(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】ダンパおよび操作ユニット
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20221027BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20221027BHJP
F16C 11/06 20060101ALI20221027BHJP
G05G 1/30 20080401ALI20221027BHJP
G05G 5/03 20080401ALI20221027BHJP
B60K 23/02 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
F16F15/02 E
F16F15/06 G
F16C11/06 Z
G05G1/30 E
G05G5/03 Z
B60K23/02 M
(21)【出願番号】P 2019537587
(86)(22)【出願日】2018-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2018030416
(87)【国際公開番号】W WO2019039377
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2017160650
(32)【優先日】2017-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮平
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-148443(JP,A)
【文献】特開2015-182686(JP,A)
【文献】特開2013-203165(JP,A)
【文献】特開昭63-141888(JP,A)
【文献】特許第4905078(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/06
F16C 11/06
G05G 1/30
G05G 5/03
B60K 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心に沿って移動する移動部材を制動するダンパであって、
前記移動部材を前記軸心周りに囲む内壁を有し、当該内壁に、前記軸心の周りを囲む螺旋状のカム溝を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材とともに前記軸心に沿って移動する摩擦発生部と、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材の変位量に応じた弾性力で、前記摩擦発生部を、前記移動部材に押し当てる方向に付勢する弾性部材と、を備え、
前記摩擦発生部は、
前記移動部材からの力を受けて前記弾性部材側に変位する第一の摩擦部材と、
前記弾性部材を圧縮しながら前記弾性部材側に変位する第二の摩擦部材と、
前記カム溝に挿入されたガイド突起部を外周面に有し、前記第一および第二の摩擦部材の間で押圧されながら前記第一および第二の摩擦部材とともに前記軸心に沿って移動するとともに、前記カム溝により前記ガイド突起部が案内されて前記軸心の周りに回転する第三の摩擦部材と、を有し、
前記第三の摩擦部材には、前記軸心が通過する位置に貫通穴が形成され、
前記第一および第二の摩擦部材のうち一方の摩擦部材は、前記第三の摩擦部材の貫通穴に挿入されたボス部を有し、他方の摩擦部材は、前記ボス部が前記第三の摩擦部材の貫通穴を介して挿入されたボス挿入穴を有し、前記ボス部の外周面および前記ボス挿入穴の内周面には、接触により前記第一および第二の摩擦部材の相対的な回転を阻止する対向面が含まれ、
前記ハウジングの内壁は、前記軸心に沿ったガイド溝を有し、
前記第一および第二の摩擦部材のうちの少なくとも一つの摩擦部材は、前記ガイド溝に挿入され、前記ハウジングに対する前記第一および第二の摩擦部材の回転を阻止しながら前記ガイド溝に案内されるガイド突起部を有する
ことを特徴とするダンパ。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパであって、
前記ハウジングは、内壁に、対向して前記カム溝を形成する一対の螺旋状のカム面を有し、
前記一対のカム面は、互いに、前記軸心の方向に対する傾斜角度が異なる
ことを特徴とするダンパ。
【請求項3】
請求項1に記載のダンパであって、
前記ハウジングは、
内壁に、前記軸心の回りを囲む螺旋状の段差面を第一のカム面として有する筒状のケース本体部材と、
前記ケース本体部材の内部に当該ケース本体部材の内壁に沿って配置されたライナー部材と、を備え、
前記ライナー部材は、
前記ケース本体部材の内壁の第一のカム面に間隔をおいて対向して前記ケース本体部材の内壁の第一のカム面との間に前記カム溝を形成するための第二のカム面を有し、
前記ハウジングのカム溝は、
前記筒状のケース本体部材の第一のカム面と、前記ライナー部材の第二のカム面と、により形成されている
ことを特徴とするダンパ。
【請求項4】
請求項1に記載のダンパであって、
前記ハウジングは、
筒状のケース本体部材と、
螺旋状の第一のカム面を有し、当該第一のカム面が前記軸心の周りを囲むように前記ケース本体部材の内部に当該ケース本体部材の内壁に沿って配置された第一のライナー部材と、
螺旋状の第二のカム面を有し、当該第二のカム面が前記第一のカム面に間隔をおいて対向して当該第一のライナー部材の第一のカム面との間に前記カム溝を形成するように、前記ケース本体部材の内部に当該ケース本体部材の内壁に沿って配置された第二のライナー部材と、を備え、
前記ハウジングのカム溝は、
前記第一のライナー部材の第一のカム面と前記第二のライナー部材
の第二のカム面と、により形成されている
ことを特徴とするダンパ。
【請求項5】
請求項3または4に記載のダンパであって、
前記第一のカム面と前記第二のカム面とは、互いに、前記軸心の方向に対する傾斜角度が異なる
ことを特徴とするダンパ。
【請求項6】
軸心に沿って移動する移動部材を制動するダンパであって、
前記移動部材を前記軸心周りに囲む内壁を有し、当該内壁に、前記軸心の周りを囲む螺旋状のカム溝を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材とともに前記軸心に沿って移動する摩擦発生部と、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材の変位量に応じた弾性力で、前記摩擦発生部を、前記移動部材に押し当てる方向に付勢する弾性部材と、を備え、
前記摩擦発生部は、
前記移動部材からの力を受けて前記弾性部材側に変位する第一の摩擦部材と、
前記弾性部材を圧縮しながら前記弾性部材側に変位する第二の摩擦部材と、
前記カム溝に挿入されたガイド突起部を外周面に有し、前記第一および第二の摩擦部材の間で押圧されながら前記第一および第二の摩擦部材とともに前記軸心に沿って移動するとともに、前記カム溝により前記ガイド突起部が案内されて前記軸心の周りに回転する第三の摩擦部材と、を有し、
前記ハウジングは、内壁に、対向して前記カム溝を形成する一対の螺旋状のカム面を有し、
前記一対のカム面は、互いに、前記軸心の方向に対する傾斜角度が異なる
ことを特徴とするダンパ。
【請求項7】
請求項6に記載のダンパであって、
前記ハウジングの内壁は、さらに、前記軸心に沿ったガイド溝を有し、
前記第一および第二の摩擦部材の外周面は、それぞれ、前記ガイド溝に挿入され、前記ガイド溝に案内されるガイド突起部を有する、
ことを特徴とするダンパ。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちのいずれか1項に記載のダンパであって、
前記移動部材はボールジョイントを有し、
前記第一の摩擦部材は、前記ボールジョイントのボール部を回転可能に保持するボールシートを有することを特徴とするダンパ。
【請求項9】
ユーザから操作を受け付けて移動する操作部材と、
前記操作部材に対して、前記操作により前記操作部材が移動する側に配置された請求項1ないし8のいずれか一項に記載のダンパと、
前記操作部材と前記ダンパとの間に配置され、前記操作部材の移動に応じて軸心方向に往復移動し、前記ダンパにより制動される移動部材と、
を備えることを特徴とする操作ユニット。
【請求項10】
請求項9に記載の操作ユニットであって、
前記操作部材として、ユーザによる踏み込み操作を受け付けるペダルが連結されたペダルアームを備えることを特徴とする操作ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒステリシス特性を有する直動型の摩擦発生機構に係り、例えば、自動車のクラッチバイワイヤシステム等、ユーザによるペダル操作を電気信号によりアクチュエータに伝達するシステムにおいて、より快適なペダル踏み応えを実現可能な直動型のダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対のカムを含むダンパのヒステリシス特性を利用して、アクセルペダルの踏み込みに適度な負荷を与えるとともに、アクセルペダルをほぼ一定の位置に保持しているときのドライバの足にかかる負担を低減するアクセルペダルユニットが記載されている。
【0003】
このアクセルペダルユニットにおいては、アクセルペダルアームの回転がロータリダンパに伝達し、これによりアクセルペダルアームの双方向の回転が制動される。具体的には、アクセルペダルアームの回転によってロータリダンパが作動するように、アクセルペダルアームの回転軸が延長され、この回転軸にロータリダンパが取り付けられている。これにより、アクセルペダルアームの回転軸がロータリダンパの回転軸を兼ねるため、アクセルペダルアームが回転すると、アクセルペダルアームの回転方向に応じた方向にロータリの回転軸が回転し、ロータリダンパのヒステリシス特性により、アクセルペダルの踏み込み時には適度な負荷が与えられ、アクセルペダルの復帰時には負荷が軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ペダル踏み込み時にドライバの足に適度な負荷が与えられる一方でペダル保持中にはドライバの足にかかる負荷が低減するというペダル操作感をクラッチバイワイヤシステムにおいても実現しようとすれば、上記従来のアクセルペダルユニットと同様なロータリダンパを組み込んだ特別なクラッチペダルユニットをクラッチバイワイヤシステムに搭載する必要がある。
【0006】
ところが、上記従来のアクセルペダルユニットと同様にクラッチペダルユニットにロータリダンパを取り付けると、ロータリダンパを取り付けた分だけ、クラッチペダルユニットのサイズがクラッチペダルアームの回転軸方向に大きくなる。このため、このようなクラッチペダルユニットを自動車に搭載するには、より広い取付けスペースを確保する必要がある。
