(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び制御方法、並びに、プログラム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/14 20060101AFI20221026BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20221026BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20221026BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20221026BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221026BHJP
F02D 41/12 20060101ALI20221026BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
F16H61/14 601Z
F02D29/00 C
F02D29/00 G
B60W10/00 102
B60W10/06
B60W10/02
F02D41/12
F02D41/34
(21)【出願番号】P 2021561380
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2020043398
(87)【国際公開番号】W WO2021106784
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2019216985
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平迫 一樹
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203527(JP,A)
【文献】特開2019-158024(JP,A)
【文献】特開2019-100473(JP,A)
【文献】特開2018-115700(JP,A)
【文献】特開2016-151325(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
B60W 10/00,10/02,10/06,10/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと有段変速機構の間に介装されるトルクコンバータに有するロックアップクラッチの締結/解放を制御するロックアップ制御部と、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する運転モード選択部と、を備える車両の制御装置であって、
前記ロックアップ制御部は、
前記第1運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中に車速が低下し、第1車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速が低下し、第2車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速が低下し、第3車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第3車速を前記第1車速より低車速に設定し、前記第2車速を前記第1車速より高車速に設定する
車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の制御装置において、
前記第1運転モードは、ノーマルモードであり、前記第2運転モードは、エコモードである
車両の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された車両の制御装置において、
車速とアクセル開度に決まる運転点と変速マップに基づいて前記有段変速機構による複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速制御部を備え、
前記ロックアップ制御部は、前記第1車速と前記第2車速と前記第3車速を、コーストダウンシフト実行中となる車速域を除いたインギヤ中の車速域に設定する
車両の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された車両の制御装置において、
前記エンジンへの燃料供給を遮断するフューエルカットと、前記エンジンの一部気筒への燃料供給を復帰するトルクアップリカバーと、前記エンジンの全気筒への燃料供給を復帰するフューエルカットリカバーとを切替える燃料制御部を備え、
前記ロックアップ制御部は、前記第1運転モードが選択されている場合、前記フューエルカットによる減速中のとき、前記第1車速よりも高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、コーストダウンシフト中に前記フューエルカットから前記トルクアップリカバーへの移行要求を前記燃料制御部へ出力し、
前記コーストダウンシフトが終了すると、前記トルクアップリカバーから前記フューエルカットリカバーへの移行要求を前記燃料制御部へ出力する
車両の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載された車両の制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、前記第2運転モードが選択されている場合、前記フューエルカットかつブレーキ操作オフでコースト減速中のとき、前記第2車速より高車速側でコーストダウンシフトの要求があっても前記トルクアップリカバーへの移行要求を出力せず、前記第2車速になったら前記フューエルカットから前記フューエルカットリカバーへの移行要求を前記燃料制御部へ出力する
車両の制御装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載された車両の制御装置において、
前記ロックアップ制御部は、前記第2運転モードが選択されている場合、前記フューエルカットとブレーキ操作オンによるブレーキ減速中のとき、前記第3車速より高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、前記コーストダウンシフト中に前記フューエルカットから前記トルクアップリカバーへの移行要求を前記燃料制御部へ出力し、
前記トルクアップリカバーを終了すると、前記トルクアップリカバーから前記フューエルカットへ戻す要求を前記燃料制御部へ出力し、
前記フューエルカットの状態での車速低下により前記第3車速になったら前記フューエルカットから前記フューエルカットリカバーへの移行要求を前記燃料制御部へ出力する
車両の制御装置。
【請求項7】
エンジンと有段変速機構の間に介装されるトルクコンバータに有するロックアップクラッチの締結/解放を制御し、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する車両の制御方法であって、
前記第1運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中に車速が低下し、第1車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速が低下し、第2車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速が低下し、第3車速になったら前記ロックアップクラッチを解放し、
前記第3車速を前記第1車速より低車速に設定し、前記第2車速を前記第1車速より高車速に設定する
車両の制御方法。
【請求項8】
エンジンと有段変速機構の間に介装されるトルクコンバータに有するロックアップクラッチと、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する運転モード選択部と、を備える車両のコンピュータが実行可能なプログラムであって、
前記プログラムは、
前記第1運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中に車速が低下し、第1車速になったら前記ロックアップクラッチを解放する手順と、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速が低下し、第2車速になったら前記ロックアップクラッチを解放する手順と、
前記第2運転モードが選択されている場合、前記ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速が低下し、第3車速になったら前記ロックアップクラッチを解放する手順と、
前記第3車速を前記第1車速より低車速に設定し、前記第2車速を前記第1車速より高車速に設定する手順と、
