(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】繊維を含むウェブを形成する方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/18 20060101AFI20221027BHJP
D21H 17/25 20060101ALI20221027BHJP
D21H 21/24 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H17/25
D21H21/24
(21)【出願番号】P 2019521110
(86)(22)【出願日】2017-10-27
(86)【国際出願番号】 IB2017056681
(87)【国際公開番号】W WO2018078572
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-28
(32)【優先日】2016-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バックフォルク、カイ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン、イスト
(72)【発明者】
【氏名】サウッコネン、エサ
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-526619(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0299959(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0315747(US,A1)
【文献】特表2015-514884(JP,A)
【文献】特開2014-217945(JP,A)
【文献】特開平03-119189(JP,A)
【文献】特表2016-533435(JP,A)
【文献】特開2013-253137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/18
D21H 17/25
D21H 21/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維及び/又はフィブリルを含む連続ウェブを形成する方法であって、以下の工程を含み、
‐繊維及び/又はフィブリル及び界面活性剤を含む完成紙料を提供する、
‐前記完成紙料をワイヤーに塗布してウェブを形成する、
‐前記ウェブから白水を排出する、
‐ミクロフィブリル化セルロース(MFC)及び/又はナノ結晶セルロース(NCC)を前記白水に添加し、それによって前記界面活性剤が前記MFC又はNCCに結合又は物理的に相互作用して複合体を形成する、
‐前記複合体を完成紙料及び/又はウェブにリサイクルする、
ここで、MFC又はNCC及び界面活性剤を含む前記複合体が、完成紙料にリサイクルされる前に白水の少なくとも一部から分離される、上記方法。
【請求項2】
MFC又はNCCが、
BET法に従って窒素ガスを吸着させることにより凍結乾燥材料について測定した場合、少なくとも5m
2/
gの比表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
凝固剤が、MFC又はNCCに加えて白水に添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
凝固剤が、ミョウバン、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化ポリジアリルジメチルアンモニウム(ポリ‐DADMAC)、ポリアミン及び硫酸第二鉄からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
界面活性剤がカチオン性又は両性界面活性剤であり、MFC又はNCCが未修飾である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
界面活性剤がアニオン性界面活性剤であり、MFC又はNCCがカチオン性である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤であり、そしてMFC、NFC又はNCCが疎水性又は天然である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記複合体は、ウェブ上に塗布されたコーティング又は表面サイジング組成物に複合体を添加することによってウェブにリサイクルされ、前記コーティング又は表面サイジング組成物がさらに金属塩を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
