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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】荷電粒子線治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A61N5/10 H
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018008828
(22)【出願日】2018-01-23
(65)【公開番号】P2019126462
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】上口 長昭
【審査官】菊地 康彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-281797(JP,A)
【文献】特開平05-277197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0007848(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子線を入射させることで、当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる減衰部と、
前記減衰部の上流側の一端部から前記減衰部の下流側の他端部までの領域において、前記荷電粒子線の出射方向と同方向の成分を持つ磁場を発生させる磁場発生部と、
前記磁場発生部を通過した前記荷電粒子線を被照射体に照射する照射部と、
を備え、
前記磁場発生部は、前記減衰部の上流側に配置された第1発生部、及び前記減衰部の下流側に配置された第2発生部の少なくとも一方を有し
前記第1発生部は、当該第1発生部の中心軸が前記荷電粒子線の軸と一致するように配置され、前記第2発生部は、当該第2発生部の中心軸が前記荷電粒子線の軸と一致するように配置される、荷電粒子線治療装置。
【請求項2】
前記磁場発生部は、超伝導電磁石により前記磁場を発生させる、請求項1に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項3】
前記磁場発生部は、前記減衰部の上流側に配置された第1発生部と、前記減衰部の下流側に配置された第2発生部とを有する、請求項1又は2に記載の荷電粒子線治療装置。
【請求項4】
荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、
前記加速器から出射された前記荷電粒子線を入射させることで、当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる減衰部と、
前記減衰部の上流側の一端部から前記減衰部の下流側の他端部までの領域において、前記荷電粒子線の出射方向と同方向の成分を持つ磁場を発生させる磁場発生部と、
前記磁場発生部を通過した前記荷電粒子線を被照射体に照射する照射部と、
を備え、
前記磁場発生部は、前記減衰部の上流側に配置された第1発生部と、前記減衰部の下流側に配置された第2発生部とを有し、
前記第1発生部と前記第2発生部とは、前記減衰部に隣接して設けられる、荷電粒子線治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線治療装置として、例えば、特許文献1に記載された装置が知られている。特許文献1に記載の荷電粒子線治療装置では、加速器で加速された荷電粒子線を、減衰部(ディグレーダ)に入射させてエネルギーを減衰させてから、被照射体に照射している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-181655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような荷電粒子線治療装置においては、荷電粒子線が減衰部を通過すると、減衰部によって荷電粒子が散乱され、荷電粒子線のビームサイズが大きくなる。このため、高精度な照射を行うことが求められる場合には、コリメータ等を用いて荷電粒子線の一部をカットすることにより、荷電粒子線のビームサイズを調整する必要がある。しかしながら、このように荷電粒子線の一部をカットすると粒子利用効率が低下するので、荷電粒子線のビーム電流が低下するという問題が生じる。したがって、荷電粒子線のビームサイズの拡大を抑制することが要請されている。
【0005】
本発明、上記の課題を解決するためになされたものであり、荷電粒子線のビーム電流の低下を抑制しつつ、ビームサイズの拡大を抑制することが可能な荷電粒子線治療装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る荷電粒子線治療装置は、荷電粒子を加速して荷電粒子線を出射する加速器と、加速器から出射された荷電粒子線を入射させることで、当該荷電粒子線のエネルギーを低下させる減衰部と、減衰部において、荷電粒子線の出射方向と同方向の成分を持つ磁場を発生させる磁場発生部と、磁場発生部を通過した荷電粒子線を被照射体に照射する照射部と、を備える。
