IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 千住スプリンクラー株式会社の特許一覧 ▶ 能美防災株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スプリンクラヘッド 図1
  • 特許-スプリンクラヘッド 図2
  • 特許-スプリンクラヘッド 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】スプリンクラヘッド
(51)【国際特許分類】
   A62C 37/12 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A62C37/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019054275
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020151298
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000199186
【氏名又は名称】千住スプリンクラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000233826
【氏名又は名称】能美防災株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正勝
(72)【発明者】
【氏名】立石 豊
(72)【発明者】
【氏名】村上 匡史
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 祐貴
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-100310(JP,A)
【文献】特開2011-152331(JP,A)
【文献】特開2014-113173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 2/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放水口を有するヘッド本体と、前記放水口を閉鎖する弁体と、該弁体を支持すると共に火災の熱によって分解して前記弁体を開放する感熱分解部とを有し、該感熱分解部は、先端側にフランジ部を有する円筒状のプランジャーと、該プランジャーのフランジ部に配設された感熱体と、該感熱体に接するように設けられた感熱板と、該感熱板に当接して前記プランジャーの外周を囲むように配設された断熱材と、中心に軸穴を有するリング状に形成され、一端が前記断熱材に当接すると共に前記プランジャーが前記軸穴に挿通されることで、前記プランジャーを中心軸として軸方向に移動可能に配設されたバランサーとを備え、
前記プランジャーにおける前記断熱材の高さ方向1/2の位置より基端側の外周面に、該基端側が薄肉となる段部が形成され、該段部によって縮径した外周面が少なくとも前記バランサーが配置されている部位については同径のまま連続又は縮径しており、前記プランジャーに外力が作用した際に前記段部よりも基端側に変形が誘発されるようにしたことを特徴とするスプリンクラヘッド。
【請求項2】
前記バランサーの軸穴における前記プランジャーの段部の近傍が、穴径が拡大された拡大軸穴部となっていることを特徴とする請求項1記載のスプリンクラヘッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消火用のスプリンクラヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
スプリンクラヘッドは、内部にノズルを有する本体が、充水された消火設備配管と接続されており、火災が発生したときに火災の熱を感知して自動的に作動し、水を散布して消火を行うものである。
【0003】
スプリンクラヘッドには、常時はノズルを閉止する弁体を保持し、火災時には火災の熱により分解してスプリンクラヘッドの弁体を開放する感熱分解部が設けられている。感熱分解部の構成部品のなかで熱を感知する感熱体には融点が低い低融点合金が使用され、火災の熱により低融点合金が溶融することで感熱分解部が分解作動して、ノズルから消火水が外部に放出される。
【0004】
このようなスプリンクラヘッドの一例として、特許文献1には、「中空状であり内部がノズルとなっている本体と、ノズルの出口を閉塞している弁体と、弁体を保持しており火災時には火災の熱により分解してスプリンクラヘッドの弁体を開放する感熱分解部が本体に係止されており、感熱分解部には、開口部が下向きに配置され底面に穴を有する有底円筒形状のシリンダーと、シリンダーの内部に収容されたリング状の低融点合金と、低融点合金およびシリンダー底面の穴に挿通される筒部を有しており、筒部の一端にはシリンダー内に収容された低融点合金に接するフランジ部が形成されたプランジャーから成り、シリンダー底面の穴から外部に突出したプランジャーの筒部の外周部に設けられた溝の部分の厚さがシリンダー内部に配置されたプランジャーの筒部の厚さよりも薄い薄肉部となっていることを特徴とするスプリンクラヘッド。」(特許文献1の請求項1参照)が開示されている。
【0005】
