(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-26
(45)【発行日】2022-11-04
(54)【発明の名称】マスク製造方法及び人形玩具製造方法
(51)【国際特許分類】
A63H 9/00 20060101AFI20221027BHJP
A63H 3/36 20060101ALI20221027BHJP
【FI】
A63H9/00 S
A63H3/36 C
(21)【出願番号】P 2021030190
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2021-04-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000128234
【氏名又は名称】株式会社エポック社
(74)【代理人】
【識別番号】110002022
【氏名又は名称】弁理士法人コスモ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 晃一
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-085286(JP,U)
【文献】特許第6796900(JP,B1)
【文献】特開平04-261687(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1937139(KR,B1)
【文献】米国特許第04450129(US,A)
【文献】さとう純一,“3Dプリンターによる塗装用マスクの作り方”,アメブロ,日本,株式会社サイバーエージェント,2020年07月03日,pp.1-7(全文,全図),https://ameblo.jp/hamunobi/entry-12608644068.html,[2022年05月10日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H 1/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
データ作成用ソフトウェアにより作成した3Dデータとしての素体用データに基づき形象体玩具の素体を作成する工程と、
作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、
前記スキャンデータに基づいて、
前記データ作成用ソフトウェアにより、前記素体を被覆する被覆部と、前記素体を露出させる開放部とを含む
3Dデータとしてのマスク型用データを作成する工程と、
前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、
を含むことを特徴とするマスク製造方法。
【請求項2】
前記マスク型用データを作成する工程では、前記素体の植毛加工による加植厚み分、前記スキャンデータの外形よりも大きい内形の前記マスク型用データを作成することを特徴とする請求項1に記載のマスク製造方法。
【請求項3】
前記素体用データは、前記形象体玩具の量産用データとしても用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のマスク製造方法。
【請求項4】
前記マスク型用データは、前記素体に対し複数方向から装着可能な複数の分割マスク型用データを含み、
前記マスク型は、前記分割マスク型用データに基づいて造形された複数の分割マスク型であり、
前記分割マスク型を支持部材に取り付けてマスク治具を作成する工程を更に含む、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載のマスク製造方法。
【請求項5】
データ作成用ソフトウェアにより作成した3Dデータとしての素体用データに基づき素体を作成する工程と、
作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、
前記スキャンデータに基づいて、
前記データ作成用ソフトウェアにより、前記素体を被覆する被覆部と、前記素体を露出させる開放部とを含む
3Dデータとしてのマスク型用データを作成する工程と、
前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、
前記マスク型を前記素体に装着して前記素体を塗装する工程と、
を含むことを特徴とする人形玩具製造方法。
【請求項6】
前記素体を塗装する工程の後に、前記素体を植毛加工する工程と、
