(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】電力増幅回路
(51)【国際特許分類】
H02M 7/493 20070101AFI20221027BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221027BHJP
【FI】
H02M7/493
H02M7/48 P
(21)【出願番号】P 2019027700
(22)【出願日】2019-02-19
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】坂井 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】正木 敬章
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特許第5832702(JP,B1)
【文献】国際公開第2013/111243(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0170794(US,A1)
【文献】国際公開第2013/183700(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/493
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源(Vh)に基づいて負荷(R
L)に対して供給する交流出力を発生させる電力増幅回路であって、
前記直流電源に基づいて前記交流出力を生成するスイッチング素子(13)を有する共振型電源回路(10)と、前記共振型電源回路の出力側に備えられた整合回路(20)と、を備えたインバータ(2)を複数備え、
複数の前記インバータは、それぞれの前記インバータにおける前記共振型電源回路が前記整合回路を介して並列接続されており、
複数の前記インバータそれぞれは、
前記整合回路の出力よりも前記直流電源側において前記共振型電源回路もしくは前記整合回路の内部電圧を検出する内部電圧検出回路(30)と、
前記内部電圧検出回路での前記内部電圧の検出結果に基づいて、前記スイッチング素子のスイッチング位相を調整する位相調整回路(11)と、を備え、
前記整合回路が、インダクタ(21)と第1コンデンサ(22)および第2コンデンサ(23)を含むT型のLCC回路によって構成されており、
前記LCC回路に含まれる前記インダクタと前記第1コンデンサおよび前記第2コンデンサは、前記直流電源と前記負荷との間において前記インダクタと前記第2コンデンサとが直列接続されていると共に、前記第1コンデンサが前記インダクタと前記第2コンデンサとの間において並列接続され、
前記インダクタのリアクタンス値をX
L1、前記第1コンデンサのリアクタンス値をX
C2、前記第2コンデンサのリアクタンス値をX
C3は、
前記整合回路の入力側と出力側のポートをそれぞれ第1ポート(41)と第2ポート(42)、前記負荷として前記インバータの数に対応して均等に分割したインピーダンスをr
2、前記第2ポートに対してインピーダンスr
2を接続したときの入力インピーダンスをr
1、前記整合回路のインピーダンス変換比をk、前記整合回路の入力アドミタンスを同相アドミタンスと非同相アドミタンスとしたときの前記同相アドミタンスと前記非同相アドミタンスの比の虚部をuとして、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たしている電力増幅回路。
【請求項2】
直流電源(Vh)に基づいて負荷(R
L)に対して供給する交流出力を発生させる電力増幅回路であって、
前記直流電源に基づいて前記交流出力を生成するスイッチング素子(13)を有する共振型電源回路(10)と、前記共振型電源回路の出力側に備えられた整合回路(20)と、を備えたインバータ(2)を複数備え、
複数の前記インバータは、それぞれの前記インバータにおける前記共振型電源回路が前記整合回路を介して並列接続されており、
複数の前記インバータそれぞれは、
前記整合回路の出力よりも前記直流電源側において前記共振型電源回路もしくは前記整合回路の内部電圧を検出する内部電圧検出回路(30)と、
前記内部電圧検出回路での前記内部電圧の検出結果に基づいて、前記スイッチング素子のスイッチング位相を調整する位相調整回路(11)と、を備え、
前記位相調整回路は、信号源(3)からの信号に基づいて三角波を形成する三角波形成回路(111)と、前記三角波形成回路の出力に対して直流バイアスを印加することで位相調整された入力電圧(Vin)を形成する直流バイアス回路(113)と、前記入力電圧をクロックとして位相調整後の駆動用信号を生成するD型フリップフロップ(112)と、を含んでいる電力増幅回路。
【請求項3】
前記整合回路が、インダクタ(21)と第1コンデンサ(22)および第2コンデンサ(23)を含むT型のLCC回路によって構成されている請求項2に記載の電力増幅回路。
【請求項4】
前記共振型電源回路は、インダクタ(15a)およびコンデンサ(15b、15c)を含むLC共振回路(15)を有し、
前記T型のLCC回路における前記インダクタが前記LC共振回路に含まれる前記インダクタに一体化されている請求項
1に記載の電力増幅回路。
【請求項5】
前記共振型電源回路は、E級方式とされている請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電力増幅回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流を出力する共振型電源を二系統以上含む電力増幅回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力増幅回路として、共振型電源を複数並列接続することで大きな電力が得られるようにしたRF(Radio Frequency)電力増幅器などがある。RF電力増幅器は、誘導加熱、プラズマプロセス、無線電力供給など様々な用途に利用されている。これらの用途において、RF電力増幅器には、組込み性と電力利用率の観点で小型・高効率化が要求され、より高い処理能力や供給電力を達成するために大出力化が要求される。
【0003】
