(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】フルオロポリエーテル化合物、潤滑剤および磁気ディスク
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20221026BHJP
C10M 107/38 20060101ALI20221026BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20221026BHJP
C10M 105/62 20060101ALI20221026BHJP
C10M 105/68 20060101ALI20221026BHJP
C10M 107/40 20060101ALI20221026BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20221026BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20221026BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
C07C43/23 E CSP
C10M107/38
C10M105/54
C10M105/62
C10M105/68
C10M107/40
C10N40:18
C10N30:00 Z
C10N30:08
(21)【出願番号】P 2020560050
(86)(22)【出願日】2019-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2019047848
(87)【国際公開番号】W WO2020116620
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2018228955
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000146180
【氏名又は名称】株式会社MORESCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】相方 良介
【審査官】小路 杏
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-143855(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087615(WO,A1)
【文献】特開2009-266360(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159232(WO,A1)
【文献】特開2018-024614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物。
R
1-C
6H
4O-CH
2CH(OH)CH
2OCH
2-R
2-CH
2-O-CH
2CH(OH)CH
2-OC
6H
4-R
1・・・(1)
(式中R
1は、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基であり、R
2は-CF
2O(CF
2CF
2O)
xCF
2-であり、xは1~35の実数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
【請求項3】
記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、
前記潤滑層は、請求項2に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロポリエーテル化合物、潤滑剤および磁気ディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスクにおいては、基板上に形成された記録層の上に、記録層に記録された情報を保護するための保護層が形成され、保護層の上にさらに潤滑層が設けられた構成が主流である。
【0003】
そのような磁気ディスクに関連した技術として、例えば、特許文献1~3に記載の技術が知られている。特許文献1では耐熱性の高い潤滑剤を提供すること、特許文献2ではLUL耐久性およびアルミナ耐久性に優れた潤滑剤を提供すること、特許文献3では良好な流動性と吸着性とを有し、熱に対して安定な潤滑剤を提供することを目的として、それぞれ特定の構造を有するフルオロポリエーテル化合物を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2015/087615号(2015年6月18日公開)
【文献】特開2009-266360号公報(2009年11月12日公開)
【文献】特開2010-143855号公報(2010年7月1日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
次世代磁気記録方式の一つである熱アシスト磁気記録方式(HAMR)では、レーザーにより局所加熱が行われ得る。このような状況で潤滑剤が分解されると、動作不良を引き起こすおそれがある。
