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特許7165366IgG結合ペプチドによる部位特異的RI標識抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】IgG結合ペプチドによる部位特異的RI標識抗体
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/08 20060101AFI20221027BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20221027BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20221027BHJP
   A61K 51/08 20060101ALN20221027BHJP
   A61K 51/10 20060101ALN20221027BHJP
   G01N 33/534 20060101ALN20221027BHJP
   G01N 33/574 20060101ALN20221027BHJP
   C07K 7/00 20060101ALN20221027BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20221027BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C12P21/00 C
C12N15/13
A61K51/08 200
A61K51/10 200
G01N33/534
G01N33/574 A
C07K7/00
C07K19/00
C07K16/00
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2021160840
(22)【出願日】2021-09-30
(62)【分割の表示】P 2018523879の分割
【原出願日】2017-06-12
(65)【公開番号】P2022008678
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2021-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2016117395
(32)【優先日】2016-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2016227025
(32)【優先日】2016-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的バイオ医薬品創出基盤技術開発事業「ヒトIgG特異的修飾技術による多様な機能性抗体医薬の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 祐二
(72)【発明者】
【氏名】正山 祥生
(72)【発明者】
【氏名】林 明希男
(72)【発明者】
【氏名】中田 徳仁
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/027796(WO,A1)
【文献】特開昭63-159327(JP,A)
【文献】特表2005-532343(JP,A)
【文献】特表2002-518460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレート剤を介して放射性金属核種が結合しているペプチドとIgGの複合体を生産する方法であって、
前記キレート剤に放射性金属核種を結合させることを含み、
前記ペプチドが、下記の式II:
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、かつ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、並びに、
前記複合体が、前記ペプチドのXaa1を修飾する架橋剤を介して、前記ペプチドとIgGの架橋反応によって形成されている、
前記複合体を生産する方法。
【請求項2】
前記キレート剤に放射性金属核種を結合させる前に、Xaa1が架橋剤で修飾されている前記ペプチドと、IgGとを混合して前記架橋反応を実行することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記架橋反応を行った後に、未反応のIgGを分離することを含み、その後、前記キレート剤に放射性金属核種を結合させることを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記架橋反応を行った後に、前記ペプチドが1個導入されたIgGと、前記ペプチドが2個導入されたIgGとを分離することを含み、その後、前記キレート剤に放射性金属核種を結合させることを含む、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記架橋反応を行う前に、前記ペプチドのXaa1を架橋剤で修飾することを含む、請求項2~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記架橋剤がDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)又はDSS(ジスクシンイミジルスベレート)である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記ペプチドのN末端に前記キレート剤を連結させることを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記キレート剤が、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、デフェロキサミン、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、ジピリドキシルジホスフェート(DPDP)、TPPS4、エチレンビスヒドロキシフェニルグリシン(EHPG)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジメチルホスフィノメタン(DMPE)、メチレン二リン酸及びジメルカプトコハク酸(DMPA)からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
Xaa3がアラニン残基であり、Xaa4がチロシン残基である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ペプチドは、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1~3、15~17番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基=S、G、F、R又は、なし
2番目のアミノ酸残基=D、G、A、S、P、ホモシステイン又は、なし
3番目のアミノ酸残基=S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基=S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基=H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は、なし、
17番目のアミノ酸残基=Y、F、H、M又は、なし
である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記ペプチドは、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1~3、15~17番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基=なし
2番目のアミノ酸残基=なし
3番目のアミノ酸残基=D
15番目のアミノ酸残基=T
16番目のアミノ酸残基=なし、
17番目のアミノ酸残基=なし
である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ペプチドが、以下の1)~14)のいずれかのアミノ酸配列からなる、ただし、Xaa1はリシン残基、システイン残基又はジアミノプロピオン酸であり、
以下の14)においてXaa2はホモシステインである、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
1) DCAYH(Xaa1)GELVWCT (配列番号1)
2) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH (配列番号2)
3) RCAYH(Xaa1)GELVWCS (配列番号3)
4) GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH (配列番号4)
5) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH (配列番号5)
6) GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH (配列番号6)
7) GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH (配列番号7)
8) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH (配列番号8)
9) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH (配列番号9)
10) GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY (配列番号10)
11) SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY (配列番号11)
12) SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY (配列番号12)
13) RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH (配列番号13)
14) G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H (配列番号36)
【請求項13】
ペプチドが外側の2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成しているか、又はペプチドの外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化1】

で表されるリンカーにより連結されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ペプチドのN末端がPEG化及び/又はC末端がアミド化されている、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ペプチドのN末端が、1~50分子のポリエチレングリコール(PEG)によってPEG化されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ペプチドと前記放射性金属核種の連結をアジド基とdibenzocyclooctyneとの反応により行うことを含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
Xaa1がリシン残基である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、GPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号37、分子内の2つのCys(C)はSS結合を形成している。)のアミノ酸配列からなる、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記IgGがトラスツズマブまたはセツキシマブである、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性金属核種と結合し得るリガンドを含むIgG結合ペプチド、放射性金属核種で標識されたIgG結合ペプチド、該IgG結合ペプチドとIgGとの複合体、及び該IgG結合ペプチド又は複合体を含む、核医学画像診断剤又は癌の診断剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、従来から種々の研究・開発において、標的分子の検出に多く利用されており、検出試薬や診断薬として産業面でも、極めて重要なものとなっている。また、抗体は、その標的分子に対する特異性から、疾患の治療のための医薬品としても注目されている。
【0003】
抗体の機能付加のために、ヨウ素化やキレート化合物の付加(非特許文献1)等を介して放射性同位体による標識が行われている。これらの修飾は、これまで主に抗体に含まれるリシンのアミノ基やシステインのチオール基、及び活性化されたカルボキシル基等を介して行われており、これらは官能基について特異的だが、部位特異的ではないため、抗体の抗原結合部位への修飾等により抗体の活性を低下させるといった問題や、結合する化合物の数をコントロールすることが難しい等の問題があった。
【0004】
このような問題を克服するため、特定の官能基を部位特異的に導入した抗体を使って、抗体を修飾することが行われている。例えば、非天然アミノ酸(非特許文献2~4)やフリーのシステイン(非特許文献5~6)を、特定の部位に遺伝子工学的改変により導入することで、特定の部位での修飾が可能になった。このように部位特異的な抗体修飾技術は開発されつつあるが、多くの場合、抗体そのものを抗体工学的に改変する必要があり、その改変に伴う抗体の機能低下や開発のコスト高を考えると必ずしも有利な方法とはいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Rodwell, J. D. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 1986, 83, pp.2632-2636
【文献】Axup, J. Y. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2012, 109, pp. 16101-16106
【文献】Tian, F. et al., Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 2014, 111, pp. 1766-1771
【文献】Zimmerman, E. S. et al., Bioconjugate chemistry, 2014, 25, pp. 351-361
【文献】Shen, B. Q. et al., Nature biotechnology, 2012, 30, pp. 184-189
【文献】Bernardes, G. J. et al., Nature protocols, 2013, 8, pp. 2079-2089
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、特異的かつ簡便に抗体を修飾することができる方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らは、IgG結合ペプチドとIgG Fcとの複合体のX線結晶構造解析に基づいて、結合状態におけるIgG結合ペプチドの各アミノ酸の位置とIgG Fcの各アミノ酸との位置関係を詳細に検討した。さらに、架橋剤と結合可能なアミノ酸をペプチドに導入し、該アミノ酸を架橋剤により修飾することによって、架橋剤により部位特異的に修飾されたIgG結合ペプチドを調製し、これを用いて、IgGを修飾できることを見出した。また、本発明者は、放射性金属核種で標識されたIgG結合ペプチドとIgGの複合体を、癌の診断剤として用い得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
したがって、本発明は以下の実施形態を包含する。
