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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】ジャイロスコープ式ロールスタビライザ
(51)【国際特許分類】
   B63B 39/04 20060101AFI20221026BHJP
【FI】
B63B39/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020567158
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 US2019034902
(87)【国際公開番号】W WO2019232371
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-01-26
(31)【優先権主張番号】62/678,422
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/768,356
(32)【優先日】2018-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520465910
【氏名又は名称】ウェーブテイマー エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】WaveTamer LLC
【住所又は居所原語表記】1705 South Evans Street Greenville, NC 27834 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100168284
【弁理士】
【氏名又は名称】菅原 英夫
(72)【発明者】
【氏名】スミス, グレイディー
(72)【発明者】
【氏名】ホールデン, デービッド
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン, ジェフリー
【審査官】塩澤 正和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0157749(US,A1)
【文献】特開2018-028542(JP,A)
【文献】特表2005-503097(JP,A)
【文献】特表平09-506310(JP,A)
【文献】特開平09-144806(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0303363(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0244513(US,A1)
【文献】国際公開第2016/050534(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/019322(WO,A1)
【文献】中国実用新案第204408103(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 39/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボートのためのジャイロスコープ式ロールスタビライザであって、前記ジャイロスコープ式のスタビライザは、
ジンバル軸を中心に回転するためにジンバルに取り付けられ、周囲圧力未満を維持するように構成されたエンクロージャと、
フライホイールおよびフライホイールシャフトを含むフライホイールアセンブリと、
フライホイール軸を中心に回転させるために、前記エンクロージャ内に前記フライホイールアセンブリを回転可能に取り付けるための1つまたは複数のベアリングと、
前記フライホイールアセンブリを回転させるためのモータと、
前記フライホイールシャフトの端部に形成された開口端キャビティと、
前記フライホイールシャフトから前記エンクロージャの外部に熱を伝達するために前記キャビティ内に延びる熱伝達部材であって、前記エンクロージャ内の開口を通って延びる端部を有する、熱伝達部材と、
前記開口をシールして前記エンクロージャ内の前記周囲圧力未満を維持するために前記熱伝達部材を囲む第1のシールと、
液体熱伝達媒体を通じて前記フライホイールシャフトから前記熱伝達部材へ熱を伝達するための前記液体熱伝達媒体を含む前記熱伝達部材と前記キャビティの壁との間の隙間と、
前記キャビティをシールして前記液体熱伝達媒体を前記キャビティ内に維持するために前記熱伝達部材と前記フライホイールシャフトとの間に配置された第2のシールと、を備え、
前記フライホイールシャフト、液体熱伝達媒体及び熱伝達部材は、前記1つまたは複数のベアリングから前記フライホイールシャフトへ、前記フライホイールシャフトから前記液体熱伝達媒体へ、前記液体熱伝達媒体から前記熱伝達部材へ、及び前記熱伝達部材から前記エンクロージャの外部への熱伝達経路を提供するように構成されている、
ャイロスコープ式ロールスタビライザ。
【請求項2】
前記熱伝達部材は、前記エンクロージャの外側の熱交換プレートと接続して、固体伝導によって前記熱交換プレートへ熱を伝達する、請求項1に記載のジャイロスコープ式ロールスタビライザ。
【請求項3】
前記フライホイール軸は前記キャビティを通って延びている、請求項2に記載のジャイロスコープ式ロールスタビライザ。
【請求項4】
前記液体熱伝達媒体は、低蒸気オイルを含む、請求項に記載のジャイロスコープ式ロールスタビライザ。
【請求項5】
前記モータは、前記フライホイールの最小動作速度に到達するために休止から10分以下の時間を提供するように構成される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のジャイロスコープ式ロールスタビライザ。
【請求項6】
ジャイロスコープ式ボートロールスタビライザ内のベアリングを冷却する方法であって、前記方法は、
ジンバル軸を中心に回転するためにジンバル内に取り付けられ、且つ、ロール安定化のための逆トルクを提供するために周囲圧力未満に維持されたエンクロージャ内で、フライホイールとフライホイールシャフトの端部に開放端キャビティを有する前記フライホイールシャフトを含むフライホイールアセンブリをフライホイール軸を中心に回転させることと
前記フライホイールアセンブリを支持するベアリングによって生成された熱を、前記キャビティの壁と、前記フライホイールシャフトの一端の前記キャビティ内に延在する熱伝達部材との間の隙間に含まれる液体熱伝達媒体前記フライホイールシャフトを介して伝達することであって、前記熱伝達部材は、前記エンクロージャ内の開口を通って延びる端部を有し、前記開口をシールして前記エンクロージャ内の前記周囲圧力未満を維持するために前記熱伝達部材を第1のシールが囲み、前記キャビティをシールして前記液体熱伝達媒体を前記キャビティ内に維持するために前記熱伝達部材と前記フライホイールシャフトとの間に第2のシールが配置されている、伝達することと、
