(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ヒト組織因子を標的とするヒト化抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/36 20060101AFI20221026BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221026BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221026BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221026BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221026BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221026BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221026BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221026BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20221026BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20221026BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221026BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20221026BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20221026BHJP
A61P 11/04 20060101ALI20221026BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20221026BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20221026BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/18 20060101ALI20221026BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20221026BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20221026BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20221026BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C07K16/36 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P35/00
A61P15/00
A61P1/04
A61P17/00
A61P25/00
A61P1/02
A61P11/02
A61P11/04
A61P27/16
A61P13/12
A61P13/08
A61P1/18
A61P1/16
A61P13/02
A61P11/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2020528906
(86)(22)【出願日】2018-11-26
(86)【国際出願番号】 IB2018059318
(87)【国際公開番号】W WO2019102435
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-06-10
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508150854
【氏名又は名称】パーデュー、ファーマ、リミテッド、パートナーシップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ソルティス,ダニエル,エー.
(72)【発明者】
【氏名】メーリング,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ビューイック,リチャード ジョン
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-525944(JP,A)
【文献】特表2014-509856(JP,A)
【文献】特表2017-524653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12P 21/00-21/08
A61K 39/00-39/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片であって、前記ヒト化抗体
またはその抗原結合断片が:
(i)配列番号
9のアミノ酸配
列を有する重鎖可変領
域;
(ii)配列番号
12のアミノ酸配
列を有する軽鎖可変領
域を含み;及び
(iii)前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片が、正常な血漿対照と比較して、組織因子を介した血液凝固を阻害しない、前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
前記抗体が全長抗体である、請求項
1に記載のヒト化抗体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載のヒト化抗体または抗原結合断片の軽鎖または重鎖可変領域、又は、請求項1
または2に記載のヒト化抗体または抗原結合断片の全長軽鎖または全長重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項
3に記載の単離されたポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項5】
請求項
4に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項6】
請求項
3に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むように遺伝子改変した、宿主細胞。
【請求項7】
式Ab-(L-CA)
nの抗体-薬物複合体であって、式中:
(i)Abが、ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片であり、前記抗体
またはその抗原結合断片が、配列番号
9のアミノ酸配
列を有する重鎖可変領
域、及び配列番号
12のアミノ酸配
列を有する軽鎖可変領
域を含み;及び
(ii)(L-CA)
nがリンカー-細胞傷害剤部分であり、式中、Lがリンカー、CAが細胞傷害剤であり、nが1~8の数を表す、前記抗体-薬物複合体。
【請求項8】
前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片が、正常な血漿対照と比較して、組織因子を介した血液凝固を阻害しない、請求項
7に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項9】
前記細胞傷害剤が、マイタンシン、マイタンシノイド、デュオカルマイシン、カンプトテシン、オーリスタチン、アマトキシン、カリケアマイシン、チューブリシン、及びその誘導体または類似体からなる群から選択される、請求項
7または8に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項10】
前記オーリスタチンがモノメチルオーリスタチンE(MMAE)である、請求項
9に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項11】
前記リンカーが、親水性リンカー、尿素リンカー、スルファミドリンカー、及びジカルボン酸ベースのリンカーからなる群から選択される、請求項
7~
10のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項12】
前記抗体-薬物複合体の薬物対抗体比(DAR)が1~8である、請求項
7~
11のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体。
【請求項13】
請求項1
または2に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、又は、請求項
7~
12のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
前記抗体-薬物複合体を含む医薬組成物の平均DARが1~8の範囲内である、請求項
13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
がんを治療するための、請求項
13または
14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記がんが、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、黒色腫、脳癌、頭頸部癌、表皮癌、肉腫、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、尿路上皮癌、及び肺癌からなる群から選択される固形腫瘍である、請求項
15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記がんが、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫(MM)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキットリンパ腫(BL)、及びリヒタートランスフォーメーションからなる群より選択される血液悪性腫瘍である、請求項
15に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒト化抗体、抗体-薬物複合体、及びがん治療の分野に属する。特に、本開示は、がんの治療における、正常組織因子を介した血液凝固を阻害することなくヒト組織因子に特異的に結合することができるヒト化抗体、その製造方法及び使用方法(抗体-薬物複合体としての使用を含む)に関する。
【背景技術】
【0002】
トロンボプラスチン、凝固第III因子、またはCD142としても知られる組織因子(TF)は、47kDaの膜貫通型糖タンパク質であり、その天然リガンドである第VIIa因子とともに、in vivoで血液凝固カスケードを開始する。TFは、219アミノ酸の細胞外領域、23アミノ酸の膜貫通領域、及び21アミノ酸の細胞質領域を有する。TFの細胞外領域は、凝固促進機能に必要であり、2つのフィブロネクチンIII様ドメインと、クラスIIサイトカイン及びインターフェロン受容体に特徴的なジスルフィド架橋の分布からなる。TFの細胞質領域は、リン酸化され得る3つのセリン残基を有し、これらは細胞シグナル伝達に関与していると考えられている。Aberg,M. and Siegbahn,A.,J Thromb Haemost 11:817-825(2013)。
【0003】
TFは、内皮下細胞(例えば、平滑筋細胞)及び血管の周囲の細胞(例えば、線維芽細胞)などの、通常、流れる血液に曝されない細胞で発現する。しかしながら、TFは、腫瘍関連血管内皮細胞を含む多種の腫瘍細胞で発現し、それらの細胞においてTFは血液タンパク質に曝される。TFは、転移、腫瘍成長、及び腫瘍血管新生に寄与し得る。van den Berg,Y.W.,Blood 119:924-32(2012);Kasthuri,R.S.et al.,J Clin Oncol.27:4834-8(2009)を参照のこと。重要なことに、凝固のTF依存的活性化は、がん関連血栓症及び転移に関与している(同書)。TFは、その凝固促進活性に加えて、細胞シグナル伝達特性を有する。腫瘍細胞の表面にTF-FVIIa複合体が形成されると、Gタンパク質共役型受容体PAR2が切断されて活性化される。TF-FVIIa-PAR2シグナル伝達経路は、腫瘍成長及び腫瘍血管新生を促進すると考えられる(同書)。
【0004】
TFの発現レベルはまた、腫瘍細胞の悪性度と相関している。Lima,L.G. and Monteiro R.Q.,Biosci.Rep.33:701-710(2013);Ruf,W.et al.,J Thromb Haemost.:9(Suppl 1):306-315(2011)。さらに、ヒトTFは、可溶性の選択的スプライシング形態asHTFでも存在する。asHTFは、腫瘍成長を促進することが明らかとなっている(Hobbs et al.,Thrombosis Res.120:S13-S21(2007))。
【0005】
TF-FVIIa相互作用部位に結合する抗体は、TF-FVIIa相互作用を阻害することができ、したがって、血液凝固を阻害または遮断することができる。しかしながら、これらの抗体を腫瘍治療に大量に使用すると、患者の効果的な出血抑制が損なわれる場合がある。
【0006】
腫瘍学の分野では多くの進歩があったものの、がん治療を向上させる必要性が残されている。したがって、本開示は、正常組織因子を介した血液凝固を阻害することなく、ヒト組織因子を特異的に標的とする、がんの治療に使用するためのヒト化抗体、抗体-薬物複合体、及び医薬組成物を提供する。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片を提供し、ヒト化抗体は:(i)配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片;(ii)配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含み;(iii)前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、正常な血漿対照に比べて、組織因子を介した血液凝固を阻害しない。
【0008】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域を含む。
【0012】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、配列番号12のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は全長抗体である。
【0015】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、約1.0nM~約10nMのKDでヒト組織因子に特異的に結合する。
【0016】
一態様では、本開示は、本明細書に記載のヒト化抗体または抗原結合断片の軽鎖または重鎖可変領域をコードする単離されたポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチドは、本明細書に開示するヒト化抗体または抗原結合断片の全長軽鎖または全長重鎖をコードする。
【0017】
一態様では、本開示は、本明細書に開示のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。
【0018】
一態様では、本開示は、本明細書に開示のベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示の単離されたポリヌクレオチドを含むように宿主細胞を遺伝子改変する。
【0019】
一態様では、本開示は:(i)ヒト化抗体を発現する細胞を培養すること;及び(b)培養細胞からヒト化抗体を単離することを含む、ヒト化TF抗体の作製方法を提供する。
【0020】
一態様では、本開示は、式Ab-(L-CA)nの抗体-薬物複合体(ADC)を提供し、式中:(i)Abは、ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片であり、前記抗体は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片及び配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含み;及び(ii)(L-CA)nはリンカー-細胞傷害剤部分であり、式中、Lはリンカーであり、CAは細胞傷害剤であり、そしてnは1~8の数を表す。
【0021】
いくつかの実施形態では、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、正常な血漿対照に比べて、組織因子を介した血液凝固を阻害しない。
【0022】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗体断片を含む、ヒト化組織因子抗体または抗原結合断片を含む。
【0023】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域またはその抗体断片を含む、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0024】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体は、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体は、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体は、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片及び配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、ヒト組織因子に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片を含む。
【0027】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体中の細胞傷害剤は、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チューブリン阻害剤、RNAポリメラーゼII阻害剤、DNAアルキル化剤、DNA傷害剤、及びピロロベンゾジアゼピンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、マイタンシン、マイタンシノイド、デュオカルマイシン、カンプトテシン、オーリスタチン、アマトキシン、カリケアマイシン、チューブリシン、及びその誘導体または類似体からなる群から選択される。
【0028】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体中の細胞傷害剤はマイタンシンである。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤はマイタンシノイドである。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤はオーリスタチンである。いくつかの実施形態では、オーリスタチンはモノメチルオーリスタチンE(MMAE)である。
【0029】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体中のリンカーは、親水性リンカー、尿素リンカー、スルファミドリンカー、及びジカルボン酸ベースのリンカーからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、リンカーは、切断可能なリンカーである。いくつかの実施形態では、リンカーは、切断不可能なリンカーである。
【0030】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体の薬物対抗体比(DAR)は1~8である。いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体のDARは4である。いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体のDARは2である。
【0031】
一態様では、本発明は、請求項19~37のいずれか一項に記載の抗体-薬物複合体及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1~8の範囲内の平均DARを有する。
【0032】
一態様では、本発明は:(i)リンカーを細胞傷害剤に連結すること;(ii)リンカー-細胞傷害剤部分を抗体に複合体化すること;及び(iii)抗体-薬物複合体を精製することを含む、抗体-薬物複合体の製造プロセスを提供する。
【0033】
一態様では、本発明は、がんの治療をそれを必要とする対象に対して行う方法であって、ヒト化抗体もしくはその抗原結合断片、抗体-薬物複合体、または医薬組成物を含む、治療有効量の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法を提供する。
【0034】
いくつかの実施形態では、がんは固形腫瘍である。いくつかの実施形態では、固形腫瘍は、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、黒色腫、脳癌、頭頸部癌、表皮癌、肉腫、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、尿路上皮癌、及び肺癌からなる群から選択される。
【0035】
いくつかの実施形態では、がんは血液悪性腫瘍である。いくつかの実施形態では、血液悪性腫瘍は、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である。いくつかの実施形態では、血液悪性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫(MM)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキット病リンパ腫(BL)、またはリヒタートランスフォーメーションである。いくつかの実施形態では、血液悪性腫瘍は、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、または慢性リンパ性白血病(CLL)である。
【0036】
いくつかの実施形態では、固形腫瘍は頭頸部癌である。いくつかの実施形態では、肝臓癌は肝細胞癌(HCC)である。いくつかの実施形態では、肺癌は非小細胞肺癌(NSCLC)である。いくつかの実施形態では、肺癌は小細胞肺癌(SCLC)である。
【0037】
いくつかの実施形態では、がんはヒト組織因子を過剰発現する。いくつかの実施形態では、がんの治療を必要とする対象はヒト対象である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His
6タグ配列を有する全長ヒト組織因子のヌクレオチド(配列番号1)配列及びアミノ酸(配列番号2)配列。
【
図2】32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His
6タグ配列を有するヒト組織因子の細胞外ドメインのヌクレオチド(配列番号3)配列及びアミノ酸(配列番号4)配列。
【
図3A】マウス抗体TF278の重鎖可変領域(VH0)のヌクレオチド(配列番号5)配列及びアミノ酸(配列番号6)配列。6つのCDR配列に下線を付している。
【
図3B】マウス抗体TF278の軽鎖可変領域(VL0)のヌクレオチド(配列番号7)配列及びアミノ酸(配列番号8)配列。6つのCDR配列に下線を付している。
【
図4A】本明細書中で「B278-LC7HC6バリアント」として知られるヒト化組織因子抗体の重鎖可変領域(VH6)のヌクレオチド(配列番号25)配列及びアミノ酸(配列番号9)配列。6つのCDR配列に下線を付している。
【
図4B】ヒト化TF抗体B278-LC7HC6バリアントの軽鎖可変領域(VL7)のヌクレオチド(配列番号26)配列及びアミノ酸(配列番号12)配列。6つのCDR配列に下線を付している。
【
図5A】本開示のヒト化TF抗体B278バリアントの軽鎖可変領域のアラインメント。VL5、VL6、及びVL7は、VL3に基づく3つのバリアントであり、主要な残基のフレームワークに様々な変異を有する。VL8は、異なるヒトのサブタイプに基づく新規バリアントであるが、マウスのVL0と物理的に類似している。6つのCDRをボックスで示す。
【
図5B】本開示のヒト化TF抗体B278バリアントの重鎖可変領域のアラインメント。2つの追加のVHバリアントであるVH5及びVH6は、VH4に基づいており、それぞれ異なる変異セットを有する。6つのCDRをボックスで示す。
【
図6】精製ヒト化B278抗体バリアントの還元SDS-PAGE(4~20%アクリルアミドゲル)分析。レーン1:SeeBlue plus 2(Invitrogen,CA)、レーン2:B278-LC3HC5バリアント、レーン3:B278-LC3HC6バリアント、レーン4:B278-LC5HC4バリアント、レーン5:B278-LC5HC5バリアント、レーン6:B278-LC5HC6バリアント、レーン7:B278-LC6HC4バリアント#2、レーン8:B278-LC6HC5バリアント、レーン9:B278-LC6HC6バリアント、レーン10:B278-LC7HC4バリアント、レーン11:B278-LC7HC4バリアント#2、レーン12:B278-LC7HC5バリアント、レーン13:B278-LC7HC6バリアント、レーン14:B278-LC7HC6バリアント#2、レーン15:B278-LC8HC4バリアント#2、レーン16:B278-LC8HC5バリアント、レーン17:B278-LC8HC6バリアント、レーン18:SeeBlue plus 2(Invitrogen,CA)。
【
図7】精製ヒト化B278抗体バリアントの非還元SDS-PAGE(4~20%アクリルアミドゲル)分析。レーン1:SeeBlue plus 2(Invitrogen,CA)、レーン2:B278-LC3HC5バリアント、レーン3:B278-LC3HC6バリアント、レーン4:B278-LC5HC4バリアント、レーン5:B278-LC5HC5バリアント、レーン6:B278-LC5HC6バリアント、レーン7:B278-LC6HC4バリアント#2、レーン8:B278-LC6HC5バリアント、レーン9:B278-LC6HC6バリアント、レーン10:B278-LC7HC4バリアント、レーン11:B278-LC7HC4バリアント#2、レーン12:B278-LC7HC5バリアント、レーン13:B278-LC7HC6バリアント、レーン14:B278-LC7HC6バリアント#2、レーン15:B278-LC8HC4バリアント#2、レーン16:B278-LC8HC5バリアント、レーン17:B278-LC8HC6バリアント、レーン18:SeeBlue plus 2(Invitrogen,CA)。
【
図8】組換えヒト凝固第III因子(別名組織因子)へのヒト化B278抗体LC7及びLC8バリアントならびにキメラB278-LC0HC0の結合。キメラ対照B278-LC0HC0には、マウス可変領域及びヒト定常領域が含まれる。
【
図9A】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析による、試料B278-LC7HC6バリアント(試料名:PS-F09-2016-012)の2つの再現実験のUVクロマトグラム(λ=280nm)。
【
図9B】サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析による、試料B278-LC7HC6バリアント(試料名:PS-F09-2016-012)の2つの再現実験のUVクロマトグラム(λ=280nm)。
【
図10A】疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)分析による、試料B278-LC7HC6バリアント(PS-F09-2016-012)の2つの再現実験のUVクロマトグラム(λ=280nm)。
【
図10B】疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)分析による、試料B278-LC7HC6バリアント(PS-F09-2016-012)の2つの再現実験のUVクロマトグラム(λ=280nm)。
【
図11A】ヒト化B278-LC7HC6バリアントの結合親和性ならびに結合速度及び解離速度を評価するためのBiacore(商標)/SPR結合分析。
【
図11B】キメラ対照B278-LC0HC0の結合親和性ならびに結合速度及び解離速度を評価するためのBiacore(商標)/SPR結合分析。
【
図12】例示的なナノDSCサーモグラム(第1の再現実験)及び試料B278-LC7HC6のフィッティング。番号5で示す線は記録データを表し、番号4で示す線はフィッティング結果を表す。同定された個々の遷移を、番号1、2、及び3で示す線に示す。
【
図13】ヒト化TF抗体B278-LC7HC6バリアントによる組織因子を介した血液凝固の阻害。2N2、1L6、及び5D6は、ヒト化LC7HC6抗体の最適な発現レベルのために選択された、ヒト化B278-LC7HC6バリアント発現CHO細胞株のサブクローンである。Ctrl1(ADG4507,Sekisui Diagnostics,MA)及びCtrl2(ADG4508,Sekisui Diagnostics,MA)は、血液凝固カスケードの組織因子を介した活性化を阻害することが知られている対照抗体である。LC0HC0はキメラ型のB278である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
定義
本開示の理解を容易にするために、いくつかの用語及び語句を以下に定義する。追加の定義を、詳細な説明の全体に示す。
【0040】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト組織因子」(本明細書中では同じ意味で「TF」または「hTF」と呼ばれる)は、任意の天然ヒト組織因子または任意のスプライスバリアント、対立遺伝子バリアント、アイソフォーム、及びその種の類似体を指し、これらは、細胞で天然に発現するか、またはヒト組織因子遺伝子を形質移入した細胞で発現する。hTFは、NCBI参照配列:NP_001984(アイソフォーム1)またはNCBI参照配列:NP_001171567.1(アイソフォーム2)のタンパク質配列を有し得る。ヒト組織因子は、トロンボプラスチン、凝固第III因子、またはCD142としても当技術分野で公知である。用語「hTF」は、「全長」の非プロセス型のhTF、及び細胞内でのプロセシングから生じる任意の形態のhTFを包含する。本明細書に記載のhTFポリペプチドは、様々な供給源、例えば、ヒト組織型または別の供給源から単離するか、組換え法または合成法により調製することができる。
【0041】
本明細書中で使用する場合、用語「抗体」または「Ab」とは、免疫グロブリン分子の可変領域内の少なくとも1つの抗原結合部位を介して、標的(例えば、タンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリヌクレオチド、脂質、またはそれらの組み合わせ)を認識し、特異的に結合する免疫グロブリン分子(またはその抗原結合断片)を意味する。本明細書中で使用する場合、用語「抗体」は、インタクトなモノクローナル抗体、インタクトなポリクローナル抗体、少なくとも2つのインタクトな抗体から生成される二重特異性抗体または多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、改変型抗体、一本鎖抗体、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、抗体断片(例えば、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、及びFvフラグメント、Fab発現ライブラリーによって生成される断片、及びVLまたはVHドメインのいずれかを含む断片)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本明細書中に開示するTF抗体に対する抗Id抗体など)、細胞内で作製される抗体(すなわち、イントラボディ)、ならびに抗原結合抗体断片を包含する。
【0042】
本明細書に記載の抗体は、免疫グロブリンの5つの主要なクラス(すなわち、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgM)のいずれか、またはそれぞれα、δ、ε、γ、μと呼ばれる重鎖定常ドメインの同一性に基づく、そのサブクラス(アイソタイプ)(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)であり得る。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンは、IgG1アイソタイプである。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンは、IgG2アイソタイプである。いくつかの実施形態では、免疫グロブリンは、IgG4アイソタイプである。免疫グロブリンの異なるクラスは、異なる周知のサブユニット構造及び3次元構造を有する。本明細書に記載の抗体は、未改変とするか、または毒素、放射性同位元素などの他の分子と複合体化させることができる。
