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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】HER2/PD1二重特異性抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20221026BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20221026BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20221026BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20221026BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20221026BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221026BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20221026BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
C12N15/62 Z
C07K16/46 ZNA
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
A61K39/395 N
A61K47/65
A61P35/00
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2021527066
(86)(22)【出願日】2019-10-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 CN2019112467
(87)【国際公開番号】W WO2020103629
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-05-17
(31)【優先権主張番号】201811376950.9
(32)【優先日】2018-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】510277073
【氏名又は名称】三生国健薬業(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SUNSHINE GUOJIAN PHARMACEUT ICAL(SHANGHAI)CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】朱禎平
(72)【発明者】
【氏名】黄浩旻
(72)【発明者】
【氏名】顧昌玲
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/136562(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/090950(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/137576(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/052713(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
C07K 16/46
C07K 16/28
C12N 15/13
C12N 15/63
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12P 21/02
C12P 21/08
A61K 39/395
A61K 47/65
A61P 35/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体であって、
免疫グロブリン抗体IgG、および2つの同じ一本鎖可変領域断片scFvを含み、
前記一本鎖可変領域断片scFvは、それぞれ可変領域VHおよび可変領域VLを含み、
前記可変領域VHと前記可変領域VLは、ペプチドリンカーL1によって連結され、
前記一本鎖可変領域断片scFvは、それぞれペプチドリンカーL2を介して前記免疫グロブリン抗体IgGにタンデムに連結されており、
前記可変領域VHのアミノ酸配列は、配列番号13で表され、前記可変領域VLのアミノ酸配列は、配列番号14で表され、
前記免疫グロブリン抗体IgGは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含み、そのうち重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号15で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16で表されることを特徴とする、二重特異性抗体。
【請求項2】
前記ペプチドリンカーL1のアミノ酸配列は、配列番号17で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項3】
前記ペプチドリンカーL2のアミノ酸配列は、配列番号18で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項4】
前記一本鎖可変断片scFvは、VL-L1-VHの分子構成を有し、各一本鎖可変断片scFvのN末端は、ペプチドリンカーL2を介して前記免疫グロブリン抗体IgGの重鎖のC末端に連結される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項5】
前記一本鎖可変断片scFvのアミノ酸配列は、配列番号19で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項6】
前記二重特異性抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号20で表され、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号21で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、ヌクレオチド分子。
【請求項8】
前記ヌクレオチド分子は、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号22で表され、軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号23で表される、請求項に記載のヌクレオチド分子。
【請求項9】
前記一本鎖可変断片scFvは、VH-L1-VLの分子構成を有し、各一本鎖可変断片scFvのC末端は、ペプチドリンカーL2を介して前記免疫グロブリン抗体IgGの重鎖のN末端に連結される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項10】
前記一本鎖可変断片scFvのアミノ酸配列は、配列番号24で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項11】
前記二重特異性抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号25で表され、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号21で表される、請求項1に記載の二重特異性抗体。
【請求項12】
請求項11の何れか1項に記載の二重特異性抗体をコードすることを特徴とする、ヌクレオチド分子。
【請求項13】
前記ヌクレオチド分子は、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号26で表され、軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号23で表される、請求項12に記載のヌクレオチド分子。
【請求項14】
請求項12又は13の何れか1項に記載のヌクレオチド分子を含んでなることを特徴とする、発現ベクター。
【請求項15】
前記発現ベクターは、pDR1、pcDNA3.1(+)、pcDNA3.1/ZEO(+)、pDHFRおよびpTT5からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項16】
請求項14に記載の発現ベクターを含んでなることを特徴とする、ホスト細胞。
【請求項17】
前記ホスト細胞は、CHO細胞および293E細胞からなる群より選ばれる任意の1種である、請求項16に記載のホスト細胞。
【請求項18】
請求項1~および請求項11の何れか1項に記載のHER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体を製造する方法であって、
発現条件下で請求項1617の何れか1項に記載のホスト細胞を培養することにより、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体を発現するステップaと、
前記ステップaで発現した二重特異性抗体を分離、精製するステップbと
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項19】
請求項1~および請求項11の何れか1項に記載のHER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体と、
薬学的に許容可能な担体、希釈剤および賦形剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上と
を含んでなることを特徴とする、組成物。
【請求項20】
請求項1~および請求項11の何れか1項に記載のHER2及びPD1に特異的に結合する二重特異性抗体又は請求項19に記載の薬物組成物の、癌または腫瘍を治療するための薬物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍治療および生物工学の分野に属し、具体的には、HER2とPD1を認識しうる二重特異性抗体、その製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