そして、特許文献1においては、薄肉部を形成したことにより、薄肉部の断熱性が向上してプランジャーの上部に熱を伝えにくくなり、これによりプランジャーの下部と接している低融点合金に熱を伝播してその溶融を促進することができるとしている。また、プランジャーに薄肉部を形成したことにより、スプリンクラヘッドが外力による衝撃を受けた際に薄肉部が変形する可能性があるが、薄肉部の変形がプランジャーの筒部の外周面より突出しない程度とすれば薄肉部の変形による感熱分解部の構成品との摺動動作に支障をきたすことがないとしている(特許文献1の段落[0011]、[0012]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許6049063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示のものは、プランジャーに形成する薄肉部が溝であり、かつこの溝が断熱材と対向する位置に設けているため、下記のような課題が残されていた。
スプリンクラヘッドに外力が作用すると、かかる外力はプランジャーのみならず樹脂製の断熱材にも影響を与え、断熱材が変形することがある。断熱材とプランジャーの外周に形成した溝との間には空間があり、この空間に断熱材が変形し作動に至るまでの半田変形量以下で、断熱材の食い込み部分が溝の下側の壁に当たることや、変形した断熱材と変形した薄肉部の噛み合いにより、スプリンクラヘッドの開放時おいて断熱材が下動する動作を阻害する可能性がある。
【0008】
また、溝よりも上方が厚肉であり熱容量が大きいため、断熱効果として十分とは言えない。さらに、仮に断熱材が変形せずにプランジャーの溝のみが変形したとしても、外力による溝の変形量がプランジャーの外周径を超えると、変形した部分が断熱材に食い込むことで作動に悪影響があり、許容できる変形量が限定される。換言すれば、あまり強い外力が作用した場合には対応できないという課題もある。
【0009】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、感度を良好に保ちつつ、スプリンクラヘッドに外力が作用して、断熱材が変形したとしても作動に支障がでることがなく、また大きな外力を受けて変形量が大きい場合にも作動に支障がでることのないスプリンクラヘッドを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係るスプリンクラヘッドは、放水口を有するヘッド本体と、前記放水口を閉鎖する弁体と、該弁体を支持すると共に火災の熱によって分解して前記弁体を開放する感熱分解部とを有し、該感熱分解部は、先端側にフランジ部を有する円筒状のプランジャーと、該プランジャーのフランジ部に配設された感熱体と、該感熱体に接するように設けられた感熱板と、該感熱板に当接して前記プランジャーの外周を囲むように配設された断熱材と、中心に軸穴を有するリング状に形成され、一端が前記断熱材に当接すると共に前記プランジャーが前記軸穴に挿通されることで、前記プランジャーを中心軸として軸方向に移動可能に配設されたバランサーとを備え、
前記プランジャーにおける前記断熱材の高さ方向1/2の位置より基端側の外周面に、該基端側が薄肉となる段部が形成され、該段部によって縮径した外周面が少なくとも前記バランサーが配置されている部位については同径のまま連続又は縮径しており、前記プランジャーに外力が作用した際に前記段部よりも基端側に変形が誘発されるようにしたことを特徴とするものである。
【0011】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記バランサーの軸穴における前記プランジャーの段部の近傍が、穴径が拡大された拡大軸穴部となっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、プランジャーにおける断熱材の高さ方向1/2の位置より基端側の外周面に、該基端側が薄肉となる段部が形成され、該段部によって縮径した外周面が少なくともバランサーが配置されている部位については同径のまま連続又は縮径しており、プランジャーに外力が作用した際に前記段部よりも基端側に変形が誘発されるようにしたので、段部よりも基端側の薄肉の部分が熱抵抗となり感熱体の溶融を促進できると共に、断熱材の変形よって断熱材が下方に移動する障害となることがない。
したがって、本発明のスプリンクラヘッドは、感度を良好に保ちつつ、外力の作用に対しても作動に支障をきたすことのない耐外力性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施の形態に係るスプリンクラヘッドの断面図である。
図2図1に示したスプリンクラヘッドにおいてプランジャー及びその周囲の形状を説明する図である。
図3】外力が作用した場合におけるプランジャーの変形の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施の形態に係るスプリンクラヘッド1は、図1図2に示すように、本体フランジ部3を有するヘッド本体5の中央に放水口7を有し、本体フランジ部3には、円筒フレーム9が螺着されている。円筒フレーム9には、弁体11を有し、放水口7に押し付けて加圧された消火水を封止する感熱分解部13と、支柱15を有し、支柱15を介してストッパリング17に連結されているデフレクタ19とが設けられている。
【0015】
感熱分解部13は、セットピン21、皿ばね23、スライダー25、ボール27、バランサー29、先端側にフランジ部31aを有するプランジャー31、断熱材33、感熱板としての感熱カバー35、プランジャー31のフランジ部31aに配設された感熱体としての半田37を備えて構成されている。以下、本発明の特徴であるプランジャー31及びその周辺機器を中心に説明する。
【0016】
<プランジャー>
プランジャー31は、先端側にフランジ部31aを有する円筒状をしており、プランジャー31における断熱材33よりも基端側の外周面に、該基端側が薄肉部31bとなる段部31cが形成されている(図2参照)。図2において、段部31cの薄肉側の起点を「B点」としている。
