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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】タンパク質の定量分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221026BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20221026BHJP
   C07K 1/12 20060101ALN20221026BHJP
【FI】
G01N27/62 V
G01N33/68
C07K1/12
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020563989
(86)(22)【出願日】2019-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 US2019031271
(87)【国際公開番号】W WO2019226347
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/675,989
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】311016949
【氏名又は名称】シグマ-アルドリッチ・カンパニー・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】Sigma-Aldrich Co. LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】ケビン・ビー・レイ
(72)【発明者】
【氏名】ペガー・ジャリリ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・エル・ターナー
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・カファレリ
(72)【発明者】
【氏名】ユエ・ルー
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/165734(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0248603(US,A1)
【文献】国際公開第2015/033479(WO,A1)
【文献】特表2013-531799(JP,A)
【文献】特表2018-506045(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0309040(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 33/68
C07K 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するための方法であって、
a)標的タンパク質を含む生体試料を、固定化捕捉部分(entities)へ加えて、標的タンパク質を捕捉し、これにより固定化標的タンパク質を形成する工程;
b)有機溶媒を含む変性溶液を、固定化標的タンパク質へ加えて、変性固定化標的タンパク質を形成する工程;
c)プロテアーゼを含む消化溶液を、変性固定化標的タンパク質へ加えて、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を形成する工程;および
d)タンパク質分解ペプチドを含む溶液を、質量分析ベースの技術により分析して、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量する工程であって、該分析が、該方法の1つの工程中に加えられる、少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを利用する工程
を含み、工程(c)の前に、還元工程および/またはアルキル化工程がない、方法。
【請求項2】
固定化捕捉部分が、抗体、抗体断片、タンパク質、タンパク質断片、リガンドまたはアプタマーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
固定化捕捉部分が、直接結合、リンカーまたは親和性相互作用により固体支持体と結合している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
親和性相互作用が、ストレプトアビジン-ビオチン、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインL、アプタマーまたはリガンドを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
固体支持体が、ウェルプレート、マイクロプレート、ビーズ、レジン、チップ、ファイバーまたは反応チューブである、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
固定化捕捉部分が、ストレプトアビジンでコーティングされた固体支持体に付着したビオチニル化抗体である、請求項3~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
標的タンパク質が、抗体、抗体断片、または抗体断片を含む融合タンパク質である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
生体試料が、血清または血漿である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程(a)を室温にて約1時間~約4時間実施する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(a)の後に、少なくとも1回の洗浄工程が続く、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程(b)における変性溶液中の有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トリフルオロエタノール、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、またはその組合せであり、約30体積%~約100体積%で存在する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
