(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】高純度多結晶シリコンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/035 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
C01B33/035
(21)【出願番号】P 2019064259
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-087126(JP,A)
【文献】国際公開第2017/221952(WO,A1)
【文献】特開2003-321217(JP,A)
【文献】特開2010-202420(JP,A)
【文献】特開2010-275162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00-33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内でクロロシランを高温下で還元して高純度のシリコンを析出させる多結晶シリコンの製造において、シリコン析出反応に先立ち、クロロシランを炉内に導入して炉内の水分と反応させて生成した塩化水素を炉外に排出する炉内浄化を行い、
この炉内浄化において、排ガス中の塩化水素濃度を測定して塩化水素を炉外に排出することによって、リンやヒ素を含む水分が炉内に残留しないようにし、該炉内浄化の後にクロロシランを導入してシリコン析出反応を行うことを特徴とする高純度多結晶シリコンの製造方法。
【請求項2】
上記炉内浄化において、水素ガス雰囲気下でクロロシランを炉内に導入し、排ガス中の塩化水素濃度が検出されなくなった段階で炉内へのクロロシランの導入を止め、水素ガスの導入を継続してクロロシランを排出する請求項1に記載する高純度多結晶シリコンの製造方法。
【請求項3】
反応炉内を真空排気した後に、クロロシランを導入し、生成した塩化水素を未反応のクロロシランと共に炉外に排出する炉内浄化を行った後に、炉内を不活性ガス雰囲気にし、クロロシランを還元ガスと共に炉内に導入してシリコン析出反応を行う請求項1
または請求項2に記載する高純度多結晶シリコンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の基板材料として用いられる単結晶シリコンの原料になる多結晶シリコンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の基板材料として用いられる単結晶シリコンは、高純度の多結晶シリコンを石英ルツボで溶融し、このシリコン融液に種結晶を接触させて引き上げながら成長させるチョクラルスキー法によって一般に製造されている。単結晶シリコンは半導体技術を支える基礎的な材料であり、半導体技術のレベル向上に従って常に品質向上が求められており、その原料となる多結晶シリコンについても同様に高純度化が要求されている。
【0003】
多結晶シリコンは、反応炉内に設置したシリコン芯棒に通電して赤熱させ、この炉内に原料のトリクロロシランと水素の混合ガスを供給して、シリコン芯棒表面にシリコンを還元または熱分解により析出させて棒状に成長させるシーメンス法によって一般に製造されている。
【0004】
上記製造方法では、シリコン芯棒の組み立てから成長したロッドの回収まで、一連の工程がバッチプロセスで行われ、通常、ロッドの回収からシリコン芯棒の組み立ての工程は容器を開放し、大気雰囲気下で行われるため、汚染を持ち込みやすい。そのため、容器内面の洗浄やシリコン芯棒組立時の環境改善などが行われているが、それでも多結晶シリコン析出反応開始直後はシリコンロッドへの汚染が最も多く、このようなシリコン析出反応開始直後の初期汚染が問題になっている。
【0005】
通常、シリコン芯棒を組み立てて容器を密閉した後に容器内を減圧にし、また不活性ガスを導入することによって容器内の水分を除去している(特許文献1:国際公開WO2011/158404号公報)。しかし、容器内部の表面に吸着した水分子を完全に除去することは難しい。容器内の水分は、この後に実施される多結晶シリコンの析出反応において導入されるクロロシランガスと反応して塩化水素を発生する。塩化水素と水分が共存する状況において、反応容器は著しい腐食を受ける。多結晶シリコン析出反応の最初期においてこのような腐食が発生することは、析出するシリコンの品質に大きな影響を与える。
