(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】角膜保護用の組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/655 20060101AFI20221027BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221027BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20221027BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20221027BHJP
C07D 213/77 20060101ALN20221027BHJP
A61K 31/4418 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
A61K31/655
A61P27/02
A61P27/04
A01N1/02
C07D213/77
A61K31/4418
(21)【出願番号】P 2019562077
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047749
(87)【国際公開番号】W WO2019131720
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2017251839
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】池田 華子
(72)【発明者】
【氏名】垣塚 彰
(72)【発明者】
【氏名】木下 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】永田 真帆
(72)【発明者】
【氏名】小泉 範子
(72)【発明者】
【氏名】奥村 直毅
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/043891(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014994(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、角膜保護用の組成物。
【請求項2】
Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
式(I)の化合物が、
4-アミノ-3-(6-フェニルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-p-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-m-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-o-トリルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-2-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(2-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(3-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレン-1-スルホン酸;
3-[6-(4-アセチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]-4-アミノナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,4-ジクロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-クロロフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-イソプロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フェノキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-メトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,3-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-トリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{4-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェニル}-4-オキソブチル酸;
4-アミノ-3-(6-ビフェニル-3-イルピリジン-3-イルアゾ)ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-シアノフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3,5-ビストリフルオロメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレンスルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ベンゾイルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-6-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-プロポキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヘキシルオキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-ブチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(6-ヒドロキシヘキシルオキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-{2-[5-(1-アミノ-4-スルホナフタレン-2-イルアゾ)ピリジン-2-イル]フェノキシ}ブチル酸;
4-アミノ-3-{6-[2-(3-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]ピリジン-3-イルアゾ}ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2-イソブトキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(5-クロロ-2-ヒドロキシフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(4,3’,5’-トリメチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3’-クロロ-4-メチルビフェニル-2-イル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(2,6-ジメチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-イソプロポキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;および、
4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸;
からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸または4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
角膜疾患が角膜内皮疾患である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
角膜疾患が角膜上皮疾患である、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
角膜疾患が、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、サイトメガロウイルス角膜内皮炎、単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎、落屑症候群、角膜内皮移植後拒絶反応、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、角膜内皮炎、角膜移植後角膜損傷、内眼手術後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷、水疱性角膜症、点状表層角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍、ドライアイ、乾性角結膜炎または周辺部角膜潰瘍である、請求項5に記載の組成物。