HER2(human epidermal growth factor receptor2)は、受容体型チロシンキナーゼ活性を有し、ヒト上皮成長因子受容体ファミリーメンバーの1つであり、成人の幾つかの正常組織に限って低レベルで発現する。一方、研究によりに複数の腫瘍でHER2が過剰発現することが発見され、例えば約30%の乳がん患者および16%の胃がん患者においてHER2が過剰発現する現象があり、腫瘍におけるHER2の過剰発現は、腫瘍血管の新生や腫瘍成長を著しく加速化し、腫瘍の浸潤能や転移能を亢進させ、不良予後の可能性を示す重要な指標である。そのため、早くから1998年にHER2を標的とした最初のモノクローナル抗体薬品としてハーセプチン(Genentech/Roche社製)がFDAより製造・販売許可が認められ、HER2過剰発現が確認された乳がんおよび胃がんの治療に用いられている。
【0003】
ヒトプログラム細胞死受容体-1(以下、「PD-1」とも称する)は、288個のアミノ酸からなるI型膜タンパク質であり、細胞外領域がリガンド結合用のIg可変型(V-型)ドメインであり、細胞内領域がシグナル伝達分子結合用の細胞質尾部である。PD-1細胞質尾部には、チロシン残基に基づくシグナル伝達モチーフであるITIM(免疫受容体チロシン依存性抑制モチーフ)及びITSM(免疫受容体チロシン依存性スイッチモチーフ)を含む。PD-1は、活性化Tリンパ球の表面で発現され、リガンドであるプログラム細胞死受容体-リガンド1(programmed cell death-Ligand 1、以下では「PD-L1」とも称する)及びプログラム細胞死受容体-リガンド2(programmed cell death-Ligand 2、以下では「PD-L2」とも称する)に結合することで、Tリンパ球の活性及び関連体内細胞の免疫反応を抑制することができる。大量の研究により、PD-1とPD-L1の相互作用が体内免疫系の均衡維持に必須であり、並びにPD-L1陽性腫瘍細胞が免疫監視から逃れるための主な作用機序であることが解明されている。したがって、PD-1/PD-L1シグナル経路を遮断することは、免疫系を活性化させ、T細胞の免疫傷害機能を復活するのに有用であると考えられる。
【0004】
ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)は、PD1を認識対象とするヒト化モノクローナル抗体であり、2014年9月にFDAよりメラノーマ(通常、「悪性黒色腫」とも称される)に対する治療薬として初の製造・販売が承認され、それから2018にまで認可された適応症としてはメラノーマ、非小細胞肺がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮がん、膀胱がん、胃がん、及びMSI-HやdMMRを有する固形腫瘍を含む。ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社によって開発されたPD1モノクローナル抗体であり、2014年12月にFDAより製造・販売が承認され、適応症としてはメラノーマ、非小細胞肺がん、腎細胞がん、古典的ホジキンリンパ腫、頭頸部扁平上皮がん、膀胱がん、結直腸がん及び肝細胞がんを含む。三生国健薬業会社が自ら開発した抗PD1モノクローナル抗体は、新規な抗PD1ヒト化モノクローナル抗体である。体内や体外における生体活性及び抗腫瘍活性の研究から、その生体内における抗PD1活性が陽性対照薬であるニボルマブとペムブロリズマブに比べて両対照薬の中位にあり、一部の側面において陽性対照薬であるニボルマブを上回る効能を示すことが確認できた。
【0005】
二重特異性抗体(bispecific antibody、以下では「BsAb」とも称する)とは、2つ以上の異なる抗原エピトープを同時に認識しうる抗体分子を指す。従来のモノクローナル抗体に比べて、二重特異性抗体は独特の作用を示し、例えば1)二重特異性抗体は、2つ以上の異なる抗原分子又は同一抗原分子の異なるエピトープを同時に認識して結合し、併用薬物療法にしてもなかなか見られない効果を奏することができ、2)細胞間相互作用に寄与することにより、二重特異性抗体は効果細胞と標的細胞における2つの抗原にそれぞれ結合でき、効果細胞と標的細胞の間の架け橋として細胞間相互作用を促進して腫瘍細胞に対する免疫細胞の傷害能を高めることができる。したがって、二重特異性抗体は、従来のモノクローナル抗体には見られない独特な優勢がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、HER2及びPD1に特異的に結合しうる新規な二重特異性抗体を提供し、さらに、該二重特異性抗体の製造方法及び用途を提供する。より詳しくは、本発明は、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体、前記二重特異性抗体をコードするヌクレオチド分子、前記ヌクレオチド分子を含んでなる発現ベクター、前記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供し、さらに、前記二重特異性抗体の製造方法、前記二重特異性抗体を含んでなる薬物組成物、前記二重特異性抗体の薬物製造における用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、以下の技術案により構成される。
【0008】
本発明の1つの側面において、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体を提供し、本発明の二重特異性抗体は、免疫グロブリン抗体IgGおよび2つの同じ一本鎖可変領域断片(以下、「scFv」とも称する)を含み、各scFvは可変領域VHおよび可変領域VLを含み、VHとVLはペプチドリンカーL1によって連結され、各scFvは、ペプチドリンカーL2を介して免疫グロブリン抗体IgGにタンデムに連結される。
【0009】
本発明に係る「二重特異性抗体」とは、2つの異なる抗原結合サイトを備え、HER2及びPD1に同時に結合しうる二重特異性抗体を指すものであり、2つの一本鎖可変断片scFv及びそれに接合される免疫グロブリン抗体IgGを含み、各scFvはペプチドリンカーL2を介して免疫グロブリン抗体IgGの各重鎖に連結されて二重特異性抗体の重鎖融合タンパク質を形成し、そのうち各scFvは、可変領域VHおよび可変領域VLを含み、VHとVLがペプチドリンカーL1を介して連結される。
【0010】
本発明に係る「一本鎖可変領域断片(scFv)」とは、免疫グロブリンの重鎖可変領域VHと軽鎖可変領域VLとで構成される融合タンパク質を指し、VHとVLがペプチドリンカーによって連結され、そのうち前記融合タンパク質は、完全な免疫グロブリンと同様の抗原特異性を有する。
【0011】
本発明に係る「免疫グロブリン抗体IgG」は、4つのペプチド鎖で構成される分子量約150kDaの分子であり、2つの分子量が約50kDaであるγ重鎖と2つの分子量が約25kDaの軽鎖によって四量体を形成し、そのうち2つの重鎖は、ジスルフィド結合によって互いに連結され、かつそれぞれ1つの軽鎖に連結される。前記四量体は、2つの同じ構成部分で構成され、両者が分岐形または略Y字形を形成し、分岐の各末端にはそれぞれ1つの同じ抗原結合サイトを有する。IgG抗体は、重鎖定常領域のアミノ酸配列における小さな差異によって例えばIgG1、IgG2、IgG3及びIgGといった4つのサブタイプに分類される。
【0012】
本発明の一好適な実施形態において、前記VHは、相補性決定領域HCDR1~HCDR3を含み、そのうちHCDR1のアミノ酸配列は配列番号1で表され、HCDR2のアミノ酸配列は配列番号2で表され、HCDR3のアミノ酸配列は配列番号3で表される。
【0013】
前記VLは、相補性決定領域LCDR1~LCDR3を含み、そのうちLCDR1のアミノ酸配列は配列番号4で表され、LCDR2のアミノ酸配列は配列番号5で表され、LCDR3のアミノ酸配列は、で表される配列番号6で表される。
【0014】
前記免疫グロブリン抗体IgGの重鎖は、相補性決定領域HCDR4~HCDR6を含み、そのうちHCDR4のアミノ酸配列は配列番号7で表され、HCDR5のアミノ酸配列は配列番号8で表され、HCDR6のアミノ酸配列は配列番号9で表される。
【0015】
前記免疫グロブリン抗体IgGの軽鎖は、相補性決定領域LCDR4~LCDR6を含み、そのうちLCDR4のアミノ酸配列は配列番号10で表され、LCDR5のアミノ酸配列は配列番号11で表され、LCDR6のアミノ酸配列は配列番号12で表される。
【0016】
通常、抗体の結合領域が1つの軽鎖可変領域および1つの重鎖可変領域を含み、各可変領域に3つのCDRドメインを含むことは当分野の技術者にとって常識でもある。抗体の重鎖および軽鎖のCDRドメインはそれぞれHCDR及びLCDRと称されており、抗体と抗原の結合サイトは、一般に6つのCDRで構成され且つ重鎖および軽鎖可変領域それぞれに由来するCDRの集合である。
【0017】
本発明の一好適な実施形態において、scFvのVHのアミノ酸配列は配列番号13で表される、VLのアミノ酸配列は配列番号14で表される。前記免疫グロブリン抗体IgGの重鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号15で表され、軽鎖可変領域のアミノ酸配列は配列番号16で表される。
【0018】
本発明の一好適な実施形態において、前記ペプチドリンカーL1のアミノ酸配列は、配列番号17で表される。
【0019】
本発明の一好適な実施形態において、前記ペプチドリンカーL2のアミノ酸配列は、配列番号18で表される。
【0020】
本発明の一好適な実施形態において、前記一本鎖可変断片scFv1の分子構成がVL-L1-VHであり、各scFvのN末端は、ペプチドリンカーL2を介して免疫グロブリン抗体IgGの重鎖のC末端に連結される。
【0021】
本発明の一好適な実施形態において、前記一本鎖可変断片scFv1のアミノ酸配列は、配列番号19で表される。
【0022】
本発明の一好適な実施形態において、前記二重特異性抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号20で表され、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号21で表される。
【0023】
本発明の一好適な実施形態において、前記一本鎖可変断片scFv2の分子構成がVH-L1-VLであり、各scFvのC末端は、ペプチドリンカーL2を介して免疫グロブリン抗体IgGの重鎖のN末端に連結される。
【0024】
本発明の一好適な実施形態において、前記一本鎖可変断片scFv2のアミノ酸配列は、配列番号24で表される。