有機溶媒が、メタノールまたはエタノールであり、約40体積%~約60体積%で存在する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(b)を室温にて約5分間~約60分間実施する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
工程(c)における消化溶液中のプロテアーゼが、トリプシンである、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
トリプシンが、哺乳類のトリプシンである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程(c)を約50℃~約70℃にて約1時間~約4時間実施する、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
工程(b)と(c)の間に洗浄工程および/またはデカント工程がない、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
工程(b)と(c)を、有機溶媒を含む変性溶液およびプロテアーゼを含む消化溶液を固定化標的タンパク質へ同時に加えることにより組み合わせる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
組み合わせた変性溶液と消化溶液を約50℃~約70℃にて約1時間~約4時間インキュベートする工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(a)中に加えられ、そして、安定な同位体標識型の標的タンパク質、または標的タンパク質に存在するユニバーサルペプチド配列を含む安定な同位体標識タンパク質である、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(c)の前に加えられ、そして、安定な同位体標識された切断可能な型のサロゲートペプチドである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(c)の前および後に加えられ、そして、安定な同位体標識型のサロゲートペプチドである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
工程(d)における質量分析ベースの技術が、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
定量下限が、約50 ng/ml未満である、請求項1~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
定量下限が、約10 ng/ml未満である、請求項24に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複雑な生体試料中のタンパク質を検出および/または定量するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質および抗体は、広範なヒト疾患の重要な治療薬および診断バイオマーカーとしてとして出現した。したがって、血清および血漿などの複雑な生体マトリックス中のタンパク質を定量できる頑健な生物分析アッセイを開発することが重要になってきている。免疫親和性-質量分析法は、このようなアッセイで人気を集め続けている。現在まで、広範な引用文献が、タンパク質および抗体を正確に定量するために免疫親和性-質量分析法を報告している。しかしながら、多くの方法は、免疫親和性濃縮のために磁気ビーズベースの形式を利用した後に、しばしば還元およびアルキル化、一晩消化、および消化後の清浄工程が続く。ビーズベースの形式は、高コストによって制限されており、洗浄工程中のビーズの損失を避けることおよび液体クロマトグラフィーのニードルおよびカラムの詰まりを防ぐために収集工程中のビーズの吸引をすることに細心の注意を払う必要がある。したがって、より安価で、より速く、より高感度なハイスループット分析的プロテオミクスアッセイが必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
本開示の様々な態様には、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するための方法の提供がある。方法は、(a)生体試料を固定化抗体へ加えて、標的タンパク質を捕捉し、これにより固定化抗体-タンパク質複合体を形成する工程;(b)有機溶媒を含む変性溶液を、固定化抗体-タンパク質複合体へ加えて、変性固定化抗体-タンパク質複合体を形成する工程;(c)プロテアーゼを含む消化溶液を、変性固定化抗体-タンパク質複合体へ加えて、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を形成する工程;および(d)タンパク質分解ペプチドを含む溶液を、質量分析ベースの技術により分析して、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量する工程であって、該分析が、該方法の1つの工程中に加えられる、少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを利用する工程を含む。
【0004】
本開示の他の態様および繰り返しを以下にさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、3つの異なる消化条件/プロトコールを用いた消化効率を示す。プロトコール1は、変性プロトコール無しの急速高温消化であった。プロトコール2は、従来の還元、アルキル化および37℃における一晩消化であった。プロトコール3は、本明細書に記載のプロトコール、すなわち変性および急速高温消化であった。
【0006】