そして、段部31cによって縮径した外周面が少なくともバランサー29が配置されている部位については同径のまま連続しており、プランジャー31に外力が作用した際に段部31cよりも基端側に変形が誘発されるようにしている。
【0017】
また、プランジャー31の内周面は、先端側から基端側に向かって所定の位置(図中の「A点」)まで同一径であり、A点よりも基端側には内側段部31dが形成され、内側段部31d以降は縮径して厚肉になっている。
【0018】
<断熱材>
断熱材33は、PPSという樹脂素材によって形成され、感熱カバー35に当接してプランジャー31の外周を囲むように配設されている。
【0019】
<バランサー>
バランサー29は、中心に軸穴39を有するリング状に形成され、一端が断熱材33に当接すると共にプランジャー31が軸穴39に挿通されることで、プランジャー31を中心軸として軸方向に移動可能に配設されている。
本実施の形態のバランサー29は、図2に示すように、軸穴39におけるプランジャー31の段部31cの近傍が、穴径が拡大された拡大軸穴部39aとなっている。より具体的には、軸穴39の基端側が軸穴径の小さい小径軸穴部39bであり、小径軸穴部39bの先端位置(図中の「C」点)から段部31cを介して段部31cよりも先端側が拡大軸穴部39aとなっている。
【0020】
図2における、A点、B点及びC点の高さ方向の位置関係は以下の通りである。
設置状態において、最も下がB点、その上がA点、A点のさらに上がC点となっている。
【0021】
以上のように構成された本実施の形態のスプリンクラヘッド1の作用について説明する。
まず、プランジャー31に薄肉部31bを形成したことにより、薄肉部31bが熱抵抗となるので、火災時においてプランジャー31に吸収された熱がプランジャー31の基端側に伝播しにくくなり、半田37の溶融を促進でき、感度を向上できる。しかも、本実施の形態では、段部31cによって縮径したプランジャー31の外周面が、バランサー29が配置されている部位については、同径のまま連続していることから、従来のような溝形状に比較して薄肉部31bの長さが長くなっており、熱抵抗がより大きいため、半田37の溶融をより促進できる。
【0022】
また、薄肉部31bを形成する位置が、断熱材33よりも基端側であるため、断熱材33の内周側にはプランジャー31の外周面が対向配置されており、外力によって断熱材33がプランジャー31側に変形することがない。そのため、断熱材33がプランジャー31に形成した溝に対向配置される従来例で懸念されるように、断熱材33の変形よって断熱材33が下方に移動する障害となることがない。
【0023】
また、薄肉部31bを形成する位置が、断熱材33よりも基端側であるため、図3に示すように、外力よって薄肉部31bが変形しても、断熱材33と干渉することがなく、断熱材33が下方に移動する障害になることがない。
また、本実施の形態では、バランサー29の軸穴39における薄肉部31bに対向する部分は、拡大軸穴部39aとなっており、薄肉部31bとの隙間が大きくなっている。
このため、大きな外力が作用して薄肉部31bの変形が大きい場合であってもバランサー29が変形した薄肉部31bに当接することがない。そのため、本実施の形態のスプリンクラヘッド1は大きな外力にも対応できると言える。
【0024】
外力の作用によってプランジャー31が変形する部位は、図2におけるA点とB点の間の部位であるため、この部位のいずれの箇所が変形したとしても、バランサー29との干渉を確実に避けられるようにするには、A点とC点の高さ方向の距離が、スプリンクラヘッド1作動時のバランサー29の移動距離、すなわち作動に至るまでの半田変形量以上であるのが好ましい。バランサー29の移動距離すなわち半田変形量としては、半田37の高さの半分もしくは2/3程度である。
【0025】
なお、上記の例では、段部31cを形成する位置を、プランジャー31における断熱材33よりも基端側の外周面としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、プランジャー31における断熱材33の高さ方向1/2の位置より基端側の位置であればよい。
このような位置に薄肉部31bが形成された場合、断熱材33とプランジャー31の薄肉部31bとの間に隙間が形成されるので、外力が作用した際に断熱材33がプランジャー31側に変形することが考えられる。しかし、本実施の形態の薄肉部31bは溝形状ではなく、薄肉部31bはバランサー29が配置されている部位については同径のまま連続しているので、従来例のように、断熱材33が溝形状の空間に局所的に突出して変形することなく、また断熱材33の高さ方向1/2の位置より基端側全体が変形するため、断熱材の突出量が小さく、断熱材33の下動の障害となることはない。
【0026】
なお、上記の実施の形態では、段部31cによって縮径した外周面が、バランサー29が配置されている部位については同径のまま連続している例を示したが、段部31cによって縮径した外周面における図中の「C」点(バランサー29における小径軸穴部39bの先端位置)よりも基端側の部分については、スプリンクラヘッド1の作動時にバランサー29のガイドとならないので、同径のまま連続する必要はなく、例えば縮径しても問題ない。
【符号の説明】
【0027】
1 スプリンクラヘッド
3 本体フランジ部
5 ヘッド本体
7 放水口
9 円筒フレーム
11 弁体
13 感熱分解部
15 支柱
17 ストッパリング
19 デフレクタ
21 セットピン
23 皿ばね
25 スライダー
27 ボール
29 バランサー
31 プランジャー
31a フランジ部
31b 薄肉部
31c 段部
31d 内側段部
33 断熱材
35 感熱カバー
37 半田
39 軸穴
39a 拡大軸穴部
39b 小径軸穴部
図1
図2
図3