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特許7165540熱媒体液及び工作機械の温度を制御する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】熱媒体液及び工作機械の温度を制御する方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/10 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
C09K5/10 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018163688
(22)【出願日】2018-08-31
(65)【公開番号】P2020033520
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】辻本 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】石井 俊也
(72)【発明者】
【氏名】小谷田 早季
(72)【発明者】
【氏名】宮島 誠
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/112113(WO,A1)
【文献】特公平03-013280(JP,B2)
【文献】特開平03-095299(JP,A)
【文献】特開2007-099906(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104293447(CN,A)
【文献】国際公開第2013/140652(WO,A1)
【文献】特開昭59-173277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
C09K 3/00-3/32
C01M 101/00-177/00
B23Q 11/00-13/00
C23F 11/00-17/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材としての水と、
環構造を有する含窒素化合物と、
脂肪族カルボン酸と、
リン-炭素結合を有する有機リン化合物と、
を含有し、
工作機械の温度制御に用いられる、熱媒体液であって、
前記環構造を有する含窒素化合物が、モルホリンであり、
前記脂肪族カルボン酸が、脂肪酸であり、
前記リン-炭素結合を有する有機リン化合物が、下記一般式(A)で表される化合物、下記一般式(B)で表される化合物、及び下記一般式(C)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
【化1】

[式(A)中、RA1は、炭化水素基を示す。]
【化2】

[式(B)中、RB1及びRB2は、それぞれ独立に炭化水素基を示す。]
【化3】

[式(C)中、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭化水素基を示し、nは、0~5を示す。]
熱媒体液全量基準で、前記環構造を有する含窒素化合物の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、前記脂肪族カルボン酸の含有量が0.05質量%以上1質量%以下であり、前記リン-炭素結合を有する有機リン化合物の含有量が0.01質量%以上1質量%以下である、熱媒体液(ただし、金属加工液を除く。)。
【請求項2】
前記RA1、前記RB1、及び前記RB2における炭化水素基の炭素数が3以上である、請求項1に記載の熱媒体液。
【請求項3】
熱媒体液を用いて工作機械の温度を制御する方法であって、
前記熱媒体液が、
基材としての水と、
環構造を有する含窒素化合物と、
脂肪族カルボン酸と、
リン-炭素結合を有する有機リン化合物と、
を含有し、
前記環構造を有する含窒素化合物が、モルホリンであり、
前記脂肪族カルボン酸が、脂肪酸であり、
前記リン-炭素結合を有する有機リン化合物が、下記一般式(A)で表される化合物、下記一般式(B)で表される化合物、及び下記一般式(C)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、
【化4】

