(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】コンクリート中性化試験に用いる測定スケール及び中性化深さの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2018172628
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】518330497
【氏名又は名称】有限会社環境リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100152180
【氏名又は名称】大久保 秀人
(72)【発明者】
【氏名】伊波 亜希子
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-159582(JP,A)
【文献】特開2002-040013(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02263828(EP,A1)
【文献】特開昭63-191045(JP,A)
【文献】特開2005-233819(JP,A)
【文献】特開2001-269312(JP,A)
【文献】特開2010-230383(JP,A)
【文献】特許第6343054(JP,B1)
【文献】実開昭63-060901(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの中性化の深さを測定するための測定スケールであって、
一端に切り込みが設けられた一枚のシート状の形態からなり、
その表面または裏面のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、
透明の材質からなる測定スケールを、
シート状の測定スケールを円筒形にしたときに切り込み部分を外周方向に折ることで、
削孔の孔縁にひっかけられる傘を作ることができる
ことを特徴とする測定スケール。
【請求項2】
コンクリートの中性化の深さを測定するための測定治具であって、
ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、
ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、
ガイドに固定された前記の測定スケールと、
からなり、
削孔内に、請求項
1の測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入することで、
ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、同じ距離感で、中性化の状態を撮影し、中性化の深さを測定できる
ことを特徴とする測定治具。
【請求項3】
コンクリートの中性化の深さを測定するための測定治具であって、
ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、
ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、
ガイドに固定された前記の測定スケールと、
からなり、
ホルダーには、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔が、ホルダーの中心軸に沿って形成されていることで、
削孔内に、請求項
1の測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入した際に、
ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて中性化の深さを、360度同じ距離感で撮影し、測定できる
ことを特徴とする測定治具。
【請求項4】
コンクリートの中性化の深さを測定するための測定治具であって、
ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、
ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、
ガイドに固定された前記の測定スケールと、
からなり、
ホルダーには、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔が、ホルダーの中心軸に沿って形成され、
ホルダーの外周には、ガイドに埋め込まれたボールプランジャの先端のボールがスプリングの付勢によって押付けられることで嵌る係合溝が、ホルダーの長軸方向に1以上形成されていることで、
削孔内に、請求項
1の測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入した際に、
撮影の方角を係合溝が形成された方角に固定でき、
ホルダーの長軸方向において、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できる
ことを特徴とする測定治具。
【請求項5】
コンクリートの中性化の深さを測定する測定方法であって、
被測定構造物であるコンクリートの削孔内に、
請求項
1の測定スケールを、測定スケールの傘を孔縁に合わせるように挿入することで、
フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を、
中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたり測定できる
ことを特徴とする測定スケールを使った測定方法。