【0007】
この荷電粒子線治療装置は、減衰部において、荷電粒子線の出射方向と同方向の成分を持つ磁場を発生させる磁場発生部を備えている。このように荷電粒子線の出射方向と同方向の磁場を減衰部に発生させることにより、減衰部で散乱された荷電粒子には、荷電粒子線の出射方向を軸とした回転方向に力が作用する。この結果、散乱された荷電粒子は、荷電粒子線の軸に巻き付くような軌道で出射方向に移動する。したがって、散乱された荷電粒子が荷電粒子線の軸から離間する方向に発散することが抑制され、ビームサイズの拡大が抑制される。よって、荷電粒子線のビーム電流の低下を抑制しつつ、ビームサイズの拡大を抑制することが可能である。
【0008】
一形態において、磁場発生部は、超伝導電磁石により磁場を発生させてもよい。この構成によれば、例えば10T程度の強力な磁場を発生させることができるので、荷電粒子線のビームサイズの拡大を効果的に抑制することができる。
【0009】
一形態において、磁場発生部は、減衰部の上流側に配置された第1発生部と、減衰部の下流側に配置された第2発生部とを有してもよい。この構成によれば、減衰部において、出射方向に均一な磁場を発生させやすくなる。したがって、荷電粒子線のビームサイズの拡大を効果的に抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、荷電粒子線のビーム電流の低下を抑制しつつ、ビームサイズの拡大を抑制することが可能な荷電粒子線治療装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一形態に係る荷電粒子線治療装置の概略構成図である。
図2図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。
図3】腫瘍に対して設定された操を示す図である。
図4】エネルギー調整部の構成を概略的に示す斜視断面図である。
図5】エネルギー調整部の構成を示す概略構成図である。
図6図4の磁場発生部の効果を説明するための図である。
図7】(a)は磁場発生部を用いない場合の荷電粒子線の散乱を示すシミュレーション結果であり、(b)は磁場発生部を用いた場合の荷電粒子線の散乱を示すシミュレーション結果である。
図8】(a)は、磁場発生部を用いない場合の荷電粒子の分布を示す図であり、(b)は、磁場発生部を用いた場合の荷電粒子の分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0013】
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療などに利用される装置であり、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン41と、ビーム輸送ライン41上において加速器3と照射部2との間に設けられたエネルギー調整部20と、を備えている。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りを回転可能に構成されている。
【0014】
図2は、図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」という語を用いて説明する。「Z方向」とは、荷電粒子線Bの基軸AXが延びる方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の走査電磁石6で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X方向」とは、Z方向と直交する平面内における一の方向である。「Y方向」とは、Z方向と直交する平面内においてX方向と直交する方向である。
【0015】
まず、図2を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1の概略構成について説明する。なお、以降の説明においては、荷電粒子線治療装置1がスキャニング法に係る照射装置である場合について説明する。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。更に、荷電粒子線治療装置1の照射方法はスキャニング法に限定されず、ワブラー法、ブロードビーム法、原体照射法等、あらゆる照射方法を採用してよい。図2に示されるように、荷電粒子線治療装置1は、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン41と、制御部7と、を備えている。
【0016】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送ライン41によって照射ノズル9へ輸送される。ビーム輸送ライン41は、加速器3と、エネルギー調整部20と、照射部2と、を接続し、加速器3から出射されてエネルギー調整部20にてエネルギー調整された荷電粒子線を照射部2へ輸送する。