【0025】
本発明の一好適な実施形態において、前記二重特異性抗体は、重鎖のアミノ酸配列が配列番号25で表され、軽鎖のアミノ酸配列が配列番号21で表される。
【0026】
本発明において、二重特異性抗体を構築するに当たって、例えば物理的に安定した分子を発現し、熱および塩に対する安定性を改善すると同時に凝集を減らし、高濃度条件での溶解性および2種類の抗原HER2及びPD1それぞれに対する結合性を改善するなど、該二重特異性抗体の化学的および物理的安定性に関連する問題も解決されている。
【0027】
本発明のもう1つの側面において、前記二重特異性抗体をコードするヌクレオチド分子を提供する。
【0028】
本発明の一好適な実施形態において、前記ヌクレオチド分子は、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号22で表され、軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号23で表され、または、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体の重鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号26で表され、軽鎖をコードするヌクレオチド配列が配列番号23で表される。
【0029】
本発明において、当分野で慣用の方法で前記ヌクレオチド分子を調製することができ、好ましくは、PCR法などの遺伝子工学手法を用いて上記モノクローナル抗体をコードするヌクレオチド分子を得ることができ、若しくは全配列を人工合成することにより上記モノクローナル抗体をコードするヌクレオチド分子を得ることができる。
【0030】
当業者が熟知することでもあるが、上記二重特異性抗体のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列に置き換え、欠損、変更や、挿入又は増加を適宜導入することによりポリヌクレオチド分子の同族列を得ることができる。本発明に係るポリヌクレオチドの同族列は、抗体活性を損なわない前提で、該二重特異性抗体をコードする遺伝子における1つ又は2つ以上の塩基を置き換え、除去または増加することにより得られる。
【0031】
本発明のもう1つの側面において、上記ヌクレオチド分子を含んでなる発現ベクターを提供する。
【0032】
前記発現ベクターは、当分野で慣用の発現ベクターであり、例えばプロモータ配列、ターミネータ配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー 配列、標識遺伝子及び/又は配列などの調節配列、及び他の適切な配列を含んでなる発現ベクターある。前記発現ベクターとしは、ウイルス又はプラスミドであってもよく、例えばバクテリオファージまたはファージミドを適宜利用することができ、より具体的には、「Sambrookら編集、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989」を参照することができる。また、核酸分子を操作する際の技術や手法としては、「Ausubelら編集、Current Protocols in Molecular Biology、第2版」を参照することができる。本発明に係る発現ベクターとしては、pDR1、pcDNA3.1(+)、pcDNA3.1/ZEO(+)、pDHFR、pTT5、pDHFF、pGM-CSF及びpCHO1.0が挙げられ、そのうちpTT5を用いるのが好ましい。
【0033】
本発明は、さらに、上記発現ベクターを含んでなるホスト細胞を提供する。
【0034】
本発明に係るホスト細胞としては、上記組換え発現ベクターが安定に自己複製し、かつそれに含まれる前記ヌクレオチドを効率よく発現できれば、当分野で一般に使われる各種のホスト細胞を用いることができる。具体的には、COS、CHO(Chinese H amster Ovary)、NS0、sf9、sf21、DH5α、BL21(DE3)又はTG1などの原核発現細胞や真核発現細胞が挙げられ、そのうち、一本鎖抗体又はFab抗体を発現する場合にはE.coli TG1、BL21(DE3)細胞を用い、全長IgG抗体を発現する場合にはCHO-K1細胞を用いるのが好ましい。また、前記発現ベクターをホスト細胞に導入することにより、本発明に係る組換え発現形質転換体が得られ、前記発現ベクターを導入する際には当分野で慣用の導入方法を利用することができ、その中でも化学的導入法、ヒートショック法又は電気的導入法を利用するのが好ましい。
【0035】
本発明の一好適な実施形態において、前記ホスト細胞としては、真核細胞が挙げられ、CHO細胞又は293E細胞を用いるのが好ましい。
【0036】
本発明のもう1つの側面において、上記HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体の製造方法を提供し、該製造方法包括は、
発現条件下で上記ホスト細胞を培養することにより、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体を発現するステップaと、
前記ステップaで発現した二重特異性抗体を分離、精製するステップbと、を含む。
【0037】
本発明に係るホスト細胞の培養方法、前記抗体の分離、精製方法は当分野で慣用の方法であり、具体的には、関連の細胞培養技術マニュアル及び抗体分離、精製技術マニュアルを参照することができる。本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体の製造方法は、発現条件下で上記ホスト細胞を培養することにより、HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体を発現するステップと、前記二重特異性抗体を分離、精製するステップとを含む。このような方法を利用することにより、組換えタンパク質をほぼ均均一なものに精製し、例えば、SDS-PAGE電気泳動でシングルバンドとすることができる。
【0038】
本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体は、アフィニティークロマトグラフィーを利用して分離精製することができ、使用するアフィニティーカラムの特性に基づき、例えば高塩濃度の緩衝液、pH変更などの方法を利用してカラムに結合したHER2/PD1二重特異性抗体を溶出することができる。さらに、本発明者は得られたHER2/PD1二重特異性抗体について評価実験を行い、該HER2/PD1二重特異性抗体が標的細胞および抗原に高い結合性で効率よく結合することを見出した。
【0039】
本発明のもう1つの側面において、前記HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体と、薬学的に許容可能な担体、希釈剤および賦形剤からなる群より選ばれる1種又は2種以上と、を含む組成物を提供する。
【0040】
本発明に係る二重特異性抗体は、薬学的に許容可能な担体と共に薬物組成物を構成することにより、より安定に薬物効果を発揮することができる。これらの製剤は、本発明に係る二重特異性抗体のアミノ酸コア配列の構造完全性を維持し、同時にタンパク質の多官能基を分解(例えば、凝集、脱アミノ化や酸化)から免れるようにすることができる。液体製剤にした場合、通常、2℃~8℃の温度条件で1年間安定に保存することができ、凍結乾燥製剤にした場合、30℃の温度条件で少なくとも6ヶ月間安定に保存することができる。前記二重特異性抗体製剤としては、製薬分野でよく見られる懸濁剤、注射剤、凍結乾燥剤などが挙げられる。
【0041】
本発明に係る二重特異性抗体の注射剤又は凍結乾燥製剤に含まれる薬学的に許容可能な担体については特に制限がなく、表面活性剤、溶液安定剤、等張化剤および緩衝液から選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。そのうち、表面活性剤については特に制限がなく、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(例えば、ツイン20又はツイン80)、ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188)、トリトンなどの非イオン界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸ナトリウムや、テトラデシル、リノリル又はオクタデシルサルコシン、Pluronics、MONAQUATTM等が挙げられ、これらの表面活性剤をHER2/PD1二重特異性抗体の粒子化を最小限に抑える程度で添加することができる。溶液安定剤については特に制限がなく、還元糖や非還元糖などの糖類、グルタミン酸ナトリウ又はヒスチジンなどのアミノ酸類、三価アルコール、高級糖アルコール、プロパンジオール、ポリエチレングリコールなどのアルコール類が挙げられ、これらの溶液安定剤は、最後に得られた製剤が当業者によって指定された期間内において安定な状態を維持できるように添加される。等張化剤については特に制限がなく、塩化ナトリウム、マンニトールのうち何れか1種以上を使用することができる。緩衝液についても特に制限がなく、トリス緩衝液、ヒスチジン緩衝液、リン酸塩緩衝液のうち何れか1種以上を使用することができる。
【0042】
本発明のもう1つの側面において、上記HER2及びPD1に特異的に結合しうる二重特異性抗体又は上記薬物組成物の、癌又は腫瘍を治療するための薬物の製造における用途を提供する。
【0043】
本発明において癌又は腫瘍を治療するための薬物とは、腫瘍に対して抑制及び/又は治療効果を示す薬物を指す。本発明で言う薬物は、腫瘍関連症状の遅延及び/又は低減に寄与し、さらに、既存症状および関連症状を減らし、並びに腫瘍の転移などを抑制又は防止することができる。
【0044】
