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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】抗カビ基体
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/20 20060101AFI20221027BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20221027BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20221027BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20221027BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221027BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221027BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20221027BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20221027BHJP
   C08F 2/48 20060101ALI20221027BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20221027BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A01N59/20 Z
A01N25/10
A01P3/00
C08F2/00 C
C08F2/44 Z
B32B27/18 F
B05D5/00 Z
B05D7/24 303A
C08F2/48
C09D5/14
C09D4/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020187383
(22)【出願日】2020-11-10
(62)【分割の表示】P 2018215710の分割
【原出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2021038237
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和紘
(72)【発明者】
【氏名】大塚 康平
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃章
(72)【発明者】
【氏名】堀野 克年
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-117554(JP,A)
【文献】国際公開第2014/080606(WO,A1)
【文献】特開2017-000655(JP,A)
【文献】特表2018-520989(JP,A)
【文献】特開2013-166705(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141600(WO,A1)
【文献】特表2011-530400(JP,A)
【文献】特開2017-088586(JP,A)
【文献】特開平08-165210(JP,A)
【文献】特開平08-165211(JP,A)
【文献】特開平08-165212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
C08F
B32B
B05D
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に、銅化合物及び還元力のある光重合開始剤を含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まない電磁波硬化型樹脂からなるバインダの硬化物が固着し、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であり、前記銅化合物の少なくとも一部は、前記バインダの硬化物の表面から露出していることを特徴とする抗カビ基体。
【請求項2】
前記バインダの硬化物はTiO を含まない請求項1に記載の抗カビ基体。
【請求項3】
前記銅化合物は、光触媒物質の表面に担持された一価の銅化合物と二価の銅化合物の混合物を含まない請求項1又は2に記載の抗カビ基体。
【請求項4】
前記重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤である請求項1~3のいずれか1項に記載の抗カビ基体。
【請求項5】
前記重合開始剤には、アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1~4/1である請求項1~のいずれか1に記載の抗カビ基体。
【請求項6】
前記銅化合物は、銅錯体を含まない請求項1~のいずれか1に記載の抗カビ基体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗カビ・抗菌性基体、抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から微量の銀、銅、亜鉛等の金属イオンが抗菌・抗カビ効果を有することはよく知られており、このような抗菌性の金属イオンは、例えば硝酸銀のような金属塩の形態で殺菌剤、消毒剤等に添加され各種分野で広く使用されている。しかし、このような金属塩は、水溶液状態で取り扱うことからその用途が限定され、また硝酸銀にあっては人体への強い粘膜刺激性があり、その安全性にも問題が多い。
【0003】
そこで、抗菌・抗カビ剤の開発が活発に行われており、特許文献1には、重合用原料(1)アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル、及び/ 又は(2)ジ又はトリアクリル酸エステル又はジ又はトリメタクリル酸エステルを、高級脂肪酸の銀、銅、亜鉛からなる塩と有機溶媒の存在下で重合してなる抗菌剤が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、無機系抗菌剤及び金属酸化物を含有する硬化性樹脂から成る層を表面に有する成形体であって、前記無機系抗菌剤が脂肪酸修飾金属超微粒子であることを特徴とする成形体が開示されている。
さらに、特許文献3には、銅のアミノ酸塩、すなわち銅のアミノ酸錯塩を含むコーティング剤を塗布した抗菌性建築資材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3583178号公報
【文献】特開2015-105252号公報
【文献】特開平11-236734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載された抗菌剤や抗菌成形体では、抗カビ性が十分とは言えるものではなかった。
【0007】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、抗カビ・抗菌性に優れるとともに、透明性等に優れ、基材の透明性や基材表面の色彩等の特性をそのまま維持することが可能な抗カビ・抗菌性基体、該抗カビ・抗菌性基体を製造するために最適な抗カビ・抗菌性組成物及び容易に上記抗カビ・抗菌性基体を製造可能な、塗工性能に優れた該抗カビ・抗菌性基体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の抗カビ・抗菌性基体は、基材表面に、銅化合物及び重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダの硬化物の表面から露出していることを特徴とする。
【0009】
本明細書において、上記抗カビ・抗菌性基体は、抗カビ及び抗菌のうちどちらかの活性を示す基体であってもよく、抗カビ及び抗菌の両方の活性を示す基体であってもよいが、特に抗カビ活性を示す基体であることが望ましい。
本明細書において、上記抗カビ・抗菌性組成物は、抗カビ活性及び抗菌活性のうちどちらかの活性を示す組成物であってもよく、抗カビ及び抗菌の両方の活性を示す組成物であってもよいが、特に抗カビ活性を示す組成物であることが望ましい。
上記抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、上記した効果を有する抗カビ・抗菌性組成物を用い、上記した効果を有する抗カビ・抗菌性基体を製造する方法であるが、特に抗カビ性基体を製造する方法であることが望ましい。
【0010】
なお、一般に化合物は、共有結合性の化合物、イオン性化合物を指し、錯体は化合物には含まれない。従って、銅錯体(銅錯塩)は、本発明の抗カビ・抗菌性基体、抗カビ・抗菌性組成物、抗カビ・抗菌性基体の製造方法でいう銅化合物には含まれず、銅のアミノ酸塩も本発明の銅化合物には含まれない。本発明における銅化合物は、銅を含む共有結合性の化合物、銅を含むイオン性化合物を言う。あえて換言すれば、本発明の抗カビ・抗菌性基体、抗カビ・抗菌性組成物、抗カビ・抗菌性基体の製造方法における銅化合物は、銅化合物(銅錯体を除く)ということである。
【0011】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、基材表面に、銅化合物及び重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着形成され、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダの硬化物の表面から露出しているため、銅化合物がカビ・菌と接触しやすく、銅化合物に基づく抗カビ・抗菌性を有する基体としての効果を充分に発揮することができる。
【0012】
本発明の抗カビ・抗菌性基体は、銅元素および重合開始剤を含むが、この重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、銅の抗カビ・抗菌活性を高くすることができる。一般に、銅(I)の方が銅(II)よりも抗カビ・抗菌活性が高いため、銅が還元されることによって、抗カビ・抗菌活性も改善されると推定される。また、重合開始剤は、疎水性で水に不溶であるため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗カビ・抗菌性基体となる。
このような重合開始剤が銅(II)に対する還元力を持つことは、本発明者らは初めて知見したものであり、銅化合物を重合開始剤が還元することで銅(I)の存在割合を増やすことができるのである。重合開始剤としては、光重合開始剤が望ましい。電磁波を照射してラジカルやカチオンを発生させる際に、銅を還元できるからである。
本発明者らの知見によれば、熱重合開始剤は、光重合開始剤に比べて、銅(II)に対する還元力が低く、本発明の抗カビ・抗菌性組成物、抗カビ・抗菌性基体およびその製造方法として使用するにあたって困難を伴う。
【0013】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダの硬化物の表面から、カビ・菌などの微生物と接触可能な状態で露出している。カビ・菌などの微生物と接触可能な状態で露出していると、カビ・菌などの微生物の機能を失活させることができるからである。
【0014】
本発明の抗カビ・抗菌性基体において、一価および二価の銅イオンは、タンパク質と結合または酸化することで、タンパク質を変性させて、失活させる。表面のタンパク質を破壊されたカビおよび菌は、細胞分裂や栄養分の取り込み、呼吸といった生命維持に必要な作用が阻害され、増殖が抑制される。胞子を生成できる生物であっても、増殖するためには、胞子から発芽して、銅イオンでダメージを受ける発芽状態となるため、同様に抗カビ・抗菌効果が発現する。
【0015】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。
二価の銅イオンは、細胞との親和性に優れ、細胞表面で錯体を形成して、呼吸系酵素群を失活させ、一方、一価の銅イオンは、水と反応して、OH(-)やOH・ラジカルなどを生じさせ、これらのOH(-)やラジカルが細胞を構成するタンパク質を攻撃して損傷させると考えられ、どちらかに耐性がある細胞であっても、確実に細胞を死滅させることができるからであると推測される。
【0016】
