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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】多相コンバータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 W
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020001427
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021112009
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2021-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 高見
(72)【発明者】
【氏名】大沼 広樹
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/244614(WO,A1)
【文献】特開2017-108517(JP,A)
【文献】特開2018-074719(JP,A)
【文献】国際公開第2008/032768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1コンバータと第2コンバータが並列に接続されている多相コンバータの駆動をPWM制御する多相コンバータ制御装置であって、
前記PWM制御に使用するキャリア周波数を一定周期ごとに設定するキャリア周波数設定部と、
前記キャリア周波数設定部で設定された前記キャリア周波数のキャリア波を生成するキャリア波生成部と、
前記キャリア周波数を用いて前記第1コンバータの駆動に用いられる第1PWM信号及び前記第2コンバータの駆動に用いられる第2PWM信号を生成するPWM制御部と、
前記第1PWM信号及び前記第2PWM信号に基づいて、前記第1コンバータと前記第2コンバータを制御する駆動部と、
を備え、
前記PWM制御部は、前記キャリア波の周期の変動量に応じて前記第2PWM信号のデューティ比を補正する、
ことを特徴とする多相コンバータ制御装置。
【請求項2】
前記キャリア周波数設定部は、前記キャリア周波数の周期で前記キャリア周波数の設定を更新し、
前記PWM制御部は、更新前のキャリア周波数の周期と、更新後のキャリア周波数の周期と、の比率に応じて前記第2PWM信号のデューティ比を補正する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の多相コンバータ制御装置。
【請求項3】
前記PWM制御部は、
前記多相コンバータの出力電圧が目標電圧に追従させるための第1電圧指令値及び第2電圧指令値を生成する指令値生成部と、
前記第2電圧指令値に対して前記比率を乗算する補正部と、
前記第1電圧指令値と前記キャリア波とを比較することで前記第1PWM信号を生成し、前記補正部により前記比率が乗算された前記第2電圧指令値と前記キャリア波とを比較することで前記第2PWM信号を生成するPWM信号生成部と、
を備える、
請求項2に記載の多相コンバータ制御装置。
【請求項4】
前記キャリア周波数設定部は、前記キャリア波の山から谷の間で前記キャリア周波数の設定を第1キャリア周波数から第2キャリア周波数に更新し、
前記キャリア波生成部は、前記キャリア波の谷のタイミングで前記第2キャリア周波数のキャリア波を生成し、
前記補正部は、前記キャリア波の谷のタイミングで前記第2電圧指令値に対して前記比率を乗算し、
前記比率は、前記第1キャリア周波数から求められた前記キャリア波の周期と、前記第2キャリア周波数から求められた前記キャリア波の周期と、の比率である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の多相コンバータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相コンバータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、並列に接続された第1コンバータと第2コンバータとのそれぞれをPWM制御する制御装置が開示されている。