前記ジャイロスコープ式ボートロールスタビライザの動作中に前記キャビティ内に前記液体熱伝達媒体を維持することと、
前記液体熱伝達媒体から前記熱伝達部材へ前記熱を伝達することと、
前記エンクロージャ内の開口を通って延びる前記熱伝達部材によって、前記エンクロージャの外部に熱を伝達することと、
前記周囲圧力未満を維持するために前記熱伝達部材のための前記エンクロージャ内の前記開口をシールすることと、
を含む方法。
【請求項7】
前記熱伝達部材は、熱交換プレートと接続して、固体伝導によって前記熱交換プレートへ熱を伝達する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記フライホイール軸は、前記キャビティを通って延びている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記液体熱伝達媒体は低蒸気オイルである、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記フライホイールの加速中に歳差運動を防止するために前記ジャイロスコープをロックし、前記フライホイールが所定の動作速度に到達した後に前記ジャイロスコープをアンロックすることと、
前記フライホイールの加速の開始から前記歳差運動を可能にするための前記ジャイロスコープのアンロックまでの時間が10分未満となるように、前記フライホイールを加速させることと、
をさらに含む、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2018年5月31日に出願された米国仮特許出願第62/678,422号、および2018年11月16日に出願された米国仮特許出願第62/768,356号の優先権を主張し、その開示は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、概して、ボートの横転運動(横方向のローリング運動)を減少させるためのボートロールスタビライザに関し、より詳細には、ジャイロ効果に基づいてボートのロールを減少させるための制御されたモーメントジャイロスコープに関する。
【背景技術】
【0003】
ボートの横転運動は、ボートの乗客及び乗組員に安全上の問題を生じさせ、ボートの横転運動に慣れていない乗客に不快感を生じさせる。ボートの横転運動を低減する多くの技術が現在存在する。現在使用されている1つの技術は、能動的なフィン安定化である。スタビライザフィンは、喫水線下のボートの船体に取り付けられ、風や波によるボートのロール(横揺れ)を軽減するために揚力を発生させる。アクティブフィン安定化の場合、ボートの運動を感知し、ボートの運動に基づいてフィンの角度を制御してロールに対抗する力を発生させる。フィン安定化は、大型ボートで最も一般的に使用され、ボートが進行中の場合に有効である。フィン安定化技術は、より小型のボートでは頻繁に使用されず、ボートが静止している場合には一般に効果がない。スタビライザフィンはまた、船体の抵抗を増大させ、損傷を受けやすい。
【0004】
ジャイロスコープ式ボート安定化は、ジャイロスコープ効果に基づくロール抑制のためのもう一つの技術である。制御モーメントジャイロスコープ(CMG)をボートに搭載し、ボートのローリング運動を打ち消すために使用できるトルクを発生させる。CMGは高速で回転するフライホイールを含む。コントローラはボートの姿勢を感知し、フライホイールに蓄積されたエネルギーを使用して、ボートのローリング運動に対抗するトルクを船体に加えることによって、ボートの姿勢を「補正」する。CMGは、ボートが進行中であるときだけでなく、ボートが静止しているときにも機能する。CMGはまた、スタビライザフィンよりも安価であり、船体の抵抗を増大させず、損傷の危険にさらされない。
【0005】
CMGは特に、より小型の漁船及びヨットのために人気が高まっているが、この技術には幾つかの限界がある。ボートのローリング運動を打ち消すのに使用されるエネルギーは、高速でフライホイールが回転することからくる。その結果、フライホイールを支持するベアリングに熱が蓄積され、ベアリングが故障する可能性があり、フライホイールに蓄積されるエネルギー量のために、ボートに極端な危険をもたらす。高いスピンレートを得るために、フライホイールは典型的には真空エンクロージャ内に収容され、これは放熱の問題をもたらす。
【0006】
CMGに存在する別の問題は、フライホイールの所望の動作速度を得るための「スピンアップ」に著しく時間がかかることである。また、現在市販されているCMGの中にはCMGの使用準備が整うまでに70分もかかるものもある。長時間の「スピンアップ」期間は、ボートに乗る機会のほとんどを占める短時間の移動のためには使用できないことを意味している。また、フライホイールが「スピンダウン」するまでには通常数時間程度の長い時間がかかる。フライホイールがスピンダウンしている間、フライホイールはうなり音を発生し続け、それにより、ボートが水上の目的地に到着した後、またはボートに乗った後にドックに戻った後、乗員の楽しみを妨げる可能性がある。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、ボート用のジャイロスコープ式ロールスタビライザに関する。前記ジャイロスコープ式ロールスタビライザは、ジンバルに取り付けられ、且つ、周囲圧力未満の圧力を維持するように構成されたエンクロージャと、フライホイールおよびフライホイールシャフトを含むフライホイールアセンブリと、前記エンクロージャ内に前記フライホイールアセンブリを回転可能に取り付けるための1つまたは複数のベアリングと、前記フライホイールを回転させるためのモータと、前記フライホイールを支持する前記ベアリングを冷却するためのベアリング冷却システムとを含む。一実施形態では、前記ベアリング冷却システムは、前記フライホイールシャフトの端部内に形成されたキャビティ内に配置されたヒートシンクを備える。熱は、前記フライホイールシャフトから前記ヒートシンクに伝達され、次いで、固体伝導および/または液体伝導によって前記熱交換器に伝達される。別の実施形態では、液体冷却剤を前記フライホイールシャフトの端部のテーパ状キャビティ内に送達することによって冷却が達成される。前記キャビティは、遠心力によって前記液体冷却剤が前記シャフトの開放端に向かって流れるように成形され、そこで前記液体冷却剤は流体収集システムによって収集される。
【0008】
本開示の一態様は、ボート用のロールスタビライザとして機能するように構成されたCMGを動作させる方法を含む。CMGは、ジンバル軸を中心とした回転のためにジンバル内に取り付けられ、且つ、ロール安定化のための逆トルクを提供するために周囲圧力以下に維持されたエンクロージャ内において、フライホイールアセンブリを含む。前記フライホイールアセンブリは、フライホイールおよびフライホイールシャフトを含む。一実施形態では、前記方法は、前記フライホイールアセンブリを回転させることと、前記フライホイールアセンブリを支持するベアリングによって生成された熱を前記フライホイールシャフトを介して前記フライホイールシャフトの一端のキャビティ内に延びる熱伝達部材に伝達することと、前記熱伝達部材を介して固体伝導によって前記熱をエンクロージャの前記外部に伝達することとを含む。
