(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】情報記録媒体基板用ガラス、情報記録媒体基板、情報記録媒体および記録再生装置用ガラススペーサ
(51)【国際特許分類】
C03C 3/087 20060101AFI20221027BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20221027BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20221027BHJP
G11B 5/73 20060101ALI20221027BHJP
G11B 17/038 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
C03C3/087
C03C3/091
C03C3/093
G11B5/73
G11B17/038
(21)【出願番号】P 2019523906
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021546
(87)【国際公開番号】W WO2018225725
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2017114565
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩一
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/033800(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/029902(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/021539(WO,A1)
【文献】特開2001-39732(JP,A)
【文献】特開2000-187828(JP,A)
【文献】特開2001-19491(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0210962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
G11B5/73
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%表示にて、
SiO
2含有量が55~68%、
B
2O
3含有量が0~5%、
Al
2O
3含有量が1~14%、
MgO含有量が8~23%、
CaO含有量が1~10%、
Li
2O含有量が5~18%、
Li
2O、Na
2OおよびK
2Oの合計含有量が5~18%、
ZrO
2、TiO
2、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、
Li
2OとMgOとの合計含有量が20~32%、
アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi
2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li
2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、
アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO
2含有量のモル比(SiO
2/アルカリ金属酸化物)が3~13、
CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)が1.0~6.0、
Li
2
OおよびNa
2
Oとの合計含有量に対するAl
2
O
3
含有量のモル比{Al
2
O
3
/(Li
2
O+Na
2
O)}が0.25~1.25、
であり、
ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスである情報記録媒体基板用または記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス。
【請求項2】
モル%表示にて、
SiO
2
含有量が58~65%、
B
2
O
3
含有量が0~5%、
Al
2
O
3
含有量が1~14%、
MgO含有量が8~23%、
CaO含有量が1~10%、
Li
2
O含有量が5~18%、
Li
2
O、Na
2
OおよびK
2
Oの合計含有量が5~18%、
ZrO
2
、TiO
2
、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、
Li
2
OとMgOとの合計含有量が20~32%、
アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi
2
OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li
2
O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、
アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO
2
含有量のモル比(SiO
2
/アルカリ金属酸化物)が3~13、
Li
2
OおよびNa
2
Oとの合計含有量に対するAl
2
O
3
含有量のモル比{Al
2
O
3
/(Li
2
O+Na
2
O)}が0.25~1.25、
であり、
ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスである情報記録媒体基板用または記録再生装置用ガラススペーサ用のガラス。
【請求項3】
CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)が1.0~6.0の範囲である、請求項2に記載のガラス。
【請求項4】
Al
2O
3とZrO
2との合計含有量に対するSiO
2とCaOとの合計含有量のモル比{(SiO
2+CaO)/(Al
2O
3+ZrO
2)}が5.0~25.0の範囲である、請求項1
~3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項5】
MgOとCaOとの合計含有量が15~35%の範囲である、請求項1
~4のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項6】
アルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/アルカリ土類金属酸化物)が0.5以上である、請求項1~
5のいずれか1項に記載
のガラス。
【請求項7】
TiO
2含有量が0~5%の範囲である、請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項8】
ZrO
2含有量が0~3モル%の範囲である、請求項1~7のいずれか1項記載のガラス。
【請求項9】
比弾性率が33MNm/kg以上である、請求項1~
8のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のガラスからなる情報記録媒体基板。
【請求項11】
請求項1
0に記載の情報記録媒体基板上に情報記録層を有する情報記録媒体。
【請求項12】
請求項1~
9のいずれか1項に記載のガラスを含む記録再生装置用ガラススペーサ。
【請求項13】
請求項1
1に記載の情報記録媒体
、および
請求項1
2に記載のガラススペーサ、
の少なくとも一方を含む記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体基板用ガラス、情報記録媒体基板、情報記録媒体および記録再生装置用ガラススペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク等の情報記録媒体用の基板(情報記録媒体基板)としては、従来、アルミニウム合金製の基板(アルミニウム基板)が主に用いられていた。しかし、アルミニウム基板は、剛性は高いものの、変形しやすい、研磨後の基板表面の平滑性が十分ではない等の点が指摘されている。そのため近年、ガラス製の情報記録媒体基板が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【発明の概要】
【0004】