上記制御装置は、第1PWM信号を生成し、第1PWM信号を用いて第1コンバータを制御する。また、制御装置は、第2PWM信号を生成し、第2PWM信号を用いて第2コンバータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-106758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記制御装置では、第1PWM信号及び第2PWM信号をそれぞれ生成するために、2つのキャリア波を生成しており、さらに、キャリア波の周波数を可変した場合には、制御安定性を確保するために、2つのキャリア波の同期をとる必要があり、制御が複雑化する虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、キャリア波の周波数を可変可能であり、1つのキャリア波を用いて多相コンバータを制御する多相コンバータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、第1コンバータと第2コンバータが並列に接続されている多相コンバータの駆動をPWM制御する多相コンバータ制御装置であって、前記PWM制御に使用するキャリア周波数を一定周期ごとに設定するキャリア周波数設定部と、前記キャリア周波数設定部で設定された前記キャリア周波数のキャリア波を生成するキャリア波生成部と、前記キャリア周波数を用いて前記第1コンバータの駆動に用いられる第1PWM信号及び前記第2コンバータの駆動に用いられる第2PWM信号を生成するPWM制御部と、前記第1PWM信号及び前記第2PWM信号に基づいて、前記第1コンバータと前記第2コンバータを制御する駆動部と、を備え、前記PWM制御部は、前記キャリア波の周期の変動量に応じて前記第2PWM信号のデューティ比を補正する、ことを特徴とする多相コンバータ制御装置である。
【0007】
(2)上記(1)の多相コンバータ制御装置であって、前記キャリア周波数設定部は、前記キャリア周波数の周期で前記キャリア周波数の設定を更新し、前記PWM制御部は、更新前のキャリア周波数の周期と、更新後のキャリア周波数の周期と、の比率に応じて前記第2PWM信号のデューティ比を補正してもよい。
【0008】
(3)上記(2)の多相コンバータ制御装置であって、前記PWM制御部は、前記多相コンバータの出力電圧が目標電圧に追従させるための第1電圧指令値及び第2電圧指令値を生成する指令値生成部と、前記第2電圧指令値に対して前記比率を乗算する補正部と、前記第1電圧指令値と前記キャリア波とを比較することで前記第1PWM信号を生成し、前記補正部により前記比率が乗算された前記第2電圧指令値と前記キャリア波とを比較することで前記第2PWM信号を生成するPWM信号生成部と、を備えてもよい。
【0009】
(4)上記(3)の多相コンバータ制御装置であって、前記キャリア周波数設定部は、前記キャリア波の山から谷の間で前記キャリア周波数の設定を第1キャリア周波数から第2キャリア周波数に更新し、前記キャリア波生成部は、前記キャリア波の谷のタイミングで前記第2キャリア周波数のキャリア波を生成し、前記補正部は、前記キャリア波の谷のタイミングで前記第2電圧指令値に対して前記比率を乗算し、前記比率は、前記第1キャリア周波数から求められた前記キャリア波の周期と、前記第2キャリア周波数から求められた前記キャリア波の周期と、の比率であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、キャリア波の周波数を可変可能であり、1つのキャリア波を用いて多相コンバータを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る多相コンバータ制御装置を有する電力変換装置1の概略構成の一例を示す図である。
図2】本実施形態に係る制御部11の概略構成図である。
図3】本実施形態に係る第1PWM信号及び第2PWM信号の生成方法のタイミングチャートである。
図4】本実施形態に係る電流センサ10で検出される相電流iLの波形の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係る多相コンバータ制御装置を、図面を用いて説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る多相コンバータ制御装置を有する電力変換装置(例えば、PCU(Power Control Unit))1の概略構成の一例を示す図である。電力変換装置1は、ハイブリット車や電気自動車等、モータMを動力源として走行する車両に搭載される。
ただし、モータMは、モータジェネレータであってもよい。すなわち、モータMは、車両のエンジンにより駆動される発電機としての機能を有してもよい。例えば、モータMは、三相(U、V、W)のブラシレスモータである。
【0014】
図1に示すように、電力変換装置1は、多相コンバータ2、インバータ3及び制御装置4を備える。制御装置4は、本発明の「多相コンバータ制御装置」の一例である。
【0015】
