくに本明細書に組み込まれる。すべての範囲の終点は範囲内に含まれ、独立して組み合わせることができる。本明細書に記載されるすべての方法は、本明細書中で別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、適切な順序で実施され得る。ありとあらゆる例または例示的な言語(例えば「など」)の使用は、単に本発明をよりよく説明することを意図しており、別段の請求がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる言語も、本明細書で使用する場合、本発明の実施に必須であると特許請求されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0089】
例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を加え、その要素を等価物に置き換える得ることは当業者に理解される。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために多くの改変を行い得る。したがって、本発明は、本発明を実施するために考えられる最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を包含することが意図されている。本明細書中で別段の指示がない限り、または文脈と明らかに矛盾しない限り、すべての可能な変形における上記要素のいずれの組合せも本発明に包含される。