(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】複合ベアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16C 19/50 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
F16C19/50
(21)【出願番号】P 2017019928
(22)【出願日】2017-01-19
【審査請求日】2019-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】392017222
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 信彦
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第1284704(FR,A1)
【文献】特開平4-370411(JP,A)
【文献】特開2011-85153(JP,A)
【文献】実開昭61-30720(JP,U)
【文献】実開昭55-40213(JP,U)
【文献】実開昭52-65744(JP,U)
【文献】特開2000-337368(JP,A)
【文献】特開平3-223518(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116753(WO,A1)
【文献】特開2000-27857(JP,A)
【文献】特開昭59-29817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 19/00-19/56
F16C 32/00-32/06
F16C 33/00-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状に構成された外輪及び内輪の間に、複数の転がり軸受からなる主転がり軸受列を備えたベアリング装置において、前記転がり軸受の各々が周長を同じくする2点において外輪及び内輪とそれぞれ接
し、
前記主転がり軸受列と外輪との間及び前記主転がり軸受列と内輪との間にそれぞれ軸受緩
衝部材を設け、前記転がり軸受の各々が外輪及び内輪と前記各軸受緩衝部材とも接し、
前記主転がり軸受列と前記外輪との間、及び前記主転がり軸受列と前記内輪との間にそれ
ぞれ補助軸受機構を設け、前記補助軸受機構の各々が前記軸受緩衝部材を介して前記主転
がり軸受列と接していることを特徴とする複合ベアリング装置。
【請求項7】
前記補助軸受機構が
軸長方向に2列配置されていることを特徴とする請求項1乃至
6のいずれかに記載の複合ベアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷能力を改善した複合ベアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転体に対する軸受装置としてボールベアリングは広く使用されている。一般的にボールベアリングは、内輪と呼ばれる内側表面部材と外輪と呼ばれる外側表面部材との間に複数のボール(球体)を設けた構成となっており、個々のボールは内輪及び外輪とそれぞれ点接触するため転がり抵抗が少なく高速回転に耐えられるため、高回転の軸に対する軸受に適している。一方で、個々のボールが内輪及び外輪とそれぞれ点接触するということは、接触面積が少ないという負の側面も持っている。すなわち、軸受としての負荷荷重は小さくならざるを得ない。
【0003】
このようなボールベアリングの特徴を考慮して、種々の改良がなされてきている。例えば特許文献1の完全転式ボールベアリングでは、(イ) 軸受の内側の面に平行に掘られた同型の二本の溝に第1列目の球体を二つ一組で三組以上を同間隔に配置する。(ロ) 球体の各組の狭間であり尚且つ溝の中間にあたる位置に、軸受に触れないように球体の二分の一の数の別の第2列目の球体を配置する。(ハ) 第2列目の球体に触れ合う形で一本の溝が外側の面に掘られた中心軸を配置する。以上のような構成が開示されている。この技術の目的はベアリングの摩擦による熱を抑制することである。この技術では個々の球体が複数の点において他の部材と接触するため、個々の接触点における負荷を分散することはできるが、球体同士を適切な間隔で配置することが難しいため、実際の製造において難点がある。
【0004】
特許文献2においては、中央に軸方向に貫通する貫通ホールが形成される内輪と、内輪に被装する少なくとも一組の玉保持リングと、両玉保持リングの相対側面に夫々形成される玉保持面と、両玉保持面内に挟入される複数のボールから成るボール組みと、両玉保持リングの外側面に設けられ、両玉保持リングと共にボールを位置止めする外輪とを有することを特徴とする、ボールの列数を増減できるボールベアリング構造が提案されている。この技術では、内輪と外輪との間のボールの列数を増減することにより耐荷重性を調節することを目的としている。しかし、実際に装置に装着した後にボールの列数を増減することは難しく、また、ボールの列数を増やすためには内輪の厚さを厚くしておかなければならないため、使用できる箇所が制限されるという問題がある。
【0005】