多相コンバータ2は、例えば、車載用の多相型のDCDCコンバータとして構成されている。多相コンバータ2は、直流電源Eから入力された直流電圧VBを所定の電圧Vc(以下、「昇圧電圧」という。)に昇圧してインバータ3に出力する。なお、本実施形態では、多相コンバータ2は二相のDCDCコンバータである場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、その相数は二以上であれば特に限定されない。以下に、本実施形態に係る多相コンバータ2の具体的な構成について説明する。
【0016】
多相コンバータ2は、一次側コンデンサ5、コンバータ6a,6b、二次側コンデンサ7、第1電圧センサ8、第2電圧センサ9及び電流センサ10を備える。
【0017】
一次側コンデンサ5は、一端が直流電源Eのプラス端子に接続されており、他端が直流電源Eのマイナス端子に接続されている。一次側コンデンサ5は、直流電源Eから出力される直流電圧VBを平滑する平滑コンデンサである。
【0018】
コンバータ6a,6bは、直流電源E及びインバータ3の間において、互いに並列に接続されている。なお、本実施形態では、コンバータ6a,6bは、昇圧コンバータである場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば、降圧コンバータでもよいし、昇降圧コンバータであってもよい。
【0019】
コンバータ6a(第1コンバータ)は、リアクトルL1(第1リアクトル)及びパワーモジュールP1を備える。
リアクトルL1は一端が一次側コンデンサ5の一端に接続されており、他端がパワーモジュールP1に接続されている。
【0020】
パワーモジュールP1は、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2(第1スイッチング素子)を備える。なお、本実施形態では、スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)である場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば、FET(Field Effective Transistor;電界効果トランジスタ)等であってもよい。
【0021】
スイッチング素子Q1は、コレクタ端子が二次側コンデンサ7の一端に接続されており、エミッタ端子がスイッチング素子Q2のコレクタ端子に接続されている。
スイッチング素子Q2のエミッタ端子は、直流電源Eのマイナス端子に接続されている。
また、スイッチング素子Q1のエミッタ端子とスイッチング素子Q2のコレクタ端子との接続点は、リアクトルL1の他端に接続されている。スイッチング素子Q1及びスイッチング素子Q2のゲート端子は、それぞれ制御装置4に接続されている。
【0022】
コンバータ6b(第2コンバータ)は、リアクトルL2(第2リアクトル)及びパワーモジュールP2を備える。
リアクトルL2は一端が一次側コンデンサ5の一端に接続されており、他端がパワーモジュールP2に接続されている。なお、リアクトルL1とリアクトルL2とは、互いに磁気結合されている。すなわち、リアクトルL1とリアクトルL2は、磁気結合型のリアクトルである。
【0023】
パワーモジュールP2は、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q3及びスイッチング素子Q4を備える。なお、本実施形態では、スイッチング素子Q3及びスイッチング素子Q4(第2スイッチング素子)は、IGBTである場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、例えば、FET等であってもよい。
【0024】
スイッチング素子Q3は、コレクタ端子が二次側コンデンサ7の一端に接続されており、エミッタ端子がスイッチング素子Q4のコレクタ端子に接続されている。
スイッチング素子Q4のエミッタ端子は、直流電源Eのマイナス端子に接続されている。
また、スイッチング素子Q3のエミッタ端子とスイッチング素子Q4のコレクタ端子との接続点は、リアクトルL2の他端に接続されている。スイッチング素子Q3及びスイッチング素子Q4のゲート端子は、それぞれ制御装置4に接続されている。
【0025】
二次側コンデンサ7は、一端がスイッチング素子Q1,Q3のコレクタ端子に接続され、他端が直流電源Eのマイナス端子に接続された平滑コンデンサである。
【0026】
第1電圧センサ8は、直流電源Eの端子間に接続され、直流電源Eから出力される直流電圧VBを検出する。換言すれば、第1電圧センサ8は、一次側コンデンサ5の端子間に取り付けられ、多相コンバータの一次側の電圧(以下、「一次側電圧」という。)Vpを検出するセンサである。一次側電圧Vpは、一次側コンデンサ5の端子間(一端と他端との間)の電圧に相当し、直流電圧VBと同一の値を示す。第1電圧センサ8は、検出した一次側電圧Vpを制御装置4に出力する。
【0027】