[式(A)中、RA1は、炭化水素基を示す。]
【化5】

[式(B)中、RB1及びRB2は、それぞれ独立に炭化水素基を示す。]
【化6】

[式(C)中、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭化水素基を示し、nは、0~5を示す。]
熱媒体液全量基準で、前記環構造を有する含窒素化合物の含有量が0.1質量%以上5質量%以下であり、前記脂肪族カルボン酸の含有量が0.05質量%以上1質量%以下であり、前記リン-炭素結合を有する有機リン化合物の含有量が0.01質量%以上1質量%以下である、方法(ただし、前記熱媒体液が金属加工液である方法を除く。)。
【請求項4】
前記RA1、前記RB1、及び前記RB2における炭化水素基の炭素数が3以上である、請求項3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱媒体液及び工作機械の温度を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械では、高い工作精度を達成するため、工作機械の構成部品が膨張又は収縮しないように機械の温度を制御する必要がある。工作機械の温度を制御する方法としては、例えば、温度制御用の熱媒体液を機械内に循環させる方法が挙げられる。この方法では、工作機械の温度が所定温度より高い場合、温度制御用の熱媒体液による冷却が行われ、一方、工作機械の温度が所定温度より低い場合、温度制御用の熱媒体液による加温が行われることによって、工作機械の温度が制御される。
【0003】
従来、温度制御用の熱媒体液として、鉱油を基材とする熱媒体液が用いられている。しかし、近年、より高い工作精度が求められるようになり、比熱の小さい鉱油では、工作機械の温度制御が不充分となる場合がある。そのため、温度制御用の熱媒体液の基材として、鉱油より比熱の大きい水を用いることが検討されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-109370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水を基材として用いる場合、工作機械にさびを発生させるおそれがあり、例えば、特許文献1に記載されているような熱媒体液には、さび止め性の点で更なる改善の余地がある。また、このような水を基材として用いる熱媒体液は、防腐の観点から通常アルカリ性となっていることから、アルミニウムに適用できないおそれもある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、さび止め性に優れ、かつアルミニウム防食性に優れる熱媒体液、及び該熱媒体液を用いた工作機械の温度を制御する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一態様において、基材としての水と、環構造を有する含窒素化合物と、脂肪族カルボン酸と、リン-炭素結合を有する有機リン化合物と、を含有し、工作機械の温度制御に用いられる、熱媒体液を提供する。
【0008】
含窒素化合物は、好ましくはアミン化合物である。アミン化合物は、好ましくは環状アミン化合物及び脂環式アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。環構造は、好ましくは複素環である。複素環は、好ましくは、炭素原子、窒素原子、及び酸素原子を含む複素環である。
【0009】
脂肪族カルボン酸は、好ましくは脂肪酸(1価の脂肪族カルボン酸)である。
【0010】
有機リン化合物のリン原子は、好ましくは5価である。
【0011】
有機リン化合物は、一態様として、下記一般式(A)で表される化合物及び下記一般式(B)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。炭化水素基の炭素数は、好ましくは3以上である。
【化1】

[式(A)中、RA1は、炭化水素基を示す。]
【化2】

[式(B)中、RB1及びRB2は、それぞれ独立に炭化水素基を示す。]
【0012】
有機リン化合物は、他の態様として、下記一般式(C)で表される化合物であってよい。
【化3】

