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特許7165323パルプ蒸解助剤、及びそれを用いた化学パルプの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】パルプ蒸解助剤、及びそれを用いた化学パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21C 3/02 20060101AFI20221027BHJP
   D21C 3/06 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
D21C3/02
D21C3/06
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018127790
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020007654
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-047990(JP,A)
【文献】特開昭55-006585(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 3/02
D21C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル捕捉剤と溶剤とを含有するパルプ蒸解助剤であって、
前記溶剤は、グリコール系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群から選択され、
前記ラジカル捕捉剤は、テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、及びアミン系ラジカル捕捉剤からなる群から選択される、パルプ蒸解助剤。
【請求項2】
前記グリコール系溶剤は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、及びポリプロピレングリコールからなる群から選択され、
前記グリコールエーテル系溶剤は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルー1-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルからなる群から選択される、請求項1記載のパルプ蒸解助剤。
【請求項3】
前記テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤は、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(H-TEMPO)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ベンゾキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、及びビス-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)-セバケートからなる群から選択され、
前記アミン系ラジカル捕捉剤は、フェニレンジアミン系ラジカル捕捉剤、ヒドロキシルアミン系ラジカル捕捉剤、トリブチルアミン、ジフェニルアミン、フェノチアジン、及びフェニル-α-ナフチルアミンからなる群から選択され、
前記フェノール系ラジカル捕捉剤は、2-メチルフェノール、2-エチルフェノール、2-プロピルフェノール、2-メトキシフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、及び4-tert-ブチルカテコール(TBC)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載のパルプ蒸解助剤。
【請求項4】
リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中でアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含
前記溶剤は、グリコール系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群から選択され、
前記ラジカル捕捉剤は、テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、及びアミン系ラジカル捕捉剤からなる群から選択される、化学パルプの製造方法。
【請求項5】
前記薬液に、前記ラジカル捕捉剤及び前記溶剤を同時に又は別々に添加することを含む、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記蒸解は、前記薬液の温度が80℃~200℃となるように加熱することを含む、請求項4又は5に記載の製造方法。
【請求項7】
リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中で蒸解することを含
前記溶剤は、グリコール系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群から選択され、
