(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】偏光板製造廃液の処理方法および処理装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20060101AFI20221027BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20221027BHJP
C02F 1/58 20060101ALI20221027BHJP
C02F 1/04 20060101ALI20221027BHJP
C02F 9/02 20060101ALI20221027BHJP
C02F 9/10 20060101ALI20221027BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20221027BHJP
B01D 9/02 20060101ALI20221027BHJP
C01D 3/12 20060101ALI20221027BHJP
C01D 3/14 20060101ALI20221027BHJP
C01D 3/16 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C02F1/28 A
C02F1/28 F
C02F1/42 C
C02F1/58 H
C02F1/58 A
C02F1/04 C
C02F1/04 D
C02F9/02
C02F9/10
G02B5/30
B01D9/02 601A
B01D9/02 601B
B01D9/02 602A
B01D9/02 602B
B01D9/02 610Z
B01D9/02 615A
B01D9/02 617
B01D9/02 618A
B01D9/02 619Z
B01D9/02 625E
C01D3/12
C01D3/14 A
C01D3/14 M
C01D3/16 M
(21)【出願番号】P 2018108415
(22)【出願日】2018-06-06
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】平野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤原 義浩
(72)【発明者】
【氏名】湯淺 升夫
(72)【発明者】
【氏名】濱村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】川上 直紀
(72)【発明者】
【氏名】木谷 義明
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1176596(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175448(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0012093(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0131044(KR,A)
【文献】特開2005-047764(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/02-18、28、42、58-64、9/00-14
G02B 5/30
C01D 3/12-20
B01D 9/00-04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法であって、
偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理工程と、
前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着工程と、
前記第1不純物吸着工程
でポリビニルアルコールが吸着除去されたヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着工程とを備える偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項2】
前記第1処理工程と前記第1不純物吸着工程との間に、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理工程を備える請求項1に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項3】
偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法であって、
偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理工程と、
