IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 現代自動車株式会社の特許一覧 ▶ 起亞自動車株式会社の特許一覧 ▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特許7165696粉末冶金用鉄基予合金粉末の焼結鍛造部材製造用原料粉末としての使用、粉末冶金用拡散接合粉末、粉末冶金用鉄基合金粉末、及び焼結鍛造部材の製造方法
<>
  • 特許-粉末冶金用鉄基予合金粉末の焼結鍛造部材製造用原料粉末としての使用、粉末冶金用拡散接合粉末、粉末冶金用鉄基合金粉末、及び焼結鍛造部材の製造方法 図1
  • 特許-粉末冶金用鉄基予合金粉末の焼結鍛造部材製造用原料粉末としての使用、粉末冶金用拡散接合粉末、粉末冶金用鉄基合金粉末、及び焼結鍛造部材の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】粉末冶金用鉄基予合金粉末の焼結鍛造部材製造用原料粉末としての使用、粉末冶金用拡散接合粉末、粉末冶金用鉄基合金粉末、及び焼結鍛造部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20221027BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20221027BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221027BHJP
   C22C 38/16 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
B22F1/00 T
C22C33/02 C
C22C38/00 301A
C22C38/16
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020068665
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021042463
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】10-2019-0111001
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】キム ハクス
(72)【発明者】
【氏名】芦塚 康佑
(72)【発明者】
【氏名】小林 聡雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚道
(72)【発明者】
【氏名】藤長 政志
(72)【発明者】
【氏名】前谷 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】榎戸 浩文
(72)【発明者】
【氏名】須藤 久
【審査官】向井 佑
(56)【参考文献】
【文献】特開昭50-026705(JP,A)
【文献】国際公開第2016/092827(WO,A1)
【文献】特表2004-513232(JP,A)
【文献】特開平11-302787(JP,A)
【文献】特開2013-181198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 3/00
C22C 33/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu0.5~5.0wt%、Mo0.1~0.5wt%、及びMn0.1~0.4wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)、及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、粉末冶金用鉄基予合金粉末の、焼結鍛造部材製造用原料粉末としての使用。
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.05 ……(2)
【請求項2】
Cu0.5~5.0wt%、Mo0.1~0.5wt%、及びMn0.1~0.4wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)、及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(1)及び(2)を満足する鉄基予合金粉末の表面に5wt%未満のCuを粉末状に接合させたことを特徴とする、粉末冶金用拡散接合粉末。
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.05 ……(2)
【請求項3】
前記鉄基予合金粉末の表面に接合される粉末状のCuは拡散接合されることを特徴とする、請求項2に記載の粉末冶金用拡散接合粉末。
【請求項4】
Cu0.5~5.0wt%、Mo0.1~0.5wt%、及びMn0.1~0.4wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)、及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(1)及び(2)を満足する鉄基予合金粉末の表面に5wt%未満のCuを粉末状に接合させた拡散接合粉末と、前記拡散接合粉末の質量に対して0.4~1.0wt%のCを粉末状に混合させたことを特徴とする、粉末冶金用鉄基合金粉末。
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.05 ……(2)
