(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】被覆工具及びこれを備えた切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20221027BHJP
B23C 5/16 20060101ALI20221027BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B23B27/14 A
B23C5/16
C23C14/14 G
(21)【出願番号】P 2019020822
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104318
【氏名又は名称】深井 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100182796
【氏名又は名称】津島 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100181308
【氏名又は名称】早稲田 茂之
(72)【発明者】
【氏名】井上 博登
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-106108(JP,A)
【文献】特開2007-002332(JP,A)
【文献】特開2008-162009(JP,A)
【文献】特開2014-079834(JP,A)
【文献】特開2017-042906(JP,A)
【文献】特開2018-039045(JP,A)
【文献】特開2019-025591(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0125678(US,A1)
【文献】国際公開第2018/100849(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/221355(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/103533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
C23C 14/06
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の上に位置する被覆層と、を備え、
該被覆層は、アルミニウム及びチタンを主成分として含有するAlTi層と、アルミニウム及びクロムを主成分として含有するAlCr層と、をそれぞれ複数有し、前記AlTi層及び前記AlCr層が交互に位置し、
複数の前記AlCr層は、それぞれチタンを更に含有し、
前記AlTi層において、アルミニウムの含有比率が40~70原子%、チタンの含有比率が25~55原子%であって、
前記AlCr層において、アルミニウムの含有比率が30~70原子%、クロムの含有比率が30~70原子%、チタンの含有比率が0.1~25原子%であって、
前記被覆層は、
前記基体から離れるほどに前記AlCr層におけるチタンの含有比率が減少する第1領域と、
該第1領域よりも前記基体から離れて位置しており、前記AlCr層におけるチタンの含有比率が一定である第2領域と、を更に有していることを特徴とする被覆工具。
【請求項2】
前記第1領域における複数の前記AlCr層のチタンの含有比率の減少は、単調減少であることを特徴とする請求項1に記載の被覆工具。
【請求項3】
前記第2領域における複数の前記AlCr層のそれぞれのチタンの含有比率は、前記第1領域における最も前記基体から離れて位置する前記AlCr層のチタンの含有比率以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の被覆工具。
【請求項4】
前記被覆層は、前記第1領域よりも前記基体の近くに位置する第3領域を更に有しており、
該第3領域における前記AlCr層のチタンの含有比率は、前記第1領域における最も前記基体から離れて位置する前記AlCr層のチタンの含有比率よりも低いことを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の被覆工具。
【請求項5】
先端側にポケットを有するホルダと、
前記ポケットに位置する請求項1~4のいずれか1つに記載の被覆工具と、を備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削加工において用いられる被覆工具に関する。
【背景技術】
【0002】