【0017】
荷電粒子線治療装置1は、加速器3内に配置され、イオン源から出た荷電粒子を遮断するビームチョッパ16を更に備えている。ビームチョッパ16の作動状態(ON)において、イオン源からでた荷電粒子は遮断され、荷電粒子線Bが加速器3から出射されない状態となる。ビームチョッパ16の停止状態(OFF)においては、イオン源から出た荷電粒子は遮断されることなく、荷電粒子線Bが加速器3から出射される状態となる。ビームチョッパ16の作動状態及び停止状態は、ビームチョッパスイッチ(不図示)により切り替えられる。なお、荷電粒子線の照射、非照射を切り替える手段としてビームチョッパ以外が用いられてもよい。例えば、ビーム輸送ライン41中にシャッターを設けてシャッターで荷電粒子線Bを遮断してもよい。あるいは、加速器3内に設けられたデフレクタ(電磁石)を用いて、照射するときのみ加速器3から荷電粒子線Bを出射させてもよい。
【0018】
照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷を持った粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン41で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、走査電磁石(走査部)6、四極電磁石8,プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、フラットネスモニタ13a,13b、及びディグレーダ30を備えている。走査電磁石6、各モニタ11,12,13a,13b、四極電磁石8、及びディグレーダ30は、照射ノズル9内に収容されている。
【0019】
走査電磁石6は、X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bを含む。X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御部7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Bを走査する。X方向走査電磁石6aは、X方向に荷電粒子線Bを走査し、Y方向走査電磁石6bは、Y方向に荷電粒子線Bを走査する。これらの走査電磁石6は、基軸AX上であって、加速器3よりも荷電粒子線Bの出射方向の下流側にこの順で配置されている。
【0020】
四極電磁石8は、X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bを含む。X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X方向四極電磁石8aは、X方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y方向四極電磁石8bは、Y方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石6との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、ビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0021】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8と走査電磁石6との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの強度を検出する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって走査電磁石6に対して下流側に配置されている。フラットネスモニタ13a,13bは、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出監視する。フラットネスモニタ13a,13bは、基軸AX上であって、ドーズモニタ12よりも荷電粒子線Bの下流側に配置されている。各モニタ11,12,13a,13bは、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0022】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bのエネルギーの微調整を行う。本実施形態では、ディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。照射ノズル9内のディグレーダ30は、省略することも可能である。