【0007】
一方、クラッチのバイワイヤ化によりマスタシリンダが不要となるため、マスタシリンダの取付けスペースをそのままダンパの取付けスペースとして利用できれば便利である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的のひとつは、軸心に沿って往復移動する移動部材を、ヒステリシス特性を有する制動力で制動可能なダンパを提供することにある。さらに他の目的は、マスタシリンダ取付けスペースに相当するスペースをダンパ取付けスペースとして利用可能な構造を有するコンパクトな操作ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、
軸心に沿って移動する移動部材を制動するダンパであって、
前記移動部材を前記軸心周りに囲む内壁を有し、当該内壁に、前記軸心の周りを囲む螺旋状のカム溝を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材とともに前記軸心に沿って移動する摩擦発生部と、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材の変位量に応じた弾性力で、前記摩擦発生部を、前記移動部材に押し当てる方向に付勢する弾性部材と、を備え、
前記摩擦発生部は、
前記移動部材からの力を受けて前記弾性部材側に変位する第一の摩擦部材と、
前記弾性部材を圧縮しながら前記弾性部材側に変位する第二の摩擦部材と、
前記カム溝に挿入されたガイド突起部を外周面に有し、前記第一および第二の摩擦部材の間で押圧されながら前記第一および第二の摩擦部材とともに前記軸心に沿って移動するとともに、前記カム溝により前記ガイド突起部が案内されて前記軸心の周りに回転する第三の摩擦部材と、を有し、
前記第三の摩擦部材には、前記軸心が通過する位置に貫通穴が形成され、
前記第一および第二の摩擦部材のうち一方の摩擦部材は、前記第三の摩擦部材の貫通穴に挿入されたボス部を有し、他方の摩擦部材は、前記ボス部が前記第三の摩擦部材の貫通穴を介して挿入されたボス挿入穴を有し、前記ボス部の外周面および前記ボス挿入穴の内周面には、接触により前記第一および第二の摩擦部材の相対的な回転を阻止する対向面が含まれ、
前記ハウジングの内壁は、前記軸心に沿ったガイド溝を有し、
前記第一および第二の摩擦部材のうちの少なくとも一つの摩擦部材は、前記ガイド溝に挿入され、前記ハウジングに対する前記第一および第二の摩擦部材の回転を阻止しながら前記ガイド溝に案内されるガイド突起部を有する
ことを特徴とするダンパを提供する。
また、本発明の他の態様は、
軸心に沿って移動する移動部材を制動するダンパであって、
前記移動部材を前記軸心周りに囲む内壁を有し、当該内壁に、前記軸心の周りを囲む螺旋状のカム溝を有する筒状のハウジングと、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材とともに前記軸心に沿って移動する摩擦発生部と、
前記ハウジング内に配置され、前記移動部材の変位量に応じた弾性力で、前記摩擦発生部を、前記移動部材に押し当てる方向に付勢する弾性部材と、を備え、
前記摩擦発生部は、
前記移動部材からの力を受けて前記弾性部材側に変位する第一の摩擦部材と、
前記弾性部材を圧縮しながら前記弾性部材側に変位する第二の摩擦部材と、
前記カム溝に挿入されたガイド突起部を外周面に有し、前記第一および第二の摩擦部材の間で押圧されながら前記第一および第二の摩擦部材とともに前記軸心に沿って移動するとともに、前記カム溝により前記ガイド突起部が案内されて前記軸心の周りに回転する第三の摩擦部材と、を有し、
前記ハウジングは、内壁に、対向して前記カム溝を形成する一対の螺旋状のカム面を有し、
前記一対のカム面は、互いに、前記軸心の方向に対する傾斜角度が異なる
ことを特徴とするダンパを提供する。
【0010】
また、本発明は、
ユーザから操作を受け付けて移動する操作部材と、
前記操作部材に対して、前記操作により前記操作部材が移動する側に配置された前記ダンパと、
前記操作部材と前記ダンパとの間に配置され、前記操作部材の移動に応じて軸心方向に往復移動し、前記ダンパにより制動される移動部材と、
を備えることを特徴とする操作ユニットを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダンパにおいて、移動部材の往復直線運動が摩擦部材の回転運動に変換され、この摩擦部材に、移動部材の変位量に応じた弾性力で他の摩擦部材が押し当てられるため、軸心に沿って移動する移動部材に、ヒステリシス特性を有する制動力(往路と復路とにおいて大きさの異なる反力)を与えることができる。また、操作ユニットのマスタシリンダ取付けスペースに相当するスペースをこのダンパ取付けスペースとして利用することにより、コンパクトな操作ユニットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係るダンパ100が組み込まれたクラッチペダルユニットにおけるクラッチペダルアーム10とダンパ100との位置関係を示す概略図である。
【
図2】
図2は、プッシュロッド8を含めたダンパ100の部品展開図である。
【
図3】
図3(A)は、プッシュロッド8の正面図であり、
図3(B)および
図3(C)は、プッシュロッド8の左側面図および右側面図である。
【
図4】
図4(A)および
図4(B)は、回転摩擦ディスク6の正面図および側面図であり、
図4(C)は、
図4(A)のA-A断面図である。
【
図5】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、回転摩擦ディスク6に対してカバー9側に配置される摩擦ディスク7の正面図、右側面図および背面図であり、
図5(D)は、
図5(A)のB-B断面図である。
【
図6】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、回転摩擦ディスク6に対してコイルスプリング40側に配置される摩擦ディスク5の正面図、右側面図および背面図であり、
図6(D)は、
図6(A)のC-C断面図である。
【
図7】
図7(A)および
図7(B)は、ケース3の軸方向断面図および右側面図であり、
図7(C)は、ケース3の内壁31の展開図である。
【
図8】
図8(A)は、クラッチペダルが踏み込まれていない状態(初期状態)の制動機構収容室20内における3枚の摩擦ディスク5~7の位置を説明するための概略図であり、
図8(B)は、クラッチペダル踏み込み時の制動機構収容室20内における3枚の摩擦ディスク5~7の位置を説明するための概略図である。
【
図9】
図9(A)および
図9(B)は、ケース本体部材300の軸方向断面図および右側面図である。
【
図11】
図11(A)~(C)は、摩擦ディスク7のボス部75と摩擦ディスク5のボス挿入穴54とのはめ合い状態例を示した断面である。
【
図12】
図12は、プッシュロッド8Aの先端部と摩擦ディスク7Aとの結合部分の断面図である。
【
図13】
図13(A)および
図13(B)は、先端面86Aにボールジョイント800が取り付けられたプッシュロッド8Aの正面図および右側面図である。
【
図14】
図14(A)、
図14(B)は、ボール部801を回転可能に保持するボールシート700の正面図および平面図であり、
図14(C)は、
図14(A)のD-D断面図である。
【
図15】
図15(A)、
図15(B)および
図15(C)は、ボールシート700がはめ込まれる摩擦ディスク7Aの正面図、右側面図および背面図であり、
図15(D)は、
図15(A)のE-E断面図である。
【
図16】
図16は、2種類のライナー部材350、370により形成されるカム溝33を内壁に有するケースの構造を説明するための図である。
【
図17】
図17(A)は、円筒部材360の正面図、
図17(B)は、
図17(A)のF-F断面図であり、
図17(C)は、カバー361の軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の一形態について説明する。なお、本実施の形態では、クラッチバイワイヤシステムのクラッチペダルユニットに組み込まれるダンパ100を一例に挙げる。
【0014】
図1は、本実施の形態に係るクラッチペダルユニットにおけるクラッチペダルアーム10とダンパ100との位置関係を示す概略図であり、
図2は、本実施の形態に係る、プッシュロッド8を含めたダンパ100の部品展開図である。
【0015】
図示するように、本実施の形態に係るダンパ100は、クラッチペダルの踏み込み操作に応じて回転軸12周りに揺動するクラッチペダルアーム10の下側(クラッチペダルの踏み込みによりクラッチペダルアーム10が移動する側)に配置され、クラッチペダルアーム10に一端部(後述のペダルアーム連結部82)が連結されたプッシュロッド8をこのプッシュロッド8の軸心Oに沿って往復可能に支持する直動式のダンパであり、例えば、プッシュロッド8の他端部側(先端部側)がその軸心O方向にロッド挿入口90から挿入される円筒状のハウジング2と、ハウジング2の内部(後述の制動機構収容室20)に収容され、ヒステリシス特性を有する制動力でプッシュロッド8を制動する制動機構と、を有している。このようなダンパ100は、従来の油圧クラッチのマスタシリンダとほぼ同様な円筒状の外形を有しているため、クラッチのバイワイヤ化により不要となったマスタシリンダ取付けスペースつまりデッドスペースを利用してクラッチペダルユニットのブラケット17に取り付けることができる。
【0016】
ここで、ハウジング2は、例えば、プッシュロッド8を軸心O周りに囲む内壁31に螺旋状のカム溝33が形成された中空筒状の底付きケース3と、このケース3の開口部30をふさぐカバー9と、を有しており、その内部には、制動機構の収容空間(
図8参照)として、ケース3の内壁31および底部32とカバー9の裏面(ケース3の底部32側に向けられる面)91とに囲まれた円柱状の室(以下、制動機構収容室)20が形成されている。
【0017】
一方、制動機構は、プッシュロッド8とともに制動機構収容室20の軸心Oに沿って往復移動しながら摩擦ディスク5~7間に摩擦を生じさせる摩擦発生部1と、摩擦発生部1とケース3の底部32との間に配置され、プッシュロッド8の変位量(摩擦発生部1の変位量)に応じた弾性力で摩擦発生部1を一体としてカバー9側に付勢する弾性体4と、を備えている。なお、弾性体4は、適当な弾性係数を有し、プッシュロッド8のストローク全域において摩擦発生部1をカバー9に向けて一体として付勢できるものであればよく、本実施の形態では、このような弾性体4としてコイルスプリング40を用いている。
【0018】
