(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】トリゴネリン吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/10 20060101AFI20221027BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20221027BHJP
B01J 20/34 20060101ALI20221027BHJP
C02F 1/28 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B01J20/10 C
B01J20/28 Z
B01J20/34 G
C02F1/28 E
(21)【出願番号】P 2019083218
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】田中 智則
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大補
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055369(JP,A)
【文献】特開2018-094512(JP,A)
【文献】特開2005-008675(JP,A)
【文献】特開2005-006510(JP,A)
【文献】特開2013-242284(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103755630(CN,A)
【文献】特開2019-081157(JP,A)
【文献】特開2019-076836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
B01D15/00-15/42
C02F1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子とマグネシア粒子とが一体複合化したシリカ・マグネシア複合粒子から成り、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が18~74mmol/100gの範囲にあることを特徴とするトリゴネリン吸着剤。
【請求項2】
シリカ成分とマグネシア成分とを、下記式:
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO
2換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比(R)が0.1≦R≦3.5となる割合で含有している、請求項1に記載のトリゴネリン吸着剤。
【請求項3】
トリゴネリン含有水溶液に請求項1または2の吸着剤を投入してトリゴネリンを吸着することを特徴とする、トリゴネリン吸着方法。
【請求項4】
前記吸着剤を、水溶液中に含まれるトリゴネリン1質量部当り、0.01質量部以上の量で投入する、請求項3に記載のトリゴネリン吸着方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法によりトリゴネリンが吸着されているトリゴネリン吸着剤を回収し、この後、該吸着剤を水と混合撹拌することにより、該吸着剤からトリゴネリンを脱離させることを特徴とするトリゴネリンの回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリゴネリン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
トリゴネリンは、コーヒー豆や一部の魚介類などに含まれ、ピリジン環を有するアルカロイドの一種であり、下記式で表される化合物である。
【化1】
【0003】
トリゴネリンが熱により分解してニコチン酸を生成することも知られており、トリゴネリンやニコチン酸は、コーヒーの苦みを呈する成分としても知られている(特許文献1)。近年においては、トリゴネリンが脳の老化やアルツハイマー型認知症を予防するとの研究結果も報告されており、所謂機能性成分として注目されている(特許文献2)。
【0004】
コーヒー豆などからトリゴネリンを抽出する方法としては、熱水などを用いる方法が知られているが(特許文献3)、その抽出液からトリゴネリンを分離する技術としては、クロマトグラフィーを用いた方法やイオン交換樹脂を用いる方法(特許文献4)などが知られている程度である。
即ち、特許文献3や4の方法は、工業的に実施するには極めてコストが高いため、トリゴネリンを吸着する安価な鉱物系吸着剤が求められているが、このような吸着剤についての検討はほとんどされていないのが実情である。
