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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】面ファスナー及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
A44B18/00
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019557289
(86)(22)【出願日】2018-11-28
(86)【国際出願番号】 JP2018043859
(87)【国際公開番号】W WO2019107444
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2017229706
(32)【優先日】2017-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】高桑 一則
(72)【発明者】
【氏名】小野 悟
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 佳克
(72)【発明者】
【氏名】藤田 悦則
【審査官】住永 知毅
(56)【参考文献】
【文献】特許第4991285(JP,B2)
【文献】特表2008-501475(JP,A)
【文献】特表2007-508107(JP,A)
【文献】特表2004-522534(JP,A)
【文献】特開平8-174693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に間隔をおいて平行に設けられた複数本の第1ストランドと、
前記第1ストランドに対してその厚さ方向外方に突出すると共に、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って、かつ、相互に間隔をおいて平行に設けられた複数本の第2ストランドと、
前記第1ストランドから、前記第2ストランドとは反対側に突出するように設けられた係合素子と
を有し、
隣接する2本の前記第1ストランド及び隣接する2本の前記第2ストランドにより取り囲まれて形成される孔部を備えると共に、前記第1ストランド、前記第2ストランド及び前記係合素子が、熱可塑性エラストマーから一体成形され、
前記第2ストランドは、ステムと、前記ステムの端部において前記ステムの両側に突出する傘部とを有してなり、前記ステム及び前記傘部のいずれも、前記第2ストランドの長手方向である、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って延びているメッシュ状の面ファスナー。
【請求項2】
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さ未満である請求項1記載の面ファスナー。
【請求項3】
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さの1/2~1/4の範囲である請求項2記載の面ファスナー。
【請求項4】
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さと同等以上である請求項1記載の面ファスナー。
【請求項5】
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さの1~4倍の範囲である請求項4記載の面ファスナー。
【請求項6】
前記第1ストランドは、前記第2ストランドに直交する仮想線を基準とする傾斜角度が、0~70度の範囲である請求項1~5のいずれか1に記載の面ファスナー。
【請求項7】
前記第2ストランドの長手方向に沿った長さが170mm、幅が20mmの試験片を、前記第2ストランドの長手方向に沿った一端縁から50mm長、前記係合素子を介して相手材に係合した状態で、引張り試験機にて、100mm/minで、せん断方向に引っ張って測定した引張せん断試験において、前記試験片と前記相手材との係合によるせん断方向の荷重値が急低下するまでの前記第2ストランドの長手方向に沿った変位量が、前記試験片の引張前の全長の70%以上である請求項1~3のいずれか1に記載の面ファスナー。
【請求項8】
前記試験片を、単体で、引張り試験機にて、100mm/minで、前記第2ストランドの長手方向に沿って引っ張った際の破断時の荷重値が、前記引張せん断試験における前記試験片と前記相手材との係合によるせん断方向の荷重値が急低下する時の荷重値の1.5倍以下である請求項7記載の面ファスナー。
【請求項9】
前記熱可塑性エラストマーが、熱可塑性ポリエステルエラストマーである請求項1~5のいずれか1に記載の面ファスナー。
【請求項10】
座席のクッション部材に一体成形されて用いられる請求項1~5のいずれか1に記載の面ファスナー。
【請求項11】
相互に間隔をおいて平行に設けられた複数本の第1ストランドと、
前記第1ストランドに対してその厚さ方向外方に突出すると共に、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って、かつ、相互に間隔をおいて平行に設けられた複数本の第2ストランドと、
前記第1ストランドから、前記第2ストランドとは反対側に突出するように設けられた係合素子と
を有し、
隣接する2本の前記第1ストランド及び隣接する2本の前記第2ストランドにより取り囲まれて形成される孔部を備えると共に、前記第1ストランド、前記第2ストランド及び前記係合素子が、熱可塑性エラストマーから一体成形され、
前記第2ストランドは、ステムと、前記ステムの端部において前記ステムの両側に突出する傘部とを有してなり、前記ステム及び前記傘部のいずれも、前記第2ストランドの長手方向である、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って延びている面ファスナーの製造方法であって、
平板状のベース層と、前記ベース層の一面に、押出方向に沿って延びる一方のリブと、前記ベース層の他面に、押出方向に沿って延びる他方のリブとを有するシート状成形体を押出成形する工程と、
前記他方のリブの頂部から前記ベース層における前記一方のリブとの境界位置に至るまで、押出方向に直交する幅方向に沿って、あるいは、幅方向に対して所定の角度傾いた方向に沿って、かつ、押出方向に所定間隔ごとに切り込みを入れる工程と、
前記シート状成形体を押出方向に延伸し、前記ベース層の切り込み位置で分離された各部位により前記第1ストランドを構成し、前記一方のリブにより前記第2ストランドを構成し、前記他方のリブの切り込み位置で分離された各部位により前記係合素子を構成する工程とを有し、
前記一方のリブを、前記第2ストランドのステムを構成する部位と、前記ステムの端部において両側に突出する傘部を構成する部位とを備える形状となるように押出成形すると共に、押出成形時に、前記傘部を構成する部位の厚さを異ならせることで、押出方向に直交する方向の引裂強さの異なる面ファスナーを製造することを特徴とする面ファスナーの製造方法。