前記植毛加工を行った加植素体に前記マスク型を装着して前記加植素体を塗装する工程と、
を含むことを特徴とする請求項5に記載の人形玩具製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク製造方法及び人形玩具製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、マスクを用いて塗装を行う人形の製造技術が提案されている。例えば、特許文献1には、予め人形頭部の顔面の所定位置にインスタントレタリングを貼付した後、この人形頭部を用いて電鋳めっきを行い人形頭部の電鋳金型を造り、インスタントレタリングの形状が他の部分とは異なる光沢となって転写された転写部を切除することによって作成する人形の塗装用電鋳マスクの製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような電鋳マスクは、使用を重ねるうちに摩耗等により変形して交換用に新たに作成する必要が生じたり、人形の生産数量によっては複数個を予め作成する必要が生じる。しかし、電鋳金型から電鋳マスクを作成する方法では、マスク厚みを制御することが難しかったり、転写部を切除する等の一部の工程が手作業により行われることがあり、電鋳マスク毎に形状等がばらつくことがある。このため、人形の塗装品質が安定しない。
【0005】
本発明は、品質の安定した塗装が可能なマスク製造方法及び人形玩具製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様に係るマスク製造方法は、データ作成用ソフトウェアにより作成した3Dデータとしての素体用データに基づき形象体玩具の素体を作成する工程と、作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、前記スキャンデータに基づいて、前記データ作成用ソフトウェアにより、前記素体を被覆する被覆部と、前記素体を露出させる開放部とを含む3Dデータとしてのマスク型用データを作成する工程と、前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の一つの態様に係る人形玩具製造方法は、データ作成用ソフトウェアにより作成した3Dデータとしての素体用データに基づき素体を作成する工程と、作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、前記スキャンデータに基づいて、前記データ作成用ソフトウェアにより、前記素体を被覆する被覆部と、前記素体を露出させる開放部とを含む3Dデータとしてのマスク型用データを作成する工程と、前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、前記マスク型を前記素体に装着して前記素体を塗装する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様によれば、品質の安定した塗装が可能なマスク製造方法及び人形玩具製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る人形玩具の一部を構成する人形体の斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る人形玩具製造システムの全体構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る人形玩具製造方法のフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態に係る人形玩具製造方法を示す図であり、(a)は素体用データを示し、(b)は保持部材により保持された人形体の素体を示す。
【
図5】本発明の実施形態に係る人形玩具製造方法を示す図であり、(a)は修正前のスキャンデータを示し、(b)は修正後のスキャンデータを示す。
【
図6】本発明の実施形態に係る反転データを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るマスク型用データを示す図であり、(a)は口部前側の分割マスク用データを示し、(b)は口部後側の分割マスク用データを示す。
【
図8】本発明の実施形態に係るマスク型用データを示す図であり、(a)は頭頂部前側の分割マスク用データを示し、(b)は頭頂部後側の分割マスク用データを示す。
【
