(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-25
(45)【発行日】2022-11-02
(54)【発明の名称】絶縁電線及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 7/02 20060101AFI20221026BHJP
H01B 13/16 20060101ALI20221026BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20221026BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20221026BHJP
【FI】
H01B7/02 A
H01B13/16 B
H01B13/16 Z
C08L79/08
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022544215
(86)(22)【出願日】2022-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2022001811
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2021036490
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】村上 拓也
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-95547(JP,A)
【文献】特開2006-134813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 13/16
C08L 79/08
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を備える絶縁電線であって、
前記絶縁層は、樹脂と第1のフィラーとを含み、
前記樹脂は、ポリイミドを含み、
前記第1のフィラーは、一次粒子、または前記一次粒子の複数が集合した二次粒子として存在し、
前記一次粒子は、シリカまたはアルミナであり、
前記二次粒子の粒子径は、0.03μm以上5μm以下であり、
前記絶縁電線の横断面において、前記一次粒子の面積の合計値と、前記二次粒子の面積の合計値との和に対する、前記二次粒子の面積の合計値の割合が50%以上であ
り、
前記ポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物との重合体であり、
前記酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか一方又は両方であり、
前記ジアミン化合物は、4,4’-オキシジアニリンである、絶縁電線。
【請求項2】
前記横断面において、前記二次粒子の面積の合計値に対する、粒子径が0.2μm以上1μm以下である前記二次粒子の面積の合計値の割合が30%以上である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記絶縁層の質量に対する前記第1のフィラーの質量の割合は、5%以上30%以下である、請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記酸二無水物は、前記ピロメリット酸二無水物と前記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、
前記ピロメリット酸二無水物を10mol%以上50mol%以下で含み、
前記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50mol%以上90mol%以下で含む、請求項
1から請求項3のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の絶縁電線の製造方法であって、
前記導体と絶縁ワニスとを準備する第1工程と、
前記導体の外周面に前記絶縁ワニスを塗布する第2工程と、
前記絶縁ワニスを前記導体に焼付ける第3工程と、をこの順で含み、
前記第1工程は、前記導体を準備するA工程と、前記絶縁ワニスを準備するB工程とを含み、
前記B工程において前記絶縁ワニスは、溶剤と前記第1のフィラーと前記樹脂またはその樹脂前駆体とを混合することにより調製され、
前記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物であり、
前記第1のフィラーにおいて、前記一次粒子の粒子径が0.01μm以上0.1μm以下である、絶縁電線の製造方法。
【請求項6】
前記第3工程は、300℃以上700℃以下、0.1分以上5分以下の条件で実行される、請求項
5に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁ワニスにおける樹脂固形分濃度は、10質量%以上40質量%以下である、請求項
5又は請求項
6に記載の絶縁電線の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁ワニス中の樹脂固形分の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上35%以下である、請求項
5から請求項
7のいずれか1項に記載の絶縁電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線及びその製造方法に関する。本出願は、2021年3月8日に出願した日本特許出願である特願2021-036490号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
従来より、モーターや変圧器などに、導体と、該導体を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-251295号公報
【文献】特開2009-140878号公報
【文献】特開2010-040320号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の絶縁電線は、
導体と、該導体を被覆する絶縁層と、を備える絶縁電線であって、
該絶縁層は、樹脂と第1のフィラーとを含み、
該樹脂は、ポリイミドを含み、
該第1のフィラーは、一次粒子、または該一次粒子の複数が集合した二次粒子として存在し、
該一次粒子は、シリカまたはアルミナであり、
該二次粒子の粒子径は、0.03μm以上5μm以下であり、