摩擦発生部1は、コイルスプリング40の一端部41上に制動機構収容室20の軸心O方向に重ね合わされた複数の摩擦ディスク5~7を有しており、ケース3の内壁31の螺旋状のカム溝33を利用してこれらの摩擦ディスク5~7を相対的に回転させることにより、隣接摩擦ディスクの摺動面間に、プッシュロッド8の変位量に応じた摩擦を生じさせる。例えば、摩擦発生部1は、このような摩擦ディスク5~7として、コイルスプリング40の一端部41に装着される摩擦ディスク5と、プッシュロッド8の先端部(後述のシャフト部81の小径部84)に装着される摩擦ディスク7と、これら2枚の摩擦ディスク5、7間に挟み込まれ、ケース3の内壁31のカム溝33とのかみ合いにより制動機構収容室20の軸心O周りに回転する回転摩擦ディスク6と、を有している。
【0019】
クラッチのバイワイヤ化により不要となったマスタシリンダ取付けスペースを活用して、このような構成を有するダンパ100を、プッシュロッド8に連動して制動機構が作動する姿勢でクラッチペダルユニットに組み込むことにより、クラッチペダルの踏み込みに応じて制動機構収容室20の軸心O方向に往復移動するプッシュロッド8に対して、要求されるペダル操作感に応じたヒステリシス特性を有する制動力(往路と復路とにおいて大きさの異なる反力)を与えることができる。以下、制動対象のプッシュロッド8と、このダンパ100を構成する各部(ハウジング2および制動機構)とについてそれぞれ詳細に説明する。
【0020】
(1)プッシュロッド8
図3(A)は、プッシュロッド8の正面図であり、
図3(B)および
図3(C)は、
図3(A)の左側面図および右側面図である。
【0021】
このプッシュロッド8は、一方の端面(後端面)85がクラッチペダルアーム10側に向くように、他方の端面(先端面)86側からハウジング2のロッド挿入口90に挿入される。図示するように、プッシュロッド8には、後端面85側から順に、クラッチペダルアーム10に連結されるペダルアーム連結部82、および、ダンパ100の制動機構を作動させる段付きシャフト部81、が一体的に形成されている。
【0022】
ペダルアーム連結部82は、クラッチペダルアーム10に向けてハウジング2のロッド挿入口90からハウジング2の外部(制動機構収容室20の外部)に突き出している。このペダルアーム連結部82は、例えば円柱形状を有しており、その端面(プッシュロッド8の後端面)85には、クラッチペダルアーム10を回転自在に保持するクレビスジョイント16を固定するためのネジ穴89が形成されている。例えば、
図1に示したように、クレビスジョイント16にナット14で固定されたボルト13をこのネジ穴89にねじ込み、さらにこのボルト13とナット15とを締結することにより、クラッチペダルアーム10がプッシュロッド8に回転自在に連結される。これにより、クラッチペダルアーム10が回転軸12周りに双方向に揺動すると、クラッチペダルアーム10に連動して、プッシュロッド8がその軸心Oに沿って往復移動する。
【0023】
一方、シャフト部81は、ペダルアーム連結部82側に位置する大径部83とこの大径部83からケース3の底部32に向かって突き出した小径部84とを含む段付き円柱形状を有しており、その外周面88には、制動機構収容室20に向けられる環状の段差面87が小径部84と大径部83との境界に形成されている。クラッチペダルの全可動域においてダンパ100が機能するように、段差面87は、プッシュロッド8の後端面85からの距離L1が、クラッチペダルの踏み代に応じて定まるプッシュロッド8の最大ストロークよりも長い位置に形成されている。
【0024】
小径部84は、摩擦ディスク7のロッド挿入穴74に挿入可能な外径R1を有しており、大径部83は、摩擦ディスク7のロッド挿入穴74を段差面87が通過しないように、摩擦ディスク7のロッド挿入穴74の内径R5よりも大きな外径R2を有している。このため、プッシュロッド8の軸心Oを制動機構収容室20の軸心Oに位置合わせしながら、プッシュロッド8をその先端面86側からハウジング2のロッド挿入口90に挿入すると、摩擦ディスク7のロッド挿入穴74に小径部84が挿入され、さらにこの摩擦ディスク7の裏面71に段差面87が当接する。クラッチペダルの踏み込みによってプッシュロッド8が制動機構収容室20内部に向かって移動(
図8(A)に示した方向α)すると、ケース3の底部32に向かう方向の力が段差面87から摩擦ディスク7の裏面71に与えられるため、2枚の摩擦ディスク5、7およびその間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6は、コイルスプリング40を圧縮しながら一体として、ケース3の底部32に向かって制動機構収容室20の軸心Oに沿って移動する。このとき、回転摩擦ディスク6が、その両側に配置された摩擦ディスク5、7から、コイルスプリング40の弾性力に応じた垂直荷重を受けながら制動機構収容室20の軸心O周りに回転するため、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61とその両側の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70との間には、回転摩擦ディスク6の回転を妨げる摩擦抵抗が発生する。
【0025】
(2)ハウジング2
上述したように、ハウジング2は、ケース3およびカバー9を有しており、これらの組み立てにより制動機構収容室20を形成する。
【0026】
図7(A)および
図7(B)は、ケース3の軸方向断面図および右側面図であり、
図7(C)は、ケース3の内壁31の展開図である。
【0027】
図示するように、ケース3は、プッシュロッド8の最大ストロークよりも長い底付き中空筒形状を有しており、その開口部30の内周にはネジ部34が形成されている。一方、カバー9は円板形状を有しており、その外周には、ケース3の開口部30の内周に形成されたネジ部34に締結されるネジ部92が形成されている(
図2参照)。ケース3の開口部30にカバー9を装着して、カバー9のネジ部92とケース3の開口部30のネジ部34とを締結することにより、ハウジング2の内部には制動機構収容室20が形成される。これにより形成される制動機構収容室20の内部には、プッシュロッド8の最大ストロークより長い領域が摩擦発生部1の可動領域として制動機構収容室20の軸心O方向に確保されている。
【0028】
カバー9の中央領域には、制動機構収容室20の軸心Oが通過する位置に、プッシュロッド8のシャフト部81の外径(大径部83の外径)R2よりも大きな内径を有する貫通穴(ハウジング2のロッド挿入口)90が形成されている。後述の摩擦ディスク7のロッド挿入口74も制動機構収容室20の軸心Oが通過する位置に配置されているため、プッシュロッド8の軸心Oを制動機構収容室20の軸心Oに位置合わせしながら、このプッシュロッド8を先端面86側からハウジング2のロッド挿入口90に軸心O方向に挿入するだけで、このプッシュロッド8のシャフト部81の小径部84が摩擦ディスク7のロッド挿入口74に挿入される。
【0029】
また、ケース3の内壁31には、制動機構収容室20の軸心Oに沿ったガイド溝35が、複数(例えば3本)、制動機構収容室20の軸心O周りに等角度間隔で形成されている。後述するように、これらのガイド溝35は、それぞれ、制動機構収容室20内に配置された2枚の摩擦ディスク5、7の外周52、72に設けられた後述のガイド突起部53、73を収容しており、制動機構収容室20の軸心Oに沿って移動中の摩擦ディスク5、7のガイド突起部53、73を制動機構収容室20の軸心O方向に案内する。これにより、2枚の摩擦ディスク5、7は、制動機構収容室20の軸心O周りの回転運動が拘束された状態(つまり、それらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6の回転によるつれ回りを阻止された状態)で制動機構収容室20の軸心Oに沿って往復移動する。
【0030】
さらに、ケース3の内壁31内におけるガイド溝35間の柱面領域38には、それぞれ、制動機構収容室20の軸心O回りの螺旋に沿ったカム溝33が形成されている。後述するように、これらのカム溝33は、それぞれ、制動機構収容室20内に配置された回転摩擦ディスク6の外周62に形成されたガイド突起部63を収容しており、制動機構収容室20の軸心Oに沿って往復移動中の回転摩擦ディスク6のガイド突起部63を螺旋軌道に沿って案内する。このため、回転摩擦ディスク6は、制動機構収容室20の軸心O方向の外力を受けると、制動機構収容室20の軸心O周りに回転しながら、制動機構収容室20の軸心Oに沿って往復移動する。これにより、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61と2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70とがそれぞれ摺動する。なお、ケース3の開口部30から回転摩擦ディスク6を挿入する際にその外周62のガイド突起部63をカム溝33に挿入できるように、本実施の形態では、ケース開口部30の縁部からカム溝33の一端につながる導入口33Aが設けられている。
【0031】
また、ケース3の底部32には、制動機構収容室20の軸心Oを囲むスプリングガイド穴36が形成されている。ケース3にコイルスプリング40が挿入される際、コイルスプリング40の他方の端部42は、このスプリングガイド穴36にはめ込まれて固定される。
【0032】
なお、ケース3の外周には、必要に応じて、例えば、クラッチペダルユニットのブラケット等にダンパ100を固定するためのフランジ等が形成されてもよい。
【0033】
(3)制動機構
上述したように、制動機構は、3枚の摩擦ディスク5~7を含む摩擦発生部1とコイルスプリング40とを備えており、これらの作動により、ヒステリシス特性を有する制動力をプッシュロッド8に与える。
【0034】
図4(A)および
図4(B)は、回転摩擦ディスク6の正面図および側面図であり、
図4(C)は、
図4(A)のA-A断面図である。
【0035】
回転摩擦ディスク6は、制動機構収容室20の内径よりも小さな外径R3を有する円板形状を有しており、その外周62には、軸心O周りに等角度間隔で、ケース3の内壁31のカム溝33に対応する円柱状のガイド突起部63が形成されている。また、この回転摩擦ディスク6の中央領域には、制動機構収容室20の軸心Oが通過する位置に貫通穴(ボス挿入穴)64が形成されており、このボス挿入穴64には、ハウジング2に対する回転運動が拘束された摩擦ディスク7のボス部75が回転可能に挿入される。
【0036】
