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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】有機膜の成膜方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20221027BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20221027BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20221027BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D3/02 Z
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018242165
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2019118910
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017255171
(32)【優先日】2017-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】香取 重尊
(72)【発明者】
【氏名】四戸 孝
(72)【発明者】
【氏名】井川 拓人
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/110953(WO,A1)
【文献】特開2016-145388(JP,A)
【文献】特開2004-160388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
H05B 33/00-45/60
H01L 21/208-21/368
C23C 16/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物と溶媒とを少なくとも含む原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を用いて基体上に有機膜を成膜する方法であって、前記溶媒の沸点が150℃以上であり、前記成膜を、前記溶媒の沸点以上の温度で前記ミストまたは前記液滴を前記基体上で熱反応させることにより行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記溶媒が、環式化合物である請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記溶媒が、複素環式化合物である請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記溶媒の沸点が、200℃以上である請求項1~3のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項5】
前記有機化合物が、高分子化合物である請求項1~4のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、共役系高分子化合物である請求項1~5のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項7】
前記熱反応を、240℃以上の温度で行う請求項1~6のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項8】
前記霧化または液滴化を、超音波振動を用いて行う請求項1~7のいずれかに記載の成膜方法。
【請求項9】
前記熱反応を大気圧下で行う請求項1~8のいずれかに記載の成膜方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料溶液を用いて有機膜を形成する成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種用途の次世代デバイス等に用いる薄膜として、無機薄膜の代わりに有機薄膜を適用することが盛んに検討されている。その要因としては、塗布法または印刷法等の比較的安価な成膜方法を用いて有機薄膜を形成可能なことや、有機薄膜のフレキシブル性を利用して、折り曲げ可能な有機デバイスが実現可能なこと等が挙げられる。有機薄膜を用いたデバイスとしては、例えば、画像表示素子に発光性の有機化合物を用いた有機EL等が挙げられる。有機EL素子は、有機材料から成る薄膜の両面に電極を設け、その電極間に電圧を印加することによって両面の電極から有機薄膜中に注入される電子と正孔(キャリア)の再結合による発光を利用する電流駆動型の発光素子である。このような、有機薄膜を用いたデバイスを実用化するためには、製造容易化や低コスト化だけでなく、優れた特性を有する有機薄膜や、耐熱性などを有する有機薄膜を形成することが要求されており、特に、高温環境下において、有機薄膜の特性が経時劣化してしまう点が課題となっている。
【0003】
有機薄膜の形成方法としては、真空蒸着法に代表されるドライプロセスとスピンコート法に代表されるウェットプロセスがある。ドライプロセスは膜厚のコントロールが容易、異なった材料の積層構造や適当な開口部を持ったマスクを用いた塗り分けが可能といった利点があるが、高分子材料や熱的に不安定な物質には使用できず、装置が大がかりでコストがかかるといった問題がある。一方のウェットプロセスでは高分子材料や熱的に不安定な物質に適用でき、装置が単純で大量生産に適したプロセスであるといった利点があるが、異なった材料の積層構造や塗り分けは困難、基板の平坦性が特に要求されるといった欠点がある。