【0006】
この課題を解決するため、特許文献2(特開2018-87126号公報)には、反応容器内の露点を-30~-50℃に制御して、容器内に一定量の水分を残留させた状態とし、その後にクロロシランガスを導入することによって、容器内面にシリカコーティング層を析出させ、このシリカコーティング層によって反応容器内面から金属成分に由来する汚染を含むアウトガスの発生を抑制することが開示されている。また、ポリシラザン溶液を用いてシリカコーティング層を形成することも開示されている。この方法では、多結晶シリコンにおける金属成分に由来する汚染を抑制できるが、シリカコーティング層にリンやヒ素など残存水分に由来する元素が取り込まれるか、又は吸着して炉内に残存すると、汚染を確実に抑制できない限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2011/158404号公報
【文献】特開2018-87126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明では、高純度多結晶シリコンの製造方法において、初期汚染の原因として、容器内部の表面に吸着した水分と、クロロシランの反応によって発生する塩化水素の共存影響が着目され、容器内部に吸着水が残っている状態でシリコン析出反応時にクロロシランを導入したときに、吸着水とクロロシランが反応して塩化水素が発生し、この塩化水素と吸着水中に微量含まれるリンやヒ素が共存することにより、析出するシリコンロッドのリンやヒ素による反応初期の汚染が発生すると云う問題が見出された。
【0009】
また、炉内にポリシラザン溶液の塗布後に加水分解反応によってシリカコーティング層を形成する場合、シリカコーティング層形成後に大気開放してシリコン芯棒を組み立てるためにシリカコーティング層にリンやヒ素を含む水分を吸着させる問題があった。さらに、クロロシランと炉内残存水分の反応によりシリカコーティング層を形成する場合、塩化水素等のクロロシランと炉内残存水分の反応生成物を一定時間炉内に滞留させるため、炉内残存水分に含まれるリンやヒ素がシリカコーティング層に取り込まれるか、又は吸着し、シリコン析出反応時の汚染の要因となる問題があった。
本発明はこれらの問題を解決した高純度多結晶シリコンの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の構成によって従来の課題である初期汚染を防止した高純度多結晶シリコンの製造方法に関する。
〔1〕反応炉内でクロロシランを高温下で還元して高純度のシリコンを析出させる多結晶シリコンの製造において、シリコン析出反応に先立ち、クロロシランを炉内に導入して炉内の水分と反応させて生成した塩化水素を炉外に排出する炉内浄化を行い、この炉内浄化において、排ガス中の塩化水素濃度を測定して塩化水素を炉外に排出することによって、リンやヒ素を含む水分が炉内に残留しないようにし、該炉内浄化の後にクロロシランを導入してシリコン析出反応を行うことを特徴とする高純度多結晶シリコンの製造方法。
〔2〕上記炉内浄化において、水素ガス雰囲気下でクロロシランを炉内に導入し、排ガス中の塩化水素濃度が検出されなくなった段階で炉内へのクロロシランの導入を止め、水素ガスの導入を継続してクロロシランを排出する上記[1]に記載する高純度多結晶シリコンの製造方法。
〔3〕反応炉内を真空排気した後に、クロロシランを導入し、生成した塩化水素を未反応のクロロシランと共に炉外に排出する炉内浄化を行った後に、炉内を不活性ガス雰囲気にし、クロロシランを還元ガスと共に炉内に導入してシリコン析出反応を行う上記[1]または上記[2]に記載する高純度多結晶シリコンの製造方法。
【0011】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の製造方法を具体的に説明する。以下の説明において、クロロシランの導入量等は炉内約15m
3を基準にした割合である。
本発明の製造方法は、反応炉内でクロロシランを高温下で還元して高純度のシリコンを析出させる多結晶シリコンの製造において、シリコン析出反応に先立ち、クロロシランを炉内に導入して炉内の水分と反応させて生成した塩化水素を炉外に排出する炉内浄化を行い、