界面活性剤を含む完成紙料が発泡完成紙料である、請求項1~8のいずれか一項に記載のウェブを形成する方法。
【請求項10】
前記ウェブが紙又は板紙プライである、請求項1~9のいずれか一項に記載のウェブを形成する方法。
【請求項11】
前記ウェブがMFCフィルムである、請求項1~9のいずれか一項に記載のウェブを形成する方法。
【請求項12】
前記ウェブが不織布である、請求項1~9のいずれか一項に記載のウェブを形成する方法。
【請求項13】
繊維及び/又はフィブリルを含む完成紙料から界面活性剤を吸着及び分離するための、ミクロフィブリル化セルロース繊維(MFC)又はナノ結晶セルロース(NCC)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を含むウェブ(web)を形成する方法に関する。本発明はさらに、前記方法によって製造された紙又は板紙製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の紙又は厚紙の抄紙機の白水は、短期及び長期の循環を通じて、かなりの程度までリサイクルされ再利用される。短い循環では、ウェブ形成中の紙料(stock)又は完成紙料(furnish)からの過剰の白水が集められ、再循環されて、厚手ストックパルプを希釈してヘッドボックスに配送される。短い循環中の白水は、例えば、ワイヤーピット、又はワイヤーピットとヘッドボックスとの間の位置にリサイクルすることができる。
【0003】
長い循環では、短循環及び製紙機械の他の部分からの余剰の白水は、紙料調製物、例えば、ブレンドチェストに再循環される。白水には繊維、微粉(fines)、化学物質が含まれており、通常は長い循環ループの中でろ過され、再利用される。棄却物の一部は処分され、通常は例えば、埋め立て地として使用される。白水の一部はさらに廃水処理施設に送られる。
【0004】
近年、紙又は板紙の製造における界面活性化学物質又は界面活性剤の使用が増加している。界面活性剤を使用する主な理由は、主に例えば顔料及び水の間の界面に影響を及ぼし、したがって湿潤性及び分散性又は再分散性を改善することであった。別の目的は、界面活性剤を剥離剤として使用すること、又は繊維‐繊維相互作用を調整することであった。新しいウェブ形成技術、例えばフォーム形成は、界面活性剤の使用をさらに増加させた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、界面活性剤は通常低レベルでは有益であるが、界面活性剤の食品又は適用バリア層への望ましくない移行、バリア特性の低下、望ましくない場所での望ましくない発泡、水処理施設での悪影響、毒性、不安定なウェットエンドケミストリーを引き起こす他の化学物質との干渉等など、紙又は板紙製造における界面活性剤の存在に関連するいくつかの問題がある。プロセス中の界面活性剤の循環の蓄積は、それ故、望ましくない効果、操業性の問題、最終製品の品質の変動及び生産効率の低下を引き起こす可能性がある。
【0006】
界面活性剤の潜在的な使用が増加している他の分野は、例えば軽量複合材料又はエアロゲルである。これらの種類の複合材料は、例えばナノセルロース及び表面活性化学物質から製造することができ、それによりかさ高い構造が形成される。構造体を乾燥させると、過剰の界面活性剤がしばしば形成され、それによって上記の問題が生じる。
【0007】
したがって、繊維又はセルロース材料を含む、紙又は板紙、エアロゲル又は軽量複合材料などの連続ウェブを製造する方法が依然として望まれており、その方法は望ましくない効果を引き起こすことなく機能性化学物質として界面活性剤の使用を可能にする。
【0008】
本開示の目的は、従来技術に関連した悪影響を伴わずに、例えば、紙又は板紙の製造において、セルロース含有材料のウェブ形成における界面活性剤の効率的な使用を可能にすることである。
【0009】
この利点及びさらなる利点は、添付の独立請求項による方法、紙又は板紙製品、及び使用によって全体的又は部分的に達成される。実施形態は、添付の従属請求項及び以下の説明に記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、繊維及び/又はフィブリルを含む連続ウェブを形成する方法が提供される。この方法は以下のステップを含む。
‐繊維及び/又はフィブリル及び界面活性剤を含む完成紙料を提供する、
‐前記完成紙料をワイヤーに塗布してウェブを形成する、
‐前記ウェブから白水を排出する、
