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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20221027BHJP
【FI】
G01N27/416 341M
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020561154
(86)(22)【出願日】2019-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2019033767
(87)【国際公開番号】W WO2020129313
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2018236069
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理一郎
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 久典
(72)【発明者】
【氏名】井上 健太郎
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3215435(JP,U)
【文献】特開平11-330023(JP,A)
【文献】特開2000-088801(JP,A)
【文献】特開2003-142441(JP,A)
【文献】特開2006-242778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0060475(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0092560(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素ガスを含むアンモニア水を電気化学的に分析する分析装置であって、
前記アンモニア水に浸漬される白金からなる作用電極と、
前記作用電極と共に前記アンモニア水に浸漬される対電極と、
前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加する電源回路と、
前記電源回路を制御する制御部をさらに具備し、
前記制御部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加する作用電極回復部を備えており、
前記作用電極と前記対電極との間に生じる電位差を検出する検出回路と、
前記検出回路によって検出される検出値を記憶する電位差記憶部とをさらに具備し、
前記制御部が、前記作用電極回復部が電圧を印加した後に、前記電源回路によって当該印加前に前記電位差記憶部に記憶された電位差に応じた電圧を印加する復帰準備部をさらに備えていることを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記対電極が、参照電極であり、
前記制御部が、前記作用電極回復部が電圧を印加した後に、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に当該参照電極の方が高い電位となる電圧を印加する参照電極回復部をさらに備えている請求項1記載の分析装置。
【請求項3】
前記作用電極回復部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加していない状態が所定時間続いた場合に、前記電源回路によって電圧を印加するものである請求項1又は2のいずれかに記載の分析装置。
【請求項4】
前記参照電極回復部が、前記作用電極回復部が所定回数電圧を印加した後に、前記電源回路によって電圧を印加するものである請求項2を引用する請求項3記載の分析装置。
【請求項5】
前記電位差記憶部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記電極との間に電圧が印加されていない状態において、前記検出回路によって検出される検出値を記憶する請求項記載の分析装置。
【請求項6】
水素ガスを含むアンモニア水に対し、白金からなる作用電極及び参照電極を浸漬して当該作用電極と当該参照電極との間に生じる電位差を検出する分析装置の処理方法であって、
前記分析装置が、前記作用電極と前記参照電極との間に生じる電位差を検出する検出回路と、前記検出回路によって検出される検出値を記憶する電位差記憶部とを具備し、
前記作用電極及び前記参照電極を前記アンモニア水に浸漬させた後に、周期的に前記作用電極と前記参照電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加し、その後に、当該印加前に前記電位差記憶部に記憶された電位差に応じた電圧を印加するすることを特徴とする分析装置の処理方法。
【請求項7】
水素ガスを含むアンモニア水に白金からなる作用電極及び参照電極を浸漬し、当該作用電極と当該参照電極との間に生じる電位差を検出する分析装置に用いられる電極回復装置であって、
