(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】X型コラーゲンアルファ-1アッセイ
(51)【国際特許分類】
C07K 16/18 20060101AFI20221027BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20221027BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20221027BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20221027BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221027BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20221027BHJP
G01N 33/536 20060101ALI20221027BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20221027BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221027BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
C07K7/06
C12N15/13
C12P21/08
C12N5/10
G01N33/53 D
G01N33/536 B
G01N33/536 C
G01N33/543 541B
G01N33/543 545A
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2020503899
(86)(22)【出願日】2018-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2018070430
(87)【国際公開番号】W WO2019020797
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-06-24
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】503259129
【氏名又は名称】ノルディック・ビオサイエンス・エー/エス
【氏名又は名称原語表記】NORDIC BIOSCIENCE A/S
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘ,イー
(72)【発明者】
【氏名】イェンセン,アネ-セシリエ,バイ
(72)【発明者】
【氏名】カルスダル,モルテン
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/180992(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/034128(WO,A1)
【文献】特表2014-521098(JP,A)
【文献】BMC Musculoskeletal Disorders,2014年,Vol.15:309,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)に含まれる、X型コラーゲンアルファ1のN末端ネオエピトープと特異的に反応する、抗体。
【請求項2】
前記抗体は、N末端アミノ酸配列H
2N-GIATKG(配列番号2)に特異的に結合する、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体は、
前記アミノ酸配列
H
2
N-GIATKGLNGP(配列番号1)のN-伸長された伸長型(N-extended elongated version)又は
前記アミノ酸配列
H
2
N-GIATKGLNGP(配列番号1)のN-切断された短縮型(N-truncated shortened version)を、特異的に認識又は結合しない、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体は、モノクローナル抗体又はその
抗原結合断片である、請求項1から3のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
請求項4に記載の前記モノクローナル抗体を産生する、細胞株。
【請求項6】
生体試料において、N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片を検出するイムノアッセイの方法であって、当該方法は、前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含む前記生体試料を、請求項1から4のいずれかに記載の抗体と接触させることと、前記抗体の結合量を決定することとを含む、イムノアッセイの方法。
【請求項7】
検出は、定量的である、請求項6記載のイムノアッセイの方法。
【請求項8】
前記方法を用いて、生体液(biofluid)中の、前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を検出及び/又は定量化する、請求項6又は7に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項9】
前記生体液は、患者由来の生体液である、請求項8記載のイムノアッセイの方法。
【請求項10】
前記生体液は、血液、尿、滑液、血清、又は血漿である、請求項8又は9に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項11】
前記方法は、競合アッセイ又はサンドイッチアッセイである、請求項6から10のいずれか一項に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項12】