【請求項5】
前記鉄基合金粉末はさらに硫黄(S)を0.1~0.3wt%で含有することを特徴とする、請求項4に記載の粉末冶金用鉄基合金粉末。
【請求項6】
前記鉄基合金粉末は潤滑剤をさらに混合させることを特徴とする、請求項4に記載の粉末冶金用鉄基合金粉末。
【請求項7】
粉末冶金用鉄基予合金粉末を焼結鍛造して焼結鍛造部材とする焼結鍛造部材の製造方法であって、
前記粉末冶金用鉄基予合金粉末が、
Cu0.5~5.0wt%、Mo0.1~0.5wt%、及びMn0.1~0.4wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、
Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)、及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(1)及び(2)を満足することを特徴とする、焼結鍛造部材の製造方法
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.05 ……(2)
【請求項8】
前記焼結鍛造部材は、マルテンサイト面積率が5%未満であることを特徴とする、請求項7に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項9】
前記焼結鍛造部材は、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする、請求項7に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項10】
前記焼結鍛造部材は車両用コネクティングロッドであることを特徴とする、請求項7に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項11】
請求項2に記載の拡散接合粉末を焼結鍛造して焼結鍛造部材とする、焼結鍛造部材の製造方法
【請求項12】
前記焼結鍛造部材は、マルテンサイト面積率が5%未満であることを特徴とする、請求項11に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項13】
前記焼結鍛造部材は、降伏強度が800MPa以上であることを特徴とする、請求項11に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項14】
前記焼結鍛造部材は車両用コネクティングロッドであることを特徴とする、請求項13に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【請求項15】
請求項4に記載の鉄基合金粉末を焼結鍛造して焼結鍛造部材とする、焼結鍛造部材の製造方法
【請求項16】
前記焼結鍛造部材は車両用コネクティングロッドであることを特徴とする、請求項15に記載の焼結鍛造部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末、及びこれを用いる粉末冶金用鉄基合金粉末に係り、さらに詳細には、強度及び加工性に優れる焼結鍛造部材の製造に使用することができる鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末、及びこれを用いる粉末冶金用鉄基合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジン及び変速機で高出力が要求され、これに応えるためにシンクロハブ及びコネクティングロッドなどの構造部品の高強度化が求められている。
【0003】
一般に、車両に使用されるシンクロハブ及びコネクティングロッドなどの構造部品は、高強度が要求されるため、焼結材を用いて焼結した後で鍛造成形した製品を使用している。
【0004】
一般に、焼結鍛造製品の原料粉末としては、純鉄粉末に銅粉と炭素粉末を混合したFe-Cu-C系の鉄基合金粉末が多用されている。また、原料粉末に追加物性の改善のために様々な添加剤を添加して使用されている。例えば、切削性の改善のためにMnSなどの切削性改善剤が添加されることもある。
【0005】
最近では、従来の純鉄粉、銅粉及び炭素粉末を単純に混合して焼結鍛造製品に原料粉末として使用する代わりに、焼結温度が高くないか或いは焼結時間が長くなくてもFe基地に合金元素が十分に拡散するように、Fe及びCuを予め合金化させた予合金(Prealloy)の粉末を焼結鍛造製品の原料粉末として使用することが拡大しつつある。
【0006】
しかし、例えば、予合金(Prealloy)形態の粉末は、合金元素の含有量が増加するほど、強度向上への寄与度が低くなり、成形性が低下するという問題点が生じた。
【0007】
前述の背景技術として説明された内容は、本発明の背景に対する理解増進のためのものに過ぎず、当該技術分野における通常の知識を有する者に既に知られている従来技術に該当することを認めるものと受け入れられてはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国特許第10-0970796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、鍛造後に熱処理を施すことなく、強度及び加工性の向上を期待することができる鉄基予合金粉末及びこれを用いる粉末冶金用鉄基合金粉末と焼結鍛造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る粉末冶金用鉄基予合金粉末は、Cu0.5~5.0wt%及びMo0.1~0.5wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量(Cu%)及びMoの含有量(Mo%)が下記の関係式(1)を満足することを特徴とする。