‐ミクロフィブリル化セルロース(MFC)又はナノ結晶セルロース(NCC)を前記白水に添加し、それによって前記界面活性剤が前記MFC又はNCCに結合するか又は物理的に相互作用して複合体を形成する、
‐前記複合体を完成紙料及び/又はウェブにリサイクルする。
【0011】
繊維は、セルロース繊維(及び/又はセルロース材料)又は他の天然繊維、合成繊維、又はガラス繊維などの特殊繊維であり得る。フィブリルは、ミクロフィブリル化セルロースなどのセルロースナノフィブリルであり得る。
【0012】
白水へのMFC又はNCCの添加は、生産者が系中の界面活性剤の濃度を制御することを可能にする。このようにして、系中の過剰の界面活性剤に関連する問題は減少するか又は著しく減少し、化学的保持がより効率的であるので安定した製造方法及びより費用効率的な方法をもたらす。過剰の界面活性剤は、溶解した形で、又は例えばミセルとして、白水中に蓄積し、添加されたMFC又はNCCの表面に結合し、可逆的又は不可逆的複合体を形成する。MFC又はNCCと界面活性剤との間の結合又は相互作用は、例えば、静電気(引力)、疎水性、誘導、又は分散、あるいはこれらの相互作用の組み合わせであり得る。さらに、相互作用は、例えば、pH、イオン伝導度、一価、二価又は多価電解質の使用、温度、剪断安定性又は任意の成分の溶解度を制御することによって引き起こされ得る。
【0013】
界面活性剤‐MFC又は界面活性剤‐NCC複合体は、完成紙料に再循環させる前に、前記白水の少なくとも一部から分離することができる。複合体の分離は、任意の既知の分離技術の使用、例えば、ハイドロサイクロン、ふるい、フィルターの使用又は浮選により達成することができる。次いで、分離された複合体は、制御された量で完成紙料又は形成されたウェブにリサイクル又は再使用(すなわち添加)することができる。完成紙料をワイヤに塗布する前に、複合体を完成紙料に添加してもよい。あるいは、複合体は、ウェブ上にウェブが形成された後にウェブに添加されてもよい。例えば、プレスセクションの前に、コーティング又はその表面サイジングに添加するか、湿ったウェブにスプレーされてもよい。別の選択肢は、回収した複合体をそのプロセスで使用されるべき破片又は化学物質若しくは充填剤に添加することである。複合体の一部はさらに分離して、例えば複合材などへの添加剤として使用することができる。
【0014】
完成紙料又はウェブに添加されるMFC‐又はNCC‐界面活性剤複合体は、かさ高の増大、印刷適性の改善、柔軟性及び/又は光学特性などの成形製品の特性の改善に寄与し得る。「白水の少なくとも一部からの」分離はまた、白水の第1の部分への複合体の濃縮、及びより高い濃度を有する前記第1の部分から、(例えば浮選による)より低い濃度の複合体を有する第2の部分の分離を含む。より高い濃度の複合体を有する前記第一の部分は、次いで完成紙料にリサイクルすることができる。
【0015】
複合体から分離された白水はまた、好ましくは完成紙料がワイヤに添加される前に、少なくとも部分的に完成紙料にリサイクルされてもよい。白水の一部は、廃水又はスラッジ材料として処理されることもある。
【0016】
界面活性剤は、完成紙料中に、前記完成紙料の全固形分に基づいて例えば0.01~1%(w/w)の濃度で存在してもよい。
【0017】
白水に添加されるMFC又はNCCは変性されていても変性されていなくてもよく、好ましくは1~約300m2/gの比表面積を有する。好ましい一実施形態では、MFC又はNCCは、少なくとも5m2/g、好ましくは少なくとも10m2/g、最も好ましくは少なくとも15m2/g、例えば15~200m2/gの間の比表面積を有し、表面積は、凍結乾燥された材料について、例えばMicromeritics Tri Star表面積分析計を用いるBET法に従って窒素ガスの吸着によって測定される。MFCは例えば液体窒素で4wt%の固形分で凍結させ、その後、凍結乾燥装置(例えば、CHRIST ALPHA 2‐4)を用いて凍結乾燥する。窒素ガスは液体窒素の温度(T=-196℃)で乾燥サンプルに吸着される。このような高い比表面積を有するミクロフィブリル化セルロースは、界面活性剤の結合を向上させる。
【0018】