第2電圧センサ9は、二次側コンデンサ7の両端の電位差、すなわちコンバータ6a,6bによって昇圧された昇圧電圧Vcを検出する。この昇圧電圧Vcは、多相コンバータの二次側の電圧である。第2電圧センサ9は、検出した昇圧電圧Vcを制御装置4に出力する。なお、第2電圧センサ9で検出した昇圧電圧Vcを「二次側電圧Vs」と称する。第2電圧センサ9は、検出した二次側電圧Vsを制御装置4に出力する。
【0028】
電流センサ10は、コンバータ6a,6bの一次側に設けられ、流れる方向が同一な第1の相電流iLaと第2の相電流iLbとの双方の相電流を検出する単一のセンサである。すなわち、電流センサ10は、検出した相電流iLを制御装置4に出力する。ここで、電流センサ10で検出される相電流iLの各相電流(第1の相電流iLaと第2の相電流iLb)の電流方向は、互いに同一方向である。なお、コンバータ6a,6bの一次側とは、電流電源Eのプラス端子と、スイッチング素子Q1のエミッタ端子及びスイッチング素子Q2のコレクタ端子の接続点との間、かつ、電流電源Eのプラス端子と、スイッチング素子Q3のエミッタ端子及びスイッチング素子Q4のコレクタ端子の接続点との間である。
【0029】
インバータ3は、制御装置4による制御により、多相コンバータ2から出力された昇圧電圧Vcを、交流電圧に変換してモータMに供給する。
【0030】
制御装置4は、コンバータ6a,6bの駆動を制御する。具体的には、制御装置4は、一対のスイッチング素子Q1,Q2と一対のスイッチング素子Q3,Q4とを異なるタイミングでスイッチング制御することにより、その異なる位相(例えば、180°の位相差)の電流がコンバータ6a,6b流れる。すなわち、制御装置4は、第1PWM信号を生成し、第1PWM信号に基づいてコンバータ6aを駆動制御し、第2PWM信号を生成し、第2PWM信号に基づいてコンバータ6bを駆動制御する。第1PWM信号と第2PWM信号とは、位相が互いにちょうど180度異なる。これにより、多相コンバータ2は、リップルが少ない安定した昇圧電圧Vcを生成することができる。
【0031】
以下において、本実施形態に係る制御装置4の構成を説明する。
制御装置4は、制御部11及び駆動部12を備える。
【0032】
制御部11は、第1PWM信号及び第2PWM信号を生成する。
駆動部12は、第1PWM信号及び第2PWM信号に基づいて、コンバータ6a,6bを制御する。すなわち、駆動部12は、第1PWM信号に基づいたゲート信号をコンバータ6aに出力し、第2PWM信号に基づいたゲート信号をコンバータ6bに出力する。例えば、駆動部12は、ゲートドライバ回路である。
【0033】
以下において、本実施形態に係る制御部11の構成について、図2を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る制御部11の概略構成図である。
【0034】
制御部11は、フィードバック制御部20、キャリア波出力部30及びPWM制御部40を備える。
【0035】
フィードバック制御部20は、多相コンバータ2の出力電圧である昇圧電圧Vcが目標電圧Vthに追従させるための電圧指令値VL´を生成する。
【0036】
具体的には、フィードバック制御部20は、電圧制御部21及び電流制御部22を備える。
【0037】
電圧制御部21は、電圧検出部25により検出された二次側電圧Vsと予め設定された目標電圧Vthとの偏差である電圧偏差ΔVsに対してPI制御やPID制御などのフィードバック制御を実行することで、その電圧偏差ΔVsをゼロに近づけるための電流指令値iL´を算出する。
【0038】
電流制御部22は、電圧制御部21で算出された電流指令値iL´と、電流センサ10から取得した相電流iLとの偏差である電流偏差ΔILに対してPI制御やPIDなどのフィードバック制御を実行することで、その電流偏差ΔILをゼロに近づけるための電圧指令値VL´を算出する。電流制御部22は、算出した電圧指令値VL´をPWM制御部40に出力する。
【0039】
キャリア波出力部30は、一つのキャリア波C(例えば、三角波)を生成し、そのキャリア波CをPWM制御部40に出力する。なお、キャリア波出力部30は、キャリア波Cの周波数(以下、「キャリア周波数」という。)fcを変更することができる。
【0040】
キャリア波出力部30は、キャリア周波数設定部31及びキャリア波生成部32を備える。
【0041】
キャリア周波数設定部31は、PWM制御に使用するキャリア周波数fcを一定周期ごとに設定する。すなわち、キャリア周波数設定部31は、PWM制御に使用するキャリア周波数fcを一定周期ごとに更新する。更新されたキャリア周波数fcは、キャリア波生成部32及びPWM制御部40に送信される。例えば、キャリア周波数設定部31は、キャリア波Cの山から谷の間でキャリア周波数fcの設定を更新する。換言すれば、キャリア周波数設定部31は、キャリア波Cの山から谷の間で更新前のキャリア周波数fc(以下、「第1キャリア周波数fc1」という。)から第2キャリア周波数fc2に更新する。