該絶縁電線の横断面において、該一次粒子の面積の合計値と、該二次粒子の面積の合計値との和に対する、該二次粒子の面積の合計値の割合が50%以上である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、本開示の絶縁電線の一態様を例示する横断面の顕微鏡写真である。
【
図2】
図2は、本開示の絶縁電線の一態様を例示する模式断面(横断面)図である。
【
図3】
図3は、本開示の絶縁電線の一態様を更に例示する模式断面(横断面)図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
【0007】
絶縁電線に急激に電圧がかかると、絶縁電線と絶縁電線との間に小さな放電(サージ)が発生する。このサージに起因して、絶縁破壊が促進されてしまうという問題がある。このため、絶縁電線において、サージに起因する絶縁破壊を抑制する性質(以下、「耐サージ性」と記す)の向上が求められている。
【0008】
特開2008-251295(特許文献1)には、導体上に少なくとも2層の絶縁層を有する絶縁電線において、絶縁層の少なくとも1層(絶縁層A)に無機化合物粒子を含有させ、絶縁層Aの厚みを特定の範囲内とすることにより、絶縁電線の耐サージ性を向上できることが開示されている。
【0009】
特開2009-140878(特許文献2)には、ナノサイズの中空を有するシリカ微粒子を含有するワニスが開示されている。上記ワニスを用いて絶縁電線を製造することにより、絶縁電線の耐サージ性を向上できることが記載されている。
【0010】
特開2010-040320(特許文献3)には、特定の配合量のフェニルトリアルコキシシランを含有するワニスが開示されている。上記ワニスを用いて絶縁電線を製造することにより、絶縁電線の耐サージ性を向上できることが記載されている。
【0011】
しかし、昨今、耐サージ性のさらなる向上が求められている。
【0012】
そこで、本開示は、優れた耐サージ性を有する絶縁電線を提供することを目的とする。
[本開示の効果]
【0013】
本開示によれば、優れた耐サージ性を有する絶縁電線を提供することができる。
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の絶縁電線は、
導体と、該導体を被覆する絶縁層と、を備える絶縁電線であって、
該絶縁層は、樹脂と第1のフィラーとを含み、
該樹脂は、ポリイミドを含み、
該第1のフィラーは、一次粒子、または該一次粒子の複数が集合した二次粒子として存在し、
該一次粒子は、シリカまたはアルミナであり、
該二次粒子の粒子径は、0.03μm以上5μm以下であり、
該絶縁電線の横断面において、該一次粒子の面積の合計値と、該二次粒子の面積の合計値との和に対する、該二次粒子の面積の合計値の割合が50%以上である。
【0015】
従来、サージの発生に起因する発熱によって絶縁電線が過熱されると、絶縁電線の絶縁層に含まれる樹脂が熱分解されて該絶縁層の外側に揮散する現象が見られた。よって、サージの発生が繰り返されると絶縁電線の絶縁層が浸食され、最終的には絶縁破壊に至ることがあった。本開示の絶縁電線は、絶縁層における二次粒子(第1のフィラー)の粒子径を特定の範囲内とし、且つ、絶縁電線の横断面における二次粒子(第1のフィラー)の占める面積割合を特定の範囲とすることによって、樹脂の揮散を物理的に抑制することができる。その結果、サージに起因する絶縁破壊を抑制できる。すなわち、本開示によって、優れた耐サージ性を有する絶縁電線を提供することができる。
【0016】
また、ポリイミドは靱性に優れている。よって、本開示の絶縁電線は、樹脂にポリイミドを含むため、靱性に優れる。
【0017】
[2]上記横断面において、上記二次粒子の面積の合計値に対する、粒子径が0.2μm以上1μm以下である上記二次粒子の面積の合計値の割合は、30%以上であることが好ましい。これにより、絶縁電線の耐サージ性をより高めることができる。
【0018】
[3]絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上30%以下であることが好ましい。これにより、絶縁電線の耐サージ性をより高めることができる。
【0019】
[4]ポリイミドは、酸二無水物と、ジアミン化合物と、の重合体であることが好ましい。これにより、絶縁電線の優れた耐サージ性と絶縁層の優れた靱性とを兼備させることができる。
【0020】
[5]上記酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか一方又は両方であり、上記ジアミン化合物は、4,4’-オキシジアニリンであることが好ましい。これにより、絶縁電線のより優れた耐サージ性と絶縁層のより優れた靱性とを兼備させることができる。
【0021】
[6]上記酸二無水物は、上記ピロメリット酸二無水物と上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、上記ピロメリット酸二無水物を10mol%以上50mol%以下で含み、上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50mol%以上90mol%以下で含むことが好ましい。
【0022】
車両のトランスミッション等において、ATF(Automatic Trasmission Fluid)が用いられる。そのため、絶縁電線は、車両用モーター等に用いられると、ATFに接触する可能性がある。従来の絶縁電線がATFに接触すると、絶縁電線を構成する絶縁層に含まれる樹脂の加水分解が促進され、絶縁層に割れが生じることがあった。一般的に、ポリイミドは、ATF中の水分により加水分解を受けやすいため、耐ATF性に劣る。しかし、上記酸二無水物は、上記ピロメリット酸二無水物と上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、上記ピロメリット酸二無水物を10mol%以上50mol%以下で含み、上記3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50mol%以上90mol%以下で含むことにより、絶縁層に耐加水分解性を付与することができるため、優れた耐ATF性を備えさせることができる。なお、本明細書において、絶縁電線がATFに接触することに起因する絶縁層の加水分解を抑制する性質を「耐ATF性」と定義する。
【0023】
[7]本開示の絶縁電線の製造方法は、
上記絶縁電線の製造方法であって、上記導体と絶縁ワニスとを準備する第1工程と、