旋削加工及び転削加工のような切削加工に用いられる被覆工具としては、例えば特許文献1に記載の表面被覆切削工具(被覆工具)が知られている。特許文献1に記載の被覆工具は、工具基体と、(Ti1-zAlz)Nで表わされるA層及び(Cr1-x-yAlxMy)Nで表わされるB層が工具基体の表面において交互に積層されてなる硬質被覆層とを備えている。
【0003】
また、特許文献2には、耐摩耗性被膜を備え、基材を含んでなる切削工具(被覆工具)が記載されている。特許文献2に記載の被覆工具では、被膜が、非繰り返し形態の交互の層の層状多層構造を含んでなる。そして、多層構造は、以下の組み合わせ、(Al、Ti、Si)N+(Ti、Si)N、(Ti、Si)N+(Al、Ti)N、(Al、Cr)N+(Ti、Si)N及び(Al、Ti、Si)N+(Al、Cr)Nのいずれかである。
【0004】
特許文献3には、基材と、基材の表面を被覆する被膜とを備える表面被覆切削工具(被覆工具)が記載されている。特許文献3に記載の被覆工具では、被膜が、A層と、A層と組成の異なるB層とが基材側から表面側に向かって交互に積層された超多層構造層を含む。そして、A層及びB層は、Ti、Al、Cr、Si、Ta、Nb及びWからなる群より選ばれる1種以上の元素と、C及びNからなる群より選ばれる1種以上の元素とからなる組成を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-042906号公報
【文献】特開2008-162009号公報
【文献】国際公開第2018/100849号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示の課題の1つは、耐久性に優れた被覆工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様に基づく被覆工具は、基体と、該基体の上に位置する被覆層と、を備えている。該被覆層は、アルミニウム及びチタンを主成分として含有するAlTi層と、アルミニウム及びクロムを主成分として含有するAlCr層と、をそれぞれ複数有し、前記AlTi層及び前記AlCr層が交互に位置している。複数の前記AlCr層は、それぞれチタンを更に含有している。そして、前記被覆層は、前記基体から離れるほどに前記AlCr層におけるチタンの含有比率が減少する第1領域と、該第1領域よりも前記基体から離れて位置しており、前記AlCr層におけるチタンの含有比率が一定である第2領域と、を更に有している。
【発明の効果】
【0008】
上記態様の被覆工具によれば、耐久性に優れることから、長期に渡り安定した切削加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】
図1に示す被覆工具におけるA-A断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<被覆工具>
以下、実施形態の被覆工具について、図面を用いて詳細に説明する。但し、以下で参照する各図は、説明の便宜上、実施形態を説明する上で必要な主要部材のみを簡略化して示したものである。したがって、被覆工具は、参照する各図に示されていない任意の構成部材を備え得る。また、各図中の部材の寸法は、実際の構成部材の寸法及び各部材の寸法比率などを忠実に表したものではない。これらの点は、後述する切削工具においても同様である。
【0011】
図1に示す一例における被覆工具1は、四角板形状であって、四角形の第1面3(
図1における上面)と、第2面5(
図1における側面)と、第1面3及び第2面5が交わる稜線の少なくとも一部に位置する切刃7と、を有している。また、
図1に示す一例における被覆工具1は、四角形の第3面8(
図1における下面)を更に有している。
【0012】
図1に示す一例における被覆工具1においては、第1面3の外周の全体が切刃7であってもよいが、被覆工具1はこのような構成に限定されない。例えば、四角形の第1面3における一辺のみ、若しくは、部分的に切刃7を有していてもよい。
【0013】
第1面3は、少なくとも一部にすくい面領域3aを有していてもよい。
図1に示す一例においては、第1面3における切刃7に沿った領域がすくい面領域3aである。第2面5は、少なくとも一部に逃げ面領域5aを有していてもよい。
図1に示す一例においては、第2面5における切刃7に沿った領域が逃げ面領域5aである。そのため、
図1に示す一例においては、すくい面領域3a及び逃げ面領域5aが交わる部分に切刃7が位置していると言い換えてもよい。
【0014】
図1では、第1面3におけるすくい面領域3a及びそれ以外の領域の境界と、第2面5における逃げ面領域5a及びそれ以外の領域の境界とを一点鎖線で示している。