近年、情報記録媒体の薄型化および高密度記録化に伴い、HDD(ハードディスクドライブ)等の記録再生装置内での情報記録媒体の反りおよびたわみを低減することが求められている。例えば、HDDは、磁気ディスクの中央部分をスピンドルモータのスピンドルおよびクランプで押さえて磁気ディスクを回転させる構造となっている。この回転中に磁気ディスクの反りやたわみが発生すると、情報の書き込みまたは読み出しを行う磁気ヘッドが磁気ディスク表面と接触しやすくなる。磁気ヘッドが磁気ディスク表面との接触により衝撃を受けると、ヘッドの損傷(ヘッドクラッシュ)が発生してしまう。反りおよびたわみを低減するためには、情報記録媒体基板用のガラスの剛性が高いこと、具体的にはヤング率が高いことが望ましい。
【0005】
更に、情報記録媒体基板用のガラスは、低比重化することが望ましい。低比重化することにより情報記録媒体基板を軽量化することができるからである。基板の軽量化により、情報記録媒体の軽量化がなされ、例えばHDDにおいては磁気ディスクの回転に要する電力を減少させ、HDDの消費電力を抑えることができる。
【0006】
また、記録再生装置内での情報記録媒体表面上方における磁気ヘッドの浮上高さ(フライングハイト)は、低くするほど高密度記録化に有利である。しかし、情報記録媒体が表面平滑性に劣るものであると、磁気ヘッドが情報記録媒体表面に存在するフライングハイトよりも高い突起と接触して衝撃を受け、ヘッドクラッシュが発生してしまう。したがって、フライングハイトをより低くして更なる高密度記録化を進行させるためには、情報記録媒体の表面平滑性を高めることが望ましく、そのためには情報記録媒体基板の表面平滑性を高めることが望ましい。
一方、情報記録媒体基板の製造工程では、通常、基板に付着した異物を除去するために洗浄処理が行われる。しかし、基板を構成するガラスの化学的耐久性(例えば耐酸性および/または耐水性)が十分優れていないと、洗浄処理により表面粗れが生じてしまい、基板の表面平滑性が低下してしまう。そのため、情報記録媒体基板用のガラスには、優れた化学的耐久性を有することも望まれる。
【0007】
本発明の一態様は、剛性が高く、比重が低く、かつ化学的耐久性に優れる情報記録媒体基板用ガラスを提供する。
【0008】
本発明の一態様は、モル%表示にて、
SiO2含有量が55~68%、
B2O3含有量が0~5%、
Al2O3含有量が1~14%、
MgO含有量が8~23%、
CaO含有量が1~10%、
Li2O含有量が5~18%、
Li2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量が5~18%、
ZrO2、TiO2、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、
Li2OとMgOとの合計含有量が20~32%、
アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、
アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/アルカリ金属酸化物)が3~13、
であり、
ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスである情報記録媒体基板用ガラス、
に関する。
【0009】
上記情報記録媒体基板用ガラスは、上記ガラス組成を有することにより、ヤング率が86GPa以上の高い剛性および2.75以下の比重を兼ね備えることができ、かつ優れた化学的耐久性を示すことができる。
【0010】
本発明の一態様によれば、高剛性および低比重を有し、かつ化学的耐久性に優れる情報記録媒体基板用ガラスを提供することができる。更に、一態様によれば、上記情報記録媒体基板用ガラスからなる情報記録媒体基板、およびこの基板を含む情報記録媒体を提供することができる。更に一態様によれば、記録再生装置用ガラススペーサを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[情報記録媒体基板用ガラス]
本発明の一態様は、上記ガラス組成を有し、ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスである情報記録媒体基板用ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に関する。
【0012】
上記ガラスは、非晶質ガラスである。非晶質ガラスとは、結晶化ガラスとは異なり、結晶相を含まず、昇温によりガラス転移現象を示すガラスである。また、上記ガラスは、酸化物ガラスであることができる。酸化物ガラスとは、ガラスの主要ネットワーク形成成分が酸化物であるガラスである。
【0013】
<ガラス組成>
本発明および本明細書では、ガラス組成を、酸化物基準のガラス組成で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明および本明細書におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)等の方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本発明および本明細書において、構成成分の含有量が0%または含まない(含有しない)もしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
【0014】
以下に、上記ガラスのガラス組成について説明する。
【0015】
SiO2は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性を向上させる働きを有する。また、SiO2は、化学的耐久性の向上に寄与する成分である。上記ガラスにおけるSiO2含有量は、ヤング率を高める観点から68%以下であり、化学的耐久性を高める観点から55%以上である。SiO2含有量は、ヤング率の向上およびガラス安定性の観点から、65%以下であることが好ましく、64%以下であることがより好ましく、63%以下であることが更に好ましく、62%以下であることが一層好ましい。また、SiO2含有量は、化学的耐久性の向上の観点から、56%以上であることが好ましく、57%以上であることがより好ましく、58%以上であることが更に好ましく、59%以上であることが一層好ましい。
【0016】
B2O3もガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの比重を低下させることに寄与する成分であり、熔融性を向上させる成分でもある。B2O3は、熔融時に揮発しやすく、ガラス成分比率を不安定にしやすい。また、過剰導入により、化学的耐久性を低下させる傾向がある。以上の点から、上記ガラスにおけるB2O3含有量は、0~5%とする。B2O3含有量は、3%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましく、0.5%以下であることが一層好ましく、0.3%以下であることがより一層好ましい。
【0017】
Al2O3もガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスのヤング率を高める働きおよび化学的耐久性を向上させる働きを有する。ヤング率および化学的耐久性向上の観点から、上記ガラスにおけるAl2O3含有量は、1%以上であり、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、6%以上であることが更に好ましく、7%以上であることが一層好ましい。また、ガラスの熔解性および/または安定性の観点から、上記ガラスにおけるAl2O3含有量は、14%以下であり、13%以下であることが好ましく、12%以下であることがより好ましく、11%以下であることが更に好ましい。
【0018】
アルカリ土類金属酸化物とは、MgO、CaO、SrOおよびBaOからなる群から選ばれる一種以上である。アルカリ土類金属酸化物の中で、MgOは、ガラスのヤング率を高める働き、ならびにガラスの熔融性および/または成形性を良化する働きを有する成分である。上記の働きを良好に得る観点から、上記ガラスはMgOを必須成分として含み、MgO含有量は、8%以上であり、10%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、12%以上であることが更に好ましく、13%以上であることが一層好ましい。また、ガラス安定性の観点から、上記ガラスにおけるMgO含有量は23%以下であり、21%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、19%以下であることが更に好ましく、18%以下であることが一層好ましく、17%以下であることがより一層好ましい。