【請求項6】
コンクリートの中性化の深さを測定する測定方法であって、
被測定構造物であるコンクリートの削孔内に、
請求項
2乃至
4の測定治具に固定された測定スケールを挿入してから測定治具のホルダーを挿入することで、
ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、
フェノールフタレイン溶液によって呈色した中性化の状態を、削孔内の内表面を全周にわたって撮影し、
さらに、発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたって測定できる
ことを特徴とする測定スケールを使った測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定構造物であるコンクリートの中性化状態を調べるための中性化試験に用いられる測定スケールと中性化深さの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、大気中の二酸化炭素がコンクリート内部に侵入して炭酸化反応を引き起こすことで、pHが10程度に低下する中性化現象が起きることが知られているが、コンクリート構造物は、この中性化現象が、時間の経過とともに、壁の表面から内部に向かって進行するため、例えば、コンクリート中に鉄筋等の鉄鋼材料が埋設されている場合、コンクリートの中性化が鉄筋材料まで到達すると、鉄筋表面の水酸化物の皮膜が破壊され、酸素と水が加わることで鉄筋は腐食する。鉄筋が腐食すると、発錆により体積膨張が生じるため、その結果、コンクリートは、鉄筋まで貫通するひび割れが発生するが、さらにそのひび割れの空隙から、酸素と水が直接鉄筋に供給されることになるため、腐食がさらに進行し、最終的にはコンクリートは剥落することになるため、コンクリートの耐久性が低下する。そのため、中性化の状態を調べることは、コンクリートの耐久性を管理するうえで極めて重要である。
【0003】
中性化の状態は、フェノールフタレイン溶液を使うことで調べることができ、コンクリートにフェノールフタレイン溶液を噴霧すると、アルカリ性を示す領域が赤紫色に変化し、中性を示す領域は無色であることから、コンクリート表面から赤色に変化した領域までの距離(無色の領域の距離)を、中性化した深さとして測定する。この測定方法としては、コンクリートのはつり面にフェノールフタレイン溶液を噴霧し、測定するはつり法や、コンクリート壁から円柱形状のコアを採取し、コア側面もしくはコアの割裂面にフェノールフタレイン溶液を噴霧し、測定するコア法、ドリルで削孔した際に採取できるコンクリートの粉を、フェノールフタレイン溶液を噴霧した濾紙に落下させて呈色を測定するドリル法などが知られている。
【0004】
このうち、コンクリート壁から円柱形状のコアを採取して中性化深さを測定するコア法は、JISに制定された方法であり、最も多用されている方法ではあるが、構造物を破壊する試験であるため、構造物の耐力低下を引き起こす可能性があり、中性化試験後に破壊した部分を修復するとしても、作業が面倒であり、コスト高につながるという問題があった。また、コア法は、一般的には、採取したコアを、現場ではなく、室内に持ち帰って測定するため、コア採取後は、ラッピングなどでコアの供試体を保護する必要があるほか、現場から持ち帰って測定する手間が面倒であった。
【0005】
そこで、特許文献1に、ドリルによって、コンクリート構造物の表面を所定深さまで削孔し、削孔されたドリル孔の内表面にフェノールフタレイン溶液を付着させ、ドリル孔内にノギスを挿入し、ハンドライトによってドリル孔の内部を照射すると共に、ノギスによって、フェノールフタレイン溶液の発色部と非発色部との境界の位置からドリル孔の開口端の位置までの距離を測定して、中性化深さを測定する方法が開示されている。この方法によれば、削孔の直径が小さいため、構造物に与える影響が少なく、鉄筋を切断する心配がない。そして、削孔後、すぐにドリル孔内にフェノールフタレイン溶液を噴霧し、その場で中性化の深さを測定できるため、低コストで迅速な測定が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されている発明は、中性化深さを、ハンドライトによってドリル孔の内部を照射したうえ、削孔内にノギスを挿入し、フェノールフタレイン溶液の発色部と非発色部との境界の位置からドリル孔の開口端の位置までの距離を、挿入したノギスの移動距離によって測定するとしているが、中性化の深さは、ドリル孔の内表面の全ての場所で同じではないため、測定するポイントによって中性化の深さが大きく異なることがあり、複数箇所の平均値をとるため、深くなると目視では測定が困難となる。この点、測定ポイントを増やすことで、この問題を解決できるが、その分、測定の手間がかかり、測定効率が下がり、コスト高につながってしまう。また、特許文献1には、先端に、コンクリート構造物の表面からドリルにより所定深さに削孔されたドリル孔の内表面に付着させたフェノールフタレイン溶液の発色部と非発色部との境界を目視するためのミラー及びドリル孔の内部を照射するためのライトが設けられた測定治具も開示されており、最適な測定ポイントを確認しながら測定できるようにはなっているが、中性化深さの数値しか残せない測定方法では、中性化の状態を十分に評価することはできない。さらに、ノギスによる測定は、数値読み取りであり、中性化の状態を評価するには十分とは言えない。
【0008】
