(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】黒鉛-銅複合材料、それを用いたヒートシンク部材、および黒鉛-銅複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/10 20060101AFI20221027BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20221027BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20221027BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20221027BHJP
H01L 23/373 20060101ALI20221027BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C22C1/10 E
B22F1/00 L
B22F3/14 101B
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 D
(21)【出願番号】P 2021565603
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2020046847
(87)【国際公開番号】W WO2021125196
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2019227123
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020133449
(32)【優先日】2020-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594043122
【氏名又は名称】株式会社アカネ
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 正文
(72)【発明者】
【氏名】稲森 太
(72)【発明者】
【氏名】砂本 健市
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-168502(JP,A)
【文献】特開2019-026884(JP,A)
【文献】特開2014-118621(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066543(WO,A1)
【文献】特開2010-067842(JP,A)
【文献】特開2017-155252(JP,A)
【文献】特開昭62-207832(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/10
B22F 1/00
B22F 3/14
H01L 23/36
H01L 23/373
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均厚みが15μm以下の銅層と、前記銅層を介して積層された鱗片状黒鉛粒子とを含み、銅の体積分率が3~20%の黒鉛-銅複合材料であって、下記(A)または(B)を備えることを特徴とする黒鉛-銅複合材料。
(A)前記銅層は、平均粒径が2.8μm以下の銅結晶粒を含有し、Alの質量分率は0.02%未満、Siの質量分率は0.04%未満である。
(B)前記銅層と前記鱗片状黒鉛粒子との界面の隙間が150nm以下である。
【請求項2】
前記鱗片状黒鉛粒子の積層方向に垂直な方向での熱伝導率が700W/(m・K)以上であり、熱伝導率の標準偏差が50W/(m・K)以下である請求項1記載の黒鉛-銅複合材料。
【請求項3】
曲げ強度が25MPa以上であり、曲げ強度の標準偏差が5MPa以下である請求項2記載の黒鉛-銅複合材料。
【請求項4】
100℃における熱膨張係数が10×10
-6/℃以下である請求項3記載の黒鉛-銅複合材料。
【請求項5】
前記鱗片状黒鉛粒子は、厚みが30μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の黒鉛-銅複合材料。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の黒鉛-銅複合材料を用いたヒートシンク材。
【請求項7】
請求項1記載の黒鉛-銅複合材料の製造方法であって、
黒鉛粒子に前処理を施して、厚みが50μm以下の鱗片状黒鉛粒子を得る工程と、
前記鱗片状黒鉛粒子とメジアン径が1.5μm以下の銅粒子とを混合して成形原料を得る工程と、