例えば、RF電力増幅器の小型・高効率化には、半導体スイッチを用いたE級増幅器が適している。E級増幅器の出力電力は、原理的には直流入力電圧を上げれば大きくできるが、半導体スイッチに入力電圧の3.56倍の電圧が加わるため半導体スイッチの耐圧で制限される。
【0004】
半導体スイッチの耐圧による出力制限を超える出力を達成するため、複数のE級増幅器の出力を別途設けた電力合成回路を介して電力合成する技術がある。しかしながら、別途設けた電力合成回路は損失の要因となる。
【0005】
また、電力合成回路を別途設けることなく、E級増幅器の出力を直接合成する研究事例もある。この手法では、高い出力電力を実現するために、個々のE級増幅器を完全に同相動作させる必要がある。各E級増幅器が同じ構成とされていても、個々のE級増幅器内の半導体スイッチング素子の特性やゲート信号の遅延バラツキなどがあるため、完全に同相動作させることは困難であり、同相動作の不完全性は特定の相のE級増幅器内の半導体スイッチング素子の損失を増加させ、大出力化を阻むことになる。
【0006】
このため、特許文献1において、Π型接続の可変キャパシタや可変インダクタを備えた位相制御型整合回路を介して、E級増幅器を並列接続した構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のような位相制御型整合回路では、可変キャパシタや可変インダクタを用いていることから、素子の大型化を招き、電力増幅回路が大型化してしまう。
【0009】
本発明は上記点に鑑みて、素子の大型化を抑制することで、小型化を図ることが可能な電力増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、直流電源(Vh)に基づいて負荷(R
L)に対して供給する交流出力を発生させる電力増幅回路であって、直流電源に基づいて交流出力を生成するスイッチング素子(13)を有する共振型電源回路(10)と、共振型電源回路の出力側に備えられた整合回路(20)と、を備えたインバータ(2)を複数備えている。このような構成において、複数のインバータは、それぞれのインバータにおける共振型電源回路が整合回路を介して並列接続されており、複数のインバータそれぞれは、整合回路の出力よりも直流電源側において共振型電源回路もしくは整合回路の内部電圧を検出する内部電圧検出回路(30)と、内部電圧検出回路での内部電圧の検出結果に基づいて、スイッチング素子のスイッチング位相を調整する位相調整回路(11)と、を備え
、整合回路が、インダクタ(21)と第1コンデンサ(22)および第2コンデンサ(23)を含むT型のLCC回路によって構成されており、LCC回路に含まれるインダクタと第1コンデンサおよび第2コンデンサは、直流電源と負荷との間においてインダクタと第2コンデンサとが直列接続されていると共に、第1コンデンサがインダクタと第2コンデンサとの間において並列接続され、インダクタのリアクタンス値をX
L1
、第1コンデンサのリアクタンス値をX
C2
、第2コンデンサのリアクタンス値をX
C3
は、整合回路の入力側と出力側のポートをそれぞれ第1ポート(41)と第2ポート(42)、負荷としてインバータの数に対応して均等に分割したインピーダンスをr
2
、第2ポートに対してインピーダンスr
2
を接続したときの入力インピーダンスをr
1
、整合回路のインピーダンス変換比をk、整合回路の入力アドミタンスを同相アドミタンスと非同相アドミタンスとしたときの同相アドミタンスと非同相アドミタンスの比の虚部をuとして、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たしている。
また、請求項2に記載の発明は、直流電源(Vh)に基づいて負荷(R
L
)に対して供給する交流出力を発生させる電力増幅回路であって、直流電源に基づいて交流出力を生成するスイッチング素子(13)を有する共振型電源回路(10)と、共振型電源回路の出力側に備えられた整合回路(20)と、を備えたインバータ(2)を複数備え、複数のインバータは、それぞれのインバータにおける共振型電源回路が整合回路を介して並列接続されており、複数のインバータそれぞれは、整合回路の出力よりも直流電源側において共振型電源回路もしくは整合回路の内部電圧を検出する内部電圧検出回路(30)と、内部電圧検出回路での内部電圧の検出結果に基づいて、スイッチング素子のスイッチング位相を調整する位相調整回路(11)と、を備え、位相調整回路は、信号源(3)からの信号に基づいて三角波を形成する三角波形成回路(111)と、三角波形成回路の出力に対して直流バイアスを印加することで位相調整された入力電圧(Vin)を形成する直流バイアス回路(113)と、入力電圧をクロックとして位相調整後の駆動用信号を生成するD型フリップフロップ(112)と、を含んでいる。
【0011】
このように、共振型電源回路と整合回路とを有する同じ回路構成とされたインバータを複数備え、共振型電源回路が整合回路を介して並列接続されるようにしている。そして、共振型電源回路の内部電圧を内部電圧検出回路で検出し、その検出結果に基づいて位相調整回路によるスイッチング素子のスイッチング位相が調整されるようにしている。これにより、各インバータの交流出力の位相が一致させられ、高効率での電力合成が可能となる。そして、このような高効率の電力合成を可変キャパシタや可変インダクタを用いることなく行えることから、素子の大型化を抑制でき、ひいては電力増幅回路の小型化を図ることが可能になる。
【0012】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態にかかる電力増幅回路の回路構成を示した図である。
【
図4】内部電圧検出回路の詳細を含めた電力増幅回路の回路構成を示した図である。
【
図5】電力増幅回路を構成するE級インバータの並列接続の状態を説明した回路図である。
【
図6A】E級インバータに同相電圧のみが印加された場合の整合回路群の等価回路図である。
【
図6B】E級インバータに非同相電圧のみが印加された場合の整合回路群の等価回路図である。
【
図7A】同相電圧を分離した場合のi番目の整合回路の等価回路図である。
【
図7B】非同相電圧を分離した場合のi番目の整合回路の等価回路図である。
【
