(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】小型化デバイスからのペイロード放出の超音波共鳴トリガー
(51)【国際特許分類】
A61M 37/00 20060101AFI20221027BHJP
A61K 9/00 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
A61M37/00 550
A61K9/00
(21)【出願番号】P 2019565389
(86)(22)【出願日】2018-05-03
(86)【国際出願番号】 US2018030949
(87)【国際公開番号】W WO2018222339
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-02-26
(32)【優先日】2017-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519392030
【氏名又は名称】バイオナット ラブス リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】519392041
【氏名又は名称】シュピゲルマッハー、マイケル
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュピゲルマッハー、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】キセリョフ、アレックス
【審査官】二階堂 恭弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-61972(JP,A)
【文献】特開平2-152468(JP,A)
【文献】米国特許第6368275(US,B1)
【文献】特開平5-228858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
A61K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的組織の領域に埋め込み、前記生物学的組織に医療ペイロードを放出するためのキャリアデバイスであって、
前記医療ペイロードを収容するためのキャビティであって、内圧を有するキャビティと、
前記キャビティの内部に配置された共振素子であって、所定の共振周波数を有し、かつ前記共振素子が前記所定の共振周波数において共振すると前記キャビティの前記内圧を増加させ
て、
増加した前記内圧が所定の閾値を超えると、前記医療ペイロードを前記キャビティから前記生物学的組織に放出させるように配置されている、共振素子と、を備え
、
前記所定の共振周波数が、超音波周波数である、キャリアデバイス。
【請求項2】
前記キャビティは、前記内圧が
前記所定の閾値を超えると開く可撓性シールによって密封されている、請求項1に記載のキャリアデバイス。
【請求項3】
前記可撓性シールは、前記内圧が前記所定の閾値を下回ると閉じる、請求項2に記載のキャリアデバイス。
【請求項4】
前記キャビティは、前記内圧が
前記所定の閾値を超えると前記医療ペイロードが拡散する小さな孔を有する、請求項1に記載のキャリアデバイス。
【請求項5】
前記医療ペイロードは、前記内圧が前記所定の閾値を下回ると拡散を停止する、請求項4に記載のキャリアデバイス。
【請求項6】
前記共振素子が、前記キャビティ内の可撓性カンチレバーである、請求項1に記載のキャリアデバイス。
【請求項7】
前記共振素子が、前記キャビティ内の膜である、請求項1に記載のキャリアデバイス。
【請求項8】
前記キャリアデバイスを推進するための前記キャリアデバイスの外側に取り付けられた少なくとも1つの推進共振素子をさらに備え、
前記推進共振素子が、所定の推進共振周波数を有し、
前記推進共振素子が、前記所定の推進共振周波数において共振すると前記生物学的組織を通して前記キャリアデバイスを推進するように配置され、
前記所定の推進共振周波数が、超音波周波数であり、
前記所定の推進共振周波数が、前記所定の共振周波数と同じでない、請求項1に記載のキャリアデバイス。
【請求項9】
前記キャリアデバイスの外側に取り付けられた複数の推進共振素子をさらに備え、各前記推進共振素子が、可撓性カンチレバーを含
み、
前記複数の推進共振素子のそれぞれが、互いに異なる所定の推進共振周波数を有し、
前記複数の推進共振素子が、前記所定の推進共振周波数において共振すると前記生物学的組織を通して前記キャリアデバイスを推進するように互いに異なる位置に配置され、