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在し、基材表面に、上記バインダの硬化物が固着しておらず、基材表面が露出している部分が存在するため、可視光線の基材表面に対する透過率が低下するなど不都合を防止することができる。そのため、基材が透明な材料である場合には、基材の透明性が低下することはなく、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合には、意匠等の外観を損ねることもない。
【0017】
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在しているため、上記バインダの硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダの硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダの硬化物を形成することができる。また、バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、カビ・菌などの微生物をバインダ硬化物間にトラップさせやすくなり、抗カビ・抗菌性を持つバインダ硬化物と微生物との接触確率が高くなるため、高い抗カビ・抗菌性を発現できる。
【0018】
さらに、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダ硬化物が膜状に形成されていてもよい。
抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物が膜状に形成されていると、島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べて、バインダ硬化物の凹凸が少なく、平滑性が良好になるため、ふき取り清掃に対する耐性に優れる。その一方で、バインダ硬化物が基材上に膜状に固着形成されている場合、基材表面の意匠の視認性、抗カビ・抗菌性能、及び、冷熱サイクル後の抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物の基材に対する密着性は、バインダ硬化物が島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合に比べて低下する。
【0019】
上記バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~20μmが望ましい。厚すぎると、意匠性が低下するだけでなく、応力が発生して膜が剥離して抗カビ・抗菌性が低下する。膜の厚みを薄くする場合、施工性が難しくなるだけでなく、抗カビ・抗菌成分の添加量が不十分で、抗カビ、抗菌性能が十分発揮できないからである。上記基材に意匠が施されていない場合、基材表面がエンボス加工されている場合、あるいは、意匠性よりも抗カビ・抗菌性を優先させる場合には、上記のように、バインダ硬化物からなる膜が基材表面上に形成されていてもよい。
【0020】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物は、多孔質体からなることが望ましい。多孔質であれば、菌やカビが抗カビ・抗菌性物質と接触しやすくなり、微生物を構成する蛋白質を破壊して微生物を失活させやすくなるからである。
【0021】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記重合開始剤は、光重合開始剤を含むことが望ましい。上記光重合開始剤を含むと、上記銅化合物を抗カビ・抗菌性に対して、高い効果を持つと推測される銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗カビ・抗菌性の効果が銅(I)よりも小さい銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
【0022】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗カビ・抗菌性基体となるからである。
【0023】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上の光重合開始剤であることが望ましく、特に、上記光重合開始剤は、ベンゾフェノン又はその誘導体を含むことが望ましい。これらの光重合開始剤を組み合わせることで、抗カビ・抗菌性組成物の内部及び表面を効率的に硬化させ、耐久性を高くすることができるからである。また、これらの光重合開始剤は、銅(II)に対する還元力が高く、銅(I)の生成を促進させ、銅(I)と銅(II)が抗カビ・抗菌性を示す硬化物中に共存する状態をつくることができ、高い抗カビ・抗菌活性を実現できるのである。
【0024】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~4.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても電磁波硬化型樹脂の架橋密度を高くすることができるからである。
【0025】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、電磁波硬化型樹脂の硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅(II)に対する還元力を発現させることができるからである。
【0026】
なお、煮沸したトルエンに電磁波硬化型樹脂の硬化物を8時間浸漬して乾燥、(浸漬後の硬化物の重量/浸漬前の硬化物の重量)×100%で架橋密度を測定すると、実施例1の抗カビ・抗菌性基体の架橋密度は、97%である。一方、アルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率が0.5/1や5/1となると、架橋密度は、それぞれ91%まで低下する。つまり、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1(架橋密度95%以上)であることが最適である。
【0027】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に固着形成させることができるからである。上記有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0028】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂および熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの電磁波硬化型樹脂は、光重合開始剤の銅(II)に対する還元力を低下させることがないため、好適に使用できる。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0029】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0030】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。Cu(I)およびCu(II)が共存していた方が、それぞれ単独に存在している場合に比べて、抗カビ・抗菌活性が高いからである。
【0031】
上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4~50であることが望ましく、0.5~50であることがより望ましい。より抗カビ・抗菌性に優れた抗カビ・抗菌性基体となるからである。
銅化合物中のCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、光重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整および紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調製することができる。
【0032】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1~500μmであり、その厚さの平均値は、0.1~20μmであることが望ましい。上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅が0.1~500μmであると、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合が多くなり、光透過率の低下を抑制することができるからである。また、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1~20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層を形成しにくく、バインダ硬化物が島状に散在し易くなるか、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に調整しやすく、光透過率が高くなり意匠性が維持され易く、また、抗カビ・抗菌性の効果が発生し易い。
上記バインダの硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、1~100μmであり、その厚さの平均値は、1~20μmであることがより望ましい。
【0033】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、銅化合物、未硬化のバインダ、分散媒及び重合開始剤を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、銅化合物、未硬化のバインダ、分散媒及び重合開始剤を含むので、上記抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に付着させることにより、抗カビ・抗菌性組成物を基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態もしくは島状に散在した状態とすることができ、乾燥工程の後、硬化させることにより、基材に対する透明性及び基材との密着性に優れた島状もしくはバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態のバインダ硬化物を形成することができる。
【0035】
また、本発明の抗カビ・抗菌性組成物が、バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、カビ・菌などの微生物をバインダ硬化物間にトラップさせやすくなるため、抗カビ・抗菌性を持つバインダ硬化物と微生物との接触確率が高くなり、高い抗カビ・抗菌性を発現できる。
【0036】
また、本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、銅化合物、未硬化のバインダ、分散媒及び重合開始剤を含むので、上記抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に付着させることにより、抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に膜状に形成することもでき、耐摩耗性に優れ、清掃時のふき取りでも抗カビ・抗菌性が低下しない。
しかし、抗カビ・抗菌性組成物が基材表面に膜状に形成されている場合、基材表面の意匠性・光沢性、抗カビ・抗菌性、及び、冷熱サイクル後の抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物の基材に対する密着性は、島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べて低下する。
【0037】
また、本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、光重合開始剤を含むことが望ましいが、この光重合開始剤は、ラジカルやカチオンを発生させ、その際に銅化合物を還元させることができるため、組成物を硬化させた硬化物中に銅(I)、銅(II)が共存した状態とすることができ、銅の抗カビ・抗菌活性を高くすることができるのである。
【0038】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記重合開始剤は、光重合開始剤であることが望ましい。上記光重合開始剤を含むと、上記銅化合物を抗カビ・抗菌性効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗カビ・抗菌性が銅イオン(I)よりも低い銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。