(1)下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種と結合し得るリガンドを含む、ペプチド。
(2)下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種で標識された、ペプチド。
(3)下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、グルタミン残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、かつ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種がリガンドを介して結合している、ペプチド。
(4)ペプチドとIgGとの複合体であって、Xaa1が架橋剤で修飾されている、上記に記載のペプチドとIgGの架橋反応によって形成される、前記複合体。
(5)放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)又は(3)に記載のペプチド又は(4)に記載の複合体を含む、核医学画像診断剤又は癌の診断剤。
(6)被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
被験体から得られたサンプルに、放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)又は(3)に記載のペプチド又は(4)に記載の複合体を反応させる工程、
サンプル中の放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法。
(7)被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)又は(3)に記載のペプチド又は(4)に記載の複合体を、被験体に投与する工程、
被験体において、放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2016-117395号、2016-227025号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のIgG結合ペプチドは放射性金属核種を容易に結合させることができるので、本発明のIgG結合ペプチドを用いることによって放射性金属核種によってIgGを特異的かつ簡便に標識することができる。また、本発明のIgG結合ペプチドは、抗体分子の配列を改変する必要が無いことから、抗体分子の遺伝子改変に伴う機能低下を招くことがない。さらに、従来必要となっていた放射性金属核種でIgGを直接標識する反応を必要とせず、また、当該反応による抗体の機能低下を招くことがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(A)は、IgG結合ペプチド(C35A-3/15:DCAYHRGELVWCT(配列番号33))とヒトIgG Fcとの複合体の構造を示す。IgG結合ペプチドはスペースフィリングモデルで、IgG Fcはリボンモデルで、Fcの糖鎖をワイヤーモデルで示す。図1(B)は、DSGによって修飾したIgG結合ペプチド(C35A-3/15(R8K):DCAYHKGELVWCT(配列番号34))とIgG Fcとの架橋構造のモデルを示す。ペプチドの主鎖はリボンモデルで示す。peptide-Lys8は、C35A-3/15(R8K)の6番目のリシン残基を、peptide-Tyr6-Gly9は、C35A-3/15(R8K)の4番目のチロシン残基から7番目のグリシン残基を示す。また、Fc-Lys248は、EU numberingに従うFcのLys248を、Fc-Pro247-Asp249は、EU numberingに従うFcのPro247からAsp249を示す。
図2図2は、標識化IgG結合ペプチドと各種タンパク質の混合物のSDS-PAGE(A)及びウエスタンブロット(B)の結果を示す。図中、DSGは、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)と反応させたIgG結合ペプチドを、DSSは、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)と反応させたIgG結合ペプチドを供試したことを示す。また、図中、hIgGはヒトIgGを、hIgAはヒトIgAを、HSAはヒト血清アルブミンをそれぞれ示す。
図3図3は、標識化IgG結合ペプチドとIgGの反応における、反応モル比(A)及び反応時間(B)のELISAによる検討結果を示す。DSS R8K 0 minは、IgGの10倍モル比の標識化IgG結合ペプチドにTris-HCl(pH7.0)を加えNHS基をブロッキング後、ウェルに加えたものである。No DSS R8Kは、DSSを結合させていないビオチン化IgG結合(R8K)ペプチドを使用したものであり、no pepは、ペプチドを加えていないコントロールを示す。
図4図4は、標識化IgG結合ペプチドの各タンパク質(hIgA、hIgG、BSA(ウシ血清アルブミン))への反応性を、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて測定した結果を示す。(A)は、DSSにより修飾したIgG結合ペプチドの反応性を、(B)は、DSGにより修飾したIgG結合ペプチドの反応性を測定した結果を示す。
図5図5(A)は、ヒトIgGのFc溶液と、DMF中に溶解したDSG修飾したIgG結合ペプチドを、ヒトIgGに対しモル比で0.5、1.0、2.0、又は5.0加え、撹拌後、室温で反応させた後の、液体クロマトグラフィーの結果を示す。図5(B)は、ヒトIgGとDSG修飾したIgG結合ペプチドを各モル比で反応させた場合の、未反応(ピーク2)、1個のペプチドの付加物(ピーク3)、及び2個のペプチドの付加物(ピーク4)の生成量の変化を示したものである。
図6図6は、pH4.0(A)、pH5.5(B)、又はpH7.0(C)にて調製したヒトIgGのFc溶液に対し、DMF中に溶解したDSG修飾したIgG結合ペプチドを、モル比で1.0加え、撹拌後、室温で反応させ、反応の1、5、10、又は30分後の、未反応(ピーク2)、1個のペプチドの付加物(ピーク3)、及び2個のペプチドの付加物(ピーク4)の生成量の変化を示したものである。
図7図7は、[111In]標識Trastuzumab-1の投与6時間後の腫瘍部位を含むSPECT/CT画像(A)及びCT画像(B)、並びに[111In]標識Trastuzumab-2の投与4時間後の腫瘍部位を含むSPECT/CT画像(C)を示す。
図8図8は、[111In]標識Trastuzumab-1の投与24時間後(A)及び48時間後(B)の腫瘍部位を含むSPECT/CT画像、並びに[111In]標識Trastuzumab-2の投与24時間後(C)及び48時間後(D)の腫瘍部位を含むSPECT/CT画像を示す。
図9図9は、[111In]標識Trastuzumab-1の投与6時間後(A)、及び[111In]標識Trastuzumab-2の投与4時間後(B)の、肝臓を含むSPECT/CT画像を示す。
図10図10は、実施例9で調製したジクロロプロパノンによるSS架橋構造を持つIgG結合ペプチドの合成スキームを示す。
図11図11は、[89Zr]標識Trastuzumab-1又は2の投与6時間後、24時間後、及び48時間の腫瘍部位を含むPET画像を示す。実線矢印は、HER2高発現腫瘍組織を、破線矢印は、HER2低発現腫瘍組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<IgG結合ペプチド>
一態様において、本発明は、放射性金属核種と結合し得るリガンドを含むIgG結合ペプチドに関する。IgG結合ペプチド中におけるリガンドの位置は特に限定しないが、例えばIgG結合ペプチドのN末端又はC末端、好ましくはN末端に連結させることができる。リガンドをペプチドに連結させる方法は当業者には周知である。例えば、リガンドをIgG結合ぺプチドのN末端に連結させる場合には、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(NHS)、イソチオシアノ基(ITC)、スルホン酸クロリド、カルボン酸クロリド、エチレンオキシド、アルキルクロリド、アルデヒド基、及びカルボン酸無水物等の反応基をリガンドに付加し、これをIgG結合ペプチドのN末端のアミノ基と反応させればよい。あるいは、このようなリガンドを含むIgG結合ペプチドを、周知の合成法等により直接合成してもよい。
【0012】
本発明のIgG結合ぺプチドに含まれ得る放射性金属核種と結合し得るリガンドとしては、キレート剤、例えばジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、デフェロキサミン、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン二酢酸、トリエチレンテトラミン六酢酸(TTHA)、1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-四酢酸(TETA)、ジピリドキシルジホスフェート(DPDP)、TPPS4、エチレンビスヒドロキシフェニルグリシン(EHPG)、ヘキサメチレンジアミン四酢酸、ジメチルホスフィノメタン(DMPE)、メチレン二リン酸、ジメルカプトコハク酸(DMPA)、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
一実施形態において、IgG結合ペプチドには放射性金属核種が結合している。放射性金属核種の例として、111In(インジウム)、89Zr(ジルコニウム)、67/68Ga(ガリウム)、99mTc(テクネチウム)、64Cu(銅)、好ましくは111In、及び89Zrが挙げられる。IgG結合ペプチドに結合させる放射性金属核種は、IgG結合ペプチド、及び後述するIgG結合ペプチドとIgGの複合体の用途に応じて選択することができる。例えば、癌の検出・診断には111In、89Zr、64Cu、67/68Ga、及び99mTcを用いることができ、例えばPET(Positron Emission Tomography)には89Zr及び64Cuを、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)には111In及び99mTcを用いることができる。
【0014】
放射性金属核種は、IgG結合ペプチドに直接結合していてもよいが、好ましくは、前記キレート剤等のリガンドを介してIgG結合ペプチドに結合している。放射性金属核種とリガンドの好ましい組み合わせは、当業者であれば適宜選択することができ(例えば、桜井弘及び横山陽編集、放射薬品学概論を参照されたい)、その例として、111InとDTPA;89Zrとデフェロキサミン;64CuとDOTAはNOTA;99mTcとジメチルホスフィノメタン(DMPE)、DTPA、メチレン二リン酸、ジメルカプトコハク酸(DMPA)、ジチオセミカルバゾン、又はジアミノエタンジオール;67/68Gaとデフェロキサミン又はDTPA誘導体等、好ましくは111InとDTPA;89Zrとデフェロキサミン;及び64CuとDOTAはNOTA、さらに好ましくは111InとDTPA;及び89Zrとデフェロキサミン、より好ましくは111InとDTPAが挙げられる。
【0015】
本発明のIgG結合ペプチドについて、以下に詳細に説明する。
本明細書中で使用する「IgG」は、哺乳動物、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット、マウス、及びウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物のIgG、好ましくはヒトのIgG(IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4)を指すものとする。本明細書におけるIgGは、さらに好ましくは、ヒトIgG1、IgG2、若しくはIgG4、又はウサギIgGであり、特に好ましくはヒトIgG1、IgG2、又はIgG4である。
【0016】
一態様において、本発明のIgG結合ペプチドは、下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能である。
【0017】
上記式で、N末端又はC末端のX1-3という表記は、システイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが1~3個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは3個すべてが同じ残基でない配列からなる。同様に、X2もシステイン(C又はCys)以外の独立的に任意のアミノ酸残基Xが2個連続していることを意味し、それを構成するアミノ酸残基は同じか又は異なる残基であるが、好ましくは当該2個連続しているアミノ酸残基は同じ残基でない配列からなる。
【0018】
式Iの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Iのペプチドにおいて、(Xaa1がシステイン残基である場合、Xaa1ではない)外側の2つのシステイン残基はジスルフィド結合している。或いは、式Iのペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基は、以下の式:
【化1】
で表されるリンカーにより連結されていてもよい。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。したがって、当該リンカーは、例えばジルコニウム等のジスルフィド結合を不安定化させ得る放射性金属核種を用いる際に好ましく用いられる。
【0019】
このペプチドは、例えば以下の方法:
システイン残基を2つ以上、好ましくは2つ含むペプチドと、以下の式:
【化2】
で表される化合物(式中、R1及びR2は、各々独立的に任意のハロゲン原子である)を混合し、2つ以上、好ましくは2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化3】
で表されるリンカーにより連結されたペプチドを得る工程を含む方法により得ることができる。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。
【0020】
前記化合物において、R1及びR2は、好ましくはF、Cl、Br、及びI、さらに好ましくはCl、Br、及びIからなる群から選択される。R1及びR2は好ましくは同一であり、さらに好ましくは、R1及びR2はいずれもClである。
【0021】
本方法における混合工程の条件は、ペプチドのシステイン残基間で連結反応が生じる条件であれば特に限定しない。例えば、ペプチドと前記化合物を、適当なバッファー、例えば塩化グアニジウムを含む緩衝液中において、室温(例えば約15℃~30℃)で混合することにより反応を行うことができる。該混合工程は、必要に応じて連結反応を促進する触媒を適量加えて行ってもよい。
【0022】
本方法の混合工程におけるペプチドと化合物の混合比率は、特に限定しない。ペプチドと化合物のモル比率は、例えば1:0.2~1:10、好ましくは1:0.5~1:5又は1:1~1:2とすることができる。
【0023】
該混合工程における混合時間(反応時間)は、ペプチドのシステイン残基間で連結反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1分~5時間、好ましくは10分~2時間又は15分~1時間とすることができる。
【0024】
本方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のペプチド及び化合物等を分離し、システイン残基が連結されたペプチドを精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0025】
式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式I'及び式I''で表されるペプチドを以下に示す。
【0026】
