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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】血液浄化装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/34 20060101AFI20221026BHJP
   A61M 1/16 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
A61M1/34 123
A61M1/16 110
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021020348
(22)【出願日】2021-02-12
(62)【分割の表示】P 2016177939の分割
【原出願日】2016-09-12
(65)【公開番号】P2021073030
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095614
【弁理士】
【氏名又は名称】越川 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 毅
(72)【発明者】
【氏名】竹内 聡
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0238675(US,A1)
【文献】特開2010-029376(JP,A)
【文献】特開2004-049493(JP,A)
【文献】特開2006-006836(JP,A)
【文献】特開2007-268257(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0102983(US,A1)
【文献】特開2001-112863(JP,A)
【文献】特開昭62-290466(JP,A)
【文献】個人用透析装置にてECUMからの返血・補液について,2015年,http://yan-hd.net/cgi-bin/c-board/c-board.cgi?cmd=ntr;tree=16897;id=hd
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 - 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血液を体外循環可能な動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有する血液回路と、
前記動脈側血液回路と静脈側血液回路との間に接続され、当該血液回路を流れる血液を浄化する血液浄化手段と、
前記血液浄化手段に透析液を導入し得る透析液導入ラインと、
前記血液浄化手段からの排液を排出し得る透析液排出ラインと、
前記血液浄化手段をバイパスして前記透析液導入ラインの透析液を透析液排出ラインに流動させ得るバイパスラインと、
前記血液浄化手段を介して前記血液回路を流れる血液から除水し得る除水ポンプと、
前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段と、
を具備し、前記透析液導入ラインの透析液を前記血液回路に供給して補液又は返血が可能とされた血液浄化装置であって、
前記血液浄化手段に対する透析液の導入を停止しつつ前記除水ポンプを駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、前記血液浄化手段に対する透析液の流入を規制しつつ前記バイパスラインに透析液の送液を行わせ、さらに、前記限外濾過治療の過程において、予め設定されたタイミングに達したか否かを判断し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断しない場合、前記バイパスラインに透析液の送液を行わない状態で前記限外濾過治療を実施し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記バイパスラインに透析液の送液を行う状態で前記限外濾過治療を実施し、限外濾過治療時、治療条件の変更が検出されると、その変更をトリガとして、前記送液手段による透析液の送液を行うものとされ、さらに、前記限外濾過治療中に前記補液が行われ、又は、前記限外濾過治療後に前記返血が行われる、ことを特徴とする血液浄化装置。
【請求項2】
前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段と、前記透析液導入ラインにおける前記バイパスラインの接続部と前記血液浄化手段との間の流路を閉止し得る閉止手段とを具備して構成され、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記閉止手段にて流路を閉止するとともに前記送液手段により送液された透析液を当該バイパスラインにて流動させることを特徴とする請求項1記載の血液浄化装置。
【請求項3】
前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段を備え、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断しない場合、前記除水ポンプを駆動させつつ前記送液手段の駆動を停止させることによって透析液を送液させずに限外濾過治療を実施し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記除水ポンプ及び送液手段を駆動させることによって透析液を送液させて限外濾過治療を実施することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置。
【請求項4】
前記予め設定されたタイミングは、前記限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点にて決定されることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項5】
前記予め設定されたタイミングは、前記限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて決定されることを特徴とする請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【請求項6】