【0006】
また、近年、磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、微小な記録磁区からの情報を検出するために、磁気ヘッドと磁気ディスク表面との距離は十nmオーダーまで小さくなっている。そのため、潤滑層は、より一層、薄膜化が求められている。
【0007】
従って、HAMR用の潤滑剤において、理想的には、高温下においても潤滑剤が熱分解を起こさないこと、ヘッドと磁性層との間の隙間(HMS)を狭めることの両立が求められる。しかしながら、これらを満たす潤滑剤はまだ得られておらず、上述のような従来技術には改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明の一態様は、耐熱性および耐分解性を有し、かつ単分子膜厚を低減できる化合物を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特許文献1~3とは異なる特定の構造を有するフルオロポリエーテル化合物を合成し、これが耐熱性および耐分解性を有し、かつ単分子膜厚を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を包含する。
〔1〕下記式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物。
R1-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-R2-CH2-O-CH2CH(OH)CH2-OC6H4-R1・・・(1)
(式中R1は、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基であり、R2は-CF2O(CF2CF2O)xCF2-であり、xは1~35の実数である。)
〔2〕〔1〕に記載のフルオロポリエーテル化合物を含む、潤滑剤。
〔3〕記録層、保護層および潤滑層がこの順に積層された磁気ディスクであって、前記潤滑層は、〔2〕に記載の潤滑剤を含む、磁気ディスク。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、耐熱性および耐分解性を有し、かつ単分子膜厚を低減できる化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気ディスクの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0013】
〔1.フルオロポリエーテル化合物〕
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、下記式(1)で表される。
R1-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-R2-CH2-O-CH2CH(OH)CH2-OC6H4-R1・・・(1)
(式中R1は、水素原子、炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基であり、R2は-CF2O(CF2CF2O)xCF2-である。xは1~35の実数である。)
従来の潤滑剤に用いられる化合物としては、前記R2における繰り返し単位として、特許文献1に記載のようにCF2CF2CF2O(本明細書においてデムナム骨格とも称する)を有する化合物、CF2CF2CF2CF2O(本明細書においてC4骨格とも称する)を有する化合物が知られている。また、特許文献2および3に記載のようにCF2CF2OとCF2Oとがランダムに繰り返される骨格(本明細書においてフォンブリン骨格とも称する)を有する化合物等も知られている。ここで、例えば、デムナム骨格は奇数個の炭素原子が繰り返し単位となっているため、アーチ状に浮き上がりやすい。また、フォンブリン骨格はランダムな構造を有するため、螺旋状の構造をとる。それゆえ、これもアーチ状に浮き上がりやすい。
【0014】
一方、本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、R2においてCF2CF2Oで表される繰り返し単位(本明細書においてC2骨格とも称する)を有している。C2骨格は、炭素原子2個とエーテル結合が繰り返される構造を有し、それゆえ、前記フルオロポリエーテル化合物は直線に近い構造をとる。すなわち、前記フルオロポリエーテル化合物の分子鎖は、従来の化合物に比べて、より平坦となる。そのため、前記フルオロポリエーテル化合物を磁気ディスクの潤滑層に用いた場合、従来の潤滑剤に比べて一分子あたりの膜厚、すなわち単分子膜厚を低減することができる。これによりHMSを狭めることができる。
【0015】
さらに、上述のC2骨格は、エーテル間距離が短く加熱により分解を起こし易いC1ユニット(CF2O)を有していないため、フォンブリン骨格等に比べて高温下でも熱分解し難い。
【0016】