各前記推進共振素子の前記所定の推進共振周波数が、超音波周波数であり、
各前記推進共振素子の前記所定の推進共振周波数が、前記共振素子の前記所定の共振周波数と同じでない、請求項
8に記載のキャリアデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2017年5月29日に出願された米国仮特許出願第62/512,091号の利益を主張し、その優先日は本明細書によって主張されている。
【背景技術】
【0002】
現在、超音波(「US」)ベースの方法は、生体組織に埋め込まれた粒子またはデバイスから、薬物および診断補助具などの医療ペイロードの放出をリモートでトリガーするために存在する。リモートトリガーペイロード放出は、次のような例を含むがこれらに限定されない特定の臨床目標をサポートする上で望ましい。
キャリアが特定の場所(例えば、腫瘍)にある場合にのみの医療ペイロードの放出、
特定の時間に(例えば、臨床手順の特定のステップで)のみの医療ペイロードの放出、または
臨床プロトコルによって決定される特定の濃度および/または量でのみの医療ペイロードの放出。
【0003】
既存のUSトリガー方法は、次を含む様々な作用に依存している。
振動に起因する局所的な加熱を引き起こす、US誘導のキャビテーションに基づく熱的/機械的作用、および拡散速度の増加および/または拡散を増加させる局所的な媒体特性の変化、
ペイロード放出をもたらすキャリアの機械的劣化/破裂、
キャリアの形状変化、ならびに
組織を介したペイロードの拡散/吸収の改善をもたらす、ペイロードが放出されている周囲の生物学的組織の特性の変化(例えば、ソノポレーション)。
【0004】
残念ながら、現在の方法にはいくつかの重大な欠点がある。第1に、現在の方法はいずれも、以下の臨床要件のサブセット以上をサポートしていない。
【0005】
約10cmを超える組織貫通深さ(10cm以上、7MHz以上の周波数での診断USの制限)を貫通する能力、および放出が発生する組織の深さをカスタマイズする機能。
【0006】
カスタマイズ可能なUS周波数範囲(KHz-MHz)のサポート、既存の医療用US機器との互換性、および組織への侵襲性の最小化。例えば、キャビテーションベースの方法は通常、高強度集束超音波(HIFU)を使用したKHz範囲で最も効果的である一方で、ポリマー分解法は、KHz範囲でより効果的であり、ポリマー構造変化法は、MHz範囲(診断US)で実用的である。
【0007】
制御可能な時間期間にわたる段階的なペイロード放出のサポート、あるいは、(単一の放出パルスではなく)オンオフの切り替え可能な放出機能のサポート。対照的に、ペイロードを包む均一なポリマーの劣化に依存する方法は、不可逆で、段階的な放出機能を欠いている設計によるものである。同様に、記載されている方法はいずれも、繰り返しのストップアンドゴーサイクル、すなわち、事前設定された場所での漸進的な管理されたペイロード放出を確実にサポートしていない。
【0008】
第2に、既存の方法は、同じ組織領域内の複数のペイロードキャリアの個別の制御(つまり、USトリガーにさらされた同じ領域内にある多くのキャリアのうちの特定のキャリアのみからペイロードを選択的に放出すること)をサポートしていない。
【0009】
したがって、現在の能力の上記の制限を克服する埋め込み可能なデバイス、およびその方法を有することが望ましいであろう。この目的は、本発明の実施形態によって達成される。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の様々な実施形態によれば、以下を実現するために、一定の超音波周波数の所定の共振周波数を有する少なくとも1つの共振素子を有する埋め込み型ペイロードキャリアデバイスが提供される。
カスタマイズ可能な組織貫通深さ、
カスタマイズ可能なUS周波数範囲のサポート、
段階的およびオン/オフ切り替え可能な、かつ管理されたペイロード放出機能、
同じ組織領域内の複数のペイロードキャリアの個別制御、ならびに
上記のデバイスの使用のための方法。
【0011】
本発明の特定の実施形態は、生体組織に埋め込まれたキャリアのリモートトリガーおよびナビゲーションのための超音波(「US」)に依存する。他の実施形態は、超音波を他の外部の物理的刺激と組み合わせており、その非限定的な例としては、電磁界、現象、および作用、ならびに温度作用と圧力作用との両方を含む熱力学的現象および作用が挙げられる。
【0012】