【請求項9】
角膜疾患が、フックス角膜ジストロフィー、水泡性角膜症、角膜びらん、ドライアイまたは角膜外傷である、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
点眼剤である、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
眼灌流液または眼灌流液に添加するための組成物である、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項12】
移植用角膜の保存液または移植用角膜の保存液に添加するための組成物である、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【請求項13】
式(I):
【化2】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、
角膜内皮疾患または角膜上皮疾患の処置または予防用の医薬組成物。
【請求項14】
式(I):
【化3】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、眼灌流用の組成物。
【請求項15】
式(I):
【化4】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、移植角膜保存用の組成物。
【請求項16】
角膜保護用の医薬の製造における、式(I):
【化5】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項17】
角膜内皮疾患または角膜上皮疾患の処置または予防用の医薬の製造における、式(I):
【化6】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項18】
眼灌流用の医薬の製造における、式(I):
【化7】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項19】
移植角膜保存用の医薬の製造における、式(I):
【化8】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の使用。
【請求項20】
式(I):
【化9】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそ
の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む角膜保存液中で移植角膜を保存することを含む、移植角膜の保存または保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2017-251839について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、角膜保護用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
角膜は、眼を構成する組織の一つである。角膜の最も内側にある角膜内皮細胞は、ポンプ機能を持ち、角膜の透明性を維持するために必須である。角膜内皮には分裂能がなく、一度障害を受けると再生しない。障害を受けた部分は周りの内皮細胞が面積を拡大して補うが、細胞数が少なくなりすぎると角膜の透明性が保てなくなり、視力が極端に悪化する。
【0003】
角膜内皮は、白内障や緑内障などの手術侵襲、急激な眼圧上昇、炎症、外傷、フックス角膜ジストロフィーなどの疾患によって障害され得る。病状が進行すれば、角膜移植(全層角膜移植や角膜内皮移植など)により減少した角膜内皮細胞を補うことが必要となる。角膜内皮細胞を再生させたり、角膜内皮細胞の減少を抑制したりする有効な治療法はない。
【0004】
角膜上皮細胞は、角膜輪部(角膜と結膜の境界部分)にその幹細胞が存在し、日々ターンオーバーをしている。しかしながら、外傷や結膜炎症疾患などによって幹細胞が疲弊すると、角膜上皮細胞の十分な供給がなされず、角膜上皮欠損が遷延する。その結果、角膜透明性の維持が困難となり、角膜上皮の結膜化をきたし、視力が低下する。また、角膜上皮障害は、しばしば強い眼痛を伴う。角膜上皮細胞および角膜上皮幹細胞の減少を抑制するために抗炎症剤などが使用されるが、その効果は限定的である。
【0005】
眼手術や角膜移植の際には、角膜の保護が必要とされる。現在、眼手術時に使用される眼灌流液として、角膜内皮細胞および網膜細胞を保護するために、グルタチオンが添加されている製品がある。一方、角膜移植用のドナー角膜の保存には、通常、Optisol-GS等の角膜保存液を使用するが、最長でも2週間程度しか保存ができない。
【0006】
このように、角膜を保護し、角膜疾患を処置または予防することに対して、多面的な要望がある。
【0007】
VCP(valosin-containing protein)ATPase阻害活性を有するある種の4-アミノ-ナフタレン-1-スルホン酸誘導体(特許文献1)は、緑内障、網膜色素変性症、加齢黄斑変性、虚血性眼疾患などの眼疾患の処置または予防に有効であることが知られている(特許文献2~4、非特許文献1および2)。これらの疾患では、後眼部に存在する網膜組織や視神経が損傷を受ける。角膜に対するこれらの薬剤の効果は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2012/014994号パンフレット
【文献】国際公開第2012/043891号パンフレット
【文献】国際公開第2014/129495号パンフレット
【文献】国際公開第2015/129809号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】池田華子 他著、Sci Rep 4, 5970, 2014
【文献】中野紀子 他著、Heliyon 2, e00096, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願の目的は、角膜保護用の組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、VCP阻害剤が、角膜内皮細胞および角膜上皮細胞の保護効果を有することを見出した。
【0012】
従って、ある態様では、本願は、式(I):
【化1】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、角膜保護用の組成物を提供する。
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物を提供する。
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、眼灌流用の組成物を提供する。
別の態様では、本願は、式(I)の化合物またはそのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、移植角膜保存用の組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本願により、角膜保護効果を有する組成物が提供される。具体的には、例えば、角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物、あるいは、角膜保護効果が改善された眼灌流用の組成物または移植角膜保存用の組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】アンチマイシンまたはオリゴマイシン存在下で培養したウサギ角膜内皮細胞の位相差顕微鏡像であり、KUS121の細胞保護効果を示す。
【
図2】無グルコース下で培養したウサギ角膜内皮細胞の位相差顕微鏡像であり、KUS121の細胞保護効果を示す。
【
図3】アンチマイシンまたはオリゴマイシン存在下または無グルコース下で培養したウサギ角膜内皮細胞の細胞内ATP濃度の測定結果であり、KUS121の存在下では細胞内ATP濃度の減少が抑制されることを示す。
【
図4】タプシガルジン存在下で培養した不死化ヒト角膜内皮細胞の細胞形態およびアポトーシスを示す位相差顕微鏡像であり、KUS121の細胞障害抑制効果を示す。
【
図5】タプシガルジン存在下で培養した不死化ヒト角膜内皮細胞における、切断カスパーゼ3およびPARPのウェスタンブロットの結果であり、KUS121の存在下ではアポトーシスが抑制されることを示す。
【
図6】Optisol-GS中で1~4週間にわたり保存したウサギ角膜の組織切片のHE染色像であり、KUS121またはKUS187の存在下では、角膜組織形態の変化が抑制されることを示す。
【
図7】Optisol-GS中で1~4週間にわたり保存したウサギ角膜の中央部の角膜厚を計測した結果であり、KUS121またはKUS187の存在下では、角膜の膨化が抑制されることを示す。