図2A図2Aは、100μLのサル血清を用いた還元およびアルキル化工程無しの従来のプロトコールを用いて作成した消化した標準の検量線を示す。
【0007】
図2B図2Bは、本明細書に記載の方法および100μLのサル血清を用いて作成した消化した標準の検量線を示す。
【0008】
図2C図2Cは、本明細書に記載の方法および5μLのサル血清を用いて作成した消化した標準の検量線を示す。
【0009】
図3図3は、異なる変性有機溶媒を急速高温消化と組み合わせて用いた消化効率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、複合生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するための方法を提供する。方法は、標的タンパク質の捕捉および濃縮、ならびに質量分析ベースの分析を利用する。特に、捕捉した標的タンパク質を、高温でのタンパク質分解消化の間またはその前に、有機溶媒と接触することにより変性させる。本明細書に記載の方法は、質量分析によるタンパク質の正確な定量に重要である、完全で、一貫性があり、再現性があるタンパク質分解消化をもたらす。結果として、タンパク質の定量限界は、従来のプロテオミクス法と比較して10倍減少する。
【0011】
(I)生体試料中のタンパク質を検出/定量するための方法
本開示の一の態様は、複雑な生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するための方法を含む。方法は、捕捉工程から始まり、その工程中で、標的タンパク質を含む生体試料を、固定化捕捉部分(entities)と接触させて、生体試料からの標的タンパク質と結合して捕捉し、これにより固定化標的タンパク質を形成する。方法の次の工程は、タンパク質変性工程であって、その工程中で、固定化標的タンパク質を、有機溶媒を含む変性溶液と接触させて、変性固定化標的タンパク質を形成する。方法の3番目の工程は、タンパク質分解消化工程であって、その行程中で、変性固定化標的タンパク質を、プロテアーゼを含む消化溶液と接触させて、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を形成する。方法の最後の工程は、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を、質量分析ベースの技術により分析して、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量することを含み、ここで、該分析は、該方法の1つの工程中に加えられる、少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを利用する工程を含む。以下に記載の方法は、1つの標的タンパク質の検出および/または定量について詳述するが、該方法を、複数の標的タンパク質の多重検出および/または定量のために容易に改変し得る。
【0012】
(a)工程A 標的タンパク質の捕捉する
本明細書に記載の方法の第1工程は、生体試料からの標的タンパク質の捕捉および濃縮を含む。この工程は、標的タンパク質を含む生体試料を、固定化捕捉部分へ加え、該固定化捕捉部分が、標的タンパク質を認識して結合し、これにより標的タンパク質を捕捉および固定することを含むことを含む。
【0013】
(i)標的タンパク質
様々な標的タンパク質を、本明細書に記載の方法を用いて検出および/または定量し得る。適切な標的タンパク質は、抗体(例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、IgG分子、IgA分子、IgD分子、IgE分子、IgM分子、組み換え抗体、操作抗体、キメラ抗体など)、抗体断片(例えば、重鎖、軽鎖、Fab断片、F(ab)2断片、Fc断片、Fab'断片、一本鎖可変断片、および上記いずれかの融合、例えば、Fc融合タンパク質)、抗体模倣物、増殖因子、インターフェロン、インターロイキン、他のサイトカイン、タンパク質またはペプチドホルモン、血液凝固因子、抗凝血剤、骨形成タンパク質、血栓溶解剤、ワクチン、酵素、操作タンパク質足場、融合タンパク質、治療用タンパク質、診断用タンパク質、上記いずれかの断片、または上記いずれかの誘導体を含むが、これらに限定されない。特定の実施態様において、標的タンパク質は、モノクローナル抗体、その断片、または抗体断片を含む融合タンパク質であり得る。
【0014】
(ii)生体試料
標的タンパク質を、様々な生体試料中で検出および/または定量し得る。一般的に、生体試料は、標的タンパク質、他のタンパク質、および/または他の生物学的部分(例えば脂質、核酸など)の混合物を含む。適切な生体試料の非限定的な例として、血液、血清、血漿、羊膜液、腹水液、生検抽出物、生検液、骨抽出物、骨髄吸引物、乳房分泌物、気管支分泌物、細胞培養液、細胞抽出物、細胞ホモジネート、脳脊髄液、子宮頸部分泌物、子宮内膜分泌物、糞便、消化管分泌物、血液ろ液(hemofiltrate)、涙液(lacrimal fluid)、リンパ液、卵巣嚢腫分泌物、胸膜液、尿道球腺液(カウパー液)、前立腺液、唾液、精液(semen)、精液(seminal fluid)、精漿、痰、汗、滑液、組織抽出物、組織液、組織ホモジネート、涙液(tear)、腫瘍吸引物、腫瘍抽出物、尿および膣分泌物が挙げられる。特定の実施態様において、生体試料は、血清または血漿であり得る。
【0015】
生体試料をそのまま用いてもよく、あるいは生体試料を方法で用いる前に精製または半精製してもよい。いくつかの実施態様において、生体試料を収集後すぐに用いてもよい。他の実施態様において、生体試料を方法で用いる前に(例えば凍結により)保存してもよい。
【0016】
一般に、生体試料は、液体形態である。いくつかの実施態様において、生体試料をワーキング溶液と混合または希釈し得て、ここで、ワーキング溶液は、タンパク質結合、すなわち捕捉部分への標的タンパク質の結合に適合する。例えば、ワーキング溶液は、トリス緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液または他の適切なワーキング溶液であり得る。
【0017】