前記成形原料を成形して得られた成形体を多軸通電焼結法により焼結する工程と
を備えることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛-銅複合材料、それを用いたヒートシンク部材、および黒鉛-銅複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体機器の放熱部品用の材料には、高い熱伝導率が求められる。銅は、高い熱伝導率を有しているものの熱膨張率も高い。銅の高い熱伝導率を損なわずに熱膨張率を低下させ、低コストで得られる複合材料として、金属-黒鉛複合材料が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の金属-黒鉛複合材料は、高い冷却信頼性と低い線膨張係数を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年IOT、AIや電気自動車など新しい技術の躍進により、より一層放熱に対する需要が増えている。具体的には、現行の600W/(m・K)以上の700W/(m・K)程度、更に800W/(m・K)程度の放熱性が高く、安定した熱伝導率を備えた黒鉛-銅複合材料が有用と考えられる。
そこで、本発明は、より高く安定した熱伝導率を備えた黒鉛-銅複合材料、それを用いたヒートシンク部材、および黒鉛-銅複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために検討を行った結果、前処理を施した所定の黒鉛粒子とメジアン径が1.5μm以下の銅粒子とを原料として用いることによって、より高く安定した熱伝導率を備えた黒鉛-銅複合材料が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、平均厚みが15μm以下の銅層と、前記銅層を介して積層された鱗片状黒鉛粒子とを含み、銅の体積分率が3~20%の黒鉛-銅複合材料であって、下記(A)または(B)を備えることを特徴とする黒鉛-銅複合材料。
(A)前記銅層は、平均粒径が2.8μm以下の銅結晶粒を含有し、Alの質量分率は0.02%未満、Siの質量分率は0.04%未満である。
(B)前記銅層と前記鱗片状黒鉛粒子との界面の隙間が150nm以下である。
【0007】
また、本発明は、前述の黒鉛-銅複合材料を用いたヒートシンク部材である。
【0008】
さらに、本発明は、前述の黒鉛-銅複合材料の製造方法であって、黒鉛粒子に前処理を施して、厚みが50μm以下の鱗片状黒鉛粒子を得る工程と、前記鱗片状黒鉛粒子とメジアン径が1.5μm以下の銅粒子とを混合して成形原料を得る工程と、前記成形原料を成形して得られた成形体を多軸通電焼結法により焼結する工程を備えることを特徴とする製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より高く安定した熱伝導率を備えた黒鉛-銅複合材料、それを用いたヒートシンク部材、および黒鉛-銅複合材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】黒鉛粒子と銅層との界面の隙間の評価方法を説明する図である。
【
図2】黒鉛粒子の薄層方法の一例を説明する図である。
【
図3】黒鉛粒子の薄層方法の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0012】
<黒鉛-銅複合材料>
本発明の黒鉛-銅複合材料(以下、単に複合材料とも称する)は、鱗片状黒鉛粒子と銅粒子とを原料として得られた焼結体である。鱗片状黒鉛粒子は、平均厚みが15μm以下の銅層を介して積層されている。ここで、「銅層を介して」とは、鱗片状黒鉛粒子(以下、単に黒鉛粒子とも称する)が隣接する銅層により繋がっていることを意味する。すなわち、複合材料内の鱗片状黒鉛粒子は電気的に連続している。
【0013】
銅層の平均厚みを15μm以下とすることで、鱗片状黒鉛粒子間に局所的に存在する銅の粗大層が減少する。銅は黒鉛より熱伝導率が低いことから、銅の粗大層が減少することで、高熱伝導率の複合材料が得られる。また、銅層の厚みは複合材料の銅の体積分率が減少することにより減少する。750W/(m・K)以上の高い熱伝導率を安定して得るためには、銅層の平均厚みは11μm以下であることが好ましい。
【0014】