前記方法は、放射免疫測定法又は酵素結合免疫測定法である、請求項6から11のいずれか一項に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項13】
前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を、疾患重症度がわかっている標準の疾患試料と関連させて、X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患の重症度を評価することをさらに含む、請求項6から12のいずれか一項に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項14】
前記方法は、前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の前記断片の量を、健康な対象に関連する標準値と比較して、X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患の存在及び/又は重症度を評価することをさらに含む、請求項6から13のいずれか一項に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項15】
前記X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患は、変形性関節症である、請求項13又は14に記載のイムノアッセイの方法。
【請求項16】
生体試料中の前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を決定するアッセイキットであって、当該キットは、請求項1から4
のいずれか一項に記載したある抗体と、
- ストレプトアビジンで被覆した96ウェルプレート、
- Lは任意のリンカーである、ビオチン化ペプチドH
2N-GIATKGLNGP-L-ビオチン(配列番号5)、
- サンドイッチイムノアッセイで使用する二次抗体、
- 配列H
2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むキャリブレータペプチド、
- 抗体ビオチン化キット、
- 抗体HRP標識キット、
- 抗体放射標識キット、
- アッセイ可視化キットのうちの少なくとも1つと、を備える、アッセイキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X型コラーゲンアルファ1(type X collagen alpha 1)のN末端ネオエピトープ(neo-epitope)と特異的に反応する抗体、並びにX型コラーゲンアルファ1を検出及び定量化するイムノアッセイの方法における当該抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節症(OA(osteoarthritis))は、軟骨傷害と関節機能の喪失とによって特徴づけられるよくある関節疾患である。OAの病因には、加齢、肥満、外傷及び遺伝を含む複数の要因が含まれる[1]。OAの発生機序は、当該疾患の異質性及び複雑性ゆえにほとんど解明されていない。
【0003】
注目すべきことには、OAの特徴は、軟骨内骨化による骨格発達中の軟骨細胞分化過程に似ていることがある。健康な関節軟骨においては、軟骨細胞は、増殖及び最終分化に抵抗する。対照的に、疾患のある軟骨における軟骨細胞は、進行性に増殖して肥大化が発達する。さらに、関節軟骨の血管新生及び限局的な石灰化が惹起される[2~5]。軟骨細胞の分化を調節する分子事象は未だわかっていないが、OAにおける軟骨細胞の肥大様変化は、研究のためにより注目されている[6~8]。
【0004】
X型コラーゲンアルファ-1
X型コラーゲンアルファ-1は非線維性であるが、軟骨コラーゲンと関連して微細な細胞周囲の線維を形成する。軟骨細胞培養から又は軟骨から単離される分子は、59kDaのX型コラーゲンのアルファ-1鎖のホモ三量体であり、またおよそ75kDaのX型コラーゲンの組換え分子の報告もある[9]。X型コラーゲンアルファ-1は、類似のドメイン構造をVIII型コラーゲンと共有し:50kDaの中央の三重らせん(COL1)ドメインの両脇に、N末端(NC2)及びC末端(NC1)の非三重らせんドメインが存在する[10]。さらに、両コラーゲン型は、六方格子構造の主要な成分を表すものであって、そこでコラーゲン分子は、非三重らせん末端領域を巻き込む相互作用によって共に結合する。
【0005】
X型コラーゲンアルファ-1の分布は、長管骨、椎骨及び肋骨の成長帯における正常な胎児の肥大軟骨、並びに成人(>21歳)では甲状軟骨に限られているが、軟骨内骨化中に軟骨基質が除去されるときに、それが局所的な崩壊を防止する足場となり得る[11]。それはまた、骨の骨折仮骨において、変形性関節症軟骨において、及び軟骨形成腫瘍において見られ、また軟骨石灰化に関与し得る。
【0006】
変形性関節症(osteoarthritis)
OAは概して、滑膜性の連結、主として膝及び臀部、の非炎症性疾患であると考えられている。軟骨細胞肥大及び軟骨石灰化は、OAにおける重要な病理学的事象である。網目形成するX型コラーゲンの発現増加が、軟骨細胞肥大に特有のシグナルと考えられており[12~15]、したがってX型コラーゲンは、前記疾患のための検出可能なマーカーとして用いることが可能である。
【0007】
X型コラーゲン、MMP13、オステオポンチン、オステオカルシン[16]、インディアンヘッジホッグ[17]、Runx2[18]、VEGF[19]、HtrA1[20]及びトランスグルタミナーゼ-2(TG-2)[21]等、肥大軟骨細胞に関連するいくつかのタンパク質がある。X型コラーゲン及びMMP13は、肥大軟骨細胞のマーカーとしてその中で最も広く用いられている。しかしながら、炎症及び機械的ストレスによって、軟骨細胞においてMMP13の合成が誘発されることがある[22~23]。したがって、肥大軟骨細胞の特異的マーカーとしてのX型コラーゲンが、軟骨細胞の表現型変化を示すことが可能である。