得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着工程と、
前記第1不純物吸着工程を経たヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着工程とを備え、
前記第1処理工程と前記第1不純物吸着工程との間に、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理工程を備え、
前記第2処理工程は、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液を更に濃縮してヨウ化カリウム結晶を析出させる工程と、
析出されたヨウ化カリウム結晶を固液分離する工程と、
固液分離されたヨウ化カリウム結晶を洗浄して不純物が除去されたヨウ化カリウム結晶を回収する工程と、
回収したヨウ化カリウム結晶を溶媒に溶解させてヨウ化カリウム溶液を生成する工程とを備え
る偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項4】
ヨウ化カリウム結晶の溶解による吸熱反応により飽和溶解度が低下して析出される不純物をろ過する工程を更に備える請求項3に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項5】
前記第2処理工程は、ヨウ化カリウム溶液に含まれるホウ素をカルシウムイオンと反応させることにより生成されたホウ酸カルシウムの沈殿物を除去する工程を備える請求項2に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項6】
前記第2処理工程は、ヨウ化カリウム溶液に残留するカルシウムイオンを炭酸イオンと反応させることにより生成された炭酸カルシウムの沈殿物を除去する工程を更に備える請求項5に記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項7】
前記第1不純物吸着工程が行われるヨウ化カリウム溶液は、ホウ素の濃度が、100~1000mg/Lであり、ポリビニルアルコールの濃度が、TOC換算で100~500mg/Lである請求項1から6のいずれかに記載の偏光板製造廃液の処理方法。
【請求項8】
偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理装置であって、
偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理装置と、
前記第1処理装置で得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着装置と、
前記第1不純物吸着装置
でポリビニルアルコールが吸着除去されたヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着装置とを備える偏光板製造廃液の処理装置。
【請求項9】
前記第1処理装置で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理装置を備える請求項8に記載の偏光板製造廃液の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板製造廃液の処理方法および処理装置に関し、より詳しくは、偏光板の製造工程で生じる廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法および処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等に使用される偏光板の製造工程で生じる廃液には、ヨウ素やホウ素、カリウム等の無機物成分や、ポリビニルアルコール(PVA)等の有機物成分が含まれており、このような廃液の処理方法が従来から検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、偏光板製造廃液を蒸発濃縮してホウ酸およびポリビニルアルコールを含む析出物を生成する濃縮工程と、蒸発濃縮後の偏光板製造廃液を冷却晶析する冷却晶析工程と、析出物を固液分離したろ液を回収する固液分離工程とを備える偏光板製造廃液の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の偏光板製造廃液の処理方法によれば、偏光板製造廃液に含まれるホウ素やPVA等の不純物の大部分を除去することが可能であるが、回収されるヨウ化カリウム溶液には不純物が僅かに残留しているため、ヨウ化カリウム溶液の品質を向上させる上で更に改良の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、偏光板製造廃液から高品質のヨウ化カリウム溶液を効率良く回収することができる偏光板製造廃液の処理方法および処理装