前記ラジカル捕捉剤は、テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、及びアミン系ラジカル捕捉剤からなる群から選択される、リグノセルロース材料のアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、パルプ蒸解助剤、並びにそれを用いた化学パルプの製造方法及びリグノセルロース材料の蒸解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学パルプ、すなわちリグノセルロース材料を化学的に処理してパルプを製造する方法としてはアルカリ蒸解法や亜硫酸蒸解法がある。本開示におけるアルカリ蒸解法としては、クラフト蒸解法、ソーダ蒸解法、サルファイト蒸解法、オルガノソルブ蒸解法など多種にわたる。また、本開示における亜硫酸蒸解法(亜硫酸法)は、アルカリ性亜硫酸法、中性亜硫酸法、酸性亜硫酸法、及び重亜硫酸法の各種亜硫酸法の総称である。
リグノセルロース材料を蒸解してパルプを製造する際、パルプ収率を向上させるとともに蒸解速度を高める点から、ジヒドロアントラキノン、テトラヒドロアントラキノン等のヒドロアントラキノン類を蒸解助剤として使用することが行われている(例えば、特許文献1)。また、蒸解工程用脱樹脂剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭54-82401号公報
【文献】特公昭53-28522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、アントラキノンの発がん性が指摘されている。例えば、欧州食品安全機関(EFSA)は、2012年に、アントラキノンについて発がん作用の可能性が排除できないとの意見を公表している。それを受け、ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)は、2013年に、食品包装用の紙に用いることが認められている物質のリストからアントラキノンを除外することを公表しており、アントラキノン類の使用を控える方向にある。
また、蒸解液にポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩を添加しても、パルプ収率及びパルプ品質を十分に向上することができないという問題がある。さらに、蒸解工程で得られるカッパー価が高いと、漂白工程における漂白剤(酸素、二酸化塩素、塩素、次亜塩素、過酸化水素、水酸化ナトリウム及びオゾン等)を大量に必要とするという問題がある。
このため、従来法に代わって、パルプ収率の向上や、カッパー価の低下が可能な新たな蒸解助剤が求められている。
【0005】
本開示は、一又は複数の実施形態において、収率の向上及びカッパー価の低下が可能なパルプ蒸解助剤、化学パルプの製造方法及び蒸解方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、ラジカル捕捉剤と溶剤とを含有するパルプ蒸解助剤に関する。
【0007】
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中でアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む、化学パルプの製造方法に関する。
【0008】
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中で蒸解することを含む、リグノセルロース材料のアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、パルプ収率の向上及びカッパー価の低下が可能なパルプ蒸解助剤、化学パルプの製造方法及び蒸解方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、化学パルプの製造系のフローの一例を示すブロック図である。
図2図2は、実施例1において、フラットスクリーンで精選されなかった未蒸解繊維の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示は、ラジカル捕捉剤及び溶剤の存在下で蒸解を行うことにより、脱リグニンを促進し、精選収率の向上とカッパー価の低下とを実現できるという知見に基づく。
【0012】
ラジカル捕捉剤及び溶剤の存在下で蒸解を行うことにより、上記の効果が奏される理由は明らかではないが、以下のように推定される。
蒸解液中のラジカル捕捉剤自身及び水素は、蒸解によって遊離又は断片化したリグニンやセルロース等由来のラジカルに反応する。この反応により、リグニン同士のラジカルカップリング反応や、リグニンとセルロースとのラジカルカップリング反応を抑制でき、リグニンの再重合やリグノセルロース材料におけるラジカル重合反応を防止して、脱リグニンの促進やセルロースのリグノセルロース化の抑制を行うことができ、その結果、従来よりも精選収率(パルプ収率)が向上される。さらに、溶剤がもつ部分的なカッパー価低減効果を、ラジカル捕捉剤との併用によって、リグノセルロース材料全体に作用させることが可能になり、溶剤を単独で使用した時よりもさらに良いカッパー価低減効果を得ることができる。これらの結果、精選収率(パルプ収率)の向上とカッパー価の低下の両方を実現できるものと考えられる。但し、本開示はこれらのメカニズムに限定されるものではない。
【0013】
本開示において「精選収率(パルプ収率)」とは、蒸解後の未晒パルプからノット粕等の未蒸解繊維を除去した後のパルプ(精選パルプ)の乾燥重量の、蒸解に用いた原料(リグノセルロース材料)全体の絶乾重量に対する百分率のことをいう。本開示において「絶乾重量」とは、105℃で1日乾燥させた後の重量をいう。
【0014】
本開示において「カッパー価」とは、上記の精選パルプを、JIS P 8211(パルプ-カッパー価試験方法)に準じて試験して得られたカッパー価をいう。
【0015】