【0008】
このように、生体試料中のX型コラーゲン又はその断片の量を正確に定量化する方法により、例えばOAである、X型コラーゲンの代謝回転に影響するX型コラーゲンの病理又は生理的プロセスのさらなる理解が可能になり得る。明らかに、こうした方法が要望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、発明者は、カテプシンKが478A~G479間のペプチド結合においてX型コラーゲンアルファ1を切断し、結果的にN末端ネオエピトープバイオマーカーH2N-479GIATKGLNGP(配列番号1)の形成を生じるということを発見した。X型コラーゲンアルファ1のこのネオエピトープバイオマーカーが、変形性関節症とよく相関することを示した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このように、第1の態様においては、本発明は抗体に関するものであって、前記抗体は、アミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)に含まれる、X型コラーゲンアルファ1のN末端ネオエピトープに特異的に結合する。
【0011】
好ましくは、上記抗体は、N末端アミノ酸配列H2N-GIATKG(配列番号2)に特異的に結合する。
【0012】
好ましくは、上記抗体は、前記N末端アミノ酸配列のN-伸長された伸長型(N-extended elongated version)を、特異的に認識又は結合しない。この点において、「前記N末端アミノ酸配列のN-伸長された伸長型」とは、配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)のN末端をこえて1又は複数のアミノ酸が伸びていることを意味する。例えば、N末端アミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)が、アラニン残基によって伸長している場合には、対応する「N-伸長された伸長型」は、H2N-AGIATKGLNGP・・・(配列番号3)となることとなる。同様に、上記抗体は、前記N末端アミノ酸配列のN-切断された短縮型(N-truncated shortened version)を、特異的に認識又は結合しないことが好ましい。この点において、「前記N末端アミノ酸配列のN-切断された短縮型」とは、配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)のN末端から1又は複数のアミノ酸が除去されていることを意味する。例えば、N末端アミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)が、1個のアミノ酸残基だけ短縮した場合には、対応する「N-切断された短縮型」は、H2N-IATKGLNGP・・・(配列番号4)となることとなる。
【0013】
上記抗体は、モノクローナル抗体又はその断片であることが好ましい。この発明には、こうしたモノクローナル抗体又はその断片を産生する細胞株が含まれる。
【0014】
第2の態様においては、本発明は、生体試料において、N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片を検出するイムノアッセイの方法に関し、当該方法は、前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含む前記生体試料を、上記に記載したある抗体と接触させることと、前記抗体の結合量を決定することとを含む。
【0015】
好ましくは、前記方法は、定量的である。
【0016】
好ましくは、前記方法を用いて、生体液(biofluid)中の、N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を検出及び/又は定量化する。
【0017】
上記生体液は、患者由来の生体液であり得る。生体液は、血液、尿、滑液、血清、血漿、又は羊水であり得るが、これに限定されない。
【0018】
イムノアッセイの方法は、競合アッセイ又はサンドイッチアッセイであり得るが、これに限定されない。イムノアッセイの方法は、放射免疫測定法又は酵素結合免疫測定法であり得るが、これに限定されない。
【0019】
方法は、前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を、疾患重症度がわかっている標準の疾患試料と関連させて、X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患の重症度を評価することをさらに含み得る。
【0020】
あるいは、又は追加として、方法は、前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の前記断片の量を、健康な対象に関連する標準値と比較して、X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患の存在及び/又は重症度を評価することをさらに含み得る。
【0021】
この点に関して、前記方法は、前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を、重症度がわかっている標準の変形性関節症試料と関連させることをさらに含み得る。
【0022】
