IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アート1の特許一覧

特許7165462導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法
<>
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図1
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図2
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図3
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図4
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図5
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図6
  • 特許-導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】導電性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/04 20060101AFI20221027BHJP
   C25D 11/06 20060101ALI20221027BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20221027BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20221027BHJP
   C25D 11/24 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C25D11/04 302
C25D11/04 101B
C25D11/04 101F
C25D11/04 101H
C25D11/04 101C
C25D11/06 A
C25D11/06 C
C25D11/12 A
C25D11/18 311
C25D11/24 302
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022523191
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2021040703
【審査請求日】2022-04-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】595179549
【氏名又は名称】株式会社アート1
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】田中 成憲
(72)【発明者】
【氏名】秋本 政弘
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-147988(JP,A)
【文献】特開2002-332578(JP,A)
【文献】特開2006-291259(JP,A)
【文献】国際公開第00/001865(WO,A1)
【文献】特開2021-070865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/02-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面と素地との間の体積抵抗が1×10-2Ω以下の性能を持ち、皮膜断面硬度がビッカース硬さ試験でHV470以上の陽極酸化皮膜を有することを特徴とするアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項2】
材料の耐食性が中性塩水噴霧試験で720時間行い、RN(レイティングナンバー)7以上の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項3】
陽極酸化皮膜表面のクラックが、200℃にて30分間空気中での加温後に、目視にて正面から見たときにクラックが観察されない陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1又は2の材料。
【請求項4】
アルミニウム又はその合金の陽極酸化皮膜を有する材料の電磁波シールド効果が周波数500KHz~1GHzの範囲において30dB以上の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項5】
陽極酸化皮膜の耐熱性が300℃で2週間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項6】
陽極酸化皮膜の耐熱性が500℃で1時間の耐熱試験において加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項7】
陽極酸化皮膜の赤外線放射率を被測定物質の測定温度を100℃とし、黒体の放射率を100%(1.00)としたときの全放射率は波長3~6μmの中赤外線領域において75%(0.75)以上であり、波長3~25μmの中~遠赤外線領域において80%(0.80)以上の陽極酸化皮膜を有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項8】
皮膜の厚さが6~50μmの陽極酸化皮膜であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のアルミニウム又はその合金からなる材料。
【請求項9】
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム又はその合金からなる材料の製造方法であって、
第1の有機酸系化合物を主成分とし、これに無機酸系化合物又は第2の有機酸系化合物を加えた前記第1電解液を用いて液温0~40℃、電流密度0.6~3.0A/dm 、10~120分の第1電解を行い、
第1電解液中で、電源を切らずに1~5分保持し、その後1~10V単位で、10Vまで電圧を第1の所定時間維持しながら段階的に低下させ、その後5V、3V、2V、1Vで第2の所定時間各電圧で維持しながら0Vまで下げる第2電解を行い、
アルカリ性の電解液中にて液温0~20℃、電圧1~30V、時間5~20分の第3電解を行い、水洗を行った後、
金属塩を含むpH2~3.5の酸性溶液中にて液温10~40℃、電流密度0.1~2.0A/dm 、電圧5~40V、電解時間2~60分、第4電解を行い、
