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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】リン回収材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/58 20060101AFI20221027BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C02F1/58 R
B03C1/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018160566
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2019155353
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2021-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018041633
(32)【優先日】2018-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592012384
【氏名又は名称】小野田化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 利仁
(72)【発明者】
【氏名】戸田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】美濃和 信孝
(72)【発明者】
【氏名】明戸 剛
(72)【発明者】
【氏名】酒井 保蔵
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-000487(JP,A)
【文献】特開2017-154047(JP,A)
【文献】特開2009-285636(JP,A)
【文献】特開2013-244466(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176244(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
B03C 1/00- 1/32
C01B33/20-39/54
C02F 1/28
B01J20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含有し、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下、磁性粉の含有量が5質量%以上であって該磁性粉が上記珪酸カルシウム水和物に取り込まれた状態であり、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であり、消石灰の含有量を2質量%以下にして磁気分離時の磁性粉の流出量を20%以下に抑制したことを特徴とするリン回収材。
【請求項2】
珪酸カルシウム水和物の含有量が55質量%以上~95質量%未満、磁性粉の含有量が5質量%以上~45質量%未満であり、リン回収率が50%以上である請求項1に記載するリン回収材。
【請求項3】
消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、磁性粉の分散下でpH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させることによって、Ca/Siモル比が1.0以上~1.5以下、上記磁性粉の含有量5質量%以上であって該磁性粉が上記珪酸カルシウム水和物に取り込まれた状態であり遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であって、消石灰の含有量が2質量%以下であるリン回収材を製造することを特徴とするリン回収材の製造方法。
【請求項4】
消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに、珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、磁性粉の分散下で、pH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させる請求項3に記載するリン回収材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含み、磁性粉の流出量が少なく、リンの回収率が高い、リン回収材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水処理場等、リンが集約する施設の排水に含まれているリンを回収する方法としては、HAP法およびMAP法が従来から知られている。HAP法は、排水に水酸化カルシウムまたは塩化カルシウムを添加してヒドロキシアパタイト〔Ca10(PO)(OH)、Hydroxyapatite:HAPと云う〕を晶析させる方法である。MAP法は、消化汚泥脱離液などのように、排水中にリン酸イオンと共にアンモニウムイオンが多い場合に、マグネシウム塩を添加することによって、リン酸マグネシウムアンモニウム〔NHMgPO・6HO、Magnesium Ammonium Phosphate:MAPと云う〕を晶析させる方法である。
