(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】治療計画システム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A61N5/10 P
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2018199487
(22)【出願日】2018-10-23
【審査請求日】2021-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】上口 長昭
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0217135(US,A1)
【文献】特開2008-178569(JP,A)
【文献】特表2007-509644(JP,A)
【文献】特開2017-209372(JP,A)
【文献】特開2018-134208(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画システムであって、
予め定められた複数のカットオフ線量値に対応させて、被照射体に対して荷電粒子線を照射した場合の線量分布、及び当該照射に要する照射時間を演算する演算部と、
それぞれの前記カットオフ線量値、それぞれの前記カットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれの前記カットオフ線量値に対応する前記照射時間を表示部へ出力する出力部と、を備え、
前記演算部は、前記被照射体の各照射箇所において必要とされる線量から、前記カットオフ線量値以下の線量の照射箇所を切り落としたうえで、前記線量分布を演算する際の前記荷電粒子線の電流値を設定
し、
複数の層に仮想的に分割された前記被照射体の各層において、前記カットオフ線量値以下の低い重みの線量の前記照射箇所を切り落としたうえで、前記線量分布を演算する際の前記荷電粒子線の電流値を設定する、治療計画システム。
【請求項2】
前記表示部に表示された内容に基づいてユーザーが前記カットオフ線量値を選択した場合、選択された前記カットオフ線量値を受信するカットオフ線量値受信部と、
前記カットオフ線量値受信部で受信した前記カットオフ線量値に基づいて、前記被照射体へ前記荷電粒子線を照射する際の当該荷電粒子線の電流値を設定する電流値設定部と、を備える、請求項1に記載の治療計画システム。
【請求項3】
ユーザーによる、線量分布に基づくパラメータの入力を受信する入力情報受信部と、
前記入力情報受信部が受信した前記パラメータに最も近いパラメータに対応する前記カットオフ線量値を自動的に選択するカットオフ線量値選択部と、を備える、請求項1または2に記載の治療計画システム。
【請求項4】
前記演算部は、一つの治療計画を取得し、当該治療計画に対して複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の線量分布を演算する、請求項1~3の何れか一項に記載の治療計画システム。
【請求項5】
前記演算部は、複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の治療計画を取得し、それぞれの治療計画に対する線量分布を演算する、請求項1~3の何れか一項に記載の治療計画システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療計画システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、患者の患部に荷電粒子線を照射することによって治療を行う荷電粒子線治療装置が知られている。特許文献1には、被照射体を複数層に分けて、各層に対して荷電粒子線を走査してスキャニング法によって照射する荷電粒子線治療装置が記載されている。このような荷電粒子線治療装置は、治療計画システムで作成された治療計画に基づいて荷電粒子線の照射を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述の様な荷電粒子線治療装置は、各層に対して荷電粒子線をスキャニングしながら照射するため、照射時間が長くなると治療時間が長くなる。従って、治療計画システムでは、荷電粒子線装置による荷電粒子線の照射時間を短縮することが求められていた。