そこで、本発明は、このような問題点に鑑み、ドリルによって空けた削孔内にフェノールフタレイン溶液を噴霧することで、削孔内の中性化の状態を映像として記録し、中性化の深さを測定する方法であり、ドリル孔の内表面の全ての場所で中性化の深さを正確に測定できる測定スケール及びこれを用いた測定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定するための測定スケールであって、円筒形の形態をなしており、その内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる、ことを特徴とする測定スケールである。
【0010】
本発明に係る測定スケールは、ドリル孔の削孔に収まる円筒形をなしている。この円筒形の測定スケールの内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる測定スケールを使うことで、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置を目盛りに重ねることで、中性化の深さを、発色部と非発色部の境界を確認しながら、適正な測定ポイントを選択し、中性化の深さを測定できるようにしたものである。なお、測定スケールの材質の透明度は、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界が分かる程度であればよい。測定は、目盛りの「0」の位置を、コンクリート表面、つまり削孔の孔縁に合わせることで、境界の位置に合致する目盛りを、そのまま中性化の深さとして測定できる。目盛りには、併せて数字を表示することで、深さを測定しやすくなる。また、目盛りは、全周にわたって表示することもできるし、測定個所に応じて、例えば、90度ずつの4か所にのみ表示することもできる。目盛りは、以下の発明においても同様である。
【0011】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定するための測定スケールであって、円筒形の形態をなした本体と、その上部に、削孔の孔縁にひっかかるように形成された傘とからなり、円筒形の本体の内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる、ことを特徴とする測定スケールである。
【0012】
本発明に係る測定スケールは、円筒形の本体上部に傘が形成されている。これにより、傘が削孔の孔縁にひっかかるため、削孔内に収めても、測定スケールが削孔内に埋没することがない。そして、中性化の深さを測定するための目盛りを、傘(削孔の孔縁)を基準にして表示しておくことで、目盛りの「0」の位置を孔縁に合わせる必要がなく、測定スケールを削孔内に埋入するだけで、中性化の深さを測定できる。
【0013】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定するための測定スケールであって、一端に切り込みが設けられた一枚のシート状の形態からなり、その表面または裏面のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる測定スケールを、シート状の測定スケールを円筒形にしたときに切り込み部分を外周方向に折ることで、削孔の孔縁にひっかけられる傘を作ることができることを特徴とする測定スケールである。
【0014】
本発明に係る測定スケールは、一枚のシート状のものを円筒形に変形させて使用するものである。一端に切り込みが設けられているため、円筒形に変形させた際、切り込み部分を外周方向に向けることで、削孔の孔縁にひっかかるように傘を作ることができる。これにより、傘が削孔の孔縁にひっかかるため、削孔内に収めても、測定スケールが削孔内に埋没することがない。そして、中性化の深さを測定するための目盛りを、傘の位置を基準にして表示することで、目盛りの「0」の位置を孔縁に合わせる必要がなく、測定スケールを削孔内に埋入するだけで、中性化の深さを測定できる。
【0015】
本発明は、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、ガイドに固定された前記の測定スケールと、からなり、削孔内に、測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入することで、ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、同じ距離感で、中性化の状態を撮影し、中性化の深さを測定できることを特徴とする測定治具である。
【0016】
本発明は、中性化の深さを、削孔内を撮影することで測定しようとするものであり、同時に、中性化の状態を、撮影した映像から確認するための測定治具である。ドリルで空けられた削孔内を撮影するためには、小さなレンズを有する細いケーブルを有するファイバースコープなどの撮影機器を使用する必要があるが、人の手で挿入すると、撮影した映像に手ブレが生じたり、ドリル孔の内表面からの距離感が、撮影ポイントによって異なってしまうおそれがある。そこで、本発明は、先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを筒状のホルダーで保持した状態で、ホルダーとともにレンズを削孔内に埋入させられるようにし、簡単に、削孔内にレンズを埋入させ、撮影できるようにしたものである。そして、削孔内にレンズを埋入させたときには、ガイドに固定されている測定スケールが削孔内に挿入されているから、撮影された映像から、中性化の深さを測定できる。なお、ガイドに固定する測定スケールは、ガイドとコンクリートが当接する位置が目盛りの「0」になるように、ガイドに固定しておけば、中性化の深さを正確に測定できる。