【0005】
本発明者等は、種々の鉱物系吸着剤について検討したが、何れも一長一短があり、例えばトリゴネリン吸着能が優れているものは、トリゴネリン脱離能が低く、このため、トリゴネリンの再利用が困難となっている。一方、トリゴネリン脱離能が高いものは、トリゴネリン吸着能が極めて低い。従って、何れの吸着剤においてもトリゴネリンの再利用が困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-119386号
【文献】特開2018-070464号
【文献】特開2018-191543号
【文献】特開2013-242284号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、トリゴネリン吸着性ばかりかトリゴネリン脱離性にも優れたトリゴネリン吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、トリゴネリン吸着剤について種々検討した結果、安価な鉱物系吸着剤の中でも、ある種のシリカ・マグネシア系の粒子が、トリゴネリン吸着性とトリゴネリン脱離性との両方に優れているとの知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明によれば、シリカ粒子とマグネシア粒子とが一体複合化したシリカ・マグネシア複合粒子から成り、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が18~74mmol/100gの範囲にあることを特徴とするトリゴネリン吸着剤が提供される。
本発明において、アニオン吸着能は、10mmol/LのオレンジII水溶液を用いて測定される。
【0010】
本発明のトリゴネリン吸着剤においては、シリカ成分とマグネシア成分とを、下記式:
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO2換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である、
で表される質量比(R)が0.1≦R≦3.5となる割合で含有していることが好ましい。
【0011】
また、本発明によれば、トリゴネリン含有水溶液に前記吸着剤を投入してトリゴネリンを吸着することを特徴とする、トリゴネリン吸着方法も提供される。
【0012】
本発明のトリゴネリン吸着方法においては、
(1)前記吸着剤を、水溶液中に含まれるトリゴネリン1質量部当り、0.01質量部以上の量で投入すること、
が好ましい。
【0013】
本発明において、上記の方法によりトリゴネリンが吸着されているトリゴネリン吸着剤(即ち、使用済み吸着剤)は、濾過等により回収され、この後、該吸着剤を水と混合撹拌することにより、該吸着剤からトリゴネリンを脱離させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のトリゴネリン吸着剤は、シリカ粒子とマグネシア粒子とから成る。シリカ粒子もマグネシア粒子も、AlイオンやCaイオン、Feイオンといった、飲料の風味を損なう原因となる金属イオンを有していない。従って、本発明の吸着剤を、トリゴネリン含有水溶液に添加してトリゴネリンを吸着したとき、該水溶液中への金属イオンの溶出を生じることがない。従って、飲料などからトリゴネリンを除去することを目的とするとき、飲料中に金属イオンが溶出し、その風味を損なうという不都合は有効に回避できる。
【0015】
また、ケイ酸マグネシウムは、油脂の濾過助剤として用いる場合を除き、食品添加剤として使用することができないが、本発明の吸着剤は、食品添加剤として認可されているシリカ成分とマグネシア成分を一体複合化したシリカ・マグネシアである。よって、本発明は、コーヒー豆の抽出液などからのトリゴネリンの除去に好適に使用される。
【0016】
さらに、本発明の吸着剤(以下、シリカ・マグネシア系吸着剤と呼ぶことがある)は、トリゴネリンの吸着性に優れているが、その脱離性も優れており、例えばトリゴネリンが吸着されている使用済み吸着剤を回収し、これを水と混合撹拌することにより、吸着されているトリゴネリンを容易に脱離させることができる。
例えば、後述する実施例に示されているように、活性白土や酸性白土は、トリゴネリンに対する吸着性能が本発明のシリカ・マグネシア系吸着剤と同等或いはそれ以上である。しかしながら、活性白土や酸性白土などの鉱物は、トリゴネリンの脱離性が著しく低い。このため、水溶液中からトリゴネリンを吸着除去することはできても、これを脱離させて再利用することが困難となっている。また、シリカは、吸着したトリゴネリンに対する脱離性が著しく優れているのであるが、トリゴネリンに吸着性が極めて乏しく、トリゴネリン吸着剤として工業的に使用することができない。
