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特許7165343蔓性植物の侵入防止方法と蔓性植物の侵入防止溝
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】蔓性植物の侵入防止方法と蔓性植物の侵入防止溝
(51)【国際特許分類】
   A01M 21/00 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A01M21/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017142267
(22)【出願日】2017-07-21
(65)【公開番号】P2019022451
(43)【公開日】2019-02-14
【審査請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 勝
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 静郎
(72)【発明者】
【氏名】門倉 伸行
(72)【発明者】
【氏名】村上 順也
(72)【発明者】
【氏名】河村 大樹
【審査官】小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-063780(JP,A)
【文献】特開2007-252241(JP,A)
【文献】特開2005-102520(JP,A)
【文献】実開平05-091283(JP,U)
【文献】特開2006-296323(JP,A)
【文献】特開2013-240282(JP,A)
【文献】特開2012-102494(JP,A)
【文献】特開2013-234487(JP,A)
【文献】特開2014-225977(JP,A)
【文献】特開2005-218359(JP,A)
【文献】特開2007-159485(JP,A)
【文献】国際公開第2012/048377(WO,A1)
【文献】特開昭49-054124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蔓性植物の生息区域と予め指定された保護区域との間に、
前記蔓性植物の蔓の侵入を防止するための、幅寸法が50cm以上、200cm以下で、
かつ、深さ寸法が50cm以上、150cm以下である侵入防止溝を設けることを特徴とする蔓性植物の侵入防止方法。
【請求項2】
性植物の生息区域と予め指定された保護区域との間に設けられて、前記蔓性植物の蔓の侵入を防止するための溝であって、
前記侵入防止溝の幅寸法が50cm以上、200cm以下で、
かつ、前記侵入防止溝の深さ寸法が50cm以上、150cm以下であることを特徴とする蔓性植物の侵入防止溝。
【請求項3】
前記侵入防止溝の延長方向が水平方向であり、かつ、前記蔓性植物の蔓の伸長方向に垂直な方向であることを特徴とする請求項2に記載の蔓性植物の侵入防止溝。
【請求項4】
前記侵入防止溝には水が貯留されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の蔓性植物の侵入防止溝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蔓性植物の侵入を防止する方法と、前記蔓性植物の侵入を防止するために設けられる侵入防止溝とに関する。
【背景技術】
【0002】
蔓性植物のクズ(Pueraria Iobata Ohwi)は、線路、道路、造林地、公園、草地、河川敷など、あらゆる場所に育成し、非常に旺盛な成長力を有する多年草の植物で、放任すると、瞬く間に分布域を拡大させ、数年で優先種となる。その結果、有用樹木への巻き付き被覆による美観の低下や用地外への伸長により、近隣住民からの苦情の原因になる他、道路標識等に登攀・被覆することで交通安全施設の視認性を低下させるなど、様々な被害をもたらしている。
更に、生物多様性の保全を目的として施工するビオトープにおいては、ひとたびクズが繁茂すると、下草まで太陽の光が入らなくなるため、その成長が著しく阻害され、正常な植生遷移が行われなくなり、ビオトープの定義である多様な生物が棲む空間が失われる結果となる。すなわち、クズの蔓は、水平方向に伸長して生息域を拡大するため、下草に絡みつきその育成を抑制させるだけでなく、その大きな葉がもたらす遮光の影響により、草本種を枯死に到らす。特に、ホタルビオトープにおいては、ホタルの成虫は、背丈が比較的低い下草の裏面に産卵する特性があるため、クズの侵入により下草が減少すると、産卵場所の確保が困難となり、その結果、ホタルビオトープとしては致命的な被害を蒙ることになる。
【0003】
ところで、現在のクズ等の雑草の対策手法としては、以下のものが挙げられる。
(イ)抜根除草・草刈り
抜根除草は、人力で雑草を根元から抜き取る方法で、草刈りは、機械や鎌を用いて地上部を刈り取る方法である。前者の特徴は・美観に優れ、効果の持続性も高いが手間暇がかかることである。後者の特徴は、除草面積が大きい箇所では効率的であるが、根茎が残るため効果は一時的なものとなることである。いずれにしても、夏季の成長期には繁雑に実施する必要がある。
(ロ)除草剤散布除