前記作用電極と前記参照電極との間に接続される電源回路と、
前記電源回路を制御する制御部とを具備し、
前記制御部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記参照電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加する作用電極回復部を備えており、
前記作用電極と前記参照電極との間に生じる電位差を検出する検出回路と、
前記検出回路によって検出される検出値を記憶する電位差記憶部とをさらに具備し、
前記制御部が、前記作用電極回復部が電圧を印加した後に、前記電源回路によって当該印加前に前記電位差記憶部に記憶された電位差に応じた電圧を印加する復帰準備部をさらに備えていることを特徴とする電極回復装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体製造プロセスの半導体を洗浄する洗浄工程において、水素ガスを含むアンモニア水を洗浄水として用いるようになった。なお、当該洗浄水としては、一般的にアンモニア水を電解してカソード側に生成される電解水が使用される。
【0003】
ところで、前記電解水を生成する場合には、電解水が正常に生成されているか否かを評価するため、例えば、特許文献1に示すような分析装置が用いられる。
【0004】
なお、前記分析装置によって電解水を評価する場合には、電解水に作用電極及び参照電極を浸漬して両電極間に生じる電位差(酸化還元電位)を検出し、その検出値に基づき電解水が正常であるか否かを評価する。具体的には、電解水に作用電極及び参照電極を浸漬してある程度時間が経過すると、酸化還元反応が平衡状態となって作用電極と参照電極との間に生じる電位差が安定する。この安定した状態の電位差を正常値とし、当該正常値に対する検出値のズレを参照して電解水が正常であるか否か評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-153677号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者は、前記分析装置による電解水の評価実験を繰り返す中で、作用電極として白金からなるもの(以下、白金電極ともいう)を選択すると、他の材料(例えば、金等)からなるものを選択した場合に比べて、作用電極と参照電極との間に生じる電位差が大きくなり、より精度の高い評価を行うことができることを見出した。因みに、白金からなる作用電極と、銀からなる棒体の表面に塩化銀を被覆した参照電極と、を用いた場合には、正常値が約-900mVとなる電位差が生じる。
【0007】
一方、前記電解水に白金電極及び参照電極を長時間(1日~3日程度)浸漬すると、電解水が正常であるにもかかわらず、作用電極と参照電極との間に生じる電位差が正常値から大幅にドリフトする現象が生じ、これが原因となって電解水が正常か否かを評価できなくなることが分かった。
【0008】
なお、前記現象は、白金電極が持つ強い触媒効果に起因するものと考えられる。詳述すると、白金電極は、電解水内に存在する水素分子(H)の電子をその強い触媒効果によって内部に取り込んで溜め込む。一方、白金電極内に電子を取り込まれた水素原子は、当該電子に引かれて白金電極表面に付着する。なお、白金電極表面に付着した水素原子が増加すると、これに伴って白金電極内部に溜め込まれた電子も当該水素原子に引かれて白金電極表面側へと移動する。これにより、白金電極内部の電子と白金電極表面の水素原子とが互いに強く引き合うようになり、白金電極表面に水素原子の膜が形成される。さらに、電解水内に存在するアンモニアガス(NH)が水素原子に吸着することにより、水素原子の膜上にさらにアンモニアガスの膜が形成される。
【0009】
その結果、これらの膜が白金電極の触媒効果を阻害して酸化還元反応が生じ難くなり、作用電極と参照電極との間に生じる電位差が徐々に小さくなることが原因と推察される。
【0010】
因みに、作用電極の表面を研磨したり、作用電極を強酸や酸化剤に浸す作業を定期的に実施することによって前記問題は改善されるが、これらの作業を実施するためには、分析装置による測定を長時間停止させる必要があるばかりか、研磨材や試薬等を別途用意して手作業で行う必要があり、非常に面倒である。
【0011】
そこで、本発明は、従来知られていないかった前記現象によって生じた新たな問題を解決することを主な課題とするものである。具体的には、本発明は、白金電極を用いて、水素ガスを含むアンモニア水を分析(評価)する場合に、作用電極と参照電極との間に生じる電位差のドリフトを改善する処理(作業)を、別途道具を必要とすることなく、比較的短時間で実行できる分析装置を得ることを主な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明に係る分析装置は、水素ガスを含むアンモニア水を電気化学的に分析する分析装置であって、前記アンモニア水に浸漬される白金からなる作用電極と、前記作用電極と共に前記アンモニア水に浸漬される対電極と、前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加する電源回路と、前記電源回路を制御する制限部とを具備し、前記制御部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加する作用電極回復部を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