【0017】
しかるに、本発明のシリカ・マグネシア系吸着剤は、トリゴネリンに対して高い吸着性を示すばかりか、吸着したトリゴネリンの脱離性にも優れている。従って、本発明の吸着剤を利用してトリゴネリンを捕集し、その再利用を図ることができ、これは、本発明の最大の利点である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のトリゴネリン吸着剤は、シリカ・マグネシア複合粒子からなる。シリカ・マグネシア複合粒子は、実質上、食品製造用の吸着剤やろ過助剤として認可されているシリカ成分とマグネシア成分とから形成されており、原料であるシリカ(二酸化ケイ素)粒子とマグネシア(酸化マグネシウム)粒子とが、水中で、溶解はしないがナノオーダーの単位粒子(ナノ粒子)として分散し、均質混合されており、マグネシア成分に由来するアニオン性色素(オレンジII)に対する吸着能が高く維持されるように緊密に一体複合化した粒子である。
【0019】
[シリカ・マグネシア複合粒子における一体複合化と構造]
本発明では、シリカ(A)とマグネシアもしくはその水和物(B)とを、水分の存在下で均質に混合して水性スラリーとし(均質混合)、次いで熟成を行い、さらに、水分を除去することにより、目的とするシリカ・マグネシア複合粒子を得ることができる。
【0020】
すなわち、水分の存在下、例えば水中での均質混合により、原料の一つであるシリカ(二酸化ケイ素)がコロイド粒子乃至微細凝集粒子(1次乃至2次粒子)まで解れる。他方のマグネシア(酸化マグネシウム)も、水中に投入されて撹拌もしくは粉砕されると、溶解は殆ど起こらないが、マグネシア粒子表面の部分的な水和により、その結晶(もしくは新たに生成した水和物の結晶)の一部分或いは全部が崩壊もしくは剥離して、マグネシア(酸化マグネシウム)及び/又は酸化マグネシウム水和物からなる微細な粒子となって水中に分散される。
【0021】
熟成工程において、これらの微細粒子が均質に分散したスラリーから水分が除去され、固形分濃度が上昇していくと、シリカの粒子(A)とマグネシアの粒子(B)とが徐々に或いは急激に接近し、原子の交換や組み換えを伴うような化学結合を伴うことなく、一体複合化した形態に至るのである(一体複合化完了)。即ち、本発明のシリカ・マグネシア複合粒子は、物理的手段により分離しないように一体化された構造である。
【0022】
上記のような均質混合及び熟成は、100℃以下で行い、50~97℃で行うことが好ましく、50~79℃で行うことが、ゲル化を有効に防止し且つ短時間で複合一体化を行う上で好適である。
【0023】
尚、均質混合及び熟成は、攪拌翼を備えた攪拌槽中で攪拌下に行うのが一般的であるが、湿式ボールミルやコロイドミルによる粉砕もしくは分散下で行うこともできる。
また、温度やスラリーの仕込み容量等によっても異なるが、少なくとも0.5時間かけて均質混合及び熟成を行うことが必要である。また、温度が高いほど、ナノ粒子の流動性が高くなり効率よく均質化するため、より短時間で行うことができる。一般には、1~24時間、特に3~10時間程度かけて混合及び熟成が行われる。
【0024】
熟成後の水分除去は、スプレー乾燥機やスラリー乾燥機等を用いての蒸発乾燥により行われるが、ろ過や遠心分離等の手段によりある程度の脱水を行った後に、箱形乾燥機、バンド乾燥機、流動層乾燥機等を用いて乾燥を行ってもよい。乾燥は110~200℃の範囲の温度で行うことが好ましい。このとき、原料(B)の水和が少なくとも一部乃至は全部解消される。また、粒子強度を高める観点から、乾燥後に焼成炉中で焼成を行うことができ、この焼成温度は300~830℃、特に550~750℃の範囲で行われる。
【0025】
上記のようにして、例えば水分含有率が10質量%以下であり、脱水により原料粒子である二酸化ケイ素(シリカ)粒子とマグネシア粒子とが緊密に複合化したシリカ・マグネシア複合粒子が、顆粒状、粉状、ケーキ状或いは団塊状で得られる。これらは、必要により、粉砕・分級、或いは成形を行い、後述するトリゴネリンの吸着に好適な粒子形状として使用に供される。
【0026】