陽極酸化皮膜を有するアルミニウム又はその合金からなる前記材料が、表面と素地との間の体積抵抗が1×10-2Ω以下、皮膜断面硬度がビッカース硬さ試験でHV470以上を持つ陽極酸化皮膜を有することを特徴とする製造方法。
【請求項10】
アルミニウムまたはその合金の前記第1電解~前記第4電解の電流もしくは電圧波形を、直流波形、交流波形、交直重畳波形、パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた波形を用いることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたアルミニウム金属材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム陽極酸化皮膜(以下、アルマイトと呼ぶ。)は電気的には絶縁材料として開発されたが、加飾技術、耐食技術、硬さ・耐摩耗性技術等の改良を行うことにより今日のアルミニウムの発展の一翼を担ってきた。例えば、加飾と耐食技術によりビルのカラーパネル、窓枠のカラーサッシ、日用雑貨品のカラー化等があり、硬さの技術により摺動性の必要とされる機械部品の軽量化、耐食技術により屋外でのエクステリア、水中カメラ等が軽量化になり、多方面にアルミニウムが使われるようになった。今後、アルミニウムを今以上に発展させるには、素材の開発は勿論のこと、陽極酸化皮膜の出発点である絶縁材料を打破し、導電性、磁性等+軽量で加工がしやすい優位さを利用して電気、電子、半導体分野に進出する必要に迫られ、従来の特性に加えて導電性を有する陽極酸化皮膜の開発、実用化が待ち望まれていた。例えば、陽極酸化皮膜は静電気によるスパークで電子回路を破損する事故、スマートフォン、衛星放送、タクシー無線等に使用されている中波~極超短波の磁界シールド効果が出せずに、表面にめっきを行なうことによって対応してきたが、めっき液の処理及び廃棄、再生時に重金属が発生し、LCA対応としては問題があり、この問題を解決できるLCA対応可能な皮膜が望まれている。
【0003】
アルマイトの陽極酸化皮膜に導電性を付与することに関しては硝酸イオンを含む陽極酸化浴中で処理する方法が提案されている(特許文献1)。この方法で達成される導電性は、抵抗値で105~6Ω以上のレベルであり、静電防止機能を持ち各種のコンピュータ関連製品に利用できると記載されているが、実用面では静電気によるスパークで電子回路を破損する事故を防ぎ、スマートフォン、衛星放送、タクシー無線等に使用されている中波~極超短波の磁界シールド効果を発揮するには不十分な性能である。この文献には表面硬度に関する記述がないが実際にはHv280程度の硬さしか出すことが出来なくて硬質アルマイトの利用分野には硬さ不足で利用することはできず、改良が必要である。
【0004】
アルマイトの陽極酸化皮膜は、多孔質層とバリヤー層(無孔層)より成り立っている。アルマイトは当初理化学研究所で絶縁材料として開発され、今日に至ってきた。しかし、1970~80年代に硫酸皮膜を硬くする手法として金属材料研究所からバリヤー層を除去し、電解着色技術で表面まで金属を析出させたときに導電性があることを確認したことを示した論文が出されている。(非特許文献1)
【0005】
非特許文献1には電解液を硫酸とし、皮膜作成時の最終電圧15~20Vから一気に0.05V付近まで降下させ、更にスイッチ切断後バリヤー層を溶解してからNi電析を行ってHV50~100程度の硬度増を達成したことが記載されている。そしてAl素地と皮膜表面との間にはテスターによる導通があることを報告している。しかしこの製法によるニッケル電析の皮膜硬度は最大でもHV450であり、更に最大の欠点はアルマイトの最大の特徴である耐食性を全くなくしてしまうことで、実用的に使用されにくい製品である。一方陽極酸化皮膜の耐食性に影響のない亜鉛電析では皮膜硬度の向上に全くまたはほとんど役立たず、精々HV330が達成された程度であり、硬質アルマイトとしては全く不十分な硬度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】再公表特許 WO 00/01865 公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】金属表面材料Vol33,No5 232-237(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来使用できなかったアルマイトに導電性と硬さを付与し、軽量の材料として、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態においては、体積抵抗が1×10-2Ω以下の性能を持ち、更に皮膜断面硬さがHV470以上の硬さを持つアルミニウム又はその合金からなる陽極酸化皮膜を有する材料及びその製造方法である。
【0010】
実施形態における電気抵抗の測定法は、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を抵抗計RM3548(日置電機株式会社製)にて表面と素地との間の電気抵抗を測定すると1×10-2Ω以下で、且つ皮膜断面硬さはJIS‐Z2244(ビッカース硬さ試験)方法にて荷重0.098N(10grf)、保持時間15秒で計測定したときにHV470以上の硬さを持つアルミニウム又はその合金からなる陽極酸化皮膜を有する材料及びその製造方法である。
【0011】
実施形態においては、表面と素地との間の体積抵抗が1×10-2Ω以下で、皮膜断面硬さがHV470以上の性能を持ち、更に300℃で2週間耐熱試験を実施した場合の加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下好ましくは2.5以下であり、500℃‐1時間の耐熱試験でも加熱前と加熱後の色差(ΔE)が3.0以下好ましくは2.5以下であり、皮膜表面のクラックが、空気中にて200℃、30分加温後に、目視にて正面から見たときにクラックが観察されないものである。本発明の皮膜は導電性、硬さ、耐熱性に優れたアルミニウム又はその合金からなる材料及びその製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、高い導電性を有し、かつ比較高度および耐久性に優れたアルミニウム金属材料およびその製造方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態により製造された陽極酸化皮膜の全体像を示す図。
図2】本実施形態により製造された陽極酸化皮膜の断面及び表面状態を示す図。
図3】本実施形態の製造工程における第2電解での、バリヤー層除去の概念図。
図4】本実施形態の製造工程における第3電解での、微細孔の底部における皮膜形成を示す概念図。