【0017】
ところで、特許文献1記載の発明は、削孔内に挿入されることがない外筒の表面に目盛りが表示されており、測定棒が削孔内に挿入されたときの摺動移動の移動距離を、この目盛りから測定することで、中性化の深さを測定するものであり、削孔の外で測定する。これに対し、本発明は、目盛りが表示された測定スケールが削孔内に埋入させているため、ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を削孔内に挿入させ、ケーブルの先端に取り付けられているレンズを通じて得られる映像をもとに、削孔内に埋入された測定スケールの目盛りから測定することで、中性化の深さを測定するものであるから、削孔の中で測
定する。そのため、両者は、削孔の外で測定するか、削孔の内で測定するかの点と、摺動移動の移動距離をもとに測定するか、撮影された映像をみて測定するかの点で、異なる。そして、これらの違いは、目盛りがどこに示されているかによって生じるが、特に、本発明は、削孔内の中性化の状態を視認できるように、削孔内を撮影し、さらに、撮影した映像から、中性化の深さも測定しようとするものであり、そのために、削孔内に測定スケールを埋入させている。つまり、本発明は、削孔内の中性化の状態を映像として記録するとともに、中性化の深さを測定するものであり、そのために、筒状のホルダーによって、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させた状態で、レンズを削孔内に埋入させられるようにしており、ホルダーの先端には、削孔内に埋入させる測定スケールが取り付けられた構成を採用している。
【0018】
本発明は、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、ガイドに固定された前記の測定スケールと、からなり、ホルダーには、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔が、ホルダーの中心軸に沿って形成されていることで、削孔内に、測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入した際に、ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて中性化の深さを、360度同じ距離感で撮影し、測定できることを特徴とする測定治具である。
【0019】
本発明は、削孔内の中性化の状態を映像として記録するとともに、中性化の深さを測定するものであり、そのために、筒状のホルダーによって、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを保持した状態で、レンズを削孔内に埋入させられるようにしており、ホルダーの先端には、削孔内に埋入させる測定スケールが取り付けられた構成を採用している。つまり、ドリルで空けられた削孔内を撮影するためには、小さなレンズを有する細いケーブルを有するファイバースコープなどの撮影機器を使用する必要があるが、人の手で挿入すると、撮影した映像に手ブレが生じたり、ドリル孔の内表面からの距離感が、撮影ポイントによって異なってしまうおそれがある。本発明は、先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを筒状のホルダーで保持した状態で、ホルダーとともにレンズを削孔内に埋入させられるようにし、簡単に、削孔内にレンズを埋入させ、撮影できるようにしたものであるが、レンズの位置によっては、ドリル孔の内表面からの距離感が一定でないと、中性化の状態を正確に撮影し、記録することができない。そこで、本発明は、ホルダーに形成した、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔を、ホルダーの中心軸に沿って形成することにした。これにより、ドリル孔の内表面からレンズまでの距離が一定に保たれ、中性化の状態を映像として記録する際に削孔内を360度同じ距離感で撮影できるようになる。
【0020】
本発明は、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための筒状のホルダーと、ホルダーとともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイドと、ガイドに固定された前記の測定スケールと、からなり、ホルダーには、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔が、ホルダーの中心軸に沿って形成され、ホルダーの外周には、ガイドに埋め込まれたボールプランジャの先端のボールがスプリングの付勢によって押付けられることで嵌る係合溝が、ホルダーの長軸方向に1以上形成されていることで、削孔内に、測定スケールを挿入してからホルダーを削孔内に挿入した際に、撮影の方角を係合溝が形成された方角に固定でき、ホルダーの長軸方向において、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できることを特徴とする測定治具である。
【0021】