[式(C)中、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭化水素基を示し、nは、0~5を示す。]
【0013】
本発明は、他の一態様において、熱媒体液を用いて工作機械の温度を制御する方法であって、熱媒体液が、基材としての水と、環構造を有する含窒素化合物と、脂肪族カルボン酸と、リン-炭素結合を有する有機リン化合物と、を含有する、方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、さび止め性に優れ、かつアルミニウム防食性に優れる熱媒体液、及び該熱媒体液を用いた工作機械の温度を制御する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
熱媒体液は、水、環構造を有する含窒素化合物(以下、単に「含窒素化合物」ともいう。)、脂肪族カルボン酸、及びリン-炭素結合を有する有機リン化合物(以下、単に「有機リン化合物」ともいう。)を含有する。
【0017】
<水>
水は、熱媒体液の基材として含まれるものである。水としては、例えば、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水などが挙げられるが、水分を含んでいればよく、特にこれらには限られない。水は、添加剤と望まない沈殿が発生し難い傾向にあることから、イオン交換水又は蒸留水の使用が好ましい。水の含有量は、熱媒体液全量基準で、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、又は90質量%以上であってよく、また、例えば、98質量%以下であってよい。
【0018】
<含窒素化合物>
含窒素化合物は、構成元素として窒素原子を含む化合物であり、例えば、アミン化合物であってよい。含窒素化合物一分子中に含まれる窒素原子の数は、1であっても2以上であってもよく、好ましくは1又は2である。含窒素化合物は、さび止め性及び耐腐敗性の観点から、環構造を有する。環構造を有する含窒素化合物において、構成元素である窒素は、環構造中に含まれていてもよく、環構造以外の構造中に含まれていてもよい。環構造を有する含窒素化合物としては、例えば、単素環を有する含窒素化合物、複素環を有する含窒素化合物等が挙げられるが、耐腐敗性をより高める観点から、環構造を有する含窒素化合物は、より好ましくは複素環を有する含窒素化合物である。
【0019】
単素環を有する含窒素化合物は、例えば、単素環を有するアミン化合物であってよい。単素環を有するアミン化合物は、例えば、脂環式アミン化合物又は芳香族アミン化合物であってよく、好ましくは脂環式アミン化合物である。単素環を有するアミン化合物は、例えば、下記一般式(1)で表される化合物であってよい。
【0020】
【化4】
【0021】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、又はアリール基を表す。R~Rの少なくとも1つは、シクロアルキル基又はアリール基を表し、好ましくはシクロアルキル基を表す。単素環を有するアミン化合物は、R~Rのうち2つがシクロアルキル基又はアリール基を表し、かつR~Rのうち1つが水素原子であることが好ましく、R~Rのうち2つがシクロアルキル基を表し、かつR~Rのうち1つが水素原子であることがより好ましい。
【0022】
シクロアルキル基は、無置換であってよく、その水素原子の一部がアルキル基で置換されていてもよい。シクロアルキル基の炭素数は、例えば、3~12であってよい。シクロアルキル基は、好ましくは置換又は無置換のシクロヘキシル基であり、より好ましくは無置換のシクロヘキシル基である。アリール基は、例えば、フェニル基、ベンジル基等であってよい。アリール基は、その水素原子の一部がアルキル基で置換されていてもよい。アリール基の炭素数は、例えば、6~12であってよい。
【0023】
脂環式アミン化合物としては、例えば、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。芳香族アミン化合物としては、例えば、フェニルアミン、ジフェニルアミン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン等が挙げられる。
【0024】
複素環を有する含窒素化合物は、例えば、複素環を有するアミン化合物であってよい。複素環を有するアミン化合物は、例えば、炭素原子及び窒素原子を含む複素環を有する環状アミン化合物(アミノ基を形成する窒素が環構造中に含まれている化合物)であってよい。環状アミン化合物が有する複素環は、例えば、下記一般式(2)又は一般式(3)で表される複素環であってよい。
【0025】
【化5】
【0026】
【化6】
【0027】
式(2)及び式(3)中、R、R、及びRは、置換又は無置換のアルキレン基を示し、*は結合手を示す。置換のアルキレン基は、例えば、アルキレン基の一部の炭素原子が酸素原子で置換された基であってよい。R、R又はRで表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、2~7であってよい。
【0028】
環状アミン化合物は、好ましくは、炭素原子、窒素原子、及び酸素原子を含む複素環を有する環状アミン化合物である。環状アミン化合物が有する複素環は、好ましくは、下記一般式(4)で表される複素環である。
【0029】
【化7】
【0030】
式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に単結合又はアルキレン基を示し、*は結合手を示す。R又はRで表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、1~3であってよい。
【0031】
環状アミン化合物は、一般式(2)、一般式(3)、又は一般式(4)で表される複素環を1つ又は2つ以上有していてよく、好ましくは1つ又は2つ有している。
【0032】
環状アミン化合物としては、例えば、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-プロピルモルホリン、N,N-メチレンビスモルホリン等のモルホリン環を有する化合物などが挙げられる。環状アミン化合物は、耐腐敗性に優れる観点から、好ましくはモルホリンである。