さらに特許文献3においては、内面がボール案内面に形成されたボール収容部を有し、かつ、複数の開口を有するハウジングと、該ハウジングの前記案内面に沿って回転自在に配列される複数の小ボールと、前記ハウジングの前記ボール収容部に、一の前記開口から突出する状態に収容されるとともに前記小ボールによって回転自在に支持され、接触する移動体を自身の回転によって移動可能に支持する大ボールと、前記ハウジングにおける他の前記開口から露出する前記大ボールの開放面に対向して配設され、該大ボールの回転状態を検知する検知手段と、を備えることを特徴とするフリーボールベアリング装置が開示されている。この技術は通常の円環状のボールベアリング装置ではなく、板状のハウジング上に多数のボールベアリングが配置されたフリーボールベアリング装置についてのものである。このようなフリーボールベアリング装置では、個々のボールベアリングは片側の一点において荷重物体に接することになる。この技術において複数の小ボールを個々の大ボールの周囲に配置しているが、これは荷重を分散させるためではなく、大ボールの情報すなわち、回転速度、回転角度、回転方向等を検知するためである。
【0006】
【文献】特開2000-337369号公報
【文献】特開2001-165156号公報
【文献】特開2013-72544号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的なボールベアリング装置では、ボールが内輪及び外輪とそれぞれ周長の同じ箇所でしか接することができない。これは、周長の異なる点で接した場合、それらの接点における速度が異なってしまうため、滑りが発生しない限り、ボールが回転することができない。従って、ボールベアリング装置として機能しなくなる。
【0008】
本発明による複合ベアリング装置では、主転がり軸受に対する接点を増やすことにより滑りを防止し、また耐荷重性を改善できるベアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため本発明による複合ベアリング装置は、円環状に構成された外輪及び内輪の間に、複数の転がり軸受からなる主転がり軸受列を備えたベアリング装置において、前記転がり軸受の各々が周長を同じくする2点において外輪及び内輪とそれぞれ接し、前記主転がり軸受列と外輪との間及び前記主転がり軸受列と内輪との間にそれぞれ軸受緩衝部材を設け、前記転がり軸受の各々が外輪及び内輪と前記各軸受緩衝部材とも接し、前記主転がり軸受列と前記外輪との間、及び前記主転がり軸受列と前記内輪との間にそれぞれ補助軸受機構を設け、前記補助軸受機構の各々が前記軸受緩衝部材を介して前記主転がり軸受列と接していることを特徴とする。
【0010】
前記主転がり軸受列の各々が球または回転対称体であることが好ましく、回転対称体の場合は楕円回転体またはその一部であることがより好適である。
【0011】
前記補助軸受機構は、ボールベアリング列、ニードルベアリング列、滑り軸受列のいずれかであることが望ましく、補助軸受機構の列数は単数であっても複数であってもかまわない。
【発明の効果】
【0012】
本発明による複合ベアリング装置では、主転がり軸受列と外輪との間及び前記主転がり軸受列と内輪との間にそれぞれ補助軸受機構を設けたことにより、主転がり軸受の各々における接点箇所の周長の違いに起因する滑り摩擦を低減して発熱を抑制し、また各々の主転がり軸受接点箇所を増加させることによって耐荷重性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施態様について説明する。
図1に本発明による複合ベアリング装置の第1の実施例を示した。この実施例においては、円環状の内輪10と外輪20との間に、複数の主転がり軸受30としてボールベアリング列を設けている。さらに、この主転がり軸受列の外側と内側とにそれぞれ、複数の補助ボール40,50からなる補助軸受列を設けている。主転がり軸受30とそれぞれの補助ボール40,50との間には補助軸受緩衝部材42,52を配置し、それぞれの補助ボール40,50と
内輪10及び外輪20との間には、補助軸受支持部材41,51を配置した。補助軸受緩衝部材42,52はそれぞれ、内輪10及び外輪20に対して空隙を持って配置され、主転がり軸受30と補助ボール40または50のみに接している。この構成により、それぞれの補助ボール40,50は、補助軸受緩衝部材42,52と補助軸受支持部材41,51とにより、回転自在に保持されている。また、補助軸受緩衝部材42,52はそれぞれ、回転自在に保持されている。補助軸受支持部材41,51はそれぞれ、内輪10または外輪20に固定されている。
【0014】
この実施例において主転がり軸受30は外側において、周長の等しい2点で外輪20に接しており、また補助軸受緩衝部材52を介して補助ボール50に接続されている。さらに主転がり軸受30は内側において、周長の等しい2点で内輪10に接しており、また補助軸受緩衝部材42を介して補助ボール40に接続されている。
【0015】
上記実施例において、主転がり軸受30は周長の等しい2点で外輪20に接しているため、外輪20に対しては滑りなく外輪20の回転に応じた速度で回転できる。また、主転がり軸受30は周長の等しい2点で内輪10にも接しているため、やはり滑りなく内輪10の回転に応じた速度で回転できる。従って、荷重が小さい場合は主転がり軸受30と内輪10および外輪20との接触により、本実施例はボールベアリング装置として機能する。
【0016】
一方で、主転がり軸受30は補助軸受緩衝部材52を介して補助ボール50に接続されている。補助ボール50は補助軸受緩衝部材52を介して主転がり軸受30に対して回転自在に支持されており、補助ボール50は補助軸受支持部材51を介して外輪20に対して回転自在に支持されている。また、補助軸受緩衝部材52は空隙により外輪20からは独立している。このため、補助ボール50と補助軸受緩衝部材52の両方が外輪20及び主転がり軸受30に対して相応速度で回転し、外輪20と主転がり軸受30との間で一定の荷重を支持する。
【0017】