【0009】
別の実施形態では、前記方法は、前記フライホイールアセンブリを回転させることと、前記フライホイールシャフトの一端に形成されたキャビティを通して液体冷却剤を循環させることと、前記フライホイールアセンブリを支持するベアリングによって生成された熱を前記フライホイールシャフトを通して前記液体冷却剤に伝達することとを含む。
【0010】
本開示の別の態様は、ボート用のジャイロスコープ式ロールスタビライザを含む。一実施形態では、前記ジャイロスコープ式ロールスタビライザは、ジンバル軸を中心に回転するようにジンバルに取り付けられ、且つ、周囲圧力未満に維持するように構成されたエンクロージャと、フライホイールおよびフライホイールシャフトを含むフライホイールアセンブリと、前記エンクロージャ内に前記フライホイールアセンブリを回転可能に取り付けるための1つまたは複数のベアリングと、前記フライホイールアセンブリを回転させるためのモータと、前記フライホイールシャフトの端部に形成された開放端キャビティと、前記フライホイールシャフトから前記エンクロージャの外部に熱を伝達するために前記キャビティ内に延在する熱伝達部材とを備える。
【0011】
別の実施形態では、前記ジャイロスコープ式ロールスタビライザは、ジンバル軸を中心に回転するようにジンバルに取り付けられ、且つ、周囲圧力未満の圧力を維持するように構成されたエンクロージャと、フライホイールおよびフライホイールシャフトを含むフライホイールアセンブリと、前記エンクロージャ内に前記フライホイールアセンブリを回転可能に取り付けるための1つまたは複数のベアリングと、前記フライホイールアセンブリを回転させるためのモータと、前記フライホイールシャフトの端部に形成された開放端キャビティと、前記キャビティに液体冷却剤を送達するための冷却剤送達システムと、前記フライホイールシャフトの前記キャビティに送達された前記液体冷却剤を収集するために前記フライホイールシャフトの前記端部に隣接して配置された収集システムとを備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】、
図1B図1Aおよび図1Bは、本明細書に記載のCMGを備えるボートを示す。
図2図2は、第1の実施形態に係るボートロールスタビライザとして構成されたCMGの立面図である。
図3図3は、第1の実施形態に係るCMGのエンクロージャの断面図である。
図4図4は、第1の実施形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図5図5は、CMG用の冷却回路を示す図である。
図6図6は、CMGのためのトルク制御システムを示す。
図7図7は、第2の実施の形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図8図8は、第3の実施の形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図9図9は、第4の実施の形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図10図10は、第5の実施の形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図11図11は、第6の実施の形態に係るベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
図12図12は、第7実施形態のベアリング冷却システムを示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、図面を参照すると、図1A及び図1Bは、ロール安定化のためにボート5に取り付けられたCMG10を示す。CMG10の複数の実施形態について説明する。便宜上、以下の実施形態の説明では、同様の参照番号を使用して、各実施形態における同様の要素を示す。
【0014】
次に図2および図3を参照すると、CMG10の主要な機能要素は、単軸ジンバル20と、ジンバル軸Gを中心として(ジンバル軸Gの周りで)回転するためにジンバル20に取り付けられたエンクロージャ30と、エンクロージャ内部のベアリング50によって取り付けられたフライホイールアセンブリ40と、フライホイールアセンブリ40を回転させるためのモータ60と、フライホイールアセンブリ40の歳差運動を制御するためのトルク制御システム70(図5)とを備え、フライホイールアセンブリ40のエネルギーがボート5の船体に伝達されてロール(横揺れ)運動を打ち消すようにする。実施形態の各々は、フライホイールベアリング46を冷却するためのベアリング冷却システム100をさらに備える。ベアリング冷却システム100の種々のデザインが、図4および図7図12に示されている。
【0015】
ジンバル20は、ボート5にしっかりと取り付けられるように構成された支持フレーム22を備える。好ましくは、ジンバル20は、ジンバル軸Gが長手方向軸(縦軸)Lに対して横方向に延びる状態でボート5の長手方向軸Lに沿って取り付けられる。従来、ジンバル20は、ボート5の船体内に取り付けられるが、任意の場所に取り付けることができる。ジンバル20の支持フレーム22は、ベース24と、2つの離間した支持体26とを備えている。エンクロージャ30を支持体26に回転可能に取り付けるために、ベアリング28が各支持体26に取り付けられている。この目的のために、エンクロージャ30は、エンクロージャ30の直径方向に対向する側面から突出する2つのジンバルシャフト32を含む。ジンバルシャフト32は、ジンバルベアリング28内で回転可能に軸支され、エンクロージャ30およびフライホイールアセンブリ40がジンバル軸Gを中心として前後方向に回転または前進できるようにする。
【0016】
エンクロージャ30の基本要素は、本明細書に記載される様々な実施形態において同じであるが、ベアリング冷却システム100のデザインに応じて、いくつかの詳細が異なる。エンクロージャ30はほぼ球形であり、2つの主ハウジングセクション(収容部)34と、2つのカバープレート36とを備えている。2つの主ハウジングセクション34は、球形エンクロージャ30を二分する平面に沿って接合する。カバープレート36は、球形エンクロージャ30の「極」により近いそれぞれの平面に沿って主ハウジングセクション34を接合する。エンクロージャ30内の全ての接合部(ジョイント)は、フライホイールアセンブリ40上の空気抵抗を低減するために、エンクロージャ30内で周囲圧力未満を維持するようにシール(封止、密封)されている。エンクロージャ30の構造(構成)は本明細書に記載される実施形態では一般に同じであるが、ハウジングセクション34およびカバープレート35の詳細は、使用されるベアリング冷却システムのデザインに応じて、以下でさらに完全に説明されるように変化する。