【0033】
複素環を有する含窒素化合物は、例えば、複素芳香環を有する含窒素複素芳香族化合物であってもよい。含窒素複素芳香族化合物は、例えば、ピリジン、ピリミジン、イミダゾール等であってよい。
【0034】
含窒素化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。含窒素化合物の含有量は、熱媒体液全量基準で、例えば、0.1質量%以上、0.25質量%以上、又は0.5質量%以上であってよく、15質量%以下、10質量%以下、又は5質量%以下であってよい。
【0035】
<脂肪族カルボン酸>
脂肪族カルボン酸は、R-(COOH)で表される。Rは、m価の脂肪族炭化水素基を表す。mは、1以上の整数を表し、好ましくは1又は2、より好ましくは1を表す。すなわち、脂肪族カルボン酸は、好ましくは1価の脂肪族カルボン酸(脂肪酸)又は2価の脂肪族カルボン酸であり、より好ましくは1価の脂肪族カルボン酸(脂肪酸)である。
【0036】
脂肪酸(1価の脂肪族カルボン酸)は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。脂肪酸の炭素数は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは8以上である。脂肪酸の炭素数は、気相防錆性の点で更に優れる観点から、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは12以下である。脂肪酸は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。脂肪酸としては、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ベラルゴン酸等が挙げられる。
【0037】
2価の脂肪族カルボン酸は、飽和の脂肪族カルボン酸であっても不飽和の脂肪族カルボン酸であってもよく、好ましくは飽和の脂肪族カルボン酸である。2価の脂肪族カルボン酸の炭素数は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上である。2価の脂肪族カルボン酸の炭素数は、気相防錆性の点で更に優れる観点から、好ましくは12以下、より好ましくは11以下、更に好ましくは10以下である。2価の脂肪族カルボン酸は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。2価の脂肪族カルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられる。
【0038】
脂肪族カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。脂肪族カルボン酸の含有量は、熱媒体液全量基準で、例えば、0.05質量%以上、0.1質量%以上、又は0.12質量%以上であり、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0039】
<有機リン化合物>
有機リン化合物は、構成元素としてリンを含み、炭化水素基を有する化合物である。有機リン化合物は、リン原子と炭化水素基の炭素原子との間にリン-炭素結合を少なくとも1つ有する。有機リン化合物のリン原子は5価であってよい。
【0040】
有機リン化合物の一態様は、下記一般式(A)で表される化合物及び下記一般式(B)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0041】
【化8】
【0042】
式(A)中、RA1は、炭化水素基を示す。RA1で表される炭化水素基は、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。これらの飽和炭化水素基又は不飽和炭化水素基は、直鎖状、分岐状、又は環状のいずれであってもよく、好ましくは直鎖状又は分岐状である。RA1で表される飽和炭化水素基としては、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基などが挙げられる。RA1で表される不飽和炭化水素基としては、例えば、上述の飽和炭化水素基で例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が炭素-炭素二重結合に置換されたアルケニル基、上述の飽和炭化水素基で例示したアルキル基の炭素-炭素単結合の一部が炭素-炭素三重結合に置換されたアルキニル基等が挙げられる。RA1で表される炭化水素基は、好ましくはアルキル基又はアルケニル基、より好ましくはアルキル基である。RA1で表される炭化水素基の炭素数は、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であってよく、18以下、12以下、又は10以下であってよい。
【0043】
【化9】
【0044】
式(B)中、RB1及びRB2は、それぞれ独立に炭化水素基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。RB1及びRB2で表される炭化水素基及びその炭素数は、RA1で表される炭化水素基及びその炭素数で例示したものと同様であってよい。なお、RB1及びRB2の炭化水素基は、いずれか一方の炭化水素基が炭素数3以上であることが好ましく、両方の炭化水素基が炭素数3以上であることがより好ましい。
【0045】
有機リン化合物の他の態様は、下記一般式(C)で表される化合物である。
【0046】
【化10】
【0047】
式(C)中、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭化水素基を示し、互いに同一であっても異なっていてもよい。RC1及びRC2で表される炭化水素基は、RA1で表される炭化水素基で例示したものと同様であってよい。RC1及びRC2で表される炭化水素基の炭素数は、1以上又は2以上であってよく、10以下、6以下、又は4以下であってよい。
【0048】
式(C)中、nは、0~5を示す。nは、1~3、1若しくは2、又は1である。
【0049】