【0005】
本発明は、荷電粒子線の照射時間を短縮することができる治療計画システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る治療計画システムは、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画システムであって、予め定められた複数のカットオフ線量値に対応させて、被照射体に対して荷電粒子線を照射した場合の線量分布、及び当該照射に要する照射時間を演算する演算部と、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれの前記カットオフ線量値に対応する照射時間を表示部へ出力する出力部と、を備え、演算部は、被照射体の各照射箇所において必要とされる線量から、カットオフ線量値以下の線量の照射箇所を切り落としたうえで、線量分布を演算する際の荷電粒子線の電流値を設定する。
【0007】
例えば、被照射体の各照射箇所において必要とされる線量を示すマップのうち、最も低い線量を基準にして荷電粒子線の電流値が低く設定された場合、必要とされる線量が高い照射箇所へは、照射時間を長くするために低い走査速度で照射が行われるため、被照射体全体の照射時間が長くなる。これに対し、上記治療計画システムの演算部は、被照射体の各照射箇所において必要とされる線量を示すマップから、カットオフ線量値以下の線量を切り落としたうえで、線量分布を演算する際の荷電粒子線の電流値を設定する。この場合、演算部は、カットオフ線量値よりも高い線量を基準として電流値を設定することができる。これにより、高い電流値の荷電粒子線で走査を行うことで、全体の照射時間を短縮することができる。ここで、演算部は、予め定められた複数のカットオフ線量値に対応させて、被照射体に対して荷電粒子線を照射した場合の線量分布、及び当該照射に要する照射時間を演算することができる。また、出力部は、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれのカットオフ線量値に対応する照射時間を表示部へ出力することができる。従って、ユーザーは、表示部を参照することで、照射精度と照射時間のバランスを見ながら、適切なカットオフ線量値を選ぶことが可能となる。以上により、荷電粒子線の照射時間を短縮することができる。
【0008】
治療計画システムは、表示部に表示された内容に基づいてユーザーがカットオフ線量値を選択した場合、選択されたカットオフ線量値を受信するカットオフ線量値受信部と、カットオフ線量値受信部で受信したカットオフ線量値に基づいて、被照射体へ荷電粒子線を照射する際の当該荷電粒子線の電流値を設定する電流値設定部と、を備えてよい。この場合、ユーザーの選択に基づいて設定されたカットオフ線量値に基づいた電流値の荷電粒子線にて治療を行うことが可能となる。
【0009】
治療計画システムは、ユーザーによる、線量分布に基づくパラメータの入力を受信する入力情報受信部と、入力情報受信部が受信したパラメータに最も近いパラメータに対応するカットオフ線量値を自動的に選択するカットオフ線量値選択部と、を備えてよい。この場合、ユーザーが所望するパラメータに基づいたカットオフ線量値にて治療を行うことが可能となる。
【0010】
治療計画システムにおいて、演算部は、一つの治療計画を取得し、当該治療計画に対して複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の線量分布を演算してよい。この場合、治療計画の最適化演算が一回で済むため、演算時間を短くすることができる。
【0011】
治療計画システムにおいて、演算部は、複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の治療計画を取得し、それぞれの治療計画に対する線量分布を演算してよい。この場合、演算部が各カットオフ線量値に対して治療計画の最適化を行うため、線量分布の乱れを抑制し易くなる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、荷電粒子線の照射時間を短縮することができる治療計画システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る治療計画システムで計画された治療計画に基づいて荷電粒子線治療を行う荷電粒子線治療装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。