キャリア周波数設定部31は、例えば、第1電圧センサ8で検出された一次側電圧Vp、目標電圧Vth及び電流指令値iL´に基づいてキャリア周波数fcを設定する。ただし、これに限定されず、キャリア周波数設定部31は、公知の方法を用いてキャリア周波数fcを設定してもよい。
【0042】
キャリア波生成部32は、キャリア周波数設定部31で設定されたキャリア周波数fcのキャリア波Cを生成する。キャリア波生成部32は、キャリア周波数設定部31により更新されたキャリア周波数fc(第2キャリア周波数fc2)のキャリア波Cをキャリア波Cの谷のタイミングで生成し、その生成したキャリア波CをPWM制御部40に出力する。
【0043】
PWM制御部40は、キャリア周波数fcを用いてコンバータ6aの駆動に用いられる第1PWM信号及びコンバータ6bの駆動に用いられる第2PWM信号を生成する。その際、PWM制御部40は、キャリア波Cの周期(以下、「キャリア周期」という。)Tcの変動量(以下、「周期変動量」という。)に応じて第2PWM信号のデューティ比を補正する。この周期変動量は、例えば、更新前のキャリア周波数fc(第1キャリア周波数fc1)のキャリア周期Tc(Tc(n))と、更新後のキャリア周波数fc(第2キャリア周波数fc2)のキャリア周期Tc(Tc(n+1))と、の比率K(=Tc(n+1)/Tc(n))である。
以下に、本実施形態に係るPWM制御部40の概略構成を説明する。
【0044】
PWM制御部40は、指令値生成部41、キャリア周期演算部42、補正部43及びPWM信号生成部44を備える。
【0045】
指令値生成部41は、電圧指令値VL´に基づいて多相コンバータ2の出力電圧が目標電圧に追従させるための第1電圧指令値VL1´及び第2電圧指令値VL2´を生成する。第1電圧指令値VL1´は、第1PWM信号を生成するための電圧指令値である。指令値生成部41は、1から電圧指令値VL´を差し引くことで、その差し引いた後の信号(1-VL´)を第1電圧指令値VL1´として生成する。第2電圧指令値VL2´は、電圧指令値VL´と同一の信号である。
指令値生成部41は、1電圧指令値VL1´を第1比較部45に出力し、第2電圧指令値VL2´を補正部43に出力する。
【0046】
キャリア周期演算部42は、キャリア周波数fcからキャリア周期Tcを演算する。キャリア周期演算部42は、キャリア周波数fcからキャリア周期Tcを演算する。なお、キャリア周期Tcは、キャリア周波数fcが設定されれば、一意に決定する。そのため、キャリア周期Tcは、キャリア周波数fcと略同一のタイミング(キャリア波Cの山から谷の間)で演算される。
【0047】
補正部43は、キャリア周期演算部42により演算されたキャリア周期Tcに基づいて比率Kを演算する。すなわち、補正部43は、キャリア周期演算部42により演算された第1キャリア周波数fc1のキャリア周期Tc(n)と、更新後の第2キャリア周波数fc2のキャリア周期Tc(n+1)と、を用いて比率K(=Tc(n+1)/Tc(n))を求める。そして、補正部43は、第2電圧指令値VL2´に対して比率Kを乗算することで、第2電圧指令値VL2´を補正する。なお、補正部43は、少なくともキャリア波Cの谷のタイミングで第2電圧指令値VL2´に対して比率Kを乗算することでVL2´を補正する。補正部43は、補正後の第2電圧指令値VL2´(以下、「第3電圧指令値VL3´」)を第2比較部46に出力する。補正部43は、キャリア波Cの山と谷の双方のタイミングで第2電圧指令値VL2´に対して比率Kを乗算することでVL2´を補正してもよい。
【0048】
PWM信号生成部44は、第1比較部45及び第2比較部46を備える。
第1比較部45は、指令値生成部41から第1電圧指令値VL1´を取得する。また、第1比較部45は、キャリア波生成部32からキャリア波Cを取得する。そして、第1比較部45は、第1電圧指令値VL1´と、キャリア波Cとを比較することで、第1PWM信号を生成する。
【0049】
第2比較部46は、補正部43から第3電圧指令値VL3´を取得する。また、第2比較部46は、キャリア波生成部32からキャリア波Cを取得する。そして、第2比較部46は、第3電圧指令値VL3´と、キャリア波Cとを比較することで、第2PWM信号を生成する。
【0050】
次に、本実施形態に係る第1PWM信号及び第2PWM信号の生成方法の流れについて、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る第1PWM信号及び第2PWM信号の生成方法のタイミングチャートである。
【0051】