図9A】T型の整合回路について使用するリアクタンス素子の組み合わせ毎の特徴をまとめた図表である。
【
図9B】Π型の整合回路について使用するリアクタンス素子の組み合わせ毎の特徴をまとめた図表である。
【
図10】第2実施形態にかかる電力増幅回路の回路構成を示した図である。
【
図11】他の実施形態で説明する電力増幅回路の回路構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0015】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態にかかる電力増幅回路は、直流電源に基づいて負荷に対して供給する交流出力を発生させるもので、車両の無線電力供給などの用途で使用され、例えば工場内における無人搬送車への給電、電気自動車への給電などに適用される。その場合、電力増幅回路は、例えば地面に埋め込まれ、RF負荷となるアンテナとして平行平板コンデンサなどを用いた電界結合、または対向したコイルを用いた磁界結合に基づいて送電を行う。この電力増幅回路は、RF帯の周波数帯域で動作させられるが、例えば6.78MHzまたは13.56MHzなどのISM(Industry Science Medical)帯の周波数帯域での適用が好ましい。また、後述する個々のE級増幅器の出力およびE級増幅器の台数によって決まるが、電力増幅回路によって数百W~数十kWの出力電圧を発生させることが可能であり、これに基づいて無線電力供給がなされる。以下、本実施形態の電力増幅回路について図を参照して説明する。
【0016】
図1に示すように、電力増幅回路1は、複数台のE級インバータ2が並列接続されることによって構成されている。そして、直流電源Vhからの電力供給に基づいて、電力増幅回路1で電力増幅がなされたのち、RF負荷R
Lへの送電が行われる。この電力増幅回路1は、例えばプリント基板上に実装されたディスクリート半導体やセラミックコンデンサ、巻線インダクタなどから構成されており、各E級インバータ2は同一設計とされている。また、外付けの電力合成回路などの電力合成のための外付け部品が用いられていないため、それによる電力増幅回路1の効率低下は生じないようになっている。
【0017】
ここで使用されるE級インバータ2は、E級増幅器のことであるが、直流から交流への電力変換を行うものとして用いられることから、この名称で呼ぶこととする。また、ここではE級インバータ2の台数がn個である場合を例に上げて説明し、n個のE級インバータ2それぞれの参照符号を2-1、2-2・・・2-nとして図示する。なお、nは2以上の整数である。また、
図1では、一番上に記載したE級インバータ2-1についてのみ回路構成を示したが、それ以外のE級インバータ2-2~2-nについても同様の回路構成とされている。
【0018】
E級インバータ2は、共振型電源回路10、整合回路20および内部電圧検出回路30を有している。
【0019】
共振型電源回路10は、別途備えられる信号源3からの高周波信号に参照して駆動され、位相調整回路11、ゲートドライバ12、MOSFET13、ダイオード14、LC共振回路15、チョークコイル16を備えた回路構成とされている。
【0020】
信号源3は、共振型電源回路10が参照する高周波信号を生成するもので、矩形波を出力する発振回路等で構成され、位相調整回路11およびゲートドライバ12を介してMOSFET13のゲート電圧となる駆動用信号を出力する。ここでは、駆動用信号として、例えば周波数が6.78MHz、デューティ比が50%の矩形波を用いている。なお、各E級インバータ2に備えられる信号源3は、同一のものである。この信号源3については、電力増幅回路1の他の部分が形成された基板と異なる基板に形成されていても良い。
【0021】
位相調整回路11は、内部電圧検出回路30での検出結果に基づいて駆動用信号の位相調整を行うことで、スイッチング素子となるMOSFET13のスイッチング位相を調整する。この位相調整回路11によって駆動用信号の位相調整が行われることにより、複数のE級インバータ2が同相動作させられるようになっている。各E級インバータ2は同一設計とされているが、様々な要因に基づいて伝搬遅延ばらつきが生じることから、各E級インバータ2において位相調整が行われるようにしている。
【0022】
伝搬遅延ばらつきの原因としては様々なものがある。例えば、信号源3が電力増幅回路1の他の部分が形成された基板と異なる基板で構成されている場合には、両基板間が同軸線路で接続されることになり、その間で伝搬遅延ばらつきが発生する。MOSFET13のオンオフ状態が遷移するまでの遅延時間のばらつきによっても、伝搬遅延ばらつきが発生する。さらに、共振型電源回路10を構成する各素子の製造ばらつきによっても、伝搬遅延ばらつきが発生する。中でも、MOSFET13の状態遷移の際の遅延時間のばらつきが伝搬遅延ばらつきの主要因になっている。伝搬遅延ばらつきを調査したところ、5~23[ns]程度の伝搬遅延ばらつきが発生することを確認している。このような伝搬遅延ばらつきによって、各共振型電源回路10の出力電圧の位相にばらつきが生じ、電力増幅回路1の効率低下を生じさせることになる。したがって、位相調整回路11による位相調整を行うことで、各共振型電源回路10の出力電圧の位相のばらつきを低減し、各E級インバータ2を同相動作させるようにする。
【0023】
例えば、位相調整回路11は、
図2に示す回路構成とされている。
図2に示すように、位相調整回路11は、三角波形成回路111、D型フリップフロップ112、分圧回路113、1ショットパルス発生器114などを有している。
【0024】
三角波形成回路111は、T型接続された抵抗111a、コンデンサ111bによって構成されている。信号源3とD型フリップフロップ112との間において抵抗111aと後述するコンデンサ113cとが直列接続されており、抵抗111aとコンデンサ113cとの間においてコンデンサ111bが並列接続されている。
【0025】
このような構成により、信号源3から矩形波が入力されることで接点Aに三角波状の電圧を発生させる。そして、DCバイアスとして可変電圧Vbが加えられると、その電圧の大きさに応じて接点Bの電圧Vin(以下、入力電圧という)がD型フリップフロップ112のクロックCLKの電圧しきい値を通過する位相が変化するようになっている。なお、可変電圧Vbは、後述するように、内部電圧検出回路30の検出結果を表した出力電圧であり、その検出結果に応じて変化する。