【0004】
ウェットプロセスによる有機薄膜の成膜方法として、例えば、特許文献1には、有機材料の原料溶液を一旦エアロゾル化し、このエアロゾル中の溶媒を気化させることにより有機材料微粒子を形成し、この微粒子を基板に吹き付けることにより有機薄膜を形成することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法は、有機材料微粒子が基板に吹き付けられる際の衝突エネルギーによって成膜しているため、有機物粒子の衝突時において有機物の分子の破壊が発生するので、有機膜の特性劣化が起こり、また、衝突によって基板に悪影響を及ぼす問題があった。また、特許文献1に記載の方法で得られた膜は、耐熱性において実用に足るレベルではなく、また、高温下において熱による経時劣化が起こり、有機薄膜の特性が徐々に低下してしまう問題があった。
【0005】
また、特許文献2には、有機材料を溶媒中に溶解又は分散してなる有機薄膜形成用組成物のミストを形成し、得られたミストを加熱し、加熱されたミストを基板上に照射して堆積させた後、ミスト堆積膜を乾燥して有機薄膜を形成することが記載されている。しかしながら、特許文献2に記載の方法では、均質且つ密着性に優れた膜を得ることが困難であり、さらに、高温環境下においては、熱による有機薄膜特性の経時劣化が生じてしまう問題があり、耐熱性および熱的安定性において十分に満足できるものではなかった。
【0006】
そのため、上記した問題がなく、高温環境下での熱による経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を工業的有利に成膜することができる方法が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-075641号公報
【文献】特開2005-158954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高温環境下での熱による経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を工業的有利に成膜することができる新規な成膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、有機化合物と溶媒とを少なくとも含む原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を用いて基体上に有機膜を成膜する方法において、前記溶媒の沸点が150℃以上であり、前記成膜を、前記溶媒の沸点以上の温度で前記ミストまたは前記液滴を前記基体上で熱反応させることにより行うと、高い成膜品質で、高温環境下における熱による特性の経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を簡単且つ容易に成膜することができることを知見し、このような成膜方法が、上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 有機化合物と溶媒とを少なくとも含む原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を用いて基体上に有機膜を成膜する方法であって、前記溶媒の沸点が150℃以上であり、前記成膜を、前記溶媒の沸点以上の温度で前記ミストまたは前記液滴を前記基体上で熱反応させることにより行うことを特徴とする成膜方法。
[2] 前記溶媒が、環式化合物である前記[1]記載の成膜方法。
[3] 前記溶媒が、複素環式化合物である前記[1]または[2]に記載の成膜方法。
[4] 前記溶媒の沸点が、200℃以上である前記[1]~[3]のいずれかに記載の成膜方法。
[5] 前記有機化合物が、高分子化合物である前記[1]~[4]のいずれかに記載の成膜方法。
[6] 前記有機化合物が、共役系高分子化合物である前記[1]~[5]のいずれかに記載の成膜方法。
[7] 前記熱反応を、240℃以上の温度で行う前記[1]~[6]のいずれかに記載の成膜方法。
[8] 前記霧化または液滴化を、超音波振動を用いて行う前記[1]~[7]のいずれかに記載の成膜方法。
[9] 前記熱反応を大気圧下で行う前記[1]~[8]のいずれかに記載の成膜方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の成膜方法によれば、高温環境下での熱による経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を工業的有利に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例において用いた成膜装置の概略構成図である。
図2】実施例における蛍光スペクトル測定の結果を示す図である。
図3】比較例における蛍光スペクトル測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
有機化合物と溶媒とを少なくとも含む原料溶液を霧化または液滴化し(霧化・液滴化工程)、得られたミストまたは液滴を用いて基体上に有機膜を成膜する方法であって、前記溶媒の沸点が150℃以上であり、前記成膜を、前記溶媒の沸点以上の温度で前記ミストまたは前記液滴を前記基体上で熱反応させることにより行う(成膜工程)ことを特長とする。