【
図5】治療計画システムによる治療計画の手順の一例を示す。
【
図6】治療計画システムによる治療計画の手順の他の例を示す。
【
図7】演算部の演算に用いられるウェイトマップである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係る治療計画システムで計画された治療計画に基づいて荷電粒子線治療を行う荷電粒子線治療装置を示す概略構成図である。
図1に示される荷電粒子線治療装置1は、放射線療法によるがん治療等に利用される装置である。荷電粒子線治療装置1は、荷電粒子を生成するイオン源50と、イオン源50において生成された荷電粒子を加速して荷電粒子線として出射する加速器3と、荷電粒子線を被照射体へ照射する照射部2と、加速器3から出射された荷電粒子線を照射部2へ輸送するビーム輸送ライン21と、ビーム輸送ライン21上において加速器3と照射部2との間に設けられたエネルギー調整部20と、を備えている。照射部2は、治療台4を取り囲むように設けられた回転ガントリ5に取り付けられている。照射部2は、回転ガントリ5によって治療台4の周りを回転可能に構成されている。
【0016】
図2は、
図1の荷電粒子線治療装置の照射部付近の概略構成図である。なお、以下の説明においては、「X方向」、「Y方向」、「Z方向」という語を用いて説明する。「Z方向」とは、荷電粒子線Bの基軸(照射軸)AXが延びる方向であり、荷電粒子線Bの照射の深さ方向である。なお、「基軸AX」とは、後述の照射位置調整部60で偏向しなかった場合の荷電粒子線Bの照射軸とする。
図2では、基軸AXに沿って荷電粒子線Bが照射されている様子を示している。「X方向」とは、Z方向と直交する平面内における一の方向である。「Y方向」とは、Z方向と直交する平面内においてX方向と直交する方向である。
【0017】
まず、
図2を参照して荷電粒子線治療装置1の概略構成について説明する。なお、以降の説明においては、荷電粒子線治療装置1がスキャニング法に係る照射装置である場合について説明する。なお、スキャニング方式は特に限定されず、ラインスキャニング、ラスタースキャニング、スポットスキャニング等を採用してよい。
図2に示されるように、荷電粒子線治療装置1は、加速器3と、照射部2と、ビーム輸送ライン21と、制御部7と、を備えている。
【0018】
加速器3は、荷電粒子を加速して予め設定されたエネルギーの荷電粒子線Bを出射する装置である。加速器3として、例えば、サイクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等が挙げられる。なお、加速器3として予め定めたエネルギーの荷電粒子線Bを出射するサイクロトロンを採用する場合、エネルギー調整部20を採用することで、照射部2へ送られる荷電粒子線Bのエネルギーを調整(低下)させることが可能となる。この加速器3は、制御部7に接続されており、供給される電流が制御される。加速器3で発生した荷電粒子線Bは、ビーム輸送ライン21によって照射部2へ輸送される。ビーム輸送ライン21は、加速器3と、エネルギー調整部20と、照射部2と、を接続し、加速器3から出射された荷電粒子線Bを照射部2へ輸送する。
【0019】
照射部2は、患者15の体内の腫瘍(被照射体)14に対し、荷電粒子線Bを照射するものである。荷電粒子線Bとは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。具体的に、照射部2は、イオン源(不図示)で生成した荷電粒子を加速する加速器3から出射されてビーム輸送ライン41で輸送された荷電粒子線Bを腫瘍14へ照射する装置である。照射部2は、走査電磁石(走査部)6、四極電磁石8、プロファイルモニタ11、ドーズモニタ12、フラットネスモニタ13a,13b、及びディグレーダ30を備えている。走査電磁石6、各モニタ11,12,13a,13b、四極電磁石8、及びディグレーダ30は、照射ノズル9に収容されている。
【0020】
走査電磁石6は、X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bを含む。X方向走査電磁石6a及びY方向走査電磁石6bは、それぞれ一対の電磁石から構成され、制御部7から供給される電流に応じて一対の電磁石間の磁場を変化させ、当該電磁石間を通過する荷電粒子線Bを走査する。X方向走査電磁石6aは、X方向に荷電粒子線Bを走査し、Y方向走査電磁石6bは、Y方向に荷電粒子線Bを走査する。これらの走査電磁石6は、基軸AX上であって、加速器3よりも荷電粒子線Bの下流側にこの順で配置されている。