複合材料における銅の体積分率は、3~20%である。熱伝導率の高い黒鉛の含有率が80~97%と高いので、本発明の複合材料の熱伝導率は非常に高い。銅は、複合材料におけるバインダーとして作用する。加工時における複合材料の破断を回避することを考慮すると、複合材料における黒鉛と銅との体積比(黒鉛:銅)は、80:20~97:3が好ましい。750W/(m・K)以上の高熱伝導率と良好な加工性を確保するためには、体積比(黒鉛:銅)は、84:16~95:5がより好ましい。複合材料における銅の体積分率は、製造する際の原料の配合割合によって調整することができる。
【0015】
さらに本発明の複合材料は、下記(A)または(B)を備える。
(A)銅層は、平均粒径が2.8μm以下の銅結晶粒を含有し、Alの質量分率は0.02%未満、Siの質量分率は0.04%未満である。
(B)銅層と鱗片状黒鉛粒子との界面の隙間が150nm以下である。
それぞれについて、以下に説明する。
【0016】
銅層中の銅結晶粒の平均粒径は、例えば、後方散乱電子回折(Electron Back Scattrer Diffraction:EBSD)解折の結晶方位マッピングデータから得られる結晶粒径分布より算出できる。熱伝導率や加工性の安定した複合材料を得るためには、銅結晶粒の平均粒径は2.5μm以下が好ましく、さらに2.1μm以下であることがより好ましい。後述するように、本発明の複合材料の製造には、メジアン径、つまり粒子径の小さい銅粒子が使用される。これによって、焼結後の複合材料における銅結晶粒の粒径を小さくすることができる。
【0017】
複合材料における不純物は、複合材料中の鱗片状黒鉛粒子の積層方向に垂直な断面(積層断面)の150倍の倍率での走査型電子顕微鏡像におけるEDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)組成マッピングデータから確認できる。マッピングデータから算出したAlの質量分率は0.02%未満であり、Siの質量分率は0.04%未満である。より高熱伝導率で加工性の良好な複合材料を得るためには、Alの質量分率は0.01%未満であることが好ましく、Siの質量分率は0.02%未満であることが好ましい。
【0018】
SiおよびAlは、熱伝導率の低い不純物である。こうした不純物の含有量が制限されているので、本発明の複合材料においては、銅層と黒鉛粒子との界面での熱伝導が妨げられることはない。また、SiやAlの塊に起因して、加工時にクラックが生じることも回避される。すなわち、本発明の複合材料は、所定の平均粒径の銅結晶粒を含有し、不純物の含有量が制限されていることが一つの特徴である。
【0019】
あるいは、本発明の複合材料は、銅層と黒鉛粒子との界面の隙間が150nm以下である。本発明の複合材料の製造に使用する銅粒子は、メジアン径、つまり粒子径が小さいことから、焼結後の複合材料における黒鉛粒子と銅層の界面の隙間を150nm以下にすることができる。より安定な熱伝導率と良好な加工性とを備えた複合材料とするために、黒鉛粒子と銅層の界面の隙間は100nm以下であることが好ましい。黒鉛粒子と銅層とが密接することにより、界面で生じる熱損失が減少し、それぞれの層が支えあうことで、加工時のクラックを抑制することができる。
【0020】
黒鉛粒子と銅層の界面は、測定視野において長さが6.0+0.1μmの界面を対象とする。黒鉛粒子と銅層の界面の隙間は、任意の5視野において等間隔5点で算出した層間の距離を平均した値である。例えば、黒鉛粒子と銅層の界面の隙間は、以下に記載する画像解析により算出することができる。
【0021】
複合材料における鱗片状黒鉛粒子の積層方向に垂直な断面(積層断面)を走査型電子顕微鏡により、20000倍の倍率で観察し、縦4.5μm、横6.0μmの顕微鏡像を得る。長さが6.0+0.1μmとなる界面を任意に選択し、この界面が画像の左右の中央となるように調整する。
図1に示すように、界面16の中から等間隔5点における黒鉛粒子12と銅層14との視野の縦方向の距離(X
1,X
2,X
3,X
4,X
5)を測定し、その平均値(Xav)を算出する。
無作為に選定した5視野において同様に層間の距離の平均値を算出し、その平均値を複合材料における黒鉛粒子と銅層の界面の隙間とすることができる。
【0022】
上記(A)および(B)のいずれの場合も、本発明の複合材料は、熱伝導率が700W/(m・K)以上であることが好ましい。高出力の電子部品などに使用するためには、熱伝導率は750W/(m・K)以上であることがより好ましい。熱伝導率は、焼結体中央部から所定寸法外径10mm×厚み2.5mmの試料を切り出し、レーザーフラッシュ法(JIS H 7801:2005)に準拠してNETZSCH社製LFA447を用いて測定し、5個の焼結体から切り出した試料の熱伝導率の平均を求めた値である。
【0023】