薬剤により雑草の発芽や育成を阻害したり枯死させたりする方法で、特徴は、作業性、効果の持続に優れているが、人体への健康影響や、対象外の有用植物への影響に留意する必要があることである。一般的には、一度散布すると数カ月は効果が持続するとされている。しかし、できるだけ長く効果を維持させようとして標準量よりも多めに散布すると、逆に土壌に残留することになり、環境破壊の一因にもなりかねないおそれがある。
(ハ)砂利・砕石により被覆
人工的に加工された砕石や、自然の力で小さくなった砂利などを敷き詰める方法で、施工精度が高いと、3~5年は効果を発揮するとされている。しかし、砕石や砂利はその重みで徐々に沈むため、相対的に土が表面に出でくることになり、雑草がすぐ生える結果となる。また、砂利の上に落ち葉が落ちると掃き取りきれなくなり、手で1枚1枚除去するしか手段がないため、かなりやっかいになる。
(ニ)雑草防止シート(防草シート、複層シート)により被覆
防草シートは、物理的に表土を覆うことで雑草抑制を図る方法で、施工実績は多いが、緑地の機能を損なう上、基本的にシートの色が黒色であるため、人工的な景観となる。また、シートの継ぎ目から雑草が侵入するなど、雑草の抑制効果は施工精度に左右される。
複層シートは、表土を繊維質のシートで覆いながら雑草を防除するとともに、緑化植物を穴植えし、シート事態を緑化基盤として活用させる方法で、景観には優れるが、緑化植物が育成するまで一定の維持管理が必要となるので、コストは高価となる。その結果、適用箇所が限られるので、雑草抑制技術としては汎用性に欠ける。
防草シート及び被覆シートの耐用年数は5年程度とされている。
(ホ)固化材等により被覆
水と反応して固化する材料で、土に似た色合いであるため、景観上は自然な印象となる。また、雑草防止効果は上述の方法に比べて高い。敷厚さは約5cm以上が望ましく、またその下に水平性を維持するための基礎砂利敷き詰めが必須となるため、専門業者に依頼する必要がある。したがって、その分費用は高価となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、生物多様性保全を要求されるフィールドに対しては、生態系の維持・保全、植生の自然遷移の観点から、上記(ロ)~(ホ)の手法を採用することは難しいと考えられる。
したがって、ビオトープに対する雑草対策手法としては、(イ)の手法を丁寧に地道に行ってゆく管理手法を用いざるを得ないのが現状である。
しかしながら、(イ)の手法では、夏季の成長期における抜根除草・草刈りを頻繁に実施する必要があるため、維持管理産業に要する経費削減が困難であるだけでなく、刈払機による傷害事故に対する作業者への安全確保が必要であった。
そこで、効果的・効率的・安全・安心な防草手法が求められている。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、農薬等の化学薬品に頼らずに、蔓性植物の侵入を効果的に防ぐ方法と、蔓性植物の侵入を防止するために設けられる侵入防止溝を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、蔓性植物は茎が細くかつ柔軟性を有するので、自重を支
えるがことが困難であることから、重力に逆らって水平方向へ伸長することができないの
で、蔓性植物の生息区域と予め指定された保護区域との間に一定幅以上の溝を設ければ、
蔓性植物の保護区域内への侵入を防止できることを見出し本発明に到ったものである。
すなわち、本発明は、蔓性植物の生息区域と、予め指定された保護区域(ビオトープな
どの、生物多様性保全を要求されるフィールド)との間に、前記蔓性植物の茎部分(以下、蔓という)の侵入を防止するための、幅寸法が50cm以上、200cm以下で、かつ、深さ寸法が50cm以上、150cm以下である侵入防止溝を設けることを特徴とする。
これにより、除草剤などの化学薬品に頼らずに蔓性植物の侵入を防ぐことができるので
、環境に負荷を与えることなく、保護区域を蔓性植物の被害から守ることができる。
また、本発明は、蔓性植物の生息区域と予め指定された保護区域との間に設けられて、
前記蔓性植物の蔓の侵入を防止するための侵入防止溝であって、前記侵入防止溝の幅寸法が50cm以上、200cm以下で、かつ、前記侵入防止溝の深さ寸法が50cm以上、150cm以下であることを特徴とする。
このような侵入防止溝を設けることにより、蔓が侵入防止溝を渡ることができないので、蔓性植物の保護区域内への侵入を確実に防止することができる。
また、前記侵入防止溝の延長方向を水平方向で、かつ、蔓性植物の蔓の伸長方向に垂直な方向することで、溝の長さを短くできるので、蔓性植物の侵入を効率よく防止することができる。
また、蔓性植物は水を嫌うので、前記侵入防止溝に水を貯留しておけば、蔓性植物の侵
入を効果的に防止することができる。なお、侵入防止溝内の水は必ずしも循環水である必
要はなく、溝底部に溜まった雨水であってもよい。
【0007】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施の形態を示す図である。
図2】侵入防止溝の溝幅を設定するための実験方法を示す図である。
図3】侵入防止溝の溝幅とクズの伸長状態との関係を示す図である。
図4】実験結果を示す表である。
図5】クズの侵入状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は本実施の形態を示す図で、同図において、1はビオトープなどの予め指定された保護区域、2は蔓性植物であるクズ3の生息区域、4は保護区域とクズの生息区域2との間に設けられた、断面がU字状のコンクリート製の溝である。なお、4aはクズ侵入防止溝4のクズ3の生息区域2側の側壁、4bは保護区域1側の側壁、4cは底面である。