【0003】
従来のHAP法は、HAPの成長に時間がかかり、また微小結晶のままでは非常に濾過性が悪いと云う問題あった。一方、MAP法は、配管へのスケーリングが起こるためその除去コストが嵩む問題が指摘されている。
【0004】
上記HAP法の欠点である結晶成長の遅さ(リン除去速度が遅い)や濾過性の問題を解決するリン回収方法として、珪酸カルシウム水和物〔nCaO・SiO・mHO、Amorphous Calcium Silicate Hydrates:CSHと云う)を用いる方法が提案されている。例えば、特許文献1(特開2012-050975号公報)には、CSHと消石灰との凝集体からなるリン回収材が記載されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2017-154047号公報)には、Ca/Siモル比が0.5~3.5、好ましくはCa/Siモル比が0.8~1.5であって、結晶子サイズが6.0nm~16.0nm、好ましくは結晶子サイズが6.5nm~10.0nmの微細結晶質のCSHを50wt%以上含有するリン回収材と該リン回収材を用いる方法について、従来の結晶質CSHよりもリン回収効果に優れることが記載されている。これらのCSHを用いるリン回収方法は、排水中のリン酸イオンとCSHから溶出するカルシウムイオンの反応が逐次的であるため、生成するHAPの過飽和度が低いまま維持されやすいことから、pH管理も容易であると云う利点を有している。
【0006】
一方、CSHを用いたリン回収方法は、HAP法などと同様にリン回収物の固液分離(例えば沈降分離)を行うときに、液中のリンを取り込んだ生成澱物の沈降時間(濾過時間)などがプロセス全体の処理時間の律速になる場合が多く、濾過時間が長いと云う問題がある。
【0007】
このような濾過時間が長い処理方法の対策として、磁性粉を混合して磁気分離を行うことによって処理時間を短縮することが知られている。例えば、特許文献3(特開2014-487号公報)には、ケイ酸カルシウムおよび二酸化ケイ素を含むリン回収材にさらにマグネタイトなどの磁性体を含有させ、排水中のリンを取り込んだHAP澱物を磁気分離することが記載されている。
【0008】
ところが、CSHに磁性粉を混合して磁気分離を行う場合、CSHのCa/Siモル比の範囲に応じて磁気分離時における磁性粉の流出量が大きく異なり、CSHのCa/Siモル比が適切な範囲を外れると磁性粉の流出量が多くなり、経済的な処理に支障を生じることが見出された。
【0009】
また、特許文献3の方法は、ケイ酸カルシウムおよび二酸化ケイ素を含むリン回収材を用いており、二酸化ケイ素の一部または全部が非晶質であることによって、凹凸構造ないし多孔質構造にし、ケイ酸カルシウム(CSH)がリンを取り込んでヒドロキシアパタイト(HAP)を生成する際のHAP析出面積を広くしてリン回収率を高めることを意図している(段落[0029])。このため、その製造工程において、溶液に塩酸を加えてpH10.5前後に調整して非晶質の多孔質二酸化ケイ素を生成させている(実施例1:段落[0068]~[0076])。
ところが、二酸化ケイ素は、ヒドロキシアパタイト(HAP)の形成には直接には関与しないので、二酸化ケイ素の含有量が多いと、リン回収物中のリンの含量が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2012-050975号公報
【文献】特開2017-154047号公報
【文献】特開2014-487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来のリン回収材における上記問題を解決したものであり、珪酸カルシウム水和物(CSH)を主体とし、CSHに磁性粉を混合してなる磁気分離用のリン回収材であって、固液分離の処理時間が短く、しかも磁気分離時における磁性粉の流出量が少なく、また、HAPの形成に直接には関与しない二酸化ケイ素の含有量が少なく、リン回収率の高いリン回収材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の構成によって上記課題を解決したリン回収材とその製造方法に関する。
〔1〕珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含有し、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下、磁性粉の含有量が5質量%以上であって該磁性粉が上記珪酸カルシウム水和物に取り込まれた状態であり、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であり、消石灰の含有量を2質量%以下にして磁気分離時の磁性粉の流出量を20%以下に抑制したことを特徴とするリン回収材。
〔2〕珪酸カルシウム水和物の含有量が55質量%以上~95質量%未満、磁性粉の含有量が5質量%以上~45質量%未満であり、リン回収率が50%以上である上記[1]に記載するリン回収材。
