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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】走行軌跡生成方法及び走行軌跡生成装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/10 20060101AFI20221027BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B60W30/10
G08G1/16 E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018160543
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020032844
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 誠信
(72)【発明者】
【氏名】植田 宏寿
(72)【発明者】
【氏名】辻 正文
【審査官】久保田 創
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-024338(JP,A)
【文献】特開平08-153191(JP,A)
【文献】特開2015-004814(JP,A)
【文献】特開2017-204145(JP,A)
【文献】国際公開第2009/084427(WO,A1)
【文献】特開2004-294953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/10
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周囲の他車両の位置を異なる時刻で複数回検出し、前記位置の時系列を示す複数の観測点に対して直線または曲線を当てはめることにより、前記他車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成方法であって、
接線ベクトル算出部が、前記複数の観測点の各々における前記他車両の走行経路の接線ベクトルを算出し、
曲率半径算出部が、前記複数の観測点の各々における前記他車両の走行経路の曲率半径を算出し、
区間分割点設定部が、前記接線ベクトルの方向が所定角度以上異なる2つの観測点をそれぞれ区間分割点に設定し、且つ、前記曲率半径に基づいて区間分割点を設定し、
走行軌跡生成部が、互いに隣接する2つの前記区間分割点の間に位置する前記観測点に対して、前記直線または曲線を当てはめることにより、前記他車両の走行軌跡を生成することを特徴とする走行軌跡生成方法。
【請求項2】
前記曲率半径が、所定の第1の閾値以上から前記第1の閾値未満に変化する観測点、
前記曲率半径が、前記第1の閾値未満から前記第1の閾値以上に変化する観測点、
及び、前記曲率半径が前記第1の閾値未満で、且つ、旋回方向が変化する変曲点となる観測点、
のうちの少なくとも一つに、前記区間分割点を設定すること
を特徴とする請求項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項3】
所定の第1の観測点に対して、所定時間だけ前に検出した、または所定距離だけ前記他車両の進行方向の後方に離れた第2の観測点、及び、前記所定時間だけ後に検出した、または前記所定距離だけ前記他車両の進行方向の前方に離れた第3の観測点を設定し、
前記第1~第3の観測点を通る円の半径を、前記第1の観測点の曲率半径として算出すること
を特徴とする請求項1または2に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項4】
前記第2の観測点と前記第3の観測点を結ぶ線分と、前記第1の観測点から下ろした垂線との交点を第4の点とし、
前記円上の点であって、前記円の中心を対称中心とする前記第1の観測点に対称な点を第5の点とし、
前記第1の観測点と、前記第2の観測点または前記第3の観測点と、前記第4の点と、で形成される第1の三角形と、
前記第1の観測点と、前記第2の観測点または前記第3の観測点と、前記第5の点と、で形成される第2の三角形と、が相似関係にあることを利用して、前記円の半径を算出すること
を特徴とする請求項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項5】
所定の第6の観測点に対して、所定時間だけ前に検出した、または所定距離だけ前記他車両の進行方向の後方に離れた第7の観測点、及び、前記所定時間だけ後に検出した、または前記所定距離だけ前記他車両の進行方向の前方に離れた第8の観測点を設定し、
前記第7の観測点と前記第8の観測点を結ぶ線分の方向を、前記第6の観測点の接線ベクトルとすること
を特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項6】
任意の区間分割点を基準として、所定の第2の閾値距離以内、または前記他車両が所定の第3の閾値時間で走行する距離以内に、他の区間分割点が存在しない場合には、前記任意の区間分割点から前記第2の閾値距離または前記他車両が前記第3の閾値時間で走行する距離だけ離れた観測点に、区間分割点を更に設定すること
を特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項7】
互いに隣接する2つの前記区間分割点の間に位置する各観測点に、第1の次数の関数を当てはめて走行軌跡を生成し、
前記第1の次数の関数を当てはめた前記走行軌跡と前記各観測点との誤差に関連する数値が第4の閾値を超える場合には、前記第1の次数よりも高い次数の関数を当てはめて走行軌跡を生成する処理を繰り返し、
前記誤差に関連する数値が、前記第4の閾値以下となったときの前記走行軌跡を、前記他車両の走行軌跡として採用すること
を特徴とする請求項1~のいずれか1項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項8】
前記関数の次数の上限を設定し、前記上限の次数の関数を当てはめて生成した走行軌跡と前記各観測点との誤差に関連する数値が、前記第4の閾値を超える場合には、前記上限の次数の関数を当てはめて生成した前記走行軌跡を、前記他車両の走行軌跡として採用すること
を特徴とする請求項に記載の走行軌跡生成方法。
【請求項9】
自車両の周囲の他車両の位置を異なる時刻で複数回検出し、前記位置の時系列を示す複数の観測点に対して直線または曲線を当てはめることにより、前記他車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成装置であって、
前記複数の観測点の各々における前記他車両の走行経路の接線ベクトルを算出する接線ベクトル算出部と、