【0014】
(基体)
前記基体は、成膜する膜を支持できるものであれば特に限定されない。前記基体の材料も、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、公知の基体であってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。多孔質構造体であってもよい。
【0015】
また、表面の一部または全部の上に、金属膜、半導体膜、導電性膜および絶縁性膜の少なくとも1種の膜が形成されているものも、前記基体として好適に用いることができる。前記金属膜の構成金属としては、例えば、ガリウム、鉄、インジウム、アルミニウム、バナジウム、チタン、クロム、ロジウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、シリコン、イットリウム、ストロンチウムおよびバリウムから選ばれる1種または2種以上の金属などが挙げられる。半導体膜の構成材料としては、例えば、シリコン、ゲルマニウムのような元素単体、周期表の第3族~第5族、第13族~第15族の元素を有する化合物、金属酸化物、金属硫化物、金属セレン化物、または金属窒化物等が挙げられる。また、前記導電性膜の構成材料としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化インジウム(FTO)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化スズ(SnO)、酸化インジウム(In)、酸化タングステン(WO)などが挙げられるが、本発明においては、導電性酸化物からなる導電性膜であるのが好ましく、スズドープ酸化インジウム(ITO)膜であるのがより好ましい。前記絶縁性膜の構成材料としては、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(TiO)、酸化シリコン(SiO)、窒化シリコン(Si)、酸窒化シリコン(Si)などが挙げられる。
【0016】
なお、金属膜、半導体膜、導電性膜および絶縁性膜の形成手段は、特に限定されず、公知の手段であってよい。このような形成手段としては、例えば、ミストCVD法、スパッタ法、CVD法(気相成長法)、SPD法(スプレー熱分解堆積法)、蒸着法、ALD(原子層堆積)法、塗布法(例えばディッピング、滴下、ドクターブレード、インクジェット、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、インクジェット塗布等)などが挙げられる。
【0017】
前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、基板が好ましい。基板の厚さは、本発明においては特に限定されないが、0.5μm~100mmが好ましく、1μm~10mmがより好ましい。前記基板は、板状であって、成膜する膜の支持体となるものであれば特に限定されない。絶縁体基板であってもよいし、半導体基板であってもよいし、金属基板や導電性基板であってもよい。本発明においては、前記基板が、ガラス基板であるのが好ましい。
【0018】
(霧化・液滴化工程)
霧化・液滴化工程は、原料溶液を霧化または液滴化する。霧化手段または液滴化手段は、原料溶液を霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波振動を用いる霧化手段または液滴化手段が好ましい。超音波振動を用いて得られたミストまたは液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能なミストであるので衝突エネルギーによる損傷がないため、非常に好適である。液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは100nm~10μmである。
【0019】
(原料溶液)
原料溶液は、有機化合物と溶媒とを少なくとも含んでおり、霧化または液滴化が可能であれば特に限定されない。前記原料溶液は、本発明の目的を阻害しない限り、さらに、無機材料を含んでいてもよいし、有機材料を含んでいてもよい。また、前記原料溶液は、無機材料および有機材料の両方の材料をさらに含んでいてもよい。
【0020】
前記有機化合物は、特に限定されず、公知の有機化合物であってよい。低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。本発明においては、前記有機化合物が、高分子化合物であるのが、より良好に前記有機膜を成膜することができるため、好ましい。ここで、高分子化合物とは、分子量が、例えば、10000以上の化合物をいい、低分子化合物とは、分子量が、例えば、10000未満の化合物をいう。前記低分子化合物としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、ナフタセン、テトラセン、ペンタセン、ベンゾペンタセン、ジベンゾペンタセン、テトラベンゾペンタセン、ナフトペンタセン、ヘキサセン、ヘプタセン、ナノアセン等のポリアセン化合物;フェナントレン、ピセン、フルミネン、ピレン、アンタンスレン、ペロピレン、コロネン、ベンゾコロネン、ジベンゾコロネン、ヘキサベンゾコロネン、ベンゾジコロネン、ビニルコロネン等のコロネン化合物;ペリレン、テリレン、ジペリレン、クオテリレン等のペリレン化合物;テトラチアフルバレン化合物、キノン化合物、テトラシアノキノジメタン化合物、トリナフチン、ヘプタフェン、オバレン、ルビセン、ビオラントロン、イソビオラントロン、クリセン、サーカムアントラセン、ビスアンテン、ゼスレン、ヘプタゼスレン、ピランスレン、ビオランテン、イソビオランテン、ビフェニル、トリフェニレン、ターフェニル、クォターフェニル、サーコビフェニル、ケクレン、フタロシアニン、ポルフィリン、フラーレン(C60、C70)、ポリチオフェンのオリゴマー、ポリピロールのオリゴマー、ポリフェニレンのオリゴマー、ポリフェニレンビニレンのオリゴマー、ポリチエニレンビニレンのオリゴマー、チオフェンとフェニレンとの共重合体オリゴマー、チオフェンとフルオレンとの共重合体オリゴマーまたはこれらの誘導体等が挙げられる。