本例では、クズ侵入防止溝4の幅寸法Wを、50cm≦W≦200cmの範囲とした。
幅寸法Wの下限値を50cmとしたのは、クズ3は茎(以下、蔓3Lという)が細くて柔らかいので、蔓3Lの太さにもよるが、伸長長さが20cm~30cmになると自重を支えるがことが困難になり、水平方向へ伸長することができなくなるからである。また、幅寸法Wの上限値を200cmとしたのは、溝幅をこれ以上大きくしても、クズ3の侵入防止効果が変わらないからである。
このとき、侵入防止溝4の延長方向を蔓性植物の伸長方向と垂直な方向とすることが好ましい。これにより、侵入防止溝4の長さを短くできるので、蔓性植物の侵入を効率よく防止することができる。
なお、クズ侵入防止溝4が浅すぎると、溝幅Wが広くても、侵入防止溝4内に侵入した蔓3Lが、保護区域側の側壁4bを登って保護区域1内に侵入する場合がある。本例では、クズ侵入防止溝4の深さ寸法Dを50cm以上とすることで、蔓3Lが侵入防止溝4内に侵入しても、保護区域1内には侵入しないようにしている。なお、溝深さは100cmあれば十分であり、100cmより深くしてもクズ3の侵入防止効果が変わらない。
【0010】
図2(a),(b)は、侵入防止溝の溝幅を設定するための実験方法を示す図である。実験は、クズを育成するための試験区5に試験溝6を設けるとともに、試験溝6の幅方向の一方の側(以下、クズ生息側5aという)にクズ7の幼苗を植え、自然条件下でクズ7の生育し、成長したクズ7が試験溝6の幅方向の他方の側(以下、保護域側5bという)に侵入するか否かを観察した。
クズ7の幼苗は、水稲用培土、腐葉土、芝の目土、赤土を混合充填した内径9.5cm、深さ8.5cmのポットにクズ種子を播種し、自然光下のガラス温室内で、適宜灌水しながら、三出複葉が8枚になるまで育成したものの中から、株元から蔓の先端までの長さが10cm前後のものを用いた。
試験溝6は、厚さ12mmのベニヤ板を用いて作製された、長さがL=180cm、深さがD=75cm、幅がWの直方体状の溝で、本実験では、試験溝の溝幅Wを、25cm,50cm,75cm,100cmの4種類とするとともに、試験区5を4箇所とし、試験区5ごとに異なる幅Wの試験溝6を作製した。
クズ7の幼苗は、試験溝6のクズ生息側5a側の側壁6aの位置からa=45cm離れた地点に、真ん中の幼苗が試験溝6の長さ方向の中心線の延長上にくるように、b=30cmずつ隔して計3株地植えした。
【0011】
図3(a)~(d)は、溝幅Wがそれぞれ、25cm,50cm,75cm,100cmの試験溝におけるクズの伸長状況を示す図で、左側が実験開始直後の図、右側が40日経過後の図である。
図3に示すように、幅W=25cmの試験区では多数の蔓が試験溝6を乗り越えた。
一方、その他の試験区では、試験溝6を乗り越えた蔓は全く認められなかった。
実験結果の詳細を図4の表に示す。
表の「供試数」は、試験溝6内に侵入した蔓のうち、長さが、溝幅Wに株元から溝までの距離(45cm)を加えた長さに達した蔓(以下、供試蔓という)の本数である。
また、「溝を乗り越した蔓の数」は、図5(a)に示すように、蔓7Lが試験溝6を乗り越えて保護区域5b側に達した供試蔓の数で、「A状態の蔓の数」は、図5(b)に示すように、試験溝6の底面6cに達したものの、試験溝6を乗り越えられなかった供試蔓の数である。また、「B状態の蔓の数」は、図5(c)に示すように、試験溝6の保護区域5b側の側壁6bに達したものの、試験溝6を乗り越えられなかった供試蔓の数である。なお、同表に示すように、蔓の平均長さと平均太さは、各試験区でほぼ同じである。
図4の表に示すように、溝幅Wが25cmの試験区では、17本の供試蔓のうち、8本が試験溝6を乗り越えた。これに対して、幅Wが、50cm,75cm,100cmの試験区では、試験溝6を乗り越えた供試蔓は1本もなかった。
これにより、クズの蔓は、溝幅が50cm以上の溝を乗り越えることができないことが確認された。
なお、溝幅Wが広くなると、保護区域5b側の側壁6bに達するものは減少し、試験溝6の底面6c供試蔓が試験溝6の底面6cで止まる場合の方が増加していることも分かった。
【0012】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0013】
例えば、前記実施の形態では、蔓性植物をクズとしたが、本発明の侵入防止溝4は、他の蔓性植物の侵入防止にも有効である。
また、蔓性植物は水を嫌うので、侵入防止溝4に水を貯留しておけば、蔓性植物の侵入防止効果を更に高めることができる。なお、水としては、雨水などであってもよい。侵入防止溝4に水を貯留する場合には、水が侵入防止溝4から溢れ出ることがないように、侵入防止溝4内に下水等に連通する排水孔を設けることが好ましい。
また、前記実施の形態では、侵入防止溝4をコンクリート製の溝としたが、クズ侵入防止溝4をベニヤ板や合成樹脂板などの板材から構成してもよい。コンクリート製の溝は耐久性には優れているが、クズの生息分布が変化した場合など、クズ侵入防止溝4を作り直すときには、板材の方が有利である。
【符号の説明】
【0014】
1 保護区域、2 クズの生息区域、3 クズ(蔓性植物)、4 侵入防止溝、
4a,4b 側壁、4c 底面。
図1
図2
図3
図4
図5