本明細書における「キャリアデバイス」および「キャリア」という用語は、生物学的組織に埋め込み可能であり、かつ医療ペイロードを組織に搬送および放出することができる任意の物体を示す。「医療ペイロード」という用語、または医療の文脈で使用される「ペイロード」という用語は、任意の物質または材料、いくつかの関連する治療材料の組み合わせ、診断、または治療および診断の組み合わせを含むと、本明細書で理解される。本発明の特定の実施形態では、流体ペイロードが使用される。本明細書における「流体」という用語は、ペイロードが圧力に容易に屈し、流れることができることを示す。本発明の特定の実施形態では、固体ペイロードが使用される。本明細書における「固体」という用語は、ペイロードが内部刺激または外部刺激に屈し、別個の粒子の形態で放出され得ることを示す。本明細書における「デバイス」(キャリアに関して)という用語は、3D印刷、成形、鋳造、エッチング、リソグラフィ、薄膜技術、堆積技術をなど含むがこれらに限定されない、既知の製造技術によって製造されるキャリアを示す。本明細書における「粒子」(キャリアに関して)という用語は、高分子スケールまでのキャリアを示す。
【0013】
本発明の様々な実施形態では、生物学的組織への埋め込みのためにキャリアデバイスは、小型化される。本明細書の「小型化された」(キャリアに関して)という用語は、ミリメートルからセンチメートルスケールのキャリア、「キャリアマイクロデバイス」と呼ばれるマイクロメートル(「ミクロン」)スケールのキャリア、「キャリアナノデバイス」と呼ばれるナノメートルスケールのキャリア(数百ナノメートルを含む)、および「キャリア粒子」と呼ばれる高分子スケールのキャリアを含むがこれらに限定されない、小さなサイズのキャリアを示す。キャリア自体のサイズが上記に示したとおりであるだけでなく、キャリアの個別の構成要素も同様のスケールである。
【0014】
一実施形態では、本発明は、生物学的組織の領域に埋め込み、生物学的組織に医療ペイロードを放出するためのキャリアデバイスを提供し、キャリアデバイスは、
●医療ペイロードを収容するためのキャビティであって、内圧を有するキャビティと、
●共振素子であって、所定の共振周波数を有し、かつ共振素子が所定の共振周波数において共振するとキャビティの内圧を増加させ、医療ペイロードをキャビティから生物学的組織に放出させるように配置されている、共振素子と、を備え、
所定の共振周波数が、超音波周波数である、キャリアデバイス。
【0015】
一実施形態では、キャビティは、内圧が所定の閾値を超えると開く可撓性シールによって密封されている。一実施形態では、可撓性シールは、内圧が所定の閾値を下回ると閉じる。一実施形態では、キャビティは、内圧が所定の閾値を超えると医療ペイロードが拡散する小さな孔を有する。一実施形態では、医療ペイロードは、内圧が所定の閾値を下回ると拡散を停止する。一実施形態では、共振素子は、キャビティである。一実施形態では、共振素子は、キャビティ内の可撓性カンチレバーである。一実施形態では、共振素子は、キャビティ内の膜である。
【0016】
一実施形態では、デバイスは、キャリアデバイスの外側に取り付けられた少なくとも1つの可撓性カンチレバーをさらに備え、少なくとも1つの可撓性カンチレバーは、所定の推進共振周波数を有し、外部可撓性カンチレバーが所定の推進共振周波数において共振すると生物学的組織を通してキャリアデバイスを推進するように配置され、所定の推進共振周波数は、超音波周波数である。
【0017】
一実施形態では、本発明は、生物学的組織内で医療ペイロードを放出するための方法を提供し、方法は、
●生物学的組織への埋め込みのために、医療ペイロードを含むキャリアデバイスを選択するステップであって、キャリアデバイスが、医療ペイロードを放出するための共振素子を含み、共振素子が、所定の放出共振周波数を有し、所定の放出共振周波数が、超音波周波数である、ステップと、
●生物学的組織にキャリアデバイスを埋め込むステップと、
●所定の放出共振周波数において超音波をパルス化して、生物学的組織に医療ペイロードを放出するステップと、を含む。
【0018】
一実施形態では、方法は、所定の放出共振周波数において超音波のパルス化を繰り返して、生物学的組織に医療ペイロードを放出することを繰り返すステップをさらに含む。
【0019】