【0026】
D型フリップフロップ112は、後述する1ショットパルス発生器114の時定数に基づき、クロックCLKが反応してから一定期間、Q端子の電圧をハイレベルにする回路として機能する。このため、D型フリップフロップ112は、クロックCLKが1周期に一度反応するような周期波形に対して、常に一定のデューティ、具体的にはデューティ比が50%の矩形波電圧を出力する。そして、D型フリップフロップ112の入力電圧Vinの位相が可変電圧Vbに基づいて変化させられることから、D型フリップフロップ112の出力電圧も入力電圧Vinの位相の変化に対応して位相が変化することになる。
【0027】
なお、ここでは、D型フリップフロップ112として、入力電圧Vinがローレベルからハイレベルに切り替わったポジティブエッジに基づいてクロックCLKが反応する例を示す。ただし、D型フリップフロップ112として、入力電圧Vinがハイレベルからローレベルに切り替わったネガティブエッジに基づいてクロックCLKが反応するものであっても良い。位相調整回路11における位相遅延量は、ポジティブエッジの場合には可変電圧Vbが上昇すると減少し、ネガティブエッジの場合には可変電圧Vbが上昇すると増加する。シミュレーションによれば、
図2に示した回路構成の位相調整回路11により、30~210°の範囲において位相調整が可能であった。
【0028】
分圧回路113は、直流バイアス回路に相当し、第1分圧抵抗113a、第2分圧抵抗113bおよびコンデンサ113cによって構成され、定電圧源と可変電圧Vbとの電位差相当を第1分圧抵抗113aと第2分圧抵抗113bとによって分圧する。そして、この分圧された電圧が可変電圧Vbに対応する電圧として、接点Bの直流バイアスとされる。直流バイアスとして可変電圧Vbに対応する電圧を接点Bに印加する回路構成としては、分圧回路113以外のものであっても構わない。ただし、分圧回路113を用いる場合、可変電圧Vbの印加前の状態、つまり可変電圧Vbがゼロのときにも、三角波形成回路111に基づく発振が可能になる。
【0029】
1ショットパルス発生器114は、D型フリップフロップ112の-Q端子の出力に基づいて1ショットパルスを発生させ、それを負論理のCLR端子に入力するものである。1ショットパルス発生器114は、抵抗114a、114b、ダイオード114cおよびコンデンサ114dによって構成され、抵抗114bとコンデンサ114dは過渡応答により負論理入力に対する1ショットパルスを発生させる。また、抵抗114bおよびコンデンサ114dの素子値によって1ショットパルス発生器114の時定数を設定し、D型フリップフロップ112のデューティ比を設定している。具体的には、1ショットパルス発生器114は、次のように動作を行う。
【0030】
D型フリップフロップ112のQ端子がローレベルのとき、-Q端子はハイレベルなのでコンデンサ114dは抵抗114a、ダイオード114cを通して充電される。続いて、クロックが反応すると,D端子がハイレベルなので,Q端子はハイレベルに、-Q端子はローレベルに遷移する。そして、-Q端子がローレベルなので、あらかじめ充電されていたコンデンサ114dは抵抗114bを通して放電される。負論理のCLR端子に印加される電圧は指数関数的に減少し、CLR端子の電圧しきい値を下回ったとき、Q端子出力がクリアされ、ローレベルになる。
【0031】
なお、「-Q端子」は、本来は「Q」の上にバーを付して表記するのが正しいが、電子出願に基づく表現上の制限があるため、「Q」の前に「-」を付して表記するものとする。
【0032】
このような回路構成により、位相調整回路11は、三角波形成回路111で形成される接点Aの三角波と可変電圧Vbとに基づいて接点Bにおいて位相調整された矩形波の入力電圧Vinを形成する。そして、位相調整回路11は、D型フリップフロップ112を通じて、位相調整後の駆動用信号を生成する。
【0033】
ゲートドライバ12は、位相調整回路11とMOSFET13との間に配置されている。ゲートドライバ12は、位相調整回路11で位相調整された高周波信号を増幅し、MOSFET13の入力容量を急速に充放電してMOSFET13のオンオフを急速に切り替えるための駆動用信号を出力する。
【0034】
MOSFET13は、半導体スイッチング素子として備えられたものであり、位相調整回路11による位相調整後のゲートドライバ12からの駆動用信号に基づいてオンオフ駆動される。ダイオード14は、MOSFET13の内蔵ダイオードである。
【0035】
LC共振回路15は、インダクタ15a、コンデンサ15b、15cによって構成されている。直流電源Vhと整合回路20との間においてインダクタ15aとコンデンサ15bとが直列接続されており、シャントキャパシタとなるコンデンサ15cがMOSFET13とインダクタ15aとの間において並列接続されている。コンデンサ15cはMOSFET13の寄生出力容量を含む。このような構成により、LC共振回路15は、MOSFET13のオン時には、インダクタ15aとコンデンサ15bとの直列共振、オフ時には、並列接続されたコンデンサ15bを加えた直列共振を行う。これにより、直流電源Vhが生成する直流電圧に基づいて正弦波電圧が生成される。
【0036】
チョークコイル16は、MOSFET13のオンオフ駆動に基づいて発生させられる高周波が直流電源Vhに影響することを抑制するために備えられている。
【0037】
インダクタ15a、コンデンサ15bは、強力なローパスフィルタとして働くため共振型電源回路10は正弦波状の電流および電圧を出力する。加えて、チョークコイル16が電流リプルの小さな直流電流を供給するので、MOSFET13およびコンデンサ15cには、直流と正弦波交流が重畳した電流が流れる。MOSFET13オン時にはMOSFET13のソース-ドレイン間に半波に似たパルス状の電流が流れる。また、MOSFET13オフ時には残りの電流がコンデンサ15cに流入、流出する。インダクタ15a、コンデンサ15b、15cの値を適宜調整すると、MOSFET13がオフからオンに切り替わる瞬間のコンデンサ15cに流れる電流およびコンデンサ15cに蓄積された電荷を0にすることができる。この結果、MOSFET13のターンオン時のスイッチング損失を無くすことができ、高周波でも高効率な電力変換が可能となる。以下、この共振型電源回路10の出力電流および出力電圧を内部出力電流および内部出力電圧という。