【0011】
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
前記鉄基予合金粉末は、さらにMnを0.4wt%以下含有し、Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(2)を満足することを特徴とする。
【0012】
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.7 ……(2)
前記鉄基予合金粉末はMnを0.05~0.4wt%で含有することを特徴とする。
【0013】
一方、本発明の一実施形態に係る鉄基拡散接合粉末は、Cu0.5~5.0wt%及びMo0.1~0.5wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量(Cu%)及びMoの含有量(Mo%)が下記の関係式(1)を満足する鉄基予合金粉末の表面に5wt%未満のCuを粉末状に接合させたことを特徴とする。
【0014】
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
前記鉄基予合金粉末は、さらにMnを0.4wt%以下含有し、Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(2)を満足することを特徴とする。
【0015】
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.7 ……(2)
前記鉄基予合金粉末はMnを0.05~0.4wt%で含有することを特徴とする。
【0016】
前記鉄基予合金粉末の表面に接合される粉末状のCuは拡散接合されることを特徴とする。
【0017】
一方、本発明の一実施形態に係る粉末冶金用鉄基合金粉末は、Cu0.5~5.0wt%及びMo0.1~0.5wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、Cuの含有量(Cu%)及びMoの含有量(Mo%)が下記の関係式(1)を満足する鉄基予合金粉末の表面に5wt%未満のCuを粉末状に接合させた拡散接合粉末と、0.4~1.0wt%のCを粉末状に混合させたことを特徴とする。
【0018】
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
前記鉄基合金粉末はさらに硫黄(S)を0.1~0.3wt%で含有することを特徴とする。
【0019】
前記鉄基合金粉末は潤滑剤をさらに混合させることを特徴とする。
【0020】
一方、本発明に係る粉末冶金用鉄基予合金粉末を原料とする焼結鍛造部材は、マルテンサイト面積率が5%未満であり、降伏強度が500MPa以上であることを特徴とする。
【0021】
本発明に係る鉄基拡散接合粉末を含む焼結鍛造部材は、マルテンサイト面積率が5%未満であり、降伏強度が800MPa以上であることを特徴とする。
【0022】
一方、鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末及び鉄基合金粉末を含む焼結鍛造部材は、車両用コネクティングロッドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の実施形態によれば、焼結温度が比較的低くても、従来の鉄基粉末と比較して均一なCu分布状態を達成することができ、これにより焼結鍛造部材の強度向上を期待することができる。
【0024】
また、本発明の実施形態によれば、CuとMoの相互作用によって析出物及び微細組織が微細化され、これにより焼結鍛造部材の強度向上をさらに期待することができる。
【0025】
また、本発明の実施形態によれば、熱処理を施すことなく、マルテンサイトが形成されることを抑制することができるので、工程数を減らして低コストでも加工性の高い焼結鍛造部材を得ることができるという効果がある。
【0026】
したがって、上述したような効果を期待することができる鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末、及びこれを用いる粉末冶金用鉄基合金粉末は、車両用コネクティングロッドの製造に適する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例による試験片の組織写真である。
図2】比較例による試験片の組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態をさらに詳細に説明する。しかし、本発明は、以下で開示される実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現される。但し、これらの実施形態は、本発明の開示を完全たるものにし、通常の知識を有する者に発明の範疇を十分に知らせるために提供されるものである。図面上において、同一の符号は同一の構成要素を指す。
【0029】