図9】本発明の実施形態に係るマスク治具で素体をマスクしている状態を示す図である。
【
図10】本発明の実施形態に係るマスク治具及び素体の断面図であり、(a)は
図9の口部が開口したマスク治具を装着した状態のX-X断面図であり、(b)は頭頂部及び鼻部が開口したマスク治具を装着した状態のX-X断面に相当する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は、人形玩具10の一部を構成する人形体1を示す図である。人形体1は、リスの頭部を模しており、胴体部、腕部及び脚部等の他のパーツと組み合わせてリスの人形玩具10(全体形状は不図示)を構成することができる。人形体1は、後述する素体2に対して全周に亘って又は人形玩具10の露出する一部分に亘って植毛された加植部3に覆われている。人形体1は、頭頂部11、鼻部12及び口部13周辺の一部に着色部111,121,131を有する。着色部111,121,131は、
図9に示すように、人形体1の素体2(又は加植素体)を、開放部7A1(71A1,72A1),71A2(又は開放部61A1)を有するマスク治具80のマスク型7(又はマスク型6)で被覆し、塗料を噴霧することで着色される。
【0011】
図2は、本実施形態の人形玩具製造システム4における各装置の全体構成図である。人形玩具製造システム4は、データ作成端末41と、素体作成装置42と、3Dスキャナ44を制御するスキャナ用端末43と、3Dプリンタ45と、表面処理装置46と、植毛装置47とを含む。
【0012】
データ作成端末41は、素体2やマスク型6,7等の3Dデータ(素体用データ2A,マスク型用データ6A,7A)を作成及び編集可能なデータ作成用ソフトウェア411を有する。データ作成用ソフトウェア411としては、任意のCADソフトを用いることができる。また、素体用データ2A,マスク型用データ6A,7Aは、データ作成端末41内の適宜の記憶部に記憶させることができる。
【0013】
素体作成装置42は、データ作成用ソフトウェア411により作成した素体用データ2Aに基づき(又は素体用データ2Aにより作成された金型から)、素体2を作成することができる。本実施形態の素体作成装置42は、スラッシュ成形やブロー成形等による樹脂成形が可能な成形装置である。
【0014】
スキャナ用端末43は、3Dスキャナ44を制御し、3Dスキャナ44により取得したスキャンデータ2Bを編集可能なスキャナ用ソフトウェア431を有する。また、スキャンデータ2Bは、スキャナ用端末43内の適宜の記憶部に記憶させることができる。なお、スキャナ用ソフトウェア431は、3Dスキャナ44を制御する機能と、スキャンデータ2Bの編集機能を別個に有する複数のソフトウェアにより構成してもよい。
【0015】
3Dプリンタ45は、造形材料として金属であるステンレスを用いた金属3Dプリンタである。3Dプリンタ45の方式としては、レーザビーム方式(例えば、Selective laser melting(SLM)、Selective laser sintering(SLS))や電子ビーム方式(Electron beam melting)等のパウダーベッド方式(Powder bed fusion)を適用することができる。又は、3Dプリンタ45の方式として、レーザビーム方式(例えば、Laser metal deposition(LMD)、Laser engineered net shaping(LENS))やアーク放電方式等のメタルデポジッション方式(Metal deposition)を適用することができる。造形材料としては、鉄、アルミニウム、チタン若しくは銅、又はこれらの一部を主成分として含む合金(例えば、鉄を主成分とするステンレス合金)を用いることができる。3Dプリンタ45は、データ作成端末41により作成したマスク型用データ6A,7Aにより、マスク型6,7を造形することができる。
【0016】
表面処理装置46は、3Dプリンタ45により造形したマスク型6,7に、めっき、PVD(physical vapor deposition)、CVD(chemical vapor deposition)等の任意の方法により塗膜し、防食処理や防錆処理を施す。めっき処理の方法としては、電気めっき、化学めっき、陽極酸化処理等を適用することができる。
【0017】
植毛装置47は、素体2の外部表面(形状によっては内部表面)に対して、レーヨン、ナイロン等により形成されて素体2と略同色の短繊維を植毛する植毛加工(フロック加工)を行うことができる。本実施形態の植毛加工は、素体2と略同色(薄橙色)の短繊維を素体2の外面に起毛状態で付着させる静電植毛により行う。