【0039】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましく、銅のカルボン酸塩であることがより望ましい。基材表面にバインダ硬化物を形成した際、バインダ硬化物の表面よりカビ・菌などの微生物と接触可能な状態で露出した銅化合物が優れた抗カビ・抗菌性を発揮することができるからである。
【0040】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが望ましく、二価の銅化合物は、水溶性であることが望ましい。一価の化合物は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化する、バインダ中への分散が不充分であり、抗カビ・抗菌活性に劣るからである。また、二価の銅化合物を抗カビ・抗菌性組成物中に加えることで、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。水溶性の二価の銅化合物が最適である。
【0041】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダからなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に固着形成できるからである。有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0042】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂および熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、光重合開始剤の銅(II)に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0043】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0044】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記分散媒は、アルコール又は水であることが望ましい。上記分散媒中に銅化合物が良好に分散し、その結果、銅化合物が良好に分散したバインダ硬化物を形成することができるからである。
【0045】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であることが望ましい。水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物となるからである。
【0046】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上であることがより望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅(II)に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0047】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物では、上記光重合開始剤は、バインダに対して0.1~10重量%の割合であることが望ましい。上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~4.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅(II)に対する還元力を高くすることができるからである。
【0048】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、
(1)基材の表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる付着工程と、上記付着工程により付着した上記抗カビ・抗菌性組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させて、基材の表面にバインダ硬化物を固着せしめる硬化工程とを含むことを特徴とする。
また、別の本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、
(2)基材の表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる付着工程と、上記付着工程により付着した上記抗カビ・抗菌性組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程と、上記乾燥工程で分散媒を除去した上記抗カビ・抗菌性組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させて、基材の表面にバインダ硬化物を固着せしめる硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0049】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法においては、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を付着させることにより、基材の表面に抗カビ・抗菌性組成物を付着させることができ、乾燥と同時に、又は、乾燥工程の後、抗カビ・抗菌性組成物の硬化反応を進行させることにより、比較的容易に銅化合物を含むバインダ硬化物を形成することができ、上記銅化合物の一部をバインダ硬化物の表面からカビ・菌などの微生物と接触可能な状態で露出させてカビ・菌などの微生物と接触させることにより、カビ・菌などを失活させることができる。
従って、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法によれば、抗カビ・抗菌性に優れた抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、バインダの硬化時に収縮が生じるため、硬化収縮時に銅化合物をバインダ表面から露出せしめることができ、容易にカビ・菌などを失活させることができる。
【0050】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法において、乾燥や加熱は、赤外線ランプやヒータなどで行うことができ、また、電磁波を照射して乾燥と硬化を同時行ってもよい。
【0051】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法(1)および(2)においては、重合開始剤としては光重合開始剤を使用することが望ましく、光重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定波長の電磁波を照射する工程を含むことが望ましい。電磁波としては高エネルギーを持つ紫外線が好適に利用される。電磁波の照射工程は、乾燥工程を含む場合は、その後、もしくは硬化工程の前に行うことが好ましい。
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法(1)および(2)においては、抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に島状に付着させてもよく、バインダを硬化させた後、当該バインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態になるように、抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に付着させてもよい。さらに、抗カビ・抗菌性組成物を膜状に付着させてもよい。
【0052】
上記抗カビ・抗菌性組成物は、光重合開始剤を含むことが望ましいが、この光重合開始剤は、ラジカルやイオンを発生させ、その際に銅イオンを還元させることができるため、得られた抗カビ・抗菌性基体中に含まれる銅の抗カビ・抗菌活性を高くすることができるのである。一般に、銅(I)の方が銅(II)よりも抗カビ・抗菌活性が高く、銅が還元されることで抗カビ・抗菌性が改善される。
【0053】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記銅化合物は、二価の銅化合物(銅化合物(II))であることが望ましい。一価の化合物は、分散媒である水に不溶であり、粒子状に局在化する、バインダ中への分散が不十分であり、抗カビ・抗菌活性に劣るからである。また、水に可溶な二価の銅化合物を抗カビ・抗菌性組成物中に加えることで、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。水溶性の二価の銅化合物が最適である。
【0054】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましく、銅のカルボン酸塩であることがより望ましい。基材表面にバインダ硬化物を形成した際、バインダ硬化物の表面より微生物と接触可能な状態で露出した銅化合物が優れた抗カビ・抗菌性を発揮することができるからである。また、カルボン酸はCOOH基を持ち、樹脂との親和性に優れ、バインダ硬化物により保持されやすく、他の銅の無機塩や銅の酸化物、銅の水酸化物に比べて、水で溶出しにくいため、耐水性に優れる。
【0055】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。比較的容易に密着性に優れたバインダ硬化物を、基材表面に固着させることができるからである。
【0056】
上記有機バインダは、電磁波硬化型樹脂および熱硬化型樹脂からなる群から選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、光重合開始剤の銅(II)に対する還元力を低下させることがないため有利である。
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0057】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
【0058】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記分散媒は、アルコール又は水であることが望ましい。上記分散媒中に銅化合物や未硬化のバインダが良好に分散し易く、銅化合物が良好に分散したバインダ硬化物を形成することができるからである。
【0059】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記重合開始剤は、水に不溶性の光重合開始剤であることが望ましい。水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗カビ・抗菌性基体を形成することができるからである。
【0060】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましく、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上であることがより望ましく、上記光重合開始剤は、ベンゾフェノン又はその誘導体がさらに望ましい。これらの光重合開始剤は、特に、銅(II)に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0061】
上記光重合開始剤は、バインダに対して0.1~10重量%の割合含まれていることが望ましい。また、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~4.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
【0062】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅(II)に対する還元力を高くすることができるからである。
【0063】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、上記硬化工程において、基材に付着した前記抗カビ・抗菌性組成物に電磁波を照射することが望ましい。上記電磁波は、光重合開始剤を励起して、銅化合物を還元する働きをもつ。このため、銅(II)を還元して銅(I)の量を増やして抗微生物活性を高くすることができるからである。