一実施形態では、キャリアデバイスが、キャリアデバイスを推進するための推進共振素子をさらに含み、推進共振素子が、所定の推進共振周波数を有し、所定の推進共振周波数が、超音波周波数であり、所定の推進共振周波数が、所定の放出共振周波数と同じではなく、方法は、所定の推進共振周波数で超音波をパルス化して、生物学的組織を通してキャリアデバイスを推進するステップをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
開示された主題は、添付の図面とともに読まれる場合、以下の詳細な説明を参照することによって最もよく理解され得る。
【0021】
【
図1A】本発明の実施形態による放出可能なペイロード封じ込め部を有するキャリアデバイスの断面を概念的に示す。
【
図1B】本発明の別の実施形態による放出可能なペイロード封じ込め部を有するキャリアデバイスの断面を概念的に示す。
【
図2A】本発明の実施形態によるカンチレバーエクスペラー構成要素を有するキャリアデバイスの断面を概念的に示している。
【
図2B】
図2Aのキャリアデバイスによるペイロード放出を概念的に示す。
【
図3A】本発明の別の実施形態によるカンチレバーエクスペラー構成要素を有するキャリアデバイスの断面を概念的に示す。
【
図3B】
図3Aのキャリアデバイスによるペイロード放出を概念的に示す。
【
図4A】本発明の実施形態による膜エクスペラー構成要素を有するキャリアデバイスの断面を概念的に示す。
【
図4B】
図4Aのキャリアデバイスによるペイロード放出の概念を概念的に示す。
【
図5】カンチレバーエクスペラー構成要素およびカンチレバー推進構成要素を提供する、本発明の実施形態によるキャリアデバイスの断面を概念的に示す。
【
図6】本発明の一実施形態による方法のフロー図である。
【0022】
説明を簡単かつ明確にするために、図に示される要素は、必ずしも縮尺どおりに描かれておらず、いくつかの要素の寸法は、他の要素に対して誇張されている場合がある。さらに、対応するまたは類似の要素を示すために、参照番号は、図の間で繰り返される場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の様々な実施形態は、キャリアのペイロードの放出を作動させる共振素子を含むキャリアデバイスを提供する。本明細書における「共振素子」という用語は、物理的刺激に応答して振動し、かつ特定の所定の共振周波数を有するキャリアデバイスの任意の構成要素または部分を示す。共振周波数またはその付近における物理的刺激からの振動エネルギーが共振素子に蓄積し、これにより、共振周波数における振動の振幅が大幅に増加する。ただし、共振周波数またはその付近にない物理的刺激は共振素子に蓄積されないため、共振周波数またはその付近における共振素子の応答は、共振素子の重要な特性である。本発明の特定の実施形態によれば、キャリアの共振素子の共振周波数は、キャリア自体の共振周波数と呼ばれる。
【0024】
これらの実施形態によれば、共振素子の振動の振幅の増加は、特に流体ペイロードの場合、ペイロードの圧力の増加を引き起こし、圧力の増加は、キャリアからのペイロードの放出を引き起こす。さらに、これらの実施形態によれば、共振素子の共振周波数は超音波の範囲内にあるように事前決定されており、そのため、ペイロードを放出するための特定のキャリアデバイスのリモートトリガーは、キャリアデバイスの共振素子の共振周波数に調整された超音波のパルスを送信することによって達成される。
【0025】
本発明のいくつかの実施形態では、キャリアデバイスおよびその構成要素部品は小型化される。いくつかの実施形態によれば、デバイス全体の直径または実際の長さは、100~5,000マイクロメートル、10~100マイクロメートル、1~10マイクロメートル、200~1,000ナノメートル、およびこれらの任意の組み合わせから選択される。いくつかの実施形態によれば、デバイス全体の直径または実際の長さは、200ナノメートル~最大5,000マイクロメートルである。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態では、キャリアデバイスは、細長い、軸対称、中心対称、キラル、ランダム、およびこれらの組み合わせから選択される形状を含む。本発明のいくつかの実施形態では、共振素子は、細長い、フィルム、ワイヤ、ストリング、ストリップ、シート、プラグ、膜、鞭毛、コイル、らせん、アーム、ジョイント、およびこれらの組み合わせから選択される構成を含む。
【0027】
以下は、その図面を参照した、いくつかの非限定的な実施形態の詳細な説明である。
【0028】