ホルダーに形成した、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔を、ホルダーの中心軸に沿って形成することで、ドリル孔の内表面からレンズまでの距離が一定に保たれ、中性化の状態を映像として記録する際に、削孔内を360度同じ距離感で撮影できるようになるとしても、撮影の向きが、撮影ポイントごとに異なってしまうと、正確な中性化の状態を評価できなくなってしまう。そこで、本願発明は、撮影の方角を、撮影ポイントごとに異なることがないように、ガイドの外周に、ボールプランジャが嵌る係合溝を、ホルダーの長軸方向に沿って形成したものであり、これによって、撮影の方角を係合溝が形成された方角に固定でき、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できるようにしたものである。係合溝は、例えば、撮影の方角を90度ずつの4つの方角にする場合、係合溝を90度ずつ4か所形成する。これにより、撮影の方角を係合溝の向きに合わせて4つの方角に固定でき、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できる。なお、係合溝における「固定」とは、係合溝に、ガイドに埋め込まれたボールプランジャの先端のボールがスプリングの付勢によって押付けられることで嵌る状態を意味しているため、スプリングの付勢の強さによって固定される強さを変えることができる。
【0022】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定する測定方法であって、被測定構造物であるコンクリートの削孔内に、前記の測定スケールを挿入し、測定スケールの目盛りの「0」の位置を、コンクリート表面、つまり削孔の孔縁に合わせることで、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を、中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたり測定できることを特徴とする測定スケールを使った測定方法である。
【0023】
本発明のコンクリートの中性化の深さを測定する測定方法は、円筒形の形態をなし、その内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる測定スケールを使った測定方法である。測定スケールの目盛りの「0」の位置を、コンクリート表面、つまり削孔の孔縁に合わせることで、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を、中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたり測定できる。
【0024】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定する測定方法であって、被測定構造物であるコンクリートの削孔内に、前記の測定スケールを、測定スケールの傘を孔縁に合わせるように挿入することで、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を、中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたり測定できることを特徴とする測定スケールを使った測定方法である。
【0025】
本発明のコンクリートの中性化の深さを測定する測定方法は、内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示され、透明の材質からなる、本体上部に傘を有する円筒形の形態をなした測定スケール、または、一端に切り込みが設けられ、円筒形にすることで傘を作ることができるシート状の測定スケール、を使った測定方法である。測定スケールの傘部分を孔縁に合わせるように、削孔内に測定スケールを挿入するだけで、測定スケールの目盛りの「0」の位置が、コンクリート表面、つまり削孔の孔縁に合わせられるので、誰でも簡単に、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を、中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたり測定できる。
【0026】
本発明は、コンクリートの中性化の深さを測定する測定方法であって、被測定構造物であるコンクリートの削孔内に、前記の測定治具に固定された測定スケールを挿入してから測定治具のホルダーを挿入することで、ホルダーに保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、フェノールフタレイン溶液によって呈色した中性化の状態を、削孔内の内表面を全周にわたって撮影し、さらに、発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたって測定できることを特徴とする測定スケールを使った測定方法である。
【0027】