本発明では、上記の通りシリカ成分とマグネシア成分とを一体複合化させているからこそ、マグネシア成分に由来してアニオン性色素(オレンジII)に対する吸着能が高く維持されており、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が18~74mmol/100gの範囲となっている。即ち、トリゴネリンは、一分子中にプラスの電荷と同時にマイナスの電荷も有する両荷電物質であるため、上記のアニオン吸着能により、トリゴネリンに対して高い吸着性を示す。例えば、ケイ酸マグネシウムのように、シリカ成分とマグネシア成分とが化学結合を形成していると、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能は17以下と低く、トリゴネリン吸着性は著しく低いものとなる。
【0027】
また、シリカ単体およびマグネシア単体のトリゴネリン吸着性も、著しく低く、従って、シリカとマグネシアを単に乾式混合して得られる混合物においても、トリゴネリンに対する吸着性は低い。
【0028】
このように、シリカ成分やマグネシア成分が単体で存在したり、反応物の状態で存在している場合、トリゴネリンはほとんど吸着できないが、極めて意外なことに、本発明のようにこれらの成分をマグネシア成分に由来するアニオン性色素(オレンジII)に対する吸着能が高く維持されるように一体複合化すると、高いトリゴネリン吸着性が発現する。
さらに、このシリカ・マグネシア複合粒子は、吸着したトリゴネリンに対する脱離性も優れている。このような脱離性を示す理由は、正確に解明されているわけではないが、トリゴネリンが、マイナスの電荷と同時にプラスの電荷も有しているためではないかと本発明者等は推定している。即ち、このシリカ・マグネシア複合粒子が有するアニオン吸着能によってトリゴネリンに対する吸着性が生じていると考えられるのであるが、トリゴネリンがプラスの電荷も有していることから、トリゴネリンに対する吸着力は高いものではなく、比較的脱離し易い状態でゆるく保持されており、この結果、脱離性も高いものとなっているものと考えられる。
【0029】
本発明において、シリカ成分とマグネシア成分の質量比は適宜決定すればよいが、一体複合化の度合いの観点から、下記式で表される質量比(R)が、0.1≦R≦3.5、特に1.3≦R≦3.0、更に1.5≦R<2.5となる割合が好ましい。
R=Sm/Mm
式中、Smは、SiO2換算でのシリカ成分の含有量(質量%)であり、
Mmは、MgO換算でのマグネシア成分の含有量(質量%)である。
【0030】
一体複合化の度合いは、吸着剤中のシリカ成分とマグネシア成分の質量比(R)によって異なる。例えば、質量比が2付近(R≒2、好ましくは1.5≦R<2.5)では、シリカ成分とマグネシア成分が一体複合化にちょうどよい質量比となっており、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が18mmol/100g以上と高く、一体複合化の度合いが非常に高い。
【0031】
上記質量比が2未満(R<2)となり、比較的マグネシアリッチとなる領域に進むほど、あまりある多くのマグネシアの微粒子が、全体にわたるマグネシアマトリックス相を形成しており、その中に、希薄にシリカ成分が分散している状態であると考えられ、即ち、一体複合化の度合いは低くなると考えられる。さらに、マグネシア成分がリッチになり、R<0.1となる場合は、本発明のシリカ・マグネシア複合粒子のオレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が上記範囲から外れ、結果的にトリゴネリに対する吸着能が低下するばかりか、経時とともに大気中の水分によりマグネシア成分が不必要に水和され、長期の保存期間にわたって、アニオン吸着能を上記範囲に維持することができない、というデメリットがある。特に、マグネシア成分の経時による水和は、マグネシア成分に由来するアニオン性色素(オレンジII)の吸着能に大きく影響する。従って、質量比(R)が上記範囲を満足しない場合は、水和の影響で上記アニオン吸着能が低くなってしまい、結果として高いトリゴネリン吸着能を維持できない。本発明は、シリカ成分が有効にマグネシア成分の水和を抑制し、結果として高いトリゴネリン吸着能を示す。
【0032】
反対に、質量比が2を越えて(2<R)、比較的シリカリッチとなる領域に進むほど、あまりある多くのシリカの微粒子が、全体にわたる非晶質なシリカマトリックス相を形成しており、その中に、希薄にマグネシア成分が分散している状態と考えられ、即ち、同様に一体複合化の度合いは低くなると考えられる。特に、シリカ成分が多く、3.5<Rとなる場合は、シリカ成分が過剰であり、マグネシア成分に由来するアニオン性色素(オレンジII)に対する吸着能が低くなってしまい、結果的にトリゴネリン吸着能が低下する。