このようなものであれば、電源回路によって作用電極と対電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加することにより、作用電極表面を被覆する水素原子を水素イオンに酸化させることができると共に、アンモニアガスをヒドラジン(N)に酸化させることができる。これにより、作用電極表面から水素原子及びアンモニアガスが剥離し、別途道具を用意しなくても、作用電極の触媒効果を回復させることができる。また、このような方法であれば、研磨等の方法に比べて作用電極の回復に要する時間も短縮される。
【0014】
なお、前記対電極が、参照電極である場合には、作用電極と参照電極との間に電圧が印加されると、参照電極の還元反応が進行し、これが作用電極と参照電極との間に生じる電位差の安定性に影響を与える。そこで、前記制御部が、前記作用電極回復部が電圧を印加した後に、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に当該参照電極の方が高い電位となる電圧を印加する参照電極回復部をさらに備えるものであってもよい。
【0015】
このようなものであれば、電源回路によって作用電極と参照電極との間に当該参照電極の方が高い電位となる電圧を印加することにより、当該電圧の印加に伴って還元反応が進行した参照電極を回復させることができる。
【0016】
なお、作用電極と参照電極との間に生じる電位差は、ある一定期間を越えると急にドリフトし始める。このため、前記作用電極回復部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に電圧を印加していない状態が所定時間続いた場合に、前記電源回路によって電圧を印加するように構成すればよい。
【0017】
このようなものであれば、作用電極表面に付着した水素原子とアンモニアガスとを定期的に除去できるため、作用電極と参照電極との間に生じる電位差が略ドリフトしていない状態に維持できる。
【0018】
なお、この場合、作用電極回復部が電圧を一度や二度程度印加しただけでは、作用電極と参照電極との間に生じる電位差の安定性に影響を与えるほど、参照電極の還元反応が進行しない場合がある。そこで、前記参照電極回復部が、前記作用電極回復部が所定回数電圧を印加した後に、前記電源回路によって電圧を印加するように構成してもよい。
【0019】
このようなものであれば、参照電極を回復させるための作業回数を減らすことができ、結果として、分析装置による測定の停止時間を短くできる。
【0020】
また、前記作用電極と前記参照電極との間に生じる電位差を検出する検出回路と、前記検出回路によって検出される検出値を記憶する電位差記憶部とをさらに具備し、前記制御部が、前記作用電極回復部、又は、前記作用電極回復部及び前記参照電極回復部が電圧を印加した後に、前記電源回路によって当該印加前に前記電位差記憶部に記憶された電位差に応じた電圧を印加する復帰準備部をさらに備えたものであってもよい。なお、前記電位差記憶部は、具体的には、前記電源回路によって前記作用電極と前記参照電極との間に電圧が印加されていない状態において、前記検出回路によって検出される検出値を記憶するものである。
【0021】
作用電極回復部や参照電極回復部が電圧を印加すると、作用電極と参照電極との間の電位差が正常値から大幅にずれてしまう。そこで、作用電極回復部や参照電極回復部が電圧を印加した後に、作用電極と参照電極との間の電位差が正常値に近づくように電圧を印加することにより、回復処理状態から測定状態への復帰時間が短縮される。
【0022】
また、本発明に係る分析装置の処理方法は、水素ガスを含むアンモニア水に対し、白金からなる作用電極及び参照電極を浸漬して当該作用電極と当該参照電極との間に生じる電位差を検出する分析装置の処理方法であって、前記作用電極及び前記参照電極を前記アンモニア水に浸漬させた後に、周期的に前記作用電極と前記対電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加することを特徴とするものである。
【0023】
また、本発明に係る電極回復装置は、水素ガスを含むアンモニア水に白金からなる作用電極及び参照電極を浸漬し、当該作用電極と当該参照電極との間に生じる電位差を検出する分析装置に用いられる電極回復装置であって、前記作用電極と前記参照電極との間に接続される電源回路と、前記電源回路を制御する制御部とを具備し、前記制御部が、前記電源回路によって前記作用電極と前記対電極との間に当該作用電極の方が高い電位となる電圧を印加する作用電極回復部を備えていることを特徴とするものである。