本発明のコンクリートの中性化の深さを測定する測定方法は、前記の測定治具に固定された測定スケールを挿入してから測定治具のホルダーを挿入することで、あらかじめホルダーに挿通して保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、フェノールフタレイン溶液によって呈色した中性化の状態を、削孔内の内表面を全周にわたって撮影し、さらに、発色部と非発色部の境界の位置までに合致する目盛りまでの距離を中性化の深さとして、削孔内の内表面を全周にわたって測定できる測定方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明にかかる測定スケールは、これまで説明した以外にも、さらに次の効果を奏する。ドリル孔に挿入するだけで測定ができるようになるため、塩化物用のドリル孔(深さ12cm程度)を利用して中性化の深さを測定すれば、現場作業の大幅な時間削減が可能になる。ドリル孔に挿入可能な、内視鏡やファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器を挿入し、削孔内でレンズを回転させることにより、ドリル孔の内表面を全周にわたって撮影できるため、データ保存が可能になるとともに、中性化深さの平均化を簡易に行うことができる。また、作業性も向上するため、少ない人員で全ての中性化の試験をすることもできる。さらに、従来の「ろ紙」を用いた中性化試験は風雨に影響されたが、本発明にかかる測定スケールを用いた測定方法は、気象の影響をほとんど受けずに測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】
図1の測定スケールの使用例を示す図である。
【
図3】傘を有する測定スケールの一実施例を示す図である。
【
図4】
図3の測定スケールを上方から見た図である。
【
図5】
図3の測定スケールの使用例を示す図である。
【
図6】シート状の測定スケールの一実施例を示す図である。
【
図7】
図6の測定スケールを上方から見た図である。
【
図8】
図6の測定スケールの使用例を示す図である。
【
図11】測定治具に測定スケールを固定した一実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、測定スケールの一実施例を示す図である。測定スケールは、ドリル孔の削孔に収まるように円筒形をなしている。円筒形の測定スケールの内側または外側のいずれかに、中性化の深さを測定するための目盛りが表示されている。測定スケールは、透明の材質からなり、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界の位置を目盛りに重ねることができる。それによって、測定スケールの筒の内側から、発色部と非発色部の境界を確認しながら、中性化の状態を観察し、適正な測定ポイントを選択したうえで、中性化の深さを測定できるほか、中性化深さの平均化も簡易に行うことができる。なお、測定スケールの材質の透明度は、フェノールフタレイン溶液によって呈色した発色部と非発色部の境界
が分かる程度であればよい。目盛りには、併せて数字を表示することもできる。また、目盛りは、全周にわたって表示することもできるし、測定個所に応じて、例えば、90度ずつの4か所にのみ表示することもできる。
【0031】
図2は、
図1の測定スケールの使用例を示す図である。測定スケール1を使用して測定するときは、目盛りの「0」の位置を、コンクリート2の表面、つまり削孔3の孔縁に合わせることで、境界の位置に合致する目盛りを、そのまま中性化の深さとして測定できる。
【0032】
図3は、傘を有する測定スケールの一実施例を示す図である。測定スケール1は、円筒形の形態をなした本体と、その上部に、削孔の孔縁にひっかかるように傘4が形成されている。
図4は、
図3の測定スケールを上方から見た図である。傘4は、円筒形の形態をなした本体の上部に、削孔の孔縁にひっかかるように円状に形成されている。傘4の形状は、削孔の孔縁にひっかかるような形状であればよく、菱形状、方形状、または一部だけが外周方向に延出した形状でもよい。
図5は、
図3の測定スケールの使用例を示す図である。傘4が削孔3の孔縁にひっかかるため、測定スケール1をコンクリート2の削孔3内に収めても、削孔3内に測定スケール1が埋没することがない。中性化の深さを測定するための目盛りを、傘4(削孔の孔縁)を基準にして表示しておくことで、目盛りの「0」の位置を孔縁に合わせる必要がなく、測定スケール1を削孔3内に埋入するだけで、中性化の深さを測定できる。
【0033】
図6は、シート状の測定スケールの一実施例を示す図である。測定スケール1は、一枚のシート状からなり、一端に切り込み5が設けられている。
図7は、
図6の測定スケールを上方から見た図である。一枚のシート状の測定スケール1を円筒形に変形させ、切り込み5部分を外周方向に向けることで、
図7のように、切り込み5部分が放射状に外周方向に延出した傘4が形成される。
図8は、
図6の測定スケールの使用例を示す図である。切り込み5部分が放射状に外周方向に延出した傘4が削孔3の孔縁にひっかかるため、削孔3内に収めても、測定スケール1が削孔3内に埋没することがない。中性化の深さを測定するための目盛りを、傘4(削孔の孔縁)の位置を基準にして表示することで、目盛りの「0」の位置を孔縁に合わせる必要がなく、測定スケール1を削孔3内に埋入するだけで、中性化の深さを測定できる。
【0034】