【0043】
用語「抗TF抗体」または「TFに結合する抗体」とは、組織因子に十分な親和性で結合することができ、その結果、ヒト組織因子の標的化における診断薬及び/または治療薬として有用である抗体を指す。無関係の非hTFタンパク質への抗TF抗体の結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定されるように、hTFへの抗体の結合の約10%未満であり得る。特定の実施形態では、hTFに結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、または≦0.1nMの解離定数(Kd)を有する。
【0044】
用語「抗体断片」とは、インタクトな抗体の抗原決定可変領域を含むインタクトな抗体の部分を指す。抗体断片の例として、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片、直鎖抗体、一本鎖抗体、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
本明細書中で使用する場合、用語「モノクローナル抗体」は、当技術分野において使用するように意図され、また、同じ抗原決定基(エピトープ)に結合する実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。「実質的に均一」とは、少量で存在する可能性のある天然に存在する可能性のある変異を除いて、個々の抗体が同一であることを意味する。これは、様々な異なる抗原決定基(エピトープ)に対する様々な抗体を通常含むポリクローナル抗体とは対照的である。用語「モノクローナル抗体」は、インタクト及び全長モノクローナル抗体の両方、ならびに抗体断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv)、一本鎖(scFv)変異体、抗体の部分を含む融合タンパク質、及び抗原認識部位を有する任意の他の改変型免疫グロブリン分子を包含する。「モノクローナル抗体」及びその抗原結合断片は、ハイブリドーマ、ファージ選択、組換え発現、及びトランスジェニック動物を含むがこれらに限定されない、任意の数の方法で作製される。
【0046】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト化抗体」とは、非ヒト(例えば、マウス)抗体の形態を指し、最小の非ヒト(例えば、マウス)配列を含む特異的免疫グロブリン鎖、キメラ免疫グロブリン、またはその断片である。一般的には、ヒト化抗体またはその抗原結合断片は、ヒト相補性決定領域(CDR)由来の残基を非ヒト種(例えば、マウス、ラット、ウサギ、及びハムスターなど)のCDR由来の残基によって置き換えたヒト免疫グロブリンであり、所望の特異性、親和性、及び機能性を有する(Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-327(1988);Verhoeyen et al.,Science 239:1534-1536(1988))。いくつかの場合では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基を、所望の特異性、親和性、及び能力を有する非ヒト種由来の抗体の対応する残基で置き換える。ヒト化抗体を、Fvフレームワーク領域内及び/または置換された非ヒト残基内のいずれかで追加の残基を置換することによりさらに改変して、抗体の特異性、親和性、及び/または能力を改良及び最適化することができる。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンに対応するすべてまたは実質的にすべてのCDR領域を含む少なくとも1つ、通常は2つまたは3つの可変ドメインの実質的にすべてを含み、FR残基のすべてまたは実質的にすべてがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR残基である。ヒト化抗体またはその抗原結合断片はまた、通常はヒト免疫グロブリンの、免疫グロブリン定常領域すなわち定常ドメイン(Fc)の少なくとも部分を含み得る。ヒト化抗体を生成するために使用する方法の非限定的な例は、米国特許第5,225,539号;Roguska et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 91:969-973(1994);及びRoguska et al.,Protein Eng.9:895-904(1996)に記載されている。いくつかの実施形態では、「ヒト化抗体」は、表面再修飾型抗体である。
【0047】
抗体の「可変領域」とは、抗体軽鎖の可変領域または抗体重鎖の可変領域を、単独でまたは組み合わせで指す。重鎖及び軽鎖の可変領域はそれぞれ、超可変領域としても知られる3つの相補性決定領域(CDR)によって接続された4つの比較的保存されたフレームワーク領域(FR)からなる。各鎖のCDRは、FRによって近接して結合され、他の鎖のCDRとともに、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する。
【0048】
CDRを決定するための少なくとも2つの技術がある:(1)種間の配列変動性に基づくアプローチ(すなわち、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991));及び(2)抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づくアプローチ(Al-lazikani et al.,J.Molec.Biol.273:927-948(1997))。さらに、当技術分野において、CDRを決定するために時としてこれら2つのアプローチを併用する。可変ドメインの残基(およそ、軽鎖の約1~107残基及び重鎖の1~113残基)を参照する場合、Kabatナンバリング系を一般的に使用する(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest,5th ed.,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。
【0049】
Kabatにおけるアミノ酸位置のナンバリングとは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th ed.,Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991)における抗体の編集の重鎖可変ドメインまたは軽鎖可変ドメインに用いるナンバリング系を指す。このナンバリング系を使用すると、実際の直鎖アミノ酸配列には、可変ドメインのFRまたはCDRの短縮または挿入にそれぞれ対応する、より少ないまたは追加のアミノ酸が含まれ得る。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後に単一のアミノ酸の挿入(例えば、Kabatによると残基52a)を、及び重鎖FR残基82の後に挿入残基(例えば、Kabatによると82a、82b、及び82cなど)を含み得る。残基のKabatナンバリングは、所定の抗体について、「標準的な」Kabatナンバリング配列を有する抗体の配列の相同領域でのアラインメントにより決定することができる。
【0050】
代わりに、Chothiaは構造ループの位置を参照する(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。Chothia CDR-H1ループの末端は、Kabatナンバリング規則を使用して付番する場合、H32とH34の間でループの長さに応じて異なる(これは、KabatナンバリングスキームがH35AとH35Bに挿入を配置するためであり;35Aも35Bも存在しない場合、ループは32で終了し;35Aのみが存在する場合、ループは33で終了し;35Aと35Bの両方が存在する場合、ループは34で終了する)。AbM超可変領域は、Kabat CDRとChothia構造ループの折衷を表し、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアで用いられる。
【表1】
【0051】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト化組織因子抗体」とは、正常な血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害することなく、ヒト組織因子に特異的に結合することができるヒト化抗体(上記で定義)を指す。一般的に、本明細書に記載のヒト化組織因子抗体は、十分な親和性で組織因子に結合することができ、それにより、この抗体はヒト組織因子を標的とする際の診断及び/または治療薬として有用である。本明細書に開示の抗hTF抗体の、無関係な非hTFタンパク質への結合の程度は、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)によって測定されるように、hTFへの抗体の結合の約10%未満であり得る。特定の実施形態では、hTFに結合する抗体は、≦1μM、≦100nM、≦10nM、≦1nM、または≦0.1nMの解離定数(Kd)を有する。以下の「結合親和性」も参照されたい。
【0052】
本明細書に開示のヒト化組織因子抗体は、可変領域(複数可)を、単独で、またはヒンジ領域、CH1、CH2、CH3、及び/またはFcドメイン(複数可)の全体または部分と組み合わせて含み得る。
【0053】
本明細書中で使用する場合、用語「ヒト抗体」とは、当技術分野で公知の任意の技術を使用して調製された、ヒトによって産生される抗体またはヒトによって産生される抗体に対応するアミノ酸配列を有する抗体を意味する。ヒト抗体のこの定義には、インタクトな(または全長の)抗体、及びその断片が含まれる。
【0054】
本明細書中で使用する場合、用語「キメラ抗体」とは、免疫グロブリン分子のアミノ酸配列が2つ以上の種に由来する抗体を指す。通常、軽鎖と重鎖の両方の可変領域は、所望の特異性、親和性、及び能力を有する哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ等)の1つの種に由来する抗体の可変領域に対応するが、定常領域は、別の種(通常はヒト)に由来する抗体の配列と相同であり、その種において免疫応答を誘発する機会を低減する。
【0055】
本明細書中で使用する場合、用語「改変型抗体」とは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び/または補体依存性細胞傷害(CDC)(補体媒介性細胞傷害(complement-mediated cell killing)としても知られる)の媒介における抗体の有効性を増強するように、エフェクター機能に関して改変された抗体を指す。例えば、システイン残基(複数可)をFc領域に導入することができ、それにより、この領域での鎖間ジスルフィド結合の形成が可能になる。このようにして生成されたホモ二量体抗体は、向上した内在化能力、及び/または向上したADCC及びCDCを有し得る。Caron et al.,J.Exp.Med.176:1191-1195(1992)及びShopes,B.,J.Immunol.148:2918-2922(1992)を参照のこと。増強された抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体は、Wolff et al.,Cancer Research 53:2560-2565(1993)に記載されているように、ヘテロ二官能性架橋剤を使用して調製することもできる。あるいは、抗体を、二重のFc領域を有するように改変することができ、それにより、補体依存性溶解及びADCC能力を増強することができる。Stevenson et al.,Anti-Cancer Drug Design 3:219-230(1989)を参照のこと。さらに、抗体を、グリコシル化パターンが変化したグリコフォームを生成するように改変することができ、その結果、ADCC活性が向上する。米国特許第6,602,684号を参照のこと。
【0056】
本開示はまた、hTFを特異的に認識する二重特異性または二機能性抗体を包含する。二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープを特異的に認識して結合することができる抗体である。異なるエピトープは、同じ分子(例えば、同じhTF)内または異なる分子上に存在し得、その結果、例えば、抗体は、hTF、及び、例えば凝固因子を、特異的に認識し、結合することができる。二重特異性または二機能性抗体は、2つの異なる重鎖/軽鎖ペアと2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合やF(ab’)フラグメントの連結などの様々な方法で作製することができる。例えば、Songsivilai & Lachmann,Clin.Exp.Immunol.79:315 321(1990),Kostelny et al.,J.Immunol.148:1547-1553(1992)を参照のこと。さらに、二重特異性抗体は、「ダイアボディ」(Holliger et al.,PNAS USA 90:6444 6448(1993))または「ジャヌシン」(Traunecker et al.,EMBO J.10:3655 3659(1991)及びTraunecker et al.,Int.J.Cancer Suppl.7:51 52(1992))として形成することができる。
【0057】
同様に、多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に対して結合特異性を有する分子である。そのような分子は通常2つの抗原(すなわち、二重特異性抗体)に結合するが、三重特異性抗体などの追加の特異性を有する抗体も本開示に包含される。
【0058】
用語「エピトープ」及び「抗原決定基」は、本明細書中では同じ意味で用いられ、特定の抗体が認識し、特異的に結合することができる抗原の部分を指す。抗原がポリペプチドである場合、エピトープは、隣接するアミノ酸、及びタンパク質の三次フォールディングによって並置された非隣接アミノ酸のいずれからも形成され得る。隣接するアミノ酸から形成されるエピトープは、通常、タンパク質変性時に保持されるが、一方、三次フォールディングによって形成されるエピトープは、通常、タンパク質変性時に失われる。エピトープは、通常、ユニークな空間的立体配座で、少なくとも3個、より一般的には少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。
【0059】
2つ以上の核酸またはポリペプチドに関して、用語「同一」または「同一性」の割合とは、保存的アミノ酸置換を配列の同一性の一部として考慮せずに、最大の対応関係が得られるように比較し、アラインメントする(必要に応じてギャップを導入する)場合に、同じヌクレオチドまたはアミノ酸残基であるか、または特定の割合のそのヌクレオチドまたはアミノ酸残基を有する、2つ以上の配列または部分配列を指す。同一性の割合は、配列比較ソフトウェアまたはアルゴリズムを使用して、または目視検査によって測定することができる。アミノ酸またはヌクレオチド配列のアラインメントを得るために使用することができる様々なアルゴリズム及びソフトウェアが当技術分野で公知である。
【0060】
いくつかの実施形態では、配列アラインメントアルゴリズムは、Karlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.87:2264-2268(1990)に記載され、Karlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.90:5873-5877(1993)で改変され、NBLAST及びXBLASTプログラムに組み込まれているアルゴリズムである(Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1991)。いくつかの実施形態では、Altschul et al.,Nucleic Acids Res.25:3389-3402(1997)に記載されているようにgapped BLAST法を使用する。BLAST-2、WU-BLAST-2(Altschul et al.,Methods in Enzymology 266:460-480(1996),ALIGN,ALIGN-2(Genentech,South San Francisco,California)またはMegalign(DNASTAR)は、配列のアラインメントに使用することができる追加の公的に利用可能なソフトウェアプログラムである。
【0061】
いくつかの実施形態では、2つのヌクレオチド配列間の同一性の割合は、GCGソフトウェアのGAPプログラムを使用して(例えば、NWSgapdna.CMPマトリックスならびに40、50、60、70、または90のギャップウェイト及び1、2、3、4、5、または6のレングスウェイトを用いて)決定する。特定の代替の実施形態では、Needleman and Wunsch(J.Mol.Biol.48:444-453(1970))のアルゴリズムを組み込んだGCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを使用して、2つのアミノ酸配列間の同一性の割合を決定することができる(例えば、Blossum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6、または4のギャップウェイト及び1、2、3、4、5のレングスウェイトを用いて)。あるいは、特定の実施形態では、ヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性の割合を、Myers and Miller(CABIOS 4:11-17(1989))のアルゴリズムを使用して決定する。例えば、ALIGNプログラム(バージョン2.0)を使用し、また、PAM120を、残基テーブル、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4を使用して、同一性の割合を決定することができる。特定のアラインメントソフトウェアにより、当業者であれば、最大アラインメントのための適切なパラメーターを決定することができる。特定の実施形態では、アラインメントソフトウェアのデフォルトのパラメーターを使用する。特定の実施形態では、第1のアミノ酸配列の、第2のアミノ酸配列に対する同一性の割合「X」は、100×(Y/Z)として計算され、式中、Yは、第1及び第2の配列(目視検査または特定の配列アラインメントプログラムによってアラインメントした)のアラインメントにおいて同一の一致としてスコア付けされたアミノ酸残基の数であり、Zは、第2の配列の残基の総数である。
【0062】
いくつかの実施形態では、特定のポリヌクレオチドが、参照配列に対して、特定の割合の配列同一性(例えば、少なくとも80%同一、少なくとも85%同一、少なくとも90%同一、そしていくつかの実施形態では、少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%同一)を有するかどうかを、Bestfitプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package, Version 8 for Unix,Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI53711)を使用して決定することができる。Bestfitは、Smith and Waterman,Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)のローカルホモロジーアルゴリズムを使用して、2つの配列間のホモロジーの最良セグメントを見出す。Bestfit(または、特定の配列が、例えば、本開示による参照配列に対して95%同一であるかどうかを決定するための他の配列アラインメントプログラム)を使用する場合、参照ヌクレオチド配列の全長にわたって同一性の割合が計算されるように、及び参照配列のヌクレオチド総数の最大5%の相同性ギャップが許容されるように、パラメーターを設定する。
【0063】
いくつかの実施形態では、本発明の2つの核酸またはポリペプチドは、「実質的に同一」であり、これは、Bestfitなどの配列比較アルゴリズムを用いて、または目視測定で、最大対応させるためにこれらを比較及びアラインメントした場合に、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、及びいくつかの実施形態では、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の同一性を有することを意味する。同一性は、少なくとも約10、約20、約40~60残基の長さまたはその間の任意の整数値である配列の領域にわたって存在することができ、さらに60~80残基より長い領域、例えば、少なくとも約90~100残基とすることができ、いくつかの実施形態では、配列は、例えば、ヌクレオチド配列のコード領域などの、比較される配列の全長にわたって実質的に同一である。
【0064】
用語「結合親和性」とは、一般的に、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有相互作用の合計の強さを指す。特に明記しない限り、本明細書中で使用する「結合親和性」は、抗原と抗体の間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。その抗原に対する抗体の親和性は、一般的に解離定数(KD)で表すことができる。KDは、解離速度(「off rate」またはkoffまたはkd)と結合速度(「on rate」またはkonまたはka)の比率であり、一般的にモル濃度(M)で表される。
【0065】
親和性は、本明細書に記載の方法を含む、当技術分野で公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体は、一般的に抗原との結合が遅く、解離しやすい傾向があり、一方、高親和性抗体は、一般的に抗原との結合が速く、結合が長く維持される傾向がある。別の言い方をすると、KDが小さいほど結合親和性は強い。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野で公知であり、それらのいずれも本開示の目的のために使用することができる。いくつかの実施形態では、抗体のKDの測定方法は、表面プラズモン共鳴(SPR)の使用、一般的にはBiacoreシステムなどのバイオセンサーシステムの使用に基づく。以下の実施例6を参照のこと。
【0066】
結合親和性を指すために本明細書中で使用する場合の「またはより良好な」とは、分子とその結合パートナーとの間のより強い結合を指す。本明細書中で使用する場合の「またはより良好な」は、より小さな数値のKD値によって表される、より強い結合を指す。例えば、「0.6nMまたはより良好な」抗原に対する親和性を有する抗体は、抗原に対する抗体の親和性がKD≦0.6nM、すなわち、0.59nM、0.58nM、0.57nMなど、または0.6nM未満の任意の結合親和性の値で表される。
【0067】
用語「特異的に結合する」とは、一般的に、抗体がその抗原結合ドメインを介してエピトープに結合すること、及び結合が抗原結合ドメインとエピトープとの間にいくつかの相補性を伴うことを意味する。この定義によれば、抗体が、その抗原結合ドメインを介して、無作為の無関係のエピトープへの結合に比べてより容易にそのエピトープに結合する場合、抗体は、そのエピトープに「特異的に結合する」と言及される。本明細書中では、用語「特異性」とは、特定の抗体が特定のエピトープに結合する場合の相対親和性の能力を示すために使用する。例えば、抗体「A」は、抗体「B」よりも所与のエピトープに対してより高い特異性を有すると見なされ得るか、または抗体「A」は、関連するエピトープ「D」に対してよりも、より高い特異性でエピトープ「C」に結合すると言及され得る。
【0068】
「優先的に結合する」とは、抗体が、関連する、同様の、相同の、または類似のエピトープへの結合に比べて、より容易にエピトープに特異的に結合することを意味する。したがって、所与のエピトープに「優先的に結合する」抗体は、そのような抗体が関連エピトープと交差反応し得るとしても、関連エピトープよりもそのエピトープに結合する可能性が高い。
【0069】
抗体は、それが所与のエピトープへの参照抗体の結合をある程度遮断する程度まで、そのエピトープに優先的に結合する場合、その抗体は、そのエピトープへの参照抗体の結合を「競合的に阻害する」と言及される。競合阻害は、当技術分野で公知の任意の方法、例えば、競合ELISAアッセイによって測定してもよい。抗体は、所与のエピトープへの参照抗体の結合を、少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、または少なくとも50%競合的に阻害すると言及され得る。
【0070】
本明細書中で使用する場合、語句「実質的に同様の」または「実質的に同じ」は、2つの数値(一般的に、一方は本発明の抗体に関連する数値であり、もう一方は参照/比較用抗体に関連する数値である)の間の十分に高い類似性を示し、その結果、当業者は、2つの値の差を、前記値(例えば、KD値)により測定される生物学的特徴に関して生物学的及び/または統計的有意性がほとんどないかまたはまったくないものとみなすであろう。前記2つの値の差は、参照/比較用抗体の値の関数として、約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、または約10%未満であり得る。
【0071】
「単離された」ポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、または細胞とは、天然には見出されない形態のポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、または細胞である。単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、または細胞には、それらがもはや天然に見出される形態ではなくなっている程度まで精製されたものが含まれる。いくつかの実施形態では、単離されたポリペプチド、抗体、ポリヌクレオチド、ベクター、または細胞は、実質的に純粋である。
【0072】
本明細書中で使用する場合、「実質的に純粋な」とは、少なくとも50%純粋(すなわち、汚染物質フリーの)、少なくとも90%純粋、少なくとも95%純粋、少なくとも98%純粋、または少なくとも99%純粋である物質を指す。
【0073】
本明細書中で使用する場合、用語「抗体-薬物複合体」(ADC)とは、本明細書中に開示するように、少なくとも1つの化合物を、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片に連結または複合体化した組成物を指す。抗体-薬物複合体及び免疫複合体という用語は、本明細書中では同じ意味で使用される。いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片に連結する化合物は、細胞傷害剤である。
【0074】
本明細書中で使用する場合、「細胞傷害剤」とは、本明細書中に開示するヒト化組織因子抗体または抗原結合断片に複合体化され、投与時に細胞死をもたらすか、細胞死を誘発するか、そうでなければ細胞生存率を低下させる化合物または薬物を指す。いくつかの実施形態では、細胞は、がん細胞または腫瘍細胞である。本明細書に記載のヒト化組織因子抗体に複合体化する細胞傷害剤は、「ペイロード」または「細胞傷害性ペイロード」とも呼ばれる。
【0075】
本明細書中に開示するヒト化組織因子抗体に複合体化することができる細胞傷害剤は、様々な種類の薬剤から選択することができる。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、オーリスタチン及びマイタンシノイドなどのチューブリン阻害剤である。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、マイタンシノイドまたはマイタンシノイド類似体である。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、アマニチンなどのRNAポリメラーゼII阻害剤である。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、カンプトテシンなどのトポイソメラーゼI阻害剤である。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、デュオカルマイシンなどのDNAアルキル化剤である。他の細胞傷害剤は本明細書に記載されている。
【0076】
本明細書中で使用する場合、用語「リンカー」、「連結基」、及び「リンカー配列」は同じ意味で使用され、本明細書に開示するように、細胞傷害剤(例えば、オーリスタチン、アマニチン、またはマイタンシノイド)などの化合物を、ヒト化組織因子抗体に連結可能な任意の化学部分を指す。リンカーは、化合物または抗体が活性を維持する条件下で、例えば、ジスルフィド結合切断に対して感受性または実質的に抵抗性であり得る。リンカーは、切断可能とすることも切断不可能とすることもできる。適切なリンカーは、当技術分野で公知であり、例えば、ジスルフィド基、チオエーテル基、酸不安定基、光不安定基、ペプチド不安定基、及びエステラーゼ不安定基が挙げられる。一実施形態では、リンカーは切断可能である。
【0077】
いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体には、抗体またはその抗原結合断片あたり複数の細胞傷害剤、及び/または抗体またはその抗原結合断片あたり複数のリンカーを含ませることができる。
【0078】
本開示及び特許請求の範囲において使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」には、文脈がそうでないことを明確に指示しない限り、複数形が含まれる。
【0079】
本明細書中で使用する場合、用語「約」及び「およそ」とは、数値または数値範囲を修飾するために使用する場合、値または範囲を最大10%上回り、5~最大10%下回る偏差が、参照する値または範囲の意図する意味の範囲内に収まることを示す。
【0080】
本明細書中で、「A及び/またはB」などの語句で用いる用語「及び/または」とは、「A及びB」、「AまたはB」、「A」及び「B」のいずれも含むことが意図される。
【0081】
「含む(include)」、「含む(including)」、「含む(contain)」、「含む(containing)」などの非限定型の用語は、「含む(comprising)」を意味する。これらの非限定型の移行句は、要素、方法工程などの非限定的なリストを導入するために用いられ、これは、引用されていない追加の要素または方法工程を除外するものではない。本明細書において、用語「含む(comprising)」で態様が説明される場合は常に、「からなる(consisting of)」及び/または「本質的にからなる(consisting essentially of)」に関して記載する類似の態様も提供される。
【0082】
ヒト化組織因子抗体
本開示は、抗体、それらの抗原結合断片、及び抗体-薬物複合体を提供し、これらはすべて、ヒトTF(hTF)に特異的に結合する。
【0083】
本開示はまた、hTFに結合することができる単離されたヒト化抗体を提供し、この抗体は、正常な血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害せず、また、この抗体は、1つ以上のFcを介したメカニズムを開始することができる。本明細書に開示のヒト化TF抗体は正常なTFを介した血液凝固を阻害しないため、本明細書に開示のヒト化TF抗体で治療された患者において、正常な血漿凝固は影響を受けない。特定の実施形態では、ヒト化TF抗体は単離されている。
【0084】
32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His6タグ配列を有するヒト組織因子の全長ヌクレオチド及びアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1及び2によって表すように、本明細書に提供する。
【0085】
配列番号1:32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His6タグ配列を有する全長ヒト組織因子のヌクレオチド配列