本発明は、粉末冶金用鉄基合金粉末に関するもので、鉄基合金粉末を形成するために主要合金成分の含有量のほとんどを合金で予め形成した予合金粉末を準備し、主要合金成分の含有量の残りを予合金粉末の表面に接合、好ましくは拡散接合させた鉄基拡散接合粉末を形成する。準備された鉄基拡散接合粉末に追加物性の改善のために様々な添加剤を混合して鉄基合金粉末を形成する。
【0030】
したがって、以下では、主要合金成分の含有量のほとんどを合金で予め形成して粉末化させたものを「予合金粉末」と称し、予合金粉末に主要合金成分の含有量の残りを拡散させて接合させたものを「拡散接合粉末」と称し、拡散接合粉末に様々な添加剤を混合したものを「合金粉末」と称する。
【0031】
具体的には、本発明は、鉄基合金粉末を製造するために準備される鉄基予合金粉末及び鉄基拡散接合粉末を含み、鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末及び鉄基合金粉末を原料とする焼結鍛造部材を含む。このとき、焼結鍛造部材は、車両用コネクティングロッドを製造する素材として使用される。もちろん、本発明に係る鉄基予合金粉末及び鉄基合金は、コネクティングロッドの製造に使用されることに限定されることを意味するものではない。
【0032】
一方、本発明の一実施形態に係る鉄基合金粉末を製造するために用意される本発明の鉄基予合金粉末は、Cu0.5~5.0wt%及びMo0.1~0.5wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。
【0033】
このとき、Cuの含有量(Cu%)及びMoの含有量(Mo%)が下記の関係式(1)を満足する。
【0034】
0.3×Cu%+3×Mo%≦2.7 ……(1)
また、本発明に係る粉末冶金用鉄基予合金粉末は、さらにMnを0.4wt%以下で含有することが好ましい。
【0035】
Mnがさらに含有された鉄基予合金粉末は、Cuの含有量(Cu%)、Moの含有量(Mo%)及びMnの含有量(Mn%)が下記の関係式(2)を満足することが好ましい。
【0036】
0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%≦2.7 ……(2)
本発明において主要合金成分及びその組成範囲を限定する理由は、次の通りである。
【0037】
銅(Cu)の含有量は0.5~5.0wt%であることが好ましい。銅の含有量が提案された範囲よりも少ない場合には、強度が低下するという問題がある。銅の含有量が提案された範囲よりも多い場合には、強度上昇効果が不十分であるものの、成形性が低下し、寸法変化率が大きくなって安定的な成形体を製造するのに困難がある。
【0038】
モリブデン(Mo)の含有量は0.1~0.5wt%であることが好ましい。モリブデンの含有量が提案された範囲よりも少ない場合には、強度向上の効果が微々たるものであって、所望のレベルの強度を保障することができず、モリブデンの含有量が提案された範囲よりも多い場合には、成形性が低下し、これにより金型が破損するという問題が発生するおそれがある。また、モリブデンの含有量が提案された範囲よりも多い場合には、強度向上の効果が微々たるものであり、マルテンサイト組織があまりにも多く形成されて加工性及び靭性が低下するという問題が生じる。このため、モリブデンの含有量を0.1~0.5wt%に限定することが好ましい。さらに好ましくは、モリブデンの含有量を0.1~0.3wt%に限定する。その理由は、フェライト、パーライト及びベイナイト組織の微細化に寄与し、パーライトがベイナイト化され易くて強度及び靭性が向上する効果を得ることができるためである。
【0039】
マンガン(Mn)の含有量は0.4wt%以下であることが好ましい。マンガンの含有量が0.4wt%を超える場合には、成形性が低下し、酸化物が生成されながら強度が低下するという問題が生じる。さらに好ましくは、マンガンの含有量の最小値を0.05wt%に限定する。その理由は、マンガンを0.05wt%以上含有する場合にパーライト組織が微細化されるからである。
【0040】
粉末冶金用鉄基予合金粉末において、上記に記載された成分以外の残部は、Fe及び不可避的不純物からなる。
【0041】
一方、本発明に係る粉末冶金用鉄基拡散接合粉末は、前述した鉄基予合金粉末の表面に5wt%未満のCuを粉末状に接合させることができる。
この時、鉄基予合金粉末の表面に接合される銅(Cu)の量が5wt%以上である場合には、強度向上の効果が飽和し、焼結前後の寸法変化率が大きくなるという問題が発生する。
【0042】
一方、銅(Cu)を単純に鉄基予合金粉末に混合することよりも、強度向上のために鉄基予合金粉末の表面に銅(Cu)を拡散接合させることが好ましい。この時、拡散接合用に使用される銅(Cu)粉は、サイズ50μm以下の粉末を使用することが好ましい。
【0043】
ここで、拡散接合とは、用意された予合金粉末と銅粉とを混合した後、熱処理を介して銅粉が予合金粉末の表面に拡散されながら接合された状態を意味する。
【0044】
例えば、拡散接合を行うためには、まず、予合金粉末と銅粉を従来の公知の任意の方法(V型ミキサー、ダブルコーン型ミキサー、ヘンゼルミキサーまたはナオタミキサーなど)を用いて混合する。この時、粉末混合の際には、銅粉の偏析を防止するために、マシンオイルなどの結合剤を添加することができる。このように予合金粉末と銅粉とが混合されると、その混合物を還元雰囲気中で700~1000℃の温度範囲で0.5~2時間程度維持する熱処理を施すことにより、銅粉を予合金粉末の表面に拡散接合させることができる。
【0045】