この回転摩擦ディスク6は、回転摩擦ディスク6に対してカバー9側に配置された一方の摩擦ディスク7の摺動面70に一方の面61を向け、かつ、回転摩擦ディスク6に対してケース3の底部32側に配置された他方の摩擦ディスク5の摺動面51に他方の面60を向けた状態で制動機構収容室20内に収容され、その外周62のガイド突起部63はそれぞれケース3の内壁31の対応カム溝33内に配置される。回転摩擦ディスク6が、制動機構収容室20の軸心O方向の外力を受け、この外力の方向(ケース3の底部32またはカバー9に向かう方向)に移動すると、回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63は、対応するカム溝33により螺旋軌道に沿って案内される。このため、回転摩擦ディスク6は、摩擦ディスク7のボス部75を回転軸として、移動方向により定まる回転方向にスムーズに回転する。
【0037】
この回転摩擦ディスク6の各面60、61は、回転摩擦ディスク6の回転により両側摩擦ディスク5、7の摺動面51、70と摺動する摺動面として機能する。回転摩擦ディスク6の回転に伴い一方の摺動面61と、回転摩擦ディスク6に対してカバー9側に配置された一方の摩擦ディスク7の摺動面70とが摺動すると、これらの摺動面61、70間には、両者間の摩擦係数と圧縮されたコイルスプリング40の弾性力とに応じた摩擦抵抗が作用する。同様に、回転摩擦ディスク6の他方の摺動面60と、回転摩擦ディスク6に対してコイルスプリング40側に配置された摩擦ディスク5の摺動面51との間にも、両者間の摩擦係数と、圧縮されたコイルスプリング40の弾性力に応じた摩擦抵抗が作用する。
【0038】
図5(A)、
図5(B)および
図5(C)は、回転摩擦ディスク6に対してカバー9側に配置される摩擦ディスク7の正面図、右側面図および背面図であり、
図5(D)は、
図5(A)のB-B断面図である。
【0039】
図示するように、摩擦ディスク7は、回転摩擦ディスク6とほぼ等しい外径R6を有する円板形状を有しており、その外周72には、ケース3の内壁31の各ガイド溝35に対応するガイド突起部73が軸心O周りに等角度間隔で形成されている。
【0040】
この摩擦ディスク7は、一方の面70が摺動面として回転摩擦ディスク6の一方の摺動面61に対向および面接触するように、他方の面71をカバー9側に向けた状態で制動機構収容室20に収容される。このとき、摩擦ディスク7の外周72のガイド突起部73はそれぞれケース3の内壁31の対応ガイド溝35内に配置され、このガイド溝35内を制動機構収容室20の軸心Oに沿って滑らかにスライドする。このため、摩擦ディスク7は、制動機構収容室20の軸心O方向の外力を受けると、これらのガイド溝35の内壁面(対向する側壁面35A:
図7参照)によって軸心O周りの回転を阻止された状態(つまり、回転摩擦ディスク6の回転によるつれ回りを生じずに、回転摩擦ディスク6の他方の摺動面60が摩擦ディスク7の摺動面70と摺動している状態)で、その外力の方向にスムーズに移動する。
【0041】
この摩擦ディスク7の摺動面70の中央領域には、回転摩擦ディスク6および摩擦ディスク5のボス挿入穴64、54の内径R4、R8よりも小径な円柱状のボス部75が形成されている。このボス部75は、回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64および摩擦ディスク5のボス挿入穴54に順次挿入され、さらにコイルスプリング40の一端部41内に挿入される。これにより、3枚の摩擦ディスク5~7は、ハウジング2に対する回転運動が拘束された2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51,70間にボス部75周りに回転可能な回転摩擦ディスク6が介在する状態でコイルスプリング40の一端部41上に積み重ねられる。
【0042】
さらに、このボス部75には、制動機構収容室20の軸心Oが通過する位置に貫通穴(ロッド挿入穴)74が形成されている。このロッド挿入穴74は、その内径R5がプッシュロッド8のシャフト部81の小径部84の外径R1よりも大きく、その内部にプッシュロッド8のシャフト部81の小径部84が挿入される。ケース3の底部32に向かってプッシュロッド8が移動(前進)すると、プッシュロッド8のシャフト部81の段差面87が2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6を一体としてケース3の底部32に向かって押し込む。
【0043】
図6(A)、
図6(B)および
図6(C)は、回転摩擦ディスク6に対してコイルスプリング40側に配置される摩擦ディスク5の正面図、右側面図および背面図であり、
図6(D)は、
図6(A)のC-C断面図である。
【0044】
図示するように、摩擦ディスク5は、回転摩擦ディスク6とほぼ等しい外径R7を有する円板形状を有しており、その外周52には、ケース3の内壁31の各ガイド溝35に対応するガイド突起部53が軸心O周りに等角度間隔で形成されている。この摩擦ディスク5の一方の面(裏面)50の縁部56は、裏面50に接触したコイルスプリング40の一方の端部41の外周を囲むように環状に立ち上がっている。この摩擦ディスク5は、他方の面51が摺動面として回転摩擦ディスク6の他方の摺動面60に対向および面接触するように、ケース3の底部32側に裏面50を向けて制動機構収容室20に収容され、コイルスプリング40の一方の端部41に装着される。このとき、摩擦ディスク5の外周52のガイド突起部53はそれぞれケース3の内壁31の対応ガイド溝35内に配置され、このガイド溝35内を制動機構収容室20の軸心Oに沿って滑らかにスライドすることができる。このため、この摩擦ディスク5も、制動機構収容室20の軸心O方向の外力を受けると、これらのガイド溝35によって軸心O周りの回転を阻止された状態(つまり、回転摩擦ディスク6の回転によるつれ回りを生じずに、回転摩擦ディスク6の他方の摺動面60が摩擦ディスク5の摺動面51と摺動している状態)で、その外力の方向にスムーズに移動する。
【0045】
また、この摩擦ディスク5の中央領域には、制動機構収容室20の軸心Oが通過する位置に貫通穴(ボス挿入穴)54が形成されており、このボス挿入穴54には、回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64を介して摩擦ディスク7のボス部75が挿入される。
【0046】
コイルスプリング40は、ケース3の底部32側に配置された摩擦ディスク5とケース3の底部32との間に配置されている。このコイルスプリング40は、制動機構収容室20の軸心O方向全長(カバー9の裏面91からケース3の底部32までの距離)から3枚の摩擦ディスク5~7の板厚合計を差し引いた長さよりも長い自由長を有している。このため、ダンパ100の初期状態(クラッチペダルが踏み込まれていない状態:
図8(A)の状態)において、コイルスプリング40は、ケース3の底部32と摩擦ディスク5との間で圧縮(プリロード)されており、クラッチペダルの踏み込みによってプッシュロッド8が押し込まれ、2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6が一体としてケース3の底部32に向かって移動すると、摩擦ディスク5とケース3の底部32との間でさらに圧縮される。3枚の摩擦ディスク5~7は、ケース3の底部32側への変位量に応じたコイルスプリング40の弾性力で押圧されるため、回転摩擦ディスク6の両摺動面60、61は、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70から、コイルスプリング40の弾性力に応じた垂直荷重を受ける。
【0047】
このようなダンパ100は、例えば、以下の手順により、プッシュロッド8に組み付けられ、クラッチペダルユニットに組み込まれる。
【0048】
まず、ケース3の底部32のスプリングガイド穴36にコイルスプリング40の端部42がはめ込まれるように、コイルスプリング40をこの端部42からケース3の開口部30に挿入してケース3の内部に配置する。
【0049】
つぎに、3枚の摩擦ディスク5~7を、以下に示すように、ケース3の内部に順次収容してゆく。
【0050】
ケース3の内壁31のガイド溝35に摩擦ディスク5のガイド突起部53を位置合わせしながら、この摩擦ディスク5を、ケース3の底部32側に摩擦ディスク5の裏面50が向けられた状態でケース3の開口部30に挿入する。摩擦ディスク5は、ケース3の内壁31のガイド溝35にそれぞれガイド突起部53がはめ込まれた状態でケース3の開口部30に挿入されると、ケース3の底部32に向かう力(例えば自重)を受けるだけでケース3の底部32に向かってスムーズに移動する。これにより、摩擦ディスク5は、コイルスプリング40の端部41上に装着された状態でケース3の内部に配置される。
【0051】
ケース3の内壁31のカム溝33への導入口33Aに回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63を位置合わせしながら、この回転摩擦ディスク6をケース3の開口部30に挿入する。これにより回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63が導入口33Aを介してケース3の内壁31のカム溝33へ導入されるため、回転摩擦ディスク6は、ケース3の底部32に向かう力(例えば自重)を受けるだけでケース3の軸心O周りにスムーズに回転しながらケース3の底部32に向かって移動する。これにより、回転摩擦ディスク6は、他方の摺動面60を摩擦ディスク5の摺動面51に接触させた状態でケース3の内部に配置される。
【0052】
さらに、ケース3の内壁31のガイド溝35に摩擦ディスク7のガイド突起部73を位置合わせしながら、この摩擦ディスク7を、その摺動面70を回転摩擦ディスク6の摺動面61側に向けた状態でケース3の開口部30に挿入する。摩擦ディスク7は、外周72のガイド突起部73がケース3の内壁31のガイド溝35にはめ込まれた状態でケース3の開口部30に挿入されると、ケース3の底部32に向かう力(例えば自重)を受けるだけで回転摩擦ディスク6に向かってスムーズに移動する。これにより、摩擦ディスク7のボス部75が回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64および他の摩擦ディスク5のボス挿入穴54に順次挿入されるとともに、摩擦ディスク7が、その摺動面70を回転摩擦ディスク6の一方の摺動面61に接触させた状態でケース3の内部に配置される。
【0053】
そして、ケース3の開口部30にカバー9を装着し、ケース3の開口部30のネジ部34とカバー9のネジ部92とを締結することによって、ハウジング2内に制動機構収容室20が形成される。コイルスプリング40の自由長は、制動機構収容室20の軸心O方向全長から3枚の摩擦ディスク5~7の板厚合計を差し引いた寸法よりも大きいため、制動機構収容室20に収容されたコイルスプリング40は、カバー9のネジ部92とケース3の開口部30のネジ部34との締結により、ケース3の底部32と摩擦ディスク5の裏面50との間でわずかに圧縮(プリロード)される。
【0054】