すなわち、式I'で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(X1)-Y-H-(Xaa1)-G-N-L-V-W-C-(X1-3) (I')
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Nはアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0027】
式I''で表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-(X1)-H-(Xaa1)-G-E-L-V-W-C-(X1-3) (I'')
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Eはグルタミン酸残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0028】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIで表されるペプチドを以下に示す。
【0029】
すなわち、式IIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、かつ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0030】
上記の式I'、式I''及び式IIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなる。
【0031】
本明細書で使用する「17アミノ酸残基とした場合の」とは、ペプチドのアミノ酸残基をアミノ酸番号で呼ぶときに、式Iのペプチドについて最長のアミノ酸長である17残基のN末端から順番に1番目から17番目まで番号づけするために便宜的に表現した用語である。
【0032】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IIIで表されるペプチドを以下に示す。
【0033】
すなわち、式IIIで表されるペプチドは、
(X1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、又はグルタミン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0034】
上記の式IIIのペプチドのアミノ酸配列において、17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1番目及び2番目、並びに16番目及び17番目のアミノ酸残基Xは欠失していてもよく、そのようなペプチドは13アミノ酸長からなってよい。
【0035】
さらに、上記の各式のペプチドのアミノ酸配列のシステイン(C)以外のアミノ酸残基、すなわち、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~3、5、6、15~17番目の各アミノ酸残基は、以下のものから選択されることが好ましい。ここで、各大文字のアルファベットは、アミノ酸の一文字表記である:
1番目のアミノ酸残基= S、G、F、R又は、なし
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン又は、なし
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン又は、なし、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、なし。
5番目のアミノ酸残基= A又はT、
6番目のアミノ酸残基= Y又はW。
【0036】
また、式Iのペプチドのアミノ酸配列においてアミノ酸残基Xをさらに特定した式IVで表されるペプチドを以下に示す。
【0037】
すなわち、式IVで表されるペプチドは、
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、かつ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0038】
式Iのペプチドの具体例のいくつかを以下の1)~18)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
3)RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)、
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)、
5)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)、
6)GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)、
7)GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)、
8)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)、
9)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)、
10)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)、
11)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)、
12)SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)
15)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号14)、
16)DCAYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号15)、
17)DCTYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号16)、及び
18)DCAWH(Xaa1)GELVWCT(配列番号17)、
(式中、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、Xaa2はホモシステインであり、好ましくはホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している)。
【0039】
式Iのペプチドの好ましい具体例として、
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)、
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)、
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)、及び
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)が挙げられ、
特に好ましい例として、2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)が挙げられる(式中、Xaa1はリシン残基であり、Xaa2はホモシステインであり、好ましくはシステイン同士及び/又はホモシステイン同士は互いにジスルフィド結合を形成している)。
【0040】
また、一態様において、本発明のIgG結合ペプチドは、広義の一次構造として、下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、グルタミン残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、かつ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む。
【0041】
式Vの2つのシステイン残基はジスルフィド結合して環状ペプチドを形成することができる。通常、式Vのペプチドの(Xaa1がシステイン残基である場合、Xaa1ではない)外側の2つのシステイン残基は、ジスルフィド結合している。或いは、式Vのペプチドにおいて、外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基は、以下の式:
【化4】
で表されるリンカーにより連結されていてもよい。上記式中の破線部分は、スルフィド基との結合部分を意味する。当該リンカーは、通常のジスルフィド結合よりも、還元反応等に対して安定である。したがって、当該リンカーは、例えばジルコニウム等のジスルフィド結合を不安定化させ得る放射性金属核種を用いる際に好ましく用いられる。このペプチドは、本明細書に記載の方法により、調製することができる。
【0042】
式Vのペプチドの具体例のいくつかを以下の18)~29)に列挙するが、これらに制限されないことはいうまでもない:
18)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号18)、
19)DCAYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号19)、
20)DCSYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号20)、
21)DCTWT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号21)、
22)DCTYH(Xaa1)GNLVWCT(配列番号22)、
23)DCTYR(Xaa1)GNLVWCT(配列番号23)、
24)DCTYS(Xaa1)GNLVWCT(配列番号24)、
25)DCTYT(Xaa1)GNLVWCT(配列番号25)、
26)DCTYT(Xaa1)GELVWCT(配列番号26)、
27)DCTYT(Xaa1)GRLVWCT(配列番号27)、
28)DCTYT(Xaa1)GDLVWCT(配列番号28)、及び
29)DCTYT(Xaa1)GNLIWCT(配列番号29)、
(式中、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である)。
【0043】
前述の通り、本発明に関わる上記式のペプチドは、各アミノ酸配列の中に離間した少なくとも2つのシステイン(C)残基を有し、該システイン残基間でジスルフィド結合を形成しうるようにシステイン残基が配置されていることを特徴としており、好ましいペプチドは、2つのシステイン残基がジスルフィド結合して環状ペプチドを形成し、各システイン残基のN末端側及びC末端側には1又は2個のシステイン以外の任意のアミノ酸残基を有していても良い。各システイン残基のN末端側及びC末端側には1又は2個のアミノ酸残基を有する場合において、17アミノ酸残基とした場合のN末端から1~2、16~17番目の各アミノ酸残基は、上記例示のものである。
【0044】
上記の通り、本発明のペプチドにおいて、Xaa1は、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、及びグルタミン酸残基等のタンパク質構成アミノ酸、並びにジアミノプロピオン酸及び2-アミノスベリン酸等の非タンパク質構成アミノ酸、好ましくはリシン残基である。Xaa1は、後述する架橋剤によって修飾可能であることが好ましい。本明細書において「非タンパク質構成アミノ酸」とは、生体においてタンパク質を構成するのに用いられないアミノ酸を指す。本発明のペプチドを架橋剤によって修飾する際の部位特異性を高めるため、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1と同じ残基を、全く有さないか、ほとんど有さない(例えば、1個又は2個しか有さない)ことが好ましい。例えば、Xaa1がリシン残基である場合には、本発明のペプチドは、その配列中にXaa1以外の場所にリシン残基を全く有さないか、ほとんど有さないことが好ましい。
【0045】
本発明のペプチドは、ヒトIgGとの結合親和性が、他のヒト免疫グロブリン(IgA、IgE、IgM)と比較して約10倍以上、好ましくは約50倍以上、より好ましくは約200倍以上高い。本発明のペプチドとヒトIgGとの結合に関する解離定数(Kd)は、表面プラズモン共鳴スペクトル解析(例えばBIACOREシステム使用)により決定可能であり、例えば1×10-1M~1×10-3M未満、好ましくは1×10-4M未満、より好ましくは1×10-5M未満である。
【0046】
本発明のIgG結合ペプチドは、IgGのFcドメインに結合する。本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわち、ヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248残基(以下、本明細書では単に「Lys248」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号30)の18番目の残基に相当する)又はLys246残基(以下、本明細書では単に「Lys246」とも表記し、ヒトIgG CH2(配列番号30)の16番目の残基に相当する)、好ましくはLys248と近接する。
【0047】
本発明のペプチドは、慣用の液相合成法、固相合成法等のペプチド合成法、自動ペプチド合成機によるペプチド合成等(Kelley et al., Genetics Engineering Principles and Methods, Setlow, J.K. eds., Plenum Press NY. (1990) Vol.12, p.1-19;Stewart et al., Solid-Phase Peptide Synthesis (1989) W.H. Freeman Co.; Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1985) 82: p.5132;「新生化学実験講座1 タンパク質IV」(1992)日本生化学会編,東京化学同人)によって製造することができる。あるいは、本発明のペプチドをコードする核酸を用いた遺伝子組換え法やファージディスプレイ法等によって、ペプチドを製造してもよい。例えば本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードするDNAを発現ベクター中に組み込み、宿主細胞中に導入し培養することにより、目的のペプチドを製造することができる。製造されたペプチドは、常法により、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、HPLC等のクロマトグラフィー、硫安分画、限外ろ過、及び免疫吸着法等により、回収又は精製することができる。
【0048】
ペプチド合成では、例えば、各アミノ酸(天然であるか非天然であるかを問わない)の、結合しようとするα-アミノ基とα-カルボキシル基以外の官能基を保護したアミノ酸類を用意し、それぞれのアミノ酸のα-アミノ基とα-カルボキシル基との間でペプチド結合形成反応を行う。通常、ペプチドのC末端に位置するアミノ酸残基のカルボキシル基を適当なスペーサー又はリンカーを介して固相に結合しておく。このようにして得られたジペプチドのアミノ末端の保護基を選択的に除去し、次のアミノ酸のα-カルボキシル基との間でペプチド結合を形成する。このような操作を連続して行い側基が保護されたペプチドを製造し、最後に、すべての保護基を除去し、固相から分離する。保護基の種類や保護方法、ペプチド結合法の詳細は、上記の文献に詳しく記載されている。
【0049】