この炉内浄化において、排ガス中の塩化水素濃度を測定して塩化水素を炉外に排出することによって、リンやヒ素を含む水分が炉内に残留しないようにし、該炉内浄化の後にクロロシランを導入してシリコン析出反応を行うことを特徴とする高純度多結晶シリコンの製造方法である。
本発明の製造方法の例を
図1および
図2の工程図に示す。
【0012】
本発明の製造方法は、シーメンス法を基本にした高純度多結晶シリコンの製造方法である。高純度多結晶シリコンを製造するシーメンス法は、反応炉内に多数のシリコン芯棒をおのおの逆U字型に設置し、このシリコン芯棒に通電して赤熱させ、この炉内に原料のトリクロロシランと水素の混合ガスを供給して、赤熱したシリコン芯棒の表面にシリコンを析出させて棒状に成長させる製造方法である。
【0013】
本発明の製造方法は、反応炉内に多数のシリコン芯棒をおのおのU字型に設置した後に、反応炉を密閉して炉内を真空排気し、シリコン芯棒の組み立て時に炉内雰囲気であった大気を炉外に排気する。炉内の真空状態は概ね-0.090~-0.100 MPaGにすればよい。
【0014】
上記真空排気の後に、炉内に窒素などの不活性ガスを導入して、炉内雰囲気を不活性ガス雰囲気に置換した後に、真空排気して窒素ガスを炉外に排出する。真空排気は炉内が概ね-0.090~-0.100 MPaGになるように行えばよい。このように、炉内を不活性ガス雰囲気にすることによって、次工程の炉内浄化処理の準備を整える。
【0015】
この段階では、炉内の表面に吸着水が残っているので、クロロシランを炉内に導入して吸着水分と反応させ、生成した塩化水素を炉外に排出することによって炉内の水分を除去する。クロロシランは、例えば、ジクロロシラン、トリクロロシランなどを用いることができる。また四塩化ケイ素を用いることができる。本発明はジクロロシラン、トリクロロシラン等と共に四塩化ケイ素を含めてクロロシランと云う。これらは炉内に導入する前の段階では液体でよいが、炉内に導入するときは、温度や圧力を調整してガス化し、炉内にまんべんなく行き渡らせることが好ましい。
【0016】
炉内の不活性ガスを真空排気した後に、クロロシランを導入する方法としては、(イ)水素ガスのように、クロロシランと水の反応よって影響され難い気体を流しながら導入する方法、(ロ)クロロシランのみを液体ないし気体の状態で導入する方法などがある。
図1が上記(イ)の例、
図2が上記(ロ)の例である。
【0017】
図1に示す上記(イ)の方法において、クロロシランと水の反応に影響され難い気体としては、水素の他にアルゴン等の不活性ガスが挙げられる。炉内の不活性ガスを真空排気した後に、水素ガスを炉内に導入する。
【0018】
クロロシランは、例えば、0.1~5kg/分の流量割合で連続して炉内に導入するとよい。さらに水素ガスおよびクロロシランは連続して炉内に導入しながら排気し、クロロシランが炉内にまんべんなく行き渡りながら連続的に通過する状態にするとよい。
【0019】
水素ガス雰囲気下で、クロロシランを導入することによって、炉内表面の付着水分および炉内雰囲気中に残留する水分はクロロシランと反応して塩化水素とシリカを生成する。この塩化水素とシリカは未反応のクロロシランや水素ガスと共に連続的に炉外に排気されることによって炉内の付着水分が除去され、炉内が清浄化される。
【0020】
このような炉内浄化処理の間、反応炉から排ガスを採取し、該排ガス中の塩化水素濃度を測定し、塩化水素の濃度が殆ど検出されなくなった段階で、炉内へのクロロシランの導入を止めればよい。クロロシランの導入を止めた後も、クロロシランが排出されるまでの間は水素ガスの導入を継続するとよい。
【0021】
上記炉内浄化の後に、炉内にアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して炉内の水素ガスを追い出し、炉内を不活性雰囲気にして、次工程の多結晶シリコン析出反応の準備を整える。
【0022】
炉内を不活性雰囲気にした後に、上記シリコン芯棒を予熱し、次いでシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒表面を赤熱状態にし、この状態で原料のクロロシランガスと水素などの還元ガスを炉内に導入してシリコン析出反応を進める。原料のクロロシランは半導体材料用の高純度のジクロロシラン、トリクロロシラン等を用いることができる。
【0023】