【0021】
四極電磁石8は、X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bを含む。X方向四極電磁石8a及びY方向四極電磁石8bは、制御部7から供給される電流に応じて荷電粒子線Bを絞って収束させる。X方向四極電磁石8aは、X方向において荷電粒子線Bを収束させ、Y方向四極電磁石8bは、Y方向において荷電粒子線Bを収束させる。四極電磁石8に供給する電流を変化させて絞り量(収束量)を変化させることにより、荷電粒子線Bのビームサイズを変化させることができる。四極電磁石8は、基軸AX上であって加速器3と走査電磁石6との間にこの順で配置されている。なお、ビームサイズとは、XY平面における荷電粒子線Bの大きさである。また、ビーム形状とは、XY平面における荷電粒子線Bの形状である。
【0022】
プロファイルモニタ11は、初期設定の際の位置合わせのために、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出する。プロファイルモニタ11は、基軸AX上であって四極電磁石8と走査電磁石6との間に配置されている。ドーズモニタ12は、荷電粒子線Bの強度を検出し、制御部7に信号を送信する。ドーズモニタ12は、基軸AX上であって走査電磁石6に対して下流側に配置されている。フラットネスモニタ13a,13bは、荷電粒子線Bのビーム形状及び位置を検出監視する。フラットネスモニタ13a,13bは、基軸AX上であって、ドーズモニタ12よりも荷電粒子線Bの下流側に配置されている。各モニタ11,12,13a,13bは、検出した検出結果を制御部7に出力する。
【0023】
ディグレーダ30は、通過する荷電粒子線Bのエネルギーを低下させて当該荷電粒子線Bのエネルギーの微調整を行う。本実施形態では、ディグレーダ30は、照射ノズル9の先端部9aに設けられている。なお、照射ノズル9の先端部9aとは、荷電粒子線Bの下流側の端部である。照射ノズル9内のディグレーダ30は、省略することも可能である。
【0024】
制御部7は、例えばCPU、ROM、及びRAM等により構成されている。この制御部7は、プロファイルモニタ11と、ドーズモニタ12、及び照射位置調整部60から出力された検出結果に基づいて、加速器3、四極電磁石8、走査電磁石6、及びディグレーダ30を制御する。
【0025】
また、荷電粒子線治療装置1の制御部7は、荷電粒子線治療の治療計画を行う治療計画システム200の治療計画装置100と接続されている。治療計画装置100は、治療前に患者15の腫瘍14をCT等で測定し、腫瘍14の各位置における線量分布(照射すべき荷電粒子線Bの線量分布)を計画する。具体的には、治療計画装置100は、腫瘍14に対して治療計画マップを作成する。治療計画装置100は、作成した治療計画マップを制御部7へ送信する。治療計画装置100が作成した治療計画マップでは、荷電粒子線Bがどのような走査経路を描くかが計画されている。
【0026】
スキャニング法による荷電粒子線の照射を行う場合、腫瘍14をZ軸方向に複数の層に仮想的に分割し、一の層において荷電粒子線を治療計画において定めた走査経路に従うように走査して照射する。そして、当該一の層における荷電粒子線の照射が完了した後に、隣接する次の層における荷電粒子線Bの照射を行う。
【0027】
図2に示す荷電粒子線治療装置1により、スキャニング法によって荷電粒子線Bの照射を行う場合、通過する荷電粒子線Bが収束するように四極電磁石8を作動状態(ON)とする。
【0028】
制御部7の制御に応じた走査電磁石6の荷電粒子線照射イメージについて、
図3(a)及び(b)を参照して説明する。
図3(a)は、深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされた被照射体を、
図3(b)は、深さ方向から見た一の層における荷電粒子線の走査イメージを、それぞれ示している。
【0029】
図3(a)に示すように、被照射体は照射の深さ方向において複数の層に仮想的にスライスされており、本例では、深い(荷電粒子線Bの飛程が長い)層から順に、層L