【0018】
次に、本実施形態の人形玩具製造方法について説明する。
図3は、人形玩具製造方法の各工程(ステップS01~S08のマスク製造方法を含む)を示すフローチャートである。まず、ステップS01で、データ作成用ソフトウェア411により人形体1(即ち人形玩具10の頭部)の素体用データ2A(
図4(a)参照)を作成する。
【0019】
ステップS02で、素体作成装置42は、データ作成用ソフトウェア411により作成した素体用データ2Aに基づき、人形体1の素体2を作成する。本実施形態の素体作成装置42は、樹脂成形により素体2を作成するため、成形された素体2は樹脂材料の冷却の際に収縮して素体用データ2Aの外形よりも部分的に又は全体的に小さく形成されたり、変形する(例えば
図4(b)の素体2の耳部24等の突出部の角度が素体用データ2Aの耳部2A4と異なる)ことがある。素体用データ2Aと素体2の差分が生じる位置や程度は、作成する素体2の形状、大きさ、厚み又は材料等により異なる。
【0020】
ステップS03で、スキャナ用端末43は、3Dスキャナ44により素体2の立体形状を3Dスキャンしてスキャンデータ2B(3Dデータ)を取得する。素体2の3Dスキャンは、例えば
図4(b)に示すように、横断面がC環状となるように一部にスリット51が設けられた筒状の保持部材5により素体2の外周周りを保持させて、X線を用いたCTスキャンにより行われる。保持部材5は、素体2と区別可能な程度に素体2に対してCT値の異なる材質を用いることができる。スキャナ用端末43は、3Dスキャナ44から素体2の外形形状及び内形形状を取得することができる。
【0021】
図5(a)は、ステップS03において取得した素体2のスキャンデータ2Bを示す図である。スキャンデータ2Bは、素体用データ2Aに基づいて作成した素体2と略同じ大きさ及び凹凸を含む外形形状及び内形形状を有する。なお、
図5(a)に示すように、スキャンデータ2Bには、ノイズ2B1が含まれる場合がある。ノイズ2B1は、素体2には表れていないスキャンデータ2B上の凹凸部、面の割れ欠け部等を含む。
【0022】
ステップS04で、スキャナ用ソフトウェア431を用いて、スキャンデータ2Bのノイズ2B1の除去を手動又は自動により行う。ノイズ2B1の除去により、素体用データ2Aや修正前のスキャンデータ2Bに比べて、より素体2に近い形状のスキャンデータ2C(
図5(b)参照)を得ることができる。
【0023】
ステップS05では、データ作成用ソフトウェア411により、スキャンデータ2Cを用いてマスク型用データ6A,7Aを作成する(
図7(a)、
図7(b)、
図8(a)及び
図8(b)の各分解斜視図参照)。まず、データ作成用ソフトウェア411は、修正後のスキャンデータ2Cの外形形状と略同じ形状(或いは同じ面)の内形形状を有し、所定のマスク厚み(例えば、1mm)に設定した反転データ67Aを作成する(
図6参照)。反転データ67Aは、スキャンデータ2Cの全体を覆うように構成される。その後、反転データ67Aは、後述のステップS11で行われる植毛加工の加植厚みT(
図10(a)等参照)分スキャンデータ2Cの外形よりも大きい内形となるようにオフセット加工される。例えば、反転データ67Aは、反転データ67Aの内面と、スキャンデータ2Cの外面との間隔が0.8mm~1.0mm程度となるように拡大される。なお加植厚みTは素体2の部位によっては異なる場合があり、加植厚みT分のオフセット量としては素体2全体の加植厚みTの平均値又は最小値とするなど加植厚みTを考慮した値とすることができる。
【0024】
本実施形態では、二色の異なる色で着色を行うため、データ作成用ソフトウェア411により、着色部131用のマスク型6(
図10(a)参照)のマスク型用データ6Aと、着色部111,121用のマスク型7(
図9及び
図10(b)参照)のマスク型用データ7Aとを作成する。
【0025】
マスク型用データ6Aは、加植厚みT分のオフセット加工された前述の反転データ67Aに対し、着色対象部位である人形体1(
図1参照)の口部23(13)の周辺に対応する部位に開放部61A1を設けて作成される。また、マスク型用データ6Aは、素体2の異なる面側(本実施形態では正面側及び背面側)から着脱できるように複数の分割マスク型用データ61A,62Aに分割される。マスク型用データ6Aの下面側には、素体2の下面に設けられた開口部25(