透析液を加温し得る加温手段を具備するとともに、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、透析液の送液が行われつつ前記加温手段による透析液の加温が行われることを特徴とする請求項1~5の何れか1つに記載の血液浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析液導入ラインの透析液を血液回路に供給して補液又は返血が可能とされた血液浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
患者の血液を体外循環させつつ浄化する血液浄化治療として、例えば特許文献1にて開示されているように、ダイアライザに透析液を流さないで除水のみを行う「ECUM」(extracorporeal ultrafiltration method)と称される治療方法がある。この「ECUM」(以下、「限外濾過治療」と呼ぶ)によれば、ダイアライザによる拡散が行われず血液中の溶質の除去が回避されるため、血圧の低下を抑えることができる。
【0003】
このような限外濾過治療を血液浄化装置にて行う際、通常、ダイアライザに透析液を導入する透析液導入ラインを電磁弁等で閉止して透析液をダイアライザに導入させることなく除水ポンプを駆動させることにより、ダイアライザにおける限外濾過の作用を利用して、血液回路にて体外循環する血液から除水のみを行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-236924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、透析液導入ラインの透析液を血液回路に供給して補液(緊急補液)又は返血が可能とされた血液浄化装置において上記の限外濾過治療を行う場合、以下の如き問題がある。
すなわち、限外濾過治療時においては、ダイアライザに送液するための送液手段(複式ポンプ等)が停止して透析液導入ラインの透析液が滞留するとともに、ダイアライザに送液される透析液を加温するためのヒータ等の加温手段も停止した状態となっている。
【0006】
このため、長時間限外濾過治療が行われると、透析液導入ラインに滞留した透析液の組成や濃度が変化したり或いは室温程度まで透析液の温度が低下してしまう可能性があり、その状態の透析液を血液回路に供給すると不具合が生じる虞がある。したがって、限外濾過治療の途中で緊急補液を行う場合や限外濾過治療の後に返血を行う場合、送液手段にて透析液を流動させて滞留を解消させるとともに、加温手段を作動させて血液回路に供給する透析液を加温するための準備運転が必要となり、その準備運転の間、緊急補液や返血を行うことができないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、準備運転を経ることなく、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行い、又は限外濾過治療の後に透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる血液浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、患者の血液を体外循環可能な動脈側血液回路及び静脈側血液回路を有する血液回路と、前記動脈側血液回路と静脈側血液回路との間に接続され、当該血液回路を流れる血液を浄化する血液浄化手段と、前記血液浄化手段に透析液を導入し得る透析液導入ラインと、前記血液浄化手段からの排液を排出し得る透析液排出ラインと、前記血液浄化手段をバイパスして前記透析液導入ラインの透析液を透析液排出ラインに流動させ得るバイパスラインと、前記血液浄化手段を介して前記血液回路を流れる血液から除水し得る除水ポンプと、前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段とを具備し、前記透析液導入ラインの透析液を前記血液回路に供給して補液又は返血が可能とされた血液浄化装置であって、前記血液浄化手段に対する透析液の導入を停止しつつ前記除水ポンプを駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、前記血液浄化手段に対する透析液の流入を規制しつつ前記バイパスラインに透析液の送液を行わせ、さらに、前記限外濾過治療の過程において、予め設定されたタイミングに達したか否かを判断し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断しない場合、前記バイパスラインに透析液の送液を行わない状態で前記限外濾過治療を実施し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記バイパスラインに透析液の送液を行う状態で前記限外濾過治療を実施し、限外濾過治療時、治療条件の変更が検出されると、その変更をトリガとして、前記送液手段による透析液の送液を行うものとされ、さらに、前記限外濾過治療中に前記補液が行われ、又は、前記限外濾過治療後に前記返血が行われる、ことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の血液浄化装置において、前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段と、前記透析液導入ラインにおける前記バイパスラインの接続部と前記血液浄化手段との間の流路を閉止し得る閉止手段とを具備して構成され、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記閉止手段にて流路を閉止するとともに前記送液手段により送液された透析液を当該バイパスラインにて流動させることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の血液浄化装置において、前記透析液導入ラインの透析液を前記血液浄化手段に送液し得る送液手段を備え、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断しない場合、前記除水ポンプを駆動させつつ前記送液手段の駆動を停止させることによって透析液を送液させずに限外濾過治療を実施し、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、前記除水ポンプ及び送液手段を駆動させることによって透析液を送液させて限外濾過治療を実施することを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記予め設定されたタイミングは、前記限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点にて決定されることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1~3の何れか1つに記載の血液浄化装置において、前記予め設定されたタイミングは、前記限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて決定されることを特徴とする。