本発明に係る薬物の投与対象については特に制限がなく、例えば肺がん、骨肉腫、胃がん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、子宮がん、卵巣がん、精巣がん、子宮がん、卵管がん、子宮内膜がん、子宮頸がん、腟がん、外陰がん、直腸がん、大腸がん、肛門部がん、乳がん、食道がん、小腸がん、内分泌系がん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎皮質がん、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膵臓がん、脳がん、精巣がん、悪性リンパ腫、移行上皮がん、膀胱がん、腎臓がん又は尿路がん、腎細胞がん、腎盂がん、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、軟部肉腫、小児固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、中枢神経系(CNS)腫瘍、中枢神経系原発リンパ腫、腫瘍血管新生、脊椎腫瘍、脳幹グリオーマ、下垂体腺腫、黒色腫、カポジ肉腫、類表皮がん、有棘細胞がん、T細胞リンパ腫、慢性又は急性白血病のうち何れか1種又は2種以上が挙げられる。
【0045】
ヒトを含む動物に本発明の二重特異性抗体及びその組成物を投与するとき、投与量を患者の年齢及び体重、疾患の特性及び重篤度、投与形態に基づき適宜調整することができ、動物実験の結果や実際状況を応じて投与総量を一定範囲内に収めることができる。具体的には、静脈注射する際の投与量は1~1800mg/1日にすることができる。
【0046】
本発明に係る二重特異性抗体及びその組成物は、他の抗腫瘍薬併用することでより優れた治療効果を発揮することができる。これらの抗腫瘍薬については特に制限がなく、細胞毒性を示す薬物、ホルモン類薬物、生体応答調整剤、モノクローナル抗体および他の抗腫瘍薬が挙げられる。そのうち細胞毒性を示す薬物としては、1)核酸化学構造に作用する薬物であって、窒素マスタード類、ニトロソウレア類、メタンスルホン酸エステル類などのアルキル化剤、シスプラチン(Cisplatin)、カルボプラチン(Carboplatin)およびオキサリプラチン(Oxaliplatin)などの白金類化合物、ドキソルビシン(Adriamycin/Doxorubicin)、ダクチノマイシンD(Dactinomycin D)、ダウノルビシン (Daunorubicin)、エピルビシン(Epirubicin)、ミトラマイシン(Mithramycin)などの抗生物質、2)核酸代謝を影響する薬物であって、メトトレキサート(MTX)及びペメトレキセド(Pemetrexed)などのジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤、フルオロウラシル(例えば、5-フルオロウラシルやカペシタビン)などのチミジル酸シンターゼ阻害剤、6-メルカプトプリン などのプリンヌクレオシドシンターゼ阻害剤、ヒドロキシカルバミド(Hydroxycarbamide)などのヌクレオチドレダクターゼ阻害剤、シトシンアラビノシド(Cytosine arabinoside)及びゲムシタビン(Gemcitabine)などのDNAポリメラーゼ阻害剤、および3)チューブリンに作用する薬物であって、ドセタキセル(Docetaxel)、ビンクリスチン(Vincristine)、ビノレルビン(Vinorelbine)、ポドフィリン類、ホモハリントニンなどが挙げられる。また、ホルモン類薬物としては、タモキシフェン(Tamoxifen)、ドロロキシフェン(Droloxifene)、エキセメスタン(Exemestane)などの抗エストロゲン剤、アミノグルテチミド(Aminoglutethimide)、ホルメスタン(Formestane)、レトロゾール(Letrozle)、アナストロゾール(Anastrozole)などのアロマターゼ阻害剤、フルタミドなどの抗アンドロゲン剤、及びゾラデックス、エナントンなどのRH-LHアゴニスト/アンタゴニストが挙げられる。また、生体の免疫機能を調節することにより抗腫瘍効果を発揮する生体応答調整剤としては、インターフェロン(Interferon)、インターロイキン-2(Interleukin-2)、チモシン(Thymosins)などが挙げられる。モノクローナル抗体としては、トラスツズマブ(Trastuzumab)、リツキシマブ(Rituximab)、セツキシマブ(Cetuximab)、ベバシズマブ(Bevacizumab)などが挙げられる。また、他の抗腫瘍薬としては、その作用機序が未だに解明されておらず、薬理機構に対して更なる解析が必要とされる薬物などが上げられる。本発明に係る二重特異性抗体及びその組成物は、上述の抗腫瘍薬のうち1種又は2種以上と併用することが可能である。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、腫瘍細胞の表面に局在するHER2及びTリンパ球の表面に局在するPD1を標的とする二重特異性抗体を提供する。本発明に係る二重特異性抗体は、両端抗体の活性を維持してPD1及びHER2抗原を同時に認識結合し、細胞レベルにおいてはHER2陽性の腫瘍細胞増殖を抑制し、PD-1とPD-L1の結合を遮断することができる。また、2つの標的サイトを抱えるN87-PDL1腫瘍細胞モデルにおいて、HER2モノクローナル抗体や、HER2モノクローナル抗体とPD1モノクローナル抗体の併用時を上回る活性を示す。また、マウスN87腫瘍モデルを用いる動物実験では、該二重特異性抗体のHER2端が腫瘍増殖を抑制することが確認でき、ヒト化PD1を移植したマウスMC38腫瘍モデルを用いる動物実験では、該二重特異性抗体のPD-1端が腫瘍増殖を抑制することが確認できた。つまり、本発明の二重特異性抗体は、両端抗体の活性を良好に維持し、両端抗体の活性が相乗して抗腫瘍効果を発揮するものである。
【0048】
本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体は、以下の作用機序によって両端抗体の活性が協調して抗腫瘍効果を発揮すると考えられる。つまり、PD-L1が腫瘍細胞や一部の免疫調節細胞で発現し、PD-1がT細胞で発現することから、PD-1とPD-L1の結合は、T細胞の増殖と活性化を抑制することによりPD-1/PD-L1シグナル経路を遮断することができ、T細胞が持つ免疫傷害能を亢進させることができる。また、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体において、抗HER2抗体のFc部分がNK細胞などにおけるFc受容体と結合し、Fc受容体を持つ免疫効果細胞のADCC活性を亢進させて腫瘍細胞を殺し、一方、T細胞に対しては明らかな傷害効果を示さない。なお、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体は、抗HER2活性を利用してHER2抗原を高いレベルで発現する腫瘍細胞を認識結合し、腫瘍細胞の増殖を抑制することができる。以上のことから、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体は、PD1抗原とHER2抗原を同時に認識結合し、関連のシグナル経路を遮断し、免疫効果細胞を亢進させるといった3つの活性を一体に共有することにより、腫瘍細胞に対して優れた阻害活性を示し、かつ優れた安定性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1A図1Aおよび図1Bは、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体の構造を模式的に示す図であり、そのうち図1Aは、HER2/PD1二重特異性抗体aの構造模式図である。
図1B図1Aおよび図1Bは、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体の構造を模式的に示す図であり、そのうち図1Bは、HER2/PD1二重特異性抗体bの構造模式図である。
図2A図2A乃至2Cは、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体をHPLCや、SDS-PAGE電気泳動で解析する際の結果を示す図であり、そのうち図2Aは、HER2/PD1二重特異性抗体aのHPLCクロマトグラムである。
図2B図2A乃至2Cは、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体をHPLCや、SDS-PAGE電気泳動で解析する際の結果を示す図であり、そのうち図2Bは、HER2/PD1二重特異性抗体bのHPLCクロマトグラムである。
図2C図2A乃至2Cは、本発明に係るHER2/PD1二重特異性抗体をHPLCや、SDS-PAGE電気泳動で解析する際の結果を示す図であり、そのうち図2Cは、HER2/PD1二重特異性抗体a及びbのSDS-PAGE解析結果を示す図である。
図3A図3Aは、ELISA法でHER2/PD1二重特異性抗体a及びbとHER2の結合性を測定したときの結果を示す図である。
図3B図3Bは、ELISA法でHER2/PD1二重特異性抗体a及びbとPD1-ECDの結合性を測定したときの結果を示す図である。
図4A図4Aは、FACS法でHER2/PD1二重特異性抗体a及びbとBT474細胞の結合性を測定したときの結果を示す図である。
図4B図4Bは、FACS法でHER2/PD1二重特異性抗体aとPD1/CHO細胞の結合性を測定したときの結果を示す図である。
図4C図4Cは、FACS法でHER2/PD1二重特異性抗体bとPD1/CHO細胞の結合性を測定したときの結果を示す図である。
図5】BT474細胞増殖に対するHER2/PD1二重特異性抗体a及びbの阻害効果を示す図である。
図6A図6Aは、細胞レベルでPD1/PD-L1結合に対するHER2/PD1二重特異性抗体aの阻害活性を測定したときの結果を示す図である。
図6B図6Bは、細胞レベルでPD1/PD-L1結合に対するHER2/PD1二重特異性抗体bの阻害活性を測定したときの結果を示す図である。
図7A図7Aは、HER2/PD1二重特異性抗体aのHER2抗体部分の半減期を示す図である。
図7B図7Bは、ビオチン化PD1を用いてHER2/PD1二重特異性抗体aの半減期を測定したときの結果を示す図である。
図7C図7Cは、protein-AでHER2/PD1二重特異性抗体aの半減期を測定したときの結果を示す図である。
図7D図7Dは、HER2/PD1二重特異性抗体bのHER2抗体部分の半減期を示す図である。
図7E図7Eは、HER2/PD1二重特異性抗体bのPD1抗体部分の半減期を示す図である。
図7F図7Fは、protein-AでHER2/PD1二重特異性抗体bの半減期を測定したときの結果を示す図である。
図8A図8Aは、CD4+T細胞に対するNK細胞の傷害効果を示す図である。
図8B図8Bは、BT474腫瘍細胞に対するNK細胞のADCC活性を示す図である。
図9A図9Aは、N87-PDL1細胞に対するHER2/PD1二重特異性抗体aの相乗的傷害効果を示す図である。