【0024】
このように構成した分析装置によれば、白金電極を用いて、水素ガスを含むアンモニア水を分析する場合に、作用電極と参照電極との間に生じる電位差のドリフトを改善する処理を、別途道具を必要とすることなく、比較的短時間で実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態1に係る分析装置を示す模式図である。
図2】実施形態1に係る分析装置の制御部を示すブロック図である。
図3】実施形態1に係る分析装置の作用電極と参照電極との間に生じる電位差と時間との関係を示すグラフである。
図4】実施形態2に係る分析装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0026】
100 分析装置
W 電解水
10 作用電極
20 参照電極
30 検出回路
40 電位差記憶部
50 電源回路
60 制御部
61 作用電極回復部
62 参照電極回復部
63 復帰準備部
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る分析装置を図面に基づいて説明する。
【0028】
本発明に係る分析装置は、水素ガスを含むアンモニア水を分析するために使用されるものである。具体的には、半導体製造プロセスの洗浄工程において洗浄水として使用される、水素ガスを含むアンモニア水の分析に使用される。より具体的には、アンモニア水を電解してカソード側に生成される電解水が正常に生成されているか否かを評価(分析)するために使用される。
【0029】
<実施形態1> 本実施形態に係る分析装置100は、図1に示すように、電解水W(水素ガスを含むアンモニア水)に浸漬される作用電極10と、作用電極10と共に電解水Wに浸漬される参照電極20と、作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差を検出する検出回路30と、検出回路30で検出された検出値を記憶する電位差記憶部40と、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加する電源回路50と、電源回路50を制御する制御部60と、を備えている。
【0030】
前記作用電極10は、白金からなるものである。本実施形態の作用電極10は、白金からなる棒体である。なお、作用電極10は、パラジウムからなるものを使用することもできる。また、前記参照電極20は、塩化銀(AgCl)及び銀(Ag)からなるものである。本実施形態の参照電極20は、銀からなる棒体の表面に塩化銀からなる層を形成した構造のものである。なお、本実施形態では、参照電極20が請求項の対電極に該当する。
【0031】
前記検出回路30は、作用電極10と参照電極20との間に接続されている。具体的には、検出回路30は、作用電極10と参照電極20との間に接続された電圧計31を備えている。
【0032】
前記電位差記憶部40は、検出回路30の電圧計31で検出される作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差を記憶するためのものである。なお、電位差記憶部40は、具体的には、電源回路50によって作用電極10と参照電極20との間に電圧が印加されていない状態において、電圧計31で検出される前記電位差を記憶するように構成されている。なお、電位差記憶部40は、制御部60内に設けてもよい。
【0033】
前記電源回路50は、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加するためのものである。具体的には、本実施形態の電源回路50は、直流電圧を可変に設定できる電圧生成器51と、作用電極10及び参照電極20に対する電圧生成器51の接続をオン・オフするスイッチ52と、電圧生成器51から作用電極10と参照電極20との間に供給される電流を制限する電流制限抵抗53と、を作用電極10と参照電極20との間に直列に接続した構造になっている。
【0034】
前記制御部60は、電圧計31、電圧生成器51、及び、スイッチ52に接続されている。そして、制御部60は、例えば、CPU、メモリ、入出力手段、A/D・D・Aコンバータ等を備えたコンピュータであって、前記メモリに格納されている制御プログラムに基づき、図2に示すように、作用電極回復部61、参照電極回復部62、復帰準備部63、印加条件記憶部64、カウント部65としての機能を発揮するように構成されている。
【0035】
前記作用電極回復部61は、電源回路50によって作用電極10と参照電極20との間に当該作用電極10の方が高い電位となる電圧(以下、作用電極回復電圧ともいう)を印加するものである。具体的には、作用電極回復部61は、作用電極10をある程度酸化(回復)させるために必要な時間(以下、作用電極回復時間ともいう)の間電圧を印加する作用電極回復処理を実行するものである。なお、例えば、作用電極回復電圧としては、作用電極10と参照電極20との間の電位差が500mV~1000mVになるような電圧であり、作用電極回復時間としては、1~5秒である。