を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチを備える車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
コースト時で所定のエンジン回転速度以上の場合に燃料供給を停止する燃料カット制御を行うエンジンと、ロックアップ機構付流体伝動装置を介してエンジンの駆動力が入力される変速機と、エンジンにより駆動される補機とを有する車両の制御装置が知られている。JP2002-248935Aには、コースト時でのロックアップ機構の締結中に、低車速領域では補機負荷を低減させること。そして、補機負荷を低減させる時間に制限を設け、制限時間経過後はロックアップ機構の解放と、補機負荷の低減の中止を行うこと。更に、制限時間経過前であっても、車速が所定のロックアップ解放車速以下になったら、ロックアップ機構の解放と、補機負荷の低減の中止を行うことが開示されている。
【発明の概要】
【0003】
しかしながら、JP2002-248935Aに記載された先行技術にあっては、他の条件にかかわらず、車速が所定のロックアップ解放車速以下になったら、ロックアップ機構を解放する制御としている。このため、走行シーンによってはロックアップ解放車速が適切でない場合があり、減速感が強く出てしまったり燃費が悪化する原因になりうる。
【0004】
本発明は、上記課題や要望に着目してなされたもので、ロックアップ解放車速が適切でないことで生じる上記問題を解決することを目的とする。
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のある態様によれば、車両の制御装置は、エンジンと有段変速機構の間に介装されるトルクコンバータに有するロックアップクラッチの締結/解放を制御するロックアップ制御部と、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する運転モード選択部と、を備える。ロックアップ制御部は、第1運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチを締結した状態での走行中に車速が低下し、第1車速になったらロックアップクラッチを解放し、第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速が低下し、第2車速になったらロックアップクラッチを解放し、第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速が低下し、第3車速になったらロックアップクラッチを解放し、第3車速を第1車速より低車速に設定し、第2車速を第1車速より高車速に設定する。
【0006】
上記態様によれば、上記解決手段を採用したため、第2運転モードでの減速シーンの際、第1運転モードでの減速シーンに比べ、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施例1の制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
【
図2】
図2は、自動変速機のギヤトレーンの一例を示すスケルトン図である。
【
図3】
図3は、自動変速機での変速用摩擦要素の各ギヤ段での締結状態を示す締結表図である。
【
図4】
図4は、自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
【
図5】
図5は、自動変速機のコントロールバルブユニットを示す油圧制御系構成図である。
【
図6】
図6は、ノーマルモード選択時に変速制御で用いられる低速域・低開度域でのダウンシフト線を示すノーマルモード変速マップ図である。
【
図7】
図7は、エコモード選択時に変速制御で用いられる低速域・低開度域でのダウンシフト線を示すエコモード変速マップ図である。
【
図8】
図8は、変速機コントロールユニットのロックアップ制御部にて実行されるロックアップ制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、ノーマルモードとエコモード(ブレーキ操作オフ)とエコモード(ブレーキ操作オン)において低下する車速を横軸とする変速制御・ロックアップ制御・燃料制御のモード別比較を示す制御比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る車両の制御装置を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0009】
実施例1の制御装置は、前進9速・後退1速のギヤ段を有するシフト・バイ・ワイヤ及びパーク・バイ・ワイヤによる自動変速機を搭載したエンジン車(車両の一例)に適用したものである。以下、実施例1の構成を「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「油圧制御系の詳細構成」、「ロックアップ制御処理構成」に分けて説明する。
【0010】
[全体システム構成(
図1)]
エンジン車の駆動系には、
図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。トルクコンバータ2は、締結によりエンジン1のクランク軸と自動変速機3の入力軸INを直結するロックアップクラッチ2aを内蔵する。自動変速機3は、ギヤトレーン3aとパークギヤ3bを内蔵する。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧制御回路やソレノイドバルブ等により構成されるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。
【0011】
コントロールバルブユニット6は、ソレノイドバルブとして、摩擦要素毎に6個設けられるクラッチソレノイド20と、それぞれ1個設けられるライン圧ソレノイド21、潤滑ソレノイド22、ロックアップソレノイド23を有する。即ち、合計9個のソレノイドバルブを有する。これらのソレノイドバルブは何れも3方向リニアソレノイド構造であり、変速機コントロールユニット10からの制御指令を受けて調圧作動する。
【0012】
エンジン車の電子制御系には、
図1に示すように、変速機コントロールユニット10(略称:「ATCU」という。)と、エンジンコントロールモジュール11(略称:「ECM」という。)と、CAN通信線70と、を備える。ここで、変速機コントロールユニット10は、センサモジュールユニット71(略称:「USM」という。)からのイグニッション信号によって起動/停止をする。つまり、変速機コントロールユニット10の起動/停止を、イグニッションスイッチによる起動/停止の場合に比べて起動バリエーションが増える「ウェイクアップ/スリープ制御」としている。
【0013】
変速機コントロールユニット10は、コントロールバルブユニット6の上面位置に機電一体に設けられ、ユニット基板にメイン基板温度センサ31と、サブ基板温度センサ32と、を互いに独立性を担保しながら冗長系により備える。即ち、メイン基板温度センサ31とサブ基板温度センサ32は、センサ値情報を変速機コントロールユニット10に送信するが、周知の自動変速機ユニットとは異なり、オイルパン内で変速機作動油(ATF)に直接接触していない温度情報を送信する。
【0014】
変速機コントロールユニット10は、メイン基板温度センサ31、サブ基板温度センサ32の他に、運転モード選択スイッチ12、タービン回転センサ13、出力軸回転センサ14、ブレーキスイッチ15からの信号を入力する。さらに、シフタコントロールユニット18、中間軸回転センサ19、等からの信号を入力する。
【0015】
運転モード選択スイッチ12は、ドライバによるスイッチ操作により「エコモード」が選択された場合には、ノーマルモードより燃費性能を重視する運転モードである「エコモード」で走行する。「エコモード」で走行中にスイッチが操作されると「エコモード」より運転性能が重視される「ノーマルモード」に切り替わる。運転者は、スイッチ操作により、運転性能を重視する「ノーマルモード」と燃費性能を重視する「エコモード」のいずれかの運転モードを選択する。タービン回転センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転速度(=変速機入力軸回転速度)を検出し、タービン回転速度Ntを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。出力軸回転センサ14は、自動変速機3の出力軸回転速度を検出し、出力軸回転速度No(=車速VSP)を示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。ブレーキスイッチ15は、運転者によるブレーキ操作オンかブレーキ操作オフかを示すスイッチ信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0016】