遺伝子組換え法による製造は、例えば、本発明のペプチドをコードするDNAを適当な発現ベクター中に挿入し、適当な宿主細胞にベクターを導入し、細胞を培養し、細胞内から又は細胞外液から目的のペプチドを回収することを含む方法によりなされ得る。ベクターは、限定されないが、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、ファージミド、及びウイルス等のベクターである。プラスミドベクターとしては、限定するものではないが、大腸菌由来のプラスミド(例えばpET22b(+)、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19、pBluescript等)、枯草菌由来のプラスミド(例えばpUB110、pTP5等)、及び酵母由来のプラスミド(例えばYEp13、YCp50等)等が挙げられる。ファージベクターとしては、限定するものではないが、T7ファージディスプレイベクター(T7Select10-3b、T7Select1-1b、T7Select1-2a、T7Select1-2b、T7Select1-2c等(Novagen))、及びλファージベクター(Charon4A、 Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP、λZAPII等)が挙げられる。ウイルスベクターとしては、限定するものではないが、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ワクシニアウイルス、及びセンダイウイルス等の動物ウイルス、並びにバキュロウイルス等の昆虫ウイルス等が挙げられる。コスミドベクターとしては、限定するものではないが、Lorist 6、Charomid9-20、及びCharomid9-42等が挙げられる。ファージミドベクターとしては、限定するものではないが、例えばpSKAN、pBluescript、pBK、及びpComb3H等が知られている。ベクターには、目的のDNAが発現可能なように調節配列や、目的DNAを含むベクターを選別するための選択マーカー、目的DNAを挿入するためのマルチクローニングサイト等が含まれ得る。そのような調節配列には、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、S-D配列又はリボソーム結合部位、複製開始点、及びポリAサイト等が含まれる。また、選択マーカーには、例えばアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、及びジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子、等が用いられ得る。ベクターを導入するための宿主細胞は、大腸菌や枯草菌等の細菌、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞(例えば、哺乳動物細胞)、及び植物細胞等であり、これらの細胞への形質転換又はトランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、パーテイクル・ガン法、及びPEG法等を含む。形質転換細胞の培養は、宿主生物の培養に用いられる通常の方法に従って行われる。例えば、大腸菌や酵母細胞等の微生物の培養液は、宿主微生物が資化し得る炭素源、窒素源、及び無機塩類等を含有する。本発明のペプチドの回収を容易にするために、発現によって生成したペプチドを細胞外に分泌させることが好ましい。これは、その細胞からのペプチドの分泌を可能にするペプチド配列をコードするDNAを、目的ペプチドをコードするDNAの5'末端側に結合することにより行うことができる。細胞膜に移行した融合ペプチドがシグナルペプチダーゼによって切断されて、目的のペプチドが培地に分泌放出される。あるいは、細胞内に蓄積された目的ペプチドを回収することもできる。この場合、細胞を物理的又は化学的に破壊し、タンパク質精製技術を使用して目的ペプチドを回収する。
【0050】
それゆえに、本発明はさらに、本発明のペプチドをコードする核酸にも関する。ここで、核酸は、DNA又はRNA(例えばmRNA)を含む。
【0051】
本発明のIgG結合ペプチドと他のタンパク質を融合させる場合、IgG結合ペプチドと他のタンパク質を別々に調製した後に、必要に応じてリンカーを用いてIgG結合ペプチドとタンパク質を融合させても良いし、遺伝子組換え法によって、必要に応じて適当なリンカーを加えて融合タンパク質として作製してもよい。この場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGとの結合性を損なわないように融合タンパク質を作製することが好ましい。
【0052】
<架橋剤で修飾されたペプチド>
一態様において、本発明における上記IgG結合ペプチドは、架橋剤により修飾されていることが好ましい。
【0053】
上記の通り、本発明のIgG結合ペプチドは、後述する実施例において示す通り、上記Xaa1において、IgG Fcの特定の領域、すなわちヒトIgG FcにおけるEu numberingに従うLys248又はLys246、好ましくはLys248と近接する。したがって、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、IgG結合ペプチドのXaa1とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に架橋構造を形成させることができる。上記の様に、本発明のIgG結合ペプチドのXaa1を架橋剤及び種々の化合物で修飾し、IgGと架橋反応させることによって、種々の化合物を、特異的かつ簡便にIgGに導入することができる。また、本発明によれば、IgG結合ペプチドを介して化合物を導入することができるため、様々な構造の化合物をIgGに導入することができる。さらに本発明の方法は、得られる産物の収率が高く、また、抗体そのもの改変を伴わないため、抗体の機能を低下させる可能性が低いという利点も有する。
【0054】
本発明のIgG結合ペプチドは、ヒト以外の動物、好ましくは哺乳動物のIgGに対して用いることもできる。この場合、本発明のIgG結合ペプチドが結合するIgG中の部位は、本明細書を読んだ当業者であれば、例えばヒトIgGの配列と他の動物のIgGの配列をアライメントすることにより、容易に特定することができる。
【0055】
本発明において、「架橋剤」とは、本発明のIgG結合ペプチドと、IgG Fcを、共有結合により連結させるための化学物質である。本発明の架橋剤は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、所望のアミノ酸(例えば、リシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸、及びアルギニン等)と結合可能な部位を少なくとも2箇所有する化合物とすることができる。その例として、限定するものではないが、DSG(disuccinimidyl glutarate、ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(disuccinimidyl suberate、ジスクシンイミジルスベレート)等のスクシンイミジル基を好ましくは2以上含む架橋剤、DMA(dimethyl adipimidate・2HCl、アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(dimethyl pimelimidate・2HCl、ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDMS(dimethyl suberimidate・2HCl、スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)等のイミド酸部分を好ましくは2以上含む架橋剤、並びにDTBP(dimethyl 3,3’-dithiobispropionimidate・2HCl、3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)及びDSP(dithiobis(succinimidyl propionate)、ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)等のSS結合を有する架橋剤が挙げられる。
【0056】
本発明のIgG結合ペプチドは、他の機能性物質、例えば、IgA又はVHH等の抗体、標識物質及び/又は他の薬剤により修飾されていてもよい。IgG結合ペプチドと他の機能性物質の連結は、当業者に公知の方法、例えばアジド基とdibenzocyclooctyneとの反応、又はマレイミド基とスルフヒドリル基の反応等により行うことができる。標識物質により標識されている場合、本発明のIgG結合ペプチドがIgGと複合体を形成することで、該標識物質を介してIgGの検出又は定量を行うことが可能となる。標識物質は、限定されないが、例えば上記の放射性同位体金属核種、蛍光色素、化学発光色素、並びにビオチン及びGFP(緑色蛍光タンパク質)等の蛍光タンパク質、発光タンパク質、並びにペルオキシダーゼ等の酵素を含み、好ましい標識物質の例は、フルオレセイン及びFITC等のフルオレセイン誘導体、ローダミン及びテトラメチルローダミン等のローダミン誘導体、並びにテキサスレッド等の蛍光色素である。本発明のペプチドを他の薬剤によって修飾する場合、薬剤として、限定するものではないが、例えば、オーリスタチン、メイタンシン、ドキソルビシン、ブレオマイシン、又はこれらの誘導体等の抗がん剤;並びに、血液脳関門上のレセプターに結合して中枢神経への移行を可能とする薬剤、又はがん細胞等に結合して抗体の細胞内への移行を可能にする薬剤等の標的化剤が挙げられる。
【0057】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば上記<IgG結合ペプチド>の項目で記載した方法に従って得られたIgG結合ペプチドを架橋剤と反応させることにより製造することができる。この場合、IgG結合ペプチド中の上記Xaa1のアミノ酸残基の側鎖を特異的に修飾することが必要であり、これは、例えば、Xaa1の種類と架橋剤の組み合わせを選択することによりなされ得る。例えば、DSS又はDSG等のスクシンイミジル基を含む架橋剤は、リシン残基の側鎖及びポリペプチドのN末端に存在する一級アミンと反応するため、IgG結合ペプチドのN末端をブロッキングした上でDSS又はDSGと反応させることで、リシン残基の側鎖のみをDSS又はDSGで特異的に修飾することができる。このようなアミノ酸残基と架橋剤の組み合わせは、当業者であれば適宜選択することができる。
【0058】
本発明の架橋剤により修飾されたIgG結合ペプチドは、例えば、架橋剤により修飾されたアミノ酸残基を用いてペプチド合成を行うことによって製造することもできる。同様に、IgG結合ペプチドを標識物質及び/又は他の薬剤で修飾する場合には、これらの修飾を加えたアミノ酸残基を用いてペプチド合成することにより標識物質及び/又は他の薬剤で修飾されたIgG結合ペプチドを調製してもよい。
【0059】
また、本発明のIgG結合ペプチドは、その安定性の向上等のため、例えば、N末端のPEG化(ポリエチレングリコール付加)、及びC末端のアミド化等により修飾されていても良い。PEG化を行う場合のPEGの分子数は特に限定されず、例えば、1~50分子、1~20分子、2~10分子、2~6分子、又は4分子のPEGを付加することができる。
【0060】
<架橋反応>
一態様において、本発明は、本発明の架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGを混合する工程を含む、IgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法に関する。本工程により、架橋剤で修飾されているIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じ得る。架橋反応は、特にIgG結合ペプチドの上記Xaa1のアミノ酸残基とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248の間で部位特異的に生じ得る。
【0061】
該混合工程の条件は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる条件で行うものであれば特に限定しない。例えば、本発明のIgG結合ペプチドとIgGを、適当なバッファー中において、室温(例えば約15℃~30℃)で混合することにより反応を行うことができる。該混合工程は、必要に応じて架橋反応を促進する触媒を適量加えて行ってもよい。
【0062】
該混合工程における本発明のIgG結合ペプチドとIgGの混合比率は、特に限定しない。本発明のIgG結合ペプチドとIgGのモル比率は、例えば1:1~20:1、好ましくは2:1~20:1又は5:1~10:1とすることができる。
【0063】
該混合工程における混合時間(反応時間)は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの間で架橋反応が生じる限り限定するものではないが、例えば、1分~5時間、好ましくは10分~2時間又は15分~1時間とすることができる。
【0064】
本発明のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を生産する方法は、必要に応じて、上記工程を行った後の混合物から、不純物、例えば、未反応のIgG結合ペプチド、IgG、及び試薬等を分離し、該複合体を精製する工程をさらに含んでよい。該工程は、本分野で公知の方法、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相カラムクロマトグラフィー、及びHPLC等のクロマトグラフィー等により行うことができる。
【0065】
<複合体>
一態様において、本発明は、本発明のIgG結合ペプチドとIgGとの複合体に関する。該複合体は、上記架橋反応によって形成され得る。よって、本発明は、好ましくは、IgG結合ペプチドの上記Xaa1のアミノ酸残基とIgG FcのLys248又はLys246、好ましくはLys248とが部位特異的に架橋剤を介して結合したIgG結合ペプチドとIgGとの複合体に関する。
【0066】
本発明の複合体は、部位特異的な架橋反応によって形成されることから、該架橋反応が、IgGの活性に負の影響を与える可能性が少ない。また、修飾したIgG結合ペプチドをIgGに連結することによって、IgGに新たな機能性を付加することができる。例えば、111In、89Zr、64Cu、67/68Ga、及び99mTc等の放射性金属核種を付加したIgG結合ペプチドを連結させたIgGは、癌の検出・診断用に用いることができる。この場合、IgGは癌種に応じて適宜選択することができ、例えば乳癌であればトラスツズマブ、大腸癌であればセツキシマブを用いることができる。
【0067】
<核医学画像診断剤又は癌の診断剤、並びに核医学画像診断法又は癌の罹患の有無を決定する方法>
一態様において、本発明は放射性金属核種が結合している上記IgG結合ペプチド、上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチド、又は上記架橋剤で修飾されたIgG結合ペプチドとIgGの複合体を含む、核医学画像診断剤又は癌の診断剤に関する。
【0068】
本発明の核医学画像診断剤は、生体内における種々の物質の分布状況及び/又は体内動態を測定するために用いることができる。例えば、本発明のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を含む核医学画像診断剤は、IgGの標的となる炎症マーカー等の抗原の分布状況、及びIgG抗体自体の体内動態を測定するために用いることができる。
【0069】
本発明の癌の診断剤の対象となる癌として、限定するものではないが、例えば、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、前立腺癌、卵巣癌、大腸癌、例えば結腸癌、胃癌、子宮頸癌、脳腫瘍、骨髄腫、骨肉腫、肺癌、白血病及び悪性リンパ腫等が挙げられる。
【0070】
本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤は、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈注射、筋肉注射、皮下投与、腹腔内投与、直腸投与、又は経粘膜投与等)で、投与することができる。また、本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には顆粒剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、静脈注射、動脈注射、若しくは筋肉注射用の注射剤、点滴剤、外用剤、又は坐剤等の各種製剤形態に調製することができる。投与方法及び剤型は、患者の性別、年齢、体重、症状等により、当業者であれば適宜選択することができる。