【請求項12】
前記一方のリブにおける前記第2ストランドの傘部を構成する部位の厚さを、前記第1ストランドとなる前記ベース層の厚さ未満とする請求項11記載の面ファスナーの製造方法。
【請求項13】
前記一方のリブにおける前記第2ストランドの傘部を構成する部位の厚さを、前記第1ストランドとなる前記ベース層の厚さ以上とする請求項11記載の面ファスナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面ファスナー及びその製造方法に関し、特に多数の孔部を有するメッシュ状の面ファスナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2では、第1組の塑性変形した複数の熱可塑性のストランドと、その第1組のストランドと一体に形成され、第1組のストランドと同一の平面上には存在しない第2組の複数のストランドとを具備し、第1組のストランドと第2組のストランドの少なくとも一方にフックを備えたメッシュ状(ないしはネット状)の面ファスナーが開示されている。この面ファスナーは、合成樹脂製でありながら、通気性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4991285号公報
【文献】特許第4991301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に開示のメッシュ状の面ファスナーは、ポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂を用いて形成されている。しかし、これらの樹脂は非弾性ポリマー材料であるため、製造された面ファスナーは、弾性ないしは伸縮性に乏しい。そのため、例えば、自動車等の移動体内における部材の固定(例えば、座席のクッション部材と表皮材との固定)、靴の甲部分における足入れ部左右の舌片同士の接合、腕や脚に巻き付けるサポーター等のように、係合対象の部位間で相対的な動きが様々な方向に生じる用途に用いる場合、なかでも、大きな衝撃荷重がかかる場合には、特許文献1及び2に開示の面ファスナーでは追従性が十分ではなく、容易に破損が生じ、係合素子と相手材(係合素子がフックの場合、相手材はループ材)との係合が容易に解除されてしまう可能性がある。また、特許文献1及び2では、ストランドを形成するベース層、リブあるいは係合素子のいずれかを共押し出し等により弾性層とすることも記載されている。しかし、実施例として具体的に開示されている形態はいずれも非弾性層との組合せであり、弾性機能を十分には発揮することができず、係合対象部位間の動きに対する追従性の点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、通気性に優れると共に、係合対象部位間の動きへの追従性が高く、相手材からの分離が生じにくく、より広い用途への適用が可能な面ファスナー及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明では、
相互に間隔をおいて略平行に設けられた複数本の第1ストランドと、
前記第1ストランドに対してその厚さ方向外方に突出すると共に、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って、かつ、相互に間隔をおいて略平行に設けられた複数本の第2ストランドと、
前記第1ストランドから、前記第2ストランドとは反対側に突出するように設けられた係合素子と
を有し、
前記第1ストランド、前記第2ストランド及び前記係合素子が、熱可塑性エラストマーから一体成形されているメッシュ状の面ファスナー
を提供する。
【0007】
前記第2ストランドは、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って延びるステムと、前記ステムの端部において前記ステムの両側に突出する傘部とを有してなり、
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さ未満である構成とすることができる。
その場合、前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さの1/2~1/4の範囲であることが好ましい。
【0008】
前記第2ストランドは、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って延びるステムと、前記ステムの端部において前記ステムの両側に突出する傘部とを有してなり、
前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さと同等以上である構成とすることができる。
その場合、前記傘部の厚さが、前記第1ストランドの厚さの1~4倍の範囲であることが好ましい。
【0009】
前記第1ストランドは、前記第2ストランドに直交する仮想線を基準とする傾斜角度が、0~70度の範囲であることが好ましい。
前記第2ストランドの長手方向に沿った長さが170mm、幅が20mmの試験片を、前記第2ストランドの長手方向に沿った一端縁から50mm長、前記係合素子を介して相手材に係合した状態で、引張り試験機にて、100mm/minで、せん断方向に引っ張って測定した引張せん断試験において、前記試験片と前記相手材との係合によるせん断方向の荷重値が急低下するまでの前記第2ストランドの長手方向に沿った変位量が、前記試験片の引張前の全長の70%以上である構成とすることもできる。
また、前記試験片を、単体で、引張り試験機にて、100mm/minで、前記第2ストランドの長手方向に沿って引っ張った際の破断時の荷重値が、前記引張せん断試験における前記試験片と前記相手材との係合によるせん断方向の荷重値が急低下する時の荷重値の1.5倍以下である構成とすることもできる。
前記熱可塑性エラストマーが、熱可塑性ポリエステルエラストマーであることが好ましい。
前記面ファスナーは、座席のクッション部材に一体成形して用いることができる。
【0010】
また、本発明では、
相互に間隔をおいて略平行に設けられた複数本の第1ストランドと、
前記第1ストランドに対してその厚さ方向外方に突出すると共に、前記第1ストランドの長手方向に対して交差する方向に沿って、かつ、相互に間隔をおいて略平行に設けられた複数本の第2ストランドと、
前記第1ストランドから、前記第2ストランドとは反対側に突出するように設けられた係合素子と
を有する面ファスナーの製造方法であって、
略平板状のベース層と、前記ベース層の一面に、押出方向に沿って延びる一方のリブと、前記ベース層の他面に、押出方向に沿って延びる他方のリブとを有するシート状成形体を押出成形する工程と、
前記他方のリブの頂部から前記ベース層における前記一方のリブとの境界位置に至るまで、押出方向に直交する幅方向に沿って、あるいは、幅方向に対して所定の角度傾いた方向に沿って、かつ、押出方向に所定間隔ごとに切り込みを入れる工程と、