シフタコントロールユニット18は、運転者によるシフタ181へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を判定し、レンジ位置信号を変速機コントロールユニット10に送信する。なお、シフタ181は、モーメンタリ構造であり、操作部181aの上部にPレンジボタン181bを有し、操作部181aの側部にロック解除ボタン181c(N→R時のみ)を有する。そして、レンジ位置として、Hレンジ(ホームレンジ)とRレンジ(リバースレンジ)とDレンジ(ドライブレンジ)とN(d),N(r)(ニュートラルレンジ)を有する。中間軸回転センサ19は、中間軸(インターミディエイトシャフト=第1キャリアC1に連結される回転メンバ)の回転速度を検出し、中間軸回転速度Nintを示す信号を変速機コントロールユニット10に送信する。
【0017】
変速機コントロールユニット10では、変速マップ(
図4参照)上での車速VSPとアクセル開度APOによる運転点(VSP,APO)の変化を監視することで、
1.オートアップシフト(アクセル開度を保った状態での車速上昇による)
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)
と呼ばれる基本変速パターンによる変速制御を行う。なお、本例では、「8.コーストダンシフト」が行われるときのロックアップ制御やエンジン1の燃料制御を取り扱う。
【0018】
エンジンコントロールモジュール11は、アクセル開度センサ16、エンジン回転センサ17、等からの信号を入力する。
【0019】
アクセル開度センサ16は、運転者のアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。エンジン回転センサ17は、エンジン1の回転速度を検出し、エンジン回転速度Neを示す信号をエンジンコントロールモジュール11に送信する。
【0020】
エンジンコントロールモジュール11では、エンジン単体の様々な制御に加え、変速機コントロールユニット10との協調制御によりエンジントルク制限制御等を行う。変速機コントロールユニット10とは、双方向に情報交換可能なCAN通信線70を介して接続されているため、変速機コントロールユニット10から情報リクエストが入力されると、アクセル開度APOやエンジン回転速度Neの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。さらに、推定算出によるエンジントルクTeやタービントルクTtの情報を変速機コントロールユニット10に出力する。また、変速機コントロールユニット10から上限トルクによるエンジントルク制限要求が入力されると、エンジントルクを所定の上限トルクにより制限したトルクとするエンジントルク制限制御が実行される。
【0021】
エンジンコントロールモジュール11には、エンジン1への燃料供給を遮断するフューエルカットと、エンジン1の一部気筒(例えば、半気筒であってもよいし、1気筒以上、全気筒未満を)への燃料供給を復帰するトルクアップリカバーと、エンジン1の全気筒への燃料供給を復帰するフューエルカットリカバーとを切替える燃料制御部110を備える。燃料制御部110は、走行中にアクセル足離し操作を検出すると、エンジン1への燃料供給を遮断するフューエルカット状態とする。そして、フューエルカット状態での減速中、変速機コントロールユニット10からの要求によりフューエルカットとトルクアップリカバーとフューエルカットリカバーとを切替える。以下、フューエルカットの略称を「F/C」といい、トルクアップリカバーの略称を「TUR」といい、フューエルカットリカバーの略称を「FCR」という。エンジン1の一部気筒への燃料供給を復帰するトルクアップリカバーで燃料供給を復帰する一部気筒は、1気筒以上かつ全気筒未満で適宜選択できる。
【0022】
[自動変速機の詳細構成(
図2、
図3、
図4)]
自動変速機3は、複数のギヤ段が設定可能なギヤトレーン3a(有段変速機構)と複数の摩擦要素を有し、下記の点を特徴とする。
(a) 変速要素として、機械的に係合/空転するワンウェイクラッチを用いていない。
(b) 摩擦要素である第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、第1クラッチK1、第2クラッチK2、第3クラッチK3は、変速時にクラッチソレノイド20によってそれぞれ独立に締結/解放状態が制御される。
(c) 摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、クラッチソレノイドに最大圧指令を出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20に出力する。
(d) 第2クラッチK2と第3クラッチK3は、クラッチピストン油室に作用する遠心力による遠心圧を相殺する遠心キャンセル室を有する。
【0023】
自動変速機3は、
図2に示すように、ギヤトレーン3aを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0024】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0025】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0026】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0027】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0028】
自動変速機3は、
図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0029】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0030】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0031】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0032】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0033】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0034】
図3に基づいて、各ギヤ段を成立させる変速構成を説明する。1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチK2の同時締結により達成する。4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の1速段~5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブギヤ段である。
【0035】
6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0036】
7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の7速段~9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブギヤ段である。
【0037】
さらに、1速段から9速段までのギヤ段のうち、隣接するギヤ段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、
図3に示すように、掛け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接するギヤ段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0038】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、基本的に6個の摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0039】
そして、変速機コントロールユニット10には、
図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の1速段から9速段までのギヤ段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が
図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が
図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0040】
[油圧制御系の詳細構成(
図5~
図7)]
変速機コントロールユニット10によって油圧制御されるコントロールバルブユニット6は、