〔3〕消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、磁性粉の分散下でpH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させることによって、Ca/Siモル比が1.0以上~1.5以下、上記磁性粉の含有量5質量%以上であって該磁性粉が上記珪酸カルシウム水和物に取り込まれた状態であり遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であって、消石灰の含有量が2質量%以下であるリン回収材を製造することを特徴とするリン回収材の製造方法。
〔4〕消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに、珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、磁性粉の分散下で、pH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させる請求項3に記載するリン回収材の製造方法。
【0013】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物と磁性粉を含有し、珪酸カルシウム水和物のCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下、磁性粉の含有量が5質量%以上であって該磁性粉が上記珪酸カルシウム水和物に取り込まれた状態であり、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であり、消石灰の含有量を2質量%以下にして磁気分離時の磁性粉の流出量を20%以下に抑制したことを特徴とするリン回収材である。
さらに具体的には、本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物の含有量が55質量%以上~95質量%未満、磁性粉の含有量が5質量%以上~45質量%未満であり、リン回収率が50%以上であるリン回収材である。
【0014】
〔リン回収材〕
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)を主成分とする。珪酸カルシウム水和物(CSH)はリンと反応してヒドロキシアパタイト(HAP)を生成し、リンとの反応性が良いので、リンの回収率を高めることができる。
【0015】
珪酸カルシウム水和物(CSH)は、消石灰または生石灰の石灰スラリーに珪酸ナトリウム水溶液を混合して生成することができる。珪酸カルシウム水和物(CSH)の原料である珪酸ナトリウム水溶液は、珪質頁岩、非晶質シリカ、シリカゲル、シリカヒューム、オパール、珪藻土などの珪酸質原料を水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて製造することができる。また市販の水ガラスなどを用いることができる。
【0016】
本発明のリン回収材において、珪酸カルシウム水和物(CSH)のCa/Siモル比は1.0以上~1.5以下の範囲である。なお、本発明のリン回収材が未反応の消石灰を含む場合には、上記Ca/Siモル比はリン回収材全体のCa/Siモル比である。該Ca/Siモル比が0.8未満では、リンと反応するCa量が少ないのでリン回収率が低下するため、リン回収率を高めるにはCa/Siモル比は0.8以上が好ましい。さらに、Ca/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲であれば、リン回収材中の遊離の二酸化ケイ素の含有量を5質量%以下に抑えることができるため好ましい。
【0017】
一方、該Ca/Siモル比が3.5以上では、磁気分離時に該リン回収材に含まれる磁性粉の流出量が多くなるので好ましくない。具体的には、例えば、該Ca/Siモル比が3.5以上になると、磁気分離時の磁性粉の流出量が20質量%を上回るようになる。Ca/Siモル比が3.5以上では、リン回収材に未反応の消石灰が20.6質量%以上と多く残るようになり、このCSH表面に存在する消石灰のプラス電荷と磁性粉表面のプラス電荷の反発作用により、CSHと磁性粉との結合力が弱まるので、未反応の消石灰が多いと磁性粉の流出率が増加するようになる。従って、磁気分離時の磁性粉の流出量を抑制するには該Ca/Siモル比は3.5未満が良く、1.5以下がより好ましい。このように、Ca/Siモル比が3.5未満であれば、未反応の消石灰の含有量は21質量%以下、好ましくは20.6質量%未満になり、磁性粉の流出を低く抑えることができる。さらに、Ca/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲であれば、本発明のリン回収材中に含まれる消石灰の量は2質量%以下、好ましくは1.6質量%以下になり、磁性粉の流出量をさらに下げることができる。
【0018】
また、リン回収材をリンと炭酸が共存する液に使用したときに、Caと炭酸の反応が進行してCaとリンの反応が抑制されるため、Caが多いとリン回収率が低下する傾向がある。従って、リンと炭酸が共存する液に使用する場合には、該Ca/Siモル比は1.5以下が好ましい。
【0019】
リン回収材の珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量は55質量%~95質量%の範囲が好ましい。珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が55質量%より少ないとリン回収効果が低下する。一方、珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が95質量%を上回ると相対的に磁性粉の含有量が少なくなるので磁気分離を行い難くなる。