有機リン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。有機リン化合物の含有量は、熱媒体液全量基準で、例えば、0.01質量%以上、0.03質量%以上、又は0.05質量%以上であってよく、3質量%以下、1質量%以下、又は0.5質量%以下であってよい。
【0050】
<その他の添加剤>
熱媒体液は、環構造を有するアミン化合物、脂肪族カルボン酸、及び有機リン化合物以外のその他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、例えば、増粘剤、流動点降下剤、金属不活性化剤、環構造を有するアミン化合物以外のpH調整剤、消泡剤、着色剤、環構造を有するアミン化合物及び脂肪酸以外のさび止め剤、有機リン化合物以外の極圧剤、金属系清浄剤、無灰分散剤等が挙げられる。
【0051】
増粘剤は、例えば、ポリオキシアルキレン化合物である。ポリオキシアルキレン化合物の数平均分子量は、例えば、5000~20000である。本発明における数平均分子量は、GPC分析により測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量を意味する。
【0052】
ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば、グリセリンと、プロピレンオキサイド及びエチレンオキサイドの重合体との合成物等が挙げられる。増粘剤の含有量は、例えば、熱媒体液全量基準で、1~20質量%であってよい。
【0053】
流動点降下剤としては、例えば、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリメタクリレート、ポリイソブチレン、ポリスチレン等が挙げられる。流動点降下剤の含有量は、例えば、熱媒体液全量基準で、5~40質量%であってよい。
【0054】
環構造を有する含窒素化合物以外のpH調整剤としては、例えば、脂肪族アミン、脂肪族アルカノールアミン等のアミン化合物、水酸化カリウムなどが挙げられる。脂肪族アミンは、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等であってよい。脂肪族アルカノールアミンは、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン等であってよい。環構造を有する含窒素化合物以外のpH調整剤の含有量は、例えば、熱媒体液全量基準で、0.01~10質量%であってよい。
【0055】
消泡剤としては、例えば、シリコーン等が挙げられる。消泡剤の含有量は、例えば、熱媒体液全量基準で、0.0005~1質量%であってよい。
【0056】
着色剤としては、例えば、アシッドブルー等が挙げられる。着色剤の含有量は、例えば、0.0005~0.002質量%であってよい。
【0057】
熱媒体液の40℃における動粘度は、機械保護の観点から、好ましくは0.5mm/s以上、より好ましくは1mm/s以上、更に好ましくは1.5mm/s以上である。熱媒体液の40℃における動粘度は、熱効率の観点から、好ましくは10mm/s以下、より好ましくは5mm/s以下、更に好ましくは3mm/s以下である。本発明における動粘度は、JIS K2283に準拠して測定された動粘度を意味する。
【0058】
熱媒体液のpHは、防錆の観点から、例えば、7以上、7.5以上、又は8以上であってよい。熱媒体液のpHは、人体の安全面の観点から、例えば、12以下、11.5以下、又は11以下であってよい。本発明におけるpHは、JIS Z8802により得られた値を意味する。
【0059】
熱媒体液の凍結温度は、低温使用の観点から、好ましくは0℃以下、より好ましくは-10℃以下、更に好ましくは-15℃以下である。本発明における凍結温度は、JIS K2234に準拠して測定された凍結温度を意味する。
【0060】
熱媒体液の40℃における比熱は、熱効率の観点から、好ましくは2.5J/(g・K)以上、より好ましくは3.0J/(g・K)以上、更に好ましくは3.6J/(g・K)以上である。本発明において、40℃における比熱とは、示差走査熱量計を用いて-50℃から10℃/分で昇温した際の40℃の測定値を意味する。
【0061】
本実施形態に係る熱媒体液は、水を基材として含有していながら、さび止め性に優れるため、工作機械の温度制御に好適に用いられる。また、本実施形態に係る熱媒体液は、アルミニウム防食性に優れることから、アルミニウムに対しても好適に用いられる。この熱媒体液によれば、工作機械の温度を制御することで、工作機械の加工精度を維持できる。すなわち、本発明の一実施形態は、熱媒体液を用いて工作機械の温度を制御する方法であって、熱媒体液が、熱媒体液を用いて工作機械の温度を制御する方法であって、熱媒体液が、基材としての水と、環構造を有する含窒素化合物と、脂肪族カルボン酸と、リン-炭素結合を有する有機リン化合物と、を含有する、方法である。この方法では、工作機械内に熱媒体液を循環させる。これにより、工作機械の温度が所定温度より高い場合、熱媒体液による冷却が行われ、一方、工作機械の温度が所定温度より低い場合、熱媒体液による加温が行われる。
【実施例
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0063】
実施例及び比較例においては、以下に示す添加剤を用いて表1及び表2に記載の組成(熱媒体液全量基準での質量%)を有する熱媒体液を調製した。なお、水は、イオン交換水を用いた。
【0064】
(アミン化合物)
A1:モルホリン
(脂肪酸)
B1:カプリン酸
(含リン化合物)
C1:モノオクチルホスホン酸(RA1がオクチル基である一般式(A)で表される化合物、炭化水素基:あり、リン-炭素結合:あり)
C2:ジオクチルホスホン酸(RB1及びRB2がオクチル基である一般式(B)で表される化合物、炭化水素基:あり、リン-炭素結合:あり)
C3:ジエチルホスホノ酢酸(RC1及びRC2がエチル基であり、nが1である一般式(C)で表される化合物、炭化水素基:あり、リン-炭素結合:あり)
C4:リン酸二水素ナトリウム(下記式で表される化合物、炭化水素基:なし、リン-炭素結合:なし)
【化11】