【0021】
前記高分子化合物としては、例えば、共役系高分子化合物または非共役系高分子化合物等が挙げられる。前記共役系高分子化合物としては、例えば、ポリチオフェン系化合物、ポリピロール系化合物、ポリインドール系化合物、ポリカルバゾール系化合物、ポリアニリン系化合物、ポリアセチレン系化合物、ポリフラン系化合物、ポリパラフェニレンビニレン系化合物、ポリアズレン系化合物、ポリパラフェニレン系化合物、ポリパラフェニレンサルファイド系化合物、ポリイソチアナフテン系化合物、ポリチアジル系化合物またはこれらの誘導体等が挙げられる。前記非共役系高分子化合物としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂またはシリコン樹脂等が挙げられる。本発明においては、前記高分子化合物が、共役系高分子化合物であるのが好ましく、ポリパラフェニレンビニレン系化合物であるのがより好ましい。前記ポリパラフェニレンビニレン系化合物としては、具体的には、例えば、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)またはポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)等が挙げられる。
【0022】
前記原料溶液中の前記有機化合物の配合割合は、特に限定されないが、好ましくは、0.001重量%~80重量%であり、より好ましくは、0.01重量%~80重量%である。
【0023】
前記溶媒は、沸点が150℃以上の溶媒であれば、特に限定されず、環式化合物であっても、非環式化合物であってもよい。本発明においては、前記溶媒が、環式化合物であるのが、より霧化または液滴化に優れた前記原料溶液が得られるため、好ましく、複素環式化合物であるのがより好ましい。また、本発明においては、前記溶媒の沸点が、180℃以上であるのが、より熱的安定性に優れた前記有機膜を得ることができるため、好ましく、200℃以上であるのがより好ましい。また、前記溶媒の沸点の上限も、特に限定されないが、本発明においては、300℃以下であるのが好ましく、250℃以下であるのがより好ましい。ここで、沸点とは、大気圧下における沸点をいう。
【0024】
前記環式化合物は、特に限定されないが、芳香族炭化水素、芳香族アルコールまたは複素環式化合物(環状エステル化合物、環状アミド化合物または環状ケトン化合物等)などが好適な例として挙げられる。前記芳香族炭化水素としては、例えば、トリメチルベンゼン類、エチルトルエン類、エチルキシレン類、ジエチルベンゼン類、プロピルベンゼン類等のアルキルベンゼン類、あるいは1-メチルナフタレンなどのメチルナフタレン類、エチルナフタレン類、ジメチルナフタレン類等のアルキルナフタレン類、テトラリン、その他アルキルビフェニル類またはアルキルアントラセン類等が挙げられる。前記芳香族アルコールとしては、例えば、ベンジルアルコール、o-トリルメタノール、m-トリルメタノール、p-トリルメタノール、1-フェニルエタノール、2-フェニルエタノール、1-フェニル-1-プロパノール、1-フェニル-2-プロパノール、または3-フェニル-1-プロパノールなどが挙げられる。前記環状エステル化合物としては、例えば、4員環構造のβ―ラクトン、5員環構造のγ―ラクトン、6員環構造のδ―ラクトンまたは7員環構造のε―ラクトンなどが挙げられ、より具体的には、例えば、β―ブチロラクトン、γ―ブチロラクトン、γ―バレロラクトン、γ―ヘキサラクトン、γ―ヘプタラクトン、γ―オクタラクトン、γ―ノナラクトン、γ―デカラクトン、γ―ウンデカラクトン、δ―バレロラクトン、δ―ヘキサラクトン、δ―ヘプタラクトン、δ―オクタラクトン、δ―ノナラクトン、δ―デカラクトン、δ―ウンデカラクトンまたはε―カプロラクトンが挙げられる。前記環状アミド化合物としては、例えば、4員環構造のβ―ラクタム、5員環構造のγ―ラクタム、6員環構造のδ―ラクタムまたは7員環構造のε―ラクタムなどが挙げられ、より具体的には、例えば、β―ブチロラクタム、γ―ブチロラクタム、γ―バレロラクタム、γ―ヘキサラクタム、γ―ヘプタラクタム、γ―オクタラクタム、γ―ノナラクタム、γ―デカラクタム、γ―ウンデカラクタム、δ―バレロラクタム、δ―ヘキサラクタム、δ―ヘプタラクタム、δ―オクタラクタム、δ―ノナラクタム、δ―デカラクタム、δ―ウンデカラクタム、ε―カプロラクタム、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドンまたはN-オクチル-2-ピロリドン等が挙げられる。前記環状ケトン化合物としては、例えば、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノンまたはシクロデカノンなどが挙げられる。本発明においては、前記溶媒が、複素環式化合物であるのが好ましく、環状エステル化合物または環状アミド化合物であるのがより好ましく、環状アミド化合物であるのが最も好ましい。