【0020】
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に磁性粉を含有する磁気分離用のリン回収材である。磁気分離は、例えば、リンと反応してヒドロキシアパタイト(HAP)を生成したリン回収材を磁気フィルターに通じ、磁気によって該フィルターにリン回収材を吸着させて溶液から分離する方法、あるいは、HAPを生成したリン回収材を磁石に吸着させて溶液から引き上げて分離する方法など、磁気を利用した種々の方法を適用することができる。本発明のリン回収材は、磁気分離を行うことによって、一般的な沈降分離などよりも固液分離時間が短く、処理時間を大幅に短縮することができる。
【0021】
本発明のリン回収材において、磁性粉の含有量は、Feとして、5質量%~45質量%の範囲が良く、8.8質量%~42質量%の範囲がより好ましい。磁性粉の含有量が5質量%未満であると、固液分離時に十分な磁気効果を得ることができない。一方、磁性粉の含有量が45質量%を超えると、相対的に珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が少なくなるので、十分なリン回収効果を得ることが難しくなる。
【0022】
なお、リン回収材が磁性粉を含むことによって、珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が相対的に減少するが、CSHに磁性粉が適量含有され分散されていることによって、リンとCSHの反応によって生成したHAPを固液分離する時に、HAPが磁気によって確実に保持されて回収されるので、リン回収率を高めることができる。
【0023】
本発明のリン回収材において、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に磁性粉を含有するとは、磁性粉の分散下でCSHが生成されたものであり、CSHに磁性粉が取り込まれて分散した状態のものである。
【0024】
磁性粉の分散下でCSHが生成されたものとは、具体的には、例えば、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム水溶液を添加して、磁性粉の分散下で、CSHを生成させたものである。CSHが磁性粉の分散下で生成されたものであれば、該CSHの組織中に磁性粉が取り込まれた状態になるので、リンとCSHの反応によって生成したHAPを磁気分離する時に、磁性粉の流出量が格段に抑制される。具体的には、例えば、CSHのCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲で、pH調整せずにCSHを生成させ、リン回収材中に含まれる消石灰の量を2質量%以下にすることによって、磁気分離時の磁性粉の流出量を20質量%以下に抑制することができる。
【0025】
一方、CSHを生成させた後に磁性粉を混合したものは、CSHの周囲に磁性粉が混在した状態であり、CSHの組織中に磁性粉が取り込まれた状態ではないので、磁気分離時に磁性粉の流出量が多くなる傾向がある。
【0026】
本発明のリン回収材によって回収される沈澱物は、珪酸カルシウム水和物(CSH)と液中のリンとの反応によって生じたヒドロキシアパタイト(HAP)であり、十分な量のリン酸を含むのでリン酸肥料として利用することができる。一般にリン酸肥料として利用するには、副産リン酸肥料の規格上、ク溶性リン酸(C-P)の含有量は15質量%以上であることが求められる。
【0027】
本発明のリン回収材において、磁性粉の含有量が多くなると、相対的に珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が少なくなるので、リン回収物に含まれるク溶性リン酸含有量が低下する。概ね、磁性粉の含有量が40質量%を超えると、リン回収物のク溶性リン酸の含有量が15質量%を下回る傾向がある。従って、リン回収物をリン酸肥料として利用する場合には、リン回収材に含まれる磁性粉の量は40質量%以下が好ましい。
【0028】
本発明のリン回収材に含まれる磁性粉は、マグネタイト等の磁性鉄酸化物、ニッケル亜鉛フェライト等の磁性鉄合金などである。これらの磁性粉は市販品を用いることができる。磁性粉の粒子径は20μm以下が良く、5μm以下がより好ましい。磁性粉の粒子径が150μmより大きいと、リン回収材全体に均一に分散し難くなるので好ましくない。
【0029】
本発明のリン回収材は、遊離の二酸化ケイ素の含有量は20質量%以下であり、好ましくは5質量%以下である。特許文献3には、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に二酸化ケイ素を含有するリン回収材に磁性粉末を加えたリン回収材が記載されており、このリン回収材は、リンとの反応によって生成するHAPの表面積を二酸化ケイ素の凹凸構造や多孔質構造によって広げてリン回収効果を高めることを意図しているが、この二酸化ケイ素はHAPの形成には直接には関与しないので、二酸化ケイ素の含有量が多いと、リン回収物中のリンの含量が低下する。