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の前記目的は、偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法であって、偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理工程と、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着工程と、前記第1不純物吸着工程でポリビニルアルコールが吸着除去されたヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着工程とを備える偏光板製造廃液の処理方法により達成される。
【0008】
この偏光板製造廃液の処理方法は、前記第1処理工程と前記第1不純物吸着工程との間に、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理工程を備えることが好ましい。
【0009】
あるいは、本発明の前記目的は、偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理方法であって、偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理工程と、得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着工程と、前記第1不純物吸着工程を経たヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着工程とを備え、前記第1処理工程と前記第1不純物吸着工程との間に、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理工程を備え、前記第2処理工程は、前記第1処理工程で得られたヨウ化カリウム溶液を更に濃縮してヨウ化カリウム結晶を析出させる工程と、析出されたヨウ化カリウム結晶を固液分離する工程と、固液分離されたヨウ化カリウム結晶を洗浄して不純物が除去されたヨウ化カリウム結晶を回収する工程と、回収したヨウ化カリウム結晶を溶媒に溶解させてヨウ化カリウム溶液を生成する工程とを備える偏光板製造廃液の処理方法により達成される。この場合、ヨウ化カリウム結晶の溶解による吸熱反応により飽和溶解度が低下して析出される不純物をろ過する工程を更に備えることが好ましい。
【0010】
あるいは、前記第2処理工程は、ヨウ化カリウム溶液に含まれるホウ素をカルシウムイオンと反応させることにより生成されたホウ酸カルシウムの沈殿物を除去する工程を備えることができる。この場合、前記第2処理工程は、ヨウ化カリウム溶液に残留するカルシウムイオンを炭酸イオンと反応させることにより生成された炭酸カルシウムの沈殿物を除去する工程を更に備えることが好ましい。
【0011】
前記第1不純物吸着工程が行われるヨウ化カリウム溶液は、ホウ素の濃度が、100~1000mg/Lであることが好ましく、ポリビニルアルコールの濃度が、TOC換算で100~500mg/Lであることが好ましい。
【0012】
また、本発明の前記目的は、偏光板製造廃液からヨウ化カリウムを回収する偏光板製造廃液の処理装置であって、偏光板製造廃液を濃縮した後に晶析を行うことで生成された析出物を固液分離して、ホウ素およびポリビニルアルコールを含む不純物が低減されたヨウ化カリウム溶液を生成する第1処理装置と、前記第1処理装置で得られたヨウ化カリウム溶液に残存するポリビニルアルコールをポリビニルアルコール吸着体に吸着させる第1不純物吸着装置と、前記第1不純物吸着装置でポリビニルアルコールが吸着除去されたヨウ化カリウム溶液に残存するホウ素をホウ素選択吸着樹脂に吸着させる第2不純物吸着装置とを備える偏光板製造廃液の処理装置により達成される。この偏光板製造廃液の処理装置は、前記第1処理装置で得られたヨウ化カリウム溶液の前記不純物を更に低減する第2処理装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、偏光板製造廃液から高品質のヨウ化カリウム溶液を効率良く回収することができる偏光板製造廃液の処理方法および処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
【
図3】本発明の更に他の実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
図1に示すように、偏光板製造廃液の処理装置1は、第1処理装置10、第1不純物吸着装置30および第2不純物吸着装置40を備えており、更に、第1フィルタ装置50、第2フィルタ装置52および第3フィルタ装置54を備えている。この偏光板製造廃液の処理装置1は、液晶ディスプレイ等に使用される偏光板の製造工程で生じる偏光板製造廃液を処理する。偏光板の製造工程においては、一般に、ポリビニルアルコール(PVA)からなるフィルムをヨウ化カリウム(KI)溶液に浸漬させた後、ホウ酸(H