前記シート状成形体を押出方向に延伸し、前記ベース層の切り込み位置で分離された各部位により前記第1ストランドを構成し、前記一方のリブにより前記第2ストランドを構成し、前記他方のリブの切り込み位置で分離された各部位により前記係合素子を構成する工程とを有し、
前記一方のリブを、前記第2ストランドのステムを構成する部位と、前記ステムの端部において両側に突出する傘部を構成する部位とを備える形状となるように押出成形すると共に、押出成形時に、前記傘部を構成する部位の厚さを異ならせることで、押出方向に略直交する方向の引裂強さの異なる面ファスナーを製造することを特徴とする面ファスナーの製造方法
を提供する。
この場合、前記一方のリブにおける前記第2ストランドの傘部を構成する部位の厚さを、前記第1ストランドとなる前記ベース層の厚さ未満となるように製造することができる。
また、前記一方のリブにおける前記第2ストランドの傘部を構成する部位の厚さを、前記第1ストランドとなる前記ベース層の厚さ以上となるように製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の面ファスナーは、第1ストランド、第2ストランド及び係合素子の全ての要素が熱可塑性エラストマーから形成されている。また、複数本の第1ストランドと複数本の第2ストランドが交差するように配置されており、それにより、隣接する2本の第1ストランド及び隣接する2本の第2ストランドにより取り囲まれた孔部が設けられている。そのため、高い弾性機能を有し、伸びやすく、係合対象部位間の動きへの追従性が高い。
また、本発明の面ファスナーの製造方法によれば、シート状成形体を押し出す際に、一方のリブにおける第2ストランドの傘部を構成する部位の厚さを異ならせることで、押出方向に略直交する方向の引裂強さの異なる面ファスナーを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(a)は、本発明の一の実施形態に係る面ファスナーを示した斜視図であり、図1(b)は、図1(a)のA矢視図であり、図1(c)は、図1(a)のB矢視図である。
図2図2(a)は、図1(a)に示した面ファスナーを係合素子側から見た平面図であり、図2(b)は、第2ストランド側から見た平面図である。
図3図3は、上記実施形態に係る面ファスナーの製造工程を示した図であり、図3(a)は、押出金型の開口部の断面形状を概略示した図であり、図3(b)は、開口部から押し出したシート状成形体を示した図であり、図3(c)は、シート状成形体に形成する切り込み位置を示した図である。
図4図4(a)は、図3(c)のC矢視図であり、図4(b)は、延伸工程を説明するための図である。
図5図5は、表1、表2の測定要素の部位を説明するための図である。
図6図6は、実施例1の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した4本の試験片に関するグラフである。
図7図7は、実施例2の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した4本の試験片に関するグラフである。
図8図8は、比較例1の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した4本の試験片に関するグラフである。
図9図9は、比較例2の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した4本の試験片に関するグラフである。
図10図10は、比較例3の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した2本の試験片に関するグラフである。
図11図11(a)は、実施例2の面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における寸法L0からL7の測定範囲を示した図であり、図11(b)は、実施例2の面ファスナーの弾性変形長と塑性変形長とを比較したグラフである。
図12図12(a),(b)は、実施例1、実施例2の各面ファスナーの試験片単体の引張強さを測定した結果を示したグラフである。
図13図13(a)~(d)は、比較例1~4の各面ファスナーの試験片単体の引張強さを測定した結果を示したグラフである。
図14図14は、実施例3Aの面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における荷重(試験力)と変位量との関係を示した4本の試験片に関するグラフである。
図15図15は、実施例3Aの面ファスナーを相手材に係合した状態での引張せん断試験における、該面ファスナーの弾性変形長と塑性変形長とを比較したグラフである。
図16図16は、実施例3Aの面ファスナーの試験片単体の引張強さを測定した結果を示したグラフである。
図17図17は、実施例2及び実施例3Bの面ファスナーの試験片について行った縫目(せん断)破断強力の試験方法を説明するための図である。
図18図18は、実施例2、実施例3B及び実施例3Cの面ファスナーの試験片について行った斜め方向強度試験の試験方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。図1及び図2は、本発明の一の実施形態に係る面ファスナー1を示した図である。これらの図に示したように、面ファスナー1は、第1ストランド10、第2ストランド20、係合素子30を備えて構成されている。面ファスナー1は、押出成形機により成形されたシート状成形体100を用いて形成される(図3(b)参照)。図3(a)に示したように、押出成形機の成形金型1000の開口部1100は、上下方向中間位置に、幅方向(押出方向に直交する方向)に所定の幅を有し、高さが数mm以下の中間空間部1110と、その中間空間部1110の下方に突出し、中間空間部1110の幅方向に所定間隔で複数形成された下方突出空間部1120と、下方突出空間部1120の反対側の上方に突出する上方突出空間部1130を有する断面形状となっており、成形材料を投入して押し出すことで、図3(b)に示したように、中間空間部1110からは略平板状のベース層110が押し出され、下方突出空間部1120及び上方突出空間部1130からは、それぞれ、一方のリブである下面側リブ120及び他方のリブである上面側リブ130が押し出される。これにより、ベース層110は、その一面において押出方向に延びる一方のリブとしての下面側リブ120と、他面において押出方向に延びる他方のリブとしての上面側リブ130が一体になったシート状成形体100が形成される。なお、上面側リブ130は、例えば先端に幅方向外方に突出するフランジ部30a(図1(b)参照)を有するフックからなる係合素子30を形成するものである。このため、その断面形状すなわち成形金型の上方突出空間部1130の断面形状は、図1(b)に示した係合素子30の断面形状に合致し、中間空間部1110から上方向に延びる、ステム30bに相当する部位1130bを有すると共に、その上端部において外方に突出する部位1130aを備えた形状となっている(図3(a)参照)。なお、本実施形態では、第2ストランド20が、第1ストランド10(ベース層110)から下方に突出するステム20bと、該ステム20bの下端部において該ステム20bの幅方向の両側外方に突出する傘部20aとを備えた形状となっているため、下方突出空間部1120は、中間空間部1110から下方向に延びる相対的に幅の狭い部位1120bを有すると共に、その下端部において幅方向の両側外方に突出する幅の広い部位1120aを備えた形状となっている。従って、下方突出空間部1120から押し出される一方のリブとしての下面側リブ120は、幅の狭い部位1120bから押し出される部位120bが第2ストランド20のステム20bを構成し、幅の広い部位1120aから押し出される部位120aが第2ストランド20の傘部20aを構成する。