【0014】
請求項記載の発明は、請求項1~の何れか1つに記載の血液浄化装置において、透析液を加温し得る加温手段を具備するとともに、前記限外濾過治療時、前記予め設定されたタイミングに達したと判断する場合、透析液の送液が行われつつ前記加温手段による透析液の加温が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、血液浄化手段に対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプを駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、血液浄化手段に対する透析液の流入を規制しつつ透析液の送液を行わせるので、準備運転を経ることなく、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行い、又は限外濾過治療の後に透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。
また、限外濾過治療時の透析液の送液は、予め設定されたタイミングにて行われるので、限外濾過治療の全ての時間において透析液を送液するものに比べ、透析液の消費量を低減させることができ、コストを低減させることができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、限外濾過治療時、閉止手段にて流路を閉止するとともに送液手段により送液された透析液を当該バイパスラインにて流動させるので、送液手段で送液された透析液をバイパスラインを介して流動させつつ血液浄化手段に対する透析液の流入を規制することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、予め設定されたタイミングは、限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点にて決定されるので、限外濾過治療時の適切なタイミングにて透析液を送液させることができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、予め設定されたタイミングは、限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて決定されるので、患者の状態又は治療の状態に応じた適切なタイミングにて透析液を送液させることができる。
【0021】
請求項の発明によれば、限外濾過治療時、透析液の送液が行われつつ加温手段による透析液の加温が行われるので、限外濾過治療中の補液や限外濾過治療後の返血において血液回路に供給される透析液を適切な温度とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施形態に係る血液浄化装置を示す模式図
図2】同血液透析装置における治療時の制御内容を示すフローチャート
図3】同血液透析装置における限外濾過治療時(送液なし)の状態を示す模式図
図4】同血液透析装置における限外濾過治療時(送液あり)の状態を示す模式図
図5】同血液透析装置における緊急補液時又は返血時の状態を示す模式図
図6】同血液透析装置における他の限外濾過治療時(送液あり)の状態を示す模式図
図7】本発明の第2の実施形態に係る血液透析装置における治療時の制御内容を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら具体的に説明する。
第1の実施形態に係る血液浄化装置は、血液透析装置に適用されるものであり、図1に示すように、血液浄化手段としてのダイアライザ1に動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3が接続された血液回路と、複式ポンプ7、除水ポンプ10、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を有した透析装置本体Bと、透析液供給ラインLaと、制御手段21とから主に構成されている。
【0024】
ダイアライザ1は、不図示の血液浄化膜(本実施形態においては中空糸型の血液透析膜又は血液透析濾過膜であるが、平膜型の血液透析膜を含む)を内在し、血液を導入する血液導入口1a及び導入した血液を導出する血液導出口1bが形成されるとともに、透析液を導入する透析液導入口1c及び導入した透析液を排出する透析液排出口1dが形成されたもので、血液導入口1aから導入した血液に中空糸膜を介して透析液を接触させて血液を浄化するものである。
【0025】
動脈側血液回路2は、主に可撓性チューブから成り、一端がダイアライザ1の血液導入口1aに接続されて患者の血管から採取した血液をダイアライザ1の中空糸膜内に導くものである。かかる動脈側血液回路2の他端には、動脈側穿刺針cを取り付け得るコネクタaが形成されているとともに、途中に除泡のための動脈側エアトラップチャンバ5が接続され、且つ、血液ポンプ4が配設されている。なお、血液ポンプ4は、しごき型のポンプ(正転させると可撓性チューブをしごいて血液を動脈側穿刺針c側からダイアライザ1の血液導入口1aの方向に流動させる構成のもの)である。
【0026】
静脈側血液回路3は、動脈側血液回路2と同様に主に可撓性チューブから成り、一端がダイアライザ1の血液導出口1bに接続されて中空糸膜内を通過した血液を導出させるものである。かかる静脈側血液回路3の他端には、静脈側穿刺針dを取り付け得るコネクタbが形成されているとともに、途中に除泡のための静脈側エアトラップチャンバ6が接続されている。すなわち、動脈側穿刺針cで採取された患者の血液は、動脈側血液回路2を介してダイアライザ1に至り、血液浄化がなされた後、静脈側血液回路3を流動し、静脈側穿刺針dを介して患者の体内に戻るようになっており、これによって体外循環がなされるよう構成されている。本明細書においては、血液を脱血(採血)する穿刺針の側を「動脈側」と称し、血液を返血する穿刺針の側を「静脈側」と称しており、「動脈側」及び「静脈側」とは、穿刺の対象となる血管が動脈及び静脈の何れかによって定義されるものではない。
【0027】
なお、静脈側血液回路3におけるクランプ手段Vbと静脈側エアトラップチャンバ6との間には、気泡検出センサ16が取り付けられている。かかる気泡検出センサ16は、血液回路を流動する液体中の気泡(エア)を検出可能なセンサから成り、例えば圧電素子から成る一対の超音波振動素子(発振手段及び受信手段)を有して構成されている。