【0064】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法により、バインダ硬化物が、基材表面に島状に固着形成されてなるか、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在してなる抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。その結果、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダ硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダ硬化物を形成することができる。
バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、カビ・菌などの微生物をバインダ硬化物間にトラップさせやすくなるため、抗カビ・抗菌性を持つバインダ硬化物と微生物との接触確率が高くなり、高い抗カビ・抗菌性を発現できる。
【0065】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法により、バインダ硬化物が、基材表面に膜状に固着形成されてなり、ふき取り清掃に対する耐久性に優れた抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。
上記抗カビ・抗菌性基体は、島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べて、表面の凹凸がなく、抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物の表面が滑りやすいため、ふき取り清掃への耐性に優れている。その一方で、バインダ硬化物が基材上に膜状に固着形成されている場合、基材表面の意匠の視認性、抗カビ・抗菌活性は、バインダ硬化物が島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合に比べて低下する。
【0066】
本発明の抗カビ・抗菌性基体は、抗カビ性基体であることが望ましく、上記抗カビ・抗菌性組成物は、抗カビ性組成物であることが望ましく、上記抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、抗カビ性基体の製造方法であることが望ましい。
本発明の抗カビ・抗菌性基体は、特に高い抗カビ活性を有するからである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1図1(a)は、第1の本発明の抗カビ・抗菌性基体の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示した抗カビ・抗菌性基体の平面図である。
図2図2は、抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に島状に付着させ、硬化固着させた場合の抗菌・抗カビ性基体を示すSEM写真である。
図3図3は、実施例1で製造した抗カビ・抗菌性黒色光沢メラミン化粧板表面を示す光学顕微鏡写真である。
【0068】
(発明の詳細な説明)
次に、本発明の抗カビ・抗菌性基体について説明する。
本発明の抗カビ・抗菌性基体は、基材表面に、銅化合物及び重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダの硬化物の表面から露出していることを特徴とする。
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、基材表面に、銅化合物及び重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着し、上記銅化合物の少なくとも一部は、上記バインダの硬化物の表面から露出しているため、銅化合物が微生物と接触しやすく、銅化合物に基づく抗カビ・抗菌性を有する基体としての効果を充分に発揮することができる。
【0069】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、基材表面に、銅化合物及び重合開始剤を含むバインダの硬化物が固着形成されていることを特徴とする。
【0070】
図1(a)は、本発明の抗カビ・抗菌性基体の一実施形態を模式的に示す断面図であり、図1(b)は、図1(a)に示した抗カビ・抗菌性基体の平面図である。
【0071】
図1に示すように、本発明の抗カビ・抗菌性基体10では、基材11の表面に、銅化合物を含む多孔質体からなる電磁波硬化型樹脂の硬化物12が島状に散在している。
【0072】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物は、多孔質体からなることが望ましい。
上記銅化合物が空気などの雰囲気媒体と接触しやすくなるからである。本発明においては、微生物としては、菌・カビもしくはカビに対して最も効力を発揮する。
【0073】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。また、本発明の抗カビ・抗菌性基体の基材となる部材も、特に限定されるものではなく、タッチパネルの保護用フィルムやディスプレイ用のフィルムであってもよく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、手すり等であってもよい。また、ドアノブ、トイレのスライド鍵などでもよい。さらに事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0074】
上記バインダ硬化物を形成するためのバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましい。
【0075】
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。上記無機ゾルにおけるシリカ等の無機酸化物の含有割合は、固形分換算で1~80重量%が好ましい。
【0076】
上記有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
これらの有機バインダは、電磁波の照射や加熱により、樹脂が硬化して基材表面に銅化合物を固着できるからである。また、これらの樹脂は、重合開始剤として光重合開始剤を用いた場合、光重合開始剤の銅(II)に対する還元力を低下させることがないため有利である。電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
【0077】
具体的には、上記バインダは、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及び、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。金属アルコキシドとしては、アルコキシシランを使用することができる。加水分解によりシロキサン結合を形成してゾルとなり、乾燥によってゲル化してバインダ硬化物となるからである。シリカゾル、アルミナゾル及び水ガラスについても、加熱、乾燥させることによりバインダ硬化物となる。
本発明のバインダ硬化物は、上記電磁波硬化型樹脂の硬化物を含んだ概念である。
【0078】
上記バインダ硬化物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物、銅の酸化物、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。
上記銅のカルボン酸塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、酢酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、グルコン酸銅等が挙げられる。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅、硫酸銅等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、例えば、銅(メトキシド)、銅エトキシド、銅プロポキシド、銅ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。
銅のカルボン酸塩、銅の水酸化物は、有機バインダ、無機バインダとの親和性が高く、水により溶出しないため、耐水性に優れる。
このような銅化合物は、バインダ硬化物を製造する際に用いる抗カビ・抗菌性組成物を調製する際に添加する銅化合物と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0079】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認されることが望ましい。Cu(I)およびCu(II)が共存していた方が、それぞれ単独に存在している場合に比べて、抗カビ・抗菌活性が高いからである。
【0080】
X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.5~50であることが望ましく、0.4~50であることがより望ましい。Cu(II)と共存した方が、Cu(I)のみの場合に比べて、抗カビ・抗菌性能が高くなる。この理由は明確ではないが、二価の銅イオンは、細胞との親和性に優れ、細胞表面で錯体を形成して、呼吸系酵素群を失活させ、一方、一価の銅イオンは、水と反応して、OH(-)やOH・ラジカルなどを生じさせ、これらのOH(-)やラジカルが細胞を構成するタンパク質を攻撃して損傷させると考えられ、どちらかに耐性がある細胞であっても、確実に細胞を死滅させることができるからであると推定される。
【0081】
また、Cu(I)の銅は、Cu(II)の銅と比較して抗カビ・抗菌性により優れていると推測されるため、本発明の抗カビ・抗菌性基体において、X線光電子分光分析法により、925~955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.0~4.0であると、より優れた抗カビ・抗菌カビ性基体となる。最も望ましい範囲は、上記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が1.4~1.9である。
銅化合物中のCu(I)/Cu(II)の比率は、バインダ、光重合開始剤、銅化合物の選択、これらの濃度調整および紫外線などの電磁波の照射時間や強度で調製することができる。
【0082】
本発明の抗カビ・抗菌性基体において、銅イオンは、タンパク質と結合または酸化することで、タンパク質を変性させて、失活させる。表面のタンパク質を破壊されたカビおよび菌は、細胞分裂や栄養分の取り込み、呼吸といった生命維持に必要な作用が阻害され、増殖が抑制される。胞子を生成できる生物であっても、増殖するためには、胞子から発芽して、銅イオンでダメージを受ける発芽状態となるため、同様に効果が発揮される。銅イオン(I)と銅イオン(II)は共存させることが望ましい。二価の銅イオンは、細胞との親和性に優れ、細胞表面で錯体を形成して、呼吸系酵素群を失活させ、一方、一価の銅イオンは、水と反応して、OH(-)やOH・ラジカルなどを生じさせ、これらのOH(-)やラジカルが細胞を構成するタンパク質を攻撃して損傷させると考えられ、どちらかに耐性がある細胞であっても、確実に細胞を死滅させることができるからであると推定される。
【0083】
なお、Cu(I)とは、銅のイオン価数が1であることを意味し、Cuと表す場合もある。一方、Cu(II)とは、銅のイオン価数が2であることを意味し、Cu2+と表す場合もある。なお、一般的に、Cu(I)の結合エネルギーは、932.5eV±0.3(932.2 ~ 932.8eV)、Cu(II)の結合エネルギーは、933.8eV±0.3(933.5 ~ 934.1eV)である。
【0084】
次に、本発明の電磁波硬化型樹脂の硬化物について説明する。
未硬化の電磁波硬化型樹脂であるモノマー又はオリゴマーと光重合開始剤と各種添加剤を含んだ組成物に電磁波を照射することにより、光重合開始剤は、開裂反応、水素引き抜き反応、電子移動等の反応を起こし、これにより生成した光ラジカル分子、光カチオン分子、光アニオン分子等が上記モノマーや上記オリゴマーを攻撃してモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応が進行し、樹脂の硬化物が生成する。このような反応により生成する本発明の樹脂を電磁波硬化型樹脂という。
【0085】
