(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】経鼻粘膜ワクチン用アジュバント
(51)【国際特許分類】
A61K 39/39 20060101AFI20221027BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20221027BHJP
A61K 31/688 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A61K39/39
A61P37/04
A61K31/685
A61K31/688
(21)【出願番号】P 2019016175
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-08-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年12月7日に参加者に配布・公開された第37回日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー学会抄録集(113頁)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】黒野 祐一
(72)【発明者】
【氏名】川畠 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】地村 友宏
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060096(WO,A1)
【文献】特開2017-088530(JP,A)
【文献】特開2017-088711(JP,A)
【文献】日本耳鼻咽喉科学会会報 (2018) vol.121, no.4, p.556(O-141)
【文献】Adv. Otorhinolaryngol. (2011) vol.72, p.146-148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/39
A61K 31/685
A61K 31/688
C07F 9/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有するカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)を含む経鼻粘膜ワクチン用アジュバント。
【化1】
(Xは水素原子または1価のカチオン残基、もしくは下記の式(2)で表される基である。)
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経鼻粘膜感染症の治療及び予防に使用される経鼻粘膜ワクチン用アジュバントに関する。
【背景技術】
【0002】
感染症など特定疾患の予防にはワクチンが広く用いられる。このワクチンは、生体に免疫を与える抗原を含む生物学的製剤の一種である。生体に対して、予め無毒化もしくは弱毒化した抗原を人為的に接種させ、特定の疾患に対する免疫を高めることで、その疾患への罹患を予防するものである。
そもそもワクチンは、生ワクチンや不活化ワクチンなどいくつかの種類があることが知られている。生ワクチンは、病原体の毒性、病原性を弱めて製造したワクチンである。不活化ワクチンは、ホルマリンや紫外線などで前処理を施し、毒性や病原性を取り除いた病原体やその成分から製造されるワクチンである。
【0003】
一般的に生ワクチンは、良好な免疫応答が得られる場合が多いものの、副作用を示す可能性が不活化ワクチンよりも高いことが知られている。一方で、不活化ワクチンは、生ワクチンと比較して安全性に優れる反面、免疫応答が弱く、十分な免疫応答を得るためには、ワクチンを反復して投与したり、また、ワクチンの効果を高めることが出来るアジュバントを併用したりすることも多い(例えば特許文献1~2)。
アジュバントは抗原と混合して生体へと投与することで、その抗原に対する免疫応答を増強させることが出来る物質のことである。不活化ワクチンなどへアジュバントを添加することで、免疫応答を増強することが出来る。
【0004】
一方で、呼吸器や咽頭部などの経粘膜感染症の場合、注射によるワクチン接種では、感染箇所における免疫応答を効果的に誘導することが出来ないことも多い。更に、粘膜面は常に外界からの異物侵入の可能性にさらされているため、抗原を単独で粘膜に投与しても十分な免疫を誘導できないことも多かった。
以上より、経粘膜感染症の治療及び予防を目的として、不活化ワクチンと併用することで、優れた免疫応答を発現するアジュバントの開発が望まれているのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-020962号公報
【文献】国際公開第2009/004900号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の課題は、経鼻粘膜ワクチンと併用可能で、優れた免疫応答を有する新規な経鼻粘膜ワクチン用アジュバントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定のカルボキシル化ホスホリルコリン化合物を含む経鼻粘膜ワクチン用アジュバントが、経鼻粘膜感染症などに対するワクチンに利用可能な新規な経鼻粘膜ワクチン用アジュバントとなりうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の[1
]である。
[1]下記式(1)で表される構造を有するカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)を含む経鼻粘膜ワクチン用アジュバント。
【化1】
(Xは水素原子または1価のカチオン残基、もしくは下記の式(2)で表される基である。)
【化2】
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、経鼻免疫ワクチンと併用可能で、優れた免疫応答を有する新規な経鼻粘膜ワクチン用アジュバントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】血清中のオボアルブミン特異的抗体価の測定結果を示す図である。
【