1、層L
2、…層L
n-1、層L
n、層L
n+1、…層L
N-1、層L
NとN層に仮想的にスライスされている。また、
図3(b)に示すように、荷電粒子線Bは、走査経路TLに沿ったビーム軌道を描きながら、連続照射(ラインスキャニング又はラスタースキャニング)の場合は層Lnの走査経路TLに沿って連続的に照射され、スポットスキャニングの場合は層Lnの複数の照射スポットに対して照射される。すなわち、制御部7に制御された照射部2から出射した荷電粒子線Bは、走査経路TL上を移動する。
【0030】
次に、
図4を参照して治療計画システム200について説明する。
図4に示すように、治療計画システム200は、治療計画装置100と、表示部101と、入力部102と、を備える。
【0031】
表示部101は、各種情報をユーザーに対して表示する。表示部101は、ディスプレイなどによって構成される。表示部101は、治療計画装置100からの信号を受信して、情報を表示する。入力部102は、ユーザーの操作によって入力がなされる。入力部102は、マウス、キーボード、タッチパネルなどによって構成される。
【0032】
治療計画装置100は、演算部110と、出力部111と、受信部112(カットオフ線量値受信部、入力情報受信部)と、カットオフ線量値選択部113と、電流値設定部114と、を備える。なお、治療計画装置100は、一台の処理装置から構成されている場合のみならず、複数台の処理装置によるシステム・ワークステーションとして構成されてもよい。
【0033】
演算部110は、治療計画のための各種演算を行う部分である。演算部110は、CT画像などから取得した腫瘍14のデータに基づいて、治療のための層の数、操作経路、走査速度などを最適化するための演算を行う。また、演算部110は、最適化した治療計画に対する線量分布を演算する。
【0034】
ここで、腫瘍14は、箇所によって必要とされる荷電粒子線Bの線量が異なる。例えば、腫瘍14の境界付近などは、腫瘍14の中央付近に比べて、必要とされる線量が低い。荷電粒子線Bは、電流値を一定とした状態で走査される。従って、特定の箇所に対する線量は、荷電粒子線Bの走査速度が低いほど、照射時間が長くなることで大きくなる。荷電粒子線Bは、必要な線量が高い箇所に対しては低い走査速度で移動し、必要な線量が低い箇所に対しては高い走査速度で移動する。荷電粒子線Bは、必要な線量が最も低い箇所では最高走査速度で移動する。
【0035】
図7は、演算部110の演算に用いられるウェイトマップである。横軸は重みを示し、縦軸は頻度を示す。重みは、腫瘍14中の各層の走査経路の各箇所において必要とされる単位長さ当たりの線量を示す。頻度は、腫瘍14の各層の走査経路中に、所定の重みの箇所がどの程度の頻度で存在するかを示す。荷電粒子線Bの電流値は、当該ウェイトマップ中の最も低い重みを基準として設定される。最も低い重みの箇所では、荷電粒子線Bの走査速度は最高走査速度となり、重みの高い箇所ほど、荷電粒子線Bの走査速度が低くなる。
【0036】
本実施形態では、演算部110は、ウェイトマップのうち、低い重みの領域を切り落とした(カットオフ)上で、上述のような荷電粒子線Bの電流値の設定、走査速度の設定を行う。すなわち、演算部110は、カットオフ線量値(図中の「CV」)を設定し、当該カットオフ線量値以下の重みについては切り落とす。この場合、演算部110は、図中の「A1」を最も低い重みとみなし、当該「A1」を基準として荷電粒子線Bの電流値を設定する。演算部110は、このようなカットオフ線量値を複数の値に変化させることで、線量分布を演算する際の荷電粒子線Bの電流値として、複数の値を設定することができる。
【0037】
演算部110は、予め定められた複数のカットオフ線量値に対応させて、腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射した場合の線量分布、及び当該照射に要する照射時間を演算する。演算部110は、腫瘍14の各照射箇所において必要とされる線量を示すマップ(例えば
図7に示すマップ)から、カットオフ線量値以下の線量を切り落としたうえで、線量分布を演算する際の荷電粒子線Bの電流値を設定する。
【0038】