(iii)固定化捕捉部分
固定化捕捉部分は、捕捉部分が標的タンパク質を結合することができる、抗体またはその断片、タンパク質またはその断片、リガンドまたはアプタマーであり得る。いくつかの実施態様において、捕捉部分は、標的タンパク質を認識して結合する、抗体またはその断片であり得る。例えば、捕捉部分は、ヒトIgGと結合する抗ヒトIgG抗体であり得る。他の実施態様において、捕捉部分は、標的タンパク質と結合する、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、レクチン、シグナル伝達タンパク質などのタンパク質であり得る。例えば、捕捉部分は、アダリムマブまたはインフリキシマブと結合する腫瘍壊死因子αであり得る。更なる捕捉部分の例としては、タンパク質相互作用ドメイン、例えばSH2、SH3、PTB、14-3-3、FHA、WW、SAM、LIMドメイン、タンパク質結合ドメイン、ペプチドリガンド、小分子リガンド、炭水化物リガンド、脂質リガンド、核酸リガンド(すなわちアプタマー)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
固定化捕捉部分は、直接結合、リンカーまたは親和性相互作用により固体支持体と結合している。一般に、直接結合は、共有結合である。適切なリンカーは、アミノ酸、ペプチド、ヌクレオチド、核酸、有機リンカー分子(例えばマレイミド誘導体、N-エトキシベンジルイミダゾール、ビフェニル-3,4',5-トリカルボン酸、p-アミノベンジルオキシカルボニルなど)、ジスルフィドリンカーおよびポリマーリンカー(例えばPEG)を含む。リンカーは、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、アラルキル、アラルケニル、アラルキニルなどを含むがこれらに限定されない1つ以上のスペーシング基を含み得る。親和性相互作用は、ストレプトアビジン-ビオチン、アビジン-ビオチン、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインL、アプタマー、リガンド、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン、レクチンまたは金属に基づき得る。
【0019】
様々な固体支持体は、捕捉部分を固定するのに用いられ得る。適切な固体支持体は、プレート、ウェルプレート、マイクロプレート、ビーズ、レジン、チップ、ファイバーおよび反応チューブを含む。固体支持体は、プラスチック、ポリマー、埋め込まれた磁性微粒子を含むポリマー、膜(例えば、ニトロセルロース)、ガラス、シリコン、炭素、金、ステンレス鋼または他の不活性金属であり得る。
【0020】
特定の実施態様において、固定化捕捉部分は、ストレプトアビジンでコーティングされた固体表面に付着したビオチニル化抗体であり得る。ストレプトアビジンでコーティングされた固体表面は、マルチウェルプラスチックプレートのウェルであり得る。
【0021】
(iv)捕捉工程
標的タンパク質を含む生体試料を、固定化捕捉部分に加えて、一定時間インキュベートし、その間に、固定化捕捉部分は、生体試料からの標的タンパク質を捕捉して、固定化標的タンパク質を形成する。一般に、インキュベート時間は、約30分~約18時間の範囲である。いくつかの実施態様において、インキュベート時間は、約0.5時間~約8時間、約1時間~4時間または約1.5時間~約2.5時間の範囲であり得る。他の実施態様において、インキュベート時間は、約8時間~約18時間の範囲であり得る。インキュベート温度は、約4℃~約40℃、約10℃~約35℃、約20℃~約30℃またはおよそ室温(すなわち22~25℃)の範囲であり得る。特定の実施態様において、インキュベートを室温にて約2時間実施し得る。固定化捕捉部分と、標的タンパク質を含む生体試料は、インキュベート時間中に振とう、回転および/または渦巻により混合され得る。
【0022】
(v)洗浄工程
一般に、捕捉工程の後に、1回以上の洗浄工程が続く。このため、未結合タンパク質を含む生体試料を、固定標的タンパク質から(デカンテーションまたは反転により)取り除き、一定量の洗浄溶液を固定化標的タンパク質に加える。固定化標的タンパク質および洗浄溶液を混合し、その後洗浄溶液を取り除く。洗浄工程は、1回以上繰り返され得る。洗浄溶液は、上記ワーキング溶液と同一であってもよく、所望により非イオン性界面活性剤をさらに含んでもよい。適切な非イオン性界面活性剤の非限定的な例として、ポリソルベート20およびポリエチレングリコールtert-オクチルフェニルエーテルが挙げられる。
【0023】
(b)工程B タンパク質変性
方法の次の工程は、有機溶媒を含む変性溶液を、固定化標的タンパク質へ加えて、変性固定化標的タンパク質を形成することを含む。
【0024】
様々な有機溶媒が、変性溶液に含まれ得る。適切な有機溶媒の非限定的な例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トリフルオロエタノール、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、またはその組合せが挙げられる。いくつかの実施態様において、有機溶媒は、メタノールであり得る。他の実施態様において、有機溶媒は、エタノールであり得る。
【0025】
変性溶液中に存在する有機溶媒の量は、約30体積%~約100体積%の範囲であり得る。変性溶液の残りは、水または緩衝溶液であり得る。様々な実施態様において、変性溶液中に存在する有機溶媒の量は、約30~35体積%、約35~40体積%、約40~45体積%、約45~50体積%、約50~55体積%、約55~60体積%、約60~65体積%、約65~70体積%、約70~75体積%、約75~80体積%、約80~85体積%、約85~90体積%、約90~95体積%または約95~100体積%の範囲であり得る。特定の実施態様において、変性溶液中に存在する有機溶媒の量は、約4体積%~約60体積%または約45体積%~約55体積%の範囲であり得る。
【0026】