本開示において「化学パルプ」とは、リグノセルロース材料を化学的に処理して脱リグニンして得られたパルプである。化学パルプとしては、一又は複数の実施形態において、亜硫酸パルプ、溶解亜硫酸パルプ、アルカリパルプ、クラフトパルプ、又は溶解クラフトパルプ等が挙げられる。
【0016】
化学パルプを製造する方法としては、アルカリ蒸解法又は亜硫酸蒸解法がある。アルカリ蒸解法としては、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム水溶液、又は水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムとの混合液等の強いアルカリ性水溶液を蒸解薬液として使用し、その蒸解液中で、例えば、140~180℃でセルロース原料を蒸解し、パルプを得る方法が挙げられる。アルカリ蒸解法としては、一又は複数の実施形態において、クラフト蒸解法、ソーダ蒸解法、サルファイト蒸解法、又はオルガノソルブ蒸解法等の様々な方法が挙げられる。また亜硫酸蒸解法としては、一又は複数の実施形態において、アルカリ性亜硫酸法、中性亜硫酸法、酸性亜硫酸法、又は重亜硫酸法の各種亜硫酸法が挙げられる。
【0017】
本開示において「蒸解」とは、木材や非木材のリグノセルロース材料を、薬品を用いて高温・高圧処理を行い、リグノセルロース材料からリグニン等の非繊維素物を溶解又は除去してセルロース等の繊維素を分離することをいう。本開示における蒸解としては、アルカリ蒸解法又は亜硫酸蒸解法がある。蒸解は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料と、ラジカル捕捉剤を含有するアルカリ溶液(蒸解液)とを釜で加熱することにより行うことができる。本開示における「蒸解」は、繊維化(パルピング)のための蒸解釜を用いた高温高圧下での蒸解のみならず、脱リグニンのための酸素蒸解(例えば、酸素脱リグニン工程における酸素蒸解装置(O2リアクター)で行われる蒸解)を含みうる。本開示における高温処理としては、一又は複数の実施形態において、80℃以上に加熱することが挙げられる。本開示における蒸解は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤を含有する薬液又は前記アルカリ性溶液の温度が80℃~200℃となるように加熱することを含む。本開示における高圧処理としては、一又は複数の実施形態において、0.2MPa以上に加圧することが挙げられ、好ましくは0.3MPa以上若しくは1.0MPa以上であり、又は3.0MPa以下であり、好ましくは2.0MPa以下である。
【0018】
本開示において「リグノセルロース材料」は、木材チップ等の各種木材であってもよいし、ワラ等の非木材であってもよい。木材としては、一又は複数の実施形態において、針葉樹(N材)チップ及び広葉樹(L材)チップが挙げられる。針葉樹としては、一又は複数の実施形態において、カラマツ、アカマツ、スギ等が挙げられる。広葉樹としては、一又は複数の実施形態において、ユーカリ及びアカシア等が挙げられる。リグノセルロース材料は、一又は複数の実施形態において、単一種類のリグノセルロース材料であってもよいし、2種類以上のリグノセルロース材料が混合されたものであってもよい。本開示におけるリグノセルロース材料は、上記木材チップ等のみならず、蒸解釜(蒸解工程)で排出されるパルプスラリー(例えば、未晒し又は未漂白パルプ等)を含みうる。
【0019】
[パルプ蒸解助剤]
本開示は、一態様において、ラジカル捕捉剤と溶剤とを含有するパルプ蒸解助剤(本開示のパルプ蒸解助剤)に関する。本開示のパルプ蒸解助剤によれば、一又は複数の実施形態において、蒸解後のパルプ収率の向上と蒸解後のカッパー価の低下との双方を実現することができる。本開示のパルプ蒸解助剤によれば、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤を高濃度で含有し、かつ、長期間の保存安定性に優れるパルプ蒸解助剤を提供できる。本開示のパルプ蒸解助剤によれば、一又は複数の実施形態において、溶剤がもつ部分的なカッパー価低減効果を、ラジカル捕捉剤と併用することによってリグノセルロース材料全体に作用させることができるようになり、ラジカル捕捉剤又は溶剤単独の使用時よりもさらに良いカッパー価低減効果を得ることができる。
【0020】
本開示のパルプ蒸解助剤は、ラジカル捕捉剤を含有する。本開示において「ラジカル捕捉剤」とは、蒸解中に生成するラジカル種と結合する又は結合可能な化合物、若しくは生成したラジカル種を起因とする重合反応を抑制する又は抑制可能な化合物をいう。本開示のラジカル捕捉剤は、一又は複数の実施形態において、フリーラジカル捕捉剤ともいうことができる。
【0021】
ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤及びアミン系ラジカル捕捉剤等の窒素系ラジカル捕捉剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、又はキノン系ラジカル捕捉剤等が挙げられる。
【0022】
テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(H-TEMPO)、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-アミノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-シアノ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-ベンゾキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-オキソ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル、又はビス-(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)-セバケート等が挙げられる。テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、H-TEMPOが好ましい。
【0023】
アミン系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、N,N'-ジ-sec-ブチル-1,4-フェニレンジアミン(PDA)、N,N'-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-1,4-フェニレンジアミン、N-(1,4-ジメチルペンチル)-N'-フェニル-1,4-フェニレンジアミン、N-フェニル-N'-(1,3-ジメチルブチル)-1,4-フェレンジアミン、N-フェニル-N'-イソプロピル-1,4-フェニレンジアミン、N,N'-ジ-フェニル-1,4-フェニレンジアミン又はN,N'-ジ-2-ナフチル-1,4-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系ラジカル捕捉剤、N,N-ジエチルヒドロキシルアミン(DEHA)又はN,N-ジメチルヒドロキシルアミン等のヒドロキシルアミン系ラジカル捕捉剤、トリブチルアミン、ジフェニルアミン、フェノチアジン、又はフェニル-α-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0024】
フェノール系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、2-メチルフェノール、2-エチルフェノール、2-プロピルフェノール、2-メトキシフェノール、2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジメチルフェノール、2,6-ジメトキシフェノール、2-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、又は4-tert-ブチルカテコール(TBC)等が挙げられる。フェノール系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、TBCが好ましい。
【0025】
キノン系ラジカル捕捉剤としては、一又は複数の実施形態において、ヒドロキノン、ベンゾキノン、メトキノン、エチルハイドロキノン、プロピルハイドロキノン、ブチルハイドロキノン、ペンチルハイドロキノン、ヘキシルハイドロキノン、tert-ブチルハイドロキノン、ヒドロキシハイドロキノン、又はナフトキノン等が挙げられる。
【0026】
本開示のパルプ蒸解助剤は、溶剤を含有する。本開示のパルプ蒸解助剤は、ラジカル捕捉剤に加えて溶剤を含有することから、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤を高濃度で含有する蒸解助剤とすることができ、また、長期間の保存安定性に優れる一液製剤とすることができる。
【0027】
溶剤としては、一又は複数の実施形態において、親水性有機溶剤が挙げられる。溶剤としては、一又は複数の実施形態として、グリコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、アルコール系溶剤、及びアミン・アミド系溶剤等が挙げられる。溶剤は、一又は複数の実施形態において、1種で使用してもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0028】
グリコール系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、又はポリプロピレングリコール等が挙げられる。グリコール系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、エチレングリコール等が好ましい。
【0029】
グリコールエーテル系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールモノブチルエーテル、3-メトキシ-3-メチルー1-ブタノール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。グリコールエーテル系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、又はジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が好ましい。
【0030】
アルコール系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ベンジルアルコール、又は2-エチルー1-ヘキサノール等が挙げられる。
【0031】
アミン・アミド系溶剤としては、一又は複数の実施形態において、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3-ジプロピルイミダゾリジノン、1,3-ジメチルイミダゾリジノンテトラメチルウレア、N,N-ジメチルアセトアミドジメチルスルホニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジトリプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、又はトリイソプロパノールアミン等が挙げられる。