もちろん、予合金粉末の表面に銅粉を拡散接合させる方法は、上記に提示された方法及び条件に限定されず、予合金粉末の表面に銅粉を拡散接合させることができるさまざまな方法及び条件に変更されて実施できるだろう。
【0046】
一方、本発明に係る粉末冶金用鉄基合金粉末は、前述した鉄基拡散接合粉末に様々な添加剤を混合して形成される。
【0047】
例えば、鉄基合金粉末は、強度を向上させるために、鉄基拡散接合粉末に炭素(C)粉末を混合して形成することができる。例えば、炭素(C)粉末は、黒鉛粉末(graphite powder)及びカーボンブラック粉末(carbon black powder)のいずれか一方または両方が使用できる。このとき、天然黒鉛(natural graphite)及び合成黒鉛(synthetic graphite)がいずれも黒鉛粉末(graphite powder)として使用できる。一方、炭素(C)の含有量は0.4~1.0wt%であることが好ましい。炭素の含有量が提案された範囲よりも少ない場合には、フェライト組織の形成が増加して強度を低下させ、炭素の含有量が提案された範囲よりも多い場合には、炭化物が形成されて加工性を低下させるか或いはオーステナイト組織の形成が増加して強度を低下させるという問題がある。
【0048】
また、鉄基合金粉末は、加工性を向上させるために、鉄基拡散接合粉末に硫黄(S)をさらに混合して形成することができる。
【0049】
この時、硫黄(S)の含有量は0.1~0.3wt%であることが好ましい。硫黄(S)の含有量が0.1wt%未満である場合には、加工性の向上効果を期待することができず、硫黄(S)の含有量が0.3wt%を超える場合には、引張強度が低下するという問題が生じる。
【0050】
一方、硫黄(S)は、予合金粉末及び拡散接合粉末とは別に、MnS粉末の形で予合金粉末と混合されたことが好ましい。この時、MnSは、1:1の結合比率ではなく、複合結合構成であって、約3:1乃至5:1の比率が好ましい。
【0051】
また、鉄基合金粉末は、潤滑性の向上のために鉄基拡散接合粉末に潤滑剤をさらに混合して形成することができる。
【0052】
鉄基合金粉末は、必要に応じて、上記に提示した炭素(C)、硫黄(S)及び潤滑油のいずれかまたはそれ以上を一緒に混合して形成することができる。また、提示された添加剤以外の他の機能性添加剤を、鉄基合金粉末の物性を低下させない範囲でさらに混合して形成することができる。
【0053】
本発明は、強度及び加工性に優れる鉄基予合金粉末、鉄基拡散接合粉末及びこれを用いる粉末冶金用鉄基合金粉末を製造するために、上述したような組成を有する溶鋼または粉末と添加剤を用いて製造される。
【0054】
特に、予合金粉末、拡散接合粉末及び合金粉末の含有量を調節する場合に、予合金粉末、拡散接合粉末及び合金粉末を原料として用いて製造される焼結鍛造部材のマルテンサイト面積率を5%未満に維持し、降伏強度を500MPa以上に維持しながら加工性を向上させるために、Cu、Mo及びMnの量を上記の関係式(1)及び(2)を満足するように制限することが好ましい。
【0055】
もし関係式(1)及び(2)を満足しない場合には、加工性が低下するという問題が生じる。
【0056】
一方、合金粉末を原料として用いて製造される焼結鍛造部材のマルテンサイト面積率を5%未満に維持し、被削性を優秀に維持しながら降伏強度を800MPa以上に維持させるために、予合金粉末の表面に5wt%未満の銅(Cu)を粉末状に拡散接合させて拡散接合粉末を形成することが好ましい。
【0057】
以下、比較例及び実施例を用いて本発明について説明する。
商業生産される粉末冶金用鉄基粉末の生産条件に応じて、最終製品を生産し、最終製品を用いて試験片を製作した後、マルテンサイト面積率、降伏強度及び加工性を測定した。
【0058】
まず、鉄基予合金粉末の特性を調べるために、下記表1のように、各成分の含有量が調整された溶鋼を準備した後、水(water)アトマイズ法を用いて予合金粉末を製造した。この時、鉄基予合金粉末には、Cuの拡散接合の前に、鉄基予合金粉末100重量部に対して黒鉛粉末(graphite powder):0.7重量部、潤滑剤(ステアリン酸亜鉛):0.8重量部、及びMnS粉末:0.5重量部を添加剤として添加し、ダブルコーン型ミキサーで混合した。
【0059】
表1において、実施例1群は、予合金成分としてマンガン(Mn)が含有されていない実施例であり、実施例2群は、予合金成分としてマンガン(Mn)が含有された実施例である。
【0060】
一方、各比較例及び実施例では、鉄基予合金粉末を構成するCu、Mo、及びnを除いた残りは、Fe及び不可避不純物からなっている。
【0061】
【表1】
【0062】
前記表1におけるA値は、0.3×Cu%+3×Mo%+4×Mn%に基づいて演算された値を意味する。
【0063】
一方、試験片の製作の際に、7ton/cmの成形圧でサイズ10×15×55mmの試験片を成形した後、1120℃で20分間RXガス雰囲気中で熱処理し、その後、密度が7.76以上となるように鍛造した。そして、L50×W13×t4mmに最終加工した。
【0064】
このように準備された試験片をもって、組織の面積率、特にマルテンサイト面積率を測定し、降伏強度及び加工性を測定した。
【0065】
加工性の評価は、下記の表2及び表3に基づいて測定して行った。
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