本発明においては、電磁波硬化型樹脂の硬化物に含まれる光重合開始剤が、銅イオン(II)を還元して銅イオン(I)を生成せしめるため、銅(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させて、微生物の細胞を構成する蛋白質を破壊してカビ・菌などの微生物を失活させることができるからである。銅イオン(I)は空気中の水や酸素を還元すると、銅(II)に変わるが、電磁波硬化型樹脂に含まれる光重合開始剤によって、再び銅イオン(I)に還元されるため、還元力が常に維持される。このため、還元性糖などの還元剤は不要となり、また、光重合開始剤は、樹脂と結合しており、水に溶出しないので、耐水性にも優れる。
なお、銅イオン(II)の錯体を銅イオン(I)に還元すると錯体を形成し得ないため、銅イオン(II)から銅イオン(I)のような還元反応が生じにくく、銅のアミノ酸塩などの錯塩を本発明に使用することは不適切である。
【0086】
上記アクリル樹脂としては、エポキシ変性アクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂(ウレタン変性アクリレート樹脂)、シリコーン変性アクリレート樹脂等が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0087】
上記エポキシ樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂やグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂とオキセタン樹脂を組みわせたもの等が挙げられる。
アルキッド樹脂としては、ポリエステルアルキッド樹脂等が挙げられる。
これらの樹脂は、透明性を有するとともに、基材に対する密着性にも優れる。
【0088】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記重合開始剤は、光重合開始剤を含むことが望ましい。上記光重合開始剤を含むと、上記銅化合物を抗カビ・抗菌性効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗カビ・抗菌性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。本発明の抗カビ・抗菌性基体では、銅イオン(I)の抗カビ・抗菌活性は菌だけでなく、カビに対しても効果的であると推定される。
【0089】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダの硬化物は、水に不溶性の光重合開始剤を含むことが望ましい。水に触れても溶出しないため、耐水性に優れたバインダ硬化物を有する抗カビ・抗菌性基体となるからである。
【0090】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上であることが望ましく、特に、上記光重合開始剤は、ベンゾフェノン又はその誘導体を含むことが望ましい。
これらの光重合開始剤は、特に、銅(II)に対する還元力が高く、銅イオン(I)の状態を長期間維持できる効果に優れるからである。
【0091】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~4.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。電磁波の照射時間が短くても高い架橋密度を実現できるからである。
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅(II)に対する還元力を高くすることができるからである。
【0092】
本発明の抗カビ・抗菌性基体におけるバインダ硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、0.1~500μmであり、その厚さの平均値は、0.1~20μmであることが望ましく、全光線透過率は90%以上であることが望ましい。
【0093】
本発明の抗カビ・抗菌性基体において、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1~20μmであると、バインダ硬化物の厚さが薄いので、バインダ硬化物の連続層を形成しにくく、バインダ硬化物が島状に散在し易くなり、抗カビ・抗菌性の効果が発生し易い。
また、上記バインダ硬化物の上記基材の表面に平行な方向の最大幅を0.1~500μmとすることにより、基材の表面がバインダ硬化物により被覆されていない部分の割合が多くなり、光透過率の低下を抑制することができる。
上記バインダの硬化物の基材表面に平行な方向の最大幅は、1~100μmであり、その厚さの平均値は、1~20μmであることがより望ましい。
【0094】
上記バインダ硬化物の厚さの平均値が20μmを超えると、基材の意匠性が悪化するだけでなく、バインダ硬化物の厚さが厚くなりすぎるため、透明性も低下してしまう。また、膜厚が大きいと、バインダ硬化物が基材からの剥離しやすくなる。一方、バインダ硬化物の厚さの平均値が0.1μm未満であると、施工実現が難しいだけでなく、十分な抗カビ・抗菌性能を発揮できない可能性がある。
【0095】
また上記バインダ硬化物の上記基材表面に平行な方向の最大幅が500μmを超えると、バインダ硬化物を、基材表面を露出させた状態で基材表面に固着させることが難しくなり、基材の意匠性、透明性も低下してしまう。一方、上記バインダ硬化物の表面に平行な方向の最大幅が0.1μm未満であると、基材との密着面積が極めて小さくなり過ぎるため、密着力が低下して硬化物が脱落しやすくなる。また、施工性が難しくなるだけでなく、抗カビ・抗菌成分の添加量が少なくなるため、十分な抗カビ・抗菌性を発揮できなくなる。
【0096】
本発明の抗カビ・抗菌性基体において、全光線透過率が90%以上であると、可視光等の光線を透過するので、光の透過性を利用した用途に用いることができる。
【0097】
本発明の抗カビ・抗菌性基体では、バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在し、基材表面に、上記バインダ硬化物が存在せず、基材表面が露出している部分が存在するため、可視光線の基材表面に対する透過率が低下するなど不都合を防止することができる。そのため、基材が透明な材料である場合には、基材の透明性が低下することはなく、基材表面に所定パターンの意匠等が形成されている場合には、意匠等の外観を損ねることもない。
【0098】
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダ硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在しているため、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダ硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダ硬化物を形成することができる。
バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、カビ・菌などの微生物をバインダ硬化物間にトラップさせやすくなるため、抗カビ・抗菌性を持つバインダ硬化物とカビ・菌などの微生物との接触確率が高くなるため、優れた抗カビ・抗菌活性を発現できる。
【0099】
さらに、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、上記バインダ硬化物が膜状に形成されていてもよい。
抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物が膜状に形成されていると、島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べてふき取り清掃への耐性に優れているのである。
その一方で、バインダ硬化物が基材上に膜状に固着形成されている場合、基材表面の意匠の視認性、抗カビ・抗菌性能、及び、冷熱サイクル後の抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物の基材に対する密着性は、バインダ硬化物が島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合に比べて低下する。
【0100】
上記バインダ硬化物からなる膜の厚さは、0.1~20μmが望ましい。膜厚が20μmを超えると、応力が発生して膜が剥離して抗カビ・抗菌性が低下する。膜厚が0.1μm未満では、施工性が難しくなるだけでなく、抗カビ・抗菌成分の添加量が少なくなるため、十分な抗カビ・抗菌性を発揮できなくなるからである。
上記基材に意匠が施されていない場合や、表面がエンボス加工された基材である場合、バインダ硬化物による外観毀損の影響が少ないため、バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていることが望ましい。また、意匠性よりも抗カビ・抗菌性を優先させる場合には、上記のように、バインダ硬化物からなる膜が基材上に形成されていてもよい。
【0101】
次に、本発明の抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法について説明する。
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、基材の表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる付着工程と、上記付着工程により付着した上記抗カビ・抗菌性組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させて、基材の表面にバインダ硬化物を固着せしめる硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0102】
また、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法は、基材の表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる付着工程と、上記付着工程により付着した上記抗カビ・抗菌性組成物を乾燥させて上記分散媒を除去する乾燥工程と、上記乾燥工程で分散媒を除去した上記抗カビ・抗菌性組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させて、基材の表面にバインダ硬化物を固着せしめる硬化工程とを含むことを特徴とする。本発明の製造方法におけるいずれかの工程中で、重合開始剤として光重合開始剤を使用した場合に、光重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが望ましい。
【0103】
すなわち、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、付着工程の後、直ちに硬化工程を行ってもよく、付着工程の後、乾燥工程を経た後、硬化工程を行ってもよい。
【0104】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、付着工程において、銅化合物、未硬化のバインダ、分散媒及び重合開始剤を含む抗カビ・抗菌性組成物を基材の表面に付着せしめる。
【0105】
上記バインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましく、有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
また、無機バインダとしては、無機ゾル、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとして、金属アルコキシドのような有機金属化合物を使用することができる。
【0106】
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
また、上記バインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド及び水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが望ましい。
【0107】
上記無機バインダは、分散媒として、水を用いたものと有機溶媒を用いたものが存在するので、添加する銅化合物の種類等を考慮して、無機バインダを選択することができ、銅化合物が均一に分散した抗カビ・抗菌性組成物を得ることができる。
【0108】