また、熱伝導率の標準偏差は、好ましくは50W/(m・K)以下であり、複合材料をより安定的に生産をするために、より好ましくは33W/(m・K)以下である。1つの装置で製造した5つの焼結体について測定した熱伝導率の標準偏差は、熱伝導率の安定性を示す。本発明の複合材料は、高く安定した熱伝導率を備えている。
【0024】
本発明の複合材料は、曲げ強度が25MPa以上であることが好ましく、より機械的強度の必要な製品に使用するために、より好ましくは30MPa以上である。曲げ強度の標準偏差は、10MPa以下であることが好ましく、複合材料をより安定的に生産をするために、より好ましくは5MPa以下である。本明細書における曲げ強度は、前述と同様の焼結体5個について三点曲げ測定(JIS R 1601:2008)を参考にして測定し、平均を求めた値である。5個の試料における曲げ強度の標準偏差は、曲げ強度の安定性を示す。このように、本発明の複合材料は、より高く安定した曲げ強度も備えている。
【0025】
加えて、本発明の複合材料は、熱膨張係数が10×10-6/℃以下であることが好ましい。ここで、熱膨張係数は100℃における値である。既存品の銅より低い熱膨張係数を備えているので、本発明の複合材料は高温下での取り扱いが可能である。自動車などに使用される高温耐久性の求められる製品に使用できるため、本発明の複合材料の熱膨張係数は、4.5~7.0×10-6/℃程度であることがより好ましい。このように、本発明の複合材料は、より高く安定した熱伝導率、より高く安定した曲げ強度に加えて、より低い熱膨張率も備えている。
【0026】
なお、複合材料の熱膨張係数は、JIS Z 2285:2003の光走査式測定に準拠した方法で測定することができる。線熱膨張率測定装置としては、品川白煉瓦(株)製 形式SL-2000Mを用いることができる。
【0027】
<製造方法>
本発明の複合材料は、黒鉛粒子に前処理を施して所望の鱗片状黒鉛粒子を得、所定の銅粒子と混合して成形原料とし、これを成形して所定条件で焼結して製造することができる。各工程について、以下に説明する。
(黒鉛前処理)
黒鉛粒子の前処理(以下、薄層化と称することがある)は、黒鉛粒子にせん断力を付与して厚みを低減することにより行われる。用いる黒鉛粒子は特に限定されないが、一般的には長辺が2000~10μm程度、厚みが200~20μm程度である。使用し得る黒鉛としては、例えば、+3299(伊藤黒鉛工業(株)製)等が挙げられる。
【0028】
前処理に当たっては、例えば、
図2に示すように、黒鉛粒子23が載置される篩21と、黒鉛粒子23に当接して水平方向に往復移動可能な砥石22とを用いることができる。使用する篩21の目開きに応じて、得られる鱗片状黒鉛粒子の長辺の長さを選択することができる。篩21の目開きは、例えば53μm程度とすることができる。砥石22としては、荒砥石~中砥石が好ましく、砥粒としてアランダムや天然ダイヤを用いたものが好ましい。篩21上に黒鉛粒子23を配置し、砥石22を水平方向に往復移動させて、せん断力を付与することにより、黒鉛粒子23の厚みを低減する。
【0029】
せん断力により内部に空洞が生じたものや、脆くて容易に崩れてしまうものは、篩21により除去される。その結果、得られる鱗片状黒鉛粒子の厚みを薄くし、密度が高められる。さらに、黒鉛粒子中の不純物が除去されて、純度の向上にもつながる。なお、処理に用いる砥粒のサイズや篩の目開きを変更することによって、種々のサイズの鱗片状黒鉛粒子を得ることができる。
【0030】
黒鉛粒子の前処理には、
図3に示すように、2つの回転砥石30a、30bを用いることもできる。回転砥石30a,30bは、金属板31a,31bをそれぞれ有し、対向する面に、ダイヤモンド等の砥粒33a,33bが設けられている。砥粒33a,33bは、メッキ等の接合金属部材32a,32bにより固定され、処理対象となる黒鉛粒子23が、砥粒33a,33bの間に配置される。回転砥石30a,30bを用いて黒鉛粒子23に前処理を施した場合には、比較的小さく薄い鱗片状黒鉛粒子を、効率良く得ることができる。
【0031】
上述したような前処理によって、厚みが50μm以下の鱗片状黒鉛粒子が得られる。ここで示す厚みは、前処理後の鱗片状黒鉛粒子50個の厚みの平均値である。鱗片状黒鉛粒子は複数の黒鉛片が重なった構造をもつ。鱗片状黒鉛粒子の厚みが小さいほど黒鉛粒子内の黒鉛片間の隙間が低減されて、熱伝導率および機械的特性が良好となる。鱗片状黒鉛粒子の厚みは、用いる黒鉛粒子および前処理の条件等によって調整することができる。
【0032】