その後、プッシュロッド8の軸心Oを制動機構収容室20の軸心Oに位置合わせしながら、このプッシュロッド8を、シャフト部81側からハウジング2のロッド挿入口90に挿入する。これにより、制動機構収容室20内において、プッシュロッド8のシャフト部81の小径部84が摩擦ディスク7のロッド挿入穴74に挿入される。
【0055】
このようにしてプッシュロッド8にダンパ100を組み付けた後、マスタシリンダの代わりに、このダンパ100を、クラッチペダルユニットのマスタシリンダ取付けスペースに収容してブラケット17に固定する。
【0056】
つぎに、電動クラッチアクチュエータに組み込まれたダンパ100の動作について説明する。
【0057】
図8は、クラッチペダル踏み込み前後における制動機構収容室20内の状態変化を説明するための概略図であり、
図8(A)は、クラッチペダルが踏み込まれていない状態(初期状態)の制動機構収容室20内における3枚の摩擦ディスク5~7の位置を示し、
図8(B)は、クラッチペダル踏み込み時の制動機構収容室20内における3枚の摩擦ディスク5~7の位置を示している。ただし、
図8(A)(B)においては、コイルスプリング40の輪郭を点線で示すことにより、制動機構収容室20の内部を簡略表示してある。
【0058】
図8(A)に示すように、ダンパ100の初期状態において、プッシュロッド8の段差面87は制動機構収容室20の外部に配置されており、2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6は、プリロードされたコイルスプリング40の弾性力によってカバー9の裏面91に一体として押圧され、制動機構収容室20内における初期位置に位置付けられている。ここで、制動機構収容室20内における摩擦ディスク5~7の初期位置とは、制動機構収容室20内における摩擦ディスク5~7の一方の移動限界位置であり、この位置における各摩擦ディスク5~7は、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70が回転摩擦ディスク6の両摺動面60、61に密着し、かつ、回転摩擦ディスク6に対してカバー側に配置された摩擦ディスク7の裏面71がカバー9の裏面91に当接している状態にある。
【0059】
ドライバがクラッチペダルを踏み込み、クラッチペダルアーム10が回転軸12周りに所定の方向に回転すると、プッシュロッド8は、クラッチペダルアーム10に連動して、ケース3の底部32に向かう方向αに移動する。なお、以下においては、ケース3の底部32に向かう方向(往路)αへの移動を前進、ケース3の底部32から遠ざかる方向(方向αの逆方向:復路)βへの移動を後退と呼ぶ。
【0060】
プッシュロッド8の前進により、プッシュロッド8の段差面87がハウジング2のロッド挿入口90から制動機構収容室20に進入して摩擦ディスク7の裏面71に当接すると、コイルスプリング40の弾性力で、2枚の摩擦ディスク5、7およびその間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6が一体としてプッシュロッド8の段差面87に押し当てられるため、回転摩擦ディスク6の両摺動面60、61は、2枚の摩擦ディスク5、7からコイルスプリング40の弾性力に応じた垂直荷重を受ける。
【0061】
その後、プッシュロッド8は、コイルスプリング40によりカバー9側に付勢された2枚の摩擦ディスク5、7および回転摩擦ディスク6をケース3の底部32に向けて段差面87で押し込みながら前進する。
【0062】
このとき、回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63がケース3の内壁31のカム溝33により螺旋軌道に沿って案内されるため、回転摩擦ディスク6は、制動機構収容室20の軸心O周りに回転しながらケース3の底部32に向かって前進するが、2枚の摩擦ディスク5、7は、外周52、72のガイド突起部53、73とケース3の内壁31のガイド溝35との係合により回転運動を阻止されているため、回転摩擦ディスク6の回転に伴うつれ回りを生じることなくケース3の底部32に向かって前進する。すなわち、2枚の摩擦ディスク5、7およびその間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6は、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70と回転摩擦ディスク6の両摺動面60、61とを摺動させながら制動機構収容室20の内部を前進する。これにより、回転摩擦ディスク6の両摺動面60、61と2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70との間には、回転摩擦ディスク6の回転を妨げる方向に摩擦抵抗が生じ、この摩擦抵抗から生じる制動力で、回転摩擦ディスク6の前進、すなわち、ケース3の底部32に向けて回転摩擦ディスク6および摩擦ディスク5、7を押し込むプッシュロッド8の前進が妨げられる。
【0063】
このとき、
図8(B)に示すように、回転摩擦ディスク6に対してケース3の底部32側に配置された摩擦ディスク5とケース3の底部32との間隔が徐々に狭くなってゆくため、コイルスプリング40は、この摩擦ディスク5の裏面50とケース3の底部32とによってさらに圧縮されてゆく。このため、プッシュロッド8の前進にしたがって、2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6が、コイルスプリング40の弾性力によってプッシュロッド8の段差面87に対してより強く押し付けられる。これにより、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70から回転摩擦ディスク6の摺動面60、61が受ける垂直荷重が徐々に増加するため、プッシュロッド8の前進とともに、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61と2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70との間の摩擦抵抗が徐々に増大してゆき、それに伴い、プッシュロッド8の前進を妨げる制動力も増大する。
【0064】
このように、プッシュロッド8の前進に応じて増大する摩擦抵抗により発生する制動力で前進中のプッシュロッド8が制動されるため、クラッチペダルを踏み込むドライバの足(駆動源)には、クラッチペダルの踏み込み量に応じた適度な負荷が与えられる。
【0065】
ここで、ドライバがクラッチペダルの踏み込みを一旦停止すると、プッシュロッド8の前進が停止して、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70と回転摩擦ディスク6の摺動面60、61との間に、今度は、コイルスプリング40の復元を妨げる方向(プッシュロッド8の後退を妨げる方向)の摩擦抵抗が生じる。このため、クラッチペダルを一定の位置で保持するドライバの足にかかる負荷が急激に減少する。
【0066】
ドライバがクラッチペダルの踏み込みを緩めることでクラッチペダルアーム10が逆方向に回転すると、プッシュロッド8が後退しはじめる。プッシュロッド8の後退により、プッシュロッド8の段差面87がハウジング2のロッド挿入口90に向かって後退するため、2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間の回転摩擦ディスク6も、コイルスプリング40によって一体として付勢されてプッシュロッド8とともに制動機構収容室20内を後退する。
【0067】
このとき、回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63がケース3の内壁31のカム溝33によって前進中とは逆方向に案内されるため、回転摩擦ディスク6は、前進中とは逆方向に回転しながらカバー9に向かって後退するが、2枚の摩擦ディスク5、7は、その外周52、53のガイド突起部53、73とケース3の内壁31のガイド溝35との係合により回転運動を阻止されているため、回転摩擦ディスク6の回転に伴うつれ周りを生じることなくカバー9に向かって後退する。すなわち、制動機構収容室20内において、2枚の摩擦ディスク5、7およびその間の回転摩擦ディスク6は、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70と回転摩擦ディスク6の摺動面60、61とを摺動させながら後退する。これにより、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61と2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70との間には、回転摩擦ディスク6の回転を妨げる方向に摩擦抵抗が生じ、この摩擦抵抗から生じる制動力を受けながら、回転摩擦ディスク6の後退(すなわちプッシュロッド8の後退)が徐々に行われる。
【0068】
ここで、回転摩擦ディスク6に対してケース3の底部32側に配置された摩擦ディスク5とケース3の底部32との間隔が徐々に広がってゆくため、コイルスプリング40は、ダンパ100の初期状態におけるプリロード状態に徐々に復元してゆく。このため、プッシュロッド8の後退にしたがって、2枚の摩擦ディスク5、7から回転摩擦ディスク6の摺動面60、61が受ける垂直荷重がさらに徐々に減少し、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61と2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70との間の摩擦抵抗がさらに徐々に減少してゆく。これに伴い、プッシュロッド8の後退を妨げる制動力も減少する。
【0069】
このように、プッシュロッド8の後退に応じて減少する摩擦抵抗により発生する制動力を受けながらプッシュロッド8の後退が行われ、クラッチペダルは、クラッチペダルを踏み込むドライバの足(駆動源)の動きにあわせてスムーズに初期位置に復帰する。
【0070】
以上説明したとおり、本実施の形態に係るダンパ100によれば、回転摩擦ディスク6のガイド突起部63と制動機構収容室20の内壁31に形成されたカム溝33とのかみ合いによってプッシュロッド8の往復運動が回転摩擦ディスク6の回転運動に変換されるとともに、プッシュロッド8の変位量に応じた弾性力で、回転摩擦ディスク6の摺動面60、61に摩擦ディスク5、7の摺動面51、70が押し当てられる。このため、ヒステリシス特性を有する制動力(往路と復路とにおいて大きさの異なる反力)をプッシュロッド8に与えることができる。したがって、プッシュロッド8の軸心Oに沿った所定方向の力をプッシュロッド8に与える駆動源(ドライバの足)に対して、2枚の摩擦ディスク5、7の摺動面51、70と回転摩擦ディスク6の摺動面60、61との間の摩擦抵抗から生じる制動力、すなわち、一ストロークの往路と復路とにおいて大きさの異なる反力(ヒステリシス特性を有する負荷)を与えることができる。