【0019】
CaOも、MgOと同様に、ガラスのヤング率を高める働き、ならびにガラスの熔融性および/または安定性を良化する働きを有する。これらの働きを良好に得る観点から、上記ガラスにおけるCaO含有量は、1%以上であり、2%以上であることが好ましく、3%以上であることがより好ましく、4%以上であることが更に好ましく、5%以上であることが一層好ましい。また、化学的耐久性の向上の観点から、上記ガラスにおけるCaO含有量は、10%以下であり、9%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、7.5%以下であることが更に好ましい。
【0020】
SrOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化する働きを有する。他方、SrOは、比重を大きくし、化学的耐久性の低下を招く成分である。以上の点を考慮し、上記ガラスにおけるSrO含有量は、0~5%であることが好ましい。SrO含有量のより好ましい範囲は、0~3%、更に好ましい範囲は0~2%、一層好ましい範囲は0~1%であり、SrOを含有しないこと、即ちSrOの含有量が0%であることが最も好ましい。
【0021】
BaOも、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化する働きを有する。他方、BaOは、比重を大きくし、化学的耐久性の低下を招く成分である。以上の点を考慮し、上記ガラスにおけるBaO含有量は、0~5%であることが好ましい。BaO含有量のより好ましい範囲は0~3%、更に好ましい範囲は0~2%、一層好ましい範囲は0~1%であり、BaOを含有しないこと、即ちBaO含有量が0%であることが最も好ましい。
【0022】
上記ガラスにおけるアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、ガラスのヤング率の向上、ならびに熔融性および/または安定性の観点から、15%以上であることが好ましく、17%以上であることがより好ましく、18%以上であることが更に好ましく、19%以上であることが一層好ましい。また、ガラスの化学的耐久性をより一層向上させる観点から、上記ガラスにおけるアルカリ土類金属酸化物の合計含有量(MgO+CaO+SrO+BaO)は、30%以下であることが好ましく、28%以下であることがより好ましく、26%以下であることが更に好ましく、25%以下であることが一層好ましい。
【0023】
MgOはガラスのヤング率を高める働きを有し、かつ他のアルカリ土類金属酸化物と比べて比重の増大を抑えることに寄与する成分である。したがって、MgOは、ガラスの高ヤング率化および低比重化のために非常に有用な成分である。そのため、上記ガラスにおいて、アルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgOの含有量のモル比{MgO/(MgO+CaO+SrO+BaO)}は、0.5以上であることが好ましい。上記モル比の下限については、0.55以上であることがより好ましく、0.60以上であることが更に好ましく、0.65以上であることが一層好ましい。また、上記モル比の上限については、ガラスの安定化の観点から、0.95以下であることが好ましく、0.90以下であることがより好ましく、0.85以下であることが更に好ましく、0.80以下であることが一層好ましい。
【0024】
上述のように、MgOとCaOは同様にガラスのヤング率を高める働きを有する。ヤング率の更なる向上の観点から、上記ガラスにおけるMgOとCaOとの合計含有量(MgO+CaO)は、15~35%であることが好ましい。上記合計量の下限については、ヤング率の更なる向上の観点から17%以上であることが好ましく、19%以上であることがより好ましく、20%以上であることが更に好ましい。上記合計量の上限については、ガラスの安定性維持の観点から、30%以下であることが好ましく、26%以下であることがより好ましく、25%以下であることが更に好ましい。
【0025】
MgOは、CaOよりもガラスのヤング率を高める働きが大きい。そのため、上記ガラスにおいて、MgO含有量は、CaO含有量と同量以上とすることが好ましい。また、アルカリ土類金属酸化物は、ガラスに単一成分のみを添加するよりも、複数種添加することで混合アルカリ土類効果が生じ、ガラスの熔融性および/または安定性を向上させることができる。そこで、上記ガラスにおいて、CaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)は、1.0~20.0であることが好ましい。上記モル比の下限については、ヤング率の更なる向上の観点から1.25以上であることが好ましく、1.50以上であることがより好ましく、1.70以上であることが更に好ましい。上記モル比の上限については、ガラスの安定性維持の観点から、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることが更に好ましく、5.0以下であることが一層好ましく、4.0以下であることがより一層好ましい。
【0026】
アルカリ金属酸化物とは、アルカリ金属(Li、Na、K、Rb、Cs、Fr)の酸化物であり、好ましくはLi2O、Na2OおよびK2Oからなる群から選ばれる一種以上である。Li2Oは、アルカリ金属酸化物の中でもガラスの熔融性および成形性を向上させる働きが強く、また、ヤング率を高めて情報記録媒体基板に好適な剛性を付与させるために好適な成分である。Li2Oは、熱膨張係数を大きくする成分でもある。他方、Li2Oは、ガラスの粘性を低下させる働きを有するので、過剰に導入すると液相温度における粘性が下がりガラスが不安定になる(失透しやすくなる)傾向がある。また、Li2Oは、ガラス転移温度を低下させる成分でもある。以上の働きを考慮し、上記ガラスにおけるLi2O含有量は、5~18%である。Li2O含有量の下限については、6%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましい。また、Li2O含有量の上限については、16%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましく、13%以下であることが更に好ましく、12%以下であることが一層好ましい。
【0027】
Na2Oについて、ガラスのヤング率の向上および化学的耐久性(特に耐酸性)の向上の観点から、上記ガラスにおけるNa2O含有量は10%以下であることが好ましい。また、ガラスを基板としたときに基板表面からのアルカリ溶出を抑制する観点からも、上記ガラスにおけるNa2O含有量は10%以下であることが好ましい。基板表面からのアルカリ溶出を抑制できることは、基板上に形成される記録層等の膜の物性が基板から溶出し析出したアルカリの影響を受けることを防ぐことができるため好ましい。Na2Oは、ガラスの熔融性および成形性を向上させ、熱膨張係数を大きくする成分でもある。Na2O含有量の好ましい範囲は、0~10%である。Na2O含有量の上限については、8%以下であることがより好ましく、6%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが一層好ましく、4%以下であることがより一層好ましく、含有しないこと(即ち含有量が0%)も好ましい。
【0028】
K2Oについて、化学的耐久性の更なる向上およびアルカリ溶出抑制の観点から、上記ガラスにおけるK2O含有量は5%以下であることが好ましい。K2Oは、ガラスの熔融性および成形性を向上させる働きを有するとともに熱膨張係数を大きくする成分でもある。上記ガラスにおけるK2O含有量は、0~5%であることが好ましく、0~3%であることがより好ましく、0~2%であることが更に好ましく、0~1%であることが一層好ましく、K2Oを含有しないこと(即ち含有量が0%)が最も好ましい。
【0029】
Li2O、Na2OおよびK2Oは、上記のようにガラスの熔融性および成形性を向上させ、熱膨張係数を大きくする成分である。これら成分の働きを良好に得る観点から、上記ガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの含有量は、5%以上である。これら成分の働きをより良好に得る観点から、その合計含有量は、6%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましい。一方、ガラスの耐熱性、アルカリ溶出の抑制および化学的耐久性の更なる向上の観点から、上記ガラスにおけるLi2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量(Li2O+Na2O+K2O)は、18%以下であり、16.5%以下であることが好ましく、15.5%以下であることがより好ましく、15.0%以下であることが更に好ましい。