図2】唾液中のオボアルブミン特異的IgA抗体価の測定結果を示す図である。
【
図3】鼻汁中のオボアルブミン特異的IgA抗体価の測定結果を示す図である。
【
図4】血清中のホスホリルコリン特異的抗体価の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[経鼻粘膜ワクチン用アジュバント]
本発明は、下記式(1)で表される構造を有するカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)を含む経鼻粘膜ワクチン用アジュバントである。
【化3】
(Xは水素原子または1価のカチオン残基、もしくは下記の式(2)で表される基である。)
【化4】
【0012】
経鼻粘膜ワクチンとは、鼻粘膜に投与するワクチンのことである。また、アジュバントとは、ワクチンと併用した場合に、ワクチンの効果を高め、生体においてワクチンとして用いる免疫原(抗原物質)に対する抗体の生産を上昇させる物質をいう。
【0013】
(カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P))
本発明におけるカルボキシ化ホスホリルコリン化合物(P)は、下記式(1)で表される構造を有する。
【0014】
【化5】
(Xは水素原子または1価のカチオン残基、もしくは下記の式(2)で表される基である。)
【化6】
【0015】
式(1)における1価のカチオン残基としては、特に限定されないが、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、またはアンモニア、イミダゾール、ジメチルアミノピリジン、トリエチルアミン、ジアザビシクロオクタン、ジアザビシクロノネン(DBN)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)等がプロトン化された含窒素有機化合物等が挙げられる。
また、式(1)中の-COOX基は、ベンゼン環上のいずれかの炭素上に結合しているが、ホスホリルコリン基に対して、パラ-位で結合していることが好ましい。
式(1)におけるXは、オボアルブミンとの反応性が高いことから、式(2)で表される基であることが好ましい。
【0016】
本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントに含有されるカルボキシルコリン化合物(P)は、抗原物質に対するアジュバントとして機能する。さらに、該カルボキシコリン化合物(P)と抗原物質とが相互作用若しくは反応した化合物も、アジュバントとして機能するものと考えられる。
【0017】
本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、抗原物質を含んでもよく、抗原物質とカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)の含有量は、特に限定されないが、カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)1質量部に対して抗原物質の量を好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.3~3質量部とすることが好ましい。
【0018】
本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、溶媒を含有してもよい。溶媒としては、例えば、水、生理食塩水、グリセロール(現行の注射製剤に用いられる溶媒)等が挙げられる。原料の溶解度や反応速度を考慮すると、溶媒は水が好ましく、中でも蒸留水がより好ましい。
【0019】
溶媒含有量は、特に限定されないが、カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)1質量部に対して、溶媒の量が1~500質量部であることが好ましく、20~200質量部であることがより好ましい。
【0020】
本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、抗原物質を含有する場合は、抗原物質とカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)を混合することにより調製することができる。混合は、上記した溶媒の存在下において行うことが好ましい。
抗原物質とカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)を混合する際の温度は、特に限定されないが、通常は0~100℃とすることができ、好ましくは20~50℃である。
【0021】
抗原物質とカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)とを混合する時間は、特に限定されないが、通常1~120時間とすることができる。
【0022】
本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P)、及び必要に応じて配合される抗原物質、溶媒以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントの免疫応答を妨げない限り特に制限されないが、例えば、緩衝剤、界面活性剤、乾燥剤、防腐剤、粘膜附着剤などが挙げられる。
【0023】
[経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤]
本発明の経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤は、上記した経鼻粘膜ワクチン用アジュバントを含有する。上記した経鼻粘膜ワクチン用アジュバントを含有することにより、抗原物質に対する優れた免疫応答を誘導し、その抗原物質による感染症の罹患や重症化を防ぐことができる。本発明の経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤は、特に呼吸器や咽頭部などの経粘膜感染症に対して、優れた予防効果を発揮することができる。
【0024】