上記導体の外周面に上記絶縁ワニスを塗布する第2工程と、
上記絶縁ワニスを上記導体に焼付ける第3工程と、をこの順で含み、
上記第1工程は、上記導体を準備するA工程と、上記絶縁ワニスを準備するB工程とを含み、
上記B工程において上記絶縁ワニスは、溶剤と上記第1のフィラーと上記樹脂またはその樹脂前駆体とを混合することにより調製され、
上記溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物であり、
上記第1のフィラーにおいて、上記一次粒子の粒子径が0.01μm以上0.1μm以下である。これにより、優れた耐サージ性を有する絶縁電線を製造することが可能である。
【0024】
[8]上記第3工程は、300℃以上700℃以下、0.1分以上5分以下の条件で実行されることが好ましい。これにより、より優れた耐サージ性を有する絶縁電線を製造することが可能である。
【0025】
[9]上記絶縁ワニスにおける樹脂固形分濃度は、10質量%以上40質量%以下であることが好ましい。これにより、より優れた耐サージ性を有する絶縁電線を製造することが可能である。
【0026】
[10]上記絶縁ワニス中の樹脂固形分の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上35%以下であることが好ましい。これにより、より優れた耐サージ性を有する絶縁電線を製造することが可能である。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0028】
≪絶縁電線≫
図2は、本開示の絶縁電線の一態様を例示する模式断面(横断面)図である。本開示における絶縁電線10(以下、単に「絶縁電線」という場合がある。)は、導体11と、上記導体11を被覆する絶縁層12と、を備える(
図2)。ここで、「被覆する」とは、導体11の表面の全面を被覆することが好ましいが、本開示の効果を示す限り導体11の表面の一部が絶縁層12によって被覆されていなくても本開示の範囲を逸脱するものではない。また、本開示の絶縁電線は、更に下地層、密着層、保護層、表面層、潤滑層などを含んでも良い。
【0029】
なお、絶縁電線の形状は、線状体である。後述する絶縁電線の横断面とは、絶縁電線の長手方向に対して垂直となる面で切断することにより現れた断面を意味する。絶縁電線の横断面の形状は、円(略円を含む)であってもよく、平角であってもよい。
【0030】
<導体>
本実施形態に係る絶縁電線は、上述のように導体を備える。導体とは、電気伝導体を意味する。導体の材料としては、導電率が高くかつ機械的強度の高い金属が好ましい。具体的には、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼などが挙げられる。導体は、これらの金属を線状に形成した素線であってもよく、素線の表面を他の金属で被覆した被覆線であってもよく、複数の素線を撚り合わせた撚線であってもよい。上記被覆線としては、ニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銀被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
導体の形状は、特に限定されず、絶縁電線の使用用途、電気特性などに応じて、丸線、角線などを適宜選択することができる。すなわち絶縁電線の横断面において、導体の断面形状は、円(略円を含む)であってもよく、平角であってもよい。また、導体の径または外周の長さなども特に制限されず、絶縁電線の使用用途、電気特性などに応じて適宜選択することができる。
【0032】
絶縁電線の横断面における導体部分の断面積の下限値は0.01mm2以上が好ましく、0.1mm2以上がより好ましく、上限値は40mm2以下が好ましく、20mm2以下がより好ましい。絶縁電線の横断面における導体部分の断面積が0.01mm2以上を満たさない場合、導体に対する絶縁層の体積の割合が大きくなり、たとえば、絶縁電線を用いて形成されるコイルの体積効率が低下するおそれがある。絶縁電線の横断面における導体部分の断面積が40mm2以下を超える場合、渦電流による銅損が大きくなりコイルの出力効率が低下するおそれがある。
【0033】
<絶縁層>
図3は、本開示の絶縁電線の一態様を更に例示する模式断面(横断面)図である。絶縁層12は、樹脂1と第1のフィラーとを含む(
図3)。また、絶縁層は、更に硬化剤、その他の添加剤、第2のフィラーを含んでも良い。
【0034】
上記硬化剤は、樹脂を硬化させる機能を有するものである。具体的には、イミダゾール、トリエチルアミン、チタン系化合物、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素、メラミン化合物、アセチレン誘導体、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、および芳香族酸無水物などが挙げられる。上記チタン系化合物としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどが挙げられる。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p-フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3~12の脂肪族ジイソシアネート;1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5-ビス(イソシアナートメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナートメチル)-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5~18の脂環式イソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらの変性物などが例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン-3,3’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-3,4’-ジイソシアネート、ジフェニルエーテル-4,4’-ジイソシアネート、ベンゾフェノン-4,4’-ジイソシアネート、ジフェニルスルホン-4,4’-ジイソシアネート、トリレン-2,4-ジイソシアネート、トリレン-2,6-ジイソシアネート、ナフチレン-1,5-ジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネートなどが例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。上記アセチレン誘導体としては、エチニルアニリン、エチニルフタル酸無水物などが例示される。硬化剤として、メラミン化合物等の含窒素化合物が用いられることが好ましい。これらの硬化剤は、硬化促進効果が高いためである。