【0071】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0072】
例えば、本実施の形態においては、自動車のクラッチバイワイヤシステムのクラッチペダルユニットに組み込まれるダンパ100を例に挙げたが、本発明に係るダンパは、ユーザから受け付けた力により移動する操作部材に連結された移動部材の往復移動を、ヒステリシス特性を有する制動力で制動することが有用な用途に適用可能である。例えば、自動車のクラッチバイワイヤシステムに限らず、楽器、ゲーム機、各種装置等、ユーザの手足等の部位から押し操作、引き操作等の操作を受け付けて移動する操作部材(ペダルアーム、レバー、ハンドル等)に連結される直動部材を有する様々な機器に組み込むことができる。
【0073】
また、円板形状を有するネジ接合式のカバー9でケース3の開口部30をふさいでいるが、必ずしも、このようにする必要はない。例えば、ケース3の開口部30へのカバー9のねじ込み以外の方法によってコイルスプリング40をプリロード可能であれば、円板形状を有するネジ接合式のカバー9を用いる必要はない。ネジ接合式のカバー9の代わりに、ケース3の開口部30にネジ接合式以外の方式(例えば、接着、スナップフィット)で接合されて制動機構収容室20内からの部品の脱落を阻止する固定部材を用いてもよい。この固定部材は、制動機構収容室20内へのロッド挿入口90を有する円板形状のカバーであってもよいし、例えば後述の例において用いる二股の固定部材といった、円板形状の以外の形状の部材であってもよい。
【0074】
また、以下に示すように、螺旋状のカム溝33を内壁31に有するケース3を、射出成形、ダイキャスト等の成形加工によって成形が容易な形状の複数の部材を組み合わせることで構成してもよい。例えば、ケース3は、筒状のケース本体部材と、ケース本体部材の内壁に螺旋状のカム溝33を形成するためにケース本体部材内部に配置される1つ以上のライナー部材と、を備えるようにしてもよい。
【0075】
図9(A)および
図9(B)は、ケース本体部材300の軸方向断面図および右側面図であり、
図10(A)、図(B)10および
図10(C)は、ケース本体部材300および右側面図の内部に配置されるライナー部材350の正面図、平面図および底面図である。
【0076】
図示するように、ケース本体部材300は、一方の端部に開口部30が設けられた中空筒形状を有しており、その内壁には、制動機構収容室20の軸心Oに沿って前述のガイド溝35が軸心O回りにほぼ等角度間隔で形成されている。ケース本体部材300の内壁において、ガイド溝35間の領域には、それぞれ、内径の異なる柱面領域(大径柱面領域303、小径柱面領域304)が含まれており、その境界には、開口部30側に向いた段差面(以下、カム面)301と、このカム面301に向かい合う段差面306と、が形成されている。カム面301は、制動機構収容室20の軸心O回りの螺旋に沿って形成されており、主にプッシュロッド8の往路において、回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63を螺旋軌道に沿って案内し、カム面301と向かい合う段差面306は、軸心Oに沿って形成されており、主にプッシュロッド8の復路において、ライナー部材350が備える後述のライナー部352の側面358と接触して、ケース本体部材300に対するライナー部材350の軸心O回りの回転を阻止する。
【0077】
一方、ライナー部材350は、ケース本体部材300の開口部30にはめ込まれる円環状のベース部351と、ベース部351の一方の面(ケース本体部材300内部に向けられる面)354から軸心O方向に突き出すように軸心O周りにほぼ等角度間隔でベース部351の外縁部に形成されたライナー部352と、を有している。
【0078】
各ライナー部352は、ケース本体部材300の内壁のガイド溝35間の大径柱面領域303に装着されるように、この大径柱面領域303に沿って柱面状に湾曲している。また、各ライナー部352は、ケース本体部材300の内壁のカム面301の幅Tとほぼ同じ厚さを有しており、その端面には、軸心Oの回りを囲む螺旋状のカム面356と、このカム面356の反対側に位置する軸心O方向の面(以下、側面)358と、が含まれている。主にプッシュロッド8の復路において、カム面356は、回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63を螺旋軌道に沿って案内し、このとき軸心O回りの力を受けるライナー部材350の回転を、カム面356の反対側の側面358がケース本体部材300の内壁の段差面306に接触して阻止する。
【0079】
また、ベース部351の一方の面354には、周方向において隣り合うライナー部352の間の所定位置に突起部(以下、ストッパ部)353が形成されている。このストッパ部353は、ケース本体部材300の内壁のガイド溝35に挿入されて、ライナー部352のカム面356をケース本体部材300の内壁のカム面301から所定の間隔の位置に位置付ける。また、ケース本体部材300の内壁のガイド溝35へのストッパ部353の挿入により、ライナー部352の側面358が、ケース本体部材300の内壁の段差面306に対向する位置に位置付けられるため、ケース本体部材300に対するライナー部材350の回転は、ライナー部352の側面358とケース本体部材300の内壁の段差面306との接触およびストッパ部353とケース本体部材300の内壁のガイド溝35の内壁面35Aの接触によって阻止される。これにより、プッシュロッド8の往路および復路のいずれにおいても、ケース本体部材300の内壁のカム面301とライナー部352の対向カム面356との間隔が保持される。
【0080】
これらの部材300、350を以下のように組み合わせることでケース3が組み立てられる。
【0081】
コイルスプリング40を収容済みのケース本体部材300の内壁のガイド溝35に摩擦ディスク5のガイド突起部53を位置合わせしながら、ケース本体部材300の内部に摩擦ディスク5の裏面50を向けた状態で摩擦ディスク5をケース本体部材300の開口部30に挿入することによって、ケース本体部材300内部のコイルスプリング40の端部41上に摩擦ディスク5を装着する。つぎに、ケース本体部材300の内壁のカム面301上に回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63が配置されるようにケース本体部材300の開口部30に回転摩擦ディスク6を挿入することによって、摩擦ディスク5の摺動面51上に回転摩擦ディスク6を重ね合わせる。さらに、ケース本体部材300の内壁のガイド溝35に摩擦ディスク7のガイド突起部73を位置合わせしながら、この摩擦ディスク7をケース本体部材300の開口部30に挿入することによって、回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64および他方の摩擦ディスク5のボス挿入穴54に摩擦ディスク7のボス部75を順次挿入するとともに、回転摩擦ディスク6の摺動面61上に摩擦ディスク7を重ね合わせる。
【0082】
この状態において、ライナー部材350のライナー部352がそれぞれケース本体部材300のガイド溝35間の大径柱面領域303内に配置されるように、ライナー部材350をライナー部352の先端357側から軸心O方向にケース本体部材300内に挿入して、ケース本体部材300の内壁の各ガイド溝35内にライナー部材350のストッパ部353を挿入する。これにより、ライナー部材350のライナー部352は、そのカム面356とケース本体部材300の内壁のカム面301とが所定の間隔をおいて対向し、かつ、その側面358がケース本体部材300の内壁の段差面306に対向する位置に位置付けられる。これにより、ケース本体部材300の内壁には、ケース本体部材300の内壁のカム面301とライナー部材350のライナー部352のカム面356とにより所定幅の螺旋状のカム溝33が形成され、このカム溝33内に回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63が収容される。
【0083】
図9に示した例においては、ケース本体部材300の内壁にカム面301を直接形成しているが、ケース本体部材の内壁にカム面301を直接形成せずに、ケース本体部材とは別部材でカム面301をケース本体部材の内側に形成してもよい。例えば、以下のように、上述のライナー部材350のライナー部352のカム面356に所定の間隔をおいて対向するように配置されるカム面301を有する別のライナー部材370を円管状のケース本体部材300Aの内部(大径領域3601)に収容してもよい。このような構造とした場合、傾斜の異なるカム面356、301を有する複数種類のライナー部材350、370を準備しておけば、共通のケース本体部材300Aを用いて、様々な傾斜角度のカム溝33を内壁に有するケース3Aを組み立てることができる。
【0084】
図16は、2種類のライナー部材350、370により形成されるカム溝33を内壁に有するケース3Aの構造を説明するための図である。
【0085】
ハウジングは、2種類のライナー部材350、370により形成されるカム溝33を内壁に有するケース3Aと、ケース3Aの開口部30からのライナー部材350、370等の抜け出しを阻止するスナップフィット式の二股の固定部材(不図示)と、を備えている。
【0086】
図示するように、ケース3は、筒状のケース本体部材300Aと、ケース本体部材の内壁に螺旋状のカム溝33を形成するためにケース本体部材300Aの内壁に沿って配置される2種類のライナー部材350、370と、を備えている。なお、
図16においては、
図9に示したケース本体部材300に対しても同様に配置される一方のライナー部材350を省略している。
【0087】
ケース本体部材300Aは、円筒部材360と、円筒部材360一方の端部に装着されたカバー361とを含む2ピース構造を有している。
【0088】
図17(A)は、円筒部材360の正面図、
図17(B)は、
図17(A)のF-F断面図であり、
図17(C)は、カバー361の軸方向断面図である。
【0089】
図示するように、円筒部材360は、両端部に開口部30、30Aが設けられた円管形状を有している。円筒部材360の内部空間には、内径が異なる2つの領域(一方の開口部30側に位置する大径領域3601、および、他方の開口部30A側に位置する小径領域3600)が軸心O方向に並んで連続的に設けられているため、大径領域3601と小径領域3602との境界に、周方向に、一方の開口部30側に向けられた段差面3602が形成されている。この段差面3602は、一方の開口部30から円筒部材360内の大径領域3601に挿入されたライナー部材370の底面3701に当接して、他方の開口部30Aからのライナー部材370の抜け落ちを阻止する。