【
図8】Optisol-GS中で1~4週間にわたり保存したウサギ角膜の組織切片のTUNEL染色像であり、KUS121またはKUS187の存在下ではアポトーシスが抑制されることを示す。各切片につき、3視野の画像を示す。
【
図9】
図8と同視野のヨウ化プロピジウム(PI)染色像を示す。
【
図10】Optisol-GS中で1~4週間にわたり保存したウサギ角膜の組織切片におけるTUNEL染色陽性細胞率を示す。KUS121またはKUS187の存在下では、全期間を通して、コントロール群と比べてTUNEL染色陽性細胞率が低い。
【
図11】Optisol-GS中で1~4週間にわたり保存したウサギ角膜の組織切片のNa+/K+ATPase染色像であり、KUS121または187の存在下では、コントロール群に比べて1週から角膜内皮細胞の変化が少ないことを示す。
【
図13】Optisol-GS中で1週間にわたり保存したウサギ角膜の透過型電子顕微鏡写真である。コントロールでは、角膜上皮細胞の空胞化および微絨毛(microvilli)の消失、並びに、角膜実質および角膜内皮細胞の膨潤化が見られるが、KUS121の存在下ではいずれも見られない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は、「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20~30」は、「18~33」を含むものとする。
【0016】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0017】
「アルキル」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、1価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキルは、例えば直鎖および分枝鎖ヒドロカルビル基、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチルおよびネオペンチルを意味するが、これらに限定されない。
【0018】
基の接頭語「置換」は、当該基の1個以上の水素原子が、同一または異なる指定する置換基によって置換されていることを意味する。
【0019】
「アルキレン」は、1~10個の炭素原子、好ましくは1~6個の炭素原子を有する、2価飽和脂肪族ヒドロカルビル基を意味する。アルキレン基は、分枝鎖および直鎖ヒドロカルビル基を含む。
【0020】
「アルコキシ」は、-O-アルキル(ここで、アルキルは本明細書に定義されている)の基を意味する。アルコキシは、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、t-ブトキシ、sec-ブトキシおよびn-ペントキシを意味するが、これらに限定されない。
【0021】
「アリール」は1個の環(例えばフェニル)または複数の縮合環(例えばナフチルまたはアントリル)を有する6~14個の炭素原子の1価芳香族性炭素環式基を意味する。アリール基は典型的には、フェニルおよびナフチルを含む。
「アリールオキシ」は、-O-アリール(ここで、アリールは本明細書に定義されている)の基を意味し、例えばフェノキシおよびナフトキシを含む。
【0022】
「シアノ」は、-CNの基を意味する。
「カルボキシル」または「カルボキシ」は-COOHまたはその塩を意味する。
「カルボキシエステル」は、-C(O)O-アルキル(ここで、アルキルは本明細書に定義されている)の基を意味する。
「ハロ」は、ハロゲン、特に、フルオロ、クロロ、ブロモおよびヨードを意味する。
「ヒドロキシ」は-OHの基を意味する。
【0023】
特に定めのない限り、本明細書において明示的に定義されていない置換基の命名法は、官能基の末端部分を命名し、次いで結合点に向かって隣接する官能基を命名して行う。例えば、置換基「アリールアルキルオキシカルボニル」は、(アリール)-(アルキル)-O-C(O)-を意味する。
【0024】
式(I)の化合物には、置換パターンによっては、エナンチオマーまたはジアステレオマーが存在し得る。式(I)の化合物は、ラセミ体であってもよく、既知方法で立体異性的に純粋な成分に分離したものであってもよい。ある種の化合物は、互変異性体であり得る。
【0025】
「エステル」は、インビボで加水分解され得るエステルを意味し、人体で容易に分解されて親化合物またはその塩を放出するものを含む。好適なエステル基は、例えば、薬学的に許容し得る脂肪族カルボン酸、特にアルカン酸、アルケン酸、シクロアルカン酸およびアルカン二酸に由来するもの(ここで、各アルキルまたはアルケニル基は、例えば6個以下の炭素原子を有する)を含む。具体的なエステルの例には、ギ酸エステル、酢酸エステル、プロピオン酸エステル、ブチル酸エステル、アクリル酸エステルおよびエチルコハク酸エステルが含まれる。
「オキシド」は、ヘテロアリール基の窒素環原子が酸化され、N-オキシドを形成しているものを意味する。
【0026】
「プロドラッグ」は、合理的な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激性、アレルギー性応答等なくヒトまたは動物の組織と接触させて使用するのに適した、合理的な利益/危険比で釣り合った、そして意図した使用に有効な化合物のプロドラッグを意味する。プロドラッグは、インビボで速やかに、例えば血中で加水分解によって変換されて、上記式の親化合物をもたらす化合物である。一般的な説明は、T. Higuchi and V. Stella, Pro drugs as Novel Delivery Systems, Vol. 14 of the A.C.S. Symposium SeriesおよびEdward B. Roche, ed., Bioreversible Carriers in Drug Design, American Pharmaceutical Association and Pergamon Press, 1987 に記載されている(いずれも参照により本明細書に引用する)。
【0027】
「薬学的に許容し得る塩」は、式(I)の化合物の無機または有機酸との塩であり得る。好ましい塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸または硫酸との塩、または、有機カルボン酸またはスルホン酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、安息香酸またはメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸またはナフタレンジスルホン酸との塩である。
【0028】
また、薬学的に許容し得る塩は、常套の塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩)、または、アンモニアまたは有機アミン(例えば、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチルジイソプロピルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-メチルモルホリン、ジヒドロアビエチルアミン、メチルピペリジン、L-アルギニン、クレアチン、コリン、L-リジン、エチレンジアミン、ベンザチン、エタノールアミン、メグルミンまたはトロメタミン)から誘導されるアンモニウム塩、特にナトリウム塩であり得る。
【0029】
「溶媒和物」は、固体または液体状態で溶媒分子との配位により錯体を形成している式(I)の化合物を意味する。好適な溶媒和物は水和物である。
【0030】
本明細書において「式(I)の化合物」に言及する場合、文脈中で不適切でない限り、そのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩および溶媒和物も包含することを意図する。
【0031】
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである。
ある実施態様では、式(I)中、Raは、それぞれ独立して、ヒドロキシ、アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される。
ある実施態様では、式(I)中、Raは3個存在し、1つがヒドロキシであり、1つがアルキルであり、1つがアルコキシである。
【0032】
ある実施態様において、式(I)の化合物は、下記の表1の化合物から選択される:
【表1-1】
【0033】
【0034】
【0035】
ある実施態様では、下記式
【化2】
で表される4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、そのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、特にナトリウム塩が好ましい。