【0014】
押出成形されたシート状成形体100は、図3(c),図4(a)に示したように、上面側リブ130の頂部からベース層110における下面側リブ120との境界位置(図4(a),(b)の符号Dで示した位置)に至るまで、押出方向に直交する幅方向に沿って、あるいは、幅方向に対して所定の角度傾いた方向に沿って、かつ、押出方向に所定間隔ごとに切り込みが入れられる。ここでいう幅方向に対して所定の角度傾いた方向とは、図2(a)に示したように、第2ストランド20に直交する幅方向に沿った仮想線Eに対する傾斜角度θである。なお、傾斜角度θの好ましい値についてはさらに後述する。
【0015】
次に、シート状成形体100は、押出方向に延伸される。これにより、図4(b)に示したように、下面側リブ120は、延伸方向に伸びる一方、上面側リブ130及びベース層110は所定間隔ごとに切り込みが入っているため、各切り込みを挟んだ部位同士が離間する。その結果、切り込みを挟んだ部位間に空間が生じ、これが孔部40となる。孔部40が所定の大きさになるまで延伸したならば、冷却して形状を固定する。なお、上記では詳述していないが、押出や延伸等の段階では、加工を容易にするために適宜に加熱し、加工後の形状を固定するために適宜に冷却を施したりすることはもちろんである。
【0016】
かかる工程を経て、ベース層110の切り込み位置で分離された各部位が、図1及び図2に示したように、相互に間隔をおいて略平行に設けられる複数本の第1ストランド10となり、下面側リブ120が第1ストランド10の長手方向に対して交差する方向に沿って、かつ、相互に間隔をおいて略平行に設けられる複数本の第2ストランド20となり、上面側リブ130の切り込み位置で分離された各部位が独立した係合素子(フック)30となる。よって、係合素子(フック)30は、第1ストランド10(ベース層110)を挟んで第2ストランド20の反対側に突出するように設けられる。また、複数本の第1ストランド10が相互に間隔をおいて配置され、これに交差するように複数本の第2ストランド20が相互に間隔をおいて配置されるため、平面視において、隣接する第1ストランド10,10及び隣接する第2ストランド20,20間によって取り囲まれた位置に孔部40が形成される。次に、用途に応じた所定の寸法で切断することで、所望のメッシュ状の面ファスナー1が製造される。
【0017】
なお、本実施形態では、図1及び図3に示したように、第2ストランド20は、第1ストランド10(ベース層110)から下方に突出するステム20bと該ステム20bの下端部において該ステム20bの幅方向に突出する傘部20aとを備えた形状としている。しかしながら、第2ストランド20(下面側リブ120)は、切り離されている隣接する第1ストランド10,10間を接続するものであるため、このような傘部20aを備えていない、ステム20bのみからなる断面略四角形等であってもよい。但し、傘部20aを設けた場合には、その厚さ(第1ストランド10から下方に突出する第2ストランド20のステム20bとの境界位置から該傘部20aの外端面までの長さ)X1により(図5(a)参照)、第2ストランド20の長手方向(押出方向)に略直交する方向の引裂き強さを調整することができる。
【0018】
本発明者は後述の実施例で行った各試験より、次のような知見を得た。すなわち、素材及び傘部20aの厚さ以外の各部位の寸法パラメータを同等とした場合に、傘部20aの厚さX1が薄くなるほど、第2ストランド20の長手方向に沿った伸びが大きくなる一方で、第2ストランド20の長手方向に略直交する方向の引裂強さが低くなる傾向を示し、傘部20aの厚さX1が厚くなるほど、逆に、第2ストランド20の長手方向に沿った伸びが小さくなる一方で、第2ストランド20の長手方向に略直交する方向の引裂き強さが高くなる傾向を示す。従って、傘部20aの厚さを異ならせることにより、第2ストランド20の長手方向(押出方向)に略直交する方向の引裂き強さの異なる面ファスナー1を提供できる。すなわち、成形金型1000として、下方突出空間部1120の下端部において幅方向の両側外方に突出する幅の広い部位1120aの上下方向の間隔が相対的に大きく形成されたものを用いることにより、幅の広い部位1120aから押し出され、第2ストランド20の傘部20aを構成する下面側リブ120の下端側の部位120aの厚さを相対的に厚くすることができる。当該部位120aの厚さが相対的に薄く加工されたシート状成形体100を得ようとする場合には、成形金型1000として、下方突出空間部1120の下端部において幅方向の両側外方に突出する幅の広い部位1120aの上下方向の間隔が相対的に狭く形成されたものを用いればよい。
【0019】
そして、第2ストランド20の長手方向に沿った伸びを重視する場合には、傘部20a(下面側リブ120の下端側の部位120a)の厚さX1は、第1ストランド10(ベース層110)の厚さX2未満とすることが好ましく、第1ストランド10の厚さX2の1/2~1/4の範囲とすることがより好ましい。具体的にX1の厚さは0.05~0.20mmが軽量性と柔軟性を兼ね備える点で好ましく、厚さX2は0.40~0.70mmが長手方向に対する引裂き強さの点で好ましい。
一方、第2ストランド20の長手方向に直交する方向の引裂き強さを重視する場合には、傘部20a(下面側リブ120の下端側の部位120a)の厚さX1は、第1ストランド10の厚さX2と同等以上であることが好ましい。但し、傘部20aの厚さX1の値が大きすぎる場合には、面ファスナー1全体の厚さや重さが増加し、また取り扱いにくくなる可能性もあるため、第1ストランド10の厚さX2の1~4倍の範囲であることがより好ましく、1.5~2.5倍の範囲であることがさらに好ましい。具体的にX1の厚さは0.20~0.50mmが長手方向に直交する方向の引裂き強さの点で好ましく、厚さX2は0.10~0.40mmが軽量化と柔軟性を兼ね備える点で好ましい。
【0020】