変性工程を、固定化標的タンパク質および任意のタンパク質ベースの捕捉部分が変性するのに十分な時間実施する。この工程中に、非共有結合相互作用が破壊され、これによりタンパク質をほどき、2次および3次構造を壊す。変性工程の時間は、約5分~約60分、約6分~約45分、約8分~約30分、約10分~約20分、約12分~約18分または約14分~約16分の範囲であり得る。変性工程の温度は、約4℃~約40℃、約10℃~約35℃、約20℃~約30℃またはおよそ室温の範囲であり得る。特定の実施態様において、インキュベートを室温にて約15分実施し得る。固定化標的タンパク質と、有機溶媒を含む変性溶液は、インキュベート時間中に振とう、回転および/または渦巻により混合され得る。
【0027】
本明細書に記載の方法は、変性工程後のあらゆる洗浄および/またはデカント工程がない。むしろ、変性固定化標的タンパク質と、有機溶媒を含む変性溶液とを含む混合物は、下記のセクション(1)(c)に詳述する消化工程で直接用いられる。
【0028】
本明細書に記載の方法はまた、変性工程と消化工程の間に還元および/またはアルキル化工程がない。別の言い方をすれば、変性したタンパク質は、ジスルフィド結合を壊す還元剤、および/またはジスルフィド形成を防ぐためにシステイン残基を修飾するアルキル化剤と接触しない。
【0029】
(c)工程C タンパク質消化
方法の次の工程は、プロテアーゼを含む消化溶液を、変性固定化標的タンパク質へ加えて、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を形成することを含む。
【0030】
様々なプロテアーゼは、消化溶液中に存在し得る。一般に、本明細書に記載の方法において利用されるプロテアーゼは、タンパク質を別々の多くの予測可能な断片へ切断するものである。このようなプロテアーゼは、アミノペプチダーゼM、Arg-Cプロテイナーゼ、Asp-Nエンドペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ-A、カルボキシペプチダーゼ-B、カルボキシペプチダーゼ-Y、カスパーゼ類1~10、キモトリプシン、クロストリジオペプチダーゼB、エラスターゼ、エンテロキナーゼ、Glu-Cエンドプロテイナーゼ、第Xa因子、グルタミルエンドペプチダーゼ、グランザイムB、Lys-Cエンドペプチダーゼ、パパイン、ペプシン、プロリン-エンドペプチダーゼ、プロナーゼ、プロテイナーゼK、ブドウ球菌ペプチダーゼ1、サーモリシン、トロンビン、トリプシンおよびVB-プロテアーゼを含む。プロテアーゼは、野生型タンパク質、組み換えタンパク質または操作した組み換えタンパク質であり得る。特定の実施態様において、プロテアーゼは、トリプシン、特に哺乳類のトリプシンであり得る。トリプシンを、N-トシル-L-フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK)で処理して、外来性キモトリプシン活性を不活性化し得る。特定の実施態様において、トリプシンは、ブタ膵臓からのものであり得る。他の実施態様において、トリプシンは、ウシ膵臓からのものであり得る。
【0031】
消化溶液中のプロテアーゼの量は、プロテアーゼの特性に応じて変化し得る。当業者は、どのようにプロテアーゼの適切な量を決定するかを知っている。消化溶液は、緩衝液、例えば、トリス、HEPES、リン酸塩、炭酸水素塩または他の適切な緩衝液を含み得る。いくつかの実施態様において、消化溶液は、塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩および/またはカルシウム塩)、錯体(例えばEDTAなど)、および/または非イオン性界面活性剤をさらに含み得る。消化緩衝液のpHは、約6.5~約9.0の範囲であり得る。
【0032】
消化工程は、約40℃~約80℃、約50℃~約70℃または約55℃~約65℃の温度にて実施される。消化工程の時間は、約0.5時間~約8時間、約1時間~4時間または約1.5時間~約2.5時間の範囲であり得る。特定の実施態様において、消化工程は、約60℃にて約2時間実施される。インキュベート時間中に、プロテアーゼは、固定化標的タンパク質を消化し、周囲の消化溶液中のタンパク質分解ペプチドを放出する。
【0033】
いくつかの実施態様において、変性工程と消化工程を、捕捉工程後に、有機溶媒を含む変性溶液およびプロテアーゼを含む消化溶液を固定化標的タンパク質へ同時に加えることにより組み合わせ得る。あるいは、変性および消化の組合せ溶液を、消化溶液に適切な量の有機溶媒およびプロテアーゼを混合することにより調製し得て、組合せ溶液を、捕捉工程後に固定化標的タンパク質へ加え得る。固定化標的タンパク質および変性/消化の組合せ溶液を、下記に詳述する消化条件下でインキュベートする。
【0034】
消化工程後に、タンパク質分解ペプチドを含む溶液は、質量分析ベースの分析技術に直接用いられる。タンパク質分解ペプチドを含む溶液は、固相抽出などの清浄工程に供される。
【0035】
(d)内部標準
本明細書に記載の方法は、プロセスの1つの工程中に少なくとも1つの内部標準が加えられるため、定量的である。本明細書で用いる内部標準は、標的タンパク質に固有である少なくとも1つのペプチド配列を含む、安定な同位体標識タンパク質またはペプチドである。このような固有の配列は、「サロゲート」または「レポーター」ペプチドと呼ばれ、質量分析ベースの分析中の定量およびモニタリングのために用いられる。
【0036】
いくつかの実施態様において、内部標準は、安定な同位体標識全長型の標的タンパク質であり、該内部標準タンパク質は、方法の工程(a)中に加えられる。捕捉工程中に内部標準タンパク質を加えることは、方法全体のすべてのプロセス変動を正規化する。他の実施態様において、内部標準は、標的タンパク質に存在するユニバーサルペプチド配列を含む、安定な同位体標識タンパク質である。このような内部標準は、「ユニバーサル」内部標準と呼ばれ、方法の工程(a)中に加えられる。捕捉工程中に加えられた内部標準はまた、固定化捕捉部分により捕捉される。
【0037】
さらに他の実施態様において、内部標準は、安定な同位体標識された切断可能な型のサロゲートペプチドである。切断可能な型のサロゲートペプチドは、プロテアーゼによる切断が安定な同位体標識型のサロゲートペプチドを生じるように、各末端で連結したサロゲートの配列外のアミノ酸を含む。切断可能な型のサロゲートペプチドはまた、「ウィングド」ペプチド内部標準とも呼ばれ、工程(c)のプロテアーゼでの消化の前に加えられる。