ATGGAGACCCCTGCCTGGCCCCGGGTCCCGCGCCCCGAGACCGCCGTCGCTCGGACGCTCCTGCTCGGCTGGGTCTTCGCCCAGGTGGCCGGCGCTTCAGGCACTACAAATACTGTGGCAGCATATAATTTAACTTGGAAATCAACTAATTTCAAGACAATTTTGGAGTGGGAACCCAAACCCGTCAATCAAGTCTACACTGTTCAAATAAGCACTAAGTCAGGAGATTGGAAAAGCAAATGCTTTTACACAACAGACACAGAGTGTGACCTCACCGACGAGATTGTGAAGGATGTGAAGCAGACGTACTTGGCACGGGTCTTCTCCTACCCGGCAGGGAATGTGGAGAGCACCGGTTCTGCTGGGGAGCCTCTGTATGAGAACTCCCCAGAGTTCACACCTTACCTGGAGACAAACCTCGGACAGCCAACAATTCAGAGTTTTGAACAGGTGGGAACAAAAGTGAATGTGACCGTAGAAGATGAACGGACTTTAGTCAGAAGGAACAACACTTTCCTAAGCCTCCGGGATGTTTTTGGCAAGGACTTAATTTATACACTTTATTATTGGAAATCTTCAAGTTCAGGAAAGAAAACAGCCAAAACAAACACTAATGAGTTTTTGATTGATGTGGATAAAGGAGAAAACTACTGTTTCAGTGTTCAAGCAGTGATTCCCTCCCGAACAGTTAACCGGAAGAGTACAGACAGCCCGGTAGAGTGTATGGGCCAGGAGAAAGGGGAATTCAGAGAAATATTCTACATCATTGGAGCTGTGGTATTTGTGGTCATCATCCTTGTCATCATCCTGGCTATATCTCTACACAAGTGTAGAAAGGCAGGAGTGGGGCAGAGCTGGAAGGAGAACTCCCCACTGAATGTTTCAAGAGGATCCCACCATCACCATCACCATTAA
【0086】
配列番号2:32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His6タグ配列を有する全長ヒト組織因子のアミノ酸配列
METPAWPRVPRPETAVARTLLLGWVFAQVAGASGTTNTVAAYNLTWKSTNFKTILEWEPKPVNQVYTVQISTKSGDWKSKCFYTTDTECDLTDEIVKDVKQTYLARVFSYPAGNVESTGSAGEPLYENSPEFTPYLETNLGQPTIQSFEQVGTKVNVTVEDERTLVRRNNTFLSLRDVFGKDLIYTLYYWKSSSSGKKTAKTNTNEFLIDVDKGENYCFSVQAVIPSRTVNRKSTDSPVECMGQEKGEFREIFYIIGAVVFVVIILVIILAISLHKCRKAGVGQSWKENSPLNVSRGSHHHHHH
【0087】
基本的な抗体構造単位は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対からなる四量体を含むことが知られており、各対は1つの「軽」鎖(約25kDa)及び1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、主に抗原認識に関与する約100~110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシル末端部分は、主にFcを介したメカニズムに関与する定常領域を画定する。ヒト軽鎖は、κ軽鎖とλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、εに分類され、抗体のアイソタイプは、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、及びIgEとして定義される。一般的には、Fundamental Immunology,Ch.7(Paul,W.,ed.,2nd ed. Raven Press,N.Y.(1989))を参照のこと。各軽鎖/重鎖ペアの可変領域は、抗原結合部位を形成する。したがって、インタクトなIgG抗体は2つの結合部位を有する。二機能性または二重特異性抗体を除いて、2つの結合部位は同じである。
【0088】
本明細書に開示のヒト化TF抗体は、その全体を参照により本明細書に援用する米国特許第7,993,644号に開示のマウス親抗体TF278に由来する。マウス抗体TF278の重鎖及び軽鎖可変領域のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を、それぞれ配列番号5~8として提供し、
図3A及び3Bに示す。
【0089】
配列番号5:マウス抗体TF278(VH0)の可変重鎖ドメイン(VH)のヌクレオチド配列:
GAGGTCCAGCTGCAGCAATCTGGAGCTGAGCTGATGAAGCCTGGGGCCTCAGTGAAGATATCCTGCAAGGCTACTGGCTACACATTCAGTAGCTACTGGATAGAGTGGGTAAAGCAGAGGCCTGGACATGGCCTTGAGTGGATTGGAGAGATTTTACCTGGAAGTGCTAGTACTAAGTACAATGAGAAGTTCAAGGGCAAGGCCACATTCACTGCAGATACATCCTCCAACACAGCCTACATGCAACTCAGCAGCCTGACATCTGAGGACTCTGCCGTCTATTACTGTGCAAGAGATTATTACTACGGTAGTAGCTACGGGTTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCGAGT
【0090】
配列番号6:マウス抗体TF278(VH0)の可変重鎖ドメイン(VH)のアミノ酸配列:
EVQLQQSGAELMKPGASVKISCKATGYTFSSYWIEWVKQRPGHGLEWIGEILPGSASTKYNEKFKGKATFTADTSSNTAYMQLSSLTSEDSAVYYCARDYYYGSSYGFAYWGQGTLVTVSS
【0091】
配列番号7:マウス抗体TF278(VL0)の可変軽鎖ドメイン(VL)のヌクレオチド配列:
CAGGCTGTTGTGACTCAGGAATCTGCACTCACCACATCACCTGGTGAAACAGTCACACTCACTTGTCGCTCAAGTACTGGGGCTGTTACAACTAGTAACTATGCCAACTGGGTCCAAGAAAAACCAGATCATTTATTCACTGGCCTAATAGGTGGTACCAACAACCGAGGTCCAGGTGTTCCTGCCAGATTCTCAGGCTCCCTGATTGGAGACAAGGCTGCCCTCACCATCACAGGGGCACAGACTGAGGATGAGGCAGTATATTTCTGTGCTCTATGGTACAGCAACCATTGGGTGTTCGGTGGAGGAACCAAACTGACTGTCCTAGGT
【0092】
配列番号8:マウス抗体TF278(VL0)の可変軽鎖ドメイン(VL)のアミノ酸配列:
QAVVTQESALTTSPGETVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQEKPDHLFTGLIGGTNNRGPGVPARFSGSLIGDKAALTITGAQTEDEAVYFCALWYSNHWVFGGGTKLTVLG
【0093】
本明細書に開示のヒト化TF抗体は、配列番号9~11から選択される重鎖可変領域または配列番号12~16から選択される軽鎖可変領域を含む。本開示はまた、本明細書に開示のヒト化TF抗体のhTFへの結合を妨害することができる単離された抗TF抗体を提供し、前記抗TF抗体は、通常の血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害しない。
【0094】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片は、ヒトTFポリペプチド(例えば、配列番号2)に対して、少なくとも約95%、少なくとも約90%、少なくとも約85%、少なくとも約80%、少なくとも約75%、少なくとも約70%、少なくとも約65%、少なくとも約60%、少なくとも約55%、少なくとも約50%、少なくとも約45%、または少なくとも約40%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドに結合する。
【0095】
本明細書に開示のヒト化TF抗体は、hTFポリペプチドまたはhTFのポリペプチド断片に免疫特異的に結合することができる。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、hTFに免疫特異的に結合する。他の実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、hTFの細胞外ドメインに免疫特異的に結合する。本明細書中で使用する場合、「hTFの細胞外ドメイン」は、細胞の外表面に局在するhTFの219アミノ酸残基部分を指すことが意図されている(例えば、ヒト組織因子の細胞外ドメインのヌクレオチド(配列番号3)及びアミノ酸(配列番号4)配列を示す
図2を参照のこと)。
【0096】
配列番号3:32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His6タグ配列を有するヒト組織因子の細胞外ドメインのヌクレオチド配列:
ATGGAGACCCCTGCCTGGCCCCGGGTCCCGCGCCCCGAGACCGCCGTCGCTCGGACGCTCCTGCTCGGCTGGGTCTTCGCCCAGGTGGCCGGCGCTTCAGGCACTACAAATACTGTGGCAGCATATAATTTAACTTGGAAATCAACTAATTTCAAGACAATTTTGGAGTGGGAACCCAAACCCGTCAATCAAGTCTACACTGTTCAAATAAGCACTAAGTCAGGAGATTGGAAAAGCAAATGCTTTTACACAACAGACACAGAGTGTGACCTCACCGACGAGATTGTGAAGGATGTGAAGCAGACGTACTTGGCACGGGTCTTCTCCTACCCGGCAGGGAATGTGGAGAGCACCGGTTCTGCTGGGGAGCCTCTGTATGAGAACTCCCCAGAGTTCACACCTTACCTGGAGACAAACCTCGGACAGCCAACAATTCAGAGTTTTGAACAGGTGGGAACAAAAGTGAATGTGACCGTAGAAGATGAACGGACTTTAGTCAGAAGGAACAACACTTTCCTAAGCCTCCGGGATGTTTTTGGCAAGGACTTAATTTATACACTTTATTATTGGAAATCTTCAAGTTCAGGAAAGAAAACAGCCAAAACAAACACTAATGAGTTTTTGATTGATGTGGATAAAGGAGAAAACTACTGTTTCAGTGTTCAAGCAGTGATTCCCTCCCGAACAGTTAACCGGAAGAGTACAGACAGCCCGGTAGAGTGTATGGGCCAGGAGAAAGGGGAATTCAGAGAAAGAGGATCCCACCATCACCATCACCATTAA
【0097】
配列番号4:32アミノ酸のN末端リーダー配列及び9アミノ酸のC末端RGS-His6タグ配列を有するヒト組織因子の細胞外ドメインのアミノ酸配列:
METPAWPRVPRPETAVARTLLLGWVFAQVAGASGTTNTVAAYNLTWKSTNFKTILEWEPKPVNQVYTVQISTKSGDWKSKCFYTTDTECDLTDEIVKDVKQTYLARVFSYPAGNVESTGSAGEPLYENSPEFTPYLETNLGQPTIQSFEQVGTKVNVTVEDERTLVRRNNTFLSLRDVFGKDLIYTLYYWKSSSSGKKTAKTNTNEFLIDVDKGENYCFSVQAVIPSRTVNRKSTDSPVECMGQEKGEFRERGSHHHHHH
【0098】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、hTFに優先的に結合する。他の実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、hTFに免疫特異的に結合し、他のいかなる抗原とも交差反応しない。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、正常な血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害しない。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、1つ以上のFcを介したメカニズムを開始する。
【0099】
本明細書中で使用する場合、用語「抗原結合抗体断片」(または「抗原結合断片」)とは、本明細書に開示のヒト化抗体の対応する全長または天然ポリペプチド配列と比較して、ポリペプチド配列の部分または一部であるポリペプチドを指す。ポリペプチド配列の部分または一部は、本明細書に開示の全長ヒト化TF抗体の全長ポリペプチド配列の、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%であり得るが、全長抗体の結合特異性を少なくともある程度保持し、通常の血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害しない。抗原結合断片はまた、Fcを介したメカニズムを開始することが可能であってもよい。
【0100】
本明細書に開示の抗体分子(例えば、VHドメイン及び/またはVLドメイン)の抗原結合抗体断片(誘導体を含む)は、全長抗体の少なくとも20、少なくとも40、少なくとも60、少なくとも80、少なくとも100、少なくとも120、少なくとも140、少なくとも160、または160を超えるアミノ酸を有する断片(誘導体を含む)を含むが、これらに限定されず、また、VHドメイン、VH-CDR1、VH-CDR2、VH-CDR3、VLドメイン、VL-CDR1、VL-CDR2、及び/またはVL-CDR3を含み得る。得られた抗体または抗原結合抗体断片を、生物活性についてスクリーニングして、所望の活性(例えば、hTFに結合する能力)を保持する断片を同定することができる。
【0101】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、配列番号9~11から選択される重鎖可変配列を有する。いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、配列番号12~16から選択される軽鎖可変配列を有する。重鎖及び軽鎖可変配列を、それぞれ表1及び2に示す。
表1.TF抗体B278のヒト化バリアントの重鎖可変領域のアミノ酸配列
【表2】
表2.TF抗体B278のヒト化バリアントの軽鎖可変領域のアミノ酸配列
【表3】
【0102】
いくつかの実施形態では、ヒト化TF B278抗体バリアントは、重鎖可変領域VH-CDR1、VH-CDR2、及びVH-CDR3配列を有する。いくつかの実施形態では、ヒト化TF B278抗体バリアントは、軽鎖可変領域VL-CDR1、VL-CDR2、及びVL-CDR3配列を有する。本明細書に開示のヒト化TF B278抗体バリアントのそれぞれのCDR配列は以下の通りである:
VH-CDR1:GYTFSSYWIE(配列番号19)
VH-CDR2:EILPGSASTKYNEKFKG(配列番号20)
VH-CDR3:ARDYYYGSSYGFAY(配列番号21)
VL-CDR1:RSSTGAVTTSNYAN(配列番号22)
VL-CDR2:GTNNRGP(配列番号23)
VL-CDR3:ALWYSNHWV(配列番号24)
【0103】
非限定的な例として、抗体が、第2の抗原に対する抗体の解離定数(KD)または解離速度(Koff)よりも低いKDまたはKoffでタンパク質に結合する場合、その抗体は、hTFに優先的に結合するとみなすことができる。他の非限定的な実施形態では、抗体が、第2の抗原に対する抗体のKDまたはKoffよりも少なくとも1桁小さいKDまたはKoffでタンパク質に結合する場合、その抗体は、hTFに優先的に結合すると見なすことができる。他の非限定的な実施形態では、抗体が、第2の抗原に対する抗体のKDまたはKoffよりも少なくとも2桁小さいKDまたはKoffでhTFに結合する場合、その抗体は、hTFに優先的に結合するとみなすことができる。
【0104】
本明細書に開示のヒト化TF抗体はまた、hTFへのそれらの結合親和性に関して記述することができる。いくつかの実施形態では、結合親和性には、解離定数すなわちKDが、5×10-2M、10-2M、5×10-3M、10-3M、5×10-4M、または10-4M以下の結合親和性が含まれる。他の実施形態では、親和性には、解離定数すなわちKDが、5×10-5M、10-5M、5×10-6M、10-6M、5×10-7M、107M、5×10-8Mまたは10-8M以下の親和性が含まれる。さらに他の実施形態では、結合親和性には、解離定数またはKDが、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M、または10-15M以下の親和性が含まれる。
【0105】
いくつかの実施形態では、本発明の抗体は、5×10-2秒-1、10-2秒-1、5×10-3秒-1またはl0-3秒-1以下の解離速度(Koff)でhTFポリペプチドに結合することができる。他の実施形態では、本発明の抗体は、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1、または10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1または10-7秒-1以下の解離速度(Koff)でhTFポリペプチドまたはその断片に結合することができる。
【0106】
本開示のいくつかの実施形態では、hTFに免疫特異的に結合する抗体は、本発明の抗TF抗体発現細胞株で発現する重鎖のいずれか1つ及び/または本発明の抗TF抗体発現細胞株で発現する軽鎖のいずれか1つのアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得る。本開示の他の実施形態では、hTFに免疫特異的に結合する抗体は、本発明の抗TF抗体発現細胞株で発現する重鎖のVHドメインのいずれか1つ及び/または本発明の抗TF抗体発現細胞株で発現する軽鎖のVLドメインのいずれか1つのアミノ酸配列を有するポリペプチドを含み得る。さらに他の実施形態では、本開示の抗体は、本発明の単一の抗TF抗体発現細胞株で発現するVHドメイン及びVLドメインのアミノ酸配列を含み得る。他の実施形態では、本開示の抗体は、本発明の2つの異なる抗TF抗体発現細胞株で発現するVHドメイン及びVLドメインのアミノ酸配列を有し得る。hTFに免疫特異的に結合する本発明の抗TF抗体発現細胞株で発現するVH及び/またはVLドメインの抗原結合抗体断片を含むか、またはそれらからなる分子もまた、これらのVH及びVLドメイン、分子、及び/または断片をコードする核酸分子と同様に、本発明に包含される。
【0107】
本開示はまた、本明細書に記載のヒト化TF抗体分子(例えば、VHドメイン及び/またはVLドメイン)のバリアント(誘導体を含む)を含むか、またはそれらからなるポリペプチドも提供し、そのポリペプチドは、hTFまたはその断片もしくはバリアントに免疫特異的に結合する。用語「バリアント」とは、対応する天然ポリペプチドまたはDNA配列と比較して、そのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に少なくとも1つ以上の差異が存在する分子(例えば、ポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列)を指す。本発明のアミノ酸配列バリアントは、本明細書に開示のヒト化TF抗体のアミノ酸配列に対して、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約85%、少なくとも約95%、または少なくとも約99%の配列同一性を有する。
【0108】
「置換バリアント」とは、天然配列の少なくとも1つのアミノ酸残基を除去し、同じ位置のその場所に挿入した異なるアミノ酸を有するバリアントである。置換は、分子内の1つだけのアミノ酸残基が置換されている単一であり得るか、または同じ分子内で2つ以上のアミノ酸残基が置換されている複数であり得る。「挿入バリアント」とは、アミノ酸のα-カルボキシル官能基またはα-アミノ官能基のいずれかに接続された天然アミノ酸配列の特定の位置でアミノ酸に直接隣接して1つ以上のアミノ酸が挿入されたバリアントである。「欠失バリアント」とは、天然アミノ酸配列から1つ以上のアミノ酸残基を除去したバリアントである。通常、欠失バリアントは、分子の特定の領域で1つまたは2つのアミノ酸が欠失している。
【0109】
本明細書中に開示するように、例えば、アミノ酸置換をもたらすコード核酸分子の部位特異的変異誘発またはPCR媒介変異誘発を含む、当業者に公知の標準的な技術を使用して、ヒト化TF抗体に変異を導入することができる。いくつかの実施形態では、バリアント(誘導体を含む)は、参照ポリペプチドと比較して、50未満のアミノ酸置換、40未満のアミノ酸置換、30未満のアミノ酸置換、25未満のアミノ酸置換、20未満のアミノ酸置換、15未満のアミノ酸置換、10未満のアミノ酸置換、5未満のアミノ酸置換、4未満のアミノ酸置換、3未満のアミノ酸置換、または2未満のアミノ酸置換を有する。いくつかの実施形態では、バリアントポリペプチドは、本開示のポリペプチドと同じ免疫特異性を有するか、または同じエピトープに結合する。
【0110】
類似のアミノ酸配列を有するポリペプチド、またはその断片もしくはバリアントが、類似の構造及び多くの同じ生物学的活性を有することができることは、当技術分野で周知である。したがって、本開示はさらに、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第2の抗体と、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、単離された第1の抗体またはその抗原結合断片に関する:(a)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも1つのCDR領域;(b)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも2つのCDR領域;(c)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも3つのCDR領域;(d)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも1つのCDR領域;(e)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも2つのCDR領域;及び(f)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも3つのCDR領域。いくつかの実施形態では、第1の抗体またはその抗原結合断片は、第2の抗体と同じ免疫特異性を有するか、または同じエピトープに結合する。
【0111】
本開示はまた、配列番号9~18からなる群から選択されるアミノ酸配列と、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%同一のアミノ酸配列を有する単離されたヒト化TF抗体またはその抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態では、抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9~18からなる群から選択されるアミノ酸配列によってコードされるポリペプチドと同じ免疫特異性を有するか、または同じエピトープに結合する。
【0112】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL3(配列番号13)及び重鎖可変領域VH4(配列番号10)からなるB278-LC3HC4バリアントである。
【0113】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL3(配列番号13)及び重鎖可変領域VH5(配列番号11)からなるB278-LC3HC5バリアントである。
【0114】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL3(配列番号13)及び重鎖可変領域VH6(配列番号9)からなるB278-LC6HC6バリアントである。
【0115】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL5(配列番号14)及び重鎖可変領域VH4(配列番号10)からなるB278-LC5HC4バリアントである。
【0116】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL5(配列番号14)及び重鎖可変領域VH5(配列番号11)からなるB278-LC5HC5バリアントである。
【0117】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL5(配列番号14)及び重鎖可変領域VH6(配列番号9)からなるB278-LC5HC6バリアントである。
【0118】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL6(配列番号15)及び重鎖可変領域VH4(配列番号10)からなるB278-LC6HC4バリアントである。
【0119】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL6(配列番号15)及び重鎖可変領域VH5(配列番号11)からなるB278-LC6HC5バリアントである。
【0120】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL6(配列番号15)及び重鎖可変領域VH6(配列番号9)からなるB278-LC6HC6バリアントである。
【0121】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL7(配列番号12)及び重鎖可変領域VH4(配列番号10)からなるB278-LC7HC4バリアントである。
【0122】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL7(配列番号12)及び重鎖可変領域VH5(配列番号11)からなるB278-LC7HC5バリアントである。
【0123】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL7(配列番号12)及び重鎖可変領域VH6(配列番号9)からなるB278-LC7HC6バリアントである。
【0124】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL8(配列番号16)及び重鎖可変領域VH4(配列番号10)からなるB278-LC8HC4バリアントである。
【0125】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL8(配列番号16)及び重鎖可変領域VH5(配列番号11)からなるB278-LC8HC5バリアントである。
【0126】
いくつかの実施形態では、ヒト化組織因子抗体は、軽鎖可変領域VL8(配列番号16)及び重鎖可変領域VH6(配列番号9)からなるB278-LC8HC6バリアントである。
【0127】
また、以下を含むポリペプチドを提供する:(a)配列番号9~11及び17に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するポリペプチド;及び/または(b)配列番号12~16及び18に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するポリペプチド。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、配列番号9~18に対して、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。したがって、特定の実施形態では、ポリペプチドは、(a)配列番号9~11及び17に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリペプチド、及び/または(b)配列番号12~16及び18に対して少なくとも約95%の配列同一性を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、(a)配列番号9~11及び17のアミノ酸配列を有するポリペプチド;及び/または(b)配列番号12~16及び18のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは抗体であり、及び/またはポリペプチドはhTFに特異的に結合する。いくつかの実施形態では、ポリペプチドは、hTFに特異的に結合するヒト化抗体である。いくつかの実施形態では、配列番号9~18に対して特定の割合の配列同一性を有するポリペプチドは、保存的アミノ酸置換のみが配列番号9~18と異なる。
【0128】
ポリペプチドは、本明細書に開示の個々の軽鎖または重鎖の1つを含み得る。抗体及びポリペプチドはまた、本明細書に開示するように、軽鎖及び重鎖の両方を含み得る。例示的な軽鎖及び重鎖配列(LC7及びHC6)を本明細書に提供する:
【0129】
配列番号17:全長重鎖HC6のアミノ酸配列:
EVQLQQSGAEVMKPGASVKISCKASGYTFSSYWIEWVKQAPGQGLEWIGEILPGSASTKYNEKFKGRVTFTADTSTNTAYMELSSLRSEDTAVYYCARDYYYGSSYGFAYWGQGTLVTVSSASTKGPSVFPLAPSSKSTSGGTAALGCLVKDYFPEPVTVSWNSGALTSGVHTFPAVLQSSGLYSLSSVVTVPSSSLGTQTYICNVNHKPSNTKVDKKVEPKSCDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
【0130】
配列番号18:全長軽鎖LC7のアミノ酸配列
QAVVTQEPSLTVSPGGTVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQQKPGQLPKGLISGTNNRGPWTTARFSGSILGDKAVLTLWGAHTEDEAVYYCALWYSNHWVFGGGTKLTVLGQPKAAPSVTLFPPSSEELQANKATLVCLISDFYPGAVTVAWKADSSPVKAGVETTTPSKQSNNKYAASSYLSLTPEQWKSHRSYSCQVTHEGSTVEKTVAPTECS
【0131】
本開示はまた、本明細書中に記載の1つ以上の抗体と同じ1つ以上の生物学的特徴を有するヒト化抗体を包含する。「生物学的特徴」とは、ヒト化抗体のin vitroまたはin vivoでの活性または特性、例えば、通常の血漿対照と比較してTF(例えば、細胞表面上に発現するhTF、または膜に埋め込まれたhTF)を介した血液凝固を阻害することなく、TFに特異的に結合する能力、または本明細書に開示のTF抗体の1つと同じエピトープに結合する能力を意味することを意図している。そのようなエピトープ結合は、当技術分野で公知のアッセイを使用して日常的に測定することができる。
【0132】
本開示はまた、ATCC受託番号PTA-5676の下で寄託されたハイブリドーマ細胞株TF278によって産生されるモノクローナル抗体の結合特性を有するか、またはそれによって認識されるエピトープへの結合について競合するヒト化TFモノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0133】
本開示はまた、配列番号9~26のアミノ酸配列の1つ以上を含む、TFに特異的に結合するポリペプチドまたはヒト化抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0134】
抗体の製造方法
TF(例えば、ヒトTF)に免疫特異的に結合する抗体及びその抗原結合断片は、抗体及びその抗原結合断片の合成について当技術分野で公知の任意の方法によって、例えば、化学合成または組換え発現技術によって産生することができる。本明細書に記載の方法は、特に明記しない限り、分子生物学、微生物学、遺伝子解析、組換えDNA、有機化学、生化学、PCR、オリゴヌクレオチド合成及び改変、核酸ハイブリダイゼーション、ならびに当業者の関連技術分野における従来の技術を使用する。これらの技術は、例えば、本明細書中に引用する参考文献に記載されており、文献内で完全に説明されている。例えば、Sambrook J.et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(2001);Ausubel,F.M. et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987及び年次報告書);Coligan,J.E.et al.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons(1987及び年次報告書);Gait.M.J.(ed.),Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press(1984);Eckstein,F.(ed.),Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approach, IRL Press(1991);Birren,B.et al.(eds.),Genome Analysis:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1999)を参照のこと。