前記複数の観測点の各々における前記他車両の走行経路の曲率半径を算出する曲率半径算出部と、
前記接線ベクトルの方向が所定角度以上異なる2つの観測点にそれぞれ区間分割点を設定し、且つ、前記曲率半径に基づいて区間分割点を設定する区間分割点設定部と、
互いに隣接する2つの前記区間分割点の間に位置する前記観測点に対して、前記直線または曲線を当てはめることにより、前記他車両の走行軌跡を生成する走行軌跡生成部と、
を備えたことを特徴とする走行軌跡生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行軌跡生成方法及び走行軌跡生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自車両の前方を走行する先行車両に追従するように自車両の走行を制御する装置として、例えば特許文献1に開示された装置が知られている。特許文献1では、先行車両の所望のバッファリング範囲の座標データを取得し、取得した座標データを曲線フィッティングして、先行車両の走行軌跡を算出する。更に、バッファリング範囲を車両の走行状態に応じて変化させることにより、走行軌跡の算出精度の向上、及び演算負荷の低減化を両立することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-206976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された従来例では、直線路、カーブ路、カーブの旋回方向が変化するS字路などの走行路の形状を考慮せずにバッファリング範囲を設定するので、直線または曲線を当てはめて走行軌跡を算出する際の精度を高めることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、他車両が走行した位置を示す観測点に対して、直線または曲線を当てはめて走行軌跡を生成する際の精度を向上させることが可能な走行軌跡生成方法、及び走行軌跡生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本願発明は、接線ベクトル算出部が、複数の観測点の各々における他車両の走行経路の接線ベクトルを算出し、曲率半径算出部が、複数の観測点の各々における他車両の走行経路の曲率半径を算出し、区間分割設定部が、接線ベクトルの方向が所定角度以上異なる2つの観測点にそれぞれ区間分割点を設定し、且つ、曲率半径に基づいて区間分割点を設定し、走行軌跡生成部が、互いに隣接する2つの区間分割点の間に位置する観測点に対して、直線または曲線を当てはめることにより、他車両の走行軌跡を生成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、他車両が走行した位置を示す観測点に対して、直線または曲線を当てはめて走行軌跡を生成する際の精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態に係る走行軌跡生成装置、及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。
図2図2は、自車両の前方を走行する先行車両の走行経路にプロットした観測点Pの時系列を示す説明図である。
図3A図3Aは、観測点Pt1の曲率半径、接線ベクトルを演算する方法を示す第1の説明図である。
図3B図3Bは、観測点Pt1の曲率半径、接線ベクトルを演算する方法を示す第2の説明図であり、図3Aよりも広い領域を示す。
図4A図4Aは、先行車両の走行路が直線路からカーブ路に変化するときに設定される区間分割点を示す説明図である。
図4B図4Bは、先行車両の走行路がカーブ路から直線路に変化するときに設定される区間分割点を示す説明図である。
図4C図4Cは、先行車両の走行路がカーブ路の旋回方向が変化するときに設定される区間分割点を示す説明図である。
図5図5は、接線ベクトルの方向が所定角度θth以上異なる2つの観測点にそれぞれ区間分割点を設定する方法を示す説明図である。
図6A図6Aは、先行車両が直線路を第2の閾値距離走行したときに設定される区間分割点を示す説明図である。
図6B図6Bは、先行車両が緩やかなカーブ路を第2の閾値距離走行したときに設定される区間分割点を示す説明図である。
図7A図7Aは、2つの区間分割点Q11、Q12、及びその間に位置する観測点Pを示す説明図である。
図7B図7Bは、2つの区間分割点Q11、Q12の間に位置する観測点Pに1次関数を当てはめて算出した走行軌跡F1を示す説明図である。
図7C図7Cは、2つの区間分割点Q11、Q12の間に位置する観測点Pに2次関数を当てはめて算出した走行軌跡F2を示す説明図である。
図8図8は、走行軌跡を生成する処理手順を示すフローチャートである。
図9図9は、曲率半径及び接線ベクトルを算出する処理手順を示すフローチャートである。
図10A図10Aは、区間分割点を設定する処理手順を示すフローチャートの、第1の分図である。
図10B図10Bは、区間分割点を設定する処理手順を示すフローチャートの、第2の分図である。
図11図11は、関数近似により走行軌跡を求める処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本実施形態の構成の説明]
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る走行軌跡生成方法を実行する走行軌跡生成装置及びその周辺機器の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る走行軌跡生成装置101は、周囲車両認識センサ102、車両センサ103、及び車両制御装置104に接続されている。
【0010】
周囲車両認識センサ102は、自車両の周囲に存在する先行車両などの周囲車両や、自転車、歩行者、障害物などを検出するセンサであり、カメラ21、レーダ22、及びライダー23を備えている。なお、本実施形態では、周囲車両の一例として、自車両の前方を走行する先行車両の走行軌跡を生成する例について説明する。
また、以下に示す「走行経路」とは先行車両が実際に走行した位置を指し、「走行軌跡」とは走行経路から得られる各観測点を直線或いは滑らかな曲線で当てはめた軌跡を指す。
【0011】
カメラ21は、例えば車両に1つ或いは複数設けられており、CCD(Charge Coupled Device)方式、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)方式などの撮像方式を利用して、自車両周辺の画像を撮像する。カメラ21は、車両に搭載される全方位モニタ用のカメラと兼用してもよい。
【0012】
レーダ22は、自車両の前方、後方、側方などの、自車両周囲の任意の方向の所定領域に対して電磁波や光を発信し、その反射波を受信して自車両と、自車両の周囲に存在する物体との位置関係や相対速度を検出する。
【0013】