図5】本実施形態の製造工程における第4電解での金属の析出を示す概念図。
図6】本実施形態における、陽極酸化皮膜を含むアルミニウムの電気抵抗の測定法を示す概念図。
図7】本実施形態により製造された陽極酸化皮膜の各種特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示を実施形態に基づいて説明するが、本開示は以下の本実施形態に限定されるものではない。
本実施形態の耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機STP‐90V‐4(株式会社スガ試験機株式会社製)を用いて、連続噴霧時間1カ月(720時間)後、評価法はJIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。
レイティングナンバーとは皮膜を貫通し金属素地に達した孔食だけに適応し、(皮膜を貫通していない変色などの表面欠陥及び試験片に生じた端面の腐食は評価の対象としない。)レイティングナンバーと孔食の腐食面積率との関係は、RN10は0%(孔食なし)、RN9.8は0.00を超え、0.02%以下、RN9.5は0.02%を超え、0.05%以下、RN9.3は0.05%を超え、0.07%以下をいい、判定基準はJIS‐H8603‐5.6(アルミニウム及びアルミニウム合金の硬質陽極酸化皮膜‐耐食性)にて行うが、H8603-4:種類(素材の材質)によって表1のように分けられている。
【0015】
【表1】
【0016】
表1に記載されたうち、1種は中性塩水噴霧試験機にて336時間噴霧試験を行い点食(孔食)がないこと(RN10)と規定され、1種以外の材質に関しては受渡当事者間の協定によると規定されている。本実施形態では上記規定を適合し、更に720時間(1ヵ月)における判定基準を加えた。実際は塩水噴霧試験機より取り出し後、表面の腐食生成物を物理的、化学的に除去し、よく水洗し表面に付着物がないのを確認後、乾燥し、孔食の大きさ、数量をレイティングナンバー標準図表と比較して評価する。
【0017】
本実施形態の材料は通電性があり断面硬度HV470以上を有する。非特許文献1の記載では通電性があり且つ硬度が大きいが、腐食においては「24時間の塩水噴霧試験でピットが発生し、240時間で表面がかなり腐食生成物によって覆われていた」とあり耐食性のない材料しかなかったのである。
【0018】
本願発明の材料は、1種、2種-(a)の材料においてはRN9.5以上、2種―(b)においてはRN7以上、3種―(a)材料においては8以上を達成する耐食性を有するものである。
【0019】
陽極酸化皮膜の厚さは、JIS‐H8680‐2(渦電流式測定法)を用い校正用標準板(プラスチックフィルム)にて校正後計測をすると6~50μmで、好ましくは10~30μm、特に好ましくは20~30μmで、色調が薄い褐色~濃い褐色系~黒系の皮膜を形成する。一般にアルマイトの皮膜は、一般的に皮膜厚さを厚くすると褐色から黒になる傾向にあり、80μmを越えると黒となるが、100℃に加熱するとクラックで全面が網目模様となってしまう。本実施形態の皮膜は従来よりも薄膜で黒系になっており、且つ硬さがあり、クラック発生が目視では観察できない特性を併せ持っている。
【0020】
本実施形態の製造工程は電解が4工程と、後処理とを含んでおり、第1電解は、母体となる皮膜作成(図1、2)、第2電解は、第1電解と同一又は異なる電解液にて微細孔の皮膜の底部にあるバリー層の除去(図3)、第3電解は、再度皮膜の作成(図4)、第4電解は、金属の微細孔への析出(図5)より成り立つ。
【0021】
更に本開示の製造方法では、後処理として封孔等の作業を行うことにより電気抵抗が1×10-2Ω以下で、ビッカース硬さ試験法での皮膜断面硬さがHV470以上あり、色調は薄い褐色形~濃い褐色系~黒系の色調を持つ陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム又はその合金からなる材料を製造することが出来る。
【0022】
以下、製造方法における各工程を詳細に説明する。
<第1電解>
第1電解では、皮膜に一定以上の硬さを付加する必要があるが硫酸系のみでは添加剤を加えても硬さがHV350~400である。これ以上を求める場合には、有機酸系を単体もしくは添加剤を加えることにより、皮膜の硬さを、HV450程度まで上げることが出来る。しかし、この電解条件は、液管理が複雑なので実際には特殊処理以外に使われることはない。又、この皮膜は、本実施形態の工程における第2電解方法でバリヤー層の除去が短時間でできず、長すぎると皮膜の溶解が起きカブリとなり、短すぎるとバリヤー層が除去できず抵抗が高くなり、第4電解の金属の析出にバラツキが生じたり、スポーリング(皮膜が破壊され素地が現れる現象)が発生することがある。
【0023】
本実施形態の第1電解は母体となる皮膜作成を行う工程で、液組成は好ましくは有機酸の溶液を主とし、無機酸及び/または主成分とした有機酸以外の有機酸と、必要に応じて添加剤を加えた電解液中で電解を行う。
【0024】
電解方式は、直流波形で液温0~40℃、電流密度0.6~3.0A/dm、10~120分、好ましくは液温10~30℃、電流密度0.8~2.0A/dm、電解時間20~90分で行うか、パルス波形、PRパルス波形、交流波形で、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.1~10A/dm、負電流の平均電流0.0~10A/dm、液温0~40℃で好ましくは、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.6~3.0A/dm、負電流の平均電流0.0~3.0A/dm、液温10~30℃で、直流波形、交流波形パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた電流または電圧波形を用いて陽極酸化処理を施す。
【0025】
ビッカース断面硬さ試験でHV470以上あり、色調は薄い褐色形~濃い褐色系~黒系の色調を持つ陽極酸化皮膜を形成する。ここで形成された陽極酸化皮膜の全体像を図1に示し、図2に、その断面(図2(A))及び表面視野図(図2(b))を示す。
【0026】
<第2電解>
本実施形態の第2電解は、第1電解において目的の皮膜厚さに達したら、電源を切らずに1~5分保持し、その後段階的に電圧を0Vまで下げる。方法は最終電圧から1~10V下げ、その電圧で10~120秒保持、更に1~10V下げ、10~120秒保持の繰り返しで10Vまで下げ、その後5V,3V,2V,1V,0Vと順次下げていく、この時の保持時間は各40秒とし、全体の電圧効果時間は5~60分で行い、好ましくは2~5V下げ、20~20秒保持で、10~40分で0Vまで到達することが望ましい。この工程で微細孔の低位部にあるバリヤー層が除去される。この模式図を図3に示す。