【0032】
溶剤としては、パルプ収率を向上でき、カッパー価の低いパルプを製造できる点から、一又は複数の実施形態において、グリコールエーテル系溶剤及びグリコール系溶剤が好ましい。
【0033】
本開示の蒸解助剤におけるラジカル捕捉剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、1重量%~50重量%であり、好ましくは5重量%~40重量%である。
【0034】
本開示の蒸解助剤における溶剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、1重量%~80重量%であり、好ましくは5重量%~40重量%である。溶剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤の含有量に応じて決定してもよい。ラジカル捕捉剤(100重量部)に対する溶剤の配合比率は、一又は複数の実施形態において、1重量部~500重量部であり、好ましくは25重量部~200重量部である。
【0035】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、水を含んでいてもよい。本開示の蒸解助剤における水の含有量は、一又は複数の実施形態において、溶剤の含有量に応じて決定してもよい。水と溶剤との配合比率(水/溶剤)は、一又は複数の実施形態において、0.01~10であり、好ましくは0.1~3である。本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、残部が水であってもよい。
【0036】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、界面活性剤、消泡剤及びその他の添加剤等をさらに含んでいてもよい。
【0037】
界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、泡立ちを抑制する点から、ノニオン性界面活性剤が好ましい。ノニオン性界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンポリオキシプロピレンアルキルアミン、又はソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤におけるアルキレンオキサイドは、一又は複数の実施形態において、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド並びにこれらの組み合わせが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシアルキレンアルキルアミン及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましく、より好ましくはポリオキシエチレンアルキルアミン及びポリオキシエチレンアルキルエーテルである。
【0038】
本開示の蒸解助剤は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤と溶剤とを混合することにより製造することができ、必要に応じて水、界面活性剤、消泡剤又はその他の添加剤を合わせて混合すること、好ましくは均一に混合することにより製造することができる。
【0039】
[化学パルプの製造方法]
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料をラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中でアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む化学パルプの製造方法(本開示の化学パルプの製造方法)に関する。本開示の化学パルプの製造方法によれば、ラジカル捕捉剤及び溶剤の存在下で上記蒸解を行うことから、一又は複数の実施形態において、低カッパー価のパルプを高いパルプ収率で製造することができる。
【0040】
本開示の化学パルプの製造方法において蒸解に用いる薬液は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤及び溶剤を少なくとも含み、さらにはアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解に用いる薬液(蒸解液)を含みうる。アルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解に用いる薬液(蒸解液)としては、一又は複数の実施形態において、亜硫酸パルプ、溶解亜硫酸パルプ、ソーダパルプ、クラフトパルプ、及び溶解クラフトパルプ等の化学パルプの製造における蒸解工程で使用される薬液(蒸解液)、及び酸素脱リグニン工程で使用される薬液(処理液)等が挙げられる。
【0041】
アルカリ蒸解に用いる薬液(蒸解液)としては、一又は複数の実施形態において、アルカリ性溶液(蒸解液)等が挙げられる。該アルカリ性溶液(蒸解液)は、一又は複数の実施形態において、硫化ナトリウム(Na2S)と、水酸化ナトリウム(NaOH)とを含み、好ましくは主成分として硫化ナトリウムと水酸化ナトリウムとを含む。アルカリ性(蒸解液)における硫化度は、一又は複数の実施形態において、10%~35%であり、好ましくは27%~30%である。アルカリ添加量(活性アルカリ添加率(AA))は、一又は複数の実施形態において、5%~35%であり、好ましくは13%~30%である。硫化度は、(Na2S)/(NaOH+Na2S)×100で表される。活性アルカリは、NaOH濃度+Na2S濃度をNa2Oに換算して表される。