【0036】
ある実施態様では、下記式
【化3】
で表される4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、そのエステル、オキシド、プロドラッグ、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、特にナトリウム塩が好ましい。
【0037】
式(I)の化合物、特に、上記の化合物の特性および合成方法は、国際公開第2012/014994号、国際公開第2012/043891号、国際公開第2014/129495号パンフレット、国際公開第2015/129809号パンフレット(特許文献1~4)に詳細に記載されている。これらの文献の全体を出典明示により本明細書の一部とする。
【0038】
後述する実施例により立証される通り、式(I)の化合物は、角膜内皮細胞および角膜上皮細胞を保護し、細胞死を抑制する作用を有し、従って、角膜を保護し得る。本明細書で使用されるとき、「角膜を保護する」または「角膜保護」は、対象の眼内にあるか、または移植用に切除された角膜において、角膜内皮細胞および角膜上皮細胞の細胞死を抑制すること、角膜の異常(例えば、浮腫、膨潤、混濁)を抑制すること、および/または、角膜の異常の進行を抑制することを意味し、ここで、対象は、角膜疾患に罹患していても、罹患していなくてもよい。
【0039】
従って、ある態様では、式(I)の化合物を含む、角膜保護用の組成物が提供される。
ある態様では、角膜の保護を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、角膜の保護方法が提供される。
ある態様では、角膜を式(I)の化合物と接触させることを含む、角膜の保護方法が提供される。
ある態様では、角膜保護用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、角膜を保護するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、角膜保護用の組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0040】
式(I)の化合物は、その角膜保護効果により、例えば、角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物、眼灌流用の組成物、および、移植角膜保存用の組成物などの成分として有用である。
【0041】
(1)角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物
「角膜疾患」は、角膜における病変、障害または損傷を伴う疾患を意味する。角膜疾患は、角膜内皮疾患または角膜上皮疾患であり得る。角膜内皮疾患には、角膜内皮細胞を標的とする疾患、例えば、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群もしくは先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィーなどの角膜内皮変性、サイトメガロウイルス角膜内皮炎もしくは単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎などのウイルス性疾患、落屑症候群または角膜内皮移植後拒絶反応など、あるいは、外的要因に伴う炎症または物理的損傷、例えば、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、角膜内皮炎、角膜移植後角膜損傷、内眼手術(例えば白内障手術、硝子体手術、緑内障手術など)後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷、または、水疱性角膜症などの疾患が含まれる。角膜上皮疾患には、点状表層角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍、ドライアイ、乾性角結膜炎、周辺部角膜潰瘍、角膜外傷などの疾患が含まれる。
【0042】
本明細書で使用されるとき、「処置する」または「処置」は、角膜疾患に罹患している対象において、角膜疾患の原因を軽減または除去すること、その進行を遅延または停止させること、および/または、その症状を軽減、緩和、改善または除去することを意味する。
【0043】
本明細書で使用されるとき、「予防する」または「予防」は、対象において、特に、角膜疾患に罹る可能性が高いが、未だ罹患していない対象において、角膜疾患への罹患を防止すること、または、角膜疾患に罹る可能性を低減することを意味する。角膜疾患に罹る可能性があるが、未だ罹患していない対象には、例えば、フックス角膜ジストロフィーまたは後部多形性角膜ジストロフィーなどの角膜疾患の遺伝的素因を有する対象、角膜疾患の原因を有する対象が含まれる。角膜疾患の原因としては、内眼手術(例えば白内障手術、硝子体手術、緑内障手術など)、角膜移植、レーザー治療、急激な眼圧上昇、炎症、外傷、結膜炎症などが挙げられる。
【0044】
角膜疾患の処置または予防の対象としては、動物、典型的には哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)、特にヒトが挙げられる。
【0045】
医薬組成物の投与方法は特に限定されないが、経口投与、非経腸投与、注射、輸液、点眼、前眼房内、硝子体内投与等の一般的な投与経路を経ることができ、組成物は、各投与経路に適する剤形であり得る。
【0046】
経口投与の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、坐剤、散剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、チュアブル剤、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。また注射による投与の剤形としては、静脈注射用、点滴投与用、眼内注射用、活性物質の放出を延長する製剤等などの医薬製剤一般の剤形を採用することができる。点眼用の剤形としては、液剤、懸濁剤、乳濁液などが挙げられる。
【0047】
これらの剤形は、常法により製剤化することによって製造される。さらに製剤上の必要に応じて、医薬的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤形により適宜選択することができるが、例えば、緩衝化剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。
【0048】
ある実施態様では、医薬組成物は点眼剤である。点眼剤は、典型的には、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等を用いて調製することができるが、点眼剤の成分はこれらに限定されない。pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよく、例えば、pH4~8の範囲内である。
【0049】
医薬組成物は、眼灌流液であってもよく、眼灌流液に添加するための組成物の形態であってもよい。医薬組成物は、移植用角膜の保存液であってもよく、移植用角膜の保存液に添加するための組成物の形態であってもよい。これらの剤形の詳細は、後述する通りである。
【0050】
医薬組成物の投与量および投与回数は、有効量の式(I)の化合物が対象に投与されるように、投与対象の動物種、投与対象の健康状態、年齢、体重、投与経路、投与形態等に応じて当業者が適宜設定できる。ある状況での有効量は、日常的な実験によって容易に決定することができ、通常の臨床医の技術および判断の範囲内である。例えば、全身投与には、約0.001~約1000mg/kg体重/日、約0.01~約300mg/kg体重/日、約0.1~約100mg/kg体重/日、あるいは約1.0~約30mg/kg体重/日の式(I)の化合物を投与し得る。例えば、局所投与により、約0.01~約100μg/kg体重/日、約0.1~約10μg/kg体重/日、あるいは約0.3~約3μg/kg体重/日の式(I)の化合物を投与し得る。式(I)の化合物は1日1回以上、例えば、1日2回、3回または4回投与することができる。
【0051】
式(I)の化合物は、単独で、または、1種またはそれ以上のさらなる有効成分、特に、角膜疾患の処置または予防のための有効成分と併用できる。例えば、医薬組成物は、式(I)の化合物に加えて、1種またはそれ以上のさらなる有効成分を含み得る。
【0052】
成分を「併用する」ことは、全成分を含有する投与剤形の使用および各成分を別個に含有する投与剤形の組合せの使用のみならず、それらが角膜疾患の予防および/または処置に使用される限り、各成分を同時に、または、いずれかの成分を遅延して投与することも意味する。2種またはそれ以上のさらなる有効成分を併用することも可能である。併用に適する有効成分には、例えば、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、免疫抑制剤、抗ウイルス剤が含まれる。