【0027】
<第3電解>
本実施形態の第3電解は、アルカリ溶液に添加剤を加えた電解液で、直流波形にて電圧1~30V、時間5~20分、液温0~20℃で、好ましくは電圧5~15V、時間10~15分、10~15℃にて陽極酸化処理を行うことが望ましい。この工程でアルカリ皮膜独特のセル形状(160nm)が硫酸皮膜(44nm)の約4倍で通電性がよく、微細孔の底に2μm以下の皮膜が形成される。この模式図を図4に示した。
【0028】
<第4電解>
第4電解は、金属塩を含む酸性液と、添加剤とを含んで成り立っている電解液で行われる。電解液中では金属塩は、溶解して金属イオンとして用いられる。電解は、交流、直流、パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、電圧は5~40V、時間は3~30分、液温は10~40℃、好ましくは10~25V、5~15分、16~30℃で行い、電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行い、電解着色前後の水洗は脱イオン水又は純水で十分に行う。この工程で陽極酸化皮膜の微細孔中に金属が析出する。この模式図を図5に示した。
【0029】
本実施形態の第1、2電解に用いられる電解液は、脂肪族又は芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の有機酸を主とする単独又は混合系が好ましい。あるいはこれに無機酸及び/または上記の主として用いた有機酸とは異なる有機酸、または必要に応じて添加剤を加えた電解液である。これらの液濃度は0.1~4.5mol/Lが好ましい。
【0030】
本実施形態の第3電解に用いる電解液はアルカリ性の溶液で、アルカリ性化合物の単体または2つ以上を加え、更に添加剤として有機物系を加えたものを用いる。具体的には、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどで、これらを1種又は2種以上組合せて陽極酸化の電解液として用いる。これらの液濃度は0.05~2.0mol/Lで、好ましくは0.1~0.5mol/Lである。
【0031】
本実施形態の第3電解液の添加剤は、カルボン酸塩、炭酸塩、リン酸塩、フッ化物及びアルミン酸塩などを1種又は2種以上組合せて添加剤として用いる。具体的には酒石酸アンモニウム、酒石酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、アルミン酸ナトリウムなどで、液濃度は0.05~1.0mol/Lで、好ましくは0.1~0.5mol/Lである。
【0032】
第4電解に用いる電解液は、金属塩を含む酸性液と添加剤より成り立っており、金属塩は溶解可能な金属イオンの状態で用いられている。酸性液の代表的なものとして硫酸化合物、シュウ酸化合物を主とし、添加剤としてカルボン酸系の有機酸、ホウ酸等を加えた液、添加される金属塩化合物としては、金、銀、銅、白金、錫、コバルト、ニッケル、鉄、タングステン、モリブデン、クロム、亜鉛、パラジウム、ジルコニウム、ロジウム、ルテニウム、バナジウム、チタン、マンガンなどの化合物が用いられる。得られた材料の陽極酸化皮膜の優れた耐食性を維持するには亜鉛が最も好ましい。
【0033】
本実施形態は、厚さ6~50μm、特に10~30μmの皮膜においても薄い褐色系~濃い褐色系~黒系の陽極酸化皮膜が形成されているが、この黒色系皮膜は染料または顔料などで着色されたものではなく、第4電解の金属析出により形成されたものである。この皮膜は300℃で、2週間加熱処理しても、500℃にて1時間加熱しても、目視での色調の変化が殆ど認められず、高い安定性を有する。
【0034】
一方、一般的な染色系の黒アルマイトは、200℃で加熱すると短時間の内に変色が始まり、200℃を越えた使用環境下で変色無く長時間使用できる染色系の黒アルマイト製品は殆どないのが現状である。
【0035】
本実施形態において退色の指標を示す色差ΔEを検知するために300℃という温度を使用した理由は以下のとおりである。
【0036】
アルミニウムは、再結晶化温度が凡そ250℃であり、この温度を境にアルミニウム加工品内に残る加工硬化(常温で圧延など変形加工を施した際に生ずる加工ひずみ)の原因である粗結晶が250℃以上で軟化し、再結晶化して生成した結晶粒は内部ひずみを持たない安定したものとなる。実用上は凡そ350℃で軟化させて内部応力を下げる作業、いわゆる焼きなまし(焼鈍)が必要となる。
【0037】
アルミニウムを加工する場合に再結晶温度以下で行なう場合を冷間加工というが、この加工法の場合は常に加工硬化が起こるので、焼きなましが必要になるが、加工製品を使用時に長時間再結晶温度以上で使用することはまれであるので、軟化の起点である300℃での耐熱試験で色の退色性に異常がなければ、実用面においての退色に関しても問題なく使用することができるためである。
【0038】
本実施形態において瞬間的の耐熱試験を500℃の1時間に設定したのは、軟化の起点である300℃以上で長時間行うと素材自体に異常が生じるために実用上1時間が限界であるため、この間の耐熱性があれば十分とした。
【0039】
本実施形態における第1電解及び第2電解において好ましく用いる有機酸は、脂肪族又は芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の単独又は混合系で、具体的にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、酒石酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸など、スルホン酸系ではスルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホ酢酸などで、これらを1種又は2種以上組合せて陽極酸化の際の電解液として用いる。
【0040】
これらの液濃度は0.1~4.5mol/Lが好ましい。電解方式は直流波形で液温0~40℃、電流密度0.6~3.0A/dm、10~120分、好ましくは液温10~30℃、電流密度0.8~2.0A/dm、電解時間20~90分で行うか、パルス波形、PRパルス波形、交流波形で、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.1~10A/dm、負電流の平均電流0.0~10A/dm、液温0~40℃で好ましくは、1サイクルでの正電流の平均電流密度0.6~3.0A/dm、負電流の平均電流0.0~3.0A/dm、液温10~30℃で、直流波形、交流波形パルス波形、PRパルス波形の単独又は2つ以上の組合せた電流または電圧波形を用いて液温-10~60℃で、陽極酸化処理して陽極酸化皮膜の厚さを6~50μmに製造する。