【0071】
本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton,米国を参照されたい)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。
【0072】
本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤に含まれ得る担体及び医薬添加物の例としては、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、及び医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0073】
実際の添加物は、本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、これらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、本発明のIgG結合タンパク質又はIgG結合タンパク質とIgGの複合体を溶液、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに容器吸着防止剤、例えばTween80、Tween 20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解して再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のため安定化剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコール及び/又は糖類を使用することができる。
【0074】
本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤の有効投与量及び投与間隔は、患者の性別、年齢、体重、及び症状等に応じて適宜選択することができる。
【0075】
一態様において、本発明は、被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
被験体から得られたサンプルに、本明細書に記載のIgG結合ペプチド、又はIgG結合ペプチドとIgGの複合体を反応させる工程であって、放射性金属核種が、前記IgG結合ペプチドに結合している工程、
サンプル中の放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法に関する。
【0076】
一態様において、本発明は、被験体における抗原又はIgGを検出する方法であって、
被験体から得られたサンプルに、本明細書に記載のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を反応させる工程であって、放射性金属核種が、前記IgG結合ペプチドに結合している工程、
サンプル中の放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、抗原又はIgGを検出する工程、
を含む、方法に関する。サンプルにおける抗原又はIgGを検出することで、被験体における抗原又はIgGの分布状況及び/又は体内動態を推測することができる。
【0077】
本方法において用いるサンプルとしては、組織及び生体試料が挙げられる。組織の例として、病変部位、例えば、乳房、肝臓、膵臓、前立腺、卵巣、大腸、例えば結腸、胃、子宮頸部、骨髄、リンパ節等が挙げられ、例えばこれらの組織の生検サンプルを用いることができる。生体試料の例として、例えば、血液、血漿、リンパ液、組織液、尿、並びに細胞、例えば末梢血細胞、毛母細胞、口腔細胞、鼻腔細胞、腸管細胞、膣内細胞、粘膜細胞、及び喀痰(肺胞細胞又は気肝細胞等を含み得る)等、好ましくは血液又は血漿が挙げられる。
【0078】
放射能のレベル又は存在を測定する方法は特に限定されず、当業者に知られる任意の方法を用いることができる。例えば、SPECT/CT等の画像解析を行ってもよいし、シンチレーションカウンター等の検出器を用いて放射能のレベル又は存在を測定してもよい。
【0079】
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定又は検出する工程は、特に限定されず、当業者に知られる任意の方法を用いることができる。例えば、癌に罹患していないことが分かっている被験体由来の複数、例えば2以上、3以上、4以上、好ましくは5以上のサンプルに対して、本発明の方法に供される被験体由来のサンプルにおける放射能のレベルが有意に高い場合、被験体が癌に罹患している可能性が高いと判断することができる。
【0080】
一態様において、本発明は、被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
本明細書に記載のIgG結合ペプチド、又はIgG結合ペプチドとIgGの複合体を被験体に投与する工程であって、放射性金属核種が、前記IgG結合ペプチドに結合している工程、
被験体において、放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法に関する。
【0081】
一態様において、本発明は、被験体内における抗原又はIgGを検出する方法であって、本明細書に記載のIgG結合ペプチドとIgGの複合体を被験体に投与する工程であって、放射性金属核種が、前記IgG結合ペプチドに結合している工程、
被験体において、放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、抗原又はIgGを検出する工程、
を含む、方法に関する。本方法は、好ましくは核医学画像診断法である。本方法により、被験体における抗原又はIgGの分布状況及び/又は体内動態を推測することができる。
【0082】
本方法において、投与の方法は、本発明の核医学画像診断剤又は癌の診断剤について記載したものと同様であるから記載を省略する。また、放射能のレベル又は存在を測定する工程及び、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程については、上記の通りであるから記載を省略する。
【0083】
本明細書において、被験体の生物種は、例えばヒト及びチンパンジーなどの霊長類、ラット、マウス、ウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ウマ、ヒツジ、及びヤギ等の家畜動物、並びにイヌ及びネコ等の愛玩動物が挙げられ、好ましくはヒトである。
【実施例
【0084】
下記の実施例を参照しながら、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0085】
[実施例1:IgG結合ペプチドとIgGの複合体のX線結晶構造解析]
<方法>
(1)IgG結合ペプチド溶液の作製
G(HC)DCAYHRGELVWCT(HC)H-NH2の配列(配列番号31、ただし、HCはホモシステインであり、4番目と14番目の2つのCys、2番目と16番目の2つのホモシステインは、それぞれ分子内でジスルフィド結合を形成する)を有する環状ホモシステインペプチドを、F-moc法によるペプチド固相合成法にて常法に従い調製した。調製したIgG結合ペプチド0.8mgの粉末を24μLの100%ジメチルスルホキシド(和光純薬)で溶かし、IgG結合ペプチド溶液を調製した。
【0086】
(2)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の作製
ヒトIgG(中外製薬)のヒンジ部分を、10mM EDTAおよび1mM L-システインを含む20mmol/Lリン酸緩衝液(pH7.0)中において37℃でパパイン(ロシュ社製)を用いて切断した。続いて、ヒトIgG Fcを、陽イオン交換カラム(TSKgel SP5-PW(東ソー))を用いて、流速1mL/min、20mM 酢酸ナトリウム緩衝液 (pH5.0)中、0-0.3 M NaClのグラジエント溶出にて精製した。16mg/mLのヒトIgG Fcを含む63μLの溶液(0.1M 塩化ナトリウム(和光純薬)、0.04M 2-モルホリノエタンスルホン酸(和光純薬)(pH6.0))を、上記(1)で作製したIgG結合ペプチド溶液2μLと混合し、FcとIgG結合ペプチドとの複合体溶液を調製した。
【0087】
(3)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶の作製
FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶は、シッティングドロップ蒸気拡散法により得た。すなわち、上記(2)で作製したFcとIgG結合ペプチドとの複合体溶液0.3μLと結晶化剤(20% ポリエチレングリコール3350(シグマアルドリッチ)、0.2Mヨウ化カリウム(和光純薬)(pH6.9))0.3μLを、結晶化用ロボットであるHydoraII+(マトリックス社製)を用いて、インテリ結晶化プレート(ベリタス社製)のS1ウェル上で混合し、結晶化ドロップとした。リザーバー溶液としては、上記結晶化剤70μLを分注した。プレートをPowerSeal CRISTAL VIEW(グライナーバイオ-ワン社製)で密閉後、20℃の恒温槽内に約2週間静置し、結晶を得た。
【0088】
(4)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶のX線回折強度データの収集
上記(3)で得られた結晶を、安定化母液(22%ポリエチレングリコール3350、0.2M ヨウ化カリウム、0.1M塩化ナトリウム、25%グリセロール(w/v)、0.04M 2-モルホリノエタンスルホン酸(pH6.0))に移し、-170℃の窒素ガス気流にて急速凍結し、X線回折データを振動法にて測定した。X線の波長は1オングストローム、振動角は1°/フレームで実施した。次に、回折強度データ処理プログラムHKL2000(HKL Research社製)を使用して、回折強度データを分解能3.0オングストロームで処理した。その結果、結晶の空間群がP21であり、格子定数がa=66.1オングストローム、b=60.5オングストローム、c=69.5オングストローム、α=γ=90°、β=101.3°であった。得られたデータのCompletenessは99.9%、Rmergeは13.8%であった。
【0089】
(5)FcとIgG結合ペプチドとの複合体の結晶構造の決定
DCAYHRGELVWCT(配列番号33)について、上記(4)で得られた回折強度データを、CCP4(Collaborative Computational Project Number 4)に含まれるプログラムPhaserを利用して分子置換法による位相決定を試みた。分子置換法のサーチモデルにはProtein Data Bank(PDB、URL:http://www.rcsb.org/pdb/)にPDB accession code:1DN2として登録されているFc部分のモデルを利用した。その結果、非対称単位中に1分子のモデルを見出すことができた。次にCCP4に含まれる構造精密化プログラムRefmac5を用いた構造精密化とモデル構築プログラムであるX-tal viewを用いたモデルの修正を繰り返し実施し、FcとIgG結合ペプチド(DCAYHRGELVWCT(配列番号33))との複合体の結晶構造を得た。Fcのペプチド結合部位にIgG結合ペプチドに相当する電子密度が観測された。決定した結晶構造の正確さの指標であるR因子は、0.216であった。さらに、精密化の段階で計算に入れなかった全反射の5%に相当する構造因子から計算されるRfree因子は0.317であった。
【0090】
(6)架橋構造モデルの作成
上記のX線結晶解析の構造を基に、計算科学ソフトウェアMOE(Molecular Operating Environment)上で架橋構造モデルを作成した。DCAYHRGELVWCT(配列番号33)の6番目のアミノ酸をLysに置換後、このLysのεアミノ基と抗体Fcの248番目Lysのεアミノ基の間をつなぐ形で、DSG又はDSSによる架橋構造をモデル化した。
【0091】
<結果>
図1Aに示した様に、IgG結合ペプチドは、プロテインAの結合部位と重なるCH2とCH3ドメインの境界領域に結合し、既に報告されているIgG結合ペプチドFc-III(DeLano, W. L. et al., Science, 2000, 287, pp. 1279-1283)と類似した形でIgGと結合していると考えられた。IgG結合ペプチドとFcとの特徴的な相互作用は、IgG結合ペプチドの8番目の残基Argの側鎖のグアニジノ基が、2.91オングストロームでFcのGlu380(EU numberingに基づく。以下同じ)の側鎖のカルボン酸と塩結合している点である。このGlu380の側鎖は、ヒトIgG Fcの中で、Lys248と塩結合して分子内での塩結合のネットワークを形成しており、IgG結合ペプチドのArg8とFcのLys248は、FcのGlu380との相互作用を介して近づいていた。そこで、IgG結合ペプチドの8番目の残基ArgをLysに換え、この塩結合のネットワーク構造に類似した形で、ペプチドのLys8と抗体のLys248の側鎖のアミノ基を架橋剤で架橋することを考案した。実際に、IgG結合ペプチドとヒトIgG Fcとの複合体構造をベースに、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)もしくはDSS(ジスクシンイミジルスベレート)による架橋構造のモデルを作成したところ、空間的にも抗体の主鎖構造のひずみを伴わずに架橋剤の導入が可能であると考えられた(図1B)。
【0092】
[実施例2:標識用ペプチドの調製と特性]
<方法>
アミノ基をBiotinもしくは5/6TAMURA succinimidyl ester(AnaSpec, Inc.)(蛍光色素)で修飾したamino-PEG4化合成ペプチドGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2)(ただし、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。保護基を除去した後、pH8.5の水溶液中酸化条件下で分子内S-S結合を形成させ、逆相HPLCを用いて、流速1.0ml/min、0.1%のTFAを含む10%から60%のアセトニトリルのグラジエント溶出によって分子内S-S結合を有するペプチドを精製した。
【0093】
精製したIgG結合ペプチドを1mM含むDMF溶液100μLと100mMのDSS又はDSG(Thermo Fisher Scientific社)のアセトニトリル溶液100μLを混合後、室温で一晩反応させた。反応物を0.1% TFAで2.5倍に希釈後、Waters社製 μBondasphere 5C18 100オングストローム(直径3.9 mm × 150 mm)にインジェクトし、0.1% TFAを含む4%から60%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。得られた生成物へ架橋剤の付加については、BEH300 C18 (1.7μm、直径2.1 mm × 50 mm)カラムを接続したLC-Mass spectrometry(Acquity SQD UPLC system, Waters Corp.)上にて、0.1%ギ酸を含む4%から60%へのアセトニトリルのグラジエントで溶出し、ピークの分子量の測定により確認した。
【0094】