図1Aは、本発明の実施形態による、キャビティ103内に収容された放出可能な流体ペイロード102を有するキャリアデバイス101の断面を概念的に示している。キャビティ103は、内圧を有し、温度および外圧を含むがこれらに限定されない、特定の条件に応じて変化し得る。本明細書における「内圧」という用語は、キャビティのすぐ外側の圧力に対するキャビティ内の圧力を示す。キャビティ103の内圧はまた、キャビティ103の内容物にも印加される。すなわち、キャビティ103内の内圧がどのようなものであっても、その同じ内圧がキャビティ103内にあるものに印加される。同様に、キャビティ103の内容物に印加される内圧はまた、キャビティ103自体の内圧でもある。可撓性膜104は、キャビティ103の開口部を覆っている。キャリアデバイス101は、生物学的組織内に埋め込まれるかまたは配置される。一実施形態では、キャビティ103は共振素子である。可撓性膜104は、通常、ペイロード102を生物学的組織への放出から密封するが、キャビティ103の内圧が所定の閾値を超えると外側に開く。関連する実施形態では、可撓性膜104はポリマー系である。いくつかの実施形態によれば、キャビティの容積は、キャリアデバイスの5%~95%から選択される。いくつかの実施形態によれば、キャビティの容積は、キャリアデバイスの容積の5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または95%から選択される。
【0029】
図1Bは、本発明の実施形態による、キャビティ113に収容された放出可能な流体ペイロード112を有するキャリアデバイス111の断面を概念的に示している。小さな孔114(キャビティ113に対して寸法が小さい)により、ペイロード112は、キャビティ113を出ることができるが、通常の条件(通常の体温で、外部超音波刺激がない場合)では、孔114を通るキャビティ113からのペイロード112の拡散は、無視できる。一実施形態では、キャビティ103自体が共振素子である。
【0030】
図2Aは、可撓性膜シール204を有するキャビティ203内に収容された放出可能な流体ペイロード202を有するキャリアデバイス201の断面を概念的に示しており、可撓性膜シール204は、通常、流体ペイロード202を生物学的組織への放出から密閉するが、キャビティ203の内圧が閾値を超えると外側に開く。本発明の実施形態によると、キャビティ203内には、カンチレバーエクスペラー構成要素205が位置している。本明細書における「カンチレバー」という用語は、一方の端部、この場合は、キャビティ203の内壁に固定された端部206にのみ取り付けられる細長い素子を示す。さらに、本発明の実施形態による「カンチレバー」は、可撓性および/または変形可能な羽根状素子であり、これは、流体ペイロードに浸漬されると、および屈曲および/または変形されると、流体ペイロード上の圧力を増加させ、かつ流体ペイロードを流れの方向へ流すかまたは変化させる。関連する実施形態では、複数のカンチレバーエクスペラー構成要素が使用される。
【0031】
図2Bは、本発明の図示された実施形態による、キャリアデバイス201による流体ペイロード202の放出を概念的に示している。周波数F
1の外部超音波パルス200が、キャリアデバイス201の環境に導入される。カンチレバーエクスペラー205は、F
1の所定の共振周波数を有するように幾何学的形状および材料を適切に選択することによって製造されており、したがって、外部超音波パルス200の影響下で共振を開始し、両矢印206で示すように共振周波数F
1において高振幅で振動し、これによって、流体ペイロード202内の内圧が方向207に増加する。増加した内圧が所定の閾値を超えると、可撓性膜シール204が方向208に開き、これによって、キャビティ203の開口部が開かれ、次いで、流体ペイロード202の放出209がもたらされる。したがって、周波数F
1の外部超音波パルス200は、流体ペイロード202の放出のトリガーとして機能する。本発明の関連する実施形態によれば、可撓性膜シール204は、可逆的に開き、外部超音波パルス200が停止されると、カンチレバーエクスペラー205も振動を停止し、内圧が閾値を下回って低下し、そのため、可撓性膜シール204はその最初の閉じた位置(
図2Aに示すように)に戻り、流体ペイロードの放出209が停止する。この機能により、キャリアデバイス201のオンオフ動作が可能になる。
【0032】