【0035】
上記その他の添加剤には、酸化防止剤、紫外線防止剤、表面潤滑付与剤などが挙げられる。
【0036】
上記第2のフィラーは、上記第1のフィラー以外のフィラーをいい、この様なフィラーを1種又は2種以上含むことができる。
【0037】
絶縁層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、200μm以下であることが好ましい。絶縁層の厚みが5μmに満たないと、絶縁層に破損が生じ易い傾向があり、導体の絶縁が不十分となるおそれがある。絶縁層の厚みが200μmを超えると、絶縁電線を用いて形成されるコイルなどの体積効率が低くなる傾向がある。
【0038】
絶縁層の厚みは、絶縁電線の横断面における絶縁層の厚みの平均値を意味する。具体的には、電線長手方向の任意の5箇所について断面研磨により平坦な断面を出し、マイクロスコープで撮像して絶縁層の厚みを測定する。各箇所で求めた値から平均値を算出し、この平均値を絶縁層の厚みとすることができる。
【0039】
(樹脂)
上記樹脂は、ポリイミドを含む。ポリイミドは、主鎖中にイミド結合(-CONCO-)を有する高分子である。ポリイミドは、耐熱性に優れることが知られている。また、ポリイミドは、靱性が高い為、後述する二次粒子を絶縁層に含有しても、絶縁層の破断を防止することができる。ポリイミドは、酸二無水物とジアミン化合物との重合体であることが好ましい。換言すれば、ポリイミドは、酸二無水物に由来する構成単位とジアミン化合物に由来する構成単位とが繰り返し結合した構造を有するポリマーであることが好ましい。ここで、「酸二無水物」とは、自己の分子中に存在する4個のカルボン酸基から2個の水分子が脱離した構造(一分子中において隣接する2個のカルボン酸基からなるカルボン酸基ペアーが2組存在し、各カルボン酸基ペアーから水1分子が脱離した構造)の化合物を指す。また、「ポリイミドを含む」とは、樹脂がポリイミド以外の他の樹脂を含んでもよいことを意味する。他の樹脂としては、ポリビニルホルマール樹脂、ポリウレタン樹脂、アルキル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリエステルアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの熱硬化性樹脂、およびポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0040】
上記酸二無水物は、例えば、ピロメリット酸二無水物(Pyromellitic dianhydride(PMDA))、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’、4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride(BPDA))、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。
【0041】
上記ジアミン化合物は、例えば、4,4’-オキシジアニリン(4,4’-Oxydianiline(ODA))、m-フェニレンジアミン、シリコーンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)エーテルエタン、3,3’-ジアミノ-4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホン(SO2-HOAB)、4,4’ジアミノ-3,3’ジヒドロキシビフェニル(HOAB)、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン(HOCF3AB)、シロキサンジアミン、ビス(3-アミノプロピル)エーテルエタン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)エーテル、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、イソホロンジアミン、1,3’-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(m-DDE)、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノ-ジフェニルスルホン(p-DDS)、3,4’-ジアミノ-ジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノ-ジフェニルスルホン、2,4’-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(m-TPE)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(BAPP)、2,2-ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン(HF-BAPP)、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(p-BAPS)、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン(m-BAPS)、4,4’ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(p-TPE)、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド(ASD)、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’ジアミノ-4,4’ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,4-ジアミノトルエン(DAT)、2,5-ジアミノトルエン,3,5-ジアミノ安息香酸(DABz),2,6-ジアミノピリジン(DAPy)、4,4’ジアミノ-3,3’ジメトキシビフェニル(CH3OAB)、4,4’ジアミノ-3,3’ジメチルビフェニル(CH3AB)、9,9’-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン(FDA)などが挙げられる。