一実施形態では、凝固剤、疎水性及び/又は機能性化学物質が、MFC又はNCCに加えて白水に添加される。凝固剤又は疎水性又は機能性化学物質は、MFC又はNCCの添加の前、同時又は後に、ただし白水から複合体を分離する前に、白水に添加することができる。MFC又はNCCと凝固剤又は化学物質は予め混合することができる。あるいは、機能性添加剤は、流動化工程の前又は流動化工程の間などのMFC又はNFCの製造プロセス中に添加することができる。凝固剤の添加は、分離工程において白水からより容易に分離される複合体の形成を改善する。凝固剤は、例えば、ミョウバン、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(ポリ‐DADMAC)、ポリエチレンイミン、ポリアミドアミン、ポリビニルピロリジン、及びポリアミンからなる群から選択され得る。多価デキストリン又はデンプン又は他の高分子電解質のような他の短いカチオン性ポリマー又は例えばMFC又はNCCと界面活性化学物質との間の相互作用を増強することができる一価、二価又は多価電解質及び高分子電解質の混合物。
【0019】
MFC又はNCCに加えて白水に添加することができる疎水性化学物質は、例えば、AKD、ASA、ロジン又はポリエチレン又はパラフィンワックス、スチレン無水マレイン酸、ポリウレタン又は任意の他の機能性化学物質であり得る。これらの添加剤は界面活性剤上の疎水性部分とのより効率的な相互作用を提供する。前記疎水性化学物質はまた、上に開示したようにMFC流動化工程中にも添加することができる。
【0020】
別の実施形態では、MFC又はNCCを消泡剤と混合してもよい。消泡剤は、例えば、界面活性剤又はシリコーン又は鉱物油であり得る。
【0021】
完成紙料中に存在する界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、双性イオン性界面活性剤、又はそれらの組み合わせの群から選択することができる。界面活性剤は、食用界面活性化学物質及び/又は消泡剤を含み得る。界面活性化学物質はまた、例えば、ブロックコポリマーなどの両親媒性ポリマーであり得る。カチオン性界面活性剤の例は、ラウリルアミン塩酸塩、塩化トリメチルドデシルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム及び塩化ドデシルトリメチルアンモニウムである。アニオン性界面活性剤の例は、例えば、アルキルベンゼンスルホネート、脂肪酸、石鹸、ラウリルスルフェート、ジアルキルスルホサクシネート、リグノスルホネートなど、例えばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、又はドデシル硫酸ナトリウム、又はステアリン酸NAである。非イオン性界面活性剤の例は、ポリオキシエチレンアルコール、アルキルエトキシレート、ポリソルベート、プロピレンオキシド改質化学物質である。両性界面活性剤は、例えば脂質又はベタインであり得る。
【0022】
カチオン性又は両性界面活性剤は、好ましくは未修飾又はカルボキシル化MFC又はNCCによって回収される。MFC又はNCCはまた、それぞれMFC又はNCCに追加のアニオン性基を提供する両性又はアニオン性高分子電解質でグラフトされてもよい。アニオン性界面活性剤は、好ましくはカチオン性MFC又はNCCによって集められ、一方、非イオン性界面活性剤は、好ましくは天然又は疎水性MFC又はNCCによって集められる。カチオン性MFC又はNCCは、デンプン又はPDADMAC、PVAm又はPEIなどのカチオン性ポリマーを用いて表面グラフト化することによって、あるいはMFC又はNCCをそれぞれ化学修飾することによって得ることができる。疎水性MFC又はNCCは、AKD又はASAなどの樹脂又は樹脂で修飾することによって、あるいはシリル化などの化学修飾によって得ることができる。
【0023】
本発明の一実施形態では、MFC‐又はNCC‐界面活性剤複合体は、ウェブ上に塗布されたコーティング又は表面サイジング組成物に複合体を添加することによってウェブにリサイクルされ、この組成物はさらに金属塩を含む。金属塩は1価の塩でもよいが、多価金属の金属塩であることが好ましい。前記塩は、例えば、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、塩化バリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム又は酢酸バリウム、又はこれらの混合物であり得る。金属塩を添加すると、複合体の保持力が向上し、さらに成形品の印刷適性が向上する。
【0024】
本発明の一実施形態において、完成紙料は、セルロース繊維及び界面活性剤を含む発泡完成紙料の形態で提供される。そのような発泡完成紙料は、例えば、水及び界面活性剤を含むフォームを提供し、フォーム中にセルロース繊維を組み込むことによって達成することができる。
【0025】
完成紙料中に存在する界面活性剤は、完成紙料に積極的に添加されていてもよく、又はパルプから生じる界面活性剤であるか、又はパルプ調製物中に化学物質と共に添加されていてもよい。