【0023】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、各モニタ11,12,13a,13bから出力された検出結果に基づいて、加速器3、走査電磁石6及び四極電磁石8を制御する。また、本実施形態においては、制御部7は、各モニタ11,12,13a,13bの検出結果をフィードバックして、荷電粒子線Bのビームサイズが一定となるように、四極電磁石8を制御する。
【0024】
また、荷電粒子線治療装置1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画装置100と接続されている。治療計画装置100は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線の線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置100は、腫瘍14に対して治療計画マップを作成する。治療計画装置100は、作成した治療計画マップを制御部7へ送信する。
【0025】
スキャニング法による荷電粒子線の照射を行う場合、腫瘍14をZ方向に複数の層に仮想的に分割し、一の層において荷電粒子線を走査して照射する。そして、当該一の層における荷電粒子線の照射が完了した後に、隣接する次の層における荷電粒子線の照射を行う。
【0026】
図2に示す荷電粒子線治療装置1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0027】
続いて、加速器3から荷電粒子線Bを出射する。また、加速器3から出射された荷電粒子線Bをエネルギー調整部20で調整することで、当該荷電粒子線Bの飛程を調整する。出射された荷電粒子線Bは、走査電磁石6の制御によって走査される。これにより、荷電粒子線Bは、腫瘍14に対してZ方向に設定された一の層における照射範囲内を走査されつつ照射されることとなる。一の層に対する照射が完了したら、次の層へ荷電粒子線Bを照射する。
【0028】
制御部7の制御に応じた走査電磁石6の荷電粒子線照射イメージについて、図3(a)及び(b)を参照して説明する。図3(a)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、図3(b)は、深さ方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0029】
図3(a)に示すように、被照射体は照射の深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線Bの飛程が長い)層から順に、層L、層L、…層Ln-1、層L、層Ln+1、…層LN-1、層LとN層に仮想的にスライスされている。また、図3(b)に示すように、荷電粒子線Bは、ビーム軌道TLを描きながら層Lの複数の照射スポットに対して照射される。すなわち、制御部7に制御された照射ノズル9は、ビーム軌道TL上を移動する。
【0030】
次に、図4及び図5を参照して、本実施形態に係る荷電粒子線治療装置1が備えるエネルギー調整部20の構成について説明する。エネルギー調整部20は、荷電粒子線Bのエネルギーを低下させる減衰部21と、減衰部21において磁場を発生させる磁場発生部22とを有している。
【0031】
減衰部21は、加速器3から出射された荷電粒子線Bを入射させることで、当該荷電粒子線Bのエネルギーを低下させる部材である。減衰部21は、第1減衰材21A及び第2減衰材21Bを有している。第1減衰材21A及び第2減衰材21Bのぞれぞれは、直角三角柱状の突出部23を複数有している。それぞれの突出部23は、荷電粒子線Bに対して垂直な第1面23aと、荷電粒子線Bに対して傾斜した第2面23bとを有している。第1減衰材21Aと第2減衰材21Bとは互いに略同一の形状を呈しており、第1減衰材21Aの突出部23と第2減衰材21Bの突出部23が向かい合うように配置されている。第1減衰材21Aの突出部23の第2面23bと第2減衰材21Bの突出部23の第2面23bとは互いに平行であり、離間している。荷電粒子線Bは、第1減衰材21Aの突出部23の第1面23aから減衰部21内に入射し、第2減衰材21Bの突出部23の第1面23aから減衰部21の外部へ出射する。
【0032】
第1減衰材21A及び第2減衰材21Bは、それぞれ不図示の駆動源に連結されており、荷電粒子線Bと直交する方向に変位可能に構成されている。これにより、荷電粒子線Bが通過する部分の厚さ(荷電粒子線Bの照射軸上の第1減衰材21Aの厚さ及び第2減衰材21Bの厚さの合計)を調節し、減衰部21による荷電粒子線Bのエネルギーの減衰量を調整可能にしている。
【0033】
減衰部21(第1減衰材21A及び第2減衰材21B)を構成する材料としては、例えばベリリウム(Be)又は炭素(C)等、原子番号が小さい物質が挙げられる。本実施形態では、減衰部21による荷電粒子線Bの散乱を抑制する観点から、ベリリウム(Be)が好適に用いられる。なお、第1減衰材21A及び第2減衰材21Bを構成する材料は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、第1減衰材21A及び第2減衰材21Bの形状と特に限定されず、適宜変更可能である。