【0017】
図3を参照すると、フライホイールアセンブリ40は、フライホイールアセンブリ40の回転軸Fがジンバル軸Gに対して垂直になるように、ジンバル20のエンクロージャ30の内側で回転するために取り付けられたフライホイール42とフライホイールシャフト44とを備える。したがって、ボート5が水平であるとき、フライホイールシャフト44の軸は垂直方向、すなわちボートのデッキに対して垂直方向になる。フライホイール42およびシャフト44は、一体のピースとして形成されてもよく、または2つの別個の構成要素を含んでもよい。1つの例示的な実施形態では、直径およびフライホイール42は約20.5インチであり、フライホイールアセンブリ40は約614ポンド(lbs)の総重量を有する。フライホイールアセンブリ40は、約32273重量ポンド毎平方インチ(lbin2)の慣性モーメントを有する。9000rpmの速度で回転すると、フライホイールアセンブリ40の角運動量は、約211225lbm ft2/sである。
【0018】
フライホイールアセンブリ40は、エンクロージャ30内部の上部および下部ベアリングアセンブリによって支持される。各ベアリングアセンブリは、ベアリングブロック58内に取り付けられたベアリング50を備える。各ベアリング50は、フライホイールシャフト44と接触して回転する内側レース52と、ベアリングブロック58の内部に取り付けられた外側レース54と、内側レース52と外側レース54との間に配置されたボール56とを備える。ベアリングブロック58は、エンクロージャの内部に固定される。ベアリング50の上部および下部には、ベアリング50内に潤滑剤を収容するためのシール(図示せず)が配置されている。
【0019】
モータ60は高速度(例えば、9000rpm)でフライホイールアセンブリ40を回転させる。モータ60は、フライホイールシャフト44に接続するロータ62と、任意の適切な取り付けシステムによってエンクロージャ30に固定されるステータ64とを含む。モータ60はエンクロージャ30の内側に取り付けられて示されているが、モータ60をエンクロージャ30の外側に取り付けることも可能である。一実施形態では、モータ60は230ボルトの単相交流電力で動作し、慣性モーメントが約32,273lb in2のフライホイールを用いて、静止(休止)時から約9000rpmの回転速度まで、好ましくは約5rpm/sの平均加速度に対して約30分以下で、より好ましくは約7.75rpm/sの平均加速度に対して約20分以下で、さらに好ましくは約15rpm/s(または1.57ラジアン/s2)の平均加速度に対して約10分以下で、フライホイールアセンブリを加速することができる。
【0020】
図5に示すトルク制御システム70は、ジンバル軸Gを中心としたフライホイールアセンブリ40の歳差運動の速度を制御する。波の作用によって生じるボート5のロール(横揺れ)運動は、ロール角とロール速度によって特徴付けることができる。ローリング運動は、フライホイール42をジンバル軸Gを中心に歳差運動させる。センサ74、76はそれぞれ、ロール角度およびロール速度を測定し、これらはコントローラ72に供給される。コントローラ102は、フライホイールアセンブリ40の歳差運動の速度を制御するアクティブブレーキシステム又は他のトルク印加装置78を制御するための制御信号を生成する。歳差運動の速度を制御することによって、フライホイールアセンブリ40は、ローリング運動に対抗してトルクを生成する。このトルクは、ジンバル20を通してボート5に伝達され、ボート5のロールを減衰させる。アクティブブレーキシステム78の一例は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、「BrakingSystemForGyroscopicBoatRollStabilizer」という名称の、2019年4月3日に出願された米国仮出願第62/828845号に記載されている。
【0021】
フライホイールアセンブリ40が高速で回転すると、ベアリング50及びモータ60は相当量の熱を生成し、これは危険なベアリングの故障につながる可能性がある。従来の空気および液体冷却技術は、ベアリング50または真空環境内に収容される他の熱発生構成要素には適していない。ベアリング冷却システム100の様々な実施形態がここに開示されており、ベアリング50及びエンクロージャ内に収容された他の熱発生構成要素を、高い摩擦損失をもたらすベアリング50又は他の熱発生構成要素とオイル又は液体冷却材との直接接触なしに、冷却することができる。一般に、熱は、固体伝導および/または液体伝導によって、オイル、グリコールまたは他の液体冷却剤によって冷却されるヒートシンクに伝達される。オイル冷却または液体冷却は、空冷または気体対流および伝導と比較して、より多くの熱を放散させることを可能にする。既存のCMGにおける気体対流および伝導に依存することは、エンクロージャ30の内部が典型的には周囲圧力以下に維持されるので、放散され得る熱量に厳しい制限を課す。従来技術のCMG10における制限された熱伝達容量は、使用される電気モータのサイズに厳しい制限を課し、これは、CMG10を係合して使用する時間を制限する。従来のCMGにおける電気モータは熱発生を避けるために小型であるため、従来のCMGはフライホイールアセンブリ40を所望の逆トルクおよびロール安定化を提供する速度まで加速するためにかなりの時間を必要とする。本明細書に記載されるように、ベアリング50のより効率的な冷却を提供することは、CMG10を使用することの利益を著しく短い期間で得ることができるように、より大きくてより強力なモータ60の使用およびフライホイールアセンブリ40のより速い加速を可能にする。
【0022】
図6は、液体冷却剤を循環させるための冷却回路80の概略図である。流体リザーバ82は、流体ポンプ84によって「閉じた」回路で循環される液体冷却剤を含む。流体リザーバ82は、流体リザーバ82内の液体冷却剤を冷却するための熱交換器83を含んでもよい。ベアリング50によって放散された熱を収集した後、液体冷却剤は熱交換器86を通過し、そこでベアリング50によって生成された熱を以下でさらに完全に説明するように吸着して運び去る。いくつかの実施形態では、熱はフライホイールシャフト44からヒートシンクに伝達され、次いで、熱交換器86に固体伝導および液体伝導によって伝達される。他の実施形態では、フライホイールシャフト44からフライホイールシャフト44内のキャビティ46を通して循環される液体冷却剤に熱が伝達される。この実施形態では、液体冷却剤への熱伝達がフライホイールシャフト44のキャビティ46内で起こるので、熱交換器86は不要である。いくつかの実施形態では、エンクロージャ30の内部に浸透する液体冷却剤を収集し、液体冷却剤を流体リザーバ82に戻すために、掃気回路88が設けられる。