【0036】
また、作用電極回復部61は、電源回路50によって作用電極10と参照電極20との間に電圧が印加されていない状態が所定時間続いた場合に、電源回路50によって電圧を印加するように構成されている。ここで、所定時間は、具体的には、作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差が安定した状態(言い換えれば、電位差が正常値近傍になっている平衡状態)を維持している時間(測定時間)から選定される時間である。より具体的には、作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差が安定した状態(平衡状態)になってからドリフトする前(非平衡状態になる前)までの時間から選定される時間である。例えば、1日~3日である。
【0037】
前記参照電極回復部62は、作用電極回復部61が作用電極回復処理を実行した後、電源回路50によって作用電極10と参照電極20との間に当該参照電極20の方が高い電位となる電圧(以下、参照電極回復電圧ともいう)を印加するものである。具体的には、参照電極回復部62は、作用電極回復部61が電圧を印加した後、参照電極20をある程度酸化(回復)させるために必要な時間(以下、参照電極回復時間ともいう)の間電圧を印加する参照電極回復処理を実行するものである。なお、例えば、参照電極回復電圧としては、作用電極10と参照電極20との間の電位差が-500mV~-1000mVになるような電圧であり、参照電極回復時間としては、1~5秒である。
【0038】
前記復帰準備部63は、参照電極回復部62が参照電極回復処理を実行した後、電源回路50によって作用電極10と参照電極20との間に電圧(以下、復帰電圧ともいう)を印加するものである。具体的には、復帰準備部63は、作用電極10と参照電極20との間の電位差が、電位差記憶部40に記憶された検出値(具体的には、作用電極回復部61が電圧を印加する前に電位差記憶部40に記憶された検出値、言い換えれば、最新の検出値)が示す電位差と同一になるように、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加する復帰処理を実行する。
【0039】
前記印加条件記憶部64は、作用電極回復部61及び参照電極回復部62の印加条件を記憶するものである。具体的には、作用電極回復電圧、作用電極回復時間、参照電極回復電圧、参照電極回復時間である印加条件を記憶している。なお、これらの印加条件は、その一部又は全部を入力手段(図示せず)によって入力できるようにしてもよい。そして、作用電極回復部61及び参照電極回復部62は、印加条件記憶部64を参照して印加条件を決定している。
【0040】
前記カウント部65は、前記所定時間をカウントするものである。具体的には、カウント部65は、電解水Wに作用電極10及び参照電極20を浸漬した後、作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差が平衡状態になるとカウントを開始し始める。また、1回目の電極回復処理(作用電極回復処理、参照電極回復処理、復帰処理を含む処理)が終了した後は、電極回復処理が終了する毎にカウントを開始する。なお、カウント部65は、開始信号を受けてカウントを開始するようにしてもよい。
【0041】
次に、本実施形態に係る分析装置100の動作を図3に基づき説明する。なお、図3中、電極回復処理を実行した場合における作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差を太い実線にて示し、電極回復処理を実行しなかった場合における作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差を点線にて示している。また、図3中、tは、所定時間、t2は、作用電極回復時間、t3は、参照電極回復時間、をそれぞれ示している。
【0042】
先ず、作用電極10及び参照電極20を電解水Wに浸漬させる。これにより、作用電極10と参照電極20とに酸化還元反応が生じ、作用電極10と参照電極20との間に電位差が生じる。この電位差が電圧計31で検出されて電位差記憶部40に記憶される。そして、電解水Wに作用電極10及び参照電極20を浸漬させた後、言い換えれば、作用電極10と参照電極20との間に電位差が生じた後、この電位差が安定した状態になると、カウント部65が、カウントを開始する。
【0043】