図1においては、第1面3及び第2面5が交わる稜線の全てが切刃7である例が示されているため、第1面3において切刃7に沿った環状の一点鎖線が示されている。
【0015】
被覆工具1の大きさは特に限定されない。
図1に示す一例においては、第1面3の一辺の長さが3~20mm程度に設定できる。また、第1面3から第1面3の反対側に位置する第3面8までの高さは5~20mm程度に設定できる。
【0016】
図1及び
図2に示す一例のように、被覆工具1は、四角板形状の基体9と、この基体9の表面を被覆する被覆層11と、を備えている。被覆層11は、基体9の表面の全体を覆っていてもよく、また、一部のみを覆っていてもよい。被覆層11が基体9の一部のみを被覆しているときには、被覆層11は、基体9の上の少なくとも一部に位置しているとも言うことができる。
【0017】
図1に示す一例における被覆層11は、少なくとも、第1面3における切刃7に沿ったすくい面領域3a及び第2面5における切刃7に沿った逃げ面領域5aに存在している。
図1においては、すくい面領域3aを含む第1面3の全体、及び、逃げ面領域5aを含む第2面5の全体に被覆層11が存在する例が示されている。被覆層11の厚みは、例えば、0.1~10μm程度に設定できる。なお、被覆層11の全体としての厚みは、一定であってもよく、また、場所によって異なっていてもよい。
【0018】
図3に示す一例においては、被覆層11は、アルミニウム(Al)及びチタン(Ti)を主成分として含有するAlTi層13と、アルミニウム及びクロム(Cr)を主成分として含有するAlCr層15と、をそれぞれ複数有している。
図3に示す一例における被覆層11では、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15が交互に位置している。言い換えれば、
図3に示す一例における被覆層11は、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15が交互に積層された構成となっている。被覆層11の積層構造は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)又は透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)などを用いた断面測定によって評価することが可能である。
【0019】
AlTi層13は、アルミニウム及びチタンのみによって構成されていてもよいが、アルミニウム及びチタンに加えて、Si、Nb、Hf、V、Ta、Mo、Zr、Cr及びWなどの金属成分を含有していてもよい。但し、AlTi層13では、上記の金属成分と比較してアルミニウム及びチタンのそれぞれの含有比率の合計が高い。アルミニウムの含有比率は、例えば、40~70%に設定できる。また、チタンの含有比率は、例えば、25~55%に設定できる。なお、上記における「含有比率」とは、原子比での含有比率を示している。
【0020】
複数のAlTi層13のそれぞれにおいて、アルミニウムの含有比率がチタンの含有比率よりも高くてもよく、また、複数のAlTi層13のそれぞれにおいて、チタンの含有比率がアルミニウムの含有比率よりも高くてもよい。
【0021】
AlTi層13は、アルミニウム及びチタンを含む金属成分のみによって構成されていてもよいが、アルミニウム及びチタンは、単独又はいずれをもを含む、窒化物、炭化物又は炭窒化物であってもよい。
【0022】
AlCr層15は、アルミニウム及びクロムに加えて、チタンを更に含有する。また、AlCr層15は、Nb、Hf、V、Ta、Mo、Zr及びWなどの金属成分を含有していてもよい。但し、AlCr層15では、チタン及び上記の金属成分と比較してアルミニウム及びクロムのそれぞれの含有比率の合計が高い。
【0023】
アルミニウムの含有比率は、例えば、30~70%に設定できる。また、クロムの含有比率は、例えば、30~70%に設定できる。複数のAlCr層15のそれぞれにおいて、アルミニウムの含有比率がクロムの含有比率よりも高くてもよく、また、複数のAlCr層15のそれぞれにおいて、クロムの含有比率がアルミニウムの含有比率よりも高くてもよい。
【0024】
また、複数のAlCr層15はいずれも、アルミニウム及びクロムのそれぞれの含有比率の合計よりも少ない比率でチタンを含有しているが、チタンの含有比率は、例えば、0.1~25%に設定できる。
【0025】
AlCr層15は、アルミニウム、クロム及びチタンを含む金属成分のみによって構成されていてもよいが、アルミニウム、クロム及びチタンは、単独又はこれらを複数含む、窒化物、炭化物又は炭窒化物であってもよい。