【0042】
亜硫酸蒸解に用いる薬液(蒸解液)としては、一又は複数の実施形態において、亜硫酸溶液、又は亜硫酸水素溶液(重亜硫酸溶液)等が挙げられる。
【0043】
酸素脱リグニン工程で使用される薬液(処理液)としては、一又は複数の実施形態において、酸素脱リグニン工程で使用されるアルカリ性溶液(処理液)等が挙げられる。該アルカリ性溶液としては、一又は複数の実施形態において、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ薬剤を含む。該アルカリ性溶液のpHは、一又は複数の実施形態において、11以上若しくは12以上であり、又は14以下若しくは13.5以下である。
【0044】
蒸解に用いる薬液中におけるラジカル捕捉剤及び溶剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、蒸解を行うリグノセルロース材料やパルプの量(例えば、絶乾重量)、及び薬液中の水酸化ナトリウム等のアルカリ剤の濃度に応じて適宜決定できる。蒸解に用いる薬液中におけるラジカル捕捉剤及び溶剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、一定であってもよいし、薬液中のアルカリ剤の濃度等に応じて増減させてもよい。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、薬液中のラジカル捕捉剤及び溶剤の含有量を、薬液中のアルカリ剤の濃度等に応じて増減させることを含んでいてもよい。
【0045】
薬液中におけるラジカル捕捉剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料の絶乾重量に対して、0.0005重量%~5重量%であり、好ましくは0.001重量%~2重量%であり、より好ましくは0.005重量%~1重量%である。薬液中における溶剤の含有量は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料の絶乾重量に対して、0.0005重量%~5重量%であり、好ましくは0.001重量%~2重量%であり、より好ましくは0.005重量%~1重量%である。また、薬液中におけるラジカル捕捉剤及び溶剤の合計の含有量が、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料の絶乾重量に対して、0.0005重量%~5重量%であってもよく、好ましくは0.001重量%~2重量%であり、より好ましくは0.005重量%~1重量%である。
【0046】
本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤及び溶剤を、蒸解を行う薬液に添加する工程を含みうる。ラジカル捕捉剤及び溶剤の添加は、一又は複数の実施形態において、蒸解を行う薬液中のラジカル捕捉剤及び溶剤の含有量が上記の含有量になるように行えばよい。ラジカル捕捉剤及び溶剤の添加量は、一又は複数の実施形態において、蒸解を行うリグノセルロース材料やパルプの量、及び薬液中の水酸化ナトリウム等のアルカリ剤の濃度に応じて適宜決定することができる。ラジカル捕捉剤及び溶剤の添加量は、一又は複数の実施形態において、一定であってもよいし、薬液中のアルカリ剤の濃度等に応じて増減させてもよい。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、ラジカル捕捉剤及び溶剤の添加量を、薬液中のアルカリ剤の濃度等に応じて増減させることを含んでいてもよい。
【0047】
ラジカル捕捉剤及び溶剤は、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中でリグノセルロース材料が蒸解において上記効果が奏されるように添加されれば、添加箇所及び添加するタイミングは特に限定されない。ラジカル捕捉剤及び溶剤は、一又は複数の実施形態において、同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。同時に添加する場合、ラジカル捕捉剤及び溶剤は、あらかじめ混合したものを添加してもよいし、用事調製して混合して添加してもよいし、混合せずに添加してもよい。また、ラジカル捕捉剤及び溶剤として、本開示のパルプ蒸解助剤を使用してもよい。
【0048】
ラジカル捕捉剤及び溶剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、蒸解工程に先立つ原料チップ供給工程からリグノセルロース材料をアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解する蒸解工程までの少なくとも一カ所が挙げられる。ラジカル捕捉剤及び溶剤は、一又は複数の実施形態において、蒸解が行われる蒸解釜に添加してもよいし、収率を向上させる点から、蒸解釜へ原料チップを供給する原料チップ供給工程のいずれかに添加することが好ましい。原料チップ供給工程における添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、チップビン(図1の13)、スチーミングベッセル(図1の14)、メタルトラップ、チップシュート、及び高圧フィーダー等が挙げられる。よって、本開示の製造方法は、ラジカル捕捉剤及び溶剤の少なくとも一方を原料チップと混合することを含んでいてもよく、ラジカル捕捉剤を原料チップと混合することを含んでいてもよい。