【0042】
上記酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物および3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物のいずれか一方又は両方であり、上記ジアミン化合物は、4,4’-オキシジアニリンであることが好ましい。これによると、ポリイミド分子間の相互作用が強く働くため、特に優れた耐サージ性と絶縁層の特に優れた靭性とを兼備させることができる。
【0043】
上記酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、ピロメリット酸二無水物を10mol%以上50mol%以下で含み、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50mol%以上90mol%以下で含むことが好ましい。これによると、耐加水分解性を向上させることができるため、特に優れた耐ATF性を備えさせることができる。
【0044】
上記酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とからなり、ピロメリット酸二無水物を10mol%以上50mol%以下で含み、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を50mol%以上90mol%以下で含むことは、皮膜成分をアルカリ加水分解した上で、1H NMR(プロトン核磁気共鳴(Proton Nuclear Magnetic Resonance))で分析することにより求められる。
【0045】
上記ジアミン化合物は、4,4’-オキシジアニリンからなることが好ましい。これによると、耐加水分解性を向上させることができるため、特に優れた耐ATF性を備えさせることができる。
【0046】
(第1のフィラー)
図3は、本開示の絶縁電線の一態様を更に例示する模式断面(横断面)図である。
図4は、
図3の領域IVの模式的な拡大図である。上記第1のフィラーは、一次粒子2、または一次粒子の複数が集合した二次粒子3として存在する(
図3)。ここで、「集合した」とは、上記一次粒子2の複数がたとえば数珠状に凝集することによって一次粒子2より大きな粒子が形成された状態を意味する(
図4)。この場合、二次粒子3中における一次粒子間の接触の状態は、単に外観的に接触している状態であっても良いし、ファンデルワールス力等の相互作用や物理的/化学的結合を伴う状態であっても良く、その接触状態は特に限定されない。したがって、走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscopy))を用いて絶縁電線の横断面を観察した場合に、観察視野において2以上の一次粒子2が接触しているように観察される場合、それを二次粒子3として解するものとする。
図1は、絶縁電線の横断面の顕微鏡写真である。
図1から、絶縁層において、第1のフィラーは、一次粒子2、または一次粒子の複数が集合した二次粒子3として存在することが理解される。
【0047】
なお、ここで「接触している」とは、隣り合う一次粒子間の距離が0.02μm以下であることを意味する。また、「隣り合う一次粒子間の距離」とは、隣り合う2つの一次粒子に関し、1つの一次粒子の外郭線上に位置する点と、もう一方の一次粒子の外郭線上に位置する点とを結ぶ線分(直線)のうち、最も短い線分の長さを意味する。
【0048】
上記一次粒子は、シリカまたはアルミナである。したがって、二次粒子は、シリカまたはアルミナのうち何れかのみによって構成されていてもよく、シリカおよびアルミナの両方によって構成されていてもよい。
【0049】
上記一次粒子の形状は、特に限定されない。例えば、不定形、略球形、ラグビーボール状、多角形状、等いずれの形状であっても差し支えない。上記一次粒子の粒子径は、絶縁電線の横断面において1つの一次粒子の外郭線上における最も離れた二点間の距離とする。また、一次粒子の粒子径とは、平均粒子径を意味する。なお、一次粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて絶縁電線の横断面を観察することにより、SEM画像上で任意の50個の一次粒子について粒子径を測定した後、それら50個の一次粒子の粒子径を平均した値(平均粒子径)を算出することによって求められる。
【0050】
上記一次粒子の粒子径は、特に限定されるものではないが、0.01μm以上0.1μm以下であることが好ましい。
【0051】
上記二次粒子は、上記一次粒子のみで構成されていてもよく、他の成分を含んでいてもよい。
【0052】
上記二次粒子の形状は、特に限定されない。例えば、不定形、略球形、ラグビーボール状、多角形状、等いずれの形状であっても差し支えない。上記二次粒子3の粒子径は、絶縁電線の横断面において1つの二次粒子3の外郭線上における最も離れた二点間の距離D1とする(
図4)。また、二次粒子の粒子径とは、平均粒子径を意味する。なお、二次粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて絶縁電線の横断面を観察することにより、SEM画像上で任意の50個の二次粒子について粒子径を測定した後、それら50個の二次粒子の粒子径を平均した値(平均粒子径)を算出することによって求められる。
【0053】
二次粒子の粒子径は、0.03μm以上5μm以下である。これにより、樹脂の揮散を物理的に抑制することができる為、優れた耐サージ性と好適な靱性とを備えさせることができる。二次粒子の粒子径は、0.1μm以上であることが好ましく、0.15μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましい。また、二次粒子の粒子径は、3.0μm以下であることが好ましく、1.5μm以下であることがより好ましく、1.0μm以下であることが更に好ましい。また、上記二次粒子の粒子径は、0.1μm以上3.0μm以下であることが好ましく、0.15μm以上1.5μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上1.0μm以下であることが更に好ましい。
【0054】