ライダー23は、紫外線、可視光線、近赤外線などの電磁波を発信し、その反射波を受信して自車両と、自車両の周囲に存在する物体との位置関係や相対速度を検出する。なお、レーダ22、ライダー23以外にも周囲の車両を認識する他のセンサを用いてもよい。
【0014】
車両センサ103は、自車両の位置情報、及び走行状態を検出するセンサであり、GPS受信機(Global Positioning System)31と、車速センサ32と、加速度センサ33と、ジャイロセンサ34を備えている。
【0015】
GPS受信機31は、GPS衛星より送信される自車両の測位情報を受信して、地図データ上における自車両の位置を特定する。
【0016】
車速センサ32は、自車両の走行速度を検出する。車速センサ32は、例えば車輪と共に回転し円周に突起部(ギヤパルサ)が形成されたセンサロータと、このセンサロータの突起部に対向して設けられたピックアップコイルを有する検出回路とを備える。車速センサ32は、センサロータの回転に伴う磁束密度の変化を、ピックアップコイルによって電圧信号に変換し、この電圧信号から各車輪の車輪速度を測定する。車速センサ32は、各車輪の車輪速度の平均を車速として演算する。
【0017】
加速度センサ33は、自車両の前後方向の加減速度Gx、及び横方向の横加速度Gyを検出する。加速度センサ33は、例えば固定電極に対する可動電極の位置変位を静電容量の変化として検出しており、加減速度と方向に比例した電圧信号に変換する。加速度センサ33は、電圧信号から加減速度Gxを判断し、加速を正の値とし、減速を負の値とする。加速度センサ33は同様に、横加速度Gyを判断し、右旋回を正の値とし、左旋回を負の値とする。
【0018】
ジャイロセンサ34は、自車両のヨー、ロール、ピッチの各方向の傾斜角度、角速度を検出する。
【0019】
走行軌跡生成装置101は、周囲車両検出部11と、曲率半径算出部12と、接線ベクトル算出部13と、区間分割点設定部14、及び走行軌跡生成部15、を備えている。
【0020】
周囲車両検出部11は、前述したカメラ21で撮像される画像、レーダ22、ライダー23で検出される検出信号に基づいて、自車両の前方を走行する先行車両を検出する。また、周囲車両検出部11は、所定のサンプリング時間毎に先行車両の走行経路を検出し、先行車両が通過した位置を観測点とし、観測点のデータをメモリなどの記憶部(図示省略)に記憶する。なお、本実施形態では、周囲車両として先行車両を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0021】
図2は、自車両M1の前方を走行する先行車両M2(他車両)の走行経路から取得される観測点Pを示す説明図である。周囲車両検出部11が、所定のサンプリング時間毎に観測点P(図中、黒丸で示す点)を検出し、検出した観測点をプロットすることにより、図2に示すように、観測点Pの時系列的なデータが得られる。
【0022】
図1に示す曲率半径算出部12は、上記の各観測点P毎に、或いは複数(例えば、3個)の観測点P毎に、走行経路の曲率半径を算出する。曲率半径の算出対象となる観測点をPt1とすると、曲率半径算出部12は、観測点Pt1及びその周辺の複数の観測点Pの位置に基づいて、走行経路の近似円を算出し、この近似円の半径を観測点Pt1における曲率半径とする。
【0023】
以下、図3A図3Bを参照して曲率半径を演算する方法について説明する。図3Aは、先行車両の走行経路から時系列的に得られる各観測点Pの位置に基づいて、観測点Pt1の曲率半径を演算する方法を示す説明図である。図3Bは、図3Aよりも広い領域を示した説明図である。
【0024】
例えば、先行車両がカーブ路を走行すると、該先行車両の走行経路は円弧状となる。周囲車両検出部11により、図3Aに示すようにほぼ円弧に沿った複数の観測点P(図中、黒丸で示す点)が検出される。検出された観測点Pのデータは、メモリなどに記憶される。なお、図3Aに示す各観測点Pは、先行車両が図中右下から左上の方向に向けて走行したときにプロットした観測点を示している。また、先行車両の走行速度は変化することがあるので、隣接する観測点Pどうしの距離は常に等間隔になるとは限らない。
【0025】
複数の観測点Pのうち、曲率半径の算出対象とする観測点をPt1(第1、第6の観測点)とする。観測点Pt1から所定時間だけ前に検出された観測点をPt2(第2、第7の観測点)とし、観測点Pt1から所定時間だけ後に検出された観測点をPt3(第3、8の観測点)とする。即ち、観測点Pt1と観測点Pt2との間の観測点Pの個数と、観測点Pt1と観測点Pt3との間の観測点Pの個数は一致している。
【0026】
なお、各観測点Pt2、Pt3を、観測点Pt1から所定距離だけ離れた位置に設定してもよい。即ち、観測点Pt1から所定距離だけ周囲車両の進行方向の後方に離れた点を観測点Pt2とし、所定距離だけ周囲車両の進行方向の前方に離れた点を観測点Pt3としてもよい。以下、観測点Pt1における走行経路の、曲率半径の算出方法について説明する。
【0027】
初めに、図3Aに示す2つの観測点Pt2とPt3を直線で結び、この間の線分をSとする。観測点Pt1から線分Sに引いた垂線をLとし、垂線Lと線分Sとの交点p1(第4の点)を算出する。垂線Lの長さ、即ち、観測点Pt1から交点p1までの距離をL1とする。更に、点p1から観測点Pt2までの距離D1を算出し、距離L1とD1に基づいて、2つの観測点Pt2とPt1を結ぶ線分Hの長さH1を次の(1)式を用いて算出する。
H1=(D1+L11/2 …(1)
【0028】
また、各観測点Pt2、Pt1、Pt3の3点を円弧上に含む近似円を設定し、この近似円の中心p2を算出する。この近似円の半径をRとする。更に、図3Bに示すように、中心p2に対して、観測点Pt1の対称となる点p3(第5の点)を算出する。即ち、近似円上の点であって、近似円の中心p2を対称中心とするPt1に対称な点を、点p3(第5の点)とする。点p3と観測点Pt1を結ぶ線分は近似円の直径となる。点p3と観測点Pt1を結ぶ線分をIとすると、線分Iと線分Hとのなす角度は直角になる。
【0029】
図3Bに示す2つの観測点Pt2、Pt1、及び点p1の3点を結ぶ三角形(第1の三角形)と、2つの観測点Pt2、Pt1、及び点p3の3点を結ぶ三角形(第2の三角形)は、互いに相似となる。従って、次の(2)式が成立する。
L1:H1=H1:2R …(2)
(1)、(2)式より、近似円の半径R(観測点Pt1における曲率半径R)は、次の(3)式で求めることができる。
R=H1/(2×L1)=(D1+L1)/(2×L1) …(3)
即ち、曲率半径算出部12は、第1の三角形と第2の三角形が相似であることを利用し、上記(3)式に基づいて観測点Pt1の曲率半径Rを算出する。