【0030】
アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の中で、Li2OおよびMgOは、ガラスのヤング率を高めると共にガラスの安定性維持のために有用な成分である。そこで上記ガラスにおいて、Li2OとMgOとの合計含有量(Li2O+MgO)は、20~32%である。上記合計含有量が32%以下であれば、液相温度の上昇によりガラスの安定性が低下することを抑制することができる。Li2OとMgOとの合計含有量(Li2O+MgO)の下限は、21%以上であることが好ましく、22%以上であることがより好ましく、22.5%以上であることが更に好ましい。上記合計含有量の上限は、30%以下であることが好ましく、28.5%以下であることがより好ましく、27.5%以下であることが更に好ましい。
【0031】
また、Li2OおよびMgOは、上述のようにアルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物の中でガラスのヤング率を高めると共にガラスの安定性維持のために有用な成分である。それ故、その作用を効率的に発揮させるために、上記ガラスにおいて、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}は、0.60~0.95である。上記モル比の下限は、ガラスのヤング率向上の観点から、0.65以上であることが好ましく、0.70以上であることがより好ましく、0.72以上であることが更に好ましく、0.74以上であることが一層好ましい。上記モル比の上限は、ガラスの熔融性および/または安定性を向上させる観点から、0.90以下であることが好ましく、0.85以下であることがより好ましく、0.82以下であることが更に好ましく、0.80以下であることが一層好ましい。
【0032】
アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/アルカリ金属酸化物)は、上記ガラスにおいて3~13である。上記モル比の上限は、ヤング率向上およびガラスの熔融性向上の観点から13以下であり、11以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、9以下であることが更に好ましく、8以下であることが一層好ましい。また、上記モル比の下限は、ガラスの化学的耐久性向上の観点から3以上であり、3.5以上であることが好ましく、4.0以上であることがより好ましく、4.2以上であることが更に好ましく、4.5以上であることが一層好ましい。
【0033】
ZnOは、熔融性を向上させると共に化学的耐久性を高める働きを有する。他方、ZnOを過剰導入すると液相温度が上昇してガラスが不安定になりやすい。以上の点を考慮し、上記ガラスにおけるZnO含有量は、0~10%であることが好ましく、0~5%であることがより好ましく、0~3%であることが更に好ましく、0~1%であることが一層好ましく、ZnOを含有しなくても(即ち含有量が0%でも)よい。
【0034】
ZrO2は、化学的耐久性を向上させる働きを有すると共に、ヤング率を高める働きも有する。ただし、過剰導入によりガラスの熔融性が低下して原料の熔けの残りが生じる場合がある。以上の点を考慮し、上記ガラスにおけるZrO2含有量は、0~4%であることが好ましく、0~3%であることがより好ましく、0~2%であることが更に好ましく、0~1%であることが一層好ましく、含有しなくても(即ち含有量が0%でも)よい。
【0035】
上記のように、SiO2とAl2O3は、ガラスのネットワーク形成成分であり化学的耐久性を向上させる働きを有する。また、CaOとZrO2は、ヤング率を高める働きをする点で共通する。本発明者らは、Al2O3とZrO2との合計含有量に対するSiO2とCaOとの合計含有量のモル比(SiO2+CaO)/(Al2O3+ZrO2)を適切な範囲内とすることが、上記ガラスの安定性向上に寄与することを見出した。この点から、上記モル比は、5.0~25.0の範囲であることが好ましい。上記モル比の下限は、5.5以上であることがより好ましく、6.0以上であることが更に好ましく、6.5以上であることが一層好ましい。また、上記モル比の上限は、20以下であることがより好ましく、16以下であることが更に好ましく、14以下であることが一層好ましく、12以下であることがより一層好ましい。
【0036】
ところで、HDDにおいて外部からの振動によって情報記録媒体(磁気ディスク)自体が振動する現象は、フラッタリングと呼ばれる。このフラッタリングは、磁気ヘッドと情報記録媒体表面とが衝突してヘッドクラッシュが発生する原因となってしまう。外部から振動が加わってフラッタリングが発生しても情報記録媒体自体の振動が早期に収まれば、ヘッドクラッシュの発生を抑制することができる。この点に関して、ガラスに関してフラッタリング特性と呼ばれる指標が知られている。フラッタリング特性dは、値が小さいほどフラッタリングが早期に収まることを意味する。フラッタリング特性dは、基板を構成するガラスのヤング率E、密度ρおよび横振動内部摩擦ξ(以下、単に「内部摩擦」という。)から、d=(ρ/E)×(1/ξ)により算出される。したがって、フラッタリング特性を小さくするためには、内部摩擦ξが大きいこと、すなわち、振動吸収によるエネルギーの減少が大きいことが望ましい。この点に関して、上記ガラスにおいて、Li2OおよびNa2Oの合計含有量に対するAl2O3含有量のモル比{Al2O3/(Li2O+Na2O)}が0.25~1.25の範囲であることは、内部摩擦を大きくしてフラッタリング特性を小さくすることにより、フラッタリングによるヘッドクラッシュの発生を抑制するうえで好ましい。上記モル比は、フラッタリング特性を小さくする観点から、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、上記モル比は、1.20以下であることが好ましく、1.15以下であることがより好ましい。
【0037】
TiO2は、化学的耐久性およびガラス安定性を向上させると共に、ヤング率を高める働きを有する。ただし、ガラスの比重の上昇を招く成分である。したがって、上記ガラスにおけるTiO2含有量は、0~5%であることが好ましく、0~4%であることがより好ましく、0~3%であることが更に好ましい。
【0038】
希土類酸化物とは、希土類(Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb)の酸化物であり、好ましくはLa2O3、Y2O3、Gd2O3およびYb2O3からなる群から選ばれる一種以上である。希土類酸化物、ならびにZrO2、TiO2、SrOおよびBaOは比重の増大を招く成分である。そのため、ガラスの低比重化の観点から、上記ガラスにおけるZrO2、TiO2、SrO、BaOおよび希土類酸化物の合計含有量(ZrO2+TiO2+SrO+BaO+希土類酸化物)は、0~5%である。上記合計含有量の上限は、4%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましい。
【0039】
La2O3、Y2O3、Gd2O3およびYb2O3は、いずれも適量の導入によりガラスのヤング率を向上させることができる。他方、過剰に導入するとガラスの比重を増大させるため、上記ガラスにおけるLa2O3含有量、Y2O3含有量、Gd2O3含有量およびYb2O3含有量は、それぞれ、1%未満であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0%でもよい。
希土類酸化物の合計含有量は、ヤング率の向上および低比重化の観点から、0~3%未満であることが好ましく、より好ましくは0~2%未満であり、更に好ましくは0~1%未満であり、導入しないことが一層好ましい。
【0040】
Nb2O5、WO3およびTa2O5は、いずれも適量の導入により、ガラスのヤング率を向上させることができる。他方、過剰導入によりガラスの比重を増大させると共に材料コストが高くなる。したがって、Nb2O5、WO3およびTa2O5の合計含有量は、1%未満であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0%でもよい。