図9B図9Bは、N87-PDL1細胞に対するPD1モノクローナル抗体対照物の効果を示す図である。
図10】NCI-N87移植モデルに対するHER2/PD1二重特異性抗体aの抗腫瘍効果を示す図である。
図11】ヒト化PD1を移植したマウスMC38モデルに対するHER2/PD1二重特異性抗体aの抗腫瘍効果を示す図である。
図12A図12Aは、HER2/PD1二重特異性抗体aのDSC図である。
図12B図12Bは、HER2/PD1二重特異性抗体bのDSC図である。
図12C図12Cは、SEC-HPLC法で37℃における0日目および24日目のHER2/PD1二重特異性抗体aの安定性を測定したときの結果を示す図である。
図12D図12Dは、SEC-HPLC法で37℃における0日目および24日目のHER2/PD1二重特異性抗体bの安定性を測定したときの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、実施例や実験例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例や実験例に制限されない。以下において、ベクターやプラスミドの構築方法、タンパク質をコードする遺伝子をベクターやプラスミドに導入する方法、プラスミドをホスト細胞に導入する方法など、従来周知の操作については説明を省略する。これらの操作は当業者が熟知し、例えば[Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniais,T.(1989),Molecular Cloning:A Laboratory Manual、2nd edition,Cold spring Harbor Laboratory Press]などの出版物に詳細な説明がある。
【0051】
実施例で使われる実験材料、及び実験試薬の調製については、以下において具体的に説明する。
【0052】
実験材料は、以下の通りである。
CHO細胞:Thermo fisher社製、製品番号A29133
293E細胞:NRC biotechnology Research Institute社製
ヒト乳がん細胞BT474:中国科学院細胞バンクにより入手、カタログ番号TCHu143
PD-L1aAPC/CHO-K1細胞:Promega社製、製品番号J1252
CD4+T細胞:Allcells社製、製品番号LP180329
NK細胞:Allcells社製、製品番号PB012-C
Protein-Aチップ:ラベル番号29139131-AA、ロット番号10261132
SDラット:浙江維通利華実験動物技術社製、動物製造認定証SCXK(浙)2018-0001
ヒト胃がん細胞株NCI-N87:アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)により入手
BALB/cヌードマウス:上海霊暢バイオテック社製
MC38マウス大腸がん細胞株:上海和元バイオテック社製
ヒト化PD1を移植したマウスC57BJ/6J-PDCD1em1(Hpdcd1)/Smoc株:上海南方模式バイオテック社製、製品番号NM-KI-00015
PBMC:上海SAILYバイオテック社製、製品番号SLB-HP040A
【0053】
また、実験試薬としては、以下のものである。
HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体:sigma社製、製品番号A0293
HRP標識のストレプトアビジン:BD Biosciences社製、製品番号554066
ヒツジ抗ヒトIgG-FITC:sigma社製、製品番号F4143
CD28抗体:Abcam社製、 製品番号ab213043
IL-2:R&D社製、製品番号202-IL
PBS:上海生工バイオテック社製、製品番号B548117
PBST:0.05%のTween 20を含むPBS
BSA:上海生工バイオテック社製、製品番号A60332
TMB:BD社製、製品番号555214
Bio-Glo:Promega社製、製品番号G7940
FBS:Gibco社製、製品番号10099
HBS-EP緩衝液:Life science社製、BR-1006-69
CellTiter-Glo:promega社製、製品番号G775B
【0054】
実験に使われる測定装置としては、以下のものであった。
HiTrap MabSelectSuReカラム:GE社製
Beckman Coulter CytoFLEXフローサイトメーター:Beckman社製
SpectraMax i3xプレートリーダー:MolecularDevices社製
SpectraMax M5プレートリーダー:MolecularDevices社製
MicroCal VP-Capillary示差走査熱量計(DSC):Malvern Panalytical社製
【0055】
また、以下で言うHER2モノクローナル抗体とは、三生国健薬業会社がハーセプチンのアミノ酸配列に基づき、実施例2と同様にして二重特異性抗体を発現、精製して得られたヒトとマウスのキメラモノクローナル抗体である。また、以下で言うPD1モノクローナル抗体とは、三生国健薬業会社が自ら開発した新規なPD1ヒト化モノクローナル抗体であり、中国特許出願番号201710054783.5で出願なされている。
【0056】
実施例1:HER2/PD1二重特異性抗体の構築
本発明では、HER2モノクローナル抗体のIgGとPD1モノクローナル抗体のscFvをタンデムに繋いでHER2/PD1二重特異性抗体aを構築した。
【0057】
ペプチドリンカーL1(配列番号17)を用い、PD1モノクローナル抗体の軽鎖可変領域VL(配列番号14)と重鎖可変領域VH(配列番号13)を繋いでPD1の一本鎖抗体断片VL-L1-VH、すなわちPD1のscFv1断片(配列番号19)を得た。さらに、ペプチドリンカーL2(配列番号18)を用い、該一本鎖抗体断片とHER2モノクローナル抗体の重鎖を繋ぐことにより、HER2モノクローナル抗体の軽鎖(配列番号21)を保留したまま、二重特異性抗体分子であるHER2/PD1二重特異性抗体aの重鎖(配列番号20)を得た。また、CHO細胞における抗体分子の発現効率を高めるため、GENEWIZ社に依頼してHER2/PD1二重特異性抗体a分子の核酸配列を最適化した。最適化に際してはコドン使用の好み、GC量、mRNA二次構造、重複配列などを考慮し、GENEWIZ社が最適化したものを合成した。HER2/PD1二重特異性抗体aの重鎖の核酸配列が配列番号22で表され、軽鎖の核酸配列が配列番号23で表され、また、HER2/PD1二重特異性抗体aの構造は図1Aに示され、配列は配列表に示される通りであった。
【0058】
HER2/PD1二重特異性抗体bの分子は、以下のように構築した。つまり、ペプチドリンカーL1(配列番号17)を用い、PD1モノクローナル抗体PD1モノクローナル抗体の軽鎖可変領域VL(配列番号14)と重鎖可変領域VH(配列番号13)を繋いでPD1の一本鎖抗体断片VH-L1-VL、すなわちPD1のscFv2断片(配列番号24)を得た。さらに、ペプチドリンカーL2(配列番号18)を用い、該一本鎖抗体断片とHER2モノクローナル抗体の重鎖を繋ぐことにより、HER2モノクローナル抗体の軽鎖(配列番号21)を保留したまま、二重特異性抗体分子であるHER2/PD1二重特異性抗体bの重鎖(配列番号25)を得た。また、CHO細胞における抗体分子の発現効率を高めるため、GENEWIZ社に依頼してHER2/PD1二重特異性抗体b分子の核酸配列を最適化した。最適化に際してはコドン使用の好み、GC量、mRNA二次構造、重複配列などを考慮し、GENEWIZ社が最適化したものを合成した。HER2/PD1二重特異性抗体bの重鎖の核酸配列が配列番号26で表され、軽鎖の核酸配列が配列番号23で表され、HER2/PD1二重特異性抗体bの構造は図1Bに示され、配列は配列表に示される通りであった。
【0059】
実施例2:二重特異性抗体の発現と精製
二重特異性抗体の重鎖および軽鎖のDNA断片をそれぞれpTT5ベクターに導入し、組換えプラスミドを得て両者を同時にCHO細胞及び/又は293E細胞に導入した。細胞を培養し、5~7日後に培養液を回収して高速遠心し、ミリポアメンブレンフィルタで減圧ろ過した後、HiTrap MabSelectSuReカラムに注入して100mMのクエン酸を含む溶出液(pH3.5)でタンパク質を溶出し、目的サンプルを回収してPBS(pH7.4)で透析した。HPLCを用いて精製済みのタンパク質を分析し、HER2/PD1二重特異性抗体a、bのHPLCクロマトグラムはそれぞれ図2A、2Bに示される通りであった。抗体分子は、均一な状態を呈し、純度が97%以上であった。そして、精製済みのHER2/PD1二重特異性抗体a、bにそれぞれ非還元性の電気泳動緩衝液を加え、SDS-PAGE電気泳動を行い、かつ精製済みのHER2/PD1二重特異性抗体a、bにそれぞれ還元性の電気泳動緩衝液を加え、沸騰するまで加熱処理してからSDS-PAGE電気泳動を行った。電気泳動の結果を図2Cに示し、二重特異性抗体全長の分子量理論値が199KDであった。
【0060】
実施例3:酵素結合免疫吸着法(ELISA法)による抗原と二重特異性抗体の結合性評価
HER2抗原に対するHER2/PD1二重特異性抗体aおよびbの結合性を評価するため、PBS緩衝液(pH7.4)を用いてHER2-ECD-Hisタンパク質(三生国健薬業社製)を250ng/mLに希釈し、ELISAプレートの各ウェルに100μLずつ加えた。4℃で一晩静置し、翌日にPBSTでプレートを2回洗い流した。各ウェルに1%のBSAを含むPBSTを加え、37℃、1時間ブロッキングしてからPBSTでプレートを2回洗い流した。そして、測定用抗体試料及び陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体を、1%のBSAを含むPBSで濃度100nMから段階的に3倍希釈して12段階の濃度勾配となるようにし、プレートに加えて37℃、1時間静置した。PBSTでプレートを2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を加えて37℃、40分間静置した。プレートをPBSTで3回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を読み取り、得られたデータをGraphPad Prism6で解析し、図を作成してEC50を算出した。実験結果は図3Aに示され、HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体とHER2抗原が結合する際のEC50がそれぞれ0.1975、0.2294及び0.221であり、HER2抗原に対して三者の結合性がほぼ同様であることが確認できた。