【0038】
整合回路20は、共振型電源回路10の出力側に備えられ、インピーダンス整合を行うためのものであり、T型整合回路によって構成され、他相のE級インバータ2の影響を抑制して、他相のE級インバータ2との電力合成を可能にする。E級インバータ2の動作条件を満たすのは、ある特定のインピーダンスのときだけである。このため、整合回路20にて、RF負荷RLをE級インバータ2の数で均等に分割した場合に想定される負荷抵抗と、各共振型電源回路10の設計に都合の良い最適負荷抵抗との間で整合を取る必要がある。したがって、最適負荷抵抗になるように、整合回路20にて、共振型電源回路10と整合回路20との接続点となるポートから見たインピーダンスを低下させている。例えば、整合回路20は、RF負荷RLが実際は50Ωだったとしても、共振型電源回路10と整合回路20との接続点となるポートから見たインピーダンスが10Ωに見えるようにしている。また、当該ポートからRF負荷RL側を見たときの抵抗成分が純抵抗であることが望ましいが、実際にはL成分を含んでいることがあるため、整合回路20にて、インピーダンスの虚数部を打ち消す役割も果たしている。
【0039】
具体的には、整合回路20は、
図3に示すように、インダクタ21とコンデンサ22、23とによって構成されている。共振型電源回路10とRF負荷R
Lとの間においてインダクタ21とコンデンサ23とが直列接続されており、コンデンサ22がインダクタ21とコンデンサ23との間において並列接続されている。詳細については、後述するが、インダクタ21、コンデンサ22、23それぞれのリアクタンス値をX
L1、X
C2、X
C3と定義すると、これらは数式1~数式3を満たす値に設定されている。
【0040】
なお、
図3において整合回路20の入力側のポートを第1ポート41、出力側のポートを第2ポート42とすると、r
1は、第2ポート42にインピーダンスr
2を接続したときの入力インピーダンスであり、共振型電源回路10の最適負荷抵抗に相当する。r
2は、RF負荷R
Lが合成数分に均等に分割された場合のインピーダンスであり、負荷抵抗nR
Lである。kは、整合回路20のインピーダンス変換比であり、k=r
2/r
1で表される。uは、E級インバータ2の並列接続における内部出力電圧を仮想的に同相成分と非同相成分に分離し、それぞれにとっての整合回路20の入力アドミタンスを同相アドミタンス、非同相アドミタンスとしたときの比wの虚部を意味する。
【0041】
【0042】
【0043】
【数3】
このように整合回路20をT型とし、かつ、インダクタ21とコンデンサ22、23によるLCC回路としていることから、インダクタ数を最小にしつつ、E級インバータ2の並列接続に起因する全体効率の低下の抑制が可能になる。
【0044】
内部電圧検出回路30は、例えば整合回路20の内部電圧をモニタし、その結果に相当する出力を位相調整回路11に伝えることで、MOSFET13のスイッチングに用いられる駆動用信号の位相が調整されるようにする。例えば、内部電圧検出回路30は、
図4に示す回路構成とされている。
【0045】
図4に示す内部電圧検出回路30は、分圧回路31とダイオード32およびフィルタ回路33を有した構成とされている。分圧回路31は、コンデンサ311とコンデンサ312とによって構成され、モニタ対象となる正弦波状の電圧を分圧しつつ、直流電流の経路を切断する。ダイオード32は、分圧回路31が分圧した電圧の負側をクランプすることで、直流成分を有する電圧V
rectを生成する。フィルタ回路33は、直列抵抗331、コンデンサ332、並列抵抗333によって構成され、電圧V
rectからノイズ成分を除去して、モニタ対象の電圧振幅に比例した直流の可変電圧Vbを生成している。このように、分圧回路31とダイオード32およびフィルタ回路33を用いて、内部出力電圧の位相に対応した可変電圧Vbを生成でき、それを位相調整回路11にフィードバックできる。
【0046】
以上のようにして、本実施形態にかかる電力増幅回路1が構成されている。このような電力増幅回路1では、複数台備えられた各E級インバータ2の共振型電源回路10にて、MOSFET13がオンオフ駆動されることにより、直流電源Vhから印加される直流電圧に基づいて正弦波状の電流電圧が生成される。そして、各E級インバータ2の共振型電源回路10で生成された正弦波状の電流電圧が整合回路20を介して電力合成され、RF負荷RLに供給される。これに基づいて、無線電力供給などが行われる。
【0047】
このとき、各E級インバータ2では、内部電圧検出回路30によって、整合回路20の内部電圧を検出し、それに基づいてMOSFET13の駆動用信号の位相を調整している。このため、各E級インバータ2の正弦波状の電流電圧の位相が一致させられ、高効率での電力合成が可能となる。そして、このような高効率の電力合成を可変キャパシタや可変インダクタを用いることなく行えることから、素子の大型化を抑制でき、ひいては電力増幅回路1の小型化を図ることが可能になる。
【0048】
次に、本実施形態の電力増幅回路1の各E級インバータ2に備えられた整合回路20の回路設計の詳細について説明する。電力増幅回路1においては、同相での電力合成を前提としつつも、上記したように各E級インバータ2の動作不均一が生じることから、それを考慮して整合回路20の回路設計を行う必要がある。
【0049】
まず、上記したように、E級インバータ2の並列接続における内部出力電圧を仮想的に同相成分と非同相成分に分離し、それぞれにとっての整合回路20の入力アドミタンスを同相アドミタンス、非同相アドミタンスとして定義する。そして、内部出力電圧のばらつきに対するE級インバータ2の並列接続の振る舞いに規則を与えるために同相アドミタンスと非同相アドミタンスの比wをパラメータとして与える。これらに基づいて検討を行った結果、整合回路20は少なくとも3つの受動素子が必要になることが判った。これについて説明する。
【0050】