【0053】
式(I)の化合物による角膜疾患の処置または予防に加えて、薬物療法以外の眼疾患の治療法を実施することもできる。適する治療法には、例えば、外科手術、光線力学療法、遺伝子治療、再生医療、角膜移植、レーザー治療が含まれる。
【0054】
ある態様では、角膜疾患の処置または予防を必要としている対象に式(I)の化合物を投与することを含む、角膜疾患の処置または予防方法が提供される。
ある態様では、角膜疾患の処置または予防用の式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、角膜疾患の処置または予防のための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物の製造における、式(I)の化合物の使用が提供される。
【0055】
(2)眼灌流用の組成物
白内障手術、硝子体手術、緑内障手術等の眼手術時には、眼灌流および洗浄を目的として、通常、眼灌流液が使用される。このような手術時には、角膜浮腫や角膜混濁等の角膜障害が生じる場合があるが、式(I)の化合物を眼灌流液に添加することにより、角膜を保護し、角膜疾患を予防し得る。
【0056】
眼灌流用の組成物は、固体、半固体または液体の剤形であり得、即時使用できる眼灌流液として提供されてもよく、他の眼灌流液に添加するための組成物として提供されてもよい。眼灌流液として提供される場合、組成物に含まれるその他の成分は、既存の眼灌流液と同等のものであり得、好ましくは房水に近い成分であり、オキシグルタチオン等のグルタチオン類、抗生物質等の成分を含有してもよい。既存の眼灌流液としては、例えば、生理食塩液、乳酸リンゲル液、BSS PLUS(商品名)、オペガード(商品名)、オキシグルタチオン眼灌流液(商品名)などが知られているが、これらに限定されない。他の眼灌流液に添加するための組成物として提供される場合、組成物は、眼灌流液の機能および安全性を損なわない限り、いかなる成分を含有してもよい。
【0057】
眼灌流用の組成物は、眼灌流液として使用する際に、式(I)の化合物を有効な濃度で含有していればよい。式(I)の化合物の使用時の有効濃度は、例えば、0.1μM~10mM、1μM~1mM、2μM~200μM、5μM~100μMまたは10μM~100μMであり得る。
【0058】
ある態様では、眼手術を受けている対象の眼灌流を行う方法であって、有効量の式(I)の化合物を含む眼灌流液を用いることを含む方法が提供される。
ある態様では、眼手術を受けている対象において有効量の式(I)の化合物を含む眼灌流液を用いて眼灌流することを含む、対象の角膜の保護方法が提供される。
ある態様では、眼灌流において使用するための式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、眼灌流時に角膜を保護するための式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、眼灌流のための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、眼灌流時に角膜を保護するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、眼灌流用の組成物を製造するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、眼灌流時に角膜を保護するための組成物を製造するための式(I)の化合物の使用が提供される。
【0059】
(3)移植角膜保存用の組成物
角膜移植の際には、角膜提供者(ドナー)から提供された角膜(移植角膜)を、患者への移植手術時まで保存する必要がある。式(I)の化合物を角膜保存液に添加することにより、角膜を保護し、より良好な状態で保存し得る。
【0060】
移植角膜保存用の組成物は、固体、半固体または液体の剤形であり得、即時使用できる角膜保存液として提供されてもよく、他の角膜保存液に添加するための組成物として提供されてもよい。角膜保存液として提供される場合、組成物に含まれるその他の成分は、既存の角膜保存液と同等のものであり得、例えば、基本媒体、緩衝剤、コンドロイチン硫酸、デキストラン、ビタミン類、ATP前駆体、抗生物質等の成分を含有してもよい。既存の角膜保存液としては、例えば、M199培地、MEMα培地、MK培地、CSM培地、CSMD培地、DMEM/F-12培地、Optisol-GS(商品名)、K-Sol(商品名)、EP2(商品名)などが知られているが、これらに限定されない。他の角膜保存液に添加するための組成物として提供される場合、組成物は、角膜保存液の機能および安全性を損なわない限り、いかなる成分を含有してもよい。
【0061】
移植角膜保存用の組成物は、角膜保存液として使用する際に、式(I)の化合物を有効な濃度で含有していればよい。式(I)の化合物の使用時の有効濃度は、例えば、0.1μM~10mM、1μM~1mM、2μM~200μM、5μM~100μMまたは10μM~100μMであり得る。
【0062】
ある態様では、移植角膜の保存方法であって、有効量の式(I)の化合物を含む角膜保存液中で移植角膜を保存することを含む方法が提供される。
ある態様では、有効量の式(I)の化合物を含む角膜保存液中で移植角膜を保存することを含む、移植角膜の保護方法が提供される。
ある態様では、移植角膜を保存するための式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、移植角膜の保存時に角膜を保護するための式(I)の化合物が提供される。
ある態様では、移植角膜保存のための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、移植角膜保存時に角膜を保護するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、移植角膜保存用の組成物を製造するための式(I)の化合物の使用が提供される。
ある態様では、移植角膜保存時に角膜を保護するための組成物を製造するための式(I)の化合物の使用が提供される。
【0063】
例えば、下記の実施態様が提供される。
[1]式(I):
【化4】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
の化合物またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、角膜保護用の組成物。
[2]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第1項に記載の組成物。
[3]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第1項または第2項に記載の組成物。
[4]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第1項~第3項のいずれかに記載の組成物。
[5]Raが、それぞれ独立して、ヒドロキシ、アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第1項または第2項に記載の組成物。
[6]Raが3個存在し、1つがヒドロキシであり、1つがアルキルであり、1つがアルコキシである、第1項、第2項または第5項に記載の組成物。
[7]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第1項に記載の組成物。
[8]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第1項、第2項または第7項に記載の組成物。
[9]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第1項~第4項、第7項および第8項のいずれかに記載の組成物。
[10]4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第1項~第4項および第7項~第9項のいずれかに記載の組成物。
[11]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第1項、第2項および第5項~第8項のいずれかに記載の組成物。
[12]4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第1項、第2項、第5項~第8項および第11項のいずれかに記載の組成物。
【0064】
[13]角膜疾患の処置または予防用の、第1項~第12項のいずれかに記載の組成物。
[14]角膜疾患が角膜内皮疾患である、第13項に記載の組成物。