なお、図3A図3Bでは、観測点Pt1から所定時間だけ前に検出された観測点をPt2とし、観測点Pt1から所定時間だけ後に検出された観測点をPt3とする例について示したが、観測点Pt1から前後に、所定距離だけ離れた位置に各観測点Pt2、Pt3を設定してもよい。
【0030】
図1に戻って、接線ベクトル算出部13は、観測点Pにおける接線ベクトルを算出する。接線ベクトルは全ての観測点P毎に算出してもよいし、複数(例えば、3個)の観測点P毎に算出してもよい。図3Aに示したように、観測点Pt1における垂線Lに直交し、且つ車両の進行方向のベクトルを接線ベクトルとして算出する。換言すれば、図3Aに示す観測点Pt1を通り、線分Sと平行なベクトルを接線ベクトルとして算出する。
【0031】
なお、図3A図3Bでは、曲率半径を算出するときに使用する第1~第3の観測点をPt1~Pt3とし、接線ベクトルを算出するときに使用する第6~第8の観測点も同様にPt1~Pt3とする例について示したが、第1~第3の観測点と第6~第8の観測点を異なる観測点としてもよい。
【0032】
区間分割点設定部14は、先行車両の走行軌跡を算出する際の区切りとする区間分割点を設定する。具体的に、以下に示す(1)「曲率半径の変化による設定」、(2)「接線ベクトルの変化による設定」、(3)「前回の区間分割点からの距離、時間による設定」、の3つの方法により区間分割点を設定する。
【0033】
(1)「曲率半径の変化による設定」
区間分割点設定部14は、図3Aに示した各観測点P毎、或いは所定数の観測点毎(例えば、3個の観測点毎)に、前述した方法で走行経路の曲率半径を算出し、算出した曲率半径の大きさに基づいて区間分割点を設定する。ここでは、走行路が直線路からカーブ路に変わる点、カーブ路から直線路に変わる点、カーブ路の旋回方向が変わる点(「変曲点」ともいう)を区間分割点として設定する。
【0034】
具体的に、区間分割点設定部14は、予め曲率半径Rの閾値として第1の閾値Rth(例えば、1000m)を設定し、曲率半径Rが第1の閾値Rthよりも大きい場合には直線と判定し、小さい場合にはカーブ路と判定する。区間分割点設定部14は、演算により求めた曲率半径Rが第1の閾値Rth以上から、第1の閾値Rth未満に変化する観測点Pが存在する場合に、この観測点Pは直線路からカーブ路に変化する点であると判断して区間分割点を設定する。区間分割点設定部14は、逆に、曲率半径Rが第1の閾値Rth未満から、第1の閾値Rth以上に変化する観測点Pが存在する場合に、この観測点Pはカーブ路から直線路に変化する点であると判断して、この観測点Pに区間分割点を設定する。
【0035】
更に、区間分割点設定部14は、曲率半径が第1の閾値Rth未満の場合で、カーブ路の旋回方向が変化する観測点Pが存在する場合には、この観測点Pに区間分割点を設定する。旋回方向は、図3Aに示した観測点Pt1と点p1との位置関係に基づいて求めることができる。
【0036】
図4A図4B図4Cは、各観測点Pの曲率半径に基づいて区間分割点を設定する方法を示す説明図である。例えば、図4Aに示すように、先行車両M2が直線路61からカーブ路62にさしかかる走行路を走行した場合には、区間分割点設定部14は、直線路61からカーブ路62に変化する観測点Pに、区間分割点Q1を設定する。図4Bに示すように、先行車両M2がカーブ路63から直線路64にさしかかる場合には、区間分割点設定部14は、カーブ路63から直線路64に変化する観測点Pに、区間分割点Q2を設定する。図4Cに示すように、先行車両M2が、右旋回のカーブ路65から左旋回のカーブ路66にさしかかる場合には、区間分割点設定部14は、右旋回のカーブ路65から左旋回のカーブ路66に変化する観測点Pに、区間分割点Q3を設定する。
【0037】
(2)「接線ベクトルの変化による設定」
区間分割点設定部14は、更に、各観測点P、或いは所定数の観測点毎(例えば、3個の観測点毎)に、接線ベクトルを前述した方法で算出し、接線ベクトルの変化量に基づいて区間分割点を設定する。
【0038】
例えば、図5に示すように、先行車両M2が走行する走行路上に、初期的、或いは前回の処理で設定された区間分割点Qdが存在するとき、区間分割点設定部14は、この区間分割点Qdの接線ベクトルV1を演算する。接線ベクトルV1の演算方法は前述した通りである。更に、区間分割点設定部14は、その後の観測点Pにおいて接線ベクトルV2を算出する。区間分割点設定部14は、接線ベクトルV2とV1とのなす角度θを算出し、角度θが所定角度θth(例えば、20度)以上である場合に、この観測点Pを区間分割点Q4に設定する。即ち、区間分割点設定部14は、接線ベクトルの方向が所定角度θth以上異なる2つの観測点にそれぞれ区間分割点を設定する。
【0039】
つまり、接線ベクトルV2とV1のなす角度θが所定角度θth以上(例えば、20度以上)になるということは、先行車両M2の進行方向が、区間分割点Qdの後に大きく変化しているものと判断されるので、この観測点を区間分割点Q4に設定する。その後、区間分割点設定部14は、この区間分割点Q4における接線ベクトルV2を基準として、次の区間分割点の設定を行う。
上述した曲率半径の変化による区間分割点の設定方法では、同一の曲率半径のカーブ路が継続する場合には、区間分割点は設定されない。しかし、接線ベクトルを用いることにより、区間分割点設定部14は、図5に示す区間分割点Q4を設定することができる。
【0040】
(3)「前回の区間分割点からの距離、時間による設定」
更に、先行車両が前回の処理で設定された区間分割点から、第2の閾値距離だけ離れた地点(例えば、50m)に達するまでの間に新たな区間分割点が設定されない場合、即ち、上記した曲率半径、及び接線ベクトルを用いた処理により区間分割点設定部14にて新たな区間分割点が設定されない場合には、区間分割点設定部14は、前回の処理で設定された区間分割点から、第2の閾値距離だけ離れた地点を区間分割点に設定する。或いは、先行車両が前回の処理で設定された区間分割点から、第3の閾値時間だけ走行した地点に達するまでの間に、新たな区間分割点が設定されない場合には、区間分割点設定部14は、第3の閾値時間だけ走行した地点を区間分割点に設定する。
【0041】
具体的に、図6Aに示すように、前回の処理で区間分割点Qdが設定され、その後、長距離に亘って直線路71が継続する場合には、走行路の曲率半径及び接線ベクトルはほとんど変化しない。従って、上述した曲率半径、或いは接線ベクトルによる区間分割点の設定方法により、区間分割点は設定されない。このような場合には、区間分割点設定部14は、区間分割点Qdから第2の閾値距離(例えば、50m)だけ離れた観測点P、或いは第3の閾値時間(例えば、観測点10個分)だけ走行した地点を区間分割点Q5に設定する。
【0042】