【0026】
AlTi層13及びAlCr層15の組成は、例えば、エネルギー分散型X線分光分析法(EDS)又はX線光電子分光分析法(XPS)などによって測定することが可能である。
【0027】
図3に示す一例においては、被覆層11がAlTi層13を有していることから、被覆層11の耐欠損性が高い。また、被覆層11がAlCr層15を有していることから、被覆層11の耐摩耗性が高い。被覆層11は、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15が交互に位置する構成となっていることから、被覆層11の全体としての強度が高い。
【0028】
なお、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15のそれぞれの厚みが厚く、且つ、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15の数が少ない場合よりも、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15のそれぞれの厚みが薄く、且つ、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15の数が多い場合の方が、被覆層11の全体としての強度が高い。
【0029】
AlTi層13及びAlCr層15の数は、特定の値に限定されない。AlTi層13及びAlCr層15の数は、それぞれ6つ以上であればよいが、例えば、6~500に設定できる。
【0030】
AlTi層13及びAlCr層15の厚みは、特定の値に限定されないが、例えば、それぞれ5nm~100nmに設定できる。なお、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15のそれぞれの厚みは、一定であってもよく、また、互いに異なっていてもよい。
【0031】
ここで、
図4に示す一例における被覆層11は、基体9から離れるほどにAlCr層15におけるチタンの含有比率が減少する第1領域17と、第1領域17よりも基体9から離れて位置しており、AlCr層15におけるチタンの含有比率が一定である第2領域19と、を更に有している。
【0032】
図4に示す一例においては、第1領域17は、AlCr層15として、第1AlCr層15a、第2AlCr層15b及び第3AlCr層15cを基体9の側から順に有している。また、第2領域19は、AlCr層15として、第4AlCr層15d、第5AlCr層15e、第6AlCr層15f及び第7AlCr層15gを基体9の側から順に有している。そして、第1領域17においては、第2AlCr層15bにおけるチタンの含有比率が第1AlCr層15aにおけるチタンの含有比率よりも低く、第3AlCr層15cにおけるチタンの含有比率が第2AlCr層15bにおけるチタンの含有比率よりも低い。また、第2領域19においては、第4AlCr層15d、第5AlCr層15e、第6AlCr層15f及び第7AlCr層15gにおけるそれぞれのチタンの含有比率が、一定である。
【0033】
このような第1領域17及び第2領域19を有する被覆層11を備えた被覆工具1は、耐久性に優れる。具体的には、被覆層11が、基体9から離れるほどにAlCr層15におけるチタンの含有比率が低くなる第1領域17を有しているため、第1領域17においては、基体9から離れるにつれてアルミニウムの含有比率が高くなる。したがって、第1領域17は、基体9から離れるほど高い耐熱性、高い耐溶着性及び高い耐酸化性を有する。また、AlCr層15の基体9に近い領域では相対的にチタンの含有比率が高い。そのため、AlCr層15は、基体9に近い領域において高い密着性を有する。
【0034】
また、被覆層11が、第1領域17よりも基体9から離れて位置しており、AlCr層15におけるチタンの含有比率が一定である第2領域19を有していることから、被覆層11の表層領域において、切削加工時の負荷を均一に分散させ易い。そのため、被覆層11は、切削加工の負荷による変形が生じにくい。したがって、被覆層11は高い安定性を有する。上記のように、被覆層11は高い耐熱性、高い耐溶着性、高い耐酸化性、高い密着性及び高い安定性を有するため、被覆層11は高い耐久性を有する。
【0035】