【0038】
更なる実施態様において、内部標準は、安定な同位体標識型のサロゲートペプチドである。安定な同位体標識型のサロゲートペプチドは、工程(c)のプロテアーゼ消化の前および後に加えられる。
【0039】
(e)工程D 質量分析
方法の最後の工程は、タンパク質分解ペプチドを、質量分析ベースの技術により分析して、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量することを含む。このような分析は、定量およびモニタリングのために1つ以上の適切なサロゲートペプチドの同定に依存する。サロゲートペプチドは、標的タンパク質に固有であり、質量分析(例えば良好なイオン化など)によく応答する。定量は、従来の安定な同位体希釈法を用いて方法中で加えられる1つ以上の安定な同位体標識内部標準と比較して、1つ以上のサロゲートペプチドを測定することにより実施される。
【0040】
適切な質量分析ベースの技術は、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)、複数反応モニタリング(MRM)を備えた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)、選択的反応モニタリング(SRM)を備えた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)、2次元液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(2D-LC-MS/MS)、液体クロマトグラフィー-質量分析(LC-MS)、またはキャピラリーゾーン電気泳動-エレクトロスプレーイオン化-タンデム質量分析(CZE-ESI-MS/MS)を含む。特定の実施態様において、分析方法は、複数反応モニタリング(MRM)を備えた液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)である。クロマトグラフィー条件および質量分析設定は、分析されるペプチドに応じて変化し得る。
【0041】
タンパク質分解ペプチドは、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を、分析システムへ直接導入することにより分析される。例えば、タンパク質分解ペプチドを含む溶液のアリコートを、液体クロマトグラフィー-質量分析システムへ注入し得る。適切なキャリブレーションおよび品質管理基準もまた分析に含まれる。
【0042】
本明細書に記載の方法は、生体試料中の標的タンパク質が約100 ng/mL未満である定量下限(LLOQ)を有する。いくつかの実施態様において、LLOQは、生体試料中の標的タンパク質が約30 ng/mL未満、約10 ng/mL未満、約3 ng/mL未満、約1 ng/mL未満、約0.3 ng/mL未満、約0.1 ng/mL未満、約0.03 ng/mLまたは約0.01 ng/mL未満であり得る。
【0043】
いくつかの実施態様において、測定されるペプチドは、生体試料中のタンパク質を特定するのに適したタンパク質検索エンジンを用いたタンパク質データベースのインシリコ消化からのペプチド質量、プロダクトイオンスペクトルまたは配列クエリーと比較され得る。
【0044】
(II)キット
本開示の別の態様は、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するためのキットを提供する。一般に、キットは、セクション(1)(b)で上述した変性溶液または変性溶液を調製する構成成分、およびセクション(1)(c)で上述した消化溶液または消化溶液を調製する構成成分を含み得る。キットは、対象とする標的タンパク質に対する捕捉部分(セクション(1)(a)(iii)で上述したとおり)をさらに含み得る。捕捉部分は、固体支持体と結合でき、キットにそのように提供される。あるいは、捕捉部分は、捕捉部分を固体支持体へ結合するための手段と一緒に、遊離型で提供され得る。例えば、捕捉部分は、ビオチニル化抗体であり得て、これは、ストレプトアビジンでコーティングされた固体支持体(例えば96ウェルプレート)または固体支持体をコーティングするためのストレプトアビジンと一緒に提供され得る。キットはまた、セクション(1)(d)で上述した、少なくとも1つの安定な同位体標識内部標準タンパク質も含み得る。更なる実施態様において、キットは、方法の標的タンパク質捕捉工程中で用いるためのワーキング溶液および洗浄溶液(それぞれセクション(1)(a)(ii)および(1)(a)(v)参照)をさらに含み得る。
【0045】
本明細書で提供されるキットは、一般的に、対象とするタンパク質を捕捉し、検出/定量するための指示書を含む。キットに含まれる指示書は、包装材に張り付けられていてもよく、添付文書として含まれていてもよい。指示書は、典型的には書面または印刷物であるが、これらに限定されない。そのような指示書を記録し、エンドユーザーに伝達することができるあらゆる媒体が、本開示によって企図される。このような媒体は、電子記憶媒体(例えば磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えばCD ROM)などを含むが、これらに限定されない。本明細書で用いる用語「指示書」は、指示書を提供するインターネットサイトのアドレスを含み得る。
【0046】
(III)適用
本明細書で提供する方法およびキットは、様々な用途および適用を有する。適切な適用の非限定的な例として、バイオマーカーの前臨床検証、生物治療アッセイ、臨床アッセイ、診断アッセイ、治療モニタリングアッセイ、薬物動態試験、非臨床試験などが挙げられる。方法は、診断、治療、臨床、産業および/または研究の用途のためであり得る。
【0047】
定義