上記絶縁電線の横断面において、一次粒子の面積の合計値と、二次粒子の面積の合計値との和に対する、二次粒子の面積の合計値の割合(以下、「二次粒子面積占有率(%)」とも記す)は50%以上であることが望ましい。ここで、「一次粒子の面積」とは、二次粒子を構成する一次粒子以外の一次粒子の面積を意味する。これにより、樹脂の揮散が二次粒子によって物理的に抑制されるため、樹脂の浸食による絶縁破壊が防止され優れた耐サージ性を備えさせることができる。ここで、二次粒子面積占有率(%)は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。また、二次粒子面積占有率(%)は、90%以下であることが好ましい。これにより、粒子同士による余分な凝集に起因して粒子の粒子径が5μmを超過することが防止でき、粒子径増大による絶縁層の靭性低下を回避できるため、絶縁電線に好適な靱性を備えさせることができる。ここで、二次粒子面積占有率(%)は、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることが更に好ましい。二次粒子面積占有率(%)は、50%以上90%以下であることが好ましく、55%以上80%以下であることがより好ましく、60%以上75%以下であることが更に好ましい。なお、二次粒子面積占有率(%)は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて絶縁電線の横断面を観察し、所定領域における一次粒子の面積の合計と二次粒子の面積の合計とを画像処理ソフト(三谷商事社製「Winroof」)で計算することによって求められる。
【0055】
上記絶縁電線の横断面において、二次粒子の面積の合計値に対する、粒子径が0.2μm以上1μm以下である二次粒子の面積の合計値の割合(以下、「粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)」とも記す)は、30%以上であることが好ましい。これにより、樹脂の揮散が二次粒子によって物理的に抑制され易くなるため、特に優れた耐サージ性を備えさせることができる。粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。また、粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、90%以下であることが好ましい。これにより、粒子同士による余分な凝集に起因して粒子の粒子径が5μmを超過することが防止でき、粒子径増大による絶縁層の靭性低下を回避できるため、絶縁電線に好適な靱性を備えさせることができる。ここで、粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、80%以下であることがより好ましく、75%以下であることが更に好ましい。粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、50%以上90%以下であることが好ましく、55%以上80%以下であることがより好ましく、60%以上75%以下であることが更に好ましい。また、粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて絶縁電線の横断面を観察し、所定領域の面積に占める二次粒子の面積の合計と、粒子径が0.2μm以上1μm以下である二次粒子の面積の合計とを画像処理ソフト(三谷商事社製「Winroof」)で計算することによって求められる。
【0056】
絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上30%以下であることが好ましい。これによると、優れた耐サージ性と好適な靱性とを十分に兼備させることができる。絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合が5%以上に満たない場合、十分な耐サージ性が発揮され難い傾向がある。また、絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合が30%以下を超過する場合、絶縁層の可撓性が悪化する傾向がある。絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることが更に好ましい。また、絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、30%以下であることが好ましく、26%以下であることがより好ましく、23%以下であることが更に好ましい。また、絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上30%以下であることが好ましく、10%以上26%以下であることがより好ましく、15%以上23%以下であることが更に好ましい。なお、絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、熱重量測定で絶縁層の加熱後残分(これをフィラー重量とみなす)を測定することにより、特定することができる。
【0057】
上記の本開示に係る絶縁電線は、優れた耐サージ性を有することから、これを用いた電気機器は、高電圧下で使用されてもサージに起因する絶縁破壊を抑制することができる。このような電気機器としては、モーター、変圧器などが挙げられる。
【0058】
≪絶縁電線の製造方法≫
本開示に係る絶縁電線は、たとえば歩留まり良く製造する観点から、以下の絶縁電線の製造方法により製造することができる。すなわち本実施形態に係る絶縁電線の製造方法は、上記導体と絶縁ワニスとを準備する工程(第1工程)と、上記導体の外周面に絶縁ワニスを塗布する工程(第2工程)と、上記絶縁ワニスを導体に焼付ける工程(第3工程)と、をこの順で含む。また、上記導体と絶縁ワニスとを準備する工程(第1工程)は、導体を準備する工程(A工程)と、絶縁ワニスを準備する工程(B工程)とを含む。
【0059】
ここで、上記絶縁ワニスを準備する工程(B工程)において上記絶縁ワニスは、溶剤と上記第1のフィラーと上記樹脂またはその樹脂前駆体とを混合することにより調製され、該溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物であることを特徴とする。また、上記第1のフィラーにおいて、上記一次粒子の粒子径が0.01μm以上0.1μm以下であることを特徴とする。さらに、上記B工程において上記絶縁ワニスは、溶剤と上記第1のフィラーと上記樹脂またはその樹脂前駆体とを撹拌時間30分以上180分以下、撹拌速度20rpm以上500rpm以下の条件で混合することにより調製されることが好ましい。また、上記絶縁ワニスは、シランカップリング剤を含まないことが好ましい。また、絶縁ワニスを導体に焼付ける工程(第3工程)は、300℃以上700℃以下、0.1分以上5分以下の条件で実行されることが好ましい。