同様に、主転がり軸受30は補助軸受緩衝部材42を介して補助ボール40に接続されている。補助ボール40は補助軸受緩衝部材42を介して主転がり軸受30に対して回転自在に支持されており、補助ボール40は補助軸受支持部材41を介して内輪10に対して回転自在に支持されている。また、補助軸受緩衝部材42は空隙により内輪10からは独立している。このため、補助ボール40と補助軸受緩衝部材42の両方が内輪10及び主転がり軸受30に対して相応速度で回転し、内輪10と主転がり軸受30との間で一定の荷重を支持する。
【0018】
結果的に、外輪20と内輪10とにかかる荷重は、主転がり軸受30との直接接触点を通じてばかりでなく、補助ボール40及び50を通じても支持されるため、各接点における荷重が分散され軽減される。従って、耐荷重性が向上することになる。
【0019】
図2には、本発明による複合ベアリング装置の第2の実施例を示した。第1の実施例と異なるのは補助軸受であり、第1の実施例において配置されていた補助ボール40,50を補助ニードル43,53に置き換えたものである。補助軸受の形状が変わったことにより、補助軸受緩衝部材42,52及び補助軸受支持部材41,51の形状も変える必要がある。
図2の実施例においては円筒状の補助ニードル43,53を用いたが、中央部の直径を大きくしたいわゆる太鼓型のニードルを使用することも可能である。
【0020】
図3には、本発明による複合ベアリング装置の第3の実施例を示した。この実施例においては実施例1や2において使用した補助ボールや補助ニードルを省略し、補助軸受緩衝部材42,52と補助軸受支持部材41,51との滑りを利用している。実施例1や2ほどの高速の回転は摩擦が大きくなるため困難であるが、低回転においては十分に荷重の分散を担うことができる。
【0021】
図4には、本発明による複合ベアリング装置の第4の実施例を示した。第1の実施例と異なるのは主転がり軸受30であり、ボールベアリングの代わりに楕円回転体を用いた。また、この楕円回転体の代わりに上下を水平に切り取った部分楕円回転体を用いることも可能である。
【0022】
図5には、本発明による複合ベアリング装置の第5の実施例を示した。この実施例は、
図1に示した第1の実施例の補助ボールを上下2段にしたものである。
図1においては主転がり軸受30は上下の接点において内輪10及び外輪20に接していたが、この実施例では中央部において接している。そして、補助軸受緩衝部材、補助ボール及び補助軸受支持部材のセットを外輪20との接点部の上下(52A,50A,51A;52B,50B,51B)及び、内輪10との接点部の上下(42A,40A,41A;42B,40B,41B)に設けている。原理は、第1の実施例とほぼ同じである。
【0023】
図6には、本発明による複合ベアリング装置の第6の実施例を示した。この実施例は、
図2に示した第2の実施例の補助ニードルを上下2段にしたものである。
【0024】
図7には、本発明による複合ベアリング装置の第7の実施例を示した。この実施例は、
図3に示した第3の実施例の補助軸受緩衝部材と補助軸受支持部材のセットを上下2段にしたものである。
【0025】
図8には、本発明による複合ベアリング装置の第8の実施例を示した。この実施例は、
図4に示した第4の実施例の補助軸受緩衝部材と補助軸受支持部材のセットを上下2段にしたものである。
【0026】
以上、実施例に基づいて本発明の好適な実施態様について述べたが、本発明の精神を逸脱しない範囲において多くの改変をなしうることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明による複合ベアリング装置では、主転がり軸受列と外輪との間及び前記主転がり軸受列と内輪との間にそれぞれ補助軸受機構を設けたことにより、主転がり軸受の各々における接点箇所の周長の違いに起因する滑り摩擦を低減して発熱を抑制し、また主転がり軸受の各々の接点箇所を増加させることによって耐荷重性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明による複合ベアリング装置の第1の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図2】本発明による複合ベアリング装置の第2の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図3】本発明による複合ベアリング装置の第3の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図4】本発明による複合ベアリング装置の第4の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図5】本発明による複合ベアリング装置の第5の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図6】本発明による複合ベアリング装置の第6の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図7】本発明による複合ベアリング装置の第7の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【
図8】本発明による複合ベアリング装置の第8の実施例を示す。(a)は断面図、(b)はA-A面における部分断面図である。
【符号の説明】
【0029】
10 内輪
20 外輪
30 主転がり軸受
40、40A、40B 内側補助ボール
41、41A、41B 内側補助軸受支持部材
42、42A、42B 内側補助軸受緩衝部材
43、43A、43B 内側補助ニードル
50、50A、50B 外側補助ボール
51、51A、51B 外側補助軸受支持部材
52、52A、52B 外側補助軸受緩衝部材
53、53A、53B 外側補助ニードル