【0028】
動脈側血液回路2の先端側(コネクタaと血液ポンプ4との間であって当該コネクタa近傍)には、流路を開閉可能なクランプ手段Vaが接続されるとともに、静脈側血液回路3の先端側(コネクタbと静脈側エアトラップチャンバ6との間であって当該コネクタb近傍)には、流路を開閉可能なクランプ手段Vbが接続されている。また、静脈側血液回路3の途中に形成された静脈側エアトラップチャンバ6の上部からは、オーバーフローラインLbが延設されており、当該オーバーフローラインLbの途中には流路を開閉可能なクランプ手段Vdが接続されている。
【0029】
しかして、透析治療前には、コネクタaとコネクタbとを接続することにより、動脈側血液回路2の先端と静脈側血液回路3の先端とを連結させ、これら動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3(ダイアライザ1内の血液が流通する血液流路を含む)にて血液回路側の閉回路を形成させ得るようになっている。そして、この閉回路内に透析液供給ラインLaを介してプライミング液としての透析液を供給することにより、血液回路(動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3)に対して透析液を充填させてプライミング作業が可能とされている。なお、プライミング作業の過程において、オーバーフローラインLbから透析液をオーバーフローさせて血液回路側の閉回路内を洗浄し得るようになっている。
【0030】
また、静脈側エアトラップチャンバ6には、血液回路による血液の体外循環時、上部側に形成される空気層の圧力を検出して静脈側血液回路3内の液圧(静脈圧)を検出し得る静脈圧センサ13が取り付けられている。そして、血液浄化治療が開始されて、血液回路にて患者の血液を体外循環させる際、静脈圧センサ13により検出される静脈圧を監視し得るようになっている。
【0031】
ダイアライザ1の透析液導入口1c及び透析液排出口1dには、それぞれ透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2の端部が接続されており、当該透析液導入ラインL1を介してダイアライザ1に導入された透析液が、中空糸膜の外側を通過して透析液排出ラインL2から排出され得るよう構成されている。このように、ダイアライザ1における中空糸膜(浄化膜)の内側は、血液が流動し得る血液流路を成すとともに、当該中空糸膜の外側は、透析液が流動し得る透析液流路を成すものとされている。
【0032】
透析装置本体Bは、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を有するとともに、複式ポンプ7、バイパスラインL3~L6及び電磁弁V1~V9を有したものである。このうち複式ポンプ7は、透析液導入ラインL1と透析液排出ラインL2とに跨って配設され、所定濃度に調製された透析液をダイアライザ1に導入させるとともに当該ダイアライザ1から透析後の透析液を排出させるものである。すなわち、本実施形態に係る複式ポンプ7は、駆動によって、透析液導入ラインL1の透析液をダイアライザ1に送液し得る「送液手段」を構成している。なお、複式ポンプ7に代えて、透析液導入ラインL1の透析液をダイアライザ1に送液し得る他の形態の送液手段(ポンプに限らずバランスチャンバ等も含む)としてもよい。
【0033】
透析液導入ラインL1の途中(透析液導入ラインL1における透析液供給ラインLaとの連結部より下流側(ダイアライザ1側))には、電磁弁V1が接続されるとともに、透析液排出ラインL2の途中(透析液排出ラインL2におけるバイパスラインL3との連結部より上流側(ダイアライザ1側))には、電磁弁V2が接続されている。このうち、電磁弁V1は、透析液導入ラインL1における後述のバイパスライン(バイパスラインL3又はL4)の接続部とダイアライザ1との間の流路を閉止し得る「閉止手段」を構成している。
【0034】
さらに、透析液導入ラインL1には、複式ポンプ7(送液手段)にて送液される透析液を加温し得るヒータ17(加温手段)と、透析液導入ラインL1の透析液の濃度を検出し得る濃度センサ18(検出手段)と、透析液導入ラインL1の透析液の温度を検出し得る温度センサ19、20(検出手段)とが接続されている。このうちヒータ17、濃度センサ18及び温度センサ19は、複式ポンプ7の配設位置より上流側に配設されるとともに、温度センサ20は、複式ポンプ7の配設位置より下流側に配設されている。なお、透析液導入ラインL1におけるヒータ17より上流側には、電磁弁V8が接続されるとともに、透析液排出ラインL2(バイパスラインL6との接続部より下流側)には、電磁弁V9が接続されている。
【0035】
また、透析液導入ラインL1における複式ポンプ7と電磁弁V1との間には、濾過フィルタ8、9が接続されている。この濾過フィルタ8、9は、透析液導入ラインL1を流れる透析液を濾過して浄化するためのものであり、当該濾過フィルタ8、9には透析液排出ラインL2にバイパスして透析液を導くためのバイパスラインL3、L4がそれぞれ接続されている。
【0036】
これらバイパスラインL3、L4は、それぞれ電磁弁V3、V4が接続されており、電磁弁V3又は電磁弁V4を開状態として流路を開放することにより、ダイアライザ1をバイパスして透析液導入ラインL1の透析液を透析液排出ラインL2に流動させ得るよう構成されている。なお、透析液導入ラインL1における濾過フィルタ8と濾過フィルタ9との間には、電磁弁V6が接続されている。
【0037】
一方、透析液排出ラインL2におけるバイパスラインL3との連結部及びバイパスラインL4との連結部の間には、透析液の液圧を測定し得る液圧測定センサ12が取り付けられている。さらに、透析液排出ラインL2には、複式ポンプ7の排液側をバイパスするバイパスラインL5、L6がそれぞれ接続されており、バイパスラインL5には、ダイアライザ1中を流れる患者の血液から水分を除去するための除水ポンプ10が配設されるとともに、バイパスラインL6には、流路を開閉可能な電磁弁V5が接続されている。
【0038】
また、透析液排出ラインL2における複式ポンプ7より上流側(バイパスラインL5との連結部と複式ポンプ7との間)には、複式ポンプ7における排液側の液圧調整を行うための加圧ポンプ14が配設されている。さらに、透析液排出ラインL2における複式ポンプ7より上流側(加圧ポンプ14と複式ポンプ7との間)には、脱ガスチャンバ15が接続されており、当該脱ガスチャンバ15にはチェックバルブ等を介して大気開放ラインL7が接続されているとともに、当該大気開放ラインL7には、電磁弁V7が接続されている。
【0039】