3BO
3)水溶液中で延伸させ、水洗および乾燥を経て偏光板が製造される。このため、偏光板製造廃液には、PVAが含まれており、更に、KIやホウ酸等が主にイオンの状態で含まれている。
【0016】
第1処理装置10は、蒸発濃縮装置11、冷却晶析装置12および第1固液分離装置13を備えており、偏光板製造廃液に含まれるホウ素やPVA等の大部分を除去することにより、ホウ素およびPVAを含む不純物が低減されたKI溶液を生成する。
【0017】
蒸発濃縮装置11は、偏光板製造廃液を蒸発濃縮する。これにより、偏光板製造廃液に含まれていたホウ酸およびPVAの多くは過飽和条件とすることによりスラッジとなり、これらを含む析出物が偏光板製造廃液中に生成される。析出物には、ホウ酸およびPVA以外の不純物が含まれていてもよい。蒸発濃縮装置11の構成は、偏光板製造廃液を濃縮可能であれば特に限定されないが、例えば、ヒートポンプ型、エゼクター駆動型、スチーム型、フラッシュ型などの公知の蒸発濃縮装置を挙げることができ、これらを一種または二種以上用いて構成することができる。例えば、ヒートポンプ型の濃縮装置を前段に配置し、この装置で生成された偏光板製造廃液の濃縮液を更に蒸発濃縮するフラッシュ型の濃縮装置を後段に配置して、蒸発濃縮装置11を構成することができる。
【0018】
冷却晶析装置12は、偏光板製造廃液に含まれるホウ酸を晶析することにより、偏光板製造廃液から析出物を更に生成する。冷却晶析装置12の構成は、例えば、ジャケット式や真空式など公知の構成を挙げることができ、偏光板製造廃液を、45℃以下(例えば40~45℃)まで冷却することが好ましく、常温(具体例としては30℃以下)まで冷却することがより好ましい。偏光板製造廃液の晶析方法は、ホウ酸等の不純物の良好な低減効果を得るため、本実施形態のように冷却晶析装置12による冷却晶析が好ましいが、結晶を析出させる他の操作であってもよい。
【0019】
第1固液分離装置13は、偏光板製造廃液中の析出物を固液分離する。第1固液分離装置13の構成は、例えば、加圧ろ過(フィルタープレス)、真空ろ過、遠心ろ過などの各種ろ過装置や、デカンター型のような遠心分離装置など公知の構成を挙げることができる。
【0020】
第1不純物吸着装置30は、ポリビニルアルコール吸着体(PVA吸着体)を備えており、第1処理装置10から供給されたKI溶液をPVA吸着体に通水することにより、KI溶液に僅かに残存するPVAを吸着除去する。PVA吸着体は、表面にPVAを吸着可能な固体状のものであれば特に限定されず、粒状や繊維状等の活性炭フィルタを好ましく例示することができるが、酸化チタン等を使用することもできる。
【0021】
第2不純物吸着装置40は、ホウ素選択吸着樹脂が充填された吸着塔を備えており、第1不純物吸着装置30を通過したKI溶液を吸着塔に通水することにより、KI溶液にホウ酸として僅かに残存するホウ素を吸着除去する。ホウ素選択吸着樹脂は、ホウ素を選択的に吸着することができるものであれば特に限定されず、公知の陰イオン交換樹脂(例えば、水酸化セリウム/エチレンビニルアルコール共重合体、マイクロポーラス型スチレン系・メチルグルカミン官能基等)を使用することができる。
【0022】
第1フィルタ装置50、第2フィルタ装置52および第3フィルタ装置54は、いずれもセラミック膜フィルタやカートリッジフィルタ等のフィルタを備えており、第1処理装置10と第1不純物吸着装置30との間、第1不純物吸着装置30と第2不純物吸着装置40との間、および第2不純物吸着装置40の後段に、それぞれ配置されている。第1フィルタ装置50は、第1処理装置10から供給されるKI溶液をろ過することにより不純物を除去する。第2フィルタ装置52は、第1不純物吸着装置30を通過したKI溶液をろ過することにより、KI溶液に混入するおそれがあるSS成分(例えば、活性炭の屑等)を除去する。第3フィルタ装置54は、第2不純物吸着装置40を通過したKI溶液をろ過することにより、KI溶液に混入するおそれがあるSS成分(例えば、ホウ素選択吸着樹脂の屑等)を除去する。
【0023】
次に、上記の偏光板製造廃液の処理装置1を用いた偏光板製造廃液の処理方法を説明する。
【0024】
まず、偏光板製造廃液を第1処理装置10に供給する。偏光板製造廃液のpHは、3.5~8.0の範囲にあり、ホウ酸溶液を含むため通常は酸性であるが、中性付近の偏光板製造廃液であってもよい。あるいは、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のpH調整剤を偏光板製造廃液に添加することにより、偏光板製造廃液のpHをアルカリ性(例えば、8.5~11であり、好ましくは8.5~9.5)に調整してもよい。
【0025】