図10(a)参照)に対応する開口部6A3が設けられる。この開口部6A3は、
図7(a)及び
図7(b)に示す半円状の切欠部61A3及び切欠部62A3を合わせて略円形状に形成される。開放部61A1は、リスの口部23(13)周辺である頬及び鼻部22(12)の下側一部に亘るように配置された開口部として構成される。このように作成されたマスク型用データ6A(分割マスク型用データ61A,62A)は、素体2を被覆可能な被覆部6A4(61A4,62A4)と、開放部61A1とを有する。
【0026】
マスク型用データ7Aもマスク型用データ6Aと同様に作成される。即ち、加植厚みT分のオフセット加工された前述の反転データ67Aに対し、着色対象部位である人形体1(
図1参照)の頭頂部21(11)及び鼻部22(12)に対応する部位に開放部7A1,71A2を設けて作成される。また、マスク型用データ7Aは、素体2の異なる面側(本実施形態では正面側及び背面側)から着脱できるように複数の分割マスク型用データ71A,72Aに分割される。マスク型用データ7Aの下面側には、マスク型用データ7Aと同様に、素体2の下面に設けられた開口部25(
図10(b)参照)に対応する開口部7A3が設けられる。この開口部7A3は、
図8(a)及び
図8(b)に示す半円状の切欠部71A3及び切欠部72A3を合わせて略円形状に形成される。開放部7A1は、分割マスク型用データ71A及び分割マスク型用データ72Aの単体では互いの合わせ面に設けられた切欠部として構成されるが、組み合わせることでマスクの開口部として構成される。また、開放部7A2は、リスの鼻部22(12)と略同形状の開口部として構成される。このように作成されたマスク型用データ7A(分割マスク型用データ71A,72A)は、素体2を被覆可能な被覆部7A4(71A4,72A4)と、開放部7A1(71A1,72A1),71A2とを有する。
【0027】
ステップS06では、作成したマスク型用データ6A及びマスク型用データ7Aに基づき、3Dプリンタ45はマスク型6及びマスク型7を造形する。
図2に示すように、マスク型6は、分割マスク型用データ61Aにより造形された分割マスク型61と、分割マスク型用データ62Aにより造形された分割マスク型62とを含む。同様に、マスク型7は、分割マスク型用データ71Aにより造形された分割マスク型71と、分割マスク型用データ72Aにより造形された分割マスク型72とを含む。
【0028】
ステップS07で、表面処理装置46は、マスク型6及びマスク型7に対してめっき処理を行う。その後、ステップS08で、マスク型6及びマスク型7を支持部材8に取り付けて、マスク治具80を作成する。
【0029】
図9のマスク治具80は、マスク型7(分割マスク型71,72)を支持部材8に取り付けた例を示している。支持部材8は、大型のクリップ状に構成される。支持部材8は、中央側の軸部81により回動可能に接続された第一部材82及び第二部材83を有する。第一部材82及び第二部材83は、長尺棒状に設けられる。第一部材82及び第二部材83は、軸部81に対する一端側に把持部821,831を有し、把持部821,831とは反対側の他の一端側に取付部822,832を有する。取付部822の先端側には、分割マスク型71が溶接により取り付けられる。また、取付部832の先端側には、分割マスク型72が溶接により取り付けられる。分割マスク型71及び分割マスク型72は、第一部材82及び第二部材83と下方の部位において溶接されている。従って、第一部材82及び第二部材83は、分割マスク型71及び分割マスク型72の下方に配置される。
【0030】
また、
図9では頭頂部21(11)及び鼻部22(12)周辺の塗装が可能なマスク治具80を示しているが、本実施形態では、支持部材8に対して分割マスク型71の代わりに分割マスク型61を取り付け、分割マスク型72の代わりに分割マスク型62を取り付けることにより、口部23(13)周辺の塗装が可能なマスク治具80も作成される。分割マスク型61及び分割マスク型62を備えるマスク治具80では、分割マスク型61の下方が開口しているため、第一部材82及び第二部材83が分割マスク型61及び分割マスク型62の上方の部位において溶接されて配置される(
図10(a)参照)。
【0031】