【0033】
本発明のシリカ・マグネシア複合粒子は、マグネシア成分に由来するアニオン性色素(オレンジII)に対する吸着能が高く維持されるように一体複合化されていることから、オレンジII吸着量で表されるアニオン吸着能が18mmol/100g以上であり、特にトリゴネリン吸着能の観点から、20mmol/100g以上であることが好ましく、さらに、一体複合化の観点から74mmol/100g以下、特に71mmol/100g以下であることが好適である。
【0034】
上述のように、シリカ・マグネシア複合粒子からなる本発明のトリゴネリン吸着剤では、1g当りのトリゴネリン吸着量が、一般に、8~15mg程度である。
【0035】
また、このシリカ・マグネシア複合粒子では、シリカ成分とマグネシア成分が互いに遊離しておらず、緊密に複合化しているために、通常、その懸濁液のpHは6.0~10.0の範囲にある。
【0036】
さらに、トリゴネリンを安定に吸着し得るという点で、窒素吸着法で測定したBET比表面積は、100m2/g以上、更に500m2/g以上、特に600m2/g以上であることが好適である。
【0037】
本発明のトリゴネリン吸着剤として使用されるシリカ・マグネシア複合粒子は、特に制限されるものではないが、ろ過性等の観点から、転動造粒、押出造粒等の公知の造粒手段により、直径もしくは長径が5μm~5mmである球状もしくは楕円球状、或いは径が0.5mm以上で且つ軸長が50mm以下の円柱形状粒子に粒状化して使用に供することが好ましい。
このようなシリカ・マグネシア複合粒子は、例えば水澤化学工業株式会社より市販されている。
【0038】
本発明の吸着剤は、トリゴネリンを含む水溶液、例えば、コーヒー豆等を煮沸した水に投入することによりトリゴネリンが抽出されている水溶液に投入し、混合撹拌することによって、トリゴネリンを吸着することができる。
また、本発明の吸着剤は、リン酸塩、塩酸塩などの各種塩類と結合しているトリゴネリン化合物が含まれる溶液などに対して、何ら制限なく使用することができる。
【0039】
吸着剤の投入量は、通常、水溶液中に含まれるトリゴネリン1質量部当り、0.01質量部以上、特に0.01~320質量部の範囲とすればよい。この投入量が少ないと、当然のことながら、トリゴネリンの吸着量が不十分となってしまう。また、投入量が必要以上に多い場合には、コストの点で不利となってしまう。
尚、吸着剤を投入する水溶液中のトリゴネリン濃度は、高速クロマトグラフィーなどにより測定することができる。
【0040】
上記の吸着に要する時間は、トリゴネリンを含む水溶液の量やトリゴネリン濃度によっても異なるが、一般的には、0.25~24時間程度であり、例えば室温下(少なくとも25℃以下)で適度な撹拌下で十分であり、加熱等は必要でない。即ち、この吸着によって、トリゴネリンが変質するおそれはない。また、撹拌も、通常の撹拌羽根等により行うことができる。
【0041】
既に述べたように、上記の吸着剤に吸着されたトリゴネリンは、容易に脱離することができる。
例えば、トリゴネリン含有水溶液に投入され、トリゴネリンが吸着されている吸着剤(使用済み吸着剤)を、濾過して回収し、回収された使用済み吸着剤を水と混合撹拌することにより、トリゴネリンを脱離させることができる。
混合撹拌に供する水の量は特に制限されるものではないが、通常、混合撹拌性や脱離後の回収作業など考慮して、使用済み吸着剤100質量部当り、400質量部以上、特に400~2000質量部程度でよい。
また、脱離のための撹拌も、吸着と同様、加熱等は必要なく、25℃以下、特に室温下で行うことができ、処理時間は0.25~24時間程度である。さらに、この撹拌も、通常の撹拌羽根等により行うことができる。
脱離に用いる水は、純水を用いることが好ましいが、一部または全部を、各種塩の水溶液や有機溶媒に置き換えて用いることができる。
このような脱離により、シリカ・マグネシア複合粒子に吸着されたトリゴネリンの40質量%以上を水中に回収することができる。
【0042】
上記のようにして水中に脱離したトリゴネリンは、そのまま薬剤等として使用することもできるし、加熱等による濃縮、再結晶等により精製を行い、単離した化合物として使用に供することもできる。
【実施例】
【0043】
本発明の優れた効果を、次の実験例により説明する。
尚、以下の実施例及び比較例で行った各試験及び物性測定は、以下の方法により行った。
【0044】
(1)窒素吸着法によるBET比表面積
マイクロメリティクス社製TriStar 3000を用いて窒素吸着法により測定を行ない、BET法により算出した。なお、前処理は150℃で2時間行った。