【0041】
通常使用される直流電解の電流密度とは、電気量(A・秒)を電解時間(秒)と被処理物の表面積(dm)で割った値をいい、直流定電流電解(通常直流電解という)では被処理物に対して時間によって電流変化がないので、電流密度と平均電流密度は同意語として使われており、その単位はA/dmで表される。しかし、パルス、PRパルス波形の様な場合には時間によって「正電流」、「0(電流の流れない時間)」または極性が反転した「負電流」が流れるので、波形における平均電流密度は電流波形の1周期(サイクル)において、正電流部分と負電流部分に分けてそれぞれの電気量(A・秒)を電解時間と被処理物の表面積で割った値を、正電流平均電流密度、負電流平均電流密度として表示することが必要になる。
【0042】
例として、PR波形で、電解面積2dmの被処理物を電解した際に、波形の1サイクルを10秒として正電流2Aで4秒流した後に負電流を1Aで6秒流す場合、正電流及び負電流の平均電流密度はそれぞれ0.4A/dm、0.3A/dmとなる。なお、正電流のみを使用する場合には負電流の平均電流密度は0.0A/dmになる。
【0043】
有機酸を主とする電解液に添加剤として添加できるものは、無機酸系もしくは有機酸系の1種又は2種以上の化合物である。有機酸系の化合物としては上記した脂肪族又芳香族のスルホン酸および/又はカルボン酸系の化合物であるが、有機酸を主とする電解液に用いた有機酸とは異なるものを添加剤として用いる。他にまたエチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール系化合物も溶媒として使用でき、その量は60%までとし、これらアルコール系化合物は水と共に溶媒の一部として使用することも可能である。無機酸系の化合物としてはホウ酸、ケイ酸、フッ酸、硫酸、リン酸、硝酸もしくはこれらの塩類、ピロリン酸、スルファミン酸もしくはこれらの塩類、又はフッ化物塩、重フッ化物塩、過マンガン酸塩などの1種または2種以上を使用することが出来る。これら添加剤の使用量は、電解液に主として使用した有機酸の使用量より少ない量で、0.001~0.9mol/Lの液濃度とすることは好ましい。
【0044】
本実施形態の第4電解は薄い褐色系~黒系の耐候・退色性に優れ、優れた表面硬度を持つ陽極酸化皮膜を製造することが出来る。その場合の第4電解の電解条件は、電流もしくは電圧波形として交流、直流、パルス、PRパルス波形を単独または2つ以上を組合せて行い、電圧は5~40V、時間は3~30分、液温は10~40℃、好ましくは10~25V、5~15分、16~30℃で行い、電源に極性がある場合は(被処理部材を)陰極側にセットし、陽極側は炭素板電極を用いて電解を行い、電解前後の水洗は脱イオン水又は純水で十分に行う。
【0045】
本実施形態で退色性の少なさを示す尺度として用いている色差(ΔE)とは、従来官能評価することしかできなかった「色の差」を定量的に表すようにしたものである。例えば人間の目には同じに見えても測色器を用いて、基準色の点の色相、彩度、明度を三次元測定し、サンプル色の点についても同様に測定し、この三次元2点間の距離を色差として表す手法である。本実施形態では耐熱試験を実施する際に、加熱前の色を基準点とし、加熱後の色を分光測色計で測定し、三次元2点間の距離をΔEで表示したもので、現在では分光測色計で自動的に数値が表示できるようになっている。一般的に色差ΔE=1程度は二つの色を横に並べて見比べたときに違いが判別できる程度の差、ΔE=2~3程度は二つの色を離して見比べたときに違いが判る程度を示している。
【0046】
色についての表現方法にはマンセル(1905年)法があり、色相、明度、彩度で表されている。これを数値化する過程で国際照明委員会(CIE)が1931年にXYZ表色系、1976年にL色空間が制定され、日本でもJISZ8781-4に採用された。後L色空間に改良され、JIS規格になっている。本実施形態の色差はL色空間で表した色の2点簡の距離を色差(ΔE)として表し、本実施形態の色差(ΔE)は試料の同一面をコニカミノルタ社製の分光測色計(CM-700d)を用いて、L色空間法で測定し、その各色差を算出した。
【0047】
本実施形態の陽極酸化皮膜は、従来品ならば200℃を超える温度での加熱で茶褐色系へ退色し始め、300℃では凡そ1時間程度で色差ΔEが3.0を越えてしまうが、本実施形態では同温度で2週間耐熱試験してもΔEは3.0以下を保つことが出来き、短時間ならば500℃で1時間の耐熱試験においても同様の結果が得られる。また、電解着色皮膜の場合、ニッケル又はコバルトを多孔質細孔内に沈着させた皮膜では400℃で100時間(4日間)、褪色性に変化がない皮膜の提案もあるが、黒系の陽極酸化皮膜の300℃で2週間もの加熱処理で、ΔEが3.0以下であるような材料はまだ見出されていない。更に表面硬度もHV470程度で実用上は耐傷の防止にもなる。
【0048】
また、本実施形態の陽極酸化皮膜は、と同時にビッカース硬さ試験でHV470以上の硬さを有するものである。さらに、電磁波シールド効果が500KHz~1000MHzにおいて電磁界の特性がアルミ素地と同等という優れた特徴を同時に有している。
【0049】
本実施形態により製造される陽極酸化皮膜の電磁波シールド効果測定は一般社団法人KEC関西電子工業振興センター、試験事業部においてKEC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電解、磁界測定を行った結果、保証可能な数値として500KHz-1000MHz(1GHz)においては30db以上あり、これはアルミニウム素地と同じ値で、アルミニウムの限界値と同等のシールド効果を持っている。これにより耐熱性があり、耐食性があることにより腐食がされにくく、シールド効果が長期にわたり安定に保たれ、しかも傷が付きにくく、熱吸収・放射の良い材料としての役割が加わり従来にない材料として考えられる。
【0050】
電磁波は空間の電場と磁場の変化によって形成される波(波動)で、光や電波は電磁波の1種であり、一般に赤外線よりも波長が長いもの(mm以上のもの)を電波、1μm程度までを赤外線、0.7~0.3μmまでを可視光、更に短く数nmまでを紫外線とよび、10nm~1pmまでをX線と大まかに分類をしている。また電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、散乱、反射、屈折や干渉など、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、微視的には粒子として個数を数えることができる。