透析液供給ラインLaは、一端が透析液導入ラインL1に形成された採取口11(所謂サンプリングポート)に接続されるとともに、他端が動脈側血液回路2(又は静脈側血液回路3であってもよい)に接続され、透析液導入ラインL1の透析液を動脈側血液回路2(又は静脈側血液回路3)に供給させ得る流路から成るものである。かかる透析液供給ラインLaには、流路を開閉可能なクランプ手段Vcが配設されており、クランプ手段Vcを開状態とすることにより、透析液供給ラインLaを介して血液回路に対して透析液を供給し、治療前のプライミング、治療中の補液(緊急補液)又は治療後の返血を行わせ得るようになっている。
【0040】
制御手段21は、例えば透析装置本体B内に配設されたマイコン等から成るもので、任意の電磁弁V1~V9の開閉、任意のクランプ(Va~Vd)の開閉、複式ポンプ7や血液ポンプ4等の任意アクチュエータの駆動又は停止、ヒータ17(加温手段)の作動等に関する制御を行い得るとともに、液圧測定センサ12、静脈圧センサ13、気泡検出センサ16、濃度センサ18(検出手段)、温度センサ19、20(検出手段)等のセンサ類と電気的に接続されている。なお、透析液排出ラインL2において排液の濃度を検出し得る排液濃度センサや治療中の患者の血圧を検出し得る血圧センサ等を具備し、それらセンサによる検出値を監視可能としてもよい。
【0041】
また、本実施形態においては、血液回路に対して透析液導入ラインL1の透析液を供給させて、治療中の補液(緊急補液)や治療後の返血が可能とされている。緊急補液は、治療中において、患者の血圧が過度に低下した場合等に血液回路に対して補液としての透析液を供給する工程であり、返血は、治療後において、置換液としての透析液を血液回路に供給し、血液回路に残った血液を患者に戻す工程である。
【0042】
さらに、制御手段21は、ダイアライザ1に対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプ10を駆動させて除水する限外濾過治療(「ECUM」運転)を行わせ得るよう構成されている。具体的には、図3、4に示すように、血液ポンプ4を駆動させて血液回路にて血液を体外循環させつつ除水ポンプ10を駆動させ、限外濾過の作用によってダイアライザ1の中空糸膜を流通する血液から除水して透析液排出ラインL2を介して排出させることにより限外濾過治療が行われるのである。これにより、ダイアライザ1における拡散を行うことなく除水のみ行うことができるので、拡散による血液中の物質の除去(尿素やクレアチニン)に伴う血漿浸透圧の低下を抑えることができる。
【0043】
ここで、本実施形態に係る制御手段21は、図4に示すように、限外濾過治療が行われる際、ダイアライザ1に対する透析液の流入を規制しつつ複式ポンプ7(送液手段)による透析液の送液を行わせるよう制御可能とされている。具体的には、上述のようにダイアライザ1による拡散を行うことなく除水のみが行われるとともに、同図に示すように、電磁弁V1(閉止手段)を閉状態としつつ電磁弁V3を開状態として、ダイアライザ1に向かう流路を閉止し、複式ポンプ7(送液手段)により送液された透析液をバイパスラインL3にて流動させるよう構成されている。
【0044】
しかして、限外濾過治療中においても、透析液導入ラインL1の透析液をバイパスラインL3を介して透析液排出ラインL2に流動させ、そこから外部に流出させることができるので、透析液が透析液導入ラインL1にて滞留してしまうのを防止することができるとともに、ヒータ17による加温によって透析液の温度が低下してしまうのを防止することができる。したがって、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行い、又は限外濾過治療の後に透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。
【0045】
特に、本実施形態においては、限外濾過治療時の複式ポンプ7(送液手段)による透析液の送液は、予め設定されたタイミングにて行われるよう制御されている。すなわち、限外濾過治療が行われると、図3に示すように、複式ポンプ7を停止して透析液導入ラインL1の透析液の流動を停止させるとともに、血液ポンプ4を駆動させて血液回路にて血液を体外循環させつつ除水ポンプ10を駆動させ、ダイアライザ1による拡散を行わせず除水のみ行うものとされ、予め設定されたタイミングにおいて、図4に示すように、血液ポンプ4及び除水ポンプ10の駆動を維持しつつ複式ポンプ7を駆動し、透析液導入ラインL1の透析液をバイパスラインL3を介して透析液排出ラインL2に流動させるよう構成されているのである。
【0046】
予め設定されたタイミング(限外濾過治療時の複式ポンプ7の駆動タイミング)は、限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点により決定することができ、例えば、治療開始から治療終了まで一定時間毎、治療開始時点から所定時間後、治療終了時点から所定時間前、或いは過去の治療の実績から患者毎に血圧低下が推定される時間帯等であってもよい。また、限外濾過治療時、医療従事者等の判断に基づいて、除水速度の設定値や血流量の設定値を下げたこと等(治療条件の変更)が検出されると、その変更をトリガとして、複式ポンプ7(送液手段)による透析液の送液を行うようにしてもよい。
【0047】
さらに、予め設定されたタイミングは、限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて決定することができ、例えば、治療中に検出又は算出された患者の血圧値、ヘマトクリット値、ΔBV(循環血液量変化率)、PRR(血漿再充填速度)、DDM(透析量モニタ)で検出された各種パラメータ等であってもよい。血圧値は、血液浄化装置が具備する血圧計を用いるのが好ましく、血圧計のカフを装着して所定時間間隔で継続的に患者の血圧を検出するものが好ましく、ヘマトクリット値は、血液回路に配設されたヘマトクリットセンサにて検出するのが好ましい。
【0048】
ΔBV(循環血液量変化率)は、治療中に検出されたヘマトクリット値(ヘモグロビン濃度や血清総タンパク濃度等であってもよい)に基づいて算出されるもので、患者の血管内の血液量の変化を示す指標とされるものである。また、PRR(血漿再充填速度)は、除水に伴う血管外の間質液の血液に対する補充(プラズマリフィリング)の余裕を指す指標とされるものである。これらΔBVやPRRの低下は、血圧低下の目安となるので、所定値以下になると補液が行われることを推定することができる。なお、ΔBVやPRRの低下は個人差があるので、患者に応じて任意設定するのが好ましい。
【0049】