【0026】
本発明の方法によって形成された連続ウェブは、セルロース繊維又は他の天然若しくは合成繊維及び/又はミクロフィブリル化セルロース若しくはナノファイバーセルロースなどのフィブリルなどの繊維及び/又はセルロース材料を含む。ウェブは、前記ウェブの総乾燥含量を基準にして、好ましくは少なくとも50重量%、より好ましくは少なくとも70重量%の量の繊維又はセルロース材料を含む。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態では、本方法によって形成されたウェブは紙又は板紙プライである。本発明による紙又は板紙プライの形成は、望ましくない場所での発泡、バリヤー特性の低下、水処理施設における望ましくない効果などの、プロセス中の過剰の界面活性剤によって以前に引き起こされた問題を減少させる。形成された板紙のプライは、多層板紙構造における層として、例えばトップ、ミドル及び/又はリバースプライとして使用することができる。本発明はさらに、その方法によって製造されたウェブを含む紙又は板紙に関する。形成された紙は、好ましくは70~200gsmの坪量を有する一方、板紙は、好ましくは200~350gsmの坪量を有する。
【0028】
本発明の別の実施形態では、本方法によって形成されたウェブはMFCフィルムである。この実施形態では、完成紙料は、完成紙料の全固形分に基づいて計算して、少なくとも50重量%、又は少なくとも70重量%、又は少なくとも85重量%の量のミクロフィブリル化セルロースを含む。
【0029】
第2の態様によれば、本発明は、繊維及び/又はフィブリルを含む紙又は板紙製造用完成紙料などの完成紙料から界面活性剤を吸着及び分離するためのMFC又はNCCの使用に関する。
【0030】
本発明の別の実施形態では、本方法によって形成されたウェブは不織布である。この実施形態では、繊維の少なくとも一部は天然繊維、合成繊維又はガラス繊維などの特殊繊維である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な説明
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)は、特許出願の文脈においては、100nm未満の少なくとも1つの寸法を有するナノスケールのセルロース粒子繊維又はフィブリルを意味するものとする。MFCは、部分的又は全体的にフィブリル化されたセルロース又はリグノセルロース繊維を含む。遊離フィブリルは100nm未満の直径を有するが、実際のフィブリル直径又は粒子サイズ分布及び/又はアスペクト比(長さ/幅)は供給源及び製造方法に依存する。最小のフィブリルは基本フィブリルと呼ばれ、約2~4nmの直径を有する(例えば、Chinga‐Carrasco、G.、Cellulose fibres, nanofibrils and microfibrils,: The morphological sequence of MFC components from a plant physiology and fibre technology point of view(セルロース繊維、ナノフィブリル及びミクロフィブリル:植物生理学及び繊維技術の視点からのMFC成分の形態学的配列)Nanoscale research letters 2011,6:417を参照のこと)。一方、ミクロフィブリルとしても定義される基本形態の原線維の凝集形態がMFCを作るときに、例えば拡張精製プロセス又は圧力降下崩壊プロセスを使用することによって得られる主な製品であることは一般的である(Fengel、D.、Ultrastructural behavior of cell wall polysaccharides(細胞壁多糖類の超微細構造挙動)、Tappi J.、1970年3月、Vol53、No.3)。供給源及び製造方法に応じて、フィブリルの長さは、約1マイクロメートルから10マイクロメートル超まで変化し得る。粗いMFCグレードは、かなりの割合のフィブリル化繊維、すなわち、気管から突き出たフィブリル(セルロース繊維)を含み、そしてある程度の量のフィブリルが気管から遊離している(セルロース繊維)。
【0032】
セルロースミクロフィブリル、フィブリル化セルロース、ナノフィブリル化セルロース(NFC)、フィブリル凝集体、ナノスケールセルロースフィブリル、セルロースナノファイバー、セルロースナノフィブリル、セルロースミクロファイバー、セルロースフィブリル、ミクロフィブリルセルロース、ミクロフィブリル凝集体及びセルロースミクロフィブリル凝集体などのMFCについての様々な頭字語がある。MFCはまた、大きな表面積、又は水中に分散したときに低い固形分(1~5重量%)でゲル様材料を形成するその能力などの様々な物理的又は物理化学的特性によって特徴付けることができる。セルロース繊維は、BET法で凍結乾燥された材料について測定した場合、形成されたMFCの最終比表面積が約1~約200m2/g、より好ましくは50~200m2/gとなる程度にフィブリル化されることが好ましい。