同様に、前記方法は、前記方法で決定された前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を、年齢と性別がわかっている対象における重症度がわかっている標準の変形性関節症試料と、及び/又は健康な対象に関連する標準値とに関連させて、変形性関節症の存在及び/又は重症度を評価することをさらに含み得る。この点において、試料の比較は、患者由来の試料間におけるものであって、当該患者(当該試料が由来する)は、標準の試料に対して、同じ性別且つ同様の年齢のものであることが好ましい。
【0023】
方法は、第1の時点及びそれに続く少なくとも1つの時点において対象から取得した少なくとも2つの試料中の前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量を定量化することをさらに含み得、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までの前記断片の量の変化は、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までのX型コラーゲンアルファ1に関連する疾患の状態の変化を示す。
【0024】
例えば、上記X型コラーゲンアルファ1に関連する疾患は、変形性関節症であり、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までの前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量の増加は、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までの対象における変形性関節症の悪化を示す。同様に、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までの前記N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片の量の減少は、上記第1の時点から上記それに続く少なくとも1つの時点までの対象における変形性関節症の改善を示す。
【0025】
最後の態様においては、本発明は、生体試料中のN末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片を検出するアッセイキットに関し、当該キットは、上記に記載したある抗体と、
- ストレプトアビジンで被覆した96ウェルプレート、
- Lは任意のリンカーである、ビオチン化ペプチドH2N-GIATKGLNGP-L-ビオチン(配列番号5)、
- サンドイッチイムノアッセイで使用する二次抗体、
- 配列H2N-GIATKGLNGPを含むキャリブレータペプチド、
- 抗体ビオチン化キット、
- 抗体HRP標識キット、
- 抗体放射標識キット、
- アッセイ可視化キットのうちの少なくとも1つとを備える。
【0026】
定義
本明細書で用いる場合、「N末端」の語は、ポリペプチドの末端、すなわち該ポリペプチドのN末端端部における末端を指し、その一般的な方向における意味として解釈されるべきでない。
【0027】
本明細書で用いる場合、「N末端ネオエピトープ」の語は、プロテアーゼによるタンパク質の切断によって形成されるN末端エピトープを指す。本発明では、これは、カテプシンKによるX型コラーゲンアルファ1の切断によって形成されるN末端エピトープを意味する。
【0028】
本明細書で用いる場合、「N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片」の語は、X型コラーゲンアルファ1のペプチド断片を意味し、当該ペプチド断片のN末端は、アミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP・・・(配列番号1)である。
【0029】
本明細書で用いる場合、「競合ELISA」の語は、競合酵素結合免疫測定法を指し、また当業者にとって公知の技術である。
【0030】
本明細書で用いる場合、「サンドイッチイムノアッセイ」の語は、試料中のある抗体を検出するための少なくとも2つの抗体の使用を指し、また当業者にとって公知の技術である。
【0031】
本明細書で用いる場合、「Col10neo」の語は、簡潔に、N末端ネオエピトープアミノ酸配列H2N-GIATKGLNGP(配列番号1)を含むX型コラーゲンアルファ1の断片を検出及び定量化するための本明細書に開示の特有のアッセイを記述するために用いる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1は、mAbのペプチド結合特異性である。ビオチン化合成ペプチドGIATKGLNGP-k(ビオチン)(配列番号5)に対する2F4の反応性は、1000ng/mLの選択ペプチドを加えることによって完全に動いた。対照的に、伸長された選択ペプチド又は切断された選択ペプチドでは、同じ濃度で、動きはわずかに観察されたか又は観察されなかった。
【
図2】
図2は、インビトロでの酵素による軟骨の切断である。2Aは、MMPで切断したヒト軟骨である。2Bは、ADAMTSで切断したヒト軟骨である。2Cは、カテプシンKで切断したヒト軟骨である。データは、平均±SDとして示される。消化緩衝液中にプロテアーゼを添加しないものと比較して、試験したMMP又はADAMTS溶液のいずれにおいても、Col10/Cレベルの増加はなかった。反対に、カテプシンKは、最大量をもたらしたが、これはネオエピトープ479GIATKGLNGPを支持する断片を放出するその能力を示す。
【
図3】
図3は、軟骨における479GIATKGの免疫局在性である。3Aは、正常マウスIgGである。3Bは、11G8、抗-X型コラーゲンC末端抗体(anti-C terminus of type X collagen)である。3Cは、2F4、抗-479GIATKG抗体である。11G8により検出されたX型コラーゲンは、深層における軟骨細胞の細胞外基質中で生じたが、それは石灰化軟骨Cの領域には不在であった。驚くべきことに、479GIATKGの強い染色が、軟骨内の全ての層からの軟骨細胞の細胞外基質中で確認された。スケールバー=500μM