例えば、演算部110は、一つの治療計画を取得(ここでは作成)し、当該治療計画に対して複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の線量分布を演算してよい。または、演算部110は、複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の治療計画を取得(ここでは作成)し、それぞれの治療計画に対する線量分布を演算してよい。また、演算部110は、それぞれの線量分布に対し、腫瘍14全体の照射に要する照射時間を演算する。すなわち、演算部110は、カットオフ線量値に基づいて設定された電流値の荷電粒子線Bにより、照射箇所において必要とされる線量に応じて走査速度を変更しながら照射した場合に、層L1の照射開始点から層LNの照射終了点まで至るのに要する時間を演算する。
【0039】
出力部111は、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれのカットオフ線量値に対応する照射時間を表示部101へ出力する。線量分布に基づくデータとして、DVH(Dose Volume Histgram)のグラフ、及びDVHパラメータが挙げられる。
【0040】
DVHは、例えば
図8に示すようなグラフとして示される。当該グラフの横軸は線量を示し、縦軸は対象物の体積全体のうちの横軸の線量以上が投与されている体積の割合を示す。当該グラフから、特定の線量について、対象物の体積の何%が当該線量以上を投与されているかを把握することができる。例えば、
図8のL1は照射対象となる腫瘍14でのDVHを示すグラフであり、L2,L3は他の臓器でのDVHを示すグラフである。腫瘍14については、高い線量において、体積100%近くになることが好ましい。照射対象ではない臓器については、線量を投与されている体積がなるべく低く、線量もなるべく低いことが好ましい。カットオフ線量値が変化すれば、表示部101に表示されるDVHのグラフの形も変化する。これにより、ユーザーは、カットオフ線量値ごとのDVHのグラフを参照することで、所望のカットオフ線量値を選び、入力部102に入力することができる。
【0041】
DVHパラメータとして、「体積が所定の値となる線量」や「所定の線量に対する体積」などを採用してよい。例えば、腫瘍14について体積が95%となる線量をDVHパラメータとして設定した場合、当該DVHパラメータの値は、
図8中のP1に示す値となる。所定の臓器について線量Xに対する体積をDVHパラメータとして設定した場合、当該DVHパラメータの値は、
図8のグラフL2についてはP2に示す値となり、グラフL3についてはP3に示す値となる。カットオフ線量値が変化すれば、表示部101に表示されるDVHパラメータも変化する。これにより、ユーザーは、カットオフ線量値ごとのDVHパラメータを参照することで、所望のカットオフ線量値を選び、入力部に入力することができる。
【0042】
受信部112は、表示部101に表示された内容に基づいてユーザーがカットオフ線量値を選択した場合、選択されたカットオフ線量値を受信する。受信部112は、入力部102で入力されたカットオフ線量値を受信する。また、受信部112は、ユーザーが所望する線量分布に基づくパラメータの入力を受信する。すなわち、ユーザーがカットオフ線量値を自分で判断して決めるのではなく、所望の線量分布が得られるように、前述のDVHパラメータを入力部102に入力してもよい。この場合、受信部112は、入力部102で入力されたDVHパラメータを受信する。
【0043】
カットオフ線量値選択部113は、受信部112が受信したDVHパラメータに最も近いDVHパラメータに対応するカットオフ線量値を自動的に選択する。上述のように、あるカットオフ線量値を設定したら、それに対応する
図8のようなDVHのグラフが描かれる。従って、カットオフ線量値に対応するDVHパラメータが一義的に定まる。演算部110が複数のカットオフ線量値に対応する線量分布の演算を行うことで、複数のDVHパラメータが取得される。従って、カットオフ線量値選択部113は、複数のDVHパラメータの中から、ユーザーが入力したDVHパラメータに最も近いものを特定し、当該DVHパラメータに対応するカットオフ線量値を選択する。
【0044】