第2ストランド20は、傘部20aのほかにステム20bも有している。よって、傘部20aの厚さX1を上記のように調整するにあたって、ステム20bも含んだ第2ストランド20全体の寸法パラメータもあわせて考慮することが好ましい。第2ストランド20の長手方向に沿った伸び特性を重視する場合、第2ストランド20の長手方向に略直交する方向の引裂き特性を重視する場合のいずれも、傘部20aの断面積に対して、ステム20bもある程度の断面積、幅を有していた方が好ましい。よって、第2ストランド20の配向方向である長手方向に直交する方向に切断した際の傘部20aの断面積Y1が、傘部20a及びステム20bを合わせた第2ストランド20全体の断面積Y2の50~80%の範囲であって、かつ、第2ストランド20の長手方向に直交する方向に沿った傘部20aの幅Z1が、ステム20bの幅Z2の2~6倍の範囲であることが好ましい(図5(a)参照)。傘部20aの断面積Y1は、断面積Y2の50~70%の範囲であることがより好ましく、傘部20aの幅Z1は、ステム20bの幅Z2の3~4倍であることがより好ましい。
【0021】
なお、本実施形態では、上面側リブ130と下面側リブ120を、ベース層110を挟んで対向する位置に形成している(図3(b)、(c)参照)。そのため、図1(a),(b)に示したように、係合素子30が、第1ストランド10と第2ストランド20の交差部上に設けられているが、係合素子30の位置はこれに限定されるものではない。すなわち、上面側リブ130を下面側リブ120に対向する位置ではなく、ずれた位置に形成し、その結果、第1ストランド10と第2ストランド20の交差部から外れた位置に係合素子30を設けることも可能である。
【0022】
本実施形態の面ファスナー1は、上記のように製造されるため、第1ストランド10、第2ストランド20及び係合素子30が一体成形されたものであり、熱可塑性エラストマーを材料として用いることで、第1ストランド10、第2ストランド20及び係合素子30のいずれもが所定の弾性を備えている。熱可塑性エラストマーとしては、用途等を考慮して適宜に選択可能であるが、スチレン系、エステル系、ナイロン6やナイロン66等のナイロン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のポリエステル系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体等を用いることができる。但し、耐久性、耐熱性、成形加工性等の点から、熱可塑性ポリエステルエラストマーを用いることが好ましい。
【0023】
本実施形態の面ファスナー1は、熱可塑性エラストマーからなるため、所定の弾性を備えている。そのため、面ファスナー1を取り付けて係合する係合対象部位の相対的な動きへの追従性が高く、せん断方向の力に対し、第1ストランド10、第2ストランド20及び係合素子30の伸縮や変形によって対応でき、係合素子30の係合が解除されることを抑制することができる。よって、自動車等の移動体内における部材の固定、例えば、座席のクッション部材(ウレタンパッド等を含む)に、本実施形態の面ファスナー1を一体成形により設け、表皮材やフレーム等に固定するようにすると、衝突等により大きな衝撃荷重が入力された場合でも、上記の伸縮や変形により係合が外れることがなく対処できる。靴の甲部分における足入れ部左右の舌片同士の接合に面ファスナー1を用いると、スポーツ時等、急激な動きによって大荷重がかかる場合があるが、このような場合でも、本実施形態の面ファスナー1はその弾性変形によって対応できる。同様に、帯状のサポーター等に面ファスナー1を取り付けて腕等に固定した場合でも、腕等の動きによって生じるせん断方向の力に弾性変形により対応できる。特に、本実施形態では、隣接する第1ストランド10,10及び隣接する第2ストランド20,20間によって取り囲まれた孔部40を備えているため、上記のような力が作用した場合には、第1ストランド10、第2ストランド20又は係合素子30それら自体の弾性変形だけでなく、それに伴ってこの孔部40の形状も変形するため、孔部40を有しない構造と比較し、同じ材料から形成したものであっても、係合対象部位間の動きに対してより高い追従性を発揮できる。孔部40の形状は限定されるものではないが、上記の切り込みを設ける際の角度の調整により、第2ストランド20に直交する仮想線Eに対する第1ストランド10の傾斜角度(図2(a)の角度θ)を、0~70度の範囲とすることが好ましい。この傾斜角度θが20度より小さい場合には、第2ストランド20の長手方向に沿って比較的伸びやすくなる。20度以上とすると、特に20度~45度の範囲とすると、略平行四辺形ないしはひし形により近い形状となり、比較的、幅方向へ伸びやすくなり、幅方向への急激な荷重に対しても相手材との係合を継続しやすくなる。このように、傾斜角度θによって、面ファスナー1の伸びやすい方向を調製できる。
【0024】
(実施例1,2)
実施例1,2として、熱可塑性ポリエステルエラストマーとして、PBTエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ハイトレル」(登録商標)、製品番号6377」を用いて、2種類のメッシュ状の面ファスナー1(実施例1(試作No.S-3670),実施例2(試作No.S-3680))を製造した。
【0025】
実施例1,2の第1ストランド10、第2ストランド20及び係合素子30の各部位の寸法は表1に示したとおりである。なお、表1中、「ストランド1」は第1ストランド10であり、「ストランド2」は第2ストランド20であり、「フック」は係合素子30である。また、表1中、係合素子(フック)30の高さ、ステム断面積(係合素子30のステム30bの高さ方向でステムの巾が最も狭くなった箇所の横断面の面積)、ストランド1(第1ストランド10)を長手方向に直交する方向で切断した状態の断面積(第2ストランド20の長手方向に直交する方向に断面の面積)、ストランド2(第2ストランド20)を長手方向に直交する方向に切断した状態の断面積(第2ストランド20の長手方向に直交する幅方向の断面の面積)の測定箇所は、図5に示したとおりである。
【0026】
また、実施例1(試作No.S-3670)の第1ストランド10の厚さX2=0.25mmであり、第2ストランド20は、傘部20aの厚さX1=0.17mm、ステム20bの高さ(第2ストランド20の第1ストランド10との境界位置Dから傘部20aの外端面の頂部までの距離から傘部20aの厚さX1を差し引いた距離)X3=0.35mm、傘部20aの断面積Y1=0.10mm、第2ストランド20全体の断面積Y2=0.20m、傘部20aの幅Z1=0.59mm、ステム20bの幅Z2=0.18mmであった。これらの寸法パラメータを比で表すと、X2:X1=1.0:0.7、X1:X3=1.0:2.1、Y2:Y1=1.0:0.7、Z1:Z2=1.0:0.3であった。また、第1ストランド10の傾斜角度θは、表1に示したように4.48度であった。
【0027】