なお、フルオロポリエーテル化合物の主鎖のCF2Oは、磁気ヘッドのスライダーに含まれるアルミナ(Al2O3)等のルイス酸によって分解が起こりやすいとされている。しかし、本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、芳香族基(-C6H4O-)を有し、この部分(部位)がルイス酸へ配位し、ルイス酸を不活性化することで、触媒分解作用が抑制されるため、主鎖が分解され難い。
【0017】
炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基を挙げることができる。アミノ基としては、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基を挙げることができる。アミド基としては、例えばアセトアミド基、プロピオンアミド基を挙げることができる。
【0018】
xは、1~25の実数であることがより好ましく、1~15の実数であることがさらに好ましく、5~12の実数であることが特に好ましい。特にxが5~12の実数である場合、フルオロポリエーテル化合物の分子鎖がより平坦になり、フルオロポリエーテル化合物を含む潤滑剤の膜厚を薄くすることができる。
【0019】
〔2.フルオロポリエーテル化合物の製造方法〕
前記フルオロポリエーテル化合物は、例えば両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)とエポキシ基を有するフェノキシ化合物とを反応させることにより得られる。
【0020】
両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)としては、例えば、HOCH2CF2O(CF2CF2O)xCF2CH2OHで示される化合物を例示できる。このフルオロポリエーテルの数平均分子量は、好ましくは500~4000であり、より好ましくは800~1500である。ここで数平均分子量は日本電子製JNM-ECX400による19F-NMRによって測定された値である。また、NMRの測定において、試料を溶媒へは希釈せず、試料そのものを測定に使用する。ケミカルシフトの基準は、フルオロポリエーテルの骨格構造の一部である既知のピークをもって代用できる。xは、1~35の実数であり、好ましくは5~12の実数である。xが5~12の実数の場合、フルオロポリエーテルの分子鎖がより平坦であるため好ましい。
【0021】
上記フルオロポリエーテル(a)は、分子量分布を有する化合物であり、重量平均分子量/数平均分子量で示される分子量分布(PD)は、好ましくは1.0~1.5であり、より好ましくは1.0~1.3であり、さらに好ましくは1.0~1.1である。なお、当該分子量分布は、東ソー製HPLC-8220GPCを用いて、ポリマーラボラトリー製のカラム(PLgel Mixed E)、溶離液としてHCFC系代替フロン、基準物質として無官能のパーフルオロポリエーテルを使用して得られる特性値である。
【0022】
また、エポキシ基を有するフェノキシ化合物として、例えば下記式(A)で表される化合物が挙げられる。
【0023】
【0024】
式中、R1は炭素数1~4のアルコキシ基、アミノ基、又はアミド基であり、上述の〔1.フルオロポリエーテル化合物〕で例示したものが挙げられる。
【0025】
化合物(A)として具体的には例えば、グリシジル4-メトキシフェニルエーテル、グリシジル4-エトキシフェニルエーテル、グリシジル4-プロポキシフェニルエーテル、グリシジル4-ブトキシフェニルエーテル、グリシジル4-アミノフェニルエーテル、グリシジル4-メチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-ジメチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-エチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-ジエチルアミノフェニルエーテル、グリシジル4-アセトアミドフェニルエーテル、グリシジル4-プロピオンアミドフェニルエーテル等が挙げられる。
【0026】
本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物は、具体的には以下の方法により合成され得る。まず、両末端に水酸基を有する直鎖フルオロポリエーテル(a)と、エポキシ基を有するフェノキシ化合物(A)とを触媒の存在下、反応させる。反応温度は、好ましくは20~90℃、より好ましくは60~80℃である。反応時間は、好ましくは5~20時間、より好ましくは10~15時間である。上記直鎖フルオロポリエーテル(a)に対して、フェノキシ化合物(A)を1.0~2.0当量、触媒を0.05~0.1当量使用することが好ましい。触媒としてt-ブトキシナトリウム、t-ブトキシカリウム等のアルカリ化合物を用いることができる。反応は溶剤中で行ってもよい。溶剤としてt-ブタノール、トルエン、キシレン等を用いることができる。その後、得られた反応産物を例えば水洗、脱水する。これにより上述の式(1)で表されるフルオロポリエーテル化合物が得られる。
【0027】
〔3.潤滑剤〕