第1領域17において、基体9から離れるほどにAlCr層15におけるチタンの含有比率が減少するとは、被覆層11の厚み方向aにおける第1領域17の幅W1の全てに渡ってAlCr層15におけるチタンの含有比率が減少している構成に限らず、AlCr層15におけるチタンの含有比率が変化しない部分があってもよいことを含む概念である。言い換えれば、第1領域17には、AlCr層15におけるチタンの含有比率が一定の部分があってもよく、また、AlCr層15におけるチタンの含有比率が一定の割合で減少していない部分があってもよい。更に、第1領域17におけるAlCr層15のチタンの含有比率は、段階的に減少していてもよい。なお、被覆層11の厚み方向aは、被覆層11におけるAlTi層13及びAlCr層15の積層方向と言い換えてもよい。
【0036】
第2領域19におけるAlCr層15のチタンの含有比率が一定であるとは、被覆層11の厚み方向aにおける第2領域19の幅W2の全てに渡ってAlCr層15におけるチタンの含有比率が厳密に一定であることに限らない。すなわち、第2領域19におけるAlCr層15のチタンの含有比率は、実質的に一定であればよく、例えば、第2領域19における複数のAlCr層15のそれぞれのチタンの含有比率に±20%の差があっても構わない。
【0037】
第1領域17における複数のAlCr層15のチタンの含有比率の減少は、単調減少であってもよい。
図4に示す一例においては、第1AlCr層15a、第2AlCr層15b及び第3AlCr層15cの順に、チタンの含有比率が単調に減少している。このような構成を満たすときは、基体9から離れる方向においてクロムの含有比率が単調増加している。したがって、第1領域17は、基体9から離れる方向において硬度が急に低下する部分を有しにくい。そのため、被覆層11は高い耐久性を有する。
【0038】
第2領域19における複数のAlCr層15のそれぞれのチタンの含有比率は、第1領域17における最も基体9から離れて位置するAlCr層15のチタンの含有比率以下であってもよい。第1領域17における最も基体9から離れて位置するAlCr層15は、第1領域17における複数のAlCr層15のうち最もチタンの含有比率が低い。
図4に示す一例においては、第2領域19における第4AlCr層15d、第5AlCr層15e、第6AlCr層15f及び第7AlCr層15gのそれぞれのチタンの含有比率は、第1領域17における最も基体9から離れて位置する第3AlCr層15cのチタンの含有比率以下である。このような構成を満たすときは、被覆層11の表層領域において、AlCr層15のアルミニウムの含有比率が相対的に高い。そのため、被覆層11は表層領域において高い耐熱性、高い耐溶着性及び高い耐酸化性を有する。
【0039】
図4に示す一例のように、第2領域19は、被覆層11のうち最も基体9から離れて位置する領域であってもよい。言い換えれば、第2領域19は、被覆層11の表面(第1面3)を含んでいてもよい。なお、第2領域19は、最も基体9から離れて位置する領域に限定されず、例えば、第2領域19の上に他の層又は他の領域が位置していてもよい。
【0040】
図4に示す一例のように、被覆層11の厚み方向aにおける第2領域19の幅W2は、被覆層11の厚み方向aにおける第1領域17の幅W1よりも大きくてもよい。このような構成を満たすときは、被覆層11は高い耐熱性、高い耐溶着性及び高い耐酸化性を有する。具体的には、アルミニウムの含有比率が高い第2領域19の幅W2が大きいため、被覆層11が全体として高い耐熱性、高い耐溶着性及び高い耐酸化性を有する。
【0041】
第1領域17及び第2領域19は、互いに接していてもよく、また、両者の間に他の層又は他の領域が位置していてもよい。
図4に示す一例においては、第1領域17及び第2領域19は、互いに接している。
【0042】
なお、第1領域17におけるAlCr層15の数は、3つ以上であればよいが、例えば、3~100に設定できる。第2領域19におけるAlCr層15の数は、3つ以上であればよいが、例えば、3~100に設定できる。
【0043】
図4に示す一例のように、被覆層11は、第1領域17よりも基体9の近くに位置する第3領域21を更に有していてもよい。そして、第3領域21におけるAlCr層15のチタンの含有比率は、第1領域17における最も基体9から離れて位置するAlCr層15のチタンの含有比率よりも低くてもよい。
図4に示す一例においては、第3領域21は、AlCr層15として第8AlCr層15hを有している。そして、第3領域21における第8AlCr層15hのチタンの含有比率は、第1領域17における最も基体9から離れて位置する第3AlCr層15cのチタンの含有比率よりも低い。これらの構成を満たすときは、第1領域17の基体9に近い位置においては密着性が高いが、相対的に耐衝撃性が低い。しかしながら、第8AlCr層15hにおけるチタンの含有比率が相対的に低いため、クロムの含有比率が相対的に高い。そのため、被覆工具1は、基体9と被覆層11との接合部分において高い耐衝撃性を有する。したがって、被覆工具1は、高い耐衝撃性と高い密着性を有する。