【0135】
一態様では、本明細書において、本明細書に記載の細胞または宿主細胞を培養することを含む、TF(例えば、ヒトTF)に免疫特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の作製方法を提供する。特定の態様では、本明細書において、本明細書に記載の細胞または宿主細胞(例えば、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする1つ以上のポリヌクレオチドを含む細胞または宿主細胞)を用いて抗体またはその抗原結合断片を発現(例えば、組換え発現)することを含む、TF(例えば、ヒトTF)に免疫特異的に結合する抗体またはその抗原結合断片の作製方法を提供する。いくつかの実施形態では、細胞は単離された細胞である。いくつかの実施形態では、ポリヌクレオチドは細胞に導入されている。いくつかの実施形態では、方法は、細胞または宿主細胞から得られた抗体またはその抗原結合断片を精製する工程をさらに含む。
【0136】
目的の抗原に対するポリクローナル抗体の産生方法は、当技術分野で公知である(例えば、Ausubel,F.M.et al.,eds.,Chapter 11 in Short Protocols in Molecular Biology,5thed.,John Wiley and Sons,New York,(2002)を参照のこと)。例えば、目的のポリペプチドを、ウサギ、マウス、ラットなどを含むがこれらに限定されない様々な宿主動物のいずれかに投与して、抗原に特異的なポリクローナル抗体を含む血清の産生を誘導することができる。宿主の種に応じて、免疫応答を高めるために様々なアジュバントを使用することができ、これには、フロイント(完全及び不完全)、水酸化アルミニウムなどのミネラルゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルジョン、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(bacille Calmette-Guerin)及びcorynebacterium parvumなどの潜在的に有用なヒトアジュバントが含まれるが、これらに限定されない。そのようなアジュバントも当技術分野で周知である。
【0137】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、及びファージディスプレイ技術、またはそれらの組み合わせの使用を含む、当技術分野で公知の多種多様な技術を使用して調製することができる。例えば、モノクローナル抗体は、当技術分野で公知の技術、及び、例えば、Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nded.(1988);Hammerling,et al.,in Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas,Elsevier,New York(1981),pp.563-681に示されている技術、またはKohler,G. and Milstein,C.,Nature 256:495-497(1975)に記載されている技術を含む、ハイブリドーマ技術を使用して産生することができる。本明細書に記載の抗体を選択及び生成するために使用することができる酵母ベースの提示方法の例として、例えば、WO2009/036379;WO2010/105256;及びWO2012/009568に開示されている方法が挙げられ、これらの各々は、その全体を参照により本明細書に援用する。本明細書中で使用する用語「モノクローナル抗体」は、ハイブリドーマ技術によって作製された抗体に限定されない。用語「モノクローナル抗体」とは、任意の真核生物、原核生物、またはファージのクローンを含む単一のクローンに由来する抗体を指し、それを産生する方法を指すものではない。
【0138】
いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、クローン細胞(例えば、組換え抗体またはその抗原結合断片を産生するハイブリドーマまたは宿主細胞)によって産生される抗体またはその抗原結合断片であり、その場合、抗体またはその抗原結合断片は、TF(例えばヒトTF)に免疫特異的に結合し、結合は、例えば、ELISAまたは当技術分野で公知であるかもしくは本明細書中に提供する実施例における他の抗原結合アッセイにより測定される。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、キメラ抗体もしくはヒト化抗体またはその抗原結合断片であり得る。いくつかの実施形態では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、FabフラグメントまたはF(ab’)2フラグメントであり得る。
【0139】
本明細書に記載の抗体の抗原結合断片は、当技術分野で公知の任意の技術によって生成することができる。例えば、本明細書に記載のFab及びF(ab’)2フラグメントは、パパイン(Fabフラグメントを生成するための)またはペプシン(F(ab’)2フラグメントを生成するための)などの酵素を使用して、免疫グロブリン分子のタンパク質分解切断によって生成することができる。Fabフラグメントは、四量体抗体分子の2つの同一アームの1つに対応し、重鎖のVH及びCH1ドメインと対になっている完全な軽鎖を含む。F(ab’)2フラグメントは、ヒンジ領域のジスルフィド結合によって連結された四量体抗体分子の2つの抗原結合アームを含む。
【0140】
さらに、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、当技術分野で公知の様々なファージディスプレイ及び/または酵母ベースの提示方法を使用して生成することもできる。ファージディスプレイ法では、タンパク質を、それらをコードするポリヌクレオチド配列を保有するファージ粒子の表面に提示させる。特に、VH及びVLドメインをコードするDNA配列は、動物cDNAライブラリー(例えば、患部組織のヒトまたはマウスcDNAライブラリー)から増幅させる。PCRにより、VH及びVLドメインをコードするDNAをscFvリンカーと一緒に再結合し、ファージミドベクターにクローニングする。ベクターをE.coliにエレクトロポレーションし、E.coliをヘルパーファージに感染させる。これらの方法に用いるファージは、一般的にfd及びM13を含む繊維状ファージであり、通常、組換えによりVH及びVLドメインをファージ遺伝子IIIまたは遺伝子VIIIのいずれかに融合させる。特定の抗原に結合する抗体またはその抗原結合断片を発現するファージは、抗原を用いて、例えば、標識した抗原または固体表面もしくはビーズに結合または捕捉させた抗原を用いて選択または同定することができる。本明細書に記載の抗体または断片を作製するために使用することができるファージディスプレイ法の例として、Brinkman U.et al.,J Immunol Methods 182:41-50(1995);Ames,R.S.et al.,J Immunol Methods 184:177-186(1995);Kettleborough,C.A.et al.,Eur J Immunol 24:952-958(1994);Persic,L et al.,Gene 187:9-18(1997);PCT出願第PCT/GB91/001134号;国際公開第WO90/02809号;第WO91/10737号;第WO92/01047号;第WO92/18619号;第WO93/11236号;第WO95/15982号;第WO95/20401号;及び第WO97/13844号;ならびに米国特許第5,698,426号;第5,223,409号;第5,403,484号;第5,580,717号;第5,427,908号;第5,750,753号;第5,821,047号;第5,571,698号;第5,427,908号;第5,516,637号;第5,780,225号;第5,658,727号;第5,733,743号;及び第5,969,108号に開示されている方法が挙げられる。
【0141】
いくつかの実施形態では、hTFに対する抗体は、ヒト化抗体またはその抗原結合断片であり、IgM、IgG、IgD、IgA及びIgEを含む免疫グロブリンの任意のクラス、ならびにIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4を含む任意のアイソタイプから選択することができる。いくつかの実施形態では、ヒト対象に投与する場合、そのような抗体を治療的に使用して、抗原性及びHAMA(ヒト抗マウス抗体)応答を低下させる。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを使用するファージディスプレイ法を含む、当技術分野で公知の様々な方法によって作製することができる。米国特許第4,444,887号及び第4,716,111号;及びPCT公開WO98/46645、WO98/50433、WO98/24893、WO98/16654、WO96/34096、WO96/33735、及びWO91/10741を参照のこと。さらに、抗体は、例えば、CDR移植(EP239,400;PCT公開WO91/09967;米国特許第5,225,539号;第5,530,101号;及び第5,585,089号)、ベニアリングまたは表面再修飾(EP592,106;EP519,596;Padlan,Molecular Immunology 28(4/5):489-498(1991);Studnicka et al.,Protein Engineering 7(6):805-814(1994);Roguska et al.,PNAS 91:969-973(1994))、及び鎖シャッフリング(米国特許第5,565,332号)を含む、当技術分野で公知の様々な技術を用いてヒト化することができる。
【0142】
ヒト化抗体はまた、内在性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを産生する免疫化が可能なヒト免疫グロブリン遺伝子座を含むトランスジェニックマウスで作製することもできる。このアプローチは、米国特許第5,545,807号;第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;及び第5,661,016号に記載されている。
【0143】
いくつかの実施形態では、CDR移植を使用してTF抗体をヒト化する(EP239,400;PCT公開WO91/09967;米国特許第5,225,539号;第5,530,101号;及び第5,585,089号)。分子モデリングを使用して、マウスフレームワーク配列に最も構造的に類似しているヒトフレームワーク配列を同定する。次いで、マウスのCDR配列をヒトのフレームワークに移植し、結合させた配列を再びモデル化し、構造モデルを実質的に変化させない移植CDR/フレームワーク配列のみを追跡する。次いで、変異を導入して、フォールディング及び構造を妨害している可能性のある残基を除去するか、または改変(切断、グリコシル化、アミド化など)の対象となり得る部位を導入するか、またはヒト化抗体の免疫原性を誘発する強力なT細胞エピトープを生成してもよい。
【0144】
いくつかの実施形態では、hTFに対する抗体はヒト抗体である。ヒト抗体は、機能的な内在性免疫グロブリンを発現することができないが、ヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを使用して産生することができる。例えば、ヒト重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体を、無作為に、または相同組換えによりマウス胚性幹細胞に導入することができる。あるいは、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子に加えて、ヒト可変領域及び定常領域をコードする核酸をマウス胚性幹細胞に導入することができる。マウス重鎖及び軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入とは別個に、または同時に、非機能性にすることができる。いくつかの実施形態では、JH領域のホモ接合性欠失により、内在性抗体産生を防止する。改変した胚性幹細胞を増殖させ、胚盤胞にマイクロインジェクションしてキメラマウスを作製する。次いで、キメラマウスを飼育して、ヒト抗体を発現するホモ接合型子孫を作製する。選択された抗原、例えば、目的のポリペプチドの全部または部分を用いて、トランスジェニックマウスを通常の方法で免疫化する。抗原に対するモノクローナル抗体は、従来のハイブリドーマ技術を使用して、免疫化されたトランスジェニックマウスから得ることができる。トランスジェニックマウスが保有するヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞の分化中に再配置され、その後、クラススイッチング及び体細胞変異を受ける。したがって、そのような技術を使用して、治療的に有用なIgG、IgA、IgM及びIgE抗体を産生することが可能である。
【0145】
ヒト抗体を産生するためのこの技術の概要については、Lonberg and Huszar,Int.Rev.Immunol.13:65-93(1995)を参照のこと。ヒト抗体及びヒトモノクローナル抗体を産生するためのこの技術の詳細な考察については、例えば、PCT公開WO98/24893;WO92/01047;WO96/34096;WO96/33735;欧州特許第0598877号;米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;第5,885,793号;第5,916,771号;第5,939,598号;第6,075,181号;及び第6,114,598号を参照のこと。親和性成熟戦略及び鎖シャッフリング戦略は当技術分野で公知であり、高親和性ヒト抗体を生成するために使用することができる。Markset al.,Bio/Technology 10:779-783(1992)を参照のこと。
【0146】
選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択」と呼ばれる技術を使用して生成することができる。このアプローチでは、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を使用して、同じエピトープを認識する完全ヒト抗体の選択を誘導する(Jespers et al.,Bio/technology 12:899-903(1988))。
【0147】
一本鎖Fv及び抗体を産生するために使用することができる技術の例として、米国特許第4,946,778号及び第5,258,498号;Huston et al.,Methods in Enzymology 203:46-88(1991);Shu et al.,PNAS 90:7995-7999(1993);ならびにSkerra et al.,Science 240:1038-1040(1988)に記載されている技術が挙げられる。一本鎖抗体は、Fv領域の重鎖及び軽鎖断片をアミノ酸架橋を介して連結し、一本鎖ポリペプチドを得ることにより形成される。E.coliにおける機能的Fvフラグメントの構築のための技術もまた使用することができる(Skerra et al.,Science 242:1038-1041(1988))。
【0148】
さらに、キメラ抗体の産生方法は、当技術分野で公知である。例えば、Morrison,Science 229:1202(1985);Oi et al.,BioTechniques 4:214(1986);Gillies et al.,J.Immunol.Methods 125:191-202(1989);Neuberger et al.,Nature 312:604-608(1984);Takeda et al.,Nature 314:452-454(1985);米国特許第5,807,715号;第4,816,567号;及び第4,816,397号を参照のこと。
【0149】
本明細書に開示のTF抗体(すなわち、ヒト化抗体)を、動物で産生するか、化学合成するか、または組換え発現させた後、免疫グロブリン分子の精製に関して当技術分野で公知の任意の方法によって、これを精製することができる。精製方法には、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、及びサイズ選別カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差によるか、またはタンパク質の精製のための他の標準的な技術による方法が含まれる。さらに、本明細書に開示のTF抗体またはその断片を、本明細書に記載するか、またはそうでなければ当技術分野で公知の異種ポリペプチド配列に融合させて、精製を容易にすることができる。
【0150】
ヒト化TF抗体及びそのポリペプチドをコードする核酸分子
本開示は、本明細書に開示のヒト化TF抗体をコードするヌクレオチド配列を有する単離されたポリヌクレオチド分子をさらに提供する。いくつかの実施形態では、単離されたポリヌクレオチド分子は、配列番号25~28または35~36のヌクレオチド配列、またはその断片もしくはバリアントを有する。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、それぞれ配列番号25または26から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖または軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、それぞれ配列番号35または36から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる重鎖または軽鎖可変領域を含む。配列番号25と配列番号35のヌクレオチド配列の相違を、以下に太字で示す。配列番号26と配列番号36のヌクレオチド配列の相違もまた、以下に太字で示す。いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、それぞれ配列番号27または28から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる全長重鎖または軽鎖配列を含む。
【0151】
配列番号25:ヒト化TF抗体の重鎖可変領域のヌクレオチド配列:
【表4】
【0152】
配列番号35:ヒト化TF抗体の重鎖可変領域のヌクレオチド配列:
【表5】
【0153】
配列番号26:ヒト化TF抗体の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列:
【表6】
【0154】
配列番号36:ヒト化TF抗体の軽鎖可変領域のヌクレオチド配列:
【表7】
【0155】
配列番号27:ヒト化TF抗体の全長重鎖のヌクレオチド配列:
GAGGTCCAGCTGCAACAGTCGGGAGCAGAGGTGATGAAGCCCGGAGCCTCAGTGAAGATTAGCTGCAAAGCCTCGGGATACACTTTCTCGTCATACTGGATTGAATGGGTCAAACAGGCCCCCGGCCAAGGACTGGAGTGGATTGGCGAAATCCTTCCTGGGAGCGCCTCGACCAAGTACAACGAGAAGTTCAAGGGACGCGTGACATTCACCGCCGATACCAGCACCAACACTGCCTACATGGAGCTTAGCTCATTGCGGTCCGAGGATACCGCTGTGTACTACTGTGCGCGGGACTACTATTACGGCTCCTCATACGGCTTCGCATACTGGGGTCAGGGAACCTTGGTCACGGTGTCCTCCGCGTCCACCAAGGGTCCCTCCGTGTTCCCTCTCGCGCCGTCCTCAAAGTCTACCTCCGGTGGAACTGCCGCGCTCGGTTGTCTCGTGAAGGACTACTTCCCGGAGCCTGTGACTGTCTCCTGGAACTCCGGGGCCCTCACCAGCGGAGTGCACACTTTCCCCGCCGTGCTGCAATCCTCCGGCCTGTACAGCCTGTCCTCCGTCGTGACTGTGCCTAGCTCCTCCCTGGGAACCCAGACCTACATCTGCAACGTGAACCACAAGCCCTCCAACACCAAGGTCGACAAGAAGGTCGAACCGAAGTCGTGCGACAAGACTCATACGTGCCCTCCTTGCCCGGCCCCGGAACTGCTGGGAGGCCCATCCGTGTTCCTGTTCCCACCCAAGCCTAAGGATACCCTGATGATCAGCAGAACACCGGAAGTGACCTGTGTGGTGGTGGACGTCAGCCACGAAGATCCCGAGGTCAAGTTCAATTGGTACGTGGACGGGGTGGAGGTGCACAACGCAAAGACCAAGCCCCGGGAGGAACAGTACAACTCCACCTATCGCGTGGTGTCGGTGCTGACGGTGCTGCACCAGGACTGGTTGAACGGAAAGGAGTATAAGTGCAAAGTGTCGAACAAGGCCCTGCCCGCTCCTATCGAAAAGACCATCTCCAAGGCCAAGGGCCAGCCGCGGGAACCCCAGGTCTACACTCTCCCACCGAGCCGCGACGAACTGACTAAGAATCAAGTGTCGCTGACTTGCCTCGTCAAGGGCTTCTACCCGTCCGACATCGCCGTGGAATGGGAGAGCAACGGCCAGCCGGAAAACAACTACAAGACCACCCCTCCCGTGCTGGATTCCGACGGGTCCTTCTTCCTGTACTCAAAACTGACCGTGGATAAGTCCAGATGGCAGCAGGGCAATGTCTTTTCATGCTCCGTGATGCACGAGGCTCTGCATAACCACTACACCCAGAAGTCGCTGTCCCTGTCCCCGGGGAAGTGA
【0156】
配列番号28:ヒト化TF抗体の全長軽鎖のヌクレオチド配列:
CAGGCTGTGGTCACTCAGGAGCCTTCGCTGACTGTCAGCCCGGGTGGCACCGTGACCCTGACCTGTCGCTCCTCAACTGGAGCAGTGACCACCTCCAACTACGCGAACTGGGTGCAGCAGAAACCCGGCCAACTTCCTAAGGGACTGATCTCCGGCACTAACAACAGGGGACCTTGGACCACCGCCCGGTTCTCCGGTTCCATCCTTGGGGACAAGGCGGTGCTGACACTGTGGGGGGCCCACACGGAGGACGAGGCCGTCTACTACTGCGCGCTCTGGTACTCCAACCATTGGGTGTTTGGCGGAGGCACTAAGTTGACCGTGCTGGGCCAGCCTAAGGCCGCACCATCGGTGACCCTGTTCCCGCCGAGCTCGGAAGAACTCCAGGCCAACAAGGCCACTCTGGTCTGCCTGATTTCCGACTTCTATCCCGGTGCTGTGACCGTGGCTTGGAAGGCCGATAGCTCGCCCGTGAAGGCCGGAGTGGAAACCACCACCCCGTCCAAACAGTCCAACAATAAGTACGCCGCCTCCTCCTACTTGAGCCTCACGCCCGAGCAGTGGAAGTCTCACCGCTCATACTCCTGCCAAGTCACCCACGAAGGGAGCACTGTGGAAAAGACCGTGGCACCCACTGAGTGCTCGTGA
【0157】
本開示はさらに、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する第2の抗体のアミノ酸配列と、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有する、第1の抗体またはその抗原結合断片をコードするヌクレオチド配列を有する単離されたポリヌクレオチドに関する:(a)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも1つのCDR領域;(b)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも2つのCDR領域;(c)配列番号19~21に記載のヒト化TF抗体のVHドメインの少なくとも3つのCDR領域;(d)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも1つのCDR領域;(e)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも2つのCDR領域;及び(f)配列番号22~24に記載のヒト化TF抗体のVLドメインの少なくとも3つのCDR領域。いくつかの実施形態では、第1の抗体またはその抗原結合断片は、第2の抗体と同じ免疫特異性を有するか、または同じエピトープに結合する。
【0158】
本開示はさらに、正常な血漿対照と比較して、正常なTFを介した血液凝固を阻害することなくhTFに結合し、場合により、Fcを介したメカニズムを開始することができる抗原結合抗体断片をコードするヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチド分子を提供する。本開示はさらに、ストリンジェントな条件下で配列番号25~28のヌクレオチド配列の相補鎖にハイブリダイズすることができ、正常な血漿対照と比較して、正常なTFを介した血液凝固を阻害することなくhTFに結合することができ、場合により、Fcを介したメカニズムを開始することができるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する単離されたポリヌクレオチド分子を提供する。本開示はさらに、配列番号25~28のいずれかに対して、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有し、正常な血漿対照と比較して、正常なTFを介した血液凝固を阻害することなくhTFに結合することができ、場合によりFcを介したメカニズムを開始することができるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する単離されたポリヌクレオチド分子を提供する。
【0159】
当技術分野で公知のように、2つのヌクレオチド配列間の「配列同一性」は、1つのポリヌクレオチド分子のヌクレオチド配列を第2のポリヌクレオチド分子の配列と比較することによって決定される。本明細書中で論じる場合、特定のヌクレオチド配列が別のヌクレオチド配列と同一であるかどうかは、例えば、上記のBestfitプログラムなどの当技術分野で公知の方法及びコンピュータプログラム/ソフトウェアを使用して決定することができる。
【0160】
本明細書中で使用する場合、「ストリンジェントな条件」とは、0.5M NaHPO4、7%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、及び1mM EDTA中、65℃で、第2のフィルター結合ポリヌクレオチド分子にハイブリダイズし、続いて0.2×SSC/0.1%SDS中、42℃で洗浄して結合したままである第1のポリヌクレオチド分子の能力を指す。(Ausubel et al.(eds.),Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,Green Publishing Associates,Inc.、及びJohn Wiley & Sons,Inc.,New York(1989),at p.2.10.3を参照のこと)。
【0161】
ベクター及び宿主細胞
本開示はさらに、本明細書中に開示するようなポリヌクレオチドを含む組換えベクター、及びそのベクターを含む宿主細胞を提供する。宿主細胞は、例えば、クローニングベクターまたは発現ベクターであり得る本発明のベクターで遺伝子改変(形質導入、形質転換または形質移入)される。ベクターは、例えば、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどの形態とすることができる。宿主細胞は、プロモーターの活性化、形質転換体の選択または本開示の遺伝子の増幅に適切であるように改変された従来の栄養培地で培養することができる。温度、pHなどの培養条件は、発現用に選択された宿主細胞で以前に使用された条件とすることができ、当業者には明らかである。
【0162】
本開示はさらに、本明細書に開示のヒト化TF抗体の作製方法を提供し、方法は以下を含む:(a)本発明の単離されたポリヌクレオチドによってコードされる抗体を発現させること;及び(b)抗体を回収すること。
【0163】
本明細書に開示のポリペプチドの断片または部分は、ペプチド合成により対応する全長ポリペプチドを生成するために使用することができ;したがって、そのような断片は、全長ポリペプチドを生成するための中間体として使用することができる。同様に、本明細書に開示のポリヌクレオチドの断片または部分を使用して、本開示の全長ポリヌクレオチドを合成することができる。
【0164】
本明細書に開示のポリヌクレオチド分子は、組換え技術によりポリペプチドを生成するために使用することができる。したがって、例えば、ポリヌクレオチド分子を、ポリペプチドを発現するための様々な発現ベクターのいずれか1つに含ませることができる。そのようなベクターとして、染色体、非染色体及び合成DNA配列、例えばSV40の誘導体;細菌プラスミド;ファージDNA;バキュロウイルス;酵母プラスミド;プラスミドとファージDNAの組み合わせに由来するベクター、ワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、及び仮性狂犬病などのウイルスDNAが挙げられる。しかしながら、宿主内で複製可能で生存可能であれば、他のベクターを使用することができる。
【0165】
適切なDNA配列を、様々な手順によってベクターに挿入することができる。一般的に、DNA配列は、当技術分野で公知の手順により、ベクター中の適切な制限エンドヌクレアーゼ部位(複数可)に挿入される。そのような手順は当技術分野で公知である。
【0166】
発現ベクター中のDNA配列を、mRNA合成を指示するための1つ以上の適切な発現制御配列(プロモーター)に作動可能に連結する。そのようなプロモーターの代表的な例として、LTRまたはSV40プロモーター、E.coli lacまたはtrp、ファージλPLプロモーター、及び原核細胞または真核細胞またはそれらのウイルスにおける遺伝子の発現を制御することが知られている他のプロモーターが挙げられる。発現ベクターにはまた、翻訳開始のためのリボソーム結合部位、及び転写ターミネーターを含ませるべきである。以下で考察するように、ベクターにはまた、発現を増幅するための適切な配列を含ませることができる。
【0167】
さらに、発現ベクターには、真核生物細胞培養のためのジヒドロ葉酸レダクターゼもしくはネオマイシン耐性、またはE.co1iにおけるテトラサイクリンもしくはアンピシリン耐性などの形質転換宿主細胞の選択のための表現型形質を提供する1つ以上の選択可能なマーカー遺伝子を含ませることができる。
【0168】
上記の適切なDNA配列、及び適切なプロモーターまたは制御配列を含むベクターを使用して、適切な宿主細胞を形質転換して、宿主細胞がタンパク質を発現できるようにすることができる。多数の適切なベクター及びプロモーターが当業者に公知であり、市販されている。以下のベクターを、非限定的な例として提供する:細菌:pQE70、pQE60、pQE-9(Qiagen)、pBS、pD10、phagescript、psiX174、pbluescript SK、pbsks、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A(Stratagene);ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5(Pharmacia)。真核生物:pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene)pSVK3、pBPV、pMSG、pSVL(Pharmacia)。しかしながら、宿主内で複製可能で安定的であれば、他のプラスミドまたはベクターを使用することができる。
【0169】
CAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)ベクターまたは選択可能なマーカーを有する他のベクターを使用して、任意の所望の遺伝子からプロモーター領域を選択することができる。2つの適切なベクターはPKK232-8及びPCM7である。特に命名された細菌プロモーターとして、lacI、lacZ、T3、T7、gpt、λPR、PL、及びtrpが挙げられる。真核生物プロモーターとして、CMV最初期、HSVチミジンキナーゼ、初期及び後期SV40、レトロウイルス由来LTR、ならびにマウスメタロチオネイン-Iが挙げられる。適切なベクター及びプロモーターの選択は、十分に当業者のレベルの範囲内にある。プロモーターは、特に、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)などの解糖系酵素、α因子、酸性ホスファターゼ、または熱ショックタンパク質をコードするオペロンに由来する。発現させる異種構造配列と、翻訳開始及び終結配列、ならびに必要に応じて、翻訳されたタンパク質の分泌をペリプラズム空間または細胞外培地に向かわせることができるリーダー配列とを、適切な段階で組み立てる。場合により、異種配列は、所望の特徴、例えば、発現させる組換え産物の安定化または精製の単純化を与えるN末端またはC末端識別ペプチドを含む融合タンパク質をコードすることができる。
【0170】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するように、ヒト化TF抗体、抗原結合断片、またはそのポリペプチドのVH及びVLを含むベクターを構築する際にシグナル配列を使用する。例えば、一実施形態では、ヌクレオチド配列(配列番号29(配列番号30のシグナルペプチドをコードする))を使用して、ヒト化TF抗体の重鎖可変領域を発現させる。別の実施形態では、ヌクレオチド配列(配列番号31(配列番号32のシグナルペプチドをコードする))を使用して、ヒト化TF抗体の軽鎖可変領域を発現させる。さらに別の実施形態では、ヌクレオチド配列(配列番号33(配列番号34のシグナルペプチドをコードする))を使用して、ヒト化TF抗体の重鎖及び軽鎖を発現させる。例示的なシグナル配列を以下の表3に示す。
表3.例示的なシグナル配列のヌクレオチド及びアミノ酸配列
【表8】
【0171】
さらなる実施形態では、本開示は、上記の構築物を含む宿主細胞を提供する。
【0172】
様々な宿主発現ベクター系を利用して、本明細書に記載の抗体及びその抗原結合断片(例えば、配列番号19~24に記載のCDRを含む抗体またはその抗原結合断片)を発現させることができる(例えば、米国特許第5,807,715号を参照のこと)。そのような宿主発現系は、目的のコード配列を生成し、その後精製することができるビヒクルを表しているが、適切なヌクレオチドコード配列で形質転換または形質移入する場合、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片をin situで発現することができる細胞を表してもいる。これらには、抗体コード配列を含む、組換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNA、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換した細菌(例えば、E.coli及びB.subtilis)などの微生物;抗体コード配列を含む組換え酵母発現ベクターで形質転換した酵母(例えば、Saccharomyces Pichia);抗体コード配列を含む組換えウイルス発現ベクター(例えば、バキュロウイルス)に感染させた昆虫細胞系;組換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV、タバコモザイクウイルス、TMV)に感染させるか、または抗体コード配列を含む組換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換した植物細胞系(例えば、Chlamydomonas reinhardtiiなどの緑藻);または哺乳類細胞のゲノム(例えば、メタロチオネインプロモーター)由来もしくは哺乳類ウイルス(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)由来のプロモーターを含む組換え発現構築物を保有する哺乳類細胞系(例えば、COS(例えば、COS1またはCOS)、CHO、BHK、MDCK、HEK293、NS0、PER.C6、VERO、CRL7O3O、HsS78Bst、HeLa、及びNIH3T3、HEK-293T、HepG2、SP210、R1.1、B-W、L-M、BSC1、BSC40、YB/20及びBMT10細胞)が含まれるが、これらに限定されない。
【0173】
特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体及びその抗原結合断片(例えば、配列番号19~24に記載のCDRを含む抗体またはその抗原結断片)を発現するための細胞は、CHO細胞、例えば、CHO GS System(商標)(Lonza)由来のCHO細胞である。特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体を発現するための細胞は、ヒト細胞、例えば、ヒト細胞株である。特定の実施形態では、哺乳類発現ベクターは、pOptiVEC(商標)またはpcDNA3.3である。特定の実施形態では、特に組換え抗体分子全体の発現のために、Escherichia coliなどの細菌細胞または真核細胞(例えば、哺乳類細胞)を、組換え抗体分子の発現のために使用する。例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞などの哺乳類細胞と、ヒトサイトメガロウイルス由来の主要中間初期遺伝子プロモーターエレメントなどのベクターとの組み合わせは、抗体の効果的な発現系である(Foecking,M.K. and Hofstetter,H.,Gene 45:101-105(1986);及びCockett,M.I.et al.,Biotechnology 8:662-667(1990))。特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を、CHO細胞またはNS0細胞によって産生する。
【0174】
さらに、挿入された配列の発現を調節するか、または所望の特定の様式で遺伝子産物を修飾及びプロセシングする宿主細胞株を選択することができる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)及びプロセシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能に寄与し得る。この目的のために、一次転写産物の適切なプロセシング、遺伝子産物のグリコシル化、及びリン酸化のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞を使用することができる。そのような哺乳類宿主細胞として、CHO、VERO、BHK、Hela、MDCK、HEK293、NIH3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0(内在性免疫グロブリン鎖を産生しないマウス骨髄腫細胞株)、CRL7O3O、COS(例えば、COS1またはCOS)、PER.C6、VERO、HsS78Bst、HEK-293T、HepG2、SP210、R1.1、B-W、L-M、BSC1、BSC40、YB/20、BMT10及びHsS78Bst細胞が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、本明細書に記載の抗TF抗体(例えば、配列番号19~24に記載のCDRを含む抗体またはその抗原結合断片)を、CHO細胞などの哺乳類細胞で産生する。
【0175】
宿主細胞中の構築物を従来の方法で使用して、組換え配列によってコードされる遺伝子産物を産生することができる。あるいは、本発明のポリペプチドを、従来のペプチド合成機によって合成的に生成することができる。
【0176】
成熟タンパク質を、適切なプロモーターの制御下で、哺乳類細胞、酵母、細菌、または他の細胞において発現させることができる。無細胞翻訳系を使用して、本開示のDNA構築物に由来するRNAを用いてそのようなタンパク質を産生することもできる。原核生物及び真核生物宿主での使用に適切なクローニングベクター及び発現ベクターは、Sambrook,et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)に記載されている。
【0177】
エンハンサー配列をベクターに挿入することにより、高等真核生物による本明細書に開示のポリペプチドをコードするDNAの転写を増加させることができる。エンハンサーは、通常約10~300bpのDNAのシス作用エレメントであり、プロモーターに作用してその転写を増加させるか、または発現を増幅する。例として、複製起点の100~270bp後方に存在するSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後方に存在するポリオーマエンハンサー、及びアデノウイルスエンハンサーが挙げられる。
【0178】
適切な宿主株を形質転換し、宿主株を適切な細胞密度になるまで増殖させ、続いて、選択されたプロモーターを、適切な手段(例えば、温度シフトまたは化学的誘導)によって誘導することができ、さらなる期間、細胞を培養する。
【0179】
所望のタンパク質が細胞内に保持される場合、細胞を、通常、遠心分離により回収し、物理的または化学的手段により破壊し、得られた粗抽出物をさらなる精製のために保持する。タンパク質の発現に用いる微生物細胞は、凍結融解サイクリング、超音波処理、機械的破壊、または細胞溶解剤の使用、またはそれらの組み合わせを含む、任意の簡便な方法によって破壊することができる。そのような方法は当業者に周知である。
【0180】
本明細書に開示のポリペプチドは、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー及びレクチンクロマトグラフィーを含む方法により、組換え細胞培養物から回収し、精製することができる。成熟タンパク質の構成を完了する際に、必要に応じてタンパク質のリフォールディング工程を使用することができる。最後に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を最終精製工程に使用することができる。
【0181】
本明細書に開示のポリペプチドは、天然に精製された生成物、もしくは化学合成手順の生成物であるか、または原核生物もしくは真核生物宿主から組換え技術により(例えば、培地中の、細菌、酵母、高等植物、昆虫及び哺乳類細胞により)生成することができる。組換え産生手順において用いる宿主に応じて、本明細書に開示のポリペプチドは、グリコシル化または非グリコシル化であり得る。本明細書に開示のポリペプチドはまた、最初のメチオニンアミノ酸残基を含み得る。
【0182】
本明細書に記載のヒト化hTF抗体またはその抗原結合断片を組換え発現により生成した後、それらを、免疫グロブリン分子の精製について当技術分野で公知の任意の方法、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特にプロテインA後の特定の抗原に対するアフィニティー、及びサイズ選別カラムクロマトグラフィー)、遠心分離、溶解度差、またはタンパク質精製のための任意の他の標準的な技術により、精製することができる。さらに、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片は、本明細書に記載の、そうでなければ当技術分野で公知の異種ポリペプチド配列に融合させて、精製を容易にすることができる。
【0183】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片は、単離または精製されている。一般的に、単離された抗体またはその抗原結合断片は、単離された抗体またはその抗原結合断片とは異なる抗原特異性を有する他の抗体またはその抗原結合断片を実質的に含まない抗体またはその抗原結合断片である。例えば、特定の実施形態では、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片の製剤は、細胞物質及び/または化学的前駆体を実質的に含まない。
【0184】
抗体-薬物複合体
本明細書に開示のヒト化組織因子抗体は、in vivo治療法を含む、hTFを標的とするために使用することができる。開示されたヒト化TF抗体には、任意のタイプの分子を抗体に共有結合させることにより改変または複合体化した抗体の誘導体が含まれる。例えば、限定するものではないが、抗体誘導体には、例えば、グリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、既知の保護基/ブロッキング基による誘導体化、タンパク質分解切断、細胞リガンドまたは他のタンパク質への連結などにより改変されている抗体が含まれる。特定の化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシンの代謝合成などを含むがこれらに限定されない多数の化学的改変を、公知の技術によって実施することができる。さらに、誘導体には、1つ以上の非古典的アミノ酸を含ませることができる。
【0185】
開示するヒト化TF抗体は、単独で、または他の組成物と組み合わせて使用することができる。抗体は、N末端またはC末端で異種ポリペプチドに組換え的に融合するか、またはポリペプチドまたは他の組成物に化学的に複合体化することができる(共有結合及び非共有結合複合体化を含む)。例えば、開示するヒト化組織因子抗体は、検出アッセイにおける標識として、または異種ポリペプチド、薬物、放射性核種、または毒素などのエフェクター分子として有用な分子に組換え融合または複合体化することができる。例えば、WO92/08495、WO91/14438、WO89/12624、米国特許第5,314,995号、及びEP0396387を参照のこと。
【0186】
いくつかの実施形態では、開示するヒト化組織因子抗体を、少なくとも1つの細胞傷害剤に複合体化する。「細胞傷害剤」は、細胞に対して毒性があるか、さもなければ有害であり、細胞の死をもたらすか、細胞死を誘導するか、さもなければ細胞の生存率を低下させる任意の薬剤である。いくつかの実施形態では、細胞は、がん細胞または腫瘍細胞である。本明細書に記載の組織因子抗体に複合体化させる細胞傷害剤はまた、「ペイロード」または「細胞傷害性ペイロード」とも呼ばれる。
【0187】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の抗体-薬物複合体は、式:Ab-(L-CA)nによって表され、式中、Abは、配列番号9~11に記載のアミノ酸配列を有する可変重鎖及び配列番号12~16に記載のアミノ酸配列を有する可変軽鎖を含むヒト組織因子に結合するヒト化抗体であり;(L-CA)nはリンカー-細胞傷害剤部分であり、Lはリンカーであり、CAは細胞傷害剤であり、nは、1~20、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、及び1~5からなる群から選択される数である。
【0188】
リンカーを介して本明細書に開示のヒト化組織因子抗体に複合体化することができる細胞傷害剤は、様々な種類の薬剤から選択することができる。本明細書に開示のヒト化組織因子抗体及び抗原結合断片に複合体化することができる例示的な細胞傷害剤及び薬剤のクラスは、Polakis,P.,Pharmacol.Rev.68:3-19(2016);Perez,H.L.et al.,Drug Discovery Today 19:869-881(2014);Diamantis,N. and Banerji,U.,British Journal of Cancer 114:362-367(2016)に記載されている。
【0189】
いくつかの実施形態では、開示するヒト化組織因子抗体を、代謝拮抗薬(例えば、メトトレキサート、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン、5-フルオロウラシルデカルバジン);アルキル化剤(例えば、メクロレタミン、チオエパクロラムブシル、メルファラン、カルムスチン(BSNU)及びロムスチン(CCNU)、シクロホスファミド、ブスルファン、ジブロモマンニトール、ストレプトゾトシン、マイトマイシンC、及びシス-ジクロロジアミンプラチナ(II)(DDP)シスプラチン);アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン(旧ダウノマイシン)及びドキソルビシン);抗生物質(例えば、ダクチノマイシン(旧アクチノマイシン)、ブレオマイシン、ミトラマイシン、及びアントラマイシン(AMC));有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチン及びビンブラスチン);ならびに放射性核種を含むがこれらに限定されない細胞傷害剤に複合体化することができる。治療薬として有用な放射性核種の例として、131I、177Lu、90Y、及び186Reが挙げられるが、これらに限定されない。
【0190】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、オーリスタチンまたはマイタンシノイドなどのチューブリン阻害剤である。いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、オーリスタチン、ドラスタチン類似体、またはオーリスタチン誘導体である。ドラスタチン類似体及びオーリスタチンは、チューブリンの集合を阻害し、G2/M期の細胞周期停止を引き起こす。オーリスタチンには、モノメチルオーリスタチンE(MMAE)及びモノメチルオーリスタチンF(MMAF)が含まれる。有用なドラスタチン類似体及び複合体化戦略は、米国特許第7,659,241号に開示されている。
【0191】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、マイタンシノイド(例えば、マイタンシン)またはマイタンシノイド類似体である。マイタンシンとその類似体(マイタンシノイドDM1及びDM4)は有糸分裂時に細胞の増殖を阻害する強力な微小管標的化化合物である。Lopus,M.et al.,Mol.Cancer Ther.9:2689-2699(2010)を参照のこと。複合体としてのこれらの細胞傷害剤の使用、及びそのような薬剤を抗体に複合体化する方法は、米国公開出願第2012/0009181号の¶¶[0025]~[0030]、[0034]、[0036]、[0038]、[0040]、[0169]、[0185]、及び[0211]~[0218]に記載されている。
【0192】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、キノコ毒素アマトキシンまたはアマトキシン類似体などのRNAポリメラーゼII阻害剤である。α-アマニチンは、例示的なアマトキシンである二環式オクタペプチドである。α-アマニチンが由来するキノコ種の1種は、Amanita phalloidesである(Moldenhauer,G.et al.,J Natl.Cancer Inst.104:622-634(2012)。その類似体及び複合体は、公開出願第WO2010/115629及びWO2014/043403に開示されている。
【0193】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、トポイソメラーゼI(Topo I)阻害剤、例えば、カンプトテシンまたはCPT(Ulukan,H.et al.,Drugs 62:2039-2057(2002)、またはCPT類似体である。例示的なCPT類似体として、トポテカン、イリノテカン、シラテカン、コシテカン、エキサテカン、ルルトテカン、ギマテカン、ベロテカン、及びルビテカンが挙げられる(同書)。
【0194】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、デュオカルマイシンまたはデュオカルマイシン類似体などのDNAアルキル化剤である。有用なデュオカルマイシン類似体及びその複合体は、公開出願第WO2011/133039号に開示されている。デュオカルマイシン誘導体は、DNA結合部分の選択された位置、またはDNA結合部分もしくはDNAアルキル化部分の置換基にヘテロ原子または極性基を有し得る。いくつかの実施形態では、デュオカルマイシン誘導体の複合体は、1つ以上のプロ部分を含む。より具体的な実施形態では、そのような複合体は、循環中で十分な安定性を有するが、標的部位で活性化されてデュオカルマイシン誘導体を放出する。機能的部分とデュオカルマイシン誘導体との間のリンカーの長さ及び性質は、適切に改変することができる。一態様では、リンカーは、低減されたリンカー長を有する。別の態様では、リンカーは、自己脱離スペーサー系を含む。さらに別の態様では、機能的部分とデュオカルマイシン誘導体との間のリンカーは、複合体の薬物動態特性を向上させるように設計された1つ以上の基を含む。さらに別の態様では、機能的部分とデュオカルマイシン誘導体との間のリンカーは、複合体の薬物動態特性を向上させるように設計された1つ以上の基を含む。これらの基には、例えば、参照により本明細書に援用する公開出願第WO2011/133039号に記載されているように、炭酸塩、カルバメート、尿素、エステル、アミド、イミン、ヒドラゾン、ヒドラジド、オキシム、ジスルフィド、アセタール、またはケタール基が含まれ得る。
【0195】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、カリケアマイシンまたはカリケアマイシン誘導体などのDNA傷害剤である。Maiese,W.M.et al.,J.Antibiot.42 558-563(1989);Watanabe,C.M.et al.,Chem Biol.9:245-251(2002)を参照のこと。
【0196】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、ピロロベンゾジアゼピン(PBD)である。PBDは、致命的な病変を引き起こす個別のDNA配列に結合し、一般的な化学療法剤との交差耐性の存在は見出されていない。Rio-Doria,J.et al.,Cancer Res.77:2686-2698(2017)を参照のこと。例示的なDNA副溝結合剤として、PBDは、がん細胞のDNAの特定の部位に結合し、架橋する。これにより、がん細胞のDNAへリックスを変形させることなくその分裂を阻止し、したがって薬剤耐性の出現という一般的な現象を回避できる可能性がある。有用なPBD及びその複合体は、米国特許第9,821,074号に開示されている。
【0197】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、米国特許第9,688,721号及びCohen,R.et al.,Cancer Res.74:5700-5710(2014)に記載されているように、チューブリシン類似体である。
【0198】
本明細書に開示のヒト化TF抗体に複合体することができる他の細胞傷害剤として、パクリタキソール、サイトカラシンB、グラミシジンD、臭化エチジウム、エメチン、マイトマイシン、エトポシド、テノポシド、コルヒチン、ジヒドロキシアントラシンジオン、ミトキサントロン、ミトラマイシン、アクチノマイシンD、1-デヒドロテストステロン、グルココルチコイド、プロカイン、テトラカイン、リドカイン、プロプラノロール、及びピューロマイシンならびにその類似体または相同体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0199】
いくつかの実施形態では、細胞傷害剤は、所望の生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドであり得る。そのようなタンパク質として、例えば、毒素、例えば、アブリン、リシンA、シュードモナス外毒素、もしくはジフテリア毒素;タンパク質、例えば、腫瘍壊死因子、α-インターフェロン、β-インターフェロン、神経成長因子、血小板由来成長因子、組織プラスミノーゲン活性化因子、アポトーシス剤、例えばTNF-α、TNF-β、AIM I(WO97/33899を参照のこと)、AIM II(WO97/34911を参照のこと)、Fasリガンド(Takahashi et al.,Int.Immunol.6:1567-1574(1994))、VEGI(WO99/23105を参照のこと)、血栓剤もしくは抗血管新生剤、例えばアンジオスタチンもしくはエンドスタチン;または、生物学的応答修飾因子、例えば、リンホカイン、インターロイキン-1(「IL-1」)、インターロイキン-2(「IL-2」)、インターロイキン-6(「IL-6」)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(「GM-CSF」)、顆粒球コロニー刺激因子(「G-CSF」)、もしくは他の成長因子が挙げられ得る。
【0200】
そのような細胞傷害剤を抗体に結合させるための技術は公知であり、例えば、いずれも参照により本明細書に援用されるArnon et al.,“Monoclonal Antibodies For Immunotargeting of Drugs In Cancer Therapy,”in Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy,Reisfeld et al.,eds.,Alan R.Liss,Inc.(1985),pp.243-256;Hellstrom et al.,“Antibodies For Drug Delivery,”in Controlled Drug Delivery,2nd Ed.,Robinson et al.,eds.,Marcel Dekker,Inc.(1987),pp.623-653;Thorpe,“Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy:A Review,”in Monoclonal Antibodies ’84:Biological And Clinical Applications,Pinchera et al.,eds.(1985),pp.475-506;“Analysis,Results,and Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy,”in Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy,Baldwin et al.,eds.,Academic Press(1985),pp.303-316;及びThorpe et al.,“The Preparation and Cytotoxic Properties of Antibody-Toxin Conjugates,”Immunol.Rev.62:119-158(1982)を参照のこと。
【0201】
抗体分子あたりの薬物(例えば、細胞傷害剤)分子の平均比は、本明細書中では「薬物抗体比(DAR)」と呼ばれる。上記のように、本明細書に開示の抗体-薬物複合体は、式Ab-(L-CA)nで表され;下付き文字「n」は、1~20、1~10、1~9、1~8、1~7、1~6、及び1~5からなる群から選択され、DARの計算に使用される細胞傷害剤分子の数を反映する。いくつかの実施形態では、DARは1~8、3~7、3~5、または2.5~3.5である。いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体のDARは、1~8である。いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体のDARは4である。いくつかの実施形態では、抗体-薬物複合体のDARは2である。
【0202】
本開示は、1つ以上のリンカー、リンカー配列、または連結基(以下、「リンカー」)を介して細胞傷害剤と複合体化したヒト化組織因子抗体を包含する。いくつかの実施形態では、リンカーは細胞内条件下で切断可能なリンカーであり、その結果、リンカーの切断により、細胞傷害剤が抗体から細胞内環境に放出される。いくつかの実施形態では、リンカーは切断可能ではなく、細胞傷害剤は抗体の分解により放出される。例えば、参照により本明細書に援用する公開出願第2005/0238649号を参照のこと。
【0203】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体を細胞傷害剤と複合体化するために使用するリンカー技術は、参照によりその全体を本明細書に援用する公開出願第2011/133039号に記載されるとおりである。
【0204】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体を細胞傷害剤と複合体化するために使用するリンカー技術は、参照によりその全体を本明細書に援用する米国特許第7,659,241号に記載されるリンカー薬物技術である。米国特許第7,659,241号;第60段落10行目~第83段落47行目;第83段落51行目~第91段落67行目;及び第92段落3行目~第101段落33行目を参照のこと。
【0205】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載するように、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体を細胞傷害剤と複合体化するために使用するリンカー技術は、参照によりその全体を本明細書に援用する米国特許第9,504,758号に記載されるとおりである。
【0206】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体を、異種タンパク質(例えば、免疫グロブリンFcポリペプチドまたはヒト血清アルブミンポリペプチド)のN末端またはC末端のいずれかに融合することができる。例えば、抗体を、組換えヒト血清アルブミン(例えば、米国特許第5,876,969号、EP0413622、及び米国特許第5,766,883号を参照のこと))などのアルブミンに融合させ、キメラポリペプチドを得ることができる。他の実施形態では、抗体を、成熟形態のヒト血清アルブミン(すなわち、欧州特許0322094の
図1及び2に示されるようなヒト血清アルブミンのアミノ酸1~585)に融合させることができる。他の実施形態では、米国特許第5,766,883号に記載されているように、抗体を、ヒト血清アルブミンのアミノ酸残基1~zを含むか、またはそれらからなるポリペプチド断片と融合させることができ、その場合、zは369~419の整数である。ポリペプチドまたは他の目的の分子と融合または複合体化した抗体はまた、当技術分野で公知の方法を用いるin vitroイムノアッセイ及び精製方法において使用することができる。例えば、Harbor et al.(上記)及びPCT公開WO93/21232;EP439,095;Naramura et al.,Immunol.Lett.39:91-99(1994);米国特許第5,474,981号;Gillies et al.,PNAS 89:1428-1432(1992);ならびにFell et al.,J.Immunol.146:2446-2452(1991)を参照のこと。
【0207】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体を、例えば、米国特許第4,676,980号に記載されるように、第2の抗体に複合体化して抗体ヘテロ複合体を形成することができる。
【0208】
医薬組成物
本明細書において、生理学的に許容される担体、賦形剤または安定剤中で所望の純度を有する本明細書に開示のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を提供する(Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990)Mack Publishing Co.,Easton,PA)。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、使用する用量及び濃度においてレシピエントに対して無害である。
【0209】
いくつかの実施形態では、ヒト化TF抗体またはその抗原結合断片を含む組成物を、薬学的に許容される担体を含む製剤中で提供する(例えば、Gennaro,Remington:The Science and Practice of Pharmacy with Facts and Comparisons:Drugfacts Plus,20thed.(2003);Ansel et al.,Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems,7th ed.,Lippencott,Williams and Wilkins(2004);Kibbe et al.,Handbook of Pharmaceutical Excipients,3rded.,Pharmaceutical Press(2000)を参照のこと)。
【0210】
本明細書に記載の医薬組成物は、がんなどの病態を治療するのに有用であり得る。本明細書に記載の方法に従って治療することができるがんの例として、ブタ、ネコ、イヌ及び高等霊長類を含む任意のヒト及び非ヒト動物種の癌腫、肉腫、リンパ腫、及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0211】