電流値設定部114は、受信部112で受信したカットオフ線量値に基づいて、腫瘍14へ荷電粒子線Bを照射する際の当該荷電粒子線Bの電流値を設定する。演算部110が線量分布を演算する時には、カットオフ線量値に対応する荷電粒子線Bの電流値を設定した。従って、電流値設定部114は、線量分布の演算の際に用いた電流値のうち、ユーザーによって選択されたカットオフ線量値に対応するものを、実際の治療における電流値として設定する。なお、カットオフ線量値選択部113が自動的にカットオフ線量値を選択した場合、電流値設定部114は、当該選択に係るカットオフ電流値に対応する電流値を、実際の治療における電流値として設定する。
【0045】
次に、
図5を参照して、本実施形態に係る治療計画システム200による治療計画の手順の一例を示す。
図5に示すように、治療計画装置100は、演算部110にて、治療計画内で最適化の演算を行う(ステップS10)。すなわち、演算部110は、一つの治療計画を作成することによって取得する。次に、治療計画装置100は、演算部110にて、カットオフ線量ごとに、S10で得られた治療計画の線量分布を演算する(ステップS20)。なお、変化させるカットオフ線量値の最大値及び最大値、変化させる間隔などは、予め定められていてよいし、ユーザーにより選択されてもよい。
【0046】
治療計画装置100は、出力部111にて、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれのカットオフ線量値に対応する照射時間を表示部101へ出力する(ステップS30)。ユーザーは、表示部101に表示された情報を参照し、照射精度と照射時間を総合的に判断して、カットオフ線量値を選択し、入力部102に選択したカットオフ線量値を入力する。治療計画装置100は、受信部112にてユーザーが選択したカットオフ線量値を受信することで、当該カットオフ線量値を選択する(ステップS40)。治療計画装置100は、電流値設定部114にて、S40で選択したカットオフ線量値に基づいて、腫瘍14へ荷電粒子線Bを照射する際の当該荷電粒子線Bの電流値を設定する(ステップS50)。その後、治療計画装置100は、制御部7に作成した治療計画のデータを送信する。以上により、
図5に示す処理が終了する。
【0047】
次に、
図6を参照して、本実施形態に係る治療計画システム200による治療計画の他の手順の一例を示す。
図6に示すように、治療計画装置100は、演算部110にて、カットオフ線量値ごとに治療計画内で最適化の演算を行う(ステップS110)。すなわち、演算部110は、複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の治療計画を作成することによって取得する。次に、治療計画装置100は、演算部110にて、S110で得られた治療計画ごとに線量分布を演算する(ステップS120)。
【0048】
治療計画装置100は、出力部111にて、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及び照射時間を表示部101へ出力する(ステップS130)。ユーザーは、所望のDVHパラメータを入力部102にて入力し、治療計画装置100は、受信部112にてユーザーが入力した入力情報を受信する(ステップS140)。治療計画装置100は、受信部112が受信したDVHパラメータに最も近いDVHパラメータに対応するカットオフ線量値を自動的に選択する(S150)。治療計画装置100は、電流値設定部114にて、S150で選択したカットオフ線量値に基づいて、腫瘍14へ荷電粒子線Bを照射する際の当該荷電粒子線Bの電流値を設定する(ステップS160)。その後、治療計画装置100は、制御部7に作成した治療計画のデータを送信する。以上により、
図6に示す処理が終了する。なお、
図6に示すS140,S150の処理を
図5に示すS40の処理と置き換えてもよい。また、
図5に示すS40の処理を
図6に示すS140,S150の処理に置き換えてもよい。
【0049】
次に、本実施形態に係る治療計画システム200の作用・効果について説明する。
【0050】
まず、比較例に係る治療計画システムについて説明する。比較例に係る治療計画システムは、腫瘍14の各照射箇所において必要とされる線量を示すマップ(
図7参照)のうち、最も低い線量(図における「A2」)を基準にして荷電粒子線Bの電流値を設定する。A2の線量は低いため、電流値は低い値に設定される。この場合、必要とされる線量が高い照射箇所へは低い走査速度で照射が行われるため、腫瘍14全体の照射時間が長くなる。
【0051】