E級インバータ2の並列接続部分の整合回路20について着目すると、E級インバータ2の並列接続には、n個の合成数分の整合回路20が含まれる。そして、
図5に示すように、すべての整合回路20は、一端が共通のRF負荷R
Lに接続され、他端が共振型電源回路10に接続される。
【0051】
ここで、i番目の整合回路20の第1ポート41には内部出力電圧に相当する電圧Viが印加され、電流Iiが流れ込むとする。ただし、iは、1≦i≦Nを満たす整数である。このとき、整合回路群の第1ポート41の電圧は、次の数式4のようにベクトル表記できる。
【0052】
【数4】
続いて、上記数式4で表されるV
iの平均値V
iaveを数式5として定義する。
【0053】
【数5】
この場合において、電圧V
iは、数式6のように仮想的に同相電圧V
iaveと非同相電圧V
i-V
iaveに分離できる。
【0054】
【数6】
各E級インバータ2に同相電圧のみが印加された場合、各E級インバータ2では、合成数分に均等に分割された負荷抵抗nR
Lに対してのみ電流が流れると考えることができる。このため、整合回路群の等価回路は
図6Aのように表される。一方、非同相電圧のみが印加された場合には、電圧ベクトルの要素である各整合回路20の第1ポート41の電圧の合計がゼロになる。また、すべての整合回路20が同一設計となっていることから、第2ポート42の電圧がゼロになる。このため、整合回路群の等価回路は
図6Bのように表される。
【0055】
したがって、電圧V
iの同相電圧と非同相電圧を分離すると、
図5の整合回路群を
図7Aや
図7Bのような分割された等価回路に置き換えることができる。
【0056】
ここで、同相電圧および非同相電圧に対するi番目の整合回路20の第1ポート41の入力アドミタンスYiをそれぞれ同相アドミタンスYc、非同相アドミタンスYdと定義する。
図7Aより、同相アドミタンスYcは、第2ポート42に対して負荷抵抗nR
Lが接続されたときの整合回路20の第1ポート41の入力アドミタンスに等しい。また、
図7Bより、非同相アドミタンスYdは、第2ポートを短絡したときの整合回路20の第1ポート41の入力アドミタンスに等しく、整合回路20のYパラメータのy11に相当する。同様に、同相電圧および非同相電圧によって整合回路20の第1ポート41に流れ込む電流をそれぞれ同相電流Ic、非同相電流Idとする。これら同相電流Icと非同相電流Idは数式7、8で表され、これらを用いて、電流Iiを数式9で表すことができる。
【0057】
【0058】
【0059】
【数9】
そして、数式9より、i番目の整合回路20の第1ポート41の入力アドミタンスYiの一般形は、数式10のように表される。
【0060】
【数10】
E級インバータ2の並列接続では、基本的に同相電流を合成する。したがって、E級インバータ2の並列接続を構成する整合回路20は、RF負荷R
LをE級インバータ2の数で均等に分割した場合に想定される負荷抵抗nR
Lと共振型電源回路10の最適負荷r
optとの間で整合を取る必要がある。この場合の設計条件は、数式11で表される。
【0061】
【数11】
さらに、E級インバータ2の並列接続に含まれる複数の共振型電源回路10の不均一動作が生む、非同相電圧に対する整合回路群の振る舞いに規則を与えなければならない。そこで、数式12のように、非同相アドミタンスYdを同相アドミタンスYcに対して一定の比wを与えることとした。この比wによって、電流Icと電流Idの比をある程度規定できる。
【0062】
【数12】
無損失の整合回路であれば、非同相アドミタンスYdが虚部のみとなり、数式11より、同相アドミタンスYcは実部のみを持つ。このため、設計の時点ではv=0となり、比wの虚部uによって同相アドミタンスYcと非同相アドミタンスYdとの比が与えられる。
【0063】
そして、E級インバータ2の並列接続を構成する整合回路20には、負荷抵抗nRLと最適負荷roptとの間の整合で2つ、比wの決定で1つ、合計3つの自由度、つまり設計パラメータが求められる。相互の結合を持たない集中定数素子を用いることを仮定すると、E級インバータ2の並列接続を構成する整合回路20は最低で3素子含まなければならない。このため、整合回路20を3素子以上が含まれる構成としている。
【0064】
続いて、具体的な整合回路20の選定について説明する。
【0065】
整合回路20を構成する各素子としては、相互の結合を持たないインダクタ、キャパシタを使用することを前提として検討している。E級インバータ2の並列接続を構成する整合回路20に求められる条件としては、上記したように、(1)最低で3素子を含むことが挙げられる。また、第1ポート41から見た左右、つまり共振型電源回路10側とRF負荷RL側とについて、(2)純抵抗-純抵抗のインピーダンス変換が可能であることがある。さらに、(3)第1ポート41の入力インピーダンスr1よりも第2ポート42のインピーダンスr2を大きくする設計が可能、(4)各共振型電源回路10と整合回路20とを接続したことによるインダクタの増加数が最小、が挙げられる。なお、条件(4)については、インダクタ数の増加によるE級インバータ2の並列接続の全体効率を低下させないための条件である。
【0066】
条件(1)、(4)を考慮すると、使用するリアクタンス素子数は3となり、整合回路20のトポロジは、
図8Aに示すT型および
図8Bに示すΠ型に限定される。T型およびΠ型について使用するリアクタンス素子の組み合わせ毎の特徴を、それぞれ、
図9Aおよび
図9Bにまとめた。なお、
図9Aおよび
図9B中のX1、X2、X3は、
図8Aおよび
図8Bに示したリアクタンス素子X1、X2、X3を表している。また、インダクタ増加数とは基本的に整合回路に含まれるインダクタ数である。T型トポロジのX1にインダクタを用いる場合に限っては、共振型電源回路10に含まれるインダクタ15aとの一体化が可能であることから増加数にはカウントしない。
【0067】
これらの図に示されるように、条件(2)、(3)を考慮すると、整合回路20の候補が8種類に絞られることが判る。そして、条件(4)を持たすことまで考慮すると、整合回路20の候補がT型のLCC回路の1種類に絞られる。したがって、本実施形態ではT型のLCC回路によって整合回路20を構成しており、これにより、条件(1)~(4)を満たすことが可能となる。