【
図4】
図4は、C4Pain研究での対象の血漿中のKLグレード及びCol10neoレベル間における関連である。当該データは、平均±95CI%として示した。4Aは、異なるK/L群における血漿Col10neoレベルである。K/Lグレードが高いと、Col10neoレベルが高い傾向があったが、統計学的有意性には達していない。4Bは、三分位数での、血漿Col10neoレベルがK/L3~4である対象の分布である。一元配置分散分析(one-way ANOVA)を、ポストホックでのチューキー・クレーマー検定と共に用いた。血漿Col10neoデータは、全分析において対数変換した。P値<0.05を、統計学的に有意と考えた。
【
図5】
図5は、NYUHJD進行研究における血漿Col10neoレベルである。当該データは、平均±95CI%として示した。血漿Col10neoは、健康な対照(p=0.0002)又はRA(p<0.0001)よりもOAでは統計学的に高かった。健康な対照及びRAでは有意差は見られなかった。一元配置分散分析を、ポストホックでのチューキー・クレーマー検定と共に用いた。血漿Col10/Catデータは、全分析において対数変換した。P値<0.05を、統計学的に有意と考えた。p<0.05であれば1アスタリスク(*)、p<0.01であれば2アスタリスク(**)、p<0.001であれば3アスタリスク(***)、p<0.0001であれば4アスタリスク(****)である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例
【実施例】
【0034】
ここで開示する実施形態は以下の実施例で説明するが、これらは、この開示の理解を助けるために明記するのであり、後に続く特許請求の範囲において規定される開示の範囲を何らかの形で限定するものとして解釈されるべきでない。以下の実施例は、説明する実施形態の作製及び使用方法の完全な開示と説明とを当業者に提供するために出すものであり、本開示の範囲を限定することを意図せず、又は、以下の実験が全てである若しくは実行された実験のみであるということを表すことも意図していない。用いる数字(例えば、量、温度等)に関して正確性を確保する努力は行ったが、一部の実験的誤差及び偏差が考慮されるべきである。別途示していない限り、部分は、重量部であり、分子量は、重量平均分子量であり、温度は、セ氏温度であり、また圧力は、大気圧又は大気圧付近である。
【0035】
以下の実施例では、以下の物質及び方法を採用した。
【0036】
物質
別途記載していない限り、実験に用いる全ての物質は、高品質のものであり、またシグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(デンマーク国、コペンハーゲン)又はVWR社(デンマーク国、Rodedovre)より注文した。モノクローナル抗体産生及びアッセイ開発に用いた合成ペプチドは、ジェンスクリプト社(GenScript)(米国)から購入した。MMP-2触媒ドメイン(カタログ番号G04MP02C)、MMP-9触媒ドメイン(カタログ番号G04MP09C)及びMMP-13触媒ドメイン(カタログ番号G04MP13C)は、Gitto Biotech社(イタリア国、フローレンス)より購入した。カテプシンK(カタログ番号219461)、カテプシンB(カタログ番号219362)及びカテプシンS(カタログ番号219343)及びADAMTS-4(カタログ番号CC1028)は、メルクミリポア社(Merck Millipore)(独国、ダルムシュタット)からとした。ADAMTS-5(カタログ番号2198-AD-20)は、R&Dシステム社(R&D system)(米国、ミネソタ州)から購入した。
【0037】
免疫化のための配列の選択
OA患者からのヒト尿中に自然に生じるペプチドについての分析を、LC-MS/MSで行った。ヒトOA尿において、有意な量のペプチド断片を同定した。ヒトX型コラーゲンに特有である、17のペプチド配列が見られた。アミノ酸(aa)478’位にある(アクセッション番号:Q03692;データベース:UniProt)、同一の遊離C末端を支持する17の配列のうちの2つが、疾患患者の尿中に存在したが、これはA478-479G結合間において切断が起こることを示す。この切断によって生じた遊離N末端のはじめの10個のaa、479GIATKGLNGP488(配列番号1)が、免疫化のために選択された。異なる種からの配列アラインメントもまた、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(表1を参照)を用いて分析した。
【0038】
モノクローナル抗体(mAb)産生
6~7週齢のメスBalb/Cマウス6例を、シグマアジュバントシステム(Sigma Adjuvant System(登録商標))(カタログ番号S6322、シグマアルドリッチ社)で乳化したGIATKGLNGP-GGC-KLH(配列番号6)で皮下免疫した。アジュバントで乳化したKLHコンジュゲート100μgを、安定な力価レベルが得られるまで2週間おきにマウスに繰り返し投与した。各採血(bleeding)時に、ストレプトアビジンで被覆したマイクロプレート(ロシェ・ダイアグノスティック社(Roche Diagnostics)、独国)上に被覆させたビオチン化ペプチドGIATKGLNGP-k(ビオチン)(配列番号5)に対する、血清の抗体価を測定した。選択ペプチドGIATKGLNGP(配列番号1)に対して最も高い抗体価及び最良の反応性をもつマウスを、融合のために選択した(データは示さず)。選択したマウスを、融合のために屠殺する3日前に、100μLの0.9%塩化ナトリウム溶液中の100μgのKLHコンジュゲートで、腹腔内(i.p.)に追加免疫した。