図5に示すように、油圧源として、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62を備える。メカオイルポンプ61は、エンジン1によりポンプ駆動され、電動オイルポンプ62は、電動モータ63によりポンプ駆動される。
【0041】
コントロールバルブユニット6は、油圧制御回路に設けられる弁として、ライン圧ソレノイド21とライン圧調圧弁64とクラッチソレノイド20とロックアップソレノイド23を備える。そして、潤滑ソレノイド22と潤滑調圧弁65とブースト切り替え弁66を備える。さらに、P-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を備える。
【0042】
ライン圧調圧弁64は、メカオイルポンプ61と電動オイルポンプ62の少なくとも一方からの吐出油を、ライン圧ソレノイド21からのバルブ作動信号圧に基づいてライン圧PLに調圧する。
【0043】
ここで、ライン圧ソレノイド21は、変速機コントロールユニット10に有するライン圧制御部100から制御指令により調圧駆動する。ライン圧制御部100は、後述するように、インギヤ中に中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力するのに伴い、ギヤトレーン3aへの入力トルクの大きさに対する目標ライン圧特性を、インギヤ中に最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力する場合の目標ライン圧特性よりも低圧側に設定している。
【0044】
クラッチソレノイド20は、ライン圧PLを元圧とし、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に締結圧や解放圧を制御する変速系ソレノイドである。なお、
図5ではクラッチソレノイド20が1個であるように記載しているが、摩擦要素(B1,B2,B3,K1,K2,K3)毎に6個のソレノイドを有する。
【0045】
ここで、クラッチソレノイド20は、変速機コントロールユニット10に有する変速制御部101からの制御指令により調圧駆動する。変速制御部101は、締結圧制御機能と運転モード対応変速制御機能を有する。締結圧制御機能とは、摩擦要素の締結圧制御において締結状態を維持するインギヤ中、最大圧指令をクラッチソレノイドへ出力するのではなく、クラッチ滑りを抑えることができる要素入力トルク相当の中間圧指令をクラッチソレノイド20へ出力する機能をいう。運転モード対応変速制御機能とは、運転モード選択部103からの運転モード選択信号を入力し、エコモードを選択しているとき、ノーマルモードを選択しているときに比べ、ダウンシフト要求車速を低車速側に変更することで燃費性能を向上する機能をいう。具体的には、ノーマルモードを選択しているとき、
図6に示すノーマルモード変速マップを用いてコースト減速中のダウンシフト制御を行い、エコモードを選択しているとき、
図7に示すエコモード変速マップを用いてコースト減速中のダウンシフト制御を行う。よって、4→3コーストダウンシフト(略称「CD43」)、3→2コーストダウンシフト(略称「CD32」)のとき、ノーマルモードを選択しているときに比べエコモードを選択しているときのダウンシフト要求車速が低車速側に変更される。なお、5→4コーストダウンシフト(略称「CD54」)、2→1コーストダウンシフト(略称「CD21」)についてはダウンシフト要求車速を変えない。
【0046】
ロックアップソレノイド23は、ロックアップクラッチ2aのスリップ締結時、ライン圧調圧弁64により作り出されたライン圧PLと調圧余剰油を用い、ロックアップクラッチ2aのクラッチ差圧を制御する。
【0047】
ここで、ロックアップソレノイド23は、変速機コントロールユニット10に有するロックアップ制御部102からの制御指令によりロックアップクラッチ2aの締結(微小スリップ締結)/解放を制御する。ロックアップ制御部102は、運転モード選択部103からの運転モード選択信号、変速制御部101からの変速情報、燃料制御部110からの燃料制御情報、ブレーキスイッチ15からのブレーキ操作情報などを入力する。そして、発進直後の低車速域に設定されたロックアップ車速になると、運転モードやギヤ段や変速にかかわらず、ロックアップクラッチ2aの微小スリップ締結を維持するロックアップ締結制御を実行する。ロックアップクラッチ2aを解放するロックアップ解放制御については、コースト減速中にモード選択とブレーキ操作おいて、「ノーマルモード選択」と「エコモード選択/ブレーキ操作オフ」と「エコモード選択/ブレーキ操作オン」との3つのパターンとに分ける。つまり、3つのパターンでそれぞれ異なるロックアップ解放車速(第1車速、第2車速、第3車速)を設定し、車速VSPが低下して設定したロックアップ解放車速になるとロックアップクラッチ2aを解放するロックアップ解放制御を行う。なお、ロックアップ制御部102からは、コースト減速中、燃料制御部110に対してロックアップ解放制御との協調制御を要求する指令が出力される。
【0048】
潤滑ソレノイド22は、潤滑調圧弁65へのバルブ作動信号圧と、ブースト切り替え弁66への切替え圧とを作り出し、摩擦要素へ供給する潤滑流量を、発熱を抑える適正な流量に調圧する機能を有する。そして、連続変速プロテクション以外のときに摩擦要素の発熱を抑える最低潤滑流量をメカ保証し、最低潤滑流量に上乗せされる潤滑流量分を調整するソレノイドである。
【0049】
潤滑調圧弁65は、潤滑ソレノイド22からのバルブ作動信号圧によって、摩擦要素とギヤトレーン3aを含むパワートレーン(PT)へクーラー69を介して供給する潤滑流量をコントロールすることができる。そして、潤滑調圧弁65によってPT供給潤滑流量を適正化することでフリクションを低減する。
【0050】
ブースト切り替え弁66は、潤滑ソレノイド22からの切替え圧によって、第2クラッチK2と第3クラッチK3の遠心キャンセル室の供給油量を増加する。このブースト切り替え弁66は、遠心キャンセル室の油量が不足しているシーンで一時的に供給油量を増やすときに使用する。
【0051】
P-nP切り替え弁67は、潤滑ソレノイド22(又はパークソレノイド)からの切替え圧によってパーク油圧アクチュエータ68へのライン圧路を切り替える。Pレンジへの選択時にパークギヤ3bを噛合わせるパークロックと、PレンジからPレンジ以外のレンジへの選択時にパークギヤ3bの噛合を解除するパークロック解除を行う。
【0052】
このように、運転者が操作するシフトレバーと機械的に連結され、Dレンジ圧油路やRレンジ圧油路やPレンジ圧油路等を切り替えるマニュアルバルブを廃止したコントロールバルブユニット6の構成としている。そして、シフタ181によりD,R,Nレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、6個の摩擦要素を独立に締結/解放する制御を採用することで「シフト・バイ・ワイヤ」を達成している。さらに、シフタ181によりPレンジを選択した際、シフタコントロールユニット18からのレンジ位置信号に基づいて、パークモジュールを構成するP-nP切り替え弁67とパーク油圧アクチュエータ68を作動させることで「パーク・バイ・ワイヤ」を達成している。
【0053】
[ロックアップ制御処理構成(
図8)]
図8は、変速機コントロールユニット10のロックアップ制御部102にて実行されるロックアップ制御処理の流れを示す。以下、
図8の各ステップについて説明する。
【0054】
ステップS1では、処理スタートに続き、運転モードとしてノーマルモードが選択されているか否かを判定する。YES(ノーマルモードの選択)の場合はステップS2へ進み、NO(エコモードの選択)の場合はステップS10へ進む。
【0055】
ステップS2では、S1でのノーマルモードの選択であるとの判定に続き、ロックアップクラッチ2aは微小スリップ締結状態(LU状態)であるか否かを判定する。YES(LU状態)の場合はステップS3へ進み、NO(unLU状態)の場合はリターンへ進む。
【0056】
ステップS3では、S2でのLU状態であるとの判定に続き、アクセル足離し操作に基づいてエンジン1への燃料供給を停止しているフューエルカット(F/C)であるか否かを判定する。YES(F/Cである)の場合はステップS4へ進み、NO(F/Cでない)の場合はリターンへ進む。
【0057】
ステップS4では、S3でのF/Cであるとの判定、或いは、S8でのTUR→FCRへの移行処理に続き、コースト減速により車速VSPが第1車速VSP1まで低下したか否かを判定する。YES(VSP1まで低下した)の場合はステップS9へ進み、NO(VSP1まで低下していない)の場合はステップS5へ進む。
【0058】
ここで、「第1車速VSP1」とは、ノーマルモードの選択時におけるロックアップクラッチ2aのロックアップ解放車速であり、第2車速VSP2>第1車速VSP1>第3車速VSP3という関係にある(
図9を参照)。
【0059】