また、第一部材82及び第二部材83は、図示しない弾性部材によって、把持部821,831同士が離間し、取付部822,832同士が近接する方向に付勢されている。使用者が把持部821,831を握って近接させるように操作すると、弾性部材の弾発力に抗して分割マスク型71と分割マスク型72を、内側に素体2を挿入可能な程度の間隔まで離間させることができる。
【0032】
ステップS09で、素体作成装置42は、ステップS01において作成した素体用データ2Aに基づいて人形体1の製造用の素体2を作成する。即ち、素体用データ2Aは、人形玩具10(形象体玩具)を構成する人形体1の量産用データとしても用いられる。
【0033】
ステップS10では、ステップS09で作成した素体2に対してマスク治具80を用いて塗装を行う。まず、
図10(a)に示すように、マスク型6が取り付けられたマスク治具80を素体2に装着させる。具体的な操作として、使用者は、マスク治具80の把持部821,831(
図9参照)を把持して、分割マスク型61と分割マスク型62との間に素体2を配置する。このとき、素体2の開口部25の内部に支持用の治具を適宜挿入する等して、素体2は支持される。そして、素体2を分割マスク型61と分割マスク型62との間に配置した状態で把持部821,831に対する把持操作を解除すると、分割マスク型61及び分割マスク型62の対向する縁部611,621(
図10(b)の分割マスク型71及び分割マスク型72では縁部711,721)が弾性部材の弾発力により互いに近接して合わさった状態で当接する(
図10(a)参照))。これにより素体2に対して容易にマスク型6(又はマスク型7)を装着させることができる。
【0034】
マスク型6は、素体2に対し複数方向(本実施形態では素体2の前後方向)から装着可能な複数の分割マスク型61及び分割マスク型62により構成される。また、マスク型6は、素体2の外面に沿うように配置される。するとマスク型6の被覆部64に対応する素体2の部分は覆われ、開放部65に対応する素体2の部分は露出している。従って、この
図10(a)の状態で塗料を噴霧すると、開放部65が配置された口部23周辺(鼻部22の一部を含む)が塗装される。口部23周辺に用いる塗料は、素体2の地色よりも薄い色の着色が施される。本実施形態では素体2の地色は薄橙色であり、口部23の周辺の着色部131はこの地色よりも薄いクリーム色に着色される。
【0035】
次に、
図10(b)に示すように、マスク型7(分割マスク型71,72)が取り付けられたマスク治具80を素体2に装着させる。マスク型7は、素体2に対し複数方向(本実施形態では素体2の前後方向)から装着可能な複数の分割マスク型71及び分割マスク型72により構成される。マスク型7は、素体2の外面に沿うように配置される。するとマスク型7の被覆部74に対応する素体2の部分は被覆され、開放部75に対応する素体2の部分は露出している。従って、この
図10(b)の状態で塗料を噴霧すると、開放部76が配置された頭頂部21と鼻部22が塗装される。頭頂部21と鼻部22に用いる塗料は、素体2の地色よりも濃い色の着色が施される。本実施形態では、素体2の地色及び着色部131よりも濃い茶色に着色される。また、鼻部22の一部では、マスク型6を用いて塗装された着色部の上から重ね塗りするように着色される。このように、素体2は、薄い色から濃い色の順に塗装される。その後、把持部821,831を操作して分割マスク型71と分割マスク型72同士を離間させ、素体2が取り出される。
【0036】
ステップS11では、ステップS10で着色した素体2に対して、植毛装置47による植毛加工(フロック加工)が行われる。これにより、素体2の表面は短繊維の加植部3により覆われる。素体2及び
図10(a)(又は
図10(b))の二点鎖線で示す加植部3を含む加植素体は、素体2に比べて加植厚みT分やや大きく設けられる。
【0037】
ステップS12では、ステップS11で植毛加工を行った加植素体に対して、ステップS10と同様の位置に同様の色で塗装が行われる。即ち、
図10(a)の素体2と同様に、素体2と加植部3を含む加植素体には、マスク型6(分割マスク型61,62)が取り付けられたマスク治具80が装着される。マスク型6の内面は、素体2を配置する場合に比べて加植素体に近接又は密着して配置される。マスク型6により加植素体を覆った状態で塗料を噴霧すると、開放部65が配置された口部13(口部23及び加植部3を含む部位)周辺が塗装される。本実施形態では素体2に対して口部23周辺に行った塗装と同様の色の塗料が用いられる。これにより、口部13の周辺には、素体2及び加植部3の地色よりも薄い色の着色が施される。