【0023】
図4は、ベアリング50および/またはモータ60によって生成された熱を放散するためにヒートシンクを使用するベアリング冷却システム100の一実施形態を示す。フライホイールシャフト44の上部は、今度はエンクロージャ30内に固定されるベアリング50内に固定される。各ベアリング50は、外側レース54と、ボール56と、フライホイールシャフト44と係合し、それと共に回転する内側レース52とを含む。フライホイールシャフト44は、その各端部にキャビティ46を含む。フライホイールシャフト44の各端部のキャビティ46は、一端が開口しており、側壁と底壁とを含んでいる。
【0024】
キャビティ46内には、後述するように、ヒートシンクとして機能する熱伝達部材102が吊り下げられている(サスペンドされる)。熱伝達部材102は、キャビティ46の側壁又は底壁と直接係合しない。むしろ、熱伝達部材102の外面は、キャビティ46の側壁及び底壁から離間している。一実施形態では、熱伝達部材102とキャビティ46の壁との間の間隔が約0.062”である。本明細書で論じる熱伝達部材102には、様々な材料を使用することができる。好ましくは、銅、アルミニウム、またはそれらの合金がそれらの比較的高い熱伝導率のために使用される。
【0025】
熱伝達媒体は、熱伝達部材102とキャビティ46の壁との間の隙間(ギャップ)に収容される。一例として、熱伝達媒体は、エンクロージャ30内の低圧環境に適した低蒸気流体を含む。低蒸気流体は、水と比較して比較的低い沸点を有し、真空環境での使用に適した、オイル(油)などの液体である。例えば、真空環境用にデザインされたペルフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤などの航空宇宙潤滑剤を熱交換媒体として使用することができる。低蒸気流体は、液体伝導および液体対流によって、フライホイールシャフト44から熱伝達部材102への熱の伝達を可能にする。ラビリンスシール110は、熱伝達部材102の周囲に延在し、キャビティ46を効果的にシール(密封、封止)して、熱伝達媒体がキャビティ46内に維持されるようにする。ラビリンスシール110は好ましくは熱伝達部材102に固定され、それは、フライホイールシャフト44がラビリンスシール110の周りを回転することを意味する。
【0026】
図4に見られるように、熱伝達部材102は、キャビティ46から、エンクロージャ30の一部を形成するカバープレート36の開口を通って、熱交換器86に突出する。カバープレート36内の対応する溝内に配置されたシール108は、エンクロージャ30内の真空を維持する。熱交換器86は、カバープレート36の外面に取り付けられる。熱交換器86は、ハウジング106と、ハウジング106内に閉じ込められた熱交換プレート104とを備える。熱伝達部材102は、ファスナ103によって熱交換プレート104に固定され、その結果、熱伝達部材102はフライホイールシャフト44内に形成されたキャビティ46内に効果的に吊り下げされる(サスペンドされる)。より具体的には、熱交換プレート104がその底面に、熱伝達部材102の端部を受け入れる凹部を含む。熱伝達部材102の端部と熱交換プレート104との間の表面接触は、熱伝達部材102から熱交換プレート104への固体伝導による熱の効率的な伝達を容易にする。
【0027】
図5に示すように、熱交換プレート104から熱を吸収して運び去るために、グリコール冷却剤のような液体冷却剤が熱交換器86を通して循環される。熱交換プレート104の上面には、流体チャネルおよび/または冷却フィンを設けることができ、熱交換プレート104の表面積を増やし、熱交換プレート104から液体冷却剤への熱伝達を容易にする。
【0028】
エンクロージャ30がジンバル軸Gを中心に回転するとき、CMGのトルクから発生する高い側面荷重によって、ベアリングアセンブリ50の内側レースおよび外側レースに熱が発生する。外側レース54はエンクロージャ30を通る連続的な熱伝導経路を有し、これにより、外側レース54に関連する熱を大気中に排除することができる。内側レース52は、エンクロージャ30の部分を通るヒートシンク経路を必要とする。この実施形態では、ベアリングアセンブリ50の内側レース52からの熱が、固体伝導によってフライホイールシャフト44に伝達される。次いで、熱は、フライホイールシャフト44から熱伝達部材102への液体伝導によって伝達され、熱伝達部材102を通る熱交換プレート104への固体伝導によって伝達され、この熱は周囲の液体冷却剤へと連続的に排除される。いくつかの実施形態では、熱交換器86は、液体冷却ではなく空気冷却またはガス冷却を採用することができる。
【0029】
図7は、同じくヒートシンクを使用する別のベアリング冷却システム100を示す。図7のこのベアリング冷却システム100は、図4に示すデザインに類似している。主な違いは、熱伝達部材102、ラビリンスシール110、および熱交換プレート104の形状にある。この実施形態では、熱伝達部材102は、熱伝達媒体に曝される表面積を増大させるチャネルを含む。熱交換プレート104は、前の実施形態とは対照的に、溝又は羽根のない滑らかな上面を有する。しかし、熱伝達経路は本質的に同じである。すなわち、内部レース52に関連する熱は、固体伝導によってフライホイールシャフト44に伝達される。フライホイールシャフト44に形成されたキャビティ46は、上記のデザインと同様に、熱がフライホイールシャフト44から低蒸気流体を通って熱伝達部材102の下部へ液体伝導によって伝達されるように、低蒸気流体を保持するように構成されている。その後、熱伝達部材102内の熱は、固体伝導によって熱交換プレート104に伝達される。液体冷却剤は、熱交換器86内に入り、通過し、そして排出されて循環される。そうすることにより、液体冷却剤が熱交換プレート104に接触し、熱交換プレート104に関連する熱が循環液体冷却剤に伝達される。
【0030】
図8は、ヒートシンクを用いたジャイロスコープ式ボート安定化のためのベアリング冷却システム100の別の代替デザインである。このデザインは概念的には前述のデザインと同様であるが、数点で異なる。第1に、2つの熱伝達部材102Aおよび102Bがある。熱伝達部材102Aは、フライホイールシャフト44内のキャビティ46に挿入され、フライホイールシャフト44と共に回転する。キャビティ46の壁と熱伝達部材102Aとの間の密接な表面収縮は、フライホイールシャフト44から熱伝達部材102Aへの固体伝導による熱伝達を容易にする。熱伝達部材102Bは、カバープレート36の開口を通り、第1の熱伝達部材102Aと軸方向に整列している(位置合わせされている)。熱伝達部材102Bの一端は、熱交換プレート104に接続している。後述するように、熱伝達部材102A、102Bの当接端部間には小さな隙間が維持される。導電性の低い気体グリースの光膜が熱伝達部材102A及び102Bの当接端間のインターフェースに適用され、摩損を防止し、熱伝達部材102A及び熱伝達部材102Bからの熱伝達を容易にする。グリースは、ラビリンスシール114によって漏れ出ることが防止される。ベアリングアセンブリ50の内側レース52から熱を放散する過程で、熱は、内側熱伝達部材102Aからグリースの薄膜を介して外側熱伝達部材102Bに伝達される。