より高い熱伝導率と良好な加工性をもつ複合材料を得るために、鱗片状黒鉛粒子の厚みは、30μm以下であることが好ましい。このように前処理を施すことによって鱗片状黒鉛粒子の形状が固定される。例えば、目開きが53μmの篩21を用いた場合には、長辺が60μm以上の鱗片状黒鉛粒子が得られる。
【0033】
(銅粒子の準備)
銅粒子としては、体積基準のメジアン径が1.5μm以下の銅粒子が用いられる。銅粒子のメジアン径は、1.0μm以下であることが好ましい。メジアン径が1.5μm以下の小さい銅粒子を用いることによって、安定した熱伝導率や加工性の複合材料が得られることが、本発明者らによって見出された。メジアン径が1.5μm以下の銅粒子は、任意の方法により製造することができる。例えば、化学還元法や物理的製法によって、所望の銅粒子が得られる。
【0034】
(混合)
前処理を施して得られた鱗片状黒鉛粒子と銅粒子とは、所定の割合で配合して、有機溶媒により湿式混合を行って成形原料を得る。原料の配合割合は、複合材料における黒鉛と銅との体積比、黒鉛:銅が、80:20~97:3となるように選択することが望まれ、熱伝導率と加工性の観点から、特に、74:16~95:5となるように選択することが好ましい。好適な有機溶媒としては、具体的にはトルエンやキシレンが挙げられる。
【0035】
(焼結)
まず、少量(40g以下程度)の成形原料を所定の成形型に充填して、例えば油圧ハンドプレスを用いて3~15MPa程度の圧力で圧粉する。成形型としては、例えば直径30mmのSUS製型を用いることができる。成形原料の充填と圧粉とを繰り返して、所望の大きさの成形体を作製する。得られた成形体を、多軸通電焼結法により焼結することで、本発明の複合材料となる焼結体が得られる。
【0036】
ここで、
図4を参照して、多軸通電焼結装置の概略を説明する。
図4に示す多軸通電焼結装置40は、成形体が収容されたカーボン製型44を、上下方向の加圧軸45a、45bと、水平方向の加熱軸(A)47a,47bおよび加熱軸(B)49a,49bとで真空容器42内に固定することができる。加熱軸(A)47a,47bと加熱軸(B)49a,49bとは、交互に通電できるように構成されている。加熱軸(A)は、矢印x1,x2の方向に通電され、加熱軸(B)は、矢印y1,y2の方向に通電される。
【0037】
多軸通電焼結装置40においては、加圧軸45a,45bと加熱軸47a,47b,49a,49bとが分離されている。具体的には、加圧軸45a,45bはz軸方向にあり、加熱軸(A)47a,47bはx軸方向、加熱軸(B)49a,49bはy軸方向にある。これにより、加圧と加熱とを独立して制御することが可能となることから、焼結部分の径方向において均一な温度分布が得られる。
【0038】
焼結にあたっては、成形体が収容されたカーボン製型44を真空容器42内に固定した後、真空容器42内を100Pa以下、装置内の部品の酸化劣化を抑制するために、好ましくは50Pa以下まで減圧する。次いで、まず加熱軸(A)47a,47bに通電して、650~750℃程度、好ましくは670~730℃程度に加熱する。
【0039】
その後、加熱軸(B)49a,49bに切り替えて、930~980℃程度、好ましくは940~970℃程度に加熱する。さらに、上下方向の加圧軸45a、45bにより矢印z1方向および矢印z2方向に加圧する。この際の圧力は、10~100MPa程度が好ましく、30~50MPa程度がより好ましい。
【0040】
多軸通電焼結法により均一な温度分布で焼結されるので、安定した品質の複合材料を製造することができる。しかも、上述したように、前処理を施して得られた所定の鱗片状黒鉛粒子と、メジアン径1.5μm以下の銅粒子とを原料として用いたことから、より高く安定した熱伝導率、より高く安定した曲げ強度に加えて、より低い熱膨張係数を備えた複合材料が得られた。
【0041】
単体金属の焼結体の場合、粒子(メジアン)径の小さい金属粒子を使用し、焼結金属の結晶粒径を小さくすることにより界面抵抗が増大するため、熱伝導率が低下することが予想される。しかしながら、本発明の複合材料では、メジアン径が1.5μm以下の銅粒子が鱗片状黒鉛粒子の間に入り込むことで、黒鉛粒子と銅層との界面に発生する空孔が減少し、界面の隙間が150nm以下に低減される。その結果、空孔や隙間による熱伝導率の妨げや機械的強度の劣化を抑制することができたものと考えられる。
【0042】
本発明の複合材料は、放熱板(ヒートシンク部材)として好適に用いることができる。ヒートシンク部材は、無線通信分野、電子制御分野、および光通信分野等の広範な分野で用いられている。用途としては、具体的には、パワー半導体モジュール、光通信モジュール、プロジェクター、ペルチェ冷却器、水冷クーラー、およびLED放熱ファン等が挙げられる。