【0090】
円筒部材360の内壁には、一方の開口部30から段差面3602まで、軸心Oに沿った複数本のライナー部材固定溝3603がほぼ等角度間隔で形成されている。これらのライナー部材固定溝3603に、それぞれ、ライナー部材370の外周から突き出した後述のストッパ部3700が収容されるため、円筒部材360に対するライナー部材370の軸心O周りの回転が阻止される。
【0091】
円筒部材360の開口部30側の端部には、円筒部材360の直径に関して対称な位置に配置された2組の固定部材挿入穴3605A、3605Bが形成されている。各組の固定部材挿入穴3605A、3605Bにはスナップフィット式の二股の固定部材の各脚が挿し込まれ、円筒部材360内の大径領域3601に配置されたライナー部材350等の、一方の開口部30からの抜け落ちが阻止される。
【0092】
円筒部材360の小径領域3600の外周にはネジ部3604が形成されている。なお、
図16等には図示していないが、円筒部材360の外周には、必要に応じて、例えば、クラッチペダルユニットのブラケット等にダンパ100を固定するためのフランジ等が形成されてもよい。
【0093】
一方、カバー361は底付き円筒形状を有しており、その開口部3610の内周には、円筒部材360外周のネジ部3604が締結されるネジ部3611が形成されている。また、カバー361の底部3612には、軸心Oを囲む環状のスプリングガイド穴36が形成されている。このスプリングガイド穴36内にコイルスプリング40の端部42をはめ込んだ状態で、コイルスプリング40の端部41を円筒部材360の開口部30Aから挿入して円筒部材360の開口部30Aにカバー361を装着し、円筒部材360外周のネジ部3604とカバー361内周のネジ部3611とを締結することにより、コイルスプリング40は、カバー361の底部と摩擦ディスク5の裏面50との間でプリロードされた状態で制動機構収容室20に収容される。
【0094】
図18(A)は、ライナー部材370の正面図であり、
図18(B)は、
図18(A)のG-G断面図である。
【0095】
図示するように、ケース本体部材300Aの大径領域3601に収容されるライナー部材370は、ケース本体部材300Aの小径領域3600の内径よりも外径が大きな中空円筒形状を有している。このため、ケース本体部材300Aの一方の開口部30にライナー部材370を底面3701側から挿入した場合、ライナー部材370は、底面3701がケース本体部材300A内壁の段差面3602に接触して、ケース本体部材300Aの大径領域3601内に保持される。また、ケース本体部材300Aの外周には、ケース本体部材300Aの各ライナー部材固定溝3603に対応する突起部(ストッパ部)3700が軸心O方向に沿って形成されている。前述したように、ケース本体部材300Aの各ライナー部材固定溝3603内にそれぞれ対応ストッパ部3700が収容されるため、各ライナー部材固定溝3603の内壁面(対向する側壁面)とその内部のストッパ部3700との接触により、ケース本体部材300Aに対するライナー部材370の軸心O周りの回転が阻止される。
【0096】
また、ライナー部材370の表面には、
図9に示したケース本体部材300と同様な内壁面構造をケース本体部材300Aの大径領域3601内に形成する面を有している。具体的には、ケース本体部材300Aの大径領域3601内においてガイド溝35の内壁面35Aとなる面3702と、ケース本体部材300Aの大径領域3601内においてカム面301となる螺旋状の面3703と、ケース本体部材300Aの大径領域3601内においてカム面301に向かい合う段差面306となる面3704と、が含まれている。
【0097】
これらの部材300A、370および上述のライナー部材350を、例えば、以下のように組み合わせることでケース3が組み立てられる。
【0098】
ケース本体部材300A内壁の各ライナー部材固定溝3603にライナー部材370外周の対応ストッパ部3700を位置合わせしながら、ライナー部材370を底面3701側からケース本体部材300Aの開口部30に挿入することによって、ケース本体部材300A内壁の段差面3602上にライナー部材370を配置する。つぎに、このライナー部材370の螺旋状の面3703によりケース本体部材300A内に形成されたカム面301上に回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63が配置されるようにケース本体部材300Aの開口部30に回転摩擦ディスク6を挿入することによって、摩擦ディスク5の摺動面51上に回転摩擦ディスク6を重ね合わせる。さらに、ライナー部材370の面3702によってケース本体部材300内に形成されたガイド溝35に摩擦ディスク7のガイド突起部73を位置合わせしながら、この摩擦ディスク7をケース本体部材300Aの開口部30に挿入することによって、回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64および他方の摩擦ディスク5のボス挿入穴54に摩擦ディスク7のボス部75を順次挿入するとともに、回転摩擦ディスク6の摺動面61上に摩擦ディスク7を重ね合わせる。
【0099】
図9に示したケース本体部材300と同様に、ライナー部材350をライナー部352の先端357側から軸心O方向にケース本体部材300A内に挿入し、ライナー部材370の面3702によってケース本体部材300A内に形成された各ガイド溝35内にライナー部材350のストッパ部353を挿入する。これにより、ライナー部材350のライナー部352は、そのカム面356がライナー部材350の螺旋状の面3703(カム面301)と所定の間隔をおいて対向し、かつ、その側面358が、ライナー部材370の面3703によってケース本体部材300Aの内壁に形成された段差面306に対向する位置に位置付けられる。これにより、ケース本体部材300Aの内壁には、ライナー部材370のカム面301とライナー部材350のライナー部352のカム面356とにより所定幅の螺旋状のカム溝33が形成され、このカム溝33内に回転摩擦ディスク6の外周62のガイド突起部63が収容される。
【0100】
この状態において、スナップフィット式の二股の固定部材の脚間に設けられた隙間が隙間制動機構収容室20内へのロッド挿入口となるように、各脚を、一方の固定部材挿入穴3605Aからケース本体部材300A外部に突き出すまで、他方の固定部材挿入穴3605Bからケース本体部材300A内部に挿し込む。ケース本体部材300Aの開口部30に固定される固定部材により、円筒部材360内の大径領域3601に配置されたライナー部材350等の、一方の開口部30からの抜け落ちが阻止される。
【0101】
その後、コイルスプリング40の端部42をスプリングガイド穴36にはめ込んだカバー361を、コイルスプリング40の端部41が円筒部材360の開口部30Aに挿入されるように円筒部材360の端部に装着し、円筒部材360の端部外周のネジ部3604とカバー361内周のネジ部3611とを締結する。これにより、コイルスプリング40は、カバー361の底部と摩擦ディスク5の裏面50との間でプリロードされた状態で制動機構収容室20に収容される。
【0102】
なお、ここでは、2種類のライナー部材350、370により形成されるカム溝33を内壁に有するハウジングとして、2種類のライナー部材350、370が収容された2ピース構造のケース本体部材300Aとスナップフィット式の二股の固定部材(不図示)とを備えるハウジングを例に挙げたが、2種類のライナー部材350、370により形成されるカム溝33を内壁に有するハウジングは、2種類のライナー部材350、370が収容された、一方の端部に開口部300を有する底付き円筒状のケース本体部材と、このケース本体部材の開口部300にねじ込まれるカバー9と、を有するものであってもよい。
【0103】
また、上記の実施の形態においては、プッシュロッド8の外周面88に設けられた段差面87で、2枚の摩擦ディスク5、7およびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6が一体としてケース3の底部32に向かって押し込まれるようにしているが、プッシュロッドが挿入されるロッド挿入穴として底付き穴が設けられたボス部75を有する摩擦ディスク7Aを用いることによって、プッシュロッドの先端部で、2枚の摩擦ディスク5、7Aおよびそれらの間に挟み込まれた回転摩擦ディスク6がケース3の底部32に向かって一体として押し込まれるようにしてもよい。このようにする場合、例えば、
図12に示すように、先端にボールジョイント800を有するプッシュロッド8Aを用いて、このボールジョイント800のボール部801を回転可能に保持するボールシート700を摩擦ディスク7Aのボス部75の底付きロッド挿入穴内にはめ込むことにより、回転軸12周りに揺動するクラッチペダルアーム10に連結されたプッシュロッド8Aの揺動を吸収するようにしてもよい。
【0104】
図13(A)および
図13(B)は、先端面86Aにボールジョイント800が取り付けられたプッシュロッド8Aの正面図および右側面図である。
【0105】
このプッシュロッド8Aは、前述の段付シャフト部81に代えて、先端面86Aにボールジョイント800が取り付けられたシャフト部81Aを有している。ボールジョイント800のボール部801は軸心O方向に二面取りされており、その外周面に、プッシュロッド8Aの揺動範囲を規制するためのほぼ平行な2つの平坦面802が形成されている。
【0106】
図14(A)、
図14(B)は、ボール部801を回転可能に保持するボールシート700の正面図および平面図であり、
図14(C)は、
図14(A)のD-D断面図である。
図15(A)、
図15(B)および
図15(C)は、このボールシート700がはめ込まれる摩擦ディスク7Aの正面図、右側面図および背面図であり、
図15(D)は、
図15(A)のE-E断面図である。
【0107】
図示するように、摩擦ディスク7Aの摺動面70の中央領域のボス部75には、前述のロッド挿入穴74に代わるロッド挿入穴として、ボールシート700がはめ込まれる底付き穴74Aが形成されている。このロッド挿入穴74Aの底面には、ボールシート700の底部に設けられた後述のスナップフィット部701を係合させるための開口部79が形成されている。また、このロッド挿入穴74Aの内周面には軸心O方向の平坦面76が少なくとも1つ形成されている。
【0108】
一方、摩擦ディスク7Aのボス部75のロッド挿入穴74A内にはめ込まれるボールシート700は、一端部が開口した底付き中空円柱形状を有しており、その内側には、ボールジョイント80のボール部801を回転可能に保持する球面状の摺動面703が形成されている。