次に、本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法について、各工程の内容を説明する。
(1)付着工程
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法においては、まず、付着工程として、基材の表面に、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む本発明の抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる。
【0109】
散布の対象となる基材の材料は、特に限定されるものでなく、例えば、金属、ガラス等のセラミック、樹脂、繊維織物、木材等が挙げられる。
また、基材となる部材も、特に限定されるものではなく、建築物内部の内装材、壁材、窓ガラス、ドア等であってもよい、事務機器や家具等であってもよく、上記内装材の外、種々の用途に用いられる化粧板等であってもよい。
【0110】
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を使用する。
【0111】
上記抗カビ・抗菌性組成物に含まれる銅化合物は、銅のカルボン酸塩、銅の錯体、又は、銅の水溶性無機塩であることが望ましい。特に、二価の銅化合物(銅化合物(II))が望ましい。二価の銅化合物は、分散媒である水に溶解して、銅イオンがバインダ中に均一分散しやすくなるためである。これに対して、一価の銅化合物は、水に溶解せず、粒子状に懸濁してしまい、均一性に劣る。
また、二価の銅化合物を抗カビ・抗菌性組成物中に加えることで、この二価の銅化合物を還元することで、一価と二価の銅化合物がバインダ硬化物中に共存した状態を簡単に形成できるという利点も有する。水溶性の二価の銅化合物が最適である。水溶性の二価の銅化合物が最適である。
【0112】
上記銅のカルボン酸塩としては、酢酸銅(II)、安息香酸銅(II)、フタル酸銅(II)、グルコン酸銅(II)等が挙げられる。二価の銅のカルボン酸塩が望ましい。
上記銅の水溶性無機塩としては、銅のイオン性化合物を使用することができ、例えば、硝酸銅(II)、硫酸銅(II)等が挙げられる。
その他の銅化合物としては、例えば、銅(II)(メトキシド)、銅(II)エトキシド、銅(II)プロポキシド、銅(II)ブトキシドなどが挙げられ、銅の共有結合性化合物としては銅の酸化物、銅の水酸化物などが挙げられる。
【0113】
上記未硬化のバインダは、有機バインダ、無機バインダ、有機バインダと無機バインダの混合物及び有機・無機ハイブリッドのバインダから選択される少なくとも1種以上であることが望ましく、有機バインダとしては熱硬化性樹脂、電磁波硬化型樹脂を使用することができる。
また、無機バインダとしては、無機ゾル、金属アルコキシド、及び、水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用できる。さらに、有機・無機ハイブリッドのバインダとしては有機金属化合物を使用することができる。
【0114】
電磁波硬化型樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、エポキシアクリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂から選ばれる少なくとも1種以上を使用できる。
また、上記バインダの具体例としては、アクリル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾル、チタニアゾル、金属アルコキシド及び水ガラスからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが望ましい。
【0115】
なお、上記電磁波硬化型樹脂とは、電磁波照射により原料であるモノマーやオリゴマーの重合反応や架橋反応等が進行して製造される樹脂を意味している。
従って、上記抗カビ・抗菌性組成物は、上記電磁波硬化型樹脂の原料となるモノマーやオリゴマー(未硬化の電磁波硬化型樹脂)を含有している。
【0116】
上記分散媒の種類は特に限定されるものではないが、安定性を考慮した場合にはアルコール類や水を使用する事が好ましい。アルコール類としては、粘性を下げる事を考慮して、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられる。これらのアルコールのなかでは、粘度が高くなりにくいメチルアルコール、エチルアルコールが好ましく、アルコールと水との混合液が望ましい。
【0117】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、重合開始剤として、水に不溶性の重合開始剤を含むことが望ましい。水に触れても溶出しないため、バインダ硬化物を劣化させることがなく、銅化合物の脱離を招かないからである。
銅化合物が水溶性であってもバインダ硬化物で保持されていれば、脱離を抑制できるが、バインダ硬化物中に水溶性物質が含まれていると、バインダ硬化物の銅化合物に対する保持力が低下して、銅化合物の脱離が生じると推定される。
また、上記水に不溶性の重合開始剤は、光重合開始剤であることが好ましい。電磁波硬化型樹脂を用いた場合、可視光線、紫外線等の光により、容易に重合反応を進行させることができるからである。
【0118】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、還元力のある光重合開始剤を用いることが望ましい。本発明の抗カビ・抗菌性組成物に含まれる上記銅化合物を抗カビ・抗菌性効果を持つ銅イオン(I)に還元するとともに、銅イオン(I)が酸化して抗カビ・抗菌性の劣る銅イオン(II)に変わることを抑制できるからである。本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、菌・カビ又はカビに最も効果的に作用する。銅(I)の還元力によって、銅イオン(I)が空気中の水や酸素を還元することで、活性酸素、過酸化水素水やスーパーオキサイドアニオン、ヒドロキシラジカルなどを発生させて菌・カビまたはカビを構成する蛋白を効果的に破壊するからである。
【0119】
上記光重合開始剤は、具体的にはアルキルフェノン系、ベンゾフェノン系、アシルフォスフィンオキサイド系、分子内水素引き抜き型、及び、オキシムエステル系からなる群から選択される少なくとも1種が望ましい。
【0120】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(実施例1~5の重合開始剤に相当)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホニル)フェニル]-1-ブタノン等が挙げられる。
【0121】
アシルフォスフィンオキサイド系の光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0122】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤としては、例えば、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、オキシフェニルサクサン、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルトオキシフェニル酢酸と2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルとの混合物等が挙げられる。
【0123】
オキシムエステル系の光重合開始剤としては、例えば、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)等が挙げられる。
【0124】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物及び抗カビ・抗菌性基体の製造方法においては、光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤、ベンゾフェノン又はその誘導体から選ばれる少なくとも1種以上を含むことが望ましい。紫外線等の電磁波により還元力を発現するからである。上記光重合開始剤のなかで、特に、ベンゾフェノン又はその誘導体が好ましい。
【0125】
上記光重合開始剤は、バインダに対して0.1~10重量%の割合で含有していることが望ましい。また、上記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の光重合開始剤およびベンゾフェノン系の光重合開始剤を含み、上記アルキルフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して、0.5~4.0wt%、上記ベンゾフェノン系の光重合開始剤の濃度がバインダに対して0.5~2.0wt%であることが望ましい。
【0126】
上記アルキルフェノン系の光重合開始剤とベンゾフェノン系の光重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の光重合開始剤/ベンゾフェノン系の光重合開始剤=1/1~4/1であることが望ましい。高い架橋密度を実現でき、硬化物の硬度を高くして耐摩耗性を改善できるとともに、銅(II)に対する還元力を高くすることができるからである。
【0127】
バインダとして未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)を用いた場合は、上記抗カビ・抗菌性組成物中の銅化合物の含有割合は、2.0~30.0重量%が望ましく、未硬化の電磁波硬化型樹脂(モノマー又はオリゴマー)の含有割合は、15~40重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。
また、バインダとして未硬化の無機バインダを用いた場合は、上記抗カビ・抗菌性組成物中の銅化合物の含有割合は、2~30重量%が望ましく、分散媒の含有割合は、30~80重量%が望ましい。この場合、上記抗カビ・抗菌性組成物中のシリカ等の無機酸化物の含有割合は、5~20重量%となる。
【0128】
本発明の抗カビ・抗菌性組成物中には、必要に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、接着促進剤、レオロジー調整剤、レベリング剤、消泡剤等が配合されていてもよい。
【0129】
上記抗カビ・抗菌性組成物を調製する際には、分散媒に銅化合物とバインダ成分と重合開始剤を添加した後、ミキサー等で充分に攪拌し、均一な濃度で分散する組成物とした後、基材の表面に付着せしめることが望ましい。
【0130】
本明細書においては、基材の表面に抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめる。上記抗カビ・抗菌性組成物を、分割された状態で基材表面に島状に散在させるか、基材表面に抗カビ・抗菌性組成物が付着された領域と抗カビ・抗菌性組成物が付着されていない領域とを混在させた状態、すなわち、基材表面の一部が露出するような状態となるように抗カビ・抗菌性組成物を付着せしめてもよく、上記抗カビ・抗菌性組成物を、基材表面に膜状に形成してもよい。
【0131】
基材表面を上記した状態とするためには、例えば、スプレー法、二流体スプレー法、静電スプレー法、エアロゾル法等を用いて抗カビ・抗菌性組成物を散布する方法、塗布用のバーコーター、アプリケーター等の塗布冶具を用いて抗カビ・抗菌性組成物を膜状に塗布する方法等が挙げられる。
【0132】
本発明において、スプレー法とは、高圧の空気などのガスや機械的な運動(指やピエゾ素子など)用いて抗カビ・抗菌性組成物を霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗カビ・抗菌性組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、二流体スプレー法とは、スプレー法の一種であり、高圧の空気などのガスと抗カビ・抗菌性組成物とを混合した後、ノズルから霧の状態で噴霧し、基材表面に上記抗カビ・抗菌性組成物の液滴を付着させることをいう。
本発明において、静電スプレー法とは、帯電した抗カビ・抗菌性組成物を利用する散布方法であり、上記したスプレー法により抗カビ・抗菌性組成物を霧の状態で噴霧するが、上記抗カビ・抗菌性組成物を霧状にするための方式には、上記抗カビ・抗菌性組成物を噴霧器で噴霧するガン型と、帯電した抗カビ・抗菌性組成物の反発を利用した静電霧化方式があり、さらに、ガン型には帯電した抗カビ・抗菌性組成物を噴霧する方式と、噴霧した霧状の抗カビ・抗菌性組成物に外部電極からコロナ放電で電荷を付与する方式とがある。霧状の液滴は、帯電しているため、基材表面に付着し易く、良好に上記抗カビ・抗菌性組成物を、細かく分割された状態で基材表面に付着させることができる。