キャリア波出力部30は、キャリア波Cの山から谷の間でキャリア周波数fcを求め、その求めたキャリア周波数fcとなるキャリア波Cをキャリア波Cの谷のタイミングで生成することでキャリア波Cを更新している。例えば、図3に示すように、n番目のキャリア波CをC(n)と称し、n+1番目のキャリア波CをC(n+1)と称する場合には、キャリア波出力部30は、キャリア波C(n)の山から谷の間で、キャリア波C(n+1)のキャリア周波数fc(n+1)を演算し、キャリア周波数fc(n+1)のキャリア波Cをキャリア波C(n)の谷のタイミングで生成する。これにより、キャリア波出力部30は、PWM制御部40に出力するキャリア波Cを、キャリア波C(n)からキャリア波C(n+1)に更新している。
【0052】
PWM制御部40は、期間tnにおいて、キャリア波C(n)と第1電圧指令値VL1´とを比較することで第1PWM信号を生成し、キャリア波C(n)と第3電圧指令値VL3´とを比較することで第2PWM信号を生成する。同様に、PWM制御部40は、期間tn+1において、キャリア波C(n+1)と第1電圧指令値VL1´とを比較することで第1PWM信号を生成し、キャリア波C(n+1)と第3電圧指令値VL3´とを比較することで第2PWM信号を生成する。
ここで、キャリア周波数fcが固定されている場合には、n+1番目のキャリア波C(図3のC´(n+1))は、n番目のキャリア波C(n)と同一のキャリア周波数fcとなる。ただし、本実施形態のキャリア波Cは、キャリア波Cの谷のタイミングで新たなキャリア周波数fcに更新される。よって、n+1番目のキャリア波Cのキャリア周波数fc(n+1)は、n番目のキャリア波C(n)のキャリア周波数fc(n)と同一とならず、高くなったり、低くなったりと変動する場合がある。図3に示す例ではキャリア周波数fc(n)<キャリア周波数fc(n+1)である。
よって、期間tn+1において、キャリア波C(n+1)と第2電圧指令値VL2´とが比較されて第2PWM信号が生成されると、第2PWM信号の位相は、第1PWM信号の位相に対して180度だけずれた位相とはならず、制御安定性が確保できない。すなわち、図3に示す例では、スイッチング素子Q3の第2PWM信号が図3に示すtm1のタイミングで立下り、スイッチング素子Q4の第2PWM信号がtm1のタイミングで立上がるため、第2PWM信号は、第1PWM信号の位相から180度だけずれた位相とはならない。よって、キャリア波Cが更新される場合には、ハンチングや制御発振等が発生しまい、制御安定性が確保できない。
【0053】
そこで、PWM制御部40は、第2PWM信号を生成するにあたって、キャリア周期Tcの変動量を示す比率K(=Tc(n+1)/Tc(n))を第2電圧指令値VL2´に乗算することで第2電圧指令値VL2´を第3電圧指令値VL3´に補正する(図3の符号X)。これにより、図3に示す例では、期間tn+1において、キャリア波C(n+1)と第3電圧指令値VL3´とが比較されて第2PWM信号が生成される。このように、キャリア波Cの更新に伴い、第2電圧指令値VL2´が補正される。換言すれば、キャリア波Cの更新に伴いキャリア波周波数fcが変動した場合には、その変動に伴って第2PWM信号のデューティ比も変動するように補正される。よって、スイッチング素子Q3の第2PWM信号が図3に示すtm2のタイミングで立下り、スイッチング素子Q4の第2PWM信号がtm2のタイミングで立上がるため、第2PWM信号は、第1PWM信号の位相から180度だけずれた位相となり、制御安定性が確保される。
【0054】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0055】
(変形例)本実施形態に係る制御部11は、電流センサ10により検出された相電流iLに基づいて、第1の相電流iLa及び第2の相電流iLbの相互間の偏流iLabを検出してもよい。以下に、本施形態に係る偏流iLabの検出方法について、図4を用いて説明する。図4は、電流センサ10で検出される相電流iLの波形の一例を示す図である。図4に示すように、電流センサ10により検出された相電流iLの波形には、大別して2種類の変化点A,Bを有する。この変化点A,Bとは、相電流iLが増加から減少に変化する点である。
【0056】
例えば、変化点Aとは、スイッチング素子Q2がオン状態からオフ状態に切り替えられたタイミング(時刻t1)を示す。したがって、変化点Aでの相電流iLとは、第1の相電流iLaの最大値を示すものとなる。一方、変化点Bとは、スイッチング素子Q4がオン状態からオフ状態に切り替えられたタイミング(時刻t2)を示す。したがって、変化点Bでの相電流iLとは、第2の相電流iLbの最大値を示すものとなる。さらに、リアクトルL1及びリアクトルL2は自相に流れる電流が大きくなると自己インタクタンスが小さくなる特性を有し、結果としてより電流の大きい相のリップル電流が大きくなる。そのため、合計相電流の波形には偏流に応じて変化点Aと変化点Bとで合計相電流の最大値に偏りが生じる。ここで、本実施形態では、スイッチング素子Q1,Q2とスイッチング素子Q3,Q4とのスイッチングの位相差が180°であるため、変化点Aと変化点Bとは180°ごとに交互に発生する。