【0041】
P2O5は、少量導入することができるが、過剰導入により化学的耐久性が低下する傾向があるため、上記ガラスにおけるP2O5の含有量は0~2%であることが好ましい。P2O5の含有量は、0~1%であることがより好ましく、P2O5を含有しないこと(即ちP2O5の含有量が0%)が更に好ましい。
【0042】
上記ガラスは、清澄効果を得る観点から、Sn酸化物、Ce酸化物およびSb酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことができる。
Sn酸化物を含有するガラスについては、Sn酸化物(例えば、SnO2)の含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましく、0.15%以上であることが一層好ましい。また、Sn酸化物の含有量は、1%未満であることが好ましく、0.80%以下であることがより好ましい。一態様では、Sn酸化物含有量が0%であってもよい。
Ce酸化物を含有するガラスについては、Ce酸化物(例えば、CeO2)の含有量は、清澄効果を得る観点から、0.01%以上であることが好ましく、0.05%以上であることがより好ましく、0.10%以上であることが更に好ましい。また、Ce酸化物の含有量は、1%未満であることが好ましく、0.80%以下であることがより好ましく、0.50%以下であることが更に好ましく、0.30%以下であることが一層好ましい。一態様では、Ce酸化物含有量が0%であってもよい。
Sb酸化物を含有するガラスについては、Sb酸化物(例えばSb2O3)の含有量は、1%未満であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。一態様では、Sb酸化物含有量が0%であってもよい。
【0043】
上記ガラスは、Feを、Fe2O3に換算して、0.5%以下程度含むことができる。Feの含有量は、Fe2O3に換算して、0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることが更に好ましく、Feを含有しないことが一層好ましい。
また、上記ガラスは、Feと同様に、Cr、Mn、Fe、Cu、Ni等の遷移金属を0.5%以下程度含むことができる。これらの遷移金属の含有量は、酸化物に換算してそれぞれ0.2%以下であることが好ましく、0.1%以下であることがより好ましく、0.05%以下であることが更に好ましく、含有しないことが一層好ましい。
【0044】
Pb、Cd、As等は環境に悪影響を与える物質なので、これらの導入は避けることが好ましい。
【0045】
上記ガラスは、所定のガラス組成が得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物等のガラス原料を秤量、調合し、十分混合して、熔融容器内で、例えば1400~1600℃の範囲で加熱、熔解し、清澄、攪拌して十分泡切れがなされた均質化した熔融ガラスを成形することにより作製することができる。例えば、ガラス原料を熔解槽において1400~1550℃で加熱して熔解し、得られた熔融ガラスを清澄槽において昇温して1450~1600℃に保持した後、降温して1200~1400℃でガラスを流出し成形することが好ましい。
【0046】
<ガラス特性>
上記ガラスは、以上記載した組成調整を行うことにより、以下に記載する各種ガラス特性を有することができる。
【0047】
(ヤング率)
先に記載した情報記録媒体の剛性向上に対する要求に対応するために、情報記録媒体基板用ガラスは、高い剛性を有することが望ましい。この点に関して、上記ガラスは、剛性の指標であるヤング率が86G以上である。86G以上のヤング率を示す高い剛性を有する情報記録媒体基板用ガラスによれば、記録再生装置内での基板変形を抑制することができるため、基板変形に伴う情報記録媒体の反りおよびたわみを抑制することができる。上記ガラスのヤング率は、88GPa以上であることが好ましく、90GPa以上であることがより好ましく、92GPa以上であることが一層好ましく、93GPa以上であることがより一層好ましい。ヤング率の上限は、例えば120GPa程度であるが、ヤング率が高いほど剛性が高く好ましいため特に限定されるものではない。
【0048】
(比重)
上記ガラスの比重は2.75以下であり、2.72以下であることが好ましく、2.70以下であることがより好ましく、2.68以下であることが更に好ましく、2.66以下であることが一層好ましい。情報記録媒体基板用ガラスの低比重化により、情報記録媒体基板を軽量化することができ、更には情報記録媒体の軽量化、これによりHDD等の記録再生装置の消費電力抑制が可能になる。比重の下限は、比重が低いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0049】
(比弾性率)
比弾性率は、ガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とは、ガラスの比重に、g/cm3という単位を付けた値と考えればよい。より変形しにくい基板を提供する観点から、上記ガラスの比弾性率は33MNm/kg以上であることが好ましく、34MNm/kg以上であることがより好ましく、35MNm/kg以上であることが更に好ましく、36MNm/kgであることが一層好ましい。比弾性率の上限は、比弾性率が高いほど好ましいため特に限定されるものではない。
【0050】
(化学的耐久性)
上記ガラスは、優れた化学的耐久性を示すことができる。化学的耐久性の評価方法としては、詳細を後述する耐酸性Daおよび耐水性Dwを挙げることができる。一態様では、耐酸性Daは0.20未満であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましく、0.08以下であることが更に好ましく、0.06以下であることが一層好ましい。また、一態様では、耐水性Dwは、0.05未満であることが好ましく、0.04以下であることがより好ましく、0.03以下であることが更に好ましい。DaおよびDwは、低いほど好ましいため下限は特に限定されるものではない。
【0051】
(熱膨張係数)
情報記録媒体を組み込んだ記録再生装置、例えばHDD(ハードディスクドライブ)は、中央部分をスピンドルモータのスピンドルおよびクランプで押さえて情報記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、情報記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料との熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と情報記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として情報記録媒体が変形してしまう現象が生じる場合がある。このような現象の発生を抑制する観点からは、情報記録媒体基板用ガラスは適度な熱膨張係数を有することが望ましい。この点から、上記ガラスの100~300℃における平均線膨張係数(以下、「α」とも記載する。)は55×10-7/℃~100×10-7/℃の範囲であることが好ましく、60×10-7/℃~90×10-7/℃の範囲であることがより好ましい。
【0052】
(ガラス安定性)
上記ガラスは、一態様では、高いガラス安定性を示すことができる。ガラス安定性の評価方法としては、詳細を後述する1250℃保持テストおよび1200℃保持テストを挙げることができる。1250℃保持テストにおいて評価結果Aであることが好ましく、1250℃保持テストにおいて評価結果Aであって、かつ1200℃保持テストにおいて評価結果AまたはBであることがより好ましく、両保持テストにおいて評価結果Aであることが更に好ましい。ガラス安定性に関して、上記保持テストにおいて、より低い温度で評価結果が良好なほど、熔融状態で結晶が析出しにくいガラスであり、成形温度を下げて成形することができる。成形温度を下げるほど、発熱体、炉体、パイプ等の成形装置の構成部材の寿命を延ばすことができる。特に、プレス成形により基板ブランクを作製する場合には、成形温度は低いほど好ましい。また、成形温度を下げることができれば、ガラス粘度を上げて成形することができるため、揮発、脈理および成形泡の発生を抑制することができる。
【0053】
(ガラス転移温度)