他に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術的および科学的用語は、本発明の属する分野の当業者により一般的に理解される意味を有する。下記参照文献は、本発明で用いられる多くの用語の一般的な定義を当業者に提供する:Singleton et al., Dictionary of Microbiology and Molecular Biology (2nd ed. 1994);The Cambridge Dictionary of Science and Technology (Walker ed., 1988);The Glossary of Genetics, 5th Ed., R. Rieger et al. (eds.), Springer Verlag (1991);およびHale & Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology (1991)。本明細書で用いる以下の用語は、他に断らない限り、それらに帰する意味を有する。
【0048】
本開示またはその好ましい実施態様の構成要素を導入するときに、冠詞「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、1つ以上の構成要素が存在することを意味することを意図する。用語「含む(comprising)」、「含む(including)」および「有する(having)」は、示した構成要素以外の更なる構成要素を含むか、または存在し得ることを意図する。
【0049】
用語「約」は、特に所与の量に関して、±5%の偏差を包含することを意味する。
【0050】
用語「捕捉部分」は、標的タンパク質と結合して捕捉することができる部分を指す。
【0051】
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は、翻訳語修飾(例えば、リン酸化、グリコシル化、アセチル化など)にかかわらず、ペプチド結合により結合しているアミノ酸の鎖を指す。
【0052】
本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変化が上記の細胞および方法においてなされ得るため、上記の説明および下記に示す実施例において含まれるすべての事項は、限定する意味ではなく例示として示されることを意図する。
本発明は、以下の態様および実施態様を含む。
[1] 生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量するための方法であって、
a)標的タンパク質を含む生体試料を、固定化捕捉部分(entities)へ加えて、標的タンパク質を捕捉し、これにより固定化標的タンパク質を形成する工程;
b)有機溶媒を含む変性溶液を、固定化標的タンパク質へ加えて、変性固定化標的タンパク質を形成する工程;
c)プロテアーゼを含む消化溶液を、変性固定化標的タンパク質へ加えて、タンパク質分解ペプチドを含む溶液を形成する工程;および
d)タンパク質分解ペプチドを含む溶液を、質量分析ベースの技術により分析して、生体試料中の標的タンパク質を検出および/または定量する工程であって、該分析が、該方法の1つの工程中に加えられる、少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを利用する工程
を含む、方法。
[2] 固定化捕捉部分が、抗体、抗体断片、タンパク質、タンパク質断片、リガンドまたはアプタマーである、[1]に記載の方法。
[3] 固定化捕捉部分が、直接結合、リンカーまたは親和性相互作用により固体支持体と結合している、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 親和性相互作用が、ストレプトアビジン-ビオチン、プロテインA、プロテインG、プロテインA/G、プロテインL、アプタマーまたはリガンドを含む、[3]に記載の方法。
[5] 固体支持体が、ウェルプレート、マイクロプレート、ビーズ、レジン、チップ、ファイバーまたは反応チューブである、[3]または[4]に記載の方法。
[6] 固定化捕捉部分が、ストレプトアビジンでコーティングされた固体支持体に付着したビオチニル化抗体である、[3]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7] 標的タンパク質が、抗体、抗体断片、または抗体断片を含む融合タンパク質である、[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 生体試料が、血清または血漿である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9] 工程(a)を室温にて約1時間~約4時間実施する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10] 工程(a)の後に、少なくとも1回の洗浄工程が続く、[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11] 工程(b)における変性溶液中の有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、トリフルオロエタノール、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、またはその組合せであり、約30体積%~約100体積%で存在する、[1]~[10]のいずれかに記載の方法。
[12] 有機溶媒が、メタノールまたはエタノールであり、約40体積%~約60体積%で存在する、[11]に記載の方法。
[13] 工程(b)を室温にて約5分間~約60分間実施する、[1]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 工程(c)における消化溶液中のプロテアーゼが、トリプシンである、[1]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] トリプシンが、哺乳類のトリプシンである、[14]に記載の方法。
[16] 工程(d)を約50℃~約70℃にて約1時間~約4時間実施する、[1]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 工程(b)と(c)の間に洗浄工程および/またはデカント工程がない、[1]~[16]のいずれかに記載の方法。