第1処理装置10においては、蒸発濃縮装置11により偏光板製造廃液が濃縮された後、冷却晶析装置12により冷却されて、冷却晶析が行われる。蒸発濃縮装置11で濃縮される偏光板製造廃液のpHがアルカリ性に調整される場合、濃縮廃液のpHをアルカリ性に維持して冷却晶析を行うことが好ましい。この後、第1固液分離装置13により析出物が除去される。こうして、第1処理装置10により第1処理工程が行われ、ホウ素およびPVAを含む不純物が低減されたKI溶液が生成される。
【0026】
第1処理工程により分離された析出物は、ホウ酸を主体とする結晶であり、PVAが含まれている。ホウ酸主体結晶は、例えば、蒸発濃縮装置11で生成された凝縮水などを利用して洗浄し、回収することにより、例えば、半導体やLED等の製造工程において再利用することができる。析出物には、ホウ酸およびPVA以外に、若干のKI結晶も含まれていることから、洗浄後の洗浄廃液を、後述する他の実施形態における蒸発晶析装置21(
図2参照)に導入してもよい。第1処理工程における晶析は、KI結晶が析出するまで繰り返し行ってもよく、不純物からなる析出物を固液分離により除去することができる。
【0027】
第1不純物吸着装置30においては、第1処理工程で得られたKI溶液に僅かに残存するPVAがPVA吸着体により吸着除去される第1不純物吸着工程が行われる。この後、第2不純物吸着装置40においては、第1不純物吸着工程を経たKI溶液に僅かに残存するホウ素がホウ素選択吸着樹脂により吸着除去される第2不純物吸着工程が行われる。こうして、KI溶液に僅かに含まれていたPVAおよびホウ素が、それぞれ第1不純物吸着工程および第2不純物吸着工程により除去されるため、偏光板製造廃液から高品質のヨウ化カリウム溶液を回収することができる。
【0028】
本発明者らによるKI溶液の高濃度試験によると、KI溶液の濃度が飽和濃度または飽和濃度に近い濃度(例えば約55%)である場合、KI溶液に含まれるPVAがホウ素選択吸着樹脂によるホウ素の吸着を阻害するため、ホウ素を十分に吸着できないことが明らかになった。そこで、本実施形態においては、第1不純物吸着工程によりKI溶液中のPVAを除去した後に、第2不純物吸着工程によりKI溶液中のホウ素を除去することにより、上記のような高濃度のKI溶液であっても、ホウ素を確実に除去することができる。
【0029】
第1不純物吸着装置30および第2不純物吸着装置40を通過するKI溶液は、第1処理装置10によってホウ素およびPVAが十分低減されているため、ホウ素選択吸着樹脂やPVA吸着体の再生負荷を大幅に低減して、高品質のヨウ化カリウム溶液の回収を効率良く行うことができる。
【0030】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、もとの偏光板製造廃液に含まれる不純物の量が多い等の理由で、第1処理装置10によりホウ素およびPVAを含む不純物を十分に低減できない場合には、第1処理装置10の後段に第2処理装置を設けて、第1処理工程と第1不純物吸着工程との間に、ヨウ化カリウム溶液の不純物を更に低減する第2処理工程を行ってもよい。第2処理装置の構成は特に限定されないが、
図2および
図3に示す構成を好ましく例示することができる。
図2および
図3において、
図1と同様の構成部分には同一の符号を付している。
【0031】
図2は、本発明の他の実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
図2に示す偏光板製造廃液の処理装置1’は、
図1に示す偏光板製造廃液の処理装置1において、第1処置装置10と第1フィルタ50との間に第2処理装置20を配置したものであり、第2処理装置20以外の構成については、
図1に示す偏光板製造廃液の処理装置1と同様である。
【0032】
第2処理装置20は、蒸発晶析装置21、第2固液分離装置22および溶解タンク23を備えている。蒸発晶析装置21および第2固液分離装置22の構成は特に限定されないが、例えば、第1処理装置10の蒸発濃縮装置11および第1固液分離装置13とそれぞれ同様の構成にすることができる。本実施形態では、蒸発晶析装置21として、フラッシュ型の蒸発装置を使用する。
【0033】
蒸発晶析装置21は、第1処理装置10により濃縮されたKI溶液を蒸発させてKIを過飽和にすることで、KI結晶を含む析出物を生成する。蒸発晶析の進行に伴い、KI溶液にKOHを添加する等してpH調整を行ってもよい。第2固液分離装置22は、蒸発晶析装置21で生成された析出物を固液分離して回収する。
【0034】
第1処理工程によって、KI溶液に含まれるホウ酸およびPVAの濃度は低減されていることから、蒸発晶析装置21により生成される析出物は、KIを主体とする結晶である。但し、KIの収率を上げるために濃縮倍率を上げると、回収時に問題になり易いPVAの混入量も増加する。そこで、KI結晶を第2固液分離装置22内で洗浄することにより、KI結晶に付着する不純物が除去される。