得られたラベル化試薬ペプチドの親和性解析は、1M Tris-HCl (pH=7.0)を10分の1量加え15 min反応させることでNHS基を加水分解後、以下の方法で行った。BIAcoreT200(GE healthcare)にセットしたCM5センサーチップ上へ、0.4M EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド)と0.1M sulfo-NHS(sulfo-N-hydroxysuccinimide、スルホ-N-ヒドロキシスクシンイミド)を等量混合後、10 μl/mlの流速で、センサーチップに7分間インジェクトすることによりセンサーチップを活性化し、pH4.0(10 mM 酢酸Na)の条件下で、固定化量がRU値で4000~5000となるように、IgGを固定化した。HBS-EP緩衝液(0.01 M HEPES、0.15 M NaCl、0.005% Tween 20、3 mM EDTA、pH 7.0)を用いながら、流速50 μl/mlにて、10nMから2μMの濃度のペプチドを180 秒間インジェクトすることで結合反応をモニターし、その後、緩衝液により600 sec洗浄することで解離反応を測定した。結合パラメーターの解析は、BIAevalution T100ソフトウェアを用いて行った。
【0095】
<結果>
架橋構造の導入が、IgG結合ペプチドの特異性及び親和性に影響を与えるか検討するため、架橋構造を導入したIgG結合ペプチドのIgGへの結合力をSPR解析で測定した(表1)。8残基目のアルギニンをリジンに置換したIgG結合ペプチド(以下、Type I(R8K)とも称する)のヒトIgG に対する親和性は131 nM (Kd) であり、置換前のIgG結合ペプチド(以下、Type Iとも称する)と比べ10倍親和性が低下した。Type I(R8K)ペプチドに各架橋剤を結合させたものでは、ヒトIgG に対する親和性は、Type I(R8K)-DSG-OHで約330 nM (Kd)、Type I(R8K)-DSS-OHで約390 nM (Kd) であり、架橋剤が結合することによる親和性の大きな減少は見られなかった。いずれのペプチドにしても、Kd値でμM以下の親和性を有することから、十分特異的な標識化が可能であると考えられた。
【0096】
【表1】
【0097】
[実施例3:IgG結合ペプチドによるヒトIgG-Fcの特異的修飾]
<方法>
実施例2と同様の方法によってN末端にBiotin-PEG4を付加したIgG結合ペプチド(TypeI(R8K))をDSS又はDSGで修飾した標識化試薬ペプチドを調製し、これをヒトIgG Fcを反応させ、ヒトIgG Fcの標識化反応を検討した。即ち、実施例2と同様の方法によって過剰なDSS又はDSGと反応させたIgG結合ペプチド(R8K)(200 pmol/5μL in 0.1% TFA)を逆相カラムにて精製後、減圧下でアセトニトリルを除去した後、0.5M Na2HPO4を約1/8加えて中和し、ただちにタンパク質サンプル(hIgG(中外製薬)、hIgA(Athens Research&Technology)、HSA(シグマアルドリッチ)、又は血清(健常者から採血したもの))(各40 pmol/5μL、血清については、PBSにより10倍希釈したものを使用)に、モル比10倍量で加え、最終量をPBS で20μLにした後、室温で5分放置した。その後、1M Tris-HCl(pH=7.0)を1μl加え反応を停止した後、4xSDSサンプル溶液6.7μl及び2-メルカプトエタノール1.4μl(最終5%)を加え、95℃、10minで処理後、プレキャストゲルSuperSepTMAce,5-20%(和光純薬)を用いてSDS-PAGEを行った。泳動後のゲルは、ホーファー・セミホールTE70(Hoefer Semiphor TE70)トランスブロットシステムを用いて35mA、60分で、PMDF膜に転写後、0.5%BSAでブロッキングを行った。ビオチン化ペプチドで標識されたタンパク質は、SAコンジュゲートHRP(1000倍希釈、Vector Laboratories)を用いて、化学発光試薬(イムノスター(登録商標)ベーシック、和光純薬)により検出した。
【0098】
<結果>
図2Bに示した様に、ウエスタンブロッティングにおいて、IgGと反応させた場合にのみ、複合体とみられるバンドが観察されたことから、DSG又はDSSと反応させたIgG結合ペプチドは、ともに、IgAやHAS、血清中のIgG以外のタンパク質とは結合せずに、IgGに選択的に結合していることがわかった。
【0099】
[実施例4:IgGに対するIgG結合ペプチドの反応条件の検討]
<方法>
(1)反応モル比の検討
96穴マイクロプレート(Nunc(登録商標)MaxiSorp)のウェルに、各タンパク質(IgG(中外製薬)、IgA(Athens Research & Technology)、又はBovine gelatin(和光純薬))(50 ng(0.33 pmol)/μl/well)を含む0.1 M NaHCO3溶液をプレートに加えて室温で一晩放置することによって、各タンパク質をプレートの表面に吸着させ、0.5 % BSAでブロッキングを行なった後、各ウェルに、実施例2と同様に調製したDSGで修飾したビオチン化IgG結合ペプチド(モル比で、0,1,2,5,10)を加え、1時間経過後、1M Tris-HCl (pH7.0)を3μL加え反応を停止した。0.5 % BSA で2000倍希釈したSA-HRP(Vector Laboratories)を50μL加え、室温で一時間反応後、0.1% PBSTで5回洗浄後、HRPの呈色にTMB溶液(Wako Chemicals)を用いて、5分の発色反応後、450nmの吸光度をELISAプレートリーダー(モデル 680 マイクロプレートリーダー(バイオラッド))にて測定した。
【0100】
(2)反応時間の検討
50ng/50μLの溶液により4℃で一晩固定化したhIgG(50 ng)に対しDSGで修飾したビオチン化IgG結合ペプチドをモル比2で加え、各反応時間(0~60分)で、1M Tris-HCl (pH7.0)を3μL加え反応を停止した。結合の検出は(A)と同様に行った。
【0101】
<結果>
DSS標識化IgG結合ペプチドを用いて、抗体と反応させるモル数及び反応時間の違いによる反応効率をELISAにて検討した(図3)。即ち、プラスティックプレートに固定化したIgG結合ペプチドのモル比を1から10まで変化させてhIgGと反応させたところ、ほぼモル比5のあたりで飽和がみられたことから、モル比5程度のペプチド試薬を加えれば、抗体の標識化には充分であると考えられた(図3A)。DSSで修飾していないビオチン化IgG結合(R8K)ペプチド(NO DSS R8K)では極めて弱い結合がみられているが、これは、非共有結合で結合したペプチドによる結合活性と考えられる。さらに、標識化IgG結合ペプチド試薬を過剰に加えても、他のタンパク質(hIgA、Bovine gelatinあるいはブロッキング剤として用いているBSA)への結合は全く検出されなかった。
【0102】
次に、IgGとIgG結合ペプチドのモル比1:2で反応させた際の、反応時間の検討を行った。その結果、約15分で飽和が見られたことから、反応は15分でほぼ終了していると考えられた(図3B)。
【0103】
以上の結果より、架橋剤で修飾した本発明のIgG結合ペプチドは、短時間で、かつ特異的にIgGと結合することが示された。
【0104】
[実施例5:蛍光IgG結合ペプチドによるFcの標識化]
<方法>
IgG(中外製薬)、IgA(Athens Research & Technology)、又はBSA(シグマアルドリッチ)(15 μg:IgG換算で100 pmol)と実施例2に従って調製したDSG架橋ペプチド又はDSS架橋ペプチド(500 pmol)を200μL中で室温にて60 min反応させ、1M Tris-HCl (pH=7.0)を10μL加え反応を停止させた。その後、SuperdexTM200 10/30GL 直径1.0cm×30cm(GEヘルスケア);流速:0.3ml/min;ランニングバッファー:PBS pH 7.4、にてサイズ排除クロマトグラフィーを行い、蛍光検出器RF-10A(島津製作所)(励起光:541 nm 蛍光: 565 nm)を用いて測定を行った。
【0105】
<結果>
DSS又はDSGを反応させた標識化IgG結合ペプチドを各タンパク質に対するモル比1:5でタンパク質と室温にて60 min反応させ、サイズ排除クロマトグラフィーにて分析した。いずれの標識化IgG結合ペプチド(DSS又はDSG)を用いても、IgGへの反応性の特異性は同程度であり、hIgAやBSA等の他のタンパク質への蛍光標識化は、全く検出されなかった(図4)。以上のことから、作製したいずれのIgG結合ペプチドを用いても、高い特異性を持って、ヒトIgGを蛍光標識できることがわかった。
【0106】
[実施例6:IgG結合ペプチドによるFcの修飾物の解析(pH4.5)]
<方法>
ヒトIgG(中外製薬)のFc溶液(20μM、0.1M酢酸緩衝液pH4.5)200μLと、DMF中に溶解した、実施例2と同様の方法によってDSG修飾したIgG結合ペプチド(RGNCAYHXGQLVWCTYH(配列番号35)、Xはリジン)(4mM)を0.5、1.0、2.0、5.0μL(モル比で0.5、1.0、2.0、5.0)加え、素早く撹拌後、室温で15分反応し、1M Tris-HCl(pH7.0)を10μL加え、反応を停止させた。反応物50μLをShodex IEC SP-825カラムを接続したNGC Chromatography system(バイオラッド)にインジェクトし、25mM Acetate buffer(pH4.5)から1M NaClを含む25mM Acetate buffer(pH4.5)へのグラジエント溶出を行い、タンパク質の溶出を、215nmの吸光度でモニターした。得られた各ピークを分取し、LC/MSによる分子量測定に供した。
【0107】
Waters ACQUITY UPLC BEH C8 (1.7μm 2.1mm×100mm)カラムを接続したShimadzu LCMS-8030に、得られたピークのフラクションを20μLインジェクションした後、0.1% ギ酸を含む4%アセトニトリルから0.1% ギ酸を含む60%アセトニトリルまでのグラジエント溶出を行った。溶出されたピークのマススペクトル分析を行い、解析ソフトを用いた多価イオンピークからのデコンボリューションによって質量を計算した。
【0108】
<結果>
ヒトIgG1-FcとDSG修飾したIgG結合ペプチド(4mM、Biotin-PEG4-RGNCAYHXGQLVWCTYH-NH2;分子量2760、XはDSG化したリジンで、2つのCysは分子内SS結合を形成)をモル比で0.5、1.0、2.0、又は5.0で反応させたところ、図5Aに示した様に、元のヒトIgG1-Fcの溶出位置のピーク(ピーク2)と2つのピーク3、4が現れた(ピーク1は、DSG化したIgG結合ペプチドであると考えられる)。これらの分子種を同定するために、LCMS解析を行った。反応前のIgG1-Fcは、イオン交換クロマトグラムではピーク1のところに溶出され、LCMS解析では、55084という値が得られた。反応後の2、3、4のピークのLCMS解析を行ったところ、それぞれ、55087、57735(55087+2648)、60384(55087+5297)という値が得られた。このことから、反応後のピーク2は、未反応のFcであり、ピーク3と4は、Fcにそれぞれ1つ及び2つのペプチドが結合したものであることがわかった。
【0109】
図5Bは、各モル比で反応させた場合の、未反応(ピーク2)、1個のペプチドの付加物(ピーク3)、2個のペプチドの付加物(ピーク4)の生成量の変化をグラフ化したものである。例えば、モル比1:1で反応させた場合でも、未反応物は20%以下となり、モル比1:2では未反応物は10%以下と極めて収量が高いことがわかる。また過剰なモル比1:5の場合でも相対的に2個のペプチドの付加物の生成比率が増えたが、それ以上のペプチドが付加されたFcはイオン交換クロマトグラム上では検出されなかったことから、この標識反応は極めて特異的であることがわかった。
【0110】
[実施例7:IgG結合ペプチドによるFcの反応に対するpHと反応時間の影響]
<方法>
pH4.0(25mM酢酸緩衝液)、pH5.5(25mM酢酸緩衝液)、又はpH7.0(PBS)にて調製したヒトIgGのFc溶液200μLに対し、実施例5で調製した、DMF中に溶解したDSG修飾したIgG結合ペプチド(4 mM)を1.0μL(モル比で1.0)加え、素早く撹拌後、室温で反応した。反応後1、5、10、又は30分に、1M Tris-HCl(pH7.0)を10μL加え、反応を停止させ、反応物50μLをShodex IEC SP-825カラムを接続したNGC Chromatography system(バイオラッド)にインジェクトし、25mM Acetate buffer(pH4.5)から1M NaClを含む25mM Acetate buffer(pH4.5)へのグラジエント溶出を行い、タンパク質の溶出を、215nmの吸光度でモニターした。得られたクロマトグラムを基に各ピークの比率を計算した。
【0111】
<結果>
図6に示した様に、試験したpH 4.0、pH 5.5、及びpH 7.0のいずれにおいても標識化反応は早く、反応の90%以上が1分以内に終了していることがわかった。また、pH4.0では、未反応物の残量が40%を超えており反応収率が低く、特に、2つのペプチドの付加物(ピーク4)の収量が15%程度と他のpHの場合(35-40%)に比べ低かった。pH 5.5及び7.0では、未反応物の収量も10%台と低く、効率よく反応していることがわかった。pH5.5と7.0の差としては、若干、ピーク4の収量がpH 7.0で低くなる傾向が見られた。
【0112】
[実施例8:放射性金属核種によるIgG結合ペプチドの標識及びこれを用いた癌の検出1]
1)DTPA含有IgG結合ペプチドの作製
N末のアミノ基をDTPA-tetra(tBu)ester(CheMatech社製)で修飾したアミノPEG4化IgG結合ペプチドGPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号37、分子内の2つのCysはSS結合を形成、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。脱保護後、精製したDTPA-IgG結合ペプチドをDMSO20μL(19mM)に溶解した。ペプチド溶液へアセトニトリルに溶解したDSG(500mM)20μLとピリジン0.2μL(最終濃度0.5%)を加え、50℃で3時間反応させた。全量を0.1%TFAを含む15%アセトニトリル10mlに希釈し、遠心後の上清を、InertSustain(登録商標) C18 カラム(7.6mm 1×250mm, GL Science)にインジェクションし、0.1%TFAを含む15%から80%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物(DSG修飾DTPA-PEG4化IgG結合ペプチド)を回収後、溶媒を除去し、その後凍結乾燥した。
【0113】
2)DTPA含有IgG結合ペプチドをTrastumabに結合させた、放射性核種標識抗体「DTPA修飾Trastumab」の作製
上記1)で調製したDSG修飾DTPA-PEG4化IgG結合ペプチドを5.0mMの濃度でDMSO中に溶解した溶液1.36μLと、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した6.8μMの抗HER2ヒト抗体(Trastuzumab)(中外製薬)1mLを混合し、室温で30分間反応(ペプチドと抗体のモル比=1:1)させた。このようにして調製したDTPA修飾ヒト抗体(抗体薬物複合体、ADC)は、陰イオン交換カラムShodex QA825(8.0mm×75mm, Shodex)にて、10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を含む0Mから0.5MまでのNaClのグラジエント溶出にて精製した。未反応の抗体以外の2本のピーク(ピークA,B)を分取後、Vivaspin(10000Daカットオフ、Sartorius)上で、3000gで遠心することによって脱塩濃縮を行った。得られたサンプルは、MALDI-TOF-MAS autoflex speed TOF/TOF-KG(Bruker Daltonics)で質量を測定し、ピークAが元の抗HER2ヒト抗体に比べ2716(理論値2722)、ピークBが元の抗HER2ヒト抗体に比べ5398(理論値5444)増えていることから、それぞれ、DTPAが付加されたDTPA-PEG4化IgG結合ペプチドが、1つ(抗HER2抗体―DTPA*1)、及び2つ(抗HER2抗体―DTPA*2)導入されていることを確認した。