図9及び10は、測定治具の一実施例を示す図である。測定治具6は、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させて保持するための空洞が形成された筒状のホルダー7と、ホルダー7とともに撮影機器のケーブルの先端を、削孔3内に真っすぐ挿入させるための挿通孔が形成されたガイド8からなる。ホルダー7は、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔12がホルダー7の中心軸に沿って形成されている。これは、ドリルで空けられた削孔3内を撮影するためには、小さなレンズを有する細いケーブルを有するファイバースコープなどの撮影機器を使用する必要があるが、人の手で挿入すると、撮影した映像に手ブレが生じたり、削孔3の内表面からの距離感が、撮影ポイントによって異なってしまうおそれがあり、削孔3の内表面からの距離感が一定でないと、中性化の状態を正確に撮影し、記録することができないため、ファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを挿通させる挿通孔12を、ホルダー7の中心軸に沿って形成するようにしたものである。これにより、削孔3の内表面からレンズまでの距離が一定に保たれ、中性化の状態を映像として記録する際に削孔3内を360度同じ距離感で撮影できるようになる。しかし、削孔3の内表面からレンズまでの距離が一定に保たれ、中性化の状態を映像として記録する際に、削孔内を360度同じ距離感で撮影できるようになるとしても、撮影の向きが撮影ポイントごとに異なってしまうと、正確な中性化の状態を評価できなくなってしまう。そこで、ホルダー7の外周に、ガイド8に埋め込まれたボールプランジャ9の先端のボールがスプリングの付勢によって押付けられることで嵌る係合溝10が、ホルダー7の長軸方向に形成されている。これによって、撮影の方角を、係合溝10が形成された方角に固定でき、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できるようになる。係合溝10は、例えば、撮影の方角を90度ずつの4つの方角にする場合、90度ずつ4か所形成することで、撮影の方角を係合溝10の向きに合わせて4つの方角に固定できるから、常に同じ方角で、中性化の深さを、同じ距離感で撮影し、測定できる。なお、係合溝10における「固定」とは、係合溝10に、ガイドに埋め込まれたボールプランジャ9の先端のボールがスプリングの付勢によって押付けられることで嵌る状態を意味しているため、スプリングの付勢の強さによって固定される強さを変えることができる。固定用リング11は、ホルダー7に挿通させたファイバースコープなどの先端にレンズが取り付けられた撮影機器のフレキシブルなケーブルをホルダー7に固定するためのもので、螺子のように螺動させ、締めるように固定してもできるし、単にガイド8側に押し込んで押さえつけるように固定することもできる。
【0035】
図11は、測定治具に測定スケールを固定した一実施例を示す図である。測定治具6のガイド8は、測定スケール1を固定できる。固定する方法は、ガイド8の2つのパーツによって挟み込むようにして固定する方法が挙げられるが、固定できればどのような方法でも構わない。
図12は、
図11の測定治具の使用例を示す図である。削孔3内に、測定スケール1を挿入してから測定治具6のホルダー7を削孔内に挿入することで、ホルダー7に保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、同じ距離感で、中性化の状態を撮影し、中性化の深さを測定できる。測定治具6は、中性化の深さを、削孔3内を撮影することで測定しようとするものであり、同時に、中性化の状態を、撮影した映像から確認できる。例えば、ドリルで空けられた削孔3内を撮影するためには、小さなレンズを有する細いケーブルを有するファイバースコープなどの撮影機器を使用する必要があるが、人の手で挿入すると、撮影した映像に手ブレが生じたり、削孔3の内表面からの距離感が、撮影ポイントによって異なってしまうおそれがある。そこで、測定治具6では、先端にレンズが取り付けられたフレキシブルなケーブルを有する撮影機器のケーブルを筒状のホルダー7で保持した状態で、ホルダー7とともにレンズを削孔3内に埋入させられるようにし、簡単に、削孔3内にレンズを埋入させ、撮影できるようにした。削孔3内にレンズを埋入させたときには、ガイド8に固定されている測定スケール1が削孔3内に挿入されているから、撮影された映像から、中性化の深さを測定できる。なお、ガイド8に固定する測定スケール1は、ガイド8とコンクリート2が当接する位置が目盛りの「0」になるように、ガイド8に固定しておけば、中性化の深さを正確に測定できる。そして、被測定構造物であるコンクリート2の削孔3内に、測定治具6に固定された測定スケール1を挿入してから測定治具6のホルダー7を挿入することで、あらかじめホルダー7に挿通して保持されたファイバースコープなどの撮影機器のレンズを通じて、フェノールフタレイン溶液によって呈色した中性化の状態を、削孔3内の内表面を全周にわたって撮影し、さらに、発色部と非発色部の境界の位置に合致する目盛りまでの距離を中性化の深さとして、削孔3内の内表面を全周にわたって測定できるようになる。
【0036】
なお、
図13は、測定治具の別の実施例を示す図である。削孔3の孔縁に当接するガイド8の一部が、撮影機器であるマイクロスコープの操作部(本体)を固定する板と一体化していることで、一方の手で測定治具6を扱い、他方の手で撮影機器を操作する、という使い方ができるようになる。このような構成の測定治具6とその使用方法により、気象の変化に左右されず、一人の作業者のみによって簡単にコンクリートの中性化試験を行うことができ、さらには撮影したデータを保存することで、中性化の状態から中性化の深さまでの情報を、映像とともに容易に記録することができるようになる。
【符号の説明】
【0037】
1 測定スケール2 コンクリート3 削孔4 測定スケールの傘5 測定スケールの切り込み6 測定治具7 ホルダー8 ガイド9 ボールプランジャ10 係合溝11 固定用リング12 ケーブルを挿通させる挿通孔