【0051】
本実施形態において使用する電波を大別すると、長波(LF)、中波(MF),短波(HF)、超短波(VHF)、極超短波(UHF)、センチ波(SHF)、ミリ波(EHF),サブミリ波があり、この中の中波~極超短波の500KHz~1000MHz(1GHz)で、主な用途として携帯電話、スマートフォン、TV、タクシー無線、航空機電話、AMラジオ、FM放送、船舶、国際放送、船舶・航空機用ビーコン等に使用されている波長域のシールドを行う目的である。
【0052】
近年、携帯電話はスマートフォンとなり、ロボット、ドローン等の多くの機器が無線で通信するようになり、身の回りに電子機器が満ち溢れている。これらは必要な電磁波を受け入れ、不必要な電磁波を排除(シールド)するという電磁両立性(EMC対策)がますます高まってきた。また、機器同士のノイズ対策に加え、電磁波過敏症等の人体への影響を心配する人たちも実際に多く存在する。
【0053】
ここで一般的には電磁波シールドはRFと呼ばれ約300Hz~3THzの周波数を対象にしている。電磁波シールドの基本は反射損失、吸収損失またはそれらの組み合わせの多重反射損失よりシールドの性能を上げている。反射損失とは電磁波がシールド材に入射し透過する際にシールド表面で反射することによる損失(減衰)、吸収損失は電磁波がシールド材に入射する際にシールド材内部に誘導電流として吸収され、多重反射損失は複数のシールド材を積層に組み、電磁波がシールド材の内側に侵入するときに一部は反射し、1部は透過し、次のシールド材に伝播し、再び反射と侵入と透過を繰り返すことにより減衰しシールド効果を高める。
【0054】
電磁波シールド効果は、デシベル(dB)を使って表現される。電磁波がシールド前及びシールド後でどのくらい減衰したかを相対的に表す単位で、以下の計算式より導き出されている。
【0055】
【数1】
【0056】
電磁波シールド材の性能を評価の代表的な方法は社団法人関西電子工業センターが開発した「KEC法」がある。なお、デシベルとシールド率と減衰率の関係を、表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
アルミニウムの陽極酸化皮膜が当初絶縁材料として開発され、長い年月が過ぎ改良に改良を加え今日の陽極酸化皮膜となり、アルミニウムの発展に寄与したことは間違いがないが、近年の半導体の進歩により実装密度が格段に上がりこれに伴って電子機器の小型化が急速に進んできた、このために従来問題にならなかった空間が極端に狭められ、静電気によるスパークが発生しそれが電子機器に重大なダメージを招く結果となってきた。この問題を解決する為に静電気を表面に溜めないで常にグラウンドに落とせるような、導体で硬さを兼ね備えしかもLCAを満足できる皮膜が求められていたところ、本実施形態の陽極酸化皮膜が導電性と硬さに加えさらに耐熱性、耐食性、電磁波シールド効果、放熱・吸熱効果も併せ持った優れた皮膜が開発された。これらを組み合わせることにより電子機器の更なる小型化、通信では5Gのシールド効果、スマートフォン等のチャージ等としても使用されることに期待される。
【実施例
【0059】
以下、本開示の本実施形態を、実施例を以て具体的に説明する。なお、実施例において、電気抵抗の測定法は、低抵抗測定に優れている直流方式4端子法(電圧降下法)を図6のように用いて行った。抵抗計RM3548(日置電機株式会社製)6を陽極酸化皮膜の表面12と素地3とに1cmの銅に金メッキをした電極11を乗せ表面に50g/cmの加重をかけ電気抵抗を測定する。ビッカース硬さ試験は顕微鏡断面測定法により株式会社島津製作所社製の微小硬度計(HMV-G-XY-D)を用いて荷重10gfで15秒行って測定した平均皮膜硬さを示す。
【0060】
但し、皮膜厚さが20μm以下の場合にはヌープ式の圧子を用いて同一荷重、同一時間にて測定したものである。皮膜厚さは株式会社ケット科学研究所社製渦電流膜厚計(LH-373)で計測した平均厚さを示す。耐食試験はJIS‐Z2371の中性塩水噴霧試験機(株式会社スガ試験機社製)を用いて、連続噴霧時間1カ月(720時間)後、評価法としてJIS‐H8679‐1(アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に発生した孔食の評価方法‐第1部:レイティングナンバー方法(RN)にて行う。
【0061】
実際は塩水噴霧試験機より取り出し後、表面の腐食生成物を物理的、化学的に除去し、乾燥後レイティングナンバー標準図表と比較して評価する。耐熱試験は2種類あり、1方は300℃で2週間加熱処理、他方は500℃,1時間の加熱処理を行い、室温になった時点でコニカミノルタ社製の分光測色計(CM-700d)で計測し、加熱前後の色差をL色空間法における色差(ΔE)で表した。電磁波シールド効果測定は一般社団法人KEC関西電子工業振興センター、試験事業部においてKEC法にて100KHz-1000MHz(1GHz)までの電界、磁界測定を行った結果を表し、熱放射率は赤外線放射率測定器として株式会社島津製作所製の分光放射率測定システム(IRTracer-100)を用いて被測定物温度を100℃とし、黒体の放射率を100%としたときの中赤外線波長3~6の全放射率及び波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率をそれぞれ測定し、%で表示する。
【実施例1】
【0062】
アルミニウムA1050材(Si 0.25%、Mn0.05%以下)で50×100×t1.0mmのテストピースを前処理として、エマルジョン脱脂・45℃×5分―5%硝酸・室温×3分-エッチング20%水酸化ナトリウム・室温×1分―脱スマット・10%硫酸・室温×3分を行い、第1電解液をマロン酸0.7mol/Lに、添加剤として硫酸0.05mol/Lを加えたものとし、液温25±1℃、電源は直流波形を用い、電流密度1.4±0.1A/dmで70分行なった。
【0063】
第2電解は、電源を切らずに第1電解の最終電圧70Vを2分保ち、その後5V下げ、60秒保持、次に再び5V下げ―60秒保持を電圧10Vまで繰り返し、その後7V,5V,3V,2V,1V、0Vと順次下げていく、この時の保持時間は各60秒で、17分で0Vになった。
【0064】
第2電解終了後水洗を十分に行い、第3電解として、液組成は水酸化ナトリウム0.3mol/Lに添加剤として酒石酸アンモニウム0.05mol/Lを加え液温は5℃、直流波形で電流密度0.8A/dm、電解時間10分行った。
【0065】