【0035】
KI結晶の洗浄に用いる洗浄液は、例えば、蒸発濃縮装置11で生成された凝縮水を利用することもできるが、KIの溶解度が高いために、溶解による減損が大きくなる。したがって、溶解による減損を低減することを目的に、既に回収されたKIの一部を利用する等してKIの飽和溶液を生成し、このKI飽和溶液を用いてKI結晶を洗浄することが好ましい。KI飽和溶液の濃度は、必ずしも飽和濃度である必要はなく、飽和濃度に近い高濃度であればよい。高濃度のKI溶液を用いた洗浄により、PVAを効率良く除去することができ、PVAの混入が少ないKI結晶を、フィルタ等により固液分離して回収することができる。洗浄液は、タンク等に貯留して循環利用することができる。
【0036】
回収されたKI結晶は、溶解タンク23において水などの溶媒に溶解することで、不純物が低減されたKI溶液が生成される。溶媒に水を用いた場合、KI結晶の水への溶解は吸熱反応であり、例えば、20℃の水に対してKI結晶を55%溶液となるように溶解させると、KI溶液の温度は約-5℃になる。回収されたKI結晶には、ホウ素やPVA等の不純物が取り込まれているため、KI結晶を高濃度で溶解させた溶媒の温度が低下することにより、不純物(主としてPVA)の飽和溶解度が低下して、不純物の一部または大部分が析出する。この析出物は、第1フィルタ装置50によりろ過される。
【0037】
このように、回収したKI結晶を洗浄することにより、主としてKI結晶の表面に付着している不純物を低減することができると共に、KI結晶の溶解による吸熱反応を利用して、KI結晶に取り込まれているPVAを析出させて除去することができるので、PVAが十分に低減されたKI溶液を生成することができる。したがって、第1不純物吸着装置30が備えるPVA吸着体の負荷を低減することができる。
【0038】
図3は、本発明の更に他の実施形態に係る偏光板製造廃液の処理装置のブロック図である。
図3に示す偏光板製造廃液の処理装置1’’は、
図1に示す偏光板製造廃液の処理装置1において、第1処置装置10と第1フィルタ50との間に第2処理装置120を配置したものであり、第2処理装置120以外の構成については、
図1に示す偏光板製造廃液の処理装置1と同様である。
【0039】
図3に示す第2処理装置120は、第1処理装置10で不純物が低減されたKI溶液にカルシウムイオンを供給して生成された沈殿物を除去する第1反応装置121と、第1反応装置121を経たKI溶液に炭酸イオンを供給して生成された沈殿物を除去する第2反応装置122とを備えている。
【0040】
第1反応装置121は、KI溶液に僅かに残存するホウ素を水酸化カルシウムの添加によってカルシウムイオンと反応させて、ホウ酸カルシウムの沈殿物を生成し、この沈殿物をフィルタ等で除去することにより、KI溶液に含まれるホウ素を更に低減する。第1反応装置121に供給されるKI溶液は、第1処理工程によって濃縮されているため、水酸化カルシウムを供給する前に蒸留水等を添加することにより、KI溶液の濃度を適度な濃度(例えば15~30%)に希釈してもよい。
【0041】
第2反応装置122は、第1反応装置121を経たKI溶液に炭酸イオンを供給する。これにより、KI溶液に残留するカルシウムイオンが炭酸イオンと反応して炭酸カルシウムの沈殿物が生成され、この沈殿物をフィルタ等で除去することにより、KI溶液からカルシウムイオンを除去することができる。炭酸イオンの供給は、KI溶液に不純物が増加するのを抑制するため、炭酸カリウムまたは二酸化炭素の添加によって行うことが好ましい。こうして、第2処理装置120による第2処理工程を行い、KI溶液の不純物を更に低減することができる。
【0042】
図1から
図3の構成において、第1不純物吸着装置30に導入されるKI溶液のホウ素およびPVAの濃度は、特に限定されるものではないが、高すぎるとホウ素選択吸着樹脂やPVA吸着体の交換または再生の頻度が高くなり、実用的に使用し難くなる。具体的には、ホウ素濃度が、100~1000mg/Lであることが好ましく、ポリビニルアルコールの濃度が、TOC換算で100~500mg/Lであることが好ましい。KI溶液のホウ素濃度およびPVA濃度は、その後の第1不純物吸着工程および第2不純物吸着工程によって、最終的には数mg/Lまで低減することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 偏光板製造廃液の処理装置
10 第1処理装置
11 蒸発濃縮装置
12 冷却晶析装置
13 第1固液分離装置
20 第2処理装置
21 蒸発晶析装置
22 第2固液分離装置
23 溶解タンク
30 第1不純物吸着装置
40 第2不純物吸着装置
50 第1フィルタ装置
52 第2フィルタ装置
54 第3フィルタ装置
120 第2処理装置
121 第1反応装置
122 第2反応装置