【0109】
ボールシート700の外周面(摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74Aの内周面に対向する面)705には、摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74A内周の平坦面76に対向する軸心O方向の平坦面702が少なくも1つ形成されており、この平坦面702と摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74A内周の平坦面76との接触により、摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74A内におけるボールシート700の軸心O回りの回転が阻止される。さらに、ボールシート700の底面には複数本(例えば4本)のスナップフィット部701が形成されており、摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74A内へのボールシート700のはめ込みにより、これらのスナップフィット部701が、摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74Aの底面の開口部79に挿入され、この開口部79の縁部に係合する。これにより、摩擦ディスク7Aのロッド挿入穴74Aからのボールシート700の抜け出しが阻止される。
【0110】
ボールシート700内側の摺動面703には、対向する2箇所の位置に、軸心O側に向かって突き出した突起部704が形成されている。
図12に示したように、ボールジョイント800のボール部801を、その外周の2つの平坦面802がこれらの突起部704に対向するようにボールシート700の内部にはめ込むことによって、プッシュロッド8Aの揺動は、ボール部801の平坦面802がボールシート700の摺動面703の対向突起部704に接触するまでの範囲内に規制される。このため、この範囲内において、プッシュロッド8Aの揺動が吸収される。
【0111】
また、本実施の形態においては、プッシュロッド8のシャフト部81の小径部84を摩擦ディスク7のロッド挿入穴74に挿入し、プッシュロッド8の移動に応じて、プッシュロッド8の段差面87で3枚の摩擦ディスク5~7が一体としてプッシュロッド8の軸心O方向に駆動されるようにしているが、例えば、摩擦ディスク7を用いる代わりに、プッシュロッド8の外周に環状のフランジを設け、この環状のフランジによって摩擦ディスク5、6が一体としてプッシュロッド8の軸心O方向に押し込まれるようにしてもよい。
【0112】
また、本実施の形態においては、弾性体4として1本のコイルスプリング40を備える場合を例示しているが、弾性体4は、適当な弾性係数を有し、プッシュロッド8のストローク全域において摩擦発生部1をカバー9に向けて一体として付勢できるものであればよい。例えば、ゴム、積み重ねられた複数枚の皿バネ等、コイルスプリング40以外の弾性体を弾性体4として用いてもよい。
【0113】
ダンパ100の組み込み対象機器によっては、変位に応じて弾性係数が変化する非線形特性を有する弾性体を弾性体4として用いることによって、例えばクラッチペダルが所定位置まで踏み込まれたタイミングで、ユーザの手足にかかる負荷を急激に変化させてもよい。このような弾性体としては、例えば、上述のコイルスプリング40と、制動機構収容室20で摩擦発生部1が所定距離前進したタイミングで摩擦発生部1とケース3の底部32とによる圧縮が開始するコイルスプリングとが入れ子状に配置された組合せばね、不等ピッチコイルスプリングが挙げられる。このような構成によれば、操作部を操作するユーザの手足等に適度な負荷を与えつつ、操作部が所定位置まで操作されたタイミング(プッシュロッド8がその軸心O方向に所定量変位したタイミング)で、ユーザの手足等にかかる負荷を急激に増大させることができるため、操作部が所定の位置まで操作されたこと等を通知する触覚的なシグナルをユーザに与えることができる。
【0114】
また、本実施の形態においては、3本のカム溝33をケース3の内壁31に形成し、これらのカム溝33と同数のガイド突起部63を回転摩擦ディスク6の外周62に設けているが、ケース3の内壁31には、少なくとも1本のカム溝33が形成されていればよく、回転摩擦ディスク6の外周62には、ケース3の内壁31のいずれかのカム溝33にはめ込まれるガイド突起部63が少なくとも1つ設けられていればよい。同様に、本実施の形態においては、3本のガイド溝35をケース3の内壁31に形成し、これらのガイド溝35と同数のガイド突起部63、73を2つの摩擦ディスク5、7の外周52、72にそれぞれ設けているが、ケース3の内壁31には、少なくとも1本のガイド溝35が形成されていればよく、2つの摩擦ディスク5、7の外周52、72には、それぞれ、ケース3の内壁31のいずれかのガイド溝35にはめ込まれるガイド突起部53、73が少なくとも1つ設けられていればよい。
【0115】
また、本実施の形態では、カバー9側に配置される一方の摩擦ディスク7にボス部75を設けるととともに、回転摩擦ディスク6のボス挿入穴64から突き出したボス部75が挿入されるボス挿入穴54を、コイルスプリング40側に配置される他方の摩擦ディスク5に設けているが、これとは逆に、カバー9側に配置される一方の摩擦ディスク7にボス挿入穴を設け、このボス挿入穴に挿入されるボス部を、コイルスプリング40側に配置される他方の摩擦ディスク5に設けてもよい。
【0116】
また、2つの摩擦ディスク5、7に、これら2つの摩擦ディスク5、7の相対的な回転を阻止する回り止めを設けてもよい。例えば、
図11(A)~(C)に示すように、一方の摩擦ディスク7のボス部75先端の外周面に少なくとも1つの平坦面76を設けるとともに、他方の摩擦ディスク5のボス挿入穴54の内周面に、ボス部75の先端部(ボス挿入穴54にはめ込まれる部分)外周の平坦面76に対向する平坦面57を設ければ、対向する平坦面76、57の接触により2つの摩擦ディスク5、7の相対的な回転を阻止することができる。このような回り止めを設けた場合、ケース3の内壁31のガイド溝35に挿入されるガイド突起部は、2つの摩擦ディスク5、7のうちの少なくとも1つの摩擦ディスクの外周に設けられていればよい。なお、摩擦ディスク7を用いる代わりに、プッシュロッド8の外周に環状のフランジを設ける場合には、プッシュロッド8に対する摩擦ディスク5の回り止めとして、例えば、プッシュロッド8の外周面に少なくも1つの平坦面あるいは溝を設けるとともに、摩擦ディスク5のボス挿入穴54の内周面に、プッシュロッド8外周の平坦面に対向する平坦面あるいはプッシュロッド8外周の溝に挿入される突起部を設ければよい。
また、本実施の形態においては、ケース3の内壁31に設けられたカム溝33全域において溝幅を一定としているが、必ずしも、このようにする必要はない。例えば、カム溝33の溝幅が徐々に変化する領域を設けてもよい。これにより、対向して溝を構成する一対の螺旋状のカム面(溝側面)、すなわち、回転摩擦ディスク6の外周62に形成されたガイド突起部63を往路において案内する螺旋状のカム面および復路において案内する螺旋状のカム面の、軸心O方向に対する傾斜角θを相違させて、回転摩擦ディスク6の回転速度が往路と復路とにおいて異なるようにしてもよい。
【0117】
また、ケース3の内壁31に設けられた各カム溝33の傾斜角度θを一定としているが、必ずしも、このようにする必要はない。ケース3の内壁31内におけるカム溝33のパターンは、回転摩擦ディスク6の要求回転速度に応じて変更可能である。例えば、互いに傾斜角度θの異なる区間を含むカム溝33をケース3の内壁31に設けることにより、ストローク中に回転摩擦ディスク6の回転速度が切り替わるようにしてもよいし、傾斜角度θが徐々に変化するカム溝33をケース3の内壁31に設けることにより、ストローク中に回転摩擦ディスク6の回転速度が徐々に変化するようにしてもよい。
【0118】
また、本実施の形態においては、摩擦発生部1は、軸心O方向に重ねあわされた3枚の摩擦ディスク5~7を有しているが、カムを利用して隣接摩擦ディスクが相対的に回転するように軸心O方向に重ねあわされた4枚以上の摩擦ディスクを有していてもよい。
【符号の説明】
【0119】
1:摩擦発生部、 2:ハウジング、 3、3A:ケース、 4:弾性体、 5~7、7A:摩擦ディスク、 8、8A:プッシュロッド、 9:カバー、 10:クラッチペダルアーム、 12:クラッチペダルアームの回転軸、 13:ボルト、 14、15:ナット、 16:クレビスジョイント、 17:ブラケット、 20:制動機構収容室、 30:ケース開口部、 31:ケース内壁、 32:ケース底部、 33:ケース内壁の螺旋状のカム溝、 34:ケース開口部のネジ部、 35:ケース内壁のガイド溝、 36:ケース底部のスプリングガイド穴、 40:コイルスプリング、 41、42:コイルスプリングの端部、 51:摩擦ディスクの摺動面、 52:摩擦ディスク外周、 53:摩擦ディスクのガイド突起部、 54:摩擦ディスクのボス挿入穴、 60、61:摩擦ディスクの摺動面、 62:摩擦ディスク外周、 63:摩擦ディスク外周のガイド突起部、 64:摩擦ディスクのボス挿入穴、 70:摩擦ディスクの摺動面、 71:摩擦ディスク裏面、 72:摩擦ディスク外周、 73:摩擦ディスクのガイド突起部、 74、74A:摩擦ディスクのロッド挿入穴、 75:摩擦ディスクのボス部、 76:摩擦ディスクのロッド挿入穴内周の平坦面、 81:シャフト部、 82:ペダルアーム連結部、 83:シャフト部の大径部、 79:底付きロッド挿入穴の底面の開口部、 84:シャフト部の小径部、 85、86:プッシュロッドの端面、 87:段差面、 88:シャフト部の外周面、 89:ネジ穴、 90:カバーの貫通穴(ロッド挿入口)、 91:カバーの裏面、 92:カバー外周のネジ部、 100:ダンパ、 300、300A:ケース本体部材、 301:カム面、 303:大径柱面領域、 304:小径柱面領域、 350:ライナー部材、 351:ベース部、 352:ライナー部、 353:ストッパ部、 354:ベース部の表面、 356:カム面、 357:ライナー部先端、 360:円筒部材、 361:カバー、 370:ライナー部材
700:ボールシート、 701:スナップフィット部、 702:ボールシート外周の平坦面、 703:摺動面、 704:摺動面内の突起部、 705:ボールシートの外周面、 800:ボールジョイント、 801:ボール部、 802:ボール部外周の平坦面、 3600:小径領域、 3601:大径領域、 3602:段差面、 3603:ライナー部材固定溝、 3604:ネジ部、 3605:固定部材挿入穴、 3610:カバー開口部、 3611:カバー内周のネジ部、 3610:カバー底部、 3700:ストッパ部、 3701:ライナー部材の底面