本発明において、エアロゾル法とは、金属の化合物を含む抗カビ・抗菌性組成物を物理的及び化学的に生成した霧状のものを対象物に吹き付ける手法である。
【0133】
上記付着工程により、銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物が、分割された状態で基材表面に島状に散在しているか、基材表面に抗カビ・抗菌性組成物が付着された領域と抗カビ・抗菌性組成物が付着されていない領域とが混在した状態となる。もちろん、上記抗カビ・抗菌性組成物が、基材表面に膜状に形成されていてもよい。
【0134】
(2)乾燥工程
上記散布工程により散布された銅化合物と未硬化のバインダと分散媒と重合開始剤とを含む抗カビ・抗菌性組成物を乾燥させ、分散媒を蒸発、除去し、銅化合物等を含むバインダ硬化物を基材表面に仮固定させるとともに、バインダ硬化物の収縮により、銅化合物をバインダ硬化物の表面から露出させることができる。乾燥条件としては、20~100℃、0.5~5.0分が望ましい。乾燥は、赤外線ランプやヒータなどで行うことができる。また、減圧(真空)乾燥させてもよい。
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、乾燥工程と硬化工程を同時に行ってもよい。
【0135】
(3)硬化工程
本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法では、硬化工程として、上記乾燥工程で分散媒を除去した抗カビ・抗菌性組成物中、もしくは、分散媒を含む抗カビ・抗菌性組成物中の上記未硬化のバインダを硬化させ、バインダ硬化物とする。
未硬化のバインダを硬化させる方法としては、乾燥による分散媒除去、加熱や電磁波照射によるモノマー、オリゴマーの重合促進などがある。乾燥は、減圧乾燥、加熱乾燥などが挙げられる。また、バインダが熱硬化性樹脂の場合は、加熱により硬化が進行する。加熱はヒータ、赤外線ランプ、紫外線ランプなどで行うことができる。未硬化のバインダが電磁波硬化型樹脂である場合に照射する電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。これらの工程により、上記した本発明の抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。
【0136】
なお、バインダが無機バインダである場合にも、乾燥前後で、抗カビ・抗菌性組成物もしくは硬化物に電磁波を照射して、光重合開始剤を励起してもよい。電磁波としては、特に限定されず、例えば、紫外線(UV)、赤外線、可視光線、マイクロ波、電子線(Electron Beam:EB)等が挙げられるが、これらのなかでは、紫外線(UV)が望ましい。
上記電磁波は、光重合開始剤を励起して、銅化合物を還元する働きをもつ。このため、銅(II)を還元して銅(I)の量を増やして銅(I)と銅(II)の共存状態を作り出すことができ、抗カビ・抗菌活性を高くすることができる。
【0137】
上記抗カビ・抗菌性組成物中には、上記した光重合開始剤が添加されているので、バインダとしてモノマーやオリゴマーを含む場合は、それらの重合反応が進行する。また、光重合開始剤は銅を還元するため、銅(II)を銅(I)に還元でき、銅(I)の量を増やして銅(I)と銅(II)の共存状態を作り出すことができるため、菌・カビなどの抗カビ・抗菌性活性の高いバインダ硬化物が得られるのである。
【0138】
上記付着工程により抗カビ・抗菌性組成物は、島状に散在しているか、基材表面に抗カビ・抗菌性組成物が付着された領域と抗カビ・抗菌性組成物が付着されていない領域とが混在した状態となっているので、得られたバインダ硬化物も島状に散在しているか、基材表面にバインダ硬化物が付着された領域とバインダ硬化物が付着されていない領域とが混在した状態となっている。また、バインダ硬化物が基材表面に膜状に形成されていてもよい。
【0139】
上記バインダ硬化物の基材表面への被覆率は、抗カビ・抗菌性組成物中の抗カビ・抗菌成分等の抗カビ・抗菌性成分の濃度、分散媒の濃度等や散布の圧力、塗液の噴出速度、塗工時間等を操作することにより、調整することができる。スプレーガンを用いて噴射する場合は、スプレーガンのエアー圧力やスプレー塗布幅、スプレーガンの移動速度、塗液の噴出速度、塗布距離を変化させることにより、バインダ硬化物の被覆率を調整することができる。
【0140】
その後、紫外線照射をして、光重合開始剤の還元力を発現せしめる。本発明の製造方法におけるいずれかの工程中で、光重合開始剤の還元力を発現せしめるために、所定の波長の電磁波、例えば紫外線等を照射することが望ましい。特に光重合開始剤を用いた場合は、電磁波の照射により、ラジカルが発生し、銅イオンを還元することで、抗カビ・抗菌性活性に優れると推測される銅(I)の量を増やすことができ、有効である。
【0141】
上記した本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法により、バインダ硬化物が、基材表面に島状に固着形成されてなるか、基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在してなる抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。その結果、上記バインダ硬化物の基材表面との接触面積を小さくすることができ、バインダ硬化物の残留応力、冷熱サイクル時に発生する応力を抑制することが可能となり、基材と高い密着性を有する上記バインダ硬化物を形成することができる。
バインダの硬化物が島状に散在して固着されているか、もしくは、基材表面にバインダの硬化物が固着形成された領域とバインダの硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合は、バインダ硬化物の表面積が大きくなり、また、菌・カビなどの微生物をバインダ硬化物間にトラップさせやすくなるため、抗カビ・抗菌性能を持つバインダ硬化物と菌・カビなどの微生物との接触確率が高くなり、高い抗カビ・抗菌性能を発現できる。
【0142】
また、上記した本発明の抗カビ・抗菌性基体の製造方法により、上記バインダ硬化物が、基材表面に膜状に固着形成されてなり、ふき取り清掃への耐久性に優れた抗カビ・抗菌性基体を製造することができる。そのため、島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している状態に比べてふき取り清掃への耐性に優れている。
その一方で、バインダ硬化物が基材上に膜状に固着形成されている場合は、基材表面の意匠の視認性、抗カビ・抗菌性、及び、冷熱サイクル後の抗カビ・抗菌性のバインダ硬化物の基材に対する密着性は、バインダ硬化物が島状に分散固定されている場合や基材表面にバインダ硬化物が固着形成された領域とバインダ硬化物が固着形成されていない領域が混在している場合に比べて低下する。
【実施例
【0143】
(実施例1)
(1)酢酸銅の濃度が1.75wt%になるように、酢酸銅(II)・一水和物粉末(富士フイルム和光純薬工業社製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して酢酸銅水溶液を調製した。紫外線硬化樹脂液は、光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と(IGM社製 Omnirad184)を重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用い、8000rpmで30分間撹拌して調製した。
上記1.75wt%酢酸銅水溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗カビ・抗菌性組成物を調製した。なお、IGM社製のOmnirad500は、BASF社のIRGACURE500と同じもので、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)とベンゾフェノンの1:1の混合物である。一方、光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)は、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(アルキルフェノン)であり、結局光重合開始剤としては、アルキルフェノンとベンゾフェノンは重量比で2:1の割合で存在している。これらの光重合開始剤は、水に不溶性であり、紫外線を吸収することで還元力を発現する。
【0144】
(2)ついで、300mm×300mmの大きさの黒色光沢メラミン板、PE粉体塗工板、SUS板上に、それぞれ1.2g/分の噴出速度で分散媒を含んだ状態で16.7g/mに相当する抗カビ・抗菌性組成物をスプレーガン(明治機械製作所製 FINER SPOT G12)を用い、0.1MPaのエアー圧力、30cm/secのストローク速度で霧状に散布し、抗カビ・抗菌性組成物の液滴を各基材表面に付着させた。
【0145】
(3)この後、80℃で3分間乾燥させることにより、各基材表面に銅化合物を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が島状に散在する抗カビ・抗菌性基体を得た。
【0146】
(4)次に、紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間、抗カビ・抗菌性組成物に紫外線を照射することにより、各基材表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗カビ・抗菌性基体を得た。酢酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
図3は、実施例1で製造した抗カビ・抗菌性の黒色光沢メラミン化粧板表面を示す光学顕微鏡写真である。基材表面に抗カビ・抗菌性組成物の硬化物が存在している領域と存在しない領域が混在している。
【0147】
(実施例2)
硫酸銅の濃度が2.20wt%になるように、硫酸銅(II)・五水和物粉末(富士フィルム和光純薬工業製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して硫酸銅水溶液を調製した。
その後、実施例1の酢酸銅水溶液を上記硫酸銅水溶液に置き換えた他は、実施例1と同様の手法を用い、光沢黒色メラミン化粧板、PE粉体塗工板及びSUS板の各基材表面の一部が露出するように、銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗カビ・抗菌性基体を作成した。硫酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0148】
(実施例3)
硝酸銅の濃度が4.00wt%になるように、硝酸銅(II)・三水和物粉末(富士フィルム和光純薬工業製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌して硝酸銅水溶液を調製した。
その後、実施例1の酢酸銅水溶液を上記硝酸銅水溶液に置き換えた他は、実施例1と同様の手法を用い、光沢黒色メラミン化粧板、PE粉体塗工板及びSUS板の各基材表面の一部が露出するように、銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗カビ・抗菌性基体を作成した。硝酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0149】
(実施例4)
グルコン酸銅の濃度が4.00wt%になるように、グルコン酸銅(II)粉末(富士フィルム和光純薬工業製)を純水に溶解させた後、マグネチックスターラーを用い、600rpmで15分撹拌してグルコン酸銅水溶液を調製した。
その後、実施例1の酢酸銅水溶液をグルコン酸銅水溶液で置き換えた他は、実施例1と同様の手法を用い、光沢黒色メラミン板、PE粉体塗工板、SUS板各基材の各表面の一部が露出するように銅化合物を含むバインダ硬化物が固着形成された抗カビ・抗菌性基体を得た。グルコン酸銅は、水酸化銅および一部は酸化銅に変化していると推定される。
【0150】
(実施例5)
実施例1と同様であるが、紫外線の照射時間を30分とする。
【0151】