[15]角膜内皮疾患が、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、サイトメガロウイルス角膜内皮炎、単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎、落屑症候群、角膜内皮移植後拒絶反応、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、角膜内皮炎、角膜移植後角膜損傷、内眼手術後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷または水疱性角膜症である、第14項に記載の組成物。
[16]角膜内皮疾患が、フックス角膜ジストロフィーまたは水泡性角膜症である、第14項または第15項に記載の組成物。
[17]角膜疾患が角膜上皮疾患である、第13項に記載の組成物。
[18]角膜上皮疾患が、点状表層角膜炎、角膜びらん、角膜潰瘍、ドライアイ、乾性角結膜炎、周辺部角膜潰瘍または角膜外傷である、第17項に記載の組成物。
[19]角膜疾患が、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、サイトメガロウイルス角膜内皮炎、単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎、落屑症候群、角膜内皮移植後拒絶反応、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、角膜内皮炎、角膜移植後角膜損傷、内眼手術後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷、水疱性角膜症、点状表層角膜炎、角膜びらん、ドライアイ、乾性角結膜炎または周辺部角膜潰瘍である、第13項に記載の組成物。
[20]角膜疾患が、フックス角膜ジストロフィー、水泡性角膜症、角膜びらん、ドライアイまたは角膜外傷である、第13項または第19項に記載の組成物。
[21]点眼剤である、第1項~第20項のいずれかに記載の組成物。
[22]眼灌流液または眼灌流液に添加するための組成物である、第1項~第20項のいずれかに記載の組成物。
[23]移植用角膜の保存液または移植用角膜の保存液に添加するための組成物である、第1項~第20項のいずれかに記載の組成物。
【0065】
[24]式(I)の化合物:
【化5】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、角膜疾患の処置または予防用の医薬組成物。
[25]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第24項に記載の組成物。
[26]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第24項または第25項に記載の組成物。
[27]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第24項~第26項のいずれかに記載の組成物。
[28]Raが、それぞれ独立して、ヒドロキシ、アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第24項または第25項に記載の組成物。
[29]Raが3個存在し、1つがヒドロキシであり、1つがアルキルであり、1つがアルコキシである、第24項、第25項または第28項に記載の組成物。
[30]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第24項に記載の組成物。
[31]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第24項、第25項または第30項に記載の組成物。
[32]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第24項~第27項、第30項および第31項のいずれかに記載の組成物。
[33]4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第24項~第27項および第30項~第32項のいずれかに記載の組成物。
[34]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第24項、第25項および第28項~第31項のいずれかに記載の組成物。
[35]4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第24項、第25項、第28項~第31項および第34項のいずれかに記載の組成物。
【0066】
[36]角膜疾患が角膜内皮疾患である、第24項~第35項のいずれかに記載の組成物。
[37]角膜内皮疾患が、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、サイトメガロウイルス角膜内皮炎、単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎、落屑症候群、角膜内皮移植後拒絶反応、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、白内障手術後角膜損傷、角膜移植後角膜損傷、網膜手術後角膜損傷、硝子体手術後角膜損傷、緑内障手術後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷または水疱性角膜症である、第36項に記載の組成物。
[38]角膜内皮疾患が、フックス角膜ジストロフィーまたは水泡性角膜症である、第36項または第37項に記載の組成物。
[39]角膜疾患が角膜上皮疾患である、第24項~第35項のいずれかに記載の組成物。
[40]角膜上皮疾患が、角膜びらん、ドライアイまたは角膜外傷である、第39項に記載の組成物。
[41]角膜疾患が、滴状角膜、フックス角膜ジストロフィー、後部多形性角膜ジストロフィー、虹彩角膜内皮症候群、先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィー、サイトメガロウイルス角膜内皮炎、単純ヘルペスウイルス角膜内皮炎、落屑症候群、角膜内皮移植後拒絶反応、角膜ぶどう膜炎、角膜実質炎、白内障手術後角膜損傷、角膜移植後角膜損傷、網膜手術後角膜損傷、硝子体手術後角膜損傷、緑内障手術後角膜損傷、緑内障発作、コンタクトレンズ長期装着による角膜損傷、角膜外傷、分娩時角膜外傷、水疱性角膜症、角膜びらんまたはドライアイである、第24項~第35項のいずれかに記載の組成物。
[42]角膜疾患が、フックス角膜ジストロフィー、水泡性角膜症、角膜びらん、ドライアイまたは角膜外傷である、第24項~第35項および第41項のいずれかに記載の組成物。
[43]点眼剤である、第24項~第42項のいずれかに記載の組成物。
[44]眼灌流液または眼灌流液に添加するための組成物である、第24項~第42項のいずれかに記載の組成物。
[45]移植用角膜の保存液または移植用角膜の保存液に添加するための組成物である、第24項~第42項のいずれかに記載の組成物。
【0067】
[46]式(I)の化合物:
【化6】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、眼灌流用の組成物。
[47]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第46項に記載の組成物。
[48]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第46項または第47項に記載の組成物。
[49]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第46項~第48項のいずれかに記載の組成物。
[50]Raが、それぞれ独立して、ヒドロキシ、アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第46項または第47項に記載の組成物。
[51]Raが3個存在し、1つがヒドロキシであり、1つがアルキルであり、1つがアルコキシである、第46項、第47項または第50項に記載の組成物。
[52]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第46項に記載の組成物。
[53]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第46項、第47項または第52項に記載の組成物。
[54]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第46項~第49項、第52項および第53項のいずれかに記載の組成物。
[55]4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第46項~第49項、第52項~第54項のいずれかに記載の組成物。
[56]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第46項、第47項および第50項~第53項のいずれかに記載の組成物。