また、ラジカル捕捉剤及び溶剤は、蒸解液(白液及び黒液)の注入循環ラインに添加してもよく、蒸解釜での蒸解後の脱リグニン工程の酸素蒸解装置に添加してもよい。ラジカル捕捉剤及び溶剤は、一又は複数の実施形態において、一度に添加してもよいし、分割して添加してもよい。
【0049】
図1に、化学パルプの製造方法のフローの一例を示す。図1のフローには、リグノセルロース材料の原料チップ供給工程、蒸解工程、及び酸素脱リグニン工程が含まれる。
(原料チップ供給工程)
チッパー(図示せず)でチップ化されたリグノセルロース材料のチップ11は、チップサイロ12に保管される。チップサイロ12で保管されたチップは、チップスクリーン(図示せず)にて選定されてチップビン13に送られた後、スチーミングベッセル14においてチップ内部の気相が水蒸気に置換される。
(蒸解工程)
スチーミングベッセル14において浸透性が高められたチップは、浸透塔15において、アルカリ性蒸解液の導入によりチップ内部への蒸解液の浸透が促進される。その後、蒸解釜16において、パルプ材料である木材チップと、ラジカル捕捉剤、溶剤及び水酸化ナトリウム等を少なくとも含有する溶液とを混合し加圧蒸煮することで、非繊維成分が溶解した黒液とパルプとが混在するパルプスラリーが排出される。また、浸透塔15は場合によっては前加水分解釜(PHV)塔として酸を用いた前加水分解するために使用されることもある。
(酸素脱リグニン工程)
蒸解釜16から排出されたパルプスラリーは、黒液洗浄塔17で洗浄された後、スクリーン18、デッカー19及び未晒し高濃度ストレージタワー20を経た後、酸素蒸解装置21に導入される。酸素蒸解装置21において、さらなる脱リグニン化が行われた後、漂白工程(図示せず)に移送される。
【0050】
蒸解時の加熱温度は、一又は複数の実施形態において、80℃~200℃であり、好ましくは140℃~180℃である。本開示の製造方法は、一又は複数の実施形態において、リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤と溶剤とを含有するアルカリ性溶液である薬液中で、80℃~200℃で加熱することを含む蒸解工程を含む。
【0051】
蒸解時の加熱時間は、一又は複数の実施形態において、30分~400分であり、好ましくは50分~300分である。
【0052】
本開示の製造方法において、上記の蒸解に先立ち、リグノセルロース材料の前処理を行うことを含んでもよい。前処理としては、一又は複数の実施形態において、水熱処理(前加水分解処理)等が挙げられる。水熱処理は、一又は複数の実施形態において、チップ状のリグノセルロース材料を熱水又は水蒸気で処理することにより行うことができる。
【0053】
[蒸解方法]
本開示は、一態様において、リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中で蒸解することを含むリグノセルロース材料のアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解方法(本開示の蒸解方法)に関する。本開示の蒸解方法によれば、一又は複数の実施形態において、蒸解後のパルプ収率の向上と蒸解後のカッパー価の低下とを実現することができる。本開示の蒸解方法において、蒸解は、本開示の製造方法と同様に行うことができる。
【0054】
本開示は、以下の、一又は複数の実施形態に関しうる;
[1] ラジカル捕捉剤と溶剤とを含有するパルプ蒸解助剤。
[2] 前記溶剤は、グリコール系溶剤及びグリコールエーテル系溶剤からなる群から選択される、[1]記載のパルプ蒸解助剤。
[3] 前記ラジカル捕捉剤は、テトラメチルピペリジンオキシル系ラジカル捕捉剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、アミン系ラジカル捕捉剤及びキノン系ラジカル捕捉剤からなる群から選択される、[1]又は[2]に記載のパルプ蒸解助剤。
[4] リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中でアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解することを含む、化学パルプの製造方法。
[5] 前記薬液に、ラジカル捕捉剤及び溶剤を同時に又は別々に添加することを含む、[4]記載の製造方法。
[6] 前記蒸解は、前記薬液の温度が80℃~200℃となるように加熱することを含む、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7] リグノセルロース材料を、ラジカル捕捉剤及び溶剤を含有する薬液中で蒸解することを含む、リグノセルロース材料のアルカリ蒸解又は亜硫酸蒸解方法。
【0055】
以下、実施例及び参考例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例
【0056】
[ラジカル捕捉剤]
H-TEMPO:4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル
TBC:4-tert-ブチルカテコール
[溶剤]
BDG:ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル
EG:エチレングリコール
PhG:エチレングリコールモノフェニルエーテル
BFDG:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル
【0057】
[製剤の安定性確認試験1]
ラジカル捕捉剤と溶剤とを含む蒸解助剤の保存安定性の確認試験を行った。