【0031】
予め負荷されたバネ112が、熱交換プレート104とエンクロージャ30のカバープレート36との間に介在している。この理由は、エンクロージャ30内の真空が外側熱伝達部材102Bを内側に引っ張る傾向があるからである。したがって、バネ112が、真空力のバランスをとり、熱伝達部材102Aと102Bとの間の所望の間隔を維持するために採用される。
【0032】
このデザインにおける熱伝達経路は、前述の2つの実施形態と本質的に同じである。ベアリングアセンブリ50の内側レース52に関連する熱は、内側レース52からフライホイールシャフト44へ、およびフライホイールシャフト44から第1の熱伝達部材102Aへの固体伝導によって伝達される。第1の熱伝達部材102A内の熱は、グリースの薄膜を介して第2の熱伝達部材102Bに伝達され、熱伝達部材102Bから熱交換プレート104に固体伝導することによって伝達される。熱交換器86内を循環する液体冷却剤は、熱交換プレート104内の熱を吸着して運び去る。
【0033】
図9図14は、フライホイールシャフト44の端部のキャビティ46内で循環される液体冷却剤に熱が伝達されるベアリング冷却システム100の実施形態を示す。この場合、液体冷却剤への熱伝達は、フライホイールシャフト44内のキャビティ46内で生じる。以下の議論は、主として、熱伝達に関与する要素に焦点を当てる。以下に述べる場合を除いて、ジンバル20、エンクロージャ30、フライホイール40、ベアリングアセンブリ50及びモータ60(図示せず)の基本的なデザインは、上述したものと本質的に同じである。したがって、以下の説明は、これらの要素の詳細のすべてを繰り返さない。図9及び図10に示す実施形態では、フライホイールシャフト44の端部は、特別に形成されたキャビティ46を含み、そこに液体冷却剤が送達又は注入される。各キャビティ46は、フライホイールシャフト44の長手方向軸に沿って延び、キャビティ46の底部または閉鎖端部がベアリング50に隣接するようになっている。キャビティ46は、フライホイールシャフト44の端部に向かって延びるにつれて、外側に向かって先細りしている(テーパを付けている)。供給管85は、液体冷却剤をキャビティ46の底端部に送達する。キャビティ46の形状は、シャフト44が高速で回転するとき、液体冷却剤を、キャビティ46の側壁に沿ってフライホイールシャフト44の端部に向かって流れさせる。流体リザーバ82の入力側に接続された収集マニホールド90が、キャビティ46の開放端に隣接して配置され、フライホイールシャフト44内のキャビティ46の開放端から流れる液体冷却剤を収集し、再循環させる。ラビリンスシールは、フライホイールシャフト44の端部と収集マニホールド90との間に非接触シールを提供する。
【0034】
収集マニホールド90は、その底壁に開口部92を備えた概ね円形のマニホールドと、オイルまたは液体の冷却剤が再循環されるマニホールド90の側壁に沿った1つ以上の流体出口93とを備える。供給管85は、マニホールド90の上壁の開口部96を通過し、この開口部は、oリングシール98によってシールされる。加えて、弾性偏向器シールド95が供給管85に取り付けられて、流体を収集マニホールド90の上壁の開口部96から偏向させる。マニホールド90の底壁の内部側の開口部92の周囲には、丸みを帯びた突出部94が形成されている。以下により詳細に説明するように、丸みを帯びた突出部94は、オイルがエンクロージャ30の内部に浸透するのを防止するためにラビリンスシールの一部を形成する。
【0035】
図9に示す実施形態では、ベル形状のライナ120がフライホイールシャフト44内の各キャビティ46に挿入される。ライナ120は、ラビリンスシールを形成するために、1/128インチ~1/32インチの範囲のフレア端部122と丸みを帯びた突出部94との間の隙間を有して、収集マニホールド90の底部の開口部92を取り囲む丸みを帯びた突出部94上を半径方向外側に延びるフレア端部122を含む。隙間の大きさと、フライホイールシャフト44と共にライナ120が回転することとにより、流体がエンクロージャ30の内部に移動するのを防止する。液体冷却剤がラビリンスシールを通過して漏れた場合には、掃気回路88によって収集され、戻されることができる。
【0036】
図10は、ラビリンスシールを形成するための代替システムを示す図である。この実施形態では、フライホイールシャフト44の開放端に隣接する流体キャビティ46の側壁にショルダ48が形成される。図10に最もよく示されている環状シール部材124が、キャビティ46の開放端に挿入される。シール部材124の内面は、フライホイールシャフト44の回転軸に向かって内側に膨らむ。液体冷却剤がキャビティ46の開放端に向かって流れると、流体はその膨張に遭遇し、この膨張は、流体の流れをフライホイールシャフト44の回転軸に向かって導き、流体の流速を減少させる。その結果、液体冷却剤はフライホイールシャフト44に長時間接触したままであり、より大量の熱を吸収する。シール部材124の外側端部は、ラビリンスシールを形成するために、1/128インチ~1/32インチの範囲の指状要素126と丸みを帯びた突出部94との間に隙間を有して、収集マニホールド90内の開口部を取り囲む丸みを帯びた突出部92上に延在する指状要素126を含む。前述の実施形態と同様に、隙間の大きさおよびシール部材124の回転によって、液体冷却剤がエンクロージャ30の内部に移動するのを防止する。
【0037】
図11および図12は、シャフト44の端部のキャビティ46からの液体冷却剤の流れを制御するための追加の流れ制御特徴を備えた、図9および図10の実施形態と同様の実施形態を示す。一般に、流れ制御特徴は、熱交換のための、すなわちシャフト44からオイルまたは液体冷却剤への熱の伝達のための十分な時間を提供するために、オイルまたは液体冷却剤の流れを減速するように設計される。図11に示す実施形態では、一連の固体ディスク130が供給管85に取り付けられ、ライナ120に向かって半径方向外側に延びている。オイル又は液体冷却剤の流れは、ディスク130の外縁又は外周とライナ120との間の小さな隙間に制限される。図12に示す実施形態では、金属発泡体のような多孔質材料132が、供給管85の中心を下るボアと共に、フライホイールシャフト44内のキャビティ46内に配置されている。供給管85を介して供給されたオイルまたは液体冷却剤は、多孔質金属発泡体または他の多孔質材料132を通って逆流し、この多孔質金属発泡体または他の多孔質材料は、オイルまたは液体冷却剤に熱を伝達する。また、熱伝達のための時間を提供するために、オイルまたは液体冷却剤の流れを減速するための他の同様の技術を使用してもよい。