本明細書に開示の医薬組成物(及び治療方法)は、様々な細胞タイプの癌腫、肉腫、及びリンパ腫を含む広範な脈管構造(微小血管形成腫瘍)を特徴とする固形腫瘍の治療に適している。本開示の治療により標的とされる固形腫瘍として、以下が挙げられるがこれらに限定されない:扁平上皮癌及び類表皮癌を含む頭頸部癌;前立腺癌、硬腺癌、及び乳腺癌を含む腺癌;リンパ肉腫;線維肉腫;骨肉腫;平滑筋肉腫;軟骨腫;前立腺、肺、乳房、卵巣、胃(胃部)、膵臓、喉頭、食道、精巣、肝臓、耳下腺、胆道、結腸、直腸、結腸直腸、子宮頸部、子宮、子宮内膜、腎臓、膀胱、または甲状腺の癌;原発性腫瘍及び転移;黒色腫;膠芽腫;カポジ肉腫;扁平上皮型及び腺型を含む非小細胞肺癌(NSCLC);進行期悪性腫瘍;ならびに、例えば、白血病、リンパ腫、及び骨髄腫などの血液悪性腫瘍。本発明の抗体は、正常なTFを介した血液凝固を阻害しないため、本明細書に開示のヒト化TF抗体で治療された患者において、正常な血漿凝固は影響を受けない。
【0212】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の組成物(及び方法)によって治療し得る固形腫瘍は、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、黒色腫、脳癌、頭頸部癌、表皮癌、肉腫、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、尿路上皮癌、及び肺癌からなる群から選択される固形腫瘍である。
【0213】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の組成物(及び方法)により治療し得る血液悪性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫(MM)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、ウォルデンストレームスマクログロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキットリンパ腫(BL)、及びリヒタートランスフォーメーションからなる群から選択される。
【0214】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の医薬組成物は、(例えば、がんを治療するための)薬剤として使用するためのものである。本明細書に記載の医薬組成物はまた、例えば、患者(例えば、ヒト患者)から得られた試料中のTFの存在を検出するための診断薬として使用し得る。
【0215】
in vivo投与に使用する組成物は無菌であり得る。これは、例えば、無菌濾過膜による濾過によって容易に達成される。
【0216】
いくつかの実施形態では、医薬組成物を提供し、医薬組成物は、いずれも本明細書に記載するヒト化TF抗体、その抗原結合断片、または抗体-薬物複合体と、薬学的に許容される担体とを含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、(i)ヒトTFに特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合断片を含み、抗体は(a)それぞれ配列番号19~24の重鎖可変領域(VH)相補性決定領域(CDR)1、VH CDR2、VH CDR3ならびに軽鎖可変領域(VL)CDR1、CDR2、及びCDR3配列、(b)配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域及び配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含み、ならびに(ii)薬学的に許容される賦形剤を含む。
【0217】
抗体結合のアッセイ
本明細書に開示のヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片を、当技術分野で公知の任意の適切な方法によって、ヒト組織因子への免疫特異的結合についてアッセイすることができる。使用することができる例示的なイムノアッセイとして、Biacore(商標)分析、FACS(蛍光励起セルソーター)分析、免疫蛍光、免疫細胞化学、ウエスタンブロッティング、ラジオイムノアッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着測定法)、「サンドイッチ」イムノアッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、免疫放射定量測定法、蛍光イムノアッセイ、及びプロテインAイムノアッセイなどの技術を使用した競合及び非競合アッセイ系が挙げられるが、これらに限定されない。そのようなアッセイは日常的であり、当技術分野で周知である(例えば、Ausubel et al,eds,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New York(1994)を参照のこと)。例示的なイムノアッセイを以下に簡単に記載し、いくつかを実施例で例示する。
【0218】
免疫沈降プロトコールは、一般的に、タンパク質ホスファターゼ及び/またはプロテアーゼ阻害剤(例えば、EDTA、PMSF、アプロチニン、バナジン酸ナトリウム)を補充したRIPA緩衝液(1%NP-40またはTriton X-100、1%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS、0.15M NaCl、0.01Mリン酸ナトリウム、pH7.2、1%トラシロール)などの溶解緩衝液中で細胞集団を溶解し、目的の抗体を細胞溶解液に添加し、一定期間(例えば、1~4時間)4℃でインキュベートし、プロテインA及び/またはプロテインGセファロースビーズを細胞溶解物に加え、4℃で約1時間以上インキュベートし、溶解緩衝液でビーズを洗浄し、SDS/試料緩衝液にビーズを再懸濁することを含む。特定の抗原を免疫沈降させる目的の抗体の能力は、例えば、ウエスタンブロット分析により評価することができる。当業者は、抗原への抗体の結合を増加させ、バックグラウンドを減少させるように改変し得るパラメーター(例えば、セファロースビーズで細胞溶解物をプレクリアすること)について精通しているであろう。免疫沈降プロトコールに関するさらなる考察については、例えば、Ausubel,F.et al.,eds.,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New York(1994),10.16.1を参照のこと。
【0219】
ウエスタンブロット分析は、一般的に、タンパク質試料を調製し、ポリアクリルアミドゲルでタンパク質試料を電気泳動し(例えば、抗原の分子量に応じて8%~20%SDS-PAGE)、ポリアクリルアミドゲルから、ニトロセルロース、PVDF、ナイロンなどのメンブレンにタンパク質試料を転移させ、ブロッキング溶液(例えば、3%BSAを含むPBSまたは脱脂乳)でメンブレンをブロッキングし、メンブレンを洗浄緩衝液(例えば、PBS-Tween20)で洗浄し、インキュベーション緩衝液で希釈した一次抗体(目的の抗体)の存在下でメンブレンをインキュベートし、洗浄緩衝液でメンブレンを洗浄し、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)と複合体化した二次抗体(例えば抗ヒト抗体などの一次抗体を認識するもの)、またはインキュベーション緩衝液で希釈した放射性分子(例えば、32Pまたは125I)の存在下でメンブレンをインキュベートし、洗浄緩衝液でメンブレンを洗浄し、抗原の存在を検出することを含む。当業者は、検出されるシグナルを増加させ、バックグラウンドノイズを減少させるために改変し得るパラメーターについて精通しているであろう。例えば、Ausubel,F. et al.,eds.,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New York(1994)10.8.1を参照のこと。
【0220】
ELISAは、抗原を調製し、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルを抗原でコーティングし、酵素基質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)などの検出可能な化合物と複合体化した目的の抗体をウェルに加え、一定期間インキュベートし、抗原の存在を検出することを含む。ELISAでは、目的の抗体を検出可能な化合物と複合体化する必要はなく;代わりに、検出可能な化合物と複合体化した二次抗体(目的の抗体を認識するもの)をウェルに加えることができる。さらに、抗原をウェルにコーティングする代わりに、抗体をウェルにコーティングすることができる。この場合、検出可能な化合物と複合体化した二次抗体は、コーティングされたウェルに目的の抗原を添加した後に添加することができる。当業者は、検出するシグナルを増加させるために改変し得るパラメーター、ならびにELISAの他の公知のバリエーションに精通しているであろう。例えば、Ausubel,F.et al.,eds.,Current Protocols in Molecular Biology,Vol.1,John Wiley & Sons,Inc.,New York(1994)11.2.1を参照のこと。
【0221】
抗体またはその抗原結合断片の抗原への結合親和性及び抗体-抗原相互作用の解離速度は、競合結合アッセイによって測定することができる。競合結合アッセイの1つの例は、多量の非標識抗原の存在下で、標識抗原(例えば、3Hまたは125I)、またはその断片もしくはバリアントと、目的の抗体をインキュベートし、標識抗原に結合した抗体を検出することを含むラジオイムノアッセイである。hTFに対する目的の抗体の親和性と結合解離速度は、スキャッチャードプロット分析によるデータから決定することができる。二次抗体との競合は、ラジオイムノアッセイを使用して決定することもできる。この場合、多量の非標識二次抗体の存在下で、hTFを、標識化合物(例えば、3Hまたは125Iで標識した化合物)と複合体化した目的の抗体とともにインキュベートする。2つの抗体間のこの種の競合アッセイはまた、2つの抗体が同じかまたは異なるエピトープに結合するかどうかを判定するために使用することもできる。
【0222】
血液凝固
血液凝固は、3つの相互作用する成分:血管、血液凝固因子、及び血小板を含む複雑なプロセスである。血液凝固因子は、血液中に不活性な前駆体として存在するタンパク質または糖タンパク質である。出血が発生すると、凝固カスケードが開始され、不活性な凝固因子が活性なプロテアーゼまたは酵素に変換される。凝固因子は、補因子(カルシウム、TF、リン脂質など)の補助を受けて凝固因子カスケード中で順番に活性化され、最終的にフィブリン塊が形成される。フィブリンは、血液に不溶性で粘着性のある糸状のタンパク質であり、血小板の接着及び血液凝固の基盤となる。
【0223】
出血が血管系の外部の損傷(例えば、皮膚の擦過傷または切り傷)から生じる場合、外因性経路が開始される。血管自体に損傷が発生する場合、内因性経路が活性化される。多くの出血エピソードは両方の経路を活性化する。
【0224】
外因性凝固経路は、何らかの物理的損傷に続いてTFが血液に曝される場合に、血管外細胞表面で誘発される。TFは第VII因子の活性化型と不活性化型の両方に結合することができる。外因性経路では、少量の循環活性化型第VII因子(第VIIa因子)が、その放出後にTFと複合体を形成する。このTF/第VIIa因子複合体は、第IX因子及び第X因子を活性型に変換することにより凝固を開始する。
【0225】
この反応は、第VIIa因子、第IXa因子及び第Xa因子が、TFに結合した追加の第VII因子を活性化するフィードバック機構により増幅される。第Xa因子は、補因子、第Va因子、及びリン脂質と複合体化して、プロトロンビン(第II因子としても知られる)からトロンビン(第IIa因子としても知られる)へのカスケードを活性化し続ける。トロンビンが関与する別のフィードバック機構は、第V因子、第VIII因子、及び第XI因子を活性化するように機能する。第VIIIa因子は、血小板表面で第IXa因子と複合体化して第X因子を活性化し、より局所的なトロンビンの生成をもたらす。トロンビンは、最終的なフィブリンの生成に関与する。
【0226】
内因性経路では、高分子量キニノーゲン及びプレカリクレインと複合体化した循環活性化型第XII因子が、露出した内皮下膜と接触して凝固を開始し、第XI因子を活性化する。第XIa因子はカルシウムと複合体化して第IX因子を活性化する。第IXa因子と、第VIIIa因子、カルシウム、及びリン脂質との組み合わせは、第X因子から第Xa因子への活性化とその後のトロンビン生成をもたらす。第X因子の活性化後、外因性経路と内因性経路は融合する。
【0227】
血餅形成の最終工程は、ペプチド結合の切断の結果としての血漿可溶性フィブリノーゲンから不溶性フィブリンへの変換である。切断は、プロトロンビンから生成されるタンパク質分解酵素トロンビンの結果として生じる。プロトロンビンからトロンビンへの変換には、カルシウムに加えて凝固因子が必要である。フィブリン塊は架橋されたマトリックスであり、形成された血液の要素を捕捉し、それにより出血部位を封鎖する。形成される要素は、血小板、白血球、及び赤血球からなる。
【0228】
TFは、第VIIa因子とともに、in vivoで血液凝固を開始する細胞固定成分である。TFは、219残基の細胞外領域、23残基の膜貫通領域、及び21残基の細胞質領域を有する膜貫通型糖タンパク質である。TFの細胞外領域は、2つのフィブロネクチンIII様ドメイン、ならびにクラスIIサイトカイン及びインターフェロン受容体に特徴的なジスルフィド架橋の分布を有する。TFの細胞質領域は、3つのセリン残基を含み、これらはリン酸化可能であり、細胞シグナル伝達に関与している。Aberg,M. and Siegbahn,A.,J Thromb Haemost 11:817-825(2013)。
【0229】
TFは、その天然リガンド、すなわち第VIIa因子と緊密な複合体(Kdおよそpmol)を形成する。複合体内では、VIIaがTFを包み(Banner.D.W.,et al.,Nature 380:41-46(1996))、TF表面と接触する広範な領域を形成する。TFは第VIIa因子(fVIIa)に結合してアロステリックに活性化し、TF/fVIIa複合体は、第IX因子及び第X因子の活性化によるトロンビン生成を担い、生理的条件下での血液凝固の主要なイニシエーターである。TF-FVIIa相互作用部位に結合する抗体は、TF-FVIIa相互作用を阻害し、血液凝固を阻害または遮断する。本明細書に開示のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片は、TF、例えばhTFに結合するが、通常の血漿対照と比較してTFを介した血液凝固を阻害しない。
【0230】
本明細書中で使用する場合、用語「正常血漿対照」とは、正常なヒトドナーからプールされた血漿、例えば、George King Bio-Medical,Inc.,Kansasによって提供される血漿(POOLED NORMAL PLASMA)を意味する。
【0231】
いくつかの実施形態では、TFを介した血液凝固に対する開示のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片の効果を、血液凝固アッセイを使用して測定することができる。例えば、当技術分野で公知の血液凝固アッセイ、例えば、Morrissey,J.H.,et al.,Thrombosis Research 52:247-261(1988)、及びFang,C.H.,et al.,Thrombosis and Haemostasis 76:361-368(1996)に記載されているアッセイを使用して、血液凝固に対する抗TF抗体の効果を測定することができる。他の血液凝固アッセイとして、限定されないが、プロトロンビン時間一段法(Miale J.B.,Laboratory Medicine,Hematology,CN Mosbey Co.,St.Louis(1977)が挙げられ、また、凝固二段法(Bach et al.,Biochemistry 15:4007-4020(1986))も使用することができる。
【0232】
他のアッセイ、例えば、実施例8に記載のアッセイは、組織因子を介した血液凝固の代用マーカーである第X因子の活性化を測定する。このアッセイ(例えば、ヒト組織因子発色活性アッセイキット,AbCam)は、リポタンパク質TF/FVIIaが第X因子(FX)を第Xa因子に活性化する能力を測定する。TF/FVIIa複合体のアミド分解活性を、黄色のパラニトロアニリン(pNA)発色団を放出する高度に特異的なFXa基質を用いて、生成するFXaの量により定量化する。405nmでのpNAの吸光度の変化は、TFの酵素活性に直接比例する。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、「正常な血漿対照と比較してTFを介した血液凝固を阻害しない」が、その場合、Chen,C.et al.,Hybridoma 24:78-85(2005)に示されるように、hTF凝固アッセイにおいて、抗体で処置した血液試料の凝固時間は、正常血漿対照の凝固時間の、約150%以下、約140%以下、約130%以下、約120%以下、約110%以下、または約100%以下である。
【0233】
さらに、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、「Sekisui ADG4507またはADG4508などのTFの凝固促進活性を中和することが以前に示されている抗体と比較して、TFを介した血液凝固を阻害しない」が、その場合、ヒトTF発色活性アッセイにおいて、第X因子のTF依存活性化を、切断時に黄色の発色団を放出する高度特異的な第Xa因子基質を使用して測定する。
【0234】
Fcを介したメカニズム
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体及びその抗原結合断片は、正常血漿対照と比較して、TFを介した血液凝固を阻害することなくhTFに結合することができ、1つ以上のFcを介したメカニズムを開始することができる。
【0235】
抗体がパパインまたはペプシンなどのタンパク質分解酵素に曝露されると、いくつかの主要な断片が生成される。抗原結合能力を保持する断片は、抗体のY配置の2つの「アーム」からなり、F(ab)(fragment-antigen binding)またはF(ab’)2と呼ばれ、後者はジスルフィド結合によって連結した2つのFabアームを表す。生成される他の主要な断片は、Yの単一の「テール」または中心軸を構成し、溶液から結晶化する傾向があることからFc(fragment-crystalline)と呼ばれる。IgG、IgA、IgM、またはIgDのFcフラグメントは、各抗体の2つのカルボキシル末端ドメイン(すなわち、IgG、IgA及びIgDではCH2とCH3、ならびにIgMではCH3とCH4)の二量体からなる。対照的に、IgE Fcフラグメントは、その3つのカルボキシル末端重鎖ドメイン(C2、C3、及びC4)の二量体からなる。
【0236】
Fcフラグメントは、抗体の生物学的「活性部位」を含み、これにより、抗体が他の免疫系分子または細胞と「情報交換」し、それにより免疫系防御機能または宿主を介したメカニズムを活性化及び調節することができる。このような情報交換は、抗体のFc領域内の活性部位がFc受容体と呼ばれる分子に結合する場合に生じる。Fc受容体は、免疫グロブリンFc領域内の活性部位に高い親和性と特異性で結合する分子である。Fc受容体は、細胞の外側の原形質膜内の内在性膜タンパク質として存在することができるか、血漿または他の体液を自由に循環する遊離の「可溶性」分子として存在することができる。
【0237】
5つの抗体クラスのそれぞれについて、そのクラスのFc領域に特異的に結合し、別個の機能を実行するいくつかのタイプのFc受容体がある。したがって、IgE Fc受容体は、IgE Fc領域にのみ、または単離されたIgE Fcフラグメントに高い親和性で結合する。異なるタイプのクラス特異的Fc受容体が存在することが知られており、これらはFc領域内の異なる部位を認識して結合する。例えば、特定のIgG Fc受容体はIgGの第2の定常ドメイン(CH2)に排他的に結合し、他の免疫機能を媒介するFc受容体はIgGの第3の定常ドメイン(CH3)に排他的に結合する。他のIgG Fc受容体は、CH2ドメインとCH3ドメインの両方にある活性部位に結合し、単一の孤立したドメインには結合することができない。
【0238】
抗体を抗原に結合させるか、そうでなければ凝集させた後、Fc領域内の活性部位は、Fc受容体に結合してそれを活性化することができ、抗体と免疫系の残りの部分との重要なリンクを提供する。したがって、Fc受容体へのFcの結合は、抗体機能が媒介される「最終的な共通経路」として特徴付けることができる。抗原と結合した抗体がFc受容体に結合しない場合、抗体は免疫系の他の部分を活性化することができず、したがって機能的に不活性になる。
【0239】
免疫グロブリンのFc領域はFc受容体に結合し、複合体は細胞タイプに応じて様々な応答を誘発することができる。マクロファージの場合、応答には食作用及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)が含まれる。抗体のFc領域の活性部位の結合によって活性化されると、Fc受容体は、様々な重要な免疫性死滅及び調節機能を媒介する。例えば、特定のIgG Fc受容体は、抗体がそのFabアームを介して結合した細胞の直接的な死滅を媒介する(すなわち、ADCC)。他のIgG Fc受容体は、IgGによって占有されると、細菌、ウイルス、がん細胞、または他の実体を食作用により飲み込んで破壊するように特定の白血球を刺激する。Bリンパ球として知られる特定のタイプの白血球表面のFc受容体は、それらの細胞の増殖及び抗体分泌形質細胞への発達を調節する。
【0240】
抗体またはその活性ペプチド断片のFc部分が結合する特定のタイプのFc受容体に応じて、ペプチドは、免疫機能を開始または阻害することができる。Fc受容体が、Fc領域への結合の作用によって活性化されるタイプのものである場合、あるいは、Fc活性部位ペプチドが受容体を刺激する場合に、開始が起こり得る。生じる開始のタイプには、抗体Fc領域-Fc受容体結合によって直接的または間接的に媒介される機能が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0241】
上記のものを含む免疫系機能を開始する能力は、感染症、先天性または後天性の病態のいずれかにより免疫系が欠損している病態、がん、及び他の多くの疾患の治療において、治療的に有用であることが知られている。そのような免疫刺激はまた、ワクチンとして投与する特定の注射または経口投与する物質に対する身体の防御的細胞応答及び抗体応答を高めるためにも有用である。
【0242】
本明細書中で使用する場合、用語「Fcを介したメカニズム」とは、Fc受容体活性化を介して媒介される、外来抗原に対する免疫応答の開始を指す。Fcを介したメカニズムとして、抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0243】
本明細書に開示のヒト化TF抗体がFcを介したメカニズムを開始することができるいくつかの実施形態では、そのメカニズムはADCCである。さらに他の実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、CDCを開始することができる。
【0244】
ADCCは、ナチュラルキラー細胞、Tリンパ球、単球/マクロファージ、及び多形核好中球(エフェクター細胞)を誘発し、外来の、または感染性の細胞を破壊するプロセスである。IgG抗体は、最初に標的細胞表面の抗原に結合する必要があり、ADCCを媒介する細胞による認識について細胞を感作させる。IgG感作した標的に遭遇すると、ADCCを媒介する細胞表面のIgG Fc受容体は、標的細胞の表面の露出したFc領域に結合する。そのようなFc受容体結合は、ADCCを媒介する細胞を活性化して標的細胞を直接溶解させ、その細胞死を引き起こす。ADCCには、特定のクラスの白血球(多形核好中球、単球、及びマクロファージ)による食作用の刺激;マクロファージの活性化;ナチュラルキラー(NK)細胞活性;Bリンパ球及びTリンパ球の増殖及び発達、ならびにリンパ球によるリンホカイン(死滅または免疫調節活性を伴う分子)の分泌が含まれるが、これらに限定されない。
【0245】
CDCは、外来の、または感染性の因子を破壊することができる別のプロセスである。抗体と外来抗原との相互作用により、抗体-抗原複合体が形成されると、抗体のFc領域に構造変化が生じ得る。この構造変化は、補体因子C1を活性化し、それにより補体開始因子C1、C2、C3、及びC4が関与する補体活性化カスケードを開始し得る。補体活性化カスケードは、膜侵襲複合体(MAC)を形成するC5、C6、C7、C8及びC9の順次相互作用で終了する。MACは、細胞のリン脂質膜を破壊して細胞膜に大きな孔を形成することにより、細胞溶解を媒介する。例えば、Reff,M.E.et al. Blood 83:435-445(1994)を参照のこと。このようにして、MAC複合体は、本発明の抗体によって認識される抗原を含有する、外来の、または感染性の因子の細胞死を刺激することができる。さらに、C3及びC4は、局所的な血管拡張、ならびに好中球、マクロファージ、及びその他の食細胞の遊走を引き起こすプロセスである、炎症のペプチドメディエーターとして機能することができる。これらの食細胞はFc受容体を有することができ、それにより局在化された抗体依存性細胞傷害を増加させる。
【0246】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体は、中~高程度のADCC及び/または中~高程度のCDC活性を含むが、これらに限定されない中~高程度のFc媒介活性を有する。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、抗体濃度が10μg/mlで、エフェクター細胞と標的細胞の比率が30であり、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%の標的細胞が溶解される場合、「中~高程度の」ADCC活性を有する。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、抗体濃度が10μg/mlで、未希釈のヒト血清またはウサギ血清の存在下で、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、または少なくとも約90%の標的細胞が溶解される場合、「中~高程度の」CDC活性を有する。
【0247】
当技術分野で公知の任意のアッセイを使用して、開示するヒト化TF抗体のFcを介したメカニズムをモニタリングすることができる。本開示の抗体が1つ以上のFcを介したメカニズムを開始する能力を、in vitroまたはin vivoでモニタリングすることができる。例えば、抗体のCDC活性及びADCC活性を、Ohta et al.,Cancer Immunol.Immunother.36:260(1993)の方法により測定することができる。他のアッセイとして、ADCCの51Cr遊離アッセイ及び補体媒介性溶解が挙げられるが、これらに限定されない。Current Protocols in Immunology,Coligan,A.M.et al.(Eds.),Wiley & Sons, Inc.(1991)、例えば、Unit 7.27;Wang,B.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 96:1627-1632(1999);Manches,O.et al.,Blood 101:949-954(2003)を参照のこと。
【0248】
さらに、Fcを介した宿主応答は、従来のイムノアッセイによってin vitroでモニタリングすることができ、応答の抗腫瘍活性は、CDC及び/またはADCCアッセイによって測定することができる。アッセイの方法論は周知であり、Handbook of Experimental Immunology,Vol.2,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1986)に記載されている。さらに、培養がん細胞株に対するヒト化キメラ抗体のCDC活性及びADCC活性は、Menekigaku Jikken Nyumon,(Manual of Immunological Experiments)Matsuhashi et al.,Gakkai Shuppan Center,Japan,1981)に開示されている手順に従って測定することができる。
【0249】
Fcを介したメカニズムは、遅延型過敏症反応の発症によりin vivoで、または当業者に公知の他のin vivoまたはin vitro手段(例えば、皮膚試験反応プロトコール、リンパ球刺激アッセイ、標準の放射能放出アッセイの使用によるか、限界希釈アッセイによるか、または標準のELISAアッセイを用いたIL-2の血漿レベルの測定による、腫瘍細胞に対する対象のリンパ球の毒性の測定)により、モニタリングすることができる。
【0250】
治療方法
本開示はまた、患者のがんの治療方法を提供し、方法は、本明細書に開示するように、そのような治療を必要とする患者に治療有効量のヒト化組織因子抗体もしくはその抗原結合断片、または抗体-薬物複合体を投与することを含む。いくつかの実施形態では、この抗体ベースの治療は、がんを治療するために、本明細書に開示のヒト化組織因子抗体または抗体-薬物複合体を、動物、より具体的には哺乳類、より具体的にはヒト患者に投与することを含む。
【0251】
「治療有効量」は、病態、障害または疾患を治療するために対象または患者に投与した場合に、過度のレベルの有害な副作用を引き起こすことなく、臨床的に重要な細胞応答を誘発するのに十分なヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片または抗体-薬物複合体の量である。詳細については、下記の「製剤及び治療的投与」の節を参照のこと。
【0252】
「対象」とは、哺乳類として分類される任意の動物を指し、これには、ヒト、飼育動物及び家畜、ならびに動物園の動物、競技用動物、及び伴侶動物、例えばペット動物及び他の飼育動物、例えば、限定されないが、ウシ、ヒツジ、フェレット、ブタ、ウマ、家禽、ウサギ、ヤギ、イヌ、及びネコなどが含まれる。いくつかの実施形態では、伴侶動物は、イヌ及びネコである。他の実施形態では、対象はヒトである。
【0253】
「患者」とは、病態、障害または疾患、例えば、がんの治療を必要とする対象、例えば、ヒトを指す。
【0254】
用語「治療する」及び「治療」とは、治療的処置と、予防的措置または防止的措置の両方を指し、その目的は、望ましくない生理学的病態、障害、または疾患の進行を予防、阻害、軽減、もしくは遅延させるか、または1つ以上の有益な、もしくは望ましい臨床結果を得ることである。本発明の目的にとって有益な、または望ましい臨床結果には、症状の緩和;病態、障害もしくは疾患の程度の減少;病態、障害もしくは疾患の状態の安定(すなわち無増悪);病態、障害もしくは疾患の発症の遅延、もしくは緩徐化;病態、障害または疾患の状態の改善、寛解(部分もしくは完全);または病態、障害もしくは疾患の増強もしくは改善が含まれるが、これらに限定されない。治療には、過剰なレベルの副作用を伴わずに、臨床的に重要な細胞応答を誘発することも含まれるが、これに限定されない。治療にはまた、治療を受けない場合に予想される生存期間と比較して、生存期間を延長することが含まれるが、これに限定されない。
【0255】
本発明の治療化合物には、いずれも本明細書に開示の、ヒト化TF抗体またはその抗原特異的断片、抗体-薬物複合体、及び医薬組成物が含まれるが、これらに限定されない。本明細書に開示のヒト化TF抗体を使用して、がん、または本明細書に記載の疾患、障害、もしくは病態のいずれか1つ以上を含むがこれらに限定されないがんに関連する障害もしくは病態を治療することができる。本明細書に開示のヒト化TF抗体は、当技術分野で公知の、または本明細書に記載するような、薬学的に許容される組成物において提供することができる。
【0256】
用語「腫瘍」及び「がん」は同じ意味で用いられ、それらの文法的変形とともに、任意のヒトならびにブタ、ネコ、イヌ及び高等霊長類を含む非ヒト動物種の癌腫、肉腫、リンパ腫及び白血病を含む、任意の細胞タイプの腫瘍を指す。本明細書に開示の方法(及び組成物)は、様々な細胞タイプの癌腫、肉腫及びリンパ腫を含む広範な脈管構造(微小血管形成腫瘍)により特徴付けられ得る固形腫瘍の治療に適している。本開示の治療によって標的とされる固形腫瘍には、以下が含まれるがこれらに限定されない:扁平上皮癌及び類表皮癌を含む頭頸部癌;前立腺癌、硬腺癌、及び乳腺癌を含む腺癌;リンパ肉腫;線維肉腫;骨肉腫;平滑筋肉腫;軟骨腫;前立腺、肺、乳房、卵巣、胃(胃部)、膵臓、喉頭、食道、精巣、肝臓、耳下腺、胆道、結腸、直腸、結腸直腸、子宮頸部、子宮、子宮内膜、腎臓、膀胱、または甲状腺の癌;原発性腫瘍及び転移;黒色腫;膠芽腫;カポジ肉腫;扁平上皮型及び腺型を含む非小細胞肺癌(NSCLC);進行期悪性腫瘍;ならびに、例えば、白血病、リンパ腫、及び骨髄腫などの血液悪性腫瘍。