その後、十分に水洗後、第4電解として直流電解で、液組成は硫酸亜鉛300g/L、硫酸アンモニウム28g/L、ホウ酸25g/L、の液で、PH=2~3.5、浴温29±1℃、電流密度1.0A/dmで20分電解した。
【0066】
その後、更に封孔処理を95~98℃で20分沸騰水封孔を行った結果、皮膜表面とアルミニウム素地の体積抵抗が、8×10-3Ω、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さがHV475で、平均皮膜厚さが21μm、色調は濃い褐色系の黒、耐食性は720時間でRN9.8、電磁波シールド効果は電界が43dB以上,磁界が36dB以上、耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は2.6であり、500℃で2.2、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は78.3%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率が86.9%の陽極酸化皮膜を得た。また、得られた陽極酸化皮膜には、クラックの発生は見られなかった。
【比較例1】
【0067】
試験片A1050材、100×50×t1.0mmを用いて、有機脱脂後、50g/dmの水酸化ナトリウム水溶液、70℃で30秒エッチングしてから、第1電解は98g/dm硫酸水溶液、30℃、電圧20V(約3A/dm)時間30分、対極はカーボンとし電解をし、第2電解のバリヤー除去は電解終了前に浴電圧を3分で0.08Vまで下げ電源を切り、更に試験片と対極(カーボン)とを導線でつないだまま液中でガルバニックに溶解を15分行った。第3電解は亜鉛の電析を行い、液組成は350g/L硫酸亜鉛‐30g/L硫酸アンモニウム‐30g/Lホウ酸‐15g/Lデキストリン、対極 亜鉛で、PH=2~3.5、浴温30±1℃、電流密度1.0A/dmで20分電解した。
【0068】
その結果得られた陽極酸化皮膜は、体積抵抗が4×10-1Ω、断面皮膜硬さはHV380、断面平均皮膜厚さは26μm、耐食性はRN9.0、200℃に加熱冷却後クラックは網目状に発生し、比較例1では抵抗、硬度、耐食性、電磁波シールド効果、耐熱性、赤外線放射率が十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【比較例2】
【0069】
試験片A1100材、100×100×t1.0を用いて、有機脱脂後、50g/Lの水酸化ナトリウム、70℃、30秒エッチング―30%硝酸溶液、常温、10秒浸漬による脱スマットをおこない、第1電解は、硫酸100g/L、30℃、電圧20V、電解時間20分、対極はカーボンとし、第2電解のバリヤー除去は、皮膜作成後電圧を一気に0Vまで下げ、その後0.1Vの電圧を13分かけ、第3電解の金属析出は、硫酸ニッケル280g/L、塩化ニッケル45g/L、ホウ酸30g/L、硫酸コバルト15g/L、サッカリン1g/L、PH4.0、液温50~60℃、電流密度0.15A/dm、10分、対極Ni、第4電解として酢酸ニッケル5g/L,ホウ酸5g/L,70℃、20分、さらに純水を98℃以上の沸騰水にて、20分を行った。
【0070】
その結果、得られた陽極酸化皮膜は、平均皮膜厚さが22μm、体積抵抗が平均1.67×10-1Ω、硬さがヌープ方式でHV380、耐食性がRN8、耐熱性は300℃‐2週間、色差(ΔE)3.8、500℃‐1時間で、色差(ΔE)3.5、熱放射率は3~6μmで0.631(63.1%)、3~25μmでは72.8%であった。また、得られた陽極酸化皮膜を、200℃に加熱冷却したところ、クラックが網目状に発生し、抵抗、硬度、耐食性、電磁波シールド効果、耐熱性、赤外線放射率が十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【比較例3】
【0071】
材料、前処理、第1電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第第2、3電解を除き第4電解処理を行い表面観察するとスポーリングが発生し、皮膜が火山の噴火口の様に見られたので以後の工程を中止した。
【比較例4】
【0072】
材料、前処理、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解を硫酸15%、電流密度1.0~1.1A/dm、電解電圧14~16V、浴温19~20℃、電解時間60分、電解終了後十分水洗をし、第2,3電解を除き、第4電解、封孔処理を行って、陽極酸化皮膜を得た。
【0073】
得られた陽極酸化皮膜は、均一な濃い褐色となり、皮膜表面とアルミニウム素地の体積抵抗は10Ω以上の絶縁体で、硬さはヌープ式の断面平均硬さHV290、平均皮膜厚さは20μm、耐食性はRN10で腐食無し、電磁波シールド効果は電界が45dB,磁界が28dB上、耐熱試験は300℃‐14日で加熱処理前後のL色空間での色差(ΔE)は3.2、500℃‐1時間で色差(Δ3.1)、赤外線放射率は中赤外線領域(3~6μm)の全放射率は65.3%、中~遠赤外線領域(3~25μm)の全放射率は75.2%であり、クラックが全面に網目状に発生した。この製法では硬度を除き、抵抗、硬度、耐食性、電磁波シールド効果赤外線放射率が十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【比較例5】
【0074】
材料、前処理、第1電解、第2電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第3電解を除いて陽極酸化皮膜を製造した。得られた陽極酸化皮膜は、皮膜表面とアルミニウム素地の体積抵抗は36.2Ω、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV438で、平均皮膜厚さは21μm、色調は濃い褐色系の黒、耐食性は720時間でRN8(腐食面積率0.10%を超え、0.25%以下)、電磁波シールド効果は電界が42dB,磁界が27dB、耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は3.3であり、500℃で色差(ΔE)3.1、赤外線放射率は中赤外線波長領域3~6μmの全放射率で65.7%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は73.4%であり、クラックの発生は見られなかったが、比較例5では抵抗、硬度、耐食性、電磁波シールド効果赤外線放射率が十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【比較例6】
【0075】