【0025】
前記原料溶液中の前記溶媒の配合割合は、特に限定されないが、0.001モル%99モル%が好ましく、0.01モル%~99モル%がより好ましい。
【0026】
前記原料溶液は、さらに、添加剤が含まれていてもよい。前記添加剤は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、酸、塩基、溶媒等であってよく、公知の添加剤であってよい。無機材料であってもよいし、有機材料であってもよい。前記酸としては、例えば、弗酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、酢酸、炭酸、蟻酸、安息香酸、亜塩素酸、次亜塩素酸、亜硫酸、次亜硫酸、亜硝酸、次亜硝酸、亜リン酸、次亜リン酸等のプロトン酸またはこれらの混合物等が挙げられる。また、前記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムまたはこれらの混合物等が挙げられる。前記溶媒は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、有機溶媒であってもよいし、無機溶媒であってもよい。有機溶媒と無機溶媒の混合溶媒であってもよい。前記有機溶媒としては、例えば、アルコール類、エステル類、エーテル類等があげられる。前記無機溶媒としては、水等が挙げられ、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられる。
【0027】
本発明においては、キャリアガスを前記ミストまたは前記液滴に供給し、該キャリアガスでもって、前記ミストまたは前記液滴を前記基体まで搬送するのが好ましい。前記キャリアガスとしては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、流量を下げた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~2L/分であるのが好ましく、0.1~1L/分であるのがより好ましい。
【0028】
(成膜工程)
成膜工程では、基体上で前記ミストまたは前記液滴を前記溶媒の沸点以上の温度で熱反応させることによって、基体上に成膜する。熱反応は、熱でもって前記ミストまたは液滴が反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。前記熱反応の温度は、前記溶媒の沸点以上の温度であれば、特に限定されないが、210℃以上であるのが、前記有機膜の熱的安定性をより優れたものとすることができるため、好ましく、240℃以上であるのがより好ましい。また、本発明においては、前記熱反応の温度が、前記溶媒の沸点よりも8℃以上高い温度であるのが、より良好に成膜することができるため、好ましく、30℃以上高い温度であるのがより好ましい。また、前記熱反応の温度の上限も特に限定されないが、350℃以下であるのが好ましく、300℃以下であるのがより好ましい。また、前記熱反応は、本発明の目的を阻害しない限り、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよいが、非酸素雰囲気下または酸素雰囲気下で行われるのが好ましい。また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。なお、膜厚は、成膜時間を調整することにより、設定することができる。また、例えば、リニアソース式の成膜装置を用いる場合には、成膜のスキャン往復回数等を調整することにより、膜厚を適宜設定することができる。また、例えば、ロール・トゥ・ロール式の成膜装置を用いる場合には、ノズルの本数等を調整することにより、膜厚を適宜設定することができる。
【0029】
本発明においては、前記成膜後、アニール処理を行ってもよい。アニールの処理温度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、通常、50℃~650℃であり、好ましくは100℃~300℃である。また、アニールの処理時間は、通常、1分間~48時間であり、好ましくは10分間~24時間であり、より好ましくは30分間~12時間である。なお、アニール処理は、本発明の目的を阻害しない限り、どのような雰囲気下で行われてもよいが、本発明においては、非酸素雰囲気下で行うのが好ましく、窒素雰囲気下で行うのがより好ましい。
【0030】
また、本発明においては、前記基体上に、直接、成膜してもよいし、バッファ層(緩衝層)や応力緩和層等の他の層を介して成膜してもよい。バッファ層(緩衝層)や応力緩和層等の他の層の形成手段は、特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、ミストCVD法またはミストデポジション法が好ましい。
【0031】
上記のようにして成膜することで、高温環境下での熱による経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を工業的有利に得ることができる。
【実施例
【0032】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
1.成膜装置