【0257】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の組成物及び方法によって治療され得る固形腫瘍は、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、黒色腫、脳癌、頭頸部癌、表皮癌、肉腫、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、尿路上皮癌、及び肺癌からなる群から選択される固形腫瘍である。
【0258】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の組成物及び方法によって治療し得る血液悪性腫瘍は、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫(MM)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキットリンパ腫(BL)、及びリヒタートランスフォーメーションからなる群から選択される。
【0259】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示の方法(または組成物)によって治療されるがん細胞は、ヒト組織因子を過剰発現している。例えば、Callander,et al.,Cancer 70:1194-1201(1992);Sato et al.,Cancer Sci.105:1631-1637(2014);Zhang et al.,Int.J.Mol.Med.29:409-415(2012);及びCocco et al.,Clin Exp Metastasis 28:689-700(2011)を参照のこと。
【0260】
本明細書に開示のヒト化TF抗体、ADC、または医薬組成物で治療することができる悪性及び転移性病態として、限定されないが、本明細書に記載の、そうでなければ当技術分野で公知の悪性腫瘍、固形腫瘍、及びがんが挙げられる(そのような障害についての概説は、Fishman et al.,Medicine,2nded.,J.B.Lippincott Co.,Philadelphia(1985)を参照のこと)。本明細書に開示するように、ヒト化TF抗体は、血管新生が関与するがん以外の他の疾患及び/または障害の治療に有用であり得る。これらの疾患及び/または障害として、例えば、血管腫、聴神経腫、神経線維腫、トラコーマ、及び化膿性肉芽腫などの良性腫瘍;動脈硬化斑;眼内血管新生性疾患、例えば、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、黄斑変性症、角膜移植片拒絶反応、血管新生緑内障、後水晶体線維増殖症、ルベオーシス、網膜芽細胞腫、ブドウ膜炎及び眼の翼状片(異常な血管成長);関節リウマチ;乾癬;創傷治癒の遅延;子宮内膜症;脈管形成;肉芽形成;肥厚性瘢痕(ケロイド);偽関節骨折;強皮症;トラコーマ;血管癒着;心筋血管新生;冠副血行;脳側副血行;動静脈奇形;虚血肢血管新生;オスラーウェバー症候群;プラーク血管新生;毛細血管拡張症;血友病性関節;血管線維腫;線維筋性異形成;創傷肉芽形成;クローン病;及びアテローム性動脈硬化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0261】
本開示はまた、患者の転移性がんの治療方法を提供し、方法は、本明細書に開示するように、そのような治療を必要とする患者に治療有効量のヒト化組織因子抗体、その抗原結合断片、抗体-薬物複合体、または医薬組成物を投与することを含む。転移の治療は、本明細書に開示するように、ヒト化TF抗体またはその抗原結合断片が、動物モデルにおいて腫瘍転移を予防する能力によって示すことができる。例えば、自然転移モデル及び肺転移腫瘍モデルは、当技術分野で公知の転移モデルである。自然転移腫瘍モデルでは、原発腫瘍塊を形成する腫瘍細胞を動物に皮下注射する。その後、腫瘍の一部の細胞が、肺を含む動物の他の部分に自発的に移動する。Zisman,A.et al.,Cancer Research 63:4952-59(2003);Lev,D.C.et al.,Clin.Exp.Metas.20:515-23(2003)を参照のこと。肺転移腫瘍モデルでは、腫瘍細胞の懸濁液をマウスの尾静脈に注入し、レシピエント動物の肺における転移の形成を評価する。Tian F.et al,Cancer Research 63:8284-92(2003);Ogawa,K.et al.,Int.J.Cancer 91:797-802(2001)を参照のこと。これらのモデルでは、転移の治療に有効な抗体は、レシピエント動物への投与時に、転移の発生を予防するか、または陰性対照を与えたレシピエント動物で形成する転移の数に比べて形成する転移の数を減少させる。
【0262】
本明細書に開示のヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片、ADC、または医薬組成物を使用して、腫瘍を含む過剰増殖性の疾患、障害、及び/または病態を治療することができる。抗体は、直接的または間接的な相互作用を介して疾患の増殖を阻害することができる。例えば、免疫応答を増加させることにより、特に過剰増殖性障害の抗原性を増加させることにより、またはT細胞を増殖、分化、または動員することにより、過剰増殖性疾患、障害及び/または病態を治療及び/または診断することができる。この免疫応答は、既存の免疫応答を強化するか、または新しい免疫応答を開始することによって増加させることができる。
【0263】
開示するTF抗体によって治療及び/または診断することができる過剰増殖性疾患、障害及び/または病態の例として、結腸、肺、腹部、骨、乳房、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、睾丸、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢及び末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟部組織、脾臓、胸部、及び泌尿生殖器系に位置する腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。
【0264】
同様に、本発明のヒト化TF抗体によって、他の過剰増殖性の疾患、障害、及び/または病態を治療及び/または診断することができる。そのような過剰増殖性の疾患、障害、及び/または病態の例として、高ガンマグロブリン血症、リンパ増殖性疾患、障害、及び/または病態、パラプロテイン血症、紫斑病、サルコイドーシス、セザリー症候群、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症、ゴーシェ病、組織球症、及び上記の臓器系に位置する腫瘍以外の任意の他の過剰増殖性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。
【0265】
本開示はまた、開示するヒト化TF抗体またはその抗原結合断片の投与による、血管新生に関連する疾患、障害、及び/または病態の治療を提供する。内在性の刺激物質と血管新生の阻害剤の間の自然に発生するバランスは、阻害の影響が支配的なものである。Rastinejad et al.,Cell 56:345-355(1989)。創傷治癒、臓器再生、胚発生、及び女性の生殖過程などの正常な生理学的条件下で血管新生が生じるこれらの稀な例では、血管新生は厳しく制御され、空間的及び時間的に制限される。固形腫瘍の成長を特徴付けるような病的な血管新生の条件下では、これらの調節制御は失敗する。無秩序な血管新生は病的となり、多くの腫瘍性及び非腫瘍性疾患の進行が維持される。固形腫瘍の成長及び転移、関節炎、ある種の眼の疾患、障害及び/または病態、ならびに乾癬を含む多くの深刻な疾患は、異常な血管新生によって支配される。例えば、Moses et al.,Biotech.9:630-634(1991);Folkman et al.,N.Engl.J.Med.,333:1757-1763(1995);Auerbach et al.,J.Microvasc.Res.29:401-411(1985);Folkman,Advances in Cancer Research, eds. Klein and Weinhouse,Academic Press,New York(1985),pp.175-203;Patz,Am.J.Opthalmol.94:715-743(1982);及びFolkman et al.,Science 221:719-725(1983)を参照のこと。多くの病的状態において、血管新生のプロセスは疾患の状態に寄与している。例えば、固形腫瘍の成長が血管新生に依存していることを示唆する重要なデータが蓄積されている。Folkman and Klagsbrun,Science 235:442-447(1987)。
【0266】
本明細書に開示するように、ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片を治療的に使用することができるさらなる方法として、例えば、補体(CDC)により、もしくはエフェクター細胞(ADCC)により媒介されるような抗体の指向性細胞傷害、または例えばADCのような抗体の間接的細胞傷害が挙げられるが、これらに限定されない。
【0267】
本明細書に開示のヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片はまた、他のモノクローナル抗体もしくはキメラ抗体と併用して、または、例えば、抗体と相互作用するエフェクター細胞の数もしくは活性を増加させるのに役立つリンホカインもしくは造血成長因子(例えば、IL-2、IL-3及びIL-7など)と併用して、または上記のように、放射性同位元素もしくは他の細胞傷害剤などの細胞傷害剤と複合体化させて有利に利用することができる。
【0268】
本明細書に開示のヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片は、単独で、または他のタイプの治療(例えば、放射線療法、化学療法、ホルモン療法、免疫療法、抗腫瘍剤、及び抗レトロウイルス薬)と併用して投与することができる。
【0269】
製剤及び治療管理
本開示は、いずれも本明細書に開示するように、有効量のヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片、ADC、または医薬組成物をそれを必要とする対象に投与することによる治療方法を提供する。いくつかの実施形態では、ヒト化TF抗体は実質的に精製されている。いくつかの実施形態では、ヒト化TF抗体を、細胞傷害剤(例えば、ADCとして)と複合体化させる。製剤及び投与方法は本明細書に記載されている。
【0270】
様々な送達系が当技術分野で公知であり、本明細書に開示するように、ヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片、ADC、または医薬組成物を投与するために使用することができ、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、化合物を発現可能な組換え細胞、受容体を介したエンドサイトーシス(例えば、Wu及びWu,J.Biol.Chem.262:4429-4432(1987)を参照のこと)、レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などである。投与方式として、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路が挙げられる。投与は、例えば、注入もしくはボーラス注射によるか、または上皮または粘膜皮膚裏層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸粘膜など)を介した吸収によるなどの、任意の好都合な経路による投与とすることができる。投与は全身的または局所的であり得る。さらに、本明細書に開示するヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片、ADC、または医薬組成物を、脳室内及びくも膜下腔内注射を含む任意の適切な経路によって中枢神経系に導入することが望ましい場合があり;脳室内注射は、例えば、オンマイヤーリザーバーなどのリザーバーに取り付けた脳室内カテーテルによって促進することができる。肺投与はまた、例えば、吸入器またはネブライザーの使用、及びエアロゾル化剤を用いた製剤化によって利用することができる。
【0271】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体もしくはその抗原結合断片、ADC、または医薬組成物を、治療を必要とする領域に局所的に投与することが望ましい場合があり;これは、例えば、手術中の局所注入、局所塗布、例えば、手術後の創傷被覆材と組み合わせて、注射によって、カテーテルによって、坐剤によって、またはインプラントによって達成することができ、インプラントは、例えば、弾性膜などの膜、または繊維を含む、多孔性、非多孔性、またはゼラチン状の材料でできている。抗体を含むタンパク質を投与する場合、タンパク質が吸着しない材料を使用するように注意しなければならない。
【0272】
他の実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体またはADCは、小胞、特にリポソームで送達することができる(Langer,Science 249:1527-1533(1990);Treat et al.,in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer,Lopez-Berestein and Fidler,eds.,Liss,New York(1989),pp.353-365;Lopez-Berestein(同書)pp.317-327を参照のこと;一般的に同書を参照のこと。)
【0273】
さらに他の実施形態では、本明細書に開示のヒト化TF抗体またはADCを、徐放系で送達することができる。いくつかの実施形態では、ポンプを使用することができる(Langer(上記);Sefton,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201(1987);Buchwald et al.,Surgery 88:507(1980);Saudek et al.,N.Engl.J.Med.321:574(1989)を参照のこと)。他の実施形態では、ポリマー物質を使用することができる(Medical Applications of Controlled Release,Langer and Wise,eds.,CRC Pres.,Boca Raton,Florida(1974);Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,Smolen and Ball,eds.,Wiley,New York(1984);Ranger and Peppas,J.,Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61(1983)を参照のこと;また、Levy et al.,Science 228:190(1985);During et al.,Ann.Neurol.25:351(1989);Howard et al.,J.Neurosurg.71:105(1989)も参照のこと)。さらに他の実施形態では、徐放系を、治療標的、すなわち脳の近くに配置することができ、したがって全身用量の一部のみを必要とする(例えば、Goodson,Medical Applications of Controlled Release(上記)vol.2,pp.115-138(1984)を参照のこと)。他の徐放系は、上記のLangerにおいて検討されている。
【0274】
本開示はまた、医薬組成物を提供する。そのような医薬組成物は、本明細書に開示するように、治療有効量のヒト化TF抗体またはADC、及び薬学的に許容される担体を含む。いくつかの実施形態では、用語「薬学的に許容される」とは、物質または組成物が化学的及び/または毒物学的に、製剤を含む他の成分及び/またはそれにより治療される哺乳類と適合しなければならないことを示す。
【0275】
用語「担体」とは、治療薬と一緒に投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、無菌の液体、例えば、水、及び石油由来、動物由来、植物由来、または合成由来の油類、例えば、ピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などであり得る。いくつかの実施形態では、医薬組成物を静脈内投与する場合、水を担体として使用することができる。生理食塩水及びデキストロース水溶液及びグリセロール溶液も、特に注射可能な溶液のための液体担体として使用することができる。適切な医薬賦形剤として、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。医薬組成物には、必要に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含ませることもできる。
【0276】
医薬組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、丸薬、カプセル、粉末、徐放性製剤などの形態をとることができる。組成物は、従来の結合剤及びトリグリセリドなどの担体を用いて、坐剤として製剤化することができる。経口製剤には、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準的な担体を含ませることができる。適切な医薬品担体の例は、E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciencesに記載されている。そのような組成物は、患者に適切に投与するための形態を提供するように、適切な量の担体とともに、好ましくは精製された形態の治療有効量の化合物を含む。製剤は投与方式に適したものであるべきである。
【0277】
いくつかの実施形態では、組成物を、ヒトへの静脈内投与に適合した医薬組成物として、日常的な手順に従って製剤化する。一般的には、静脈内投与用の組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、組成物には、可溶化剤及び注射部位の痛みを和らげるためのリグノカインなどの局所麻酔薬も含ませることができる。一般的に、成分は、例えば、活性薬剤の量を示すアンプルまたはサシェなどの密閉容器内の凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々にまたは混合して単位剤形で供給される。組成物を注入によって投与する場合、無菌の医薬品グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルで調剤することができる。組成物を注射により投与する場合、投与前に成分を混合することができるように、注射用滅菌水または生理食塩水のアンプルを提供することができる。
【0278】
疾患、例えば、がんの治療に治療的に有効な本明細書に開示のヒト化TF抗体、その抗原結合断片、医薬組成物、またはADCの治療有効量を、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、in vitroアッセイを任意で使用して、最適な用量範囲の特定に役立てることができる。製剤に使用する正確な用量は、投与経路、及び疾患または障害の重症度にも依存し、医師の判断及び各患者の状況に従って決定すべきである。有効量は、in vitroまたは動物モデル試験系から導出された用量反応曲線から推定することができる。
【0279】
ヒト化抗体の場合、患者に投与する用量は、通常、患者の体重あたり0.1mg/kg~100mg/kgである。しかしながら、放射性標識抗体の場合、投与量をより低くし、例えば、患者の体重あたり0.01mg/kg~1mg/kgとすることができ、毒素-免疫複合体の場合、投与量をさらに低くし、例えば、患者の体重あたり0.001mg/kgとすることができる。いくつかの実施形態では、患者に投与する用量は、患者の体重あたり0.001mg/kg~100mg/kgである。他の実施形態では、患者に投与する用量は、患者の体重あたり0.01mg/kg~50mg/kgである。他の実施形態では、患者に投与する用量は、患者の体重あたり0.1mg/kg~20mg/kgである。さらに他の実施形態では、患者に投与する用量は、患者の体重あたり1mg/kg~10mg/kgである。
【0280】
一般的に、ヒト抗体は、外来ポリペプチドに対する免疫応答に起因して、他の種由来の抗体よりもヒト体内でより長い半減期を有する。したがって、ヒト抗体の用量を減らし、投与頻度を減らすことが多くの場合に可能である。さらに、本発明の抗体の用量及び投与頻度は、例えば脂質化などの改変により、抗体の取り込み及び組織浸透(例えば、脳への)を増強することにより、低減することができる。
【0281】
本明細書に記載の様々な実施形態またはオプションのすべては、ありとあらゆるバリエーションで組み合わせることができる。
【0282】
検出及び診断の使用
本明細書に記載のヒト化TF抗体またはその抗原結合断片を使用して、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫沈降、またはウエスタンブロッティングなどのイムノアッセイを含む、当業者に公知の古典的な方法を使用して、生体試料中のTFタンパク質レベルをアッセイすることができる。適切な抗体アッセイ標識は当技術分野で公知であり、グルコースオキシダーゼなどの酵素標識;ヨウ素(125I、121I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(121In)、及びテクネチウム(99Tc)などの放射性同位元素;ルミノールなどの発光標識;ならびにフルオレセイン及びローダミンなどの蛍光標識、ならびにビオチンが挙げられる。そのような標識を使用して、本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片を標識することができる。あるいは、本明細書に記載の抗TF抗体またはその抗原結合断片を認識する二次抗体またはその抗原結合断片を標識し、抗TF抗体またはその抗原結合断片と併用して、TFタンパク質レベルを検出することができる。
【0283】
TFタンパク質の発現レベルについてアッセイすることは、第1の生物学的試料中のTFタンパク質のレベルを、直接(例えば、絶対タンパク質レベルを測定または推定することにより)または相対的に(例えば、第2の生物学的試料中の疾患関連タンパク質レベルと比較することにより)、定性的または定量的に測定または推定することを含むことが意図されている。第1の生物学的試料中のTFポリペプチドの発現レベルを測定または推定し、障害のない個体から得られる第2の生物学的試料から取得するか、または障害のない個体の集団のレベルを平均することによって決定される標準のTFタンパク質レベルと比較することができる。当技術分野で理解されるように、「標準」のTFポリペプチドレベルが判明すると、それを比較のための標準として繰り返し使用することができる。
【0284】
本明細書中で使用する場合、用語「生物学的試料」とは、潜在的にTFを発現する、対象、細胞株、組織、または他の供給源の細胞から得られる任意の生物学的試料を指す。動物(例えば、ヒト)から組織生検及び体液を採取する方法は、当技術分野で周知である。生体試料には、末梢血単核球が含まれる。生物学的試料はまた、血液試料であってもよく、試料中で循環腫瘍細胞(すなわち「CTC」)は、TFを発現し、検出され得る。
【0285】
本明細書に記載のヒト化TF抗体は、当業者に周知であり、本明細書に基づくin vitro及びinvivo用途を含む、予後、診断、モニタリング、及びスクリーニング用途に使用することができる。免疫系の状態及び/または免疫応答のin vitro評価及び判定のための予後診断、モニタリング、スクリーニングアッセイ及びキットを利用して、免疫系障害またはがんを有していることが明らかとなっているか、または疑われる患者を含む、患者の試料を予測、診断、及びモニタリングして評価してもよい。このタイプの予後及び診断のモニタリング及び評価は、乳癌のHER2タンパク質に対する抗体(HercepTest(商標),Dako)を利用して既に実用化されており、このアッセイは、Herceptin(登録商標)を使用した抗体療法の患者の評価にも使用されている。in vivoでの適用には、指示細胞療法、免疫系の調節、及び免疫応答の放射線画像撮影が含まれる。
【0286】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のヒト化TF抗体及びその抗原結合断片には、検出可能なまたは機能的な標識を含ませることができる。蛍光標識を使用する場合、現在利用可能な顕微鏡法及び蛍光活性化セルソーター分析(FACS)もしくは両方の方法の併用または当技術分野で公知の他の手順を利用して、特定の結合メンバーを同定し、定量してもよい。本明細書に記載のヒト化TF抗体及びその抗原結合断片には、蛍光標識を含ませることができる。例示的な蛍光標識として、例えば、反応性及び共役プローブ、例えば、アミノクマリン、フルオレセイン及びテキサスレッド、Alexa Fluor色素、Cy色素及びDyLight色素が挙げられる。抗TF抗体には、同位体3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、67Cu、90Y、99Tc、111In、117Lu、121I、124I、125I、131I、198Au、211At、213Bi、225Ac及び186Reなどの放射性標識を含ませることができる。放射性標識を使用する場合、当技術分野で公知の現在利用可能な計数手順を利用して、抗TF抗体またはその抗原結合断片のTF(例えば、ヒトTF)への特異的結合を同定し、定量してもよい。標識が酵素である場合、検出は、当技術分野で公知のように、現在利用されている比色分析、分光光度分析、蛍光分光光度分析、電流測定またはガス分析技術のいずれかによって達成してもよい。これは、抗体またはその抗原結合断片とTFの間の複合体の形成を可能にする条件下で、試料または対照試料をヒト化TF抗体またはその抗原結合断片と接触させることによって達成することができる。抗体またはその抗原結合断片とTFの間で形成されたあらゆる複合体を検出し、試料と対照で比較する。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片のTFに対する特異的結合に関して、抗体またはその抗原結合断片を使用して、細胞表面でのTF発現を特異的に検出することができる。本明細書に記載の抗体またはその抗原結合断片はまた、免疫親和性精製を介してTFを精製するために使用することもできる。
【0287】
また、本明細書には、例えば、TFの存在の程度の定量分析のための試験キットの形態で調製し得るアッセイ系が含まれる。系または試験キットは、標識する成分、例えば、標識された抗体またはその抗原結合断片、及び1つ以上の追加の免疫化学試薬を含み得る。
【0288】
いくつかの態様では、本明細書において、試料を抗体またはその抗原結合断片と接触させることを含む、試料中のTFのin vitroでの検出方法を提供する。いくつかの態様では、本明細書において、試料中のTFのin vitro検出のための、本明細書中で提供する抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。一態様では、本明細書において、対象または対象から得られた試料中のTFの検出に使用するための、本明細書中で提供する抗体もしくはその抗原結合断片または医薬組成物を提供する。一態様では、本明細書において、診断として使用するための本明細書中で提供する抗体もしくはその抗原結合断片または医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、抗体は検出可能な標識を含む。好ましい実施形態では、TFはヒトTFであり、対象はヒトである。
【0289】
以下の実施例は、本開示の例示であるが、さらに限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0290】
親マウスTF抗体(「TF278抗体」)の作製方法及びその活性の評価は、その全体を参照により本明細書に援用する米国特許第7,993,644号に記載されている。実施例1~8のアッセイは、マウスTF278抗体の適切なヒト化バリアントを同定するために行った。同定されるヒト化バリアントはB278-LC_HC_と名付けられ、異なるLC可変領域及びHC可変領域に、番号及び固有の配列番号が割り当てられる。例えば、ヒト化バリアントB278-LC7HC6は、軽鎖可変領域7(配列番号12)及び重鎖可変領域6(配列番号9)を含む。
【0291】
実施例1:ヒト化抗TF抗体バリアントの発現
I.抗体のヒト化
マウス親配列に由来する可変領域を使用して、全長ヒト化抗体の設計を生成した。以前に記載されたように(その全体を参照により援用するEP239,400;PCT公開WO91/09967;米国特許第5,225,539号;第5,530,101号;及び第5,585,089号)、CDR配列を適切なヒト抗体ドナー配列に移植することにより、可変鎖をヒト化した。適切なヒト抗体ドナー配列の定常ドメインを使用して、全長ヒト化抗体を作成した。
【0292】
融合抗体(UK)は、DNAstar NovaFoldタンパク質構造予測ソフトウェアを使用して、ヒト化抗体の3D構造予測を提供し、最良のヒトドナー配列を選択した。DNASTAR NovaFoldは、ミシガン大学で開発されたソフトウェアパッケージであるI-Tasserに基づくタンパク質構造予測ソフトウェアである。NovaFoldは、スレッディング法とab initioフォールディング技術を組み合わせたI-Tasserアルゴリズムを利用して、未知の構造を有するタンパク質の正確なフル3D原子モデルを構築する。
【0293】
異なるヒトドナー配列を使用して、各可変鎖について少なくとも4つのバリアントを作製した。これにより、発現のための少なくとも16のヒト化抗体のマトリックスが生成された。
【0294】
抗体バリアントをコードするDNA配列を合成し、次に哺乳類発現ベクターにサブクローニングした。抗体バリアントをCHO細胞で一過性に発現させ、精製し、記載されているアッセイで試験した。
【0295】
II.CHO細胞の一過性形質移入
500mlベント付き三角フラスコ(Corning,オランダ)中に、8mM L-グルタミン(Thermo Fisher,英国)及びヒポキサンチン/チミジン(1リットルあたり10ml、Invitrogen,英国)を補充したPro CHO4無血清培地(Lonza,ベルギー)中で、懸濁液に適合させたCHO細胞(Thermo Fisher,英国)を、150rpm、8%CO2、37℃、2.0~3.0×105細胞/mlでルーチン的に培養した。各構築物のマキシプレップは、Purelink HiPureプラスミドMaxiprepキット(Thermo Fisher,英国)を使用して、製造元の指示書に従って調製した。Nano Drop lite分光計を使用して、製造元の指示書に従ってベクターDNAを定量した。
【0296】
500mlベント付き三角フラスコ(Corning,オランダ)中に、8mM L-グルタミン(Thermo Fisher,英国)及びヒポキサンチン/チミジン(1リットルあたり10ml、Thermo Fisher,英国)を補充したPro CHO5無血清培地(Lonza,ベルギー)中で、1.0×106細胞/mlの最終密度のCHO-S細胞に、1.25μg/mlのプラスミドDNAを一過性に形質移入した。形質移入した培養物を、37℃、8%CO2、及び135rpmで7~9日間インキュベートした後、4000rpm、4℃で40分間遠心分離して回収した。
【0297】
III.ヒト化B278抗体の精製
遠心分離後、すべての培地を0.8μMの酢酸セルロースフィルターで濾過した。各バッチを、Amersham Biosciences AKTA Chromatographyシステムを使用して精製した。1mlのHiTrapプロテインAカラムをすべてのヒト化抗体の精製に使用した。すべての精製は、Fusion Antibodies社内の洗浄緩衝液及び溶出緩衝液を使用して行った。
【0298】
プロテインAカラムへの充填後、グリシン/トリスpH3.0緩衝液を使用して、結合した抗体を溶出した。溶出したすべての1ml画分を100μlのTris pH8.5緩衝液で中和した。溶出ピークに対応する溶出画分を、PBSでの一晩の透析のために選択した。
【0299】
IV.BCAアッセイを使用したタンパク質濃度の決定
ビシンコニン酸アッセイ(BCA)を、Micro BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific,英国)を使用して、製造元の指示書に従って実行し、結果を、Tecanプレートリーダーにおいて570nmで読み取った。表4は、示されたヒト化TF抗体バリアントの発現量を示す。BCAアッセイの結果は、試験したB278バリアントのうちの4つが、適切なレベル(>1mg/ml)のバリアントTF抗体(LC3HC5、LC5HC6、LC7HC4、及びLC7HC6)を生成したことを示した。