[57]4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第46項、第47項、第50項~第53項および第56項のいずれかに記載の組成物。
[58]眼灌流液である、第46項~第57項のいずれかに記載の組成物。
[59]眼灌流液に添加するための組成物である、第46項~第57項のいずれかに記載の組成物。
【0068】
[60]式(I)の化合物:
【化7】
〔式中、
Raはハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキル、アリール、ハロまたはアルキル置換アリール、アルコキシ、ヒドロキシまたはカルボキシ置換アルコキシ、アリールオキシ、ハロまたはアルキル置換アリールオキシ、CHO、C(O)-アルキル、C(O)-アリール、C(O)-アルキル-カルボキシル、C(O)-アルキレン-カルボキシエステルおよびシアノから成る群から選択され、
mは0~4から選択される整数である〕
またはそのエステル、オキシド、薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む、移植角膜保存用の組成物。
[61]Raが、それぞれ独立して、ハロ、ヒドロキシ、アルキル、ハロ置換アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第60項に記載の組成物。
[62]Raが、それぞれ独立して、ハロおよびアルキルから成る群から選択される、第60項または第61項に記載の組成物。
[63]Raが2個存在し、一方がハロであり、他方がアルキルである、第60項~第62項のいずれかに記載の組成物。
[64]Raが、それぞれ独立して、ヒドロキシ、アルキルおよびアルコキシから成る群から選択される、第60項または第61項に記載の組成物。
[65]Raが3個存在し、1つがヒドロキシであり、1つがアルキルであり、1つがアルコキシである、第60項、第61項または第64項に記載の組成物。
[66]式(I)の化合物が表1に記載の化合物から選択される、第60項に記載の組成物。
[67]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸、または、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第60項、第61項または第66項に記載の組成物。
[68]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第60項~第63項、第66項および第67項のいずれかに記載の組成物。
[69]4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第60項~第63項および第66項~第68項のいずれかに記載の組成物。
[70]式(I)の化合物が、4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸である、第60項、第61項および第64項~第67項のいずれかに記載の組成物。
[71]4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩を含む、第60項、第61項、第64項~第67項および第70項のいずれかに記載の組成物。
[72]移植用角膜の保存液である、第60項~第71項のいずれかに記載の組成物。
[73]移植用角膜の保存液に添加するための組成物である、第60項~第71項のいずれかに記載の組成物。
【0069】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
以下、実施例にて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されない。また、上記の説明は、すべて非限定的なものであり、本発明は添付の特許請求の範囲において定義され、その技術的思想を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【実施例】
【0070】
実施例において、以下の化合物を使用した。
KUS121:4-アミノ-3-[6-(4-フルオロ-2-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩
KUS187:4-アミノ-3-[6-(3-ホルミル-2-ブトキシ-5-メチルフェニル)ピリジン-3-イルアゾ]ナフタレン-1-スルホン酸ナトリウム塩
KUS121およびKUS187は、国際公開第2012/014994号に記載の方法により製造した。
【0071】
試験1:ウサギ培養角膜内皮細胞における効果
日本白色家兎の全眼球(フナコシ)より剪刀により輪部で切開し摘出した角膜から、クレセントナイフを用いて機械的に内皮細胞を掻把、採取し、10%ウシ胎児血清およびbFGF2ng/ml含有DMEM中で初代培養を行った。サブコンフルエントになった時点でトリプシンを用いて細胞を採取し、等量(4×104個/ウェル)を12ウェルプレートに継代し、上記培地で24時間培養した。その後、(1)コントロール(上記培地+DMSO)、(2)上記培地+KUS121(50μM)、(3)上記培地+アンチマイシン(20μM)、(4)上記培地+アンチマイシン(20μM)+KUS121(50μM)、(5)上記培地+オリゴマイシン(10μM)、(6)上記培地+オリゴマイシン(10μM)+KUS121(50μM)、(7)bFGF2ng/ml含有DMEM(無グルコース)、(8)bFGF2ng/ml含有DMEM(無グルコース)+KUS121(50μM)の8条件の培地に交換し、培養を継続した。
【0072】
(1)細胞形態の観察
薬剤添加後、位相差顕微鏡で経時的に培養角膜内皮細胞の写真撮影を行った。
図1は、薬剤添加の28時間後の細胞の位相差顕微鏡像である。アンチマイシンまたはオリゴマイシンで処理すると角膜内皮細胞の細胞死が惹起されたが、KUS121(50μM)の存在下では細胞死が抑制された。
図2は、無グルコース下で培養した、薬剤添加の96時間後の細胞の位相差顕微鏡像である。無グルコース下で培養すると、角膜内皮細胞の細胞死が惹起されたが、KUS121(50μM)の存在下では細胞死が抑制された。
【0073】
(2)細胞内ATP濃度の測定
薬剤添加後の培養角膜内皮細胞(P=1)の培地を除去し、PBS(-)で洗浄し、トリプシン処理により上記培地(10%ウシ胎児血清およびbFGF2ng/ml含有DMEM)で懸濁し、細胞数を計測した。一定数(2.5×104個)の細胞を遠心し、PBS(-)で懸濁し、96ウェルプレートに5×103個ずつ5ウェルにわけて分注した。ルシフェラーゼ発光法(「細胞の」ATP測定試薬、東洋ビーネット)により反応させ、ルミノメーターを用いて蛍光強度を測定し、細胞内ATP濃度の相対値とした。
【0074】
図3は、細胞内ATP濃度の測定結果を示す。アンチマイシンまたはオリゴマイシンで27時間処理した細胞および無グルコース下で96時間培養した細胞では細胞内ATP濃度が低下したが、KUS121の存在下では、細胞内ATP濃度の低下が抑制された。
【0075】
試験2:ヒト正常ドナー角膜由来角膜内皮細胞における効果
シアトルアイバンクから輸入した研究用角膜から角膜内皮細胞を基底膜であるデスメ膜とともに剥離し、角膜保存液であるOptisol-GS(ボシュロム社)に浸漬した。その後、コラゲナーゼ処理を行い酵素的に角膜内皮細胞を回収して培養した。用いた培地は、OptiMEM(Gibco, 31985070)に10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加し、3T3細胞で24時間馴化した後に、10μMのSB203580(Funakoshi, 13067)および1μMのSB431542(Wako, 192-16541)を添加したものである。
【0076】
以下の手順により、角膜内皮細胞を不死化した。SV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子をPCRにより増幅して、レンチウイルスベクター(pLenti6.3_V5-TOPO; Life Technologies Inc.)に導入した。その後、レンチウイルスベクターを3種類のヘルパープラスミド(pLP1, pLP2, pLP/VSVG; Life Technologies Inc.)とともにトランスフェクション試薬(Fugene HD; Promega Corp., Madison, WI)を用いて293T細胞(RCB2202; Riken Bioresource Center, Ibaraki, Japan)に感染させた。48時間の感染後にウイルスを含む培養上清を回収して、5μg/mlのポリブレンを用いて、上記の培養した角膜内皮細胞の培養液に添加して、SV40ラージT抗原およびhTERT遺伝子を導入した。かくして得られた正常角膜内皮細胞の不死化細胞株(iHCEC)の位相差顕微鏡像を確認したところ、正常角膜内皮細胞と同様に、一層の多角形の形態を有した。iHCECはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)+10%ウシ胎仔血清(FBS)により維持培養を行った。