【0060】
このような特徴を備えるB工程及び第3工程を実行することにより得られる絶縁電線は、上記で説明した構成を備えるため優れた耐サージ性を示すことができる。以下、本実施形態に係る絶縁電線の製造方法に含まれる各工程について詳述する。
【0061】
<第1工程>
(A工程)
上記導体を準備する工程(A工程)は、たとえば市販品を入手することによって実行できる。また導体の材料として上述した金属を鋳造し、延伸し、線状に伸線し、さらに軟化させることによって導体を得ることにより、本工程を実行することもできる。
【0062】
(B工程)
上記絶縁ワニスを準備する工程(B工程)は、絶縁層の材料として上述した樹脂、またはその樹脂前駆体をN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物(溶剤)で溶解することにより樹脂溶液を得、当該樹脂溶液に一次粒子の粒子径が0.01μm以上0.1μm以下である第1のフィラーを分散させることにより実行できる。
【0063】
ここで、樹脂前駆体としては、ポリイミド前駆体を挙げることができる。
【0064】
絶縁ワニスにおける樹脂固形分濃度は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。また、絶縁ワニスにおける樹脂固形分濃度は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。また、絶縁ワニスにおける樹脂固形分濃度は、10質量%以上40質量%以下が好ましく、15質量%以上35質量%以下がより好ましく、20質量%以上30質量%以下が更に好ましい。ここで「樹脂固形分濃度」とは、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体のうち樹脂のみを含む場合は樹脂の濃度を、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体のうち樹脂前駆体のみを含む場合は樹脂前駆体の濃度を、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体の両方を含む場合はそれら両方の合計濃度を、それぞれ意味する。
【0065】
絶縁ワニス中の樹脂固形分の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。また、絶縁ワニス中の樹脂固形分の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、35%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、25%以下が更に好ましい。また、絶縁ワニス中の樹脂固形分の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、5%以上35%以下が好ましく、10%以上30%以下がより好ましく、15%以上25%以下が更に好ましい。ここで「樹脂固形分の質量」とは、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体のうち樹脂のみを含む場合は樹脂の質量を、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体のうち樹脂前駆体のみを含む場合は樹脂前駆体の質量を、絶縁ワニスが上記樹脂およびその樹脂前駆体の両方を含む場合はそれら両方の合計質量を、それぞれ意味する。
【0066】
ここで上記絶縁ワニスは、上述したN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物(溶剤)、樹脂またはその樹脂前駆体、第1のフィラーに加え、他の溶剤、上述した硬化剤、上述したその他の添加剤、上述した第2のフィラーを含んでいてもよい。但し、絶縁ワニスは、シランカップリング剤を含まないことが好ましい。
【0067】
上記他の溶剤としては、公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ-ブチロラクトンなどの極性有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系有機溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル系有機溶剤;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン系有機溶剤;クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール系有機溶剤;ピリジンなどのアミン系有機溶剤;が挙げられる。これらの有機溶剤はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
溶剤が他の溶剤を含む場合、その割合はN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、又はそれらの混合物に対して10質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0069】
上記B工程は、撹拌時間を30分以上180分以下、撹拌速度を20rpm以上500rpm以下の条件下で上記各成分を混合することにより実行されることが好ましい。
【0070】
<第2工程>
上記導体の外周面に絶縁ワニスを塗布する工程(第2工程)は、調製されたワニスを導体の外周面に塗布する工程である。塗布方法は特に限定されず、従来公知の塗布方法を用いることができる。たとえば開口部を有する塗布ダイスを用いた場合、ワニスを均一な厚さで塗布することができるとともに、塗布されたワニスの表面を平滑にすることができる。
【0071】
<第3工程>
上記絶縁ワニスを導体に焼付ける工程(第3工程)は、焼き付け処理により絶縁層を形成する工程である。具体的には、ワニスが塗布された導体を焼き付け炉内に配置してワニスを焼き付ける。絶縁ワニスを導体に焼付ける工程(第3工程)は、300℃以上700℃以下、0.1分以上5分以下の条件で実行されることが好ましい。
【0072】
以上により、導体と、該導体を被覆する絶縁層と、を備える絶縁電線が製造される。なお、導体の表面に積層される絶縁層が所定の厚さとなるまで、上記第2工程及び上記第3工程を繰り返してもよい。
【実施例】
【0073】