【0043】
図5には、放熱板を用いた冷却基板の一例を示す。冷却基板55は、放熱板50と冷却層54とを備える。放熱板50は、応力緩衝層53上に順次積層された電気絶縁層52および配線層51を有する。配線層51の上面の搭載面51aには、半導体素子等の発熱性素子が搭載される。本発明の複合材料は、応力緩衝層53および配線層51のどちらか1つの層に用いることができる。
【0044】
放熱板50の搭載面51aに搭載された発熱性素子に発生した熱は、配線層51、電気絶縁層52、応力緩衝層53、および冷却層54に順次伝導し、冷却層54から放散される。本発明の複合材料は、高く安定した熱伝導率を備えているので、効率よく発熱性素子を冷却して、その温度を低下させることができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0046】
(実施例1)
市販の黒鉛粒子に、
図2を参照して説明した方法により前処理(薄層化)を施して、厚みが50μm以下の鱗片状黒鉛粒子を得た。篩21の目開きは53μm程度であり、砥石22は砥粒としてアランダムや天然ダイヤを使用した砥石を用いた。得られた鱗片状黒鉛粒子は、乾燥機で乾燥させた。一方、銅粒子としては、メジアン径が1.5μmの銅粒子を用意した。
【0047】
焼結後の銅の体積分率が20%となるように、前処理を施して乾燥後の鱗片状黒鉛粒子15.33gと銅粒子15.19gと配合して、成形原料を得た。これら粉末は、溶媒としてのトルエン50mLとともに、250mLのなす型フラスコに収容し、エバポレータにより、脱媒、混合を行った。
【0048】
直径30mmのSUS型に3gの成形原料を投入し、油圧ハンドプレスを用いて5MPaの圧力で圧粉した。成形原料の投入、圧粉の作業を10回超える程度に繰り返した成形を行い、SUS型から成形体を取り出した。
【0049】
取り出された成形体を円筒型カーボンの型に収容し、多軸通電焼結法により焼結した。カーボン製型44を、
図4に示した多軸通電焼結装置40の真空容器42内に配置し、対角線上の2本の加熱軸(A)47a、47bと、2本の加圧軸45a、45bとで固定した。
真空容器42内をロータリーポンプで5Paまで減圧し、装置電源の出力を上げて昇温させた。昇温により加熱軸(A)47a、47bで700℃まで加熱した後、加熱軸(B)49a,49bに変更して950℃まで加熱した。
【0050】
950℃に到達後、加圧軸45a,45bにより50MPaに加圧した。加圧によるシリンダーの変位が停止した後、30秒間保持し、電源の出力を低下させて装置を冷却した。冷却後、装置からカーボン製型44を取り出して、型の中から円筒型の焼結体を得た。
同様の操作を5回行って5個の焼結体を作製し、実施例1の複合材料が得られた。
【0051】
(実施例2)
焼結後の銅の体積分率が16%となるように成形原料を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2の複合材料を製造した。
【0052】
(実施例3)
焼結後の銅の体積分率が10%となるように成形原料を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例3の複合材料を製造した。
【0053】
(実施例4)
焼結後の銅の体積分率が5%となるように成形原料を変更した以外は、実施例1と同様にして実施例4の複合材料を製造した。
【0054】
(実施例5)
前処理を施して厚みを30μm以下とした鱗片状黒鉛粒子を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の複合材料を製造した。
【0055】
(比較例1)
銅粒子をメジアン径が2.0μmの銅粒子に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の複合材料を製造した。
【0056】
(比較例2)
焼結後の銅の体積分率が16%となるように成形原料を変更した以外は、比較例1と同様にして比較例2の複合材料を製造した。
【0057】
(比較例3)
焼結後の銅の体積分率が10%となるように成形原料を変更した以外は、比較例1と同様にして比較例3の複合材料を製造した。
【0058】
(比較例4)
焼結後の銅の体積分率が5%に変更した以外は比較例1と同様にして、比較例4の焼結体の製造を試みた。しかしながら、加工時に焼結体自体の破壊が生じ、複合材料は得られなかった。
【0059】
(比較例5)