【0030】
例えば、特許文献3のリン回収材は、珪酸塩のアルカリ性水溶液(珪酸ナトリウム水溶液等)にカルシウムを添加し、この前後または同時に磁性粉を添加し、塩酸を添加してpHを調整し、珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させる方法によって製造されている。このようなpH調整によって製造されるリン回収材の二酸化ケイ素含有量は概ね23質量%~28質量%であり、リン回収材全量の約1/4に及ぶ多量の二酸化ケイ素が含まれている。この二酸化ケイ素はリンと反応してHAPを生成する成分ではないので、多量の二酸化ケイ素が含まれていると回収物のリンの含量が低下する。
【0031】
本発明のリン回収材は、珪酸ナトリウムとカルシウムの反応によって珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させる際に、塩酸添加などのpH調整を行わず、遊離の二酸化ケイ素をできるだけ生成させない。従って、本発明のリン回収材は遊離の二酸化ケイ素の含有量が少ない。例えば、本発明のリン回収材は、CSHのCa/Siモル比が0.8ではSiがCaよりやや多いので、遊離の二酸化ケイ素の含有量が20質量%になる場合があるが、CSHのCa/Siモル比が1.0~1.5以下の範囲では、遊離の二酸化ケイ素の含有量は概ね5質量%以下である。
【0032】
〔製造方法〕
本発明のリン回収材は、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、好ましくは珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、pH調整を行わずに、珪酸カルシウム水和物(CSH)を生成させることによって製造することができる。この方法によれば、遊離の二酸化ケイ素量が格段に少なく、磁性粉が均一に分散したリン回収材を製造することができる。
【0033】
さらに、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加して珪酸カルシウム水和物を生成させる方法によれば、磁性粉の分散下で珪酸カルシウム水和物が生成され、該珪酸カルシウム水和物の組織中に磁性粉が取り込まれた状態になるので、磁気分離時に磁性粉の流出量が格段に少ないリン回収材を得ることができる。
【0034】
特許文献3に記載されているように、上記石灰スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、その添加前後に磁性粉を加える方法では、磁性粉が十分に分散しないうちに珪酸カルシウム水和物(CSH)が生成し、磁性粉が珪酸カルシウム水和物(CSH)に十分に取り込まれた状態にならないので、磁気分離時に磁性粉の流出量が多くなる傾向がある。
【0035】
また、特許文献3の製造方法では、珪酸塩のアルカリ性水溶液に消石灰等を添加した後に、塩酸を添加してpH5~12、好ましくはpH10前後に調整して二酸化ケイ素を生成させているが、このようなpH調整を行うと遊離の二酸化ケイ素量が多くなるので、本発明の製造方法ではこのようなpH調整を行わない。本発明の製造方法では、消石灰または生石灰と磁性粉の混合スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加し、好ましくは珪酸ナトリウム溶液を少量ずつ添加し、pH調整を行わずに珪酸カルシウム水和物を生成させることによって、遊離の二酸化ケイ素量が5質量%未満のリン回収材を得ることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)を主成分とし、該CSHはリンとの反応性が良いのでリン回収率を高めることができる。具体的には、例えば、50質量%以上、好ましくは55質量%以上のリン回収率を得ることができる。
【0037】
本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)と共に磁性粉を含む磁気分離用のリン回収材であり、好ましくは磁性粉を5質量%~45質量%、さらに好ましくは8.8質量%~42質量%含む。本発明のリン回収材は磁気分離を行うことによって、一般的な沈降分離に比べて処理時間を大幅に短縮することができる。
【0038】
また、本発明のリン回収材は、珪酸カルシウム水和物(CSH)が磁性粉の分散下で、pH調整せずに生成されたものであるので、該CSHのCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲で、リン回収材中に含まれる消石灰の量は2質量%以下になり、磁気分離時の磁性粉の流出率を20質量%以下に抑制することができる。
【0039】
また、本発明のリン回収材は、遊離の二酸化ケイ素の含有量が格段に少なく、具体的には、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であるので、相対的に珪酸カルシウム水和物(CSH)の含有量が多くなり、リン回収効果を高めることができる。
【0040】
本発明のリン回収材を用いたリン回収物はク溶性リン酸の含有量が高いので、リン酸肥料として利用することができる。
【0041】