本発明の一実施形態に係る潤滑剤は、上述の本発明の一実施形態に係るフルオロポリエーテル化合物を含む。上述のフルオロポリエーテル化合物単独で潤滑剤として用いることもできるし、潤滑剤はその性能を損なわない範囲でフルオロポリエーテル化合物とその他の成分とを任意の比率で混合して用いることもできる。
【0028】
前記その他の成分としては、Fomblin(登録商標) Zdol(Solvay Solexis製)、Ztetraol(Solvay Solexis製)、Demnum(登録商標)(ダイキン工業製)、Krytox(登録商標)(Dupont製)等の公知の磁気ディスク用潤滑剤、PHOSFAROL A20H(MORESCO PHOSFAROL A20H)(MORESCO製)、MORESCO PHOSFAROL D-4OH(MORESCO製)等が挙げられる。
【0029】
当該潤滑剤は、磁気ディスクの摺動特性を向上させるための記録媒体用潤滑剤として用いられ得る。また、磁気ディスク以外にも磁気テープ等の記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置における記録媒体用潤滑剤としても用いられ得る。さらに、記録装置に限らず、摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としても用いられ得る。
【0030】
〔4.磁気ディスク〕
本発明の一実施形態に係る磁気ディスク1は、
図1の(a)に示されるように、非磁性基板8の上に配置された記録層4、保護膜層(保護層)3および潤滑層2を含む。前記潤滑層2は、上述の潤滑剤を含んでいる。
【0031】
さらなる実施形態においては、磁気ディスクは、
図1の(b)に示される磁気ディスク1のように、記録層4の下に配置される下層5、下層5の下に配置される1層以上の軟磁性下層6、および1層以上の軟磁性下層6の下に配置される接着層7を含むことができる。これらの層のすべては、一実施形態においては、非磁性基板8の上に形成することができる。
【0032】
潤滑層2以外の磁気ディスク1の各層は、磁気ディスクの個別の層に好適であると当該技術分野において知られている材料を含むことができる。例えば、記録層4の材料としては、鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素にクロム、白金、タンタル等を加えた合金、またはその酸化物が挙げられる。また、保護層3の材料としては、カーボン、Si3N4、SiC、SiO2等が挙げられる。非磁性基板8の材料としては、アルミニウム合金、ガラス、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0033】
〔5.磁気ディスクの製造方法〕
本発明の一態様に係る磁気ディスクの製造方法は、記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に本発明の一実施形態に係る潤滑剤を積層して潤滑層を形成する工程を含んでいる。
【0034】
記録層と保護層とが積層されてなる積層体の、当該保護層の露出表面に前記潤滑剤を積層して潤滑層を形成する方法としては、特に限定されるものではない。保護層の露出表面に潤滑剤を積層する方法としては、前記潤滑剤を溶剤に希釈した後、積層する方法が好ましい。溶剤としては、例えば3M製PF-5060、PF-5080、HFE-7100、HFE-7200、DuPont製Vertrel-XF(登録商標)等が挙げられる。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度は、0.001重量%~1重量%が好ましく、0.005重量%~0.5重量%がより好ましく、0.01重量%~0.1重量%がさらに好ましい。前記溶剤で希釈した後の潤滑剤の濃度が、0.01重量%~0.1重量%であれば、潤滑剤の粘度を十分に小さくすることができ、潤滑層の厚さを調節しやすい。
【0035】
記録層と保護層とをこの順に形成し、前記潤滑剤を前記保護層の露出表面に積層した後、紫外線照射または熱処理を行ってもよい。
【0036】
紫外線照射または熱照射を行うことで、潤滑層と保護層の露出表面との間に、より強固な結合を形成し、加熱による潤滑剤の蒸発を防ぐことができる。紫外線照射を行う場合には、潤滑層および保護層の深部に影響を与えず、露出表面を活性化させるために、185nmまたは254nmの波長を主波長とする紫外線を用いることが好ましい。熱処理を行う場合の温度は、60~170℃であることが好ましく、80~170℃がより好ましく、80~150℃がさらに好ましい。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
〔耐熱性の評価〕
熱分析装置(TG/TDA)を用いて、窒素雰囲気下で2℃/分で後述の潤滑剤を加熱した。潤滑剤が10%減少した温度によって耐熱性を評価した。
【0039】
〔酸化アルミニウムに対する耐分解性の評価〕