反応炉内には、逆U字型に設置された多数のシリコン芯棒の間にヒータを設け、該ヒータによってシリコン芯棒を加熱して、シリコン芯棒の通電環境を整えるとよい。この予熱後にシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒表面を赤熱状態にし、この状態で炉内にクロロシランガスと水素などの還元ガスを炉内に導入すると、クロロシランの還元反応および熱分解反応によって、上記シリコン芯棒の表面に新たなシリコンが析出して成長し、高純度のシリコン棒が形成される。
【0024】
図2に示す上記(ロ)の方法においては、炉内の不活性ガスを真空排気した後に、クロロシランガスを炉内に導入して、炉内表面の付着水分および炉内雰囲気中に残留する水分と反応させて、塩化水素を生成させる。塩化水素の生成がなくなり次第、炉内にアルゴンガス等の不活性ガスを導入し、先に生成した塩化水素、シリカ、および未反応のクロロシランガスを不活性ガスによって追い出し炉外に排気する。
【0025】
このような炉内浄化処理によって、炉内の水分を除去した後に、炉内にアルゴンガスなどの不活性ガスを導入して炉内を不活性雰囲気にし、次工程のシリコン析出反応の準備を整える。
【0026】
炉内を不活性雰囲気にした後は、
図1に示す製造方法と同様に、上記シリコン芯棒を予熱し、次いでシリコン芯棒に通電してシリコン芯棒表面を赤熱状態にし、この状態で原料のクロロシランガスと水素などの還元ガスを炉内に導入してシリコン析出反応を進める。
【発明の効果】
【0027】
本発明の製造方法は、シリコン析出反応に先立ち、クロロシランを炉内に導入して炉内の水分と反応させ、生成した塩化水素を予め炉外に排出する炉内浄化を行うので、炉内にリンやヒ素を含む水分が残留しない。このため、シリコン析出反応において、反応初期に残留水分に含まれるリンやヒ素と塩化水素の共存によって、析出するシリコンロッドにリンやヒ素の汚染が生じると云う従来の問題が発生せず、高純度の多結晶シリコンを製造することができる。
【0028】
また、本発明の製造方法は、炉内表面にシリカコーテイング層を形成するものではないので、シリカコーティング層に取り込まれ、または吸着されたリンやヒ素による汚染も生じない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1〕
図1に示す方法に従い、シーメンス法によって高純度多結晶シリコンを製造した。最初に、反応炉内を洗浄して清浄化し、乾燥した。その後、シリコン芯棒を組み立てた後に、反応炉を密閉して炉内の空気を排出した。次いで、窒素ガス(露点-60℃以下)を炉内に導入するとともに、反応炉外周のジャケットに蒸気を流して反応炉を約8時間加熱し、炉内の水分を排出させた。次いで、炉内を真空排気した後に、炉内に水素ガスを導入しながら、トリクロロシランを30分間導入した。この導入直後と30分後に排出ガスを採取し、FT-IRで分析したところ、導入直後のガスには約1%の塩化水素が含まれ、30分後のガスの塩化水素はFT-IRチャートにおける痕跡程度まで低減していた。引き続き、15分間水素ガスを流してトリクロロシランを排気した後(炉内浄化終了)に、アルゴンガスを導入して炉内を不活性雰囲気にした状態でシリコン芯棒を予熱し、次いでシリコン芯棒に通電して赤熱させた後に、原料の高純度トリクロロシランガスと水素ガスを炉内に供給してシリコン析出反応を進め、高純度多結晶シリコンを製造した。この高純度多結晶シリコンのリン含有量およびヒ素含有量を表1に示した。
【0031】
〔実施例2〕
図2に示す方法に従い、窒素ガスを炉内に導入するとともに、反応炉を加熱し、炉内の水分を排出させるまでは実施例1と同様の工程を行い、次いで、真空排気した後に、専用の管路を通じて液体の四塩化ケイ素300mLを炉内に導入した。導入された四塩化ケイ素は速やかに気化した。10分後にアルゴンガスを0.0MPaGまで導入し、真空排気した。その後、再びアルゴンガスを導入して炉内を不活性雰囲気にした状態でシリコン芯棒を予熱し、以降は実施例1と同様にして高純度多結晶シリコンを製造した。この高純度多結晶シリコンのリン含有量およびヒ素含有量を表1に示した。
【0032】
〔比較例1〕
窒素ガスを炉内に導入するとともに、反応炉を加熱し、炉内の水分を排出させるまでは実施例1と同様の工程とし、次いで、アルゴンガスを導入して炉内を不活性雰囲気にした状態でシリコン芯棒を予熱し、以降は実施例1と同様にして高純度多結晶シリコンを製造した。この高純度多結晶シリコンのリン含有量およびヒ素含有量を表1に示した。
【0033】