【0068】
続いて、整合回路20を
図3に示したLCC回路で構成する場合の各リアクタンス素子のリアクタンス値について説明する。
【0069】
上記した比wの虚部uをパラメータとしたT型のLCC回路で構成された整合回路20の各リアクタンス素子のリアクタンス値の導出については、以下のようにして行うことができる。まず、
図2に示したT型のLCC回路で構成される整合回路20のインダクタ21、コンデンサ22、23それぞれに対応するリアクタンスをX
L1、X
C2、X
C3とする。また、第2ポート42にインピーダンスr
2を接続したときの入力インピーダンスをr
1とし、RF負荷R
Lが合成数分に均等に分割された場合のインピーダンスをr
2とする。その場合、整合回路20のインピーダンス変換比kは、数式13で示される。
【0070】
【数13】
まず、リアクタンスX
C2とリアクタンスX
C3の比γを与えてリアクタンス値を導出していく。比γについては数式14で示される。
【0071】
【数14】
第2ポート42にインピーダンスr
2が接続されたときに第1ポート41からRF負荷R
L側を見たインピーダンスがr
1に等しくなることから、数式15~数式17のようにリアクタンスX
L1、X
C2、X
C3を定式化できる。
【0072】
【0073】
【0074】
【数17】
また、上記数式11および数式12より、第2ポート42を短絡したときに第1ポート41からRF負荷R
L側を見たインピーダンスがjr
1/uに等しくなることから、数式18のようにk、γ、uの関係を表すことができる。なお、第2ポート42を短絡させたときのT型のLCC回路で構成される整合回路20は誘導性であるため、uは負の実数となる。このuの変域は、数式19のように表される。
【0075】
【0076】
【数19】
そして、数式15~数式17と数式18を組み合わせることで、上記した数式1~3のuをパラメータとしたT型のLCC回路で構成される整合回路20の各リアクタンス素子のリアクタンス値の設計式が得られる。
【0077】
このように、整合回路20をT型のLCC回路によって構成し、各リアクタンス素子のリアクタンス値を数式1~数式3で示される値に設計することで、条件(1)~(4)を満たすことができる。したがって、E級インバータ2を並列接続した構成においても、高効率で電力合成を行うことが可能となる。
【0078】
以上説明したように、本実施形態の電力増幅回路1では、共振型電源回路10と整合回路20とを有する同じ回路構成とされたE級インバータ2を複数備え、共振型電源回路10が整合回路20を介して並列接続されるようにしている。そして、整合回路20内部の電圧を内部電圧検出回路30でモニタし、内部出力電圧に対応する可変電圧Vbに基づいて位相調整回路11による位相調整が行われるようにしている。これにより、各E級インバータ2の正弦波状の電流電圧の位相が一致させられ、高効率での電力合成が可能となる。そして、このような高効率の電力合成を可変キャパシタや可変インダクタを用いることなく行えることから、素子の大型化を抑制でき、ひいては電力増幅回路1の小型化を図ることが可能になる。
【0079】
なお、ここでは、整合回路20内のコンデンサ22に印加される電圧(仮に整合回路内電圧と名付ける)に基づいて位相調整回路11による位相調整が行われるようにしているが、整合回路内電圧の振幅と位相とが強い相関関係を有していることを確認している。
【0080】
例えば、信号源3の位相を基準とした各E級インバータ2の並列接続の接点での出力電圧位相をθsi、その平均値をθsiaveとして、平均値θsiaveからの各E級インバータ2の出力電圧位相θsiの偏差となる出力相対位相をθriと定義する。具体的には、出力電圧位相θsiの平均値θsiaveと出力相対位相θriは、数式20および数式21で示される。
【0081】
【0082】
【数21】
このように定義される出力相対位相θ
riは様々な要因による出力電圧位相θ
siのばらつきが集約された物理量としての意味を持つ。
【0083】
この出力相対位相θriにばらつきを与えるシミュレーションの準備として、複数のE級インバータ2を完全に同相で動作させるシミュレーションを行い、各種特性を取得した。具体的には、整合回路20のパラメータや合成するE級インバータ2の数を変化させて、E級インバータ2のドレイン電圧やドレイン電流のピーク値、ドレイン電圧とドレイン電流を掛け合わせて求められる電力の時間平均値、効率、整合回路内電圧の振幅の変化を調べた。その結果、整合回路内電圧の振幅を除く特性量については、整合回路20のパラメータや合成するE級インバータ2の数を変化させても殆ど変化しなかった。これは、整合回路20のパラメータや合成するE級インバータ2の数の変化によらず、共振型電源回路10にとっての負荷が変化しなかったことによる。
【0084】
また、正規分布に従うランダムな位相を各E級インバータ2に与えることで出力相対位相θriのばらつきを再現し、多数回の試行を行った。そして、整合回路内電圧の振幅を抽出し、同相動作時の結果を用いて正規化した。
【0085】
この結果に基づき、E級インバータ2の出力相対位相θriと正規化された整合回路内電圧の振幅との関係をプロットしたところ、並列接続するE級インバータ2の数が3以上の場合にも、2次元的な広がりを持たない直線状の分布を示した。また、前記した整合回路20のパラメータuが一定であれば並列接続するE級インバータ2の数を変化させても直線状の分布の傾きはほぼ一定であった。
【0086】
この結果から、E級インバータ2の出力相対位相θriと正規化された整合回路内電圧の振幅とは強い相関を有していることが判る。また、複数のE級インバータ2同士が相互干渉しているにもかかわらず、あるE級インバータ2の出力相対位相θriと正規化された整合回路内電圧の振幅の関係が他のE級インバータ2の影響を殆ど受けていないことも判る。
【0087】
したがって、整合回路内電圧の振幅が出力相対位相θriを表すパラメータとなるため、整合回路内電圧をモニタし、整合回路内電圧の振幅に対応する可変電圧Vbに基づいて位相調整回路11による位相調整を行うことが可能となる。そして、これはパラメータuを用いて整合回路20を設計する限りE級インバータ2の数によらずに実現可能である。
【0088】