経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤は、経鼻粘膜ワクチンとして抗原物質を含有することが好ましい。抗原物質を含有することにより、該抗原物質に対する抗体の生産が、上記した経鼻粘膜ワクチン用アジュバントにより促進されやすい。なお、抗原物質は経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤に含ませずに、別途生体内に投与等してもよい。
抗原物質は、対象疾患、患者の性質等に応じて適宜選択してよい。抗原物質は、天然由来のものであってもよく、または化学合成やDNA組み換え技術により製造されるものであってもよい。このような抗原物質としては、例えば、ウイルス由来の抗原物質、細菌由来の抗原物質などが挙げられる。抗原物質は、不活性化又は弱毒化したものを使用することが好ましい。
【0025】
ウイルス由来の抗原物質としては、例えば、インフルエンザウイルスの表面上に発現する糖タンパク質であるヘマグルチニン、肺炎球菌およびインフルエンザ菌の莢膜多糖体などが挙げられる。
細菌由来の抗原物質としては、例えば、インフルエンザ菌、肺炎球菌、百日咳菌、破傷風菌、ジフテリア菌、結核菌、大腸菌、コレラ菌、サルモネラ菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌などが挙げられる。
本発明の経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤に含有される、あるいは別途生体内に投与される好適な抗原物質としては、例えば、肺炎球菌の表層蛋白であるPspAやインフルエンザ菌の外膜蛋白であるP6などが挙げられる。
抗原物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤中の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントの含有量は、特に限定されず、生体における抗原物質に対する免疫反応を増強させる有効量を勘案して、適宜定めればよいが、例えば1~70質量%、好ましくは1~50質量%である。
経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤に抗原物質を配合させる場合において、ワクチン製剤中の抗原物質の含有量は、特に限定されず、生体の年齢、体重、疾患の性質などに応じて、医師等の当業者によって、適宜定めればよいが、例えば1~70質量%、好ましくは1~50質量%である。
【0027】
本発明の経鼻粘膜感染症予防用ワクチン製剤は、哺乳類動物に経鼻投与されうる。哺乳類動物としては、例えば、ブタ、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、モルモット等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0029】
<カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P1)の合成>
以下の製造方法により、カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P1)を合成した。
【0030】
4-ヒドロキシ安息香酸メチル20gに、アセトニトリル160g、トリエチルアミン15gを加えて溶解させ、0℃に冷却した。その後、2-クロロ-2-オキソ-1,3,2-ジオキサホスホラン21gを滴下した。滴下終了後、0℃で5時間反応させ、生成したトリエチルアミン塩酸塩をろ過で除いた。得られたろ液に、アセトニトリル200gとトリメチルアミン12gとを加えた後、75℃で15時間反応させた。その後、60℃まで冷却し、窒素を吹き込みながら溶液量が約200mlになるまで濃縮した。濃縮後、溶液を25℃まで冷却し、析出した結晶をろ別し、減圧乾燥することにより白色固体を35.2g得た。
【0031】
得られた上記の白色固体の生成物についての1H-NMR測定、31P-NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、式(3)で表わされる化合物と同定した。
1H NMR:δ=8.04ppm(d,2H,J=8.8:d),7.30ppm(d,2H,J=8.8:e),4.41ppm(brs,2H:c),3.91ppm(s,3H:f),3.68ppm(m,2H:b),3.18ppm(s,9H:a)
31P NMR:-4.59ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]+=317.91,[M+Na]+=340.01
【0032】
【0033】
上記のとおり得られた式(3)で表される化合物5gを蒸留水45gに溶解させ、トリエチルアミンを3.19g加え、還流下4時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し、濃塩酸3.4gを加えることにより反応液を中和し、ロータリーエバポレーターで減圧濃縮した。得られた残留物に、2-プロパノール50gを添加して減圧濃縮する操作を2回行い、さらに、2-プロパノール50gを加え、-10℃で終夜攪拌して結晶を析出させた。溶液を加圧ろ過し、得られた結晶を減圧乾燥することにより、白色固体を4.0g得た。
【0034】
得られた上記の白色固体の生成物についての1H NMR測定、31P NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、式(4)で表わされる化合物と同定した。
1H NMR測定の結果は以下の通りである。
1H NMR:δ=8.06ppm(d,2H,J=8.8:d),7.33ppm(d,2H,J=8.8:e),4.43ppm(brs,2H:b),3.70ppm(m,2H:c),3.19ppm(s,9H:a)
31P NMR:-4.56ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]+=304.12
【0035】
【0036】