実施例2(試作No.S-3680)の第1ストランド10の厚さX2=0.47mmであり、第2ストランド20は、傘部20aの厚さX1=0.15mm、ステム20bの高さX3=0.31mm、傘部20aの断面積Y1=0.07mm、第2ストランド20全体の断面積Y2=0.18mm、傘部20aの幅Z1=0.61mm、ステム20bの幅Z2=0.19mmであった。これらの寸法パラメータを比で表すと、X2:X1=1.0:0.3、X1:X3=1.0:2.1、Y2:Y1=1.0:0.64、Z1:Z2=1.0:0.3であった。また、第1ストランド10の傾斜角度θは、表1に示したように4.13度であった。
【0028】
以上から明らかなように、実施例1,2の寸法パラメータ、傾斜角度θは、いずれも、上記した第2ストランド20の長手方向に沿った伸び特性を重視したタイプの範囲となっている。
【0029】
(係合力の試験)
実施例1,2の面ファスナーについて係合力に関する試験を行ったが、比較のため、ナイロン(PA12)を用いて製造したメッシュ状の面ファスナー(比較例1(試作No.S2771))、ポリプロピレン(PP)を用いて製造したメッシュ状の面ファスナー(比較例2(試作No.S1576))、実施例1,2と同じPBTエラストマーを用いているが、メッシュ状でないフィルム構造で、ベース層の両面に独立した係合素子が多数形成された面ファスナー(比較例3(試作No.S-3468-1))についても同様の試験を行った。
【0030】
a)ピール強力(剥離強力)、シアー強力(引張せん断強力)
試験片は、長さ(押出方向に沿った長さ、すなわち本実施形態の面ファスナー1の場合の第2ストランド20の長手方向に沿った長さ)が170mm、幅が20mmであった。ピール強力は、JIS L3416に基づいて、引張り試験機(SHIMADZU社製)にて測定した。シアー強力は、JIS L3416に基づいて、面ファスナー1と相手材(ループ材)とを引張り試験機(SHIMADZU社製)にて引張速度100mm/minにて、せん断方向に引っ張って測定した。なお、シアー強力の測定では、面ファスナー1の端縁から長さ方向に50mmの範囲を相手材(ループ材)に係合させた状態で行った。相手材(ループ材)である「ZK4030」は、東洋染工社製のパイル生地であり、「E40000」は、クラレファスニング社製のトリコットであり、前者は後者よりも相対的にループを形成する繊維の密度が低く、基布が柔軟である。結果を、表1、表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1及び表2中、寸法要素は、各試験片5本の平均値であり、性能要素は、3回の試験の平均値である。
【0034】
表1及び表2から、実施例1,2は、ピール強力及びシアー強力共に、比較例1と同等レベルであった。比較例2との比較では、ピール強力は同等レベルであったが、シアー強力は、実施例1,2の方が1.0N/cm以上高かった。これは、比較例2が伸縮性をほとんど有していないことによるものと考えられる。実施例1,2と材料が同じ比較例3との比較では、ピール強力は、実施例1,2の方が高かった。シアー強力は相手材が「ZK4030」の場合は大差ないものの、相手材が「E40000」の場合には、大きな差があった。メッシュの有無に伴う伸縮性の違いが影響していると考えられるが、相手材の特性も影響しており、この点についてはさらに後述する。
【0035】
b)F-S曲線の特性
上記のシアー強力の試験において測定した、引っ張った際の荷重(試験力)と変位量との関係を図6図10に示した。
実施例1の面ファスナー1は、相手材から分離せずに変位量が約140mm~約180mmまで伸び、その間、両者の係合によるせん断方向の荷重値が約65N~約70Nに至り、その後、面ファスナー1の破断により、せん断方向の荷重値が一気に数十N以上、0N近辺まで急低下した(図6参照)。
実施例2の面ファスナー1は、相手材から分離せずに変位量が約150mm~約190mmまで伸び、その間、両者の係合によるせん断方向の荷重値が約55N~約60Nに至り、その後、面ファスナー1の破断により、せん断方向の荷重値が一気に数十N以上、0N近辺まで急低下した(図7参照)。
【0036】
比較例1の面ファスナーは、相手材との係合によるせん断方向の荷重値は、数十N以上、0N近辺まで急低下する時点に至るまでに約65N~約70Nになったが、相手材から分離せずに伸びた変位量は約80mm~約100mmの範囲であった(図8参照)。
比較例2の面ファスナーは、相手材との係合によるせん断方向の荷重値は、数十N以上、0N近辺まで急低下する時点に至るまでに約40N~約50Nになったが、相手材から分離せずに伸びた変位量は約10mm~約16mmの範囲であった(図9参照)。
比較例3の面ファスナーは、相手材(ループ)がZK4030の場合、変位量約15mmで荷重値が約70Nになった後、両者が分離し始めて、相手材のループが切れ、荷重値が急低下する一方、その後、他のループへの引っ掛かりや切断が繰り返され、再び荷重値が急上昇した後急低下した。相手材がE40000の場合も同様であり、変位量約23mmで荷重値が約170Nまで上昇した後、両者が分離しつつかつ相手材のループを切りながら、荷重値が10N付近まで一気に急低下し、低い荷重値で推移した(図10参照)。
【0037】
以上より、実施例1及び実施例2の面ファスナー1が、相手材と分離せずに、140mm以上伸長していることがわかる。これに対し、比較例1~3の中で最も伸びたもので比較例1の約100mmであり、実施例1及び実施例2の伸びが大きいことがわかる。よって、実施例1及び実施例2の面ファスナー1は、特に、第2ストランド20の長手方向に沿った変位量が大きく、係合対象部位間の動きへの追従性が高い。しかも、変位量が大きいため、その間で高い衝撃吸収力を発揮でき、衝撃荷重がかかる部位間での係合に適している。
【0038】
これらのことから、長手方向に沿った長さが170mm、第2ストランドの長手方向に直交する幅が20mmの試験片を、第2ストランドの長手方向の一端縁から50mmの範囲の係合素子を相手材(ループ材)に係合した状態で、せん断方向に引っ張って測定した引張せん断試験において、面ファスナーと相手材(ループ材)との係合によるせん断方向の荷重値が急低下するまで第2ストランドの長手方向に沿った変位量として、120mm以上であるものが好ましく、さらには140mm以上であるものがより好ましい。すなわち、面ファスナーの引張前の全長を基準として、上記試験による変位量が、約70%以上であることが好ましく、約80%以上であることがより好ましい。
【0039】
c)弾性変形比率
表3は、実施例2(試作No.S-3680)の面ファスナー1に関し、上記シアー強力試験における張力下寸法、張力を解除して復元した際の長さ(無張力時寸法)、張力下寸法の変化量(張力下寸法変化)、張力下寸法と無張力時寸法との差である弾性変形長、張力下寸法の変化量中の弾性変形長の比率、張力下寸法の変化量と弾性変形長との差である塑性変形長、張力下寸法の変化量中の塑性変形長の比率を示したものである。図11(a)に示したように、L0は引張前の長さであり、L1~L7は、引張後の長さを示す。また、図11(b)は、弾性変形長と塑性変形長とを比較したグラフである。