本発明の製造方法は、消石灰または生石灰と磁性粉の混合粉末スラリーに珪酸ナトリウム溶液を添加した後に、pH調整を行わないので処理操作が容易であり、また遊離の二酸化ケイ素の生成する量が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】磁性粉添加量とリン回収率の関係を示すグラフ。
図2】磁性粉添加量と磁性粉流出率の関係を示すグラフ。
図3】Ca/Siモル比と磁性粉流出率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施例を示す。なお、添加量ないし含有量の%は質量%である。
〔実施例1:珪酸ナトリウム溶液の調製〕
非晶質シリカを水酸化ナトリウム水溶液に溶解させて珪酸ナトリウム溶液を製造した。表1に珪酸ナトリウム溶液製造の条件を示す。表1に示す量のNaOHと非晶質シリカを水に混合して懸濁液にし、この液量が1kgになるようにし、この懸濁液をウォーターバスにて80℃に加熱し、常圧下、1時間反応させ、水準1から水準4の珪酸ナトリウム溶液を調製した。なお、非晶質シリカはSiOを47.7質量%、水分を49.7質量%含むものを使用した。
水準1の溶液は1時間の加熱では完全な透明にならず、非常に高い粘性を示した。なお、1.5時間加熱したところ完全に溶解した。水準2では80℃1時間の条件で完全に溶解したが、粘性が非常に高かった。水準3と水準4ではどちらも完全に溶解し、粘性も低かった。水準1と水準2の溶液はSi/Naモル比が高いのでCSH合成の珪酸源としては有利であるが、粘性が高く取り扱い難いので、本発明のリン回収材の原料として水準3の溶液を用いた。
【0044】
【表1】
【0045】
〔実施例2:リン回収材A1~A6の製造〕
消石灰(薬仙石灰社製、JIS R 9001:2006 特号消石灰に準拠)と磁性粉(富士フィルム和光純薬社製品マグネタイト:Fe)を混合してスラリーにした。次に、実施例1で製造した水準3の珪酸ナトリウム溶液(NaSiO)67.5gに水96gを添加して49.5mg-SiO/Lの珪酸ナトリウム溶液に希釈したものを用いた。この希釈した珪酸ナトリウム溶液を、最終的にCa/Siモル比が1になるように、常温下で、消石灰と磁性粉の混合スラリーに少量ずつ3分間かけて添加し、添加開始から1時間反応させた。この間、反応槽内が均一になるよう撹拌翼を用いて撹拌し続けた。このようにして、磁性粉の分散下でCSHが生成したm-CSH(Magnetic CSH:磁性CSHと云う)からなるリン回収材を製造した。磁性粉の含有量を変えたリン回収材(A1~A6)を製造した。これらの製造条件を表2A1~A6に示す。
【0046】
〔実施例3:リン回収材A7~A11の製造〕
消石灰と磁性粉の混合スラリーの磁性粉量を5gにし、CSHのCa/Siモル比が0.8~3.5になるように、珪酸ナトリウム溶液量とこの希釈水量などを調整した以外は実施例2と同様にして、磁性粉の分散下でCSHが生成した磁性CSH(m-CSH)からなるリン回収材(A7~A11)を製造した。これらの製造条件を表2A7~A11に示す。なお、消石灰の含有率は、セメント協会標準試験方法(JCAS、1997)の遊離酸化カルシウムの定量方法に定められた方法(グリセリン-アルコール法(B法))によって求めた。この際、分析に使用したサンプルはスラリー50mLを吸引ろ過し、スラリーと同量(50mL)のエタノールで洗浄した後、150℃で3時間乾燥させ、良く粉砕して試験に供した。各リン回収材の消石灰含有率は表2A7~A11のほかCSHのCa/Siモル比が1であるA4に示す。
【0047】
比較例:リン回収材B1~B8の製造〕
実施例2と同様の消石灰を用い、予め磁性粉を含まないスラリーを用いた以外は実施例2、3と同様にしてCSHを生成させた後に、所定量の磁性粉を添加して磁性粉混合CSHからなるリン回収材(B2~B8)を製造した。これらの製造条件を表2に示す。なお、Ca/Siモル比1のCSHについて、磁性粉を混合しない試料をB1として表2に示した。
【0048】
〔比較例:C1、C2〕
特許文献3の実施例2、5に基づき、珪酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を原料とし、本実施例と同様の富士フィルム和光純薬社製マグネタイト(Fe)を使用し、以下の手順で磁性粉を含むリン回収材を作成した。水ガラスに、1.6NのNaOH水溶液と磁性粉を添加し、よく撹拌後消石灰を加え、500rpmで3分間よく撹拌した。その後、2.9mol/L塩酸を、pH12.5までは10mL/min、pH10.5までは1~2mL/minの速度で添加してpH調整し、最終的にpH10.5±1にした。このようにして磁性粉量の異なるリン回収材(C1、C2)を製造した。製造条件を表2C1、C2に示す。
【0049】
〔実施例5:遊離SiO量の測定〕
表2のA2、A4、A6、A7、A10、B1、B3、B4、B7およびC1,C2の各リン回収材について、遊離二酸化ケイ素の含有量を以下の手順に従って測定した。