融合及び抗体スクリーニングのプロセスは、標準技術を用いて実行した。簡潔には、マウス骨髄腫細胞SP2/0-Ag14(ATCC(登録商標)CRL-1581(商標))と融合させる脾細胞の単離のため、脾臓を外科的に取り出した。HAT(ヒポキサンチン アミノプテリン チミジン)培地を用いて、ハイブリドーマ細胞を選択した。間接ELISAで、上清をスクリーニングしたが、ここではビオチン化ペプチドGIATKGLNGP-k(ビオチン)(配列番号5)を、ストレプトアビジンで予め被覆したマイクロプレート上に被覆させた。標準の限界希釈法を行って、シングルセルを選択した。上清中の抗体のアイソタイプを、アイソタイプ決定キット、SBAクロノタイピングシステム-HRP(SBA Clonotyping System-HRP)(5300-05、サザンバイオテック社(Southern Biotech))を用いて試験した。シングルセル由来のハイブリドーマを24ウェルプレートに移し、それらをさらに増殖させて、最終的にT25フラスコからT175フラスコまで拡大した。上清を回収して、0.2μmフィルターでろ過した後、抗体精製のために、1mLのHiTrapプロテインG HPカラム(カタログ番号17-0404-01、GEヘルスケア社(GE healthcare))に適用した。
【0039】
479GIATKG特異的イムノアッセイ(Col10neo)
精製したモノクローナル抗体は、はじめに、3つの合成ペプチドである選択ペプチド(GIATKGLNGP;配列番号1)、伸長された選択ペプチド(AGIATKGLNGP;配列番号3)及び切断された選択ペプチド(IATKGLNGP;配列番号4)によりペプチド結合特異性を試験し、次いで競合イムノアッセイで用いた。緩衝液、温度、インキュベーション時間、及び重要試薬の濃度により最適化後の、479GIATKG(配列番号2)検出のアッセイのための最終プロトコールを、以下のとおり開発した:96ウェルのストレプトアビジンで予め被覆したマイクロプレートを、30分間、20℃で、50mMのPBS-BTB緩衝液(ウシ血清アルブミン及びTween-20を含むリン酸緩衝食塩水、pH7.4)中に溶解した1ng/mlのビオチン化ペプチドGIATKGLNGP-k(ビオチン)(配列番号5)で被覆した。次いで、当該プレートを、標準洗浄緩衝液(20mMのトリス(Tris)、50mMのNaCl、pH7.2)で5回洗浄した。20μLのペプチド標準、キットコントロール又は試料を、適切なウェルに加えて、それに5%オステオカルシンEIA Puf-Liq(ロシェ・ダイアグノスティック社、独国)を含有する50mMのPBS-BTB緩衝液中の23ng/mlモノクローナル抗体100μLを続けて、4℃で一晩(20±1時間)インキュベートした。5回洗浄後、100μLのヒツジ抗-マウス二次抗体(115-035-003、ジャクソンイムノリサーチ社(Jackson ImmunoResearch))を添加して、1時間、20℃でインキュベートした。このステップの後、当該プレートを、洗浄緩衝液で5回洗浄した。最後に、100μLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)を各ウェルに添加し、暗所で15分間、20℃でインキュベートした。比色反応を、100μLの停止溶液(1%H2SO4)を添加して停止し、450nmで650nmを参照として測定した。
【0040】
プレート間及びプレート内の変動を、デュプリケートでの精度管理パネルの10の独立の操作(3つのヒト血清及び2つのペプチド標準)によって決定した。検出下限(LLOD)は、21個のゼロ標準の平均値の3SDとして計算した。複数のヒト血清又は血漿の試料について、そのままのもの、インキュベーション緩衝液中で2倍のもの、4倍のもの、6倍のもの、8倍のもの、16倍のものを検定した。回収率は、希釈のために補正した期待濃度で除算した測定濃度として計算した。
【0041】
インビトロでのヒト軟骨の切断
膝置換手術を受けた変形性関節症(OA)患者からの関節軟骨生検を、ゲントフテ病院(Gentofte Hospital)(デンマーク国、ゲントフテ)より取得した。検体の回収は、ヒト試料及び患者情報の取り扱いに関する国際倫理ガイドラインに沿って実施した。全ての参加者がインフォームドコンセントに署名し、またこの研究はデンマーク当局によって承認された。A478-479G結合の切断の原因となっている酵素を同定するため、軟骨を、マトリクスメタロプロテアーゼ(MMP2、MMP9及びMMP13)、カテプシン(CatK、CatB及びCatS)、並びにトロンボスポンジンモチーフを含むAディスインテグリン及びメタロプロテアーゼドメイン(ADAMTS-4及びADAMTS-5)を含む、多数のプロテアーゼによって切断した。急速凍結し破砕した軟骨30mgを、1μgの各酵素と共に、250μLの消化緩衝液(MMP用の消化緩衝液:100mMのトリス、100mMのNaCl、10mMのCaCl2及び2mMの酢酸亜鉛、pH8.0;ADAMTS用の消化緩衝液:50mMのトリス、100mMのNaCl及び10mMのCaCL2、pH7,5;カテプシン用の消化緩衝液:25mMのNA2HPO4、150mMのNaCl、2mMのEDTA、2mMのDTT、pH6.5)を含む、0,5mlのエッペンドルフに入れた。消化は、1日で、2反復実験で行った。5mMのEDTA(MMP及びADAMTS用の広域スペクトルの阻害剤)及び5mMのE64(カテプシン用の広域スペクトルの阻害剤)を添加して、反応を停止した。全ての上清を、使用するまで-80℃で保存した。
【0042】
免疫組織化学的検査(IHC)