【0045】
(2)トリゴネリン吸着試験
800ppmのトリゴネリン水溶液30gから1gの吸着剤(無水)が吸着できるトリゴネリン量(mg)を下記の方法により測定し、算出した値を表1~2に示した。
先ず、トリゴネリン(Cayman
Chemical社製)を蒸留水に溶かし、800ppmのトリゴネリン水溶液を得た。この800ppmのトリゴネリン水溶液30gを50ml容量の遠沈管に秤取し、吸着剤1g(対液3.3質量%)を加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製5200)により遠心加速度3000rpmで15分処理した液の上澄みをHPLC前処理用フィルター(Merck製、フィルター孔径0.20μm)で濾過し、試料液を得た。得られた試料液を、下記条件で液体クロマトグラフ(HPLC)分析した。
測定装置:島津製作所製 高速液体クロマトグラフ Prominece
カラム:島津製作所製 Shim―pack VP-ODS
検出器:UV
測定波長:270nm
予め作成したトリゴネリン濃度とHPLC分析における面積割合の関係を示す検量線を用いて試料液中のトリゴネリン残存量を算出し、吸着剤添加前のトリゴネリン量から差し引いた値をトリゴネリンの吸着量とした。
【0046】
(3)トリゴネリン脱離試験
上記吸着試験にて試料液を回収した後に残った吸着剤(トリゴネリン含有吸着剤)および吸着剤に付着残存した吸着試験液の重量を測定した。これら吸着剤と合わせて合計31gになるように脱離溶媒(水)を添加し、振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により2.5時間振とうした。次に遠心分離機((株)クボタ製5200)により遠心加速度3000rpmで15分処理した液の上澄みをHPLC前処理用フィルター(Merck製、フィルター孔径0.20μm)で濾過し、試料液を得た。得られた試料液を、下記条件で液体クロマトグラフ(HPLC)分析した。
測定装置:島津製作所製 高速液体クロマトグラフ Prominece
カラム:島津製作所製 Shim―pack VP-ODS
検出器:UV
測定波長:270nm
予め作成したトリゴネリン濃度とHPLC分析における面積割合の関係を示す検量線を用いて試料液中のトリゴネリンを算出した。このトリゴネリン量から吸着剤に付着残存していた吸着試験液由来のトリゴネリン量を差し引いた値をトリゴネリン脱離量とした。
【0047】
(4)オレンジII吸着量
本実施例におけるオレンジII吸着能は、10mmol/L濃度のオレンジII水溶液から、100gの試料が吸着できるオレンジIIのmmol数とし、下記の方法により測定し、算出した。先ず、オレンジII(試薬特級、和光純薬工業(株)製)を水に溶かし、10mmol/L濃度のオレンジII水溶液を得る。この10mmol/L濃度のオレンジII水溶液20mlを50ml容の遠沈管に秤取し、試験粉末0.20gを加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により7.5時間振とうする。振とう終了後、12時間以上静置する。次に遠心分離機((株)クボタ製 5200)により遠心加速度3000rpmで15分処理した液の上澄みを0.5mL採取し、これをイオン交換水により200倍に希釈した液の484nm波長光の吸光度を分光光度計(日本分光(株)製V-630)により測定した。そして、オレンジII水溶液のオレンジII含有量と484nm波長光の吸光度の関係を示す検量線を用いて試料液のオレンジII残存量を算出した。この値を、試料へのオレンジII添加量から差し引いた値をオレンジII吸着量とする。
【0048】
実施例及び比較例では、以下のシリカマグネシア製剤(a)~(d)或いは酸性白土、活性白土、シリカゲルを用いて、物性測定及び各種試験を行い、その結果を表1或いは表2に示した。
【0049】
実施例1:水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤(a)
実施例2:水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤(b)
実施例3:水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤(c)
実施例4:水澤化学工業(株)製シリカマグネシア製剤(d)
【0050】
比較例1:水澤化学工業(株)製酸性白土
比較例2:水澤化学工業(株)製活性白土
比較例3:水澤化学工業(株)製水澤化学工業(株)製シリカゲル
【0051】
【0052】