リン回収材に2M塩酸を加えて二酸化ケイ素を溶出させた。なお、塩酸をそのまま添加するとシリカゲルが析出してしまうので、乾燥させたリン回収材を210μm全通まで粉砕し、これらのサンプル0.1gに、おのおのCa/Siモル比が1.5になるようにCaCl・2HOを添加し、少量の水でスラリー状にした。その後あらかじめ調製した2M塩酸200mLのうち約半量で上記スラリーを200mLビーカーへ洗い込み、残りの2M塩酸を加え、10分間撹拌した。撹拌後直ちに濾過吸引し(アドバンテック東洋社No.5C濾紙を使用)、濾紙を白金るつぼへ入れて灰化し、1000℃での強熱後重量を測定した。強熱後重量の測定後、(1+5)硫酸を1~2滴下して白金るつぼ中の固形分を潤した後に、フッ化水素酸を5mL加え、加熱・蒸発させた後、再度1000℃で強熱して重量を測定した。遊離二酸化ケイ素の含有率(%)は、〔(強熱後重量-フッ化水素酸添加後の強熱後重量)/サンプル取り量〕×100の式によって求めた。表2に結果を示す。
【0050】
【表2】
【0051】
〔実施例6:リン回収試験〕
模擬排水(KHPO:0.392g/L、NHCl:1.89g/L)5Lを用い、Ca/Pモル比が2になるように各リン回収材(A1~A11、B1~B8、C1,C2)を該模擬排水に添加した。また、比較試料として、消石灰単独と、消石灰および磁性粉の混合試料を該模擬排水に添加してリン回収試験を行った。消石灰単独、および消石灰と磁性粉の混合試料は、少量の水でよく撹拌してスラリー状にしてから模擬排水へ添加した。添加後、常温で1時間反応させた。反応後、磁気分離を行い、リン除去率、リン回収率を調べた。これらの結果を表3に示す。また、磁性粉添加量とリン回収率の関係を図1に示した。同様に、磁性粉添加量と磁性粉流出率の関係を図2に示した。また、Ca/Siモル比と磁性粉流出率との関係を図3に示した。
【0052】
磁気分離は、この溶液中に厚さ0.04mmのポリエチレン製の袋に入れた直径30mm厚さ15mmの円柱状ネオジム磁石(最大磁束密度0.5T)を入れて約20秒間浸しつつゆっくり動かして液中から引き上げることによって行った。磁性粉を含む試料についてこの操作を3回繰り返した。引き上げた回収物は濾紙上に移してから吸引ろ過し、その後100℃で恒量になるまで乾燥させた。
なお、磁性粉末を含まない比較試料(B1、D1)は磁気分離ができないため、リン回収反応後に澱物を吸引ろ過し、100℃で恒量になるまで乾燥させた。
【0053】
懸濁物質(SS)およびリン回収率を以下のようにして求めた。磁気分離後の液(以下、流出水)を予め均一に約250~300mlを2つのビーカーに分取し、1つは懸濁物質(SS)を分析し、その後に磁性粉の分析に供した。もう片方の分取液には(1+1)塩酸を添加してpHを1にし、これを上記No.5B濾紙でろ過してからリン濃度(流出水中全リン量)を求め、(1-流出水中全リン量/初期リン量)×100の式によってP回収率(%)を求めた。
【0054】
リン除去率は、磁気分離を行った後の流出水を上記No.5B濾紙で吸引ろ過し、その濾液中のリンを分析し、(1-濾液中リン量/初期リン量)×100の式によってP除去率(%)を求めた。
磁性粉の漏れの指標となる磁性粉回収率(%)は、(1-流出水中磁性粉濃度/初期磁性粉濃度)×100の式によって求めた。なお、初期磁性粉濃度とは磁気分離前の磁性粉濃度である。
【0055】
各成分の分析方法として、吸引濾過による回収物および磁気分離による回収物のリン酸全量(T-P)とク溶性リン酸(C-P)は、それぞれ肥料分析法で規定されるバナドモリブデン酸アンモニウム法により分析した。
【0056】
リン除去率を求めるための吸引濾過後の濾液および流出水中のリンについては規格(JIS K 0102「工場排水試験方法」)に規定されるモリブデン青吸光光度法に準じて分析し、流出水中SS(懸濁物質)は規格(JIS K 0102「工場排水試験方法」)に規定される懸濁物質について分析した。磁性粉濃度は鉄の溶存態鉄をゼロとして、SS分析後の懸濁成分を王水により分解後、その希釈液を規格(JIS K 0102「工場排水試験方法」)に規定されるFeについてフレーム原子吸光法によって分析した。
【0057】
【表3】
【0058】
表2および表3に示すように、本発明のリン回収材(A3~A6、A8~A10)は、CSHのCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲で、遊離の二酸化ケイ素の含有量が5質量%以下であり、リン回収率が50%以上、好ましくは55%以上である。一方、比較試料C1、C2は、遊離二酸化ケイ素含有量が28.5質量%、23.5質量%であり、何れも20質量%を上回り、リン回収率は30%に達しない。
【0059】
また、表2および表3に示すように、リン回収材は、CSHのCa/Siモル比が0.8以上~3.5未満の範囲であれば、磁気分離時の磁性粉の流出量が35%未満であるが、CSHが磁性粉の分散下で生成されたものであって、該CSHのCa/Siモル比が1.0以上~1.5以下の範囲では、磁性粉の含有率が8質量%以上(A3~A10は8.8質量%以上)において、磁気分離時の磁性粉の流出率は20%以下に抑制されている。
【0060】
本発明のリン回収材は、85.9%のリン回収率を最大として、磁性粉の含有量が比較試料D2~D4に比べて明らかに少ない量でも高いリン回収率を示している。比較試料D2~D4では磁性粉に吸着した僅かなリン回収物が引き上げられているだけで、表3に示したように、流出水中のSS量が多く、リン回収効率が非常に低く、磁気分離によるメリットが少ない。本発明の試料A2~A10では磁性粉の含有量が一番少ない試料A2でも流出水中のSS量は比較試料D2の約5割程度であって格段に低く、しかも試料A2のリン回収率は50%であり、概ねリンの半分が回収されている。このように、本発明のリン回収材は、比較試料D2~D4よりもはるかに高い磁気分離効果を有している。