【0061】
PD1に対するHER2/PD1二重特異性抗体aおよびbそれぞれの結合性を評価するため、組換えPD1-ECD-hFcタンパク質(三生国健薬業社製)をPBS(pH7.4)で200g/mLに希釈し、ELISAプレートの各ウェルに100μLずつ加えて4℃、一晩静置して被覆処理を行った。プレートをPBSTで2回洗い流し、各ウェルにブロッキング液として2%のBSAを含むPBSを200μLずつ加えて37℃、1時間静置し、プレートをPBSTで1回洗い流して次に備えた。そして、測定用抗体試料および陽性対照物であるPD1モノクローナル抗体を、1%のBSAを含むPBSで濃度100nMから段階的に3倍希釈して12段階の濃度勾配になるようにした後、ブロッキング済みのELISAプレートの各ウェルに100μLずつ加えて37℃、1時間静置した。PBSTでプレートを2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を加えて37℃、30分間静置した。PBSTでプレートを3回洗い流し、吸水紙にプレートを軽く叩いて残りの水液を吸い取り、各ウェルにTMBを100μL加え、室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーで波長450nmでのOD値を読み取り、得られたデータをGraphPad Prism6で解析し、図を作成してEC50を算出した。実験結果は図3Bに示され、HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるPD1モノクローナル抗体がPD1に結合する際のEC50がそれぞれ0.1384、0.1525及び0.1557であり、PD1に対して三者の結合性がほぼ同様であることが確認できた。
【0062】
実施例4:標的細胞に対する二重特異性抗体の結合性評価
HER2が細胞表面で高いレベルで発現するヒト乳がん細胞BT474を標的細胞とし、0.5%のBSAを含むPBSで3回洗浄し、1回洗浄する度に300g、5分間遠心し、3回目の遠心後に上澄み液を捨てた。0.5%のBSAを含むPBSSで細胞を再懸濁し、細胞濃度が1×10個細胞/mLとなるようにし、96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ加えた。HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体を濃度400nMとなるように調製し、さらに、段階的に希釈して11段階の濃度勾配を形成し、96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ加えてBT474細胞と十分混ぜ合わせ、4℃で1時間静置した。細胞をPBSで2回洗浄することにより未結合状態の測定用抗体試料を取り除いた後、1g/mLのヒツジ抗ヒトIgG-FITCを100μL加えて細胞と4℃で30分間インキュベートし、300g、5分間遠心し、細胞をPBSで2回洗浄することにより未結合状態の二次抗体を取り除いた。そして、細胞を200μLのPBSで再懸濁し、Beckman Coulter CytoFLEXフローサイトメーターを用いて該細胞に対する二重特異性抗体の結合性を測定し、得られたデータをGraphPad Prism6ソフトで整理し、回帰解析を行った。実験結果は図4Aに示され、HER2/PD1二重特異性抗体a、bが何れも細胞表面に発現するHER2に特異的に結合することができ、HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体がBT474細胞に結合する際のEC50がそれぞれ1.64、5.669及び1.556であった。そのうち、HER2/PD1二重特異性抗体aおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体の結合性がほぼ同様であるが、HER2/PD1二重特異性抗体bは、陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体に少々劣る結合性を示した。
【0063】
PD1が細胞表面で安定に発現するCHO細胞を標的細胞とし、上記と同様にしてフローサイトメーターで該細胞に対するHER2/PD1二重特異性抗体a、bの結合性を測定した。測定は上記と同様にして行い、得られたデータをGraphPad Prism 6ソフトで整理し、回帰解析を行った。実験結果は図4B図4Cに示され、HER2/PD1二重特異性抗体a、bが何れも細胞表面で発現するPD1に特異的に結合することができ、そのうちHER2/PD1二重特異性抗体aおよび陽性対照物であるPD1モノクローナル抗体の場合、EC50がそれぞれ1.777及び0.8981であり、HER2/PD1二重特異性抗体bおよび陽性対照物抗であるPD1モノクローナル抗体の場合、EC50がそれぞれ1.192和0.8891であり、3者の結合性がほぼ同様であることが確認できた。
【0064】
実施例5:BT474細胞増殖に対する二重特異性抗体の阻害効果
ヒト乳がん細胞株BT474は、その細胞表面においてHER2抗原分子を発現し、体外でBT474細胞を培養するとき、細胞はHER2受容体を介して伝達される増殖シグナルに部分的に依存して増殖する。そして、培地にHER2抗体を加えると、細胞の増殖が阻害され、このときの抗体濃度と細胞増殖の阻害効果が一定の範囲内で用量効果関係を示すことが既に知られている。このとき、細胞増殖は、CCK-8(Cell Counting Kit-8)を用いる毒性実験によって測定することができ、用量反応曲線がS字型を呈するのが一般である。
【0065】
BT474細胞をパンクレアチンで消化し、再懸濁してから細胞数を計測し、生きた細胞の密度に基づき完全培地で細胞密度を5×10個細胞/mLに調製し、96ウェルプレートのB行~G行の各ウェルに100μLずつ加えた。プレート辺縁のA行、H行の各ウェルには培地又はPBSを200μL加えて封じ込め、37℃、5%のCOインキュベータで3~5時間付着培養した。HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体サンプルを完全培地で濃度300nMの溶液に調製し、さらに、段階的に3倍希釈して11段階の濃度勾配を形成した。96ウェルプレートの対応ウェルに希釈済みの測定試料を加え、37℃、5%のCOインキュベータで7日間培養した。7日後、各ウェルに体積比で1:10の着色液(CCK-8試料希釈液で希釈したもの)を加え、COインキュベータにおいて引き続き3~5時間培養した。プレートリーダーを用い、基準波長を650nmとし、波長450nmでのOD値を測定し、得られたデータをGraphPad Prism 6ソフトで整理、解析した。実験結果は図5に示され、HER2/PD1二重特異性抗体a、bおよび陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体のIC50がそれぞれ0.4967、0.9427及び0.5914であり、BT474細胞増殖に対する3者の阻害効果がほぼ同様であることが確認できた。
【0066】
実施例6:細胞レベルでPD1/PD-L1結合に対する二重特異性抗体の阻害活性評価
対数増殖期にあるPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞をパンクレアチンで消化して細胞を粘着状態から遊離させ、白色で且つ底部透明の96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつ、1ウェル当たりに40000個細胞となるように播種し、37℃、5%のCOインキュベータで一晩培養した。HER2/PD1二重特異性抗体a及びb、PD1モノクローナル抗体および同型の陰性対照物試料を、濃度600nMから段階的に3倍希釈して2×測定溶液を得た。そして、細胞密度が1.4~2×10個/mLであり、細胞生存率が95%以上であるPD1効果細胞をパンクレアチンで消化し、再懸濁して1.25×10個細胞/mLの細胞溶液を得た。1日前に予め準備したPD-L1 aAPC/CHO-K1細胞を取って上澄みを捨て、段階的に希釈した二重特異性抗体およびPD1モノクローナル抗体の測定溶液を40μL加え、さらに、同体積のPD1効果細胞を加えて37℃、5%のCOインキュベータで6時間インキュベートした。各ウェルにBio-Glo測定試薬を80μL加えて室温、10分間静置し、spectramax i3を用いて発光量を測定した。
【0067】
測定には平行ウェルを設け、得られた実測値から平均値を求めて4-parameter法に従って回帰分析を行い、検量線を作成した。測定結果は、図6A及び図6Bに示された通りであり、また、HER2/PD1二重特異性抗体aのIC50、top、bottom、hillslopeなどを下記表1に示し、HER2/PD1二重特異性抗体bのIC50、top、bottom、hillslopeなどを下記表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
実施例7:Biacore法による抗原と二重特異性抗体の結合性評価
protein-A捕捉法を利用し、二重特異性抗体と抗原HER2-ECD-hisが結合する際の動態パラメータを測定した。具体的には、濃度が1μg/mLの二重特異性抗体をProtein-Aチップに固定し、さらに、1×HBS-EP緩衝液を用いて抗原HER2-ECD-hisを濃度50nMから段階的に2倍希釈することにより、6段階の濃度勾配を形成して抗体との結合実験に用いた。解離は、HBS-EP緩衝液を用いて行われた。
【0071】
また、protein-A捕捉法を利用し、二重特異性抗体と抗原PD1-ECD-hisが結合する際の動態パラメータを測定した。具体的には、濃度が1μg/mLの二重特異性抗体をProtein-Aチップに固定し、さらに、1×HBS-EP緩衝液を用いて抗原PD1-ECD-hisを濃度250nMから2倍希釈することにより、5段階の濃度勾配を形成して抗体との結合実験に用いた。解離は、HBS-EP緩衝液を用いて行われた。
【0072】
HER2/PD1二重特異性抗体aとHER2-ECD-His、PD1-ECD-hisが結合する際の動態パラメータを、下記表3に纏めて示す。表3に示すように、HER2/PD1二重特異性抗体aが抗原PD1、HER2に対して何れも良好な結合性を示すことが確認できた。
【0073】
【表3】