材料、前処理、第1電解、第2電解、第3電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第4電解を除いた結果、皮膜表面とアルミニウム素地の体積抵抗は10Ω以上で、顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV437で、平均皮膜厚さは19μm、色調は褐色、耐食性は720時間でRN6(腐食面積率0.50%を超え、1.00%以下)、電磁波シールド効果は電界が43dB,磁界が26dB上、耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は3.2であり、500℃で色差(ΔE)2.8、赤外線放射率は中赤外線波長領域3~6μmの全放射率で71.3%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は78.5%が得られ、クラックの発生は見られなかった。しかしながら、比較例6では抵抗、硬度、耐食性、電磁波シールド効果、赤外線放射率とも十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【比較例7】
【0076】
材料、前処理、第1電解、第2電解、第3電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第4電解を直流波形で、液組成は硫酸第一錫10g/L、硫酸ニッケル6水和物15g/L、硫酸15g/L、酒石酸8g/Lの液で、PH=1、浴温23℃、電解電圧16Vで20分2次電解し、更に封孔処理として95℃で20分沸騰水封孔を行った結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は0.3Ωで充分な電導性が得られなかった。顕微鏡断面測定法による平均皮膜硬さはHV478で、平均皮膜厚さは21μm、色調は濃い褐色、耐食性は720時間でRN8(腐食面積率0.10%を超え、0.25%以下)、電磁波シールド効果は電解が33dB、磁界が30dB,耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は3.5であり、500℃で色差(ΔE)3.3、赤外線放射率は中赤外線波長領域3~6μmの全放射率で64.8%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は87.5%が得られ、クラックの発生は見られなかった。しかしながら、比較例7では、硬度及び中~遠赤外線反射率を除き、耐食性、電磁波シールド効果赤外線が十分ではなく、目的とする材料が得られなかった。
【実施例2】
【0077】
材料、前処理、第2電解、第3電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解の液組成は同じで、電解条件をPRパルス波形で、プラス側電流密度を2.0A/dm、マイナス側の電流密度を0.5A/dm、プラス側最大電圧70V、マイナス側最大電圧-15Vで、1パルスを3.3msとし、プラス側を20パルス、マイナス側を3パルスとし、極性が変わるときに3パルス分の休止時間を入れ、これを1サイクルとして、液温25±1℃、電解時間70分処理した結果、皮膜の色調は濃い褐色で、以後第2、第3、第4電解、封孔処理と進めた結果、皮膜表面とアルミニウム素地の電気抵抗は2×10‐3Ω、平均皮膜さはHV480で、平均皮膜厚さは21μm、色調は濃い褐色系の黒、耐食性は720時間でRN9.8、電磁波シールド効果は電界が38dB,磁界が32dB、耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は2.6であり、500℃で2.2、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は90.7%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は93.4%が得られ、クラックの発生は見られず、良好な特性の陽極酸化皮膜が得られた。
【実施例3】
【0078】
材料、前処理、第2電解、第3電解、第4電解、封孔処理及び皮膜の計測は実施例1と同様に行い、第1電解の液組成をシュウ酸3%、電解条件は交直重畳で、電流密度は+側で、1.5A/dm、-側で0.5A/dm、電圧は直流分が50V、交流分が90V、浴温25℃、電解時間60分の条件で行なった結果、皮膜表面とアルミニウム素地の気抵抗は3×10-3Ω、断面平均硬さはHV475、濃い褐色の黒、平均皮膜厚さ36μm、耐食性は720時間でRN9.5、電磁波シールド効果は電界が35dB以上,磁界が32dB以上、耐熱性は300℃加熱前後のL色空間の色差(ΔE)は2.7であり、500℃で2.4、赤外線放射率の中赤外線波長領域3~6μmの全放射率は76.3%、波長3~25μmの中~遠赤外線領域の全放射率は82.1%が得られ、クラックの発生は見られず、良好な特性の陽極酸化皮膜が得られた。
【0079】
なお、上記の実験の結果を、図7の表に纏める。表中、欄内の「-」は、未測定又は測定不可を表す。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本実施形態の材料はアルミニウムの陽極酸化皮膜で1×10Ω以下の低抵抗の皮膜とHV450以上の硬さを併せ持つことにより、導電性がある軽量の傷つきにくい筐体、電子機器における静電気のスパークによる破損防止、500KHz~1000MHzまでの特に磁界のシールド効果、300℃‐2週間と、500℃‐1時間の加熱処理で色差ΔE3.0以下の耐熱性を持ち未利用エネルギー温度帯材料として軽量で硬い摺動性のある導体材料として使用されることが期待される。
【符号の説明】
【0081】
1.微細孔 2.壁
3.素材(アルミニウム) 4.多孔質層
5.バリヤー層 6.再皮膜
7.微細孔中への金属析出 8.抵抗計:RM3548
9.直流定電圧電源 10.電圧系
11.金めっき電極 12.陽極酸化皮膜
【要約】
【課題】アルミニウムの陽極酸化皮膜に電気伝導性を与え、硬質アルマイト以上の硬さをもつ材料開発をする。
【解決手段】本発明は、アルミニウムの陽極酸化皮膜が絶縁材料として利用されているバリヤー層を除去後に通電性の良い皮膜を作り、更に金属を析出することにより、電気抵抗1×10-2Ω以下を保ち皮膜としての硬さHV470以上を有し、耐食性等を改善することにより、アルミニウム材として従来にない実用に即した低抵抗で硬さに優れた材料である。この材料は4段階の電解を施すことによって製造できる。
【選択図】 図5
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7