上記ガラスは、一態様では、ガラス転移温度(以下、「Tg」とも記載する。)が620℃以下であることができる。ガラスのTgが低いことは、ガラス製造設備の劣化を抑制するうえで望ましい。Tgは、例えば615℃以下または610℃以下であることもできる。また、Tgは、例えば500℃以上であることができるが特に限定されるものではない。また一態様では、上記ガラスのTgは、620℃超(例えば625℃以上)であることもできる。Tgが高いガラスは、例えば基板上への磁気記録層の成膜時に高温に晒されたとしても、高い平坦性を維持することができる。一態様では、Tgは、例えば630℃以上、640℃以上または650℃以上であることもできる。また、一態様では、Tgは、例えば770℃以下程度であることもできるが特に限定されるものではない。上記ガラスは、高温での成膜を要する磁性材料を含む磁気記録層を有する情報記録媒体の基板用ガラスに限定されるものではないため、Tgが低いガラスであってもよい。
【0054】
[情報記録媒体基板]
本発明の一態様にかかる情報記録媒体基板は、上記情報記録媒体基板用ガラスからなる。
【0055】
情報記録媒体基板は、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを調製し、この熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを加工する工程を経て製造することができる。例えば、プレス成形方法では、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスを所定体積に切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。次いで、得られた基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシングを施す。次いで、洗浄工程(例えば酸洗浄および/またはアルカリ洗浄)を経て、ディスク状の基板を得ることができる。
【0056】
上記情報記録媒体基板は、一態様では、表面および内部の組成が均質である。ここで、表面および内部の組成が均質とは、イオン交換が行われていない(即ち、イオン交換層を有さない)ことを意味する。イオン交換層を有さない情報記録媒体基板は、イオン交換処理を施していないため、製造コストを大幅に低減できる。
【0057】
また、上記情報記録媒体基板は、一態様では、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。イオン交換層は圧縮応力を示すため、イオン交換層の有無は、主表面に対して垂直に基板を破断し、破断面においてバビネ法により応力プロファイルを得ることによって確認することができる。「主表面」とは、基板の磁気記録層が設けられる面または設けられている面である。こうした面は、情報記録媒体基板の表面のうち、最も面積の広い面であることから、主表面と呼ばれ、ディスク状の情報記録媒体の場合、ディスクの円形状の表面(中心孔がある場合は中心孔を除く。)に相当する。また、イオン交換層の有無は、基板表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によっても確認することができる。
【0058】
イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、このアルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。イオン交換(「強化処理」、「化学強化」とも呼ばれる。)については、公知技術を適用することができ、一例として、WO2011/019010A1の段落0068~0069を参照できる。
【0059】
上記情報記録媒体基板は、例えば厚みが1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1mm以下であり、厚みの下限は好ましくは0.3mmである。また、上記情報記録媒体基板は、好ましくは磁気記録媒体基板であり、より好ましくは中心孔を有するディスク形状である。
【0060】
上記情報記録媒体基板は、非晶質ガラスからなる。結晶化ガラスによると、研磨等の加工後の基板表面に結晶粒子による凹凸の影響が現れ基板の表面平滑性が低下する傾向がある。これに対し、非晶質ガラスによれば、結晶化ガラスと比べて基板に加工したときに優れた表面平滑性を実現できる。
【0061】
情報記録媒体基板の主表面の表面粗さ(Ra)は、0.25nm以下であることが好ましく、0.20nm以下であることがより好ましく、0.15nm以下であることが更に好ましい。
【0062】
[情報記録媒体]
本発明の一態様は、上記情報記録媒体基板上に情報記録層を有する情報記録媒体に関する。
【0063】
情報記録媒体の好ましい一態様は磁気記録媒体である。ディスク状の磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスク等と呼ばれ、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置などに好適である。
【0064】
情報記録媒体の構成および製造方法については、公知技術を採用できる。例えば磁気記録媒体は、一態様では、情報記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。例えば、情報記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、情報記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりC2H4を用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
【0065】
ところで近年、磁気ヘッドへDFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載させることにより、磁気ヘッドの記録再生素子部と情報記録媒体表面との間隙の大幅な狭小化(低フライングハイト化)を達成し、更なる高記録密度化を図ることが行われている。DFH機構とは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁気記録層との距離(フライングハイト)が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。しかしその一方で、磁気ヘッドの素子部と媒体表面との間隙(フライングハイト)が極めて小さくなる。表面平滑性に劣る情報記録媒体表面に磁気ヘッドを近接させると、磁気ヘッドが情報記録媒体表面に接触してヘッドクラッシュが発生するおそれがあるため、接触を防ぐためにフライングハイトをある程度確保せざるを得ない。以上の点から、情報記録媒体の表面平滑性を高めるべく、情報記録媒体基板の表面平滑性を高めることが望ましい。この点に関して、化学的耐久性に優れるガラスは、洗浄処理後による表面平滑性の低下が少ないため好ましい。かかるガラスからなる基板を備えた情報記録媒体は、フライングハイトが極狭小化されたDFH機構を搭載した記録再生装置にも好適である。
【0066】
上記情報記録媒体基板(例えば磁気ディスク基板)、情報記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はないが、例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ等の寸法のものとすることができる。
【0067】
[記録再生装置用ガラススペーサ]
本発明の一態様は、モル%表示にて、SiO2含有量が55~68%、B2O3含有量が0~5%、Al2O3含有量が1~14%、MgO含有量が8~23%、CaO含有量が1~10%、Li2O含有量が5~18%、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量が5~18%、ZrO2、TiO2、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、Li2OとMgOとの合計含有量が20~32%、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/アルカリ金属酸化物)が3~13であり、ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスを含む記録再生装置用ガラススペーサに関する。
【0068】