【0114】
3)DTPA修飾Trastuzumabの111In標識、及び[111In]標識DTPA修飾Trastuzumabの放射化学純度の確認
上記2)で調製したDTPA修飾Trastuzumabをマイクロピペットで正確に量り取り、容量1.5mLのエッペンチューブに入れた。これに10mM クエン酸含有0.15M酢酸-アンモニア緩衝液(pH5.5)を加えた。DTPA修飾Trastuzumab溶液全量をマイジェクターで抜き取り、15mL容量の無色ガラス製バイアルに入れた。DTPA修飾Trastuzumab溶液全量と同量の[111In]Cl3溶液をマイジェクターで抜き取り、無色ガラス製バイアルに入れ、よく混和した。なお、[111In]に対するDTPA修飾Trastuzumabのモル数が20-100倍となるように調製した。これを室温で30分間反応させた。反応終了後、放射能量をラジオアイソトープ・ドーズ・キャリブレーターで測定した。
【0115】
1Mクエン酸溶液及び1Mクエン酸三ナトリウム溶液をそれぞれ5mLマイクロピペットで正確に量り、100mLメスフラスコに移した。純水を加え正確に100mLにした。1%EDTA溶液1mLをマイクロピペットで正確に量り、工程1の100mLメスフラスコに移し、よく混和した。これを展開溶媒とした(用時調製)。展開容器の中に展開溶媒を容器の底から1cm程度まで入れた。被験物質3μLをマイクロピペットで正確に量り、ろ紙の下端2cmを原点とし、原点に滴下した。滴下後直ちに乾燥させた。溶媒フロントを原点より10cmとし、展開溶媒に下端が浸るよう展開溶媒に入れた。溶媒フロント上端に達した後、直ちに乾燥させた。ろ紙に残留する放射能をラジオ薄層クロマトグラフィーアナライザーで測定(条件 Counting time:20min、Energy Range:125-285keV、Binning:2)し、原点のピーク面積の割合から、[111In]標識DTPA修飾Trastuzumabの放射化学純度[%]を算出した。
【0116】
表2に、Trastuzumab一分子に対するDTPA結合ペプチドの修飾数の異なる2種類のDTPA修飾Trastuzumabを用いて標識検討を実施した結果を示す。表2に示される通り、すべてのDTPA修飾Trastuzumabに対して111Inでの標識が可能であった。
【0117】
【表2】
【0118】
4)111In標識TrastuzumabのHER2結合能及び特異性の評価
HER2高発現細胞株SK-OV-3(ヒト由来卵巣癌細胞)及びHER2低発現細胞株MDA-MB-231(ヒト由来乳癌細胞)(いずれもAmerican Type Culture Collectionから入手)をTrypsin-EDTA混合液を用いて回収し、無血清培地で1.5×107個/mLに調製した細胞懸濁液を作製した。細胞懸濁液200μLをマイクロピペットで正確に量り取り、容量1.5mLのマイクロチューブに入れ、氷冷した。なお、サンプル数をそれぞれ3とした。
【0119】
上記3)で調製した111In標識Trastuzumabを無血清培地で希釈し、放射能濃度が10~200kBq/mLになるように調製した。
【0120】
放射能濃度を調製した111In標識Trastuzumab含有無血清培地 500μLをマイクロピペットで正確に量り取り、細胞懸濁液の入ったマイクロチューブに加え、細胞懸濁液とよく混和した。これを氷上で1時間反応させた。反応終了後、HER2を介せず非特異的に各細胞に付着している111In標識Trastuzumabを洗浄するために、遠心分離(遠心加速度:5000g、温度:4℃、時間:5分)を行い、上清をマイクロピペットで除去した。その後、冷リン酸緩衝液1mLを加え再懸濁し、遠心分離(遠心加速度:5000g、温度:4℃、時間:5分)した。この洗浄操作を3回繰り返した。最終的にペレットだけが残るように上清をマイクロピペットで完全に除去した。
【0121】
111In標識Trastuzumab含有無血清培地を500μLマイクロピペットで正確に量り取り、容量1.5mLのプラスチックチューブに入れた。なお、ブランクとしてプラスチックチューブのみを用意した(下記の計算式のnet valueを計算するためのバックグラウンドの値を計測するために使用した)。また、サンプル数をそれぞれ3とした。各サンプルの放射能量をオートウェルガンマカウンタ(測定条件:Energy Range:111-252keV、プリセットタイム:60秒)で測定した測定値を用い、以下の計算式から各細胞に対する[111In]標識Trastuzumabの結合率(%)を算出した。
【0122】
【数1】
※カウント値は、いずれもnet value(測定値からバックグランドの値を差し引いて減衰補正したもの)を示す。
【0123】
結果を表3に示す。全ての[111In]標識TrastuzumabでHER2への結合能及び特異性を有していることを確認した。
【0124】
【表3】
【0125】
5)SPECTイメージング解析による[111In]標識Trastuzumabの腫瘍内HER2 結合能及び特異性の確認
マウス(BALB/c、nu/nu、19週齢、雌、各1例)の左右下肢にSK-OV-3(HER2高発現細胞株)及びMDA-MB-231(HER2低発現細胞株)を移植した担癌モデルを作製し、SPECT/CTイメージングを行った。SPECTイメージングには2種類の[111In]標識Trastuzumab(Trastuzumab1分子に対してDTPA結合ペプチド1分子又は2分子を修飾したもの)を使用した。
【0126】
111In標識Trastuzumabの調製)
111In標識Trastuzumabは上記「3)DTPA修飾Trastuzumabの111In標識、及び[111In]標識DTPA修飾Trastuzumabの放射化学純度の確認」に記載した方法で調製し、限外ろ過法にて精製したものを以降の実験に使用した。なお抗体1分子内にDTPAを1分子有するものを[111In]標識Trastuzumab-1、2分子有するものを[111In]標識Trastuzumab-2とした。
【0127】
(担癌モデルの作製)
BALB/c nu/nuヌードマウスの左下肢にHER2高発現細胞株SK-OV-3を移植し、右下肢にHER2低発現細胞株MDA-MB-231を移植した担癌モデルを作製した。なお、各細胞は同一個体に移植した。ヌードマウスは日本エスエルシー株式会社から購入し、6週齢の雌を6匹用いた。イメージング実施日当日に各腫瘍体積を測定し、イメージング実験に適切な腫瘍体積を有するモデルを2例選出した。また、これらのマウスに使用した各癌細胞は、それぞれAmerican Type Culture Collectionから入手したものを用いた。
【0128】
(SPECT/CT撮像)
(SPECT撮像)
移植後13週に、[111In]標識Trastuzumab-1溶液(3.83MBq)または[111In]標識Trastuzumab-2(2.64MBq)溶液をモデル尾静脈から投与した。投与後4時間以降よりSPECT/CTカメラ(製品名:FX3000 Pre-Clinical Imaging System)での撮像を実施した。以降、投与後24時間、48時間の時点で撮像を実施した。
【0129】
(CT撮像)
CT撮像は各腫瘍組織が同時にSPECT撮像の視野内に収まっていることを確認するためにSPECT撮像の前に実施した。イソフルランによる麻酔導入を行い、麻酔を維持した状態でアニマルベッドに装着した。当モデルをCT装置内に入れ、X線を照射し、腫瘍が視野の中心になるように位置決めを実施した。CT撮像は以下に示す撮影条件にて実施し、腫瘍のCT画像(rawファイル)を取得した。
Project count:200views
Frames averaged:1frames/view
Detector binning:2x2
X-ray tube current:Default(150 μA)
X-ray tube voltage:60kV
Exposure time:230ms
Magnification:1.8
【0130】
得られたrawファイルをTrifoil Consoleで再構成し(再構成条件:Half Res)、再構成画像を画像表示ソフトにて更に変換してDICOMファイルを作製し、これらを画像解析ソフト(製品名PMOD 3.6)にて読み込み、画像を表示させ、以降の解析に用いた。
【0131】
(SPECT/CT画像解析)
[111In]標識Trastuzumab-1溶液または[111In]標識Trastuzumab-2溶液投与後の各時間点でSPECT及びCTの融合画像を作製し、冠状面で表示した。
【0132】
表4に、in vivo実験に用いたモデルの詳細および投与した[111In]標識Trastuzumab-1、[111In]標識Trastuzumab-2の情報を記載した。
【0133】
【表4】
【0134】
SPECTの撮像条件を表5に、画像再構成条件を表6に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
【表6】
【0137】
SPECT/CT撮像後、SPECT及びCTの融合画像を作製し、冠状面で表示した。[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2を投与したSPECT/CT撮像の結果を図7、8及び9に示した。
【0138】
[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2をそれぞれ投与後6時間及び投与後4時間に撮像したSPECT/CT画像を、腫瘍を含むスライス画像として、図7に示した。[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2はHER2高発現腫瘍組織への集積を認めたが、HER2低発現腫瘍組織では集積を認めなかった。なお、[111In]標識Trastuzumab-1は尾に非特異的な集積が認められるが、これは投与時に一部の溶液が血管外に漏出したためである。
【0139】
[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2の投与後24時間、48時間のSPECT/CT画像を、腫瘍を含むスライス画像として、図8に示した。SPECT画像は[111In]標識Trastuzumab-1の投与後24時間点の撮像時刻を基準に減衰補正を実施し、スケール値を合わせて示した。[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2はHER2高発現腫瘍組織への集積を認めたが、HER2低発現腫瘍組織では集積を認めなかった。また、いずれの時間点にでもHER2高発現腫瘍組織への集積は[111In]標識Trastuzumab-1の方が[111In]標識Trastuzumab-2よりも高かった。
【0140】
[111In]標識Trastuzumab-1及び[111In]標識Trastuzumab-2をそれぞれ投与後6時間及び投与後4時間に撮像したSPECT/CT画像を、肝臓を含むスライス画像として、図9に表示した。投与早期の肝臓への集積は[111In]標識Trastuzumab-1と比較して[111In]標識Trastuzumab-2のほうが高かった。なお、肝臓の位置は上部が胸腔であることより判断した。
【0141】
[実施例9:ジクロロプロパノンによるSS架橋構造を持つIgG結合ペプチドの調製]
N末アセチル化RRC(Acm保護)-PEG4化合成ペプチドGPDCAYHXGELVWCTFH(配列番号2、Xはリジンで、C末端はアミド化)を、ペプチド合成ビーズ(Rink-amide-Chemmatrix resin、Biotage)上にて、Fmoc固相合成法により常法に従って合成した。樹脂からのペプチドの切り出し、脱保護を行った後、ペプチド(図10、a)を得た。得られたペプチド65mg(15.6μmol)を6 M Gn・HClを含むリン酸緩衝液 (pH =7.3)5 mLに溶解し、これにアセトニトリル120μLに溶解した1, 3-Dichloro-2-propanone (2.9 mg, 23.4 μmol, 1.5等量モル)を加えて、室温で攪拌した。1時間後、HPLC分析によって反応の終了を確認し、反応溶液を直接HPLCにて精製することによって、環化ペプチド(図10、b、33 mg、7.8 μmol、収率50%)を得た。この環化ペプチドに対して、90%酢酸水溶液(8.8 mL)に懸濁した酢酸銀(30.8 mg, 184.5 μmol)を加えて、室温下、遮光で5時間攪拌した。ジチオスレイトール(DTT:352 mg, 2.3 mmol)を加え、生じた沈殿を遠心分離によって除去し、得られた上清をHPLCによって、精製することで、環化ペプチド(図10、c、20.5 mg、5.2 μmol、収率67%)を得た。
【0142】
[実施例10:放射性金属核種によるIgG結合ペプチドの標識及びこれを用いた癌の検出2]
<方法>
1)デフェロキサミン含有IgG結合ペプチドの作製
N末のアミノ基をデフェロキサミン-tetra(tBu)ester(CheMatech社製)で修飾したアミノPEG4化IgG結合ペプチドGPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号37、分子内の2つのCysはSS結合を形成、C末端はアミド化)はFmoc固相合成法により常法に従って合成した。脱保護後、精製したデフェロキサミン-IgG結合ペプチドをDMSO40μL(18mM)に溶解した。ペプチド溶液へアセトニトリルに溶解したDSG(500mM)40μLとピリジン0.5μL(最終濃度0.6%)を加え、50℃で3時間反応させた。全量を0.1%TFAを含む15%アセトニトリル10mlに希釈し、遠心後の上清を、InertSustain(登録商標) C18 カラム(6.0×250mm, GL Science)にインジェクションし、0.1%TFAを含む10%から66%までのアセトニトリルのグラジエントで溶出した。溶出物の質量分析を行い、目的物(DSG修飾デフェロキサミン-PEG4化IgG結合ペプチド)を回収後、溶媒を除去し、その後凍結乾燥した。
【0143】
2)デフェロキサミン含有IgG結合ペプチドをTrastuzumabに結合させた、放射性核種標識抗体「デフェロキサミン修飾Trastuzumab」の作製
上記1)で調製したDSG修飾デフェロキサミン-PEG4化IgG結合ペプチドを13mMの濃度でDMSO中に溶解した溶液10μLと、10mM酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解した22μMの抗HER2ヒト抗体(Trastuzumab)(中外製薬)1mLを混合し、室温で2時間反応(ペプチドと抗体のモル比=6:1)させた。このようにして調製したデフェロキサミン修飾ヒト抗体(抗体薬物複合体,ADC)は、陰イオン交換カラムQA-825(8.0mm×75mm, Shodex)にて、10mMトリス塩酸緩衝液(pH7.0)を含む0Mから0.5MまでのNaClのグラジエント溶出にて精製した。未反応の抗体以外の2本のピーク(ピークA,B)を分取後、Vivaspin(登録商標)(10000Daカットオフ,Sartorius)上で、3000gで遠心することによって脱塩濃縮を行った。得られたサンプルは、MALDI-TOF-MAS autoflex speed TOF/TOF-KG(Bruker Daltonics)で質量を測定し、ピークAが元の抗HER2ヒト抗体に比べ2716(理論値2722)、ピークBが元の抗HER2ヒト抗体に比べ5398(理論値5444)増えていることから、デフェロキサミンが付加されたデフェロキサミン-PEG4化IgG結合ペプチドが、それぞれTrastuzumabに1分子または2分子導入されていることを確認した。
【0144】
3)デフェロキサミン修飾Trastuzumabの89Zr標識及び精製