表4.ヒト化B278バリアント抗体の発現量のまとめ
【表9】
【0300】
実施例2:ヒト化B278バリアントのSDS-PAGE分析
精製したヒト化B278抗体を、還元SDS-PAGE(4~20%アクリルアミドゲル)及び非還元SDS-PAGE(4~20%アクリルアミドゲル)の両方によって分析した。
【0301】
還元SDS-PAGE試料の調製。還元SDS-PAGEのために、精製した抗体の試料を5×処理緩衝液(250mM Tris HCl pH6.8、10%SDS、30%グリセロール、0.5Mジチオトレイトール、及び0.02%ブロモフェノールブルー)で10分間、95℃に加熱した。
【0302】
非還元SDS-PAGE試料の調製。非還元SDS-PAGEのために、精製した抗体の試料を、還元剤(ジチオスレイトール)を含まない5×処理緩衝液で希釈し、70℃で10分間加熱した。
【0303】
方法。試料(5μg)を4~20%SDS-ポリアクリルアミドゲルにロードし、200ボルトで65分間、電気泳動した。製造元の指示書に従って、クイッククーマシー染色(Generon;GEN-QC-STAIN-1L)で染色することにより、バンドを視覚化した。ゲル上のタンパク質ラダーは、SeeBlue Plus 2染色済みタンパク質標準(Invitrogen,CA、カタログ番号LC5925)を使用した。
【0304】
ゲルの染色及び脱染色:SDS PAGEに続いて、ゲルをクーマシーブリリアントブルー染色(クーマシーブリリアントブルー0.1%(w/v)、メタノール50%(v/v)、酢酸10%(v/v)及び純水50%(v/v))で一晩染色した。タンパク質のバンドがはっきりと見えるようになるまで、ゲルを脱染液(メタノール10%(v/v)、酢酸10%(v/v)及び純水80%(v/v))で脱染した。バンドをライトボックスで視覚化し、Care Stream MI画像化ソフトウェアを使用したGel logic 1500ゲル画像化システムを使用して画像化した。
【0305】
結果。代表的な還元及び非還元SDS-PAGEの結果をそれぞれ
図6及び7に示す。各レーンにロードする試料は以下のとおりである:レーン1:SeeBlue plus 2(Invitrogen,CA)、レーン2:B278-LC3HC5バリアント、レーン3:B278-LC3HC6バリアント、レーン4:B278-LC5HC4バリアント、レーン5:B278 -LC5HC5バリアント、レーン6:B278-LC5HC6バリアント、レーン7:B278-LC6HC4バリアント#2、レーン8:B278-LC6HC5バリアント、レーン9:B278-LC6HC6バリアント、レーン10:B278-LC7HC4バリアント、レーン11:B278-LC7HC4バリアント#2、レーン12:B278-LC7HC5バリアント、レーン13:B278-LC7HC6バリアント、レーン14:B278-LC7HC6バリアント#2、レーン15:B278-LC8HC4バリアント#2、レーン16:B278-LC8HC5バリアント、レーン17:B278-LC8HC6バリアント、レーン18:SeeBlue plus 2(Invitrogen)。
【0306】
結論。還元SDS-PAGEの結果は、B278のすべてのヒト化バリアントで検出された主なバンドが個々の重鎖及び軽鎖であることを示す。非還元SDS-PAGEの結果は、B278のすべてのヒト化バリアントで検出された主なタンパク質バンドが、およそ148キロダルトンで移動するインタクトな抗体であることを示す。
【0307】
実施例3:組換えヒト凝固第III因子(組織因子)へのヒト化B278バリアントの結合に対するELISA分析
組換えヒト凝固第III因子(組織因子)へのB278-LC7HC4、LC7HC5、LC7HC6、LC8HC4、LC8HC5、及びLC8HC6バリアントなどのTF抗体B278のヒト化バリアントの結合をELISA分析により評価した。キメラ抗体B278-LC0HC0を対照として使用した。簡潔に述べると、100ng/ウェルの組換えヒト凝固第III因子(R&D Systems,英国)を、コーティング緩衝液(0.5mM Na2CO3の添加により0.5mM NaHCO3をpH9.5にした)中で96ウェルMaxisorpプレートに4℃で一晩固定化した。コーティング緩衝液を除去し、プレートをPBS Tween(PBS-T)(0.05%(v/v)Tween20)で1回洗浄した。PBS中の3.0%(w/v)セミスキムミルクをウェルあたり200μl加え、プレートを室温で2時間撹拌した。プレートをPBS-Tで3回洗浄した。
【0308】
TF抗体B278の精製ヒト化バリアント(LC7HC4;LC7HC5;LC7HC6;LC8HC4;LC8HC5;LC8HC6)を、インキュベーション緩衝液(PBS、1%(w/v)BSA)中で、1,000ng/mlから0.97ng/mlまで連続希釈し、ウェルあたり100μlを添加した。
【0309】
室温で2時間攪拌した後、プレートをPBS-Tで3回洗浄した。100μl/ウェルのヤギ抗ヒトHRP(Fc特異的)(Sigma,英国)(1:60,000 PBS)を加え、プレートを室温で撹拌しながら1時間インキュベートした。プレートをPBS-Tで3回、及びPBSで1回洗浄した。100μl/ウェルの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質溶液を加え、37℃で10分間インキュベートした。50μlの1M HClをウェルごとに加え、直ちにプレートをTecan Sunriseプレートリーダーで、450nmで読み取った。例示的な結果を
図8に示す。
【0310】
結論。試験した6つのバリアントのうち3つは、キメラLC0HC0 B278抗体と同様のEC50で結合した。
【0311】
実施例4:サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析
試料調製。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、pH7.4を使用して、すべての試料を終濃度1mg/mLに希釈した。
【0312】
SEC-HPLC。280nmでのUV検出を備えたSEC-HPLCを使用して、試料の分離を実施した。分離は、Waters(登録商標)ACQUITY H-ClassBio装置において、TSKgel(登録商標)G3000SWXL 5μm 7.8×300mmカラムを使用して、周囲温度(AT)で実施した。溶離液として、0.165Mリン酸ナトリウム(pH6.5)を、定組成溶離のために使用した。流速0.6mL/分を適用し、試料容量50μLを分析カラムにロードした。
【0313】
データ解析。Waters(登録商標)ACQUITY H-ClassBio機器及びEmpower3(商標)ソフトウェアモジュールを使用して、データの生成、提示、評価を実施した。
【0314】
結果。試料B278-LC7HC6バリアント(PS-F09-2016-012)を分析し、良質のクロマトグラムを得た。クロマトグラムは、1つのメインピークと1つの高分子量種を示す。結果を
図9A及び9B(B278-LC7HC6バリアントの再現実験)に示す。試料B278-LC7HC6(PS-F09-2016-012)の統合結果を以下の表5に示す。
【0315】
結論。SEC-HPLC分析の結果は、B278-LC7 HC6バリアントが非常に均質であり、調製物中に存在する凝集体の量がごくわずかであることを示している。
表5.試料B278-LC7HC6の統合結果
【表10】
【0316】
実施例5:疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)分析
試料調製。リン酸緩衝生理食塩水pH7.4を使用して、すべての試料を1mg/mLの終濃度に希釈した。
【0317】
HIC分析。280nmでのUV検出を備えたHICを使用して試料の分離を実施した。Shimadzu(登録商標)Prominence装置で分離を実施した。TSKgel(登録商標)ブチル-NPR 2.5μm 4.6×35mmカラムにおいて、周囲温度(AT)で分離を実施した。溶離液として、A:1.5M硫酸アンモニウム、25mMリン酸ナトリウム、pH6.95及びB:25mMリン酸ナトリウム、pH6.95、20%イソプロピルアルコールを、0~100%Bのバイナリーグラジエントで20分間、0.4mL/分の流速で適用した。20μLの1mg/mL溶液を分析カラムに注入した。
【0318】
データ解析。Waters(登録商標)ACQUITY H-ClassBio機器及びEmpower3(商標)ソフトウェアモジュールを使用して、データの生成、提示、評価を実施した。
【0319】
結果。試料B278-LC7HC6を分析し、良質のクロマトグラムを得た。クロマトグラムは、1つのメインピークと1つのマイナーシグナルを示す。クロマトグラムを
図10A及び10B(再現実験)に示し、統合結果を表6に示す。
表6.試料B278-LC7HC6の統合結果
【表11】
【0320】
実施例6:Biacore(商標)/SPR結合
抗hTF MAbのBiacore(商標)分析。Biacore X(Biacore Inc.,Uppsala,スウェーデン)を使用して、抗hTF MAbの結合特性を評価した。簡潔に述べると、CM5 Biacoreバイオセンサーチップを機器にドッキングし、55μLの1:1 NHS/EDC試薬(Biacore Inc.)を用いて室温で活性化させた。組換え可溶性hTF及びBSA(0.05M酢酸緩衝液(pH4.5)中で10μg/mL)を、それぞれフローセル1及び2の活性化チップ上に固定化した。固定化は、1000~2000RUの共鳴応答が達成されるまで、5μL/分の流速で実施した。55μLのエタノールアミン-HCl(pH8.5)を注入してチップをブロックし、続いて50mM NaOH、1M NaClで5回洗浄した。
【0321】
チップに固定化した可溶性hTFへの抗hTF MAbの結合を測定するために、Biacoreランニング緩衝液(HBS-EP,Biacore Inc.)中の様々な濃度の30μLの抗hTF MAbをセンサー表面に5μL/分の流速で注入した。注入フェーズの完了後、BIAcoreランニング緩衝液で、同じ流速で360秒間、解離をモニタリングした。30μLの50mM NaOH-1M NaClを使用して、注入と注入の間に表面を再生させた。BIAsimulationソフトウェアを使用して個々のセンサーグラムを解析した。Biacore/SPR結合解析の結果を
図11A及び11Bならびに表7に示す。データは、ヒト化B278-LC7HC6バリアントとキメラB278対照抗体LC0HC0が、hTFへの結合において同等であることを示している。
表7.B278-LC7HC6バリアント及びキメラ対照のBiacore(商標)/SPR結合解析
【表12】
【0322】
実施例7:コンフォメーションの安定性を評価するためのナノ示差走査熱量測定(DSC)
試料調製。すべての試料について、製剤緩衝液で濃度を2mg/mLに調整した。
【0323】
ナノDSC分析。NanoDSCマイクロカロリメーター(TA Instruments,DE)で分析を実施した。DSCrunソフトウェア(TA Instruments,DE)を使用して、20~100℃まで1℃/分のスキャン速度でサーモグラムを記録した。緩衝液のサーモグラムを並行して記録し、試料のサーモグラムから差し引いた。
【0324】
データ解析。NanoAnalyzeソフトウェア(TA Instruments,DE)で2状態フィッティングモデルを使用してデータ解析を実施した。例示的なナノDSCサーモグラム(第1の再現実験)及び試料B278-LC7HC6バリアントのフィッティング結果を
図12に示す。DSCの結果のまとめを表8に示す。
【0325】
結論。B278-LC7HC6試料のサーモグラムは、68.4℃で高いエンタルピー遷移を示し、IgG1モノクローナル抗体に典型的な76.3~82.7℃の間の2つの小さなシグナルを示す。
表8.DSCの結果のまとめ
【表13】
【0326】
実施例8:組織因子を介した血液凝固の阻害
組織因子を介した血液凝固の代用マーカーである第X因子の活性化を、Abcamの組織因子ヒト発色活性アッセイキット(#Ab108906)の修正版プロトコールを使用することにより測定する。アッセイキットの構成要素を、Abcamキットの説明書に従って調製し、アッセイ希釈液で被験試料を20、4、0.8、及び0.032μg/mlに希釈した。TF標準(キットの構成要素)を、キットの指示書に従って最大200pMの濃度まで作成した。
【0327】
精製したB278-LC7HC6バリアントサブクローン2N2、1L6、及び5D6、キメラバージョンLC0HC0、ADG4507(Sekisui Diagnostics)、及びADG4508(Sekisui Diagnostics)を含む対照抗体を、TF標準と1:1の比率でプレインキュベートし、終濃度10、2、0.4、及び0.016μg/mlの被験抗体ならびに100pM TF標準を得た。
【0328】
アッセイの指示書に従って、70μlのアッセイミックス(50μlのアッセイ希釈剤、10μlのFVII、10μlのFX)とともに、10μlの被験溶液をアッセイプレートに移した。各試験条件を、アッセイプレート上で2回実施した。37℃で30分間インキュベートした後、FXa基質(20μl/ウェル)を加え、20分間インキュベートし、蛍光プレートリーダーにおいて405nmで読み取りを行った。アッセイの例示的な結果を
図13に示す。示されている405nmでの吸光度は、組織因子を介した第VII因子の活性化と、その後のFXからFXaへの活性化の後にのみ生じるFXaの発色基質の切断からの読み取り結果である。
【0329】
結論。以前にマウス型のB278抗体で示したように、LC7HC6バリアントのキメラ(LC0HC0)及びLC7HC6バリアントの3つのサブクローンは、TFを介した血液凝固の外因性経路の開始を阻害しないが、2つの対照抗体(ADG4507及びADG4508)は、第X因子活性化の有意な阻害を示す。
【0330】
実施例9:開示するヒト化組織因子抗体を使用してADCを同定するためのアッセイ
本明細書に開示のヒト化B278 TF抗体を有するADC構築物において使用する適切なリンカー-薬物の組み合わせを同定するために、当業者に公知の以下の1つ以上アッセイを実施する。これらのアッセイを以下に列挙し、いくつかは後続の実施例においてさらに記載する:
・FACSを用いたがん細胞株へのADCの結合の測定;
・TFを発現するがん細胞の増殖の阻害の測定;
・ADCの均一性及び凝集のレベルを評価するためのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC);
・薬物抗体比(DAR)を測定するための液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS);
・ヒト異種移植片腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性;
・患者由来の異種移植片(PDX)腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性;
・薬物動態;
・毒性学;及び
・組織因子を介した血液凝固の阻害。
【0331】
実施例10:ADCの均一性及び凝集レベルを評価するSEC-HPLC
実施例4に記載の方法と同様の方法を用いて、ADCの均一性及び凝集の程度を評価することもできる。
【0332】
実施例11:ヒト異種移植片腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性
細胞培養条件。加湿雰囲気(5%CO2、95%空気)中、37℃で、腫瘍細胞を単層として成長させる。培地は、10%ウシ胎仔血清(参考:3302,Lonza)を補充した2mM L-グルタミン(参考:BE12-702F,Lonza,Verviers,ベルギー)を含有するRPMI1640である。FaDu腫瘍細胞を、プラスチック製のフラスコに付着させる。実験に用いるために、腫瘍細胞を、カルシウムまたはマグネシウムを含まないハンクス培地(参考:BE10-543F,Lonza)中で、トリプシン-versene(参考:BE02-007E,Lonza)で5分間処理することにより、培養フラスコから剥離させ、完全培地の添加により中和する。細胞をカウントし、その生存率を0.25%トリパンブルー色素排除試験法で評価する。
【0333】
動物。健康な免疫不全の雌マウス、例えば、Charles Riverまたは別の適切なプロバイダー由来の5~7週齢のSWISS Nude(Crl:NU(Ico)-Foxn1nu)を入手し、ローカルのIACUC規制に従って良好な健康状態で飼育する。
【0334】
動物におけるFaDu(扁平上皮癌)腫瘍の誘発。200μLのRPMI1640中の10×106個のFaDu細胞を112匹の雌動物の右側腹部に皮下注射することにより、腫瘍を誘発する。γ線源(2Gy,60Co,BioMep,Bretenieres,フランス)を全身に照射してから24~72時間後に、FaDuor A-431腫瘍細胞の移植を実施する。
【0335】
治療スケジュール。腫瘍のサイズが100~200mm3の平均体積に達した時点で、本明細書に開示のADC(例えば、B278-LC7HC6-MMAE、1mg/kg)による治療を開始する。細胞傷害性ペイロードとしてMMAEを有するADCを、米国特許第7,659,241号に記載の手順に従って作製する。動物を、それらの個々の腫瘍体積に従って、それぞれ8匹の動物の群に無作為化する。統計的検定(分散分析、ANOVA)を実施して、群間の均質性を検定する。腫瘍を有する動物を2回、0日目に1回とその後7日目に指定の用量で治療する。
【0336】
臨床モニタリング。動物の体重測定、腫瘍体積、臨床及び死亡率の記録、ADC治療を記録する。マウスの生存率及び行動を毎日記録する。体重を週に2回測定する。腫瘍の長さと幅をキャリパーで週2回測定し、腫瘍の体積(mm
3)を以下の式で推定する:
【数1】
【0337】
実施例12:患者由来の異種移植片(PDX)腫瘍モデルにおける抗腫瘍活性
腫瘍細胞の調製。PDXモデル由来の腫瘍細胞を含む冷結保存バイアルを解凍し、マウスへの注射用に調製する。細胞をPBSで洗浄し、カウントし、50,000~100,000個の生存細胞/100μlの濃度で冷PBSに再懸濁する。細胞懸濁液を等量のCultrex ECMと混合する。26G 7/8(0.5mm×22mm)針を取り付けた冷却1mlスリップチップシリンジ内にECM-細胞混合物を引き込むことにより、細胞を注射用に調製する。細胞外マトリックス(ECM)の固化を避けるために、満たしたシリンジを氷上で保管する。
【0338】
腫瘍移植。注射前に動物を剃毛する。一度に1匹のマウスを固定し、注射部位をアルコール綿棒で消毒する。ECM中の細胞懸濁液200μlをマウスの後腹部に皮下注射する。最大5匹の動物に、シリンジあたり200μlの細胞懸濁液を注入する。マウスを刻耳/耳標によってマークし、腫瘍の成長を観察する前に7日間、動物をそのままにしておく。
【0339】
腫瘍測定。触知可能な腫瘍または任意の外観もしくは行動の変化について、動物を毎週モニタリングし、罹患率または死亡率の徴候について毎日モニタリングする。腫瘍が触知できたら、キャリパーを使用して週に3回腫瘍を測定する。腫瘍体積を、以下の式を使用して計算する:(最長径×最短径2)/2。腫瘍が研究を開始するのに適切なサイズになったら、腫瘍のサイズ及び体重を週2回測定する。
【0340】
無作為化。平均腫瘍体積が150~250mm3に達したら、マウスを1日目にそれぞれの治療群(例えば、B278-MMAE(1mg/kg))に無作為に割り当て、1日目に投与を開始する。細胞傷害性ペイロードとしてMMAEを有するADCを、米国特許第7,659,241号に記載の手順に従って作成する。
【0341】
体重。無作為化及び治療開始後、体重を週3回測定する。>20%の体重減少が観察される場合、最大72時間、回復の徴候について動物を観察する。回復の徴候がない場合、人道的な理由から動物を殺処分する。
【0342】
臨床観察。腫瘍の大きさ及び体重の測定時に、臨床観察を週3回実施する。
【0343】
最終処理。研究の終了時に、すべての生存動物を安楽死させる。
【0344】
指定の機能及びそれらの関係の実装を示す機能的構成要素を用いて、上記において本開示を説明してきた。記載の便宜上、これらの機能的構成要素の境界を、本明細書中で任意に画定してきた。指定の機能とその関係が適切に実行される限りにおいて、代替の境界を画定することができる。特定の実施形態の前述の記載は、本発明の一般的な性質を完全に明らかにするものであるため、当業者の技術範囲内での知識を適用することにより、他者が、過度の実験をすることなく、本開示の一般的な概念から逸脱することなく、そのような特定の実施形態を、様々な応用のために容易に改変及び/または適合させることができる。したがって、そのような適合及び改変は、本明細書中に提示する教示及び指針に基づいて、開示する実施形態の均等物の意味及び範囲内にあることが意図されている。本明細書中の語法または用語は、説明を目的とするものであり、限定するものではなく、本明細書の語法または用語は、本明細書中に提示される教示及び指針を考慮した上で当業者によって解釈されるものであることを理解されたい。
【0345】
すべての特許及び刊行物は、あたかもそれぞれの個々の刊行物が参照により援用されることが具体的かつ個別に示されたかのように、参照により本明細書に援用される。
なお、本発明は、以下の態様をも含むものである。
<1> ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片であって、前記ヒト化抗体が:
(i)配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片;
(ii)配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含み;及び
(iii)前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片が、正常な血漿対照と比較して、組織因子を介した血液凝固を阻害しない、前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<2> 前記重鎖可変領域が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、上記1に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<3> 前記重鎖可変領域が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する、上記1または上記2に記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<4> 前記重鎖可変領域が、配列番号9のアミノ酸配列を有する、上記1~3のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<5> 前記軽鎖可変領域が、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列と少なくとも95%の配列同一性を有する、上記1~4のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<6> 前記軽鎖可変領域が、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する、上記1~5のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<7> 前記軽鎖可変領域が、配列番号12のアミノ酸配列を有する、上記1~6のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<8> 前記抗体が全長抗体である、上記1~7のいずれかに記載のヒト化抗体。
<9> 約1.0nM~約10nMのK
D
でヒト組織因子に特異的に結合する、上記1~8のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片。
<10> 上記1~9のいずれかに記載のヒト化抗体または抗原結合断片の軽鎖または重鎖可変領域をコードする単離されたポリヌクレオチド。
<11> 上記1~9のいずれかに記載のヒト化抗体または抗原結合断片の全長軽鎖または全長重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
<12> 上記10に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
<13> 上記11に記載のポリヌクレオチドを含む、ベクター。
<14> 上記12に記載のベクターを含む、宿主細胞。
<15> 上記13に記載のベクターを含む、宿主細胞。
<16> 上記10に記載のポリヌクレオチドを含むように遺伝子改変した、宿主細胞。
<17> 上記11に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むように遺伝子改変した、宿主細胞。
<18> (i)前記ヒト化抗体を発現する細胞を培養すること;及び(b)前記培養細胞から前記ヒト化抗体を単離することを含む、上記1~9のいずれかに記載のヒト化抗体の作製方法。
<19> 式Ab-(L-CA)
n
の抗体-薬物複合体であって、式中:
(i)Abが、ヒト組織因子に特異的に結合するヒト化抗体またはその抗原結合断片であり、前記抗体が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片、及び配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含み;及び
(ii)(L-CA)
n
がリンカー-細胞傷害剤部分であり、式中、Lがリンカー、CAが細胞傷害剤であり、nが1~8の数を表す、前記抗体-薬物複合体。
<20> 前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片が、正常な血漿対照と比較して、組織因子を介した血液凝固を阻害しない、上記19に記載の抗体-薬物複合体。
<21> 前記ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域またはその抗体断片を含む、上記19または上記20に記載の抗体-薬物複合体。
<22> 前記ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域またはその抗体断片を含む、上記19~21のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<23> 前記ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片が、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、上記19~22のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<24> 前記ヒト化組織因子抗体またはその抗原結合断片が、配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、上記19~23のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<25> ヒト組織因子に結合する前記ヒト化抗体またはその抗原結合断片が、配列番号9~11から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域またはその抗原結合断片、及び配列番号12~16から選択されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域またはその抗原結合断片を含む、上記19~24のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<26> 前記細胞傷害剤が、有糸分裂阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、チューブリン阻害剤、RNAポリメラーゼII阻害剤、DNAアルキル化剤、DNA傷害剤、及びピロロベンゾジアゼピンからなる群から選択される、上記19~25のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<27> 前記細胞傷害剤が、マイタンシン、マイタンシノイド、デュオカルマイシン、カンプトテシン、オーリスタチン、アマトキシン、カリケアマイシン、チューブリシン、及びその誘導体または類似体からなる群から選択される、上記19~26のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<28> 前記細胞傷害剤がマイタンシンである、上記27に記載の抗体-薬物複合体。
<29> 前記細胞傷害剤がマイタンシノイドである、上記27に記載の抗体-薬物複合体。
<30> 前記細胞傷害剤がオーリスタチンである、上記27に記載の抗体-薬物複合体。
<31> 前記オーリスタチンがモノメチルオーリスタチンE(MMAE)である、上記30に記載の抗体-薬物複合体。
<32> 前記リンカーが、親水性リンカー、尿素リンカー、スルファミドリンカー、及びジカルボン酸ベースのリンカーからなる群から選択される、上記19~31のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<33> 前記リンカーが切断可能なリンカーである、上記19~32のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<34> 前記リンカーが切断不可能なリンカーである、上記19~33のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<35> 前記抗体-薬物複合体の薬物対抗体比(DAR)が1~8である、上記19~34のいずれかに記載の抗体-薬物複合体。
<36> 前記抗体-薬物複合体のDARが4である、上記35に記載の抗体-薬物複合体。
<37> 前記抗体-薬物複合体のDARが2である、上記35に記載の抗体-薬物複合体。
<38> 上記19~37のいずれかに記載の抗体-薬物複合体及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
<39> 前記医薬組成物の平均DARが1~8の範囲内である、上記38に記載の医薬組成物。
<40> (i)前記リンカーを前記細胞傷害剤に連結すること;(ii)前記リンカー-細胞傷害剤部分を前記抗体と複合体化すること;及び(iii)前記抗体-薬物複合体を精製することを含む、上記19~37のいずれかに記載の抗体-薬物複合体の製造プロセス。
<41> がんの治療をそれを必要とする対象に対して行う方法であって、上記1~7のいずれかに記載のヒト化抗体またはその抗原結合断片、上記19~37のいずれかに記載の抗体-薬物複合体、または上記38もしくは39に記載の医薬組成物を含む治療有効量の組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、前記方法。
<42> 前記がんが固形腫瘍である、上記41に記載の方法。
<43> 前記固形腫瘍が、乳癌、卵巣癌、甲状腺癌、結腸直腸癌、食道癌、胃癌、黒色腫、脳癌、頭頸部癌、表皮癌、肉腫、腎臓癌、膵臓癌、前立腺癌、肝臓癌、尿路上皮癌、及び肺癌からなる群から選択される、上記42に記載の方法。
<44> 前記がんが血液悪性腫瘍である、上記41に記載の方法。
<45> 前記血液悪性腫瘍が、白血病、リンパ腫、または骨髄腫である、上記49に記載の方法。
<46> 前記血液悪性腫瘍が、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、小リンパ球性リンパ腫(SLL)、多発性骨髄腫(MM)、ホジキンリンパ腫(HL)、非ホジキンリンパ腫(NHL)、マントル細胞リンパ腫(MCL)、濾胞性リンパ腫(FL)、ワルデンストレーム高ガンマグロブリン血症(WM)、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)、辺縁帯リンパ腫(MZL)、有毛細胞白血病(HCL)、バーキットリンパ腫(BL)、またはリヒタートランスフォーメーションである、上記44に記載の方法。
<47> 前記血液悪性腫瘍が、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、または慢性リンパ性白血病(CLL)である、上記46に記載の方法。
<48> 前記固形腫瘍が頭頸部癌である、上記43に記載の方法。
<49> 前記肝臓癌が、肝細胞癌(HCC)である、上記43に記載の方法。
<50> 前記肺癌が非小細胞肺癌(NSCLC)である、上記43に記載の方法。
<51> 前記肺癌が小細胞肺癌(SCLC)である、上記43に記載の方法。
<52> 前記がんが、ヒト組織因子を過剰発現する、上記41~51のいずれかに記載の方法。
<53> 前記がんの治療を必要とする対象がヒト対象である、上記41~52のいずれかに記載の方法。
【配列表】