C5:リン酸一水素二カリウム(下記式で表される化合物、炭化水素基:なし、リン-炭素結合:なし)
【化12】

C6:リン酸モノアルキルエステル(下記式で表される化合物(RC6:C12又はC13のアルキル基)、炭化水素基:あり、リン-炭素結合:なし)
【化13】

(その他の添加剤)
D1:増粘剤(ポリオキシアルキレン化合物、株式会社ADEKA製、アデカカーポールGH-10)
D2:トリルトリアゾール
D3:50%水酸化カリウム溶液
D4:消泡剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、FSアンチフォーム544コンパウンド)
D5:着色剤(アシッドブルー1、紅不二化学工業株式会社製、パテントピュアブルーVX150%)
【0065】
<さび止め性評価>
直径18mm、長さ60mmの鋳鉄棒を用意し、この鋳鉄棒の約半分を熱媒体液15gに浸漬させた。25℃で放置し、鋳鉄棒の熱媒体液に接している部分と接していない部分の少なくとも一方に、さびが発生するまでの時間を測定した。
【0066】
<アルミニウムの防食性評価>
熱媒体液について、JIS K2234に規定された金属腐食性試験に準拠し、金属腐食試験を行った。なお、金属腐食試験においては、熱媒体液を調製水で30体積分率%に希釈することなく、熱媒体液をそのまま試験液として用いた。また、金属腐食試験においては、アルミニウム片のみを評価対象とした。金属腐食試験前後の質量の変化を変化量(質量%)として評価した。また、金属腐食試験後のアルミニウム片の表面の状態を観察し、変色の度合いを目視にて観察した。ここでは、変色が観察されなかったものを「A」、わずかな変色が観察されたものを「B」、著しい変色が観察されたものを「C」と評価した。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
表1に示すとおり、実施例1~6の熱媒体液は、さび止め性に優れ、JIS K2234に規定されるアルミニウムの変化量の合格範囲(±0.30質量%)の条件を満たし、変色もほとんど見られなかった。一方、表2に示すとおり、比較例1~4の熱媒体液は、さび止め性の点に優れていたものの、アルミニウムの防食性(変化量又は変色の度合いのいずれか)の点で充分でなかった。以上の結果から、本発明の熱媒体液がさび止め性に優れ、かつアルミニウム防食性に優れることが確認された。