ステップS5では、S4での車速VSPが第1車速VSP1まで低下していないとの判定に続き、5→4コーストダウンシフト(CD54)の途中であるか否かを判定する。YES(CD54の途中である)の場合はステップS6へ進み、NO(CD54の途中でない)の場合はリターンへ進む。
【0060】
ステップS6では、S5でのCD54の途中であるとの判定、或いは、S7でのCD54を終了していないとの判定に続き、フューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、ステップS7へ進む。
【0061】
ステップS7では、S6でのトルクアップリカバー(TUR)への移行処理に続き、5→4コーストダウンシフト(CD54)が終了したか否かを判定する。YES(CD54が終了した)の場合はステップS8へ進み、NO(CD54が終了していない)の場合はステップS6へ戻る。
【0062】
ステップS8では、S7でのCD54が終了したとの判定に続き、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、ステップS4へ戻る。
【0063】
ステップS9では、S4での車速VSPが第1車速VSP1まで低下したとの判定に続き、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令をロックアップソレノイド23へ出力し、リターンへ進む。
【0064】
ステップS10では、S1でのエコモードの選択であるとの判定に続き、ロックアップクラッチ2aは微小スリップ締結状態(LU状態)であるか否かを判定する。YES(LU状態)の場合はステップS11へ進み、NO(unLU状態)の場合はリターンへ進む。
【0065】
ステップS11では、S10でのLU状態であるとの判定に続き、アクセル足離し操作に基づいてエンジン1への燃料供給を停止しているフューエルカット(F/C)であるか否かを判定する。YES(F/Cである)の場合はステップS12へ進み、NO(F/Cでない)の場合はリターンへ進む。
【0066】
ステップS12では、S11でのF/Cであるとの判定に続き、ブレーキ操作オフであるか否かを判定する。YES(ブレーキ操作オフ)の場合はステップS13へ進み、NO(ブレーキ操作オン)の場合はステップS16へ進む。なお、ブレーキ操作オフかブレーキ操作オンかは、ブレーキスイッチ15からのスイッチ信号に基づいて判定する。
【0067】
ステップS13では、S12でのブレーキ操作オフであるとの判定に続き、コースト減速により車速VSPが第2車速VSP2まで低下したか否かを判定する。YES(VSP2まで低下した)の場合はステップS14へ進み、NO(VSP2まで低下していない)の場合はリターンへ進む。
【0068】
ここで、「第2車速VSP2」とは、エコモード選択、且つ、ブレーキ操作オフにおけるロックアップクラッチ2aのロックアップ解放車速であり、第2車速VSP2>第1車速VSP1>第3車速VSP3という関係にある(
図9を参照)。
【0069】
ステップS14では、S13での車速VSPが第2車速VSP2まで低下したとの判定に続き、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令をロックアップソレノイド23へ出力し、ステップS15へ進む。
【0070】
ステップS15では、S14でのLU→unLUへの移行処理に続き、フューエルカット(F/C)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、リターンへ進む。
【0071】
ステップS16では、S12でのブレーキ操作オンとの判定に続き、ブレーキ減速により車速VSPが第3車速VSP3まで低下したか否かを判定する。YES(VSP3まで低下した)の場合はステップS21へ進み、NO(VSP3まで低下していない)の場合はステップS17へ進む。
【0072】
ここで、「第3車速VSP1」とは、エコモードの選択時、且つ、ブレーキ操作オンにおけるロックアップクラッチ2aのロックアップ解放車速であり、第2車速VSP2>第1車速VSP1>第3車速VSP3という関係にある(
図9を参照)。
【0073】
ステップS17では、S16での車速VSPが第3車速VSP3まで低下していないとの判定に続き、4→3コーストダウンシフト(CD43)の開始であるか否かを判定する。YES(CD43の開始である)の場合はステップS18へ進み、NO(CD43の開始でない)の場合はリターンへ進む。
【0074】
ステップS18では、S17でのCD43の開始であるとの判定、或いは、S19でのCD43を途中まで到達していないとの判定に続き、フューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、ステップS19へ進む。
【0075】
ステップS19では、S18でのトルクアップリカバー(TUR)への移行処理に続き、4→3コーストダウンシフト(CD43)の途中まで到達したか否かを判定する。YES(CD43の途中まで到達した)の場合はステップS20へ進み、NO(CD43の途中まで到達していない)の場合はステップS18へ戻る。
【0076】
ステップS20では、S19でのCD43の途中まで到達したとの判定に続き、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、リターンへ進む。
【0077】
ステップS21では、S16での車速VSPが第3車速VSP3まで低下したとの判定に続き、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令をロックアップソレノイド23へ出力し、ステップS22へ進む。
【0078】
ステップS22では、S21でのLU→unLUへの移行処理に続き、フューエルカット(F/C)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求を燃料制御部110へ出力し、リターンへ進む。
【0079】
次に、「背景技術と課題解決方策」について説明する。そして、実施例1の作用を、「ロックアップ制御処理作用」、「ロックアップ制御作用」に分けて説明する。
【0080】
[背景技術と課題解決方策]
コースト減速中に車速がロックアップ解放車速まで低下するとロックアップクラッチを解放する背景技術としては、選択されている運転モードにかかわらず、設定された一つのロックアップ解放車速を変えない制御としている。
【0081】
このため、背景技術にあっては、コースト減速中、運転モードとして、燃費性能を重視するエコモードが選択されているにもかかわらず、ノーマルモードが選択されている場合と同じ車速まで低下すると、ロックアップクラッチが解放される。そして、ロックアップクラッチを解放してしまうと、エンジンが駆動輪から切り離され、駆動輪によりエンジンが回されない。このため、遅くともロックアップクラッチの解放タイミングになるまでにフューエルカットされているエンジンに燃料を供給してエンジンの自立回転を維持しなければならず、燃費性能の向上を望めない、という課題があった。
【0082】
そこで、エコモードが選択されているときの燃費性能の向上に着目すると、運転性能を重視するノーマルモードが選択されているときに比べ、エコモードが選択されているときのロックアップ解放車速を低車速側に設定するという案が考えられる。しかし、エコモードの選択時であってブレーキ操作を伴わないコースト減速中、ロックアップ解放車速を低車速側に設定すると、ロックアップ締結状態が低車速域まで維持されることによるエンジンブレーキ減速感が強く出てしまうことになる。即ち、エコモードが選択されているときに一律にロックアップ解放車速を低下すると、ブレーキ操作を伴わないコースト減速中において、運転者が望むような緩減速を維持しながらの空走感が得られない。
【0083】
上記課題や要望に対して解決策を検証した結果、
(A) 第1運転モード(ノーマルモード)と第2運転モード(エコモード)に分けてロックアップ解放車速を設定すると、運転モードの選択にあらわれる運転者の意図をロックアップ解放制御に反映することができる。
(B) 第2運転モード(エコモード)の選択時、ブレーキ操作オフとブレーキ操作オンとに分けてロックアップ解放車速を設定すると、運転者操作による運転性能要求と燃費性能要求をロックアップ解放制御に反映することができる。
という点に着目した。
【0084】