【0038】
別の実施形態では、ベアリング冷却システム100は、フライホイールベアリング50の内側レース52に接触するフライホイールシャフト44の端部に取り付けられた導電性金属キャップ(図示せず)を備える。一実施形態では、金属キャップは、フライホイールシャフト44内に同様に形成された溝に延びてフライホイールシャフト44から金属キャップに熱を伝導する細長い導電性要素をさらに含む。液体冷却剤が、金属キャップに噴霧される。フライホイールシャフト44の回転によって、液体冷却剤が外側に流れ、そこで流体収集システムによって収集される。ラビリンスシールは、金属キャップと流体収集システムとの間に非接触シールを提供し、フライホイールシャフト44に作用する摩擦力を低減する。
【0039】
本明細書に記載されるベアリング冷却システム100は、現在の技術と比較して、より大きなモータ60を用いても、はるかに大きな熱放散を可能にし、より大きなモータ60の使用およびより低い動作温度を可能にするより大きなモータおよびより低い動作温度は、フライホイールアセンブリ40の迅速なスピンアップおよびスピンダウン、ならびにはるかに少ない係合時間を可能にする。
【0040】
使用時には、ジンバル20は、通常、スピンアップ中に、すなわちフライホイールアセンブリ40が加速されている間にロックされ、所定の回転速度が達成されるまでフライホイール42の歳差運動を防止する。従来のCMGでは、通常、ジンバル20はフライホイールアセンブリ40が最大回転速度の75~80%以上に達するまでロックされる。フライホイールアセンブリ40が加速されている間は摩擦による損失を防止するために、ジンバル20をロックすることが必要である。従来のCMG内のジンバル20があまりにも早くロック解除される場合、摩擦損失は、より小さなモータがフライホイールアセンブリ40を加速するのを妨げるか、または、フライホイールアセンブリ40の加速を大幅に減少させ、結果として、はるかに長いスピンアップ期間をもたらすことになる。
【0041】
真空環境内に維持されるCMG10のためのベアリング冷却における現況の技術は、交互織りフィン(織り合わせフィン(interwovenfin))を使用し、熱を放散させるために交互織りフィン間の気体伝導に主に依存している。例えば、米国特許7546782号、米国特許8117930号を参照されたい。熱伝達の一次モードとしての気体伝導への依存は、気体伝導が液体伝導または固体伝導より効率が低いので、放散され得る熱量を厳しく制限する。また、交互織りフィンの熱伝達能力は、交互織りフィンの表面積によって制限される。より小さい表面積は、より小さい熱伝達能力を意味する。CMG10のエンクロージャ30が収縮することにつれて、交互織りフィンのために利用可能なスペースが少なくなる。これらの要因は、CMG10のための熱バジェットに厳しい制限を課す。
【0042】
CMG10内には、エンクロージャ30内部のモータ60によって生成される熱と、ベアリングの摩擦によって生成される熱との2つの主要な熱源が存在する。ベアリングの故障を防止するために、ベアリング50からの熱を放散させるためには、熱バジェットの大きなパーセンテージが必要である。ベアリング冷却を説明した後の熱バジェットの残りの部分は、エンクロージャ30の内部で使用することができるモータ60のサイズを決定する。したがって、熱放散のために交互織りフィンを使用する従来のCMG10は、モータ60のサイズに制限される。モータ60が大きすぎる場合、交互織りフィンの熱伝達能力を超えてしまう。
【0043】
モータの大きさに制限があると、CMG10のフライホイール42の加速プロファイルが悪くなり、CMG10を使用できるまでの待ち時間が長くなることを意味する。ボート乗りは通常、開始後にできるだけ早くCMG10を使用したいと考えている。前述したように、CMG10は、通常、フライホイールアセンブリ40を垂直位置にして、フライホイール42が最低動作速度(通常、その通常動作速度の約75%~80%)に達するまでロックされる。現在市販されているCMG10はフライホイール42を係合させることができる最低動作速度に達するのに30分以上かかることがあり、一方、多くのボート移動、特に小型ボートでは30分以下である。これは、係合(フライホイールアセンブリ40のロック解除)までの待ち時間が、多くのボート移動よりも長くなることを意味する。
【0044】
従来のCMG10におけるモータ60のサイズは、CMG10が係合することができる(すなわち、ロック解除される)最低動作速度に歯止めをかけてしまう。CMG10は、通常、フライホイールアセンブリ40が加速されているときに歳差運動を防止するためにロックされる。CMG100は、アクティブブレーキシステム78によってエンクロージャ30の回転を防止するためにロックすることができる。CMG10がロック解除されると、フライホイール42の歳差運動は、ベアリング50に大きな側方荷重を与えることになる。モータ60によって克服されなければならない、ベアリング50の側方荷重からのベアリング摩擦は、すでに遅い加速率を劇的に減少させるのであろう。低加速率は、通常の動作速度に達するまでの時間が10分ではなく数時間程度であることを意味し、それは通常のボート乗りには受け入れられないであろう。場合によっては、モータ60が克服するには摩擦負荷が大き過ぎて、フライホイールアセンブリ40のさらなる加速が不可能となり、通常の動作速度に到達することができなくなる可能性がある。
【0045】
別の考慮点は、フライホイールアセンブリ40が加速されているときにはモータ60への電力が最大であり、フライホイールアセンブリ40がその通常の動作速度に達すると減少することである。これにより、モータ60が加速しているときにモータ60によってより多くの熱が発生する。また、モータ60によって生成される追加の熱は、モータ60からの追加の熱がベアリング冷却システムの設計限界を超えることがあるので、係合するための時間を制限する。
【0046】
本明細書に記載されるベアリング冷却システム100は、より効率的な熱伝達を可能にし、これにより、はるかに大きな熱伝達容量および大幅に増加した熱バジェットを可能にする。増加した熱バジェットは、より多くの熱を生成する、より大きく且つより強力なモータ60を、ベアリングの故障の恐れなしに使用することができることを意味する。より大きく且つより強力なモータ60により、CMG10は、フライホイールアセンブリ40のより大きな加速、及び従来のCMG10よりもはるかに少ない係合時間を達成することができる。同じ最小動作速度を仮定して係合する時間が自然に短くなるより大きな加速度に加えて、より大きなモータ60はフライホイールアセンブリ40をより低い動作速度にすること可能にし、これは、より大きなモータ60がベアリング50の負荷からの付加的な摩擦を克服することができるので、係合する時間をさらに短縮する。例えば、10000~15000ワットの定格のモータ60は潜在的に、数分のオーダーで係合する時間を達成することができる。