更に、図6Bに示すように、前回の処理で区間分割点Qdが設定され、その後、長距離に亘ってほぼ一定で大きな曲率半径のカーブ路72が継続する場合には、曲率半径はほとんど変化しない。更に、接線ベクトルの変化量も小さいので、図6Aの場合と同様に、長距離に亘って区間分割点は設定されない。このような場合には、区間分割点設定部14は、区間分割点Qdから所定距離だけ離れた観測点P、或いは所定時間だけ走行した地点を区間分割点Q6に設定する。こうすることにより、区間分割点の間隔が長くなることを防止する。
【0043】
図1に戻って、走行軌跡生成部15は、前述した区間分割点設定部14で設定された各区間分割点の間に位置する各観測点Pに対して、関数近似を行うことにより、先行車両M2の走行軌跡を生成する。具体的に、走行軌跡生成部15は、各観測点Pを低い次数の関数で近似し、関数近似したデータと実データとの誤差を最小二乗法等を用いて演算する。走行軌跡生成部15は、誤差の二乗和を区間に属する観測点の個数で除した数値(これを「誤差比率」という)が所定の第4の閾値(例えば、0.05)以下である場合に、この関数近似を用いて走行軌跡を設定する。「誤差比率」は、「誤差に関連する数値」の一例である。
【0044】
走行軌跡生成部15は、上記の誤差比率が第4の閾値よりも大きい場合には、より高い次数の関数で近似する。例えば、1回目に、2つの区間分割点の間に属する各観測点Pを「ax+b」で示される1次関数で近似し、上記の誤差比率が第4の閾値よりも大きい場合には各観測点Pを「ax+bx+c」で示される2次関数で近似する。更に、上記の誤差比率が第4の閾値よりも大きい場合には、「ax+bx+cx+d」という三次関数で近似する。
そして、誤差比率が第4の閾値未満となった場合に、走行軌跡生成部15は、この次数の関数で近似して、先行車両の走行軌跡を生成する。
【0045】
以下、図7A図7Cを参照して関数近似について説明する。図7Aは、2つの区間分割点Q11とQ12との間に存在する複数の観測点P(黒丸で示す点)の一例を示す説明図である。初めに、走行軌跡生成部15は、区間に属する各観測点Pを1次関数を用いて近似して走行軌跡を生成する。その結果、図7Bに示す走行軌跡F1が得られる。この場合、走行軌跡F1と各観測点Pとの間には大きな誤差が存在している。従って、上記の誤差比率は前述した第4の閾値よりも大きい。
【0046】
この場合には、走行軌跡生成部15は、近似する関数を2次関数に変更する。その結果、図7Cに示すように、各観測点Pとほぼフィットする走行軌跡F2が得られる。2次関数を用いて近似した走行軌跡F2と各観測点Pとの誤差は小さく、誤差比率は第4の閾値を下回る。走行軌跡生成部15は、この走行軌跡F2を、2つの区間分割点Q11、Q12の間の走行軌跡とする。
【0047】
即ち、走行軌跡生成部15は、より低い次数の関数で関数近似を行い、近似した直線または曲線と観測点Pとの間の誤差比率が大きい場合は、次数を高くして再度関数近似を行う。走行軌跡生成部15は、この処理を繰り返していき、誤差比率が前述した第4の閾値未満となった場合には、この関数を用いて関数近似を行い、先行車両M2の走行軌跡を生成する。即ち、走行軌跡生成部15は、より演算負荷が小さい低次の関数から、演算負荷がより大きい高次の関数に変更していく。走行軌跡生成部15は、誤差比率が第4の閾値未満となった時点で、高次の次数への変更を終了し、演算負荷が高まることを防止する。
また、関数の次数に上限(例えば、3次関数)を設定し、上限の次数に達した場合には、誤差比率の大きさに関係なく上限の次数の関数を用いた関数近似により得られる走行軌跡を採用してもよい。こうすることにより、演算負荷が高まることを防止できる。
【0048】
図1に戻って、車両制御装置104は、走行軌跡生成装置101で生成された先行車両の走行軌跡の情報を取得する。更に車両制御装置104は、前述したGPS受信機31で取得される自車両の位置情報、車速センサ32で検出される車速情報、加速度センサ33で検出される加速度情報、及びジャイロセンサ34で検出される角速度情報を取得して、自車両の走行を制御する。
【0049】
例えば、先行車両に追従して自車両を走行させる場合には、車両制御装置104は、自車両と先行車両との車間距離が一定距離となるように、加速度、減速度、及び車速を実現するための駆動機構の動作、及びブレーキ動作を制御する。なお、駆動機構の動作は、エンジン自動車にあっては内燃機関の動作、電気自動車系にあっては電動モータ動作を含み、ハイブリッド自動車にあっては内燃機関と電動モータとのトルク配分も含む。また、自車両が先行車両の追い越しなどの車線変更を行う場合には、車両制御装置104は、ステアリングアクチュエータの動作を制御して、車輪の動作を制御することで、自車両の転回制御を実行する。
【0050】
なお、図1に示す走行軌跡生成装置101は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、及び入出力部を備えるマイクロコンピュータを用いて実現可能である。マイクロコンピュータを走行軌跡生成装置101として機能させるためのコンピュータプログラム(走行軌跡生成プログラム)を、マイクロコンピュータにインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータは、走行軌跡生成装置101が備える複数の情報処理部(14~15)として機能する。
【0051】
なお、ここでは、ソフトウェアによって走行軌跡生成装置101を実現する例を示すが、勿論、各情報処理を実行するための専用のハードウェアを用意して、走行軌跡生成装置101を構成することも可能である。専用のハードウェアには、実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)、及び従来型の電気回路や回路部品のような装置を含む。また、走行軌跡生成装置101に含まれる複数の情報処理部(11~15)を個別のハードウェアにより構成してもよい。更に、走行軌跡生成装置101は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)と兼用してもよい。
【0052】
[本実施形態の動作の説明]
次に、上述のように構成された本実施形態に係る走行軌跡生成装置の動作を、図8図11に示すフローチャートを参照して説明する。
図8は、周囲車両の走行軌跡を演算する処理手順を示すフローチャート、図9図8のS2に示す曲率半径及び接線ベクトルの算出処理の詳細を示すフローチャート、図10はS3に示す区間分割点の設定処理の詳細を示すフローチャート、図11はS4に示す走行軌跡生成処理の詳細を示すフローチャートである。
【0053】
初めに、図8のステップS1において周囲車両検出部11は、周囲車両(他車両)を検出する。ここでは、周囲車両の一例として自車両の前方を走行する先行車両を検出する。先行車両は、図1に示したカメラ21により撮像された画像、或いはレーダ22、ライダー23の検出信号を用いて検出することができる。周囲車両検出部11は、図2に示したように、先行車両の位置を、異なる時刻で複数回検出し、各位置の時系列を観測点Pとして取得する。取得した観測点Pのデータをメモリ(図示省略)に記憶する。