上記のとおり得られた式(4)で表わされる化合物5.0gとN-ヒドロキシスクシンイミド3.0gとを、N,N-ジメチルホルムアミド35gに懸濁させた。この溶液を25℃に保ち、10gのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド6.8gを加え、25℃にて72時間反応させた。反応後、溶液をろ過して固体を回収し、アセトニトリル160gで再結晶することにより白色固体4.5gを得た。
【0037】
得られた上記の白色固体の生成物についての1H-NMR測定、31P-NMR測定および質量分析の結果は以下の通りであり、式(5)で表わされるカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P1)と同定した。
1H NMR:δ=8.23ppm(d,2H,J=8.8:e),7.42ppm(d,2H,J=8.3:d),4.45ppm(brs,2H:b),3.72ppm(m,2H:c),3.22ppm(s,9H:a),3.04ppm(s,4H:f)
31P NMR:-4.96ppm(t,J=15.9)
MS:[M+H]+=400.99、[M+Na]+=423.03
【0038】
【0039】
上記した1H NMR測定、31P NMR測定、及び質量分析についての測定条件を以下に示す。
[1H NMR測定]
日本電子(株)製「JNM-AL400」を用い、溶媒:D2O、標準物質:HOD、試料濃度:10mg/g、積算回数:32回の条件で測定を行った。
[31P NMR測定]
日本電子(株)製「JNM-AL400」を用い、溶媒:D2O、標準物質:H3PO4、試料濃度:10mg/g、積算回数:32回の条件で測定を行った。
[質量分析]
質量分析装置としてWaters社製、商品名「Q-micro2695」を用い、試料濃度:100ppm、検出モード:ESI+、キャピラリー電圧:3.54V、コーン電圧:30V、イオン源ヒーター:120℃、脱溶媒ガス:350℃の条件で測定を行った。
【0040】
<オボアルブミン>
実施例において用いたオボアルブミンは市販品(SIGMA製、A5503-5G)を用いた。
【0041】
[実施例1]
(試料の調製)
1mLの蒸留水にオボアルブミン10mgを溶解し、カルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P1)10mgを加えて40℃で18時間攪拌して、経鼻粘膜ワクチン用組成物を調製した。
【0042】
(評価)
以下の手順に従って、経鼻免疫測定を実施し、アジュバント効果を測定した。
(1)あらかじめ6週齢の雌性Balb/cマウスを準備した。
(2)0日目、7日目、14日目の3回にわたり上記のとおり調製した組成物をマウスに経鼻投与した。
(3)21日目に、それぞれのマウスから検体(血清、鼻汁、唾液)を採取し、オボアルブミン特異的抗体価、及び血清中のホスホリルコリン(PC)特異的抗体価を測定して、経鼻粘膜のアジュバント効果を測定した。
なお、アジュバント効果の測定は、以下に示すELISAにより行った。測定は、文献(Tanaka N, Fukuyama S, Fukuiwa T, et al. Intranasal immunization with phosphorylcholine induces antigen specific mucosal and systemic immune responses in mice. Vaccine 2007; 25:2680-2687.)を参考に、実施した。
【0043】
<ELISAによるオボアルブミン特異的抗体及びPC特異的抗体産生の検出>
血清、唾液および鼻汁試料中のオボアルブミン特異的抗体価、及びPC特異的抗体価は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって決定された。PBSに溶解した5μg/ mlのPC-ウシ血清アルブミン(BSA)(Biosearch、San Rafael、CA)でポリスチレンマイクロタイタープレート(Nunc、Roskilde、Denmark)をコーティングし、ウェルをPBSに溶解した1%BSAでブロックした(BSA-PBS)。次いで、各サンプルを1%BSA-PBS中で段階希釈し、個々のウェルに移した。2時間のインキュベーション後、プレートを洗浄し、1:5000希釈ペルオキシダーゼ(HRP)-コンジュゲート抗マウスIgM、IgGおよびIgA(Southern Biotechnology Associates、Birmingham、AL)と反応させた。室温で15分間、3,3 '、5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)(Moss、Pasadena、CA)を1μl/ウェルで添加し発色、次いで 0.5N HCl( 50μl/ウェル)の添加により停止させた。450nmでプレートリーダーを用いて光学濃度(OD)を記録した。OD > 0.3を陽性とした。
[比較例1]
1mLの蒸留水にカルボキシル化ホスホリルコリン化合物(P1)10mgを溶解させた組成物を調製し、該組成物について、実施例1と同様の評価を行った。
[比較例2]
1mLの蒸留水にオボアルブミン10mgを溶解させた組成物を調製し、該組成物について、実施例1と同様の評価を行った。
[比較例3]
リン酸緩衝液(以下、「PBS」ともいう。)を下記のとおり調製し、実施例1と同様の評価を行った。リン酸緩衝液とは、KH2PO4 2.0g/l、Na2HPO4 11.5g/l、NaCl 80g/l、KCL 2.0g/lを配合したものを用いた。
[参考例1]
1mLの蒸留水にオボアルブミン10mgを溶解し、コレラトキシン10mgを加えて40℃で18時間攪拌して組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。
【0044】
【0045】
実施例と各比較例との比較により、本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、優れた免疫応答を示すことが明らかとなった。また、本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、アジュバントとして知られているコレラトキシンを用いた参考例1と同等の免疫応答を示すことが明らかとなった。
さらに、本発明の経鼻粘膜ワクチン用アジュバントは、ホスホリルコリン特異的抗体を誘導することも明らかとなった。