H-TEMPOとBDGとを下記表1に示す濃度で混合し、残部を水で調整して試験液を調製した。50ml容のスクリュー瓶に、試験液を20mlずつ入れて0℃の恒温槽で静置した。試験液が0℃になったところでH-TEMPOの結晶を微量添加し、その状態で0℃の恒温槽で1日間保存した後、容器内の試験液の性状を観察した。比較製剤例として、H-TEMPOのみ(BDGとの混合なし)の製剤について同様の評価を行った。それらの結果を表1に示す。
【表1】
【0058】
H-TEMPO単独(比較製剤例)では結晶が析出したのに対し、BDGと混合した製剤例1及び2では結晶の析出がなく、H-TEMPOを30重量%という高い濃度で含有する製剤を安定に保存できることが確認できた。また、H-TEMPOの濃度が30重量%の製剤の場合、BDGの濃度を10重量%以上とすることにより、保存安定性がより優れることが確認できた。
【0059】
[製剤の安定性確認試験2]
H-TEMPOとEGとを下記表2に示す濃度で混合し、残部を水で調整して試験液を調製した。調製した試験液を用いて、-5℃の恒温槽で保存した以外は、安定性確認試験1と同様に実施した。その結果を下記表2に示す。
【表2】
【0060】
溶剤としてEGを使用した場合であっても、H-TEMPOを含む製剤を安定に保存できることが確認できた。
【0061】
[蒸解助剤の調製]
下記表3に示すラジカル捕捉剤と溶剤とを1:1(重量比)で混合して蒸解助剤A~Eを調製した。具体的には、蒸解助剤A~Dは、H-TEMPO100重量部に対する各溶剤の配合比率が100重量部となるように、H-TEMPO水溶液と下記表3に示す溶剤とを混合した。蒸解助剤Eは、TBC100重量部に対するBDGの配合比率が100重量部となるように、TBCとBDGとを混合した。蒸解助剤A~Eに含まれる有効成分(ラジカル捕捉剤及び溶剤の合計)の含有量は46重量%であり、溶剤と水との配合比率(水/溶剤)は2.3/1である。
【表3】
【0062】
[実施例1]
100mlの金属容器に、アカマツチップ40g(絶乾重量)を詰め、ついで下記蒸解液(活性アルカリ20%、硫化度29%)を液比(チップの絶乾重量に対する蒸解液重量の比:蒸解液/チップ)4.2で加え、チップの絶乾重量に対してラジカル捕捉剤と溶剤との合計の濃度が0.5重量%となるように蒸解助剤A~Eのいずれかを加え、ついで下記の蒸解条件で蒸解を行った。得られた未晒パルプについて、下記方法にしたがって精選収率及びカッパー価を測定した。その結果を下記表4に示す。
参考例では、蒸解助剤に代えてH-TEMPO又はBDGを使用し、チップの絶乾重量に対するH-TEMPO又はBDGの濃度が0.5重量%となるように蒸解液に加え、同様の処理及び測定を行った。また、ブランクでは、薬剤を添加せずに、同様の処理及び測定を行った。これらの結果を表4に示す。
<蒸解液>
組成:活性アルカリ20%、硫化度29%
活性アルカリ:NaOH濃度+Na2S濃度をNa2Oに換算した値
<蒸解条件>
装置:耐圧容器、窒素置換
加熱条件:160℃、1.6MPa、3時間
【0063】
[精選収率]
得られた未晒パルプを布袋に入れて、水道水で充分に洗浄した後、フラットスクリーン(熊谷理機工業製)により未蒸解繊維を除去し、脱水して得られたものを精選パルプとした。精選パルプを105℃で3時間乾燥させて精選パルプの絶乾重量を得た。精選パルプの絶乾重量を、蒸解前のチップの絶乾重量で除した数を重量%で表記して精選収率とした。また、フラットスクリーンで精選されなかった未蒸解繊維の写真を図2に示す。
[カッパー価]
精選パルプのカッパー価をJIS P 8211の方法により測定した。
【0064】
【表4】
【0065】
表4に示すように、ラジカル捕捉剤(H-TEMPO又はTBC)とグリコール系溶剤又はグリコールエーテル系溶剤とを含有する蒸解助剤A~Eを添加した蒸解液を用いて蒸解することにより、ブランクと比較して、精選収率の向上及びカッパー価の低下が確認できた。また、ラジカル捕捉剤とグリコール系溶剤又はグリコールエーテル系溶剤との併用(蒸解助剤A~Eの使用)による精選収率の向上及びカッパー価の低下効果は、H-TEMPO及びBDGのそれぞれを単独で使用した場合と比較して高かった。
【0066】
また、図2に示すように、蒸解液に添加した薬剤が異なる以外は同じ蒸解液及び蒸解条件で処理したにもかかわらず、H-TEMPOとBDGとを含有する蒸解助剤Aを添加した蒸解液を用いて蒸解した場合(実施例1-1)、ブランク並びにH-TEMPO又はBDG単独を添加した蒸解液を使用した場合(Blank若しくは参考例1又は2)と比較して、フラットスクリーンに残った未蒸解繊維の量が大幅に少なく、また、未蒸解繊維がより細かくほぐれていることが確認できた。つまり、H-TEMPO(ラジカル捕捉剤)とBDG(溶剤)とを蒸解液に添加することによって、木材チップを均一かつ十分に蒸解して十分にパルプ繊維化でき、かつ、この十分なパルプ繊維化により、溶剤によるカッパー価の低下効果をパルプ全体に作用させることができたことから、精選収率の向上とカッパー価の低下との双方を実現できたといえる。
【0067】
[実施例2]
アカマツチップに代えてアカシアチップ35g(絶乾重量)及び下記表5に示す薬剤を使用し、活性アルカリ16%、硫化度29%とした以外は、実施例1と同様に行った。その結果を下記表5に示す。
【表5】
【0068】
表5に示すように、アカマツチップに代えてアカシアチップを使用した場合であっても、H-TEMPOと溶剤(EG)とを添加した蒸解液を用いて蒸解することにより、H-TEMPO又は溶剤(EG)単独を添加した蒸解液を使用した場合と比較して、精選収率向上とカッパー価低下との双方の向上効果を確認できた。
図1
図2