【0074】
抗体HER2/PD1二重特異性抗体bとHER2-ECD-His、PD1-ECD-hisが結合する際の動態パラメータを、下記表4に示す。表4に示すように、HER2/PD1二重特異性抗体bが抗原PD1、HER2に対して何れも良好な結合性を示すことが確認できた。
【0075】
【表4】
【0076】
表3および表4において、KDは結合定数であり、kaは抗原と抗体の結合速度定数であり、kdは抗原と抗体の解離速度定数であり、KD=kd/kaである。
【0077】
実施例8:HER2/PD1二重特異性抗体a、bの薬物動態評価
体重が約200gのSDラットを4組に分け、各組は4匹ずつであった。ラットに抗体2mgを尾静脈経由で注射することにより投与を行い、投与後の指定時点でマウス眼窩から採血し、血液が自然凝固するまで待ってから8000rpm/分間遠心して血清を回収した。
【0078】
血清中におけるHER2/PD1二重特異性抗体aの薬物濃度は、以下のようにして測定した。
【0079】
1)ELISAプレートを2枚用意し、各ウェルにHER2-Hisを50ng加え、4℃で一晩静置して被覆を行った。翌日にプレートをPBSTで2回洗い流し、2%のBSAを含むPBSを加えて37℃、2時間ブロッキングした。また、HER-2/PD1二重特異性抗体aを濃度0.5μg/mLから段階的に2倍希釈することにより、12段階の濃度勾配を形成した。各血清サンプルを2000倍希釈し、ブロッキング済のELISAプレートに加え、37℃、1時間静置した後にプレートをPBSTで2回洗い流した。
【0080】
HER2抗体を検出するに当たってELISAプレートを1枚用意し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を3000倍希釈し、ELISAプレートの各ウェルに100μLずつ加えて37℃、40分間静置した。プレートをPBSTで4回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。そして、各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0081】
PD1抗体を検出するに当たってELISAプレートをもう1枚用意し、各ウェルにビオチン化PD1-hFcを7.5ng加えて1時間静置した。プレートを洗い流し、HRP標識のストレプトアビジンを1000倍希釈して各ウェルに加え、37℃、30分間静置した。プレートをPBSTで4回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0082】
2)抗体Fabフラグメントを検出するため、ELISAプレートの各ウェルにprotein-Aを100ng加え、4℃で一晩静置して被覆を行った。翌日にPBSTでELISAプレートを2回洗い流し、2%のBSAを含むPBSを加えて37℃、2時間ブロッキングしてからELISAプレートをPBSTで2回洗い流した。HER2/PD1二重特異性抗体aを濃度1000ng/mLから段階的に2倍希釈することにより12段階の濃度勾配を形成し、一方、ラットの血清サンプルを2000倍希釈し、上記2組のサンプルをブロッキング済のELISAプレートに加えて1時間静置した。プレートをPBSTで2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を加えて37℃、30分間静置し、プレートをPBSTで3回洗い流した。給水紙にプレートを軽く叩いて残りの水滴をできるだけ取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0083】
ラット体内における抗体薬物の半減期はPhoenixソフトを用いて算出し、得られたデータをGraphPad Prism6で整理して解析図を作成した。表5~表7に薬物動態パラメータを纏めて示し、実験結果は、図7A図7Bおよび図7Cに示される通りである。ラット体内における抗体薬物の半減期を上記2つの方法で測定した場合、方法1)ではHER2抗体の半減期が273時間であり、PD1抗体の半減期が333時間であり、方法2)では半減期が333時間であり、データからして3者に大きな差がなく、HER2/PD1二重特異性抗体aの半減期が300時間程度であることが確認できた。
【0084】
【表5】
【0085】
【表6】
【0086】
【表7】
【0087】
また、血清中におけるHER2/PD1二重特異性抗体bの薬物濃度は、以下のようにして測定した。
【0088】
1)HER2抗体を検出するに当たってELISAプレートを1枚用意し、各ウェルにHER2-Hisを50ng加えて4℃で一晩静置し、翌日にプレートをPBSTで2回洗い流し、2%のBSAを含むPBSで37℃、2時間ブロッキングした。HER2/PD1二重特異性抗体bを濃度0.5μg/mLから段階的に2倍希釈することにより12段階の濃度勾配を形成し、その傍ら各血清サンプルを2000倍希釈し、ブロッキング済のELISAプレートに加えて37℃、1時間静置した。プレートをPBSTで2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を3000倍希釈してから各ウェルに100μL加えて37℃、40分間静置した。プレートをPBSTで4回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0089】
2)PD1抗体を検出するに当たってELISAプレートをもう1枚用意し、ELISAプレートの各ウェルにPD1-ECD-hFcを20ng加えて被覆した後、プレートを洗い流した。抗体は上記と同様にして希釈し、その傍ら血清サンプルを1000~2000倍希釈し、ブロッキング済のELISAプレートに加えて37℃、1時間静置した。プレートをPBSTで2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を3000希釈して各ウェルに100μLずつ加え、37℃、40分間静置した。プレートをPBSTで4回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。その後、各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0090】
3)抗体Fabフラグメントを検出するため、ELISAプレートの各ウェルにprotein-Aを100ng加えて4℃で一晩静置し、翌日にプレートをPBSTで2回洗い流し、2%のBSAを含むPBSを加えて37℃、2時間ブロッキングした。プレートをPBSTで2回洗い流し、HER2/PD1二重特異性抗体bを濃度1000ng/mLから段階的に2倍希釈することにより12段階の濃度勾配を形成し、その傍らラット血清サンプルを500~1000倍希釈し、ブロッキング済のELISAプレートに加えて1時間静置した。PBSTでプレートを2回洗い流し、HRP標識のマウス抗ヒトFab抗体を加えて37℃、30分間静置した。プレートをPBSTで4回洗い流し、軽く叩いて水滴を取り除き、各ウェルにTMBを100μL加えて室温(20±5℃)、暗所で5分間静置した。そして、各ウェルに停止液として2MのHSOを50μL加えて基質反応を停止させ、プレートリーダーを用いて波長450nmでのOD値を測定した。
【0091】
ラット体内における抗体薬物の半減期はPhoenixソフトを用いて算出し、得られたデータをGraphPad Prism6で整理し、解析図を作成した。表8~表10に薬物動態パラメータを纏めて示し、実験結果は、図7D図7Eおよび図7Fに示される通りである。ラット体内における抗体薬物の半減期を上記3つの方法で測定した場合、方法1)では312時間であり、方法2)では280時間であり、方法3)では277時間であり、データからして3者に大きな差がなく、HER2/PD1二重特異性抗体bの半減期が280時間程度であることが確認できた。
【0092】
【表8】
【0093】
【表9】
【0094】
【表10】
【0095】
実施例9:HER2/PD1二重特異性抗体aのADCC活性
HER2/PD1二重特異性抗体が腫瘍細胞や、PD-1を発現するT細胞に結合し、さらに、抗体のFc部分がNK細胞に結合することができるため、NK細胞が抗体結合のCD4+T細胞に対して傷害力を保持できるかどうか、かつ抗体結合のBT474腫瘍細胞に対して傷害力を保持できるかどうかの問題について検討を行った。
【0096】
1)NK細胞がCD4+T細胞に対して傷害力を保持できるかどうかを検証するに当たって、活性化したT細胞がPD1を発現するため、HER2/PD1二重特異性抗体aを加えて結合させ、また、HER2/PD1二重特異性抗体aのFc部分が効果細胞であるNK細胞のFc受容体に結合するため、NK細胞を加えてT細胞に対して傷害力があるかどうかを検証することができる。
【0097】
具体的には、以下のようにして検証を行なった。まず、CD4+T細胞を活性化させるため、D-PBSを用いて濃度が5μg/mLのCD3抗体溶液を調製し、24ウェルプレートに加えて4℃で一晩静置した。翌日、各ウェルにCD4+T細胞を5×10個播種し、2μg/mLのCD28抗体及び100U/mLのIL2を加えて37℃、COインキュベータで72時間インキュベートすることによりCD4+T細胞を活性化させた。
【0098】
活性化したT細胞を回収し、FACSでPD1発現状況を確認し、5%のFBSを含む1640培地でPD1高発現のT細胞を2×10個細胞/mLになるように調製し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLずつ加えた。
【0099】
HER2/PD1二重特異性抗体aおよび陰性対照物であるHER2モノクローナル抗体を濃度400nMから段階的に5倍し、T細胞を蒔いた96ウェルプレートを加えて37℃、COインキュベータで15分間静置した。一方、5%のFBSを含む1640培地でNK細胞を5×10個細胞/mLになるように調製し、上記96ウェルプレートの各ウェルに100μL加えて37℃、COインキュベータにおいて3時間静置することにより傷害検証実験を行った。
【0100】
96ウェルプレートを300g、5分間遠心し、上澄みを回収して更に1回遠心した後、上澄み100μLを別の96ウェルプレートに移し、各ウェルに更にLDH基質を50μL加えて15分間静置した。SpectraMaxM5プレートリーダーを用い、450nmを測定波長とし、650nmを基準波長としてOD値を測定し、得られた測定データをGraphPad Prism6で整理し、解析図を作成した。実験結果は図8Aに示され、NK細胞がCD4+T細胞に対して明らかな傷害効果を示さず、HER2/PD1二重特異性抗体aが高濃度で存在する場合に限って微弱ながら一定の傷害効果を示すことが確認できた。