【0033】
シングルパス又はマルチパス精製、予備加水分解、それに続く精製又は高剪断崩壊又は原繊維の遊離のような、MFCを製造するための様々な方法が存在する。MFC製造をエネルギー効率的かつ持続可能なものにするために、通常、1つ又はいくつかの前処理工程が必要とされる。したがって、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えばヘミセルロース又はリグニンの量を減らすために、酵素的又は化学的に前処理されていてもよい。セルロース繊維は、フィブリル化の前に化学修飾されてもよく、ここでセルロース分子は、元のセルロースに見られる以外の(又はそれ以上の)官能基を含有する。そのような基には、とりわけ、カルボキシメチル(CMC)、アルデヒド及び/又はカルボキシル基(N‐オキシル媒介酸化によって得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、又は四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が含まれる。上述の方法のうちの1つにおいて修飾又は酸化された後、繊維をMFC又はナノフィブリルサイズ又はNFCに崩壊させることはより容易である。
【0034】
ナノフィブリルセルロースはいくつかのヘミセルロースを含んでもよい。量は植物源によって異なる。前処理された繊維の機械的崩壊、例えば加水分解、予備膨潤、又は酸化セルロース原料は、精製機、粉砕機、ホモジナイザー、コロイダー、摩擦粉砕機、超音波処理機、ミクロフルイダイザー、マクロフルイダイザー又は流動化装置型ホモジナイザーなどの流動化装置などの適切な装置で行われる。MFC製造方法に応じて、製品は、微粉、又はナノ結晶セルロース(NCC)、又は例えば木質繊維や製紙プロセスに存在するその他の化学物質を含有してもよい。製品はまた、効率的にフィブリル化されていない様々な量のミクロンサイズの繊維粒子を含み得る。
【0035】
MFCは、広葉樹(硬材)又は針葉樹(軟材)繊維の両方からの、木材セルロース繊維から製造される。それは、微生物源、麦藁パルプ、竹、バガスのような農業用繊維、又は他の非木材繊維源からも製造することができる。それはバージン繊維からのパルプを含むパルプ、例えば機械的、化学的及び/又は熱機械的パルプから作られるのが好ましい。また、破れた紙や再生紙から作ることもできる。
【0036】
MFCの上述の定義は、結晶性領域と非晶質領域の両方を有する複数の基本フィブリルを含み、幅5~30nm及び通常50超のアスペクト比を有するセルロースナノフィブリル材料を定義するセルロースナノフィブリル(CNF)に関する新たに提案されたTAPPI規格W13021を含むが、これに限定されない。
【0037】
ナノ結晶セルロース(NCC)は、多くの供給源からのセルロースの酸加水分解によって製造され、木、綿、麻、亜麻、麦わら、桑の樹皮、ラミー、チュニシン、藻類や細菌からのセルロースに由来し得るセルロースナノ結晶、セルロース微結晶、セルロースウィスカー及び棒状セルロース微結晶とも呼ばれる。植物セルロースから製造されたNCCは典型的には5~70nmの直径及び100~250nmの長さを有し、一方、チュニケート、藻類及び細菌からのNCCは5~70nmの直径及び100nm~数μmの長さを有する。
【0038】
比表面積は、Micromeritics Tri Star表面積分析器を使用してBET法に従って測定される。この方法によれば、MFCは、4wt%の固形分で、例えば液体窒素により凍結され、その後、凍結乾燥装置(例えば、CHRIST ALPHA 2‐4)を用いて凍結乾燥する。窒素ガスは、液体窒素の温度(t=-196℃)で乾燥サンプルに吸着される。
【0039】
本発明によれば、MFC又はNCCは、ウェブ形成プロセスにおいて白水に界面活性剤吸着剤として添加され、このプロセスは、湿式技術を使用し、好ましくは紙又は板紙の抄紙機で行われる。別の選択肢は、破砕物(broke)にMFCを添加することであり、この破砕物は界面活性剤を含む。形成されるウェブは、例えば、紙又は板紙製造用のウェブ、湿った拭き取り紙、ティッシュ、吸収剤又はMFCフィルムであり得る。
【0040】