【0038】
また、
図10(b)の素体2と同様に、素体2と加植部3を含む加植素体には、マスク型7(分割マスク型71,72)が取り付けられたマスク治具80が装着される。マスク型7の内面は、素体2を配置する場合に比べて加植素体に近接又は密着して配置される。マスク型7により加植素体を覆った状態で塗料を噴霧すると、開放部76が配置された頭頂部11(頭頂部21及び加植部3を含む部位)と鼻部12(鼻部22及び加植部3を含む部位)が塗装される。本実施形態では素体2に対して頭頂部21及び鼻部22に行った塗装と同様の色の塗料が用いられる。これにより、頭頂部11及び鼻部12には、素体2及び加植部3の地色よりも濃い色の着色が施される。従って、加植素体に対しても、薄い色から濃い色の順に塗装が行われる。
【0039】
このように、本実施形態では、
図1の人形体1に示したように、頭頂部11及び鼻部12に地色よりも濃い色の着色部111,121が設けられ、口部13の周辺に地色よりも薄い色の着色部131が設けられる。また、人形体1の正面側に設けられた凹部14には、人形体1の目を模した加植部3よりも硬質な部材(不図示)が接着等により配置される。これにより、人形体1は、一部の加植部3が隠れて異なる質感により目の部位を表現することができる。
【0040】
以上のような本発明の実施形態によれば、下記の態様のマスク製造方法及び人形玩具製造方法を提供することができる。
【0041】
第1の態様に係るマスク製造方法は、素体用データに基づき形象体玩具の素体を作成する工程と、作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、前記スキャンデータに基づいて、前記素体を被覆する被覆部と、前記素体を露出させる開放部とを含むマスク型用データを作成する工程と、前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、を含むことを特徴とする。
【0042】
この構成によれば、作成した素体2が収縮等によって素体用データ2Aと寸法が異なる場合であっても、素体2の形状に合ったマスク型6,7を作成することができる。また、マスク型6,7に形成した塗装用の開放部61A1,7A1(71A1,72A1),71A2の形状等を安定して形成することができ、人形の塗装品質を安定させることができる。
【0043】
第2の態様に係るマスク製造方法は、前記マスク型用データを作成する工程では、前記素体の植毛加工による加植厚み分、前記スキャンデータの外形よりも大きい内形の前記マスク型用データを作成することを特徴とする。
【0044】
この構成によれば、素体2に加植部3を形成した加植素体に対しても、精度良く安定した塗装を行うことができる。
【0045】
第3の態様に係るマスク製造方法は、前記素体用データは、前記形象体玩具の量産用データとしても用いることを特徴とする。
【0046】
この構成によれば、マスク型6,7の元となるデータと、量産用の素体2の元となるデータを共通させているため、素体2に対してより適切な形状のマスク型6,7を作成することができる。
【0047】
第4の態様に係るマスク製造方法は、前記マスク型用データは、前記素体に対し複数方向から装着可能な複数の分割マスク型用データを含み、前記マスク型は、前記分割マスク型用データに基づいて造形された複数の分割マスク型であり、前記分割マスク型を支持部材に取り付けてマスク治具を作成する工程を更に含む、ことを特徴とする。
【0048】
この構成によれば、複雑な形状を有する素体2に対しても、マスク型6,7を容易に装着させ、素体2や加植素体を安定して精度良く塗装することができる。
【0049】
第5の態様に係る人形玩具製造方法は、素体用データに基づき素体を作成する工程と、作成した前記素体を3Dスキャナによりスキャンデータを取得する工程と、前記スキャンデータに基づいて、前記素体を覆う被覆部と、前記素体を露出させる開口部とを含むマスク型用データを作成する工程と、前記マスク型用データに基づき3Dプリンタによりマスク型を造形する工程と、前記マスク型により作成したマスク治具を前記素体に装着して前記素体を塗装する工程と、を含むことを特徴とする。
【0050】
この構成によれば、作成した素体2が収縮等によって素体用データ2Aと寸法が異なる場合であっても、素体2の形状に合ったマスク型6,7を作成することができる。また、マスク型6,7に形成した塗装用の開放部61A1,7A1(71A1,72A1),71A2の形状等を安定して形成することができ、人形玩具の塗装品質を安定させることができる。