【0054】
ステップS2において、曲率半径算出部12は、ステップS1の処理で検出された各観測点Pのデータに基づいて、複数の観測点Pの曲率半径Rを演算し、更に、接線ベクトル算出部13は、複数の観測点Pの接線ベクトルを算出する。詳細については図9を参照して後述する。
【0055】
ステップS3において、区間分割点設定部14は、複数の観測点Pのうちのいくつかを、区間分割点Qに設定する。詳細については、図10を参照して後述する。
【0056】
ステップS4において、走行軌跡生成部15は、ステップS3の処理で設定された互いに隣接する2つの区間分割点で区切られる走行路の走行軌跡を生成する。詳細については、図11を参照して後述する。
【0057】
ステップS5において、走行軌跡生成部15は、ステップS4の処理で生成した走行軌跡データを、車両制御装置104に出力し、本処理を終了する。
【0058】
次に、図9に示すフローチャートを参照して、ステップS2に示した「曲率半径、接線ベクトルを算出する処理」について説明する。図9に示す処理は、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13によって実行される。
【0059】
先行車両が走行した走行経路上の複数の観測点Pから、曲率半径及び接線ベクトルを演算する対象となる観測点Pt1(図3A参照)が設定されると、ステップS201において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、上記の観測点Pt1に対して所定時間だけ前に検出された観測点Pt2、或いは所定距離だけ先行車両後方の観測点を算出する。
【0060】
ステップS202において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、上記の観測点Pt1に対して所定時間だけ後に検出された観測点Pt3、或いは所定距離だけ先行車両前方の観測点を算出する。その結果、図3Aに示した各観測点Pt1、Pt2、Pt3が設定される。
【0061】
ステップS203において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、2つの観測点Pt2とPt3を結ぶ線分Sを算出し、更に、観測点Pt1から線分Sに垂線Lを下ろし、線分Sと垂線Lとの交点をp1(第4の点)とする。
ステップS204において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、観測点Pt1から交点p1までの長さL1を算出する。実際には、各観測点Pにはノイズが混入しているため、垂線Lの距離L1を算出する際には、周囲の観測点P(例えば、前後2個ずつ)についても距離L1を算出し、それらの平均を用いるのがよい。
【0062】
ステップS205において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、観測点Pt2から交点p1までの長さD1を算出する。
ステップS206において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、観測点Pt1からPt2までの長さH1を、前述した(1)式により算出する。
ステップS207において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、三角形の相似の関係を利用して曲率半径Rを前述した(3)式により算出する。具体的に、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、図3Bに示した「Pt1、Pt2、p1」の3点で形成される三角形と、「Pt1、p3、Pt2」の3点で形成される三角形が相似であることを利用して曲率半径Rを算出する。
【0063】
更に、ステップS208において、曲率半径算出部12または接線ベクトル算出部13は、観測点Pt1において垂線Lに対して直交するベクトルを、接線ベクトルV1として算出する。こうして、観測点Pt1における曲率半径R、及び接線ベクトルV1が算出される。
【0064】
次に、図8のステップS3に示した「区間分割点設定処理」の詳細な処理を、図10A図10Bに示すフローチャートを参照して説明する。図10A、10Bに示す処理は、区間分割点設定部14よって実行される。前述したように、区間分割点設定処理は、(1)曲率半径の変化による設定、(2)接線ベクトルの変化による設定、(3)前回の区間分割点からの距離・時間による設定、の3つの処理によって行われる。
【0065】
初めに、図10Aに示すステップS301~S310を参照して、(1)「曲率半径の変化による設定」の手順について説明する。ここでは、任意の観測点Ptにおける曲率半径をRtとし、一つ前の観測点Pt-1における曲率半径をRt-1とする。そして、曲率半径Rtと、Rt-1との関係に基づいて、区間分割点を設定する。
【0066】
ステップS301において、区間分割点設定部14は、観測点Pt-1における曲率半径Rt-1を算出する。更に、区間分割点設定部14は、曲率半径Rt-1が、予め設定した閾値Rth(第1の閾値;例えば、Rth=1000m)以上であるか否かを判定する。「Rt-1≧Rth」である場合には(S301;YES)、ステップS302に処理を進め、そうでなければ(S301;NO)、ステップS305に処理を進める。
【0067】
ステップS302において、区間分割点設定部14は、観測点Pt-1の次の観測点Ptにおける曲率半径Rtを算出し、更に、閾値Rthと対比する。「Rt≧Rth」である場合には(S302;YES)、本処理を終了する。即ち、「Rt≧Rth」ということは、走行路はほぼ直線路であると見なすことができ、2つの観測点Pt-1、Ptで共に直線路であるから、この観測点Ptは、カーブ路から直線路へ変化する点、或いは直線路からカーブ路へ変化する点のいずれでもないので、区間分割点として設定しない。
【0068】
ステップS302の処理で、「Rt≧Rth」でない場合には(S302;NO)、ステップS303において、区間分割点設定部14は、観測点Ptは直線路からカーブ路へ変化する点であると判定する。ステップS304において、この観測点Ptを区間分割点として設定し、本処理を終了する。即ち、曲率半径が、第1の閾値Rth以上から第1の閾値Rth未満に変化する観測点は、直線路からカーブ路へ変化する点であるので(図4A参照)、この観測点に区間分割点を設定する。
【0069】
ステップS305において、区間分割点設定部14は、観測点Pt-1の次の観測点Ptにおける曲率半径Rtを算出し、更に、閾値Rthと対比する。「Rt≧Rth」である場合には(S305;YES)、ステップS306において、区間分割点設定部14は、観測点Ptはカーブ路から直線路へ変化する点であると判定する。ステップS307において、区間分割点設定部14は、この観測点Ptを区間分割点として設定し、本処理を終了する。即ち、曲率半径が、第1の閾値未満から第1の閾値以上に変化する観測点は、カーブ路から直線路へ変化する点であるので(図4B参照)、この観測点に区間分割点を設定する。