DDM(透析量モニタ)は、例えば透析液排出ラインL2に配設され、透析液排液の紫外線吸光度変化を測定することにより、吸光度変化に相関のある血中尿素窒素の変化を算出し、Kt/V(標準化透析量)やURR(尿素除去率)等のパラメータを算出することができるモニタである。これらKt/V(標準化透析量)やURR(尿素除去率)の上昇は、治療の進行具合(治療の状態)の目安となるため、所定の閾値を超えたことを条件として、限外濾過治療時において複式ポンプ7を駆動させるタイミングとすることができる。
【0050】
またさらに、予め設定されたタイミングは、限外濾過治療時に濃度センサ18や温度センサ(19、20)(検出手段)にて検出される温度又は濃度に基づいて決定することができる。例えば、限外濾過治療時、濃度センサ18又は温度センサ(19、20)で検出された透析液の濃度又は温度が所定値以下のとき、ヒータ17を作動するとともに、複式ポンプ7を駆動し、透析液導入ラインL1の透析液をバイパスラインL3を介して透析液排出ラインL2に流動させるようにすれば、補液時又は返血時において血液回路に対して透析液を直ちに供給することができる。
【0051】
また、予め設定されたタイミングは、ダイアライザ差圧(ダイアライザ1の入口側近傍における動脈側血液回路2の液圧と出口側近傍における静脈側血液回路3の液圧との差圧)やTMP(血液が流通する血液流路側の液圧と透析液が流通する透析液流路側の液圧との差圧)が所定値に達した時点としてもよい。これらダイアライザ差圧やTMPが閾値を超えた場合、ダイアライザ1の中空糸膜に目詰まりが生じていると判断できるので、治療が中断されて返血が行われると推定することができる。
【0052】
以下、本実施形態に係る制御手段21の制御内容について図2のフローチャート及び図3図5に基づいて説明する。
まず、動脈側穿刺針c及び静脈側穿刺針dを患者に穿刺した状態で血液ポンプ4を駆動させ、血液回路に対して患者から脱血する(S1)。その後、図3に示すように、血液回路側のクランプ手段(Vc、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Va、Vb)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V3~V8)を閉状態及び電磁弁(V2、V9)を開状態とし、複式ポンプ7を停止させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を駆動させることにより、限外濾過治療が開始される(S2)。
【0053】
このS2の限外濾過治療においては、血液ポンプ4の駆動により血液回路にて血液が体外循環されるとともに、除水ポンプ10の駆動によりダイアライザ1の中空糸膜を流通する血液から限外濾過の作用にて除水して透析液排出ラインL2を介して排出させることができる。なお、限外濾過治療が行われている間、透析液導入ラインL1の透析液が滞留しているため、ヒータ17の作動を停止させている。
【0054】
その後、限外濾過治療が行われている過程において、予め設定されたタイミングに達したか否かが判断される(S3)。かかる設定されたタイミングは、既述のように補液が行われても直ちに対応可能とするタイミングとされ、例えば限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点、限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて、或いは限外濾過治療時に濃度センサ18若しくは温度センサ(19、20)等の検出手段にて検出される温度又は濃度に基づいて決定されるのが好ましい。
【0055】
S3にて設定タイミングであると判断されると、S4に進み、ダイアライザ1に対する透析液の流入を規制しつつ複式ポンプ7を駆動させて透析液の送液を行わせる。この送液が行われる限外濾過治療においては、図4に示すように、血液回路側のクランプ手段(Vc、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Va、Vb)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V4、V5、V7)を閉状態及び電磁弁(V2、V3、V6、V8、V9)を開状態とする。そして、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を駆動させることにより、送液を伴う限外濾過治療が行われることとなる。
【0056】
このS4の限外濾過治療においては、血液ポンプ4の駆動により血液回路にて血液が体外循環されるとともに、除水ポンプ10の駆動によりダイアライザ1の中空糸膜を流通する血液から限外濾過の作用にて除水して透析液排出ラインL2を介して排出させ、且つ、複式ポンプ7の駆動によって透析液導入ラインL1、バイパスラインL3及び透析液排出ラインL2にて透析液を流動させることができる。なお、この限外濾過治療が行われている間、透析液導入ラインL1における透析液の滞留が解消され、ヒータ17を作動させて透析液を加温している。
【0057】
その後、緊急補液が必要な場合、S5にて緊急補液が行われることとなる。かかる緊急補液においては、図5に示すように、血液回路側のクランプ手段(Va、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Vb、Vc)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V2、V4、V7)を閉状態及び電磁弁(V3、V5、V6、V8、V9)を開状態とする。そして、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を停止させることにより、透析液導入ラインL1の透析液を透析液供給ラインLaを介して血液回路に供給し、その透析液を補液として患者の体内に導入することで血圧低下に対する処置とすることができる。
【0058】
このS5の緊急補液においては、S4の送液を伴う限外濾過治療後に行われるので、ヒータ17で加温された設定温度或いは濃度(組成)の透析液を血液回路に供給することができる。したがって、準備運転を不要とすることができ、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行うことができる。こうして、補液が行われた後、図3に示すように、送液を伴わない限外濾過治療(詳細については上述の通り)が再開され(S6)、その過程において、予め設定されたタイミングに達したか否かが判断される(S7)。
【0059】