図3Aは、本発明の実施形態による、キャビティ303に収容された放出可能な流体ペイロード302を有するキャリアデバイス301の断面を概念的に示している。本発明の実施形態によると、キャビティ303内には、カンチレバーエクスペラー構成要素305が位置している。関連する実施形態では、複数のカンチレバーエクスペラー構成要素が使用される。キャビティ303の外壁304は、小さな孔310(キャビティ303に対して寸法が小さい)を有し、ペイロード302がキャビティ303を出ることを可能にするが、通常の条件(通常の体温で、外部超音波刺激がない場合)では、孔310を通るキャビティ303からのペイロード302の拡散は、無視できる。関連する実施形態では、ペイロード302は、キャビティ303の内圧が所定の閾値を超えると孔310を介して放出され、キャビティ303の内圧が閾値を下回ると放出されるのを停止する。
【0033】
図3Bは、本発明の図示された実施形態による、キャリアデバイス301による流体ペイロード302の放出を概念的に示している。周波数F
2の外部超音波パルス300が、キャリアデバイス301の環境に導入される。カンチレバーエクスペラー305は、F
2の所定の共振周波数を有するように幾何学的形状および材料を適切に選択することによって製造されており、したがって、外部超音波パルス300の影響下で共振を開始し、両矢印306で示すように共振周波数F
2において高振幅で振動し、これによって、流体ペイロード302内の内圧が方向307に増加する。増加した内圧は、流体ペイロード302の圧力を増加させ、それによって、孔310を通る流体ペイロード302の拡散を増加させ、流体ペイロード302の放出309をもたらす。したがって、周波数F
2の外部超音波パルス300は、流体ペイロード302の放出のトリガーとして機能する。関連する実施形態によれば、外部超音波パルス300が停止すると、カンチレバーエクスペラー305も振動を停止し、そのため、内圧は低下し、孔310を通る流体ペイロードの拡散309は、その通常の無視できるレベル(
図3A)に戻り、流体ペイロードの放出309は、停止する。この機能により、キャリアデバイス301のオンオフ動作が可能になる。
【0034】
図4Aは、可撓性膜シール404を有するキャビティ403内に収容された放出可能な流体ペイロード402を有するキャリアデバイス401の断面を概念的に示しており、可撓性膜シール404は、通常、ペイロード402を生物学的組織への放出から密閉するが、キャビティ403の内圧が閾値を超えると外側に開く。本発明の実施形態によると、キャビティ403内には、膜エクスペラー構成要素405が位置している。
【0035】
図4Bは、本発明の図示された実施形態による、キャリアデバイス401による流体ペイロード402の放出を概念的に示している。周波数F
3の外部超音波パルス400が、キャリアデバイス401の環境に導入される。膜エクスペラー405は、F
3の所定の共振周波数を有するように幾何学的形状および材料を適切に選択することで製造されており、したがって、外部超音波パルス400の影響下で共振を開始し、両矢印406で示すように共振周波数F
3において高振幅で振動し、これによって、流体ペイロード402内の内圧が方向407に増加する。圧力の増加により、可撓性膜シール404は、方向408に開き、それによって、キャビティ403の開口部が開かれ、次いで、流体ペイロード402の放出409がもたらされる。したがって、周波数F
3の外部超音波パルス400は、流体ペイロード402の放出のトリガーとして機能する。本発明の関連する実施形態によれば、可撓性膜シール404は、可逆的に開き、外部超音波パルス400が停止されると、膜エクスペラー405も振動を停止し、そのため、内圧は低下し、可撓性膜シール404は、その最初の閉じた位置(
図4Aに示すように)に戻り、流体ペイロードの放出409が停止する。この機能により、キャリアデバイス401のオンオフ動作が可能になる。
【0036】
上記で参照した図面および説明に示された実施形態は非限定的であり、本発明に従って、他の超音波感応構成も可能である。特に、ペイロード放出の作用を達成するために、上記の原理に基づいて、異なる形状および材料の1つ以上の柔軟な機械構成要素をキャビティ内の異なる位置に位置していてもよい。
【0037】
図5は、カンチレバー放出構成要素504およびカンチレバー推進構成要素505、506、および507を提供する、本発明の実施形態によるキャリアデバイス501の断面を概念的に示す。キャリアデバイス501は、流体ペイロード502を含むキャビティ503と、
図3Aおよび