【0034】
磁場発生部22は、減衰部21に磁場を発生させる部分であり、第1発生部22Aと第2発生部22Bとを有している。第1発生部22Aは減衰部21の上流側(加速器3側)に配置され、第2発生部22Bは減衰部21の下流側(照射部2側)に配置されている。第1発生部22A及び第2発生部22Bのそれぞれは、超伝導電磁石24と、超伝導電磁石24を収容するクライオスタット25とを有している。本実施形態では、第1発生部22A及び第2発生部22Bは減衰部21に隣接して設けられており、減衰部21と第1発生部22Aとの間、及び減衰部21と第2発生部22Bとの間には、他の部品が配置されていない。
【0035】
超伝導電磁石24は、超伝導線材を円環状に巻回した電磁石であり、超伝導状態まで冷却した状態で超伝導線材に電流を流すことにより磁場を発生させるものである。第1発生部22Aの超伝導電磁石24及び第2発生部22Bの超伝導電磁石24には、同一方向の電流が流される。これにより、第1発生部22Aと第2発生部22Bとの間に位置する減衰部21には磁場Hが形成される。より具体的には、超伝導電磁石24は、その中心軸が荷電粒子線Bの軸と略一致するように配置されている。このように超伝導電磁石24を配置することにより、減衰部21において荷電粒子線Bが通過する部分には、荷電粒子線Bの出射方向と同方向の成分を持つ磁場Hが形成される。また、荷電粒子線Bの軸に沿った方向において、出射方向と同方向の磁場Hを発生させる範囲は、減衰部21の上流側の一端部から減衰部21の下流側の他端部までの領域を含んでいることが好ましい。なお、荷電粒子線Bの軸に沿った方向における磁場Hを発生させる範囲は、減衰部21の一部のみを含んでいてもよい。また、磁場Hを発生させる範囲は減衰部21の幅より広く設定してもよい。磁場Hの強度は、例えば0.5T~10T程度とすることができる。
【0036】
また、磁場Hのうち、出射方向と同方向の磁場Hが形成される範囲の、荷電粒子線Bの出射方向に直交する方向における幅は、荷電粒子線Bの軸を中心として、少なくとも減衰部21に入射する前の荷電粒子線Bのビームサイズdより大きくすることができる。なお、出射方向と同方向の磁場Hが形成される範囲の、出射方向に直交する方向における幅は、減衰部21から出射する際の荷電粒子線Bのビームサイズd(すなわち、荷電粒子が発散しうる範囲)よりも大きいことがより好ましく、減衰部21全体を含んでいてもよい。
【0037】
クライオスタット25は、円環状の容器である。超伝導電磁石24は、クライオスタット25内で冷却される。クライオスタット25は、その中央部に開口25aが設けられている。開口25aの中心は荷電粒子線Bの軸と略一致しており、荷電粒子線Bはクライオスタット25の開口25aを通過して減衰部21に入射(又は出射)する。なお、クライオスタット25の形状は特に限定されず、適宜変更可能である。
【0038】
次に図6を参照して、磁場発生部22の効果について説明する。図6は、磁場発生部22の効果を説明するための図である。図6に示されるように、荷電粒子線Bの出射方向と同方向の磁場Hを発生させることにより、減衰部21(図4及び図5参照)で散乱された荷電粒子Pには、荷電粒子線Bの出射方向を軸とした回転方向Rに力が作用する。この結果、荷電粒子Pは、荷電粒子線Bの軸の周りを回転しながら、出射方向に移動する。すなわち、磁場Hの影響により、荷電粒子Pは荷電粒子線Bの軸に巻き付くような螺旋状の軌道を描きながら移動する。これにより、散乱された荷電粒子Pが荷電粒子線Bの軸から離間する方向に発散することが抑制されるので、荷電粒子線Bのビームサイズの拡大を抑制することができる。
【0039】
次に図7及び図8を参照して、荷電粒子線Bの散乱に関するシミュレーション結果について説明する。図7(a)は、磁場発生部22を用いない場合の荷電粒子線Bの散乱を示すシミュレーション結果であり、図7(b)は磁場発生部22を用いた場合の荷電粒子線Bの散乱を示すシミュレーション結果である。図8(a)は、磁場発生部22を用いない場合の荷電粒子の分布を示す図であり、図8(b)は、磁場発生部22を用いた場合の荷電粒子の分布を示す図である。
【0040】
荷電粒子線Bの散乱に関するシミュレーションでは、荷電粒子線Bの電流値、減衰部の材料、及び荷電粒子線Bのビームサイズdの測定位置等のパラメータを一定の条件に設定し、磁場Hを用いた場合のビームサイズdと磁場Hを用いない場合のビームサイズdとを比較した。
【0041】
図7(a)に示されるように、磁場発生部22を用いない場合、減衰部21内から荷電粒子線Bのビームサイズdが徐々に拡大している。これに対し、図7(b)に示されるように、磁場発生部22を用いた場合、減衰部21、及び磁場Hが形成されている範囲内においてはビームサイズdの拡大が抑制されている。荷電粒子線Bのビームサイズdは、磁場Hの範囲を通過した後に徐々に拡大している。測定位置における荷電粒子線Bのビームサイズdは、磁場発生部22を用いない場合のビームサイズdに比べて小さくなっている。この結果から、磁場発生部22が発生させる磁場Hによって減衰部21における荷電粒子の発散が抑制され、荷電粒子線Bのビームサイズdの拡大が抑制されていることが確認できる。