以下、本開示の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
≪絶縁電線の製造≫
以下のようにして、実施例1~実施例7、比較例1、比較例2の絶縁電線を製造した。まず、平均直径1mmの導線(金属種:タフピッチ銅)を準備した(A工程)。次いで、表1に示す酸二無水物とジアミン化合物とをN-メチル-2-ピロリドンに溶解しこれら両者を反応させることにより、25wt%濃度のポリイミド前駆体溶液(樹脂溶液)を得た。当該樹脂溶液に一次粒子の粒子径が0.03μmであり、且つ、シリカである第1のフィラーを、ポリイミド前駆体(樹脂固形分)に対して20質量%で分散させることにより、絶縁ワニスを準備した(B工程)。次いで、上記導体の外周面に塗布ダイスを用いて上記絶縁ワニスを塗布することにより、絶縁ワニスが塗布された導体を製造した(第2工程)。次いで、上記絶縁ワニスが塗布された導体を焼き付け炉内に配置し、450℃、90秒の条件で焼き付けを行った(第3工程)。当該第2工程と当該第3工程とを所定の回数繰り返すことで、表1に示す絶縁層の厚み(μm)(測定方法は上記の通り)を有する絶縁層を形成し、絶縁電線を製造した。以上の工程を実行することにより、表1に示した構成を有する実施例1~実施例4、実施例7、比較例1、比較例2の各絶縁電線を製造した。また、上記B工程において、酸二無水物のmol%が表1に示されるように変更されることと、樹脂溶液に第1のフィラーを、ポリイミド前駆体(樹脂固形分)に対して10質量%で分散させることとを除いては、実施例3と同様の工程を実行することにより、実施例5の絶縁電線を製造した。また、上記B工程において樹脂溶液に第1のフィラーを、ポリイミド前駆体(樹脂固形分)に対して15質量%で分散させることと、絶縁層の厚み(μm)(測定方法は上記の通り)が表1に示されるように変更されることとを除いては、実施例5と同様の工程を実行することにより、実施例6の絶縁電線を製造した。
【0075】
≪絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合の測定≫
実施例1~実施例7、比較例1、比較例2の絶縁電線について、絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合は、上記の方法により求めた。得られた結果を表1の「絶縁層の質量に対する第1のフィラーの質量の割合(%)」の項に記す。
【0076】
≪二次粒子面積占有率(%)および粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)の測定≫
実施例1~実施例7、比較例1、比較例2の絶縁電線について、二次粒子面積占有率(%)および粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)は、上記の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表1の「二次粒子面積占有率(%)」の項、表1の「粒子径0.2~1μmの二次粒子面積占有率(%)」の項に記す。
【0077】
≪耐サージ性試験≫
実施例1~実施例7、比較例1、比較例2の絶縁電線について、以下の手順で耐サージ性試験を行った。すなわち、JISC3003およびIEC60851-5に規定された手法に則り、2本の絶縁電線を撚り合わせた撚線試料を製造して評価した。なお、詳細な試験の条件は以下の通りである。
(試験の条件)
・波形:矩形波
・周波数:20kHz
・電圧:1,500V
・雰囲気の温度:155℃
ここで、耐久時間とは、上記試験条件下の耐久試験において、2本の撚線の線(絶縁電線)間で絶縁破壊が起こり、ショートするまでの時間を意味する。耐久時間が長いほど、絶縁電線の耐サージ性に優れることを意味する。また、この試験において、耐久時間が45h以上の絶縁電線は、耐サージ性が良好であることと定義する。試験の結果を、表1に示す。
【0078】
【0079】
上記表1中の略号は以下の通りである。
【0080】
PMDA:ピロメリット酸二無水物(Pyromellitic dianhydride)
BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’、4,4’-Biphenyltetracarboxylic dianhydride)
ODA:4,4’-オキシジアニリン(4,4’-Oxydianiline)
表1の結果から、実施例1~実施例7の絶縁電線は、比較例1および比較例2の絶縁電線に比して、優れた耐サージ性を有することが分かった。なお、実施例1~実施例7、比較例1および比較例2の絶縁電線に用いられたフィラーは、シリカのみであったが、アルミナがシリカと同じく絶縁性が高い粒子であるという理由で、シリカをアルミナに置き換えた場合、および、シリカとアルミナとを組み合わせた場合においても、同様の効果を奏するものと予想される。
【0081】
≪耐ATF性試験≫
実施例1~実施例7、比較例1、比較例2の絶縁電線について、以下の手順で耐ATF性試験を行った。すなわち、SUS製密閉容器内で0.5質量%の水を含有させたATFオイル中に巻線サンプルを浸漬させ、密閉状態で150℃の環境下で1000h加熱した後、巻線サンプルを取り出し皮膜の割れ発生有無を評価した。結果を、表1に示す。
【0082】
表1の結果から、実施例2~実施例6の絶縁電線は、比較例1および比較例2の絶縁電線と同程度に優れた耐ATF性を有することが分かった。
【0083】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0084】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 樹脂、2 一次粒子(第1のフィラー)、3 二次粒子(第1のフィラー)、10 絶縁電線、11 導体、12 絶縁層、D1 絶縁電線の横断面において1つの二次粒子の外郭線上における最も離れた二点間の距離。
【要約】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を備える絶縁電線であって、前記絶縁層は、樹脂と、第1のフィラーと、を含み、前記樹脂は、ポリイミドを含み、前記第1のフィラーは、一次粒子、または前記一次粒子の複数が集合した二次粒子として存在し、前記一次粒子は、シリカまたはアルミナであり、前記二次粒子の粒子径は、0.03μm以上5μm以下であり、前記絶縁電線の横断面において、前記一次粒子の面積の合計値と、前記二次粒子の面積の合計値との和に対する、前記二次粒子の面積の合計値の割合が50%以上である、絶縁電線。