(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料
(51)【国際特許分類】
C03C 3/062 20060101AFI20221027BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20221027BHJP
A61K 6/836 20200101ALI20221027BHJP
【FI】
C03C3/062
C03C3/097
A61K6/836
(21)【出願番号】P 2019056332
(22)【出願日】2019-03-25
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一坪 幸輝
(72)【発明者】
【氏名】高野 美育
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-093439(JP,A)
【文献】特開2003-192518(JP,A)
【文献】特開平08-277141(JP,A)
【文献】特表2014-512325(JP,A)
【文献】特開昭61-197446(JP,A)
【文献】特開昭61-091041(JP,A)
【文献】特開昭62-187142(JP,A)
【文献】特開昭61-158841(JP,A)
【文献】特許第5599608(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
A61K 6/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分として、
SiO
2を18~50質量%、
P
2O
5を10~31質量%、及び
NiOを0.001~0.13質量%
含み、
CaO/SiO
2のモル比が0.20~3.0であり、
MgO/SiO
2のモル比が0.40~1.1であり、
MgO/P
2O
5のモル比が0.80~
3.00である、
歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料。
【請求項2】
平均粒子径が100μm以下である、請求項1記載の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を含有する、歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
医療を目的として、人体の組織・器官の形態及び機能を回復するために用いられる代替材料を総称して生体材料と呼び、人体へ為害作用を及ぼすことのない物質が用いられている。
【0003】
生体材料のうち、無機材料は、結晶、ガラスに大別される。また、生体との係わり合いから生体に不活性な材料と活性な材料に分類される。前者は生体内で周囲組織との間にほとんど化学反応を示さず比較的長期間安定性が保持される。一方、後者は生体内で反応を示し、骨組織と結合したり、生体内に吸収されたりする。
【0004】
近年、注目されている無機材料は後者の例であり、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、生体活性ガラス、結晶化ガラス、ケイ酸カルシウムが知られている(特許文献1)。例えば、SiO2を40~60重量%、CaOを10~30重量%、Na2Oを10~35重量%、P2O5を2~8重量%、CaF2を0~25重量%、B2O3を0~10重量%、K2Oを0~8重量%及びMgOを0~5重量%を含み、粒子径が制御された生理活性ガラス組成物(特許文献2、3)や、酸化カルシウム20~60モル%、酸化マグネシウム0~30モル%、五酸化リン0~10モル%、二酸化ケイ素29~60モル%、及びフッ化カルシウム0~5モル%を含む生理活性ガラス組成物(特許文献4)が、CaとPを放出して再鉱物質化に有効であることが報告されている。また、25~60重量%のSiO2、15~60重量%のCaO及び0~30重量%のP2O5含む生体活性結晶化ガラスを配合してなる口腔用組成物が、歯牙表面に優れたハイドロキシアパタイト膜を形成し、虫歯を有効に予防できるとの報告もある(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2003-506391号公報
【文献】特表2001-525779号公報
【文献】特開2008-120681号公報
【文献】特表2014-512325号公報
【文献】特開平10-182393号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】化学と生物 Vol.31,No.5,1993,p.323-330
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら無機材料による骨組織等の再生修復能を高めるためには、無機材料由来の有効成分が徐々に放出される必要がある。例えば、ケイ酸カルシウムは、歯科領域において歯の再石灰化に用いられる材料である。ケイ酸カルシウム中のカルシウムが再石灰化の成分であるが、歯の再石灰化にはケイ酸の溶出も必要であることが知られている(非特許文献1)。このように、ケイ酸やカルシウムやリンなどの再生修復能を促進する成分を同時に徐放する歯科材料が望まれていた。
したがって、本発明の課題は、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出に優れる歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料に極微量の酸化ニッケルを含有させることで、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出が促進されることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔3〕を提供するものである。
〔1〕化学成分として、
SiO2を18~50質量%、
P2O5を10~31質量%、及び
NiOを0.001~0.13質量%
含み、
CaO/SiO2のモル比が0.20~3.0であり、
MgO/SiO2のモル比が0.40~1.1であり、
MgO/P2O5のモル比が0.80~8.0である、
歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料。
〔2〕平均粒子径が100μm以下である、前記〔1〕記載の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料。
〔3〕前記〔1〕又は〔2〕記載の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を含有する、歯科用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、口腔内でケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出が促進される。したがって、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を用いれば、歯の再石灰化を促進することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
(歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料)
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、SiO2を18~50質量%含有するが、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、18.2質量%以上が好ましく、18.3質量%以上が更に好ましく、また溶融製造の観点から、47質量%以下が好ましく、43質量%以下が更に好ましい。
【0012】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、P2O5を10~31質量%含有するが、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、12質量%以上が好ましく、14質量%以上が更に好ましく、また溶融製造の観点から、30質量%以下が好ましく、29質量%以下が更に好ましい。
【0013】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、NiOを0.001~0.13質量%含有する。0.001質量%未満では、ケイ酸、カルシウム及びリン酸のうちのいずれか1以上の溶出が低下する(比較例1~5、7参照)。他方、0.13質量%を超えると、Siの溶出が低下するだけでなく、着色により外観が損なわれる(比較例6参照)。ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、当該ガラス材料中のNiOの含有量は、0.001~0.12質量%が好ましく、0.001~0.10質量%が更に好ましい。
【0014】
また、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、CaOを含有していてもよい。当該ガラス材料中のCaOの含有量は、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、7.0質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、また溶融製造の観点から、45質量%以下が好ましく、44質量%以下が更に好ましい。