(試験例1)
実施例1と同様であるが、紫外線の照射時間を120分とする。
【0152】
(比較例1)
オレイン酸カリウム50.0gを水2000gに加熱溶解し、これに17.7 % 硝酸銅水溶液82.5gを添加し、オレイン酸銅の懸濁液を得た。この懸濁液を吸引ろ過することにより懸濁粒子を分取し、これを水で洗浄した後、真空乾燥を行うことにより、オレイン酸銅45.7gを得る。攪拌機を備えた容量が1Lの4ツ口フラスコに、有機溶媒としてメチルイソブチルケトン500gを入れ、これにメタクリル酸メチル42.5g とジエチレングリコールジメタクリレート4.5gを添加溶解させ、次に、この溶液に上記のオレイン酸銅10.8gを添加して懸濁液とし、更に重合触媒として熱重合開始剤である過酸化ベンゾイル0.5gを添加して、抗カビ・抗菌性組成物とする。
次いで、この抗カビ・抗菌性組成物を黒色光沢メラミン板、PE粉体塗工板及びSUS板表面に塗布し、窒素置換により脱気を行いながら60 ℃ に加熱、10時間の加熱重合反応を行い、抗カビ・抗菌性基体を得る。
【0153】
(比較例2)
(1)0.5MのCuSO(II)10mlに、当量の3倍のアスパラギン酸を加え、さらに0.1MNaOHを徐々に加えてゆく。Cu(OH)(II)が沈殿する直前に、アルカリ滴下を止め、撹拌しながら50℃に加温することで、アスパラギン酸銅錯体(II)の溶液を得る。
(2)光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad184)とを重量比97:2:1で混合し、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間撹拌して紫外線硬化樹脂液を得る。上記アスパラギン酸銅錯体の水溶液と紫外線硬化樹脂液を重量比1.9:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗カビ・抗菌性組成物を調製する。
(3)この抗カビ・抗菌性組成物を黒色光沢メラミン板、PE粉体塗工板及びSUS板表面に刷毛で塗布した後、当該基板を80℃で3分間乾燥させ、さらに紫外線照射装置(COATTEC社製 MP02)を用い、30mW/cmの照射強度で80秒間紫外線を照射することにより、抗カビ・抗菌性基体を得る。
【0154】
(比較例3)
(1)グリセリン350gにステアリン酸銀1.92gとサッカリン0.192gを加え、150℃で40分間加熱した。グリセリンを60℃まで冷却後、メチルイソブチルケトン350gを加えて攪拌した。1時間程静置した後にメチルイソブチルケトン層を採取し、脂肪酸修飾銀超粒子含有の分散液を得た。紫外線硬化樹脂液は光ラジカル重合型アクリレート樹脂(ダイセル・オルネクス社製 UCECOAT7200)と光重合開始剤(IGM社製 Omnirad500)とを重量比98:2で混合し、撹拌棒で撹拌して作成した。上記した脂肪酸修飾銀超粒子含有メチルイソブチルケトン分散液と紫外線硬化樹脂液を重量比61.3:1.0で混合し、マグネチックスターラーを用い、600rpmで2分撹拌して抗カビ・抗菌性組成物を調製した。
(2)この抗カビ・抗菌性組成物を黒色光沢メラミン板、PE粉体塗工板及びSUS板表面に番手14番のバーコーターで塗布後、60℃で10分間乾燥させて、黒色光沢メラミン板、PE粉体塗工板及びSUS板上に固定化させた。
(3)この後、紫外線照射装置を用いて2400mJ/cmの積算光量となるように抗カビ・抗菌性組成物に紫外線を照射することにより、未硬化の光ラジカル重合型アクリレート樹脂(モノマー)を重合、硬化させ、微粒子銀を含有する樹脂硬化物の塗工被膜を得た。
【0155】
(抗カビ・抗菌性基体の拡大写真)
得られた抗カビ・抗菌性基体について、走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)を撮影した。
図2は、島状に抗カビ・抗菌性組成物を付着させ、硬化させた抗カビ・抗菌性基体を示すSEM写真である。
基材である黒色メラミン基板表面に樹脂硬化物1が島状に散在していることが分かる。
【0156】
(眼刺激性を測定するための試験)
実施例1で調製した抗カビ・抗菌性組成物をシリコンウェハにスプレーし、80℃で3分間乾燥し、溶媒分を揮発させた。その後、紫外線照射装置を用いて、表面から3600mJ/cmの積算光量となるように紫外線を照射し、抗カビ・抗菌性の樹脂硬化物を作成した。ガラス板表面の樹脂硬化物を樹脂製のヘラで剥離回収し、瑪瑙乳鉢で混合粉砕させて粉末状の樹脂硬化物を得た。
上記粉末状の樹脂硬化物について、OECD :Guideline for the Testing of Chemicals 405(2017)に準拠したウサギを用いる眼刺激性試験を実施した。試験動物の両眼前眼部を試験開始当日に検査し、異常のないことを確かめた後、ウサギ3匹の片眼結膜嚢内に樹脂硬化物を0.1mL相当量点眼し、約1秒間上下眼瞼を穏やかに合わせ保持した。他眼は無処置の対照とした。点眼後1、24、48、72時間、7日及び10日に、スリットランプを用いて角膜、虹彩、結膜などの観察を行い、Draize法の基準に従って眼刺激性を採点した。得られた採点値を用いて各試験動物の合計評点を計算し,観察時間ごとに3匹の平均合計評点を求めた。観察期間中の平均合計評点の最高値から、樹脂硬化物の眼刺激性を評価した。
【0157】
その結果、実施例1では、眼刺激性スコアが4.9となり、樹脂硬化物の眼刺激性は、弱刺激性区分となるため、抗カビ・抗菌性樹脂硬化物が目に混入しても、人体に及ぼす影響は極めて微小であると判定される。
【0158】
(Cu(I)/Cu(II)の測定試験)
Cu(I)とCu(II)のイオンの個数の比率は、X線光電子分光分析法(XPS分析法)により計測した。測定条件は以下の通り。
・装置:アルバックファイ製 PHI 5000 Versa probeII
・X線源:Al Kα 1486.6eV
・検出角:45°
・測定径:100μm
・帯電中和:有り
【0159】
-ワイドスキャン
・測定ステップ:0.8eV
・pass energy:187.8eV
【0160】
-ナロースキャン
・測定ステップ:0.1eV
・pass energy:46.9eV
測定時間は5分で、Cu(I)のピーク位置は、932.5eV ±0.3eV、Cu(II)のピーク位置は933.8eV ±0.3 eVであり、それぞれのピークの面積を積分して、その比率からCu(I)/Cu(II)を得た。実施例1~5、試験例1及び比較例1~3の結果を表1に示す。
【0161】
(樹脂硬化物の基材に対する密着性評価)
実施例1~5、試験例1及び比較例1~3で得られた抗カビ・抗菌性基体に対し、-10℃~80℃で100回冷熱サイクル試験を行い、その後、下記する(1)~(3)の方法により密着性評価試験を行う。結果を表1に記載する。
(1)抗カビ・抗菌性基体の試験面にカッターナイフを用いて、素地に達する11本の切り傷をつけ100個の碁盤目を作る。切り傷の間隔は2mmを用いる。
(2)碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、碁盤目の状態を標準図と比較して評価する。
(3)全ての碁盤目にはがれが無い場合(分類0に相当)に、はがれ無と定義する。
【0162】
(黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価)
黄色ブドウ球菌を用いた抗菌性評価を、以下のように実施した。
(1)実施例1~5、試験例1及び比較例1~3で得られた抗カビ・抗菌性基体(SUS板、PE粉体塗装板、メラミン化粧板)を、50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、試験菌液(菌数2.5×105~10×105/mL)を0.4mL接種する。
試験菌液は、培養器中で温度35±1℃で16~24時間前培養した培養菌を、さらに斜面培地に移植して、培養器中で温度35±1℃で16~20時間前培養したものを、1/500NB培地により適宜調整したものを使用する。
(2)対照資料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様に試験菌液を接種する。
(3)接種した試験菌液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、試験菌液を均等に接種させた後、温度35±1℃で24±1時間反応させる。
(4)接種直後または反応後、SCDLP培地10mLを加え、試験菌液を洗い出す。
(5)洗い出し液を適宜希釈し、標準寒天培地と混合して生菌数測定用シャーレを作成し、温度35±1℃で40~48時間培養した後、集落数を測定する。
(6)生菌数の計算
以下の計算式を用いて生菌数を求める。
N=C×D×V
N:生菌数
C:集落数
D:希釈倍率
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(mL)
(7) 以下の計算式を用いて抗菌活性値を算出する。
R=(Ut-U0)-(At-U0)=Ut-At
R:抗菌活性値
U0:無加工試験片の接種直後の生菌数の対数値の平均値
Ut:無加工試験片の24 時間後の生菌数の対数値の平均値
At:抗菌加工試験片の24時間後の生菌数の対数値の平均値
参考規格 JIS Z 2801
試験菌はStaphylococcus aureus NBRC12732を使用した。
評価結果を表1に記載する。
【0163】
(クロコウジカビを用いた抗カビ性評価)
クロコウジカビを用いた抗カビ性評価を、以下のように実施した。
(1)実施例1~5、試験例1及び比較例1~3で得られた抗カビ・抗菌性基体(SUS板、PE粉体塗装板、メラミン化粧板)を、50mm角の正方形に切り出した試験試料を滅菌済プラスチックシャーレに置き、胞子懸濁液(胞子濃度>2x10個/ml)を0.4mL接種する。
(2)対照資料として50mm角のポリエチレンフイルムを用意し、試験試料と同様に胞子懸濁液を接種する。
(3)接種した胞子懸濁液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、胞子懸濁液を均等に接種させた後、温度26℃で約900LUXの光を照射しながら42時間反応させる。
(4)接種直後または反応後、JIS L 1921 13発光量の測定に従い、ATP量を測定する。
(5)以下の計算式を用いて抗カビ活性値を算出する。
a=(LogC-LogC)-(LogT-LogT
:抗カビ活性値
LogC:接種直後の対照資料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogC:培養後の対照資料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogT:接種直後の試験資料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
LogT:培養後の試験資料3検体のATP量の算術平均の常用対数値
参考規格 JIS Z 2801、JIS L 1921
試験カビはAspergillus niger NBRC105649を使用した。
評価結果を表1に記載する。
【0164】
【表1】
【0165】
実施例1~5、試験例1及び比較例1~3の対比から理解されるように、実施例1~5の抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に付着、硬化させた抗カビ・抗菌性基体は、Cu(I)とCu(II)の混合体から構成されており、Cu(II)のみから構成されている比較例1、2の混合組成物を基材表面に付着、硬化させた抗カビ・抗菌性基体に比べて、抗カビ・抗菌活性が高いと推測される。なお、銅錯体(II)は光重合開始剤を用いても還元反応が進行せず、また、熱重合開始剤の一種である過酸化ベンゾイルでは銅(II)は還元されないと考えられる。さらに、実施例1~5の抗カビ・抗菌性組成物を基材表面に付着、硬化させた抗カビ・抗菌性基体は、抗カビ・抗菌剤が銀系の場合(比較例3)に比べ、抗菌性はほぼ同等であるが、抗カビ性に優れていることが分かる。
表1に示されているように、本発明の抗カビ・抗菌性基体では、Cu(I)/Cu(II)が0.4~50の範囲が最も抗カビ、抗菌活性に優れ、Cu(I)/Cu(II)が50を超えると、試験例1に示されているように、抗カビ・抗菌活性の低下傾向が見られる。
以上、説明のように、本発明の抗カビ・抗菌性組成物は、優れた抗カビ、抗菌特性を有しており、実用上有益である。
【符号の説明】
【0166】
10 抗カビ・抗菌性基体
11 基材
12 電磁波硬化型樹脂の硬化物
図1
図2
図3