このときの設定されたタイミングは、既述のように返血が行われても直ちに対応可能とするタイミングとされ、例えば限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点、限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて、或いは限外濾過治療時に濃度センサ18若しくは温度センサ(19、20)等の検出手段にて検出される温度又は濃度に基づいて決定されるのが好ましい。S7にて設定タイミングであると判断されると、S8に進み、図4に示すように、ダイアライザ1に対する透析液の流入を規制しつつ複式ポンプ7を駆動させて送液を伴う限外濾過治療が行われる(詳細については上述の通り)。
【0060】
その後、治療後の返血が行われる場合、S9にて返血が行われることとなる。かかる返血においては、図5に示すように、血液回路側のクランプ手段(Va、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Vb、Vc)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V2、V4、V7)を閉状態及び電磁弁(V3、V5、V6、V8、V9)を開状態とする。そして、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を停止させることにより、透析液導入ラインL1の透析液を透析液供給ラインLaを介して血液回路に供給し、その透析液と血液回路内の血液とを置換することで、血液回路内の血液を患者に戻すことができる。
【0061】
このS9の返血においては、S8の送液を伴う限外濾過治療後に行われるので、ヒータ17で加温された設定温度或いは濃度(組成)の透析液を血液回路に供給することができる。したがって、準備運転を不要とすることができ、限外濾過治療の後に透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。以上で、血液浄化治療が終了することとなる。
【0062】
上記実施形態によれば、ダイアライザ1に対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプ10を駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、ダイアライザ1に対する透析液の流入を規制しつつ透析液の送液を行わせるので、準備運転を経ることなく、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行い、又は限外濾過治療の後に透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。なお、本実施形態においては、複式ポンプ7の駆動により送液を伴う限外濾過治療が行われているが、他の送液手段にて送液するようにしてもよい。
【0063】
また、限外濾過治療時、電磁弁V1(閉止手段)にて流路を閉止するとともに複式ポンプ7(送液手段)により送液された透析液を当該バイパスラインL3にて流動させるので、複式ポンプ7で送液された透析液をバイパスラインL3を介して流動させつつダイアライザ1に対する透析液の流入を規制することができる。なお、本実施形態においては、送液を伴う限外濾過治療時、電磁弁V3を開状態としてバイパスラインL3を介して透析液を流動させているが、図6に示すように、電磁弁V4を開状態としてバイパスラインL4を介して透析液を流動させてもよい。
【0064】
さらに、限外濾過治療時の透析液の送液は、予め設定されたタイミングにて行われるので、限外濾過治療の全ての時間において透析液を送液するものに比べ、透析液の消費量を低減させることができ、コストを低減させることができる。また、予め設定されたタイミングとして、限外濾過治療開始時点若しくは終了時点に基づく時間又は治療条件の変更時点にて決定されるようにすれば、限外濾過治療時の適切なタイミングにて透析液を送液させることができる。
【0065】
またさらに、予め設定されたタイミングとして、限外濾過治療時に検出される患者の状態又は治療の状態に関するパラメータに基づいて決定されるので、患者の状態又は治療の状態に応じた適切なタイミングにて透析液を送液させることができる。また、予め設定されたタイミングとして、限外濾過治療時に検出手段(濃度センサ18、温度センサ19、20)にて検出される温度又は濃度に基づいて決定されるので、透析液の温度又は濃度に応じた適切なタイミングにて透析液を送液させることができる。
【0066】
さらに、限外濾過治療時、透析液の送液が行われつつヒータ17(加温手段)による透析液の加温が行われるので、限外濾過治療中の補液や限外濾過治療後の返血において血液回路に供給される透析液を適切な温度とすることができる。なお、本実施形態においては、透析液導入ラインL1に配設されたヒータ17によって、送液を伴う限外濾過治療時に透析液を加温しているが、他の加温手段(例えば、透析装置本体Bの外部に設置されたヒータ等)にて透析液を加温するようにしてもよい。
【0067】
次に、本発明の第2の実施形態に係る血液浄化装置について説明する。
本実施形態に係る血液浄化装置は、第1の実施形態と同様、血液透析装置に適用されるものであり、図1に示すように、血液浄化手段としてのダイアライザ1に動脈側血液回路2及び静脈側血液回路3が接続された血液回路と、複式ポンプ7、除水ポンプ10、透析液導入ラインL1及び透析液排出ラインL2を有した透析装置本体Bと、透析液供給ラインLaと、制御手段21とから主に構成されている。
【0068】
本実施形態においては、構成について第1の実施形態と同一であるが、制御手段21による制御内容が異なるものである。以下、本実施形態に係る制御手段21の制御内容について図7のフローチャート及び図3図5に基づいて説明する。
まず、動脈側穿刺針c及び静脈側穿刺針dを患者に穿刺した状態で血液ポンプ4を駆動させ、血液回路に対して患者から脱血する(S1)。その後、図4に示すように、血液回路側のクランプ手段(Vc、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Va、Vb)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V4、V5、V7)を閉状態及び電磁弁(V2、V3、V6、V8、V9)を開状態とし、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を駆動させることにより、送液を伴う限外濾過治療が行われることとなる(S2)。
【0069】