図3Bに示されるキャリアデバイス301と同様の動作のための小さな孔510と、を特徴とする。カンチレバー推進構成要素505、506、および507は、キャリアデバイス501の外側に取り付けられ、流体環境、または局所的な流体力学的特性を有することを特徴とする環境で、キャリアデバイス501に推進力および方向ナビゲーションを提供する。カンチレバー推進素子505、506、および/または507が所定の推進共振周波数で共振すると、それらは、キャリアデバイス501を、それが埋め込まれた生物学的組織を通して推進させる。関連する実施形態では、
図5に示すように、各カンチレバーは異なる共振周波数を有し、カンチレバー放出構成要素504は、所定の放出共振周波数F
4を有する一方で、カンチレバー推進構成要素505、506、および507は、それぞれ、所定の推進共振周波数F
5、F
6、およびF
7を有し、それによって、対応する周波数において外部超音波のパルスを送信することによって各カンチレバー構成要素を個別に作動させることができる。個別の推進構成要素505、506、および507を別々にまたは特定の組み合わせで作動させると、推進の方向制御が可能になる。
【0038】
本発明の実施形態によれば、可撓性機械的構成要素は、ポリマーPETなどの様々な可撓性材料で作製することができる。代表的な製造方法としては、直接または垂直レーザー書き込みで例示されるようなテンプレート支援合成、フォトリソグラフィエッチングおよびスピニング技術が挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
PETカンチレバーの非限定的な例として、長さを90ミクロン、幅および厚さを30ミクロンに選択する。ヤング率が2×109/m2、密度が1.4g/cm2の場合、共振周波数は、おおよそ200KHzである(カンチレバーの長さ方向に直交するカンチレバー機械共振の標準式を利用)。幾何学的パラメーターおよび材料の選択を適切に調整することで、共振周波数を100倍以上、上下に変更することができ、必要に応じて、KHzからMHzの範囲を簡単にカバーし、これにより、典型的な超音波パルスの周波数範囲をカバーする。
【0040】
選択された共振周波数Fは、可能な侵入深さを決定し、単一の領域で複数のキャリアを個別に制御することもできる。上記の図および対応する説明で述べたように、各キャリアは異なる共振周波数を有することができ、したがって、特定の周波数のUSパルスによって単一のキャリアを個別に作動させることができる。
【0041】
図6は、本発明の一実施形態による方法のフロー図である。この方法は、ポイント601で始まり、次いでステップ602で、組織の領域(キャリアが本発明の他の実施形態によって提供される場所)への埋め込みのために、所望のペイロードを有するキャリアデバイスが選択される。埋め込みの前に、ステップ603で、キャリアデバイスの共振周波数Fがデータ604として保存される。次に、ステップ605で、キャリアは、組織に埋め込まれ、ステップ606で、埋め込まれたキャリアは、必要に応じて組織内に位置決めされる。決定ポイント607で、キャリアが適切に位置決めされているかどうか、およびペイロードを放出するのに適切な時間であるかどうかが決定される。そうでない場合、ペイロード放出のための所望の条件が満たされるまでステップ606が繰り返され、その場合、ステップ608が実行される。ステップ608では、周波数Fの超音波信号がパルス化される。前述したように、これにより、キャリアは、ペイロードを組織に放出する。他の実施形態によって提供されるように、パルス化が完了すると、キャリアは、ペイロードの放出を停止することになる。したがって、決定ポイント609で、さらに多くのペイロードを放出すべきかどうかが決定される。さらに多くのペイロードが放出される場合、決定ポイント610で、組織内の同じ位置で追加のペイロードを放出する必要があるかどうかが決定される。そうである場合、ステップ608が、直接繰り返される。しかし、そうでない場合、ステップ606が、キャリアを再位置決めするために繰り返される。追加のペイロードを放出する必要がない場合、決定ポイント609は、ポイント611で手順を終了することによって方法を完了する。
【0042】
本明細書では本発明の特定の特徴を例示および説明してきたが、多くの修正、置換、変更、および同等物が当業者に思い浮かぶであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨の範囲内にあるそのようなすべての修正および変更を網羅することを意図していることを理解されたい。