IHCのための骨検体を伴う軟骨は、デンマーク当局によって承認された、フレズレクスハウン病院(Frederikshavn Hospital)(デンマーク国)との協力での研究(N-20110031)からのものとした。全ての参加者が、インフォームドコンセントに署名した。膝置換手術を受けたOA患者から単離した検体を固定して脱灰し、次いでパラフィンに包埋した。厚さ5μmの軟骨切片を、60℃で1時間融解させ、脱パラフィンを行って水和し、その後にプロナーゼE(カタログ番号10165921001、ロシェ社(Roche))を用いて37℃で10分間の抗原回復が続いた。当該切片は、室温で30分間、トリス緩衝生理食塩水(TBS)中の0.5%カゼインによって処理して、非特異的な結合をブロッキングした。本研究で開発した抗体NB117-2F4と、先に開発された抗体NB509-11G8とによって、免疫染色を行った。免疫反応性は、ペルオキシダーゼで標識した抗-マウス抗体及びジアミノベンジジン(DAB、Dako社、デンマーク国)により視覚化した。対比染色には、マイヤー社(Mayer)のヘマトキシリンを用いた。オリンパスC5050デジタルカメラを装備したオリンパス顕微鏡BX60により、写真を撮影した。
【0043】
研究参加者
血漿試料を、2つの研究、地域の倫理委員会によって承認されたC4Pain研究(N-20100094)[24]と、地域の倫理委員会によって承認されたNYUHJD進行研究[25、26]とから回収した。全ての参加者から、登録前にインフォームドコンセントが得られた。
【0044】
簡潔には、C4Painは、クロスセクショナル研究である。これはケルグレン/ローレンス(K/L)分類(Kellgren/Lawrance (K/L) grading scale)(K/L 0~4)を用いた、関節変性がない者から重症な関節変性の者まで281例の個体を含んだ。本研究において253例の登録者からの血漿試料を測定したが、これは他28例の試料は量が不十分であったことに起因した。
【0045】
NYUHJD進行研究は、ベースライン時に、21例の非OAの健康な対照(K/L≦1且ついずれの膝にも疼痛がない)、146例のOA患者(K/L≧2)及び36例の関節リウマチ(RA)患者を含んだ。OA患者146例は、24ヶ月の間、さらに追跡調査した。ベースライン及び24ヶ月にX線撮影評価を行い、またベースライン時に血漿を採取した。ベースライン時における非OAの健康な対照20例、OA対象142例及びRA対象34例からの血漿試料が、本研究の測定に利用可能であった。しかしながら、本研究では、ベースライン時における異なる群のCol10neoレベルを調査したのみであった。今後の研究は、OAにおけるX線撮影での進行の潜在的な予後徴候のバイオマーカーとしてのCol10neoのさらなる全体像に近づくために継続される。
【0046】
統計
データは、グラフパッドプリズム6(GraphPad Prism 6)又はメッドカルク16.8(MedCalc 16.8)により分析した。正常性確認のため、関心の変数全てに関してシャプリオ-ウィルク検定(Shaprio-Wilk test)を行った。年齢、BMI及びVASスコアでの群比較の間において、一元配置分散分析を、ポストホックでのチューキー・クレーマー検定と共に用いた。血漿Col10neoデータは、全分析において対数変換した。P値<0.05を、統計学的に有意と考えた。p<0.05であれば1アスタリスク(*)、p<0.01であれば2アスタリスク(**)、p<0.001であれば3アスタリスク(***)、p<0.0001であれば4アスタリスク(****)である。
【0047】
結果
ペプチド選択
種間の選択されたペプチドの配列アラインメント
同一の遊離C末端を共有する2つの断片463PGSKGDPGSPGPPGPA478(配列番号7)と465SKGDPGSPGPPGPA478(配列番号8)とが、OA患者の尿中において質量分析法で同定されたが、これはA478-479G間において切断部位の存在があることを示す。切断によって生じた遊離N末端の10aaペプチド479GIATKGLNGP(配列番号1)が、免疫化のために選択された。ブラスト(blast)により、この配列は、ヒトタンパク質のうち、X型コラーゲンアルファ1に特有であることが示された。種間の配列類似性は、ヒト及びマウス間で100%の同一性を示すが、一方ヒト配列と比較して、ラット又はウシでは不適正のaaが含まれる。
【0048】
【0049】
Col10neoアッセイの技術的性能
479GIATKG(配列番号2)を標的とするモノクローナル抗体2F4(アイソタイプ:IgG2b、κ)を、ハイブリドーマから産生し、HiTrapプロテインGアフィニティカラム(カタログ番号17-0404-01、GEヘルスケア社)により精製した。ペプチド結合特異性の試験において、ビオチン化合成ペプチドGIATKGLNGP-k(ビオチン)(配列番号5)に対する2F4の反応性は、1000ng/mLの選択ペプチドを加えることによって、完全に動いた。対照的に、伸長された選択ペプチド又は切断された選択ペプチドでは、同じ濃度で、動きはわずかに観察されたか又は観察されなかった(
図1)。このことは、開発した抗体2F4が選択ペプチドに対して特異的であるということを示した。
【0050】
したがって、高い特異性を示す抗体2F4を、競合ELISAアッセイ、Col10neoに適用した。本アッセイの技術的性能を、表2に要約して列記した。IC50は41.9ng/mLであった。アッセイ内の係数変動(coefficient variation)(CV%)は3%であり、アッセイ間のCV%は11.8であった。測定範囲は8~250ng/mLであった。血清の4倍から32倍希釈及びEDTA抗凝固処理血漿の8倍から64倍希釈の広範囲にわたって、線形性は良好であった。
【0051】
【0052】
カテプシンK由来の
479GIATKG
A
478-
479G結合の切断の原因となる酵素を調査するため、いくつかのプロテアーゼを、ヒト軟骨と共に個々にインキュベートした。全てのプロテアーゼは、同一の酵素濃度とし、また全てのインキュベーションは、同一のインキュベーション時間で実行した。