情報記録媒体は、記録再生装置において、情報を記録および/または再生するために用いることができる。例えば、磁気記録媒体は、磁気記録再生装置において、情報を磁気的に記録および/または再生するために用いることができる。通常、記録再生装置は、情報記録媒体をスピンドルモータのスピンドルに固定するため、および/または、複数の情報記録媒体の間の距離を保つために、スペーサを備えている。近年、かかるスペーサとして、ガラススペーサを用いることが提案されている。このガラススペーサにも、情報記録媒体基板用のガラスについて先に詳述した理由と類似の理由から、剛性が高く、比重が低く、かつ化学的耐久性に優れることが望まれる。これに対し、上記ガラスは、先に詳述した通り、高剛性および低比重を有し、かつ優れた化学的耐久性を有することができるため、記録再生装置用ガラススペーサとして好適である。
【0069】
記録再生装置用のスペーサはリング状の部材であって、ガラススペーサの構成、製造方法等の詳細は公知である。また、ガラススペーサの製造方法については、情報記録媒体基板用ガラスの製造方法および情報記録媒体基板の製造方法に関する上記記載も参照できる。また、本発明の一態様にかかる記録再生装置用ガラススペーサのガラス組成、ガラス特性等のその他の詳細については、本発明の一態様にかかる情報記録媒体基板用ガラス、情報記録媒体基板および情報記録媒体に関する上記記載を参照できる。
なお、記録再生装置用ガラススペーサは、上記ガラスからなることもでき、または上記ガラスの表面に導電性膜等の膜を一層以上設けた構成であることもできる。例えば、情報記録媒体の回転時に生じる静電気を除去するために、ガラススペーサの表面に、メッキ法、浸漬法、蒸着法、スパッタリング法等によりNiP合金等の導電性膜を形成することができる。また、ガラススペーサは、研磨加工により表面平滑性を高くすることができ(例えば、平均表面粗さが1μm以下)、これにより情報記録媒体とスペーサとの密着度を強めて位置ずれの発生を抑制することができる。
【0070】
[記録再生装置]
本発明の一態様は、
本発明の一態様にかかる情報記録媒体;および
本発明の一態様にかかるガラススペーサ、
の少なくとも一方を含む記録再生装置、
に関する。
【0071】
記録再生装置は、少なくとも1つの情報記録媒体と、少なくとも1つのスペーサを含み、更に、通常、情報記録媒体を回転駆動させるためのスピンドルモータと、情報磁気記録媒体に対して情報の記録および/または再生を行うための少なくとも1つの記録再生ヘッドを含む。
上記の本発明の一態様にかかる記録再生装置は、少なくとも1つの情報記録媒体として本発明の一態様にかかる情報記録媒体を含むことができ、本発明の一態様にかかる情報記録媒体を複数含むこともできる。上記の本発明の一態様にかかる記録再生装置は、少なくとも1つのスペーサとして本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことができ、本発明の一態様にかかるガラススペーサを複数含むこともできる。情報記録媒体とスペーサの物性が類似していることは、情報記録媒体とスペーサとの物性の相違に起因して生じる現象の発生を抑制する観点から好ましい。例えば、情報記録媒体の熱膨張係数とスペーサの熱膨張係数との差が小さいことは、両者の熱膨張係数の差に起因して生じ得る現象、例えば、情報記録媒体の歪み、情報記録媒体の位置ずれによる回転時の安定性の低下等、の発生を抑制する観点から好ましい。この観点から、本発明の一態様にかかる記録再生装置は、少なくとも1つの情報記録媒体として、また複数の情報記録媒体が含まれる場合にはより多くの情報記録媒体として、本発明の一態様にかかる情報記録媒体を含み、かつ、少なくとも1つのスペーサとして、また複数のスペーサが含まれる場合にはより多くのスペーサとして、本発明の一態様にかかるガラススペーサを含むことが好ましい。また、例えば、本発明の一態様にかかる記録再生装置は、情報記録媒体に含まれる情報記録媒体基板を構成するガラスと、ガラススペーサを構成するガラスとが、同一のガラス組成を有するものであることができる。
【0072】
本発明の一態様にかかる記録再生装置は、本発明の一態様にかかる情報記録媒体および本発明の一態様にかかるガラススペーサの少なくとも一方を含むものであればよく、その他の点については記録再生装置に関する公知技術を適用することができる。一態様では、磁気ヘッドとして、磁化反転をアシスト(磁気信号の書き込みを補助)するためのエネルギー源(例えばレーザー光源等の熱源、マイクロ波等)と、記録素子部と、再生素子部とを有するエネルギーアシスト磁気記録ヘッドを用いることができる。このような、エネルギーアシスト磁気記録ヘッドを含むエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置は、高記録密度かつ高い信頼性を有する磁気記録再生装置として有用である。また、レーザー光源等を有する熱アシスト磁気記録ヘッドを備えた熱アシスト記録方式等のエネルギーアシスト記録方式の磁気記録再生装置に用いられる情報記録媒体(磁気記録媒体)の製造時には、磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を情報記録媒体基板上に形成することが行われる場合がある。このような磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる。このような高温での処理に耐え得る高い耐熱性を有し得る情報記録媒体基板として、本発明の一態様にかかる情報記録媒体基板は好ましい。ただし、本発明の一態様にかかる記録再生装置は、エネルギーアシスト方式の磁気記録再生装置に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0074】
[ガラスNo.1~No.48]
表1(表1-1~表1-3)に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物等の原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持してから熔融ガラスを成形して、下記評価のためのガラス(非晶質の酸化物ガラス)を得た。
【0075】
[評価方法]
(1)ガラス転移温度(Tg)、平均線膨張係数(α)
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
【0076】
(2)ヤング率
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
【0077】
(3)比重
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
【0078】
(4)比弾性率
上記(2)で得られたヤング率および(3)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
【0079】
(5)耐水性Dw
各ガラスの粉末法耐水性(Dw)の測定は、日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による化学的耐久性(耐水性)の測定方法に基づき、以下の方法によって評価した。
比重に相当する質量の粉末ガラス(粒度425~600μm)を白金かごに入れ、それを純水(pH=6.5~7.5)80mlが入った石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理し、その減量率(%)を求めた。
【0080】
(6)耐酸性Da
各ガラスの粉末法耐酸性(Da)は、粉末法耐水性Dwの測定方法に準じて、以下の方法によって評価した。
比重に相当する質量の粉末ガラス(粒度425~600μm)を白金かごに入れ、それを0.01mol/L硝酸水溶液80mlが入った石英ガラス製丸底フラスコ内に浸漬し、沸騰水浴中で60分間処理し、その減量率(%)を求めた。
【0081】
(7)ガラス安定性
各ガラス100gを白金製の坩堝に入れて、炉内温度を1250℃または1200℃に設定した加熱炉内に各坩堝を投入し、炉内温度を維持したまま16時間放置(保持テスト)した。16時間経過後、加熱炉内から坩堝を取り出し、坩堝内のガラスを耐火物上に移して室温まで冷却し、各ガラスの結晶の有無を光学顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。
A:光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)して結晶が確認されない。
B:光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)して結晶が確認されるが、目視観察で結晶が確認されない。