上記着目点に基づいて、本開示の車両の制御装置は、エンジン1とギヤトレーン3aの間に介装されるトルクコンバータ2に有するロックアップクラッチ2aと、ロックアップクラッチ2aの締結/解放を制御するロックアップ制御部102と、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する運転モード選択部103と、を備える。ロックアップ制御部102は、第1運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中に車速VSPが低下し、第1車速VSP1になったらロックアップクラッチ2aを解放する。第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速VSPが低下し、第2車速VSP2になったらロックアップクラッチ2aを解放する。第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速VSPが低下し、第3車速VSP3になったらロックアップクラッチ2aを解放する。第3車速VSP3を第1車速VSP1より低車速に設定し、第2車速VSP2を第1車速VSP1より高車速に設定する、という解決手段を採用した。
【0085】
即ち、第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速VSPが低下し、第1車速VSP1より高車速に設定された第2車速VSP2になったらロックアップクラッチ2aが解放される。よって、第2運転モードでは、ブレーキ操作オフ状態でコースト減速走行する際、第1運転モードでのコースト減速走行に比べ、早期にロックアップクラッチ2aが解放されることになる。つまり、ロックアップクラッチ2aの解放によりニュートラル状態でのセーリング走行に移行し、セーリング走行での空走感により良好な乗り心地が得られる。
【0086】
第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速VSPが低下し、第1車速VSP1より低車速に設定された第3車速VSP3になったらロックアップクラッチ2aが解放される。よって、第2運転モードでのブレーキ操作オンによるブレーキ減速走行の際、第1運転モードでのブレーキ減速走行に比べ、ロックアップクラッチ2aの解放が遅れ、これに伴ってエンジン1のフューエルカットリカバーも遅れることになる。つまり、ブレーキ減速走行でのエンジン1のフューエルカット区間が長くなり、第1運転モードでのブレーキ減速走行に比べ、エンジン1の燃料消費量が削減される。
【0087】
このように、第2運転モードの選択時、ブレーキ操作オフとブレーキ操作オンに分けて異なるロックアップ解放車速(第2車速VSP2と第3車速VSP3)が設定されるため、運転性能要求と燃費性能要求がロックアップ解放制御に反映される。この結果、第2運転モードでの減速シーンの際、第1運転モードでの減速シーンに比べ、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができることになる。ここで、第1運転モードをノーマルモードとし、第2運転モードをエコモードとすると、エコモードでの減速シーンの際、運転者のブレーキ操作有無による運転性能要求と燃費性能要求が反映され、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができる。
【0088】
[ロックアップ制御処理作用(
図8)]
以下、
図8に基づいて、A.ノーマルモード選択時、B.エコモード選択時(ブレーキ操作オフ)、C.エコモード選択時(ブレーキ操作オン)におけるロックアップ制御処理作用を説明する。
【0089】
A.ノーマルモード選択時
ノーマルモードの選択時であって、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)である場合、S1→S2→S3→S4へと進む。S4では、コースト減速により車速VSPが第1車速VSP1まで低下したか否かが判定される。そして、車速VSPが第1車速VSP1まで低下していない場合は、S4からS5へ進み、S5では、5→4コーストダウンシフトの途中であるか否かが判定される。5→4コーストダウンシフトの途中まで車速VSPが低下していない場合は、S5からリターンへ進み、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)が維持される。
【0090】
一方、5→4コーストダウンシフトの途中まで車速VSPが低下すると、S5からS6→S7へと進み、S7にて5→4コーストダウンシフト終了と判定されるまでの間、S6→S7へと進む流れが繰り返される。S6では、フューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。S7にて5→4コーストダウンシフト終了と判定されると、S7からS8→S4へと進み、S8では、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。
【0091】
フューエルカットリカバー(FCR)へ移行した後、S4にて車速VSPが第1車速VSP1まで低下したと判定されると、S4からS9→リターンへと進む。S9では、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令がロックアップソレノイド23へ出力される。
【0092】
B.エコモード選択時(ブレーキ操作オフ)
次に、エコモードの選択時であって、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)、且つ、ブレーキ操作オフである場合、S1→S10→S11→S12→S13へと進む。S12では、ブレーキ操作オフであるか否かが判定される。S13では、ブレーキ操作オフ状態でコースト減速により車速VSPが第2車速VSP2まで低下したか否かが判定される。コースト減速により車速VSPが第2車速VSP2まで低下していない間は、S13からリターンへ進み、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)が維持される。
【0093】
一方、S13にてブレーキ操作オフ状態でコースト減速により車速VSPが第2車速VSP2まで低下したと判定されると、S13からS14→S15→リターンへと進む。S14では、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令がロックアップソレノイド23へ出力される。次のS15では、フューエルカット(F/C)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。
【0094】
C.エコモード選択時(ブレーキ操作オン)
次に、エコモードの選択時であって、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)、且つ、ブレーキ操作オンである場合、S1→S10→S11→S12→S16へと進む。S16では、ブレーキ減速により車速VSPが第3車速VSP3まで低下したか否かが判定される。そして、車速VSPが第3車速VSP3まで低下していない場合は、S16からS17へ進み、S17では、4→3コーストダウンシフトの開始であるか否かが判定される。4→3コーストダウンシフトの開始まで車速VSPが低下していない場合は、S17からリターンへ進み、微小スリップ締結状態(LU状態)、且つ、フューエルカット(F/C)が維持される。
【0095】
4→3コーストダウンシフトの開始まで車速VSPが低下すると、S17からS18→S19へと進み、S19にて4→3コーストダウンシフト途中と判定されるまでの間、S18→S19へと進む流れが繰り返される。S18では、フューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。S19にて4→3コーストダウンシフト途中と判定されると、S19からS20へと進み、S20では、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカット(F/C)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。
【0096】
一方、S16にてブレーキ操作オンによるブレーキ減速により車速VSPが第3車速VSP3まで低下したと判定されると、S16からS21→S22→リターンへと進む。S21では、ロックアップクラッチ2aを微小スリップ締結状態(LU状態)からロックアップ解放状態(unLU状態)へ移行する指令がロックアップソレノイド23へ出力される。次のS22では、フューエルカット(F/C)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する要求が燃料制御部110へ出力される。
【0097】
[ロックアップ制御作用(
図9)]
以下、
図9に基づいて、A.ノーマルモード選択時、B.エコモード選択時(ブレーキ操作オフ)、C.エコモード選択時(ブレーキ操作オン)におけるロックアップ制御作用を説明する。
【0098】
A.ノーマルモード選択時(
図9の上段)
ノーマルモードが選択されている場合の変速制御は、
図6に示す変速マップ(NORMAL)を用いて行われる。即ち、減速(ブレーキ操作オン/オフを含む)により車速VSPが低下するにしたがって、5→4コーストダウンシフト(CD54)、4→3コーストダウンシフト(CD43)、3→2コーストダウンシフト(CD32)、2→1コーストダウンシフト(CD21)が実行される。