【0057】
したがって、制御部11は、電流センサ10により検出された相電流iLが増加から減少に変化したときの当該相電流(以下、「変化点相電流」という。)に基づいて、偏流iLabを検出する。すなわち、制御部11は、電流センサ10により検出された相電流iLにおいて、変化点Aでの相電流iLである変化点相電流IAと変化点Bでの相電流iLである変化点相電流IBとの差分を偏流iLabとして検出する。
【0058】
なお、制御部11における変化点相電流IAと変化点相電流IBとの取得方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法(a),(b)により取得可能である。
【0059】
(a)制御部11は、電流センサ10により検出された相電流iLのうち、所定の期間内において、増加から減少に変化したときの相電流iLを取得することで、変化点相電流A,Bを取得する。
(b)制御部11は、各スイッチング素子Q2,Q4がオン状態からオフ状態に切り替えられた場合に電流センサ10から出力される各相電流iLを、それぞれ変化点相電流A,Bとして取得する。
【0060】
なお、上記(b)では、制御部11が電流センサ10から相電流iLを取得するタイミング(以下、「取得タイミング」という。)と、スイッチング素子Q2,Q4のターンオフの各タイミングとを同期させることで達成可能である。
【0061】
ただし、制御部11の取得タイミングと、スイッチング素子Q2,Q4のターンオフの各タイミングとを同期させることができない場合には、電流センサ10からの出力を所定の時間だけ遅延させる遅延部を制御装置4に設けることで上記(2)の方法で変化点相電流IAと変化点相電流IBとを取得することができる。ただし、遅延部で遅延させる電流センサ10の出力は、フィードバック制御部20で用いられる相電流iLとは異なる出力である。例えば、電流センサ10の出力を2つに分岐させ、一方の出力を偏流検出に用い、他方の出力をフィードバック制御部20に用いる。
【0062】
ここで、制御部11の取得タイミングと、スイッチング素子Q2,Q4のターンオフの各タイミングとを同期させることができない場合とは、例えば、制御部11の取得タイミングが、スイッチング素子Q2,Q4のターンオフの各タイミングではなく、制御装置4内で生成されているキャリア波Cの山及び谷のタイミングである場合である。なお、上記(2)において、上記遅延部を設けなくとも、制御部11の取得タイミングと、スイッチング素子Q2,Q4のターンオフの各タイミングとを同期させることが可能である場合には、上記遅延部は、制御装置4の必須な構成ではない。
そして、制御部11は、検出した偏流iLabが無くなるように電圧指令値VL´を補正する。例えば、制御部11は、偏流iLabに対してPI制御やPID制御を行って偏流iLabをゼロに近づけるための指令値V*を求め、V*を電圧指令値VL´(又は第1電圧指令値VL1´と第2電圧指令値VL2´とのそれぞれ)に加算又は減算することで補正してもよい。また、制御部11は、偏流iLabに応じた係数を求め、この係数を偏流電圧指令値VL´に乗算することで補正してもよい。また、制御部11は、偏流iLabに応じた2つの係数を求め、一方の係数を第1偏流電圧指令値VL1´に乗算し、他方の係数を第2偏流電圧指令値VL2´又第3偏流電圧指令値VL2´に乗算することで補正してもよい。
【0063】
以上、説明したように、本実施形態に係る制御装置4は、キャリア波Cの周期Tcの変動量に応じて第2PWM信号のデューティ比を補正する。
【0064】
このような構成によれば、キャリア波Cの周波数が可変するシステムにおいて、1つのキャリア波を用いて多相コンバータを制御することが可能となる。これにより、2つのキャリア波の同期をとる必要がなくなり、1つのキャリア波を用いて簡易な手法で多相コンバータ2の制御安定性を確保できる。
【0065】
なお、上述した制御装置4の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記制御装置4の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
2 多相コンバータ
4 制御装置(多相コンバータ制御装置)
11 制御部
12 駆動部
20 フィードバック制御部
30 キャリア波出力部
31 キャリア周波数設定部
32 キャリア波生成部
40 PWM制御部
41 指令値生成部
42 キャリア周期演算部
43補正部
44 PWM信号生成部
図1
図2
図3
図4