C:目視観察で結晶が確認される。
【0082】
(8)液相温度
各ガラスについて、白金製の坩堝にガラス試料(100g)を入れて、炉内温度を所定温度に設定した加熱炉内に各坩堝を投入し、炉内温度を維持したまま16時間放置した。16時間経過後、加熱炉内から坩堝を取り出し、坩堝内のガラスを耐火物上に移して室温まで冷却し、各ガラスの結晶の有無を光学顕微鏡により観察した。光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)して結晶が認められない最低温度を液相温度とした。
液相温度は、耐失透性の指標であり、1250℃以下であることが好ましく、1220℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることが更に好ましい。
【0083】
以上の結果を表1(表1-1~表1-3)に示す。
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
表1に示す結果から、表1に示す情報記録媒体基板用ガラスは、いずれも高い剛性を有し、低比重であり、かつ化学的耐久性に優れることが確認された。
【0088】
一方、特許文献1(特開平11-302031号公報)の表1中の実施例2、6、8、9の組成を有するガラスを、上記のNo.1~No.48のガラスの作製と同様の方法で作製を試みたが、失透してしまいガラスを得ることができなかった。
【0089】
[情報記録媒体基板の作製]
(1)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。
(方法A)
表1に示す各ガラスについて、清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径66mm、厚さ1.2mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
表1に示す各ガラスについて、清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、ここでは上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。
(方法C)
熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
【0090】
(2)ガラス基板の作製
上述の各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径65mm、厚さ0.8mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。表1に示す各ガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面粗れは認められず、平滑な表面であった。
【0091】
[情報記録媒体(磁気ディスク)の作製]
以下の方法により、表1に示す各ガラスから得られたガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
【0092】
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁気記録層を順次成膜した。
【0093】
このとき、付着層は、厚さ20nmのアモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて枚葉・静止対向型成膜装置を用いて、Ar雰囲気中で、DCマグネトロンスパッタリング法にて下地層としてCrRuからなる10nm厚の層を形成した。また、磁気記録層は、酸化クロムを含有するCoCrPtからなる硬磁性体のターゲットを用いて成膜温度400℃にて成膜した。
【0094】
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブ(フライングハイト:8nm)に搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり20ギガビットの記録密度で磁気信号を記録したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(ヘッドクラッシュ)は確認されなかった。
【0095】
本発明の一態様によれば、高密度記録化に最適な情報記録媒体を提供することができる。
【0096】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0097】
一態様によれば、モル%表示にて、SiO2含有量が55~68%、B2O3含有量が0~5%、Al2O3含有量が1~14%、MgO含有量が8~23%、CaO含有量が1~10%、Li2O含有量が5~18%、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量が5~18%、ZrO2、TiO2、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、Li2OとMgOとの合計含有量が20~32%、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/アルカリ金属酸化物)が3~13であり、ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスである情報記録媒体基板用ガラスが提供される。
【0098】
上記ガラスは、高い剛性を有し、比重が低く、かつ優れた化学的耐久性を示すことができる。
【0099】
一態様では、上記ガラスのAl2O3とZrO2との合計含有量に対するSiO2とCaOとの合計含有量のモル比{(SiO2+CaO)/(Al2O3+ZrO2)}は、5.0~25.0の範囲であることができる。
【0100】
一態様では、上記ガラスのMgOとCaOとの合計含有量は、15~35%の範囲であることができる。
【0101】
一態様では、上記ガラスのCaO含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/CaO)は、1.0~20.0の範囲であることができる。
【0102】
一態様では、上記ガラスのアルカリ土類金属酸化物の合計含有量に対するMgO含有量のモル比(MgO/アルカリ土類金属酸化物)は、0.5以上であることができる。
【0103】
一態様では、上記ガラスのLi2OおよびNa2Oとの合計含有量に対するAl2O3含有量のモル比{Al2O3/(Li2O+Na2O)}は、0.25~1.25の範囲であることができる。
【0104】
一態様では、上記ガラスのTiO2含有量は、0~5%の範囲であることができる。
【0105】
一態様では、上記ガラスのZrO2含有量は、0~3モル%の範囲であることができる。
【0106】
一態様では、上記ガラスのSiO2含有量は、58~65モル%の範囲であることができる。
【0107】
一態様では、上記ガラスの比弾性率は、33MNm/kg以上であることができる。
【0108】
一態様によれば、上記情報記録媒体からなる情報記録媒体基板が提供される。
【0109】
一態様によれば、上記情報記録媒体基板上に情報記録層を有する情報記録媒体が提供される。
【0110】
一態様によれば、モル%表示にて、SiO2含有量が55~68%、B2O3含有量が0~5%、Al2O3含有量が1~14%、MgO含有量が8~23%、CaO含有量が1~10%、Li2O含有量が5~18%、Li2O、Na2OおよびK2Oの合計含有量が5~18%、ZrO2、TiO2、BaO、SrOおよび希土類酸化物の合計含有量が0~5%、Li2OとMgOとの合計含有量が20~32%、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物との合計含有量に対するLi2OとMgOとの合計含有量のモル比{(Li2O+MgO)/(アルカリ金属酸化物+アルカリ土類金属酸化物)}が0.60~0.95、アルカリ金属酸化物の合計含有量に対するSiO2含有量のモル比(SiO2/アルカリ金属酸化物)が3~13であり、ヤング率が86GPa以上かつ比重が2.75以下の非晶質ガラスを含む記録再生装置用ガラススペーサが提供される。
【0111】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる情報記録媒体基板用ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。