市販の黒鉛粒子に前処理を行わずに用いた以外は比較例1と同様にして、比較例5の複合材料を製造した。
【0060】
実施例1~5および比較例1~5で用いた成形原料を、下記表1にまとめる。
【0061】
【0062】
実施例および比較例の複合材料について、以下のように観察を行った。いずれも5個の複合材料について測定し、平均とした。
走査型電子顕微鏡による組織構造の確認とその画像解析から、黒鉛粒子と銅層の平均厚みを確認した。平均厚みの算出にあたっては、まず、黒鉛粒子の積層方向に垂直な断面(積層断面)の倍率100倍の電子顕微鏡像において、画像縦方向に10本のラインを引いた。ラインと黒鉛と銅の界面の交点から、画像内に存在しうる全ての黒鉛粒子と銅層の幅を測定し、黒鉛粒子の幅の最大値を黒鉛粒子の最大厚み、銅層の幅を平均した値を銅層の平均厚みとした。その結果を、下記表2にまとめる。参考として、体積分率は成形仕込み時の値を記載している。
【0063】
【0064】
また、EDS解析から、不純物であるAlとSiの質量分率を確認した。さらに、EBSD解析から、銅結晶粒の平均粒径を確認した。その結果を、下記表3にまとめる。
【0065】
【0066】
前処理を施さない厚みの大きな黒鉛粒子を用いた場合には、不純物の含有量を低減できないことが表3の結果に示されている(比較例5)。
【0067】
さらに、走査型電子顕微鏡像による隙間解析を行って、黒鉛粒子と銅層との界面の隙間量を確認した。その結果を、下記表4にまとめる。
【0068】
【0069】
前処理を施さない厚みの大きな黒鉛粒子を用いた場合には、黒鉛粒子と銅層の界面の隙間が225nmと大きくなることが表2の結果に示されている(比較例5)。
【0070】
物性値を測定するための試料は、次のように作製した。まず、実施例および比較例の複合材料の円筒中央から、縦方向に板を切り出した。この板を加工して、外径10mm×厚み2.5mmの熱伝導率測定用の試料を得た。熱伝導率の測定方向は、複合材料の積層方向に垂直な方向(加圧方向に垂直な方向)とする。
曲げ強度、および熱膨張係数測定用の試料は、前述と同様に円筒中央から切り出した板を、縦方向5mm、横方向25mm、厚み2mmに加工して得た。曲げ強度測定に関しては支点間距離を16mmとしたが、それ以外のそれぞれの測定方法は以下のとおりである。
熱伝導率:金属のレーザーフラッシュ法による熱拡散率の測定方法:JIS H 7801:2005
曲げ強度:ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法:JIS R 1601:2008
熱膨張係数:金属材料の線膨張係数の測定方法:JIS Z 2285:2003
それぞれの測定は、5つの試料について行い、平均値および標準偏差を求めた。得られた結果を、下記表5にまとめる。
【0071】
【0072】
上記表5に示されるように、実施例の複合材料は、熱伝導率が788W/(m・K)以上であり、その標準偏差は33W/(m・K)以下である。また、実施例の複合材料は、曲げ強度が30MPa以上で、その標準偏差は5MPa以下であり、熱膨張係数については、6.5×10-6/℃以下の値が得られている。
実施例の複合材料は、前処理を施した所定の鱗片状黒鉛粒子とメジアン径が1.5μm以下の銅粒子とを原料として用いて製造されたものであるので、所望の特性を全て備えることができた。
【0073】
これに対し、メジアン径が2.0μmの銅粒子を用いた比較例1~3では、熱伝導率における標準偏差が52W/(m・K)以上と大きい。焼結後の銅の体積分率が5%となるように、こうした銅粒子を配合した成形原料を用いた場合には、比較例4として示したとおり複合材料を製造できなかった。
所定の条件を満たさない黒鉛粒子を用いた場合には、熱伝導率の平均値は700W/(m・K)以上が得られるが、その標準偏差は55W/(m・K)にも及んでいる(比較例5)。比較例5に示されるように、前処理を施さない黒鉛粒子(厚み70μm)を用いた場合には、不純物(Al,Si)を低減することができない。しかも、黒鉛粒子と銅層の界面の隙間が大きくなって、150nm以下とすることができないことが、比較例5からわかる。
【符号の説明】
【0074】
12…黒鉛粒子 14…銅層 16…界面
21…篩 22…砥石 23…黒鉛粒子 30a,30b…砥石
31a,31b…金属板 32a,32b…接合用金属部材 33a,33b…砥粒
40…多軸通電焼結装置 42…真空容器 44…カーボン製型
45a,45b…加圧軸 47a,47b…加熱軸 49a,49b…加熱軸
50…放熱板 51…配線層 52…電気絶縁層 53…応力緩衝層 54…冷却層
55…冷却基板