これに対し、本実施形態に係る治療計画システム200の演算部110は、腫瘍14の各照射箇所において必要とされる線量を示すマップ(
図7参照)から、カットオフ線量値以下の線量を切り落としたうえで、線量分布を演算する際の荷電粒子線Bの電流値を設定する。すなわち、演算部110は、腫瘍14の各照射箇所において必要とされる線量から、カットオフ線量値以下の線量の照射箇所を切り落としたうえで、線量分布を演算する際の荷電粒子線Bの電流値を設定する。なお、
図7では説明のためにマップからカットオフ線量値以下の線量を切り落としていたが、必ずしもマップを用いる必要はない。この場合、演算部110は、カットオフ線量値よりも高い線量(
図7の「A1」)を基準として電流値を設定することができる。これにより、高い電流値の荷電粒子線で走査を行うことで、全体の照射時間を短縮することができる。また、カットオフ線量以下の線量は、頻度も低いため、切り落とされたとしても全体的な照射精度に対する影響も小さくすることができる。
【0052】
ここで、演算部110は、予め定められた複数のカットオフ線量値に対応させて、腫瘍14に対して荷電粒子線Bを照射した場合の線量分布、及びそれぞれのカットオフ線量値に対応する当該照射に要する照射時間を演算することができる。また、出力部111は、それぞれのカットオフ線量値、それぞれのカットオフ線量値に対応する線量分布に基づくデータ、及びそれぞれのカットオフ線量値に対応する照射時間を表示部101へ出力することができる。従って、ユーザーは、表示部101を参照することで、照射精度と照射時間のバランスを見ながら、適切なカットオフ線量値を選ぶことが可能となる。以上により、荷電粒子線Bの照射時間を短縮することができる。
【0053】
治療計画システム200は、表示部101に表示された内容に基づいてユーザーがカットオフ線量値を選択した場合、選択されたカットオフ線量値を受信する受信部112と、受信部112で受信したカットオフ線量値に基づいて、腫瘍14へ荷電粒子線Bを照射する際の当該荷電粒子線Bの電流値を設定する電流値設定部114と、を備えてよい。この場合、ユーザーの選択に基づいて設定されたカットオフ線量値に基づいた電流値の荷電粒子線Bにて治療を行うことが可能となる。
【0054】
治療計画システム200は、ユーザーが所望する線量分布に基づくパラメータの入力を受信する受信部112と、受信部112が受信したDVHパラメータに最も近いDVHパラメータに対応するカットオフ線量値を自動的に選択するカットオフ線量値選択部113と、を備える。この場合、ユーザーが所望するDVHパラメータに基づいたカットオフ線量値にて治療を行うことが可能となる。
【0055】
治療計画システム200において、演算部110は、一つの治療計画を取得し、当該治療計画に対して複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の線量分布を演算してよい。この場合、治療計画の最適化演算が一回で済むため、演算時間を短くすることができる。また、治療計画の最適化演算が一回で済むため、演算部110の外部(治療計画装置100以外の治療計画装置)で治療計画の最適化演算を行うことも可能となる。
【0056】
治療計画システム200において、演算部110は、複数のカットオフ線量値を採用した場合の複数の治療計画を取得し、それぞれの治療計画に対する線量分布を演算してよい。この場合、演算部110が各カットオフ線量値に対して治療計画の最適化を行うため、線量分布の乱れを抑制し易くなる。
【0057】
本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0058】
例えば、上述の実施形態では、治療計画システム200は、腫瘍14の全域に対して荷電粒子線Bの電流値を一定として照射する治療計画を作成したが、電流値が変化する箇所が存在していてもよい。
【0059】
なお、治療計画装置100の演算部110は、複数の処理装置の組み合わせによって構成されてもよく、治療計画内での最適化の演算(治療計画の作成)を行う処理装置と、カットオフ線量値に関わる演算を行う処理装置とが別れていてもよい。
【符号の説明】
【0060】
14…腫瘍(被照射体)、101…表示部、110…演算部、111…出力部、112…受信部(カットオフ線量値受信部、入力情報受信部)、113…カットオフ線量値選択部、114…電流値設定部、200…治療計画システム。