【0099】
ノーマルモードが選択されている場合のロックアップ制御は、ロックアップクラッチ2aを締結した状態(LU状態)での走行中に車速VSPが低下し、第1車速VSP1になったらロックアップクラッチ2aが解放される。なお、ロックアップクラッチ2aの解放タイミングは、ギヤトレーン3aが3速段でのインギヤ中である。
【0100】
ノーマルモードが選択されている場合の燃料制御は、フューエルカット(F/C)によるコースト減速中のとき、第1車速VSP1よりも高車速側で5→4コーストダウンシフトの要求があると、5→4コーストダウンシフト中にフューエルカットからトルクアップリカバー(TUR)へ移行する制御が行われる。そして、5→4コーストダウンシフトが終了すると、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する制御が行われる。
【0101】
このように、ノーマルモードが選択されている場合のロックアップ制御では、ロックアップ解放車速である第1車速VSP1を、運転性能を重視しながらも可能な限りの燃費性能を確保する車速に設定している。即ち、第1車速VSP1は、ノーマルモードの選択時に運転性能と燃費性能のバランスを考慮して設定されるため、エコモードの選択時におけるロックアップ解放車速の基準値として用いることが可能である。
【0102】
ノーマルモードが選択されている場合の燃料制御では、5→4コーストダウンシフト中にフューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行することで、5→4コーストダウンシフトの変速応答性を高くしている。即ち、ダウンシフトは、変速機入力回転速度を上昇させる変速であり、エンジン1の気筒のうち一部の気筒へ燃料供給することで、エンジン1により変速機入力回転速度の上昇を促すことで、変速違和感を抑えつつ、5→4コーストダウンシフトの変速進行速度を速めることができる。なお、トルクアップリカバー(TUR)としたのは、5→4コーストダウンシフト中にフューエルカットリカバー(FCR)にすると、ギヤトレーン3aへの入力トルクがコーストトルクから急変することにより変速ショックになるおそれがあることによる。
【0103】
ノーマルモードが選択されている場合の燃料制御では、5→4コーストダウンシフトが終了すると、トルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行している。即ち、フューエルカットリカバー(FCR)への移行は、ロックアップクラッチ2aを解放するタイミングで行われるのが一般的である。しかし、ノーマルモードが選択されている場合には、アクセル足離し操作によるコースト減速中にアクセル踏み込み操作を行って再加速を要求するシーンが多くみられる。これに対し、ロックアップ状態のタイミングにてトルクアップリカバー(TUR)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行しておくと、再加速が要求された場合、応答良く再加速要求に応えることができる。つまり、再加速の要求後にフューエルカットリカバー(FCR)への移行を要さず、アクセル踏み込み操作に対してエンジン1が応答良く吹き上がる。
【0104】
B.エコモード選択時/ブレーキ操作オフ(
図9の中段)
エコモードが選択されている場合の変速制御は、
図7に示す変速マップ(ECO)を用いて行われる。即ち、減速(ブレーキ操作オン/オフを含む)により車速VSPが低下するにしたがって、5→4コーストダウンシフト(CD54)、4→3コーストダウンシフト(CD43)、3→2コーストダウンシフト(CD32)、2→1コーストダウンシフト(CD21)が実行される。このとき、4→3コーストダウンシフトと3→2コーストダウンシフトの開始タイミングは、ノーマルモードが選択されている場合よりも遅いタイミング(低車速側)になる。
【0105】
エコモードが選択されている場合のロックアップ制御は、ロックアップクラッチ2aを締結した状態(LU状態)での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速VSPが低下し、第1車速VSP1よりも高車速に設定された第2車速VSP2になったらロックアップクラッチ2aを解放する。なお、ロックアップクラッチ2aの解放タイミングは、ギヤトレーン3aが4速段でのインギヤ中である。よって、コースト減速中は、ノーマルモードの選択時よりも早期タイミングである第2車速VSP2になったら、ロックアップクラッチ2aが解放された空走状態(セーリング走行状態)が開始されることになり、第2車速VSP2以降の長いコースト減速区間において運転者を含む乗員にとって乗り心地が向上する。
【0106】
エコモードが選択されている場合の燃料制御は、フューエルカットかつブレーキ操作オフでコースト減速中のとき、第2車速VSP2より高車速側で5→4コーストダウンシフトの要求があってもトルクアップリカバーへは移行しない。即ち、アクセル/ブレーキ足離し操作によるコースト減速中は、車両の前後G変動に対して運転者の感度が高い走行シーンであり、5→4コーストダウンシフト中にトルクアップリカバーへ移行すると、小さいながらも変速機入力トルクの変動が生じる。よって、5→4コーストダウンシフトの要求があってもトルクアップリカバーへ移行しないことにより、フューエルカットかつブレーキ操作オフでコースト減速中のとき、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0107】
エコモードが選択されている場合の燃料制御は、第2車速VSP2になったらフューエルカット(F/C)からフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する。即ち、第2車速VSP2は、ロックアップクラッチ2aをLU状態からunLU状態へと移行する車速である。よって、駆動輪5から切り離されるエンジン1の自立運転を確保するために、unLU状態への移行タイミングにてフューエルカットリカバー(FCR)へ移行する必要がある。
【0108】
C.エコモード選択時/ブレーキ操作オン(
図9の下段)
エコモードが選択されている場合の変速制御は、
図7に示す変速マップ(ECO)を用い、上記エコモード選択時/ブレーキ操作オフの場合と同様に行われる。
【0109】
エコモードが選択されている場合のロックアップ制御は、ロックアップクラッチ2aを締結した状態(LU状態)での走行中にブレーキ操作オンにより車速VSPが低下し、第1車速VSP1よりも低車速に設定された第3車速VSP3になったらロックアップクラッチ2aを解放する。なお、ロックアップクラッチ2aの解放タイミングは、ギヤトレーン3aが3速段でのインギヤ中である。よって、ブレーキ減速中は、ノーマルモードの選択時よりも遅いタイミングである第3車速VSP3になるまではロックアップクラッチ2aの締結が維持されることになり、ノーマルモードの選択時に比べ、燃費性能が向上する。
【0110】
エコモードが選択されている場合の燃料制御は、フューエルカットとブレーキ操作オンによるブレーキ減速中のとき、第3車速VSP3より高車速側で4→3コーストダウンシフトの要求があると、4→3コーストダウンシフト中にフューエルカット(F/C)からトルクアップリカバー(TUR)へ移行する。即ち、運転者のブレーキ操作を伴うブレーキ減速中は、ブレーキ操作オフの場合に比べ、車両の前後G変動に対して運転者の感度が低い走行シーンであり、4→3コーストダウンシフト中にトルクアップリカバーへの移行が許容される。よって、4→3コーストダウンシフトの要求に対してトルクアップリカバーへ移行することにより、ブレーキ減速中での4→3コーストダウンシフトの変速応答性を高くすることができる。
【0111】
エコモードが選択されている場合の燃料制御は、トルクアップリカバーを終了すると、トルクアップリカバーからフューエルカットへ戻し、フューエルカットの状態での車速低下により第3車速VSP3になったらフューエルカットからフューエルカットリカバーへ移行する。即ち、トルクアップリカバーを終了すると、トルクアップリカバーからフューエルカットリカバーへ移行すると、トルクアップリカバーの終了時点から第3車速VSP3になるまでの区間で燃料を消費してしまう。これに対し、トルクアップリカバーの終了時点から第3車速VSP3になるまでの区間でフューエルカットへ戻すことで、ロックアップクラッチ2aが解放される第3車速VSP3までのブレーキ減速区間において燃料消費を削減することができる。
【0112】
ここで、ロックアップ制御では、第1車速VSP1と第2車速VSP2と第3車速VSP3を、コーストダウンシフト実行中となる車速域を除いたインギヤ中の車速域に設定している。つまり、第1車速VSP1は3速インギヤ中の車速域、第2車速VSP2は4速インギヤ中の車速域、第3車速VSP3は3速インギヤ中の車速域に設定している。