【0040】
【表3】
【0041】
表3及び図11(b)のグラフから、実施例2の面ファスナー1は、弾性変形長の比率が、面ファスナー1が破断する直前まで約50%以上となっていることがわかる。このことからも、実施例2の面ファスナー1は、伸縮性が高く、係合対象部位間の相対的な動きへの追従性が高いことがわかる。また、120mm以上、好ましくは140mm以上の伸長を示す間、徐々に塑性変形長の割合が増加しており、衝撃荷重により係合対象部位間で急激な動きが生じても、高い減衰力を発揮できることがわかる。
【0042】
d)試験片単体のF-S曲線の特性
次に、上記と同じ試験片を、単体で、引張り試験機(SHIMADZU社製)にて、引張速度100mm/minで、第2ストランドの長手方向(押出方向)に沿って引っ張った引張試験(クラレファスニング法)を行った。実施例1(試作No.S-3670)、実施例2(試作No.S-3680)、比較例1(試作No.S2711)、比較例2(試作No.S1576)、比較例3(試作No.S-3659-2)は上記と同じものである。比較例4(試作No.L8972S)は、比較例3と同様に熱可塑性ポリエステルエラストマーを用いたフィルム状のものであるが、比較例3よりも軟質である。これらの試験片の寸法変化を表4、表5に示し、変位量と荷重との関係を示すグラフを図12図13に示す。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
実施例1及び実施例2の面ファスナー1は、いずれも、破断までの変位量が150mm以上であり、その間の弾性変形長の比率が60%以上で、伸縮性が高いことがわかる。比較例1は、破断するまでの弾性変形長は60%以上であったが、100mmに至る前に破断してしまい、係合対象部位間の相対的な動きへの追従範囲が乏しく、また、塑性変形長が短いことから、衝撃荷重に対する減衰特性も実施例1及び2より低いと言える。比較例2は、引っ張った直後に破断しており、伸縮性に極めて乏しいことがわかった。これに対し、比較例3及び比較例4は、変位量150mmでも破断せず、また、弾性変形長の比率も高く、十分な伸縮性を示した。これは、比較例3及び比較例4が、実施例1及び実施例2と同じ材料であることによるものであるが、変位量50mm程度で荷重値が約200Nを超え、変位量150mmに至ると荷重値が280N以上となり、実施例1及び実施例2の破断時(荷重値が急低下する時点(急低下後ではなく急低下する直前の意))の荷重値約55N~約70Nとは大きな差があった。
【0046】
上記のように、面ファスナーを相手材(ループ材)に係合させて、せん断方向に引っ張る試験における荷重値が急低下する時点の荷重は、実施例1及び実施例2は約55N~約70Nの範囲である。よって、変位量50mm程度で約200Nを超える荷重となる比較例3及び4を用いた場合、相手材(ループ材)と係合した状態では、相手材のループの破損が早期に生じてしまう。それでは、面ファスナー自体の伸縮性が高くても、係合対象部位間の係合力は一気に低下してしまい、係合対象部位間が係合を維持した状態での追従性を高めることには適していない。これが、比較例3の面ファスナーを用いて測定した上記の相手材との係合力を示す荷重値(図10参照)において、十分な伸びを示す前に急低下する理由である。
【0047】
よって、実施例1及び実施例2の面ファスナー1のように、各ストランド10,20の変形、係合素子30の変形が生じやすい孔部40を備えたメッシュ構造とすることが好ましい。そして、面ファスナー単体での引張試験における破断時荷重が、引張せん断試験における面ファスナーと相手材(ループ材)との係合によるせん断方向の荷重値が急低下する時点の荷重値と同等(上記の例では、約55N~約70N)か、それより高い場合でも1.5倍以下の特性であることが好ましい。なお、破断時荷重は、低すぎても係合力が低下するため、面ファスナーと相手材(ループ材)との係合によるせん断方向の荷重値が急低下する時の荷重値の70%以上の特性を有することが好ましい。
【0048】
(実施例3A,3B,3C)
(実施例3A)
実施例1,2と同じPBTエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ハイトレル」(登録商標)、製品番号6377」を用いて、実施例3Aのメッシュ状の面ファスナー1(試作No.S-3694-2)を製造した。
【0049】
実施例3Aの第1ストランド10の厚さX2=0.19mmであり、第2ストランド20は、傘部20aの厚さX1=0.33mm、ステム20bの高さX3=0.40mm、傘部20aの断面積Y1=0.31mm、第2ストランド20全体の断面積Y2=0.63mm、傘部20aの幅Z1=1.01mm、ステム20bの幅Z2=0.27mmであった。これらの寸法パラメータを比で表すと、X2:X1=1.0:1.7、X1:X3=1.0:1.2、Y2:Y1=1.0:0.65、Z1:Z2=1.0:0.27であった。また、第1ストランド10の傾斜角度θは、3.44度であった(符号の位置は、図5参照)。
【0050】
以上から明らかなように、実施例3Aの寸法パラメータ、傾斜角度θは、上記した第2ストランド20の長手方向に略直交する方向の引裂き強さを重視したタイプである。
【0051】
(係合力の試験)
a)ピール強力(剥離強力)、シアー強力(引張せん断強力)
実施例1,2と同様にピール強力及びシアー強力の試験を行った。相手材(ループ材)も実施例1,2と同様の「ZK4030」、「E40000」とした。その他の試験条件も実施例1,2と同様である。
【0052】
その結果、ピール強力は、ZK4030が相手材の場合で2.91N/cmであり、E40000が相手材の場合で1.44N/cmであった。
シアー強力は、ZK4030が相手材の場合で7.03N/cmであり、E40000が相手材の場合で15.80N/cmであった。
【0053】
b)F-S曲線の特性
上記のシアー強力の試験において測定した、引っ張った際の荷重(試験力)と変位量との関係を図14に示した。
実施例3Aの面ファスナーは、相手材(ループ)がZK4030の場合、変位量約35~40mmで荷重値が約55~75Nになった後、両者が分離し始めて、相手材のループが切れ、荷重値が急低下した。相手材がE40000の場合には、変位量約35~38mmで荷重値が約150~160Nまで上昇した後、荷重値が急低下した。
従って、実施例3Aのものは、実施例1及び実施例2と比較すると、第2ストランド20の長手方向に沿った変位量が小さかった。しかしながら、同様の荷重値を示した図10の比較例3と比べると、最初の荷重値のピークとなった変位量と比較して実施例3Aは2倍前後となっており、メッシュを有することで第2ストランド20の長手方向への変位量が、メッシュを有しないものと比較すると増加しており、伸縮特性が向上している。