【0047】
一例として、約32273lb in2に等しい慣性モーメントを有する上述のフライホイールアセンブリ40は、約30分以下で休止から9000rpmに加速することができ、これは約5rpm/s以上の平均加速度に等しく、好ましくは約20分以下であり、これは約7.5rpm/s以上の平均加速度に等しく、さらに好ましくは約10分以下であり、これは約15rpm/s以上の平均加速度に等しい。加えて、本明細書で説明するように、CMG10が係合する時間は、ジンバル20がロック解除されたときの摩擦による損失を克服するのに十分にモータ60が強力であるので、はるかにより短い。例えば、約32273lb in2に等しい慣性モーメントを有するフライホイールアセンブリ40では、係合する時間(動作速度の75%と仮定する)が約20分未満、より好ましくは約10分未満、さらにより好ましくは5分未満である。迅速なスピンアップ及びより短い係合時間は、ボート移動の大部分を構成する短い移動時間であってもCMG10の有益な使用を可能にする。したがって、迅速なスピンアップは、CMG10がはるかに多くのボート機会に使用されることを可能にする。
【0048】
同様に、スピンダウンは、現在の技術と比較して、数時間ではなく数分のオーダーである。気体伝導と対流に依存する交互織りフィンを有する冷却システムは、高温(例えば、華氏400度)で動作し、熱を比較的ゆっくり放散する。このようなシステムでは、フライホイールがあまりにも速く停止されると、熱は構成要素にあまりにも反りを生じさせ、その結果、ベアリング寿命が数年ではなく数ヶ月または数日に短縮されることがある。本明細書に記載される冷却システムは、CMG10をより低い温度(例えば、華氏200度)で動作させることを可能にし、熱を除去するのに極めて効率的である。その結果、スピンダウン時間は3~5時間からほんの数分に短縮される。急速なクールダウン期間と同様に、この減少したランニング温度は、極めてバランスの取れた回転構成要素の反りを防止し、従って、スピンダウン時間は大幅に減少する。スピンダウン時間が短いため、スピンしているフライホイールからの煩わしい騒音や振動が排除され、ボート乗りから戻った後の平和と穏やかさを享受することができる。
【0049】
一般に、比較的小さなフライホイールを有するCMG10は、より大きなフライホイールを有するCMG10よりも高い回転速度で動作する。より小さいCMG10は、典型的には9000rpm以上で回転し、40000lbin2未満の慣性モーメントを有する、重量が700lb以下のフライホイールを含む。より小さいCMG10は、典型的には9000rpm以上で回転し、40000lbin2未満の慣性モーメントを有する、重量が700lb以下のフライホイール42を含む。より大きなCMG10は、通常、9000rpm未満で回転し、40000lbin2よりも大きな慣性モーメントを有する、重量が700lbを超える重量のフライホイール42を含む。
【0050】
以下の表1は、8つの異なるCMG100についてのスピンアップ時間および係合する時間を示し、ここで、加速度は、より小さいCMG10については5rpm/sであり、より大きいCMG10については2.5rpm/sである。係合する時間は、フライホイールアセンブリ40がその通常動作速度の75%に達する時点であると仮定される。
【0051】
【表1】
【0052】
以下の表2は、8つの異なるCMG100についてのスピンアップ時間および係合する時間を示し、ここで、加速度は、より小さいCMG10については10rpm/sであり、より大きいCMG10については5rpm/sである。係合する時間は、フライホイールアセンブリ40がその通常動作速度の75%に達する時点であると仮定される。
【0053】
【表2】
【0054】
以下の表3は、8つの異なるCMG100についてのスピンアップ時間および係合する時間を示し、ここで、加速度は、より小さいCMG10については5rpm/sであり、より大きいCMG10については7.5rpm/sである。係合する時間は、フライホイールアセンブリ40がその通常動作速度の75%に達する時点であると仮定される。
【0055】
【表3】
【0056】
以下の表4は、8つの異なるCMG100についてのスピンアップ時間および係合する時間を示し、ここで、加速度は、より小さいCMG10については2.5rpm/sであり、より大きいCMG10については5rpm/sである。係合する時間は、フライホイールアセンブリ40がその通常動作速度の75%に達する時点であると仮定される。
【0057】
【表4】
【0058】
表1~4に示す例では、フライホイールアセンブリ40がその通常動作速度の75%に達したときに、CMG10が係合、すなわちロック解除されていると仮定している。本開示の利点の1つは、CMG10がロック解除されたときに、ベアリング50内の摩擦損失を克服することができる、より大きなモータ60を使用できることである。従って、フライホイールアセンブリがその通常動作速度の50%、又はその通常動作速度の25%にさえ達したときにCMG10のロックを解除することによって、係合する時間を更に減少させることができる。
【0059】
表5~8は、CMG10が通常の動作速度の50%でロック解除されるシナリオでの係合時間を示す。
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
【表9】
【0065】
【表10】
【0066】
【表11】
【0067】
【表12】
【0068】
本明細書に記載されるベアリング冷却システム100は、フライホイールアセンブリ40に対するより速い加速度を可能にし、これは、CMG10と係合するためのより短い時間に変換する。係合する時間がより短いことは、短期間の移動においてもCMG10の有益な使用を可能にする。より小型のユニットでは、ベアリング冷却システム100は、40000lb in2未満の慣性モーメントを有するフライホイールアセンブリ40を5rpm/s以上の速度で加速できるようにするのに効果的である。より小さいユニットに対して30rpm/sより大きい加速度が達成可能である。より大きなユニットの場合、ベアリング冷却装置は、40000lb in2より大きい慣性モーメントを有するフライホイールアセンブリ40を2.5rpm/s以上の速度で加速することを可能にするのに効果的である。より大きなユニットに対して15rpm/sを超える加速度が達成可能である。また、ベアリング冷却システムは、ボートの静かな楽しみが、フライホイールアセンブリ40が静まる際に発生する騒音によって妨げられることがないように、高速スピンダウン時間を可能にする。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12