【0061】
表3に示すように、回収物の全リン酸量(T-P)、ク溶性リン酸量(C-P)、ク溶性リン酸量と全リン酸量の比(C/T-P)について、磁性粉含有率の高いA6を除く本発明の試料A3~A5のC-Pは、肥料取締法で定められた副産りん酸肥料の規格15.0%以上を満足している。

【0062】
表3および図2に示すように、本発明のリン回収材は、流出水中の磁性粉濃度はA6を除いては20mg/L未満と低く、大きく変化しない。一方、比較試料D2~D4は磁性粉量が多いと流出水中の磁性粉濃度も上昇する。このように、本発明の磁性粉を含有するリン回収材は、消石灰を用いた比較試料よりも磁気分離性能が良いので、リン回収率が高い。
【0063】
また、表3および図3に示すように、CSHのCa/Siモル比が0.8~1.5の範囲では流出水中のSS量が49.5mg/L~275mg/Lであるのに対して、Ca/Siモル比が3.5では流出水中のSS量が356mg/L~402mg/Lであり、約7倍~約2倍に急激に増加している。流出水中のSSは主に磁性粉であり、CSHのCa/Siモル比を0.8~1.5の範囲に制御することによって、磁性粉の流出量を大幅に抑制することができる。
【0064】
〔固液分離時間の比較〕
実施例6のリン回収試験において、A1~A11のリン回収材の磁気分離に要した時間と、B1の沈降分離に要した時間、およびB1の吸引濾過に要した時間を比較した。A1~A11のリン回収材の磁気分離は、実施例6に示したように、円柱状ネオジム磁石を反応後の溶液に入れて約20秒間浸して液中から引き上げる操作を3回繰り返すことによって行っており、この操作(20秒×3回=1分)を磁気分離に要する時間とした。一方、B1のリン回収材については、沈降分離時間と吸引ろ過時間を測定し、溶液5L全てをろ過するのに要した時間を所要時間とした。吸引ろ過は、アドバンテック東洋社製No.5B濾紙(直径110mm)を使用した。
B1の吸引ろ過には溶液5L全てをろ過するまでの時間は17分であった。また、重力沈降によりろ布などで固液分離する場合、重力沈降(濃縮)した後にろ過するので、沈降時間と濾過時間の合計を所要時間とした。CSHの沈降には、粒径のばらつきから、5分程度で沈降するものもあれば30分たっても沈降を続けるものがあり、最終的(数時間後)には上澄みは透明になるが、概ね所要時間は30分であった。一方、磁気分離では沈降時間を必要とせずに固液分離可能であり、沈降時間は0分である。この結果を表4に示した。
【0065】
この結果に示すように、A1~A11の磁気分離による固液分離の処理時間はB1の処理時間の約1/47であり、固液分離時間を大幅に短縮することができる。ちなみに、排水の流量を250L/h(=4.2L/min)と仮定し、固液分離プロセスにおける水理学的滞留時間(HRT)を、B1では固液分離時間47分として計算すると、約196Lの容積が全量処理に必要となる。同様の流量で磁気分離を行うと、HRTは1分なので約4Lの容積があれば同様の処理を行うことができうることになる。このように、固液分離時間が短縮される利点は非常に大きい。なお、B1の沈降時間を無視しても、A1~A11の固液分離時間はB1の1/17であり、固液分離時間は十分に短い。
【0066】
【表4】
【0067】
磁気分離に関する式として、分離対象物質を球形と想定した場合の磁気力は次式[1]によって表される(排水・汚水処理技術集成 エヌ・ティー・エス社、2007 p543-552 渡辺「磁気分離による排水・汚水処理のメカニズムと応用」)。
【数1】
式[1]において、Fm:磁性粒子にかかる磁気力、V:分離対象物質の体積、μ0:真空の透磁率、χ、χ:それぞれ粒子と流体(水)の磁化率、H:磁界度、grad H:磁気勾配である。
マグネタイトのような強磁性体では、粒子に働く磁気力は水に働く磁気力よりも格段に大きいため水に働く磁気力は無視できる。さらに、χは一定では無いので、「磁化の強さ」をMとして表すことによって、強磁性粒子に働く磁気力は粒子の体積と磁化の強さと磁気勾配の積から次式[2]のように近似できる。
【数2】
【0068】
式[2]に示すように、磁性粒子の粒子径が大きくなると働く磁気力が大きくなることが分かる。これを表3の結果に当てはめてみると、本発明のリン回収材(A2~A6)は、磁性粉がCSHの構造に取り込まれているため体積Vが大きく、磁気分離性能が高い(粒子にかかる磁気力が大きい)と考えられる。一方で、比較試料D2~D4は磁性粉が消石灰スラリーと共に分散しているため、粒子にかかる磁気力も小さくなり、磁性粉が流出している。具体的には、例えば、本発明品のリン回収材の平均粒径(メジアン径)は25μm、磁性粉の平均粒径は2.5μmであるため、粒子が両者とも球形であると仮定すると、式〔2〕の体積比は、25/2.5=1000である。一方、磁性粉の含有率は、A4の試料を例に取れば、20/100=1/5である。それゆえ、粒子にかかる磁場が一定であると仮定した場合、磁気力は、1000/5=200倍も本発明のリン回収材の方が高い。このように、本発明のリン回収材はCSHに磁性粉が取り込まれているため、磁気分離効果が高い。
図1
図2
図3