479GIATKGLNGP(配列番号1)のネオエピトープを生成する、プロテアーゼ毎の相対効率を、Col10neoアッセイに適用することによって評価した。消化緩衝液中にプロテアーゼを添加しないものと比較して、試験したMMP又はADAMTS溶液のいずれにおいても、Col10neoレベルの増加はなかった(
図2A及び2B)。反対に、カテプシンKは、最大量をもたらしたが、これはネオエピトープ
479GIATKGLNGP(配列番号1)を支持する断片を放出するその能力を示す(
図2C)。
【0053】
軟骨における
479GIATKGの免疫局在性
479GIATKG(配列番号2)の生成及び分布をさらに規定するため、TKR(膝関節全置換)患者からの関節軟骨の連続的な切片を、抗-
479GIATKG(配列番号2)抗体(2F4)、正常マウスIgG(陰性対照)及び抗-X型コラーゲンC末端抗体(11G8-国際公開第2014/180992号において開示)で同様に染色した。正常マウスIgGでは、染色は何も観察されなかった(
図3A)。先の研究と一致して、11G8により検出されたX型コラーゲンは、深層における軟骨細胞の細胞外基質中で生じたが、それは石灰化軟骨の領域には不在であったことが見出された(
図3B)。驚くべきことに、
479GIATKG(配列番号2)の強い染色が、軟骨内の全ての層からの軟骨細胞の細胞外基質中で確認された(
図3C)。ネオエピトープの染色により、細胞外基質中に放出されたX型コラーゲンがさらなるタンパク質のプロセッシングを受けていたことが実証された。
【0054】
C4Pain研究でのK/Lグレード及び血漿Col10neoレベル間における関連
C4Pain研究からの253例の参加者を、K/Lグレードに基づいて4群に分類した。これら4群の人口統計学的特性を、表3に要約した。
【0055】
【0056】
参加者の平均年齢は>60歳であったため、K/Lが0又はK/Lが1である数人の参加者は、同一の群に分類した。本研究に関与した対象のうち57%は、K/Lが2であり、群2に割り当てられた。各群内の性別分布に有意差はなかった。K/L4の平均年齢が、K/L0~1の群(p<0.005)より有意に高かった。K/Lグレードの増加に伴うBMIの増加は、明白であるが有意でない傾向であった。直近24時間の最大疼痛強度として規定される、VASスコアの平均値は、各群で有意な差はなかった。
【0057】
KL0~4の4群における参加者のCol10neoの平均±95CI%の濃度は、それぞれ2.6[2.316~2.884]μg/mL、3.288[2.885~3.691]μg/mL、3.435[2.729~4.141]μg/mL及び3.517[2.599~4.435]μg/mLであった。K/Lグレードが高いと、Col10neoレベルが高い傾向があったが、それは統計学的有意性には達していなかった(
図4A)。対象を、Col10neoレベルに基づいて三分位数に分けて、K/Lグレードの分布を比較した(
図4B)。それらのうち、Col10neoの最高三分位数において、K/Lが3~4である対象の数が最も多かった。
【0058】
NYUHJD進行研究における血漿Col10neoレベル
C4Pain研究からの結果より、非OAの健康な対照、OA及びRAからなるNYUHJD進行研究において、診断上のバイオマーカーとしてCol10neoを用いることの可能性を調査することにした。OA群及びRA群では、健康な対照群においてよりも、女性参加者の割合が高かった。平均年齢は、対照群及びOA群において有意に差があった。しかしながら、RAは、いずれの年齢でも生じる可能性があるが、30~55歳の間でそのピークとなるから、対象は、OA群におけるよりもRA群で有意に若かった。健康な対照とOAとの間では、BMIにわずかな差があった。
【0059】
対照、OA及びRAにおける血漿Col10neo(平均±95CI%)は、それぞれ、2.953[2.711~3.194]μg/mL、4.04[3.835~4.246]μg/mL及び2.548[2.285~2.81]μg/mLであった(
図5)。血漿Col10neoは、健康な対照(p=0.0002)又はRA(p<0.0001)におけるよりもOAで統計学的に高かった。健康な対照とRAとの間では、有意差は見られなかった。データを年齢及び性別で調整すると、Col10neoレベルは、対照(p=0.003)又はRA(p<0.0001)に対してOAでは有意に高いままであった(表5)。
【0060】
驚くべきことに、年齢及び性別で調整すると、対照及びCol10neo間における差は、RA(p=0.0084;表5)に対して有意になる。
【0061】
【0062】
結び
本明細書において開示したCol10neoアッセイは、OAの評価に有用であることが実証された。
【0063】
本明細書においては、この有用性は、強直性脊椎炎など、X型コラーゲンアルファ-1に関連した他の疾患を評価することにまで及び得るということが提案される。
【0064】
本明細書においては、別途明示的に示していない限り、「又は(or)」の語は、条件の一方のみが満たされることを要求する演算子「排他的なOR(exclusive or)」とは対立するものとして、記載した条件の一方又は両方が満たされるときに真の値を戻す演算子という意味で用いられる。「含む(comprising)」の語は、「~からなる(consisting of)」の意味ではなく、「含む(including)」の意味で用いられる。上記で認めた先行する教示の全ては、参照によって本明細書に援用する。本明細書における先に公開されたいずれの文書の承認も、その教示が、本明細書に関する日の時点で、オーストラリア又はその他の場所においてありふれた一般知識であったということの承認又は表現と捉えるべきではない。
【0065】
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