【0077】
不死化ヒト角膜内皮細胞を培養中の培養皿から培地を除去し、事前に37℃に温めておいた1×PBS(-)を添加し、洗浄を行った。この作業を2回繰り返した。再び1×PBS(-)を添加し、37℃(5%CO2)で3分間インキュベートした。PBS(-)除去後、0.05% Trypsin-EDTA(ナカライテスク、322778-34)を添加し、37℃(5%CO2)で5分間インキュベートした。その後、培地で懸濁し、1500rpmで3分間遠心することで細胞を回収した。
培地:DMEM(ナカライテスク、08456-36)+10%FBS(Biowest, S1820-500)+1%P/S(ナカライテスク、26252-94)
【0078】
12ウェルプレートに不死化ヒト角膜内皮細胞(ロット:iHCEC1-1)を1ウェル当たり7×104個の割合で播種し、37℃(5%CO2)で24時間培養した。
培地:DMEM+10%FBS+1%P/S
24時間後、培地を除去し、KUS121(10μM、25μM、50μM、100μM)を含む培地を添加し、24時間培養した。
培地:DMEM+2%FBS+1%P/S
24時間後、培地を除去し、10μMのタプシガルジン(和光、209-17281)およびKUS121(10μM、25μM、50μM、100μM)を含む培地を添加し、8時間培養を行った。
培地:DMEM+2%FBS+1%P/S
【0079】
タプシガルジン添加の8時間後に、位相差顕微鏡下で細胞形態およびアポトーシスを観察した。
図4に結果を示す。KUS121非存在下で不死化ヒト角膜内皮細胞をタプシガルジンにより刺激すると(TG)、細胞障害を示す細胞の変形が観察された。KUS121添加群においては、変形は抑制された。KUS121はタプシガルジンにより誘導される細胞障害を抑制することが示唆される。
【0080】
上記の観察後、以下の手順でタンパク質のウェスタンブロットを行った。
氷上で培地を回収し、細胞を1×PBS(-)で2回洗浄し、洗浄溶液を回収した。浮遊細胞および死細胞を回収するために、回収した培地および洗浄溶液を、4℃、800g、12分間遠心し、上清を捨て、沈殿物を得た。洗浄した細胞に、氷上でタンパク質抽出用緩衝液(RIPA;50mM Tris-HCl(pH7.4)、150mM NaCl、1mM EDTA、0.1%SDS、0.5%DOC、1%NP-40)を加えた。その後、上記の浮遊細胞および死細胞の沈殿物も加え、一緒に懸濁した。回収した液を超音波装置(BIORUPTOR, TOSHO DENKI製)にて冷水中で30秒間、3回粉砕後に、4℃、15000rpm、10分間遠心し、タンパク質の上清を回収した。
【0081】
上記抽出したタンパク質7μgをSDS-PAGEにて分離し、ニトロセルロース膜に転写した。1次抗体は、ウサギ抗カスパーゼ3抗体(Cell Signaling, 9662)、ウサギ抗PARP抗体(Cell Signaling, 9542)、マウス抗GAPDH抗体(MBL社, M171-3)を用いた。2次抗体はペルオキシダーゼで標識した抗ウサギ抗体、抗マウス抗体(GE Healthcare Biosciences, NA931V, NA934V)を用いた。1次抗体はウサギ抗カスパーゼ3抗体:1000倍希釈、ウサギ抗PARP抗体:1000倍希釈、マウス抗GAPDH抗体:3000倍希釈し、2次抗体は5000倍希釈した。検出には Chemi Lumi ONE Ultra(ナカライテスク、11644-40)を使用した。検出したバンドの強度は、ルミノ・イメージアナライザーLAS-4000mini(富士フィルム社)および ImageQuantTM software(GE Healthcare社)により解析した。
【0082】
図5に結果を示す。不死化ヒト角膜内皮細胞にKUS121非存在下で、タプシガルジンにより刺激した場合、活性型である約17kDaの切断カスパーゼ3(約17kDa)が認められた。他方で、KUS121添加群においては、活性型の切断カスパーゼ3はほとんど確認されなかった。従って、ウェスタンブロットによる解析より、KUS121はタプシガルジンにより誘導されるカスパーゼの活性化を抑制することが認められた。KUS121はタプシガルジンにより誘導されるERストレスによる細胞障害を抑制することが示唆される。
【0083】
試験3:ウサギ角膜における効果
日本白色家兎を安楽死させ、全眼球を摘出し、剪刀を用いて強角膜片を作成した。保存液として(1)Optisol-GS(コントロール)、(2)Optisol-GS+KUS121(50μM)または(3)Optisol-GS+KUS187(20μM)を用いて、各条件につき強角膜片4眼を、4℃で4週間保存した。経時的に組織を包埋、薄切した。
【0084】
(1)組織所見および角膜中央部の角膜厚の評価
組織切片をHE染色し、顕微鏡にて観察し経時的変化を比較した(
図6)。また、角膜中央部を通る切片を顕微鏡下で撮影し、角膜中央部の角膜厚を計測し経時的変化を比較した(
図7)。Optisol-GS中で保存した角膜(コントロール)では、1週で角膜内皮細胞が膨化し、3週以降、角膜実質が膨化したが、KUS121またはKUS187添加群では、細胞膨化が2週まで抑制され、角膜実質膨化は4週まで軽度にとどまった。KUS121またはKUS187群では、コントロール群に比べて、特に3週以降で角膜上皮、角膜厚の変化が少なかった。KUS121およびKUS187には、角膜上皮細胞および角膜内皮細胞の保護効果があることが示唆される。
【0085】
(2)TUNEL法による角膜上皮細胞アポトーシスの評価
組織切片をTUNEL法にて蛍光染色し、共焦点顕微鏡で観察、角膜中央部付近上皮層3視野を撮影した(
図8)。
図9は同視野のヨウ化プロピジウム(PI)染色像を示す。PIにて染色された全角膜上皮細胞およびTUNEL染色陽性細胞を計数し、TUNEL染色陽性細胞率を算出し、経時的変化を比較した(
図10)。コントロールでは1週以降、角膜上皮細胞においてTUNEL陽性のアポトーシス細胞が増加したが、KUS121またはKUS187添加群ではアポトーシスは抑制された。KUS121またはKUS187群では、コントロール群に比べて、全期間を通して角膜上皮細胞のTUNEL染色が少なかった。KUS121およびKUS187には、角膜上皮細胞のアポトーシス抑制効果があることが示唆される。
【0086】
(3)Na+/K+ATPase免疫蛍光染色による角膜内皮機能の評価
組織切片を、抗Na+/K+ATPase抗体を用いて間接蛍光法にて免疫蛍光染色し、中央部付近の角膜内皮を観察し、経時的変化を比較した(
図11)。
図12は同視野のPI染色像を示す。KUS121または187群では、コントロール群に比べて1週から角膜内皮細胞の変化が少なかった。KUS121およびKUS187には、早期から角膜内皮細胞の保護効果があることが示唆される。
【0087】
(4)電子顕微鏡による観察
1週間にわたり保存した角膜を、前固定として2%グルタールアルデヒド(0.1Mリン酸緩衝液)4℃に浸漬した。洗浄として、4℃、一晩0.1Mリン酸緩衝液に浸漬した。後固定として、4℃、3時間、2%オスミウム水溶液に浸漬した。脱水として、4℃(50%のみ)、室温、各15分間、順次高濃度エタノールに液換した(50、70、90、100、100、100%)。置換として、室温、45分間、プロピレンオキサイドに液換し、その後、室温、1.5時間プロピレンオキサイド+エポキシ樹脂の混合液に液換した。包埋目的に、60℃、48時間、カプセル内に試料とともにエポキシ樹脂を入れ硬化させた。その後、ウルトラミクロトームにて80-90nm切片を作製し、200メッシュに積載した。2%酢酸ウラニル、鉛染色液にて切片を染色し、カーボン蒸着(電子線に対する切片の補強)で補強した。サンプルを透過型電子顕微鏡で観察し、写真撮影した(
図13)。
【0088】
コントロールでは角膜上皮細胞の空胞化および微絨毛の消失が見られたが、KUS121を添加して保存した角膜では、空胞化は見られず、微絨毛が観察された。また、コントロールでは角膜実質および角膜内皮細胞の膨潤化が見られたが、KUS121を添加して保存した角膜では見られなかった。これらの結果は、KUS121は早期から角膜上皮細胞、角膜実質および角膜内皮細胞の保護効果を発揮することを示唆する。
【0089】
試験1~3の結果から、KUS121およびKUS187には、角膜内皮細胞および角膜上皮細胞の保護作用、細胞死抑制作用があり、細胞死抑制された角膜内皮細胞は、正常なポンプ機能を持ち、角膜の浮腫を抑制することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本願の組成物は、眼科領域で幅広く用いられることが期待される。