【0051】
第6の態様に係る人形玩具製造方法は、前記素体を塗装する工程の後に、前記素体を植毛加工する工程と、前記植毛加工を行った加植素体に前記マスク治具を装着して前記加植素体を塗装する工程と、を備えることを特徴とする。
【0052】
この構成によれば、塗装漏れ等の不良を抑制し、人形体1(人形玩具10)に対する塗装品質を高めることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は本実施形態によって限定されることは無く、種々の変更を加えて実施することができる。例えば、本実施形態では、人形体1として、リスの頭部を例示したが、その他の動物や人等の一部を構成する人形玩具のパーツとしてもよい。また、本実施形態の人形玩具10は、複数の人形体1(
図1の頭部の他、胴体部、腕部及び脚部等を含む複数の部材)により構成する例について示したが、人形体1単体が人形玩具10を構成してもよい。また、人形玩具10は、リスの他にもウサギ、イヌ、ネコ、ゾウ、パンダ、クマ等の動物を模した玩具としてもよい。
【0054】
また、本実施形態で説明した人形玩具製造方法は、その他の形象体玩具(例えば、建物、家具、食器、食品、乗り物、植物、遊具等)の製造方法に適用してもよい。
【0055】
また、マスク型6,7は樹脂、石膏又はエラストマ等のその他の材料を用いた3Dプリンタにより造形してもよいが、本実施形態のように3Dプリンタ45として金属3Dプリンタを用いることで、高い強度で耐久性に優れたマスク型6,7を製造することができる。
【0056】
また、スキャナ用ソフトウェア431は、3Dスキャナ44を制御する機能と、スキャンデータ2Bの編集機能とを有する構成について説明したが、スキャンデータ2Bの編集機能はデータ作成用ソフトウェア411に設けられていてもよい。
【0057】
また、本実施形態では、マスク型6(又はマスク型7)を二つの分割マスク型61,62(又は分割マスク型71,72)により構成する例について説明したが、三つ以上の複数の分割マスク型により構成してもよい。また、マスク型が三つ以上の複数の分割マスク型により構成される場合は、分割マスク型は素体2(又は加植素体)に対し三方向以上の異なる複数方向から装着される構成としてもよい。
【0058】
また、マスク型に形成する開放部(例えば開放部61A1)の内側に島状の被覆部を設け、環状の開放部を形成してもよい。この場合、島状の被覆部は、他の開放部と連結させる連結部を別途設けて接続してもよい。この連結部は、マスク型を素体2(又は加植素体)に装着した場合、塗料を吹き付けた際に塗装を阻害しない程度に素体2から離間するようにアーチ状(或いはU字状)に形成することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 人形体 2 素体
2A 素体用データ 2A4 耳部
2B スキャンデータ 2B1 ノイズ
2C スキャンデータ 3 加植部
3D 金属 4 人形玩具製造システム
5 保持部材 6 マスク型
6A マスク型用データ 6A3 開口部
6A4 被覆部 7 マスク型
7A マスク型用データ 7A1(71A1,72A1) 開放部
7A2 開放部 7A3 開口部
7A4 被覆部 8 支持部材
10 人形玩具 11 頭頂部
12 鼻部 13 口部
14 凹部 21 頭頂部
22 鼻部 23 口部
24 耳部 25 開口部
41 データ作成端末 42 素体作成装置
43 スキャナ用端末 44 3Dスキャナ
45 3Dプリンタ 46 表面処理装置
47 植毛装置 51 スリット
61 分割マスク型 61A 分割マスク型用データ
61A1 開放部 61A3 切欠部
62 分割マスク型 62A 分割マスク型用データ
62A3 切欠部 64 被覆部
65 開放部 67A 反転データ
71 分割マスク型 71A 分割マスク型用データ
71A2 開放部 71A3 切欠部
72 分割マスク型 72A 分割マスク型用データ
72A3 切欠部 74 被覆部
75 開放部 76 開放部
80 マスク治具 81 軸部
82 第一部材 83 第二部材
111 着色部 121 着色部
131 着色部 411 データ作成用ソフトウェア
431 スキャナ用ソフトウェア 611 縁部
621 縁部 711 縁部
721 縁部 821 把持部
822 取付部 831 把持部
832 取付部 T 加植厚み