【0070】
ステップS305の処理で、「Rt≧Rth」でない場合には(S305;NO)、区間分割点設定部14は、カーブ路が継続しているものと判定し、ステップS308に処理を進める。
【0071】
ステップS308において、区間分割点設定部14は、観測点Pt-1におけるカーブ路の旋回方向と、観測点Ptにおけるカーブ路の旋回方向が変化しているか否かを判定する。変化していなければ(S308;NO)、本処理を終了する。即ち、観測点Pt-1、及びPtで共にカーブ路と判定され、更に、旋回方向が変化していないので、区間分割点設定部14は、同一方向のカーブ路が継続しているものと判定し、区間分割点を設定しない。
【0072】
一方、観測点Ptにおける旋回方向が変化していると判定された場合には(S308;YES)、ステップS309において、区間分割点設定部14は、観測点Ptはカーブ路の旋回方向が変化する点(変曲点)であると判定し、ステップS310において、この観測点Ptを区間分割点として設定する。即ち、区間分割点設定部14は、曲率半径が第1の閾値未満で、且つ、旋回方向が変わる変曲点となる観測点に、区間分割点を設定する(図4C参照)。
【0073】
次に、(2)「接線ベクトルの変化による設定」の手順について、図10Bに示すフローチャートを参照して説明する。
初めに、ステップS311において、区間分割点設定部14は、初期的に設定した区間分割点、或いは前の処理で設定された区間分割点における接線ベクトル(これをV1とする)を取得する。更に、区間分割点設定部14は、観測点Pにおける接線ベクトル(これをV2とする)を算出し、各ベクトルV1、V2のなす角度θを演算する。角度θが所定角度θth以上であるか否かを判定する。
【0074】
「θ≧θth」である場合には(S311;YES)、ステップS312において、区間分割点設定部14は、この観測点Pは、前の処理で設定された区間分割点に対して、接線ベクトルの方向が所定角度以上異なるものと判定し、ステップS313において、この観測点Pを区間分割点として設定する(図5参照)。
一方、「θ≧θth」でない場合には(S311;NO)、本処理を終了する。
【0075】
次に、(3)「前回の区間分割点からの距離・時間による設定」の処理手順について説明する。
初めに、図10BのステップS314において、区間分割点設定部14は、初期的に設定した区間分割点、或いは前の処理で設定された区間分割点から、対象となる観測点Pまでの距離Nが予め設定した第2の閾値Nth(例えば、50m)以上であるか否かを判定する。
【0076】
「N≧Nth」である場合には(S314;YES)、ステップS315において、区間分割点設定部14は、この観測点Pは前の処理で設定された区間分割点から所定距離だけ離れているものと判定し、ステップS316において、この観測点Pを区間分割点として設定する(図6A図6B参照)。
一方、「N≧Nth」でない場合には(S314;NO)、本処理を終了する。
そして、上記の処理により、区間分割点設定部14は、各観測点Pのうちのいくつかを、区間分割点Qに設定することができる。
【0077】
次に、図8のステップS4に示した「走行軌跡生成処理」の詳細な手順を、図11に示すフローチャートを参照して説明する。この処理は、図1に示した走行軌跡生成部15により実行される。
初めに、図11に示すステップS401において、走行軌跡生成部15は、複数の観測点Pを1次関数で近似する。具体的には、前述した図7Aに示したように、走行軌跡生成部15は、複数の観測点Pが存在する場合に、各観測点Pを1次関数で近似する。その結果、例えば、図7Bに示すように直線状の走行軌跡F1が算出される。
【0078】
ステップS402において、走行軌跡生成部15は、1次関数で近似した走行軌跡F1と各観測点Pとの間の誤差比率を算出し、誤差比率が予め設定した閾値σ(第4の閾値)未満であるか否かを判定する。「誤差比率」とは、前述したように、関数(この場合は1次関数)により近似したデータと実データとの誤差を最小二乗法等を用いて演算し、誤差の二乗和を区間に属する観測点の個数で除した数値を示す。
【0079】
「誤差比率<閾値σ」である場合には(S402;YES)、ステップS403において、走行軌跡生成部15は、1次関数で近似した走行軌跡F1を、この区間の走行軌跡に設定する。
【0080】
一方、「誤差比率<閾値σ」でない場合には(S402;NO)、ステップS404において、走行軌跡生成部15は、2次関数近似を行う。例えば、図7Bに示したように、1次関数近似した走行軌跡F1と各観測点Pとの誤差が大きい場合には、走行軌跡生成部15は2次関数近似を行う。つまり、走行軌跡生成部15は、次数を高くした関数による近似を行う。その結果、図7Cに示すように、各観測点Pに対して2次関数により近似した走行軌跡F2が得られる。
【0081】
ステップS405において、走行軌跡生成部15は、2次関数で近似した走行軌跡F2と各観測点Pとの間の誤差比率を算出し、誤差比率が閾値σ未満であるか否かを判定する。
【0082】
「誤差比率<閾値σ」である場合には(S405;YES)、ステップS403において、走行軌跡生成部15は、2次関数で近似した走行軌跡F2を、この区間の走行軌跡に設定する。
【0083】
一方、「誤差比率<閾値σ」でない場合には(S405;NO)、ステップS406において走行軌跡生成部15は、3次関数近似を行う。ステップS403において、走行軌跡生成部15は、3次関数近似による近似曲線を走行軌跡に設定する。
【0084】
こうして、各区間分割点の間の観測点Pに対し、1次関数、2次関数、或いは3次関数による近似曲線にて走行軌跡が設定されることになる。本実施形態では、関数の次数を1次、2次、3次へと変更する例について示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、低次から高次への変更であればよい。例えば、1次関数から3次関数への変更でもよい。
【0085】
また、上限の次数を3次に設定しておき、3次関数で近似した走行軌跡における誤差比率が閾値σ未満とならない場合でも、この3次関数で近似した走行軌跡を用いる。こうすることで、関数の次数が大きくなり過ぎて、演算が煩雑になることや、演算時間に長時間を要するという問題を回避できる。
【0086】
また、例えば、ステップS406の処理で3次関数近似の処理まで進んだ後に、走行軌跡生成部15が各次数の誤差比率を比較し、最も誤差比率の小さい次数で近似した走行軌跡を採用することも可能である。なお、上記した実施形態では、誤差に関連する数値として、「誤差比率」を用いる例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その他の数値を使用することも可能である。