次に、添付の概略図を参照しながら、例として本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、紙又は板紙抄紙機の成形部分を概略的に示す。
【実施例】
【0042】
図1を参照して、本発明の一実施形態によれば、セルロース繊維及び界面活性剤を含む完成紙料は、ヘッドボックス(1)からフォーミングワイヤ(2)上に塗布される。
【0043】
紙又は板紙の製造の実施形態において、完成紙料は、紙又は板紙製造のための当技術分野において周知のさらなる添加剤、例えば、粘土、タルク、シリカ、及び/又は炭酸カルシウムなどの充填剤、染料、蛍光増白剤、湿潤紙力剤、強度剤、固定剤、殺生物剤、サイズ剤、排水剤及び歩留り向上剤などの化学薬品等を含んでもよい。完成紙料は、水、繊維、界面活性剤及び他の添加剤の混合物であり、通常は、ヘッドボックスで例えば0.5~2%の濃度を有する。完成紙料は、硬材及び/又は軟材繊維からの化学的又は機械的パルプを含み得る。それはまた、再生パルプ、脱インキパルプ、被覆又は非被覆破砕物又は種々のパルプの混合物を含有することができる。パルプは合成繊維も含み得る。
【0044】
完成紙料がワイヤ上に塗布されシートを形成した後、白水がワイヤ(2)を経由してシートから排出され、そして少なくとも部分的に、循環ループ(4)において完成紙料調製物に再循環される。本発明によれば、MFC又はNCCは、それがシートから排出された後、しかしそれが紙料調合物に再循環される前に、白水(5)に添加される。この段階で、白水は、表面処理剤に加えて、繊維、微粉及び化学薬品を含むことができ、通常0.5%未満、例えば0.01‐0.5%又は0.01‐0.3%の濃度を有する。そのような低い濃度では、添加されたMFC又はNCCは白水中に存在する表面処理剤と効率的に複合体を形成することができる。
【0045】
完成紙料調製物に再循環される前に、白水は1回又は数回の分離工程、例えばスクリーニング、クリーニング及び/又はフローティング工程を通過し、ここで価値のある繊維及び化学薬品が集められる。少なくとも1つのそのような分離工程において、形成されたMFC‐界面活性剤複合体(又は形成されたNCC‐界面活性剤複合体)は白水の一部から分離されてもよい。このような複合体は、その後、調整された量で紙料調合物中の完成紙料に添加される。あるいは、MFC‐又はNCC‐界面活性剤複合体は、白水と共に紙料調製物に直接再循環されてもよい。
【0046】
この方法は、乾燥、プレス、表面サイジング、コーティング及び/又はカレンダー加工のような、最終紙又は板紙を製造するための当技術分野において公知のさらなる工程を含み得る。
【0047】
本発明の好ましい一実施形態では、ウェブを形成する方法はフォーム形成を含み、この場合、ウェブは発泡完成紙料懸濁液から形成される。これは、完成紙料がヘッドボックスから成形ワイヤに供給されるときに完成紙料を発泡懸濁液に変えることによって達成することができる。フォーム形成はより高い嵩を生じさせ、これはティッシュペーパー又は板紙の製造において特に有用である。この実施形態では、セルロース繊維及び界面活性剤を含む完成紙料は、ワイヤ上に塗布される前に発泡される。完成紙料の発泡は、水性完成紙料を激しい剪断作用にさらすことによって達成することができ、それによって空気は完成紙料中に非常に小さい泡の形で散布される。発泡完成紙料懸濁液をワイヤ上に塗布して繊維ウェブを形成した後、ウェブから白水を排出し、それにMFC又はNCCを添加してからそれを紙料調製品に再循環させる。前述のように、それによって形成されたMFC又はNCC界面活性剤の複合体は分離され、制御された量でストック調製物中の完成紙料にリサイクルされてもよい。
【0048】
本発明の方法は、MFCフィルムを製造するためにも使用され得る。この実施形態では、MFC懸濁液をワイヤ上に、好ましくは0.1~1重量%の濃度で塗布する。懸濁液は、懸濁液の固形分の重量を基準にして、通常70重量%超又は80重量%超のMFC繊維、及び界面活性剤を含む。ウェブがワイヤ上に配置された後、フィルムを形成するために脱水される。排水された白水はMFC懸濁液の調製に再循環される。第二に、追加のMFCを、MFC懸濁液の調製に再循環させる前に、排出した白水に添加する。前記第2のMFCは、前記第1のMFCよりも大きい表面積を有することが好ましい。本発明の方法によって形成されたフィルムは、好ましくは、500ml/m2/日未満、又は100ml/m2/日未満、又は50ml/m2/日未満、又は10ml/m2/日未満又は1ml/m2/日未満の酸素透過率(OTR)を有する。フィルムは、50g/m2未満、又は好ましくは35g/m2未満、25g/m2未満、又は20g/m2未満の坪量を有する。