また、上記のシミュレーションにおいて、ドレイン電圧のピーク値、ドレイン電流のピーク値、および、ドレイン電圧とドレイン電流を掛け合わせて求められるドレイン損失の時間平均値についても同相動作時の結果を用いて正規化した。これらは、出力相対位相θriのばらつきがE級インバータ2の並列接続に用いるスイッチング素子、本実施形態の場合はMOSFET13にどの程度悪影響を及ぼすかを表している。
【0089】
一般的な電力用半導体のディレーティングの目安に基づいてE級インバータ2を設計したとすると、正規化ドレインピーク電圧が1.25、正規化ドレインピーク電流が1.43、正規化ドレイン損失が2を超えるとスイッチング素子が破損する可能性が生じる。これに対して、上記シミュレーションの結果では、正規化ドレインピーク電圧は1.25、正規化ドレインピーク電流は1.43に共に達していなかったが、正規化ドレイン損失については2を超えるという結果が得られた。したがって、出力相対位相θriのばらつきによるドレイン損失増加によってスイッチング素子が破損する可能性があると考えられる。このため、スイッチング素子の破損の抑制の観点からも、出力相対位相θriのばらつきを低減することが有効であることが判る。
【0090】
よって、整合回路内電圧に基づいて位相調整回路11による位相調整が行えると共に、位相調整を行うことで、複数のE級インバータ2を並列接続した電力増幅回路1の効率向上が図れるのに加えて、スイッチング素子の破損も抑制できる。
【0091】
なお、上記したように、出力相対位相θriのばらつきの原因としてスイッチング素子のオンオフ状態が遷移するまでの伝搬遅延ばらつきや、ゲートドライバ12内部の伝搬遅延ばらつきなどがある。これらのばらつきに対しては、予め大量購入したスイッチング素子やゲートドライバ12となるICなどの位相遅延特性を測定しておき、位相遅延量が近い値を取る組み合わせをE級インバータ2の並列接続に用いることも想定される。
【0092】
しかしながら、位相遅延特性を測定するための機器を用意する必要があるし、測定の手間も要し、さらに測定時にどれだけ実使用時の動作状態を再現できているかということの検証を行う必要もある。さらには、E級インバータ2の並列接続の合成数が多く、かつ作製数が少ない場合には、位相遅延量が近い値を取る組み合わせを見つけるために、実際に使用するよりも膨大なスイッチング素子やICを用意しなければならない。
【0093】
以上を踏まえると、本実施形態のように位相調整回路11によって駆動用信号の位相調整を行うことは、E級インバータ2の並列接続を含む電力増幅回路1を多種少量生産する場合や合成数が多い場合に、特に有効であると考えられる。
【0094】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して位相調整回路11の構成変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0095】
図10に示すように、本実施形態では、位相調整回路11を第1回路11aと第2回路11bとによって構成し、第1回路11aと第2回路11bそれぞれが
図2に示した回路構成とされるようにしている。すなわち、本実施形態の位相調整回路11は、第1実施形態で示した位相調整回路11を2段組み合わせた構成とされている。
【0096】
上記したように、
図2に示す回路構成においては、30~210°の範囲での位相調整が可能であった。このため、この回路構成を2段直列に繋いで用いることで、その倍の角度範囲において位相調整が可能になる。これにより、電力増幅回路1において、より広範囲での位相調整を行うことが可能となる。
【0097】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0098】
具体的には、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、各種回路構成も一例を示したに過ぎず、同様の機能を実現する他の回路構成を適用しても良い。
【0099】
例えば、上記各実施形態では、整合回路20をLCC回路で構成し、リアクタンス素子となるインダクタ21、コンデンサ22、23をすべて1つの素子として備えている構成を例に挙げて説明した。しかしながら、これは一例を示したに過ぎない。例えば、
図11に示すように、インダクタ21については、LC共振回路15におけるインダクタ15aに一体化させることが可能である。その場合、素子としては1つとなるが、共振回路15のインダクタ15aと整合回路20のインダクタ21を足し合わせたリアクタンス値が設定される。
【0100】
なお、内部電圧検出回路30がモニタする共振型電源回路10もしくは整合回路20の内部電圧について、コンデンサ22に印加される整合回路内電圧を例に挙げたが、これに限るものではない。例えば、共振型電源回路10の出力電圧に相当する内部出力電圧を内部電圧検出回路30でモニタしても良いし、共振型電源回路10の中点の電圧をモニタしても良い。すなわち、共振回路15のインダクタ15aとコンデンサ15bとの接続点よりもRF負荷RL側、かつ、整合回路20の出力より直流電源Vh側、つまり両コンデンサ22、23の接続点よりも直流電源Vh側の電圧を内部電圧検出回路30でモニタすれば良い。ただし、インダクタ15aよりも直流電源Vh側では、高電圧が発生することから、好ましくはインダクタ15aよりもRF負荷RL側をモニタするのが良い。
【0101】
また、ここでは直流電源Vhに基づいて交流の出力電流および出力電圧を発生させるインバータとしてE級方式のものを例に挙げて説明したが、インバータとしては、D級方式などの他の方式のインバータであっても良い。また、直流電源Vhに基づいて交流の出力電流および出力電圧を発生させるスイッチング素子としてMOSFET13を例に挙げたが、他のスイッチング素子であっても良い。その場合でも、位相調整回路11によってスイッチング素子のスイッチング位相を調整することで、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0102】
1 電力増幅回路
2 E級インバータ
10 共振型電源回路
11 位相調整回路
13 MOSFET
20 整合回路
30 内部電圧検出回路
Vh 直流電源
RL RF負荷