【0113】
例えば、ロックアップ解放車速である第1車速VSP1と第2車速VSP2と第3車速VSP3を、コーストダウンシフト実行中に設定すると、ロックアップクラッチ2aの解放動作と摩擦要素の架け替えによる変速動作とが重なり合って実行される。この場合、変速中にロックアップクラッチ2aの解放によってギヤトレーン3aへの入力トルクが変動することになり、コーストダウンシフトの変速品質が低下することになる。これに対し、ロックアップクラッチ2aの解放車速をインギヤ中の車速域に設定することで、ロックアップクラッチ2aの解放動作がコーストダウンシフトの変速動作と重ならず、コーストダウンシフトの変速品質を確保することができる。
【0114】
以上述べたように、実施例1の車両(エンジン車)の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を奏する。
【0115】
(1) エンジン1と有段変速機構(ギヤトレーン3a)の間に介装されるトルクコンバータ2に有するロックアップクラッチ2aの締結/解放を制御するロックアップ制御部102と、第1運転モードと第2運転モードの何れかを選択する運転モード選択部103と、を備える車両の制御装置であって、
ロックアップ制御部102は、
第1運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中に車速VSPが低下し、第1車速VSP1になったらロックアップクラッチ2aを解放し、第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オフ状態で車速VSPが低下し、第2車速VSP2になったらロックアップクラッチ2aを解放し、
第2運転モードが選択されている場合、ロックアップクラッチ2aを締結した状態での走行中にブレーキ操作オンにより車速VSPが低下し、第3車速VSP3になったらロックアップクラッチ2aを解放し、
第3車速VSP3を第1車速VSP1より低車速に設定し、第2車速VSP2を第1車速VSP1より高車速に設定する。
このため、第2運転モードでの減速シーンの際、第1運転モードでの減速シーンに比べ、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができる。
【0116】
(2) 第1運転モードは、ノーマルモードであり、第2運転モードは、エコモードである。
このため、エコモードでの減速シーンの際、運転者のブレーキ操作有無による運転性能要求と燃費性能要求が反映され、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができる。
【0117】
(3) 車速VSPとアクセル開度APOに決まる運転点(VSP,APO)と変速マップに基づいて有段変速機構(ギヤトレーン3a)による複数のギヤ段を切替える変速制御を行う変速制御部101を備え、
ロックアップ制御部102は、第1車速VSP1と第2車速VSP2と第3車速VSP3を、コーストダウンシフト実行中となる車速域を除いたインギヤ中の車速域に設定する。
このため、ロックアップクラッチ2aの解放動作がコーストダウンシフトの変速動作と重ならず、コーストダウンシフトの変速品質を確保することができる。
【0118】
(4) エンジン1への燃料供給を遮断するフューエルカットと、エンジン1の一部気筒への燃料供給を復帰するトルクアップリカバーと、エンジン1の全気筒への燃料供給を復帰するフューエルカットリカバーとを切替える燃料制御部110を備え、
ロックアップ制御部102は、第1運転モードが選択されている場合、フューエルカットによる減速中のとき、第1車速VSP1よりも高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、コーストダウンシフト中にフューエルカットからトルクアップリカバーへの移行要求を燃料制御部110へ出力し、
コーストダウンシフトが終了すると、トルクアップリカバーからフューエルカットリカバーへの移行要求を燃料制御部110へ出力する。
このため、第1運転モードが選択されている場合、第1車速VSP1よりも高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、トルクアップリカバーへ移行することで、変速違和感を抑えつつ、コーストダウンシフトの変速進行速度を速めることができる。加えて、第1運転モードが選択されている場合、コーストダウンシフトが終了するとフューエルカットリカバーへ移行することで、再加速が要求された場合、応答良く再加速要求に応えることができる。
【0119】
(5) ロックアップ制御部102は、第2運転モードが選択されている場合、フューエルカットかつブレーキ操作オフでコースト減速中のとき、第2車速VSP2より高車速側でコーストダウンシフトの要求があってもトルクアップリカバーへの移行要求を出力せず、第2車速VSP2になったらフューエルカットからフューエルカットリカバーへの移行要求を燃料制御部110へ出力する。
このため、第2運転モードが選択されている場合、コースト減速中に第2車速VSP2になったらロックアップクラッチ2aが解放され、第2車速VSP2以降の長いコースト減速区間において空走状態(セーリング走行状態)を確保することができる。加えて、第2運転モードが選択されている場合、コースト減速中のとき、第2車速VSP2より高車速側でコーストダウンシフトの要求があってもトルクアップリカバーへは移行しないことで、運転者に違和感を与えるのを防止することができる。
【0120】
(6) ロックアップ制御部102は、第2運転モードが選択されている場合、フューエルカットとブレーキ操作オンによるブレーキ減速中のとき、第3車速VSP3より高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、コーストダウンシフト中にフューエルカットからトルクアップリカバーへの移行要求を燃料制御部110へ出力し、
トルクアップリカバーを終了すると、トルクアップリカバーからフューエルカットへ戻す要求を燃料制御部110へ出力し、
フューエルカットの状態での車速低下により第3車速VSP3になったらフューエルカットからフューエルカットリカバーへの移行要求を燃料制御部110へ出力する。
このため、第2運転モードが選択されている場合、第3車速VSP3よりも高車速側でコーストダウンシフトの要求があると、トルクアップリカバーへ移行することで、変速違和感を抑えつつ、コーストダウンシフトの変速進行速度を速めることができる。加えて、第2運転モードが選択されている場合、トルクアップリカバーを終了するとトルクアップリカバーからフューエルカットへ戻すことで、ロックアップクラッチ2aが解放される第3車速VSP3までのブレーキ減速区間において燃料消費を削減することができる。
【0121】
以上、本発明の実施形態に係る車両の制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0122】
実施例1では、運転モード選択部103として、第1運転モードであるノーマルモードと第2運転モードであるエコモードを選択する例を示した。しかし、運転モード選択部としては、ノーマルモードとエコモード以外の運転モード(スポーツモードなど)を有する例としてもよい。この場合、スポーツモードを第1運転モードとし、スポーツモードより燃費を重視するノーマルモードを第2運転モードとしてもよい。これにより、ノーマルやエコ以外のモードがあっても、第2運転モードでの減速シーンの際、第1運転モードでの減速シーンに比べ、コースト減速走行での空走感による乗り心地向上とブレーキ減速走行での燃費向上を達成することができる。
【0123】
実施例1では、自動変速機として、3つの摩擦要素の締結により前進9速後退1速を達成する自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、2つの摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良いし、4つの摩擦要素の締結により複数の前進段や後退段を達成する例としても良い。また、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段ギヤ段を持つ自動変速機の例としても良いし、ベルト式無段変速機と多段変速機とを組み合わせた副変速機付き無段変速機としても良い。
【0124】
実施例1では、エンジン車に搭載される車両の制御装置の例を示した。しかし、エンジン車に限らず、エンジンを搭載したハイブリッド車の制御装置としても適用することが可能である。
【0125】
本願は、2019年11月29日付けで日本国特許庁に出願した特願2019-216985号に基づく優先権を主張し、その出願の全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。