次に、カウント部65のカウントが所定時間tに達すると、作用電極回復部61が、印加条件記憶部64を参照し、電圧生成器51の電圧を調節する。そして、作用電極回復部61は、時間tの間スイッチ52をオンし、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加する作用電極回復処理を実行する。これにより、作用電極10と参照電極20との間に当該作用電極10の方が高い電位となるように電圧が印加される。その結果、作用電極10に酸化反応が生じて水素原子及びアンモニアガスが剥離する一方、参照電極20に還元反応が生じて塩化銀が銀になる。
【0044】
次に、作用電極回復部61が作用電極回復処理を実行した後、参照電極回復部62は、印加条件記憶部64を参照し、電圧生成器51の電圧を調節する。そして、参照電極回復部62は、時間tの間スイッチ52をオンし、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加する参照電極回復処理を実行する。これにより、作用電極10と参照電極20との間に当該参照電極20の方が高い電位となるように電圧が印加される。その結果、作用電極10に還元反応が生じる一方、参照電極20に酸化反応が生じて銀が塩化銀になる。なお、この時作用電極10で生じる還元反応は、作用電極10の触媒効果に影響を与えない程度の僅かなものである。
【0045】
次に、参照電極回復部62が参照電極回復処理を実行した後、復帰準備部63は、電位差記憶部40に記憶された電位差を参照し、電圧生成器51の電圧を調節する。そして、復帰準備部63は、スイッチ52を一時的にオンし、作用電極10と参照電極20との間に電圧を印加する復帰処理を実行する。具体的には、復帰準備部63は、電位差記憶部40に記憶された最新の電位差に応じた電圧を印加する。
【0046】
そして、復帰準備部63が復帰処理を実行すると、カウント部65は、電極回復処理が完了したと判断してカウントをリセットし、新たにカウントを開始する。
【0047】
これにより、制御部60により、作用電極10及び参照電極20に対して前記一連の電極回復処理(作用電極回復処理、参照電極回復処理、復帰処理)が周期的に実行される。なお、本実施形態においては、作用電極回復処理を実行する毎に参照電極回復処理を実行しているが、作用電極回復処理を複数回実行する毎に参照電極回復処理を実行するようにしてもよい。
【0048】
<実施形態2> 本実施形態は、前記実施形態1に係る分析装置100の変形例である。なお、本実施形態に係る分析装置100は、図4に示すように、電解水Wに浸漬される電極として、作用電極10及び参照電極20以外に作用電極回復処理に使用される作用電極回復用電極70を備えていると共に、作用電極10と作用電極回復用電極70との間に接続される電源回路50を備えている。作用電極回復用電極70は、カーボンからなるものを使用すればよい。なお、本実施形態では、作用電極回復用電極70が請求項1の対電極に該当する。
【0049】
なお、前記電源回路50は、電圧生成器51を可変できないタイプのものに変更した他は前記実施形態1に係る電源回路50と同一構成を有している。なお、前記実施形態1と同様に作用電極10と参照電極20との間に電圧計31を備える検出回路30が接続されている。
【0050】
このようなものであれば、電源回路50によって作用電極10と作用電極回復用電極70との間に当該作用電極10の方が高い電位となる電圧が印加されても、この時、参照電極20に電圧が印加されない。よって、作用電極回復処理によって参照電極20の還元反応が進行しないため、参照電極回復処理を実行する必要がなくなる。
【0051】
<その他の実施形態> 前記実施形態においては、電源回路50に電圧を可変に設定できる電圧生成器51によって、作用電極10と参照電極20との間に印加する電圧を調節しているが、例えば、電源回路50が作用電極回復処理、参照電極回復処理、復帰処理の各処理に対応した処理回路を備えたものであってもよい。この場合、各処理回路に、電圧生成器51、スイッチ52及び電流制限抵抗53を設ければよい。
【0052】
また、前記実施形態においては、作用電極回復処理(電極回復処理)の実行タイミングを時間によって管理しているが、これに限定されず、例えば、電圧計31によって検出される作用電極10と参照電極20との間に生じる電位差を参照し、当該電位差が閾値以上になった場合に、作用電極回復処理を実行するように構成してもよい。
【0053】
また、前記実施形態1における電源回路50及び制御部60を、作用電極10及び参照電極20に対して着脱可能に接続できるように構成して電極回復装置としてもよい。この場合、電極回復装置が、さらに検出回路30及び電位差記憶部40を具備する構成としてもよい。このようなものであれば、アンモニア水に浸漬された作用電極10及び参照電極20に対して電極回復装置を着脱可能に後付けできる。
【0054】
その他、本発明は前記各実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
白金電極を用いて、水素ガスを含むアンモニア水を分析(評価)する場合に、作用電極と参照電極との間に生じる電位差のドリフトを改善する処理(作業)を、別途道具を必要とすることなく、比較的短時間で実行できる。
図1
図2
図3
図4