【0087】
[本実施形態の効果の説明]
以上説明したように、本発明に係る走行軌跡生成装置101によれば、以下に示す効果を達成することが可能になる。
(1)
接線ベクトルの方向が互いに所定角度θth以上異なる2つの観測点に、区間分割点を設定し、2つの区間分割点の間に位置する観測点に対して、直線または曲線を当てはめることにより、先行車両(他車両)の走行軌跡を生成する。従って、例えば一定曲率のカーブ路のように曲率変化が無いカーブ路においても区間分割点を設定して、設定した分割点に基づいて走行軌跡を算出することができ、カーブ路でのトレース性が良好な走行軌跡を生成することができる。また、カーブ路の曲率が大きく(曲率半径が小さく)なるほど分割点間の距離が短くなるため、同一長さのカーブ路であっても曲率が大きいほど多くの分割点数を設定することができ、関数近似で走行軌跡を算出する際の精度を向上させることができる。
【0088】
(2)
前述した接線ベクトルに加えて、複数の観測点の各々における走行経路の曲率半径を算出し、曲率半径に基づいて区間分割点を更に設定する。従って、より多くの区間分割点を設定できる。このため、きめ細かい走行軌跡の算出を行うことができ、より先行車両の走行経路に合致した走行軌跡を設定することが可能となる。また、曲率半径に基づいて区間分割点を設定することにより、直線路とカーブ路を異なる区間として扱うことができ、それぞれの区間に適した走行軌跡を算出することができる。
【0089】
ここで、上述した接線ベクトルを考慮せず、走行経路の曲率半径の変化のみに基づいて区間分割点を設定しても、直線路、カーブ路、或いは、旋回方向が変化するカーブ路で区間を分割することは可能である。しかし、ほぼ同一の曲率半径で連続するカーブ路のように、曲率半径に大きな変化が発生しないカーブ路は分割することができない。このため、カーブ路の走行軌跡のトレース性が低下し、更に、演算負荷が増大する。従って、上述した接線ベクトル、及び曲率半径の双方を用いて区間分割点を設定することにより、より高精度に走行軌跡を算出することが可能となる。
【0090】
(3)
図4A図4B図4Cに示したように、直線路からカーブ路へ変化する点、カーブ路から直線路へ変化する点、及びカーブ路の旋回方向が変化する点、を区間分割点に設定する。このため、直線路、及び同一旋回方向のカーブ路ごとに区間が区切られるので、直線または曲線を当てはめて走行軌跡を生成する際の精度を向上させることができる。
【0091】
(4)
図3Aに示したように、観測点Pt1(第1の観測点)における走行経路の曲率半径を算出する際には、観測点Pt1に対して所定時間だけ前に検出した観測点Pt2(第2の観測点)、或いは、所定距離だけ先行車両の進行方向の後方に離れた観測点を設定する。更に、観測点Pt1に対して所定時間だけ後に検出した観測点Pt3(第3の観測点)、或いは、所定距離だけ先行車両の進行方向の前方に離れた観測点を設定する。そして、3つの観測点Pt1~Pt3を通る円の半径を観測点Pt1の曲率半径として算出するので、観測点Pt1における曲率半径を簡便な方法で算出することが可能となる。
【0092】
(5)
図3A図3Bに示したように、観測点Pt1(第1の観測点)と、観測点Pt2(第2の観測点)または観測点Pt3(第3の観測点)と、点p1(第4の点)と、で形成される三角形(第1の三角形)と、観測点Pt1と、観測点Pt2または観測点Pt3と、点p3(第5の点)と、で形成される三角形(第2の三角形)とが相似関係になることを利用して、観測点Pt1における曲率半径を演算する。従って、観測点Pt1における曲率半径をより簡便な方法で算出することが可能となる。
【0093】
(6)
図3Aに示したように、観測点Pt1(第6の観測点)における走行経路の接線ベクトルを算出する際には、観測点Pt1に対して所定時間だけ前に検出した観測点Pt2(第7の観測点)、或いは、所定距離だけ先行車両の進行方向の後方に離れた観測点を設定する。更に、観測点Pt1に対して所定時間だけ後に検出した観測点Pt3(第8の観測点)、或いは、所定距離だけ先行車両の進行方向の前方に離れた観測点を設定する。そして、2つの観測点Pt2、Pt3を結ぶ線分の方向を、観測点Pt1の接線ベクトルとして算出するので、観測点Pt1における接線ベクトルを簡便な方法で算出することが可能となる。
【0094】
(7)
図6A図6Bに示したように、任意の区間分割点から、第2の閾値距離、或いは先行車両が第3の閾値時間で走行する距離だけ離れた地点まで、次の区間分割点が設定されない場合には、任意の区間分割点から、第2の閾値距離、或いは先行車両が第3の閾値時間で走行する距離だけ離れた観測点を、区間分割点に設定する。従って、長距離に亘って直線路が継続する場合、或いは長距離に亘って緩やかなカーブ路が継続する場合であっても、適切な位置に区間分割点を設定でき、走行軌跡を高精度に算出することが可能となる。
【0095】
(8)
図7A図7Bに示したように、2つの区間分割点の間に位置する観測点を関数近似する際には、第1の次数の関数(例えば、1次関数)を用いて走行軌跡を算出し、走行軌跡と観測点との誤差比率(誤差に関連する数値)が閾値σ(第4の閾値)を超える場合には、第1の次数よりも大きい第2の次数の関数(例えば、2次関数)を当てはめて走行軌跡を算出する。そして、誤差比率が閾値σ以下となった場合には、この走行軌跡を先行車両(他車両)の走行軌跡として採用する。従って、より低い次数の関数を優先的に用いて走行軌跡を算出するので、演算負荷を軽減することができる。
【0096】
(9)
観測点を近似する関数の次数の上限を設定し、上限の次数の関数(例えば、3次関数)を用いて走行軌跡を算出したときの、誤差比率が閾値σ(第4の閾値)以下に収まらない場合には、これ以上次数を大きくせず、上限の次数の関数を用いて走行軌跡を算出する。従って、関数の次数が大きくなることを制限し、演算負荷が高まることを防止できる。
【0097】
以上、本発明の実施形態を記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【符号の説明】
【0098】
11 周囲車両検出部
12 曲率半径算出部
13 接線ベクトル算出部
14 区間分割点設定部
15 走行軌跡生成部
21 カメラ
22 レーダ
23 ライダー
31 GPS受信機
32 車速センサ
33 加速度センサ
34 ジャイロセンサ
61、64、71 直線路
62、63、65、66、72 カーブ路
101 走行軌跡生成装置
102 周囲車両認識センサ
103 車両センサ
104 車両制御装置
M1 自車両
M2 先行車両
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11