【0054】
c)弾性変形比率
表6は、実施例3A(試作No.S-3694-2)の面ファスナー1に関し、シアー強力試験における張力下寸法、張力を解除して復元した際の長さ(無張力時寸法)、張力下寸法の変化量(張力下寸法変化)、張力下寸法と無張力時寸法との差である弾性変形長、張力下寸法の変化量中の弾性変形長の比率、張力下寸法の変化量と弾性変形長との差である塑性変形長、張力下寸法の変化量中の塑性変形長の比率を示したものである。図15は、弾性変形長と塑性変形長とを比較したグラフである。
【0055】
【表6】
【0056】
表6及び図15のグラフから、実施例3Aの面ファスナー1は、弾性変形長の比率が、変位25mmまでは大きかったが、それ以降急低下し、変位50mmでは相手材との係合が部分的に外れ、変位量75mm以降は、相手材との係合が完全に外れていた。よって、第2ストランド20の長手方向に沿った伸びという点では、実施例1及び2よりも低かった。
【0057】
d)試験片単体のF-S曲線の特性
次に、上記と同じ試験片を、単体で、引張り試験機(SHIMADZU社製)にて、引張速度100mm/minで、第2ストランドの長手方向(押出方向)に沿って引っ張る引張試験(クラレファスニング法)を行った。試験片の寸法変化を表7に示し、変位量と荷重との関係を示すグラフを図16に示す。
【0058】
【表7】
【0059】
実施例3Aの面ファスナー1は、変位量が180mmでも破断しないが、弾性変形率は44~54%と、表4に示した実施例1,2の値よりも小さい。その一方、塑性変形率は、40~56%であり、実施例1,2の値よりも大きい。よって、実施例3Aの面ファスナー1は、第2ストランド20の長手方向に沿った伸縮率は、実施例1,2より低いが、塑性変形率が高いため、外力として大荷重が付与されることにより塑性変形が生じ、相手材の破断を抑制しつつ、外力を減衰する作用に優れている。
【0060】
(実施例3B)
(引裂き強力)
次に、実施例3Aと同じ素材で形成され、かつ、傾斜角度θを除いて同じ寸法パラメータで形成された実施例3B(試作No.S-3690-1)の面ファスナー1について、JIS L-3416に準じた引裂き試験を、第2ストランド20の長手方向(タテ方向)及び該長手方向に直交する方向(ヨコ方向)について行った。なお、実施例3Bの傾斜角度θは30度であった。タテ方向は、第2ストランド20の長手方向に沿って所定長さの切れ目を入れ、切れ目を挟んだ一方を引張試験機の180度反対位置に配置された各チャックに挟持させて反対方向に引っ張ることにより、試験片を引き裂いた。同様に、ヨコ方向は、第2ストランド20の直交方向に沿って切れ目を入れ、切れ目を挟んだ一方及び他方の片をそれぞれ2つのチャックでつかみ、逆方向に引っ張って引き裂くことにより行った。実施例2(試作No.S-3680)と本実施例3B(試作No.S-3690-1)との測定結果を表8に示す。
【0061】
【表8】
【0062】
表8から明らかなように、実施例3Bの試験片は、実施例2と比較して、タテ方向で1.5~2倍に、ヨコ方向では10倍以上の引裂き強さになっている。
【0063】
(縫目(せん断)破断強力)
次に、JIS L-3416に準じて、図17に示したように、綿布に実施例3Bの面ファスナー1の試験片(試験片の幅25mm)を、該試験片の端縁より2mmの位置で縫い付ける。ミシン針14番、ミシン糸#30を用い、縫目ピッチ3mmで縫い付ける。綿布と面ファスナー1をそれぞれチャックでつかんで引っ張って破断させる(引張速度300mm/分)。結果を表8の下欄に示す。縫目破断応力は、値が小さいほど、面ファスナー1に伸びが発生していることを示しており、実施例2では、タテ方向に伸びやすいが、ヨコ方向には伸び難い。これに対し、実施例3Bではタテ方向に伸び難く、ヨコ方向に伸びやすい特性を有していることがわかる。
【0064】
(実施例3B,3C)
(幅方向強度)
次に、実施例3B(試作No.S-3690-1)、実施例3C(試作No.S-3690-2)について、第2ストランド20の長手方向に直交する方向(幅方向)を上下とし、上下の各端縁を、60mmの間隔で配置された引張試験機の上下のチャックでそれぞれつかみ、100mm/分で30mm引っ張った際の特性を求めた。なお、試験片の第2ストランド20の長手方向に沿った長さ(試験片自体の幅)は20mmであった。また、実施例3Cの第1ストランド10の傾斜角度θは45度であった。また、実施例2(試作No.3680、第1ストランド10の傾斜角度θ=4.13度)についても同様の試験を行った。結果を表9に示す。
【0065】
【表9】
【0066】
実施例3B,3Cは、実施例2に比べて、強力値及び強度共に大幅に小さくなっている。これは、第2ストランド20の長手方向に直交する方向(幅方向)へは、実施例3B,3cの方が、実施例2よりも伸びやすいことを示している。また、実施例3Bと実施例3Cとを比較すると、実施例3Cの方がより幅方向に伸びやすいことがわかる。よって、傾斜角度θをある程度つけることにより、好ましくは20~45度、より好ましくは30~45度とすることにより、幅方向へ伸びやすい特性の面ファスナー1とすることができる。
【0067】
(斜め方向強度)
実施例3B(試作No.S-3690-1)、実施例3C(試作No.S-3690-2)及び実施例2(試作No.3680)について、図18に示したように、一辺80mmの正方形の試験片を作成し、引張試験機の上下のチャック間距離60mmとして、引張速度100mm/分で斜め方向に引っ張った。図18に示したように、各試験片は、2本の対角線の一方に沿って伸びやすくなっており、この方向を「伸びる方向」とし、他方の対角線に沿った方向を「逆方向」として測定した。結果を表10に示す。
【0068】
【表10】
【0069】
実施例3B,3Cは、「伸びる方向」の強力値の値が実施例2よりも大きくなっていると共に、「伸びる方向」と「逆方向」の強力値の差も実施例2よりも大きくなっている。これは、傾斜角度θの大きさによって、伸びやすい方向を制御できることを示している。
【0070】
よって、傾斜角度θを種々調整することにより、すなわち、実施例1,2及び実施例3Aのように、比較的小さな値とすることで第2ストランド20の長手方向に沿って伸びやすい特性を付与したり、実施例3B,3Cのように傾斜角度θを比較的大きくすることで幅方向や斜め方向に沿って伸びやすい特性を付与したりすることができる。
【符号の説明】
【0071】
1 面ファスナー
10 第1ストランド
20 第2ストランド
20a 傘部
20b (第2ストランドの)ステム
30 係合素子(フック)
40 孔部(メッシュ)
100 シート状成形体
110 ベース層
120 下面側リブ
130 上面側リブ
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
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図16
図17
図18