[18] 工程(c)の前に、還元工程および/またはアルキル化工程がない、[1]~[17]のいずれかに記載の方法。
[19] 工程(b)と(c)を、有機溶媒を含む変性溶液およびプロテアーゼを含む消化溶液を固定化標的タンパク質へ同時に加えることにより組み合わせる、[1]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20] 約50℃~約70℃にて約1時間~約4時間インキュベートする工程をさらに含む、[19]に記載の方法。
[21] 少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(a)中に加えられ、そして、安定な同位体標識型の標的タンパク質、または標的タンパク質に存在するユニバーサルペプチド配列を含む安定な同位体標識タンパク質である、[1]~[20]のいずれかに記載の方法。
[22] 少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(c)の前に加えられ、そして、安定な同位体標識された切断可能な型のサロゲートペプチドである、[1]~[20]のいずれかに記載の方法。
[23] 少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドが、工程(c)の前および後に加えられ、そして、安定な同位体標識型のサロゲートペプチドである、[1]~[20]のいずれかに記載の方法。
[24] 工程(d)における質量分析ベースの技術が、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)である、[1]~[23]のいずれかに記載の方法。
[25] 定量下限が、約50 ng/ml未満である、[1]~[24]のいずれかに記載の方法。
[26] 定量下限が、約10 ng/ml未満である、[25]に記載の方法。

【実施例
【0053】
以下の実施例は、本発明の特定の態様を例示する。
【0054】
実施例1:タンパク質分解消化の最適化
いくつかの異なる消化プロトコールの効率を評価するために、最初に、サル血清中で100μLの0.64μg/ml未標識アデュリムマブ(Adulimumab)抗体の免疫親和性濃縮を実施した。その後、抗体を、3つの異なる消化プロトコールを用いて消化した。
#1 変性プロトコール無しの急速高温消化。ウェル1に、190μLの50mM炭酸水素アンモニウム消化緩衝液および10μgのトリプシンを加えた。試料を70℃にて2時間インキュベートした(変性は実施しなかった)。
#2 従来の還元、アルキル化および消化プロトコール。ウェル2に、100μLの10 mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩を加え、37℃にて30分間インキュベートした。還元後、試料を、20μLの100mM IAAおよびを加え、室温にて30分間インキュベートすることによりアルキル化した。その後、70μLの50 mM炭酸水素アンモニウム消化緩衝液および10μgのトリプシンを加え、37℃にて16時間インキュベートした。
#3 変性プロトコール有りの急速高温消化(すなわち最適化プロトコール)。ウェル3に、50μLの50%MeOHを加え、15分間インキュベートした。その後、136μLの50 mM炭酸水素アンモニウム消化緩衝液、4μLの1M CaCl2および10μgのトリプシンを加え、60℃で1時間インキュベートした。
【0055】
総量25 ngの予め消化されているSIL-アデュリムマブ内部標準を、トリプシン消化後、各ウェルに加えた。すべての試料をデュプリケートで調製し、LC-MS/MSにより分析した。図1に示すように、抗体の変性(プロトコール#3)は、シグナル強度を著しく改善し、従来のプロトコールと比較してより急速で簡易化した試料調製を可能にする。
【0056】
消化した標準の検量線を、還元およびアルキル化工程無しの従来のプロトコールまたは最適化プロトコールを用いて作成した。図2Aは、100μLのサル血清を用いた還元およびアルキル化工程無しで従来のプロトコールを用いて作成した、消化した標準(VVSVLTVLHQDWLNGK;配列番号1)の検量線を示す。すべての%CVは、不適であった。図2Bは、最適化プロトコールおよび100μLのサル血清を用いた、消化した標準(TTPPVLDSDGSFFLYDK;配列番号2)の検量線を示す。%CV<20および±20の真度を有するアッセイ範囲は0.005~1.28μg/mlである。1.28~12.5μg/mlの高濃度では非線形(真度>±20)。図2Cは、最適化消化プロトコールおよび5μLのサル血清を用いた、消化した標準(TTPPVLDSDGSFFLYDK;配列番号2)の検量線を示す。%CV<20および±20の真度を有するアッセイ範囲は0.1~12.5μg/mlである。したがって、最適化消化プロトコールを用いると、トリプリケートの試料について%CV<20および±20の真度を有する0.1~12.5μg/mlの直線の定量範囲を、ちょうど5μLの血清で示す。
【0057】
実施例2:様々な有機溶媒を用いる変性
最適化消化プロトコールを、サル血清中で5μLの1.25μg/ml未標識アデュリムマブ抗体の免疫親和性濃縮後に、様々な有機溶媒の存在下で実施した。50μLの50%有機溶媒(すなわち、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール(TFE)またはアセトニトリル(ACN))、150μLの炭酸水素アンモニウム消化緩衝液、5μgのトリプシンを加えた。消化を60℃にて2時間実施した。予め消化されているSIL-アデュリムマブ内部標準(25 ng)を、トリプシン消化後、各ウェルに加えた。試料を繰り返し2回調製した。2回繰り返した試料の%CVは、<5%であった。図3に示すように、結果は、試験した有機溶媒が、最適化消化プロトコールにおいて変性溶液(50%MeOH)と同じ挙動をすることを示す。実験を50mMトリスおよび50mM炭酸水素アンモニウムの両方で実施し、結果は同様であった。
図1
図2
図3