上述した測定方法によって測定されたマルテンサイト面積率、降伏強度及び加工性に対する結果を下記表4に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示すように、本発明に係る実施例1群及び実施例2群によるNo.6乃至No.15の試験片はいずれも、マルテンサイト面積率が5%未満であり、降伏強度が500MPa以上であり、加工性に優れていることを確認することができた。
特に、No.8乃至No.11は、A値が2.20以上であって、マルテンサイト面積率5%未満を満足しながら加工性にも優れているうえ、降伏強度も800MPa以上と非常に高い強度向上効果を示した。このような結果より、A値を2.20以上に制限することが降伏強度の向上効果を最大化することができることを確認することができた。
【0071】
一方、No.1の試験片は、Moが含有されていない比較例であって、マルテンサイトは形成されておらず、加工性には優れているものの、降伏強度が所望のレベルよりも低かった。
【0072】
No.2及びNo.3の試験片は、Cuが含有されていない比較例であって、マルテンサイトは形成されておらず、加工性には優れているものの、降伏強度が所望のレベルよりも低かった。
【0073】
No.4の試験片は、Cu、Mo及びMnの含有量は本発明で提示した含有量を満足しているものの、A値に対する条件を満たしていない比較例であって、降伏強度は優れているが、マルテンサイトが過度に多く形成されて加工性が悪くなったことを確認することができた。
【0074】
No.5の試験片は、Moが本発明で提示した含有量以上に含有された比較例であって、降伏強度は比較的優れているが、マルテンサイトが過度に多く形成されて加工性が悪くなったことを確認することができた。
【0075】
次に、Cu及びMo成分を予合金で形成することについての効果を調べる実験を行った。
【0076】
このために、下記表5のように各成分の含有量を調整した。この時、No.16の試験片は、Cu、Mo及びMnをいずれも予合金で準備した。No.17及びNo.18の試験片は、Mo及びMnを予合金で準備し、Cu成分は予合金に接合させ、No.19及びNo.20の試験片は、Cu及びMnを予合金で準備し、Mo成分は予合金に接合させた。この時、No.17及びNo.19の試験片はCu粉末またはMo粉末を予合金に拡散接合させ、No.18及びNo.20の試験片はCu粉末またはMo粉末を予合金に単純混合(単純接合)させた。
【0077】
各試験片に対してマルテンサイト面積率、降伏強度及び加工性を測定し、それに対する結果を下記表6に示した。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示すように、No.16乃至No.20の試験片はいずれも、マルテンサイト面積率が5%未満であり、降伏強度も500MPa以上であり、加工性に優れていることを確認することができた。ただし、相対的にCu、Mo及びMnをいずれも、予合金で準備したNo.16の試験片の降伏強度が、Cu粉末またはMo粉末を予合金に拡散接合または混合させたNo.17乃至No.20の試験片の降伏強度よりも高いことを確認することができた。また、同じ接合粉末であっても、Cu粉末またはMo粉末を拡散接合させたNo.17及びNo.19の試験片の降伏強度が、Cu粉末またはMo粉末を単純に混合して接合させたNo.18及びNo.20の試験片の降伏強度よりも高いことを確認することができた。
【0081】
次に、予合金に拡散接合されるCuの量による拡散接合粉末の物性変化に対する効果を調べる実験を行った。
【0082】
このために、前述したNo.16による予合金に下記表7のように拡散接合されるCu粉末の量を調整し、各試験片に対してマルテンサイト面積率、降伏強度及び加工性を測定し、それに対する結果を下記表7に一緒に示した。
【0083】
【表7】
【0084】
表7に示すように、拡散接合されるCuの量が5%未満であるNo.21乃至No.23の試験片はいずれも、マルテンサイト面積率が5%未満であり、降伏強度も800MPa以上であり、加工性に優れていることを確認することができた。
【0085】
ただし、拡散接合されるCuの量が5%であるNo.24の試験片は、No.23の試験片に比べて降伏強度が低下したことを確認することができた。
【0086】
したがって、拡散接合されるCuの量を5%未満に限定して強度向上の効果を最大化することが好ましいことを確認することができた。
【0087】
次に、合金粉末を構成する各成分を予合金化させることにより、組織の微細化に及ぼす影響を調べる実験を行った。
【0088】
このために、前述したNo.7による合金成分を予合金した実施例による試験片、及びFeとCuのみを予合金化した比較例による試験片を製作して組織を観察し、その結果を図1及び図2に示した。
【0089】
図1は実施例による試験片の組織写真であり、図2は比較例による試験片の組織写真であって、実施例による試験片の組織が相対的に比較例による試験片の組織よりも微細に形成されたことを確認することができた。
【0090】
このような結果に基づいて、本発明のようにCu及びMoなどの合金成分を予め予合金化して鉄基粉末を製造することが強度の向上及び加工性の改善に効果的であることを推測することができる。
【0091】
本発明について、添付図面及び前述した好適な実施形態を参照して説明したが、本発明は、これらに限定されず、後述する特許請求の範囲によって限定される。よって、本技術分野における通常の知識を有する者であれば、後述する特許請求の範囲の技術的思想から外れることなく本発明を様々に変形及び修正することができる。
図1
図2