このS2の限外濾過治療においては、血液ポンプ4の駆動により血液回路にて血液が体外循環されるとともに、除水ポンプ10の駆動によりダイアライザ1の中空糸膜を流通する血液から限外濾過の作用にて除水して透析液排出ラインL2を介して排出させ、且つ、複式ポンプ7の駆動によって透析液導入ラインL1、バイパスラインL3及び透析液排出ラインL2にて透析液を流動させることができる。なお、この限外濾過治療が行われている間、透析液導入ラインL1における透析液が送液され、ヒータ17を作動させて透析液を加温している。
【0070】
その後、緊急補液が必要な場合、S3にて緊急補液が行われることとなる。かかる緊急補液においては、図5に示すように、血液回路側のクランプ手段(Va、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Vb、Vc)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V2、V4、V7)を閉状態及び電磁弁(V3、V5、V6、V8、V9)を開状態とする。そして、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を停止させることにより、透析液導入ラインL1の透析液を透析液供給ラインLaを介して血液回路に供給し、その透析液を補液として患者の体内に導入することで血圧低下に対する処置とすることができる。
【0071】
このS3の緊急補液においては、S2の送液を伴う限外濾過治療後に行われるので、ヒータ17で加温された設定温度或いは濃度(組成)の透析液を血液回路に供給することができる。したがって、準備運転を不要とすることができ、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行うことができる。こうして、補液が行われた後、図4に示すように、送液を伴う限外濾過治療(詳細については上述の通り)が再開される(S4)。
【0072】
その後、治療後の返血が行われる場合、S5にて返血が行われることとなる。かかる返血においては、図5に示すように、血液回路側のクランプ手段(Va、Vd)を閉状態及びクランプ手段(Vb、Vc)を開状態とするとともに、透析装置本体B側の電磁弁(V1、V2、V4、V7)を閉状態及び電磁弁(V3、V5、V6、V8、V9)を開状態とする。そして、複式ポンプ7を駆動させた状態で、血液ポンプ4の駆動を維持しつつ除水ポンプ10を停止させることにより、透析液導入ラインL1の透析液を透析液供給ラインLaを介して血液回路に供給し、その透析液と血液回路内の血液とを置換することで、血液回路内の血液を患者に戻すことができる。
【0073】
このS5の返血においては、S4の送液を伴う限外濾過治療後に行われるので、ヒータ17で加温された設定温度或いは濃度(組成)の透析液を血液回路に供給することができる。したがって、準備運転を不要とすることができ、限外濾過治療の後に透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。以上で、血液浄化治療が終了することとなる。
【0074】
上記実施形態によれば、ダイアライザ1に対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプ10を駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、ダイアライザ1に対する透析液の流入を規制しつつ透析液の送液を行わせるので、準備運転を経ることなく、限外濾過治療の途中で透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に直ちに供給して補液を行い、又は限外濾過治療の後に透析液導入ラインの透析液を血液回路に直ちに供給して返血を行うことができる。
【0075】
また、本実施形態に係る血液浄化装置は、限外濾過治療においては、送液を伴う限外濾過治療のみ行われるので、第1の実施形態の如く、設定されたタイミングのとき送液を伴う限外濾過治療が行われるものに比べ、より確実に準備運転を不要とすることができる。なお、本実施形態においては、複式ポンプ7の駆動により送液を伴う限外濾過治療が行われているが、他の送液手段にて送液するようにしてもよい。
【0076】
さらに、限外濾過治療時、透析液の送液が行われつつヒータ17(加温手段)による透析液の加温が行われるので、限外濾過治療中の補液や限外濾過治療後の返血において血液回路に供給される透析液を適切な温度とすることができる。なお、本実施形態においては、透析液導入ラインL1に配設されたヒータ17によって、送液を伴う限外濾過治療時に透析液を加温しているが、他の加温手段(例えば、透析装置本体Bの外部に設置されたヒータ等)にて透析液を加温するようにしてもよい。
【0077】
以上、本実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、例えば透析液導入ラインL1の透析液を血液回路に供給して補液又は返血が可能とされた血液浄化装置であれば、透析液導入ラインL1の透析液の供給によって補液が行われ、返血が生理食塩液等の他の置換液の導入によって行われるもの、或いは透析液導入ラインL1の透析液の供給によって返血が行われ、補液が生理食塩液等の他の補液の導入によって行われるもの等としてもよい。また、本実施形態においては、緊急補液及び返血の両方が実施されるよう制御しているが、緊急補液又は返血の何れか一方のみが実施されるよう制御するものであってもよい。なお、制御手段21は、透析装置本体Bの外部に配設されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0078】
血液浄化手段に対する透析液の導入を停止しつつ除水ポンプを駆動させて除水する限外濾過治療が行われる際、血液浄化手段に対する透析液の流入を規制しつつ透析液の送液を行わせる血液浄化装置であれば、他の機能が付加されたもの等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1…ダイアライザ(血液浄化手段)
2…動脈側血液回路
3…静脈側血液回路
4…血液ポンプ
5…動脈側エアトラップチャンバ
6…静脈側エアトラップチャンバ
7…複式ポンプ
8、9…濾過フィルタ
10…除水ポンプ
11…採取口
12…液圧測定センサ
13…静脈圧センサ
14…加圧ポンプ
15…脱ガスチャンバ
16…気泡検出センサ
17…ヒータ(加温手段)
18…濃度センサ(検出手段)
19、20…温度センサ(検出手段)
21…制御手段
L1…透析液導入ライン
L2…透析液排出ライン
L7…大気開放ライン
La…透析液供給ライン
Lb オーバーフローライン
B…透析装置本体
a、b…コネクタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7