【0044】
なお、第3領域21におけるAlCr層15の数は、1つ以上であればよいが、例えば、1~3に設定できる。
【0045】
図4に示す一例のように、被覆層11の厚み方向aにおける第3領域21の幅W3は、被覆層11の厚み方向aにおける第1領域17の幅W1よりも小さくてもよい。このような構成を満たすときは、耐衝撃性が高い領域が過剰になりにくい。そのため、基体9と被覆層11との密着性が確保されやすい。その結果、耐衝撃性と密着性のバランスが保たれる。したがって、被覆工具1は、高い耐衝撃性と高い接合性を有する。
【0046】
第1領域17及び第3領域21は、互いに接していてもよく、また、両者の間に他の層又は他の領域が位置していてもよい。
図4に示す一例においては、第1領域17及び第3領域21は、互いに接している。
【0047】
第3領域21及び基体9は、互いに接していてもよく、また、両者の間に他の層又は他の領域が位置していてもよい。
図4に示す一例においては、第3領域21及び基体9は、互いに接している。
【0048】
なお、
図4に示す一例においては、第1領域17は、AlTi層13として、第1AlTi層13a、第2AlTi層13b及び第3AlTi層13cを基体9の側から順に有している。また、第2領域19は、AlTi層13として、第4AlTi層13d、第5AlTi層13e及び第6AlTi層13fを基体9の側から順に有している。第3領域21は、AlTi層13として第7AlTi層13gを有している。
【0049】
図1に示す一例における被覆工具1は、四角板形状であるが、被覆工具1の形状としてはこのような形状に限定されない。例えば、第1面3及び第3面8が四角形ではなく、三角形、六角形又は円形などであっても何ら問題ない。
【0050】
図1に示す一例における被覆工具1は、貫通孔23を有している。
図1に示す一例における貫通孔23は、第1面3から第1面3の反対側に位置する第3面8にかけて形成されており、これらの面において開口している。貫通孔23は、被覆工具1をホルダに保持する際に、ネジ又はクランプ部材などを取り付けるために用いることが可能である。なお、貫通孔23は、第2面5における互いに反対側に位置する領域において開口する構成であっても何ら問題ない。
【0051】
基体9の材質としては、例えば、超硬合金、サーメット及びセラミックスなどの無機材料が挙げられる。超硬合金の組成としては、例えば、WC(炭化タングステン)-Co、WC-TiC(炭化チタン)-Co及びWC-TiC-TaC(炭化タンタル)-Coなどが挙げられる。ここで、WC、TiC及びTaCは硬質粒子であり、Coは結合相である。また、サーメットは、セラミック成分に金属を複合させた焼結複合材料である。具体的には、サーメットとして、TiC又はTiN(窒化チタン)を主成分とした化合物などが挙げられる。なお、基体9の材質としては、これらに限定されない。
【0052】
被覆層11は、例えば、物理蒸着(PVD)法などを用いることによって、基体9の上に位置させることが可能である。例えば、貫通孔23の内周面で基体9を保持した状態で上記の蒸着法を利用して被覆層11を形成する場合には、貫通孔23の内周面を除く基体9の表面の全体を覆うように被覆層11を位置させることができる。
【0053】
物理蒸着法としては、例えば、イオンプレーティング法及びスパッタリング法などが挙げられる。一例として、イオンプレーティング法で作製する場合には、下記の方法によって被覆層11を作製することができる。
【0054】
第1の手順として、アルミニウム及びチタンをそれぞれ独立に含有する金属ターゲット、複合化した合金ターゲット又は焼結体ターゲットを準備する。金属源である上記のターゲットをアーク放電又はグロー放電などによって蒸発させてイオン化する。イオン化したターゲットを、窒素源の窒素(N2)ガス、炭素源のメタン(CH4)ガス又はアセチレン(C2H2)ガスなどと反応させるとともに、基体9の表面に蒸着させる。以上の手順によってAlTi層13を形成することが可能である。
【0055】
第2の手順として、アルミニウム、クロム及びチタンをそれぞれ独立に含有する金属ターゲット、複合化した合金ターゲット又は焼結体ターゲットを準備する。金属源である上記のターゲットをアーク放電又はグロー放電などによって蒸発させてイオン化する。イオン化したターゲットを、窒素源の窒素(N2)ガス、炭素源のメタン(CH4)ガス又はアセチレン(C2H2)ガスなどと反応させるとともに、基体9の表面に蒸着させる。以上の手順によってAlCr層15を形成することが可能である。