【0101】
2)HER2抗原がBT474細胞の表面で発現し、HER2/PD1二重特異性抗体aを加えると、抗体はBT474細胞に結合することができ、一方、HER2/PD1二重特異性抗体aのFc部分とNK効果細胞のFc受容体が結合するため、NK細胞を加えてBT474細胞に対して傷害効果があるかどうかを検証することができる。
【0102】
BT474腫瘍細胞に対するNK細胞のADCC活性を検証するため、BT474細胞を5%のFBSを含む1640培地で2×10個細胞/mLになるように調製し、96ウェルプレートの各ウェルに50μLを加えて37℃、5%のCOインキュベータで一晩培養した。
【0103】
HER2/PD1二重特異性抗体aおよび陰性対照物であるHER2モノクローナル抗体を濃度200nMから段階的に4倍希釈し、BT474細胞を蒔いた96ウェルプレートに加えて37℃、5%のCOインキュベータで15分間静置した。同時に、NK細胞を5%のFBSを含む1640培地で5×10個細胞/mLになるように調製し、上記96ウェルプレートの各ウェルに100μLずつを加えて37℃、COインキュベータで3時間静置した。
【0104】
96ウェルプレートを300g、5分間遠心し、上澄みを回収して更に1回遠心した後、上澄みを100μL取って別の96ウェルプレートに移し、各ウェルに更にLDH基質を50μL加えで15分間静置した。SpectraMaxM5プレートリーダーを用い、450nmを測定波長とし、650nmを基準波長としてOD値を測定し、得られた測定データをGraphPad Prism6で整理し、解析図を作成した。実験結果は図8Bに示され、NK細胞がBT474腫瘍細胞に対してHER2モノクローナル抗体と同様に明らかな傷害効果を示すことが確認できた。
【0105】
実施例10:細胞レベルでHER2/PD1二重特異性抗体aの相乗効果評価
2つの標的に対するHER2/PD1二重特異性抗体の相乗効果を細胞レベルで評価するに当たっては、腫瘍細胞がHER2抗原を発現し、HER2抗体で腫瘍細胞の増殖を抑制することができ、同時に細胞がPD-L1を発現し、T細胞におけるPD-1と結合できることが求められる。こうした構想に基づくと、PD1抗体はPD-1とPD-L1の結合を阻害し、T細胞に対する抑制作用を抹消し、腫瘍細胞に対して傷害効果を奏すると推定できる。ところが、上記一連の要求を満たす細胞株を得ることは容易でなく、代わりにレンチウイルスベクターを用いてPD-L1遺伝子をヒト胃がんNCI-N87細胞株に導入することによりN87-PDL1細胞を構築することにした。そして、N87-PDL1細胞の表面で高いレベルで発現するPD-L1についてはFACS法で確認した。
【0106】
対数増殖期にあるN87-PDL1細胞をパンクレアチンで消化した後、1%のFBSを含む640培地で1×10個細胞/mLになるように希釈し、白色で且つ底部透明の96ウェルプレートの各ウェルに100μL加えて37℃、5%のCOインキュベータで一晩培養した。翌日、各ウェルに1%のFBSを含む1640培地で新たに希釈したPBMC細胞を50μL、1ウェル当たり1×10個細胞となるように播種し、同時に各ウェルにそれぞれ測定用抗体試料としてHER2/PD1二重特異性抗体a、HER2モノクローナル抗体、HER2モノクローナル抗体とPD1モノクローナル抗体の併用、PD1モノクローナル抗体を50μLずつ、抗体濃度が4nMになるように加えて37℃、5%のCOインキュベータで6日間培養した。そして、96ウェルプレートをPBSで3回洗い流し、各ウェルに更に培地で1:1の倍率で希釈したCellTiter-Gloを100μL加えた後、spectramax i3を用いて発光量を測定し、得られたデータをGraphPad Prismで整理し、解析図を作成した。実験結果は、図9A図9Bに示され、腫瘍細胞に対する傷害効果からしてHER2/PD1二重特異性抗体aがHER2モノクローナル抗体や、HER2モノクローナル抗体とPD1モノクローナル抗体併用の場合を上回り、二重特異性抗体の両部分が抗腫瘍活性において相乗効果を示すことが確認できた。
【0107】
実施例11:NCI-N87移植モデルにおけるHER2/PD1二重特異性抗体aの抗腫瘍効果評価
体外で培養したヒト胃がんNCI-N87細胞株を、無血清培地で濃度が5×10個細胞/mLになるように再懸濁させ、細胞懸液を100μL取って無菌条件下でヌードマウスの背部皮下に接種した。ノギスで移植腫瘍の長さと幅を計測して腫瘍体積を算出し、腫瘍が100~200mmに成長するまで待ってからマウスをランダムで幾つかの組に分けた。
【0108】
測定試料としてのHER2/PD1二重特異性抗体aの投与量をそれぞれ20mg/kg(0.4mg/匹)、4mg/kg(0.08mg/)とし、陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体の投与量を15mg/kg(0.3mg/匹)とし、ブランク組には同量のPBSを投与した。腹腔経由で投与を行い、体重20gのマウス1匹当たりに0.2mL、週に2回、3週間連続して投与を行った。
【0109】
移植腫瘍の体積を毎週2回の頻度で測定し、同時にマウス体重を秤量して記録した。腫瘍体積(tumor volume,TV)は、算式TV=1/2×長さ×幅を利用して算出し、さらに、得られた数値に基づき算式RTV=Vt/V0を利用して相対腫瘍体積(relative tumor volume,RTV)を算出し、そのうちV0は組を分けるとき(すなわち、0日目)に測定した腫瘍体積であり、Vtは指定時点で測定した腫瘍体積であった。抗腫瘍活性を評価するに当たっては相対腫瘍増殖率T/C(%)を指標とし、相対腫瘍増殖率の算式はT/C(%)=(TRTV/CRTV)×100であり、そのうちTRTVは治療組のRTVであり、CRTVは陰性対照組のRTVであった。また、腫瘍抑制率は算式1-T/C(%)を利用して算出し、T/C(%)>40%の場合を腫瘍抑制効果無しとし、T/C(%)≦40であり且つ統計学的にp≦0.05の場合を腫瘍抑制効果ありとして評価を行った。実験結果は、図10に示され、移植モデルにおいてHER2/PD1二重特異性抗体aが陽性対照物であるHER2モノクローナル抗体と同等の抗腫瘍効果を示すことが確認できた。
【0110】
実施例12:ヒト化PD1を移植したマウスMC38腫瘍モデルにおけるHER2/PD1二重特異性抗体aの抗腫瘍効果評価
測定試料としてのHER2/PD1二重特異性抗体aの投与量を13mg/kgとし、陽性対照物であるPD1モノクローナル抗体の投与量を10mg/kgとし、ブランク組には同量の生理塩水を投与した。体外で培養したMC38マウス大腸がん細胞を濃度が1×10個細胞/mLになるように再懸濁させ、細胞懸液を100μL取って無菌条件下でヒト化PD1を移植したマウスの右脇皮下に接種した。ヒト化PD1を移植したマウスの移植腫瘍の直径をノギスで測定し、平均腫瘍体積が100~200mmになるまで待ってからマウスをランダムで幾つかの組に分けた。PD1モノクローナル抗体やHER2/PD1二重特異性抗体aは、上述の投与量に従って投与し、ブランク組には同量の生理塩水を与え、腹腔経由で週に2回、3週間連続して投与を行った。
【0111】
毎週2回の頻度で移植腫瘍の直径を測定し、同時にマウス体重を秤量して記録した。腫瘍体積(tumorvolume,TV)は算式TV=1/2×長さ×幅を利用して算出し、得られた数値に基づき、更に算式RTV=Vt/V0を利用して相対腫瘍体積(relative tumor volume,RTV)を算出し、そのうちV0は組を分けるとき(すなわち、0日目)に測定した腫瘍体積であり、Vtは指定時点で測定した腫瘍体積であった。抗腫瘍活性を評価するに当たっては、相対腫瘍増殖率T/C(%)を指標とし、相対腫瘍増殖率の算式はT/C(%)=(TRTV/CRTV)×100であり、そのうちTRTVは治療組のRTVであり、CRTVは陰性対照組のRTVであった。また、腫瘍抑制率は算式1-T/C(%)を利用して算出し、T/C(%)>40%の場合を腫瘍抑制効果無しとし、T/C(%)≦40であり且つ統計学的にp≦0.05の場合を腫瘍抑制効果ありとして評価を行った。実験を2回繰り返し、実験結果は図11に示され、HER2/PD1二重特異性抗体aがヒト化PD1を移植したマウスMC38腫瘍モデルにおいてPD1活性を阻害することで腫瘍増殖を抑制し、陽性対照物であるPD1モノクローナル抗体と同等の抗腫瘍効果を示すことが確認できた。
【0112】
実施例13:HER2/PD1二重特異性抗体a、bの安定性評価
タンパク質構造に対する添加剤の影響などを含め、相互作用に関連する熱力学的パラメータを検討、評価するということは、製剤の最適化および開発に最も必要とされる作用機序関連の情報を提供することができる。そこで、試料および緩衝液を0.22μmのメンブレンフィルタで濾過した後、それぞれ400μLを取って96ウェルプレートに移し、MicroCal VP-Capillary DSCを用いて25℃~100℃の温度範囲、加熱速度120℃/1時間の条件下で走査した。
【0113】
HER2/PD1二重特異性抗体a、bはPBS(pH7.4)に保存し、これら二重特異性抗体のTmをDSCで測定する際に得られた測定値を表11に示し、測定グラフは図12A図12Bに示される通りである。実験結果から、本発明に係る二重特異性抗体が高い安定性を有することが確認でき、37℃で長期安定性を測定するときも同じ結果が得られた。HPLC-SECを用いる測定結果は、図12C図12Dに示される通りである。
【0114】
【表11】
【0115】
以上のことから、本発明に係る二重特異性抗体は、安定な構造を有し、同時にHER2抗原およびPD1抗原に結合でき、さらに、HER2シグナル経路を遮断することでHER2抗原を発現する腫瘍細胞の増殖を抑制し、同時にPD-1/PD-L1経路を遮断してT細胞の免疫傷害活性を亢進させることで腫瘍細胞を傷害することができ、並びに二重特異性抗体におけるHER2抗体のFc部分がNK細胞のFc受容体に結合してADCC活性を亢進させることで腫瘍細胞を傷害することができ、Tリンパ球に対しては明らかな傷害効果を示さないことが確認できた。
図1A
図1B
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
【配列表】
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