89Zrを200MBq/200μLになるように、1Mシュウ酸溶液に溶解した。マイクロチューブに200μLの89Zr -シュウ酸溶液、90μLの2M炭酸ナトリウムを加え、室温で3分間放置した。3分間放置した後のマイクロチューブに、撹拌しながら1030μLの5mg/mLゲンチジン酸含有0.5M HEPES緩衝液(pH7.1-7.3)を加えた。この溶液650μLに、上記2)で調製したデフェロキサミン修飾Trastuzumab(1価または2価)300μLを加え混和し、反応バイアル中の反応液のpHがpH6.8-7.2であることをpH試験紙で確認した。pH確認後、1時間室温にて反応させた。その後、PD-10カラムを20mLの5mg/mLゲンチジン酸含有0.25M酢酸ナトリウム(pH5.4-5.6)で溶媒交換した後、89Zr標識溶液をPD-10カラム(GEヘルスケア)に付した。1.5mLの5mg/mLゲンチジン酸含有0.25M酢酸ナトリウム(pH5.4-5.6)を加え、溶出液を廃棄した。2mLの5mg/mLゲンチジン酸含有0.25M酢酸ナトリウム(pH5.4-5.6)を加え溶出液を0.2mLずつ分取した。放射能を含む分画を集め、限外ろ過用遠心カラム(Amicon Ultra、メルクミリポア社製)による濃縮操作を行った。逆相修飾シリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)プレート、TLCシリカゲル 60 RP-18 F254s(メルクミリポア)を用い、50mM EDTA(pH5.0)を展開溶媒として、89Zr標識溶液を展開した。展開後のTLCプレートをイメージングプレート(富士フィルム)に曝露し、フルオロ・イメージアナライザー(FLA-7000、GEヘルスケア社製)でオートラジオグラムを取得した。得られたオートラジオグラムの原点のピーク面積の割合から、[89Zr]標識Trastuzumab(1価または2価)の放射化学純度[%]を算出した。
【0145】
4)89Zr標識Trastuzumabの投与及びPETイメージング
マウス(BALB/c-nu/nu、雌、13週齢)の左右下肢にSK-OV-3(HER2高発現細胞株)及びMDA-MB-231(HER2低発現細胞株)(いずれもAmerican Type Culture Collectionから入手)を移植した担癌モデルを作製し、PETイメージングを行った。PETイメージングには上記3)に従って調製した2種類の[89Zr]標識Trastuzumab(Trastuzumab1分子に対してデフェロキサミン結合ペプチド1分子又は2分子を修飾したもの)を使用した。なお抗体1分子内にデフェロキサミンを1分子有するものを[89Zr]標識Trastuzumab-1、2分子有するものを[89Zr]標識Trastuzumab-2とした。
【0146】
[89Zr]標識Trastuzumab-1溶液または[89Zr]標識Trastuzumab-2溶液をモデル尾静脈から投与した。投与後6時間以降よりPETカメラ(製品名:Clairvivo(登録商標)PET)での撮像を実施した。その後、投与後24時間及び48時間の時点で撮像を実施した。PET画像の再構成法には3D-DRAMA法を用いた。
【0147】
表7に、in vivo実験に用いたモデルの詳細、及び投与した[89Zr]標識Trastuzumab-1、[89Zr]標識Trastuzumab-2の情報をまとめた。
【0148】
【表7】
【0149】
表8に、各時間点における撮像時間を示した。各時間点の撮像時間設定には、各標識体の投与量及び放射能の減衰を考慮した。
【0150】
【表8】
【0151】
<結果>
[89Zr]標識Trastuzumab-1及び[89Zr]標識Trastuzumab-2をそれぞれ投与後6、24及び48時間に撮像したPET画像を、腫瘍を含むスライス画像として、図11に示した。図11に示される通り、[89Zr]標識Trastuzumab-1及び[89Zr]標識Trastuzumab-2は、HER2低発現腫瘍組織と比較して、HER2高発現腫瘍組織への高い集積を認めた。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明のIgG結合ペプチドは放射性金属核種に容易に結合させることできるので、放射性金属核種によってIgGを特異的かつ簡便に、かつその機能を損なうことなく標識することができる。放射性金属核種によって標識されたIgGは、癌の診断に用いることができる。
【0153】
本発明はまた、要約すると以下の特徴を有する。
(1) 下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種と結合し得るリガンドを含む、ペプチド。
(2) 下記の式I:
(X1-3)-C-(X2)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (I)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種で標識された、ペプチド。
(3) 放射性金属核種が、111In、89Zr、64Cu、67/68Ga、及び99mTcからなる群から選択される、(1)又は(2)に記載のペプチド。
(4) 放射性金属核種が、リガンドを介してペプチドに結合している、(2)又は(3)に記載のペプチド。
(5) 前記リガンドが、N末端に連結されている、(1)又は(4)に記載のペプチド。
(6) 前記リガンドが、キレート剤である、(1)、(4)又は(5)に記載のペプチド。
(7) 前記キレート剤が、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、デフェロキサミン、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-テトラ酢酸(DOTA)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)からなる群から選択される、(6)に記載のペプチド。
(8) 放射性金属核種とリガンドの組み合わせが、111InとDTPA、89Zrとデフェロキサミン、及び64CuとDOTA又はNOTAからなる群から選択される、(4)又は(5)に記載のペプチド。
(9) 下記の式II:
(X1-3)-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (II)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Xaa3はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、かつ
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む、(1)~(8)のいずれかに記載のペプチド。
(10) 下記の式III:
(X1-3)-C-A-Y-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-(X1-3) (III)
(式中、Xの各々は独立的にシステイン以外の任意のアミノ酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Aはアラニン残基であり、
Yはチロシン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、又はグルタミン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、かつ
Wはトリプトファン残基である。)
によって表される、13~17アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む、(9)に記載のペプチド。
(11) 17アミノ酸残基とした場合の、N末端から1~3、15~17番目の各アミノ酸残基が、
1番目のアミノ酸残基= S、G、F、R又は、なし
2番目のアミノ酸残基= D、G、A、S、P、ホモシステイン、又は、なし
3番目のアミノ酸残基= S、D、T、N、E又はR、
15番目のアミノ酸残基= S、T又はD、
16番目のアミノ酸残基= H、G、Y、T、N、D、F、ホモシステイン、又は、なし、
17番目のアミノ酸残基= Y、F、H、M又は、なし
である、(1)~(10)のいずれかに記載のペプチド。
(12) 以下の1)~14)のいずれかのアミノ酸配列からなる、ただし、Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、以下の14)においてXaa2はホモシステインである、(9)に記載のペプチド。
1)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(配列番号1)
2)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号2)
3)RCAYH(Xaa1)GELVWCS(配列番号3)
4)GPRCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号4)
5)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号5)
6)GDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号6)
7)GPSCAYH(Xaa1)GELVWCTFH(配列番号7)
8)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCSFH(配列番号8)
9)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTHH(配列番号9)
10)GPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号10)
11)SPDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号11)
12)SDDCAYH(Xaa1)GELVWCTFY(配列番号12)
13)RGNCAYH(Xaa1)GQLVWCTYH(配列番号13)
14)G(Xaa2)DCAYH(Xaa1)GELVWCT(Xaa2)H(配列番号36)
(13) 下記の式IV:
D-C-(Xaa3)-(Xaa4)-H-(Xaa1)-G-(Xaa2)-L-V-W-C-T (IV)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Hはヒスチジン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Gはグリシン残基であり、
Xaa2はグルタミン酸残基、グルタミン残基又はアスパラギン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Vはバリン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa3はアラニン残基又はトレオニン残基であり、かつ、
Xaa4はチロシン残基又はトリプトファン残基である。)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含む、(1)~(9)のいずれかに記載のペプチド。
(14) 下記の式V:
D-C-(Xaa2)-(Xaa3)-(Xaa4)-(Xaa1)-G-(Xaa5)-L-(Xaa6)-W-C-T (V)
(式中、
Dはアスパラギン酸残基であり、
Cはシステイン残基であり、
Gはグリシン残基であり、
Lはロイシン残基であり、
Wはトリプトファン残基であり、
Tはトレオニン残基であり、
Xaa1はリシン残基、システイン残基、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸であり、
Xaa2はアラニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa3はトリプトファン残基又はチロシン残基であり、
Xaa4はヒスチジン残基、アルギニン残基、セリン残基又はトレオニン残基であり、
Xaa5はグルタミン酸残基、グルタミン残基、アスパラギン残基、アルギニン残基、又はアスパラギン酸残基であり、かつ
Xaa6はイソロイシン残基又はバリン残基である)によって表される、13アミノ酸残基からなるアミノ酸配列を含み、かつヒトIgGと結合可能であり、かつ放射性金属核種がリガンドを介して結合している、ペプチド。
(15) ペプチドが外側の2つのシステイン(C)残基間でジスルフィド結合を形成しているか、又はペプチドの外側の2つのシステイン残基中のスルフィド基が、以下の式:
【化5】
で表されるリンカーにより連結されている、(1)~(14)のいずれかに記載のペプチド。
(16) (1)~(15)のいずれかに記載のペプチドにおいて、N末端がPEG化及び/又はC末端がアミド化されている、(1)~(15)のいずれかに記載のペプチド。
(17) Xaa1がリシン残基である、(1)~(16)のいずれかに記載のペプチド。
(18) Xaa1が架橋剤で修飾されている、(1)~(17)のいずれかに記載のペプチド。
(19) 前記架橋剤が、DSG(ジスクシンイミジルグルタレート)、DSS(ジスクシンイミジルスベレート)、DMA(アジプイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMP(ピメルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DMS(スベルイミド酸ジメチル二塩酸塩)、DTBP(3,3'-ジチオビスプロピオンイミド酸ジメチル二塩酸塩)、及びDSP(ジチオビススクシンイミジルプロピオン酸)からなる群より選択される、(18)に記載のペプチド。
(20) 前記架橋剤がDSG(ジスクシンイミジルグルタレート)又はDSS(ジスクシンイミジルスベレート)である、(19)に記載のペプチド。
(21) GPDCAYHKGELVWCTFH(配列番号37、分子内の2つのCys(C)はSS結合を形成)のアミノ酸配列からなる、(17)~(20)のいずれかに記載のペプチド。
(22) ペプチドとIgGとの複合体であって、架橋剤で修飾されている、(18)~(21)のいずれかに記載のペプチドとIgGの架橋反応によって形成される、前記複合体。
(23) 放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)~(21)のいずれかに記載のペプチド又は(22)に記載の複合体を含む、核医学画像診断剤又は癌の診断剤。
(24) 被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
被験体から得られたサンプルに、放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)~(21)のいずれかに記載のペプチド又は(22)に記載の複合体を反応させる工程、
サンプル中の放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法。
(25) 被験体の癌の罹患の有無を決定する方法であって、
放射性金属核種がペプチドに結合している、(2)~(21)のいずれかに記載のペプチド又は(22)に記載の複合体を、被験体に投与する工程、
被験体において、放射性金属核種に由来する放射能のレベル又は存在を測定する工程、及び
放射能のレベル又は存在に基づいて、被験体の癌の罹患の有無を決定する工程、
を含む、方法。
【0154】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0155】
配列番号1~28、32、35: IgG結合ペプチド。Xaaはリシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である。
配列番号33、34、37: IgG結合ペプチド。
配列番号31: IgG結合ペプチド。2位及び16位のXaaはホモシステインである。
配列番号36: IgG結合ペプチド。2位及び16位のXaaはホモシステインである。8位のXaaはリシン、システイン、アスパラギン酸、グルタミン酸、2-アミノスベリン酸、又はジアミノプロピオン酸である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【配列表】
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