【0056】
上記の第1の手順及び第2の手順を交互に繰り返すことによって、複数のAlTi層13及び複数のAlCr層15が交互に位置する構成の被覆層11を形成することが可能である。なお、まず第2の手順を行った後に第1の手順を行っても何ら問題ない。
【0057】
ここで、第2の手順を繰り返す際に、途中でチタンの比率が低くなるようにチタンの比率を変化させ、その後、チタンの比率を一定にすることによって、第1領域17及び第2領域19を有する被覆層11を作製することが可能である。また、第2の手順を繰り返す際に、第1領域17よりも基体9の近くに第3領域21が存在するようにチタンの比率を変化させれば、第1領域17及び第2領域19に加えて第3領域21を更に有する被覆層11を作製することが可能である。
【0058】
具体的には、チタンの含有比率は、アーク放電・グロー放電時の電圧・電流値を制御することによって調整される。また、チタンの含有比率は、被覆時間や雰囲気ガス圧の制御によって調整される。実施形態の一例においては、アルミニウム及びチタンをそれぞれ独立に含有する金属ターゲット、複合化した合金ターゲット又は焼結体ターゲットをイオン化させる際のグロー放電時の電圧・電流値を下げることにより、チタン金属のイオン化量を低減させ、AlCr層15のチタンの含有比率を低減させた。なお、チタンの含有比率の調整方法としては、これらに限定されるものではない。
【0059】
<切削工具>
次に、実施形態の切削工具について、上記の被覆工具1を備える場合を例に挙げて、
図5及び
図6を参照して詳細に説明する。
【0060】
図5に示す一例における切削工具101は、第1端(
図5における上端)から第2端(
図5における下端)に向かって延びる棒状体である。
図6に示す一例のように、切削工具101は、第1端の側(先端側)にポケット103を有するホルダ105と、ポケット103に位置する被覆工具1と、を備えている。切削工具101は、被覆工具1を備えているため、長期に渡り安定した切削加工を行うことができる。
【0061】
ポケット103は、被覆工具1が装着される部分であり、ホルダ105の下面に対して平行な着座面と、着座面に対して傾斜する拘束側面と、を有している。また、ポケット103は、ホルダ105の第1端の側において開口している。
【0062】
ポケット103には被覆工具1が位置している。このとき、被覆工具1の第3面8がポケット103に直接に接していてもよく、また、被覆工具1とポケット103との間にシートが挟まれていてもよい。
【0063】
被覆工具1は、第1面3及び第2面5が交わる稜線における切刃7として用いられる部分の少なくとも一部がホルダ105から外方に突出するようにホルダ105に装着される。
図6に示す一例においては、被覆工具1は、固定ネジ107によって、ホルダ105に装着されている。すなわち、被覆工具1の貫通孔23に固定ネジ107を挿入し、この固定ネジ107の先端をポケット103に形成されたネジ孔に挿入してネジ部同士を螺合させることによって、被覆工具1がホルダ105に装着されている。
【0064】
ホルダ105の材質としては、鋼、鋳鉄などを用いることができる。これらの部材の中で靱性の高い鋼を用いてもよい。
【0065】
図5に示す一例においては、いわゆる旋削加工に用いられる切削工具を例示している。旋削加工としては、例えば、内径加工、外径加工及び溝入れ加工などが挙げられる。なお、切削工具としては旋削加工に用いられるものに限定されない。例えば、転削加工に用いられる切削工具に被覆工具1を用いてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1・・・被覆工具
3・・・第1面
3a・・・すくい面領域
5・・・第2面
5a・・・逃げ面領域
7・・・切刃
8・・・第3面
9・・・基体
11・・・被覆層
13・・・AlTi層
13a・・・第1AlTi層
13b・・・第2AlTi層
13c・・・第3AlTi層
13d・・・第4AlTi層
13e・・・第5AlTi層
13f・・・第6AlTi層
13g・・・第7AlTi層
15・・・AlCr層
15a・・・第1AlCr層
15b・・・第2AlCr層
15c・・・第3AlCr層
15d・・・第4AlCr層
15e・・・第5AlCr層
15f・・・第6AlCr層
15g・・・第7AlCr層
15h・・・第8AlCr層
17・・・第1領域
19・・・第2領域
21・・・第3領域
23・・・貫通孔
101・・・切削工具
103・・・ポケット
105・・・ホルダ
107・・・固定ネジ