図1を用いて、本実施例で用いた成膜装置1を説明する。成膜装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)供給源2bと、キャリアガス(希釈)供給手段2bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁3bと、原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の 底面に取り付けられた超音波振動子6と、ホットプレート8と、ホットプレート8上に載置された基体10と、ミスト発生源4から基体10近傍までをつなぐ供給管9およびノズル7と、を備えている。
【0034】
2.原料溶液の作製
2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン(MEH-PPV)をN-メチル-2-ピロリドン(沸点:202℃)に混合し、これを原料溶液とした。
【0035】
3.成膜準備
上記2.で得られた原料溶液4aを、ミスト発生源4内に収容した。次に、基体10として、ガラス/ITO基板をホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて基体10の温度を240℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3aおよび3bを開いて、キャリアガス供給源2aから供給されるキャリアガスの流量を4.0L/分に、キャリアガス(希釈)2bから供給されるキャリアガス(希釈)の流量を4.0L/分に調節した。なお、キャリアガスとし窒素を用いた。
【0036】
4.有機膜の成膜
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bに対して、キャリアガスが供給され、該キャリアガスによって、ミスト4bが供給管9内を通って、基体10へと搬送され、大気圧下、240℃にて、基体10近傍でミストが熱反応して、基体10上に有機膜が形成された。
【0037】
5.評価
上記4.にて得られた有機膜につき、蛍光スペクトル測定を行った。その結果を図2に示す。図2から分かるように、得られた有機膜は、波長350~400nmの間に発光ピークを有しており、発光特性に優れた膜であった。
【0038】
(熱安定性評価)
上記4.で得られた有機膜につき、熱安定性の評価を行った。具体的には、得られた有機膜を、240℃の温度で加熱し、加熱後の膜の状態を、蛍光スペクトル測定を行うことにより評価した。加熱を4時間実施した後に蛍光スペクトル測定を行った結果を、図2に示す。図2から明らかなように、蛍光スペクトルのピーク位置およびピーク強度は加熱処理の前後で概ね同様であった。また、加熱処理の時間を8時間とした場合にも、加熱処理の時間が4時間の場合と同様の結果が得られた。このことから、得られた膜は、熱によって経時劣化を起こすことなく膜の特性が維持されており、熱的安定性に優れていることがわかる。
【0039】
(実施例2)
成膜温度を210℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、有機膜を得た。得られた膜につき、実施例1と同様にして、蛍光スペクトル測定を行った。その結果、得られた膜は、実施例1で得られた膜と同様に、波長350~400nmの間に発光ピークを有しており、発光特性に優れた膜であった。また、得られた膜につき、実施例1と同様にして、熱安定性評価を行ったところ、得られた膜は、熱によって経時劣化を起こすことなく膜の特性が維持されており、熱的安定性に優れていた。
【0040】
(比較例1)
溶媒として、N-メチル-2-ピロリドンに代えてトルエン(沸点110.6℃)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、有機膜を得た。また、得られた膜につき、実施例1と同様にして蛍光スペクトル測定を行ったところ、膜の蛍光スペクトルのピーク強度が実施例1で得られた膜の1/5以下であった。
【0041】
(比較例2)
成膜温度を180℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、有機膜を得た。得られた膜につき、実施例1と同様にして、蛍光スペクトル測定を行った。その結果を図3に示す。図3から分かるように、得られた膜は、波長350~400nmの間に発光ピークを有していた。また、得られた膜につき、実施例1と同様にして、熱安定性評価を行った。加熱処理を4時間および8時間実施した後に蛍光スペクトル測定を行った結果を図3に示す。図3からわかるように、4時間の加熱処理によって膜の蛍光スペクトルのピーク強度が約1/3に低下し、8時間の加熱処理後には蛍光スペクトルのピークを観察することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の成膜方法は、高温環境下での熱による経時劣化が抑制され、熱的安定性に優れた有機膜を工業的有利に成膜することができるため、有機膜を用いる種々の幅広い分野に利用可能である。また、本発明の成膜方法を用いて得られた有機膜を、例えば、有機発光素子等に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 成膜装置
2a キャリアガス源
2b キャリアガス(希釈)源
3a 流量調節弁
3b 流量調節弁
4 ミスト発生源
4a 原料溶液
4b ミスト
5 容器
5a 水
6 超音波振動子
7 ノズル
8 ホットプレート
9 供給管
10 基体

図1
図2
図3