【0015】
更に、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、MgOを含有していてもよい。当該ガラス材料中のMgOの含有量は、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、4.0質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましく、6.0質量%以上が更に好ましく、また溶融製造の観点から、30質量%以下が好ましく、28質量%以下が更に好ましい。
【0016】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、CaO/SiO2のモル比が0.20~3.0であるが、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、0.30以上が好ましく、0.40以上が更に好ましく、そして2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.4以下が更に好ましい。
【0017】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、MgO/SiO2のモル比が0.40~1.1であるが、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、0.43~1.1が好ましく、0.45~1.1がより好ましく、0.48~1.1が更に好ましい。
【0018】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、MgO/P2O5のモル比が0.80~8.0であるが、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出向上の観点から、0.82以上が好ましく、0.84以上がより好ましく、0.86以上が更に好ましく、そして7.5以下が好ましく、7.0以下がより好ましく、6.5以下が更に好ましい。
【0019】
また、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、口腔内でのケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出促進の観点から、平均粒子径が100μm以下であることが好ましく、50μm以下が更に好ましい。なお、かかる平均粒子径の下限は特に限定されないが、生産効率の観点から、0.1μm以上が好ましく、1μm以上が更に好ましい。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629「ファインセラミックス原料のレーザ回折・散乱法による粒子径分布測定方法」に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、レーザ回折・散乱法による粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用することができる。
【0020】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、後掲の実施例に示すように、ケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出を促進することができるため、歯の再石灰化に有用である。
【0021】
本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は適宜の方法により製造することができるが、例えば、溶融法を挙げることができる。
溶融法は公知の方法を採用することができるが、例えば、カルシウム供給化合物、ケイ素供給化合物、マグネシウム供給化合物、リン供給化合物及びニッケル供給化合物を上記した化学量論組成を満たすように混合してるつぼに投入し、電気炉内でるつぼを加熱して原料を溶融させ、次いで溶融液を冷却固化することで、歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を製造することができる。歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、粉砕して所望の平均粒子径に調整してもよく、更に篩分けしてもよい。粉砕は、例えば、乳鉢、ミルを用いることができる。
【0022】
カルシウム供給化合物としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム及びケイ酸カルシウムから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
ケイ素供給化合物としては、例えば、二酸化ケイ素、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトラエチル、ケイ酸カルシウム及びケイ酸マグネシウムから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
マグネシウム供給化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、硝酸マグネシウム及びケイ酸マグネシウムから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
リン供給化合物としては、例えば、五酸化リン、無水リン酸アンモニウム、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル及びリン酸から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
ニッケル供給化合物としては、例えば、酸化ニッケル、酢酸ニッケル及び炭酸ニッケルから選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
【0023】
溶融法における加熱温度は、通常1200~1550℃、好ましくは1300~1500℃であり、加熱時間は、通常1~6時間、好ましくは2~5時間である。
【0024】
(歯科用組成物)
本発明の歯科用組成物は、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を含有するものである。
本発明の歯科用組成物中の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料の含有量は、通常5~90質量%、好ましくは10~60質量%である。
更に、本発明の歯科用組成物は、安定化剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、着色剤、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤の添加剤を含有することができる。これら添加剤の含有量は本発明の目的を阻害しない範囲内で適宜選択することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0026】
(1)原料
炭酸カルシウム :(特級、関東化学)
二酸化ケイ素 :(特級、関東化学)
水酸化マグネシウム :(特級、関東化学)
リン酸水素カルシウム:(特級、和光純薬)
酸化ニッケル :(特級、和光純薬)
【0027】
(2)合成
上記(1)に記載の原料を表1の配合で混合し、ハンドプレス機でペレット化した。白金るつぼにペレットを入れ、箱型電気炉を用いて1000℃で1時間、1350~1500℃で3時間焼成した。最高温度となったときに箱型電気炉から白金るつぼを取り出し、るつぼ内の溶融ガラスを水没急冷してケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料を得た。乾燥させたガラス材料をめのう乳鉢で、平均粒径が100μm以下になるまで粉砕した。なお、得られたケイ酸塩-リン酸塩系材料は、X線回折分析により非晶質であることを確認した。
【0028】
【0029】
(3)ケイ酸塩-リン酸塩系ガラスの化学成分の分析
蛍光X線により酸化物換算で測定し化学成分を算出した。その結果を表2に示す。
【0030】
【0031】
(4)溶出試験
(i)擬似唾液の調製
蒸留水50.0mL、2M塩化カリウム水溶液5.0mL、1M塩酸水溶液0.05mL、100mMリン酸二水素カリウム水溶液3.6mL、100mM塩化カルシウム水溶液1.5mL、及び200mMヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸水溶液10.0mLを混合し、次いで塩酸でpH6.5に調整した後、合計量が100mLとなるように蒸留水を添加して擬似唾液を調製した。
【0032】
(ii)Si、Ca及びPの溶出量の測定
擬似唾液100mLに粉砕試料10gを加えて30分間攪拌した。その後、速やかにスラリーを吸引ろ過して、ろ液中のSi、Ca及びPの濃度をICP発光分光分析装置(ULTIMA2、堀場製作所社製)で分析した。その結果を表3に示す。
【0033】
【0034】
表3から、本発明の歯科用ケイ酸塩-リン酸塩系ガラス材料は、口腔内でケイ酸、カルシウム及びリン酸の溶出を促進できることがわかる。