【0042】
また、図8は、図7に示されるシミュレーション結果に基づいて、荷電粒子線Bのビームサイズdの測定位置における荷電粒子の分布を位相空間で示したものである。図8(a)及び図8(b)において、X軸は荷電粒子線Bの軸に垂直な平面内のある方向の空間座標を示し、X’軸は、荷電粒子線Bの出射方向に対するX座標の変化(すなわち粒子角度)を示している。図8(a)及び図8(b)においては、X軸方向の幅が荷電粒子線Bのビームサイズdに相当する。図8(a)と図8(b)とを比較すると、図8(b)(磁場発生部22を用いた場合)におけるX軸方向の幅は、図8(a)(磁場発生部22を用いない場合)におけるX軸方向の幅よりも小さくなっている。したがって、図8(a)及び図8(b)からも、磁場発生部22が発生させる磁場Hによって減衰部21における荷電粒子の発散が抑制され、荷電粒子線Bのビームサイズdの拡大が抑制されていることが確認できる。なお、図8(a)におけるX’軸方向の幅と、図8(b)におけるX’軸方向の幅はとは略同一になっている。このことから、減衰部21による荷電粒子の散乱は同程度発生している(すなわち、減衰部21の形状や減衰部21を構成する材料は同じである)が、磁場Hによって荷電粒子線Bの軸から離間する方向への発散が磁場Hによって抑制されていることが確認できる。
【0043】
以上説明したように、荷電粒子線治療装置1は、減衰部21において、荷電粒子線Bの出射方向と同方向の磁場Hを発生させる磁場発生部22を備えている。このように荷電粒子線Bの出射方向と同方向の磁場Hを減衰部21に発生させることにより、減衰部21で散乱された荷電粒子Pには、荷電粒子線Bの出射方向を軸とした回転方向Rに力が作用する(図6参照)。この結果、散乱された荷電粒子Pは、荷電粒子線Bの軸に巻き付くような軌道で出射方向に移動する。したがって、散乱された荷電粒子Pが荷電粒子線Bの軸から離間する方向に発散することが抑制され、ビームサイズdの拡大が抑制される。よって、コリメータ等によってカットされる部分を低減できる(すなわち、粒子利用率の向上を図ることができる)ので、荷電粒子線Bのビーム電流の低下を抑制しつつ、ビームサイズの拡大を抑制することが可能である。
【0044】
また、磁場発生部22は、超伝導電磁石24により磁場Hを発生させている。これにより、例えば10T程度の強力な磁場Hを発生させることができるので、荷電粒子線Bのビームサイズdの拡大を効果的に抑制することができる。
【0045】
また、磁場発生部22は、減衰部21の上流側に配置された第1発生部22Aと、減衰部21の下流側に配置された第2発生部22Bとを有している。これにより、減衰部21において、出射方向に均一な磁場Hを発生させやすくなる。したがって、荷電粒子線Bのビームサイズdの拡大を効果的に抑制することができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変形態様を採用可能である。例えば、上記の実施形態では、磁場発生部22が超伝導電磁石24によって磁場を発生させる例について説明が、磁場発生部22は超伝導電磁石24以外の手段によって磁場Hを発生させてもよい。例えば、超伝導電磁石24に替えて永久磁石及び/又は常伝導電磁石が用いられてもよい。
【0047】
また、照射部2の構成は図2に示すものに限定されず、適宜変更可能である。
【0048】
また、上記の実施形態では、エネルギー調整部20が加速器3の直下(荷電粒子線Bの出射方向に対してすぐ下流側)に配置されている例について説明したが、エネルギー調整部20が配置される位置は特に限定されない。なお、粒子利用効率の向上を図る観点から、加速器3の直下にエネルギー調整部20を配置し、磁場発生部22によってビームサイズdの拡大を抑制することが好ましい。
【0049】
また、上記の実施形態では、磁場発生部22が第1発生部22A及び第2発生部22Bの2つの発生部を備える例について説明したが、磁場発生部22は1つの発生部のみを備えていてもよい。この場合、発生部は減衰部21の上流側に配置されていてもよいし、下流側に配置されていてもよい。更に、磁場発生部22は3つ以上の発生部を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1…荷電粒子線治療装置、2…照射部、3…加速器、14…腫瘍(被照射体)、20…エネルギー調整部、21…減衰部、22…磁場発生部、22A…第1発生部、22B…第2発生部、24…超伝導電磁石、B…荷電粒子線、H…磁場。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8