後述の潤滑剤に、それぞれ20重量%のAl2O3を加え、強く振とうしたのち超音波でさらに良く混合することにより、耐分解性評価用の試料を調製した。熱分析装置(TG/TDA)を用いて、250℃で100分間加熱した後の潤滑剤の重量減少率(B)を算出した。さらにAl2O3を添加せず、潤滑剤そのものを20mg使用して同様の熱分析を行うことにより得られる潤滑剤の重量減少率(C)を算出した。BとCとの差(B-C)によって耐分解性を評価した。
【0040】
〔単分子膜厚の評価〕
後述の潤滑剤を、それぞれDuPont製Vertrel-XFに溶解した。この溶液における潤滑剤の濃度はいずれも0.05重量%である。直径2.5インチの磁気ディスクの一部分(約1/4)をこの溶液に浸漬した後、速度4mm/sで引き上げることにより、潤滑層として潤滑剤が塗布された部分(塗布部)と塗布されていない部分(非塗布部)からなるディスクを作製した。塗布部の平均膜厚は、20Åであった。
【0041】
上記のディスクを作製後すぐに、エリプソメーターに装着し、次いで50℃の温度条件下にて一定時間毎に塗布部と非塗布部との境界付近における膜厚の変化を測定した。形成されたテラス部位の膜厚として潤滑剤の単分子膜厚を得た。
【0042】
〔実施例1〕
CH3O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-CF2O(CF2CF2O)xCF2CH2-O-CH2CH(OH)CH2-OC6H4-O-CH3 (化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、t-ブチルアルコール(21g)、HO-CH2CF2O(CF2CF2O)xCF2-CH2-OHで表されるフルオロポリエーテル(数平均分子量999、分子量分布1.46)50g、カリウム t-ブトキシド(1.1g)、4-メトキシグリシジルフェニルエーテル(20g)の混合物を70℃で16時間撹拌した。その後、水洗、脱水した後、蒸留により精製し、化合物1を42g得た。
【0043】
化合物1は、黄色透明液体であり、20℃での密度は、1.72g/cm3であった。NMRを用いて行った化合物1の同定結果を示す。
19F-NMR(溶媒;なし、基準物質:生成物中のOCF2CF2Oを-89.1ppmとする。)
δ=-89.1ppm
[14F、-OCF2CF2O-]、
δ=-78.0ppm
[4F、-OCF2CH2OCH2CH(OH)CH2-O-C6H4-OCH3]、
x=7.1
1H-NMR(溶媒:なし、基準物質:D2O)
δ=3.2~3.8ppm
[22H、H3CO-C6H4O-CH2CH(OH)CH2O-CH2CF2CF2O(CF2CF2CF2O)zCF2CF2CH2-OCH2CH(OH)CH2-OC6H4-OCH3]
δ=6.1ppm、6.7ppm
[8H、-OCF2CF2CH2OCH2CH(OH)CH2-C6H4-OCH3]
得られた化合物1を実施例1の潤滑剤として用いた。
【0044】
〔比較例1〕
比較例1として、下記のようにパーフルオロポリエーテルの両末端に芳香族基を有し、かつデムナム骨格を有する潤滑剤2を使用した。
CH3O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-CF2CF2O(CF2CF2CF2O)zCF2CF2-CH2-O-CH2CH(OH)CH2OC6H4O-CH3
ここでzは4.2である。分子量分布は1.41である。
【0045】
〔比較例2〕
比較例2として、下記のようにパーフルオロポリエーテルの両末端に芳香族基を有し、かつC4骨格を有する潤滑剤3を使用した。
CH3O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-CF2CF2CF2O(CF2CF2CF2CF2O)nCF2CF2CF2-CH2-O-CH2CH(OH)CH2OC6H4O-CH3
ここでnは3.0である。分子量分布は1.58である。
【0046】
〔比較例3〕
比較例3として、パーフルオロポリエーテルの両末端に芳香族基を有し、かつフォンブリン骨格を有する潤滑剤4を使用した。
CH3O-C6H4O-CH2CH(OH)CH2OCH2-CF2O(CF2CF2O)v(CF2O)wCF2-CH2-O-CH2CH(OH)CH2―OC6H4O-CH3
ここでvは5.4、wは5.2である。分子量分布は1.50である。
【0047】
〔結果〕
評価結果を下記表1に示す。
【0048】
【0049】
表1から、実施例1の潤滑剤は、比較例1~3の潤滑剤と同程度の耐熱性および耐分解性を備えながら、単分子膜厚がより低減されていることがわかる。すなわち、本発明の一実施形態に係る化合物は耐熱性および耐分解性を有し、かつ単分子膜厚を低減できるため、潤滑剤および磁気ディスクの作製に好適に利用できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の一態様のフルオロポリエーテル化合物は、磁気ディスクの潤滑剤として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 磁気ディスク
2 潤滑層
3 保護膜層(保護層)
4 記録層
5 下層
6 軟磁性下層
7 接着層
8 非磁性基板